(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、第1の実施の形態について、
図1から
図13を参照して説明する。まず、説明のために、従来例について説明する。
【0011】
フレキシブルケーブル1は、ベースフィルム2と、その表面に形成され、パターニングされた導電体の回路としての銅箔3と、それを保護するカバーレイ4で構成される。端子部1aは導通を取る為にカバーレイ4が無く、銅箔3がむき出しになっている。この端子部1aをコネクタ5に挿入する。このようなフレキシブルケーブル1のコネクタ嵌合部1aの構造を
図1に示す。各層間には図示しない接着剤層がある場合がある。
図2は
図1のフレキシブルケーブル1をコネクタ5に挿入した嵌合状態を表す断面図である。
【0012】
フレキシブルケーブル1はコネクタ5内のコンタクト部5aを
図2の上向きへ押し開きつつ、
図2の左へ向かってコネクタ5へ挿入されて行く。その際フレキシブルケーブル1には座屈しない程度の強度が必要である。一方コネクタ5は通常、フレキシブルケーブル1が所定の厚さであることを想定して設計されている。すなわちコネクタ5から見たフレキシブルケーブル1の嵌合部適合厚さが設定されている。その値は通常0.3mm程度であり、この厚さは挿入の際にフレキシブルケーブル1が座屈しないような強度を保てる程度に厚く設定した値である。
【0013】
フレキシブルケーブル1の本体部、すなわち
図2のコネクタ嵌合部1a以外の場所、特にフレキシブルケーブル1の屈曲部には通常、柔軟性が要される。その為フレキシブルケーブル1の厚さは一般に20μm〜100μm程度であり、上記0.3mmよりも薄い。
【0014】
従ってコネクタ5と嵌合させるには端子部1aの厚さが不足する。そこで通常はフレキシブルケーブル1の裏面に
図1および
図2に示すようにスペーサ6を貼って厚さを調整してコネクタ5が要求する嵌合部適合厚さに合わせる。
【0015】
フレキシブルケーブルの中でもフィルム基板、フレキシブルPC板、或いはFPC等と呼ばれるものは一般にベースフィルム2およびカバーレイ4の材料としてポリイミドが使われ、銅箔3のパターニングはエッチングにより形成される。ベースフィルム2と銅箔3との間に接着剤を用いるものと接着剤レスのものがある。FPCに電子部品を実装したものは、その形態によってTCP、TAB、COF等と呼ばれる。
【0016】
これに対してカード電線、テープ電線、フレキシブルフラットケーブル或いはFFCなどと呼ばれるタイプのものはベースフィルム2とカバーレイ4との材料として安価なポリエステルフィルムが使われ、回路毎に短冊状に形成した複数本の銅箔3をポリエステルフィルムで挟んで形成する。
【0017】
一般に前者のタイプは回路ピッチが狭く、銅箔3の幅が狭く、かつ銅箔3が薄く、屈曲信頼性に優れる。どちらのタイプでも銅箔3には、屈曲性を重視して圧延銅を使うことが多い。特に高い屈曲性能が要求される場合には、結晶の欠陥が少なく屈曲性の優れた特殊な圧延銅を使う。
【0018】
従来のフレキシブルケーブル1の場合、コネクタ5に挿入する際に
図2の矢印方向にこじってしまうと銅箔3が簡単に断線してしまう。この現象は銅箔3の種類に関わらず発生し、例え結晶の欠陥が少なく屈曲性の優れた圧延材を選んでも、このモードの断線に対しては殆ど効果が無い。
【0019】
この現象はどのタイプのフレキシブルケーブルでも起きるが、銅箔3が幅狭くかつ薄くなりがちな、FPC等と呼ばれる前者のタイプの方がより顕著に起きる。
【0020】
次に何故断線が起きるのかについて説明する。
まず、一般に厚さDで長さLの、
図3に表すような板状の物体Mを、
図5に表すように長手方向(長さLの向き)に湾曲させたときに何が起きるかについて考えておく。
【0021】
図4は
図3の断面図、
図6は
図5の断面図である。このように湾曲させると、板状物体Mの表側すなわち凸側は長手方向に伸ばされ、長さがL+αとなる。板状物体Mの裏側すなわち凹側は長手方向に圧縮されて、長さがL−βとなる。板状物体Mの表側から深さdの場所には長さがLのまま変化しない場所、すなわち中立面Nがある。
【0022】
次に断線の理由を、
図7を用いて説明する。フレキシブルケーブル1を挿入する際、コネクタ5に挿入する際に
図2の下向き矢印方向にこじってしまうとフレキシブルケーブル1は
図7のように凸状に、又はその反対に凹状に、湾曲する。フレキシブルケーブル1の端子部1a付近、図の左右方向に所定の2点を定め、その間の定常状態の距離をLとすれば、
図4の状態では銅箔3の表面側は伸ばされてL+αとなり、ベースフィルム2の下部は縮められてL−βとなる。すなわち長さLの銅箔3は長さL+αまで引っ張られ、伸び量が所定の量を超えると切れてしまうのである。
図7において、厚み方向のある場所に、湾曲させても長手方向がLのまま変化しない位置、すなわち中立面Nがある。中立面Nの位置は嵌合部1aを構成する部材の厚さとヤング率によって決まる。銅箔3のヤング率は100GPa程度であり、ポリイミドの5GPaと比べて約20倍なので、中立面Nは全体の厚さ300μmの中央よりも上方向にシフトしている。しかし銅箔3の厚みが薄い為シフト量は大きくない。この例では中立面Nは銅箔3の表面から107μmの場所にあり、すなわち全厚300μmに対して上から約1/3の場所である。銅箔3が薄いほど、シフト量は減り、中立面Nは中央付近、すなわち銅箔表面から150μmの位置に近付いて行く。
【0023】
以上で説明した従来例のスペーサ6は
図8に示すような無垢のポリイミドであり、ベースフィルム2およびカバーレイ4と同じ材質である。
【0024】
図9は、本実施形態のインクジェットヘッド10およびフレキシブルプリント配線板(FPC)11を示す斜視図である。FPC11は、フレキシブルケーブルの一例である。
【0025】
インクジェットヘッド10は、インクジェットプリンタの内部に搭載され、印刷用紙のようなメディアにインクを吐出して印刷を行なう。
【0026】
図9に示すように、インクジェットヘッド10は、ヘッド本体14と、基体15と、一対のプリント基板16と、複数のテープキャリアパッケージ(TCP)17とを備えている。
【0027】
ヘッド本体14は、インクを吐出するための部品である。ヘッド本体14は、駆動素子および複数のオリフィスを有しており、前記オリフィスからインクを吐出する。ヘッド本体14は、基体15に取り付けられている。基体15は、一対のパイプ19を有している。パイプ19は、インクタンクとヘッド本体14との間のインクの経路を形成する。
【0028】
一対のプリント基板16に、コネクタ21と、コンデンサや他のコネクタのような種々の電子部品22とがそれぞれ実装されている。
【0029】
複数のTCP17は、可撓性のフィルム24と、IC25とをそれぞれ有している。フィルム24に、複数の配線が形成され、IC25が実装されている。フィルム24は、ヘッド本体14とプリント基板16との間に介在している。IC25は、FPC11から入力された信号に基いて、ヘッド本体14にインクを吐出させる。
【0030】
図10は、インクジェットヘッド10およびFPC11の一部を示す断面図である。
図10に示すように、コネクタ21は、プリント基板16の端部に配置されている。コネクタ21は、コネクタ本体31と、挿入口32と、複数のコンタクト部33と、複数のコンタクトリード34とを有している。
【0031】
挿入口32は、コネクタ本体31に設けられ、プリント基板16の外に向かって開口している。コンタクト部33は、弾性を有する金属性の端子であり、挿入口32の上壁32aに沿って設けられている。コンタクト部33と挿入口32の下壁32bとの間の距離は、FPC11を挿入しないとき、例えば300μmよりも小さい。コンタクトリード34は、コンタクト部33からそれぞれ連続し、コネクタ本体31の外に延びている。コンタクトリード34は、コネクタ本体31の外で、プリント基板16の配線にそれぞれ接続されている。
【0032】
図9に示すように、FPC11は、途中で分岐した形状に形成されている。FPC11は、略矩形状の二つの端子部40を有している。端子部40は、FPC11の一方の端部にそれぞれ設けられている。二つの端子部40は、それぞれ一対のプリント基板16のコネクタ21に接続される。FPC11の他方の端部は、例えば前記インクジェットプリンタの制御部に接続されている。
【0033】
図11は、FPC11の端子部40を示す斜視図である。
図12は、
図11のF12−F12線に沿ってFPC11の端子部40を示す断面図である。
図12に示すように、FPC11は、ベース層41と、導電層42と、カバー層43と、スペーサ44とを有している。なお、これらの各層の間には接着剤によって形成された層があってもよい。
【0034】
ベース層41は、例えば柔軟性を有するポリイミドによってフィルム状に形成されている。当該ポリイミドの弾性率は、例えば5GPaである。ベース層41の厚さは、例えば20μmである。ベース層41は、第1の面46と、第2の面47とを有している。第2の面47は、第1の面46の反対側に位置している。
【0035】
導電層42は、例えば屈曲性に優れた圧延銅によって形成された銅箔である。当該圧延銅の弾性率は、例えば100GPaである。導電層42の厚さは、例えば10μmである。
【0036】
導電層42は、ベース層41の第1の面46に積層されている。
図11に示すように、導電層42は、エッチングによってパターニングされ、複数の配線パターンを形成している。
【0037】
図12に示すように、カバー層43は、導電層42の上に積層されている。これにより、導電層42はベース層41とカバー層43との間に挟まれる。カバー層43は、例えばベース層41と同じくポリイミドによって形成されている。カバー層43の厚さは、例えばベース層41と同じく20μmである。
【0038】
端子部40において、カバー層43は設けられていない。このため、端子部40では、導電層42が露出している。
【0039】
スペーサ44は、矩形の板状に形成され、端子部40にそれぞれ配置されている。スペーサ44は、ベース層41の第2の面47に貼り付けられている。言い換えると、スペーサ44は、ベース層41の端部においてベース層41の第2の面47に取り付けられている。スペーサ44は、第1層51と、第2層52とを有している。
【0040】
第1層51は、例えばニッケルによって形成されている。第1層51は、これに限らず、例えばステンレスのような他の材料によって形成されても良い。当該ニッケルの弾性率は、例えば200GPaである。すなわち、第1層51は、ベース層41よりも弾性率が大きい。第1層51の厚さは、例えば20μmである。第1層51は、例えば第2層52に貼り付けられている。なお、第1層51はこれに限らず、例えば無電解メッキによって第2層52の上に形成されても良い。
【0041】
第2層52は、ベース層41との間に第1層51を挟んでいる。第2層52は、例えばベース層41と同じくポリイミドによって形成されている。すなわち、第2層52は、第1層よりも弾性率が小さい。なお、第2層52の材料は、ベース層41の材料と異なっていても良い。
【0042】
第2層52の厚さは、例えば250μmである。すなわち、第2層52の厚さは、ベース層41と導電層42と第1層51との厚さを合わせたものよりも厚い。このため、第1層51は、端子部40の全厚さの中央よりも導電層42に近い。なお、端子部40の全厚さは、例えば300μmである。
【0043】
図10に示すように、端子部40はコネクタ21の挿入口32に挿入される。端子部40が挿入口32に挿入されると、コネクタ21のコンタクト部33が、端子部40の露出された導電層42に弾性的に当接する。これにより、端子部40とコネクタ21とが電気的に接続される。
【0044】
スペーサ44は、端子部40の剛性を向上させることで、コンタクト部33の押圧力によって端子部40が凹んだり、挿入の際に座屈したりすることを防いでいる。さらに、スペーサ44は、端子部40の厚さをコネクタ21の挿入口32に合うように調整している。
【0045】
図13は、曲げられた端子部40を示す断面図である。
図13に示すように、端子部40の、図の右側が厚さ方向のスペーサ44側に(
図13の下向きに)押さえられると、端子部40は凸状に湾曲し、長さが変化しない中立面Nを境に、凸状の一方の面40a側では端子部40の長手方向に引き伸ばされて長さが伸び、凹状の他方の面40b側では端子部40の長手方向に圧縮されて長さが縮む。端子部40の厚さ方向における中立面Nの位置は、例えば端子部40の一方の面40aから66μmだけ離れている。
【0046】
図12のように端子部40が真直ぐにされた状態における、端子部40の縁からカバー層43の縁までの長さをLとして説明する。
図13に示すように、端子部40が曲げられると、端子部40の一方の面40aを形成する導電層42の表面は、引き伸ばされて長さL+α´に伸ばされる。一方、端子部40の他方の面40bを形成する第2層52の表面は、圧縮されて長さL−β´に縮められる。
【0047】
逆に、端子部40の図の右端が厚さ方向の導電層42側に(
図13の上向きに)押さえられると、端子部40は凹状に湾曲し、導電層42の表面は、圧縮されて長さL−α´に縮められる。第2層52の表面は、引き伸ばされて長さL+β´に伸ばされる。
【0048】
端子部40が曲げられたときに長さが変化する量は、端子部40の厚み方向における中立面Nからの距離に従う。このため、第2層52の表面より中立面Nに近い導電層42の表面の長さの変化量α´は、第2層52の表面の長さの変化量β´より小さい。
【0049】
前記構成のFPC11によれば、スペーサ44の第1層51は、ベース層41よりも弾性率が大きく、第2層52よりも弾性率が大きい。厚さ方向における中立面Nの位置は、各部材の厚さおよび弾性率によって決まる。第1層51は、第2層52よりも導電層42に近い。これにより、
図7のようにスペーサ44が全てポリイミドによって形成された場合よりも、中立面Nが導電層42の近くに位置することになり、端子部40が曲げられたときの導電層42の長さの変化が抑制される。したがって、スペーサ44が全てポリイミドによって形成された場合よりも端子部40が曲げられた際に導電層42にかかる引張りおよび圧縮力が小さくなり、導電層42の損傷を抑制できる。さらに、スペーサ44が全てポリイミドによって形成された場合よりも、端子部40が繰り返し曲げられることによる導電層42の劣化を抑制できる。
【0050】
上記の点を、従来例と比べて説明する。FPC11を
図10のようにコネクタ21に嵌合する際、湾曲させると
図13のようになる。長さLが変わらない中立面は、
図7の場合と比べ図の上方向に寄った位置となる。ベース層41のすぐ裏面、即ち全厚さの0.3mmに対して見れば導電層42のある側に近い部分に弾性率の大きな部材である第1層51があるためである。このとき導電層42はL+α´に伸び、スペーサ下端はL+β´に縮む。
【0051】
弾性率の大きな部材として20μmのニッケルを用いた本実施例では
図13の中立面は、
図7と比べると上方へ移動し、導電層42の表面から66μmの深さの場所になる。そのためにα´はαよりも小さく、β´はβよりも大きくなる。α´/α=66μm/107μm=62%であるので、導電層42の伸び量は
図7の場合の62%と少なく、切れ難くなるのである。このように、従来例のフレキシブルケーブル1よりも本実施形態のFPC11の方が切れ難い。また、凹凸の屈曲を繰り返した場合にも効果がある。
【0052】
また、スペーサ44の第2層52の厚さは、ベース層41と導電層42と第1層51との厚さを合わせたものよりも厚く、第1層51は、スペーサ44が全てポリイミドによって形成された場合の中立面よりも導電層42に近い。したがって、中立面Nを導電層42の近くに位置させやすくなる。
【0053】
なお、スペーサ44の第1層51はニッケルのような金属に限らず、例えば複数のガラス繊維を包含した接着剤によって形成されても良い。接着剤は樹脂の一例である。ガラス繊維は、繊維の一例である。繊維はこれに限らず、例えば炭素繊維や金属繊維でも良い。
【0054】
当該ガラス繊維は、端子部40の長手方向に沿う方向、すなわち、ベース層41の端部の長手方向に沿う方向に配置することが望ましい。
【0055】
これにより、スペーサ44をベース層41に貼り付ける工程と、第1層51を形成する工程とを同時に行なうことができる。したがって、FPC11の製造コストを低減できる。
【0056】
次に、
図14ないし
図16を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、以下に開示する複数の実施形態において、第1の実施形態のインクジェットヘッド10およびFPC11と同一の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成部分については、その説明を一部または全て省略することがある。
【0057】
図14は、第2の実施の形態に係るFPC11の端子部40を示す断面図である。
図14に示すように、スペーサ44は、調整層55と、被覆層56とを有している。
【0058】
被覆層56は、例えばベース層41と同じくポリイミドによってシート状に形成されている。被覆層56の厚さは、例えば120μmである。被覆層56は、ベース層41の第2の面47に対向している。被覆層56の表面は、調整層55の表面よりも滑らかである。
【0059】
調整層55は、ベース層41の第2の面47と被覆層56との間に介在している。調整層55の厚さは、例えば150μmである。調整層55は、複数の粒状材57と、軟質材58を有している。
【0060】
粒状材57は、例えば直径が150μmのガラスビーズである。なお、粒状材57はニッケルのような金属や、樹脂によって形成されても良い。また、粒状材57は、球状に形成されるが、これに限らず例えば多面体状に形成されても良い。
【0061】
複数の粒状材57は、被覆層56の上に面状に並んで配置されている。複数の粒状材57は、例えば互いに当接してマトリクス状に配置されても良いし、互いに隙間を介して並べられても良い。複数の粒状材57は、端子部40の厚み方向において1つずつ配置されている。粒状材57は、ベース層41の第2の面47と、被覆層56とに当接している。
【0062】
軟質材58は、例えばシリコーン樹脂およびシリコーン接着剤によって形成されている。当該シリコーン樹脂およびシリコーン接着剤の弾性率は、例えば10MPaである。なお、軟質材58はこれに限らず、例えばビニールのような他の材料によって形成されても良い。軟質材58は、ベース層41よりも弾性率が小さく、粒状材57よりも弾性率が小さい。なお、ベース層41とスペーサ44との貼り合わせにも、例えば弾性率が10MPaであるシリコーンを使い、貼り合せ部の弾性率が高くならないように注意する。
【0063】
調整層55は、例えば次のように作られる。まず、被覆層56の上に、複数の粒状材57を配置する。この際、粒状材57を容易に配置するため、被覆層56の上に粒状材57が貼り付く粘着層を形成しても良い。次に、シリコーン樹脂が各粒状材57を厚さ方向の半ばまで覆うように、複数の粒状材57の間の隙間にシリコーン樹脂58aを充填する。
【0064】
次に、粒状材57がベース層41の第2の面47に当接した状態で、シリコーン樹脂に覆われずに露出した複数の粒状材57の間の隙間に、シリコーン接着剤58bを充填する。
【0065】
複数の粒状材57の間の隙間に充填されたシリコーン接着剤58bによって、ベース層41の第2の面47にスペーサ44が貼り付けられている。なお、シリコーン樹脂によって軟質材58を形成した後に、例えば接着剤によってスペーサ44をベース層41に貼り付けても良い。
【0066】
軟質材58の弾性率が小さいため、粒状材57は、被覆層56に沿う方向に僅かに変位可能である。
【0067】
このような調整層55が端子部40に直交する方向(厚み方向)に圧縮された場合、粒状材57が圧縮力を受け止める。このため、調整層55が厚み方向に圧縮されたときの弾性率は、粒状材57の弾性率に近い。なお、厚み方向は、ベース層41に直交する方向でもある。
【0068】
また、調整層55が端子部40のせん断方向に歪められた場合、粒状材57の間の隙間に充填された軟質材58が引っ張られる。
図15は、説明のために、板状物体Mがせん断方向に歪められた状態を示す断面図である。
図15の矢印Sが、せん断方向を示す。
【0069】
さらに、粒状材57は、被覆層56に沿う方向に僅かに変位可能である。このため、調整層55をせん断方向に歪めたときの弾性率は、軟質材58の弾性率に近くなり、粒状材57の弾性率より小さい。すなわち、調整層55が厚み方向に圧縮されたときの弾性率は、調整層55がせん断方向に引っ張られたときの弾性率よりも大きい。
【0070】
図16は、曲げられた端子部40を示す断面図である。
図16に示すように、端子部40の右側が厚さ方向のスペーサ44側に(
図16の下向きに)押さえられ、端子部40が凸型に曲げられると、ベース層41とスペーサ44との張り合わせ部分にすべりが生じる。別の言い方をすると、端子部40が曲げられたとき、ベース層41と被覆層56との間で位置のずれが生じる。これにより、ベース層41および導電層42の中立面N1と、被覆層56の中立面N2とが生じる。
【0071】
ベース層41および導電層42の中立面N1の位置は、例えば端子部40の一方の面40aから10〜30μmだけ離れている。被覆層56の中立面N2の位置は、例えば端子部40の一方の面40aから240μmだけ離れている。
【0072】
導電層42が曲げられたときに長さが変化する量は、ベース層41および導電層42の中立面N1からの距離に従う。このため、第2の実施形態の導電層42の長さの変化量は、従来と比べ小さくなる。
【0073】
前記構成のFPC11によれば、調整層55は、ベース層41および被覆層56とともに曲げられたときに、被覆層56がベース層41に対してずれられるように被覆層56とベース層41との間に介在している。これにより、中立面N1が導電層42の近くに位置することになり、端子部40が曲げられたときの導電層42の長さの変化が抑制される。
【0074】
したがって、端子部40が曲げられた際に導電層42にかかる引張りおよび圧縮力が小さくなり、導電層42の損傷を抑制できる。
【0075】
調整層55は、複数の粒状材57と軟質材58とを有している。このため、調整層55は、端子部40の厚み方向に圧縮されたときの弾性率が、端子部40のせん断方向の弾性率よりも大きい。これにより、例えばコネクタ21のコンタクト部33によって端子部40が厚み方向に力をかけられたとしても、粒状材57がこの力を受け止める。したがって、端子部40が凹むことを防止できる。
【0076】
複数の粒状材57は、ベース層41と被覆層56とに当接している。これにより、端子部40が厚み方向に力をかけられたときに、粒状材57が効率良くこの力を受け止めることができる。
【0077】
被覆層56の表面は、調整層55の表面よりも滑らかである。これにより、端子部40をコネクタ21の挿入口32に挿入するときに、スペーサ44とコネクタ21との摩擦抵抗を低減でき、端子部40が座屈することを防止できる。
【0078】
複数の粒状材57の間の隙間にシリコーン接着剤58bを充填することで、軟質材58を形成するとともに、軟質材58によってベース層41にスペーサ44が貼り付けられる。これにより、アンカー効果が期待でき、スペーサ44を容易にベース層41に貼り付けることができる。
【0079】
次に、
図17を参照して、第3の実施の形態について説明する。
図17は、第3の実施の形態に係るFPC11の端子部40の曲げられた状態を示す断面図である。
図17に示すように、調整層55は、軟質材58と、複数の繊維61とを有している。なお、
図17では便宜上、複数の繊維61を太く且つ少なく示している。
【0080】
繊維61は、例えば金属繊維である。なお、繊維61はこれに限らず、炭素繊維、またはガラス繊維のような他の種類の繊維であっても良い。繊維61は、軟質材58よりも弾性率が大きい。
【0081】
複数の繊維61は、軟質材58に包含されている。なお、繊維61の一部が軟質材58から露出していても良い。軟質材58の弾性率が小さいため、繊維61は、被覆層56に沿う方向に僅かに変位可能である。
【0082】
複数の繊維61は、それぞれ略平行に並べられており、ベース層41に対して略垂直に交差する方向に向いている。繊維61は、それぞれベース層41の第2の面47と、被覆層56とに当接している。
【0083】
このような調整層55は、例えば繊維61より長い複数の繊維を包含したシリコーン樹脂のブロックを作成し、このブロックを板状に切り分けることで作られる。調整層55は、例えば接着剤によってベース層41の第2の面47に貼り付けられている。
【0084】
このような調整層55が端子部40の厚み方向に圧縮された場合、繊維61が圧縮力を受け止める。このため、調整層55が厚み方向に圧縮されたときの弾性率は、繊維61の弾性率に近い。
【0085】
また、調整層55が端子部40のせん断方向に引っ張られた場合、繊維61の間の隙間に充填された軟質材58が引っ張られる。さらに、繊維61は、被覆層56に沿う方向に僅かに変位可能である。このため、調整層55がせん断方向に引っ張られたときの弾性率は、軟質材58の弾性率に近くなり、繊維61の弾性率より小さい。
【0086】
図17に示すように、端子部40が厚さ方向のスペーサ44側に(
図17の下向きに)押さえられ、端子部40が凸型に曲げられると、ベース層41とスペーサ44との張り合わせ部分にすべりが生じる。これにより、第2の実施形態と同様に、ベース層41および導電層42の中立面N1と、被覆層56の中立面N2とが生じる。
【0087】
前記構成のFPC11によれば、調整層55は、軟質材58と複数の繊維61とを有している。このため、調整層55は、端子部40の厚み方向に圧縮されたときの弾性率が、端子部40のせん断方向の弾性率よりも大きい。これにより、例えばコネクタ21のコンタクト部33によって端子部40が厚み方向に力をかけられたとしても、繊維61がこの力を受け止める。したがって、端子部40が凹むことを防止できる。
【0088】
次に、
図18を参照して、第4の実施の形態について説明する。
図18は、第4の実施の形態に係るFPC11の端子部40の曲げられた状態を示す断面図である。
図18に示すように、調整層55は、軟質材58と、複数の繊維62とを有している。なお、
図18では便宜上、複数の繊維62を太く且つ少なく示している。
【0089】
繊維62は、例えば金属繊維である。なお、繊維62はこれに限らず、炭素繊維、またはガラス繊維のような他の種類の繊維であっても良い。繊維62は、軟質材58よりも弾性率が大きい。
【0090】
複数の繊維62は、軟質材58に包含されている。なお、繊維62の一部が軟質材58から露出していても良い。複数の繊維62は、それぞれ略平行に並べられており、端子部40の長手方向に沿う方向に向いている。言い換えると、複数の繊維62は、ベース層41の端部の長手方向に沿う方向に向いている。
【0091】
このような調整層55が端子部40の厚み方向に圧縮された場合、厚み方向に重なる複数の繊維62が圧縮力を受け止める。繊維の密度を高くすれば、圧縮によって凹み難くすることができる。
【0092】
一方、調整層55が端子部40を湾曲させる方向に曲げられた場合、上下の繊維62は、軟質材58を引っ張ってすべることができる。
【0093】
図18に示すように、端子部40の右側が厚さ方向のスペーサ44側に(
図18の下向きに)押されて凸型に曲げられると、ベース層41とスペーサ44との張り合わせ部分にすべりが生じる。これにより、第2の実施形態と同様に、ベース層41および導電層42の中立面N1と、被覆層56の中立面N2とが生じる。
【0094】
前記構成のFPC11によれば、調整層55は、軟質材58と複数の繊維62とを有している。このため、調整層55は、端子部40の厚み方向に圧縮されたときの弾性率が、端子部40のせん断方向の弾性率よりも大きい。これにより、例えばコネクタ21のコンタクト部33によって端子部40が厚み方向に力をかけられたとしても、繊維62がこの力を受け止める。したがって、端子部40が凹むことを防止できる。
【0095】
次に、
図19ないし
図22を参照して、第5の実施の形態について説明する。第5の実施形態は、FPC11の端子部40に誤挿入防止キーを張り合わせたタイプに応用する場合の実施例である。
【0096】
まず、説明のため、従来例について説明する。
図19はこのタイプの従来例である、フレキシブルケーブル1とコネクタ5とを示す斜視図である。
図20は凸型に曲げられた端子部1aの断面図である。
【0097】
この従来例のスペーサ6には、リブ6aが設けられている。リブ6aの部材には、フィラーで補強したPBTなどの硬質の樹脂を用いる。この部材は5GPa程度の弾性率を持っている。
【0098】
このタイプのフレキシブルケーブル1は、リブ6aの影響で端子部1aの中立面Nが大きくリブ6a側へ(
図20の下向きに)シフトしている。リブ6aの補強効果によって端子部1aが湾曲し難くなっているのだが、中立面Nが銅箔3から非常に遠い為、僅かな湾曲でも銅箔3は大きく引っ張られてしまい、断線し易い。
【0099】
図21は、第5の実施の形態に係るインクジェットヘッド10およびFPC11を示す斜視図である。
図22は、FPC11の端子部40の曲げられた状態を示す断面図である。
【0100】
図21に示すように、スペーサ44は、コの字型で、矩形の板状の基部65と、一対の補強部66とが一体に形成されている。スペーサ44は、例えばフィラーが配合されたPBTのような樹脂によって形成されている。スペーサ44の弾性率は、例えば5GPaである。
【0101】
スペーサ44の基部65は、例えば接着剤によってベース層41の第2の面47に取り付けられている。一対の補強部66は、それぞれ端子部40の側縁40cから突き出ている。補強部66は、端子部40のベース層41の端部の長手方向に沿う方向に延びている。
【0102】
コネクタ21の挿入口32は、従来例と同様に、スペーサ44の形状に対応している。
【0103】
すなわち、挿入口32は、コの字形状に形成されている。これにより、端子部40が間違った方向でコネクタ21の挿入口32に挿入されることが防がれる。
【0104】
図22に示すように、端子部40の右側が厚さ方向のスペーサ44側に(
図22の下向きに)押さえられ、凸型に曲げられると、長さが変化しない中立面Nを境に、凸状の補強部上面40d側では端子部40の長手方向に引き伸ばされて長さが伸び、凹状の他方の面40b側では端子部40の長手方向に圧縮されて長さが縮む。
【0105】
一対の補強部66が、導電層42が設けられた側に突出することで、端子部40の厚さ方向における中立面Nの位置は、従来例の逆方向に向いた補強部66が突出する方向に移動する。すなわち、中立面Nの位置は、従来例では銅箔3から離れる方向に移動したのに対し、本実施形態では導電層42に近づく方向に移動する。補強部66の大きさを調整すれば、例えば、中立面Nは、端子部40の一方の面40aと一致させることができる。
【0106】
導電層42が曲げられたときに長さが変化する量は、中立面Nからの距離に従う。このため、第5の実施形態の導電層42の長さの変化量は、ゼロ近くに調整できる。
【0107】
前記構成のFPC11によれば、補強部66が、導電層42が設けられた側に突出することで、端子部40の厚さ方向における中立面Nの位置は、補強部66が突出する方向に移動する。これにより、中立面Nの位置が導電層42に近づくように調整できる。したがって、端子部40が曲げられたときの導電層42の長さの変化が抑制でき、導電層42の損傷を抑制できる。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0109】
例えば、フレキシブルケーブルはFPCに限らす、フィルム基板、TCP,TAB、COF、カード電線、テープ電線、またはFFCのような他のフレキシブルケーブルであっても良い。また、導電層はエッチングによってパターン形成した銅箔に限らず、例えばリボン状の電線のような他の導電性部材であっても良い。さらに、フレキシブルケーブルはインクジェットヘッドに接続されるものに限らない。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]第1の面と、前記第1の面の反対側に位置する第2の面と、を有したベース層と、前記ベース層の第1の面に積層された導電層と、前記ベース層の端部において前記ベース層の第2の面に取り付けられた基部と、前記基部から前記導電層が設けられた側に突出するとともに前記ベース層の端部の長手方向に沿う方向に延びた補強部と、を有したスペーサと、を具備したことを特徴とするフレキシブルケーブル。