特許第5830179号(P5830179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5830179リチウム二次電池用正極活物質の製造方法及びそれに用いられる活物質前駆体粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5830179
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の製造方法及びそれに用いられる活物質前駆体粉末
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20151119BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20151119BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G53/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-542105(P2014-542105)
(86)(22)【出願日】2013年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2013077743
(87)【国際公開番号】WO2014061580
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2014年8月22日
(31)【優先権主張番号】61/731,543
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/746,255
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2012-228450(P2012-228450)
(32)【優先日】2012年10月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-263072(P2012-263072)
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-92645(P2013-92645)
(32)【優先日】2013年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-149070(P2013-149070)
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸行
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌平
(72)【発明者】
【氏名】由良 幸信
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−099418(JP,A)
【文献】 特開2001−085006(JP,A)
【文献】 特開2007−242288(JP,A)
【文献】 特開平11−288716(JP,A)
【文献】 特開平09−129230(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137391(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/137535(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/037235(WO,A1)
【文献】 特開2006−151707(JP,A)
【文献】 特開2002−184403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であって、
Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の一次粒子が多数凝集した二次粒子からなり、前記一次粒子の少なくとも一部が前記二次粒子の中心から外方に向かって放射状に並んでなり、4μm〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する水酸化物原料粉末を用意する工程と、
前記水酸化物原料粉末を粉砕して、体積基準で、10μm以上が10%以下、1〜10μmが30〜90%、0.1〜1μmが10〜70%となる粒度分布を有する粉砕原料粉末を得る工程と、
前記粉砕工程と同時に又はその後に行われる、前記粉砕原料粉末を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを用いて前記二次粒子が多数凝集してなる造粒粉末を作製する工程と、
前記造粒粉末にリチウム化合物を混合してリチウム混合粉末を得る工程と、
前記リチウム混合粉末を焼成して前記造粒粉末とリチウム化合物を反応させ、それにより開気孔を備えたリチウム二次電池用正極活物質を得る工程と、
を含んでなり、
前記造粒粉末及び前記リチウム混合粉末が、造孔剤を含まない、方法。
【請求項2】
前記粉砕原料粉末が、10μm以上が5%以下、1〜10μmが40〜60%、0.1〜1μmが40〜60%である体積基準粒度分布を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リチウム二次電池用正極活物質が、多数の一次粒子からなる二次粒子を含んでなり、前記二次粒子が、1〜30%の空隙率及び50%以上の開気孔比率を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記スラリーが、水系スラリーである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水系スラリーが、水溶性リチウム化合物を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性リチウム化合物が、水酸化リチウムである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記水系スラリーが、前記水溶性リチウム化合物を、Li/(Ni+M)のモル比率で0.01〜0.10の量で含む、請求項又はに記載の方法。
【請求項8】
前記正極活物質が、10〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であって、
Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の一次粒子が多数凝集した二次粒子からなり、前記一次粒子の少なくとも一部が前記二次粒子の中心から外方に向かって放射状に並んでなる、4μm〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する水酸化物原料粉末水酸化物原料粉末を用意する工程と、
前記水酸化物原料粉末を粉砕して、体積基準で、10μm以上が10%以下、1〜10μmが30〜90%、0.1〜1μmが10〜70%となる粒度分布を有する粉砕原料粉末を得る工程と、
前記粉砕工程と同時に又はその後に行われる、前記粉砕原料粉末及び水酸化リチウムを含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを用いて前記二次粒子が多数凝集してなる造粒粉末を作製する工程と、
前記造粒粉末を焼成して前記造粒粉末と前記水酸化リチウムを反応させ、それにより開気孔を備えたリチウム二次電池用正極活物質を得る工程と、
を含んでなり、
前記造粒粉末が造孔剤を含まない、方法。
【請求項10】
Co、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種であって、前記水酸化物原料粉末に含まれないか又は前記水酸化物原料粉末において不足する元素を含む化合物が、前記スラリー及び/又は前記造粒粉末に添加される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
リチウムイオン電池用正極活物質の製造に用いられる、造孔剤を含まない活物質前駆体粉末であって、
Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の複数の一次粒子が配向してなる二次粒子からなる水酸化物原料粉末と、
前記二次粒子間に介在する水溶性リチウム化合物と、
を含んでなる凝集粒子からなり、前記活物質前駆体粉末が、水中で超音波照射により解凝集された場合に、体積基準で、粒径10μm以上の粒子の割合が10%以下、粒径1.0〜10μmの粒子の割合が30〜60%、粒径0.1〜1.0μm以下の粒子の割合が40〜70%である粒度分布を有し、かつ、焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、10〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する、活物質前駆体粉末。
【請求項12】
個々の前記二次粒子内において、前記複数の一次粒子が(003)面を所定方向に揃えて配向してなる、請求項11に記載の活物質前駆体粉末。
【請求項13】
前記水溶性リチウム化合物が、水酸化リチウムである、請求項11又は12に記載の活物質前駆体粉末。
【請求項14】
前記凝集粒子が、前記水溶性リチウム化合物をLi/(Ni+M)のモル比率で0.01〜0.10の量で含む、請求項1113のいずれか一項に記載の活物質前駆体粉末。
【請求項15】
焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、1〜30%の空隙率及び50%以上の開気孔比率を有する、請求項1114のいずれか一項に記載の活物質前駆体粉末。
【請求項16】
焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、0.2〜3μmの平均開気孔径を有する、請求項1115のいずれか一項に記載の活物質前駆体粉末。
【請求項17】
前記一次粒子の平均粒子径を前記平均開気孔径で除した値が0.2〜3である、請求項16に記載の活物質前駆体粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状岩塩構造を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法及びそれに用いられる活物質前駆体粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池と称されることもある)における正極活物質として、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を用いたものが広く知られている(例えば、特許文献1(特開平5−226004号公報)及び特許文献2(特開2003−132887号公報)を参照)。
【0003】
この種の正極活物質においては、その内部でのリチウムイオン(Li)の拡散が(003)面の面内方向(すなわち(003)面と平行な平面内の任意の方向)で行われる一方、(003)面以外の結晶面(例えば(101)面や(104)面)でリチウムイオンの出入りが生じることが知られている。
【0004】
そこで、この種の正極活物質において、リチウムイオンの出入りが良好に行われる結晶面((003)面以外の面、例えば(101)面や(104)面)をより多く電解質と接触する表面に露出させることで、リチウム二次電池の電池特性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献3(国際公開第2010/074304号公報)を参照)。
【0005】
また、この種の正極活物質において、内部に気孔(空孔あるいは空隙とも称される)を形成したものが知られている(例えば、特許文献4(特開2002−75365号公報)、特許文献5(特開2004−083388号公報)及び特許文献6(特開2009−117241号公報)を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−226004号公報
【特許文献2】特開2003−132887号公報
【特許文献3】国際公開第2010/074304号公報
【特許文献4】特開2002−75365号公報
【特許文献5】特開2004−083388号公報
【特許文献6】特開2009−117241号公報
【発明の概要】
【0007】
所望の空隙率及び平均気孔径を実現するための手法の一つとして、原料に対して、添加剤としての造孔剤(空隙形成材)を配合することが考えられる。このような造孔剤の例としては、仮焼成工程において分解(主に蒸発あるいは炭化)される、有機合成樹脂からなる粒子状又は繊維状物質が考えられる。しかしながら、本発明者らの知見によれば、体積エネルギー密度を上げるために造孔剤を減量して空隙量を減らすと、空隙が連通しにくく、閉気孔化してしまい、電解液や導電助材が気孔内に進入できなくなることで出力特性が落ちることがある。したがって、このような造孔剤を使用することなく所望の空隙率及び平均気孔径を実現することができれば好都合である。
【0008】
本発明者らは、今般、略球状の二次粒子原料粉末を軽く粉砕して、空隙を含むよう造粒・球状化する(以下「三次粒化」と表記することがある)ことで、造孔剤を使用することなく、高い電池特性をもたらす、所望の空隙率で開気孔比率の高い正極活物質を製造できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、造孔剤を使用することなく、高い電池特性をもたらす、所望の空隙率で開気孔比率の高い正極活物質を製造することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であって、
Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の一次粒子が多数凝集した二次粒子からなり、前記一次粒子の少なくとも一部が前記二次粒子の中心から外方に向かって放射状に並んでなり、4μm〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する水酸化物原料粉末を用意する工程と、
前記水酸化物原料粉末を粉砕して、体積基準で、10μm以上が10%以下、1〜10μmが30〜90%、0.1〜1μmが10〜70%となる粒度分布を有する粉砕原料粉末を得る工程と、
前記粉砕工程と同時に又はその後に行われる、前記粉砕原料粉末を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを用いて略球状の造粒粉末を作製する工程と、
前記造粒粉末にリチウム化合物を混合してリチウム混合粉末を得る工程と、
前記リチウム混合粉末を焼成して前記造粒粉末とリチウム化合物を反応させ、それにより開気孔を備えたリチウム二次電池用正極活物質を得る工程と、
を含んでなる方法が提供される。
【0011】
本発明の別の一態様によれば、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法であって、
Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の一次粒子が多数凝集した二次粒子からなり、前記一次粒子の少なくとも一部が前記二次粒子の中心から外方に向かって放射状に並んでなる、4μm〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する水酸化物原料粉末水酸化物原料粉末を用意する工程と、
前記水酸化物原料粉末を粉砕して、体積基準で、10μm以上が10%以下、1〜10μmが30〜90%、0.1〜1μmが10〜70%となる粒度分布を有する粉砕原料粉末を得る工程と、
前記粉砕工程と同時に又はその後に行われる、前記粉砕原料粉末及び水酸化リチウムを含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを用いて略球状の造粒粉末を作製する工程と、
前記造粒粉末を焼成して前記造粒粉末と前記水酸化リチウムを反応させ、それにより開気孔を備えたリチウム二次電池用正極活物質を得る工程と、
を含んでなる方法が提供される。
【0012】
本発明の更に別の一態様によれば、リチウムイオン電池用正極活物質の製造に用いられる活物質前駆体粉末であって、
Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の複数の一次粒子が配向してなる二次粒子からなる水酸化物原料粉末と、
前記二次粒子間間に介在する水溶性リチウム化合物と、
を含んでなる凝集粒子からなり、前記活物質前駆体粉末が、水中で超音波照射により解凝集された場合に、体積基準で、粒径10μm以上の粒子の割合が10%以下、粒径1.0〜10μmの粒子の割合が30〜60%、粒径0.1〜1.0μm以下の粒子の割合が40〜70%である粒度分布を有し、かつ、焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、10〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する、活物質前駆体粉末が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の方法における、水酸化物原料粉末が軽い粉砕を経て造粒されるまでの一連の過程を説明するための概念図である。
図2】本発明の方法に用いられる水酸化物原料粉末の一例を撮影したSEM写真である。
図3】本発明の粉砕工程において得られる粉砕粉末の一例を撮影したSEM写真である。
図4】各種粉砕条件において得られる粉末の粒度分布の例を示す図である。
図5】本発明の造粒工程において得られる造粒粉末の一例を撮影したSEM写真である。
図6】本発明の焼成工程において得られる正極活物質の一例を撮影したSEM写真である。
図7】本発明の方法において得られる正極活物質の開気孔の一例を示す断面SEM画像である。この画像は、正極活物質の粉末を樹脂に埋め込み、この樹脂中の粉末を化学研磨によって切断及び研磨して、得られた断面をSEM観察して得たものである。
図8】一次粒子においてリチウムイオンが(003)面と垂直な方向に移動することを説明するための模式図である。
図9】二次粒子の配向形態の一例を模式的に示す斜視図である。
図10】二次粒子の配向形態の他の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
本明細書で使用される幾つかの用語についての定義を以下に示す。
【0015】
「一次粒子」とは、内部に結晶粒界を含まない単位粒子をいう。これに対し、一次粒子が凝集したものや、単結晶一次粒子が複数(多数)集合したものを、「二次粒子」という。なお、本明細書中に「三次粒子」なる用語が使用されることがあるが、これは二次粒子が多数凝集された造粒粉末の粒子を表現するための便宜上の用語であり、あくまで定義上は「二次粒子」の範疇に含まれる。「平均粒子径」は、粒子の直径の平均値である。かかる「直径」は、典型的には、当該粒子を同体積あるいは同断面積を有する球形と仮定した場合の、当該球形における直径である。なお、「平均値」は、個数基準で算出されたものが適している。一次粒子の平均粒子径は、例えば、二次粒子の表面あるいは断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することで求めることが可能である。二次粒子の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、型番「MT3000−II」)を用いて、水を分散媒として測定される体積基準D50平均粒子径(メディアン径)によって評価される。
【0016】
「空隙率(voidage)」は、本発明の正極活物質における、空隙(気孔:開気孔及び閉気孔を含む)の体積比率である。「空隙率」は、「気孔率(porosity)」と称されることもある。この「空隙率」は、例えば、嵩密度と真密度とから計算上求められる。「開気孔」は、気孔のうち、外部と連通している気孔である。「閉気孔」は、気孔のうち、外部と連通していない気孔である。
【0017】
「開気孔比率」は、二次粒子中の全気孔に占める外気と連通する開気孔の比率である。即ち、開気孔比率は、(開気孔部分の面積)/(開気孔部分の面積+閉気孔部分の面積)である。開気孔は外部と連通しているので外部から樹脂を注入することができ、閉気孔は外部と連通していないので外部から樹脂を注入することができない。そこで、開気孔比率は、真空含浸装置を用いて開気孔中に存在する空気を十分に排除しながら空隙内(従って、開気孔内)に樹脂を注入する樹脂埋めを行い、空隙のうち樹脂が含浸されている部分を開気孔として扱い、空隙のうち樹脂が含浸されていない部分を閉気孔として扱い、これらの面積を、例えば、前記二次粒子の断面のSEM写真の画像処理から求め、次いで、(開気孔部分の面積)/(開気孔部分の面積+閉気孔部分の面積)を算出することによって求めることができる。
【0018】
「平均開気孔径」は、開気孔の平均気孔径を意味し、二次粒子内の開気孔の、直径の平均値である。この「直径」は、典型的には、開気孔を同体積あるいは同断面積を有する球形と仮定した場合の、当該球形における直径である。なお、「平均値」は、体積基準で算出したされたものが適している。また、平均開気孔径は、例えば、二次粒子の断面のSEM写真の画像処理や、水銀圧入法等の、周知の方法によって求めることが可能である。
【0019】
「タップ密度」は、粉体試料を入れた容器を機械的にタップした後に得られる、増大した嵩密度である。タップ密度は粉体試料を入れた測定用メスシリンダー又は容器を機械的にタップすることにより得られる。タップ密度の測定は、粉体の初期体積又は質量を測定した後、測定用メスシリンダー又は容器を機械的にタップし、体積又は質量変化が殆ど認められなくなるまで体積又は質量を読み取ることにより行われる。
【0020】
「プレス密度」は、粉体試料を金型等において一定のプレス圧で錠剤成形した際に得られる嵩密度である。
【0021】
リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
本発明は、層状岩塩構造を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法に関するものである。「層状岩塩構造」とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造(典型的にはα−NaFeO型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。本発明の方法は、一次粒子が多数凝集した略球状の二次粒子からなり、一次粒子の少なくとも一部が二次粒子の中心から外方に向かって並んでなる水酸化物原料粉末を作製し、水酸化物原料粉末を軽く粉砕してスラリー化し、これを用いて空隙を含む略球状の造粒粉末を作製し、これをリチウム化合物と混合したのち焼成に付して造粒粉末をリチウム化合物と反応させることを含んでなる。このように本発明の方法にあっては、原料粉末の略球状の二次粒子原料を軽く粉砕して、空隙を含むよう造粒・球状化(三次粒化)することで、造孔剤を使用することなく、高い電池特性をもたらす、所望の空隙率で開気孔比率の高い正極活物質を製造することができる。
【0022】
すなわち、本発明の方法においては、まず、pHおよび温度を調整した槽内に、金属元素水溶液、苛性アルカリ水溶液、およびアンモニウムイオン供給体を、その濃度や流量を制御しながら連続的に供給することで、図1の左上に概念的に示されるように、一次粒子1aが多数凝集した略球状の二次粒子からなり、一次粒子1aの少なくとも一部が二次粒子の中心から外方に向かって並んでなる水酸化物原料粉末1を作製する。次いで、図1の右上に概念的に示されるように、水酸化物原料粉末1を粉砕して所定の粒度分布を有する粉砕原料粉末2を得る。この粉砕原料粉末2は水酸化物原料粉末1の放射状配向に由来して所定方向に配向した二次粒子2bの集合体であるのが好ましい。そして、このような粉砕原料粉末を含むスラリーを調製し、これをスプレー乾燥等で乾燥させることで、図1の左下に概念的に示されるような略球状の造粒粉末3を得る。こうして得られた造粒粉末3は原料二次粒子が多数凝集してなる点でいわば三次粒粉末と表現することもできるものである。このような造粒粉末3には、粉砕原料粉末2の二次粒子2bの形状に起因して、造粒粉末を構成する原料二次粒子粉末の粒子間に多数の隙間3cが形成されることになる。そして、このような造粒粉末を焼成すると、多数の隙間が、焼成体としての正極活物質の外部と細かく連通しやすい多数の空隙をもたらし、空隙量を減らした際も開気孔化しやすくなる。前述のとおり、造孔剤を内在させることにより焼成又は仮焼時に造孔剤の溶融又は気化を利用して空隙を形成する手法も考えられるが、その場合には、体積エネルギー密度を上げるべく造孔剤の減量により空隙量を減らすと、空隙が連通しにくく、閉気孔化してしまい、電解液や導電助材が気孔内に進入できなくなることで出力特性が落ちるという問題があった。また、焼成温度等の調整によっても孔は形成できるものの、空隙量が少ない領域では閉気孔化してしまうという問題もあった。閉気孔化しないまでも、開気孔が貫通孔でない(表面への出入り口が1つしかない)状態となってしまい、電解液の注液時、気孔内のガスが抜けにくくなることで、電解液が浸透しにくくなる問題もあった。開気孔を貫通孔としたい場合は、焼成時の緻密化を抑え、1次粒子間に細かい気孔(たとえば0.1μm以下)を形成することで、造孔剤由来の空隙を、3次元的に連結する方法が考えられるが、体積エネルギー密度が下がる問題や、粒界抵抗が上がり、電子伝導、及びリチウムイオン拡散の抵抗も増大するという問題もあった。このような問題が本発明の方法によれば効果的に解消ないし低減される。
【0023】
以下、本発明の方法における各工程について具体的に説明する。
【0024】
(1)水酸化物原料粉末の作製
本発明の方法においては、Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の一次粒子が多数凝集した二次粒子からなり、一次粒子の少なくとも一部が二次粒子の中心から外方に向かって放射状に並んでなる、水酸化物原料粉末を用意する。好ましくは、0.15≦y≦0.4であり、好ましい金属元素MはCo、Al、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種又は2種の金属元素であり、より好ましくはAl、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種とCoとを含み、特に好ましい金属元素Mの組合せはCo及びAl、又はCo及びMnである。
【0025】
もっとも、これらの金属元素Mのうち、Al等の所定の元素を水酸化物原料粉末には含めないか又は不足させておき、後続の任意の工程で添加してもよい。この場合、Co、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種であって、水酸化物原料粉末に含まれないか又は水酸化物原料粉末において不足する元素を含む化合物(例えば酸化物、水酸化物及びその水和物等)を、後続のスラリー化工程及び/又はリチウム混合工程でスラリー及び/又は造粒粉末に添加するのが好ましい。この点、スラリー化工程の方が添加元素化合物を混合しやすい点でより好ましい。このように、最終的に所望の組成の正極活物質が得られるかぎり、金属元素Mの一部の元素はどの段階で添加されてもよい。特に、後続の任意の工程で添加される金属元素Mの一部は、主要添加元素(例えばCo又はMn)ではなく、微量添加元素(例えばCo及びMn以外の元素)であるのが好ましい。これは、複合水酸化物である水酸化物原料粉末を作製する際、元素の種類が少ない方が粒子形状や組成の制御が容易になるためである。すなわち、水酸化物原料粉末の作製時においては金属元素Mの種類を主要添加元素(例えばCo又はMn)のみに減らして粒子形状や組成の制御を容易にする一方、水酸化物原料粉末を作製する溶液プロセスでは組成の制御が難しい微量添加元素(例えばCo及びMn以外の元素)を後続の任意の工程で添加して、所望の正極活物質組成をより正確に得ることができる。
【0026】
水酸化物原料粉末は、二次粒径として、4μm〜40μmの体積基準D50平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは4μm〜20μm、さらに好ましくは5μm〜15μmであり、そのような粉末の一例が図2に示される。水酸化物原料粉末は、1.40g/cc以上のタップ密度を有するのが好ましく、より好ましくは1.5g/cc以上であり、更に好ましくは1.6g/cc以上である。タップ密度が高いほど後述する三次粒粉末中の空隙部と粒子部の粗密差が大きくなるため、少ない空隙率でも高い開気孔比率を実現することが可能となるが、1.9g/cc以下であるのが現実的である。
【0027】
このような水酸化物原料粉末は公知の技術に従って作製することができる(例えば特許文献3及び4を参照)。例えば、pH及び温度を調整した槽内に、ニッケル塩水溶液、金属元素M含有水溶液、苛性アルカリ水溶液、及びアンモニウムイオン供給体を、その濃度及び流量を制御しながら連続的に供給して採取する方法が挙げられる。この時、上記タップ密度やD50平均粒径を満たすためには、槽内のpHを10.0〜12.0とし、温度を40〜70℃とするのが好ましい。
【0028】
(2)粉砕及びスラリー化工程
水酸化物原料粉末を粉砕して、体積基準で、10μm以上が10%以下、1〜10μmが30〜90%、0.1〜1μmが10〜70%となる粒度分布を有する粉砕原料粉末を得る。好ましい粒度分布は、10μm以上が10%以下、1〜10μmが30〜60%、0.1〜1μmが40〜70%であり、さらに好ましくは10μm以上が5%以下、1〜10μmが40〜60%、0.1〜1μmが40〜60%であり、特に好ましくは10μm以上が2%以下、1〜10μmが43〜55%、0.1〜1μmが43〜55%である。あるいは、粒径10μm以上の粒子の割合が、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下であり、粒径1.0〜10μmの粒子の割合が、好ましくは33〜58%、さらに好ましくは35〜55%であり、粒径0.1〜1.0μm以下の粒子の割合が、好ましくは40〜68%、さらに好ましくは40〜65%である。これらのような粒度分布であると、三次粒粉末中に適切な大きさの隙間が多数形成され、少ない空隙率でも高い開気孔比率を達成するのに有利となる。すなわち、開気孔を三次粒粉末中に導入しやすくなる。また、この粒度分布を上記範囲内で制御することによって、空隙率及び空隙径を適宜変化させることができる。また、粒径が大きめの粒子の間に粒径が小さい粒子が介在する構成となるので、粉砕粉末全体としての凝集力が高く、造粒粉末を壊れにくくすることもできる。
【0029】
上記粒度分布は水酸化物原料粉末を軽く粉砕することによって実現できる。図1の右上に例示されるように、軽く粉砕して得られた粉砕粉末2は、放射状配向粉末の配向に由来して所定方向に配向した二次粒子2bの単位に砕かれてなる、大きめの粒子と小さめの粒子とを主として含むのが好ましい。大きめの粒子は放射状配向粉末の原形を概ね留めた又はそれに近い大きさを有するものであってもよい。そのようにして実際に得られた粉砕原料粉末の一例が図3に示される。粉砕手法としては、ビーズミル粉砕、ボールミル粉砕、ジェットミル粉砕、機械式粉砕機による粉砕等が挙げられるが、ビーズミル粉砕が好ましい。そして粉砕時間を始め各種ミル粉砕条件(例えばパス回数、玉石径、玉石量、ミル回転数等)を適宜変更することで粒度分布を望ましく制御することができる。例えば、図4に粉砕パス数に応じた粒度分布変化の一例が示されるが、同図において「元原料」と表示される水酸化物原料粉末に対するビーズミル粉砕パス数を10パス、20パス及び50パスと変化させることで、一つの頻度ピーク又はショルダーが1〜10μmなる大きめの粒径範囲に、もう一つの頻度ピークが0.1〜1μmなる小さめの粒径範囲に生じる。すなわち軽く粉砕することで粒度分布に2つの頻度ピークを有するような粉砕原料粉末が得られ、このような粒度分布が上記数値範囲には包含される。従って、同じく図4に示されるように、一次粒子レベルにまで過度に粉砕した場合にはもはや2つの頻度ピークは有しておらず、上記数値範囲から外れるものとなる。
【0030】
水酸化物原料粉末を用いてスラリーを形成する。このスラリー化工程は、上記粉砕工程と同時に行われてもよいし、粉砕後に行われてもよい。このスラリーの調製は、たとえば水酸化物原料粉末(略球状の二次粒子)を水等の分散媒と混合することによって行うことができる。したがって、スラリー化工程と粉砕工程を同時に行う場合には水酸化物原料粉末を水等の分散媒中で粉砕すればよい。なお、スラリーにはバインダーや分散剤を加えてもよいし、加えなくてもよい。
【0031】
好ましいスラリーは、水を分散媒として含む水系スラリーである。この場合、水系スラリーに水溶性リチウム化合物を更に含ませてリチウム化合物水溶液とするのがより好ましい。水溶性リチウム化合物はリチウム源として機能するのみならず、後続の造粒工程において、水酸化物原料粉末の二次粒子同士を結着させて三次粒子とするためのバインダーとしても機能しうる。したがって、水溶性リチウム化合物の水系スラリー中での使用により、所望の粒径の造粒粉末を安定的に得やすくするとともに、必要に応じて後続のリチウム混合工程を不要にすることすら可能になる。その上、有機バインダーの使用も不要にすることができるので、有機バインダーを消失させるための脱脂工程を無くすこともできる。水溶性リチウム化合物の好ましい例としては、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、酸化リチウム、及び過酸化リチウムが挙げられ、より好ましくは、バインダー効果が高く、かつ、反応性が高くリチウム導入しやすい点で水酸化リチウムである。
【0032】
水系スラリーは、水溶性リチウム化合物を、Li/(Ni+M)のモル比率で0.01〜0.20の量で含むのが好ましく、より好ましくは、0.02〜0.15であり、さらに好ましくは0.04〜0.10である。この範囲のモル比であると電池特性において容量が高くなる。その理由は必ずしも明らかではないが、上記範囲において添加した水溶性リチウム化合物との反応性が良好になるためであると推察される。すなわち、Li/(Ni+M)比が0.01以上であると、リチウムが造粒粉末内にも予め存在することになるため焼成時にリチウムを反応に十分に供給することができ、それにより活物質内部にリチウム不足の領域が形成されにくくなるものと考えられる。すなわち、造粒粉末内にリチウムが無い場合、造粒粉末の中心部をリチウムと十分に反応させるためには、リチウムを造粒粉末の外から中心部までの比較的長い距離を拡散させる必要があるが、リチウムが造粒粉末内に予め存在していれば、比較的短い拡散距離で中心部まで到達させることができるので、反応不足の領域が生じやすい中心付近においても十分にリチウムと反応させることができる。また、Li/(Ni+M)比が0.10%以下であると、水溶性リチウム化合物の反応時に発生して造粒粉内に滞在しうるガス(水酸化リチウムの場合は下記式の如く水蒸気が発生)の量を低減して、反応に必要な酸素の相対的な濃度低下を抑制し、それにより酸素が欠損した領域が形成されにくくなるものと考えられる。
<水酸化リチウムと水酸化物原料粉末との反応の一例>
(NiCoAl)(OH)+LiOH・HO+1/4O
→Li(NiCoAl)O+5/2H
【0033】
また、前述したとおり、Co、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種であって、水酸化物原料粉末に含まれないか又は水酸化物原料粉末において不足する元素の化合物が、スラリーに添加されてもよい。
【0034】
(3)乾燥・造粒(三次粒化)工程
上記スラリーをスプレー乾燥等で乾燥し造粒することにより、空隙を含む略球状の造粒粉末を三次粒粉末として得ることができる。そのような造粒粉末の一例が図5に示される。造粒粉末の粒径は、正極活物質粒子の平均粒子径を決定する直接的な因子となることから、粒子の用途に合わせて適宜設定されるが、タップ密度、プレス密度、電極膜厚等の関係から、体積基準D50平均粒径において5〜40μm、好ましくは7〜40μmとするのが一般的である。乾燥・造粒方法としては、原料粉末が充填され、略球状に成形される限り、特に限定はない。
【0035】
乾燥時の雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気であっても不活性ガス雰囲気であってもよいが、前述のスラリー化工程において水溶性リチウム化合物を使用した場合においては、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気を用いるのが好ましい。これは、スプレー乾燥等による乾燥を大気中で行うと大気中の二酸化炭素に起因して反応性に劣る炭酸リチウムが析出しうるため、焼成工程(リチウム導入工程)におけるリチウム化合物との反応に長時間を要することがあるためである。なお、乾燥の際には、添加した水溶性リチウム化合物が造粒粉末を構成する二次粒子間に析出してバインダーとして機能しうる。
【0036】
こうして得られる三次粒粉末としての造粒粉末は、活物質前駆体粉末というべきものであり、そのまま後続のリチウム混合工程(場合により省略可能)及び焼成工程(リチウム導入工程)に付されてもよいし、あるいは、その後購入者によって上記後続の工程が行われる前提の下、活物質前駆体粉末として又はリチウム化合物との混合粉末として商取引されてもよい。
【0037】
(4)リチウム混合工程
造粒粉末はリチウム化合物と混合されてリチウム混合粉末とされる。リチウム化合物は正極活物質の組成LiMOを最終的に与えることが可能なあらゆるリチウム含有化合物が使用可能であり、好ましい例としては水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。反応に先立ち、解砕粉末はリチウム化合物と、乾式混合、湿式混合等の手法により混合されるのが好ましい。リチウム化合物の平均粒子径は特に限定されないが、0.1〜5μmであることが吸湿性の観点からの取扱い容易性及び反応性の観点から好ましい。なお、反応性を高めるために、リチウム量を0.5〜40mol%程度過剰にしてもよい。なお、リチウム混合工程前に仮焼してもよいし、仮焼しなくてもよい。仮焼により、前駆体に含まれる水酸化物基等の熱分解成分を除去することができ、後の焼成工程において、リチウムとの反応性を高めることができる。仮焼温度は400℃〜1000℃が好ましい。400℃以上の温度であると十分な熱分解効果が得られる一方、1000℃以下であると急激な粒成長の進行を抑制して、焼成工程におけるリチウムとの反応性の低下を回避できる。仮焼の雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気であってもよいし、酸素雰囲気であってもよい。
【0038】
また、前述したとおり、Co、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種であって、水酸化物原料粉末に含まれないか又は水酸化物原料粉末において不足する元素の化合物が、造粒粉末に添加されてもよい。
【0039】
なお、バインダーとして前述の水溶性リチウム化合物を使用した場合には、上記リチウム混合工程を不要にすることすら可能である。この場合には、スラリー化工程において全必要量の水溶性リチウム化合物を水系スラリーに加えておけばよい。もっとも、必要量の一部の水溶性リチウム化合物を水系スラリーに加えておき、残りの不足分の水溶性リチウム化合物をリチウム混合工程で補填するようにしてもよい。
【0040】
(5)焼成工程(リチウム導入)
リチウム混合粉末は焼成されて造粒粉末をリチウム化合物と反応させ、それにより開気孔を備えたリチウム二次電池用正極活物質が得られる。そのような正極活物質及び開気孔の一例が図6及び7にそれぞれ示される。このとき、上述の焼成前混合物を適宜の方法で焼成することで、正極活物質前駆体粒子にリチウムが導入され、それにより正極活物質粒子が得られる。例えば、上述の焼成前混合物を収容した鞘を炉中に投入することで、焼成が行われ得る。この焼成により、正極活物質の合成、さらには粒子の焼結及び粒成長が行われると同時に、略球状の原料粉末二次粒子の粒子間隙間に起因する開気孔が形成される。
【0041】
焼成温度は、600℃〜1100℃が好ましく、この範囲内であると、粒成長が十分となり、正極活物質の分解やリチウムの揮発を抑制して所望の組成が実現しやすくなる。焼成時間は1〜50時間とするのが好ましく、この範囲であると焼成のために消費されるエネルギーの過度の増大を防止できる。
【0042】
また、昇温過程において混合したリチウムと前駆体との反応性を高める目的で、焼成温度より低温(例えば400〜600℃)で1〜20時間の温度保持が行われてもよい。かかる温度保持工程を経ることで、リチウムが溶融するため、反応性を高めることができる。なお、この焼成(リチウム導入)工程における、ある温度域(例えば400〜600℃)の昇温速度を調整することによっても、同様の効果が得られる。
【0043】
焼成雰囲気は、焼成中に分解が進まないように適宜設定する必要がある。リチウムの揮発が進むような場合は、炭酸リチウム等を同じ鞘内に配置してリチウム雰囲気とすることが好ましい。焼成中に酸素の放出や、さらには還元が進むような場合、酸素分圧の高い雰囲気で焼成することが好ましい。なお、焼成後に、正極活物質粒子同士の癒着や凝集を解したり、正極活物質粒子の平均粒子径を調整したりする目的で、適宜、解砕や分級が行われてもよい。
【0044】
また、焼成後、もしくは解砕や分級工程を経た、正極材活物質において、100〜400℃で後熱処理を行われても良い。かかる後熱処理工程を行うことで、一次粒子の表面層を改質することができ、以てレート特性及び出力特性が改善される。また、焼成後、もしくは解砕や分級工程を経た、正極活物質に水洗処理が行われてもよい。かかる水洗処理工程を行うことで、正極活物質粉末の表面に残留した未反応のリチウム原料、あるいは大気中の水分及び二酸化炭素が正極活物質粉末表面に吸着して生成する炭酸リチウムを除去することができ、それにより高温保存特性(特にガス発生抑制)が改善される。
【0045】
リチウム二次電池用正極活物質
上述した本発明の製造方法によれば、高い電池特性をもたらす開気孔比率の高い空隙を備えた、層状岩塩構造を有するリチウム二次電池用正極活物質が得られる。典型的には、本発明により得られる正極活物質は、多数の一次粒子からなる二次粒子が、1〜30%の空隙率及び50%以上の開気孔比率を有する三次粒子を形成している。空隙率をこの範囲にすることで、容量を損なうことなく充放電特性の改善という効果を得ることができる。正極活物質粒子における開気孔比率は50%以上であるのが好ましく、より好ましくは60%以上であり、更に好ましくは70%であり、特に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。このように開気孔比率は高ければ高いほど好ましいことから上限値は特に設定されない。このような範囲の空隙率で開気孔比率を高くすることで、開気孔を通って三次粒子内に電解液が浸透しやすくなるためイオン伝導性が向上すると同時に、開気孔以外の部分は多数の一次粒子同士の緻密な結合に起因して電子伝導の経路となる一次粒子間の結合部を十分多く確保することができ、空隙形成に伴う電子伝導性の低下を抑制できる。その結果、本来はトレードオフの関係にある電子伝導性とイオン伝導性の両立が可能となり、改善したレート特性が得られるものと考えられる。
【0046】
本発明の正極活物質を構成する、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物としては、典型的には、コバルト酸リチウム(LiCoO)を用いることができる。もっとも、コバルトの他にニッケルやマンガン等を含有した固溶体を、本発明の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物として用いることも可能である。具体的には、本発明の正極活物質を構成するリチウム複合酸化物として、下記の組成式:
LiNi1−z
(式中、0.96≦x≦1.09、0<z≦0.5)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表されるものが好ましく利用可能である。xの好ましい値は0.98〜1.06であり、より好ましくは1.00〜1.04である。zの好ましい値は0.15〜0.4であり、より好ましくは0.15〜0.25である。好ましい金属元素MはCo、Al、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種又は2種の金属元素であり、より好ましくはAl、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種とCoとを含み、特に好ましい金属元素Mの組合せはCo及びAl、又はCo及びMnである。
【0047】
さらに、正極活物質の表面(気孔内壁も含む)に、活物質には含まれない金属元素を含む化合物、例えば、W、Mo、Nb、Ta、Re等の高価数をとりうる遷移金属を含有する化合物が存在していてもよい。そのような化合物は、W、Mo、Nb、T a、Re等の高価数をとることができる遷移金属とLiとの化合物であってもよい。金属元素を含む化合物は、正極活物質内に固溶していてもよいし、第2相として存在していてもよい。こうすることにより、正極活物質と非水電解液との界面が改質され、電荷移動反応が促進されて、出力特性やレート特性が改善されるものと考えられる。
【0048】
なお、粒成長の促進、あるいは、焼成中におけるリチウム揮発を考慮して、リチウムが0.1〜40mol%過剰になるように、原料粉末中にリチウム化合物が多めに投入されていてもよい。また、粒成長を促進する目的で、原料粉末に低融点酸化物(酸化ビスマス、酸化バナジウム等)、低融点ガラス(ホウケイ酸ガラス等)、フッ化リチウム塩化リチウム、酸化ホウ素等が、0.001〜30質量%添加されてもよい。
【0049】
本発明の好ましい態様による正極活物質は、平均一次粒子径が0.01〜5μmである多数の一次粒子(好ましくは層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物の単結晶一次粒子)からなる二次粒子が三次粒子を形成し、三次粒子が、1〜100μmの体積基準D50平均粒子径、1〜30%の空隙率、50%以上の開気孔比率、及び0.1〜5μmの平均開気孔径を有し、平均開気孔径で一次粒子の平均粒子径を除した値が0.1〜5である。かかる構成を有する正極活物質においては、三次粒子中の気孔の周辺に多数の一次粒子が存在するとともに、隣り合う複数の一次粒子同士で電子伝導及びリチウムイオン拡散の方向(特に電子伝導の方向)が良好に揃う。このため、三次粒子中における電子伝導及びリチウムイオン拡散の経路(特に電子伝導の経路)が良好に確保される。したがって、本発明によれば、従来よりもさらにいっそう電池特性を向上させることが可能となる。特に、ハイレートでの放電電圧(以下、単に「出力特性」と称する)や、ハイレートでの放電容量(以下、単に「レート特性」と称する)を向上させることが可能となる。
【0050】
なお、「平均一次粒子径/平均開気孔径」の値が上述のように0.1以上5以下、より好ましくは0.2以上3以下、さらに好ましくは0.3以上1以下のとき、三次粒子におけるリチウムイオン伝導性及び電子伝導性が最大限に引き出される。すなわち、「平均一次粒子径/平均開気孔径」の値が0.1以上であると、気孔の周辺に存在する一次粒子の数が多くなり過ぎることによる粒界抵抗の過度の増大を防止して、出力特性やレート特性の低下を防止できる。また、「平均一次粒子径/平均開気孔径」の値が5以下であると、気孔の周辺に存在する一次粒子同士の接触点を多くして、電子伝導及びリチウムイオン拡散の経路(特に電子伝導の経路)を十分に確保して、出力特性の低下を防止できる。
【0051】
また、正極活物質粒子は、多数の気孔を有している。すなわち、この正極活物質粒子においては、空隙率が1%以上30%以下であり、平均開気孔径が0.1μm以上5μm以下である。さらに、この正極活物質粒子においては、単結晶一次粒子の平均粒子径を平均開気孔径で除した値が、0.1以上5以下である。
【0052】
本実施形態の正極活物質粒子においては、気孔の周辺に多数の単結晶一次粒子が(粒界抵抗が大きくなり過ぎない程度に)存在するとともに、隣り合う複数の単結晶一次粒子同士で電子伝導及びリチウムイオン拡散の方向が良好に揃うのが好ましい。これにより、電子伝導及びリチウムイオン拡散の経路が良好に確保される。よって、単結晶一次粒子間での電子伝導及びリチウムイオン拡散の抵抗が低減され、リチウムイオン伝導性や電子伝導性が向上する。したがって、本実施形態の正極活物質粒子によれば、リチウム二次電池の充放電特性(特にレート特性や出力特性)を顕著に向上させることができる。
【0053】
さらに、正極活物質粒子(三次粒子)を構成する二次粒子は、用いた水酸化物原料に由来して、電子伝導及びリチウムイオン拡散が行われる(003)面が二次粒子の中心から外方に向かって並んでいたり、あるいはその粉砕片として(003)面が少なくとも一軸方向において互いに概ね交差しないように配向されてなる形態を有していたりする。このため、電解液と接する、外表面や開気孔により形成される内表面におけるリチウムイオン出入り面および電子伝導面の露出が増大するとともに、二次粒子内の電子伝導、及びリチウムイオン拡散の抵抗も低減されうる。典型的には、二次粒子は、(003)面が少なくとも一軸方向において互いに概ね交差しないように配向された一次粒子の集合体となっており、それだけ電子伝導及びリチウムイオン拡散の方向(特に電子伝導の方向)が良好に揃いやすい。このような観点からも、三次粒子中における電子伝導及びリチウムイオン拡散の経路(特に電子伝導の経路)を確保しやすいといえる。
【0054】
単結晶一次粒子の平均粒子径は、0.01μm以上5μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上3μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上1.5μm以下であることがさらに好ましい。単結晶一次粒子の平均粒子径を上記の範囲内とすることで、単結晶一次粒子の結晶性が確保される。この点、単結晶一次粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、単結晶一次粒子の結晶性が低下し、リチウム二次電池の出力特性やレート特性が低下する場合がある。しかしながら、本実施形態の正極活物質粒子においては、単結晶一次粒子の平均粒子径が0.1〜0.01μmであっても、出力特性やレート特性の大きな低下は見られない。
【0055】
三次粒子としての正極活物質粒子の平均粒子径(体積基準D50平均粒径)は、1μm以上100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上70μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上50μm以下であり、特に好ましくは5μm〜40μmであり、最も好ましくは10〜20μmである。正極活物質粒子の平均粒子径をこの範囲内とすることで、正極活物質粒子内における正極活物質の充填性が確保される(充填率が向上する)。また、リチウム二次電池の出力特性やレート特性を維持しつつ、平坦な電極表面を形成することができる。一方、正極活物質粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、正極活物質の充填率を高くすることができるとともに、リチウム二次電池の出力特性やレート特性の低下や電極表面の平坦性の低下を防止することができる。正極活物質粒子の平均粒子径の分布は、シャープであってもよく、ブロードであってもよく、ピークを複数有していてもよい。例えば、正極活物質粒子の平均粒子径の分布がシャープでない場合は、正極活物質層内の正極活物質の充填密度を高めたり、正極活物質層と正極集電体との密着力を高めたりすることができる。これにより、充放電特性をさらに改善することができる。特に、水溶性リチウム化合物を含むスラリーをバインダー兼リチウム源として使用した場合には、上記範囲内(特に5μm〜40μm)の平均粒径を有する正極活物質を安定的に得やすくなる。
【0056】
正極活物質粒子における空隙率(気孔の体積比率)は、1%以上30%以下であるのが好ましい。空隙率をこの範囲にすることで、容量を損なうことなく充放電特性の改善という効果を得ることができる。特に、本発明の方法によれば低い空隙率(例えば10%以下)でも高い開気孔比率を実現可能であるとの利点がある。正極活物質粒子における開気孔比率は50%以上であるのが好ましく、より好ましくは60%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。正極活物質粒子における平均開気孔径(正極活物質粒子内の開気孔の直径の平均値)は、0.1μm以上5μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.2μm以上3μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上2μm以下である。このような範囲であると、比較的大きな気孔の生成を防止して、充放電に寄与する正極活物質の体積あたりの量を十分に確保することができる。また、このような大きな気孔の局所において、応力集中が発生するのを防止して、内部で応力を均一に開放する効果が得られる。さらに、導電材や電解質を内在させやすくなり、気孔による応力開放効果を十分なものとすることができる。このため、高容量を維持しつつ充放電特性を改善するという効果が期待できる。
【0057】
正極活物質は、2.5〜3.1g/ccのタップ密度を有するのが好ましく、より好ましくは2.6〜3.0g/ccである。このような範囲のタップ密度は正極活物質として高密度であることを意味するため、体積エネルギー密度が高い正極活物質をもたらす。
【0058】
正極活物質は、1.0kgf/cmの圧力で一軸プレスした際のプレス密度が、3.0〜3.5g/ccであることが好ましく、より好ましくは3.2〜3.4g/ccである。このような範囲のプレス密度は、電極形成した際に高密度であることを意味するため、体積エネルギー密度が高い正極活物質をもたらす。このプレス密度は、直径20mmの円筒ダイスに正極活物質を1.5g秤量し、1.0kgf/cmの荷重で一軸プレスした後、(粉末重量)/(プレス後の粉末の嵩体積)を算出することによって決定することができる。
【0059】
活物質前駆体粉末
本発明の一態様によれば、リチウムイオン電池用正極活物質の製造に用いられる活物質前駆体粉末が提供される。この活物質前駆体粉末は、水酸化物原料粉末及び水溶性リチウム化合物を含んでなる凝集粒子からなる粉末である。水溶性リチウム化合物は、Ni1−y(OH)(式中、0<y≦0.5、MはCo、Al、Mg、Mn、Ti、Fe、Cr、Zn及びGaからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素)で表される組成の複数の一次粒子が配向してなる二次粒子からなる。水溶性リチウム化合物は、二次粒子間に介在して、リチウム源として機能するのみならず水酸化物原料粉末の二次粒子同士を結着させて三次粒子とするためのバインダーとしても機能する。そして、活物質前駆体粉末が、水中で超音波照射により解凝集された場合に、体積基準で、粒径10μm以上の粒子の割合が10%以下、粒径1.0〜10μmの粒子の割合が30〜60%、粒径0.1〜1.0μm以下の粒子の割合が40〜70%である粒度分布を有し、かつ、焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、10〜40μmの体積基準D50平均粒径を有する。このような粒径及び粒度分布プロファイルを有することで、三次粒粉末である活物質前駆体粉末中に適切な大きさの隙間が多数形成され、少ない空隙率でも高い開気孔比率を達成するのに有利となる。すなわち、開気孔を三次粒粉末中に導入しやすくなる。また、この粒度分布を上記範囲内で制御することによって、空隙率及び空隙径を適宜変化させることができる。また、粒径が大きめの粒子の間に粒径が小さい粒子が介在する構成となるので、粉砕粉末全体としての凝集力が高く、造粒粉末を壊れにくくすることもできる。したがって、このような本態様の活物質前駆体粉末によれば、(所望によるリチウム化合物との混合後)焼成によりリチウム導入するだけで、造孔剤を使用することなく、高い電池特性をもたらす、所望の空隙率で開気孔比率の高い正極活物質を極めて簡便に得ることができる。
【0060】
このように、本態様の活物質前駆体粉末は、前述した正極活物質の製造方法における「(3)乾燥・造粒(三次粒化)工程」で得られる造粒粉末に相当するものである。したがって、「リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」において述べた、水酸化物原料粉末及び水溶性リチウム化合物に関する記載は、本態様の活物質前駆体粉末にもそのまま援用するものとするが、本態様と相容れない記載がある場合は本態様の記載が優先するものとする。
【0061】
本態様の活物質前駆体粉末は、水中で超音波照射により解凝集された場合に、体積基準で、粒径10μm以上の粒子の割合が10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下であり、粒径1.0〜10μmの粒子の割合が30〜60%、好ましくは33〜58%、さらに好ましくは35〜55%であり、粒径0.1〜1.0μm以下の粒子の割合が40〜70%、好ましくは40〜68%、さらに好ましくは40〜65%である粒度分布を有する。このように大小様々な大きさの粒子を上記粒度分布で含むことにより、正極活物質において所望の空隙率で高い開気孔比率を実現しやすくなる。なお、この解凝集は、水中での超音波照射による一般的な解凝集手法に従えばよいが、より正確な評価を行うためには、活物質前駆体粉末を水中に投入後、超音波ホモジナイザーにより600Wで3分間超音波照射を行い、水酸化物原料粉末及び原料微粒子の状態にほぐすことにより行うのが好ましい。こうして得られた試料スラリーの粒度分布をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定すればよい。
【0062】
さらに、本態様の活物質前駆体粉末は、焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、10〜40μm、好ましくは10〜20μmの体積基準D50平均粒径を有する。この焼成によるリチウム導入の手法は、一般的なリチウム導入及び焼成手法に従えばよいが、より正確な評価を行うためには、必要に応じてリチウム化合物を添加した後、高純度アルミナ製のるつぼ内に投入し、酸素雰囲気中(0.1MPa)にて50℃/hで昇温し、765℃で24時間加熱処理することにより行うのが好ましい。こうして得られた正極活物質の体積基準D50平均粒径をレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により水を分散媒として測定すればよい。
【0063】
上記のように焼成ないし解凝集して粒度分布特性を評価しているのは、活物質前駆体粉末は焼成に付される前の前駆体粉末であるため、そのままの形態で平均粒径や粒度分布を一義的に決定することは容易ではないため、より客観的な評価手法が望ましいとの考えに基づくものである。そして、上記範囲内の粒度分布特性によって特性付けられる本態様の活物質前駆体粉末は、(所望によるリチウム化合物との混合後)焼成によりリチウム導入するだけで、造孔剤を使用することなく、高い電池特性をもたらす、所望の空隙率で開気孔比率の高い正極活物質を極めて簡便に得ることができる。
【0064】
活物質前駆体粉末を構成する水酸化物原料粉末は、個々の二次粒子内において、複数の一次粒子が(003)面を所定方向に揃えて配向してなるのが好ましい。上述のように、本態様の活物質前駆体粉末は、前述した正極活物質の製造方法における「(3)乾燥・造粒(三次粒化)工程」で得られる造粒粉末に相当しうるものであることから、この前駆体粉末を構成する水酸化物原料粉末は、概して又は部分的に、図1に示されるような粉砕によって当初備えていた放射状配向が崩壊されてなる。すなわち、図1に示されるように、軽く粉砕して得られた粉砕粉末2は、放射状配向粉末の配向に由来して所定方向に配向した二次粒子2bの単位に砕かれてなる粒子を主として含んでなる。つまり、図1に示されるように、そのようにして砕かれた個々の二次粒子2b内において、複数の一次粒子は(003)面が少なくとも一軸方向において互いに概ね交差しないように配向されてなる。もっとも、水酸化物原料粉末の一部は放射状配向を有するものであってもよい。あるいは、当初から放射状配向を有しない水酸化物原料粉末を用いてもよい。すなわち、結果として複数の一次粒子がそれらの(003)面が少なくとも一軸方向において互いに概ね交差しないように配向されてなるものであれば、個々の二次粒子が由来する水酸化物原料粉末の当初の配向形態は問わない。そして、このように所定方向に配向された水酸化物原料粉末を含むことで、正極活物質とされた場合に、電解液と接する、外表面や開気孔により形成される内表面におけるリチウムイオン出入り面および電子伝導面の露出が増大するとともに、二次粒子内の電子伝導、及びリチウムイオン拡散の抵抗も低減されうる。典型的には、二次粒子は、(003)面が少なくとも一軸方向において互いに概ね交差しないように配向した一次粒子の集合体となっており、それだけ電子伝導及びリチウムイオン拡散の方向(特に電子伝導の方向)が良好に揃いやすい。このような観点からも、三次粒子中における電子伝導及びリチウムイオン拡散の経路(特に電子伝導の経路)を確保しやすいといえる。
【0065】
すなわち、図8にxyz座標系を用いて模式的に示されるように、個々の一次粒子14においては、層状岩塩構造に起因して、z軸に垂直な(003)面の面内方向(例えば図中のx,y方向)に沿ってリチウムイオンの移動が行われることになる。このため、複数の一次粒子14を含む二次粒子の形態において、それらの(003)面が少なくとも一軸方向において互いに概ね交差しないように配向されていれば、リチウムイオンがその一軸方向においては妨げられることなく移動可能になる。したがって、図9に示されるように、複数の一次粒子14はそれらの(003)面が矢印で示される一軸方向に互いに概ね交差しないように配向しさえしていれば、個々の二次粒子12’内において少なくとも当該一軸方向にはリチウムイオンの移動可能性が確保されることになる。もっとも、図10に示されるように、複数の一次粒子14はそれらの(003)面が互いに略平行になる(すなわち(003)面が二軸方向において互いに概ね交差しない)ように配向されてなるのがより好ましく、この場合には個々の二次粒子12’’内においてリチウムイオンが互いに平行な(003)面の面内方向に沿ってリチウムイオンの移動可能性が確保されることになる。
【0066】
水溶性リチウム化合物の好ましい例としては、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、酸化リチウム、及び過酸化リチウムが挙げられ、より好ましくは、バインダー効果が高く、かつ、反応性が高くリチウム導入しやすい点で水酸化リチウムである。
【0067】
凝集粒子は、水溶性リチウム化合物をLi/(Ni+M)のモル比率で0.01〜0.20の量で含むのが好ましく、より好ましくは、0.03〜0.15であり、さらに好ましくは0.04〜0.10である。前述したように、この範囲のモル比であると電池特性において容量が高くなる。
【0068】
活物質前駆体粉末は、焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、1〜30%の空隙率及び50%以上の開気孔比率を有するのが好ましい。より好ましい空隙率は5〜20%であり、さらに好ましくは5〜15%である。より好ましい開気孔比率は60%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。活物質前駆体粉末は、焼成によるリチウム導入を経て正極活物質とされた場合に、0.2〜3μmの平均開気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.5〜3μmである。活物質前駆体粉末は、正極活物質を構成する一次粒子の平均粒子径を平均開気孔径で除した値が0.2〜3であるのが好ましく、より好ましくは0.3〜1である。これらの数値範囲内であることの利点は正極活物質に関して前述したとおりである。
【実施例】
【0069】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法は、以下に示す通りである。
【0070】
<D50粒径>
水酸化物原料粉末、造粒粉末(活物質前駆体粉末)及び正極活物質の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 型番「MT3000−II」)を用いて、水を分散媒として測定される体積基準D50平均粒子径(メディアン径)を測定することにより行った。
【0071】
<粒度分布>
造粒粉末(活物質前駆体粉末)を水中に投入後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所社製、US600T)により600Wで3分間超音波照射を行い、水酸化物原料粉末及び原料微粒子の状態にほぐした。こうして得られた試料スラリーの粒度分布を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 型番「MT3000−II」)を用いて測定し、全構成粒子中に占める粒径0.1〜1.0μmの粒子、粒径1.0〜10μmの粒子、及び10μm以上の粒子の割合を決定した。なお、このようにして造粒粉末を解凝集して測定される粒度分布は、粉砕工程で得られる粉砕原料粉末の粒度分布とほぼ一致するものである。
【0072】
<空隙率>
正極材料活物質を樹脂埋めし、クロスセクションポリッシャ(CP)により正極活物質の断面研磨面が観察できるように研磨し、SEM(走査型子顕微鏡、「JSM−6390LA」日本電子社製)により、断面イメージを取得する。このイメージを画像処理により、断面中の空隙部分と正極材料部分を分け、(空隙部分の面積)/(空隙部分の面積+正極材料の面積)を求める。これを、10個の2次粒子に対して行い、その平均値を求め、空隙率(%)とした。
【0073】
<開気孔比率>
上述の空隙率の評価法において、空隙部分のうち樹脂が含浸されている部分を開気孔、空隙部分のうち樹脂が含浸されていない部分を閉気孔とし(開気孔部分の面積)/(開気孔部分の面積+閉機構部分の面積)によって求める。これを、10個の2次粒子に対して行い、その平均値を求め、開気孔比率とした。なお、樹脂埋めの際には、開気孔中に十分に樹脂が含浸されるよう、真空含浸装置(ストルアス社製 装置名「シトバック」)を用いて気孔中に存在する空気を十分に追い出しながら樹脂埋めを行った。
【0074】
<平均開気孔径>
平均開気孔径(平均開気孔径)は、水銀圧入式細孔分布測定装置(株式会社島津製作所製、装置名「オートポアIV9510」)を用いた水銀圧入法によって測定した。
【0075】
<一次粒子径/平均開気孔径>
FE−SEM(電界放射型走査型電子顕微鏡:日本電子株式会社製、製品名「JSM−7000F」)を用いて、単結晶一次粒子が視野内に10個以上入る倍率を選択して、SEM画像を撮影した。このSEM画像において、10個の一次粒子のそれぞれについて、外接円を描いたときの当該外接円の直径を求めた。そして、得られた10個の直径の平均値を、一次粒子径とした。この一次粒子径を平均開気孔径で除して、一次粒子径/平均開気孔径の比率を得た。
【0076】
<タップ密度>
正極活物質粒子の粉末試料を入れたメスシリンダーを市販のタップ密度測定装置を用いて200回タッピングした後、(粉末重量)/(粉末の嵩体積)を算出することによって、タップ密度を求めた。
【0077】
<放電容量及びSOC10%電圧>
電池特性の評価のために、次のようにしてコインセル型電池を作製した。具体的には、得られた三次粒粉末、アセチレンブラック、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、質量比で90:5:5となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドンに分散させることで、正極活物質ペーストを作製した。このペーストを正極集電体としての厚さ20μmのアルミニウム箔上に均一な厚さ(乾燥後の厚さ50μm)となるように塗布し、乾燥後のシートから直径14mmの円板状に打ち抜いたものを2000kg/cmの圧力でプレスすることで、正極板を作製した。このようにして作製した正極板を用いてコインセルを作製した。なお、電解液は、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を等体積比で混合した有機溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度となるように溶解することで調製した。
【0078】
上述のように作製した特性評価用電池(コインセル)を用いて、以下のように充放電操作を行うことで、出力特性の評価を行った。具体的には、0.1Cレートの電流値で電池電圧が4.3Vとなるまで定電流充電した。その後、電池電圧を4.3Vに維持する電流条件で、その電流値が1/20に低下するまで定電圧充電した。10分間休止した後、5Cレートの電流値で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電し、その後10分間休止した。これらの充放電操作を1サイクルとし、25℃の条件下で合計2サイクル繰り返した。2サイクル目の放電容量の値を測定結果として採用した。2サイクル目の放電容量を100%とした際の90%時の放電電圧(SOC10%電圧:SOCは「State Of Charge」の略であって充電状態を意味する)を放電曲線から読み取った。この数値を出力特性の指標とした。この数値が高いほど、出力特性が高く、好ましい。
【0079】
例1
(1)水酸化物原料粉末の作製
組成が(Ni0.844Co0.156)(OH)であり、二次粒子がほぼ球状且つ一次粒子の一部が二次粒子の中心から外方向へ放射状に並んだ、表2に示される二次粒子径(体積基準D50)を有するニッケル・コバルト複合水酸化物粉末を用意した。このニッケル・コバルト複合水酸化物粉末は公知の技術に従って作製可能なものであり、例えば以下のようにして作製した。すなわち、純水20Lを入れた反応槽へ、モル比でNi:Co=84.4:15.6である濃度1mol/Lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液を投入速度50ml/minで、また濃度3mol/Lの硫酸アンモニウムを投入速度2ml/minで同時に連続投入した。一方、濃度10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内のpHが自動的に12.5に維持されるように投入した。反応槽内の温度は70℃に維持し、攪拌機により常に攪拌した。生成したニッケル・コバルト複合水酸化物は、オーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出し、水洗、脱水、乾燥処理した。
【0080】
(2)粉砕及びスラリー調製工程
得られた水酸化物原料粉末に対し、モル比でNi:Co:Al=81:15:4となるようにAl原料であるベーマイトを加えた後、分散媒として純水300部を加え、ビーズミル(SC220/70、日本コークス社製)にて軽く粉砕混合した。この粉砕混合は、パス回数:10回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:900rpmのビーズミル条件で行った。こうして得られた混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、純水を加えて、粘度を0.5Pa・s(ブルックフィールド社製LVT型粘度計を用いて測定)に調整することで、スラリーを調製した。得られたスラリーの固形分濃度は20質量%であった。
【0081】
(3)乾燥・造粒工程
上述のようにして調製したスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製、型式「FOC−16」、熱風入り口温度120℃、アトマイザ回転数24000rpm)で乾燥・造粒することにより、略球状の二次粒造粒粉末作製した。乾燥後のD50粒径は、17μmであった。
【0082】
(4)リチウム化合物との混合
得られた粉末と、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、mol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.04となるように混合した。
【0083】
(5)焼成工程(リチウム導入工程)
上述の混合粉末を、高純度アルミナ製のるつぼ内に投入し、酸素雰囲気中(0.1MPa)にて50℃/hで昇温し、765℃で24時間加熱処理することで、Li(Ni0.81Co0.15Al0.04)O粉末を得た。こうして得られた正極活物質について各種測定を行ったところ表1に示されるとおりの結果が得られた。
【0084】
例2
粉砕混合を、パス回数:15回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0085】
例3
粉砕混合を、パス回数:15回、玉石径:2.0mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:900rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0086】
例4
粉砕混合を、パス回数:30回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0087】
例5
粉砕混合を、パス回数:25回、玉石径:0.5mm、玉石量:4.4kg、及びミル回転回数:900rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0088】
例6
粉砕混合を、パス回数:40回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0089】
例7
粉砕混合を、パス回数:40回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと、並びに添加されるべきリチウム化合物の40質量%をスラリー調製工程で加えたこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。具体的には、リチウム化合物の添加は、スラリー調製工程におけるベーマイト及び純水の添加後、mol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=0.4となるようにLiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)をスラリー中に混合及び溶解させることにより行った。これに伴い、リチウム化合物との混合工程においては、乾燥した造粒粉末と、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、混合後のmol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.04となるように、Li/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=0.64の比率で混合した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0090】
例8(比較)
粉砕混合を、パス回数:30回、玉石径:0.5mm、玉石量:3.3kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであり、空隙が多すぎて正極活物質が脆く測定不可であった。
【0091】
例9(比較)
粉砕混合を、パス回数:45回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:1300rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであり、空隙が全く無く、出力特性も低いものであった。
【0092】
例10(比較)
粉砕混合を、パス回数:70回、玉石径:2mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:900rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例1と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表1に示されるとおりであり、開気孔が少なく、出力特性も比較的低いものであった。
【0093】
例11〜15
スラリー調製工程で加えたリチウム化合物の添加比率を表1に記載されるように変えたこと以外は例7と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。具体的には、リチウム化合物の添加は、スラリー調製工程におけるベーマイト及び純水の添加後、mol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=0.01(例11)、0.05(例12)、0.10(例13)、0.15(例14)又は1.04(例15)となるようにLiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)をスラリー中に混合及び溶解させることにより行った。これに伴い、例11〜14のリチウム化合物との混合工程においては、乾燥した造粒粉末と、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、混合後のmol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.04となるように、Li/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.03(例11)、0.99(例12)、0.94(例13)又は0.89(例14)の比率で混合した。一方、例15においては、LiOH・HO粉末をスラリー調製工程において、mol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.04となるよう混合したため、乾燥した造粒粉末とリチウム化合物の混合は行わなかった。結果は表1に示されるとおりであった。
【0094】
例16〜18
添加されるべきリチウム化合物の一部をスラリー調製工程で加えたこと以外は例3と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。具体的には、リチウム化合物の添加は、スラリー調製工程におけるベーマイト及び純水の添加後、mol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=0.01(例16)、0.05(例17)又は0.10(例18)となるようにLiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)をスラリー中に混合及び溶解させることにより行った。これに伴い、リチウム化合物との混合工程においては、乾燥した造粒粉末と、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、混合後のmol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.04となるように、Li/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.03(例16)、0.99(例17)又は0.94(例18)の比率で混合した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0095】
例1〜7及び11〜18で得られた正極活物質はいずれも、平均一次粒子径が0.01〜5μmである多数の一次粒子からなる三次粒子を含んでなり、三次粒子が、10〜40μmの体積基準D50平均粒子径、1〜30%の空隙率、50%以上の開気孔比率、及び0.2〜3μmの平均開気孔径を有し、平均開気孔径で一次粒子の平均粒子径を除した値が0.2〜3、タップ密度2.5g/cc以上であった。
【0096】
【表1】
【0097】
例19
(1)水酸化物原料粉末の作製
組成が(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)であり、二次粒子がほぼ球状且つ一次粒子の一部が二次粒子の中心から外方向へ放射状に並んだ、表2に示される二次粒子径(体積基準D50)を有するニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粉末を用意した。このニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粉末は公知の技術に従って作製可能なものであり、例えば以下のようにして作製した。すなわち、純水20Lを入れた反応槽へ、モル比でNi:Co:Mn=50:20:30である濃度1mol/Lの硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンの混合水溶液を投入速度50ml/minで、また濃度3mol/Lの硫酸アンモニウムを投入速度2ml/minで同時に連続投入した。一方、濃度10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、反応槽内のpHが自動的に12.5に維持されるように投入した。反応槽内の温度は70℃に維持し、攪拌機により常に攪拌した。生成したニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物は、オーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出し、水洗、脱水、乾燥処理した。なお、反応槽への上記各化合物の投入から水酸化物の取り出しに至るまでの一連の工程(すなわち水洗、脱水及び乾燥処理を除く一連の工程)はいずれも不活性雰囲気中で行った。
【0098】
(2)粉砕及びスラリー調製工程
得られた水酸化物原料粉末に対し、分散媒として純水300部を加え、ビーズミル(SC220/70、日本コークス社製)にて軽く粉砕混合した。この粉砕混合は、パス回数:36回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行った。こうして得られた混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに、純水を加えて、粘度を0.5Pa・s(ブルックフィールド社製LVT型粘度計を用いて測定)に調整することで、スラリーを調製した。得られたスラリーの固形分濃度は20質量%であった。
【0099】
(3)乾燥・造粒工程
上述のようにして調製したスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製、型式「FOC−16」、熱風入り口温度120℃、アトマイザ回転数24000rpm)で乾燥・造粒することにより、略球状の二次粒造粒粉末作製した。乾燥後のD50粒径は、24μmであった。
【0100】
(4)リチウム化合物との混合
得られた粉末と、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、mol比率でLi/(Ni0.5Co0.2Mn0.3)=1.04となるように混合した。
【0101】
(5)焼成工程(リチウム導入工程)
上述の混合粉末を、高純度アルミナ製のるつぼ内に投入し、大気雰囲気中にて50℃/hで昇温し、850℃で24時間加熱処理することで、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O粉末を得た。こうして得られた正極活物質について各種測定を行ったところ表2に示されるとおりの結果が得られた。
【0102】
例20
粉砕混合を、パス回数:20回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:800rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例19と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表2に示されるとおりであった。
【0103】
例21
粉砕混合を、パス回数:16回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:800rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例19と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表2に示されるとおりであった。
【0104】
例22〜25
添加されるべきリチウム化合物の一部又は全部をスラリー調製工程で加えたこと以外は例20と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。具体的には、リチウム化合物の添加は、スラリー調製工程におけるベーマイト及び純水の添加後、mol比率でLi/(Ni0.5Co0.2Mn0.3)=0.05(例22)、0.10(例23)、0.15(例24)又は1.04(例25)となるようにLiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)をスラリー中に混合及び溶解させることにより行った。これに伴い、例22〜24のリチウム化合物との混合工程においては、乾燥した造粒粉末と、LiOH・HO粉末(和光純薬工業株式会社製)とを、混合後のmol比率でLi/(Ni0.5Co0.2Mn0.3)=1.04となるように、Li/(Ni0.5Co0.2Mn0.3)=0.99(例22)、0.94(例23)又は0.89(例24)の比率で混合した。一方、例25においては、LiOH・HO粉末をスラリー調製工程において、mol比率でLi/(Ni0.81Co0.15Al0.04)=1.04となるよう混合したため、乾燥した造粒粉末とリチウム化合物の混合は行わなかった。なお、結果は表2に示されるとおりであった。
【0105】
例26(比較)
粉砕混合を、パス回数:60回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例19と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表2に示されるとおりであり、開気孔が少なく、出力特性も比較的低いものであった。
【0106】
例27(比較)
粉砕混合を、パス回数:5回、玉石径:0.5mm、玉石量:6.6kg、及びミル回転回数:400rpmのビーズミル条件で行ったこと以外は例19と同様にして正極活物質の作製及び各種測定を行った。結果は表2に示されるとおりであり、空隙が多すぎて正極活物質が脆く測定不可であった。
【0107】
例19〜25で得られた正極活物質はいずれも、平均一次粒子径が0.01〜5μmである多数の一次粒子からなる三次粒子を含んでなり、三次粒子が、10〜40μmの体積基準D50平均粒子径、1〜30%の空隙率、50%以上の開気孔比率、及び0.2〜3μmの平均開気孔径を有し、平均開気孔径で一次粒子の平均粒子径を除した値が0.2〜3、タップ密度2.5g/cc以上であった。
【0108】
【表2】
図8
図9
図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7