特許第5829957号(P5829957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5829957
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/52 20060101AFI20151119BHJP
   H03F 1/02 20060101ALI20151119BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20151119BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   H03F1/52 B
   H03F1/02
   H03F3/24
   H04B1/04 E
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-60543(P2012-60543)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-197698(P2013-197698A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年9月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、超高速近距離無線伝送技術等の研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 典昭
【審査官】 白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/135711(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/057385(WO,A1)
【文献】 特開2005−191791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/52
H03F 1/02
H03F 3/24
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力増幅素子を用いて、高周波信号を増幅する高周波電力増幅器と、
前記高周波電力増幅器の出力を基に、前記増幅された高周波信号を抽出する検波器と、
前記抽出された高周波信号の包絡線ピーク電圧を判定するアナログデジタル変換器と、
前記高周波電力増幅器に供給する電源電圧を調整する電源電圧調整回路と、
前記電源電圧調整回路が供給する前記電源電圧と前記判定された高周波信号の包絡線ピーク電圧との加算値を、前記電力増幅素子のホットキャリアインジェクション劣化の規定値を超えない値に調整する制御部と、を備える無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信装置であって、
前記電力増幅素子の動作電流を調整する電流調整回路と、を更に備え、
前記制御部は、
前記電源電圧調整回路及び前記電流調整回路に、
前記高周波電力増幅器の出力電力が比較的大きい場合、前記高周波電力増幅器に供給する電源電圧を減少させ、更に前記電力増幅素子の動作電流を増大させ、
前記高周波電力増幅器の出力電力が比較的小さい場合、前記高周波電力増幅器に供給する電源電圧を増大させ、更に前記電力増幅素子の動作電流を減少させる無線通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の無線通信装置であって、
前記制御部は、
前記高周波電力増幅器に入力される高周波信号が無変調信号である場合に、前記供給される電源電圧と前記判定された前記高周波信号の包絡線ピーク電圧との加算値を基に、前記電源電圧調整回路に前記電源電圧を制御させ、前記電流調整回路に前記動作電流を制御させる無線通信装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の無線通信装置であって、
前記高周波電力増幅器により増幅された高周波信号の出力電力と、前記高周波電力増幅器に供給する電源電圧と、前記電力増幅素子の動作電流との関係を表すテーブルと、を更に備え、
前記制御部は、
前記高周波電力増幅器により増幅された高周波信号の出力電力に基づき、前記テーブル従って、前記電源電圧調整回路及び前記電流調整回路に前記電源電圧及び前記動作電流を制御させる無線通信装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の無線通信装置であって、
前記アナログデジタル変換器に入力される信号を切り替えるスイッチと、を更に備え、
前記制御部は、
前記スイッチを介して、前記検波器からの出力信号を前記アナログデジタル変換器に入力させる無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電力増幅器のアナログ回路にトランジスタを用いた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波集積回路を用いた無線通信装置では、CMOSプロセスの微細化に伴い高周波電力増幅器(HPA:High-Power Amplifier)のHCI(Hot Carrier Injection:ホットキャリアインジェクション)劣化が問題となっている。
【0003】
HCI劣化は次のような現象である。即ち、トランジスタ(例えば、MOSFET:Metal-Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のドレイン端子−ソース端子間の電界が大きくなると、ホットエレクトロンと呼ばれる高エネルギーの電子が発生する。ホットエレクトロンがトランジスタのゲート端子に注入すると、トランジスタの閾値電圧の上昇及びドレイン端子電流の低下が引き起こされ、トランジスタの性能が劣化する。
【0004】
HCI劣化はドレイン端子−ソース端子間電圧と密接な関係がある。即ち、トランジスタに印加されるドレイン端子−ソース端子間電圧が大きくなると、HCI劣化がより早く進行する。
【0005】
一方、製品の品質の一般的な寿命は、10年程度を保証することが多い。従って、例えば10年間の製品使用を保証するため、トランジスタのドレイン端子電流の低下の程度を、例えば10%以内に抑制する必要がある。このため、通常はトランジスタに印加するドレイン端子−ソース端子間電圧の最大値に制限をかける。
【0006】
デジタル回路では、トランジスタに印加されるドレイン端子−ソース端子間電圧が電源電圧を超えることがないため、電源電圧を規制すればトランジスタのHCI劣化を抑制できる。しかし、負荷としてインダクタを用いるアナログ回路では、トランジスタのドレイン端子電圧が電源電圧を超える場合があり、HCI劣化が進行しやすい。
【0007】
また、トランジスタに印加するドレイン端子−ソース端子間電圧は、アナログ回路の性能(例えば利得、飽和出力)に影響を与える。従って、単純に電源電圧を下げることは得策ではない。
【0008】
HCI劣化の対策に関する従来技術として、リングオシレータを用いるホットキャリア劣化検出回路が知られている(例えば、特許文献1)。即ち、ホットキャリアによる劣化の検出対象の本体回路と同じチップ上に、本体回路と同じトランジスタを用いて構成したリングオシレータを設ける。検査対象のトランジスタの劣化に伴って、リングオシレータの発振周波数は変化する。従って、ホットキャリア劣化検出回路は、リングオシレータの発振周波数を基に、検出対象の本体回路のトランジスタの劣化の程度又は寿命に達したか否かを検出できる。
【0009】
また、出力信号レベルが可変の送信回路が知られている(例えば、特許文献2)。具体的には、送信回路は、出力信号レベルを小さくした場合の電力効率の劣化又は消費電力の増加を抑えるために、出力信号が小さい場合は電源電圧及び動作電流を小さくし、出力信号が大きい場合には電源電圧及び動作電流を高くする。これにより、送信回路は、出力信号に対して適応的に消費電力を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3075233号公報
【特許文献2】特開平7−170202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1ではHCI劣化を検出することは可能であるが、HCI劣化の発生を抑制してデバイスの寿命を延ばすことは困難である。一方、特許文献2では、出力信号が大きい場合に電源電圧を大きくする必要があることから、振幅の大きい場合にトランジスタのドレイン端子に印加される直流電圧が高くなる。このため、HCI劣化の発生の抑制が困難となる。
【0012】
例えば、60GHz程度のミリ波帯の周波数が用いられるWiGig(Wireless Gigabit)規格の無線通信では、トランジスタを微細プロセスによって製造するため、トランジスタの動作可能な周波数の上限を表す電流遮断周波数ftと実際の動作周波数との差が小さい。従って、HCI劣化によってトランジスタの電流遮断周波数ftが低下すると、実際の動作周波数におけるトランジスタの増幅率が低下し、送信出力が低下して実使用に耐えることが困難となる。
【0013】
また、電流遮断周波数ftと実際の動作周波数との差が小さい場合には、高周波電力増幅器(HPA)の最終段回路では、1石のトランジスタをソース接地とし、負荷をインダクタとしたソース接地増幅器を用いる。このため、高周波電力増幅器では、HCI劣化の影響を受け易い。
【0014】
本発明は、上述した従来の事情に鑑みてなされたものであって、ホットキャリアインジェクション劣化による電力増幅素子の特性劣化を防ぎ、出力信号レベルに応じて送信電力を制御する無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、電力増幅素子を用いて、高周波信号を増幅する高周波電力増幅器と、前記高周波電力増幅器の出力を基に、前記増幅された高周波信号を抽出する検波器と、前記抽出された高周波信号の包絡線ピーク電圧を判定するアナログデジタル変換器と、前記高周波電力増幅器に供給する電源電圧を調整する電源電圧調整回路と、前記電源電圧調整回路が供給前記電源電圧と前記判定された前記高周波信号の包絡線ピーク電圧との加算値が、前記電力増幅素子のホットキャリアインジェクション劣化の規定値を超えないように、前記電源電圧調整回路が供給する前記電源電圧を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ホットキャリアインジェクション劣化による電力増幅素子の特性劣化を防ぎ、出力信号レベルに応じて送信電力を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態における無線通信装置のブロック図
図2図1の無線通信装置における高周波電力増幅器の具体的なアナログ回路の構成を示す回路図
図3図2の高周波電力増幅器における変調時の正相ドレイン出力端子の信号波形(電圧)を示す波形図
図4図1に示す無線通信装置におけるカプラ出力端子における出力波形、即ち、検波器の出力電圧を示す波形図
図5】送信出力と電源電圧及び動作電流との関係を示すテーブル
図6】具体的な制御条件の内容を示すテーブル
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る無線通信装置の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
<無線通信装置の構成>
図1は、本実施形態における無線通信装置20のブロック図である。図1に示す無線通信装置20は、送信系回路TXと、受信系回路RXと、電源電圧調整回路125と、電流調整回路126と、無線通信装置20の全体動作を制御する制御部10とを含む。
【0020】
なお、本実施形態の無線通信装置20は受信系回路RXを含まなくても良い。また、本実施形態の無線通信装置20は、例えば、WiGig規格の無線通信では、60GHz程度のミリ波帯の周波数を用いる。また、図1に示す無線通信装置20には差動信号が入出力されるが、シングルエンド信号が入出力されても良い。
【0021】
図1では、送信系回路TXは、DAC106、送信系可変利得増幅器105、直交変調器104、90度移相器107、発振器108、ドライバアンプ102、高周波電力増幅器101、カプラ204、検波器103、出力端子205、カプラ出力端子206及び送信アンテナ100を含む。高周波電力増幅器101の出力は、カプラ204を介して、検波器103に入力される。検波器103の出力は、スイッチ113を介して、受信系回路に入力される。なお、発振器108は、送信系回路TXではなく受信系回路RXに含まれても良い。
【0022】
図1では、受信系回路RXは、受信アンテナ110、低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)111、直交復調器112、90度移相器109、スイッチ113、受信系可変利得増幅器114及びADC115を含む。無線通信装置20では受信系可変利得増幅器114が2つ設けられ、スイッチ113は、一方の受信系可変利得増幅器114に入力される信号を、選択的に切り替える。即ち、スイッチ113は、制御部10が出力する制御信号に従って、信号の入力先を、検波器103の出力又は直交復調器112の出力に切り替える。
【0023】
図1に示す無線通信装置20の送信系回路TXでは、差動信号の送信信号は、2つのDAC(デジタル−アナログ変換器)106においてデジタル信号からアナログ信号に変換され、アナログのIQ信号として2つのDAC106から出力される。
【0024】
2つのDAC106が出力した各信号は、2つの送信系可変利得増幅器105にて増幅される。各送信系可変利得増幅器105において増幅された各信号は、直交変調器104において、発振器108及び90度移相器107により形成された同振幅且つ位相が90度異なる2つのローカル信号を基にして直交変調される。直交変調された信号はドライバアンプ102に入力される。
【0025】
ドライバアンプ102は、直交変調された信号を入力して増幅し、高周波電力増幅器101に出力する。高周波電力増幅器101は、ドライバアンプ102から出力されたアナログ信号の電力(レベル)を増幅する。
【0026】
本実施形態の高周波電力増幅器101には、電源電圧調整回路125及び電流調整回路126が接続される。電源電圧調整回路125は、高周波電力増幅器101の電源電圧としての直流電圧を、制御部10の指示に従って調整して印加する。電流調整回路126は、高周波電力増幅器101の動作電流を、制御部10の指示に従って調整して供給する。
【0027】
高周波電力増幅器101によって増幅された高周波信号は、出力端子205を介して、送信アンテナ100から電波として送信される。高周波電力増幅器101によって増幅された高周波信号の一部は、カプラ204により抽出され、カプラ出力端子206を介して検波器103に入力される。検波器103の出力信号は、スイッチ113及び受信系可変利得増幅器114を介して、一方のADC(Analog-Digital Converter)115に入力される。
【0028】
一方、図1に示す無線通信装置20の受信系回路RXでは、受信アンテナ110が受信した電波の高周波受信信号が低雑音増幅器111に入力される。低雑音増幅器111は、入力された高周波受信信号を低雑音にて増幅する。低雑音増幅器111から出力された高周波受信信号は、直交復調器112において、発振器108及び90度移相器109により形成された同振幅且つ位相が90度異なる2つのローカル信号を基にして復調される。
【0029】
復調された差動信号の受信信号は、一方がスイッチ113に入力され、他方が2つの受信系可変利得増幅器114の他方に入力される。スイッチ113を介して出力された受信信号の一方は、2つの受信系可変利得増幅器114の一方に入力される。2つの受信系可変利得増幅器114において増幅された受信信号は、2つのADC115に入力され、アナログの受信信号からデジタルの受信信号に変換される。2つのADC115により変換されたデジタルの受信信号は制御部10に入力される。
【0030】
<高周波電力増幅器101の具体的構成>
図2は、図1の無線通信装置20における高周波電力増幅器101の具体的なアナログ回路の構成を示す回路図である。
【0031】
図2に示す高周波電力増幅器101は、入力側のトランス211と、2つのトランジスタ207及び208と、出力整合容量202と、出力側のトランス203と、出力端子205とを含む。なお、入力側のトランス211の二次側における電流、即ち、トランジスタ207及び208の動作電流(制御電流)は、電流調整回路116によって調整されて供給される。
【0032】
トランジスタ207及び208は、微細化CMOSプロセスによって製造され、例えばMOSFETを用いて構成される。トランジスタ207及び208は、例えば60GHz程度の高い周波数帯(ミリ波帯域)において、入力側のトランス211の二次側に出力された信号の電力を増幅する。
【0033】
トランジスタ207は、正相入力ゲート端子200及び反転ドレイン出力端子209を有する。トランジスタ207のソース端子は接地している。
【0034】
トランジスタ208は、反転入力ゲート端子201及び正相ドレイン出力端子210を有する。トランジスタ208のソース端子は接地している。
【0035】
出力整合容量202の電極の一方は反転ドレイン出力端子209に接続され、出力整合容量202の電極の他方は正相ドレイン出力端子210に接続されている。即ち、出力整合容量202は、反転ドレイン出力端子209及び正相ドレイン出力端子210に接続されている。
【0036】
出力側のトランス203は、正相ドレイン出力端子210及び反転ドレイン出力端子209に接続され、正相ドレイン出力端子210及び反転ドレイン出力端子209の差動出力を片相合成した結果を、トランス203の二次側に出力する。なお、出力側のトランス203の一次側における電圧は、電源電圧調整回路125によって調整されて印加される。
【0037】
出力端子205には、カプラ204を介して、トランス203の二次側の出力が出力される。カプラ出力端子206には、トランス203の二次側の出力が、カプラ204により20dB〜30dB程度減衰された信号として出力される。
【0038】
<信号波形の具体例>
図3は、図2の高周波電力増幅器101における変調時の正相ドレイン出力端子210の信号波形(電圧)を示す波形図である。図3に示す信号波形は、変調波であり、搬送波成分、即ち、発振器108が出力した高周波信号(60GHz程度の周波数)を含む。図4は、図1に示す無線通信装置20におけるカプラ出力端子206における出力波形、即ち、検波器103の出力電圧を示す波形図である。
【0039】
例えば、電源電圧調整回路125の出力として高周波電力増幅器101に印加される直流電圧(電源電圧)が1.2Vでは、トランス203の影響により、電源電圧(1.2V)を超える電圧が反転ドレイン出力端子209及び正相ドレイン出力端子210に生じる。即ち、図3では、電源電圧の1.2Vを中心として、最大1.7Vの変動電圧が生じている。
【0040】
つまり、トランジスタ207及び208の各ドレイン端子−ソース端子間電圧が電源電圧を超える。ドレイン端子−ソース端子間電圧が電源電圧を超えると、各トランジスタ207及び208においてHCI劣化が進行する。HCI劣化によってトランジスタ207及び208の電流遮断周波数ftが低下すると、動作周波数(例えば60GHz)におけるトランジスタ207及び208の各増幅率が低下し、送信出力が低下して実使用に耐えることが困難となる。即ち、無線通信装置20の製品寿命が短くなる。
【0041】
<電源電圧の制御>
次に、無線通信装置20の動作について説明する。ここでは、高周波電力増幅器101に印加される電源電圧が1.2Vであり、正相ドレイン出力端子210における電圧が最大1.7Vとなるケースを想定する(図3参照)。
【0042】
図4では、検波器103の出力信号は、正相ドレイン出力端子210における信号の包絡線に相当する交流信号波形になる。従って、検波器103の出力信号は、送信出力情報を表すが、正相ドレイン出力端子210における最大電圧とは異なる。つまり、検波器103の出力信号では、正相ドレイン出力端子210における最大電圧を検出することが困難である。
【0043】
例えば、上述した特許文献2では、検波器103の出力を適当な低域通過フィルタ(LPF)を用いて平滑化してから利得制御系にフィードバックするため、正相ドレイン出力端子210における最大電圧を把握することが困難である。つまり、特許文献2に示す利得制御系では、正相ドレイン出力端子210における最大電圧が考慮されていないため、包絡線情報を用いずに低域通過フィルタにて平滑化された信号のレベルを検出して利得制御系にフィードバックしなければならない。
【0044】
図1に示す無線通信装置20は、トランジスタ207及び208のHCI劣化を防止するために、以下のように制御する。具体的には、無線通信装置20は、トランジスタ207の反転ドレイン出力端子209、及びトランジスタ208の正相ドレイン出力端子210に印加される各電圧の絶対値を取得するために、検波器103の出力を平滑化せずに検出する。無線通信装置20は、高速に動作可能なADC115を用いて、検波器103の出力におけるピークレベルを検出する。
【0045】
無線通信装置20の受信系回路RXには、高速に動作可能なアナログデジタル変換器として、2つのADC115が設けられている。ADC115は、検波器103の出力における周波数の高い信号のピークレベルを検出する。
【0046】
無線通信装置20の受信処理では、スイッチ113は、直交復調器112の出力とADC115の入力とを接続し、直交復調された受信信号をADC115に出力する。
【0047】
また、送信系回路TXにおいて高周波電力増幅器101の電源電圧が調整される場合では、スイッチ113は、検波器103の出力とADC115の入力とを接続する。
【0048】
制御部10は、検波器103の出力を基にしてADC115の変換結果として得られたピーク電圧情報と、電源電圧調整回路125が出力する電源電圧情報とを加算する。従って、制御部10は、トランジスタ207の反転ドレイン出力端子209、及びトランジスタ208の正相ドレイン出力端子210における最大ピーク電圧値を取得できる。
【0049】
制御部10は、取得された最大ピーク電圧値がトランジスタ207及び208の製造プロセスにおいて規定されているHCI劣化抑圧条件を超えない範囲において、高周波電力増幅器101の電源電圧を制御(調整)する。
【0050】
HCI劣化抑圧条件の具体例は、例えば電源電圧の中心電圧1.2Vの1.4倍である1.7Vである。この場合、1.7Vが閾値とされる。HCI劣化抑圧条件は、必要に応じて変更されても良い。これにより、制御部10は、HCI劣化を考慮した最適な電源電圧を制御(調整)できる。
【0051】
図3に示す例では、正相ドレイン出力端子210における電圧波形を表している。図3に示す例では、電源電圧の中心電圧が1.2V、振幅が±0.5V、最大電圧が1.7Vである。図4に示す例では、カプラ出力端子206の電圧について、振幅ピークが図3に示す電圧波形と同じになるように正規化された電圧波形を示す。
【0052】
本実施形態では、HCI劣化抑制のためのトランジスタ207及び208のドレイン端子−ソース端子間電圧の閾値が1.7Vに定められている。従って、閾値の1.7Vからカプラ出力の最大値1Vの1/2を減算した結果である1.2Vを、ドレイン端子における電源電圧の上限値と予め定めておく。つまり、電源電圧調整回路125は、高周波電力増幅器101に印加する電源電圧、即ち、トランジスタ207及び208の各ドレイン端子電圧値を1.2Vに調整する。
【0053】
具体的には、制御部10は、検波器103の出力として得られた高周波信号のピーク電圧をADC115から取得する。制御部10は、ADC115から得られたピーク電圧と、予め定められた電源電圧とを加算した結果のピーク電圧、つまりトランジスタ207及び208のドレイン端子−ソース端子間電圧の最大値が、閾値(1.7V)を超えないように電源電圧調整回路125を制御(調整)する。
【0054】
これにより、無線通信装置20は、電源電圧及び出力振幅の両方を考慮し、HCI劣化の影響が少ない最大電圧にて高周波電力増幅器101を駆動できる。
【0055】
<動作電流の制御>
<出力電力が大きい場合>
HCI劣化を抑制するために電源電圧を下げる場合には、高周波電力増幅器101における高周波信号の振幅が大きいと、信号レベルが飽和し易くなり信号に歪みが発生する。これを避けるために、高周波信号の振幅を抑制する必要がある。しかし、振幅を抑制すると出力電力が低下する。そこで、制御部10は、電流調整回路126に、高周波電力増幅器101の動作電流を増大させ、高周波電力増幅器101の出力電力が変化させないようにする。
【0056】
<出力電力が小さい場合>
一方、高周波電力増幅器101の出力電力が比較的小さい場合には、高周波電力増幅器101における高周波信号の振幅が比較的小さくなる。また、HCI劣化を考慮する必要がなく、電源電圧調整回路125は、高周波電力増幅器101に印加する電源電圧を上げる。
【0057】
高周波電力増幅器101に印加される電源電圧を上げると、信号レベルが飽和しにくいため、高周波信号の振幅を上げたとしても信号に歪みが生じにくい。つまり、電源電圧調整回路125は、必要に応じて高周波信号の振幅を上げることができる。
【0058】
無線通信装置20の電力供給源は、例えば出力電圧が一定のバッテリーを用いて構成される。電力供給源(バッテリー)の出力電圧と、電源電圧調整回路125が出力する電源電圧との差分に相当する電力は、電源電圧調整回路125の内部において熱として消費される。つまり、無線通信装置20の出力電力が低い場合でも、電源電圧調整回路125によって電力が消費され、バッテリーの消耗が促進される。
【0059】
そこで、高周波電力増幅器101の出力電力が比較的小さい場合には、制御部10は、電源電圧調整回路125により高周波電力増幅器101の電源電圧を上げ、電流調整回路126により高周波電力増幅器101の動作電流を減らす。これにより、高周波電力増幅器101における電力消費を抑制する。
【0060】
<制御部10における制御内容>
図5は、図1の無線通信装置20における送信パワー(出力電力)と電源電圧及び動作電流との関係を示すテーブルである。図6は、具体的な制御条件の内容を示すテーブルである。
【0061】
つまり、図5では、制御部10は、送信パワー、即ち、高周波電力増幅器101の出力電力が大きい場合には、高周波電力増幅器101に印加する電源電圧を電源電圧調整回路125によって減少させ、高周波電力増幅器101の動作電流を電流調整回路126によって増大させる。
【0062】
一方、制御部10は、送信パワー、即ち、高周波電力増幅器101の出力電力が小さい場合には、高周波電力増幅器101に印加する電源電圧を電源電圧調整回路125によって増大させ、高周波電力増幅器101の動作電流を電流調整回路126によって減少させる。
【0063】
これにより、制御部10は、トランジスタ207及び208のHCI劣化を抑制し、無線通信装置20の製品寿命を延長できる。また、制御部10は、出力電力が小さい場合に電力消費を抑制できる。
【0064】
次に、具体的な切換例について説明する。図6に示す例では、2種類の制御条件としてケース1及びケース2が定められている。
【0065】
ケース1、即ち、送信パワーが「+7dBm」では、制御部10は、トランジスタ207及び208の各ドレイン端子のAC出力振幅が1Vppに達する場合には電源電圧を1.2Vに減少し、更に、動作電流を30mAに増大する。これより、ドレイン端子の最大電圧が1.7Vとなる。
【0066】
ケース2、即ち、送信パワーが「+1dBm」では、制御部10は、トランジスタ207及び208の各ドレイン端子のAC出力振幅が0.5Vppに達する場合には電源電圧を1.45Vに増大し、更に、動作電流を27mAに減少させる。これより、ドレイン端子の最大電圧が1.7Vとなる。
【0067】
なお、図6に示す2種類以上の動作条件に関する具体的な電源電圧及び動作電流の最適値をキャリブレーションとして事前に測定することによって、無線通信装置20に対して決定することが好ましい。キャリブレーションにより決定された電源電圧及び動作電流の最適値のデータを、制御部10が参照可能な不揮発性メモリ15上にテーブルとして保存させておく。
【0068】
従って、制御部10は、検出した送信パワーを基に、不揮発性メモリ15に保存されているテーブルの電源電圧及び動作電流の最適値のデータを参照して、電源電圧調整回路125及び電流調整回路126に、高周波電力増幅器101におけるドレイン端子電圧及び動作電流を印加及び供給させる。
【0069】
<変形例>
上述の無線通信装置20では、高周波電力増幅器101が変調波を送信する場合に、制御部10は、検波器103により高周波電力増幅器101の出力から検出された高周波信号の包絡線のピーク電圧の値(ADC115の出力)を用いている。
【0070】
無線通信装置20は、CW(Continuous Wave=無変調連続正弦波)信号を用いて、高周波電力増幅器101の出力を検出しても良い。即ち、トランジスタ207及び208のドレイン端子電圧を把握するために、無線通信装置20の送信系回路が無変調状態にて、つまり高周波電力増幅器101が搬送波を出力している状態にて、出力信号のレベルを制御部10が検出する。
【0071】
この場合、検波器103の出力信号が図4に示す高速変化がないため、ピークレベル検出のためにADC115が高速にAD変換処理する必要がなくなる。従って、高速に動作可能なADC115を利用しなくても制御可能になり、アナログデジタル変換の処理速度を下げて電力消費を抑制できる。
【0072】
但し、変調波を用いる場合と、無変調信号を用いる場合とでは、検波器103の出力信号に基づいて検出されるピークレベルと、トランジスタ207及び208のドレイン電圧との関係に違いが生じる。
【0073】
従って、変調波を用いる場合の最適な制御条件と、無変調信号を用いる場合の最適な制御条件との相関関係を、キャリブレーションとして実験室にて予め測定し、結果として得られた電源電圧及び動作電流の最適値のデータを不揮発性メモリ15に保持しておき、最適値のデータを制御条件として用いる。
【0074】
このため、無変調信号を用いて検出した高周波信号のピークレベルに基づいて制御部10が電源電圧調整回路125及び電流調整回路126を制御する場合でも、実際に変調波を送信する場合に最適な条件を用いて電源電圧及び動作電流を制御できる。従って、ADC115の動作周波数を下げ、更なるADC115における消費電力を低減できる。
【0075】
なお、例えば60GHz程度のミリ波帯の無線通信において、微細プロセスによって製造されたトランジスタ207及び208を高周波電力増幅器101のアナログ回路に用いる場合であってトランジスタ207及び208の動作可能な周波数の上限を表す電流遮断周波数ftと実際の動作周波数との差が小さい場合には、図2に示す高周波電力増幅器101のように、最終段回路では、トランジスタ207及び208をソース接地させ、負荷をインダクタ(例えば、トランス203)とし、ドレインの出力電圧が電源電圧中心であり、かつ、大振幅で振れるソース接地増幅器を使わざるを得ず、より本発明の効果は高くなる。なお、大振幅とは、電源電圧中心に対して無視できない電圧であり、例えば、電源電圧中心の約10%以上となる。
【0076】
上述の無線通信装置20は、検波器103が出力した高周波信号の包絡線ピークレベル及び電源電圧に基づいて、トランジスタ207及び208のドレイン端子電圧を把握している。更に、トランジスタ207及び208のHCI劣化を抑制するために、制御部10は、電源電圧調整回路125及び電流調整回路126に、高周波電力増幅器101の電源電圧及び動作電流を調整させている。
【0077】
従って、無線通信装置20は、トランジスタ207及び208のHCI劣化を抑制でき、無線通信装置20の製品寿命を延ばすことができる。また、無線通信装置20は、消費電力を抑制できる。
【0078】
これにより、無線通信装置20は、トランジスタのドレイン−ソース間電圧が電源電圧を超えるような状況であっても、トランジスタのHCI劣化を抑制できる。従って、無線通信装置20の製品寿命を延長できる。
【0079】
また、無線通信装置20は、高周波電力増幅器101の出力電力が大きい場合にはトランジスタ207及び208のHCI劣化を抑制でき、高周波電力増幅器101の出力電力が小さい場合には電源における発熱を抑制し、電力消費を抑制できる。
【0080】
また、無線通信装置20は、不揮発性メモリ15に保存されたテーブルを用いることで、電源電圧調整回路125及び電流調整回路116を簡易に制御できる。
【0081】
また、無線通信装置20は、ADC115に入力される信号を切り替えるスイッチ113を用いて、電源電圧調整回路125及び電流調整回路116を制御する場合に、検波器103からの出力信号をADC115に入力する。これにより、無線通信装置20は、高速の信号処理が可能な受信系のADC115を、送信系回路の制御に共用できる。従って、無線通信装置20は、ADC115の回路規模を低減できる。
【0082】
以上、図面を参照して各種の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0083】
10 制御部
15 不揮発性メモリ
20 無線通信装置
100 送信アンテナ
101 高周波電力増幅器
102 ドライバアンプ
103 検波器
104 直交変調器
105 送信系可変利得増幅器
106 DAC
107 90度移相器
108 発振器
109 90度移相器
110 受信アンテナ
111 低雑音増幅器
112 直交復調器
113 スイッチ
114 受信系可変利得増幅器
115 ADC
125 電源電圧調整回路
126 電流調整回路
200 正相入力ゲート端子
201 反転入力ゲート端子
202 出力整合容量
203 トランス
204 カプラ
205 出力端子
206 カプラ出力端子
207 トランジスタ
208 トランジスタ
209 反転ドレイン出力端子
210 正相ドレイン出力端子
211 トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6