特許第5830108号(P5830108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5830108
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】耐火物及び鋳造用ノズル
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/06 20060101AFI20151119BHJP
   C04B 35/057 20060101ALI20151119BHJP
   C04B 35/043 20060101ALI20151119BHJP
   C04B 35/66 20060101ALI20151119BHJP
   B22D 41/54 20060101ALI20151119BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   C04B35/06 A
   C04B35/02 A
   C04B35/04 C
   C04B35/66 T
   B22D41/54
   B22D11/10 330T
【請求項の数】9
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2013-547237(P2013-547237)
(86)(22)【出願日】2012年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2012081101
(87)【国際公開番号】WO2013081113
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-263870(P2011-263870)
(32)【優先日】2011年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 勝美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 昭成
(72)【発明者】
【氏名】吉次 直美
(72)【発明者】
【氏名】李 玲
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−182253(JP,A)
【文献】 特開2010−167481(JP,A)
【文献】 特開2010−036229(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/018851(JP,A1)
【文献】 再公表特許第2004/082868(JP,A1)
【文献】 国際公開第2011/138831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/01 − 35/06
C04B 35/66
B22D 11/10
B22D 41/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含む耐火物であって、
1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、B、TiO、V、P5、及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物を合計で0.1質量%以上5.0質量%以下、フリーの炭素を2質量%以上35質量%以下含有し、残部がCaOとMgOとを含み、その質量比(CaO/MgO)が0.1以上1.5以下であり、
かつ、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の試料について室温での顕微鏡観察で、前記CaO成分を含む耐火性粒子の少なくともCaO表面に、CaOと前記B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物とからなる0.1μm以上25μm以下の厚さの無機質被膜が形成されている耐火物。
【請求項2】
炭酸カルシウムの分解温度以上の熱処理を受けていない状態において、CaCOを0.1質量%以上2.5質量%未満含有する請求項1に記載の耐火物。
【請求項3】
1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の試料について室温での顕微鏡観察において、その顕微鏡観察視野中のCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含む耐火性粒子のうち最大径粒子の両側に存在する炭素質マトリックスとの界面における空隙の合計厚みが、当該粒子サイズの0.1%以上3.0%以下である請求項1又は2に記載の耐火物。
【請求項4】
SiC、Si、ZrO及び金属Siから選択する1種又は複数種を更に含有し、
各含有量は、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、SiC、Siについてはいずれか一方又は両方の合計で20質量%以下、ZrOについては5質量%以下、金属Siについては2質量%以下である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の耐火物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の耐火物が、溶鋼と接触する部位の一部又は全部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置されている鋳造用ノズル。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、前記複数の層が相互に直接接触した状態で一体構造とされている鋳造用ノズル。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、
更に、前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層との間に、炭素含有量が90質量%以上で厚さが0.1mm以上3mm以下のシート状の層が配置されており、前記の溶鋼に接触する面に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、相互に接触しない状態で一体構造とされている鋳造用ノズル。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、
更に、前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、溶鋼温度にて溶融による流下を生じない成分からなるモルタルにて接着されており、前記の溶鋼に接触する面に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、前記のモルタル層により相互に接触しない状態で保持された構造とされている鋳造用ノズル。
【請求項9】
内孔部の一部にガス吹き込み用の耐火物からなる層を備えた、請求項5から8のいずれかに記載の鋳造用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として溶鋼の連続鋳造用、特にアルミキルド鋼の連続鋳造用の耐火物、及びその耐火物を使用した、ロングノズル、浸漬ノズル、スライディングノズル装置の上ノズルや下ノズルなどの鋳造用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼中のアルミナ系介在物は、溶鋼との物理的接触や化学的作用により耐火物表面に堆積する性質があり、その堆積物が成長して大型の介在物になり、それが溶鋼と共に鋳片内に取り込まれて鋳片の欠陥となり品質を低下させる。また、溶鋼中のアルミナ系介在物等が、例えば浸漬ノズルなどの鋳造用ノズルの内孔部や鋳型内での湯流れに大きな影響を及ぼす吐出孔部などに堆積し、その初期形状が変化してくると、鋳型内で溶鋼が均等に流れなくなり、いわゆる偏流により、モールドパウダーや気泡などを鋳片中へ巻き込み、品質を低下させることもある。そのため、近年、高級鋼としてますます鋼品質が重視されている薄板用アルミキルド鋼などの鋳造に際しては、鋳造用ノズル等の耐火物へのアルミナ付着を防止することに多くの努力が払われている。
【0003】
鋳造用ノズルに使用されるアルミナ難付着性の耐火物としては、ZrO−CaO−C系材質やSiO−C系材質、あるいは炭素を極力減じたいわゆるCレス材質が知られている。また、Cレス材質としては、一般的なAl系、Al−SiO系、SiO系、スピネル系材質や、最近では溶鋼温度以下の融点を有する化合物の生成能を高めたCaO−SiO−ZrO系材質などが使用されている。しかし、一般的なCレス材質は、アルミキルド鋼中のアルミナ介在物との接触反応による稼働面でのスラグ相の生成量が少なく、仮に生成した場合でも溶鋼との継続的な接触によってスラグ相中のAl濃度の上昇により、徐々に溶鋼温度レベルでのスラグ相中の液相比率(液相率)が低下するため、難付着特性が低下する問題があり、鋼種、鋳造速度などの操業条件に敏感に影響を受けることになり安定した難付着性能が得られない。
【0004】
また、溶鋼温度以下の融点を有する化合物の生成能を高めた例として、特許文献1に、CaO:5〜40質量%、SiO:2〜30質量%、ZrO:35〜80質量%で、カーボン:5質量%未満(ゼロを含む)であるCレス材質の耐火物が開示されている。しかし、この特許文献1のような材質では、耐火物と溶鋼との稼働界面で鋼中介在物であるアルミナとの接触反応によって生成する低融点化合物として、ZrOを含むスラグ相が生成するため高粘性となり、溶鋼流速によっては流下せず付着する場合があり、鋼種や操業条件などの影響で安定した難付着性能が確保できなくなる問題がある。更には、炭素が5質量%未満でCaOを多く含むCレス材質はイオン結合性が強くなるため、その熱膨張率は1500℃で1%を超える場合が多く、また、炭素量が少ないため低強度になる問題がある。それゆえ、鋳造用ノズル等への単一材質での適用は難しく、特許文献1の実施例にあるように、一般的に溶鋼と接触する部分に配置し、本体材質として熱膨張率が1500℃で1%未満のAl−C(AG)やZrO−C(ZG)材質と一体化して使用する場合が多く、両材質間の熱膨張差の違いにより、受熱時の構造体として割れ安定性の面で課題が残る。
【0005】
一方、前述した鋳造条件、鋼種条件の変動により安定した難付着性能が得られないという課題に対しては、ドロマイトクリンカーを含有した耐火物の適用が試みられている(例えば特許文献2)。このようにドロマイトクリンカーを含有した耐火物では、耐火物中のCaO成分と溶鋼中のアルミナ介在物とが、溶鋼界面にて脱硫能に優れたCaO−Al−MgO系の液相を容易に生成し、優れた付着防止効果を発揮する。しかしながら、ドロマイトクリンカーを用いた材質には、第一に水和しやすく取り扱いが難しい問題(消化問題)が存在する。
【0006】
ドロマイトクリンカーは、一般的に連続したマトリックス部に活性の高いCaO成分が存在し、そのマトリックス内部に微細なMgO結晶粒子が分散した特殊な原料である。このため、溶鋼中のアルミナとの反応性に富み難付着性能が高い一方で、マトリックス部のCaOが空気中の水分や直接水分と接触することで、容易に水酸化カルシウム(Ca(OH))を生成する(いわゆる消化現象)。CaOを含む粒子が消化すると、Ca(OH)が水和する際の体積膨張のため粒内破壊にとどまらず、耐火物組織をも破壊し、構造体としての形状維持が困難となる場合が少なくない。そのため、従来から種々の消化防止方法が提案されてきた。
【0007】
CaO系粒子の消化防止方法としては、一般的には(1)種々の添加物を粒子内に添加してCaOを被覆する方法、(2)CaO粒子表面を炭酸化する方法、(3)CaO粒子表面を、水分を含まない油類で被覆する方法、(4)CaO系粒子間に水和を抑制する成分層を形成する方法などが提案されてきた。
【0008】
前記(1)の方法の例として、特許文献3に記載されているように、CaO粒子又はCaO−MgO粒子にFe、Cr、TiOの1種又は2種以上を合計で10質量%以下含有させる方法がある。しかし、このようなCaO及びMgO以外の酸化物添加による方法では、耐消化性は改善されるものの十分な程度ではなく、2CaO・Fe(融点=1447℃)、2CaO・Al(融点=1360℃)などの低溶融物が生成し、耐火性が損なわれる問題がある。
【0009】
また、特許文献4には同様に、モル比で0.27〜1.5のCaO/TiO系クリンカーや所定モル比のCaO−TiO−ZrO系クリンカーを1〜97重量%、炭素原料を3〜40重量%、その他の耐火原料を96重量%以下含有した連続鋳造用耐火物が提案されている。しかし、耐消化性は改善されるものの十分な程度ではなく、十分な耐消化性までこれら成分を粒子内に存在させると、低溶融物が生成して耐火性が損なわれる問題が生じると共に、特にZrOを含有する場合にはアルミナ等介在物の難付着効果が低下するという問題が生じる。更に、CaOを含有するクリンカーは、Al系骨材と併用すると1360℃以上で低溶融物を生成するため、1500℃以上の温度で使用される鋳造用ノズルとしての耐火性が低下し、一般的に複数の材質から構成される鋳造用ノズルとしては、特に前記のCaOとの間に低溶融物を生成しやすい成分をクリンカー全体に含ませる場合と同様に、材料配置上の自由度が低下する問題がある。また、CaOを含有するクリンカーを使用した場合、イオン結合性が強く高膨張特性を示すため、急熱・急冷される連続鋳造用ノズルの操業環境では耐熱衝撃性の面で課題も残る。
【0010】
前記(2)の方法として非特許文献1に、CaO焼結体をCO雰囲気下で加熱処理して表面にCaCO被膜を形成させると耐消化性が改善する報告がなされており、カルシアクリンカーの消化防止技術として知られている。しかしながら、前記(3)の油類による表面被覆の方法を含めて、薄く、柔らかい被膜で覆われたCaO含有粒子が、研磨材レベルの硬度を持つ耐火性粒子と一緒に混合される混練プロセスでは、表面の被覆層が粒子の相互の衝突や剪断力により容易に剥がれる結果、耐消化性が失われる問題がある。また、この問題を解決しようと厚い被膜層を形成しても、例えば炭酸化処理により厚い被膜層を形成した場合では、CaCO被膜と粒子中のCaO界面との熱膨張差により被膜欠陥が発生し、耐消化性が逆に低下する問題が生じる。
【0011】
前記(4)の方法として特許文献5に、石灰40〜90wt%、炭素10〜60wt%、及び炭化硼素、窒化硼素、硼素から選ばれる1種又は2種以上0.1〜10wt%からなる配合物を混練、成形、焼成する連続鋳造用ノズルの製造方法等が提案されている。この特許文献5では、「石灰含有耐火物の消化防止は硼素以外の金属類も効果があるが、炭化硼素、窒化硼素、硼素はそれらのものに比べてきわめて顕著な効果を示す」ことが示されており、その理由を「ノズルの焼成中に硼素又は硼素化合物が化合あるいは分解によってBとなり、これが石灰を被覆するためと、炭化硼素、窒化硼素、あるいは硼素として添加したものは炭素と化合して炭化硼素となり、これらは炭素と性質が似ているために炭素と置換固溶して石灰を被覆することによるもの」と推定している。
【0012】
しかし、炭化硼素、窒化硼素、硼素は還元雰囲気下で酸化物に比べて反応性が低いことから、CaO等の粒子を被覆する被膜形成効果は小さく、またCaO等の粒子表面を欠陥なく被覆することが困難である。このため、特許文献5に示された方法によってはCaOの水和に関して幾分かの効果は得られるもののその効果は極めて小さい。そのためこの方法では、通常のアルミナ質等の非水和性の成分から構成される製品と同等に取り扱える程度ではなく、CaOの水和を防止するという課題は依然解決できない。
【0013】
ドロマイトクリンカーを使用した耐火物の第2の問題として、高膨張特性を示す問題がある。これは、CaOやMgOなど塩基性酸化物は基本的にイオン結合性が強いために高膨張である特性を有するためである。このようなドロマイトクリンカーを含む材質を鋳造用ノズルの内孔面に配置することで優れた難付着性が確保できる一方で、低膨張な本体材質と内孔体材質としてドロマイトクリンカーを含む高膨張な材質とを組み合わせた場合は、膨張差によりノズル破壊が発生する危険性を常にはらんでいる。その対策として、特許文献6及び特許文献7などに鋳造用ノズルとして安定に使用するための技術が開示されているが、製造工程や構造が複雑になるといった製造上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−040672号公報
【特許文献2】特開2010−167481号公報
【特許文献3】特開昭54−131612号公報
【特許文献4】特開平8−188464号公報
【特許文献5】特開昭57−56377号公報
【特許文献6】特開2009−90319号公報
【特許文献7】特開2010−036229号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Amer.Cerami.Soc.Bull 、49(5)、53 1(1970)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする主たる課題は、CaO成分を含む耐火物において、製造段階及び保管時、並びに操業段階でのCaOの水和(消化)を長期間に亘って防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、前記課題を解決するため、CaO成分を含む耐火物において、粒子保護による新規な水和反応防止技術により耐消化性を改善した。また、本発明では、高膨張特性を示すCaO、MgO、特にCaOを含有した耐火性粒子の周りに一定の空隙層を形成することにより、耐火物の熱膨張率を著しく低減した。そして、本発明では、これらの要素技術を鋳造用ノズルへ適用することにより、従来では実現できなかった、水和反応を起こし難く、予熱、鋳造時の熱衝撃や押し割りによる破壊の危険が少なく、しかも製造しやすい鋳造用ノズルの提供を可能とした。言い換えると、鋳造中の鋳造用ノズル内孔面等への溶鋼由来のアルミナ等介在物の付着を高度に低減することができ、かつ、製造、保管、使用の全てにおいて、非水和性の成分から構成される鋳造用ノズルと同等の容易さや取り扱いが可能な鋳造用ノズルの提供を可能とした。
【0018】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)の耐火物、及び(5)〜(9)の鋳造用ノズルである。
【0019】
(1)CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含む耐火物であって、
1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、B、TiO、V、P5、及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物を合計で0.1質量%以上5.0質量%以下、フリーの炭素を2質量%以上35質量%以下含有し、残部がCaOとMgOとを含み、その質量比(CaO/MgO)が0.1以上1.5以下であり、
かつ、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の試料について室温での顕微鏡観察で、前記CaO成分を含む耐火性粒子の少なくともCaO表面に、CaOと前記B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物とからなる0.1μm以上25μm以下の厚さの無機質被膜が形成されている耐火物。(請求項1)
(2)炭酸カルシウムの分解温度以上の熱処理を受けていない状態において、CaCOを0.1質量%以上2.5質量%未満含有する(1)に記載の耐火物。(請求項2)
(3)1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の試料について室温での顕微鏡観察において、その顕微鏡観察視野中のCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含む耐火性粒子のうち最大径粒子の両側に存在する炭素質マトリックスとの界面における空隙の合計厚みが、当該粒子サイズの0.1%以上3.0%以下である(1)又は(2)に記載の耐火物。(請求項3)
(4)SiC、Si、ZrO及び金属Siから選択する1種又は複数種を更に含有し、
各含有量は、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、SiC、Siについてはいずれか一方又は両方の合計で20質量%以下、ZrOについては5質量%以下、金属Siについては2質量%以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の耐火物。(請求項4)
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が、溶鋼と接触する部位の一部又は全部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置されている鋳造用ノズル。(請求項5)
(6)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、前記複数の層が相互に直接接触した状態で一体構造とされている鋳造用ノズル。(請求項6)
(7)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、
更に、前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層との間に、炭素含有量が90質量%以上で厚さが0.1mm以上3mm以下のシート状の層が配置されており、前記の溶鋼に接触する面に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、相互に接触しない状態で一体構造とされている鋳造用ノズル。(請求項7)
(8)(1)から(4)のいずれかに記載の耐火物が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物とは異なる組成の耐火物からなる層が配置された複数の層をなしており、
更に、前記の溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、溶鋼温度にて溶融による流下を生じない成分からなるモルタルにて接着されており、前記の溶鋼に接触する面に配置された耐火物の層とその背面側に配置された耐火物の層とが、前記のモルタル層により相互に接触しない状態で保持された構造とされている鋳造用ノズル。(請求項8)
(9)内孔部の一部にガス吹き込み用の耐火物からなる層を備えた、請求項5から8のいずれかに記載の鋳造用ノズル。(請求項9)
【0020】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0021】
まず、本発明の耐火物の化学成分について説明する。
【0022】
本発明は、CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含む耐火物であって、1000℃の非酸化雰囲気で加熱後の化学成分において、(CaO/MgO)質量比が0.1以上1.5以下であって、CaOとMgOを合計で60質量%以上97.9質量%以下、B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物を合計で0.1質量%以上5質量%以下、フリーの炭素を2質量%以上35質量%以下含有することを特徴とする。
【0023】
ここで、前記の化学成分を「1000℃の非酸化雰囲気で加熱後」で特定する目的は、耐火物中の水分、有機物、水和物、炭酸化合物からの揮発性成分の除去、及び有機系バインダー成分の炭素化を促進して成分的な定常状態を得るためであり、800℃以上の温度であれば前記要求を満たすものであるが、耐火物中の化学成分の安定化による分析精度の向上を図るため、すなわち、当該耐火物成分中、特に樹脂成分の揮発性成分の飛散が収まりかつ1000℃を超える温度での化学反応による新たな物質生成をさせないために1000℃と規定するものである。この点から、加熱時間は加熱による重量変化がなくなるまでの間とする(以下同じ)。この目的に合致する1000℃の非酸化雰囲気での加熱方法の具体例としては、コークスなど炭素質原料で充填されたサヤ中での焼成法や酸素濃度が0.1%以下に調整された窒素若しくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気内で、1000℃にて1時間〜3時間程度保持する方法を採ることができる。雰囲気、保持時間、試料の大きさ等の具体的な条件は、前述の目的に合致するように任意に選択し、決定することができる。
【0024】
また、本発明において「フリーの炭素」とは、BC、SiCなどの炭化物を除き、各種の有機質バインダー、ピッチ、タール、カーボンブラックが非酸化雰囲気1000℃で加熱を受けることにより生成した炭素質成分及び黒鉛などの結晶性炭素等の粒子状(繊維状を含む)の炭素をいう。以下では、「フリーの炭素」を単に「炭素」という。
【0025】
本発明では、後述する溶鋼流速下での耐火物へのアルミナ付着現象を再現した評価方法(溶鋼中回転試験)による知見に基づき、本発明の耐火物の最適化学成分(組成)を特定した。耐火物中のCaOは、溶鋼中のアルミナとの反応に寄与しスラグ組成物を作る成分であり、一方、MgOは、スラグ組成物の耐火性を調整し耐食性を付与する成分である。前記評価方法による検討の結果、(CaO/MgO)質量比及び炭素含有量が、耐火物のアルミナ難付着性及び耐食性(耐溶損性)に大きく影響及ぼすことが判明した。すなわち、(CaO/MgO)質量比については、その質量比で0.1以上1.5以下の範囲が、アルミナ難付着性と耐溶損性のバランスがとれる良好な範囲となる。(CaO/MgO)の質量比が0.1未満であると耐火物−溶鋼界面でCaO−Al系スラグ組成物を作るCaOの絶対量が不足するため、溶損量は少ないものの、アルミナ付着が増加する傾向となる。逆に、(CaO/MgO)の質量比が1.5より大きいと、過剰にCaO−Al系融液が生成するために溶損量が増加する傾向となり、結果として、鋼中介在物が増え鋳片品質上問題となる。
【0026】
更に、炭素含有量が2質量%以上35質量%以下、B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物の合計含有量が0.1質量%以上5.0質量%以下で、残部がCaOとMgOの組成、すなわちCaOとMgOの合計が60質量%以上97.9質量%以下の組成範囲とすることで、難付着性、並びに機械的及び熱的な品質を良好な範囲とすることができる。炭素の作用の一つは、粒子間をつなぐ炭素質のボンドの形成にある。このボンドを形成する炭素源(「ボンドを形成する炭素源」を、以下、「バインダー炭素」ともいう。)としては、液状原料として耐火物組織内に分散した後に非酸化雰囲気焼成後で炭素を残留する、いわゆる炭素系バインダーの使用が可能である。機械的強度、加工性及び耐熱衝撃性を確保するため、これらのバインダー炭素と共に粒子状(繊維状を含む)の炭素質原料の使用が可能である。バインダー炭素/バインダー炭素を除く炭素質原料の質量比で10/90以上90/10以下の範囲で使用することで、耐火物としての収縮を抑制し、機械的強度や耐熱衝撃性に優れた材質とすることが可能である。
【0027】
炭素の他の作用は、組織内をCO雰囲気化することにあり、後述するように、比較的蒸気圧が高い酸化物成分の組織内での移動を容易にする作用がある。炭素含有量を2質量%以上35質量%以下の範囲とした理由は、耐火物中の炭素含有量が2質量%未満であると、粒子間を結合するボンド成分が少なく強度が低下するため、耐火物の品質が低下し、適用可能な部位に制限が加わる。一方、炭素含有量が35質量%より多いと強度、耐熱衝撃性の面で有利である反面、耐火物の溶損量が増加して鋳片品質が低下する問題が生じるためである。
【0028】
前述のとおり、炭素含有量がCaO及びMgO含有耐火物の諸物性、性質に大きな影響を及ぼすことから、炭素含有量を2質量%以上35質量%とした上で、その残部につき、CaO粒子の高い耐消化性等を得るためのB、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物の合計含有量0.1質量%以上5.0質量%以下を決定し、これらの残部を、CaO及びMgOとする。したがって、CaO及びMgOの合計の含有量は、60質量%以上97.9質量%以下となる。なお、当然ながら、アルカリ金属酸化物、鉄酸化物、酸化アルミニウムなどの不可避的不純物が含有されることはあり、その不可避的不純物の含有量は通常、2質量%以下である。
【0029】
ところで、前述した化学成分の耐火物は、極めて優れたアルミナ付着防止効果を奏するが、その製造過程や輸送段階、客先での保管時やセット作業時に水分と接触することを皆無にすることは困難であって、その際にCaOの水和反応を生じる危険性を伴う。
【0030】
そこで、前述した課題である、耐火物内のCaOの水和による製造段階及び保管時、並びに操業段階での消化問題を長期間高度に又は確実に防止することが必須の技術となる。以下、その水和防止技術について述べる。
【0031】
CaOは、周知のように下記反応により水和反応が容易に進行する。
CaO+HO=Ca(OH)
この反応において標準生成自由エネルギーΔG゜は、−57.8kJ/mol(T=298K)である。
【0032】
前述したように、CaOの水和を防止するには、主に、クリンカー中のCaOの活量を下げ、CaOを不活性化させる方法の追求、あるいは、CaOを含む粒子表面に、少なくとも最終製品段階で、緻密で安定な水成分不透過性の被膜形成の追求が行われてきた。前者の手法として、TiOなど金属酸化物との化合物化手法にて対応がとられてきたが、CaOを不活性化するためにそれらを過剰に添加し化合物化せねばならず、その結果、CaO自体の反応性に寄与する活性、いわゆるCaOの活量が著しく低下し、鋼中アルミナ介在物との反応性が著しく低下し閉塞防止効果の点で問題を生じる。更に化合物化により低融点化を招きやすい。また、クリンカーの水和防止機能も十分とは言い難い。また、後者の手法は、極めて薄い(0.05〜4μm)炭酸化被膜であったり、油分系の被膜であったりするので、耐火物の製造プロセス、特に耐火物原料の混練、熱処理、加工プロセスにて被膜の一部又は全部が破れたり消失したりして、十分な耐消化性が発揮できていない。
【0033】
本発明者らは、これらの問題点を本質的に解決するために鋭意検討し、その結果、成形後の炭素を有する耐火物組織内に、B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物を、1000℃非酸化雰囲気での加熱処理後の耐火物内の含有量に換算した値で0.1質量%以上5.0質量%以下になる量で分散させ、成形後の熱処理プロセス、具体的には800℃以上の非酸化雰囲気下で熱処理を施すことで、これらの金属酸化物とCaOとを接触反応させ、CaO表面に選択的に、熱力学的に水和しない安定な無機質被膜を形成できるとの知見を得、本発明を完成させた。なお、本発明での無機質被膜には化合物層の他に、固溶体層、非晶質層も含まれる。
【0034】
本発明におけるCaO表面に形成する無機質被膜(化合物)の例は、次のとおりである。
【0035】
3CaO・B(+32.0kJ/mol)、2CaO・B(+44.1kJ/mol)、CaO・B(+82.4kJ/mol)
3CaO・2TiO(+12.4kJ/mol)、4CaO・3TiO(+16.8kJ/mol)、CaO・TiO(+24.4kJ/mol)
3CaO・V(+52.9kJ/mol)、2CaO・V(+74.6kJ/mol)、CaO・V(+88.2kJ/mol)
3CaO・P(+236kJ/mol)、2CaO・P(+280.7kJ/mol)
【0036】
なお、( )内には各化合物の水和反応時の自由エネルギー変化(ΔG、at298K)を示した。これらの無機化合物は、いずれもΔGがプラスであるため水和反応は起こらないことを示している。
【0037】
一方、SiO2系化合物については、下記のようになっている。
3CaO・SiO(−17.5kJ/mol)、2CaO・SiO2(+3.3kJ/mol)、CaO・SiO(+33.9kJ/mol)
【0038】
前記の3CaO・SiOの化合物は水和反応が起こり得ることを示しているが、前記に示したCaOとの安定性が高い成分(B、TiO、V、P)との併用や、後述の被膜中のCaOとの反応によって生じる炭酸カルシウムの生成、すなわちCOによる被膜中のフリーCaOの固定化により、SiO成分を含む無機質被膜でも極めて耐消化性に優れた被膜をとして安定化できることを本発明者らはみいだした。
【0039】
炭素を含有する耐火物内部では酸素分圧が低い状態であるため、蒸気圧の高い酸化物は組織中でガス成分として充満しやすく、ガス成分が組織中のCaOを含有する粒子表面で選択的に反応して、無機質被膜をつくる。あるいは液相状態又は固体状態でCaO成分と直接接触することで、同様の無機質被膜を生成する。本発明で使用する金属酸化物の融点は、P:約350℃(昇華)、B:約450℃、V:695℃、SiO:1710℃、TiO:1870℃である。このうち、P、B及びVは特に融点が低く蒸気圧が高いため、本発明においてCaO表面に無機質被膜を形成するには特に好適な金属酸化物である。
【0040】
一方、SiO及びTiOは、B及びV等のようには融点が低くなく、蒸気圧が比較的低いため、一般的な1000℃近傍の熱処理温度域では、ガスや液体接触のような形でのCaOとの反応は期待できないが、CaOを含有する粒子表面に直接接触させる方法により、水和し難い無機質被膜の形成が可能となる。更に、B、V及びPには、SiO及びTiOの反応性を高め、無機質被膜中のCaOの活量を低下させる作用があるので、SiOやTiOをBやPと併用することで、被覆性の高い良好な無機質被膜の形成を促進することが可能となる。
【0041】
以上のように、これらの金属酸化物は1種又は2種以上を使用することが可能である。そしてこれらの金属酸化物を合計で、耐火物中に0.1質量%以上5質量%以下となるように含有させることで、CaO表面に良好な無機質被膜を形成できる。含有量が0.1質量%より少ないと被膜が形成できず、5質量%より多いと被膜が厚くなりすぎ、被膜欠陥が発生しやすい。
【0042】
これらの金属酸化物とCaOとの反応によって生成した無機質被膜は、前述したように基本的に熱力学的にも安定で水和反応を起こさない。このため水分と接触してもそれ自体が変化せず安定である。無機質被膜の内側に存在する活性なCaOの水和反応を防止するためには、(イ)生成した無機質被膜が水分に対して安定であり、かつ(ロ)CaOを含む粒子の表面がこの安定な無機質被膜で被覆されていること、更に(ハ)この無機質被膜からなる被膜が多孔質でなく、亀裂や剥離のない無欠陥被膜であることが重要な要素となる。
【0043】
前記(イ)については、前述のとおり、本発明で生成する無機質被膜は、熱力学的に水和しないため安定である。前記(ロ)については、CaOを含有する粒子の少なくともCaO表面を、前述した方法により被覆できる。前記(ハ)の被膜の欠陥に対しては、生成する被膜厚さが重要となる。本発明で生成する各無機質被膜を使用して被膜厚さを検討した結果、耐消化性に優れかつ亀裂や剥離のない良好な被膜とするには、その厚さは0.1μm以上25μm以下であることが必要であり、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。被膜の厚さが0.1μm未満では、連続的な被覆層の生成が困難となり、被覆に連続性がなくなり耐消化性が低下する。また、被膜が25μmより厚いと粒子と被膜間の熱膨張率の違いから被膜の亀裂や剥離が発生しやすくなり、結果として耐消化性が低下する。
【0044】
前記(ハ)の被膜の無欠陥化に関しては、前述のとおり、被膜の厚さを0.1μm以上25μm以下とすることで耐消化性は大きく改善される。しかし、更に厳しい条件、例えば高温多湿で長期間放置されるような環境では、被膜に存在する微細な欠陥により水和反応が徐々に進行することがある。そこで、本発明者らが、厚さを特定するのに加え更に被膜を無欠陥化する手段を検討したところ、前述のとおりCaO表面に被膜を形成した耐火物を、炭酸カルシウム(CaCO)が分解する温度以下の380〜830℃の温度範囲内で炭酸ガスと反応させ、被膜中の欠陥を通して炭酸化処理をすることで、従来技術では到達できない極めて優れた耐消化性を得ることができることがわかった。耐消化性が著しく向上する理由は、高温で被膜の欠陥を通して侵入したCOの一部がCaO含有粒子表面で炭酸カルシウム膜を生成して消化を防止することに加えて、被膜を構成しているCaOの一部がCOと反応して被膜中の開口部や亀裂等の脆弱部分などを中心に炭酸カルシウムを生成し、被膜欠陥を消失させるためである。
【0045】
このように耐消化性を更に著しく改善するためには、炭酸ガスとの反応により生成したCaCOが耐火物中に0.1質量%以上2.5質量%未満存在する必要がある。CaCO量が0.1質量%より少ないとその効果が殆ど現れず、2.5質量%以上であると、鋳造前の予熱条件によっては予熱時や鋳造時にCOガスの発生により鋳型中の溶鋼湯面レベルが大きく変動するボイリング現象や、注湯初期のスプラッシュなど操業上の問題が発生することがあるため好ましくない。
【0046】
以上のとおり、本発明では、CaOの水和を防止する方法として、炭素及びCaO、MgOを含有した耐火性粒子を含有する耐火物成形体を熱処理する過程で、B、TiO、V、P及びSiOの単体又は2種以上がCaOを含有した耐火性粒子の少なくともCaO表面部で反応し、水和に対して安定な無機質被膜を形成する作用に着目して、熱処理により耐火物内部で水和を抑制可能なCaO系無機質被膜を形成させることで水和を抑制した。更に、生成した被膜中の欠陥に着目し、被膜厚さを適正な厚さに制御することに加えて、炭酸カルシウムの分解温度以下での高温域で、被膜を形成した耐火物を炭酸ガス中で熱処理することで、耐火物組織内部のCaO表面での被膜の無欠陥化を達成することが可能となった。このような要素技術を取り入れた結果、従来技術では達成困難なレベルで著しく耐消化性を改善することができた。このように、本発明は、CaO、MgOを含有した耐火性粒子を含有する耐火物成形体における、熱処理過程での反応を利用したものであって、耐火物組織を構成しているCaO、MgOを含有した耐火性粒子表面で、熱力学的に安定な無欠陥の無機質被膜からなる被膜を形成する技術である。この点で、本発明は、原料調製段階においてその原料粒子に被膜を形成する従来技術(この場合、その後消化防止効果が消失する可能性が高い)とは本質的に異なる。
【0047】
次に、CaO、MgOを含有した耐火性粒子を含む材質の熱膨張率を低減し、予熱、鋳造時の熱衝撃破壊や押し割りによる破壊の危険を低減する方法について説明する。
【0048】
CaOやMgOなどの塩基性材料は、イオン結合性が強いために他の耐火性粒子に比べて一般的に熱膨張量が大きい。塩基性の粒子を用いて結合剤成分や他の粒子と複合化した耐火物組織を考えた場合、高膨張な耐火性粒子(骨材)の存在割合に応じた形で、耐火物としての熱膨張量も一般に大きくなる。これは粒度が異なり、さまざまな種類の耐火性粒子を結合剤成分で固めている耐火物の熱膨張量が、それぞれの材質の体積分率に応じた熱膨張量の寄与度で全体の熱膨張量が決定されている、いわゆる加成則に従うためであると考えている。
【0049】
炭素含有系の耐火物組織は、一般に粒度の異なる耐火性粒子、炭素質マトリックス組織、組織中にランダムに存在する開孔気孔、及び粒子やマトリックスに閉じ込まれた密閉気孔などにより構成されている。本発明者らは、炭素並びに、CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子(高膨張粒子)を含有する耐火物組織における前記耐火物粒子周りの気孔形態に着目した。すなわち、高膨張粒子周囲の表面において、ある連続した空隙層を形成することで、高膨張粒子を含む耐火物の低膨張化が実現可能であることをみいだした。
【0050】
具体的には本発明では、製品段階の組織において、3次元的に連続した炭素質マトリックス中に存在する少なくとも炭素質マトリックスよりも高膨張な耐火性粒子が、炭素質マトリックスと高膨張粒子界面に、高膨張粒子を取り囲む形で所定の厚さの空隙層が形成された耐火物組織にする。
【0051】
本発明において、高膨張粒子の周りに所定の厚さの空隙層を形成する目的は、耐火物が予熱時や受鋼時あるいは冷却時に温度変化を受けた場合、組織内の高膨張粒子が膨張する際の膨張代をあらかじめその粒子の周りに形成することで、所定温度まで粒子の膨張を耐火物内部の粒子周りの空隙層で吸収し、耐火物としての熱膨張量を表に出さないことにある。この粒子周りの空隙層の存在により、耐火材料の熱膨張量を劇的に小さくすることが可能となる。
【0052】
熱膨張量の視点からは、耐火性骨材の周りの空隙層の厚さは厚いほどよく、また、炭素より熱膨張量の大きい全ての耐火粒子表面において空隙層を形成することが好ましい。しかしながら、耐火性粒子表面の空隙層の形成は材料強度を低下させる原因となるため、熱膨張量と強度とのバランスをとりながら空隙層の厚さを調整する必要がある。
【0053】
粒子周りの空隙層生成は、主に後述する耐火物製造プロセス過程における耐火物粒子表面での化学的な反応による。粒度分布を持つ塩基性原料粒子を考えた場合、空隙層は、粒子表面に予めあるいは耐火物組織中で水和物層等の被膜を生成させたのちに化学反応により生成するものであるため、基本的に耐火物組織の粒子表面全域で生成することになる。それ故、空隙層厚みと粒子サイズとの比率(粒子当たりの空隙層厚さ率:MS値(マイクロスペース値))を考えた場合は、大きな粒子ほどその比率は小さく、小さな粒子ほどその比率は大きくなることになる。したがって、粗大粒子のMS値を知ることは、耐火物組織での粒子1個当たりの空隙層厚さ率の下限値を知ることになり、組織中のMS値にておおよそ組織を評価することが可能となる。
【0054】
ここでいうMS値とは、粗大粒子径Dに対する粒子と炭素マトリックスとの間の空隙層厚さL(粒子両サイドでの空隙層厚さの合計をLとする)の比率であり、以下の式より求める。
MS=L/D×100(%)
【0055】
言い換えると前記MS値は、組織中の粒子の周りに存在する膨張代率の最低値を表す。本発明者らが行った、粒子表面の空隙層厚さ率MS値(%)の算出方法を以下に示す。耐火物の顕微鏡組織観察において、粒子径の大きい順に粗大粒子を10個選定し、個々の粒子に内接する円の中心を通る任意線を引く。更に、その線を基準として前記円の中心を通る45°ピッチの線を更に3本引き、計4本の線を粒子1個につき引く。その後、粒子の各ライン上で粒子の両端の輪郭点間の長さをD1、D2、D3、D4として、更に、各ライン上での両端部での粒子界面に存在する空隙層厚さの合計をそれぞれ、L1、L2、L3、L4として計測する。これらの4ラインで得られた数値を用いて、前記式によりMS1、MS2、MS3、MS4をそれぞれ算出し、それらの数値の平均値を1つの粒子の空隙層厚さ率MS値とする。予め選んでおいた10個の粒子のMS値をそれぞれ算出し、平均化して、組織のMS値を得る。
【0056】
なお、前記では、粒子径の大きい順に10個の粗大粒子のMS値を平均してMS値を求めるようにしたが、これは、顕微鏡観察視野中の最大径粒子のMS値を求めるため一つの方法である。すなわち、測定誤差を考慮して粒子径の大きい順に10個の粗大粒子のMS値を平均することで、顕微鏡観察視野中の最大径粒子のMS値とみなすようにしている(以下、この最大径粒子のMS値を単にMS値という。)。
【0057】
炭素含有耐火物での高膨張な塩基性原料と組み合わせた組織での低膨張化に関して鋭意検討した結果、低膨張化効果が現れ、強度面や耐食性面、耐摩耗性面でバランスのとれた粒子表面の空隙層の厚さは、最大粒子サイズの表面での空隙層厚さが粒子サイズの0.05%以上1.5%以下であることを本発明者らは確認している。粒子表面で両側2箇所の空隙層があるため、前記で示した、最大粒子径に対する両側での空隙層厚さの比率であるMS値で表現すると、0.1%以上3.0%以下のときに物性面で改善効果が認められる。
【0058】
たとえば、熱膨張量の視点からでは、CaO、MgOなどを含む塩基性原料(骨材粒子)の熱膨張率は、一般的に1500℃で2.0%以上である。仮に前記骨材が1500℃で2.4%膨張するとして、粒子を取り囲む炭素質マトリックス部の同温度での熱膨張率を0.4%と見積るとその差は2.0%となる。製鋼での鋳造温度は1500℃前後であるため、粒子の周りの空隙、すなわち粒子の膨張代が熱膨張差により消失するためには、空隙層の厚さ率は粒子サイズの2.0%以上あれば1500℃まで高膨張骨材は炭素質マトリックス部へ接触しないことになり、その結果、耐火物の1500℃までのマクロ的な熱膨張量は、カーボン質マトリックスの膨張量が支配的となり、従来の化学成分の加成則に依存しないことになり、顕著な低膨張特性を示すことが可能となる。従って、熱膨張量の視点から個々の粒子は、より多くの空隙層厚さ率(膨張代)を持つことで低膨張化が可能となる。更に、このような低膨張特性を顕著に出すためには、炭素質マトリックスが3次元的に連続することが必要であり、適用する粒子も微粉を多く含まない粒度分布とすることが望ましい。
【0059】
一方、機械的強度の視点からすると、粒子周りの空隙層の生成は強度を低下させる要因となり、溶鋼に対する耐食性や耐溶鋼摩耗性などを低下させる。これをペットボトルに例えると、ペットボトルが内容物で満たされている場合はペットボトルとしての構造体強度が得られるが、内容物で満たされていないペットボトルだと、外力を与えた場合座屈するなど強度低下する現象によく似ている。すなわち、耐火物粒子表面に過剰な空隙層がある場合では、内容物である耐火性粒子が、鋳造温度レベルでペットボトルに相当する周囲の炭素質隔壁(マトリックス)に対して適度な内圧を与え難く、炭素隔壁の補強強化が弱まり、極端な場合は炭素隔壁が変形により破損することで、材料強度が低減することになる。
【0060】
計算では前述したようにMS値は2.0%もあれば十分であるが、実際の耐火物組織では、これよりもやや大きなMS値(3.0%)まで強度と熱膨張率のバランスのとれた領域であった。MS値が3.0%を超えると、鋳造温度レベルでは、前述したような状況がミクロ組織中で、至る所で発生するため、マクロ的な材料強度を低下させ、耐食性や耐摩耗性などの物性を劣化させる。MS値が0.1%を下回ると、機械的強度は良好であるが、低膨張効果が得られない。
【0061】
以上のように耐火物組織中のCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子の周りに空隙層を形成することにより、前記耐火性粒子を含有する耐火物の熱膨張率を低減し、前記耐火性粒子の高膨張特性に起因する耐熱衝撃性における弱点を克服することが可能になるため、鋳造用ノズルを始めとして数々の用途への適用が可能となる。
【0062】
また、CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子周囲の空隙層の厚さは前記粒子自体の膨張により稼働温度域(約1500℃)では小さくなっており、この空隙が耐火物の耐食性等の低下を来す危険性はほとんどない。
【0063】
ところで本発明の耐火物は、アルミナを主とする溶鋼由来の酸化物等(いわゆる介在物)が鋳造中に耐火物表面に付着ないしは堆積することを抑制する機能を前提にしている。
【0064】
このような難付着性を、個別の操業条件等の要求に合致するように更に増大させるために、前記の耐火物中に更に、SiC及びSiのいずれか一方又は両方を合計で20質量%以下(好ましくは0.5質量%以上20質量%以下)、又は金属Siを2質量%以下(好ましくは0.3質量%以上2質量%以下)含有させることができる。これらは併存させることもでき、言い換えると、SiC及びSiのいずれか一方又は両方の合計含有量の最大値である20質量%と金属Si含有量の最大値である2質量%との合計量22質量%を最大含有量とし、残部が前記(1)〜(3)のいずれかに記す耐火物とすることができる。
【0065】
前述のとおり、耐火物中のCaO成分と鋼中のAlが析出して生じたAlとが反応して耐火物界面でCaO−Al系のスラグ層を生成する。Alキルド鋼でS(イオウ)を20ppm以上含む鋼、特に40ppm以上含む鋼では、この耐火物/溶鋼界面で生成するCaO−Al系スラグ相の脱硫能により、スラグ層中に高融点の化合物CaSが生成する場合がある。特にCaSが層として生成する場合では、耐火物中のCaOの溶鋼方向への供給が絶たれ、耐火物界面でアルミナが付着する傾向となる。本発明者らは、スラグ相の脱硫能を低下させる作用を持つSiO系成分を鋳造中に継続的に供給可能な成分を本発明のCaO含有耐火物中へ含有させることにより、特に高濃度でS(イオウ)を含む鋼の耐火物表面へのアルミナ付着対策として有効であることを知見した。
【0066】
SiO成分の直接の耐火物中への添加は、耐火物中のCaOとの急速な低溶融化反応を惹き起こすため好ましくない。そのため、直接のSiO成分は消化防止被膜形成のためにのみ添加され、その添加量も5質量%以下に制限される。本発明では耐火物の低融化を惹き起こさず、溶鋼・耐火物界面で継続的にSiO成分を供給する供給源として、SiC、Si成分の単体又は両方を耐火物中へ含有させる方法が最も好ましいことをみいだした。これらの成分は耐火物中の雰囲気との反応や鋼中酸素により酸化され、界面で生成するCaO-Al系スラグ層中に継続的にSiO成分を供給する。
【0067】
この効果を得るためのSiC、Si成分の最低含有量としては、鋼中のS(イオウ)の含有量にもよるが、その合計で0.5質量%以上であることが好ましい。また最大含有量は20質量%以下であることが好ましい。20質量%を超えると、SiC、Si成分から供給されるSiO成分と耐火物中のCaO成分と鋼中のアルミナとの共存により低融化(液相量の増加)が促進され、鋳造用ノズルとして求められる耐用性を低下させる程度に、耐火物の耐食性が低下し、また鋼中への介在物量の増加も生じやすくなる。
【0068】
SiO源として、金属Siでも同様のアルミナ付着抑制効果が得られる。この場合は、金属Siは強度を高め熱衝撃性が低下させる等の弊害が生じるので、2質量%以下の含有量とすることが好ましい。
【0069】
一方、本発明の耐火物界面で生じるCaO−Al系の融液は、溶鋼流との接触により容易に流下する。溶鋼に接触する耐火物面で、溶鋼流その他の局部的な条件の違いが耐火物の損傷を大きくすることもある。このような部分を保護するために、CaO−Al系組成中にZrO成分を含有させることで、このCaO−Al系組成による被膜の安定性を向上させることができ、前記の損傷を抑制する効果を得ることができることを本発明者らは知見した。特にCaO−Al系にSiO成分を含む系ではZrO成分を含有させることが有効である。
【0070】
このようなCaO−Al系又はCaO−Al−SiO系被膜の安定化のためのZrOの含有量は、前記(1)〜(3)のいずれかの耐火物中に更に5質量%以下とすることが好ましい。ZrOの含有量は、溶鋼の温度、溶鋼中の介在物としてのAl又はアルミナ含有量等の個別の操業条件と耐火物成分とのバランスによって異なる、耐火物表面での低融物の生成程度等によって補助的に決定されるべきものである。したがって、ZrOの含有量は固定的なものではなく、個別の操業条件に応じて決定すればよい。しかし、5質量%を超えると、ZrOと耐火物中のCaO成分と鋼中のアルミナ、又はSiOとの共存下でも低融化が抑制されて(液相量の低下)、被膜の粘性が高くなり、アルミナをはじめとする鋼中の介在物の耐火物表面への付着が促進される。言い換えると、ZrOの最大含有量を5質量%とし、残部が前記(1)〜(3)のいずれかに記す耐火物とすることができる。なお、ZrOの含有量の下限値は、CaO、MgO、Al、SiO等の耐火物内の初期組成及び操業中に変化する組成によって異なる耐火物表面の軟化程度(液相量等)に応じて、その粘性を任意に意図する程度までに高めるのに必要な量を、個別・任意に決定すればよい。この点からZrO含有量の下限値を規定するのは必ずしも適切ではないが、概ね0.5質量%以上からZrOの効果が顕著に現れる。
【0071】
ZrOとSiC、Si及び金属Siは併存させることができる。言い換えると、SiC及びSiのいずれか一方又は両方の合計含有量の最大値である20質量%、金属Si含有量の最大値である2質量%、及びZrO含有量の最大値である5質量%との合計量27質量%を最大含有量とし、残部が前記(1)〜(3)のいずれかに記す耐火物とすることができる。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、ドロマイトクリンカー等のCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子を使用した耐火物において、以下の効果を奏する。
【0073】
1.少なくともCaO表面に被膜を形成させることで、CaOの水和による製造段階及び保管時、並びに操業段階での消化問題を長期間確実に防止することができる。
【0074】
2.CaO表面に無機質被膜を形成した耐火物に炭酸化処理をして、更に炭酸カルシウム(CaCO)を形成させることで、耐消化性をいっそう改善することができる。
【0075】
3.CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子と炭素質マトリックスとの間に、厚さがMS値で0.1%以上3.0%以下の空隙層を有した組織とすることで、前記CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子を使用した耐火物の熱膨張率を大幅に低減し、予熱、鋳造時の熱衝撃性破壊や押し割りによる破壊の危険を低減することができる。
【0076】
4.前記の耐火物中に更に、SiC、Si、金属Siを含有させることで、難付着性を、個別の操業条件等の要求に合致するように更に増大させることができる。
【0077】
5.前記の耐火物中に更に、ZrOを含有させることで、耐火物を保護することができ、難付着性と耐火物の耐食性(溶損・摩耗損耗等を含む)とを、個別の操業条件等の要求に合致するように適正化(バランス)させることができる。
【0078】
6.そして、本発明の耐火物を鋳造用ノズルに適用することで、耐消化性、耐割れ性、耐アルミナ付着性及び耐溶損性に優れ、安定操業可能な鋳造用ノズルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1A】本発明の耐火物を適用した浸漬ノズル(鋳造用ノズル)の一形態で、(a)は本発明の耐火物をパウダー部以外の全てが本発明の耐火物からなる例、(b)は前記(a)と同様にパウダー部以外の全てが本発明の耐火物からなる例の他の形状であって、主として薄スラブの鋳造に使用される扁平状の浸漬ノズルの例、(c)は前記(a)の浸漬ノズルの内孔部の一部にガス吹き込み機能を備え、本発明の耐火物を内孔部の他の領域と吐出孔周囲に配置した例を示す。
図1B】は連続鋳造における鋳造用容器、ストッパー、ノズル、鋳型を示す縦方向断面(イメージ図)であり、鋳造用容器内から溶鋼を排出する際の溶鋼の流通経路としてのノズル部が複数の鋳造用ノズルからなる構造体のうち、左側が、浸漬ノズルが外装式の例で、右側が内装式の例である。A〜Gまでが本発明の耐火物が適用可能な鋳造用部材である。
図2】本発明の耐火物を適用した浸漬ノズル(鋳造用ノズル)の他の形態で、本体用耐火物と一体的に成形した例を示し、(a)は本発明の耐火物を内孔部に配置した例、(b)は本発明の耐火物を内孔部と吐出孔周囲に配置した例、(c)は浸漬ノズルの内孔部の上方にガス吹き込み機能を備え、本発明の耐火物をその下方の内孔部と吐出孔周囲に配置した例を示す。
図3】本発明の耐火物を適用した浸漬ノズル(鋳造用ノズル)の更に他の形態で、本体用耐火物と本発明の耐火物との間にカーボン質のシート又はモルタルからなる層を備えた例を示し、(a)は本発明の耐火物を内孔部に配置した例、(b)は本発明の耐火物を内孔部と吐出孔周囲に配置した例、(c)は浸漬ノズルの内孔部の上方にガス吹き込み機能を備え、本発明の耐火物をその下方の内孔部と吐出孔周囲に配置した例を示す。なお、図3においては、一体的に成形してもよく、各構成層を別個に成形して組み立ててもよい。
図4】本発明の耐火物を適用した下部ノズル(鋳造用ノズル)の一形態を示す。
図5】本発明の耐火物を適用したロングノズル(鋳造用ノズル)の一形態を示す。
図6】本発明の耐火物を適用した下部ノズル(鋳造用ノズル)の他の形態を示す。
図7】本発明の耐火物を適用したロングノズル(鋳造用ノズル)の他の形態を示す。
図8】溶鋼中回転試験方法の概略を示す。
図9】溶鋼中回転試験用の試験片を示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
図10】溶鋼中回転試験における付着・溶損速度の測定方法の概略を示す。
図11】本発明の実施例31の組織写真を示し、(a)が熱処理前、(b)が熱処理後である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明の耐火物は、CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含有することを前提とするが、CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含む耐火性粒子としては、次の3つの類型が挙げられる。
【0081】
(1)CaO成分とMgO成分の両方を含む耐火性粒子
(2)CaO成分を含む(MgO成分を含まない)耐火性粒子と、MgO成分を含む耐火性粒子との組み合わせ
(3)MgO成分を含む(CaO成分を含まない)耐火性粒子と、CaO成分を含む耐火性粒子との組み合わせ
【0082】
本発明の耐火物は、これらの類型のいずれか1以上の類型の耐火性粒子を主たる骨材粒子として構成することができる。すなわち、本発明において、「CaO成分を含む耐火性粒子とMgO成分を含む耐火性粒子とを含有する」とは、前記第1の類型のCaO成分とMgO成分の両方を含む耐火性粒子のみを含有する場合も含む概念である。
【0083】
前記第1の類型の耐火性粒子としては、天然のドロマイトを熱処理したクリンカー、あるいはCaO成分を含む原料とMgO成分を含む原料を一体的な粒子状に人工合成したクリンカー(いわゆる合成MgO−CaOクリンカー)が挙げられる。
【0084】
前記第2の類型の「CaO成分を含む(MgO成分を含まない)耐火性粒子」としては、CaOを含有する原料からCaOを主体とする粒子状に人工合成したクリンカーが挙げられ、Caの炭酸化物や水酸化物を含むものも含む。前記第2の類型はこの「CaO成分を含む(MgO成分を含まない)耐火性粒子」と前記第1の類型の粒子との組み合わせとすることができる。
【0085】
前記3の類型の「MgO成分を含む(CaO成分を含まない)耐火性粒子」としては、天然に産出し又は人工合成したMgOを主体とする粒子状のクリンカーが挙げられる。また、「CaO成分を含む耐火性粒子」としては、前記第1の類型の粒子と前記第2の類型の「CaO成分を含む(MgO成分を含まない)耐火性粒子」のいずれか又は両方を挙げることができる。
【0086】
本発明の耐火物は、B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物を含有するが、その原料としてはB、Ti、V、P、Siのそれぞれの酸化物、あるいはそれぞれの水和物、コロイド状物質、金属アルコキシド物質等から選択して単独又は併用して使用できる。例えば、B源として好適なものとして、酸化ホウ素、四ホウ酸、メタホウ酸、オルトホウ酸、ホウ酸エステルなどが使用でき、四ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウムなどホウ酸化合物やほう珪酸ガラス(RO(R=Na、K、Li)成分を含有する場合も含み、この場合のRO成分の含有量はほう珪酸ガラスを100とする割合で10質量%程度以下が好ましい。)なども使用可能である。TiO源としては酸化チタンや、チタン化合物、コロイド状分散液などが使用可能である。V源としては酸化バナジウムなどが、また、P源としてはリン酸、リン酸塩、リン酸エステルなどが使用可能である。更に、SiO源としては、シリカ微粉末やコロイダルシリカ、エチルシリケートなど溶液タイプも使用することができる。
【0087】
これらB、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物は、CaOを含有する粒子の周囲に分散させる必要がある。その方法としては、後述の混練における分散方法の他、これらの原料としては微粉末や液体状態での使用が好ましい。
【0088】
本発明の耐火物には、前述のように耐火性粒子として天然原料を使用することもできるが、このような耐火性粒子として天然原料を使用する場合の他、その他原料中にはその原料製造時の出発原料の純度が低い場合や、製造工程において不可避的に前述の有効成分以外の成分(以下、これら成分を単に「不可避成分」という。)が混入することもあり得る。例えば、Al、Fe、RO(R=Na、K、Li)などである。このような不可避成分は、耐火性粒子の中、耐火性粒子の少なくともCaO表面の被膜中、又はマトリクス組織中のいずれか又は複数の場所に含まれる場合があり、これらの含有量は、3質量%以下程度、好ましくは2質量%以下程度、更に好ましくは1質量%以下にとどめることが好ましい。このような不可避成分の含有量は、各原料に関してその有効成分の純度が高いものを選択する、製造工程において洗浄等を強化する等の方法を採ることにより、ある程度調整することができる。
【0089】
炭素源としては、バインダーとなる炭素原料(バインダー炭素)を使用できる。バインダー炭素としては、非酸化雰囲気焼成後に結合組織としての炭素を残留する割合が高いフェノール樹脂やピッチ、タール系などが好ましい。原料としての形態は、室温で液状であるもの、室温では固形であっても温度上昇に伴って軟化〜液状化する原料を使用することができる。更に、本発明ではこれらの必須の原料に加え、バインダー炭素を除く固体の炭素質原料を任意で使用することができる。バインダー炭素を除く固体の炭素質原料としては、黒鉛、カーボンブラック等の粒子状の他、カーボンファイバーなどの繊維状の炭素質原料を使用することができる。
【0090】
ただし、これらの炭素質原料は、製品段階、すなわち1000℃非酸化雰囲気での加熱後の化学成分において、耐火物に占める割合で2質量%以上35質量%以下となるように、バインダー炭素原料の消失割合(残留炭素割合を除く割合)、固体の炭素原料の消失割合(不純物の加熱減量分等)等を加算した範囲で、はい土に添加する必要がある。
【0091】
前記各原料を本発明で規定する化学成分となるように配合し、その配合物を混練、成形し、800℃以上の非酸化雰囲気下で熱処理する。
【0092】
この混練においては、B、TiO、V、P及びSiOの金属酸化物を、CaOを含有する粒子の周囲に分散させるために、液状又は微粒子化した前述したB、TiO、V、P及びSiOの成分添加物を単独又は併用する形で、CaOを含有する粒子に直接添加して混練することが好ましい。
【0093】
800℃以上の非酸化雰囲気下での熱処理より、CaOを含有した耐火性粒子の少なくともCaO表面に、CaOと前記B、TiO、V、P及びSiOから選択する1種又は2種以上の金属酸化物との化合物からなる0.1μm以上25μm以下の厚さの被膜が形成される。この化合物被膜の厚さは、顕微鏡組織観察やX線マイクロアナライザーにより測定することが可能である。更に、化合物被膜の厚さは、前記B、TiO、V、P及びSiOの添加物の割合を変動させる等の方法によって制御が可能である。
【0094】
なお、熱処理条件を800℃以上の非酸化雰囲気下とする理由は、前記B、TiO、V、P及びSiOの金属酸化物がCaOを含有する粒子との間で、CaOを含有する粒子の消化を抑制するのに十分な程度の反応生成物を得るためである。熱処理温度の上限は特に限定されないが、経済性の理由から、実質的には、1300℃程度が上限である。熱処理時間は最高温度で1時間〜6時間程度が反応進行程度及び経済性の面から、適当である。
【0095】
前記で形成した被膜を備えたCaOを含有する粒子の耐消化性は、高温下での炭酸ガスとCaOとの炭酸化反応により更に強化することが可能である。すなわち、前述の製造方法によって得たCaOを含有した粒子表面でCaOとB、TiO、V、P及びSiOとの反応により生成した無機質被膜層を有した耐火物を、更に380℃〜830℃の温度範囲内で炭酸ガス雰囲気に曝し、耐火物組織を構成するCaO含有粒子の少なくともCaO表面の無機質被膜層の欠陥部にて、炭酸化反応(CaO+CO→CaCO)を生じさせることで、無機質被膜の欠陥部にCaCOを生成させ、無機質被膜の欠陥部を殆ど皆無にすることが可能となり、その結果、耐火物の耐消化性を著しく改善することが可能となる。この処理温度を380〜830℃とする理由は、炭酸カルシウム(CaCO)が生成する温度以上かつ炭酸カルシウム(CaCO)が分解する温度以下にするためである。
【0096】
ここで、無機質被膜の欠陥部とは、CaOとB、TiO、V、P及びSiOの金属酸化物との反応生成物からなる無機質被膜中に存在する微細なガス孔、亀裂、剥離等であり、耐火物組織内でのCaOを含む粒子表面でCaOが反応生成物からなる無機質被膜で保護されておらず、外界から遮断されていない部位をいう。
【0097】
この炭酸化処理は、その結果として生成するCaCOがCaOを含有する耐火物中に0.1質量%以上、2.5質量%未満となるように行う。CaCOの含有量が2.5質量%以上であると、鋳造初期のCaCOの分解ガスによる鋳型内での大きな湯面変動、いわゆる湯沸き現象が激しくなるため好ましくなく、鋳造前の予熱温度を上げCaCOの分解を促進するなどの工程が必要となる。一方、0.1質量%より少ないと欠陥部でのCaCO生成が十分でなく耐消化性を向上させる効果が得られない。なお、このCaCOの含有量の制御は、炭酸ガス濃度、処理温度、処理時間、炭酸ガス圧力等を変動させることによって行うことができる。
【0098】
更に、本発明の耐火物の熱膨張率を低減し、予熱、鋳造時の熱衝撃破壊や押し割りによる破壊の危険を低減するには、前述の要領でCaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子と炭素質マトリックスとの間に空隙層厚さ率MS値(%)で0.1%以上3.0%以下の割合を持つ空隙層が形成された組織とすることができる。
【0099】
CaO、MgOを含有した耐火性粒子の表面で空隙層を形成させるには、その表面に原料段階や製造プロセスの熱処理の段階で、水や水分を含んだ気体とこれらの粒子を所定時間接触させる方法、あるいは酸やアルカリ溶液やガスとの接触による、水和物層や塩化物層や炭酸化物層を所定厚み形成する。
【0100】
粒子表面に予め被覆層を形成した耐火性粒子としては、CaOやMgOなどとの化学反応により生成した水和層、塩化物層、炭酸化層などの所定厚さの被覆層を有するCaO、MgOを含有した耐火性粒子を用いることが好ましい。CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子の前処理としてのこれらの処理は、CaO成分及びMgO成分のいずれか一方又は両方を含有した耐火性粒子表面に被覆層を形成する観点から、ガス又は液体による処理が好ましい。あるいは、組織中にあらかじめ水酸化物や炭酸化合物を分散する方法により、製造段階や操業段階での熱処理の過程でCaO表面に化合物層を形成する方法でも構わない。
【0101】
なお、前記の所定厚さは一定ではなく、表面に被覆層を形成する粒子の大きさに対する空隙の厚さを前記のMS値になるよう適宜調整するために、被覆層を形成する際の反応等に伴う膨張・収縮特性の成分による違い等を考慮して、具体的な設計条件に応じて個別に設定する。
【0102】
以下に製造方法の1例を示す。ある一定厚さの水和層を形成した焼成ドロマイト(CaO・MgO)耐火性粒子と炭素質原料、硼酸成分と有機質バインダーとを混合、混練した後、そのはい土を適正な成形性に調整した後に成形する。成形後に非酸化雰囲気で被覆層(水和層)の分解以上の温度である1000℃非酸化雰囲気下で熱処理を加える。これにより被覆層(水和層)が分解し、多孔質で活性なCaOやMgOを含んだ層が粒子表面で生成することになる。
【0103】
このような水和層、塩化物層、炭酸化層などの所定厚さの被覆層を表面に有する粒子の加熱途中に耐火物組織内にあるB、TiO、V、P及びSiOなどの酸性酸化物が、CaOを含む塩基性酸化物の粒子表面全域で被膜を形成する。その後、CaOあるいはMgO粒子表面の被覆層(水和層)が分解して、この層が存在した部分が多孔質な層として形成されることになる。更にこれらの水和層、塩化物層、炭酸化層などの被覆層が分解した部分は多孔質であり活性なので(以下この層を単に「活性層」ともいう。)、B、V、TiO、V、P及びSiOなどとの反応性が高く、これら反応によって形成したCaOとの無機質被膜は緻密化し、緻密化の結果として元々多孔質であった活性層の厚さが減少することになる。このようにして焼成が終了した段階では、高膨張粒子(CaO、MgO等)表面に形成した被膜と炭素質成分を主とするマトリクス組織との間には、ある範囲の空隙を形成することになる。
【0104】
空隙層の厚さすなわち初期の粒子表面に形成する被覆層の厚さの調整は、水蒸気等の処理剤となるガス等の濃度、処理温度、処理時間、炭酸ガス圧力等を変動させることによって行うことができる。
【0105】
また、このようにCaOを含有する粒子表面に空隙を形成し、かつB、TiO、V、P及びSiOのいずれか1種以上の金属酸化物との被膜を形成した耐火物についても、更に前述の380〜830℃の温度範囲内での炭酸ガス処理を行うことができる。これにより、CaOを含有する粒子の周囲に空隙を備え、かつ強固なCaO系保護被膜をも備えることができ、耐熱衝撃性、耐押し割り性にも極めて優れるのみならず、耐消化性にも極めて優れたCaOを含有する耐火物を得ることができる。
【0106】
以上により得られる本発明の耐火物は、溶鋼と接触する部位の一部又は全部の領域に配置することで、溶鋼に由来するアルミナ等の非金属介在物の前記耐火物表面への付着を抑制することができるので、鋳造用ノズルに好適に適用できる。
【0107】
図1A(a)は、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の本発明の耐火物20を、溶鋼と接触する部位の一部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置した浸漬ノズル(鋳造用ノズル)の例を示す。図1A(a)において、パウダーライン材質21部分にも本発明の耐火物20を配置すれば、本発明の耐火物20を、溶鋼と接触する部位の全部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置した浸漬ノズル(鋳造用ノズル)となる。なお、図1A(a)は円筒状の例を示したが、本発明の耐火物を適用する鋳造用ノズルはこのような円筒状に限らず、例えば図1A(b)に示すような、主として薄スラブの鋳造に使用される扁平状、楕円状、ファンネル形(上部が拡径した漏斗状)等、ノズルの形状に制限されることなく、さまざまな形状の浸漬ノズルに適用することができる。
【0108】
図1Bの左側は鋳造用容器内から溶鋼を排出する際の溶鋼流通経路としてのノズル部が、複数の鋳造用ノズルからなる構造体のうち、浸漬ノズルが外装式の例を示す。本発明の耐火物は、浸漬ノズルFだけでなく、このような複数の鋳造用ノズルからなる構造体の上部ノズルA、スライディングノズルプレートB、下部ノズルC、ロングノズルD等の諸々のノズルの溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置して適用することができる。また、排出経路としてのノズル部が一体化された構造の、いわゆる内挿式浸漬ノズル(図1Bの右側)、溶鋼中に浸漬されない、いわゆるオープンノズル等にも適用することができる。更には、ノズル部の上方に位置して溶鋼流量又は開閉を行うストッパーEや溶鋼容器の内張り用耐火物Gとしても適用することができる。
【0109】
アルミナ等の非金属介在物の耐火物表面への付着の場所や程度は、個別の操業条件に依存して変動する。したがって、前述の溶鋼と接触する部位の「一部」又は「全部」の領域は、各個別の操業条件ごとに、最も付着を抑制したい部位を選択して決定するものであって、固定的なものではない。したがって、「一部」ないし「全部」の領域は任意に決定し得る事項である。また、図1A(a)及び図1A(b)のような単層の構造であれば、押し割り等の危険性は小さい。また、製造上最も簡便である。このような単層の鋳造用ノズルの製造では、前述した製造方法を基本としつつ、CIP成形用モールド内の対象領域に、本発明の耐火物用はい土を単層として充填すればよい。
【0110】
なお、本発明の耐火物20は、一個の鋳造用ノズル内で同一である必要はなく、部位ごとに異なる損傷形態又は速度が異なる場合に、それらを均一化する等の目的で、個別の条件に応じて任意に区分した部位ごとに耐火物組成等を変化させることもできる。このことは、後述の図2図3においても同様である。
【0111】
図1A(c)は、前記図1A(a)の浸漬ノズルの内孔部(内孔壁面)の一部から溶鋼中にガスを吹き出す機能を備えた浸漬ノズルの例を示す。この例では内孔部の一部に通気性が高い耐火物22G(以下、単に「通気用耐火物」ともいう。)を配置している。この通気用耐火物22Gの材質は、一般的なアルミナ−黒鉛質の通気用耐火物とすることもできるほか、本発明の耐火物組成を維持しつつ気孔率や通気率等を高めた材質とすることもできる。なお、溶鋼中へのガスの供給は、前記図1A(c)の例のような浸漬ノズルだけでなく、その上方に位置する上部ノズルやスライディングノズル等の溶鋼流通経路中の他の部位からも行うことができる。
【0112】
図2(a)は、本発明の耐火物20が溶鋼に接触する面の一部(ここでは内孔面)に配置され、その背面側には耐火物20とは異なる組成の耐火物(パウダーライン材質21又は本体材質22)からなる層が配置された複数の層をなしており、前記複数の層が相互に直接接触した状態で一体構造とされている浸漬ノズル(鋳造用ノズル)の例を示す。
【0113】
図2(b)は、本発明の耐火物20が溶鋼に接触する面として図2(a)に加え、吐出孔内面及びその外周面にも適用された場合の一例であって、吐出孔直上部から下方全てを本発明の耐火物20にて構成した例を示す。この構造のほか、吐出孔直上部から下方領域の溶鋼と接触する面のみを本発明の耐火物20にて構成し、内部はアルミナ−黒鉛質等他の耐火物とすることもできる。
【0114】
図2(c)は、前記図2(b)の浸漬ノズルの内孔部(内孔面)の一部から溶鋼中にガスを吹き出す機能を備えた浸漬ノズルの例を示す。すなわち、浸漬ノズルの内孔部の一部に通気性の耐火物22Sを配置し、この通気性の耐火物22Sから溶鋼中にガスを吹き出す。なお、図2(c)中の符号22Sは空間で、ガスの通過経路であり、ガスの蓄圧室でもある。
【0115】
図2(a)〜図2(c)に示す背面側の耐火物(パウダーライン材質21及び本体材質22)の具体的例としては、Al、SiO、MgO、ZrOのうち一種以上若しくはこれらの化合物からなる耐火性粒子と炭素からなる1種以上の耐火物、又は、本発明の耐火物ではあるが溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置されている耐火物とは組成等が異なる耐火物である。後者の例としてはCaO/MgO比が異なる、炭素含有量が異なる、SiO、ZrO、SiC、金属Si等の成分が存在するか存在しない、又は量が異なる、耐火原料の粒度構成が異なるもの等がある。このような構造の鋳造用ノズルは、特に鋳型内のパウダーに対する高い耐食性が要求されるような場合に有効である。すなわち、非金属介在物の付着以外の寿命等決定要素に対する改善をも同時に行うものである。
【0116】
このような複数層からなる鋳造用ノズルの製造では、前述した製造方法を基本としつつ、CIP成形用モールド内の対象領域に、溶鋼と接触する面から半径方向の所定の厚さの位置ではい土投入用の空間を仕切り、その表面側に本発明の耐火物用はい土を充填し、背面側に例えば前記の、Al、SiO、MgO、ZrOのうち一種以上又はこれらの化合物からなる耐火性粒子と炭素からなる1種以上の耐火物用はい土を充填すればよい。その後成形前にこの仕切りに使用した板等の治具を取り除いて加圧成形すればよい。
【0117】
図3(a)は、基本的に前記図2(a)〜図2(c)に示す例と同様の目的で複数層を備え、更に本発明の耐火物20の層とその背面側に配置された耐火物(パウダーライン材質21及び本体材質22)の層との間に炭素含有量が90質量%以上で厚さが0.1mm以上3mm以下のシート状の層又はモルタルの層23が配置されている構造を備えた浸漬ノズル(鋳造用ノズル)の例である。背面側の耐火物の具体的例としては、前記図2(a)〜図2(c)の例と同様である。
【0118】
図3(b)は、本発明の耐火物20が溶鋼に接触する面として図3(a)に加え、吐出孔内面及びその外周面にも適用された場合の一例であって、吐出孔直上部から下方全てを本発明の耐火物20にて構成した例を示す。この構造のほか、吐出孔直上部から下方領域の溶鋼と接触する面のみを本発明の耐火物20にて構成し、内部はアルミナ−黒鉛質等他の耐火物とすることもできる。
【0119】
図3(c)は、前記図3(b)の浸漬ノズルの内孔部(内孔面)の一部から溶鋼中にガスを吹き出す機能を備えた浸漬ノズルの例を示す。
【0120】
炭素質のシート状の層23は、それ自体が鋳造用ノズルを構成する耐火物の酸化物成分と反応することはほとんどない。そのため、鋳造時間が特に長くなる又は特に高温で操業が行われる等の、本発明の耐火物層とその背面側に配置されている、例えばAl−C質、Al−SiO−C質、ZrO−C質、スピネル−C質又はMgO−C質等のいずれかの耐火物層との間での相互の反応による低融物を形成、ひいては鋳造用ノズルとしての構造を鋳造操業の間保てなくなるような危険性が高い操業条件の場合にもその危険性を回避する機能を果たす。
【0121】
また、このような耐火物成分との反応性が小さいことから、複数の層間の熱膨張率の違い等に伴う各層間相互の発生応力を緩和する機能をも果たすことができ、耐熱衝撃性や押し割りの抑制効果を更に高めることができる。
【0122】
この炭素質のシート状の層の炭素含有量が90質量%以上であるのは、炭素以外の成分が10質量%を超えると、前記の各耐火物と反応しやすくなって、低融物を生成して複数層からなる鋳造用ノズルの構造維持が困難になり、又は応力緩和能が低下して耐熱衝撃性が低下しやすくなるからである。
【0123】
この炭素質のシート状の層の厚さが0.1mm以上であるのは、本発明の用途で、0.1mm未満の場合には市場に流通するシート状の炭素の一般的な強度レベルでは機械的な損傷を生じやすいからである。また、厚さが3mmを超えると、内孔側耐火物あるいは本体側耐火物の厚さの確保が困難となるため、耐用面で耐火物厚さの確保の点や内孔側耐火物層の鋳造中の剥離などの点で問題が生じ好ましくない。最適な厚さは0.4mm以上1.0mm以下である。
【0124】
このような複数層からなる鋳造用ノズルの層間にシート状の炭素質層を配置する場合の製造方法は、前述した製造方法を基本としつつ、CIP成形用モールド内の対象領域に、溶鋼と接触する面から複数層からなる鋳造用ノズルの場合と同様であるが、はい土投入用の空間を仕切るための治具としてこの炭素質シートを使用し、かつ、その表面側に本発明の耐火物用はい土を充填し、背面側に例えば前記の、Al、SiO、MgO、ZrOのうち一種以上又はこれらの化合物からなる耐火性粒子と炭素からなる1種以上の耐火物用はい土を充填すればよい。その後、この炭素質シートを残した状態で加圧成形すればよい。
【0125】
本発明では、前述の複数層からなる鋳造用ノズルの層間にシート状の炭素質層を配置する場合の他、この層間のシート状の炭素質層の位置にこれら複数層を相互に接着する層(以下単に「モルタル層」という。)を配置することもできる。これは、いわば部品として各層ごとに製造された部分を、モルタル等の接着機能を備えた層により組み立てた構造体とする、すなわち、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の本発明の耐火物20の層を構成する単体(以下、この単体を「スリーブ層」ともいう。)と、このスリーブ層以外の本体部を構成する単体とを、各々別々の工程によって製造しておき、耐火物20の層(スリーブ層)を前記の本体を構成する単体に組み込んで、一個の鋳造用ノズルとする場合である。
【0126】
この構造は、鋳造の操業において溶鋼の成分等が変動して鋳造用ノズルの内孔面へのアルミナ等溶鋼由来の成分の付着の程度が異なる等の条件において、特に有効である。すなわち、操業の個別条件におけるアルミナ等の付着程度を最小化するため、本発明の耐火物20の成分をその条件に合致するように最適化すると共に、その最適化した本発明の耐火物20の層を備えた鋳造用ノズルを得ることを容易にする。
【0127】
モルタル層は、溶鋼に接する部分に配置する本発明の耐火物20からなる層とその背面側の本体を構成する層との間の融着や焼結等を避けるために、AlやSiOなど酸性酸化物の含有量が20質量%以下であることが好ましい。残部はMgO、CaO、ZrO又はSiC等の非酸化物やMg、Al−Mgなどの金属とすることができる。このモルタル層の厚さは0.1mm以上3mm以下程度であれば融着や焼結等を避けることができるが、モルタルの充填時に接着不良が生じることもあるので、1mm以上であることが望ましい。3mmを超えると、鋳造中のモルタル自体の劣化などによりスリーブ層が剥離し鋳片に剥離片が混入する虞が大きくなる。
【0128】
なお、このような浸漬ノズルの構造には、内孔部の一部にガス吹き込み用の耐火物からなる層を備えて内孔にガスを吹き込む機能を備えることもできる。これらの構造は、個別の操業条件及び具備(要求)特性に応じて適宜選択することができる。
【0129】
図4及び図5は、それぞれ図2と同様に、本発明の耐火物20が溶鋼に接触する面の一部又は全部に配置され、その背面側には耐火物20とは異なる組成の耐火物(本体材質22)からなる層が配置された複数の層をなしており、前記複数の層が相互に直接接触した状態で一体構造とされている下部ノズル及びロングノズルの例を示す。図6及び図7は、それぞれ図3と同様に、本発明の耐火物20の層とその背面側に配置された耐火物(本体材質22)の層との間に炭素含有量が90質量%以上で厚さが0.1mm以上3mm以下のシート状の層23が配置されている構造を備えた下部ノズル及びロングノズルの例である。
【実施例】
【0130】
<実施例A>
この実施例では、耐火物の化学成分のうち、金属酸化物量の影響を調査した。
【0131】
表1に示す配合の耐火原料(耐火性粒子)にバインダーとしてフェノールレジンを添加し、混練後のはい土を成形に適した成形性に調整した。そのはい土をCIPにより成形後、300℃までの硬化−乾燥処理を行った後、1200℃非酸化雰囲気での熱処理を行った。また、一部については、600℃のCOガス雰囲気内で60分間の炭酸化処理を行った。なお、本実施例では、CaO、MgOを含有した耐火性粒子として焼成ドロマイトクリンカー粒子を使用し、本発明の被膜を形成する金属酸化物として酸化硼素(B)を使用した。
【0132】
得られた耐火物の化学成分を分析し、組織状態を観察すると共に、評価試験に供した。化学成分は、試料を1000℃の非酸化雰囲気で加熱した後に分析した。組織状態は、耐火物組織に樹脂含浸した後に機械研磨により鏡面を出し、顕微鏡観察により微構造を観察した。
【0133】
耐火物の評価は、溶鋼中回転試験及び耐消化性試験により行った。溶鋼中回転試験は、本発明の耐火物が前提として備える難付着性を、耐食性と同時に評価することができる方法である。
【0134】
なお、以下の実施例において「耐食性」又は「溶損」とは、損傷の原因となったメカニズムが化学反応による溶損(低融化等によるコロージョン等)であるか、摩耗等機械的な浸食による損耗(いわゆるエロージョン)であるかを問わず、試験後の試料の寸法が減少した場合を総括的に表現する概念として使用している。
【0135】
図8は溶鋼中回転試験方法の概略を示し、図9は溶鋼中回転試験用の試験片を示し、(a)は正面図(イメージ)、(b)は平面図(イメージ)を示す。
【0136】
溶鋼中回転試験では、ホルダー11の下部に保持された試験片10を、坩堝12内の溶鋼13中に浸漬する。試験片10は直方体で4つあり、四角柱のホルダー11の下部の4面にそれぞれ固定されている。この試験片10は、四角柱のホルダー11に設けた凹部にモルタルを介して挿入されており、試験終了後は引き抜くことで外すことができる。ホルダー11は上部が図示していない回転軸に接続され、長手軸を回転軸として回転可能に保持されている。
【0137】
ホルダー11は水平断面において1辺が40mmの正方形をしており、長手方向の長さは160mmで、ジルコニアカーボン質の耐火物製である。試験片10は、ホルダー11からの露出部が縦20mm、横20mm、突出長さ25mmである。また、試験片10の下端面がホルダーの下端面から上に10mmの位置に取り付けられている。坩堝12は、内径130mm、深さ190mmの円筒形の耐火物製である。ホルダー11の浸漬深さは50mm以上である。坩堝12は高周波誘導炉14に内装されている。また図示していないが、上面には蓋をすることができる。
【0138】
溶鋼中回転試験は、溶鋼13上で試験片10を5分間保持することで予熱した後、溶解した溶鋼13(低炭素アルミキルド鋼)中へ試験片10を浸漬し、試験片10の最外周面で平均1m/secの周速で回転させる。試験中は、溶鋼13中へアルミニウムを添加することで酸素濃度を10〜50ppmの範囲に保持し、しかも温度を1550〜1600℃の範囲に保持する。3時間後に引き上げて試験片10の付着・溶損速度(μm/min)を計測する。
【0139】
付着・溶損速度の測定は、図10(b)に示すように試験終了後の試験片10をホルダーから外して回転軸に対する水平面で切断する。切断面において端面10aから回転軸方向に向って3mmのピッチで6箇所の長さを測定し平均する。試験前の試験片10についても図10(a)に示すように同様に長さを測定し平均しておく。試験前の平均値(mm)から試験後の平均値(mm)を差し引いた値を試験時間180分で除することで付着・溶損速度(μm/min)を算出する。マイナスの場合は溶損傾向、プラスの場合は付着傾向であることを示す。
【0140】
耐消化性の試験は、恒温恒湿器を用いて行った。試験片は20×20×80mmの形状とし、この試験片を40℃で90%の相対湿度中の空気中で保持し、保持前後の重量変化を測定した。そして、重量変化指数(保持後の試験片重量/保持前の試験片重量)×100)が101.5を超えるまでの日数を測定した。使用可否の判断として、3日以上耐久するもの(前記日数が3日以上のもの)は使用可能と判断した。31日以上耐久するものは最も優れており、水分不透過性の被膜がほぼ完全に形成されたと考えた。この耐久性は、従来技術では得ることはできないレベルである。
【0141】
評価結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
比較例1、比較例2は酸化硼素ゼロすなわち被膜がない例である。比較例2では石灰含有耐火物の消化防止は、炭酸化処理のみを行った。炭酸化処理の有無にかかわらず、被膜がない場合には耐消化性が2日以内であって、合格レベルには達していない。
【0144】
実施例1〜10は、酸化硼素を0.1質量%〜5.0質量%含み、被膜を有している例である。酸化硼素を含有することで耐消化性が顕著に高くなることがわかる。また、酸化硼素の含有量が増加するのに伴い、耐消化性が高くなることがわかる。
【0145】
しかし、酸化硼素の含有量が5.0質量%を超える比較例3、比較例4では、耐消化性及び溶鋼中回転浸食(難付着性)の評価は十分であるものの、溶損量が実用可能な範囲を超える程度に大きくなっており、耐火物の溶損による寿命低下を来す虞がある。
【0146】
実施例4は実施例3に、実施例6は実施例5に、実施例8は実施例7に、実施例10は実施例9に、炭酸化処理を施した例である。すなわち、これらは酸化硼素系の被膜に加えて炭酸化物を有する例である。炭酸化処理を施したいずれの例も、酸化硼素系の被膜のみを有する例に対して更に顕著に耐消化性が向上していることがわかる。
【0147】
<実施例B>
実施例Bは、本発明の金属酸化物として酸化バナジウム(V)及び酸化チタニウム(TiO)、五酸化二リン(P)、酸化珪素(SiO)、ほう珪酸ガラスについて、耐消化性その他の特性を調査した例である。また、酸化硼素(B)も含め、これら金属酸化物を併存する場合の効果も調査した。試料は、実施例Aと同じ要領で製造し、同じ方法で評価を行った。
【0148】
耐火原料の配合組成及び評価結果を表2に示す。
【0149】
【表2】
【0150】
、TiO、P、SiO、及び主にSiO、B成分からなるほう珪酸ガラス粉末のいずれの実施例も、耐消化性、難付着性、耐溶損性に関してBの場合と同様の顕著な効果が得られた。更にBとSiOを併存する実施例16、BとTiOを併存する実施例17、B、V、TiOの3者が併存する実施例18の、これら成分が併存するいずれの場合も、耐消化性、難付着性、耐溶損性に関してBの場合と同様の顕著な効果が得られた。
【0151】
なお、B、V5、TiO、P、SiOの5者の中では、Bが耐消化性に関しては最も高い傾向を示すことがわかる。
【0152】
<実施例C>
実施例Cは、耐火物の化学成分のうち、炭素含有量及びCaOとMgOとの合量の影響を調査した例である。前記実施例Aと同じ要領で耐火物を製造し、その評価を行った。耐火物の評価としては、溶鋼中回転試験及び耐消化性の試験に加え、耐割れ性の試験を行った。
【0153】
耐割れ性の試験では、内径φ80mm、外径φ110mm 長さ300mmの円筒状試験片に1600℃の溶鋼を流し込む方法で熱衝撃を耐火物に与えた。試験片は全て、溶鋼の注湯前に1000℃で1時間加熱保持し、その後溶鋼を注湯した。注湯後に外観観察を行うと共に、50mmピッチで水平方向に切断して亀裂の有無をチェックした。亀裂のない試験片を使用可能と判断した。
【0154】
耐火原料の配合組成及び評価結果を表3に示す。
【0155】
【表3】
【0156】
実施例Cでは、酸化硼素、酸化バナジウム、酸化チタニウム、五酸化二リン、酸化珪素、及びほう珪酸ガラスの群の中から代表例として酸化硼素を選択し、一定含有量(1.5質量%)並びに上限含有量(5.0質量%)及び下限含有量(0.1質量%)とした。その上で炭素の含有量を変化させ、炭素及び酸化硼素との合量の残部を、CaOとMgOとの合量になるように配合設計を行った。
【0157】
CaOとMgOとの合量が60質量%〜97.9質量%であって炭素含有量が35質量%〜2質量%の実施例6、実施例19〜実施例26では、耐消化性はいずれも顕著に優れている他、溶鋼中回転試験、耐割れ性も良好である。炭素含有量が増加するのに伴って溶鋼中回転試験での溶損傾向が大きくなることがわかる。
【0158】
なお、炭素及び酸化硼素が各々下限含有量であって残部がCaOとMgOである実施例24では、耐消化性が他の実施例よりは低下傾向にあるが、表1に示した従来技術の代表例である比較例1及び比較例2に対して顕著な向上効果が認められる。
【0159】
炭素含有量が36質量%である比較例5では溶鋼中回転試験での指数が、使用可能限界とみなした指数±35を超える−40と、溶損が大きくなっている。また炭素含有量が1質量%である比較例7は、縦割れが発生して耐割れ性が劣る結果となった。これらの結果から、炭素含有量は2質量%以上35質量%以下である必要があることがわかる。同様に、酸化硼素含有量が最大の5.0質量%で炭素含有量が最大の35質量%である実施例26でも、いずれの評価項目も良好な結果を得ることができることがわかる。
【0160】
なお、表3の各実施例における炭素、酸化硼素、酸化バナジウム、酸化チタニウム、五酸化二リン、酸化珪素、及びほう珪酸ガラスの合量の残部としてのCaOとMgOとの合量については、60質量%以上97.5質量%以下であることがわかる。
【0161】
<実施例D>
この実施例では、耐火物の化学成分のうち、(CaO/MgO)質量比の影響を調査した。ここでは炭素量を21.6質量%に固定し、CaO/MgO比を変化させた。前記実施例Aと同じ要領で耐火物を製造し、その評価を行った。
【0162】
耐火原料の配合組成及び評価結果を表4に示す。
【0163】
【表4】
【0164】
(CaO/MgO)質量比が1.5〜0.1である実施例6、実施例27〜実施例31では、耐消化性はいずれも顕著に優れている他、溶鋼中回転試験、耐割れ性も良好であることがわかる。
【0165】
(CaO/MgO)質量比が1.6である比較例8は、溶鋼中回転試験での指数が使用可能限界とみなした指数±35を超える−36と、溶損が大きくなっている。また、(CaO/MgO)質量比が0.04である比較例9は、溶鋼中回転試験での指数が使用可能限界とみなした指数±35を超える+50と、付着が大きくなっており、更に割れが発生し耐割れ性が劣る結果となった。これらの結果から、(CaO/MgO)質量比は0.1以上1.5以下にする必要があることがわかる。
【0166】
<実施例E>
この実施例Eでは、耐火物の化学成分のうち、CaCO量の影響を調査した。耐火物の製造方法は前記実施例Aと同様であるが、本実施例では炭酸化処理の時間を変えることにより耐火物中のCaCO量を変化させた。炭酸化処理により得られた耐火物の評価は、溶鋼中回転試験及び耐消化性の試験に加え、脱ガス性の試験を行った。
【0167】
脱ガス性の試験では、内径φ80mm、外径φ110mm 長さ300mmの円筒状試験片を1600℃に保持した溶鋼中に浸漬し、その際の湯面のボイリング状況を観察した。溶鋼浸漬前の試験片は実際の使用(予熱)条件に合わせて予め900℃で30分間加熱保持し、その後浸漬した。激しくボイリングが発生した試験片の耐火物は使用不可と判断した。
【0168】
なお、CaCO含有量の測定においては、他の化学成分のように1000℃の非酸化雰囲気で加熱された後の試料について評価するとCaCOは分解するので、炭酸化処理後の試料につき(試料はCaCOの分解温度(約825℃)よりも高い温度に曝されていない)、1100℃の非酸化雰囲気中加熱時の炭酸ガス発生量を測定し、その炭酸ガス発生量から計算によりCaCO含有量を求める方法や密閉容器にいれた試料に塩酸と反応させて生成した炭酸ガス量より計算によりCaCOを求める方法等が適用可能である。
【0169】
耐火原料の配合組成及び評価結果を表5に示す。
【0170】
【表5】
【0171】
実施例6及び実施例32〜35はBとCaOとの化合物の無機質被膜を一定厚さ生成させた状態で、更にCaCOをCaO表面で反応生成させた場合を示している。CaCOの含有量が増えるのに伴い、耐消化性が大幅に改善することがわかる。一方、実施例35では900℃−30分間の予熱後に1600℃の溶鋼に浸漬した場合、未分解のCaCOからの炭酸ガスにより僅かにボイリング現象が発生した。予熱温度を上げるなどの対策が必要であるが、実用に耐えうるレベルである。
【0172】
<実施例F>
この実施例Fは、焼成ドロマイトクリンカー粒子と炭素質マトリックスとの間に空隙層が存在する場合の効果を確認した例である。
【0173】
炭素質マトリックスを有する耐火物組織中の粗粒骨材の周囲の空隙層の厚さを、原料の前処理厚さを変えることにより、熱処理後に生成する空隙層の厚さ率(MS値(%))を変化させ、MS値が熱膨張量に与える影響について調査した。
【0174】
具体的には、焼成ドロマイトクリンカー粒子と炭素質マトリックスとの間に空隙層を形成するために、予め焼成ドロマイトクリンカー粒子の表面に室温にて水和処理を施し、その表面の水和処理時間を調整することで厚さの異なる水酸化物からなる前処理層(被覆層)を形成した。
【0175】
マグネシアクリンカーについても同様の前処理を行った。
【0176】
試料の作製方法は、次のとおりである。
【0177】
前記の水和層厚さの異なる耐火原料を含む各配合設計に応じた耐火原料(耐火性粒子)にバインダーとしてフェノールレジンを添加し、混練後のはい土を成形に適した成形性に調整し、CIPによる成形を行った。その成形後、300℃までの硬化−乾燥処理を行い、1200℃非酸化雰囲気での熱処理を行った。加熱処理中に水和物の分解温度を超えると、水和層の厚さに応じた活性で多孔質な層が粒子表面に形成されることになる。その後、更なる高温下で多孔質層とBとが反応し、前記の多孔質層が緻密化し(緻密化の結果としてその部分の体積は収縮する)、粒子表面に空隙層が形成される。
【0178】
実施例36〜38は、前記の酸化硼素を1.6質量%含み水和処理を行っていない実施例21を基礎に、水和処理を行った例である。前述の方法により空隙層を形成し、前述の方法によりMS値を測定した。
【0179】
得られたMS値の効果は、異なる耐火物試料につき、溶鋼中回転試験及び耐消化性の試験に加え、熱機械分析(TMA)により1500℃までの最大熱膨張率を測定することにより評価した。
【0180】
耐火原料の配合組成及び評価結果を表6に示す。また、表6に示す実施例36の組織写真を図11に示す。図11(a)が熱処理前、図11(b)が熱処理後である。図11中、1は被覆層(水和層)、2は熱処理前の炭素質マトリックス、3は焼成ドロマイトクリンカー粒子、4は熱処理後の炭素質マトリックス、5は熱処理後に生成した空隙層、6は熱処理後に生成したB系被膜である。
【0181】
【表6】
【0182】
水和処理による空隙層を備えず、酸化硼素すなわちB系被膜をも備えていない比較例10は、当然に耐消化性が顕著に劣る(比較例1と同程度)他、1500℃までの最大熱膨張率が一般的な塩基性材質の膨張率と同程度の1.3%と高いことがわかる。
【0183】
また、水和処理による空隙層を備えないものの、酸化硼素すなわちB系被膜を備えている実施例21には、熱処理後に比較例10よりも大きい、MS値が0.1%の空隙層が形成されて1500℃までの最大熱膨張率が1.1%と低膨張化していることがわかる。すなわち、B系被膜の存在が熱膨張低下に若干寄与していることがわかる。
【0184】
これらに対し、水和処理による空隙層を備える実施例36〜38の1500℃までの最大熱膨張率は顕著に低下しており、更にMS値の上昇に伴い低下することがわかる。しかし、MS値の増加により溶鋼中回転試験での溶損量が増加する傾向が観られる。少なくともMS値が3.0%までは、溶鋼中回転試験での指数が使用可能限界とみなした指数±35を超えておらず許容範囲にあることがわかる。
【0185】
なお、前記の水和による空隙層は、粒子表面に粒子の崩壊を招来しない程度に形成させることから、その得られた空隙層の厚さは、MS値で約3.0%程度までが安定的に形成できる上限でもある。
【0186】
CaO及びMgOを含有する耐火物を浸漬ノズルの内孔部などの溶鋼と接触する面に配置して、外周側のAl−C材質やZrO−C材質等の組成の異なる耐火物層と一体成形して、難付着材質として適用する場合に、溶鋼温度レベルまで加熱され、使用される際に押し割りなどの問題が発生することがある。このような場合には、浸漬ノズル等の構造を、内孔部などの溶鋼と接触する面に配置するCaO及びMgOを含有する耐火物層とその外周側に位置するAl−C材質やZrO−C材質等の組成の異なる耐火物層との間に、応力緩和層を形成する(一体成形であるか否かにかかわらず)ことが従来技術では一般的である。
【0187】
1500℃までの加熱における熱膨張率を測定すると、一般的なAl−C材質やZrO−C材質の最大熱膨張率が+0.6%程度である。これらの外周側に設置する、一般的なAl−C材質やZrO−C材質等の熱膨張率と同等以下の熱膨張性を備えた耐火物をその内孔側に配置すれば、一体成形による構造を備えた浸漬ノズル等であっても押し割り等の破壊を回避することができることになる。
【0188】
本発明の、前述の空隙層により熱膨張を低下させた耐火物では1500℃までの最大熱膨張率が0.4%以下であって、このような一体成形構造の浸漬ノズル等に使用することも十分可能である。すなわち、本発明の低熱膨張性の耐火物であれば、幅広い材質や構造における浸漬ノズル等の複層構造化が可能となる。
【0189】
なお、本発明の低膨張化耐火物の技術は、製鋼用耐火物や連続鋳造用耐火物全般に適用可能な技術である。
【0190】
<実施例G>
この実施例GはSiC、Si、ZrO及び金属Siから選択する1又は複数種を含み、残部が前記[課題を解決するための手段](1)(請求項1)に記載の耐火物からなる耐火物につき、これら成分の効果を調査した例である。
【0191】
試料の作製方法、評価方法等は前述の実施例A〜Fと同様である。但し、溶鋼中回転試験ではイオウ濃度を100〜200ppm、溶鋼酸素濃度を20ppm以下に調整した溶鋼を使用した(なお、実施例A〜実施例Fでの溶鋼中回転試験での溶鋼中イオウ濃度は50ppm以下、溶鋼酸素濃度は20ppm以下である)。
【0192】
SiC、Si、ZrO及び金属Siを含有させる基本部分すなわちこれら成分の残部の耐火物は、実施例6の組成の耐火物とした(以下「基本耐火物という」)。この基本耐火物に対し、SiC、Si、ZrO及び金属Siの各成分をそれぞれ内掛け成分含有量として前述の上限値以下になるように基本耐火物配合のはい土中に混和し、以降、同様の製造工程・方法にて各例の試料を作製した。
【0193】
配合割合、化学組成及び評価結果を表7に示す。
【0194】
【表7】
【0195】
実施例39〜実施例41は、SiCを0.5質量%〜20質量%含有させた例である。溶鋼中回転試験では溶鋼中イオウ濃度の影響により、SiCを0.5質量%含有させた実施例39でも鋳造の操業に使用可能な範囲内ではあるが、付着傾向が観られる。SiCを10質量%含有させた実施例40では付着が解消されてわずかな溶損傾向が観られ、SiCを20質量%含有させた実施例41では溶損が大きくなる傾向が観られ、SiCを22質量%含有させた実施例42では溶損がさらに大きくなる傾向が観られる。このように溶鋼中のイオウ濃度が100〜200ppmと高い場合でも、SiC成分含有により耐火物表面へのアルミナ等介在物の付着を顕著に抑制する効果が得られることがわかる。なお、この結果から、SiCは20質量%以下が好ましいことがわかる。
【0196】
実施例43はSiC成分に換えてSiを含有させた例、実施例44はSiを含有させた例、実施例45はSiCに加えて金属Siを含有させた例、実施例46はSiCに加えてZrOを含有させた例である。SiC、Si及び金属Siのいずれの場合も、耐火物表面へのアルミナ等介在物の付着を、SiCよりは小さいものの、顕著に抑制する効果が得られることがわかる。
【0197】
なお、これらの結果から、SiC成分、Si又は金属Siは相互に類似の機能を示していることがわかる。また、これら成分は併存しても相互に特異な反応等を生じることがないので、SiC成分にSi、又は金属Siを併用することが可能であることがわかる。このような併用系の場合は、SiC成分のみの場合の上限値よりもこれら成分合量としての上限値は大きくなるが、これら成分の過剰な含有は構造体としての耐火物の安定性を低下させる等の虞もあるので、各成分の上限量の合計量として、22質量%を超えないことが好ましい。
【0198】
実施例46は、SiCを上限値20質量%含有する系に対し、ZrO成分を含有させた例である。すなわちSiCを上限値である20質量%含有する実施例41に対し、ZrO成分を5質量%含有させた例である。実施例41では溶鋼中回転試験の溶損量の指数が30であったのに対し、実施例46では3まで激減していることがわかる。このようにZrO成分の存在によって、溶鋼中介在物が関与して低融化した耐火物表面付近の組織の粘性が高まり、その安定性を向上させる効果が得られることがわかる。
【0199】
比較例11は10質量%のSiCを10質量%のSiOに置換した場合を示す。CaO表面に生成する被膜が厚くなり耐消化性が低下すると共に、低融化のためと推定されるが、溶鋼中回転試験での溶損量が増大することが分かる。
【0200】
次に、図3(a)に示す鋳造用ノズル構造にて、溶鋼浸漬部側(外筒)の本体耐火物(22)として、実施例40を適用し、内孔側の耐火物(20)として実施例17を適用したノズルを製造した。本体耐火物(22)としては、Alが60質量%の、SiOが15質量%、炭素が25質量%の材質を適用し、パウダーライン部(21)はZrOが82質量%、CaOが4質量%、炭素が14質量%の成分からなる耐火物を適用し、CIPにて成形した後、乾燥、焼成、加工プロセスを経て浸漬ノズルを製造した。この際、内孔側層と本体側耐火物層の間の層(23)には2種の材料を適用した。1種の浸漬ノズルは、(23)部の材料として、0.5mm厚さの炭素が98質量%の炭素質シートを成形時に配置し本体耐火物と一体化するように成形した。また、もう1種の浸漬ノズルは、実施例17の耐火物にてスリーブ状の内孔側耐火物層(20)を成形、熱処理を行い、別途並行して製造していた本体側耐火物層(22)とモルタルを用いて組み立てて一体化する方法にて製造した。この際使用したモルタルは、MgOが76質量%、Alが16質量%、炭素が8質量%の成分からなる材料(23)で、スリーブ状の内孔側耐火物層(20)と本体側耐火物層(22、21)との間の2mmの隙間にモルタルが充填されるようにセットし熱処理を行って一体化した。
【0201】
これら2種の浸漬ノズルを実際の溶鋼(アルミキルド鋼)の連続鋳造操業に供し、10ヒート使用した。その結果、いずれの浸漬ノズルにも消化に起因する損傷等は発生しなかった。また、いずれの浸漬ノズルも(主として熱衝撃に起因する)予熱ないし鋳造中の折損は発生しなかった。更に鋳造終了後に調査した浸漬ノズル内孔部、及び吐出口部のアルミナ付着溶損速度(平均)は−4μm/min(マイナスは溶損を表す)となり、アルミナ付着は全く発生せず良好な結果を得た。これにより、鋳造中の鋳型内での湯流れもきわめて安定した結果を得た。
【0202】
一方、本発明の耐火物を内装していない通常の浸漬ノズル(本体の耐火物(22)はAlが60質量%の、SiOが15質量%、炭素25質量%の材質を適用し、パウダーライン部(21)はZrOが82質量%、CaOが4質量%、炭素が14質量%の成分からなる耐火物)は、アルミナ付着・溶損速度(平均)が+55μm/minとなり、内孔部及び吐出口部にアルミナ付着が発生し、鋳造中の鋳型内で偏流も観られた。
【符号の説明】
【0203】
1 被覆層(水和層)
2 熱処理前の炭素質マトリックス
3 焼成ドロマイトクリンカー粒子
4 熱処理後の炭素質マトリックス
5 熱処理後に生成した空隙層
6 熱処理後に生成したB系被膜
10 試験片
10a 端面
11 ホルダー
12 坩堝
13 溶鋼
14 高周波誘導炉
20 本発明の耐火物
21 パウダーライン材質(背面側の耐火物)
22 本体材質(背面側の耐火物)
22G 本体材質(通気性の耐火物)
22S 空間(ガスの通過経路、蓄圧室)
23 シート状の層又はモルタル層
A:上部ノズル
B:スライディングノズルプレート
C:下部ノズル
D:ロングノズル
E:ロングストッパー
F:浸漬ノズル
G:内張り用耐火物
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11