(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0016】
〔ポリエチレンパウダー〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、平均粒子径が50μm未満の水酸化アルミニウム0.5ppm以上3,000ppm以下と、マグネシウム元素0.5ppm以上12ppm以下とを含み、粘度平均分子量が100,000以上である。
【0017】
上記構成を有することにより、耐糸切れ性、寸法安定性、及び耐酸性に優れる繊維、及び/又は、寸法安定性や耐酸性に優れる微多孔膜を与えることができ、好ましい態様においては繊維及び/又は微多孔膜の連続加工生産性に優れるポリエチレンパウダーを提供することができる。
【0018】
〔水酸化アルミニウム〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、平均粒子径が50μm未満の水酸化アルミニウムを0.5ppm以上3,000ppm以下含む。このような水酸化アルミニウムを含むことにより、製品の寸法安定性がより向上する。製品の寸法安定性が向上する理由は定かではないが、成形時において、成形機内で水酸化アルミニウムが熱により脱水反応し、温度を低下させ、成形機内のポリエチレンの温度及び粘度が均一化するためと考えられる。特に、成形速度が高速化するにつれて水酸化アルミニウムの効果は顕著となる。
【0019】
平均粒子径が50μm未満の水酸化アルミニウムの含有量は、耐糸切れ性、製品の寸法安定性、及び耐酸性の観点から、0.5ppm以上であり、好ましくは2ppm以上であり、より好ましくは10ppm以上であり、さらに好ましくは100ppm以上であり、特に好ましくは300ppm以上である。また、寸法安定性及び耐糸切れ性の観点から、3,000ppm以下であり、好ましくは2,000ppm以下であり、より好ましくは1,000ppm以下である。
【0020】
水酸化アルミニウムの含有量は、後述の製造方法により調整することができ、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
水酸化アルミニウムの平均粒子径は50μm未満であり、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。水酸化アルミニウムの平均粒子径が50μm未満であることにより、成形する際の連続加工生産性が向上するほか、繊維の耐糸切れ性がより向上する。
【0022】
また、水酸化アルミニウムの平均粒子径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.02μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、さらに好ましくは0.5μm以上である。水酸化アルミニウムの平均粒子径が0.02μm以上であることにより、押出機等の成形装置内でのポリエチレンパウダーの温度がより均一化され、製品の寸法安定性がより向上する傾向にある。
【0023】
なお、「平均粒子径」とは、SEM像から得られたD50をいい、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0024】
平均粒子径が50μm未満の水酸化アルミニウムとしては、非晶質の水酸化アルミニウム、結晶質の水酸化アルミニウム(結晶形態が擬ベーマイト型、バイヤライト型)を用いることができる。具体的には、例えばアピラール(登録商標)(ナバルテック社)やハイジライト(登録商標)(昭和電工(株))等が挙げられる。
【0025】
これらの水酸化アルミニウムを重合で得られたポリエチレン粒子と混合する、あるいはポリエチレンの重合工程の途中で配合することにより、本実施形態のポリエチレンパウダーを得ることができる。即ち、本実施形態に係る水酸化アルミニウムは、ポリエチレン粒子の内部に存在していてもよいし、ポリエチレン粒子と水酸化アルミニウムとの混合物として存在してもよい。ポリエチレン粒子と水酸化アルミニウムとの混合物の場合、水酸化アルミニウムは、ポリエチレン粒子の表面に存在するか、ポリエチレン粒子と独立して存在してもよい。また水酸化アルミニウムは、後述するポリエチレンの重合触媒あるいは助触媒として用いられる成分の残渣であってもよい。
【0026】
〔マグネシウム元素〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、マグネシウム元素を0.5ppm以上12ppm以下含む。マグネシウム元素の含有量は、耐糸切れ性の観点から、0.5ppm以上であり、好ましくは1ppm以上であり、さらに好ましくは3ppm以上であり、特に好ましくは5ppm以上である。また、耐酸性と耐糸切れ性の観点から、12ppm以下であり、好ましくは8ppm以下であり、さらに好ましくは7ppm以下であり、特に好ましくは6ppm以下である。マグネシウム元素は、後述するポリエチレンの重合触媒あるいは助触媒として用いられる成分の残渣であってもよい。
【0027】
マグネシウム元素の含有量は、重合触媒あるいは助触媒の種類と量、あるいは重合条件を調整することにより制御することができる。ポリエチレンの好ましい製造方法や重合触媒については後述する。また、マグネシウム元素の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
〔ポリエチレン〕
ポリエチレンとしては、具体的には、エチレンの単独重合体、又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH
2=CHR
1(ここで、R
1は炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、若しくは炭素数4〜20の直鎖状や分岐状又は環状のジエンよりなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、の共重合体が挙げられる。共重合するオレフィンとしては、成形体の耐熱性や機械強度の観点から、プロピレン及び1−ブテンが好ましい。ポリエチレン中に占めるエチレンのモル比は、好ましくは50%以上100%以下であり、より好ましくは80%以上100%以下であり、さらに好ましくは90%以上100%以下である。
【0029】
ポリエチレンの粘度平均分子量(Mv)は100,000以上である。ポリエチレンの粘度平均分子量(Mv)は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
リチウムイオン二次電池セパレータ用としては、連続加工生産性、延伸加工性及び膜の機械強度の観点から、粘度平均分子量は、好ましくは100,000以上2,000,000以下であり、より好ましくは150,000以上1,500,000以下であり、さらに好ましくは200,000以上1,200,000以下である。
【0031】
また、鉛蓄電池セパレータ用としては、耐酸性の観点から、粘度平均分子量は、好ましくは4,000,000以上であり、より好ましくは5,000,000以上であり、さらに好ましくは6,000,000以上である。また、連続加工生産性の観点から、好ましくは10,000,000以下であり、より好ましくは8,000,000以下である。
【0032】
さらに、繊維用としては、延伸加工性、繊維の物性の安定性の観点から、粘度平均分子量は、好ましくは1,500,000以上であり、より好ましくは2,000,000以上であり、さらに好ましくは3,000,000以上であり、よりさらに好ましくは4,000,000以上である。また、連続加工生産性の観点から、好ましくは10,000,000以下であり、より好ましくは8,000,000以下である。
【0033】
〔短径が50μm以上の水酸化アルミニウム〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、連続加工生産性、製品の寸法安定性の観点から、短径が50μm以上の水酸化アルミニウムを含んでもよい。短径が50μm以上の水酸化アルミニウムの個数は、ポリエチレンパウダー500g中、好ましくは10個以下であり、より好ましくは8個以下であり、さらに好ましくは4個以下であり、よりさらに好ましくは3個以下であり、さらにより好ましくは2個以下であり、特に好ましくは1個以下である。
【0034】
水酸化アルミニウムの同定、粒径及び個数の算出は、後述の実施例に記載の方法で行うことができる。
【0035】
本実施形態に係る短径が50μm以上の水酸化アルミニウムは、主成分は水酸化アルミニウムであるが、これのみとは限定されず、他の無機化合物や有機化合物を含んでいてもよい。例えば、表面にポリエチレンが若干量付着した水酸化アルミニウム等であっても良い。このようなものであっても、上述の分離方法によりポリエチレンパウダーと分離することができる。
【0036】
水酸化アルミニウムの粒径および、短径が50μm以上の水酸化アルミニウムの個数は、後述の通り、触媒や助触媒の配合量や重合条件、重合後処理条件を調整することにより、制御することができる。
【0037】
ここで「連続加工生産性」と「製品の寸法安定性」について説明する。
例えば、二次電池セパレータに代表される微多孔膜を加工する場合、押出機等を用い、ポリエチレンパウダーを溶媒に溶解させて膜を成形加工する。その際、不溶物等の除去を目的として、ダイスの上流側にフィルター等が設けられる。このとき、フィルターに蓄積するものが存在すると、徐々にフィルター直近の圧力が上昇し、押出機のトルク限界に近づいたり、得られる膜の膜厚が不均一となってくる。そのためフィルターの交換が必要となり、押出機の運転停止や、スクリーンチェンジャー等でフィルターを交換することが必要となり、製品加工の連続生産が妨げられ、製品収率が低下する。
【0038】
高強度繊維に代表される糸を紡糸加工する場合、押出機等を用い、ポリエチレンパウダーを溶媒に溶解させて糸を成形加工する。その際、不溶物等の除去を目的として、ダイスの上流側にフィルター等が設けられる。このとき、フィルターに蓄積するものが存在すると、徐々にフィルター直近の圧力が上昇し、押出機のトルク限界に近づいたり、得られる糸の糸径が不均一となったり、糸切れが発生したりする。そのためフィルターの交換が必要となり、押出機の運転停止や、スクリーンチェンジャー等でフィルターを交換することが必要となり、製品加工の連続生産が妨げられ、製品収率が低下する。
【0039】
本発明において「連続加工生産性」は、例えば微多孔膜や高強度繊維を加工する際の、フィルター直近の圧力上昇で示されるものであり、フィルター直近の圧力の上昇が遅いか、ほとんど圧力上昇が見られないことを、連続加工生産性に優れることとする。また、「製品の寸法安定性」は、微多孔膜であれば膜厚、高強度繊維であれば糸径の安定性で示されるものであり、これらのムラが少ないことを製品の寸法安定性に優れることとする。
【0040】
短径50μm以上の水酸化アルミニウムが、ポリエチレンパウダー500g中に10個以下であることにより、連続加工生産性に大きく影響を与える。即ち、本実施形態のポリエチレンパウダーを原料として用いると、押出機のフィルター交換が不要(もしくは交換の頻度が小さい)であり、かつ微多孔膜の場合は得られる膜厚が極めて安定し、繊維の場合は得られる糸径が極めて安定する。
【0041】
一方で、ポリエチレンパウダー中には、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛に代表される脂肪族カルボン酸金属塩などが含有されることがある。ポリエチレンパウダー中に含有される短径が50μm以上の水酸化アルミニウムの個数を10個以下とするのみでこれらの効果が発現することは驚くべきことである。
【0042】
〔ポリエチレンの重合方法〕
本実施形態に係るポリエチレンは、エチレン単独、又はエチレンとエチレン以外のオレフィンとを、オレフィン重合用触媒の存在下重合して得られる。本実施形態に係るポリエチレンの製造に使用される触媒成分には特に限定されないが、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を用い製造することが可能である。
【0043】
(チーグラー・ナッタ触媒)
チーグラー・ナッタ触媒としては、固体触媒成分[A]及び有機金属化合物成分[B]からなる触媒であって、固体触媒成分[A]が、式1で表される、不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(A−1)と、式2で表されるチタン化合物(A−2)と、を反応させることにより製造されるオレフィン重合用触媒であるものが好ましい。
(A−1):(M
1)α(Mg)β(R
2)
a(R
3)
bY
1c ・・・式1
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R
2及びR
3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y
1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
4、R
5、−SR
6(ここで、R
4、R
5及びR
6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y
1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM
1の原子価を表す。))
(A−2):Ti(OR
7)
dX
1(4-d)・・・・・式2
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R
7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X
1はハロゲン原子である。)
【0044】
なお、(A−1)と(A−2)の反応に使用する不活性炭化水素溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;及びシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0045】
まず、(A−1)について説明する。(A−1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。記号α、β、a、b、cの関係式nα+2β=a+b+cは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0046】
式1において、R
2及びR
3で表される炭素数2以上20以下の炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。この中でも、好ましくはアルキル基である。α>0の場合、金属原子M
1としては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。この中でも、アルミニウム、亜鉛が好ましい。
【0047】
金属原子M
1に対するマグネシウムの比β/αは、特に限定されないが、0.1以上30以下が好ましく、0.5以上10以下がより好ましい。また、α=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R
2が1−メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式1において、α=0の場合のR
2、R
3は、次に示す三つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか一つを満たすものが好ましい。
【0048】
群(1)R
2、R
3の少なくとも一方が炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR
2、R
3がともに炭素原子数4以上6以下のアルキル基であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2)R
2とR
3とが炭素原子数の互いに相異なるアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR
2が炭素原子数2又は3のアルキル基であり、R
3が炭素原子数4以上のアルキル基であること。
群(3)R
2、R
3の少なくとも一方が炭素原子数6以上の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくはR
2、R
3に含まれる炭素原子数を加算すると12以上になるアルキル基であること。
【0049】
以下これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が挙げられる。この中でも1−メチルプロピル基が特に好ましい。
【0050】
また、群(2)において炭素原子数2又は3のアルキル基としては、具体的には、エチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。この中でもエチル基が特に好ましい。また炭素原子数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。この中でも、ブチル、ヘキシル基が特に好ましい。
【0051】
さらに、群(3)において炭素原子数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
【0052】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、また溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため適度な鎖長のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒で希釈して使用することができるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、又は残存していても差し支えなく使用できる。
【0053】
次にY
1について説明する。式1においてY
1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
4、R
5、−SR
6(ここで、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の炭化水素基を表す。)、β−ケト酸残基のいずれかである。
【0054】
式1においてR
4、R
5及びR
6で表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基が特に好ましい。このようなアルキル基又はアリール基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。この中でも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
【0055】
また、式1においてY
1はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。アルコキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、1−メチルエトキシ、ブトキシ、1−メチルプロポキシ、1,1−ジメチルエトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、2−メチルペントキシ、2−エチルブトキシ、2−エチルペントキシ、2−エチルヘキソキシ、2−エチル−4−メチルペントキシ、2−プロピルヘプトキシ、2−エチル−5−メチルオクトキシ、オクトキシ、フェノキシ、ナフトキシ基であることが好ましい。この中でも、ブトキシ、1−メチルプロポキシ、2−メチルペントキシ及び2−エチルヘキソキシ基であることがより好ましい。
シロキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ、エチルジメチルシロキシ、ジエチルメチルシロキシ、トリエチルシロキシ基、等が好ましい。この中でも、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ基がより好ましい。
【0056】
(A−1)の合成方法には特に制限はなく、式R
2MgX
1、及び式R
22Mg(R
2は前述の意味であり、X
1はハロゲンである。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式M
1R
3n及びM
1R
3(n-1)H(M
1、及びR
3は前述の意味であり、nはM
1の原子価を表す。)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下で反応させ、必要な場合には続いて式Y
1−H(Y
1は前述の意味である。)で表される化合物を反応させる、又はY
1で表される官能基を有する有機マグネシウム化合物及び/又は有機アルミニウム化合物を反応させることにより合成することが可能である。このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と式Y
1−Hで表される化合物とを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中に式Y
1−Hで表される化合物を加えていく方法、式Y
1−Hで表される化合物中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。
【0057】
(A−1)における全金属原子に対するY
1のモル組成比c/(α+β)は、0≦c/(α+β)≦2であり、0≦c/(α+β)<1が好ましい。全金属原子に対するY
1のモル組成比が2以下であることにより、(A−2)に対する(A−1)の反応性が向上する傾向にある。
【0058】
次に、(A−2)について説明する。(A−2)は式2で表されるチタン化合物である。
(A−2):Ti(OR
7)
dX
1(4-d)・・・・・式2
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R
7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X
1はハロゲン原子である。)
【0059】
上記式2において、dは、0以上1以下が好ましく、0がより好ましい。また、式2においてR
7で表される炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。この中でも、脂肪族炭化水素基が好ましい。X
1で表されるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。この中でも、塩素が好ましい。本実施形態において、(A−2)は四塩化チタンであることが最も好ましい。本実施形態においては上記から選ばれた化合物を2種以上混合して使用することが可能である。
【0060】
次に、(A−1)と(A−2)との反応について説明する。この反応は、不活性炭化水素溶媒中で行われることが好ましく、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒中で行われることがさらに好ましい。この反応における(A−1)と(A−2)とのモル比については特に限定されないが、(A−1)に含まれるMg原子に対する(A−2)に含まれるTi原子のモル比(Ti/Mg)が、0.1以上10以下が好ましく、0.3以上3以下がより好ましい。反応温度については、特に限定されないが、−80℃以上150℃以下が好ましく、−40℃〜100℃がより好ましい。(A−1)と(A−2)の添加順序には特に制限はなく、(A−1)に続いて(A−2)を加える、(A−2)に続いて(A−1)を加える、(A−1)と(A−2)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能であるが、(A−1)と(A−2)とを同時に添加する方法が好ましい。本実施形態においては、上記反応により得られた固体触媒成分[A]は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
【0061】
チーグラー・ナッタ触媒成分の他の例としては、固体触媒成分[C]及び有機金属化合物成分[B]からなり、固体触媒成分[C]が、式3で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(C−1)と、式4で表される塩素化剤(C−2)と、の反応により調製された担体(C−3)に、式5で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(C−4)と、式6で表されるチタン化合物(C−5)と、を担持することにより製造されるオレフィン重合用触媒が好ましい。
(C−1):(M
2)γ(Mg)δ(R
8)
e(R
9)
f(OR
10)
g・・・・・式3
(式中、M
2は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R
8、R
9及びR
10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f及びgは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはM
2の原子価を表す。))
(C−2):H
hSiCl
iR
11(4-(h+i)) ・・・式4
(式中、R
11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
(C−4):(M
1)α(Mg)β(R
2)
a(R
3)
bY
1c ・・・式5
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R
2及びR
3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y
1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
4、R
5、−SR
6(ここで、R
4、R
5及びR
6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y
1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM
1の原子価を表す。))
(C−5):Ti(OR
7)
dX
1(4-d) ・・・式6
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R
7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X
1はハロゲン原子である。)
【0062】
まず、(C−1)について説明する。(C−1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。式3の記号γ、δ、e、f及びgの関係式kγ+2δ=e+f+gは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
【0063】
上記式中、R
8ないしR
9で表される炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、それぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。この中でも、好ましくはR
8及びR
9は、それぞれアルキル基である。α>0の場合、金属原子M
2としては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。この中でも、アルミニウム、亜鉛が特に好ましい。
【0064】
金属原子M
2に対するマグネシウムの比δ/γは、特に限定されないが、0.1以上30以下が好ましく、0.5以上10以下がより好ましい。また、γ=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、R
8が1−メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式3において、γ=0の場合のR
8、R
9は次に示す三つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか一つであることが好ましい。
【0065】
群(1)R
8、R
9の少なくとも一方が炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR
8、R
9がともに炭素数4以上6以下であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2)R
8とR
9とが炭素数の互いに相異なるアルキル基であることが好ましく、より好ましくはR
8が炭素数2又は3のアルキル基であり、R
9が炭素数4以上のアルキル基であること。
群(3)R
8、R
9の少なくとも一方が炭素数6以上の炭化水素基であることが好ましく、より好ましくはR
8、R
9に含まれる炭素数の和が12以上になるアルキル基であること。
【0066】
以下、これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が用いられる。この中でも、1−メチルプロピル基が特に好ましい。
【0067】
また、群(2)において炭素数2又は3のアルキル基としてはエチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。この中でも、エチル基が特に好ましい。また炭素数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。この中でも、ブチル、ヘキシル基が特に好ましい。
【0068】
さらに、群(3)において炭素数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
【0069】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため、適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶液として使用されるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、或いは残存していても差し支えなく使用できる。
【0070】
次にアルコキシ基(OR
10)について説明する。R
10で表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基が特に好ましい。R
10としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。この中でも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
【0071】
(C−1)の合成方法には特に限定しないが、式R
8MgX
1及び式R
82Mg(R
8は前述の意味であり、X
1はハロゲン原子である。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式M
2R
9k及び式M
2R
9(k-1)H(M
2、R
9及びkは前述の意味)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下の温度で反応させ、必要な場合には続いてR
9(R
9は前述の意味である。)で表される炭化水素基を有するアルコール又は不活性炭化水素溶媒に可溶なR
9で表される炭化水素基を有するアルコキシマグネシウム化合物、及び/又はアルコキシアルミニウム化合物と反応させる方法が好ましい。
【0072】
このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。本実施形態において不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとの反応比率については特に限定されないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム化合物における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比g/(γ+δ)は、0≦g/(γ+δ)≦2であり、0≦g/(γ+δ)<1が好ましい。
【0073】
次に、(C−2)について説明する。(C−2)は式4で表される、少なくとも一つはSi−H結合を有する塩化珪素化合物である。
(C−2):H
hSiCl
iR
11(4-(h+i))・・・・・式4
(式中、R
11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
【0074】
式4においてR
11で表される炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。この中でも、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル基等の炭素数1〜3のアルキル基がさらに好ましい。また、h及びiはh+i≦4の関係を満たす0より大きな数であり、iが2以上3以下であることが好ましい。
【0075】
これらの化合物としては、特に限定されないが、具体的には、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3、HSiCl
2C
2H
5、HSiCl
2(C
3H
7)、HSiCl
2(2−C
3H
7)、HSiCl
2(C
4H
9)、HSiCl
2(C
6H
5)、HSiCl
2(4−Cl−C
6H
4)、HSiCl
2(CH=CH
2)、HSiCl
2(CH
2C
6H
5)、HSiCl
2(1−C
10H
7)、HSiCl
2(CH
2CH=CH
2)、H
2SiCl(CH
3)、H
2SiCl(C
2H
5)、HSiCl(CH
3)
2、HSiCl(C
2H
5)
2、HSiCl(CH
3)(2−C
3H
7)、HSiCl(CH
3)(C
6H
5)、HSiCl(C
6H
5)
2等が挙げられる。これらの化合物又はこれらの化合物から選ばれた二種類以上の混合物からなる塩化珪素化合物が使用される。この中でも、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3、HSiCl(CH
3)
2、HSiCl
2(C
3H
7)が好ましく、HSiCl
3、HSiCl
2CH
3がより好ましい。
【0076】
次に(C−1)と(C−2)との反応について説明する。反応に際しては(C−2)を予め、不活性炭化水素溶媒、1,2−ジクロルエタン、o−ジクロルベンゼン、ジクロルメタン等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体;又はこれらの混合媒体、を用いて希釈した後に利用することが好ましい。この中でも、触媒の性能上、不活性炭化水素溶媒がより好ましい。(C−1)と(C−2)との反応比率には特に限定されないが、(C−1)に含まれるマグネシウム原子1molに対する(C−2)に含まれる珪素原子は、0.01mol以上100mol以下が好ましく、0.1mol以上10mol以下がより好ましい。
【0077】
(C−1)と(C−2)との反応方法については特に制限はなく、(C−1)と(C−2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法、(C−2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−1)を反応器に導入させる方法、又は(C−1)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−2)を反応器に導入させる方法のいずれの方法も使用することができる。この中でも、(C−2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−1)を反応器に導入させる方法が好ましい。上記反応により得られる担体(C−3)は、ろ過又はデカンテーション法により分離した後、不活性炭化水素溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物又は副生成物等を除去することが好ましい。
【0078】
(C−1)と(C−2)との反応温度は、特に限定されないが、25℃以上150℃以下が好ましく、30℃以上120℃以下がより好ましく、40℃以上100℃以下がさらに好ましい。(C−1)と(C−2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法においては、あらかじめ反応器の温度を所定温度に調節し、同時添加を行いながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度は所定温度に調節することが好ましい。(C−2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−1)を反応器に導入させる方法においては、該塩化珪素化合物を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、該有機マグネシウム化合物を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度は所定温度に調節することが好ましい。(C−1)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−2)を反応器に導入させる方法においては、(C−1)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、(C−2)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度は所定温度に調節される。
【0079】
次に、有機マグネシウム化合物(C−4)について説明する。(C−4)としては、前述の式5で表されるものが好ましい。
(C−4):(M
1)α(Mg)β(R
2)
a(R
3)
bY
1c ・・・式5
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R
2及びR
3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y
1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
4、R
5、−SR
6(ここで、R
4、R
5及びR
6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y
1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM
1の原子価を表す。))
【0080】
(C−4)の使用量は、(C−5)に含まれるチタン原子に対する(C−4)に含まれるマグネシウム原子のモル比で、0.1以上10以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましい。
【0081】
(C−4)と(C−5)との反応の温度は、特に限定されないが、−80℃以上150℃以下が好ましく、−40℃以上100℃以下がより好ましい。
【0082】
(C−4)の使用時の濃度は特に限定されないが、(C−4)に含まれるチタン原子基準で0.1mol/L以上2mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下がより好ましい。なお、(C−4)の希釈には不活性炭化水素溶媒を用いることが好ましい。
【0083】
(C−3)に対する(C−4)と(C−5)の添加順序には特に制限はなく、(C−4)に続いて(C−5)を加える、(C−5)に続いて(C−4)を加える、(C−4)と(C−5)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能である。この中でも、(C−4)と(C−5)とを同時に添加する方法が好ましい。(C−4)と(C−5)との反応は不活性炭化水素溶媒中で行われるが、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが好ましい。かくして得られた触媒は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
【0084】
次に(C−5)について説明する。本実施形態において、(C−5)は前述の式6で表されるチタン化合物である。
(C−5):Ti(OR
7)
dX
1(4-d)・・・・・式6
(式中、dは0以上4以下の実数であり、R
7は炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、X
1はハロゲン原子である。)
【0085】
式6においてR
7で表される炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。この中でも、脂肪族炭化水素基が好ましい。X
1で表されるハロゲンとしては、特に限定されないが、具体的には、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。この中でも、塩素が好ましい。上記から選ばれた(C−5)を、1種単独で用いても良いし、2種以上混合して使用することが可能である。
【0086】
(C−5)の使用量としては特に限定されないが、担体(C−3)に含まれるマグネシウム原子に対するモル比で0.01以上20以下が好ましく、0.05以上10以下が特に好ましい。
【0087】
(C−5)の反応温度については、特に限定されないが、−80℃以上150℃以下が好ましく、−40℃以上100℃以下がさらに好ましい。
【0088】
(C−3)に対する(C−5)の担持方法については特に限定されず、(C−3)に対して過剰な(C−5)を反応させる方法や、第三成分を使用することにより(C−5)を効率的に担持する方法を用いてもよいが、(C−5)と有機マグネシウム化合物(C−4)との反応により担持する方法が好ましい。
【0089】
次に、有機金属化合物成分[B]について説明する。固体触媒成分は、有機金属化合物成分[B]と組み合わせることにより、高活性な重合用触媒となる。有機金属化合物成分[B]は「助触媒」と呼ばれることもある。有機金属化合物成分[B]としては、周期律表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群に属する金属を含有する化合物が好ましく、特に有機アルミニウム化合物及び/又は有機マグネシウム化合物が好ましい。
【0090】
有機アルミニウム化合物としては、下記式7で表される化合物を単独又は混合して使用することが好ましい。
AlR
12jZ
1(3-j) ・・・式7
(式中、R
12は炭素数1以上20以下の炭化水素基、Z
1は水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基からなる群に属する基であり、jは2以上3以下の数である。)
【0091】
上記の式7において、R
12で表される炭素数1以上20以下の炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素を包含するものであり、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリ(2−メチルプロピル)アルミニウム(又は、トリイソブチルアルミニウム)、トリペンチルアルミニウム、トリ(3−メチルブチル)アルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ビス(2−メチルプロピル)アルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム化合物;ジエチルアルミニウムエトキシド、ビス(2−メチルプロピル)アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム化合物;ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルミニウム化合物;及びこれらの混合物が好ましい。この中でも、トリアルキルアルミニウム化合物が特に好ましい。
【0092】
有機マグネシウム化合物としては、前述の式3で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物が好ましい。
(M
2)γ(Mg)δ(R
8)
e(R
9)
f(OR
10)
g・・・・・式3
(式中、M
2は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R
8、R
9及びR
10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f及びgは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはM
2の原子価を表す。))
【0093】
この有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジアルキルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。γ、δ、e、f、g、M
2、R
8、R
9、OR
10についてはすでに述べたとおりであるが、この有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒に対する溶解性が高いほうが好ましいため、δ/γは0.5〜10の範囲にあることが好ましく、またM
2がアルミニウムである化合物がさらに好ましい。
【0094】
固体触媒成分及び有機金属化合物成分[B]を重合条件下である重合系内に添加する方法については特に制限はなく、両者を別々に重合系内に添加してもよいし、あらかじめ両者を反応させた後に重合系内に添加してもよい。また組み合わせる両者の比率には特に限定されないが、固体触媒成分1gに対し有機金属化合物成分[B]は1mmol以上3,000mmol以下が好ましい。
【0095】
(メタロセン触媒)
一方、メタロセン触媒を用いた例としては、一般的な遷移金属化合物が用いられる。例えば、日本国特許4868853号に記載の製造方法が挙げられる。このようなメタロセン触媒は、a)環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物、及びb)該遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤、を含む固体触媒成分と、c)液体成分と、から構成される。
【0096】
本実施形態で使用されるa)環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物は、例えば以下の式8で表すことができる。
L
1jW
kM
3X
2pX
3q ・・・式8
【0097】
式8において、L
1は、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、該配位子は場合によっては1〜8個の置換基を有し、該置換基は各々独立して炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1〜12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシシリル基、及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基である。
【0098】
式8において、M
3は、形式酸化数が+2、+3又は+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ばれる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子L
1にη
5結合している遷移金属を表す。
【0099】
式8において、Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、L
1とM
3とに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL
1及びM
3と共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表し、X
2は、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、M
3と2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びL
1とM
3とに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表す。
【0100】
式8において、X
2は、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表し、X
3は、中性ルイス塩基配位性化合物を表す。
【0101】
jは1又は2であり、但し、jが2であるとき、場合によっては2つの配位子L
1が、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、該2価の基は炭素数1〜20のヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基、及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基である。
【0102】
kは0又は1であり、pは0、1又は2であり、但し、X
2が1価のアニオン性σ結合型配位子、又はL
1とM
3とに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはM
3の形式酸化数より1以上小さい整数であり、またX
2がM
3にのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはM
3の形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、qは0、1又は2である。
【0103】
上記式8の化合物中の配位子X
2の例としては、ハライド、炭素数1〜60の炭化水素基、炭素数1〜60のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜60のヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜60のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1〜60のヒドロカルビルスルフィド基、シリル基、これらの複合基等が挙げられる。
【0104】
上記式8の化合物中の中性ルイス塩基配位性化合物X
3の例としては、フォスフィン、エーテル、アミン、炭素数2〜40のオレフィン、炭素数1〜40のジエン、これらの化合物から誘導される2価の基等が挙げられる。
【0105】
本実施形態において、環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物としては、前記式8(ただし、j=1)で表される遷移金属化合物が好ましい。前記式8(ただし、j=1)で表される化合物の好ましい例としては、下記の式9で表される化合物が挙げられる。
【化1】
【0106】
式9において、M
4は、チタン、ジルコニウム、ニッケル及びハフニウムからなる群より選ばれる遷移金属であって、形式酸化数が+2、+3又は+4である遷移金属を表し、R
13は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン原子及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表し、但し、該置換基R
13が炭素数1〜8の炭化水素基、シリル基又はゲルミル基であるとき、場合によっては2つの隣接する置換基R
13が互いに結合して2価の基を形成し、これにより該2つの隣接する該置換基R
13にそれぞれ結合するシクロペンタジエニル環の2つの炭素原子間の結合と共働して環を形成することができる。
【0107】
式9において、X
4は、各々独立して、ハライド、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜18のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜18のヒドロカルビルアミノ基、シリル基、炭素数1〜18のヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜18のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1〜18のヒドロカルビルスルフィド基及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表し、但し、場合によっては2つの置換基X4が共働して炭素数4〜30の中性共役ジエン又は2価の基を形成することができる。
【0108】
式9において、Y
2は、−O−、−S−、−NR
2−又は−PR
2−を表し、但し、R
2は、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜8のヒドロカルビルオキシ基、シリル基、炭素数1〜8のハロゲン化アルキル基、炭素数6〜20のハロゲン化アリール基、又はこれらの複合基を表す。
【0109】
式9において、Z
2はSiR
32、CR
32、SiR
32SiR
32、CR
32CR
32、CR
3=CR
3、CR
32SiR
32又はGeR
32を表し、但し、R
3は上で定義した通りであり、nは1、2又は3である。
【0110】
本実施形態において用いられる環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物のとしては、以下に示すような化合物が挙げられる。ジルコニウム系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、
ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
ビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、
ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
ビス(フルオレニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(5−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(6−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(7−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(5−メトキシ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス(4,7−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
エチレンビス−(4,7−ジメトキシ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、
メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル−フルオレニル)ジルコニウムジメチル、
シリレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、
ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル等が挙げられる。
【0111】
チタニウム系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、
[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−メチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−フェニルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−ベンジルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−メチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、
[(N−メチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(η5−インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、
[(N−ベンジルアミド)(η5−インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル等が挙げられる。
【0112】
ニッケル系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、
ジブロモビストリフェニルホスフィンニッケル、
ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル、
ジブロモジアセトニトリルニッケル、
ジブロモジベンゾニトリルニッケル、
ジブロモ(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケル、
ジブロモ(1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパン)ニッケル、
ジブロモ(1,1’−ジフェニルビスホスフィノフェロセン)ニッケル、
ジメチルビスジフェニルホスフィンニッケル、
ジメチル(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケル、
メチル(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケルテトラフルオロボレート、
(2−ジフェニルホスフィノ−1−フェニルエチレンオキシ)フェニルピリジンニッケル、
ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム、
ジクロロジベンゾニトリルパラジウム、
ジクロロジアセトニトリルパラジウム、
ジクロロ(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)パラジウム、
ビストリフェニルホスフィンパラジウムビステトラフルオロボレート、
ビス(2,2’−ビピリジン)メチル鉄テトラフルオロボレートエーテラート等が挙げられる。
【0113】
ハフニウム系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、
[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]ハフニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−メチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−フェニルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−ベンジルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]ハフニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−メチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]ハフニウムジメチル、
[(N−メチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−t−ブチルアミド)(η5−インデニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、
[(N−ベンジルアミド)(η5−インデニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル等が挙げられる。
【0114】
本実施形態において用いられる環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物の具体例としては、さらに、上に挙げた各ジルコニウム系化合物及びチタン系化合物の名称の「ジメチル」の部分(これは、各化合物の名称末尾の部分、すなわち「ジルコニウム」又は「チタニウム」という部分の直後に現れているものであり、前記式9中のX4の部分に対応する名称である)を、
「ジクロル」、「ジブロム」、「ジヨード」、「ジエチル」、「ジブチル」、「ジフェニル」、「ジベンジル」、「2−(N,N−ジメチルアミノ)ベンジル」、「2−ブテン−1,4−ジイル」、
「s−トランス−η4−1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン」、
「s−トランス−η4−3−メチル−1,3−ペンタジエン」、
「s−トランス−η4−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン」、
「s−トランス−η4−2,4−ヘキサジエン」、
「s−トランス−η4−1,3−ペンタジエン」、
「s−トランス−η4−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン」、
「s−トランス−η4−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン」、
「s−シス−η4−1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン」、
「s−シス−η4−3−メチル−1,3−ペンタジエン」、
「s−シス−η4−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン」、
「s−シス−η4−2,4−ヘキサジエン」、
「s−シス−η4−1,3−ペンタジエン」、
「s−シス−η4−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン」、
「s−シス−η4−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン」等の任意のものに替えてできる名称を持つ化合物も挙げられる。
【0115】
本実施形態において用いられる環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物は、一般に公知の方法で合成できる。本実施形態においてこれら遷移金属化合物は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0116】
次に、本実施形態において用いられるb)遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤(以下、単に「活性化剤」ともいう。)について説明する。
【0117】
本実施形態における活性化剤として例えば、以下の式10で定義される化合物が挙げられる。
[L
2−H]
d+[M
5mQ
p]
d- ・・・式10
(式中、[L
2−H]
d+はプロトン供与性のブレンステッド酸を表し、但し、L
2は中性のルイス塩基を表し、dは1〜7の整数であり;[M
5mQ
p]
d-は両立性の非配位性アニオンを表し、ここで、M
5は、周期表第5族〜第15族のいずれかに属する金属又はメタロイドを表し、Qは、各々独立して、ヒドリド、ハライド、炭素数2〜20のジヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜30のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜30の炭化水素基、及び炭素数1〜40の置換された炭化水素基からなる群より選ばれ、ここで、ハライドであるQの数は1以下であり、mは1〜7の整数であり、pは2〜14の整数であり、dは上で定義した通りであり、p−m=dである。)
【0118】
非配位性アニオンとしては、特に限定されないが、具体的には、
テトラキスフェニルボレート、
トリ(p−トリル)(フェニル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(フェニル)ボレート、
トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドフェニル)ボレート、
トリス(3,5−ジメチルフェニル)(フェニル)ボレート、
トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(フェニル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(シクロヘキシル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(ナフチル)ボレート、
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、
ジフェニル−ジ(ヒドロキシフェニル)ボレート、
トリフェニル(2,4−ジヒドロキシフェニル)ボレート、
トリ(p−トリル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、
トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、
トリス(3,5−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、
トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(2−ヒドロキシエチル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシブチル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシ−シクロヘキシル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−(4’−ヒドロキシフェニル)フェニル)ボレート、
トリス(ペンタフルオロフェニル)(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ボレート等が挙げられる。
【0119】
他の好ましい非配位性アニオンの例としては、上記例示のボレートのヒドロキシ基がNHR基で置き換えられたボレートが挙げられる。ここで、Rは好ましくは、メチル基、エチル基又はtert−ブチル基である。
【0120】
また、プロトン付与性のブレンステッド酸としては、特に限定されないが、具体的には、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム及びトリ(n−オクチル)アンモニウム等のトリアルキル基置換型アンモニウムカチオン;N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウム、N,N−ジメチルベンジルアニリニウム等のN,N−ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ−(i−プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム等のジアルキルアンモニウムカチオン;トリフェニルフォスフォニウム、トリ(メチルフェニル)フォスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)フォスフォニウム等のトリアリールフォスフォニウムカチオン;又はジメチルスルフォニウム、ジエチルフルフォニウム、ジフェニルスルフォニウム等が挙げられる。
【0121】
また本実施形態において、活性化剤として、次の式11で表されるユニットを有する有機金属オキシ化合物も用いることができる。
【化2】
(ここで、M
6は周期律表第13族〜第15族の金属又はメタロイドであり、R
14は各々独立に炭素数1〜12の炭化水素基又は置換炭化水素基であり、nは金属M
6の価数であり、mは2以上の整数である。)
【0122】
本実施形態の活性化剤の好ましい例は、例えば次式12で示されるユニットを含む有機アルミニウムオキシ化合物である。
【化3】
(ここで、R
15は炭素数1〜8のアルキル基であり、mは2〜60の整数である。)
【0123】
本実施形態の活性化剤のより好ましい例は、例えば次式13で示されるユニットを含むメチルアルモキサンである。
【化4】
(ここで、mは2〜60の整数である。)
本実施形態においては、活性化剤成分を単独で使用してもよいし組み合わせて使用してもよい。
【0124】
次にc)液体成分について説明する。c)液体成分は、下記有機金属化合物を含んでもよい。
(A−1):(M
1)α(Mg)β(R
2)
a(R
3)
bY
1c ・・・式1
(式中、M
1は周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R
2及びR
3は炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Y
1はアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R
4、R
5、−SR
6(ここで、R
4、R
5及びR
6は炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Y
1はそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはM
1の原子価を表す。))
【0125】
c)液体成分は、不純物又は不活性化合物のスカベンジャーとしても用いられる。この成分c)液体成分は、高濃度であっても重合活性を低下させることが少なく、したがって広い濃度範囲で高い重合活性を発現させることができる。このためc)液体成分を含むオレフィン重合用触媒は、重合活性のコントロールが容易である。
【0126】
重合に使用する際のc)液体成分の濃度は、有機金属化合物のモル数の和を総モル数とすると、総濃度は0.01〜5mmol/L、好ましくは0.1〜1mmol/Lで行う。
【0127】
これらの触媒成分は、固体成分に担持して担持型触媒としても用いることができる。このような固体成分としては、特に限定されないが、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン又はスチレンジビニルベンゼンのコポリマー等の多孔質高分子材料;シリカ、アルミナ、マグネシア、塩化マグネシウム、ジルコニア、チタニア、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、五酸化バナジウム、酸化クロム及び酸化トリウム等の周期律表第2、3、4、13及び14族元素の無機固体材料、及びそれらの混合物;並びにそれらの複酸化物から選ばれる少なくとも1種の無機固体材料が挙げられる。
【0128】
シリカの複合酸化物としては、特に限定されないが、具体的には、シリカマグネシア、シリカアルミナ等のようなシリカと、周期律表第2族又は第13族元素との複合酸化物が挙げられる。また本実施形態では、上記二つの触媒成分の他に、必要に応じて有機アルミニウム化合物を触媒成分として用いることができる。本実施形態において用いることができる有機アルミニウム化合物とは、例えば次式14で表される化合物である。
【化5】
(ここで、R
16は炭素数1〜12までのアルキル基、炭素数6〜20のアリール基であり、X
5はハロゲン、水素又はアルコキシル基であり、アルキル基は直鎖状、分岐状又は環状であり、nは1〜3の整数である。)
【0129】
ここで有機アルミニウム化合物は、上記式14で表される化合物の混合物であっても構わない。本実施形態において用いることができる有機アルミニウム化合物としては、例えば上記式で、R
16がメチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、トリル基等が挙げられ、またX
5としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、クロル等が挙げられる。
【0130】
本実施形態において用いることができる有機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジブチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等が挙げられる。あるいは、これらの混合物であってもよい。或いはこれらの有機アルミニウムとメチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール等のアルコール類との反応生成物、例えばジメチルメトキシアルミニウム、ジエチルエトキシアルミニウム、ジブチルブトキシアルミニウム等が挙げられる。
【0131】
本実施形態に係るポリエチレンの重合方法の例としては、懸濁重合法或いは気相重合法により、エチレンを含む単量体を(共)重合させることが挙げられるが、重合熱を効率的に除熱できる懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0132】
不活性炭化水素媒体としては、具体的には、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素又はこれらの混合物等を挙げることができる。
【0133】
本実施形態に係るポリエチレンの重合における重合温度は、20℃以上100℃以下が好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましく、35℃以上80℃以下がさらに好ましい。重合温度が20℃以上であることにより、重合速度が速くなり、効率的な製造が可能である。一方、重合温度が100℃以下であることにより、連続的に安定運転が可能である。
【0134】
本実施形態に係るポリエチレンの重合における重合圧力は、常圧以上2MPa以下が好ましく、より好ましくは0.1MPa以上1.5MPa以下であり、さらに好ましくは0.2MPa以上1.0MPa以下であり、特に好ましくは0.3MPa以上1.0MPa以下である。重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行なうことができる。
【0135】
また、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なうことも可能である。得られるポリエチレンの分子量は、例えば西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させることによって調節することができる。特に重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することが、分子量を適切な範囲で制御することが可能であるため好ましい。重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は0mol%以上30mol%以下が好ましく、25mol%以下がより好ましく、20mol%以下がさらに好ましい。なお、本実施形態では、上記のような各成分以外にも超高分子量エチレン共重合の製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。
【0136】
〔ポリエチレンパウダーの製造方法〕
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法は、前記の方法によりポリエチレンを重合する工程、オレフィン重合用触媒を失活する工程、及び得られたポリエチレンパウダーを乾燥する工程を含んでもよい。
【0137】
上述の通り、ポリエチレンの重合触媒あるいは助触媒としてアルミニウム化合物を用いてもよいが、これらのアルミニウム化合物を用いる場合には、これがポリエチレンの重合工程で水酸化アルミニウムとなり粒子化することがある。この水酸化アルミニウムを、本発明で規定する粒径及び量の範囲でポリエチレンパウダー中に存在させることにより、本実施形態のポリエチレンパウダーを得ることもできる。
【0138】
本実施形態に係る水酸化アルミニウムの平均粒子径を50μm未満に制御するには、ポリエチレンパウダーの重合を含む製造工程で発生した水酸化アルミニウムの粒径を小さくする、もしくは添加する水酸化アルミニウムの平均粒子径を選択することが挙げられる。
【0139】
この為には、ポリエチレンパウダーの製造方法として、
(1)触媒由来の活性種又は過剰量のアルキルアルミニウム等の助触媒の失活をマイルドに実施する方法、
(2)触媒由来の活性種又は過剰量のアルキルアルミニウム等の助触媒の失活を間欠的ではなく、連続的に実施する方法、
(3)助触媒のフィード濃度を低くする方法、
(4)溶媒中に含まれる水分量を少なくする方法、
(5)エチレンや水素等に含まれる水分量を少なくする方法、
等が挙げられる。以下、各方法について説明する。
【0140】
方法(1)
触媒由来の活性種若しくは過剰量のアルキルアルミニウム等の助触媒の失活をマイルドに実施する方法としては、具体的には失活剤のフィードをマイルドにする方法が好ましい。例えば失活剤として水を選択した場合、水滴を重合後のパウダーに滴下するのではなく、スチーム状にして重合後のパウダーに噴霧する方法が好ましい。さらに、スチーム状にした水分と、窒素等の不活性ガスとの混合ガスを重合後のパウダーに噴霧することがより好ましい。また、失活剤をスチーム状、又はスチーム状と不活性ガスとの混合ガスとして噴霧すると同時に、ポリエチレンパウダーが同時に攪拌されていれば、さらにマイルドに失活することができる。結果として、発生する水酸化アルミニウムの粒径を小さくすることができる。
【0141】
また別の方法としてはポリエチレンパウダーを重合後、アルコール等で処理した後、窒素等の不活性ガスのみで乾燥させる方法を用いることもできる。具体的には、ポリエチレン重合後のスラリーに一定量のアルコール(例えばメタノール、エタノール等)を添加して使用触媒や助触媒の失活を行い、溶媒とポリエチレンパウダーを分離した後、乾燥機にて窒素等の不活性ガス気流により乾燥する方法が挙げられる。
【0142】
方法(2)
活性種又は助触媒の失活を連続的に実施する方法としては、失活剤を間欠的にフィードするのではなく、圧力調整弁等を用いて、一定圧力でスチーム又はスチームと不活性ガスとの混合ガス等の失活剤をフィードする方法が挙げられる。その場合、連続式重合プロセスであれば、一定流速の重合パウダーに対して、一定圧力にて一定量失活剤をフィードすることが好ましく、バッチ式重合プロセスであれば、重合後のスラリー若しくはパウダーに対して、よく攪拌混合された状態に、一定圧力にて一定量失活剤をフィードすることが好ましい。
【0143】
方法(3)
助触媒のフィード濃度を低くする方法としては、予めストックタンクに貯留した助触媒を溶媒で希釈し助触媒溶液を低濃度に調製する方法や、助触媒のフィード流量を下げる方法が挙げられる。
【0144】
方法(4)
溶媒中含まれる水分量を少なくする方法としては、溶媒をモレキュラーシーブ等に通過させて、溶媒中の含有水分を除去又は低下させる方法が挙げられる。
【0145】
方法(5)
エチレンや水素等に含まれる水分量を少なくする方法としては、方法(4)と同様に、エチレンや水素等をモレキュラーシーブ等に通過させて、含有水分を除去又は低下させる方法が挙げられる。
【0146】
また、上記(1)〜(5)の方法は、短径が50μm以上の水酸化アルミニウムの個数を低減するためにも有効である。
【0147】
本実施形態のポリエチレンパウダーに含まれる水酸化アルミニウムは、主に前述の触媒あるいは助触媒に由来する。触媒や助触媒の種類、配合量及び重合条件を調整することにより、ポリエチレンパウダー中に含まれる水酸化アルミニウムの含有量を制御することができる。
【0148】
また、水酸化アルミニウムの含有量は、上述のように平均粒子径が50μm未満の水酸化アルミニウムを添加することによっても制御することができる。
【0149】
本実施形態のポリエチレンパウダーに含まれるマグネシウム元素の含有量は、重合活性や助触媒量によって制御が可能である。例えば、重合活性を下げれば、含有するマグネシウム量を増やすことができる。具体的には、重合活性を下げるために、重合温度を下げること、重合圧力を下げること、滞留時間を下げることなどが好適である。また助触媒である有機マグネシウムの使用量を増加することで、ポリエチレンパウダーに含まれるマグネシウムの量を増やすことができる。逆に、助触媒として用いる有機アルミニウムを増加すれば、使用する有機マグネシウムの量を減らすことができる。
【0150】
本実施形態のポリエチレンパウダーは、取扱いや溶媒への溶解性の観点から、粗粉が少ないことが好ましい。粗粉は、適切な篩によって除去することができる。例えば、JIS Z8801規格に準拠した目開き250μm、300μm、355μm、425μm、500μm、600μm、710μm、又は850μmの篩を用い、通過しないものを粗粉として除去できる。
【0151】
〔その他の成分〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、必要に応じて公知の各種添加剤と組み合わせて用いてもよい。熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤;或いはビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、2−(2−ヒドロキシ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の耐候安定剤等が挙げられる。また、着色剤としては、特に限定されないが、例えば、無機系のドライカラー、有機系のドライカラーが挙げられる。また、滑剤や塩化水素吸収剤等としては、特に限定されないが、例えば、公知であるステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩が挙げられる。
【0152】
〔用途〕
本実施形態のポリエチレンパウダーは、高い連続加工生産性と優れた製品の寸法安定性と耐酸性を有している。そのため種々の加工方法により、種々の用途に応用されることができる。例えば二次電池用セパレータ用、特にはリチウムイオン二次電池セパレータ用、繊維用、微多孔膜用や繊維用として好適である。
【0153】
具体的には、溶剤を用いた湿式法でのTダイを備え付けた押出し機にて、押出し、延伸、抽出及び乾燥を経る加工方法により、微多孔膜を得ることができる。得られた微多孔膜は、リチウムイオン二次電池や鉛蓄電池に代表される二次電池用セパレータ、特にはリチウムイオン二次電池セパレータに好適に使用できる。
【0154】
さらに、溶剤を用いた湿式法での円形ダイスを備え付けた押出し機にて、ゲル状に押出し、延伸、抽出及び乾燥を経る加工方法により糸を得て、これをさらに延伸する加工方法により、ポリエチレンパウダーからなる繊維を得ることができる。得られた繊維は、釣り糸、防刃手袋、船舶用ロープ、防弾チョッキ、装甲車の防弾カバー、魚網、スポーツ用品、縫合糸等に使用できる。
また、溶剤を用いずに、パウダーの融点以下の温度領域で加工される固相延伸加工方法にも本発明のパウダーは使用できる。
【0155】
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは、押出成形、プレス成形、焼結成形等の加工を行うことも可能である。これらの加工により、従来の高分子量のポリエチレンパウダーが使用されているギアやロール、カーテンレール、パチンコ球のレール、穀物等の貯蔵サイロの内張りシート、ゴム製品等の摺動付与コーティング、スキー板材及びスキーソール、トラックやシャベルカー等の重機のライニング材、フィルター、粉塵トラップ材等の用途に使用することも可能である。
【実施例】
【0156】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0157】
〔測定方法及び条件〕
(1)分子量(粘度平均分子量:Mv)
ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量は、ISO1628−3(2010)に従って、以下に示す方法によって求めた。まず、20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)中にポリエチレン20mgを加え、150℃で2時間攪拌してポリエチレンを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、キャノン−フェンスケ型粘度計(柴田科学器械工業(株)製:製品番号−100)を用いて、標線間の落下時間(t
s)を測定した。ブランクとしてポリエチレンを含まない、デカリンのみの落下時間(t
b)を測定した。また同様に、ポリエチレンの重量を変えて標線間の落下時間をそれぞれ測定した。以下の式に従って求めたポリエチレンの還元粘度(η
sp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とポリマーの還元粘度(η
sp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。
η
sp/C=(t
s/t
b−1)/0.1 (単位:dL/g)
次に下記式Aを用いて、上記極限粘度([η])の値を用い、粘度平均分子量(Mv)を算出した。
Mv=(5.34×10
4)×[η]
1.49 ・・・数式A
【0158】
(2)水酸化アルミニウムの粒径と含有量
3Lのガラス製ビーカーにエタノール500mLを投入し、長さが75mm、深さ22mmのポリテトラフルオロエチレン製撹拌羽根を有するメカニカルスターラーを用いて、常温で200rpmにて撹拌した。そこへポリエチレンパウダー500gを徐々に投入し、投入後10分間撹拌を継続した。その後、撹拌しながらクロロホルムを1500mL投入し、さらに10分間撹拌した。
【0159】
撹拌を停止して0.5〜2.0時間静置し、ポリエチレンパウダーが液面に浮き、沈殿物が生じたことを目視で確認した。浮いたポリエチレンパウダーを目開き54μm(280メッシュ)の金属製網で静かにすくい上げて除去した。さらにビーカー中の溶液残量が約50mL〜100mL程度になるまで静かにデカンテーションを行い、上澄み液を廃棄した。
【0160】
残った液及び沈殿物を、200mLのガラス製ビーカーへ、クロロホルム約10mL用いて定量的に移し、再度静置した。さらに静かにデカンテーションにより上澄み液を除いて溶液量を約50mLにし、分液ロートに移した。分液ロートでさらに静置し、下部溶液約10−20mLを、沈殿物が全量含まれるようにガラス製スクリュー管に移した。このスクリュー管にごみが入らないように、ろ紙でふたをして、一昼夜排気設備のあるドラフトに設置して溶媒を蒸発させた。さらに、これを常温にて真空乾燥した。
【0161】
この回収された沈殿物全量に対しSEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置:(株)日立ハイテクノロジー製:製品名SU−70)にて、沈殿物がAl元素を含むことの確認を行った。また得られたSEM像に対し、画像解析装置(旭化成エンジニアリング(株)製「A像くん」)を用いて画像解析し、円相当径で算出し、小粒径から大粒径まで積算した際の50%相当の粒子径を平均粒子径(D50)として求めた。
【0162】
また、上記沈殿物のSEM像から、短径が50μm以上の粒径のものの個数をカウントした。
【0163】
(水酸化アルミニウムの同定)
水酸化アルミニウムの同定は、ATR法(Dura Scope(ATR結晶板:ダイヤモンド/ZnSe))にて、下記条件で赤外吸収スペクトルにより行った。ポリエチレンパウダーから上記(2)に記載の方法で得られた沈殿物の赤外吸収スペクトルを測定し、これが水酸化アルミニウム(アピラール(登録商標)40CD、ナバルテック社製、D50=1.3μm)の赤外吸収スペクトルとほぼ一致することにより、沈殿物が水酸化アルミニウムであることを確認した。
機種 :日本分光(株)製IR−410
分解能 :4cm
-1
スキャン数:32回
【0164】
水酸化アルミニウムの量:ポリエチレンパウダーをマイクロウェーブ分解装置(型式ETHOS TC、マイルストーンゼネラル(株)製)を用い加圧分解し、内部標準法にて、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、型式Xシリーズ X7、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、検出限界0.01ppm)にて、ポリエチレンパウダー中のアルミニウム元素含有量(Al量)を測定した。これで測定されたAl量を(α ppm)とし、Al(OH)
3含有量を(β ppm)として、β=α×78/27として換算した。
【0165】
(3)マグネシウム元素含有量(Mg量)
ポリエチレンパウダーをマイクロウェーブ分解装置(型式ETHOS TC、マイルストーンゼネラル(株)製)を用い加圧分解し、内部標準法により、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、型式Xシリーズ X7、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製、検出限界0.01ppm)にて、ポリエチレンパウダー中のマグネシウム元素含有量を測定した。
【0166】
(4)連続加工生産性
(4)−1 膜の連続加工生産性
ポリエチレンパウダーに含まれる空気を窒素で置換した後に、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10
-5m
2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。混合物を溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が70質量%となるように(即ちポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hrで行った。
【0167】
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシートを得た。このときT−ダイの上流側に、JIS Z8801規格に準拠した目開き150μmと、53μmと、150μmのステンレス製平織スクリーンとを重ねて用い、その直近の樹脂圧力を圧力計にて計測した。
【0168】
以下の判断基準に従って、連続加工生産性を判断した。すなわち、押し出し開始後1時間経過時の樹脂圧力(P0)を基準とし、ある経過時間の樹脂圧力をPとしたとき、増加率を以下にて定義した。
増加率(%)=(P−P0)/P0 ×100
◎:120時間後の樹脂圧力の増加率が±5%以内であるもの。
○:72時間後の樹脂圧力の増加率が5%以下で、かつ120時間後の樹脂圧力の増加率が5%を超え、10%以下であるもの。
△:72時間後の樹脂圧力の増加率が5%以下で、かつ120時間後の樹脂圧力の増加率が10%を超えるもの。
×:72時間後の樹脂圧力の増加率が5%を超えるもの。
【0169】
(4)−2 糸の連続加工生産性
ポリエチレンパウダーに含まれる空気を窒素で置換した後に、事前混合槽に、ポリマー濃度が8質量%になるように、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10
-5m
2/s)を投入し、室温にて撹拌することにより均一なスラリーを得た。これをポンプにより、窒素雰囲気下にて二軸押出機へ供給して、溶融混練した。溶融混練条件は、設定温度250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量12kg/hrで行った。
【0170】
押し出し機の下流側に吐出安定性を付与するため、ギアポンプを介し、JIS Z8801規格に準拠した目開き250μmと、106μmと、45μmと、106μmと、250μmのステンレス製平織スクリーンとを重ねて設置した。その直近の樹脂圧力を圧力計にて計測した。その後に紡糸用ダイスを経て、ゲル紡糸を加工した。
【0171】
そして、以下の判断基準に従って、連続加工生産性を判断した。すなわち、押し出し開始後1時間経過時の樹脂圧力(P0)を基準とし、ある経過時間の樹脂圧力をPとしたとき、増加率を以下にて定義した。
増加率(%)=(P−P0)/P0 ×100
◎:120時間後の樹脂圧力の増加率が±5%以内であるもの。
○:72時間後の樹脂圧力の増加率が5%以下で、かつ120時間後の樹脂圧力の増加率が5%を超え、10%以下であるもの。
△:72時間後の樹脂圧力の増加率が5%以下で、かつ120時間後の樹脂圧力の増加率が10%を超えるもの。
×:72時間後の樹脂圧力の増加率が5%を超えるもの。
【0172】
(5)製品の寸法安定性
(5)−1 膜厚安定性
(4)−1で得た原反膜厚1400μmのゲルシートを同時二軸テンター延伸機に設置し、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍(即ち、7.0×7.0倍)、二軸延伸温度125℃であった。次に、メチルエチルケトン槽にて、メチルエチルケトン中にゲルシートを充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去して微多孔膜を得た。
【0173】
次に、TDテンターに微多孔膜を設置し、温度125℃、延伸倍率1.4倍で熱固定を行い、その後、0.8倍の緩和操作(即ち、熱固定緩和率が0.8倍)を行った。ここで得られた膜厚は、約20μmであった。この膜をTD×MD(30cm×30cm)粒径に切り出して微多孔膜を得た。この膜に対し、ほぼ等間隔にて、角の4点、各々の辺の中央部4点、中央部1点の合計9点の膜厚を膜厚ゲージ((株)テクロック製、型番SM−1201)を用いて測定した。上記サイズの膜を3枚用いて、合計27点の膜厚を測定した。この27点のうち、膜厚の最大値をT(max)、最小値をT(min)とし、平均値をT(ave)としたとき、次のように厚みムラを定義して、以下の判断基準に基づいて、膜厚安定性を評価した。
(厚みムラ)(%)=(T(max)−T(min))/(2×T(ave))×100
○:厚みムラ(%)が、0%以上2%以下である。
△:厚みムラ(%)が、2%を超え4%以下である。
×:厚みムラ(%)が、4%を超える。
【0174】
(5)−2 糸径安定性
(4)−2で得られたゲル紡糸を用いて、還流しているトリクロロトリフルオロエタン(TCTFE)を用いてソックスレー装置中において、そのゲル紡糸から流動パラフィンを抽出した。次に、ゲル紡糸を風乾してキセロゲル紡糸を生成させ、最初に120℃で、次に150℃において、二段階で熱間延伸した。延伸比は、ゲル紡糸及びキセロゲル紡糸を延伸する各段階で最大化し、トータル延伸倍率を500倍にした。
【0175】
得られた糸を1m切り出し、ほぼ10cm等間隔の部位のうち、両末端を除く9点を、光学顕微鏡を用いて糸径を測定した。この1m糸を合計4本測定し、合計36点の糸径を測定し、最大値をT(max)、最小値をT(min)とし、平均値をT(ave)としたとき、次のように糸径ムラを定義して、以下の判断基準に基づいて、糸径安定性を評価した。
(糸径ムラ)(%)=(T(max)−T(min))/(2×T(ave))×100
○:糸径ムラ(%)が、0%以上3%以下である。
△:糸径ムラ(%)が、3%を超え5%以下である。
×:糸径ムラ(%)が、5%を超える。
【0176】
(6)耐酸性
膜の場合、熱固定を行った後の膜を90mm×5mmのサイズに切り出して評価に供した。また、糸の場合、キセロゲル紡糸の熱間延伸後の糸を90mmの長さに切り出し、単糸にて評価に供した。各々、80℃、40質量%硫酸水溶液に3日間浸漬し、浸漬前後の引張り強度を測定し、以下の判断基準に基づいて、耐酸性を判断した。引張り試験は、膜はISO527−3、糸はISO2062規格に準拠して、測定を実施した。浸漬前の引張り強度TS0、浸漬後の引張り強度TS1とした。
強度保持率(%)=TS1/TS0×100
○:強度保持率が90%以上である。
×:強度保持率が90%未満である。
【0177】
(7)耐糸切れ性
(4)−2で示した方法で、糸の加工を連続して2時間行った。途中で糸切れした場合はその回数をカウントして再び紡糸を継続した。その際、立ち上げに要した時間は2時間から除外し、連続運転できた合計時間が正味2時間になるように実施した。その間に糸切れした回数を合計した。その一連の運転を2回実施し、各々の糸切れした回数の平均値をとった。その糸切れ回数平均値を以下の判断基準に従って、耐糸切れ性を評価した。
〇:糸切れ回数平均値が、0回のもの。
△:糸切れ回数平均値が、0回を超え、1.5回以下のもの。
×:糸切れ回数平均値が、1.5回を超えるもの。
【0178】
〔実施例1〕
〔固体触媒成分[A]の調製 メタロセン触媒〕
(担体[A−1]の調製)
担体の前駆体として、シリカQ6[富士シリシア化学(株)製]を使用した。シリカQ6を窒素雰囲気下、400℃で5時間加熱処理した。加熱処理後のシリカQ6の比表面積は480m
2/g、平均平均粒子径は9.5μmであった。加熱処理後のシリカ表面の水酸基の量は、1.85mmol/gであった。窒素置換した容量1.8Lオートクレーブで加熱処理後のシリカQ6(40g)をヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下20℃に保ちながら、トリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を80mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムを吸着させた担体[A−1]のヘキサンスラリー880mLを調製した。
【0179】
(遷移金属化合物成分[B]の調製)
[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η
5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と略称する)の200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社製]1000mLに溶解した。これに、組成式AlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12の有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液(濃度1mol/L)を20mL加えた。さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調整し、遷移金属化合物成分[B]を得た。なお、組成式AlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12の有機マグネシウム化合物は、ヘキサン中、25℃で所定量のトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムとを混合することにより合成した。
【0180】
(活性化剤[C]の調製)
ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と略称する)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)5mLを25℃で加え、さらにヘキサンを加えてトルエン溶液中のボレート濃度を80mmol/Lに調節した。その後、25℃で1時間攪拌することにより活性化剤[C]を調製した。
【0181】
(固体触媒成分[A]の調製)
上記操作により得られた担体[A−1]のスラリー880mLに、上記操作により得られた活性化剤[C]を50mLと上記操作により得られた遷移金属化合物成分[B]40mLを20℃で攪拌しながら同時に添加し、3時間反応を継続することにより、固体触媒成分[A]を調製した。
【0182】
(液体成分c)
200mLのフラスコに、ヘキサン40mLとAlMg
6(C
2H
5)
3(n−C
4H
9)
12で示される有機マグネシウム化合物を、Mg及びAlの和として37.8mmol加え、0℃に冷却後、メチルヒドロポリシロキサン(粘度30センチストークス@30℃)2.27gを含有するヘキサン40mLを30分かけて添加し、その後80℃に温度を上げて2時間、攪拌下に反応させることにより、液体成分cを得た。
【0183】
(ポリエチレンの重合)
ヘキサン、エチレン、触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合温度はジャケット冷却により40℃に保った。ヘキサンは40L/Hrで供給した。固体触媒成分[A]は1.0g/Hrの速度で重合器に添加し、液体成分cは4mmol/Hrの速度で重合器に添加した。エチレン系重合体の製造速度は10kg/Hrであった。重合圧力をエチレンを連続供給することにより0.5MPaに保った。触媒活性は2,000g−PE/g−固体触媒成分[A]であった。重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05Mpaのフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレンを分離した。重合スラリーは、連続的に溶媒分離工程を経て、乾燥工程へ送られた。塊状のポリマーの存在も無く、スラリー抜き取り配管も閉塞することなく、安定して連続運転ができた。尚、失活・乾燥工程では、重合後のパウダーに対し、スチームと窒素の混合ガスを20Nm
3/hrの流量にて、触媒及び液体成分の失活を実施した。得られたポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去した。こうして得られたポリエチレンパウダーをPE1とした。
PE1を100質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部、微粒の水酸化アルミニウム(アピラール(登録商標)40CD、ナバルテック社製、D50=1.3μm)を0.05質量部配合し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることでポリエチレンパウダーを得た。このポリエチレンパウダーをPE1−1とした。このポリエチレンパウダーに対し、(1)粘度平均分子量(Mv)、(2)水酸化アルミニウムの粒径と量、及び(3)マグネシウム元素含有量を各々測定した。その結果を表1に示した。また、PE1−1から沈殿物として回収されたものについて、粒子の平均粒子径が50μm未満であることを確認した。また、その中に短径が50μm以上のものが存在することが観察された。沈殿物は赤外吸収スペクトルにて確認したところ、水酸化アルミニウムであることが確認された。
また(2)で測定された水酸化アルミニウムの量(β)は、添加した水酸化アルミニウムの配合量とほぼ一致した。
【0184】
また、PE1−1を用い、(4)−2糸の加工に記載した方法に従って、ゲル紡糸を実施した。さらに、(5)−2糸径安定性に記載した方法に従って、製品の寸法安定性を評価した。また(6)耐酸性、(7)耐糸切れ性に記載した方法に従って、各々評価を実施した。その評価結果を表1に示した。
【0185】
〔実施例2〕
微粒の水酸化アルミニウム(アピラール(登録商標)40CD、ナバルテック社製、D50=1.3μm)を0.10質量部配合したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンパウダーを得た。上記配合により得られたポリエチレンパウダーは、表1において、PE1−2と表記した。PE1−2から沈殿物として回収されたものについて、粒子の平均粒子径が50μm未満であることを確認した。PE1−2を用いて、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0186】
〔実施例3〕
微粒の水酸化アルミニウム(アピラール(登録商標)40CD、ナバルテック社製、D50=1.3μm)を0.29質量部配合したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンパウダーを得た。上記配合により得られたポリエチレンパウダーは、表1において、PE1−3と表記した。PE1−3から沈殿物として回収されたものについて、粒子の平均粒子径が50μm未満であることを確認した。PE1−3を用いて、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0187】
〔実施例4〕
〔固体触媒成分[E]の調製〕
(1)(E−1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1800mLのヘキサンで4回洗浄した。この固体((E−1)担体)を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
【0188】
(2)固体触媒成分[E]の調製
上記(E−1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OSiH)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[E]を調製した。この固体触媒成分[E]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
【0189】
(ポリエチレンの重合)
ヘキサン、エチレン、水素、触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。重合圧力は0.5MPaであった。重合温度はジャケット冷却により83℃に保った。ヘキサンは40L/hrで供給した。助触媒としてトリイソブチルアルミニウムと、固体触媒成分[E]とを使用した。固体触媒成分[E]は0.4g/hrの速度で重合器に添加し、トリイソブチルアルミニウムは10mmol/hrの速度で重合器に添加した。エチレン系重合体の製造速度は10kg/hrであった。水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が5mol%になるようにポンプで連続的に供給した。触媒活性は30,000g−PE/g−固体触媒成分[E]であった。重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度70℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した。
【0190】
重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に溶媒分離工程を経て、乾燥工程へ送られた。塊状のポリマーの存在もなく、スラリー抜き取り配管も閉塞することなく、安定して連続運転ができた。尚、失活・乾燥工程では、重合後のパウダーに対し、スチームと窒素の混合ガスを20Nm
3/hrの流量にて供給し、触媒及び液体成分の失活を実施した。得られたポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去した。こうして得られたポリエチレンパウダーをPE2とした。
【0191】
PE2を100質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部配合し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることでポリエチレンパウダーを得た。このポリエチレンパウダーを表1において、PE2−1と表記した。このポリエチレンパウダーに対し、(1)粘度平均分子量(Mv)、(2)水酸化アルミニウムの粒径と含有量の方法、及び(3)マグネシウム元素含有量を各々測定した。その結果を表1に示した。また、PE2−1から沈殿物として回収されたものについて、平均粒子径が50μm未満であることを確認した。沈殿物は赤外吸収スペクトルにて確認したところ、水酸化アルミニウムであることが確認された。回収された重量は、8.6mgであった。したがって、ポリエチレンパウダー500g中の水酸化アルミニウムの含有量は17.2ppmであり、これは(2)の方法で測定した水酸化アルミニウム含有量の値とほぼ一致した。
【0192】
また、PE2−1を用い、(4)−1膜の連続加工で示された方法に従って、原反膜厚1400μmのゲルシートを得て、連続加工生産性を評価した。また、こうして得られた原反膜厚1400μmのゲルシートを用い、(5)−1膜厚安定性に記載した方法に従って寸法安定性を、(6)耐酸性に記載した方法に従って耐酸性を評価した。(5)−1膜厚安定性、及び(6)耐酸性の評価結果を表1に示した。そして耐糸切れ性については、(4)−2糸の連続加工に記載した方法に従って、ゲル紡糸を実施し、(7)耐糸切れ性に記載した方法に従って、その評価を実施した。結果を表1に示した。
【0193】
(リチウムイオン二次電池のセパレータとしての利用性)
電解液として、濃度1.0mol/LのLiPF
6のエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)混合溶液を用い、負極として、主成分に人造グラファイトを用い、正極として、主成分にリチウムコバルト複合酸化物LiCoO
2を用い、セパレータとして、(4)−1に記載の方法でPE2−1を用いて得られた微多孔膜を用いた。負極、微多孔膜、正極、微多孔膜の順に積層した後、渦巻状に12回捲回することで電極板積層体を作製した。
【0194】
この電極板積層体を70℃の温度条件下、2MPaで30秒間平板状にプレスし、電池捲回体を得た。次いで、作製した電池捲回体をアルミニウム製電池缶の内部に挿入した。その後、正極から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極から導出したニッケル製リードを電池缶の蓋端子部に接続した。次に、この電池缶内に非水電解液を注入して密閉した。こうして作製されたリチウムイオン電池は充放電を繰り返すことのできる二次電池として機能した。したがって、得られた微多孔膜はリチウムイオン二次電池のセパレータとして利用できた。
【0195】
〔比較例1〕
微粒の水酸化アルミニウム(アピラール(登録商標)40CD、ナバルテック社製、D50=1.3μm)を用いなかったこと以外は実施例1と同様にしてポリエチレンパウダーを得た。得られたパウダーを表1において、PE1−4と表記した。PE1−4を用いて、実施例1と同様の評価を行い、その評価結果を表1に示した。このポリエチレンパウダーは十分な水酸化アルミニウムを含有していないため、寸法安定性、耐酸性、耐糸切れ性が十分でないことがわかった。
【0196】
〔比較例2〕
微粒の水酸化アルミニウム(アピラール(登録商標)40CD、ナバルテック社製、D50=1.3μm)を0.31質量部配合したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレンパウダーを得た。上記配合により得られたポリエチレンパウダーは、表1において、PE1−5と表記した。PE1−
5を用いて、実施例1と同様の評価を行い、その評価結果を表1に示した。
【0197】
〔比較例3〕
重合圧力を1.0MPaとし、液体成分cを用いなかったこと以外は、PE1の合成と同様にしてポリエチレンパウダーPE3を得た。得られたポリエチレンパウダーは、表1においてPE3−1と表記した。PE1−2の代わりにPE3−1を用いたこと以外は、実施例2と同様の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0198】
〔比較例4〕
液体成分cを10mmol/Hrの速度で重合器に添加した以外は、PE1の合成と同様にしてポリエチレンパウダーPE4を得た。得られたポリエチレンパウダーは、表1においてPE4−1と表記した。PE1−2の代わりにPE4−1を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、その結果を表1に示した。
【0199】
〔比較例5〕
微粒の水酸化アルミニウムの代わりに微粒子炭酸カルシウム(林化成(株)製 エスカロン#2300 1.01μm)を0.10質量部配合したこと以外は、実施例2と同様にしてポリエチレンパウダーを得た。結果を表1に示した。上記配合により得られたポリエチレンパウダーは、表1において、PE1−6と表記した。PE1−6を用いて、実施例2と同様の評価を行い、その評価結果を表1に示した。
【0200】
〔実施例5〕
失活・乾燥工程において、スチームと窒素の混合ガスを用いる代わりに、水を10mL/hrの流量にてフィードしたこと以外は、実施例1と同様の操作により、ポリエチレンパウダー(PE5)を得た。さらに微粒の水酸化アルミニウム及び酸化防止剤を実施例1と同様にブレンドして得られたパウダーをPE5−1とした。各特性を測定した結果を表1に示す。
【0201】
〔実施例6〕
失活・乾燥工程において、スチームと窒素の混合ガスを用いる代わりに、水を10mL/hrの流量にてフィードしたこと以外は、実施例4と同様の操作により、ポリエチレンパウダー(PE6)を得た。さらに酸化防止剤を実施例4と同様にブレンドして得られたパウダーをPE6−1とした。各特性を測定した結果を表1に示す。
【0202】
【表1】
【0203】
以上のことから、特定の粒径の水酸化アルミニウムを特定量含有し、かつ特定量のマグネシム元素を含有するポリエチレンパウダーが、連続加工生産性に優れ、耐糸切れ性に優れ、製品の寸法安定性及び耐酸性に優れることがわかった。
【0204】
また本発明のポリエチレンパウダーを含む成形体が、リチウムイオン電池セパレータ、繊維としても好適に用いられることがわかる。