【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、前記課題を解決するため、CaO成分を含む耐火物において、粒子保護による新規な水和反応防止技術により耐消化性を改善した。また、本発明では、高膨張特性を示すCaO、MgO、特にCaOを含有した耐火性粒子の周りに一定の空隙層を形成することにより、耐火物の熱膨張率を著しく低減した。そして、本発明では、これらの要素技術を鋳造用ノズルへ適用することにより、従来では実現できなかった、水和反応を起こし難く、予熱、鋳造時の熱衝撃や押し割りによる破壊の危険が少なく、しかも製造しやすい鋳造用ノズルの提供を可能とした。言い換えると、鋳造中の鋳造用ノズル内孔面等への溶鋼由来のアルミナ等介在物の付着を高度に低減することができ、かつ、製造、保管、使用の全てにおいて、非水和性の成分から構成される鋳造用ノズルと同等の容易さや取り扱いが可能な鋳造用ノズルの提供を可能とした。
【0018】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)の耐火物、及び(5)〜(9)の鋳造用ノズルである。
【0019】
(1)CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含む耐火物であって、
1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5、及びSiO
2から選択する1種又は2種以上の金属酸化物を合計で0.1質量%以上5.0質量%以下、フリーの炭素を2質量%以上35質量%以下含有し、残部がCaOとMgOとを含み、その質量比(CaO/MgO)が0.1以上1.5以下であり、
かつ、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の試料について室温での顕微鏡観察で、前記CaO成分を含む耐火性粒子の少なくともCaO表面に、CaOと前記B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5及びSiO
2から選択する1種又は2種以上の金属酸化物とからなる0.1μm以上25μm以下の厚さの無機質被膜が形成されている耐火物。(請求項1)
(2)炭酸カルシウムの分解温度以上の熱処理を受けていない状態において、CaCO
3を0.1質量%以上2.5質量%未満含有する(1)に記載の耐火物。(請求項2)
(3)1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の試料について室温での顕微鏡観察において、その顕微鏡観察視野中のCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含む耐火性粒子のうち最大径粒子の両側に存在する炭素質マトリックスとの界面における空隙の合計厚みが、当該粒子サイズの0.1%以上3.0%以下である(1)又は(2)に記載の耐火物。(請求項3)
(4)SiC、Si
3N
4、ZrO
2及び金属Siから選択する1種又は複数種を更に含有し、
各含有量は、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、SiC、Si
3N
4についてはいずれか一方又は両方の合計で20質量%以下、ZrO
2については5質量%以下、金属Siについては2質量%以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の耐火物。(請求項4)
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が、溶鋼と接触する部位の一部又は全部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置されている鋳造用ノズル。(請求項5)
(6)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、前記複数の層が相互に直接接触した状態で一体構造とされている鋳造用ノズル。(請求項6)
(7)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、
更に、前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層との間に、炭素含有量が90質量%以上で厚さが0.1mm以上3mm以下のシート状の層が配置されており、前記の溶鋼に接触する面に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、相互に接触しない状態で一体構造とされている鋳造用ノズル。(請求項7)
(8)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、
更に、前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、溶鋼温度にて溶融による流下を生じない成分からなるモルタルにて接着されており、前記の溶鋼に接触する面に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、前記のモルタル層により相互に接触しない状態で保持された構造とされている鋳造用ノズル。(請求項8)
(9)内孔部の一部にガス吹き込み用の耐火物からなる層を備えた、請求項5から8のいずれかに記載の鋳造用ノズル。(請求項9)
【0020】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0021】
まず、本発明の耐火物の化学成分について説明する。
【0022】
本発明は、CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含む耐火物であって、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、(CaO/MgO)質量比が0.1以上1.5以下であって、CaOとMgOを合計で60質量%以上97.9質量%以下、B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5及びSiO
2から選択する1種又は2種以上の金属酸化物を合計で0.1質量%以上5質量%以下、フリーの炭素を2質量%以上35質量%以下含有することを特徴とする。
【0023】
ここで、前記の化学成分を「1000℃の非酸化雰囲気で加熱後」で特定する目的は、耐火物中の水分、有機物、水和物、炭酸化合物からの揮発性成分の除去、及び有機系バインダー成分の炭素化を促進して成分的な定常状態を得るためであり、800℃以上の温度であれば前記要求を満たすものであるが、耐火物中の化学成分の安定化による分析精度の向上を図るため、すなわち、当該耐火物成分中、特に樹脂成分の揮発性成分の飛散が収まりかつ1000℃を超える温度での化学反応による新たな物質生成をさせないために1000℃と規定するものである。この点から、加熱時間は加熱による重量変化がなくなるまでの間とする(以下同じ)。この目的に合致する1000℃の非酸化雰囲気での加熱方法の具体例としては、コークスなど炭素質原料で充填されたサヤ中での焼成法や酸素濃度が0.1%以下に調整された窒素若しくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気内で、1000℃にて1時間〜3時間程度保持する方法を採ることができる。雰囲気、保持時間、試料の大きさ等の具体的な条件は、前述の目的に合致するように任意に選択し、決定することができる。
【0024】
また、本発明において「フリーの炭素」とは、B
4C、SiCなどの炭化物を除き、各種の有機質バインダー、ピッチ、タール、カーボンブラックが非酸化雰囲気1000℃で加熱を受けることにより生成した炭素質成分及び黒鉛などの結晶性炭素等の粒子状(繊維状を含む)の炭素をいう。以下では、「フリーの炭素」を単に「炭素」という。
【0025】
本発明では、後述する溶鋼流速下での耐火物へのアルミナ付着現象を再現した評価方法(溶鋼中回転試験)による知見に基づき、本発明の耐火物の最適化学成分(組成)を特定した。耐火物中のCaOは、溶鋼中のアルミナとの反応に寄与しスラグ組成物を作る成分であり、一方、MgOは、スラグ組成物の耐火性を調整し耐食性を付与する成分である。前記評価方法による検討の結果、(CaO/MgO)質量比及び炭素含有量が、耐火物のアルミナ難付着性及び耐食性(耐溶損性)に大きく影響及ぼすことが判明した。すなわち、(CaO/MgO)質量比については、その質量比で0.1以上1.5以下の範囲が、アルミナ難付着性と耐溶損性のバランスがとれる良好な範囲となる。(CaO/MgO)の質量比が0.1未満であると耐火物−溶鋼界面でCaO−Al
2O
3系スラグ組成物を作るCaOの絶対量が不足するため、溶損量は少ないものの、アルミナ付着が増加する傾向となる。逆に、(CaO/MgO)の質量比が1.5より大きいと、過剰にCaO−Al
2O
3系融液が生成するために溶損量が増加する傾向となり、結果として、鋼中介在物が増え鋳片品質上問題となる。
【0026】
更に、炭素含有量が2質量%以上35質量%以下、B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5及びSiO
2から選択する1種又は2種以上の金属酸化物の合計含有量が0.1質量%以上5.0質量%以下で、残部がCaOとMgOの組成、すなわちCaOとMgOの合計が60質量%以上97.9質量%以下の組成範囲とすることで、難付着性、並びに機械的及び熱的な品質を良好な範囲とすることができる。炭素の作用の一つは、粒子間をつなぐ炭素質のボンドの形成にある。このボンドを形成する炭素源(「ボンドを形成する炭素源」を、以下、「バインダー炭素」ともいう。)としては、液状原料として耐火物組織内に分散した後に非酸化雰囲気焼成後で炭素を残留する、いわゆる炭素系バインダーの使用が可能である。機械的強度、加工性及び耐熱衝撃性を確保するため、これらのバインダー炭素と共に粒子状(繊維状を含む)の炭素質原料の使用が可能である。バインダー炭素/バインダー炭素を除く炭素質原料の質量比で10/90以上90/10以下の範囲で使用することで、耐火物としての収縮を抑制し、機械的強度や耐熱衝撃性に優れた材質とすることが可能である。
【0027】
炭素の他の作用は、組織内をCO雰囲気化することにあり、後述するように、比較的蒸気圧が高い酸化物成分の組織内での移動を容易にする作用がある。炭素含有量を2質量%以上35質量%以下の範囲とした理由は、耐火物中の炭素含有量が2質量%未満であると、粒子間を結合するボンド成分が少なく強度が低下するため、耐火物の品質が低下し、適用可能な部位に制限が加わる。一方、炭素含有量が35質量%より多いと強度、耐熱衝撃性の面で有利である反面、耐火物の溶損量が増加して鋳片品質が低下する問題が生じるためである。
【0028】
前述のとおり、炭素含有量がCaO及びMgO含有耐火物の諸物性、性質に大きな影響を及ぼすことから、炭素含有量を2質量%以上35質量%とした上で、その残部につき、CaO粒子の高い耐消化性等を得るためのB
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5及びSiO
2から選択する1種又は2種以上の金属酸化物の合計含有量0.1質量%以上5.0質量%以下を決定し、これらの残部を、CaO及びMgOとする。したがって、CaO及びMgOの合計の含有量は、60質量%以上97.9質量%以下となる。なお、当然ながら、アルカリ金属酸化物、鉄酸化物、酸化アルミニウムなどの不可避的不純物が含有されることはあり、その不可避的不純物の含有量は通常、2質量%以下である。
【0029】
ところで、前述した化学成分の耐火物は、極めて優れたアルミナ付着防止効果を奏するが、その製造過程や輸送段階、客先での保管時やセット作業時に水分と接触することを皆無にすることは困難であって、その際にCaOの水和反応を生じる危険性を伴う。
【0030】
そこで、前述した課題である、耐火物内のCaOの水和による製造段階及び保管時、並びに操業段階での消化問題を長期間高度に又は確実に防止することが必須の技術となる。以下、その水和防止技術について述べる。
【0031】
CaOは、周知のように下記反応により水和反応が容易に進行する。
CaO+H
2O=Ca(OH)
2
この反応において標準生成自由エネルギーΔG゜は、−57.8kJ/mol(T=298K)である。
【0032】
前述したように、CaOの水和を防止するには、主に、クリンカー中のCaOの活量を下げ、CaOを不活性化させる方法の追求、あるいは、CaOを含む粒子表面に、少なくとも最終製品段階で、緻密で安定な水成分不透過性の被膜形成の追求が行われてきた。前者の手法として、TiO
2など金属酸化物との化合物化手法にて対応がとられてきたが、CaOを不活性化するためにそれらを過剰に添加し化合物化せねばならず、その結果、CaO自体の反応性に寄与する活性、いわゆるCaOの活量が著しく低下し、鋼中アルミナ介在物との反応性が著しく低下し閉塞防止効果の点で問題を生じる。更に化合物化により低融点化を招きやすい。また、クリンカーの水和防止機能も十分とは言い難い。また、後者の手法は、極めて薄い(0.05〜4μm)炭酸化被膜であったり、油分系の被膜であったりするので、耐火物の製造プロセス、特に耐火物原料の混練、熱処理、加工プロセスにて被膜の一部又は全部が破れたり消失したりして、十分な耐消化性が発揮できていない。
【0033】
本発明者らは、これらの問題点を本質的に解決するために鋭意検討し、その結果、成形後の炭素を有する耐火物組織内に、B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5及びSiO
2から選択する1種又は2種以上の金属酸化物を、1000℃非酸化雰囲気での加熱処理後の耐火物内の含有量に換算した値で0.1質量%以上5.0質量%以下になる量で分散させ、成形後の熱処理プロセス、具体的には800℃以上の非酸化雰囲気下で熱処理を施すことで、これらの金属酸化物とCaOとを接触反応させ、CaO表面に選択的に、熱力学的に水和しない安定な無機質被膜を形成できるとの知見を得、本発明を完成させた。なお、本発明での無機質被膜には化合物層の他に、固溶体層、非晶質層も含まれる。
【0034】
本発明におけるCaO表面に形成する無機質被膜(化合物)の例は、次のとおりである。
【0035】
3CaO・B
2O
3(+32.0kJ/mol)、2CaO・B
2O
3(+44.1kJ/mol)、CaO・B
2O
3(+82.4kJ/mol)
3CaO・2TiO
2(+12.4kJ/mol)、4CaO・3TiO
2(+16.8kJ/mol)、CaO・TiO
2(+24.4kJ/mol)
3CaO・V
2O
5(+52.9kJ/mol)、2CaO・V
2O
5(+74.6kJ/mol)、CaO・V
2O
5(+88.2kJ/mol)
3CaO・P
2O
5(+236kJ/mol)、2CaO・P
2O
5(+280.7kJ/mol)
【0036】
なお、( )内には各化合物の水和反応時の自由エネルギー変化(ΔG、at298K)を示した。これらの無機化合物は、いずれもΔGがプラスであるため水和反応は起こらないことを示している。
【0037】
一方、SiO2系化合物については、下記のようになっている。
3CaO・SiO
3(−17.5kJ/mol)、2CaO・SiO
2(+3.3kJ/mol)、CaO・SiO
2(+33.9kJ/mol)
【0038】
前記の3CaO・SiO
3の化合物は水和反応が起こり得ることを示しているが、前記に示したCaOとの安定性が高い成分(B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5)との併用や、後述の被膜中のCaOとの反応によって生じる炭酸カルシウムの生成、すなわちCO
2による被膜中のフリーCaOの固定化により、SiO
2成分を含む無機質被膜でも極めて耐消化性に優れた被膜をとして安定化できることを本発明者らはみいだした。
【0039】
炭素を含有する耐火物内部では酸素分圧が低い状態であるため、蒸気圧の高い酸化物は組織中でガス成分として充満しやすく、ガス成分が組織中のCaOを含有する粒子表面で選択的に反応して、無機質被膜をつくる。あるいは液相状態又は固体状態でCaO成分と直接接触することで、同様の無機質被膜を生成する。本発明で使用する金属酸化物の融点は、P
2O
5:約350℃(昇華)、B
2O
3:約450℃、V
2O
5:695℃、SiO
2:1710℃、TiO
2:1870℃である。このうち、P
2O
5、B
2O
3及びV
2O
5は特に融点が低く蒸気圧が高いため、本発明においてCaO表面に無機質被膜を形成するには特に好適な金属酸化物である。
【0040】
一方、SiO
2及びTiO
2は、B
2O
3及びV
2O
5等のようには融点が低くなく、蒸気圧が比較的低いため、一般的な1000℃近傍の熱処理温度域では、ガスや液体接触のような形でのCaOとの反応は期待できないが、CaOを含有する粒子表面に直接接触させる方法により、水和し難い無機質被膜の形成が可能となる。更に、B
2O
3、V
2O
5及びP
2O
5には、SiO
2及びTiO
2の反応性を高め、無機質被膜中のCaOの活量を低下させる作用があるので、SiO
2やTiO
2をB
2O
3V
2O
5やP
2O
5と併用することで、被覆性の高い良好な無機質被膜の形成を促進することが可能となる。
【0041】
以上のように、これらの金属酸化物は1種又は2種以上を使用することが可能である。そしてこれらの金属酸化物を合計で、耐火物中に0.1質量%以上5質量%以下となるように含有させることで、CaO表面に良好な無機質被膜を形成できる。含有量が0.1質量%より少ないと被膜が形成できず、5質量%より多いと被膜が厚くなりすぎ、被膜欠陥が発生しやすい。
【0042】
これらの金属酸化物とCaOとの反応によって生成した無機質被膜は、前述したように基本的に熱力学的にも安定で水和反応を起こさない。このため水分と接触してもそれ自体が変化せず安定である。無機質被膜の内側に存在する活性なCaOの水和反応を防止するためには、(イ)生成した無機質被膜が水分に対して安定であり、かつ(ロ)CaOを含む粒子の表面がこの安定な無機質被膜で被覆されていること、更に(ハ)この無機質被膜からなる被膜が多孔質でなく、亀裂や剥離のない無欠陥被膜であることが重要な要素となる。
【0043】
前記(イ)については、前述のとおり、本発明で生成する無機質被膜は、熱力学的に水和しないため安定である。前記(ロ)については、CaOを含有する粒子の少なくともCaO表面を、前述した方法により被覆できる。前記(ハ)の被膜の欠陥に対しては、生成する被膜厚さが重要となる。本発明で生成する各無機質被膜を使用して被膜厚さを検討した結果、耐消化性に優れかつ亀裂や剥離のない良好な被膜とするには、その厚さは0.1μm以上25μm以下であることが必要であり、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。被膜の厚さが0.1μm未満では、連続的な被覆層の生成が困難となり、被覆に連続性がなくなり耐消化性が低下する。また、被膜が25μmより厚いと粒子と被膜間の熱膨張率の違いから被膜の亀裂や剥離が発生しやすくなり、結果として耐消化性が低下する。
【0044】
前記(ハ)の被膜の無欠陥化に関しては、前述のとおり、被膜の厚さを0.1μm以上25μm以下とすることで耐消化性は大きく改善される。しかし、更に厳しい条件、例えば高温多湿で長期間放置されるような環境では、被膜に存在する微細な欠陥により水和反応が徐々に進行することがある。そこで、本発明者らが、厚さを特定するのに加え更に被膜を無欠陥化する手段を検討したところ、前述のとおりCaO表面に被膜を形成した耐火物を、炭酸カルシウム(CaCO
3)が分解する温度以下の380〜830℃の温度範囲内で炭酸ガスと反応させ、被膜中の欠陥を通して炭酸化処理をすることで、従来技術では到達できない極めて優れた耐消化性を得ることができることがわかった。耐消化性が著しく向上する理由は、高温で被膜の欠陥を通して侵入したCO
2の一部がCaO含有粒子表面で炭酸カルシウム膜を生成して消化を防止することに加えて、被膜を構成しているCaOの一部がCO
2と反応して被膜中の開口部や亀裂等の脆弱部分などを中心に炭酸カルシウムを生成し、被膜欠陥を消失させるためである。
【0045】
このように耐消化性を更に著しく改善するためには、炭酸ガスとの反応により生成したCaCO
3が耐火物中に0.1質量%以上2.5質量%未満存在する必要がある。CaCO
3量が0.1質量%より少ないとその効果が殆ど現れず、2.5質量%以上であると、鋳造前の予熱条件によっては予熱時や鋳造時にCO
2ガスの発生により鋳型中の溶鋼湯面レベルが大きく変動するボイリング現象や、注湯初期のスプラッシュなど操業上の問題が発生することがあるため好ましくない。
【0046】
以上のとおり、本発明では、CaOの水和を防止する方法として、炭素及びCaO、MgOを含有した耐火性粒子を含有する耐火物成形体を熱処理する過程で、B
2O
3、TiO
2、V
2O
5、P
2O
5及びSiO
2の単体又は2種以上がCaOを含有した耐火性粒子の少なくともCaO表面部で反応し、水和に対して安定な無機質被膜を形成する作用に着目して、熱処理により耐火物内部で水和を抑制可能なCaO系無機質被膜を形成させることで水和を抑制した。更に、生成した被膜中の欠陥に着目し、被膜厚さを適正な厚さに制御することに加えて、炭酸カルシウムの分解温度以下での高温域で、被膜を形成した耐火物を炭酸ガス中で熱処理することで、耐火物組織内部のCaO表面での被膜の無欠陥化を達成することが可能となった。このような要素技術を取り入れた結果、従来技術では達成困難なレベルで著しく耐消化性を改善することができた。このように、本発明は、CaO、MgOを含有した耐火性粒子を含有する耐火物成形体における、熱処理過程での反応を利用したものであって、耐火物組織を構成しているCaO、MgOを含有した耐火性粒子表面で、熱力学的に安定な無欠陥の無機質被膜からなる被膜を形成する技術である。この点で、本発明は、原料調製段階においてその原料粒子に被膜を形成する従来技術(この場合、その後消化防止効果が消失する可能性が高い)とは本質的に異なる。
【0047】
次に、CaO、MgOを含有した耐火性粒子を含む材質の熱膨張率を低減し、予熱、鋳造時の熱衝撃破壊や押し割りによる破壊の危険を低減する方法について説明する。
【0048】
CaOやMgOなどの塩基性材料は、イオン結合性が強いために他の耐火性粒子に比べて一般的に熱膨張量が大きい。塩基性の粒子を用いて結合剤成分や他の粒子と複合化した耐火物組織を考えた場合、高膨張な耐火性粒子(骨材)の存在割合に応じた形で、耐火物としての熱膨張量も一般に大きくなる。これは粒度が異なり、さまざまな種類の耐火性粒子を結合剤成分で固めている耐火物の熱膨張量が、それぞれの材質の体積分率に応じた熱膨張量の寄与度で全体の熱膨張量が決定されている、いわゆる加成則に従うためであると考えている。
【0049】
炭素含有系の耐火物組織は、一般に粒度の異なる耐火性粒子、炭素質マトリックス組織、組織中にランダムに存在する開孔気孔、及び粒子やマトリックスに閉じ込まれた密閉気孔などにより構成されている。本発明者らは、炭素並びに、CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子(高膨張粒子)を含有する耐火物組織における前記耐火物粒子周りの気孔形態に着目した。すなわち、高膨張粒子周囲の表面において、ある連続した空隙層を形成することで、高膨張粒子を含む耐火物の低膨張化が実現可能であることをみいだした。
【0050】
具体的には本発明では、製品段階の組織において、3次元的に連続した炭素質マトリックス中に存在する少なくとも炭素質マトリックスよりも高膨張な耐火性粒子が、炭素質マトリックスと高膨張粒子界面に、高膨張粒子を取り囲む形で所定の厚さの空隙層が形成された耐火物組織にする。
【0051】
本発明において、高膨張粒子の周りに所定の厚さの空隙層を形成する目的は、耐火物が予熱時や受鋼時あるいは冷却時に温度変化を受けた場合、組織内の高膨張粒子が膨張する際の膨張代をあらかじめその粒子の周りに形成することで、所定温度まで粒子の膨張を耐火物内部の粒子周りの空隙層で吸収し、耐火物としての熱膨張量を表に出さないことにある。この粒子周りの空隙層の存在により、耐火材料の熱膨張量を劇的に小さくすることが可能となる。
【0052】
熱膨張量の視点からは、耐火性骨材の周りの空隙層の厚さは厚いほどよく、また、炭素より熱膨張量の大きい全ての耐火粒子表面において空隙層を形成することが好ましい。しかしながら、耐火性粒子表面の空隙層の形成は材料強度を低下させる原因となるため、熱膨張量と強度とのバランスをとりながら空隙層の厚さを調整する必要がある。
【0053】
粒子周りの空隙層生成は、主に後述する耐火物製造プロセス過程における耐火物粒子表面での化学的な反応による。粒度分布を持つ塩基性原料粒子を考えた場合、空隙層は、粒子表面に予めあるいは耐火物組織中で水和物層等の被膜を生成させたのちに化学反応により生成するものであるため、基本的に耐火物組織の粒子表面全域で生成することになる。それ故、空隙層厚みと粒子サイズとの比率(粒子当たりの空隙層厚さ率:MS値(マイクロスペース値))を考えた場合は、大きな粒子ほどその比率は小さく、小さな粒子ほどその比率は大きくなることになる。したがって、粗大粒子のMS値を知ることは、耐火物組織での粒子1個当たりの空隙層厚さ率の下限値を知ることになり、組織中のMS値にておおよそ組織を評価することが可能となる。
【0054】
ここでいうMS値とは、粗大粒子径Dに対する粒子と炭素マトリックスとの間の空隙層厚さL(粒子両サイドでの空隙層厚さの合計をLとする)の比率であり、以下の式より求める。
MS=L/D×100(%)
【0055】
言い換えると前記MS値は、組織中の粒子の周りに存在する膨張代率の最低値を表す。本発明者らが行った、粒子表面の空隙層厚さ率MS値(%)の算出方法を以下に示す。耐火物の顕微鏡組織観察において、粒子径の大きい順に粗大粒子を10個選定し、個々の粒子に内接する円の中心を通る任意線を引く。更に、その線を基準として前記円の中心を通る45°ピッチの線を更に3本引き、計4本の線を粒子1個につき引く。その後、粒子の各ライン上で粒子の両端の輪郭点間の長さをD1、D2、D3、D4として、更に、各ライン上での両端部での粒子界面に存在する空隙層厚さの合計をそれぞれ、L1、L2、L3、L4として計測する。これらの4ラインで得られた数値を用いて、前記式によりMS1、MS2、MS3、MS4をそれぞれ算出し、それらの数値の平均値を1つの粒子の空隙層厚さ率MS値とする。予め選んでおいた10個の粒子のMS値をそれぞれ算出し、平均化して、組織のMS値を得る。
【0056】
なお、前記では、粒子径の大きい順に10個の粗大粒子のMS値を平均してMS値を求めるようにしたが、これは、顕微鏡観察視野中の最大径粒子のMS値を求めるため一つの方法である。すなわち、測定誤差を考慮して粒子径の大きい順に10個の粗大粒子のMS値を平均することで、顕微鏡観察視野中の最大径粒子のMS値とみなすようにしている(以下、この最大径粒子のMS値を単にMS値という。)。
【0057】
炭素含有耐火物での高膨張な塩基性原料と組み合わせた組織での低膨張化に関して鋭意検討した結果、低膨張化効果が現れ、強度面や耐食性面、耐摩耗性面でバランスのとれた粒子表面の空隙層の厚さは、最大粒子サイズの表面での空隙層厚さが粒子サイズの0.05%以上1.5%以下であることを本発明者らは確認している。粒子表面で両側2箇所の空隙層があるため、前記で示した、最大粒子径に対する両側での空隙層厚さの比率であるMS値で表現すると、0.1%以上3.0%以下のときに物性面で改善効果が認められる。
【0058】
たとえば、熱膨張量の視点からでは、CaO、MgOなどを含む塩基性原料(骨材粒子)の熱膨張率は、一般的に1500℃で2.0%以上である。仮に前記骨材が1500℃で2.4%膨張するとして、粒子を取り囲む炭素質マトリックス部の同温度での熱膨張率を0.4%と見積るとその差は2.0%となる。製鋼での鋳造温度は1500℃前後であるため、粒子の周りの空隙、すなわち粒子の膨張代が熱膨張差により消失するためには、空隙層の厚さ率は粒子サイズの2.0%以上あれば1500℃まで高膨張骨材は炭素質マトリックス部へ接触しないことになり、その結果、耐火物の1500℃までのマクロ的な熱膨張量は、カーボン質マトリックスの膨張量が支配的となり、従来の化学成分の加成則に依存しないことになり、顕著な低膨張特性を示すことが可能となる。従って、熱膨張量の視点から個々の粒子は、より多くの空隙層厚さ率(膨張代)を持つことで低膨張化が可能となる。更に、このような低膨張特性を顕著に出すためには、炭素質マトリックスが3次元的に連続することが必要であり、適用する粒子も微粉を多く含まない粒度分布とすることが望ましい。
【0059】
一方、機械的強度の視点からすると、粒子周りの空隙層の生成は強度を低下させる要因となり、溶鋼に対する耐食性や耐溶鋼摩耗性などを低下させる。これをペットボトルに例えると、ペットボトルが内容物で満たされている場合はペットボトルとしての構造体強度が得られるが、内容物で満たされていないペットボトルだと、外力を与えた場合座屈するなど強度低下する現象によく似ている。すなわち、耐火物粒子表面に過剰な空隙層がある場合では、内容物である耐火性粒子が、鋳造温度レベルでペットボトルに相当する周囲の炭素質隔壁(マトリックス)に対して適度な内圧を与え難く、炭素隔壁の補強強化が弱まり、極端な場合は炭素隔壁が変形により破損することで、材料強度が低減することになる。
【0060】
計算では前述したようにMS値は2.0%もあれば十分であるが、実際の耐火物組織では、これよりもやや大きなMS値(3.0%)まで強度と熱膨張率のバランスのとれた領域であった。MS値が3.0%を超えると、鋳造温度レベルでは、前述したような状況がミクロ組織中で、至る所で発生するため、マクロ的な材料強度を低下させ、耐食性や耐摩耗性などの物性を劣化させる。MS値が0.1%を下回ると、機械的強度は良好であるが、低膨張効果が得られない。
【0061】
以上のように耐火物組織中のCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子の周りに空隙層を形成することにより、前記耐火性粒子を含有する耐火物の熱膨張率を低減し、前記耐火性粒子の高膨張特性に起因する耐熱衝撃性における弱点を克服することが可能になるため、鋳造用ノズルを始めとして数々の用途への適用が可能となる。
【0062】
また、CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子周囲の空隙層の厚さは前記粒子自体の膨張により稼働温度域(約1500℃)では小さくなっており、この空隙が耐火物の耐食性等の低下を来す危険性はほとんどない。
【0063】
ところで本発明の耐火物は、アルミナを主とする溶鋼由来の酸化物等(いわゆる介在物)が鋳造中に耐火物表面に付着ないしは堆積することを抑制する機能を前提にしている。
【0064】
このような難付着性を、個別の操業条件等の要求に合致するように更に増大させるために、前記の耐火物中に更に、SiC及びSi
3N
4のいずれか一方又は両方を合計で20質量%以下(好ましくは0.5質量%以上20質量%以下)、又は金属Siを2質量%以下(好ましくは0.3質量%以上2質量%以下)含有させることができる。これらは併存させることもでき、言い換えると、SiC及びSi
3N
4のいずれか一方又は両方の合計含有量の最大値である20質量%と金属Si含有量の最大値である2質量%との合計量22質量%を最大含有量とし、残部が前記(1)〜(3)のいずれかに記す耐火物とすることができる。
【0065】
前述のとおり、耐火物中のCaO成分と鋼中のAlが析出して生じたAl
2O
3とが反応して耐火物界面でCaO−Al
2O
3系のスラグ層を生成する。Alキルド鋼でS(イオウ)を20ppm以上含む鋼、特に40ppm以上含む鋼では、この耐火物/溶鋼界面で生成するCaO−Al
2O
3系スラグ相の脱硫能により、スラグ層中に高融点の化合物CaSが生成する場合がある。特にCaSが層として生成する場合では、耐火物中のCaOの溶鋼方向への供給が絶たれ、耐火物界面でアルミナが付着する傾向となる。本発明者らは、スラグ相の脱硫能を低下させる作用を持つSiO
2系成分を鋳造中に継続的に供給可能な成分を本発明のCaO含有耐火物中へ含有させることにより、特に高濃度でS(イオウ)を含む鋼の耐火物表面へのアルミナ付着対策として有効であることを知見した。
【0066】
SiO
2成分の直接の耐火物中への添加は、耐火物中のCaOとの急速な低溶融化反応を惹き起こすため好ましくない。そのため、直接のSiO
2成分は消化防止被膜形成のためにのみ添加され、その添加量も5質量%以下に制限される。本発明では耐火物の低融化を惹き起こさず、溶鋼・耐火物界面で継続的にSiO
2成分を供給する供給源として、SiC、Si
3N
4成分の単体又は両方を耐火物中へ含有させる方法が最も好ましいことをみいだした。これらの成分は耐火物中の雰囲気との反応や鋼中酸素により酸化され、界面で生成するCaO-Al
2O
3系スラグ層中に継続的にSiO
2成分を供給する。
【0067】
この効果を得るためのSiC、Si
3N
4成分の最低含有量としては、鋼中のS(イオウ)の含有量にもよるが、その合計で0.5質量%以上であることが好ましい。また最大含有量は20質量%以下であることが好ましい。20質量%を超えると、SiC、Si
3N
4成分から供給されるSiO
2成分と耐火物中のCaO成分と鋼中のアルミナとの共存により低融化(液相量の増加)が促進され、鋳造用ノズルとして求められる耐用性を低下させる程度に、耐火物の耐食性が低下し、また鋼中への介在物量の増加も生じやすくなる。
【0068】
SiO
2源として、金属Siでも同様のアルミナ付着抑制効果が得られる。この場合は、金属Siは強度を高め熱衝撃性が低下させる等の弊害が生じるので、2質量%以下の含有量とすることが好ましい。
【0069】
一方、本発明の耐火物界面で生じるCaO−Al
2O
3系の融液は、溶鋼流との接触により容易に流下する。溶鋼に接触する耐火物面で、溶鋼流その他の局部的な条件の違いが耐火物の損傷を大きくすることもある。このような部分を保護するために、CaO−Al
2O
3系組成中にZrO
2成分を含有させることで、このCaO−Al
2O
3系組成による被膜の安定性を向上させることができ、前記の損傷を抑制する効果を得ることができることを本発明者らは知見した。特にCaO−Al
2O
3系にSiO
2成分を含む系ではZrO
2成分を含有させることが有効である。
【0070】
このようなCaO−Al
2O
3系又はCaO−Al
2O
3−SiO
2系被膜の安定化のためのZrO
2の含有量は、前記(1)〜(3)のいずれかの耐火物中に更に5質量%以下とすることが好ましい。ZrO
2の含有量は、溶鋼の温度、溶鋼中の介在物としてのAl又はアルミナ含有量等の個別の操業条件と耐火物成分とのバランスによって異なる、耐火物表面での低融物の生成程度等によって補助的に決定されるべきものである。したがって、ZrO
2の含有量は固定的なものではなく、個別の操業条件に応じて決定すればよい。しかし、5質量%を超えると、ZrO
2と耐火物中のCaO成分と鋼中のアルミナ、又はSiO
2との共存下でも低融化が抑制されて(液相量の低下)、被膜の粘性が高くなり、アルミナをはじめとする鋼中の介在物の耐火物表面への付着が促進される。言い換えると、ZrO
2の最大含有量を5質量%とし、残部が前記(1)〜(3)のいずれかに記す耐火物とすることができる。なお、ZrO
2の含有量の下限値は、CaO、MgO、Al
2O
3、SiO
2等の耐火物内の初期組成及び操業中に変化する組成によって異なる耐火物表面の軟化程度(液相量等)に応じて、その粘性を任意に意図する程度までに高めるのに必要な量を、個別・任意に決定すればよい。この点からZrO
2含有量の下限値を規定するのは必ずしも適切ではないが、概ね0.5質量%以上からZrO
2の効果が顕著に現れる。
【0071】
ZrO
2とSiC、Si
3N
4及び金属Siは併存させることができる。言い換えると、SiC及びSi
3N
4のいずれか一方又は両方の合計含有量の最大値である20質量%、金属Si含有量の最大値である2質量%、及びZrO
2含有量の最大値である5質量%との合計量27質量%を最大含有量とし、残部が前記(1)〜(3)のいずれかに記す耐火物とすることができる。