(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5829971
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】連続鋳造用の振動鋳型、これが備えるコイルバネのプリセット力の設定方法及び連続鋳造におけるブレークアウトの防止方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20151119BHJP
B22D 11/053 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
B22D11/16 105
B22D11/053 B
B22D11/16 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-107935(P2012-107935)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-233573(P2013-233573A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390022873
【氏名又は名称】NSプラント設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】東 博文
(72)【発明者】
【氏名】宮下 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】野口 晴道
(72)【発明者】
【氏名】福岡屋 俊郎
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/010762(WO,A1)
【文献】
特開昭57−127549(JP,A)
【文献】
特開昭60−148645(JP,A)
【文献】
特開昭57−190760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/053,11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型本体及びこれが載置される振動テーブルを有する振動体と、前記振動体を保持する板バネ及びコイルバネ並びに前記振動体を上下振動させるアクチュエータを有するモールド振動装置とを備えた連続鋳造用の振動鋳型において、前記板バネは振動しない外部と前記振動体とを接続しており、
前記振動体に対して鉛直上向きの力を付与する前記コイルバネのプリセット力を下記式(1)で表される条件を満たすように設定することを特徴とするプリセット力の設定方法。
FSO<(−Maω2sinωt)+a×(Kisinωt+Kbarsinωt)+F1−F3+Mg ・・・(1)
(1)式中の記号は以下のパラメータをそれぞれ示す。
FSO:コイルバネのプリセット力(N);
M:振動体の質量(kg・sec2/mm);
a:振動体の鉛直方向の振幅(mm);
ω:振動の角速度(rad/sec);
Ki:コイルバネのバネ定数(N/mm);
Kbar:板バネのバネ定数(N/mm);
t:時間(sec);
F1:鋳片から振動体に作用する摩擦力(N);
F3:冷却水から振動体に作用する押上力(N);
g:重力加速度(mm/sec2)。
【請求項2】
鋳型本体及びこれが載置される振動テーブルを有する振動体と、前記振動体を保持する板バネ及びコイルバネ並びに前記振動体を上下振動させるアクチュエータを有するモールド振動装置とを備えた連続鋳造用の振動鋳型において、前記板バネは振動しない外部と前記振動体とを接続しており、
前記振動体に対して鉛直上向きの力を付与する前記コイルバネのプリセット力を下記式(1)で表される条件を満たすように設定することを特徴とするブレークアウトの防止方法。
FSO<(−Maω2sinωt)+a×(Kisinωt+Kbarsinωt)+F1−F3+Mg ・・・(1)
(1)式中の記号は以下のパラメータをそれぞれ示す。
FSO:コイルバネのプリセット力(N);
M:振動体の質量(kg・sec2/mm);
a:振動体の鉛直方向の振幅(mm);
ω:振動の角速度(rad/sec);
Ki:コイルバネのバネ定数(N/mm);
Kbar:板バネのバネ定数(N/mm);
t:時間(sec);
F1:鋳片から振動体に作用する摩擦力(N);
F3:冷却水から振動体に作用する押上力(N);
g:重力加速度(mm/sec2)。
【請求項3】
鋳型本体及びこれが載置される振動テーブルを有する振動体と、前記振動体を保持する板バネ及びコイルバネ並びに前記振動体を上下振動させるアクチュエータを有するモールド振動装置とを備えた連続鋳造用の振動鋳型であって、前記板バネは振動しない外部と前記振動体とを接続しており、
前記振動体に対して鉛直上向きの力を付与する前記コイルバネのプリセット力が下記式(1)で表される条件を満たすように設定されていることを特徴とする振動鋳型。
FSO<(−Maω2sinωt)+a×(Kisinωt+Kbarsinωt)+F1−F3+Mg ・・・(1)
(1)式中の記号は以下のパラメータをそれぞれ示す。
FSO:コイルバネのプリセット力(N);
M:振動体の質量(kg・sec2/mm);
a:振動体の鉛直方向の振幅(mm);
ω:振動の角速度(rad/sec);
Ki:コイルバネのバネ定数(N/mm);
Kbar:板バネのバネ定数(N/mm);
t:時間(sec);
F1:鋳片から振動体に作用する摩擦力(N);
F3:冷却水から振動体に作用する押上力(N);
g:重力加速度(mm/sec2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用の振動鋳型、これが備えるコイルバネのプリセット力の設定方法及び連続鋳造におけるブレークアウトの防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造に使用される鋳型(モールド)は、内面に溶鋼が焼き付くのを防止するため、操業中はモールド振動装置によって所定のストローク及びサイクルで上下振動させる必要がある。下記特許文献1には、鋳型本体を上下振動させるときの振動重量を低減して振動駆動装置の負担を軽減する技術が開示されている。具体的には、電磁ブレーキ装置を備える連続鋳造用鋳型において、電磁ブレーキ装置の構成(コア、コイル及びヨーク)から独立して鋳型本体が上下振動する鋳型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−177753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モールド振動装置は、全体の重量が50トン以上にも及ぶ振動テーブル及びこれに載置される鋳型本体(以下、これらを合わせて「振動体」という。)を、例えば、2〜10mmのストロークであり且つ50〜300回/分のサイクルで上下振動させる必要がある。上下振動の発生源としては、通常、油圧シリンダからなるアクチュエータが使用される。しかし、アクチュエータのみで上記重量の振動体を高速で上下振動させようとした場合、推力が極めて大きく高価なアクチュエータを採用する必要がある。本発明者らはアクチュエータの必要推力を低減するため、アクチュエータとコイルバネとを併用する技術を検討している。コイルバネによるアクチュエータ推力低減の原理は、振動体に対して鉛直下向きに加わる力(例えば、振動体の自重)の一部をコイルバネのバネ力(プリセット力)によって支えるものである。
【0005】
必要最低限の推力を有するアクチュエータを使用してコスト削減をするという観点からは、振動体の自重の全てをバネ力で支持することが最も望ましい。しかし、本発明者らはコイルバネのプリセット力を振動体の自重に極力近づけて連続鋳造を実施したところ、振動体を上下振動させたときに異音が発生し、これに起因して振動波形の乱れが生じる場合があることが判明した。振動波形の乱れによって鋳型本体に横振れが生じたり衝撃が加わったりすると、連続鋳造の操業中にブレークアウトが生じるおそれがある。ブレークアウトとは鋳片表面の凝固箇所が破れて内部の溶鋼が流出する現象をいい、連続鋳造における重大トラブルの一つである。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、アクチュエータ及びコイルバネを備えた振動鋳型を用いて連続鋳造を行うに際し、ブレークアウトを十分に抑制でき且つアクチュエータに要するコストを削減するのに有用なプリセット力の設定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記方法によってコイルバネのプリセット力が設定されている振動鋳型を提供するとともに、ブレークアウトの防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述のように、コイルバネのプリセット力を振動体の自重に極力近づけて連続鋳造を実施した際、異音及び振動波形の乱れが生じる原因について検討したところ、以下の事実を突き止めた。すなわち、振動体の1回の上下動(1サイクル)において、アクチュエータに対して鉛直下向きに加わる負荷が0以下の値となる振動条件としたとき、上記のような振動波形の乱れが発生することが判明した。アクチュエータに加わる負荷が0以下となると、微小な時間の中で振動体がアクチュエータの動きに追従せず、浮き上がった状態になる。これにより、振動機構又は振動体の連結部に隙間が生じ、その後、再びアクチュエータに加わる負荷がプラスになってこの隙間が消失する際に部材同士が衝突して異音が発生すると推察される(
図2(b)の隙間G参照)。かかる知見に基づき、本発明者らは以下の発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下のコイルバネのプリセット力の設定方法を提供する。すなわち、本発明に係るプリセット力の設定方法は、鋳型本体及びこれが載置される振動テーブルを有する振動体と、この振動体を保持する板バネ及びコイルバネ並びに振動体を上下振動させるアクチュエータを有するモールド振動装置とを備えた連続鋳造用の振動鋳型において、
板バネは振動しない外部と振動体とを接続しており、振動体に対して鉛直上向きの力を付与するコイルバネのプリセット力を下記式(1)で表される条件を満たすように設定することを特徴とする。
F
SO<(−Maω
2sinωt)+a×(K
isinωt+K
barsinωt)+F
1−F
3+Mg ・・・(1)
(1)式中の記号は以下のパラメータをそれぞれ示す。
F
SO:コイルバネのプリセット力(N);
M:振動体の質量(kg・sec
2/mm);
a:振動体の鉛直方向の振幅(mm);
ω:振動の角速度(rad/sec);
K
i:コイルバネのバネ定数(N/mm);
K
bar:板バネのバネ定数(N/mm);
t:時間(sec);
F
1:鋳片から振動体に作用する摩擦力(N);
F
3:冷却水から振動体に作用する押上力(N);
g:重力加速度(mm/sec
2)。
【0009】
上記のプリセット力の設定方法によれば、振動体を下方から支持するアクチュエータに対して常に鉛直下向きに負荷が加わることとなる。これにより、アクチュエータから振動体が浮き上がることに起因する振動波形の乱れを十分に防止できる。なお、振動波形の乱れ、特に鋳型の横振れはブレークアウトの原因となる。このため、通常、鋳型の横方向の振幅は0.2mm以内とすることが好ましい(
図4参照)。また、板バネは振動体の横振れを防止する役割を担うものである。本発明においては、板バネと適切なプリセット力が設定されたコイルバネとを併用することで、振動体の横振れをより一層高度に抑制でき、ブレークアウトの発生を十分に防止できる。
【0010】
本発明は、以下のブレークアウトの防止方法を提供する。すなわち、本発明に係るブレークアウトの防止方法は、鋳型本体及びこれが載置される振動テーブルを有する振動体と、この振動体を保持する板バネ及びコイルバネ並びに振動体を上下振動させるアクチュエータを有する振動装置とを備えた連続鋳造用の振動鋳型において、
板バネは、振動しない外部と振動体とを接続しており、振動体に対して鉛直上向きの力を付与するコイルバネのプリセット力を上記式(1)で表される条件を満たすように設定することを特徴とする。
【0011】
上記のブレークアウトの防止方法によれば、振動体を下方から支持するアクチュエータに対して常に鉛直下向きに負荷が加わることとなる。これにより、アクチュエータから振動体が浮き上がることに起因する振動波形の乱れを十分に防止でき、ブレークアウトの発生を十分に防止できる。
【0012】
本発明は、以下の連続鋳造用の振動鋳型を提供する。すなわち、本発明に係る連続鋳造用振動鋳型は、鋳型本体及びこれが載置される振動テーブルを有する振動体と、この振動体を保持する板バネ及びコイルバネ並びに振動体を上下振動させるアクチュエータを有する振動装置とを備え、
板バネは振動しない外部と振動体とを接続しており、振動体に対して鉛直上向きの力を付与するコイルバネのプリセット力が上記式(1)で表される条件を満たすように設定されていることを特徴とする。
【0013】
上記の振動鋳型によれば、振動体を下方から支持するアクチュエータに対して常に鉛直下向きに負荷が加わることとなる。これにより、アクチュエータから振動体が浮き上がることに起因する振動波形の乱れを十分に防止でき、ブレークアウトの発生を十分に防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アクチュエータ及びコイルバネを備えた振動鋳型を用いて連続鋳造を行うに際し、ブレークアウトを十分に抑制でき且つアクチュエータに要するコストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る振動鋳型を備える連続鋳造設備の一例を示す模式図である。
【
図2】コイルバネのプリセット力が過大であり振動機構内に隙間が発生するケースを示す図である。
【
図3】コイルバネのプリセット力が適正であり振動機構内に隙間が発生しないケースを示す図である。
【
図4】(a)は鋳型に横振れが生じている場合の振動波形を示すグラフであり、(b)は適正な振動波形を示すグラフである。
【
図5】振動体の1回の上下動において振動体に作用する力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1に示す連続鋳造設備100は、スラブ用垂直曲げ型のものであり、溶鋼鍋1と、タンディッシュ2と、振動鋳型10とを備える。振動鋳型10から引き出された鋳片5はガイドロール(図示せず)によってガイドされながら徐々に冷却される。
【0018】
振動鋳型10は、鋳型本体11と、鋳型本体11が載置される振動テーブル12と、振動テーブル12の下方に配置されたコイルバネ14と、振動体(鋳型本体11及び振動テーブル12)の振動動作を安定化させるための板バネ15と、振動体を振動させる油圧アクチュエータ(モールド振動装置)16とを備える。
【0019】
鋳型本体11はタンディッシュ2からの溶鋼が注がれ、側面が凝固した鋳片5が底から引き出される。鋳型本体11の下方には冷却水を供給するための配管(図示せず)が接続されており、鋳型本体11の内面11aをなす銅板を冷却できるようになっている。振動テーブル12は、特に図示しないが鋳型本体11に冷却水を供給するための配管等が設けられている。
【0020】
コイルバネ14は、総重量が50トン以上にも及ぶ振動体を保持するためのものである。コイルバネ14が振動体の重量の一部を負担することで、油圧アクチュエータ16にかかる負担を軽減できる。なお、板バネ15は、振動体を振動させた際のガタツキを抑制し、振動動作を安定させるためのものであり、
図1に示すように振動しない外部と振動体とを接続している。
【0021】
油圧アクチュエータ16は、振動体を上下振動させるためのものであり、振動テーブル12の下方に配置されている。油圧アクチュエータ16は、振動テーブル12の下面に設けられたジョイント部12aに延びるシャフト16aを有する。シャフト16aの先端はジョイント部12a内に収容されているものの固定されてはおらず、回転自在となっている。なお、振動体を上下振動させることができる構成であれば、油圧アクチュエータ16の位置及び振動を振動体に伝える機構は上記のものに限定されるものではない。
【0022】
コイルバネ14のバネ力は、振動体の上下動サイクルにおいて、油圧アクチュエータ16のシャフト16aに加わる負荷が0以下とならないように設定される。言い換えると、コイルバネ14のプリセット力は、振動体の上下動サイクルにおいて、コイルバネ14が圧縮される方向の力が加わるように設定される。
【0023】
図2に示すモデルのように、コイルバネ14のプリセット力が過大であると、振動体が上昇から下降の動きに反転した後に、振動体が浮き上がってジョイント部12a内に隙間Sが生じる。その後、再び振動体が降下するとジョイント部12a内においてジョイント部12aの内面とシャフト16aの先端が衝突する。これらの部材の衝突による衝撃は、振動体の振動波形の乱れを招来してブレークアウトの原因となる。
図4(a)は鋳型に横振れが生じている場合の振動波形の一例を示すグラフである。ブレークアウトを防止するためには鋳型の横方向の振れを0.2mm以内とすることが望しいところ、このグラフに示すケースではこれを超える横振れが生じている。
【0024】
これに対し、
図3に示すモデルは、コイルバネ14のプリセット力が適切であり、振動体の上下動サイクルにおいて振動機構内に隙間Sが生じていない場合を示したものである。
図4(b)は適正な振動波形を示すグラフであり、鋳型の横方向の振幅が0.2mm以内に収まっている。
【0025】
本実施形態においては、コイルバネ14のプリセット力を適切なものとするため、以下の式(1)で表される条件を満たすようにコイルバネ14を選択すればよい。
F
SO<(−Maω
2sinωt)+a×(K
isinωt+K
bar×sinωt)+F
1−F
3+Mg ・・・(1)
(1)式中の記号は以下のパラメータをそれぞれ示す。
F
SO:コイルバネのプリセット力(N);
M:振動体の質量(kg・sec
2/mm);
a:振動体の鉛直方向の振幅(mm);
ω:振動の角速度(rad/sec);
K
i:コイルバネのバネ定数(N/mm);
K
bar:板バネのバネ定数(N/mm);
t:時間(sec);
F
1:鋳片から振動体に作用する摩擦力(N);
F
3:冷却水から振動体に作用する押上力(N);
g:重力加速度(mm/sec
2)。
なお、上記パラメータのうち、ω、F1はいずれも時間の関数である。
【0026】
図5は、振動体の1回の上下動において振動体に作用する力の変化を示すグラフである。このグラフに示すとおり、振動体に対しては、振動体の慣性力、コイルバネ14による押し上げ力、鋳型本体11の内面11aと鋳片5の摩擦力、油圧アクチュエータ16による押し上げ力、及び、板バネ15による力が作用する。
図5のグラフでは、振動体が上限に達した後、下降し始めて振動体の速度(モールド速度V
Z)と、鋳片5の引き出し速度(鋳造速度V
C)とが同じになったときに油圧アクチュエータ16による押し上げ力(油圧アクチュエータ負荷)が最小になることを示している。つまり、上記式(1)は、コイルバネ14のプリセット力の上限値に関し、油圧アクチュエータ負荷が常に0を超えるようにコイルバネ14のプリセット力を設定すべきことを意味する。
【0027】
コイルバネ14のプリセット力の下限値は振動体重量(M×g)の10%程度であることがより好ましい。例えば、コイルバネ14のプリセット力を振動体重量(M×g)の5%程度とした場合、大きな推力を有する高価な油圧アクチュエータ16を使用する必要があり、コストが増大する傾向となる。
【0028】
なお、上記のモールド速度V
Zと鋳造速度V
Cが同一となる位相角度をθ(degree)とすると、ωtは下記式(2)で表される。
V
Z=a×ω×cos(ωt)=−V
C
したがって、ωt=arccos((−V
C)×1000/(a×f×2π))…(2)
ここで、ωt=θ°×π/180、ω=f/60×2π、f:振動数(cpm)、V
Z:モールド速度(mm/sec)、V
C:鋳造速度(mm/sec)である。
【0029】
本実施形態に係るプリセット力の設定方法によれば、振動体を下方から支持する油圧アクチュエータ16に対して常に鉛直下向きに負荷が加わることとなる。これにより、油圧アクチュエータ16から振動体が浮き上がることに起因する振動波形の乱れを十分に防止できる。特に、近年、連続鋳造設備の操業は鋳片表面品質の向上(オシレーションマーク低減)の観点から、大重量の電磁力利用装置を装備した鋳型を使用した操業方法が指向されている。本実施形態によれば、大重量の振動体をショートストロークであり且つハイサイクルの条件で振動させても、ブレークアウトの発生を十分に抑制できる。本実施形態においては振動体の重量は、例えば10〜100トンであってもよく、60〜100トンであってもよい。振動ストロークは例えば5〜10mmとすることができる。振動サイクルは例えば50〜300回/分であってもよく、150〜300回/分であってもよい。
【0030】
上記実施形態に係る連続鋳造用の振動鋳型10によれば、油圧アクチュエータ16に対して常に鉛直下向きに負荷が加わることとなる。これにより、油圧アクチュエータ16から振動体が浮き上がることに起因する振動波形の乱れを十分に防止でき、ブレークアウトの発生を十分に防止できる。
【0031】
上記実施形態によれば、ブレークアウトの防止方法が提供される。すなわち、実施形態に係るブレークアウトの防止方法は、振動鋳型10において振動体(鋳型本体11及び振動テーブル12)に対して鉛直上向きの力を付与するコイルバネ14のプリセット力を上記式(1)で表される条件を満たすように設定することを特徴とする。このブレークアウトの防止方法によれば、油圧アクチュエータ16に対して常に鉛直下向きに負荷が加わることとなる。これにより、油圧アクチュエータ16から振動体が浮き上がることに起因する振動波形の乱れを十分に防止でき、ブレークアウトの発生を十分に防止できる。
【符号の説明】
【0032】
5…鋳片、10…振動鋳型、11…鋳型本体、12…振動テーブル、14…コイルバネ、15…板バネ、16…油圧アクチュエータ(モールド振動装置)、100…連続鋳造設備、G…隙間。