特許第5830596号(P5830596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5830596めっき皮膜付樹脂製品並びに樹脂製品及びめっき皮膜付樹脂製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5830596
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】めっき皮膜付樹脂製品並びに樹脂製品及びめっき皮膜付樹脂製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20151119BHJP
【FI】
   C23C18/20 Z
   C23C18/20 A
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-263304(P2014-263304)
(22)【出願日】2014年12月25日
【審査請求日】2015年5月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104629
【氏名又は名称】キヤノン・コンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】岩下 太輔
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−281766(JP,A)
【文献】 特開2007−231362(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/021005(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品の製造方法であって、
紫外線を前記樹脂製品に照射する照射工程と、
前記照射工程の後に、紫外線を照射せずに前記樹脂製品に気泡を当てる衝撃付与工程と、
を含むことを特徴とする、樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
前記気泡はマイクロバブルであることを特徴とする、請求項に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
めっき被膜が付与された樹脂製品の製造方法であって、
紫外線を樹脂製品に照射する照射工程と、
前記照射工程の後に、前記紫外線が照射された樹脂製品に圧力波を当てる衝撃付与工程と、
前記衝撃付与工程の後に、前記樹脂製品に触媒イオンを付与する付与工程と、
前記付与工程の後に、前記触媒イオンを無電解めっき触媒へと還元する還元工程と、
前記還元工程の後に、前記樹脂製品に対して無電解めっきを行うめっき工程と、
を含むことを特徴とする、樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記圧力波は超音波であることを特徴とする、請求項に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
前記衝撃付与工程がアルカリ処理液中で行われることを特徴とする、請求項1乃至4の何れか1項に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項6】
めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品の製造方法であって、
紫外線を前記樹脂製品に照射する照射工程と、
前記紫外線が照射された樹脂製品に衝撃を与える衝撃付与工程と、
を含み、
前記衝撃付与工程において、前記樹脂製品に圧力波又は気泡が当てられ、
前記衝撃付与工程が界面活性剤を含有する処理液中で行われることを特徴とする、樹脂製品の製造方法。
【請求項7】
めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品の製造方法であって、
紫外線を前記樹脂製品に照射する照射工程と、
前記紫外線が照射された樹脂製品に衝撃付与部材を接触させる衝撃付与工程と、
を含むことを特徴とする、樹脂製品の製造方法。
【請求項8】
前記照射工程において、酸素とオゾンとの少なくとも一方を含む雰囲気下で前記紫外線が照射されることを特徴とする、請求項1乃至の何れか1項に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項9】
前記紫外線の主波長は243nm以下であることを特徴とする、請求項1乃至の何れか1項に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項10】
前記照射工程においては前記樹脂製品の表面の一部に紫外線が照射され、前記樹脂製品は前記表面の一部に選択的にめっき皮膜が析出するように改質されることを特徴とする、請求項1乃至の何れか1項に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項11】
めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品の製造方法であって、
紫外線を前記樹脂製品に照射する照射工程と、
前記紫外線が照射された樹脂製品に衝撃を与える衝撃付与工程と、
を含み、
前記照射工程は、前記樹脂製品の表面の一部に紫外線レーザを照射する第1の照射工程と、前記樹脂製品の前記表面の一部を含む領域に紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線を照射する第2の照射工程と、を含み、前記樹脂製品は前記表面の一部に選択的にめっき皮膜が析出するように改質されることを特徴とする、樹脂製品の製造方法。
【請求項12】
請求項1、2、6、7又は11に記載の樹脂製品の製造方法に従って、めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品を製造する改質工程と、
前記改質された樹脂製品に対して無電解めっきを行うめっき工程と、
を含むことを特徴とする、めっき皮膜付樹脂製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき皮膜付樹脂製品並びに樹脂製品及びめっき皮膜付樹脂製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品上に設けられためっき皮膜を有するめっき皮膜付樹脂製品は、配線板又は導電膜等として有用である。また、めっき皮膜付樹脂製品の用途はこれらには限られず、例えば酸化亜鉛等のめっき皮膜が設けられためっき皮膜付樹脂製品は、UVカット材や光触媒等の機能膜として使用できる。
【0003】
特許文献1には、紫外線による表面改質を用いたプリント配線板の製造方法が記載されている。具体的には、まず、シクロオレフィンポリマー材表面の全体に紫外線ランプを照射することにより、無電解めっきを析出しやすくする。そして、アルカリ処理、コンディショニング処理、プレディップ処理、触媒付与処理、活性化処理、無電解銅めっき、加熱処理、及び電解銅めっきを順次行うことによりめっき皮膜が形成され、これがプリント配線板の材料として用いられる。得られためっき皮膜をフォトリソグラフィー工程とエッチング工程とを用いて所定のパターンを有するように加工することにより、シクロオレフィンポリマー材上に所定のパターンを有するめっき皮膜を設けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−094923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリ処理は、濃度50g/L程度の水酸化ナトリウム水溶液等の強アルカリ溶液を用いて行われる。このような強アルカリ溶液は取り扱いが容易ではないために複雑で注意深い操作が必要となるという課題があり、また強アルカリ溶液は環境負荷及び廃棄コストが高いという課題があった。また、強アルカリに対する耐性が低い樹脂製品に対してアルカリ処理を用いるめっき方法を適用することは容易ではなかった。一方で、本願発明者の検討によれば、アルカリ処理を省略するとめっき皮膜が均一に析出しないことがあり、また析出しためっき皮膜の樹脂製品に対する密着性が低下することが見出された。
【0006】
本発明は、簡易な方法で樹脂製品上にめっき皮膜を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するために、例えば、本発明の樹脂製品の製造方法は以下の構成を備える。すなわち、
めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品の製造方法であって、
紫外線を前記樹脂製品に照射する照射工程と、
前記照射工程の後に、紫外線を照射せずに前記樹脂製品に気泡を当てる衝撃付与工程と、
を含むことを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
簡易な方法で樹脂製品上にめっき皮膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るめっき皮膜付樹脂製品の製造方法を説明する図。
図2】一実施形態に係るめっき皮膜付樹脂製品の製造方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用できる実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る改質方法によれば、無電解めっきが析出するように樹脂製品の表面が改質される。この改質方法を用いることにより、めっき皮膜が析出するように表面が改質された樹脂製品を製造することができる。本実施形態に係る改質方法は、照射工程と、衝撃付与工程とを含んでいる。また、本実施形態に係るめっき皮膜付樹脂製品の製造方法は、本実施形態に係る改質方法を用いて樹脂製品の表面を改質する改質工程と、めっき工程と、を含んでいる。以下、これらの工程について、図1及び図2を参照して詳しく説明する。
【0012】
(照射工程)
照射工程(S210)においては、紫外線が樹脂製品の表面に照射される。例えば、図1(A)に示す樹脂製品110に対して紫外線180を照射すると、図1(B)に示すように、紫外線が照射された部位に改質部120が形成される。
【0013】
紫外線は、樹脂製品110の表面全体に照射されてもよく、樹脂製品110の表面の一部に照射されてもよい。例えば、樹脂製品110の表面の一部にめっき皮膜130を形成しようとする場合には、めっき皮膜130を形成しようとする部分に紫外線を照射することができる。具体的には、樹脂製品110の表面のうち紫外線が照射される部分の形状に対応する紫外線透過部を有するマスクを樹脂製品上に配置し、このマスクを介して紫外線を照射することにより、所望部分を選択的に改質することができる。こうして、めっき皮膜130を形成しようとする部分に選択的に無電解めっき皮膜が析出するように、樹脂製品110の表面の一部であるめっき皮膜130を形成しようとする部分に改質部120が形成される。
【0014】
紫外線の照射は、樹脂製品110の表面の改質が進行する条件下で行われる。例えば、一実施形態においては、酸素とオゾンとの少なくとも一方を含む雰囲気下で、樹脂製品110に対して紫外線が照射される。また、一実施形態においては、活性酸素の生成が促進されるように、243nm以下の波長の紫外線が照射される。一実施形態においては、活性酸素の生成がさらに促進されるように、主波長が243nm以下である紫外線が照射される。本明細書において、主波長とは、243nm以下の領域において最も強度が高い波長のことを指す。具体的には、低圧水銀ランプであれば主波長は185nmである。
【0015】
紫外線を照射すると、雰囲気中の酸素は分解されてオゾンが生成する。さらに、オゾンが分解する過程で活性酸素が発生する。また、樹脂製品110の表面において、樹脂製品110を構成する分子中の結合も切断される。このとき、樹脂製品110を構成する分子と活性酸素とが反応し、樹脂製品110の表面が酸化され、すなわち樹脂製品110の表面にC−O結合、C=O結合、C(=O)−O結合(カルボキシル基の骨格部分)等が形成される。このような親水性基は、樹脂製品110とめっき皮膜130との化学的吸着性を増大させる。また、樹脂製品110表面の酸化により脆化した部分が、例えば衝撃付与工程(S220)のような後の工程により脱落することにより、紫外線が照射された部分に微細な粗面が形成される。この粗面のために、投錨効果により樹脂製品110とめっき皮膜130との物理的吸着性が増大する。さらに、改質された部分については、無電解めっきを行う際に触媒イオンを選択的に吸着させることができる。
【0016】
特定波長のフォトンのエネルギーは次の式で表せる。
E=Nhc/λ(KJ・mol−1
N=6.022×1023mol−1(アボガドロ数)
h=6.626×10−37KJ・s(プランク定数)
c=2.988×10m・s−1(光速)
λ=光の波長(nm)
【0017】
ここで、酸素分子の結合エネルギーは490.4KJ・mol−1である。フォトンのエネルギーの式から、この結合エネルギーを光の波長へと換算すると約243nmとなる。このことは、雰囲気中の酸素分子は、波長243nm以下の紫外線を吸収し分解することを示している。これによりオゾンOが発生する。さらに、オゾンが分解する過程で活性酸素が発生する。このとき、波長310nm以下の紫外線が存在すると、効率よくオゾンが分解され、活性酸素が発生する。さらには、波長254nmの紫外線がオゾンを最も効率よく分解する。
+hν(243nm以下)→O(3P)+O(3P)
+O(3P)→O(オゾン)
+hν(310nm以下)→O+O(1D)(活性酸素)
O(3P):基底状態酸素原子
O(1D):励起酸素原子(活性酸素)
【0018】
このような紫外線は、継続的に紫外線を放射する紫外線ランプ又は紫外線LED等を用いて照射することができる。紫外線ランプの例としては、低圧水銀ランプ及びエキシマランプ等が挙げられる。低圧水銀ランプは、波長185nm及び254nmの紫外線を照射することができる。また、参考として、大気中で使用できるエキシマランプの例を以下に挙げる。エキシマランプとしては、一般的にはXeエキシマランプが用いられている。
Xeエキシマランプ :波長172nm
KrBrエキシマランプ:波長206nm
KrClエキシマランプ:波長222nm
【0019】
一方で、別の実施形態において、紫外線の樹脂製品110への照射は、例えばアンモニアのようなアミン化合物ガス雰囲気下又はアミド化合物ガス雰囲気下等の、他の気体雰囲気下で行うこともできる。アミン化合物ガス雰囲気下又はアミド化合物ガス雰囲気下で照射を行うことにより、樹脂製品110の表面を酸化する、すなわち樹脂製品110の表面に窒素原子を含む結合を生成することができる。すなわち、樹脂製品110の表面が窒素原子を含むように改質され、めっき層との吸着性が向上するため、照射部分に選択的なめっきを行うことが可能となる。加工対象物を、常圧大気中から隔離し、圧力を変え又は化合物ガスを封入して紫外線による改質を行う場合には、反応に適した波長を適宜選択することができる。一方で、酸素を含む大気中で243nm以下の波長を有する紫外線を照射することは、低コストに改質を行うことができる点で有利である。
【0020】
紫外線を樹脂製品110へと照射する際には、照射量が所望の値となるように、紫外線の照射条件が制御される。紫外線の照射量は、後述するめっき工程(S230)において改質部120にめっき皮膜130が析出するように、選択される。具体的には、紫外線の照射量は、照射時間、紫外線ランプの出力、本数、又は照射距離等を変えることにより制御することもできる。
【0021】
一実施形態において、より短い時間で十分にめっきを析出させる観点から、照射工程における紫外線の照射量は、主波長において400mJ/cm以上、1600mJ/cm以下である。例えば、主波長において紫外線の照射強度が1.35mW/cmである一実施形態において、紫外線の照射時間は、5分間以上、20分間以下である。また、紫外線の照射強度は、樹脂製品110の改質を促進するために、一実施形態においては0.1mW/cm以上であり、別の実施形態においては0.3mW/cm以上であり、さらなる実施形態においては1.0mW/cm以上である。一方で、樹脂製品110の表面が大きく粗面化されることを防ぐために、紫外線の照射強度は、一実施形態においては30mW/cm以下であり、別の実施形態においては5.0mW/cm以下であり、さらなる実施形態においては3.0mW/cm以下である。以下、特に断りがない限り、紫外線の照射量及び照射強度は主波長における樹脂製品110の表面上での値を指す。
【0022】
また、さらなる実施形態においては、樹脂製品110の表面の一部に第1の方法を用いて紫外線を照射(第1の照射)した後に、樹脂製品110の表面の一部を含む領域に第2の方法を用いて紫外線が照射(第2の照射)される。例えば、第1の方法においては強力な紫外線を照射することができ、第2の方法においては第1の方法よりも弱い紫外線を照射することができる。
【0023】
例えば、一実施形態においては、樹脂製品110の表面の一部に紫外線レーザを照射(第1の照射)した後に、樹脂製品110の表面の一部を含む領域に紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線が照射(第2の照射)される。具体的な例としては、まず、樹脂製品110の表面のめっき皮膜130を形成しようとする部分に紫外線レーザが照射される。次に、樹脂製品110の表面のめっき皮膜130を形成しようとする部分を含む領域に、紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線が照射される。紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線は、めっき皮膜130を析出させようとする部分を包含するより広い領域に対して照射されてもよく、例えば樹脂製品110の全体に対して照射されてもよい。一方で、紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線は、樹脂製品110の表面のめっき皮膜130を形成しようとする部分に選択的に照射されてもよい。このような方法によっても、紫外線レーザが照射された表面の一部に選択的にめっき皮膜130が析出するように、樹脂製品110の表面の一部である紫外線レーザが照射された部分に改質部120を形成することができる。
【0024】
この方法は、直進性が高いレーザを用いて選択的な照射を行うために、得られるめっき皮膜130の形状を精密に制御できるために有利である。また、レーザを用いる場合にはランプを用いる場合と比較して樹脂製品110の温度が上昇しにくい。このために、フォトマスクを介してランプからの紫外線を照射する場合に生じる可能性がある、フォトマスクと樹脂製品110との熱膨張係数の相違による紫外線照射位置のずれを抑制することができる。
【0025】
一方で、樹脂製品110の表面に紫外線レーザ等の大きいエネルギー密度を有する紫外線を照射しただけでは、紫外線を照射した部分にめっきが析出しないことがある。紫外線レーザを照射することにより樹脂製品110の表面は改質されるが、紫外線レーザにはアブレーション効果があり、改質層が除去される。このために、ある一定以上の改質量は得られず、めっきが析出する程度に十分な改質が行われない可能性がある。アブレーションとは、材料の表面が蒸発することにより除去される現象のことをいう。酸素原子を樹脂製品110に導入しやすい紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線を用いることにより、めっき皮膜130が樹脂製品110上に析出するように、めっき皮膜130を形成しようとする部分をより強く改質することができる。
【0026】
一実施形態において、活性酸素の生成が促進されるように、紫外線レーザの波長は243nm以下である。同様に、一実施形態において、活性酸素の生成が促進されるように、紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線の波長も243nm以下である。
【0027】
この場合、後述するめっき工程(S230)において紫外線レーザと紫外線ランプ又は紫外線LEDとの双方によって改質されている部分にめっき皮膜130が析出するように、紫外線の照射量が調整される。その一方で、紫外線ランプのみが照射されている部分にはめっき皮膜130は析出しないように、紫外線の照射量が調整される。レーザが照射されている部分は、既に改質が進行しているため、例えば紫外線ランプ又は紫外線LED等からの紫外線を短時間照射することなどによる弱い改質処理によりめっき皮膜130が析出するように改質される。一方で、レーザが照射されていない部分は、追加で行う弱い改質処理のみではあまり改質が進行しない、めっき皮膜130が析出しない。したがって、樹脂製品110の全体に対して一様に改質処理を行う場合であっても、後述するめっき工程(S230)において、レーザが照射されている改質部120に選択的にめっき皮膜130を析出させることができる。
【0028】
樹脂製品110の表面が大きく粗面化されることを防ぐために、照射される紫外線レーザの照射強度は、一実施形態においては1.0×1015W/cm以下である。また、樹脂製品110の表面の改質を促進するために、照射される紫外線レーザの照射強度は、一実施形態においては1.0×10W/cm以上である。また、1パルスあたりの紫外線レーザの照射強度は、一実施形態においては10mJ/cm以上であり、一実施形態においては10000mJ/cm以下である。同様の目的で、紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線の照射強度は、一実施形態においては0.1mW/cm以上であり、別の実施形態においては0.3mW/cm以上であり、さらなる実施形態においては1.0mW/cm以上である。一方で、一実施形態においては30mW/cm以下であり、別の実施形態においては5.0mW/cm以下であり、さらなる実施形態においては3.0mW/cm以下である。
【0029】
めっきの析出条件は、めっき液の種類、樹脂製品110の種類、樹脂製品110表面の汚染度、めっき液の濃度、温度、pH、及び経時劣化、紫外線ランプの出力の変動、並びに紫外線レーザのフォーカスずれ等により変化しうる。したがって、めっき皮膜130を形成しようとする部分にのみ選択的にめっきが析出するように、紫外線の照射量を決定すればよい。
【0030】
別の実施形態においては、樹脂製品110の表面の一部にエキシマランプからの紫外線を照射(第1の照射)した後に、樹脂製品110の表面の一部を含む領域に紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線が照射(第2の照射)される。例えば、フォトマスクを介してエキシマランプからの紫外線を短時間照射した後に、エキシマランプからの紫外線が照射された部分を含む領域にフォトマスクを介さずに紫外線ランプ又は紫外線LEDからの紫外線を照射することができる。こうして、エキシマランプからの紫外線が照射された部分にめっき皮膜130が析出するように、樹脂製品110の表面を改質することができる。エキシマランプは、樹脂製品110の表面を短時間で改質できるが、一部の化学的吸着基が生成しにくいという特性を有している。したがって、このような実施形態によれば、フォトマスクと樹脂製品110との熱膨張係数の相違による紫外線照射位置のずれを抑制することができる。例えば、一実施形態において、上述のエキシマランプとしては波長172nmを有するXeエキシマランプが使用され、上述の紫外線ランプとしては波長185nmと254nmを有する低圧水銀ランプが用いられる。
【0031】
本実施形態において用いられる樹脂製品110は、紫外線により改質可能な樹脂材料で表面が形成されているのであれば特に限定されない。樹脂材料の例としては、シクロオレフィンポリマー若しくはポリスチレンのようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル、ポリ塩化ビニルのようなポリビニル、ポリカーボネート、又はポリイミド等が挙げられる。ポリカーボネート又はポリイミドのようなアルカリ耐性が低い樹脂材料を用いる場合、強アルカリを用いてアルカリ処理を行うと、材料がダメージを受けてしまう可能性がある。また、アルカリ耐性が低い樹脂材料を用いる場合、強アルカリを用いてアルカリ処理を行うと、紫外線が照射されていない部分も損傷を受け、めっき皮膜130が析出しやすくなる可能性がある。一方で、後述するように本実施形態においては強アルカリを用いる必要はないので、アルカリ耐性が低い樹脂材料にも応用可能であるとともに、所望の部分に選択的にめっき皮膜130を析出させることができる。
【0032】
樹脂製品110の形状も特に限定されない。例えば、樹脂製品110はフィルム状であってもよいし、板状であってもよい。さらに、樹脂製品110の厚さも特に限定されない。また、樹脂製品110が樹脂のみで構成されている必要はない。すなわち、一実施形態において、樹脂製品110は、他の材料の表面に樹脂材料を被覆して得られる被覆構造を有する複合材料である。複合材料の具体的な例としては、金属材料の表面が樹脂材料で被覆されたものが挙げられる。
【0033】
一実施形態において、樹脂製品110は平滑な表面を有する。樹脂製品110がより平滑な表面を有することにより、より均一なめっき皮膜130がめっきにより形成される。このような平滑なめっき皮膜130を導線として用いると、高周波信号の損失を抑えることができる。本実施形態のように紫外線を用いて樹脂製品110の表面を改質する方法によれば、樹脂製品110の表面にはナノメートルオーダーの微細な凹凸が形成される。一実施形態において、無電解めっきを行う直前における改質部120の表面粗さは、10nm以下である。また、一実施形態に係るめっき皮膜付樹脂製品100において、樹脂製品110とめっき皮膜130との界面における樹脂製品110表面の表面粗さは、10nm以下である。このように形成される凹凸は、例えばより高強度の可視レーザを樹脂製品表面に照射して得られる、又はクロム酸等で処理することにより形成されるマイクロメートルオーダーの凹凸よりも格段に小さく、表面の平滑性が高いことが期待される。本明細書において、表面粗さは、JIS B0601:2001により定義される算術平均粗さRaのことを指す。
【0034】
(衝撃付与工程)
衝撃付与工程(S220)においては、図1(C)に示すように、紫外線が照射された樹脂製品110に衝撃190が与えられる。樹脂製品110に衝撃を与えることにより、改質部120にめっき皮膜130が析出しやすくなる。その理由としては、紫外線の照射により脆化した改質部120の表面が脱落することにより微細な粗面が形成されることが考えられる。この微細な粗面のために、投錨効果により改質部120とめっき皮膜130との物理的吸着性が増大するものと推定される。一実施形態においては改質部120に対して直接衝撃が与えられる。しかしながら、改質部120にめっき皮膜130が析出しやすくなるのであれば、樹脂製品110を介して改質部120にも衝撃が与えられるように、改質部120以外の部分に直接衝撃を与えてもよい。
【0035】
樹脂製品110に与えられる衝撃の種類は、めっき皮膜130が析出しやすくなるのであれば特に限定されない。一実施形態においては、衝撃として物理的衝撃が与えられる。物理的衝撃の例としては、機械的衝撃が挙げられる。機械的衝撃の例としては、樹脂製品110に圧力波を当てること、又は樹脂製品110に衝撃付与体を接触させることが挙げられる。衝撃付与体の例としては、気泡又は衝撃付与部材が挙げられる。以下に、これらの衝撃について詳しく説明する。
【0036】
一実施形態においては、樹脂製品110に対して圧力波を当てる圧力波処理が行われる。圧力波の例としては音波が挙げられる。一実施形態においては、めっき皮膜130がより析出しやすくなるように、超音波を樹脂製品110に対して照射する超音波処理が行われる。圧力波は、任意の媒体中の樹脂製品110に対して照射することができる。例えば、超音波照射器を用いて、水中又は水溶液中の樹脂製品110に対して超音波を照射することができる。
【0037】
圧力波の照射時間は、めっき皮膜130が析出しやすくなるのであれば特に限定されない。めっき皮膜130が析出しやすくなるように、一実施形態においては圧力波の照射時間は2分間以上である。また、めっき皮膜130と樹脂製品110との密着性が向上するように、圧力波の照射時間は、一実施形態においては5分間以上であり、さらなる実施形態においては10分間以上である。照射時間に特に上限はなく、例えば60分以下であってもよい。
【0038】
一実施形態においては、樹脂製品110に気泡を接触させる気泡処理が行われる。気泡の種類は特に限定されないが、一実施形態においては均一な処理を行うためにマイクロバブルを用いたマイクロバブル処理が用いられる。マイクロバブルには、圧壊時に衝撃波を生じるという特性があるため、マイクロバブル処理を用いることにより大きい衝撃を与えられることが期待される。マイクロバブルとは、直径が1μm以上1000μm以下程度の気泡のことを指す。均一な処理を行うために、マイクロバブルの直径は一実施形態においては300μm以下であり、さらなる実施形態においては100μm以下である。一方で、衝撃を大きくして処理効率を向上させるために、マイクロバブルの直径は一実施形態においては3μm以上であり、さらなる実施形態においては10μm以上である。
【0039】
気泡は、通常の気泡発生装置を用いて発生させることができる。例えばマイクロバブルは、通常のマイクロバブル発生装置を用いて発生させることができる。気泡処理は、液体中に浸漬された樹脂製品110に対して気泡が当たるように位置が調整された気泡発生装置を用いることで、液体中で行うことができる。液体の種類は特に限定されず、例えば水又は水溶液でありうる。気泡の種類は特に限定されず、例えば空気、酸素又は窒素を用いることができる。また、紫外線が照射された部分をさらに改質することを期待して、オゾンの気泡を用いることもできる。
【0040】
気泡処理の時間は、めっき皮膜130が析出しやすくなるのであれば特に限定されない。めっき皮膜130が析出しやすくなるように、一実施形態においては気泡処理の時間は0.5分間以上である。また、めっき皮膜130と樹脂製品110との密着性が向上するように、気泡処理の時間は、一実施形態においては1分間以上であり、さらなる実施形態においては2分間以上である。気泡処理の時間に特に上限はなく、例えば60分以下であってもよい。
【0041】
一実施形態においては、樹脂製品110に対して衝撃付与部材が接触させられる。衝撃付与部材の接触によって、紫外線が照射された部分に衝撃が与えられる。例えば、衝撃付与部材を用いて樹脂製品110の改質部120を摩擦することにより、樹脂製品110の紫外線が照射された部分に摩擦力を加えることができる。また、樹脂製品110の改質部120に衝撃付与部材を投射することにより、樹脂製品110の紫外線が照射された部分に圧縮力を加えることができる。さらには、樹脂製品110の改質部120に衝撃付与部材を付着させてから取り除くことにより、樹脂製品110の紫外線が照射された部分に引張力を加えることができる。具体的な実施形態の例としては、改質部120をブラシでこするブラシ処理、及び改質部120にテープを貼り付けてからテープをはがすテープ処理等が挙げられる。
【0042】
一実施形態においては、衝撃付与処理は、めっき皮膜130の析出を促進する媒体中で行われる。例えば、圧力波処理又は気泡処理は、めっき皮膜130の析出を促進する処理液中で行うことができる。このような処理液を用いることにより、めっき皮膜130の析出がより促進されるため、衝撃付与処理の時間を短くすることができる。また、めっき皮膜130と樹脂製品110との密着性を向上させることができる。このように、処理液中で衝撃付与処理を行う方法は、ポリイミド等の機械的強度が高いために衝撃付与処理により凹凸を形成しにくい樹脂製品110に対して特に有効である。
【0043】
一実施形態において、衝撃付与処理はアルカリ処理液中で行われる。アルカリ処理液中で衝撃付与処理、特に圧力波処理又は気泡処理を行うことにより、めっき皮膜130の析出が促進される。アルカリ処理液の組成は特に限定されないが、一実施形態においては、取り扱いが容易なpH13未満のアルカリ処理液が用いられ、さらなる実施形態においてはpH12.5未満のアルカリ処理液が用いられる。このように、衝撃付与処理において、濃度50g/L程度の水酸化ナトリウム水溶液のような強アルカリを用いることは必須ではない。
【0044】
一実施形態において、衝撃付与処理は界面活性剤を含有する処理液中で行われる。界面活性剤の種類は特に限定されない。界面活性剤を含有する処理液中で衝撃付与処理、特に圧力波処理又は気泡処理を行うことにより、めっき皮膜130の析出が促進される。さらなる実施形態においては、界面活性剤を含有するアルカリ性の処理液中で衝撃付与処理が行われる。このような界面活性剤を含有するアルカリ性の処理液としては、無電解めっきで用いられるコンディショナ液が挙げられる。衝撃付与処理をコンディショナ液中で行う(超音波コンディショナ処理を行う)場合、後述するめっき工程(S230)においてコンディショナ処理を省略することにより、処理工程を減らすことができる。
【0045】
(めっき工程)
めっき工程(S230)においては、改質された樹脂製品110に対して無電解めっきが行われる。その結果、図1(D)に示されるように、改質工程(S210)及び衝撃付与工程(S220)により生じた樹脂製品110の表面の改質部120に、めっき皮膜130が形成される。こうして、めっき皮膜付樹脂製品100が製造される。改質工程(S210)及び衝撃付与工程(S220)においては、所望の改質部120にめっき皮膜130が析出するように選択的な改質が行われている。したがって、例えば樹脂製品110の全体をめっき液に浸漬した場合であっても、所望の改質部120に選択的にめっき皮膜130が析出する。また、所望の部分に隣接する部分にはめっき皮膜は析出しない。従って、めっき皮膜130の形成後にフォトリソグラフィー及びエッチング等の方法でめっき皮膜をパターニングすることは必須ではない。
【0046】
一実施形態においては、無電解めっき法によりめっき皮膜130が形成される。具体的な無電解めっき法については、特に限定されない。採用可能な無電解めっき法の例としては、ホルマリン系無電解めっき浴を用いた無電解めっき法、及び析出速度は遅いが取り扱いが容易な次亜リン酸を還元剤として用いた無電解めっき法が挙げられる。無電解めっき法のさらなる具体例としては、無電解ニッケルめっき、無電解銅めっき、無電解銅ニッケルめっき、無電解酸化亜鉛めっき等があげられる。形成されるめっき皮膜130は一実施形態においては金属皮膜であり、酸化亜鉛めっき皮膜のようなセラミックス皮膜であってもよい。上述のように樹脂製品110を改質することにより、改質部120と析出しためっき皮膜130との密着性が向上する。
【0047】
一実施形態において、無電解めっきは以下の方法で行うことができる。
1.(コンディショナ処理)樹脂製品110と触媒イオンとのバインダーを含有する溶液に樹脂製品110を浸漬する。バインダーの例としては、カチオンポリマー等が挙げられる。
2.(アクチベーター処理)樹脂製品110を触媒イオン入りの溶液に浸漬する。触媒イオンの例としては、塩酸酸性パラジウム錯体のようなパラジウム錯体等が挙げられる。
3.(アクセレレーター処理)還元剤を含有する溶液に樹脂製品110を浸漬し、触媒イオンを還元及び析出させる。還元剤の例としては、水素ガス、ジメチルアミンボラン及び水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。
4.(無電解めっき処理)析出した触媒上にめっき皮膜130を析出させる。
【0048】
このような方法に従う無電解めっきは、例えばJCU社製Cu−Niめっき液セット「AISL」等の無電解めっき液セットを用いて行うことができる。
【0049】
別の実施形態においては、触媒イオンとして、改質部120に付着しやすい、少なくとも一部に正電荷を有するパラジウム錯体が用いられる。改質部120への付着性が向上するように、一実施形態においては、溶液中で正電荷を有しているパラジウム錯体イオンを含む溶液が用いられる。少なくとも一部に正電荷を有するパラジウム錯体の一例としては、アミン系の配位子が配位結合している錯体が挙げられる。また、少なくとも一部に正電荷を有するパラジウム錯体の別の例としてはパラジウムの塩基性アミノ酸錯体が挙げられる。
【0050】
この場合、一部に正電荷を有するパラジウム錯体は、樹脂製品110の改質部に直接付着するため、樹脂製品110をバインダー溶液に浸漬することにより、樹脂製品110と触媒イオンとの親和性を高めることは必須ではない。また、バインダーは紫外線を照射していない部分に残りやすいため、意図しない部分にめっき皮膜が析出してしまう場合がある。よって、触媒イオンとして、少なくとも一部に正電荷を有するパラジウム錯体を用いることは、選択的にめっき皮膜130が析出しやすい点で有利である。すなわち、このような触媒を用いる場合、めっき皮膜130を設けない部分に意図せずめっき皮膜130が析出することを抑えられる。
【0051】
別の実施形態においては、高速無電解めっき法によりめっき皮膜130を形成してもよい。高速無電解めっき法によれば、より厚いめっき膜を形成することができる。さらなる実施形態においては、無電解めっきにより形成されためっき皮膜130上に、さらに電解めっき法を用いてめっきを析出させる。この方法によれば、さらに厚いめっき皮膜130を形成することができる。電解めっきの具体的な方法は、特に限定されない。
【0052】
得られるめっき皮膜130の厚さについて、特段の制限はない。得られるめっき皮膜付樹脂製品100の用途に応じて、適切な厚さのめっき皮膜130が形成される。
【0053】
こうして得られためっき皮膜付樹脂製品100は、紫外線照射及び衝撃付与によって改質された改質部120を有する樹脂製品110と、改質部120上(改質部上)に形成されためっき皮膜130と、を有している。こうして得られためっき皮膜付樹脂製品100は、配線板、導電膜、UVカット材、又は光触媒のような各種の用途に使用できる。
【0054】
本実施形態のように、衝撃付与工程を用いる本実施形態においては、強アルカリを用いたアルカリ処理を行うことは必須ではない。このため、より簡易な方法でめっき皮膜付樹脂製品100を作製することができる。また、強アルカリを用いたアルカリ処理を行うことが必須ではない本実施形態は、アルカリ耐性の低い樹脂製品110にも適用することができる。一実施形態においては、照射工程(S210)からめっき工程(S230)までの間、すなわち紫外線を照射することにより改質部120を形成してからめっき皮膜130が形成されるまでの間に、pH13以上のアルカリ液を用いたアルカリ処理は行われない。
【実施例】
【0055】
[実施例1−1]
基板としては、樹脂材料であるシクロオレフィンポリマー材(日本ゼオン株式会社製,ゼオノアフィルムZF−16,膜厚100μm,表面粗さRa=0.47nm)を用いた。
【0056】
まず、表面改質を行う前に、基板表面の洗浄を目的として、基板を50℃の純水で3分間超音波洗浄し、乾燥させた。
【0057】
次に、大気中で、基板上に載置した石英クロムマスクを介して、基板の一部に紫外線ランプからの紫外線を照射した。本実施例で用いた紫外線ランプ(低圧水銀ランプ)の詳細について以下に示す。紫外線を照射した後の基板の表面粗さRaは0.26nmであった。
低圧水銀ランプ:サムコ社製UV−300(主波長185nm,254nm)
照射距離:3.5cm
照射時間:10分間
照射距離3.5cmにおける照度:5.40mW/cm(254nm)
1.35mW/cm(185nm)
【0058】
次に、紫外線が照射された基板に対して超音波処理を行った。具体的には、超音波洗浄機(シャープ社製,UT−206H,周波数37kHz,出力100%)を用いて、50℃の純水中で基板を5分間処理した。
【0059】
次に、基板に対してバインダー付与処理を行った。具体的には、JCU社製めっき液セット「AISL」で用いられるコンディショナ液を50℃に加熱して基板を2分間浸漬した。その後、基板を純水中で洗浄した。
【0060】
次に、基板に対して触媒付与処理を行った。具体的には、JCU社製めっき液セット「AISL」で用いられるアクチベーター液を50℃に加熱して基板を2分間浸漬した。その後、基板を純水中で洗浄した。
【0061】
次に、基板に対して還元処理を行った。具体的には、JCU社製めっき液セット「AISL」で用いられるアクセレレーター液を50℃に加熱して基板を2分間浸漬した。その後、基板を純水中で洗浄した。
【0062】
次に、基板に対して無電解銅−ニッケルめっきを行った。具体的には、JCU社製めっき液セット「AISL」で用いられる無電解Cu−Niめっき液を60℃に加熱して基板を5分間浸漬した。その後、基板を純水中で洗浄し、乾燥させた。こうして、めっき皮膜付樹脂製品が作製された。
【0063】
得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0064】
[実施例1−2,1−3]
実施例1−2においては超音波処理を8分間、実施例1−3においては超音波処理を10分間行ったことを除き、実施例1−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0065】
[比較例1]
超音波処理を行わなかったことを除き、実施例1−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された領域の周縁部にはめっき皮膜が析出していたが、照射領域の中央部にはめっき皮膜が析出していなかった。
【0066】
実施例1−1〜1−3及び比較例1で作製されためっき皮膜付樹脂製品について、めっき皮膜の基板に対する密着性を評価した。密着性の評価には、JIS H 8504:1996に従うテープ試験方法を用いた。比較例1で作製されためっき皮膜付樹脂製品に対してテープの貼り付け及び引きはがしを行ったところ、めっき皮膜は容易に脱落した。実施例1−1及び1−2で作製されためっき皮膜付樹脂製品に対してテープの貼り付け及び引きはがしを行ったところ、部分的なめっき皮膜の脱落が観察された。一方で、実施例1−3で作製されためっき皮膜付樹脂製品に対してテープの貼り付け及び引きはがしを行ったところ、めっき皮膜の脱落は観察されなかった。このように、超音波処理を行うことにより紫外線が照射された箇所に十分にめっきを析出させることが可能であること、及び超音波処理時間を増加させることによりめっき皮膜の基板に対する密着性が向上することが確認された。
【0067】
[実施例2−1]
超音波処理の代わりにマイクロバブル処理を行ったことを除き、実施例1−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。マイクロバブル処理においては、マイクロバブル発生装置(関西オートメ機器社製,MBLL−11−102VS)から発生したマイクロバブルが基板に当たるように基板を常温の純水中に浸漬した。こうして、基板をマイクロパブルで1分間処理した。
【0068】
得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0069】
[実施例2−2,2−3,2−4]
実施例2−2においてマイクロバブル処理を2分間、実施例2−3においてはマイクロバブル処理を10分間、実施例2−4においてはマイクロバブル処理を20分間行ったことを除き、実施例2−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0070】
実施例2−1〜2−4で作製されためっき皮膜付樹脂製品について、JIS H 8504:1996に従うテープ試験方法を用いてめっき皮膜の基板に対する密着性を評価した。実施例2−1〜2−4で作製されためっき皮膜付樹脂製品の全てについて、テープの貼り付け及び引きはがしを行っても、めっき皮膜の脱落は観察されなかった。このように、マイクロバブル処理を行うことにより紫外線が照射された箇所に密着強度の高いめっきを十分に析出させることが可能であることが確認された。
【0071】
[実施例3]
超音波処理の代わりにテープ処理を行ったことを除き、実施例1−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。テープ処理においては、基板の紫外線が照射された部位にテープを貼り付け、その後に貼り付けられたテープを引きはがした。
【0072】
得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0073】
[実施例4−1]
超音波処理及びコンディショナ処理を行う代わりに、超音波コンディショナ処理を行ったことを除き、実施例1−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。超音波コンディショナ処理においては、超音波洗浄機(シャープ社製,UT−206H,周波数37kHz,出力100%)を用いて、50℃に加熱されたJCU社製めっき液セット「AISL」で用いられるコンディショナ液中で、基板を2分間処理した。その後、基板を純水中で洗浄した。
【0074】
得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0075】
[実施例4−2,4−3]
実施例4−2においては超音波コンディショナ処理を5分間、実施例4−3においては超音波コンディショナ処理を10分間行ったことを除き、実施例4−1と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0076】
実施例4−1〜4−3で作製されためっき皮膜付樹脂製品について、JIS H 8504:1996に従うテープ試験方法を用いてめっき皮膜の基板に対する密着性を評価した。実施例4−1で作製されためっき皮膜付樹脂製品に対してテープの貼り付け及び引きはがしを行ったところ、めっき皮膜の脱落が観察された。実施例4−2で作製されためっき皮膜付樹脂製品に対してテープの貼り付け及び引きはがしを行ったところ、わずかなめっき皮膜の脱落が観察された。実施例4−3で作製されためっき皮膜付樹脂製品については、テープの貼り付け及び引きはがしを行っても、めっき皮膜の脱落は観察されなかった。このように、超音波コンディショナ処理を行うことにより紫外線が照射された箇所に十分にめっきを析出させることが可能であること、及び超音波コンディショナ処理時間を増加させることによりめっき皮膜の基板に対する密着性が向上することが確認された。さらに、実施例1−1と実施例4−2との比較により、超音波コンディショナ処理を行った場合には、超音波処理とコンディショナ処理とを別個に行った場合よりも、めっき皮膜の基板に対する密着性が向上することがわかる。
【0077】
[実施例5−1]
基板としてシクロオレフィンポリマー材の代わりにポリイミド材(三菱ガス化学社製,ネオプリムL−3430)を用いたことを除き、実施例4−3と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。
【0078】
得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所には一様にめっき皮膜が析出しており、紫外線が照射されていない箇所にはめっき皮膜は析出していなかった。
【0079】
実施例5で作製されためっき皮膜付樹脂製品について、JIS H 8504:1996に従うテープ試験方法を用いてめっき皮膜の基板に対する密着性を評価した。実施例5で作製されためっき皮膜付樹脂製品については、テープの貼り付け及び引きはがしを行っても、めっき皮膜の脱落は観察されなかった。
【0080】
[実施例5−2]
基板としてシクロオレフィンポリマー材の代わりにポリイミド材(三菱ガス化学社製,ネオプリムL−3430)を用いたことを除き、実施例1−3と同様にめっき皮膜付樹脂製品を作製した。
【0081】
得られためっき皮膜付樹脂製品を観察したところ、紫外線が照射された箇所にめっき皮膜が析出する傾向は見られたが、基板とめっき皮膜との密着性が低く、めっき皮膜が基板から剥離している箇所が散見された。
【0082】
実施例5と比較例2との比較から、超音波コンディショナ処理を用いると、超音波処理とコンディショナ処理とを別個に行う場合と比較して、基板とめっき皮膜との密着性が向上することがわかる。また、超音波コンディショナ処理はポリイミドにめっきを行う場合に適していることがわかる。
【符号の説明】
【0083】
100 めっき皮膜付樹脂製品
110 樹脂製品
120 改質部
130 めっき皮膜
180 紫外線
190 衝撃
S210 照射工程
S220 衝撃付与工程
S230 めっき工程
【要約】
【課題】簡易な方法で樹脂製品上にめっき皮膜を形成する。
【解決手段】めっき皮膜130が析出するように表面が改質された樹脂製品110の製造方法。紫外線を樹脂製品110に照射する。紫外線が照射された樹脂製品110に衝撃を与える。
【選択図】図1
図1
図2