特許第5829375号(P5829375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5829375光学素子とこれを用いた光子発生装置、光発生装置、光記録装置および光検出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5829375
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】光学素子とこれを用いた光子発生装置、光発生装置、光記録装置および光検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20151119BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20151119BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20151119BHJP
   G11B 7/135 20120101ALI20151119BHJP
   H01L 27/148 20060101ALI20151119BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20151119BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   H01L33/00 112
   G02B5/20
   G02B5/30
   G11B7/135 A
   H01L27/14 B
   H01L31/10 A
   H01S5/183
【請求項の数】22
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2009-229213(P2009-229213)
(22)【出願日】2009年10月1日
(65)【公開番号】特開2011-14857(P2011-14857A)
(43)【公開日】2011年1月20日
【審査請求日】2012年9月5日
【審判番号】不服-216(P-216/J1)
【審判請求日】2015年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2009-135693(P2009-135693)
(32)【優先日】2009年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】桐原 明宏
(72)【発明者】
【氏名】藤方 潤一
【合議体】
【審判長】 吉野 公夫
【審判官】 ▲高▼ 芳徳
【審判官】 近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/105593(WO,A1)
【文献】 特開2004−253657(JP,A)
【文献】 特開2007−264610(JP,A)
【文献】 特開2007−232456(JP,A)
【文献】 特表2009−517870(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/095927(WO,A1)
【文献】 特開2006−172613(JP,A)
【文献】 特開2007−258657(JP,A)
【文献】 特開2009−10540(JP,A)
【文献】 特開2007−187835(JP,A)
【文献】 特許第5332886(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00-33/64
H01S5/00-5/50
G02B5/20-5/30
H01L31/00-31/20
G11B7/00-7/30
H01L27/14-27/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口径aの開口が開けられた金属膜を有し、
前記開口の周縁部から互いに異なる方向に開口内部に張り出した第1金属突起対および第2金属突起対が設けられており、
前記第1金属突起対は、2つの金属突起が距離w1離れた状態で対向配置されることによって第1アンテナを形成し、
前記第2金属突起対は、2つの金属突起が前記距離w1とは異なる距離w2離れた状態で対向配置されることによって前記第1アンテナとは異なる共鳴波長を有する第2アンテナを形成する
ことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1金属突起対を形成する2つの金属突起は、第1の方向に対向配置され、
前記第2金属突起対を形成する2つの金属突起は、前記第1の方向と直交する第2の方向に対向配置される、
請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
微小発光部を含む発光層と、
前記発光層を挟んで積層された第1および第2の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された、前記微小発光部上に開口を有する金属膜と、
前記微小発光部を励起するための励起光源と、
を備え、
前記開口を有する金属膜として、請求項1または請求項2に記載の光学素子を用いることを特徴とする光子発生装置。
【請求項4】
前記2つのアンテナが、前記微小発光部の異なる準位差の光学遷移の光にそれぞれ共鳴することを特徴とする請求項に記載の光子発生装置。
【請求項5】
前記2つのアンテナのうちの一方が、前記励起光源からの光に共鳴することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の光子発生装置。
【請求項6】
前記微小発光部のサイズが発光波長よりも小さいことを特徴とする請求項から請求項のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項7】
前記微小発光部として、量子ドットを用いることを特徴とする請求項から請求項のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項8】
前記量子ドットの発光波長をλ、前記第1の半導体層の屈折率をnとしたとき、前記発光層が、前記開口を含む前記金属膜の下端からd<λ/2nとなる深さに形成されていることを特徴とする請求項に記載の光子発生装置。
【請求項9】
前記量子ドットの発光波長をλ、前記第1の半導体層の屈折率をnとしたとき、前記発光層が、前記開口を含む前記金属膜の下端からλ/20n<d<λ/5nとなる深さに形成されていることを特徴とする請求項7に記載の光子発生装置。
【請求項10】
前記金属膜は、表面プラズモンを誘起することが可能な材料により形成されていることを特徴とする請求項から請求項のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項11】
前記開口内部に張り出す前記金属突起の先端が尖っていることを特徴とする請求項から請求項10のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項12】
前記金属膜の少なくとも一部が前記第1の半導体層に埋め込まれていることを特徴とする請求項から請求項11のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項13】
前記金属膜と前記発光層との間に、前記微小発光部上に開口を有する酸化膜が挿入されていることを特徴とする請求項から請求項12のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項14】
前記第1、第2の半導体層のうちの少なくとも一方が、屈折率の異なる2種類の半導体を交互に積層した構造を有していることを特徴とする請求項から請求項13のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項15】
前記第1、第2の半導体層の少なくとも一方はp型層またはn型層を含み、前記金属膜が電極として用いられると共に前記第2の半導体層にこれと接合を形成する金属電極が設けられていることを特徴とする請求項から請求項14のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項16】
前記開口上に、前記微小発光部からの光と前記微小発光部への光とを分離する光学手段が備えられていることを特徴とする請求項から請求項15のいずれかに記載の光子発生装置。
【請求項17】
活性層と、
前記活性層を挟む、または含む形で積層されたp型半導体層及びn型半導体層と、
前記p型半導体層またはn型半導体層に接して形成された、前記活性層上に少なくとも一つの開口を有する金属電極と、
を備え、
前記開口を有する金属電極として、請求項1または請求項2に記載の光学素子を用いることを特徴とする光発生装置。
【請求項18】
光源と光検出器と光記録媒体とを有し、
請求項1または請求項2に記載の光学素子を介して前記光記録媒体への光書き込みまたは光読み出しがなされることを特徴とする光記録装置。
【請求項19】
前記光記録媒体がフォトクロミック材料膜を有することを特徴とする請求項18に記載の光記録装置。
【請求項20】
光検出層と、
前記光検出層を挟む、または含む形で積層されたp型半導体層及びn型半導体層と、
前記光検出層上に少なくとも一つの開口を有する金属電極と、
を備え、
前記開口を有する金属電極として、請求項1または請求項2に記載の光学素子を用いることを特徴とする光検出装置。
【請求項21】
複数の光検出素子と、前記光検出素子によって検出された信号電荷を転送する電荷転送手段とを備え、
前記光検出素子のそれぞれは、請求項1または請求項2に記載の光学素子を介して受光してイメージパターンを検出することを特徴とする光検出装置。
【請求項22】
前記光学素子の上方に偏光子が配置されていることを特徴とする請求項20または請求項21に記載の光検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子とこれを用いた光子発生装置、光発生装置、光記録装置、光検出装置に関するものであり、特に、それぞれ互いに異なる波長に共鳴する少なくとも二つのアンテナを有する光学素子とこれを用いた光子発生装置、光発生装置、光記録装置、光検出装置に関するものである。これらの光学素子を用いたデバイスの内特に光子発生装置は、光励起に基づく電子・正孔対から生成された単一光子を従来装置より高い取り出し効率にて取り出すことができる光子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を用いた光子発生装置、光発生装置、光記録装置、光検出装置などの光デバイスでは、通常電極あるいは遮光膜のために金属膜が用いられているが、ここで用いられる遮光膜は、光を遮断/透過のためだけに用いられるものであるため、開口は円形や四角形などの単純な形状のものであった。したがって、開口付の金属膜では、特定の波長、特定の偏光を優先的に透過させるようにすることはできなった。
【0003】
ところで、光や物質の量子力学的な状態を利用する量子情報技術は、安全性の高い暗号通信や、秘匿性の高い認証など、高度なセキュリティ技術を提供することができると期待されている。例えば量子暗号通信では、偏光や位相といった量子力学的な自由度を用いて表現される情報(以後、量子情報)を光子に乗せて伝送することで、通信路上での盗聴者の存在を確実に検知することができ、安全な秘密鍵の配布が可能になる。
このような量子情報技術にとってキーデバイスとなるのが、光子を1つずつ発生させる単一光子発生装置である。単一光子は、単一の原子や単一のイオンなどから生成することができるが、特に半導体から単一光子を生成するためのデバイスとして、半導体量子ドットによる単一光子源が盛んに研究されている。
量子ドットから単一光子を生成するためには量子ドット中に電子と正孔のペアを生成する必要があり、その方法としては外部からの励起光を利用する光励起型と、電気的に電子と正孔を注入する電流注入型の2種類の方式がある。このうち、開発が先行しているのは光励起型で、バックグラウンド雑音の影響が比較的小さい、高品質な単一光子発生装置が実現されている。本発明の光子発生装置も、この光励起型の単一光子発生技術をベースにしている。
【0004】
単一光子を生成するには単一量子ドットからの発光を利用する必要があるが、分子線エピタキシー(MBE)で成長した量子ドットの密度は通常1×1010(cm−2)程度と比較的大きいため、対物レンズで集光しただけでは多くの量子ドットからの発光を拾ってしまい、単一光子を得ることはできない。これに対処する、単一の量子ドットを隔離するための方法として、大きく分けて2種類の方法が採用されている。一つ目の方法は、量子ドットを1個程度含む島(メサ構造と呼ばれる)のみを残して、その周りをエッチングにより削ってしまう方法である。ただし、この場合、エッチング側壁の欠陥や不純物に起因するバックグラウンド光が雑音となり、単一光子の品質を低下させる恐れがある。もう一つの方法は、量子ドットサンプル上に金属遮光膜を成膜し、そこに量子ドット1個程度を隔離する開口を形成するという方法である(例えば、非特許文献1参照)。この方法を用いればバックグラウンド光の影響を最小限に抑えることが可能となる。加えて、金属膜を電極として利用することができるため、量子ドットに電圧を印加することで波長を微調したり、電子を電気的に注入したりといった電気的制御が可能になる。
【0005】
しかしながら、現状ではまだ改善すべき課題も残っている。その一つが、光子の取り出し効率の問題である。量子ドットから放出された光子は通常高倍率のレンズで集光し、その後ファイバーなどに結合させる。しかし、量子ドットによる単一光子発生は自然放出に基づくものであるため、光子は全ての方位角にランダムに放出される。このため、レンズ以外の方向(例えば基板面に平行な方向)に放出された光子は、外部に有効に取り出すことができない。特に金属開口方式を採用した場合、光子が金属で散乱される可能性が高くなり、取り出し効率が低下してしまう。
量子ドットからの光子取り出し効率を向上させるための構造としては、微小共振器を用いたいくつかの方式が試みられている。以下に代表的な例を示す。
非特許文献2では、マイクロピラー共振器中に量子ドットを埋め込んだ構造が示されている。このマイクロピラー共振器は、メサ構造の発展版ということができる。発光体であるInAs量子ドットが、GaAsとAlAsの多層膜からなるDBRミラーに上下から挟まれ、かつ側部のドライエッチングにより、基板に垂直な柱状に切り出された構造を有している。このような構造では、柱を細く切り出すことで原理的には1個の量子ドットを隔離することができることに加え、上下方向の共振器効果および側壁での全反射により、量子ドットからの発光を上方向に効率よく取り出すことも可能である。
【0006】
非特許文献3には2次元フォトニック結晶の点欠陥中に量子ドットを埋め込んだ構造が示されている。この構造において、2次元フォトニック結晶部分は量子ドットの発光波長に対して禁制帯となっているため、点欠陥部分にのみ光が閉じ込められる微小共振器となっている。このような構造下では、量子ドットの横方向(基板方向)への発光はバンドギャップ効果により強く抑制されるため、基板に垂直な方向に光子を効率よく取り出すことができる。
ただし、これらの構造では、メサ構造の場合と同様に、エッチング側壁の欠陥や不純物に起因するバックグラウンド雑音が問題となる可能性がある。加えて、これらの構造に電極を取り付けるのは技術的に容易ではないため、電気的制御には不向きと考えられる。
【0007】
非特許文献4では、DBRミラーと金属微小開口を組み合わせた構造による単一光子発生装置が実現されている。この構造を採用すれば、量子ドット上部の金属開口を電気的制御のための電極として利用することが可能になる。これに加え、量子ドットの下部にDBRミラーが配置されており、上部の空気―半導体界面との間に共振器が形成される。これにより、量子ドットからの光子を主に上方向に放出することが可能となる。この結果、非特許文献1の装置に比べて取り出し効率が向上するが、それでも最終的には微小開口における透過率が取り出し効率を制限すると考えられる。
上記の3つの文献は半導体共振器を利用した例に関するものであるが、最近になって金属微細構造を利用したデバイスも報告されている。非特許文献5では、量子ドットなどの点光源が、直径50〜100nmの銀のナノワイヤ近傍に配置された構造が採用されている。このような微細なナノワイヤにおける空気と銀の界面には高密度の表面プラズモンモードが立つため、点光源からの自然放出光はナノワイヤのプラズモンモードに優先的に結合し、最終的にはエヴァネッセント結合を通して誘電体導波路やファイバーへと取り出すことができる。また非特許文献6では、アルミニウムによる微小アンテナ構造により量子ドットからの光の取り出しが向上することが示されている。ただし、これらの構造では単一量子ドットを隔離する構造は有していないため、密度の大きな自己形成型半導体量子ドットへの適用は難しい。また、このようなアンテナを電気的制御のための電極として使用する方法も明示的に示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Z. Yuan, et al., Science 295, 102 (2002)
【非特許文献2】M. Pelton, et al., Phys. Rev. Lett. 89, 233602 (2002)
【非特許文献3】D. G. Gevaux, et al., Appl. Phys. Lett. 88, 131101 (2006)
【非特許文献4】A. J. Bennett, et al., Appl. Phys. Lett 86, 181102 (2005)
【非特許文献5】D. E. Chang, et al., Phys. Rev. Lett. 97, 053002 (2006)
【非特許文献6】J. N. Farahani, et al., Phys. Rev. Lett. 95, 017402 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の課題は、複数の、特定の波長で特定の偏光のみを透過させることのできる光学素子を提供することである。本発明の第2の課題は、このような光学素子を利用して、光子発生装置、光発生装置、光記録装置、光検出装置などの光デバイスに新たな機能を付加できるようにすることである。
【0010】
例えば、上述したように、いくつかの文献の中で提案された光子を効率よく取り出すための構造は、いまだいくつかの問題を抱えている。その一つは、光子の取り出し効率を最適化した場合でも、光励起の効率が依然として低い点である。光励起型の単一光子発生素子では、量子ドットを基底準位から励起準位へ励起するために、図1のエネルギー準位図のように励起光を導入する必要がある。すなわち、励起光により基底準位Gの量子ドットは励起準位Eに励起され、非輻射緩和によって準位Sに緩和された後に単一光子を生成して基底準位Gに緩和される。この場合、最終的に量子ドットから単一光子のみを取り出す際に、励起光の散乱等に起因する背景雑音の増加を避けるために、波長フィルタで単一光子以外の波長成分をカットする必要がある。このとき、励起光の波長と単一光子の波長が近すぎると、背景雑音を十分カットするのが難しくなる。従って励起光としては、一般に単一光子と波長の十分(通常50nm以上)離れた光が好んで用いられる。すなわち、励起光の波長をλe、単一光子の波長をλsのとき、通常λe<λs-50nmであることが望ましい。
【0011】
このように、励起光と単一光子の間で波長が大きく異なる場合、これらを両方同時に一つの共振器に共鳴させることはできなくなる。従って、単一光子の取り出し効率を優先した場合、量子ドットを励起するために十分強い励起光を入射する必要が生じ、励起効率が低下してしまう。
また、マイクロピラー共振器やフォトニック結晶共振器など、エッチングによって1個の量子ドットを隔離するメサ構造ベースの光子発生装置では、側壁の不純物や欠陥にトラップされたキャリアからの発光によりバックグラウンド雑音が大きくなってしまう。加えて、これらの構造への電極を取り付けは技術的に容易ではないため、電気的制御には不向きである。その点では、量子ドット以外からの光を金属膜で遮光し、電極としても利用可能な開口ベースの光子発生装置に優位性があるが、開口径を小さくした場合、光子の取り出し効率が低下してしまう。
以上のように、高い光励起効率、取り出し効率を兼ね備え、かつ高いS/Nと電気的制御性を有する光励起型の単一光子発生素子はこれまで存在しなかった。
本発明の目的の一つは、高い光励起効率と光子取り出し効率の両方を兼ね備え、バックグラウンド光の影響が少ない単一光子発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光学素子は、開口の周縁部から互いに異なる方向に開口内部に張り出した少なくとも二つの金属突起が設けられており、前記少なくとも2つの金属突起と、それぞれの先端に形成されるギャップとをそれぞれ含んで構成される少なくとも2つのアンテナが、互いに異なる共鳴波長を有することを特徴とする。
このような突起付開口では、金属突起が微小発光部に対するアンテナとして動作する結果、微小発光部から発せられた光子を効率よく外部に取り出すことができる。
そして、好ましくは、前記金属突起は、前記開口の中央部にギャップを有するように対をなして形成された金属突起を含んでいる。また、好ましくは、前記対をなして形成された金属突起は、互いにその向きが直交する少なくとも二対の金属突起を含んでいる。
【0013】
また、本発明の光学素子は、前記その向きが直交する金属突起の先端に形成されるギャップをそれぞれw1、w2として、w1≠w2であることを特徴とする。このような非対称突起付開口を設計することにより、偏光によって異なる波長でアンテナ効果を発現させることが可能となる。
【0014】
本発明の光子発生装置は、微小発光部を含む発光層と、前記発光層を挟んで積層された第1および第2の半導体層と、前記第1の半導体層上に形成された、前記微小発光部上に開口を有する金属膜と、前記微小発光部を励起するための励起光源と、を備え、前記開口は、開口の周縁部から互いに異なる方向に開口内部に張り出した少なくとも二つの金属突起が設けられている突起付開口であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光子発生装置は、前記その向きが直交する金属突起先端のギャップによって構成される2つのアンテナのうちの一方に共鳴する波長の光を発生する励起光源を有する。さらに、前記その向きが直交する金属突起先端のギャップによって構成される2つのアンテナが、前記微小発光部の異なる光学遷移準位にそれぞれ共鳴する。これにより、光励起過程・光取り出し過程ともに、異なるアンテナを介して高い効率を達成することができる。
【0016】
また、本発明の光子発生装置は、前記微小発光部のサイズが発光波長よりも小さい。好ましくは、前記微小発光部として、量子ドットを用いる。さらに量子ドットが配置される位置としては、好ましくは前記量子ドットの発光波長をλ、前記半導体層の屈折率をnとしたとき、前記発光層の前記突起付開口を含む前記金属膜の端からの深さdは、d<λ/2nを満たしている。さらに好ましくは、前記量子ドットの発光波長をλ、前記半導体層の屈折率をnとしたとき、前記発光層の前記突起付開口を含む前記金属膜の端からの深さdは、λ/20n<d<λ/5nを満たしている。このように、微小発光部(量子ドット)と突起付開口との間の距離を適切な間隔まで近づけることによって、微小発光部から発生する光をより強く突起付開口に結合させ、光子の取り出し効率を最適化することができる。
また、好ましくは、前記突起付開口において、開口内部に張り出す前記金属突起の先端が尖っている。これにより、金属突起先端に形成されるギャップにおいて、アンテナモードがより励起されやすくなり、光取り出し効率のさらなる増大が可能となる。
【0017】
さらに本発明の別の実施形態によれば、前記金属膜の少なくとも一部が前記半導体層に埋め込まれている。これにより、量子ドットから発生する光をより強く突起付開口に結合させ、光子の取り出し効率を向上させることができる。
さらに本発明の別の実施形態によれば、前記金属膜と前記発光層との間に、前記突起付開口下に開口を有する酸化膜が挿入されている。これにより、量子ドットから発生する光が基板面方向に逃げるのを防ぎ、光をより強く突起付開口に結合させることができるため、光子の取り出し効率を向上することができる。
【0018】
さらに本発明の別の実施形態によれば、前記2つの半導体層のうち、少なくとも一方が屈折率の異なる2種類の半導体を交互に積層した構造を有している。この場合、半導体積層構造がDBRミラーとして機能するため、量子ドットの周りに実効的なファブリペロー共振器が形成され、量子ドットから発せられる光は突起付開口により強く結合する結果、光子の取り出し効率をさらに向上させることができる。
さらに本発明の別の実施形態によれば、前記金属膜を電極として用いると共に前記第2の半導体層にこれと接合を形成する金属電極を設け、これらの電極を利用して前記量子ドットへのキャリアの注入が可能である。
【0019】
(作用)
突起付開口では、開口内部に張り出した金属突起が実効的なアンテナとして動作し、光と量子ドットとの結合を強める役割を果たす。本発明では、長さの非対称な少なくとも2つの金属突起を互いに直交する方向に形成しており、片方の方向の突起が光励起用のアンテナとして、もう片方の突起が光子取り出し用のアンテナとして動作する。
金属突起の長さなどを変えることにより、光励起用、光取り出し用それぞれのアンテナの共鳴波長を独立に最適化することが可能となる。これにより、アンテナ効果を通して、高い励起効率、光子取り出し効率の両方を兼ね備えた光励起型光子発生装置が構成できる。
さらに突起付開口付きの金属膜には、量子ドット以外から発せられるバックグラウンド光を遮る遮光膜としての効果も期待される。
また、このような突起付開口付きの金属膜を用いるその他の利点としては、金属突起をアンテナとしてだけではなく、電極としても利用できる点が挙げられる。例えば、量子ドットに効率よく電場を印加することで、シュタルク効果を通して発光波長の微調が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光学素子によれば、複数の、特定の波長で特定の偏光の光のみを効率よく取り出すことが可能になる。そして、この光学素子を光デバイスに適用することにより、光デバイスにおいて新たな機能・効果を奏することが可能になる。例えば、光子発生装置において、突起付開口におけるアンテナ効果により、量子ドットからの励起効率・光子取り出し効率を向上させることができる。また、突起付開口中心付近の限られた空間から選択的に光を取り出すために、不純物起因のバックグラウンド光を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の単一光子発生装置で用いる量子ドットのエネルギー準位図。
図2】本発明の第1の実施形態である単一光子発生装置の構造を示す上面図と断面図。
図3】突起付開口におけるアンテナ効果のギャップ幅依存性を説明するデバイス構造図と動作説明図。
図4】本発明の第1の実施形態である単一光子発生装置の動作を説明するデバイス構造図とエネルギー準位図。
図5】本発明の第1の実施形態である単一光子発生装置の具体的な実施例を示すデバイス構造図と動作シミュレーション図。
図6】本発明の第2の実施形態である単一光子発生装置の実施例を示す上面図と断面図。
図7】本発明の第3の実施形態である単一光子発生装置の構造を示す上面図と断面図。
図8】本発明の第4の実施形態である単一光子発生装置の構造を示す上面図と断面図。
図9】本発明の第5の実施形態である単一光子発生装置の構造を示す上面図と断面図。
図10】本発明の第6の実施形態である単一光子発生装置の構造を示す上面図と断面図。
図11】本発明の第6の実施形態である単一光子発生装置の動作を説明する断面図。
図12】本発明における突起付開口を有する金属膜の異なる形態を示す図。
図13】本発明の第7の実施形態である単一突起付開口を用いた面発光レーザーの構造を示す上面図と断面図。
図14】本発明の第7の実施形態である突起付開口配列を用いた面発光レーザーの構造を示す上面図と断面図。
図15】本発明の第8の実施形態である波長可変面発光レーザーの構造を示す図。
図16】本発明の第8の実施形態である波長可変面発光レーザーの動作を説明する図。
図17】本発明の第8の実施形態である突起付開口配列を用いた波長可変面発光レーザーの構造を示す図。
図18】本発明の第9の実施形態で用いる、先端に突起付開口を有する光プローブ。
図19】本発明の第9の実施形態である光記録装置の構成を示す図。
図20】本発明の第9の実施形態である光記録装置に用いる突起付開口の透過スペクトル。
図21】本発明の第9の実施形態で用いる記録媒体(フォトクロミック材料)であるジアリールエテン。
図22】本発明の第10の実施形態であるフィルタの動作を示す図。
図23】本発明の第11の実施形態である光検出装置の構造を示す上面図と断面図。
図24】本発明の第11の実施形態である波長選択光検出器の実施例の動作を説明する図。
図25】本発明の第12の実施形態であるイメージセンサの構造を示す図。
図26】本発明の第12の実施形態である波長選択イメージセンサの実施例の動作を説明する図。
図27】本発明の第12の実施形態の他の実施例であるカラーイメージセンサの構造を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図2(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態である単一光子発生装置の構造を示す上面図と断面図である。図2に示されるように、量子ドット4を有する量子ドット層1が、i型の上部半導体層2とi型の下部半導体層3の間に埋め込まれている。上部半導体層2の上には、金属遮光膜5が取り付けられている。金属遮光膜5には、量子ドット4から光子を取り出すための突起付開口6が形成されている。ここで、突起付開口6は、通常の円形開口と異なり、開口の周縁部から中心部へと金属突起11、12が左右に(X方向に)、金属突起13、14が上下に(Y方向に)張り出した構造を有している。つまり、金属突起11、12と金属突起13、14とは、その向きが互いに直交している。また、これら金属突起間のギャップの直下に量子ドット4が位置している。
このような突起付開口6では、向かい合った一対の金属突起が実効的な光アンテナとして機能する。すなわち、突起付開口に光を入射した場合、金属突起間のギャップにプラズモンアンテナモードが励起され、このモードを介して、アンテナに平行な偏光をもつ光の透過率が特定波長において共鳴的に増大する(以後簡単のため、これをアンテナ効果と呼ぶことにする)。
【0023】
従って、図2の突起付開口6では、金属突起11、12がX偏光に対するアンテナ(以下では、アンテナXと呼ぶ)として機能し、金属突起13、14がY偏光に対するアンテナ(以下、アンテナY)として機能する。
ここで、アンテナ効果が発現する共鳴波長λはギャップ幅wに依存する。このギャップ幅依存性を示すために、図3で、簡単のためX偏光に対するアンテナのみを有する突起付開口X60を例に、シミュレーション結果を交えて説明する。図3(a)、(b)に、X方向に張り出す2本の金属突起を有する突起付開口X60を用いた発光素子の上面図と断面図を示す。このような構造で量子ドットが発光するとき、アンテナに平行なX偏光に対してはアンテナ効果が発現し、構造で決まる特定波長において透過率が共鳴的に増大する。
【0024】
図3(c)に、異なるギャップ幅w(w=60nm、80nm、100nm)を仮定した場合の、透過率スペクトル(透過率の発光波長依存性)のシミュレーション結果を示す。ここで、開口径は200nmに固定している。この図からわかるように、アンテナのギャップ幅wが小さくなるにつれて、アンテナ効果の共鳴が長波長側にシフトする傾向が見られる。
この共鳴波長のギャップ幅依存性は、図3(d)のように、金属突起をそれぞれダイポール(双極子)として考えることで理解できる。突起付開口X60のように2つの金属突起が向かい合う構造では、これらの突起間に負の(引力的な)双極子―双極子相互作用が生じる。従って、ギャップ幅wが小さくなるにつれて負の相互作用が強くなり、アンテナモードのエネルギーが小さくなる結果、アンテナ効果の共鳴が長波長側にシフトする。
以上の理由から、アンテナ効果の共鳴波長λはギャップ幅wに依存して変化する。逆に、この性質を利用すれば、ギャップ幅wの設計により、アンテナ効果が発現する波長を制御することが可能となる。
上記は2本の突起(1つのアンテナ)を有する突起付開口の場合であるが、4本の突起(2つのアンテナ)を有する図2の突起付開口6にも同様の説明が当てはまる。図2の突起付開口6は、アンテナXとアンテナYという2組のアンテナを有しているため、X偏光とY偏光のそれぞれでアンテナ効果が発現する。アンテナ効果が生じる共鳴波長は開口径aとギャップ幅w1、w2の関数である。したがって、a、w1、w2の3つのパラメータを最適化することで、X偏光に対する共鳴波長とY偏光に対する共鳴波長をそれぞれ独立に制御することができる。
【0025】
本実施形態では、アンテナYのギャップ幅w2は、アンテナXのギャップ幅w1より長くなるよう設計されており(w2>w1)、このためX偏光とY偏光とでアンテナ効果の共鳴波長が異なっている。ここでは、X偏光が単一光子の波長λsで、Y偏光が励起光の波長λeで共鳴するよう設計する(波長、λs、 λeについては、図1のエネルギー準位図を参照)。
この設計の際、構造パラメータa、w1、w2という3つの自由度を調整することで、所望の共鳴波長λs、λeという2つの自由度を決定するため、構造パラメータの決定には任意性が伴う。ただし、ギャップ幅w1、w2が大きすぎる場合、2つの金属突起が結合しないために、十分なアンテナ効果を得ることができない。そこで、ギャップ幅w1、w2が量子ドットのサイズsよりも大きく、かつ量子ドットの発光波長λsよりも十分小さくなるように突起付開口6を設計する。ここでは、s < w1<w2 < λ/5とする。
また、量子ドット4から突起付開口6までの距離、すなわち金属遮光膜5の下端と量子ドット層1との間の間隔dも重要なパラメータとなる。量子ドット4からの光を突起付開口9の電磁場モードに結合させるためには、間隔dは少なくともd<λ/2nである必要がある。ここでnは上部半導体層2の屈折率を表す。
【0026】
間隔dを小さくするほど結合はより強くなる。ただし、あまりdが小さすぎると、金属への非輻射緩和のために量子ドットが光らなくなることが文献(D. E. Chang, et al., Phys. Rev. Lett. 97, 053002)より知られている。従って、光子の取り出し効率を最適化するにはλ/20n < d <λ/5nであることが望ましい。
なお、本実施形態において、金属遮光膜5材料としては、突起付開口6にて可視光〜近赤外光領域において光学損失が比較的小さくかつ表面プラズモンを誘起することが可能な金、銀、アルミニウム、銅などを用いる。
以上のように本発明では、従来の面発光レーザーなどの場合と異なり、発光波長よりも小さな微小光源を金属突起間ギャップの直下に配置することで、光源からの光を突起付開口のアンテナモードに直接結合させている。このような「ナノスケール光源から光を効率的に取り出すためのアンテナ」として機能が本発明の特徴であ
る。
【0027】
次に、図4を用いて光励起型単一光子発生装置の動作を説明する。最初に、(1)励起光源から波長λeの励起光を発生させ、Y偏光で突起付開口6に入射する。これにより励起光がアンテナYに共鳴し、量子ドット4が準位Eへと励起される。(2)励起された量子ドットは、非輻射緩和によって準位Sに遷移する。このとき、スピン緩和も同時に起こるため、量子ドット内でのスピン状態はランダムとなる。(3)量子ドットは準位Sから準位Gに緩和する際に波長λsの単一光子を放出する。このとき、量子ドット内でのスピン状態はランダムであるため、通常は発光の際の偏光もランダムとなる。しかし、突起付開口のアンテナ効果により、放出された光子はアンテナXに優先的に結合し、X偏光の光子として図面上方へ取り出される。
このように、励起過程、発光過程ともに突起付開口のプラズモン共鳴を利用することで、高効率動作が可能となる。また、励起光と単一光子は偏光が互いに直交しているため、偏光ビームスプリッタ(PBS)20を用いることで、これらを容易に分離することができる。
【実施例1】
【0028】
次に、第1の実施形態の実施例を、図5を用いて説明する。図5(a)、(b)は、本実施例のデバイス構造の概略を示す上面図と断面図である。量子ドット4として、分子線エピタキシー(MBE)によりi-GaAs基板上に成長された直径20nmの自己形成型InGaAs/GaAs量子ドット(InGaAs量子ドットがi-GaAsバリア層に埋め込まれた構造)を用いる。また、上部半導体層2の厚さを50nmとした。このように成長されたInGaAs/GaAs量子ドットは一般に1μm付近の波長で発光することが知られている。
このような量子ドット基板上に、電子線リソグラフィによってレジストをパターニングし、それをAu蒸着後にリフトオフすることにより、図5(a)、(b)に示される突起付開口6が作製される。ここで突起付開口6のパラメータとして、金属膜の膜厚100nm、開口径を240nmとし、金属突起11、12間のギャップ幅を100nm、金属突起13、14間のギャップ幅を120nm、金属突起11〜14の幅を60nmとした。
【0029】
なお、ここで述べた構造自体は集束イオンビーム法(FIB)によっても作製することが可能であるが、突起付開口の直下に存在する量子ドットにプロセス時に可能な限りダメージを与えないようにするため、リフトオフ法による作製が望ましい。
設計した光子発生装置の性能を確かめるために、量子ドットの位置に点光源を置いた場合に、突起付開口6のアンテナを介して光子が外部に取り出される効率をシミュレーションにより調べた。透過率スペクトル(透過率の発光波長依存性)は図4(b)のようになることが予想される。アンテナのギャップ幅が上下と左右で非対称になっていることを反映して、X偏光とY偏光で共鳴波長が異なっている。この場合、アンテナXはアンテナYに比べてギャップ幅が短いため、X偏光の共鳴波長はY偏光の共鳴波長よりも長くなる。具体的には図5(c)のように、X偏光に対しては波長λs=970nm付近で共鳴し、Y偏光に対しては波長λe=780nm付近で共鳴している。
【0030】
この場合、具体的な光子発生手順としては以下のようになる。(1)例えばTiサファイアレーザーなどの光源により、波長λe=780nmの励起光を発生させ、Y偏光で突起付開口6に入射する。これにより励起光がアンテナYに共鳴し、サンプルが励起される。(2)励起波長がλe=780nmの場合、InGaAs量子ドット4が直接励起されるわけではなく、そのまわりのGaAsバリア層が励起され、光キャリア(電子、正孔)が生成される。生成された光キャリアはやがて量子ドット4に捕獲され、励起子(電子・正孔対)が形成される。このとき、スピン緩和も同時に起こるため、量子ドット6内に捕獲された励起子のスピン状態はランダムとなる。(3)量子ドットは準位Sから準位Gに緩和する際に波長λs=970nmの単一光子を放出する。このとき、量子ドット内でのスピン状態はランダムであるが、放出される光子は突起付開口のアンテナXに優先的に結合し、X偏光の光子として図面上方へ取り出される。
【0031】
(第2の実施形態)
図6(a)、(b)は、本発明の単一光子発生装置の第2の実施形態を示す上面図と断面図である。図6において、第1の実施の形態を示す図2の部分と対応する部分には同一の参照符号を付し、重複する説明は適宜省略する(この点は、以降の実施形態の説明図についても同様である)。本実施形態では、図2に示される第1の実施形態の基本構成に加え、突起付開口6において、先端部分の尖った金属突起11〜14を採用している。このように金属突起の先端を尖らせることで、その間のギャップにおいてアンテナモードがより励起されやすくなり、光取り出し効率のさらなる増大が可能となる。
【0032】
(第3の実施形態)
図7(a)、(b)は、本発明の第3の実施形態である単一光子発生装置の構成を示す上面図と断面図である。本実施形態の光子発生装置は、図2の基本構成に加え、突起付開口6の金属突起11〜14の先端部の直下に、埋め込み金属突起15が付加されている。
埋め込み金属突起15の材料としては金属突起11〜14と同様に可視光〜近赤外光領域において光学損失が比較的小さい金、銀、アルミニウム、銅などを用いる。このような埋め込み金属突起15は、電子線リソグラフィとドライエッチングにより上部半導体層4に窪みを形成し、その上から金属を蒸着することにより作製することができる。
埋め込み金属突起15の高さhは、量子ドット層1の埋め込み深さdに対し、d/2<h<d程度とする。すなわち、量子ドット層の深さをd=50nmとした場合、埋め込み金属突起15の高さはh=30nm程度とする。これにより、量子ドットが感じるアンテナ効果をさらに強めることができると同時に、量子ドットから発せられる光子が基板側(図面横方向)に逃げるのを防ぐことができる。
【0033】
(第4の実施形態)
図8(a)、(b)は、本発明の第4の実施形態である単一光子発生装置の構成示す上面図と断面図である。本実施形態では、図2の基本構成に加え、上部半導体層2内に、突起付開口6下に開口が形成された酸化膜16が付加されている。このような酸化膜16は、例えばAlGaAs層を水蒸気雰囲気下で400℃程度まで加熱し、側面からAl2O3にウェット酸化することにより作製することができる。
酸化膜16の深さhは、量子ドット層1の埋め込み深さdに対し、d/2 <h<d程度とする。すなわち、量子ドット層深さをd=50nmとした場合、酸化膜16の深さはh=30nm程度とする。
この酸化膜16は光のモードを横方向に閉じ込める役割を果たしており、これにより量子ドット4からの光を突起付開口6により強く結合させることができる。
【0034】
(第5の実施形態)
図9(a)、(b)は、本発明の第5の実施形態である単一光子発生装置の構成を示す上面図と断面図である。本実施形態の基本的な構成は図2に示した第1の実施形態と共通であるが、本実施例では下部半導体層3の下に、DBRミラー17が形成されている。この構造は、量子ドット4から発せられる波長の光に対してミラーとして働き、このDBRミラー17と、上部半導体層2の上端との間で共振器が形成される。これにより、量子ドット4からの発せられる光子は、より効率的に突起付開口6のアンテナモードに結合するようになり、さらに突起付開口6と反対方
向に発せられた光子も、DBRミラー17で反射し、突起付開口6での透過光に寄与する。このように、DBRミラー17を用いることで光子の取り出し効率をさらに向上させることができる。
例えば、量子ドット4としてInGaAs/GaAs量子ドットを用いた場合、DBRミラー17としてはGaAsとAlAsを交互に10〜20層ほど積み重ねた超格子構造を用いることができる。DBRミラー17は、量子ドット層1の金属遮光膜5側に設けてもよく、また量子ドット層1の両側に設けてもよい。
【0035】
(第6の実施形態)
図10(a)、(b)は、本発明の第6の実施形態である単一光子発生装置の構成を示す上面図と断面図である。本発明の突起付開口6付金属遮光膜は、量子ドット4と光との結合を強めるためのアンテナとしてだけではなく、電極としても利用することができる。図10に示す本実施形態は、金属遮光膜(5)をショットキー電極9として用いたショットキーダイオード型単一光子発生装置に係る。図10に示すように、下部半導体層3の下にはn型半導体層7が設けられており、n型半導体層7にはオーミック電極8が、上部半導体層2にはショットキー電極9がそれぞれ取り付けられている。すなわち本実施形態は、量子ドット4がn-iショットキーダイオード内部に埋め込まれた構造を有している。
量子ドット4からの光を突起付開口6に結合するために、上部の上部半導体層2の厚みは50nm程度とする。また、i型の下部半導体層3の厚みは30nm程度とする。また、開口の直下に位置する量子ドット4に電場を効率的に印加するために、上部半導体層2とショットキー電極9との間に透明電極層10が形成されている。透明電極層10としては例えば厚さ5nmのTiを用いる。また、ITO(Indium tin oxide)などを用いてもよい。
この場合、電圧を印加することで、n型半導体層7から量子ドット4への電子の注入が可能である。従って、電圧制御により電子の電気的注入と、光励起による電子・正孔対の生成を組み合わせることで、負に帯電した荷電励起子と呼ばれる状態を量子ドット中に生成し、発光させることができる。
【0036】
図11を用いて本実施形態のショットキーダイオード型単一光子発生装置の動作を具体的に説明する。最初にオーミック電極8とショットキー電極9の間に適切なバイアス電圧を印加することで、n型半導体層7から量子ドット4に電子を1個電気的に注入する〔図11(a)〕。この状態で、光励起によりさらに電子と正孔のペアを量子ドット4内に励起する。これにより、量子ドット4内には電子2個と正孔1個からなる負の荷電励起子状態が生成される〔図11(b)〕。この荷電励起子が発光する際に、光子が1個放出される〔図11(c)〕。この光子は、突起付開口6を通して効率よく外部に取り出すことができる。
このような荷電励起子発光を利用した単一光子発生装置の利点は2点挙げられる。1点目は、ピークの分裂のない理想的な単一光子発生装置が実現できる点である。中性励起子では電子スピンと正孔スピンの間の交換相互作用のために、偏光によって微細相互分裂と呼ばれるエネルギー差が生じてしまうのに対し、2つの電子スピンがペアを組む荷電励起子ではこのような分裂が生じない。2点目は、中性励起子と異なり、荷電励起子には暗状態と呼ばれる発光しないスピン状態が存在しないため、最終的な発光レートを上げることができる。
なお、上の例では電子を電気的に注入することにより、電子2個と正孔1個からなる負の荷電励起子を生成しているが、逆に正孔を電気的に注入することで、電子1個と正孔2個からなる正の荷電励起子を生成しても、同様の効果を得ることができる。この場合、n型半導体層7の代わりとして、p型半導体層を用いればよい。また、n型半導体層やp型半導体層を金属遮光膜5側に設け、金属遮光膜をオーミック電極として用いると共に、下部半導体層3側にショットキー電極を設けるようにしてもよい。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施形態、実施例について説明したが、本発明は、これら実施形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内での各種の変更が可能なものである。例えば、突起付開口の形状については、突起付開口の形状については、図12(a)のような円形開口から2本の突起が張り出したものに限られない。開口形状については必ずしも円形である必要はなく、図12(b)のように正方形開口から4本の突起が張り出した構造を代わりに用いてもよい。また、必ずしも1組の突起が向かい合っている必要はなく、図12(c)に示すように、その向きが直交する2本の突起で同様な効果を発現させることも可能である。この場合、突起の先端と開口の端との間にアンテナモードが励起される。ただし、このような形状に比べると、突起を向かい合わせた方がアンテナモードが誘起されやすくなるため、高効率光取り出しには図12(a)のように4本の突起を用いた形状がより好ましい。また、図12(d)のように、突起は必ずしも互いにその向きが直交している必要はない。

【0038】
以上のように開口形状には様々なバリエーションが考えられるが、偏光によって2つ以上の異なる波長でアンテナ効果が発現するよう、突起付開口には何らかの空間的な非対称性を持たせる必要がある。例えば、第1の実施形態で説明した図12(a)や、正方形開口をベースとした図12(b)の場合、上下、左右の突起対におけるギャップ幅をw1、w2としたときに、w1≠w2とする必要がある。また、図12(c)のように金属突起が2本の開口では、金属突起先端とその反対側の開口の縁との間の長さをw1、w2と定義した場合にw1≠w2とすることで、X偏光とY偏光とで異なる共鳴波長を持たせることができる。また、図12(d)のように3本の金属突起を有する開口の場合も、例えば3本の突起の長さL1、L2、L3のうち1本を短くする(L1<L2=L3)などして、非対称性を作り出すことができる。さらに、図12(e)や図12(f)のように、開口形状を楕円や長方形にすることで非対称性を作り出してもよい。
【0039】
ところで、第3の実施形態で示した図7の構造は、開口部の金属突起が一部上部半導体層4に埋め込まれており、アンテナを平面的構造から立体的構造へと改変したものと見ることもできる。このように、本願発明によるアンテナは、金属突起がL字構造のものや傾斜面を有するものなど、立体的構造で構成することもできる。従って、上述した空間的非対称性は、ギャップ幅などの平面的構造の非対称性だけでなく、立体的構造の非対称性によっても作り出すことができる。例えば図7を例に挙げると、アンテナXとアンテナYで埋め込み金属突起15の高さhを変えたり、一方のアンテナ側にのみに埋め込み金属突起15を設けたりするなどして非対称性を作り出してもよい。
また、量子ドットや半導体層の半導体材料はInGaAsやGaAsに限定されない。また、量子ドットは自己形成型に限定されない。また、以上では光源として主に量子ドットを用いる実施形態について説明してきたが、光子を発生する他の微小発光体に置き換えることもできる。例えば半導体中のドナー(またはアクセプタ)不純物や、ナノ結晶、ダイヤモンド中の窒素空孔などが候補として上げられる。さらに、各実施形態を組み合わせたものも本発明に含まれる。
【0040】
(第7の実施形態:VCSELへの応用)
ここまで主に量子ドット等の微小発光体を利用した実施形態を説明してきたが、突起付開口は面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)などに応用することも可能である。図13にそのようなVCSELへの応用例を示す。
図13(a)、(b)は、第7の実施形態に用いられる上部電極の部分平面図と第7の実施形態の断面図である。図13において、31はInGaAs活性層、32はp型のAlGaAsとGaAsとの積層膜からなるDBRミラー 、33はn型のAlGaAsとGaAsとの積層膜からなるDBRミラー 、34はn-GaAs基板、35はポリイミド、36は上部電極、37は下部電極である。ここでは、InGaAs活性層31に対して上下のp型層、n型層から電流を注入して励起を行うことで、活性層31に反転分布が形成され、DBRミラー32とDBRミラー33とで形成される共振器の中でレーザー発振を生じさせることができる。また、これまでの実施形態の金属遮光膜と同様に、上部電極36には突起付開口6を形成している。このとき、突起付開口6におけるアンテナXまたはアンテナYのうち、少なくともどちらか1つはレーザー発振周波数に共鳴するように設計する。これにより、レーザー光を、アンテナ効果を介して外部に効率よく取り出すことができる。
このようなVCSEL構造において、突起付開口6を有する金属膜(上部電極)は、電流注入用の電極と、光取り出し用のアンテナという2つの役割を兼ねている。微小突起付開口を有する金属膜を電極に用いることで、実効的な共振器体積を小さく設計することが可能で、CR時定数の小さな高速変調特性を得ることができる。
【0041】
また、図13では1つの突起付開口からレーザー光を取り出しているが、複数の突起付開口を周期的に配列させることで、光取り出し効率をさらに改善することができる(特許第3766238号参照)。図14(a)、(b)は、そのようなVCSEL構造の一例を示す上面拡大図と断面図である。図14において、図13の部分と同等の部分には同一の参照符号が付せられているので、重複する説明は省略するが、この配列において、隣り合う突起付開口間の間隔は、レーザー発振周波数ωにおける表面プラズモン波長λsppに等しくなるように設計する。具体的には、λsppはωの関数として以下の式で表される。
λspp=(2πc/ω)√{(ε+ε)εε}
ここで、εmは上部電極に用いる金属材料の誘電率の実部、εsはp型半導体層(この場合、GaAs層)の誘電率、cは真空中での光速を表す。このように設計することで、表面プラズモンモードを介して突起付開口の透過率が大きく向上し、効率よく光を外部に取り出すことが可能になる。
【0042】
(第8の実施形態:波長可変VCSEL)
本発明の突起付開口は、上下と左右でアンテナの長さ(ギャップ幅)を非対称にすることで、2つの異なる波長でアンテナ効果を発現させることができる点が特徴である。そのような特徴を生かせば、さまざまな波長可変発光デバイスへの応用が可能である。ここではその一例として、図15に示すようなMEMS構造を用いた波長可変VCSELについて説明する。図15(a)は、第8の実施形態を示す斜視図、図15(b)はその波長可変用電極の平面図、図15(c)はその動作説明図である。図15(a)において、図13の部分に対応する部分には同一の参照符号が付せられているので重複する説明は省略するが、本実施形態においては、活性層31上にp型半導体層40を介して上部電極36が設けられており、DBRミラー32が片持ち梁部39として上部電極36上に延在している。そして、DBRミラー32上には波長可変用電極38が形成されており、突起付開口6は、上部電極36ではなく波長可変用電極38の先端部に形成されている。この波長可変VCSELは、共振器長を変えることでレーザー発振波長を制御できるため、非対称な突起付開口6でアンテナ共鳴する2つの異なる波長間で発光波長のスイッチングが可能となる。以降では、この2つの共鳴波長をλ、λ(λ>λ)とする。
以下で、そのデバイス構造と動作をより具体的に説明する。図15(a)で、InGaAs活性層31が上下のAlGaAs/GaAs DBRミラーに挟まれており、その最上部の金属膜上に形成された突起付開口6を介して光を取り出す、という基本配置は第7の実施形態と同じである。第7の実施形態と異なる点としては、下部のDBRミラー33がGaAs基板34に完全に固定されているのに対し、上部のDBRミラー32は空隙を介して片持ち梁状に横から突き出た形で空中に固定されている。ここで、この片持ち梁部39にたわみが無い場合の共振器長(DBRミラー間距離)が、光路長(実際の距離に屈折率を掛けたもの)に換算してλ/2となるようにデバイス構造を設計する。(すなわち、活性層を含むGaAs層の長さをLGaAs、空隙の長さをLairとすると、nGaAs LGaAs + nair Lair = λ1/2 とする。ただし、nGaAs=3.3、nair=1)
このような構造では、波長可変用電極38に電圧を印加することで、片持ち梁部39と上部電極36との間に静電気力を発生させ、片持ち梁部39のたわみを制御することができる。これは、実効的に共振器長を変えることに相当するため、発振波長を比較的広い範囲で変えることができる。
【0043】
図16(a)、(b)は、本実施形態の動作原理を示す断面図である。波長可変用電極38に電圧を印加しない場合〔図16(a)〕、静電気力は生じないため、共振器長は設計で決まる値を取り、この場合は波長λで発振する。これに対し、波長可変用電極38に電圧を印加した場合〔図16(b)〕、静電気力によって片持ち梁部39が下方にたわみ、共振器長が短くなる。大きな電圧を印加するほどLairは小さくなるが、nGaAs LGaAs + nair Lair = λ/2となるよう適切な印加電圧を設定することで、波長λで発振させることができる。
前述したように、突起付開口6は、波長λの光はX偏光として、波長λの光はY偏光として効率よく上方に取り出すことができる。以上のような方法により、波長λとλの間で発振波長を容易にスイッチ可能な波長可変VCSELを構成できる。
【0044】
また、図17に示すように突起付開口を周期的に並べることにより、光取り出し効率をさらに高めることができる。このときの開口間距離としては、λとλという2つの波長で透過率を高めるために、例えばX方向には間隔:λspp√{(ε+ε)εε}で、Y方向には間隔:λspp√{(ε+ε)εε}で配列させる方法などがある。
【0045】
(第9の実施形態:光記録装置)
これまで、2つの異なる波長で共鳴が起こる非対称突起付開口の発光デバイスへの適用を説明してきたが、この構造はその他の応用にも適用することができる。その一例として、ここでは光記録装置への応用を説明する。
高度情報化社会の発展に伴い、必要とされる保存情報量は飛躍的に増加しており、今後もその需要増加傾向は続くと考えられる。しかしながら技術的には、光記録においては集光スポットサイズの回折限界、磁気記録においては磁化の熱揺らぎ限界が問題となっており、DVD、Blu-rayやHDDといった従来技術の延長ではさらなる大容量化が難しい状況にある。
これらの限界を打破するため、近接場光プローブを利用した光記録への期待が高まっている。近接場光プローブとしては微小開口の周りに近接場を発生させる開口型プローブが最も一般的だが、応用上波長よりも小さな局在光を効率的に生成できる構造が求められており、プラズモン効果を利用した開口型プローブや、金属微小球における局在プラズモンを利用した散乱型プローブが提案されている。
【0046】
ただし、従来に提案されていたこれらのプローブは、ほとんどが単一の周波数での使用を想定していた。実際、これまで提案されている微小球やプラズモン開口では、ある特定周波数付近においてのみアンテナとしての増強効果が発現する。しかし、本発明の非対称突起付開口のように、2つの異なる波長で共鳴するアンテナ構造を採用することで、新たな付加価値を生み出すことが可能となる。例えば、光記録装置では、書き込みと読み出しに異なる波長の光を用いることが多い。したがって、本発明の非対称な突起付開口を用いることで、書き込みと読み出しのそれぞれに共鳴するアンテナプローブを構成することができる。
また、2波長の光をアンテナで局所的に生成する技術を利用すれば、新しい光記録媒体の採用も期待される。その一つに、光による有機分子の異性体間状態変化を利用するフォトクロミック記録材料が挙げられる。光反応を直接利用するフォトクロミック記録では、光を単に媒体加熱のための熱源として用いていた従来の「ヒートモード」型記録と異なり、熱拡散を伴わない。さらに2光子吸収などを利用した書き込みも可能になるため、高解像・高感度の情報記録が期待されている。フォトクロミック材料のように、2つの状態間を遷移させるのに2種類の波長の光が必要となる材料も記録媒体に採用することができる。その他、相変化メモリ磁気記録等においても、複数の波長の光を利用することで、さらなる大容量化が達成できる可能性がある。
【0047】
上記課題を解決するために、本実施形態では図18に示す、金属突起が4本突き出た突起付開口6を有する光プローブ14を使用する。ここで、アンテナYのギャップ幅w2は、アンテナXのギャップ幅w1より長くなるように設計されており(w2>w1)、このためX偏光とY偏光とで共鳴波長が異なる。従って、偏光を適切に選ぶことで、2つの異なる波長においてアンテナ共鳴を発現させることが可能となる。
この突起付開口を利用することで、図19のような光記録装置を構成することができる。本実施例では、突起付開口6を有する光プローブ14を用い、2種類の書き込み用光源として書き込み光源a(Nd:YAGレーザー)42と書き込み光源b(Ti:Sapphireレーザー)43を用いており、ここから出た光を、ビームスプリッタ(BS)46、偏光ビームスプリッタ(PBS)47を介して光プローブ41の先端の突起付開口に集光することで近接場光を発生させ、記録媒体45に情報を書き込む。また、読み出しも突起付開口、ビームスプリッタ46を介して検出装置44にて行う。
ここでは突起付開口のパラメータとして、膜厚100nm、開口径を200nmとし、アンテナX間のギャップ幅を60nm、アンテナY間のギャップ幅を140nm、とした。この非対称リッジ開口の透過スペクトル〔FDTD(Finite Difference Time Domain)シミュレーション結果〕を図20に示す。アンテナのギャップ幅が上下と左右で非対称になっていることを反映して、X偏光とY偏光で共鳴波長が異なっており、X偏光に対しては波長λx=1070nm、Y偏光に対しては波長λy=760nm付近でそれぞれアンテナ共鳴していることがわかる。
【0048】
光記録媒体としては、例えば図21に示すフォトクロミック材料(ジアリールエテン:diarylethene)を用いることができる。この材料では、380nmおよび532nmの光を入射することで、AとBという2つの異性体間の状態遷移を誘起できる。また、それらの倍の波長(760nmおよび1064nm)でも、2光子吸収による状態遷移が可能であるため、本実施例では書き込み光源aを「B→A」の遷移に、書き込み光源bを「A→B」の遷移にそれぞれ利用することができる。2光子遷移確率は強度の2乗に比例するため、より高い解像度の情報記憶も期待できる。
【0049】
なお読み出しについては、AとBという2つの異性体間で屈折率が10%程度異なるため、例えば微弱光を光プローブ越しに記録媒体に入射し、その反射率を検出系で調べることで、AかBかという情報判別を行うことができる。
なお、ここで示した光記録装置の実施形態は一例にすぎず、構成や動作手順には様々なバリエーションが考えられる。例えば、図19ではフォトクロミック材料のAとBという2つの状態間を遷移させるために共鳴波長の異なる2つのアンテナ共鳴を用いたが、これら2つのアンテナ共鳴をそれぞれ書き込み用と読み出し用に用いるといった構成も可能である。また、記録媒体についてもここで示したフォトクロミック材料に限られない。
【0050】
(第10の実施形態:フィルタ)
これまで説明したとおり、突起付開口は、偏光・波長に応じて光透過率を増大させる、あるいは近接場を増強させる構造として説明してきた。しかし、見方を変えると、特定の波長、特定の偏光のみを効率的に透過させるフィルタと考えることもできる。図22に、そのようなフィルタ48の動作例を示す。波長や偏光の異なる様々な光を、フィルタ48の突起付開口6に入射した場合、波長λで偏光Xの光、および波長λで偏光Yの光のみが透過する。
このような微小な開口型のフィルタは、この後で述べる光検出器やセンサアレイなどと組み合わせることで威力を発揮する。また、突起型開口は原理的にスケーリングが可能で、開口形状を大きくすることでテラヘルツ領域でもアンテナ効果を発現させることが可能である。従って、同様の構成によりテラヘルツ波用のフィルタとして用いることもできる。テラヘルツ波の場合、可視光などに比べて偏光板や波長フィルタなどの構成が容易ではないため、本発明のようなアンテナ効果の利用は有用である。
【0051】
(第11の実施形態:光検出装置)
本発明の突起付開口は、光検出器への応用にも適している。第11の実施形態として、図23に突起付開口をp-i-nフォトダイオードに適用した例を示す。
図23(b)は、第11の実施形態の断面図であり、図23(a)はその上部電極の部分平面図である。ここでは、X偏光を有する波長λの光、またはY偏光を有する波長λの光がアンテナ効果によって金属突起付近で増強され、その下のi-Si層51で効率よく吸収される。吸収に伴ってi-Si層51で生成された電子と正孔は、それぞれn-Si層53およびp−Si層52を通って、下部電極37と上部電極36から電流として取り出される。ここで、p−Si層52の突起付開口直下の部分は円柱状に突起しており、その突起部の周囲はSiO絶縁膜54により包囲されている。
なお、第1の実施形態同様、突起付開口6から吸収層(ここではi-Si層51)までの距離、すなわちこの場合、p-Si層52の厚さdが重要なパラメータとなる。金属突起付近の電磁場増強で吸収層における吸収効率を高めるには、間隔dは少なくともd<λ/2nであることが望ましい。ここでnはp-Si層52の屈折率を表す。可能であれば、d <λ/5nであることがより望ましい。
この実施形態の場合も、やはり突起付開口6を有する上部電極36は、電流を取り出すための電極と、光を取り出すためのアンテナという2つの役割を兼ねている。外部にこのような小さな突起付開口を用いる検出器の利点としては、金属電極と半導体が接する面積を小さくすることができるため、実効的な容量を小さくなり、高速動作が可能な点が挙げられる。
【実施例2】
【0052】
次に、本発明の第11の実施形態の実施例を、図24を用いて説明する。本発明の突起付開口がもたらす付加価値として、波長・偏光の選択機能が新たに加えられる。本実施例は、この付加価値を利用したものであって、ここでは特定波長の光のみを選択的に検出する波長選択光検出器として動作する。
まず、図24(a)のように、検出器55の手前に偏光子Xを挿入する場合を考える。ここで偏光子X 56は、広い波長帯でX偏光の光のみを透過する偏光フィルタの機能を持つものとする。このような配置に対し、外部から様々な波長・偏光を有する光を照射した場合、X偏光の光のみが偏光子Xを透過し、検出器55に入射する。このとき突起付開口6において、X方向の偏光に対してアンテナ共鳴するのは波長λの光に限られるため、波長λの光のみが選択的に検出される。同様に、図24(b)に示すように、検出器55の手前にY偏光のみを通す偏光子Y 57を挿入した場合、Y偏光の光のみが検出器55に入射するため、波長λの光のみが選択的に検出される。以上のようにして、偏光子を挿入することで波長λまたはλの光のみを選択的に検出する波長選択光検出器が構成できる。
なお、突起付開口を適用する光検出器としては、ここで示したp-i-nフォトダイオードに限られない。なだれ増倍現象を用いるアバランシェフォトダイオードなどにも突起付開口を同じように適用できるし、金属電極・半導体間をショットキー接合とする光検出器にも応用可能である。
【0053】
(第12の実施形態:イメージセンサ)
次に、第12の実施形態としてイメージセンサへの応用について説明する。図25(a)は、基本的なデバイス構成を示す図であり、図25(b)は、その等価回路図である。光センサは2次元アレイ状に配列されており、個々のセンサは図25(a)の下に示すように、n型Si基板上のp型半導体層64に設けられたpn接合からなるフォトダイオード61を有する。そして、フォトダイオード61に隣接してn型の転送チャネル62が設けられており、その上には絶縁層66を介して転送電極63が設けられている。絶縁層66上には、個々のフォトダイオード上に突起付開口6を有する遮光膜67が形成されている。
また、図25(b)に、対応するCCD型イメージセンサ回路を示す。フォトダイオード61で光励起された電子は、転送チャネル62へと移動した後、転送電極63の電圧制御により、バケツリレー式に垂直CCD68、水平CCD69を通って出力部70へと運ばれる。このように個々のフォトダイオードで生成された電荷量を順次検出することにより、光の2次元イメージを測定することができる。
ここで、突起付開口6を有する遮光膜67は、素子間クロストークや転送部での雑音を防ぐための遮光膜としての役割と、光を効率よく検出するアンテナとしての動作のほか、特定波長のみをフィルタリングする「カラーフィルタ」としての機能も兼ねている。加えて、非対称な形状を有する突起付開口6を用いれば、偏光選択機能を加えることもできる。このように多くの機能を兼ねる突起付開口6付遮光膜を活用することで、デバイス要素を少なくでき、センサ単体の小型化に貢献できる。
【実施例3】
【0054】
次に、第12の実施形態の一実施例を、図26を用いて説明する。本実施例は、突起付開口付遮光膜の特長を生かしたものであって、偏光自由度を利用した波長選択センシングとしての動作を示す。まず、図26(a)に示すように、イメージセンサ71の手前に偏光子X 56を挿入する。ここで偏光子Xは、広い波長帯でX偏光の光のみを透過する偏光フィルタの機能を持つものとする。このような配置に対し、外部から様々な波長・偏光を有する光を照射した場合、X偏光の光のみが偏光子X 56を透過し、イメージセンサ71に入射する。このとき突起付開口において、X方向の偏光に対してアンテナ共鳴するのは波長λの光に限られるため、波長λの光のみが選択的に検出される。同様に、図26(b)に示すように、イメージセンサ71の手前にY偏光のみを通す偏光子Y 57を挿入する。この場合、Y偏光の光のみがイメージセンサ71に入射するため、波長λの光のみが選択的に検出される。以上のようにして、偏光子を挿入することで波長λまたはλの光のみを選択的に検出するイメージセンサを構成できる。
【実施例4】
【0055】
次に、第12の実施形態の他の実施例を、図27を用いて説明する。本実施例は、突起付開口のカラーフィルタとしての特長を利用してカラーイメージセンサを実現したものであって、ここでは、列ごとに突起付開口R、突起付開口G、突起付開口Bとギャップ幅を少しずつ変えており、それぞれのセンサが異なる波長の光を選択的に検出できるようになっている。すなわち、突起付開口Rでは、金属突起間のギャップがw1、w2となっており、波長λでX偏光の光および波長λでY偏光の光のみが透過し、突起付開口Gでは、金属突起間のギャップがw3、w4となっており、波長λでX偏光の光および波長λでY偏光の光のみが透過し、突起付開口Bでは、金属突起間のギャップがw5、w6となっており、波長λでX偏光の光および波長λでY偏光の光のみが透過する。これにより、カラーの2次元イメージを検出するカラーイメージセンサ72を構成することができる。
なお、このような突起付開口を用いたセンサアレイは可視光領域に限らず、開口サイズやギャップ幅の設計によりテラヘルツ領域でも利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 量子ドット層
2 上部i型半導体層
3 下部i型半導体層
4 量子ドット
5 金属遮光膜
6 突起付開口
7 n型半導体層
8 オーミック電極
9 ショットキー電極
10 半透明電極
11、12 金属突起
13、14 金属突起
15 埋め込み金属突起
16 酸化膜開口
17 n型DBRミラー
20 偏光ビームスプリッタ(PBS)
21 励起光源
31 InGaAs活性層
32、33 DBRミラー
34 n-GaAs基板
35 ポリイミド
36 上部電極
37 下部電極
38 波長可変用電極
39 片持ち梁部
40 p型半導体層
41 光プローブ
42 書き込み光源a
43 書き込み光源b
44 検出装置
45 記録媒体
46 ビームスプリッタ(BS)
47 偏光ビームスプリッタ(PBS)
48 フィルタ
51 i-Si層
52 p-Si層
53 n-Si層
54 SiO2絶縁膜
55 検出器
56 偏光子X
57 偏光子Y
60 突起付開口X
61 フォトダイオード
62 転送チャネル
63 転送電極
64 p型半導体層
65 n型Si基板
66 絶縁層
67 遮光膜
68 垂直CCD
69 水平CCD
70 出力部
71 イメージセンサ
72 カラーイメージセンサ
図1
図2
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