(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油圧で動作する油圧デバイスに供給される油圧を指示圧に基づき調整するソレノイドバルブであって、前記指示圧が不感帯閾値よりも低圧側の不感帯領域に入ると前記指示圧の変化に対する実圧の変化の応答性が悪化するソレノイドバルブと、
前記ソレノイドバルブに前記指示圧を指示するコントローラと、
を備えた油圧制御回路であって、
前記コントローラは、前記指示圧が前記不感帯領域に設定されており、かつ、前記指示圧が変速比が変動しない程度、且つ、前記不感帯領域内で増大した場合には、前記指示圧を前記不感帯閾値よりも高いチャージ圧までステップ的に上げ、その後、前記指示圧の下限を前記不感帯閾値に設定し、一定期間、前記不感帯領域の使用を禁止する、
油圧制御回路。
油圧で動作する油圧デバイスに供給される油圧を指示圧に基づき調整するソレノイドバルブであって、前記指示圧が不感帯閾値よりも低圧側の不感帯領域に入ると前記指示圧の変化に対する実圧の変化の応答性が悪化するソレノイドバルブを備えた油圧制御回路の制御方法であって、
前記指示圧が前記不感帯領域に設定されており、かつ、前記指示圧が変速比が変動しない程度、且つ、前記不感帯領域内で増大した場合には、前記指示圧を前記不感帯閾値よりも高いチャージ圧までステップ的に上げ、
その後、前記指示圧の下限を前記不感帯閾値に設定し、一定期間、前記不感帯領域の使用を禁止する、
制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は無段変速機の概略構成を示し、
図2は無段変速機の油圧制御系を示している。
【0014】
図1において、無段変速機5はロックアップクラッチを備えたトルクコンバータ2及び前後進切り替え機構4を介してエンジン1に連結される。無段変速機5は、入力軸側のプライマリプーリ10と、出力軸13に連結されたセカンダリプーリ11とを備える。プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ11は、ベルト12によって連結されている。出力軸13はアイドラギア14及びアイドラシャフトを介してディファレンシャル6に連結される。
【0015】
無段変速機5の変速比及びベルト12の接触摩擦力は、CVTコントロールユニット20からの指令に応じて動作する油圧コントロールユニット100によって制御される。CVTコントロールユニット20は、エンジン1を制御するエンジンコントロールユニット21からの入力トルク情報及び後述するセンサ等からの出力に基づいて目標とする変速比及び接触摩擦力を決定し、油圧コントロールユニット100に指令を出す。
【0016】
プライマリプーリ10は、入力軸と一体となって回転する固定円錐板10bと、固定円錐板10bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、プライマリプーリシリンダ室10cに供給される油圧(プライマリ圧)によって軸方向へ変位可能な可動円錐板10aとを備える。
【0017】
セカンダリプーリ11は、出力軸13と一体となって回転する固定円錐板11bと、固定円錐板11bに対向配置されてV字状のプーリ溝を形成するとともに、セカンダリプーリシリンダ室11cに供給される油圧(セカンダリ圧)に応じて軸方向へ変位可能な可動円錐板11aとを備える。
【0018】
エンジン1から入力されたトルクは、トルクコンバータ2及び前後進切り替え機構4を介して無段変速機5へ入力され、プライマリプーリ10からベルト12を介してセカンダリプーリ11へと伝達される。プライマリプーリ10の可動円錐板10a及びセカンダリプーリ11の可動円錐板11aを軸方向へ変位させて、ベルト12との接触半径を変更することにより、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11との変速比を連続的に変更することができる。
【0019】
図2に示すように、油圧コントロールユニット100は、ライン圧を調整するレギュレータバルブ60と、プライマリ圧を調整するソレノイドバルブ30と、セカンダリ圧を調整するソレノイドバルブ61とを備える。
【0020】
レギュレータバルブ60は、オイルポンプ80から供給される油圧を元圧として、CVTコントロールユニット20からの指令(例えば、デューティ信号など)に応じて運転状態に応じた所定のライン圧PLを調整する。ライン圧PLは、プライマリ圧を調整するソレノイドバルブ30と、セカンダリ圧を調整するソレノイドバルブ61にそれぞれ供給される。
【0021】
プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11のプーリ比は、CVTコントロールユニット20からの指示圧に応じて駆動されるソレノイドバルブ30、61によって制御される。すなわち、ソレノイドバルブ30で調整されたプライマリ圧がプライマリプーリ10へ、ソレノイドバルブ61で調整されたセカンダリ圧がセカンダリプーリ11へそれぞれ供給され、これによって、プライマリプーリ10及びセカンダリプーリ11の溝幅が変更され、プーリ比が変更される。プーリ比はプライマリプーリ10の回転速度とセカンダリプーリの回転速度との比で算出される値であり、変速比はこのプーリ比にアイドラギア14のギア比を考慮した値である。
【0022】
図3は、ソレノイドバルブ30、61の特性を示している。ソレノイドバルブ30、61は、指示圧を減少させると実圧も小さくなるが、ある値を境に指示圧を減少させても実圧があまり変化しなくなる特性を有する。ソレノイドバルブ30、61の応答性が悪くなり始める値は不感帯閾値と呼ばれ、不感帯閾値よりも低圧側の不感帯領域では、ソレノイドバルブ30、61の制御応答が悪化する。
【0023】
しかしながら、本実施形態では、後述するように、所定の運転条件でこの領域も使用することでオイルポンプ80の負荷を減らし、無段変速機5が搭載される車両の燃費をさらに向上させる。
【0024】
CVTコントロールユニット20は、
図1に示すように、プライマリプーリ速度センサ26からの無段変速機5のプライマリプーリ10の回転速度と、セカンダリプーリ速度センサ27からのセカンダリプーリ11の回転速度(または車速)と、インヒビタースイッチ23からのシフト位置と、アクセル開度センサ24からのアクセル開度(アクセルペダルの操作量)と、油温センサ25からの無段変速機5の油温とを読み込み、また、
図2に示すように、プライマリ圧センサ31からのプライマリ圧と、セカンダリ圧センサ32からのセカンダリ圧と、ライン圧センサ33からのライン圧とを読み込み、変速比及びベルト12の接触摩擦力を制御する。
【0025】
CVTコントロールユニット20は、プライマリプーリ10の回転速度、セカンダリプーリ11の回転速度(車速)、及びドライバーの運転意図、例えばアクセル開度、ブレーキペダルの操作の有無、走行レンジ、変速機のマニュアルモードの変速スイッチの切り換え等に応じて、目標変速比及び目標変速速度を決定し、目標変速速度で実変速比を目標変速比へ向けて制御する変速制御部201と、入力トルク、変速比、変速速度、ブレーキペダルの操作状態、アクセル開度、シフトレンジ等に応じて、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11の推力を制御するプーリ圧制御部202と、を備える。
【0026】
プーリ圧制御部202は、入力トルク情報、プライマリプーリ回転速度とセカンダリプーリ回転速度に基づくプーリ比、さらにブレーキの操作状態、アクセル開度、シフトレンジからライン圧の指示圧を決定し、指示圧とライン圧センサ33で検出される実圧との偏差に基づきライン圧が指示圧に一致するようにレギュレータバルブ60をフィードバック制御する。また、プーリ圧制御部202は、プライマリ圧、セカンダリ圧の指示圧を決定して、指示圧とプライマリ圧センサ31、セカンダリ圧センサ32で検出される実圧との偏差に基づきプライマリ圧、セカンダリ圧がそれぞれ指示圧に一致するようにソレノイドバルブ30、61をフィードバック制御する。
【0027】
無段変速機5が搭載される車両の燃費を向上させるためには、ライン圧を下げ、オイルポンプ80の負荷を下げることが重要である。特に、無段変速機5への入力トルクが比較的小さく、かつ、変速比が最ハイ(最小変速比)にあるときは、トルク伝達のためのベルト挟持力を低く抑えることができるので、ライン圧を下げることが可能である。
【0028】
そこで、CVTコントロールユニット20は、以下の条件:
・無段変速機5の変速比が最ハイ
・無段変速機5への入力回転速度が所定の低回転速度以下
・車速が所定の高車速以上
が全て成立した場合(例えば、車両がコースト走行状態にある場合)は、ライン圧を下げるようにする。
【0029】
しかしながら、ライン圧を下げたことでプライマリ圧が下がると、最ハイを維持するのに必要な差推力を確保するために、元々低いセカンダリ圧をさらに下げる必要があり、ソレノイドバルブ61の指示圧が
図3に示した不感帯領域に入る可能性がある。指示圧が不感帯領域に入ると、ダウンシフト要求があった場合に、セカンダリ圧を上げるのに時間を要し、要求される変速応答を実現するのが難しくなる。
【0030】
そこで、CVTコントロールユニット20は、以下に説明する不感帯領域抜け制御を行い、不感帯領域抜け制御後、ダウンシフト要求があればセカンダリ圧を上げて無段変速機5を速やかにダウンシフトできるようにし、要求される変速応答を実現する。
【0031】
図4は、CVTコントロールユニット20が行う不感帯領域抜け制御の内容を示したフローチャートである。また、
図5は、不感帯領域抜け制御が行われる様子を示したタイムチャートである。これらを参照しながら不感帯領域抜け制御について説明する。
【0032】
まず、S11では、CVTコントロールユニット20は、ソレノイドバルブ61の指示圧が不感帯閾値以下か判断する。肯定的な判断がなされた場合は処理がS12に進み、否定的な判断がなされた場合は処理が終了する。
図5では時刻t1以降において、肯定的な判断がなされている。
【0033】
S12では、CVTコントロールユニット20は、ソレノイドバルブ61の指示圧が運転状況やトルク変動によって、ダウンシフト指示とはならない油圧上昇値であって、不感帯領域内で前回値から所定値以上上昇したか(単位時間あたりの変化量が所定値以上か)を判断する。肯定的な判断がなされた場合は処理がS13に進み、否定的な判断がなされた場合は処理が終了する。
図5では、時刻t2から時刻t3までの間のソレノイドバルブ61の指示圧の変化量がΔPであり、時刻t3において変化量ΔPが所定値以上であると判断されている。
【0034】
S13では、不感帯での油圧上昇からダウンシフトの発生を予測し、実際にダウンシフトが発生した場合に速やかに油圧を追従させるために、CVTコントロールユニット20は、不感帯領域の使用を禁止し、指示圧の下限を不感帯閾値に設定する。
図5では時刻t3が対応する。
【0035】
S14では、CVTコントロールユニット20は、タイマTをスタートさせる。タイマTは不感帯領域の使用が禁止されている時間等を計測するために用いられる。
【0036】
S15では、ソレノイドバルブ61のフィードバック制御を中止する。これは、後述するプリチャージとフィードバック制御とが干渉するのを防止するためである。
図5では、時刻t3で、ソレノイドバルブ61の指示圧がチャージ圧まで上げられるとともに、指示圧のフィードバック制御が中止されている。
【0037】
また、S15では、CVTコントロールユニット20は、不感帯閾値に制限された後のソレノイドバルブ61の指示圧を補正し、不感帯閾値よりも高いチャージ圧までステップ的に上昇させる(プリチャージ)。これにより、セカンダリ圧を不感帯閾値以上まで速やかに高めることができる。
【0038】
S16では、CVTコントロールユニット20は、タイマTがT1になったか判断する。タイマTがT1になっている場合は処理がS17に進み、指示圧のプリチャージを終了する。タイマTがT1になっていない場合は処理がS15に戻り、指示圧のプリチャージを継続する。T1は実セカンダリ圧が不感帯から不感帯閾値まで確実に高められるように設定されており、T1は、S13で不感帯領域の使用が禁止される直前の指示圧とセカンダリ圧との差が大きいほど大きな値に設定される。
図5では、時刻t4まで、指示圧のプリチャージが行われている。指示圧のプリチャージを所定期間継続させることによって、実セカンダリ圧を不感帯閾値以上まで確実に高めることができる。
【0039】
指示圧が不感帯閾値以上に制限されると、不感帯領域での油圧上昇が検知され、ダウンシフトの発生を予測し、セカンダリ圧が不感帯閾値以上に維持された場合において、ダウンシフト要求があっても直ちにセカンダリ圧を上げることができ、変速要求に応えることができる。
【0040】
S18では、CVTコントロールユニット20は、タイマTがT2になったか判断する。タイマTがT2になっている場合は処理がS19に進み、フィードバック制御を再開する。タイマTがT2になっていない場合は処理がS18で待機する。
図5では時刻t5まで指示圧のフィードバック制御が中止される。
T2は直前のプリチャージによって実セカンダリ圧の揺れが収まる時間で設定されており、実験結果によって設定されている。
【0041】
S20では、CVTコントロールユニット20は、タイマTがT3になったか判断する。タイマTがT3になっている場合は処理がS21に進み、不感帯領域の使用を許可する。タイマTがT3になっていない場合は処理がS20で待機する。
T3は運転性によって設定される時間であり、不感帯領域の使用禁止と許可が繰り返されることで発生する制御ハンチングを抑制するための時間である。
【0042】
不感帯領域の使用が許可されるまでの間は、指示圧が不感帯領域以上に制限されてセカンダリ圧が不感帯閾値以上に維持されるので、ダウンシフト要求があった場合の変速応答性が確保される。
図5では、時刻t6まで指示圧が不感帯閾値以上に保たれ、ダウンシフト要求があった場合の応答性が確保される。
【0043】
S21では、CVTコントロールユニット20は、無段変速機5の変速比が最ハイになっている等の不感帯領域の使用を許可する条件が成立していることを前提として、ソレノイドバルブ61の指示圧を再び不感帯領域まで下げる。
【0044】
指示圧の低下速度には制限が設けられており、指示圧は所定のランプ勾配で下げられる。これは、指示圧を急激に下げると、セカンダリ圧がアンダーシュートして下がりすぎ、ベルト滑りが発生する可能性があるからある。
図5では、時刻6以降が対応する。
【0045】
続いて上記制御を行うことによる作用効果について説明する。
【0046】
上記実施形態では、ソレノイドバルブ61の指示圧が不感帯領域に設定されており、かつ、ソレノイドバルブ61の指示圧が不感帯領域内で増大した場合には、指示圧がチャージ圧までステップ的に上げられる。そして、その後、指示圧の下限が不感帯閾値に制限され、一定期間、不感帯領域の使用が禁止される。
【0047】
これにより、不感帯領域使用中にダウンシフトの発生を予測し、セカンダリ圧を不感帯閾値まで高め、実際にダウンシフト要求を受けてセカンダリ圧を高める必要が生じたとしても、セカンダリ圧を速やかに高め、要求される変速応答を確保することができる。
【0048】
不感帯閾値の使用が禁止されるのは一定期間だけであり、その間にダウンシフト要求がなければソレノイドバルブ61の指示圧は再び不感帯領域に下げられるので、上記応答性の確保と燃費向上という二つの要求を両立させることができる。
【0049】
また、不感帯領域の使用は、無段変速機5の変速比が最ハイであり、無段変速機5への入力回転速度が所定の低回転以下であり、かつ、無段変速機5が搭載される車両の車速が所定の高車速以上である場合に許可されるようにした。
【0050】
かかる状況では必要とされるベルト12の挟持力が比較的小さいので、ベルト12を滑らせることなく指示圧を不感帯閾値未満まで下げることができ、また、これによる応答性悪化は、上記不感帯領域抜け制御によって回避することができる。
【0051】
また、チャージ圧のチャージ時間を、指示圧が増大する直前の指示圧と不感帯閾値との差が大きいほど長く設定するようにした。チャージ圧をこのように設定することで必要最低限のチャージ圧でセカンダリ圧を不感帯閾値以上まで速やかに上げることができ、プリチャージが燃費に与える影響を抑えることができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的に限定する趣旨ではない。
【0053】
例えば、ここではセカンダリプーリ11に供給されるセカンダリ圧を調整するソレノイドバルブ61に適用した場合について説明したが、油圧で動作する油圧デバイス(油圧ピストン、アクチュエータ、クラッチ、ブレーキ等)に供給される油圧を指示圧に基づき調整するソレノイドバルブであって、不感帯領域を使用するものに対して、本発明は広く適用することができる。
【0054】
本願は日本国特許庁に2012年3月28日に出願された特願2012−74966号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。