特許第5829907号(P5829907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5829907-鞍乗型車両 図000002
  • 特許5829907-鞍乗型車両 図000003
  • 特許5829907-鞍乗型車両 図000004
  • 特許5829907-鞍乗型車両 図000005
  • 特許5829907-鞍乗型車両 図000006
  • 特許5829907-鞍乗型車両 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5829907
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 99/00 20090101AFI20151119BHJP
   B62J 23/00 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   B62J99/00 H
   B62J99/00 L
   B62J23/00 H
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-287553(P2011-287553)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136273(P2013-136273A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康三
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 健二
(72)【発明者】
【氏名】山下 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 研一
【審査官】 加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−083349(JP,A)
【文献】 特開平02−045283(JP,A)
【文献】 特開2010−265687(JP,A)
【文献】 特開平11−105552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 99/00
B62J 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動機の冷却媒体を走行風と熱交換させて放熱させるラジエータ
前記ラジエータのコアに走行風の下流側から近接して配設された電動ファンと、
前記電動ファンを走行風の下流側から覆うとともに、その上方から両側方にかけても覆う一方、下方には開口するように設けられたシュラウドとを備え、
前記ラジエータの前記コアの上部の左右両側には、走行風の通過する方向に見て前記シュラウドに覆われた領域の外側に走行風の通過する走行風通過領域が設定され
前記シュラウドは、前記コアの下端まで前記コアを覆い、前記走行風通過領域は、走行風の通過する方向に見て前記シュラウドに覆われた領域の左右方向外側に設定されている、ことを特徴とする鞍乗型車
【請求項2】
前記電動ファンが前記シュラウドに取付けられて支持されている、請求項1に記載の鞍乗型車両
【請求項3】
前記ラジエータは、走行風が鞍乗型車両の前後方向に通過するように原動機の前方に配設されており、該ラジエータのコアの走行風通過領域はその過半の領域が、走行風の通過する方向に見て前記原動機と重ならないように設定されている、請求項1または2のいずれかに記載の鞍乗型車両
【請求項4】
前記ラジエータは、その上部が下部よりも鞍乗型車両の前方に位置するよう前傾して配設されている、請求項3に記載の鞍乗型車両
【請求項5】
原動機の冷却媒体を走行風と熱交換させて放熱させるラジエータと、
前記ラジエータのコアに走行風の下流側から近接して配設された電動ファンと、
前記電動ファンを走行風の下流側から覆うとともに、その上方から両側方にかけても覆う一方、下方には開口するように設けられたシュラウドとを備え、
前記ラジエータのコアには、走行風の通過する方向に見て前記シュラウドに覆われた領域の外側に走行風の通過する走行風通過領域が設定され、
前記ラジエータは、走行風が鞍乗型車両の前後方向に通過するように原動機の前方に配設されており、該ラジエータのコアの走行風通過領域はその過半の領域が、走行風の通過する方向に見て前記原動機と重ならないように設定され、かつ、前記ラジエータが鞍乗型車両の左右方向に長い矩形状とされ、
前記シュラウドは、その上部において前記電動ファンの周囲を囲む円弧状の上壁部と、該上壁部の左右両端から下方に向かって左右に広がりながら延びる左右一対の側壁部と、前記電動ファンの後方を覆う後壁部と、を有する、鞍乗型車両
【請求項6】
原動機の冷却媒体を走行風と熱交換させて放熱させるラジエータと、
前記ラジエータのコアに走行風の下流側から近接して配設された電動ファンと、
前記電動ファンを走行風の下流側から覆うとともに、その上方から両側方にかけても覆う一方、下方には開口するように設けられたシュラウドとを備え、
前記ラジエータのコアには、走行風の通過する方向に見て前記シュラウドに覆われた領域の外側に走行風の通過する走行風通過領域が設定され、
前記ラジエータは、走行風が鞍乗型車両の前後方向に通過するように原動機の前方に配設されており、該ラジエータのコアの走行風通過領域はその過半の領域が、走行風の通過する方向に見て前記原動機と重ならないように設定され、
前記シュラウドは、前記電動ファンの後方を覆う後壁部を有し、当該後壁部から前方に突出する突出部が、ラジエータのコアを走行風の通過する方向に見て、前記電動ファンの左右両端からそれぞれ左右に離間して上下に延びるように形成されている、鞍乗型車両
【請求項7】
原動機の冷却媒体を走行風と熱交換させて放熱させるラジエータと、
前記ラジエータのコアに走行風の下流側から近接して配設された電動ファンと、
前記電動ファンを走行風の下流側から覆うとともに、その上方から両側方にかけても覆う一方、下方には開口するように設けられたシュラウドとを備え、
前記ラジエータのコアには、走行風の通過する方向に見て前記シュラウドに覆われた領域の外側に走行風の通過する走行風通過領域が設定され、
前記ラジエータは、走行風が鞍乗型車両の前後方向に通過するように原動機の前方に配設されており、該ラジエータのコアの走行風通過領域はその過半の領域が、走行風の通過する方向に見て前記原動機と重ならないように設定され、
前記シュラウドの前後方向の寸法が、上方から下方に向かって徐々に大きくなっている、鞍乗型車両
【請求項8】
前記シュラウドの上部と前記ラジエータとの間にシール部材が配設されている、請求項1〜7のいずれか1つに記載の鞍乗型車両
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動二輪車のような鞍乗型の車両に搭載されるラジエータの導風構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動二輪車のような鞍乗型の車両において水冷式のエンジンを搭載する場合には、冷却水の放熱を促すためのラジエータをエンジンの前方に配設するとともに、その後方に近接させて電動ファンを取付けて、低速時など走行風の弱いときには強制的にラジエータから空気を吸い出すようにしている。一例として特許文献1に記載の自動二輪車においては、冷却水温だけでなくエンジンの運転状態も考慮して制御することで、より適切に電動ファンを動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−90536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記の従来例では、自動二輪車のエンジンとラジエータとの間の狭いスペースに電動ファンを配設しているため、この電動ファンからの熱風が後方のエンジンに当たって上下左右に拡散することとなる。通常、電動ファンが動作するのは走行風の弱いときであり、例えば渋滞路で低速走行と一時停止とを繰り返すような状況なので、エンジンの周囲から上昇する熱気が乗員に不快感を与える虞がある。
【0005】
また、前記従来例の自動二輪車は、車体前部からエンジンの周辺にかけてカウリングで覆われているため、前記のように電動ファンから吹き出して上下左右に拡散する熱風がカウリング内に籠もってしまい、車両装備品に悪い影響を与える心配もある。
【0006】
かかる点に鑑みて本発明の目的は、電動ファンからの熱風が乗員に不快感を与えないように、また、カウル(カウリング)内に籠もり難くなるように導き出す導風構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成すべく本発明は、鞍乗型車両に配設され、原動機の冷却媒体を走行風と熱交換させて放熱させるラジエータの導風構造が対象である。そして、前記ラジエータのコアに走行風の下流側から近接して配設された電動ファンと、この電動ファンを走行風の下流側から覆うとともに、その上方から両側方にかけても覆う一方、下方には開口するように設けられたシュラウドとを備えて、前記ラジエータのコアには、走行風の通過する方向に見て前記シュラウドに覆われた領域の外側に、走行風の通過する走行風通過領域を設定したものである。
【0008】
前記の構成によると、ラジエータに取付けられた電動ファンが上方から両側方にかけてシュラウドに覆われて、下方に開口しているので、例えば渋滞など鞍乗型車両の走行速度が低いときに電動ファンが動作すると、これによりラジエータのコアから吸い出された熱風はシュラウドの開口から下方に吹き出すようになる。よって、乗員が熱風に曝されて不快に感じることは少なくなる。また、カウルを備えた鞍乗型車両であっても熱気がカウル内に籠もり難く、車両装備品に悪い影響を与える心配は少ない。
【0009】
さらに、ラジエータのコアの全てがシュラウドに覆われているのではなく、コアを走行風の通過する方向に見てシュラウドの外側には走行風の通過しやすい走行風通過領域が設けられているので、中速ないし高速時に鞍乗型車両の受ける走行風が強くなったときでも、シュラウドによる通気抵抗の増大は抑制される。
【0010】
前記電動ファンは、前記シュラウドに取付けて支持する構造としてもよい。こうすれば、別途、支持部材を設けるのに比べて部品点数が少なくなり、組付け工数の削減が図られる。
【0011】
ところで、鞍乗型車両ではラジエータは、走行風が車両の前後方向に通過するようにして原動機の前方に配設されることがあるが、この場合には該ラジエータのコアの走行風通過領域を、その少なくとも半分(つまり過半)の領域が、走行風の通過する方向に見て前記原動機と重ならないように設定するのが好ましい。こうすれば、走行風通過領域を走行風が通過しやすい。
【0012】
一例として前記ラジエータは、その上部が下部よりも鞍乗型車両の前方に位置するよう前傾させて配設してもよい。こうすれば、コアを走行風が後上がりに通過して原動機の上方に流れるように、走行風通過領域を設定することができる。また、シュラウドの開口から下方の斜め後方に向かって吹き出す熱風が、原動機の下方を後方に向かって流れてゆくようになり、乗員に不快感を与える心配はさらに少なくなる。
【0013】
また、前記ラジエータが鞍乗型車両の左右方向に長い矩形状である場合に、前記シュラウドは、その上部において前記電動ファンの周囲を囲む円弧状の上壁部と、該上壁部の左右両端から下方に向かって左右に広がりながら延びる左右一対の側壁部と、を有するものとしてもよい。
【0014】
この構成によると、シュラウドの左右一対の側壁部が下方に向かって左右に広がっているので、電動ファンからの熱風を下方に導く流路の断面積が徐々に左右に拡大することになり、風量の多いときでも熱風をスムーズに下方へ導くことができる。また、シュラウドの上部の左右方向の幅は狭くなるので、その左右両側においてそれぞれラジエータのコアに走行風通過領域を設定できる。これら左右の走行風通過領域をそれぞれ通過した走行風は、後方の原動機の上下および左右をスムーズに後方に流れるようになる。
【0015】
さらに、前記シュラウドにおいて電動ファンの後方を覆う後壁部には、下方への熱風の流れを案内するように前方に突出する突出部を設けてもよい。すなわち、前記ラジエータのコアを走行風の通過する方向に見て、前記電動ファンの左右両端からそれぞれ左右に離間して上下に延びるように、前記の突出部を形成する。こうすれば、風量の少ないときに熱風は左右の突出部の間で下方に流れるようになる。
【0016】
また、前記シュラウドの前後方向の寸法を上方から下方に向かって徐々に大きくすれば、電動ファンからの熱風を下方に導く流路の断面積が前後方向にも徐々に拡大するので、風量の多いとき、少ないときの両方で電動ファンからの熱風がスムーズに下方へ流れるようになる。
【0017】
さらにまた、前記シュラウドの上部と前記ラジエータとの間にはシール部材を配設してもよく、こうすれば、鞍乗型車両が走行後に停車していて、電動ファンが動作していないときにも、シュラウド内の熱気が上方に漏れることがない。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明に係るラジエータの導風構造によると、鞍乗型の車両においてラジエータの電動ファンを覆うようにシュラウドを設けて、その下方に熱風を導くようにしたので、電動ファンからの熱風が乗員に不快感を与え難くなるとともに、カウルを備える場合でもその内部に熱気が籠もり難くなって、車両装備品に与える悪影響が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る鞍乗型車両の一実施形態である自動二輪車の左側面図である。
図2】同自動二輪車のフロントカウル等を取り外し、エンジンおよびラジエータのレイアウトを示す拡大図である。
図3】ラジエータ、電動ファンおよびシュラウドのアセンブリを前方から見た斜視図である。
図4】同アセンブリを後方から見た斜視図である。
図5】同アセンブリを下方から見た斜視図である。
図6】ラジエータのコアを通風方向に見て、走行風通過領域と後方のエンジンとの重なり具合を模式的に示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るラジエータの導風構造について、図面を参照して説明する。本実施形態ではラジエータは鞍乗型車両の一形態である自動二輪車に搭載されており、以下の説明において左右方向については、その自動二輪車に騎乗するライダーの見る方向を基準とする。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車1の左側面図である。図1に表れているように自動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3とを備えている。前輪2は、やや後傾しながら上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部において回転自在に支持されており、フロントフォーク4の上部は上下一対のブラケット4aを介して、ステアリングシャフト(図示せず)に支持されている。このステアリングシャフトは車体側のヘッドパイプ5(図2を参照)によって回転自在に支持されている。
【0022】
そうしてフロントフォーク4の上部を車体側に連結するブラケット4aやステアリングシャフト、ヘッドパイプ5等を前方から左右両側にかけて取り囲むように、本実施形態の自動二輪車1はフルカウル6を備えている。フルカウル6は樹脂製で、ウインドシールドやヘッドランプの取付けられるアッパカウル6aと、その左右両側から斜め後方に垂下しエンジンEの左右両側までを覆う左右のロワカウル6bとからなる。エンジンEを冷却するための走行風は、主にアッパカウル6aと前輪2との間からカウル内に流入し、ロワカウル6bの下部の開口や左右両側のスリット6cから流出する。
【0023】
また、フロントフォーク4の上端に位置する上側のブラケット4aには、左右へそれぞれ延びるようにセパレートタイプのハンドル7が取り付けられており、このハンドル7によって運転者は、フロントフォーク4および前輪2をヘッドパイプ5(ステアリングシャフト)の周りに操舵(ステア)することができる。さらに、フロントフォーク4の下端部には、前輪2と一体に回転するブレーキディスクを備えた前輪ブレーキ8が配設されている。
【0024】
図示はしないが右側のハンドル7には、運転者の右手により把持されるスロットルグリップが設けられており、手首のひねりによってスロットルグリップを回転させることで、エンジンEの出力を調整することができる。また、スロットルグリップの前方には前輪ブレーキ8を動作させるためのブレーキレバーが設けられている。一方、左側のハンドル7には、運転者の左手によって把持されるグリップの前方にクラッチレバー9が設けられている。
【0025】
フルカウル6を取り外して図2に示すように、前記ヘッドパイプ5から後方へ向かってメインフレーム10が延びている。本実施形態ではメインフレーム10の前部は、ヘッドパイプ5の上部から若干下方に傾斜しながら後方に延びる丸パイプからなるセンターフレーム部材10aと、ヘッドパイプ5の下部から二股状に左右に分かれて後方に延びる、丸パイプからなる左右一対のサイドフレーム部材10bとからなる。
【0026】
左右一対のサイドフレーム部材10bは、後方に延びる途中で若干、上方に傾斜するように緩やかに湾曲した後に、今度は下方に傾斜するように折れ曲がっており、その折れ曲がり部分において丸パイプからなるクロスメンバ10cにより互いに連結されている。このクロスメンバ10cには前記センターフレーム部材10aの後端も連結されており、前記のヘッドパイプ5、センターフレーム部材10a、サイドフレーム部材10bおよびクロスメンバ10cによって、メインフレーム10の前部の剛性を確保している。
【0027】
また、前記左右一対のサイドフレーム部材10bはそれぞれ、前記のようにクロスメンバ10cによって連結されている部分で下方に折れ曲がった後は、直線状に後方の斜め下方へ延びていて、その後端には下方に延びるようにピボットフレーム11が連設されている。一方、左右のサイドフレーム部材10bの折れ曲がり部分の近傍から後方に向かって略水平に延びるように、左右一対のリヤサイドフレーム12が連設されている。各リヤサイドフレーム12は、ピボットフレーム11の上端から後方の斜め上方へ延びるリヤステー13とともに、自動二輪車1の車体後部の骨格を構成する。
【0028】
図1にのみ示すがピボットフレーム11には、略前後方向に延びるスイングアーム14の前端部が揺動可能に支持されており、このスイングアーム14の後端部には後輪3が回転自在に支持されている。後輪3のスプロケット15には仮想線で示すチェーン25が巻き掛けられ、後述するようにトランスミッションから回転出力が伝達される。また、メインフレーム10の上部には燃料タンク16が配設され、その後方には運転者(ライダー)の騎乗用のシート17が配設され、さらにその後方には同乗者(タンデムライダー)の騎乗用のリヤシート18が設けられている。
【0029】
図2に示すようにメインフレーム10の下部には、このメインフレーム10およびピボットフレーム11に支持された状態でエンジンEが搭載されている。図2では吸気系、排気系等は取り外し、主にエンジン本体を示している。一例としてエンジンEは、2つのシリンダCが左右方向に並んだ並列2気筒のガソリンエンジンであり、それらのシリンダCが形成されたシリンダブロックe1の上部にシリンダヘッドe2が組み付けられて、シリンダCの上端を閉ざしている。このシリンダCの内部にはピストン(図示せず)が往復動可能に嵌挿されていて、その上方に燃焼室が形成されている。
【0030】
図1に破線で示すように、前記シリンダヘッドe2には、各シリンダC毎に吸気ポート20および排気ポート21が形成されてそれぞれ燃焼室の天井部に開口している。こうしてシリンダC内に臨む吸排気ポート20,21の各開口部は、図示しないがカムシャフトによって駆動される吸気および排気バルブによって開閉される。一例として、本実施形態では吸気側および排気側の2本のカムシャフトを備えたDOHCタイプのバルブ駆動機構を備え、これを覆うようにシリンダヘッドe2の上部にはヘッドカバーe4が配設されている。
【0031】
前記の吸気ポート20は、各シリンダC内の燃焼室の天井部から斜め上方に延びてシリンダヘッドe2の後面に開口している。車載状態ではエンジンEのシリンダブロックe1およびシリンダヘッドe2はやや前傾しており、シリンダヘッドe2の後面には、左右に並んで開口する吸気ポート20にそれぞれ接続されるように、2連のスロットルボディ(図示せず)が配設される。一方、各シリンダCの燃焼室から既燃ガスを排出する排気ポート21は、シリンダヘッドe2の前面において左右に並んで開口し、図示しない排気マニホルドに接続されている。
【0032】
また、各シリンダC毎にシリンダヘッドe2には点火プラグ22が配設されて、燃焼室にその天井部の略中央から臨んでいる。点火プラグ22の上部には点火回路23が接続され、その上部はヘッドカバーe4を貫通している。点火回路23は各シリンダC毎に所定の点火タイミングで点火プラグ22に通電し、混合気に点火して燃焼させる。この燃焼によりピストンが押し下げられ、図示しないコンロッドを介してクランクシャフトを回転させる。
【0033】
そのクランクシャフト等が収容されているクランクケースe5の後部にはミッションケースが一体化され、その内部には、一例として常時噛み合いの歯車式トランスミッション(図示せず)が収容されている。トランスミッションの出力シャフト24はクランクケースe5の左側に突出しており、その回転出力は、仮想線で示すチェーン25を介して後輪3に伝達される。また、クランクケースe5の下部には潤滑用のオイルを溜めるオイルパンe6が取付けられ、クランクケースe5の前部にはオイルを浄化するためのオイルフィルタ26が配設されている。
【0034】
本実施形態のエンジンEは水冷式であり、シリンダブロックe1やシリンダヘッドe2を冷却水(冷却媒体)によって冷却する。冷却水を循環させるためのウォータポンプ27はクランクケースe5の左側に配設されており、エンジンEからトランスミッションへの動力伝達経路から駆動力を取り出して駆動するようになっている。ウォータポンプ27は、ロワホース28によってラジエータ30から導入される冷却水をミドルホース29によってシリンダブロックe1へと圧送する。
【0035】
図3〜5を参照して以下に詳述するが、ラジエータ30は、走行風が前後方向に通過するように前面を前方に向けて配置され、メインフレーム10の左右のサイドフレーム部材10bの前部から垂下するハンガーブラケット10dに取付けられている。ハンガーブラケット10dは、エンジンEのシリンダヘッドe2をメインフレーム10に連結するもので、そのシリンダヘッドe2とラジエータ30との間に所定の間隔が空けられて、ここに電動ファン37(図3等を参照)やシュラウド40が配設されている。
【0036】
また、ラジエータ30は、その上部が下部よりも前方に位置するよう所定の傾斜角度(例えば10°くらい)だけ前傾しているので、コア31(図3〜5を参照)の上部を走行風が後上がりに通過して、エンジンEのヘッドカバーe4の上方へ抜けるようになる。こうしてコア31を通過する風との熱交換によって冷却水の放熱が促され、温度の低下した冷却水は前記のようにロワホース28を流通して、ウォータポンプ27に吸入される。
【0037】
−ラジエータアセンブリの構造−
図3〜5には、ラジエータ30に電動ファン37およびシュラウド40をアセンブリした状態で示す。図3および図4は、それぞれ前方および後方から見た斜視図であり、図5は下方から見た斜視図である。
【0038】
図示のようにラジエータ30は全体として横長の矩形状とされ、その右端に冷却水の導入タンク32が、また、左端には冷却水の導出タンク33がそれぞれ設けられたクロスフロータイプのものである。導入タンク32は、エンジンEのシリンダヘッドe2から排出された比較的高温の冷却液を導入して、コア31に導くものであり、その後面の上部には円筒状の冷却水入口32aが突設され、シリンダヘッドe2から高温の冷却水を導入するアッパホース(図示せず)が接続される。
【0039】
一方、ラジエータ30の導出タンク33は、コア31を通過して低温になった冷却液を集めてエンジンE側に送り出すためのもので、その後面の下部には円筒状の冷却水出口33aが突設されて、前記のロワホース28が接続される。それら両タンク32,33の間のコア31は、詳細は図示しないが、それぞれ左右に延びる複数のチューブが上下に並んで設けられ、隣り合うチューブの間には繰り返し折り返されるようにフィンが設けられて、チューブ内を右側から左側に流れる冷却水がコア31を前後に通過する走行風と熱交換する構成である。
【0040】
また、ラジエータ30のコア31の上下両端には長尺の板状の上壁31aおよび下壁31bが配設され、それぞれの左右両端寄りの部位から上方および下方に突出するように、ハンガーブラケット10dへの取付けフランジ34が設けられている。都合4個の取付けフランジ34はいずれも前後に扁平な板状で、図示しないボルトの挿通される丸穴が開口している。さらに、上壁31aおよび下壁31bにはそれぞれ、前記各取付けフランジ34よりも中央寄りに、後述するシュラウド40の取付座35が配設されている。
【0041】
本実施形態の自動二輪車1においては、前記のようにエンジンEの前方に配設されたラジエータ30の後方に近接させて電動ファン37を取付け、低速時など走行風の弱いときには電動ファン37により強制的にラジエータ30から熱風を吸い出すようにしている。一例として電動ファン37は、羽根車37aを薄型の電気モータ37bによって回転させ、その羽根車37aの軸方向に風を吸い出すようにした軸流式のものである。なお、電動ファン37の羽根車37aは軸流式に限らず、例えば遠心式であってもよい。
【0042】
そして、その電動ファン37を後方、即ちコア31を通過する風の下流側から覆うとともに、電動ファン37の上方から左右両側方にかけても覆い、下方にのみ開口するようにシュラウド40を設けている。すなわち、図3、4に明らかなようにシュラウド40は、電動ファンの後方を覆う全体として三角形状の後壁部41と、その上縁から前方に延びて電動ファン37の上部外周を囲むように円弧状に湾曲した上壁部42と、この上壁部42の左右両端からそれぞれ左右に広がりながら下方に向かって延びる左右一対の側壁部43と、を有している。
【0043】
つまり、シュラウド40は全体としても三角形状を有し、左右一対の側壁部43が下方に向かって左右に広がっているので、電動ファン37からの熱風を下方に導く流路の断面積が徐々に左右に拡大することになる。しかも、本実施形態ではシュラウド40の前後方向の寸法も上方から下方に向かって徐々に大きくなっており、熱風の流路の断面積は前後方向にも徐々に拡大している。なお、左右の側壁部43の下部は緩やかに内方に向かって湾曲した後に略上下方向に延びていて、熱風の吹き出し方向を下方へ向けている。
【0044】
より詳しくは、シュラウド40は樹脂製であり、後壁部41と上壁部42および左右の側壁部43とが一体成形されている。図4、5に示すように後壁部41の略中央には、電動ファン37の電気モータ37bの後面が接合される円形の座面41aが前方に一段、突出するように形成されている。この座面41aの中央には、電気モータ37bの後部の突起が収容される異形の開口41bが形成されるとともに、電気モータ37bを締結する3つのビス38の貫通穴(図示せず)も形成されている。つまり、本実施形態では電動ファン37は、電気モータ37bがシュラウド40の後壁部41に締結されて、該シュラウド40に支持されている。
【0045】
また、シュラウド40の後壁部41には、前記中央の座面41aから左右にそれぞれ離間して、上下に延びる帯状の段部41c(突出部)が形成されている。これらの各段部41cは、図4のように後方から見ると上下に長い帯状の溝であるが、図5のように下方から見ると明らかなように、各段部41cはそれぞれ後壁部41の前面から前方に向かって一段、突出している。これら左右の段部41c同士の左右方向の間隔は、電動ファン37の羽根車37aの直径よりも少しだけ大きく設定されており、左右の段部41cはそれぞれ、羽根車37aの左右両端から左右に離間している。
【0046】
各段部41cの下端部にはそれぞれ、より大きく前方へ突出して取付脚部41dが形成されている。この各取付脚部41dの断面は下向きに開口するコ字状であり、各取付脚部41dの前端面は、ラジエータ30のコア31の下壁31bに設けられた取付座35に重ね合わされて、ボルト39により締結されている。この結果、シュラウド40の下方の開口は、左右の取付脚部41dの間の主開口部と、各取付脚部41dとシュラウド40の側壁部43との間の副開口部とに分割されている。
【0047】
一方、シュラウド40の上部において上壁部42の左右両端と左右の両側壁部43とが繋がる部位には、上方に向かって左右一対の取付腕部44が延びている。各取付腕部44は、ラジエータ30のコア31の上壁31aに設けられた取付座35に重ね合わされて、ボルト39により締結されている。また、左右の取付腕部44同士を繋ぐように上壁部42の上面には上方に延びる延出部42aが設けられており、この延出部42aの上縁には前方に折れ曲がる折曲片42bも設けられている。
【0048】
図4に示すように延出部42aの後面にはリブが設けられている一方、図3に示すように延出部42aの前面には、スポンジ等を横長の四角柱状に成形してなるシール部材45が配設されて、折曲片42bとラジエータ30のコア31の上壁31aとの間を閉ざしている。つまり、左右の取付腕部44の間に挟まれたシュラウド40の上壁部42とラジエータ30のコア31との間は、シュラウド40内の熱風が上方に漏れないようにシールされている。
【0049】
前記のように全体として三角形状のシュラウド40が横長のラジエータ30の後面に取付けられると、そのコア31のうち、左右方向の中央に位置する概ね1/3の領域がシュラウド40に覆われるとともに、その左右両側のそれぞれ1/3くらいの領域においてもそれぞれ中央且つ下寄りの三角形状の領域がシュラウド40に覆われることになる。この結果、図6に模式的に示すようにコア31を走行風の通過する方向(便宜的にコア31の前面に直交する方向)に見ると、シュラウド40の左右にはそれぞれ左上寄りおよび右上寄りに、走行風の通過しやすい三角形状の領域31c(走行風通過領域)が形成される。
【0050】
ここで、図1に表われているようにラジエータ30の前方において左右方向の中央には前輪2が位置し、走行風は前輪2の上部および左右両側を通過してラジエータ30のコア31に進入する。よって、前記のようにラジエータ30のコア31の上部の左右両側に走行風通過領域31cを形成すれば、これらの走行風通過領域31cを走行風が効率よく通過するようになる。
【0051】
しかも、走行風は、前傾しているラジエータ30のコア31を後上がりに通過するので、図6のようにコア31をその通風方向に見ると、走行風通過領域31cの殆どは後方のエンジンEのヘッドカバーe4とは重なっておらず、コア31を通過した走行風はエンジンEの上方および左右両側をスムーズに流れてゆく。なお、走行風通過領域31cは、その少なくとも半分(つまり過半)の領域がエンジンEと重ならないように設定すればよい。
【0052】
−作用効果−
以上の構成により、本実施形態の自動二輪車1が例えば渋滞路などで低速走行を強いられているとき、エンジンEの冷却水温度が高くなって電動ファン37が動作を開始すると、その羽根車37aの回転によってラジエータ30のコア31から熱風が吸い出される。こうして吸い出された熱風は羽根車37aの後方に送り出されて、シュラウド40の後壁部41との間を下方に向かって流れ、図2に白矢印で模式的に示すようにシュラウド40の下方に吹き出すようになる。
【0053】
ここで、冷却水温度があまり高くないうちは羽根車37aの回転数が低く、ここから送り出される熱風の風量があまり多くはないので、この熱風はシュラウド40の後壁部41の左右の段部41cに案内され、それらの間を概ね真っ直ぐに下方に流れてシュラウド40の主開口部から下方に吹き出す。このため、風量が少なくても熱風の下方への吹き出し速度を確保することができ、図2に白矢印で模式的に示すように熱風は、エンジンEの前方からその下方に回り込んで、後方に向かって流れるようになる。
【0054】
一方、冷却水温度が高くなって羽根車37aの回転数も高くなり、ここから送り出される熱風の風量が多くなると、この熱風の一部が段部41cを乗り越えて左右に広がり、シュラウド40の左右の側壁部43に沿って下方に流れて、シュラウド40の副開口部からも吹き出すようになる。つまり、熱風を下方に導く流路の断面積を確保でき、電動ファン37の動作に対する抵抗はあまり大きくならない。しかも、熱風の流量が多ければ、その流れが左右に広がってもシュラウド40の下方への吹き出し速度は高くなり、前記と同様に熱風はエンジンEの下方を後方に流れるようになる。
【0055】
つまり、走行風の弱い自動二輪車1の低速時に、電動ファン37の動作によってラジエータ30から吸い出した熱風を、シュラウド40の下方に吹き出させてエンジンEの下方からその後方に流すことで、運転者や同乗者が熱気に曝されて不快に感じることを防止できる。本実施形態のように自動二輪車1にフルカウル6が備わっていても、その内部には熱気が籠もり難く、車両装備品に悪い影響を与える心配も少ない。
【0056】
また、自動二輪車1の走行速度が高いときにはラジエータ30の受ける走行風が強くなるが、走行風は前輪2の上部および左右両側から、ラジエータ30のコア31の上部左右の走行風通過領域31c通過して、エンジンEの上方および左右両側をスムーズに流れてゆく。よって、走行風が強くなっても、シュラウド40による通気抵抗があまり大きくなることはない。
【0057】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明に係るラジエータの導風構造は前記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、または削除することができる。例えば、前記の実施形態ではラジエータ30をエンジンEの前方に配置して、走行風が前後方向に通過するようにしているが、これに限らず、ラジエータ30はエンジンEの側方や後方に配置してもよいし、走行風が左右方向に通過するようにしてもよい。
【0058】
また、ラジエータコア31の走行風通過領域31cは、前記のようにコア31の上部において左右に分けて設ける必要もなく、一例として電動ファンやシュラウドをコアの左右いずれか一側に寄せて配置し、反対側に走行風通過領域を設定してもよい。コア自体も横長でなくてもよいので、一例として縦長のコアの中央に電動ファンやシュラウドを設け、その上下に分けて走行風通過領域を設定してもよいし、電動ファンやシュラウドを縦長のコアの上下いずれか一側に寄せて配置し、反対側に走行風通過領域を設定してもよい。
【0059】
また、前記の実施形態では電動ファン37をシュラウド40に取付けて、ラジエータ30に支持するようにしているが、これに限らず、電動ファン37をラジエータ30に支持する専用の支持部材を設けてもよい。
【0060】
さらに、シュラウドの具体的な構造も前記の実施形態に限定されない。一例として前記の実施形態ではシュラウド40の左右の側壁部43を、下方に向かって左右に広がりながら延びるように構成しているが、これに限らずシュラウドの左右の側壁部は概ね真っ直ぐに下方に延びる構成としてもよいし、互いに近づきながら下方に延びる構成としてもよい。同様にシュラウドの前後方向の寸法も上方から下方に向かって徐々に大きくする必要はなく、徐々に小さくなっていてもよい。
【0061】
また、前記実施形態のようにラジエータ30を前傾させて設ける必要もなく、一例としてラジエータは上下方向には概ね真っ直ぐに延びるように設けてもよいし、後傾させて設けてもよい。また、ラジエータ30を左右いずれかに傾けて配設してもよい。
【0062】
さらにまた、前記実施形態の自動二輪車1は一例として並列2気筒のエンジンEを搭載しているが、これは単気筒や3〜6気筒のエンジンであってもよく、水平対向式やV型のエンジンであってもよい。また、原動機としてエンジンの他に電気モータを搭載していてもよいし、電気モータのみを搭載した電動二輪車であってもよいし、自動二輪車にも限定されず、例えば不整地走行車両にも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように本発明は、ラジエータの熱風が乗員に不快感を与えたり、カウル内に籠もったりすることを効果的に抑制できるので、特に自動二輪車に適用して高い効果を奏し、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0064】
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
30 ラジエータ
31 コア
31c 走行風通過領域
37 電動ファン
40 シュラウド
41 後壁部
41c 段部(突出部)
42 上壁部
43 側壁部
45 シール部材
E エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6