(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記放電開始時間と、前記密閉性判定部によって前記ガス容器の密閉性が低下したと判定された判定回数と、のうちの少なくともいずれか一方を表示する表示装置をさらに備える、請求項1又は2に記載のガスレーザ発振器。
前記放電管電圧を印加してから前記放電開始判定部によって放電が開始したと判定されることなく所定時間が経過したときに、レーザガスの圧力を一旦低下させてから放電を開始するように構成される、請求項1から4のいずれか1項に記載のガスレーザ発振器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された公知技術では、十分に長時間にわたってガスレーザ発振器を停止させないとガス容器の密閉性を推定できない。また、Oリングの劣化など、使用とともに徐々に進行する密閉性の低下を推定できない。また、ガス圧を正確に測定するために温度センサが必要となり、コスト増大の要因になっていた。
【0008】
特許文献2及び特許文献3に記載された公知技術では、測定の度にレーザガスを排気し、その後レーザガスを再度供給する必要がある。それにより、レーザガスの消費量が多くなり、結果としてコストが増大する。また、ガス容器の密閉性低下の程度が非常に小さい場合、それに応じたDC電流値又はターボブロワの電力の変化量は小さく、測定誤差を無視できない。そのため、ガスレーザ組成の変化を正確に判定できない場合がある。
【0009】
ところで、特許文献4及び特許文献5には、ステップ状に増大する電源出力指令に応じた電圧を放電管に印加するように構成されたガスレーザ発振器において、電源出力指令に対する放電管の電圧変化の割合に基づいて、放電管において放電が開始されたか否かを判定する技術が開示されている。
【0010】
本発明者は、レーザガス組成が変化すると、すなわち、ガス容器の密閉性が低下すると、放電が起こりにくくなって放電開始までの所要時間(以下、「放電開始時間」と称する。)が増大することに着目し、放電開始時間に基づいてガス容器の密閉性を推定できるガスレーザ発振器を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の1番目の発明によれば、レーザガスが循環するガス容器と、前記レーザガスの循環経路に配置される放電管と、電源出力指令を出力する出力指令部と、前記放電管において放電を開始させるように、前記電源出力指令に応じた放電管電圧を前記放電管に印加する電源部と、前記放電管電圧を検出する電圧検出部と、前記電源出力指令を徐々に増大させたときの前記電圧検出部の検出値に基づいて、前記放電管において放電が開始したか否かを判定する放電開始判定部と、前記放電管電圧を印加してから、前記放電開始判定部によって放電が開始したと判定されるまでの放電開始時間が、予め定められる第1の閾値を超えたときに、前記ガス容器の密閉性が低下したことを判定する密閉性判定部と、を備える、ガスレーザ発振器が提供される。
本願の2番目の発明によれば、1番目の発明に係るガスレーザ発振器は、前記密閉性判定部によって前記ガス容器の密閉性が低下したと判定された判定回数を記憶する記憶部をさらに備え、前記記憶部に記憶された前記判定回数が予め定められる第2の閾値を超えたときに、ガスレーザ発振器を停止させる。
本願の3番目の発明によれば、1番目又は2番目の発明に係るガスレーザ発振器は、前記放電開始時間と、前記密閉性判定部によって前記ガス容器の密閉性が低下したと判定された判定回数と、のうちの少なくともいずれか一方を表示する表示装置をさらに備える。
本願の4番目の発明によれば、1番目から3番目のいずれかの発明に係るガスレーザ発振器は、前記電源部の出力電流を検出する電流検出部をさらに備えており、前記出力指令部は、前記電流検出部の検出値が予め定められる第3の閾値を超えたときに、前記電源出力指令を一旦低下させるとともに、その後、徐々に増大させるように構成される。
本願の5番目の発明によれば、4番目の発明に係るガスレーザ発振器は、前記電流検出部の検出値が前記第3の閾値を超えた回数をリトライ回数として記憶する第2の記憶部をさらに備えており、前記リトライ回数が予め定められる第4の閾値を超えたときに、レーザガスの圧力を一旦低下させてから放電を開始するように構成される。
本願の6番目の発明によれば、1番目から4番目のいずれかの発明に係るガスレーザ発振器において、前記放電管電圧を印加してから前記放電開始判定部によって放電が開始したと判定されることなく所定時間が経過したときに、レーザガスの圧力を一旦低下させてから放電を開始するように構成される。
【0012】
これら及び他の本発明の目的、特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の例示的な実施形態に係る詳細な説明を参照することによって、より明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガスレーザ発振器によれば、放電開始時間に基づいてガス容器の密閉性が低下したか否かを判定する。それにより、ガス容器の密閉性を迅速かつ精度よく推定できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図面は、本発明の理解を助けるために縮尺を適宜変更して記載されている。また、同一又は対応する構成要素には、同一の参照符号が複数の実施形態にわたって使用される。
【0016】
図1は、一実施形態に係るガスレーザ発振器1の構成図である。ガスレーザ発振器1は、ガスレーザ発振器1を制御するCNC(コンピュータ数値制御装置)2と、レーザ媒質としてのレーザガスを循環させるガス循環システム3と、レーザガスの循環経路に配置された共振器4と、共振器4を構成する放電管41に電力を供給する電源部5と、CNC2及び電源部5との間に介在するインターフェイス部6と、種々の情報を視覚的に表示する表示装置7と、を備えている。
【0017】
ガス循環システム3は、レーザガスの循環経路を形成するガス容器31を備えている。ガス容器31の内部空間311はレーザガスで満たされている。レーザガスは、例えば二酸化炭素、窒素、ヘリウムなどを所定の組成比で混合したものである。ガス容器31の内部空間311は、連結ホルダ33を介して互いに連結された一対の放電管41によって形成される放電空間32に連通している。
【0018】
ガス循環システム3は、吸込部を連結ホルダ33の近位に有するターボブロワ35を備えている。レーザガスは、図中に矢印で示されるように、ターボブロワ35によってガス容器31の内部空間311及び放電空間32を循環するようになっている。ターボブロワ35の上流側(吸込部側)及び下流側(吐出部側)には、レーザガスを冷却する熱交換器34がそれぞれ配置されている。
【0019】
ガス循環システム3は、冷却水循環システム36と、ガス圧制御システム37と、をさらに備えている。冷却水循環システム36は、熱交換器34及びガス容器31を冷却する冷却水を循環させる機能を有する。ガス圧制御システム37は、レーザガスを外部からガス容器31内に導入し、或いはレーザガスをガス容器31から外部に排出することによって、レーザガスの圧力を制御する機能を有する。冷却水循環システム36及びガス圧制御システム37は、CNC2又は別個の制御装置(図示せず)によって制御される。
【0020】
共振器4は、一対の放電管41と、レーザガスの流れに対して一方の放電管41の上流側に配置された部分反射鏡であるリア鏡44と、他方の放電管41の上流側に配置された部分反射鏡である出力鏡45と、を備えている。放電管41は主電極42を備えており、電源部5から所定の電圧が主電極42に印加されたときに、放電空間32において放電が起きるようになっている。また、各々の放電管41の上流には、主電極42を介した放電を補助する補助電極43が設けられており、ガスレーザ発振器1の運転時には、主電極42とともに電源部5から電力の供給を受けるようになっている。
【0021】
放電空間32において放電が起きると、レーザガスが励起されて光を発生する。発生された光は、リア鏡44と出力鏡45との間で反射を繰り返しながら、誘導放出によって増幅される。十分に増幅されたレーザ光は、その一部が出力鏡45を通過して外部に放出される。レーザ光は、例えばレーザ加工を実行するのに利用される。出力鏡45の出力側には、機械シャッタ46が設けられており、必要に応じてレーザ光を遮断できるようになっている。また、共振器4は、レーザ出力を検出するパワーセンサ47をさらに備えている。パワーセンサ47の検出値は、インターフェイス部6のモニタ部62に入力される。
【0022】
電源部5は、出力指令部61から入力される電源出力指令に応じて、各々の放電管41に高周波電力を供給する機能を有する。電源部5は、電源ユニット51と、マッチングユニット53と、を備えている。図示された実施形態では、一対の放電管41に対して、電源ユニット51及びマッチングユニット53がそれぞれ設けられているものの、それらの構成及び作用効果は互いに同一であるので、一方の電源ユニット51及びマッチングユニット53についてのみ説明することとする。
【0023】
電源ユニット51は、インターフェイス部6の出力指令部61から入力される電源出力指令に応じたDC電流を出力する。出力指令部61は、CNC2からの制御信号に応じて電源出力指令を作成する。電源ユニット51から出力されるDC電流は高周波電力に変換され、マッチングユニット53に入力される。マッチングユニット53は、電源部5側の出力インピーダンスと、放電負荷側の入力インピーダンスとを整合させ、電源出力指令に応じた電圧(以下、「放電管電圧」と称する。)を放電管41に印加する。
【0024】
電源ユニット51は、電源ユニット51によって出力されるDC電流を検出する電流検出部52を備えている。また、マッチングユニット53は、放電管電圧を検出する電圧検出部54を備えている。電流検出部52及び電圧検出部54の検出値は、インターフェイス部6のモニタ部62にそれぞれ入力される。
【0025】
図2は、ガスレーザ発振器1の機能ブロック図である。図示されるように、CNC2は、放電開始判定部21と、リトライ処理部22と、密閉性判定部23と、記憶部24と、を備えている。CNC2は、CPU、ROM、RAMなどを含むハードウェア構成を有している。以下、簡単のため、1つの放電管41について説明するものの、当業者であれば、任意の数の放電管を備えたガスレーザ発振器にも同様の概念を適用できることを容易に認識するであろう。
【0026】
放電開始判定部21は、ガスレーザ発振器1を待機状態から復帰させる際に、放電管41において放電が開始されたか否かを判定する。一実施形態において、放電開始判定部21は、電源出力指令をステップ状に増大させたときに、電圧検出部54によって検出される放電管電圧の変化量が所定の閾値を超えたか否かに基づいて、放電開始を判定する。
【0027】
リトライ処理部22は、ガスレーザ発振器1の復帰動作の実行中に、電源ユニット51から出力されるDC電流が所定の閾値を超えたときに、電源出力指令を一旦低下させてから、電源出力指令をステップ状に増大させ工程を再実行する(リトライ処理)。具体的には、一実施形態において、リトライ処理部22は、電流検出部52の検出値が所定の閾値を超えたときに、リトライ処理を実行する。
【0028】
密閉性判定部23は、放電開始時間に基づいて、ガス容器31の密閉性が低下したか否かを判定する。一実施形態において、放電開始時間は、放電管41に放電管電圧を印加してから、放電管41において放電が開始するまでに要する時間である。放電が開始したか否かは、例えば放電開始判定部21によって判定される。
【0029】
記憶部24は、必要に応じて種々の情報を記憶する。例えば、記憶部24は、密閉性判定部23がガス容器31の密閉性の低下を判定した回数を記憶する。また、一実施形態において、記憶部24は、リトライ回数を記憶するように構成されてもよい。記憶部24は、ガスレーザ発振器1に供給される電力が遮断されても記憶情報を保持できるように、不揮発性メモリによって各情報を記憶する。或いは、記憶部24は、ガスレーザ発振器1の電源とは独立した電源によって動作可能な外部の記憶装置と協働して情報を記憶できるように構成されてもよい。
【0030】
表示装置7は、LCDなどの公知の構成を有する表示装置であり、必要に応じて種々の情報を表示する。表示装置7は、例えばCNC2の制御プログラム又はパラメータなどを表示する一般的な表示装置である。一実施形態において、表示装置7は、例えば密閉性判定部23がガス容器31の密閉性の低下を判定した回数を表示するように構成されてもよい。また、一実施形態において、表示装置7は、CNC2に記憶された放電開始時間を表示するように構成されてもよい。
【0031】
図3は、一実施形態に係るガスレーザ発振器1において、ガス容器31の密閉性を判定する密閉性判定機能を説明する図である。本実施形態において、密閉性の判定は、ガスレーザ発振器1を待機状態から復帰させる際に実行される。したがって、
図3のフローチャートは、ガスレーザ発振器1が待機状態から復帰する際の工程の流れを示している。
【0032】
待機状態からの復帰動作は、CNC2に所定の制御信号が入力されることによって開始する。なお、「待機状態」とは、出力指令部61からの電源出力指令がゼロであり、放電管41において放電が起きていない状態を意味する。復帰動作が開始されると、ステップS301においてリトライ回数Mがゼロに設定される。また、放電開始時間を計測するタイマが起動される。
【0033】
ステップS302では、出力指令部61が電源出力指令C1(0)を所定の時間Δtにわたって出力する。また、ステップ回数Nがゼロに設定される。
【0034】
ステップS303では、電流検出部52が電源出力指令C1(0)に応じて電源ユニット51から出力されるDC電流I(0)を検出するとともに、電圧検出部54が放電管41に印加される放電管電圧V(0)を検出する。DC電流I(0)及び放電管電圧V(0)はモニタ部62に入力されるとともに、CNC2の記憶部24に記憶される。
【0035】
ステップS304においてステップ回数NにN+1が代入された後、出力指令部61は、ステップS305において、直前の電源出力指令C1(N−1)にΔC1を加算した電源出力指令C1(N)を所定の時間Δtにわたって出力する。このように、本実施形態において、出力指令部61は、所定の周期(Δt)毎に電源出力指令をΔC1だけステップ状に増大させるように構成される。
【0036】
ステップS306では、電流検出部52及び電圧検出部54が、電源出力指令C1(N)に対応するDC電流I(N)及び放電管電圧V(N)を検出する。それらDC電流I(N)及び放電管電圧V(N)はモニタ部62に入力されるとともに、CNC2の記憶部24に記憶される。
【0037】
ステップS307では、CNC2の放電開始判定部21が、放電管41において放電が開始されたか否かを判定する。放電開始判定は、現在の放電管電圧V(N)と直前の放電管電圧V(N−1)との間の差が所定の閾値TH5よりも小さくなったか否かに基づいて実行される。電源出力指令を所定の増加分だけステップ状に増大させた場合、電源出力指令に対する放電管電圧の変化割合は、放電開始前よりも放電開始後の方が小さくなることが分かっている。したがって、電源出力指令を増大させる度に放電管電圧の変化量を閾値TH5と比較することによって、放電が開始されたか否かを判定できる。特許文献4及び特許文献5を併せて参照されたい。閾値TH5は、ガスレーザ発振器1が正常に稼働しているときの電源出力指令に対する放電管電圧の変化量に基づいて適宜決定される。
【0038】
ステップS307における判定が否定された場合、ステップS308に進み、過電流判定が実行される。過電流判定は、DC電流I(N)が所定の閾値TH3(第3の閾値)を超えたか否かに基づいて実行される。過電流判定は、DC電流I(N)が過大となってガスレーザ発振器1がアラーム停止するのを防止するために実行される。したがって、閾値TH3は、例えばアラーム停止されるべきDC電流の値よりも小さい値に設定される。
【0039】
ステップS308における判定が否定された場合、ステップS304に戻り、電源出力指令をΔC1だけ増大する処理が再度実行される。ステップS304〜ステップS307までの処理は、ステップS307及びステップS308のいずれか一方における判定が肯定されるまで繰返し実行される。
【0040】
ステップS307における判定が肯定されると、ステップS309に進み、出力指令部61が、補助電極43による補助放電を維持し、かつ主電極42による主放電を生じさせない(すなわち、レーザ出力が0Wである)ように決定される電源出力指令C2を出力する。次いで、ステップS310において、復帰動作を開始してから放電の開始を判定するまでに要した時間として放電開始時間TSが取得される。
【0041】
図4は、復帰動作を実行した場合における放電管電圧及びDC電流の特性の例を示している。
図4は、ステップS308における判定が肯定されることなく、ステップS307における放電開始判定が肯定された場合の電源出力指令、放電管電圧及びDC電流の互いの関係性を示している。
図4において、電源出力指令、放電管電圧及びDC電流は、実線、点線、破線でそれぞれ示されている。
【0042】
前述したように、ステップ状に増大される電源出力指令に応じて、放電管電圧及びDC電流はそれぞれ増大する。そして、復帰動作を開始してから時間TSを経過した時点において、放電管電圧の変化量ΔVが閾値TH5よりも小さくなり、放電開始判定部21は放電の開始を判定する(すなわち、ステップS307の判定が肯定される)。
図4に示される例の場合、放電が比較的短時間で円滑に開始される。したがって、ガス容器31の密閉性は十分に高いと推定できる。
【0043】
再び
図3を参照し、ステップS308における判定が肯定された場合、ステップS311に進み、リトライ処理部22がリトライ処理を実行する。ステップS311では、リトライ回数MにM+1が代入される。続いてステップS312に進み、ガス圧低下判定が実行される。
【0044】
ガス圧低下判定は、リトライ回数Mが所定の閾値TH4(第4の閾値)を超えたか否かに基づいて実行される。正常な状態であれば、リトライ処理を所定回数繰り返せば放電が開始される。しかしながら、レーザガス組成が変化したりした場合には、放電を開始しないままリトライ回数Mが閾値TH4を超えることがある。このような場合、ガス圧低下処理を実行して放電を確実に開始させるようになっている。
【0045】
他方、ステップS312の判定が否定されると、ステップS302に戻り、出力指令部61は、電源出力指令C1(0)(初期値)を出力する。
【0046】
図5は、復帰動作を実行した場合における放電管電圧及びDC電流の特性の第2の例を示している。
図5は、時間TRにおいてリトライ処理が実行されるとともに、時間TSにおいて放電開始判定部21が放電の開始を判定した場合の例を示している。すなわち、時間TRにおいてDC電流が閾値TH3を超える(ステップS308における判定が肯定される)とともに、リトライ処理の実行に伴って、出力指令部61が電源出力指令C1(0)を再び出力することが分かるであろう。
図5に示される例のようにリトライ処理を実行する必要がある場合、比較的軽度の密閉性の低下が起きていると推定できる。また、リトライ処理の実行回数が増大するのに従って、密閉性の低下が進んでいることを推定できる。例えば、リトライ回数の実行回数が所定回数を超えた場合、放電管41などで使用されるOリングが劣化しており、交換の必要があると推定できる。
【0047】
図3に戻り、ステップS312の判定が肯定されると、ステップS313に進み、放電を確実に開始できるようにガス圧低下処理が実行される。ガス圧制御システム37がガス容器31内のレーザガスを外部に排出し、通常時のガス圧PよりもΔPだけ低い圧力P’までガス圧を低下させる。
【0048】
ステップS314において、出力指令部61は、稼働時にレーザ出力が0Wになるように設定される電源出力指令C2を出力する。ガス圧がP’まで低下した状態で電源出力指令C2が付与されると、放電が確実に開始されることが経験的に分かっている。換言すると、ガス圧低下処理を実行した後のレーザガス圧P’は、電源出力指令C2が付与されたときに放電が確実に開始されるガス圧に設定される。
【0049】
放電が開始された後、ステップS315において、ガス圧制御システム37は、レーザガスをガス容器31内に供給し、ガス圧を通常動作時のガス圧(ガス圧低下処理を実行する前のレーザガス圧)Pまで増大させる。
【0050】
次いで、ステップS310に進み、放電開始時間TSが取得される。ガス圧低下処理を実行することにより放電を開始させた場合、放電開始時間TSは、ステップS312の判定が肯定されるまでの時間に、ステップS313〜S315を実行するのに要する時間(ガス容器31の容積に応じて定まる時間)を加えた合計の時間とみなせる。
【0051】
図6は、復帰動作を実行した場合における放電管電圧及びDC電流の特性の第3の例を示している。
図5は、時間TR(1)、TR(2)、・・・TR(i)においてリトライ処理がそれぞれ実行されるとともに、時間TSにおいて放電が開始されたとみなす場合の例を示している。
図6の例では、時間TR(i)において、リトライ回数Mが閾値TH4を超える(ステップS312における判定が肯定)とともに、ガス圧低下処理の実行に伴って、ガス圧制御システム37によってガス圧がΔPだけ低下していることが分かるであろう。
図6に示される例のようにガス圧低下処理を実行する必要がある場合、比較的重度の密閉性の低下が起きていると推定できる。例えば、ガス容器31に亀裂が生じていたり、又はガス圧制御システム37によって制御される弁に不具合が生じていたりする可能性があると推定できる。
【0052】
図3に戻り、放電開始時間TSが取得されると、ステップS316に進み、密閉性判定部23が、ガス容器31の密閉性が低下したか否かを判定する。密閉性判定は、放電開始時間TSが所定の閾値TH1(第1の閾値)を超えたか否かに基づいて実行される。
【0053】
ステップS316における判定が肯定されると、ステップS317に進み、ガス容器31の密閉性の低下を判定した後、復帰動作を完了する。他方、ステップS316における判定が否定されると、ステップS317をバイパスして復帰動作を完了する。
【0054】
本実施形態に係るガスレーザ発振器1は下記の利点を有する。
(1)ガスレーザ発振器1を待機状態から復帰させる度にガス容器31の密閉性が低下したか否かを判定する。それにより、ガスレーザ発振器1を完全に停止させることなくレーザ加工を実行し続ける場合であっても、ガス容器31の密閉性を推定できる。例えば、長時間にわたって一連のレーザ加工を実行する際に、ガスレーザ発振器1が一時的に待機状態になってから復帰するタイミングを利用して、ガス容器31の密閉性を推定できるようになる。また、Oリングの劣化などに起因して、ガスレーザ発振器の稼働中に徐々に進行するガス容器の密閉性の低下を判定できるようになり、密閉性監視の信頼性を向上できる。
【0055】
(2)放電開始時間TSに基づいてガス容器31の密閉性を推定することによって、密閉性低下の程度が非常に小さい場合でも、密閉性が低下したことを判定できる。さらに、放電開始時間の長さに応じて密閉性の低下の程度をある程度推定できるので、密閉性低下の要因を推定できる。例えば、ステップ回数Nが増大した結果、又はリトライ処理を実行した結果、放電開始時間TSが増大するのに従って、Oリングなどの封止部材の劣化が進行していることを推定できる。また、リトライ回数Mが増大してガス圧低下処理が必要になる程度まで放電開始時間TSが増大した場合、ガス容器31その他の配管設備に不具合が生じていることを推定できる。さらに、レーザガス組成の変化を検出するために従来使用されていた温度センサが不要になるので、コストを削減できる。
【0056】
(3)本実施形態によれば、レーザガスを交換することなくガス容器31の密閉性の低下を判定できる。そのため、短時間で、例えば0.5秒〜2秒で密閉性の判定を実行できるので、ガスレーザ発振器1のダウンタイムを短縮できる。また、レーザガスの消費量を抑制できる。
【0057】
(4)ガスレーザ発振器1は、密閉性判定部23がガス容器31の密閉性の低下を判定した回数、又は放電開始時間TSを表示装置7に表示するように構成される。ガスレーザ発振器1は、要求される修復作業の内容を表示装置7にさらに表示するように構成されてもよい。例えば、表示装置7には、Oリングの交換が必要であること、ガス容器31などに不具合がある虞があること、などの警告情報が表示されてもよい。操作者は、表示装置7に表示された情報に基づいて必要な保守作業又は修復作業を実行できる。さらに、操作者は、場合によっては、表示装置7に表示された情報に基づいて修復が必要な箇所を推定できる。例えば、レーザガスを収容するボンベを交換した直後に放電開始時間TSが増大した場合、操作者は、交換したボンベに不具合が生じていると推定できる。
【0058】
図7は、別の実施形態に従ってアラーム停止判定機能を実装したガスレーザ発振器1における復帰動作の工程の流れを示すフローチャートである。ステップS701では、
図3を参照して説明した方法に従って放電開始時間TSを取得する。すなわち、ステップS701は、
図3のステップS310に相当する。
図7では、簡単のため、放電開始時間TSを取得する以前の工程を省略している。ステップS702及びステップS703の処理は、
図3のステップS316及びステップS317と同様である。また、ステップS702における判定が否定されたときは、
図3の場合と同様に復帰動作を完了するようになっている。
【0059】
本実施形態においては、ステップS703においてガス容器31の密閉性の低下を判定した場合、ステップS704において、密閉性低下判定回数(以下、「判定回数」と称する。)XにX+1を代入する。判定回数Xは、例えばCNC2の記憶部24によって記憶される。記憶部24は、ガスレーザ発振器1に供給される電力が遮断されても判定回数Xを保持できるように不揮発性メモリ又は外部記憶装置によって判定回数Xを記憶する。なお、判定回数Xは、保守工程又は修復工程によって密閉性低下の原因が解消された時点でリセットされる。
【0060】
次いでステップS705に進み、アラーム停止判定が実行される。アラーム停止判定は、判定回数Xが所定の閾値TH2(第2の閾値)を超えたか否かに基づいて実行される。ステップS705の判定が肯定された場合、ガス容器31の密閉性が顕著に低下していて、放電管41の故障などの不具合を引起す虞があるとみなし、ガスレーザ発振器1をアラーム停止させる。他方、ステップS706の判定が否定された場合、復帰動作を完了する。
【0061】
本実施形態によれば、密閉性の低下の程度が顕著に大きい場合に、ガスレーザ発振器1をアラーム停止させられるようになる。したがって、レーザガスの組成が変化した結果として過大な電流又は電圧が印加され、ガスレーザ発振器1が破損するのを防止できる。また、アラーム停止判定は、密閉性判定と同様に、待機状態から復帰する度に実行されるので、ガスレーザ発振器1が無人運転しているときでも事故の発生を防止できる。
【0062】
図8は、変形例に係るガスレーザ発振器1における復帰動作の工程の流れを示すフローチャートである。本変形例においては、ステップS810におけるガス圧低下判定が、リトライ回数Mではなく、復帰動作を開始してからの経過時間TEに基づいて実行される。すなわち、経過時間TEが所定の閾値TH6を超えたときに、ステップS811に進み、ガス圧低下処理を実行する。ステップS810以外の工程は
図3に関連して前述した実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0063】
この変形例に係るガスレーザ発振器1においても、経過時間TEが閾値TH6を超えたときにガス圧低下処理が実行される。したがって、レーザガス組成が変化して放電が起こりにくい状態であっても、ガス圧を低下させることによって、放電を確実に開始できるので、ダウンタイムの発生を防止できる。
【0064】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、当業者であれば、他の実施形態によっても本発明の意図する作用効果を実現できることを認識するであろう。特に、本発明の範囲を逸脱することなく、前述した実施形態の構成要素を削除又は置換することができるし、或いは公知の手段をさらに付加することができる。また、本明細書において明示的又は暗示的に開示される複数の実施形態の特徴を任意に組合せることによっても本発明を実施できることは当業者に自明である。
【解決手段】ガスレーザ発振器は、電源出力指令を出力する出力指令部と、放電管において放電を開始させるように、電源出力指令に応じた放電管電圧を放電管に印加する電源部と、放電管電圧を検出する電圧検出部と、電源出力指令を徐々に増大させたときの電圧検出部の検出値に基づいて、放電管において放電が開始したか否かを判定する放電開始判定部と、放電管電圧を印加してから、放電開始判定部によって放電が開始したと判定されるまでの放電開始時間が、予め定められる第1の閾値を超えたときに、ガス容器の密閉性が低下したことを判定する密閉性判定部と、を備える。