特許第5830612号(P5830612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5830612
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】回転霧化式静電塗装装置のベルカップ
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/04 20060101AFI20151119BHJP
   B05B 3/10 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   B05B5/04 A
   B05B3/10 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-539665(P2014-539665)
(86)(22)【出願日】2013年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2013075465
(87)【国際公開番号】WO2014054438
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2014年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-219084(P2012-219084)
(32)【優先日】2012年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三友 裕之
(72)【発明者】
【氏名】倉田 達樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 資良
(72)【発明者】
【氏名】酒井 翔
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 浩一
(72)【発明者】
【氏名】志澤 一之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 英夫
【審査官】 大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第4876111(US,A)
【文献】 特許第3266531(JP,B2)
【文献】 特開昭55−034130(JP,A)
【文献】 特開昭57−174170(JP,A)
【文献】 特開2000−202328(JP,A)
【文献】 特開平10−052657(JP,A)
【文献】 特開2002−224593(JP,A)
【文献】 特開昭62−216670(JP,A)
【文献】 米国特許第2764712(US,A)
【文献】 米国特許第5934574(US,A)
【文献】 英国特許出願公告第887450(GB,A)
【文献】 米国特許第4985283(US,A)
【文献】 仏国特許出願公開第2887472(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/04
B05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転霧化式静電塗装の回転軸に装着され、その内面の塗料拡散面に塗料が供給されるベルカップにおいて、
前記塗料拡散面のベルカップ基端側の端部から中央部までの第1範囲は、前記回転軸に向かう凸状の曲面で構成され、
前記中央部からベルカップ先端縁までの第2範囲は、前記回転軸に向かう凹状の曲面で構成され、
前記第1範囲の凸状の曲面は、前記回転軸を含む任意平面の断面において、前記ベルカップの回転により塗料液膜に作用する遠心力の法線成分が実質的に等しくなる曲面で構成されている回転霧化式静電塗装装置のベルカップ。
【請求項2】
回転霧化式静電塗装の回転軸に装着され、その内面の塗料拡散面に塗料が供給されるベルカップにおいて、
前記塗料拡散面のベルカップ基端側の端部から中央部までの第1範囲は、前記回転軸に向かう凸状の曲面で構成され、
前記中央部からベルカップ先端縁までの第2範囲は、前記回転軸に向かう凹状の曲面で構成され、
前記第2範囲の凹状の曲面は、前記回転軸を含む任意平面の断面において、前記ベルカップの回転により塗料液膜に作用する遠心力の接線成分が実質的に等しくなる曲面で構成されている回転霧化式静電塗装装置のベルカップ。
【請求項3】
回転霧化式静電塗装の回転軸に装着され、その内面の塗料拡散面に塗料が供給されるベルカップにおいて、
前記塗料拡散面のベルカップ基端側の端部から中央部までの第1範囲は、前記回転軸に向かう凸状の曲面で構成され、
前記中央部からベルカップ先端縁までの第2範囲は、前記回転軸に向かう凹状の曲面で構成され、
前記第1範囲の凸状の曲面は、前記回転軸を含む任意平面の断面において、前記ベルカップの回転により塗料液膜に作用する遠心力の法線成分が実質的に等しくなる曲面で構成され、
前記第2範囲の凹状の曲面は、前記回転軸を含む任意平面の断面において、前記ベルカップの回転により塗料液膜に作用する遠心力の接線成分が実質的に等しくなる曲面で構成されている回転霧化式静電塗装装置のベルカップ。
【請求項4】
前記回転軸を含む任意平面の断面において、前記第1範囲と前記第2範囲との境界点は、前記凸状の曲線と前記凹状の曲線との変曲点で構成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転霧化式静電塗装装置のベルカップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転霧化式静電塗装装置のベルカップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装工程の中塗り塗装や上塗り塗装に用いられる回転霧化式静電塗装装置として、ベルカップ内面の塗料拡散面の少なくとも一部を当該ベルカップの回転軸に向かって凸状の曲面で構成し、これにより塗料の微粒化を促進して塗着効率を高めたものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3557802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術のベルカップによれば塗料の平均粒径は小さくなるものの、粒径分布の標準偏差が大きく、メタリック塗料を大吐出量・広パターンで塗装する際に光輝性顔料の配向性が低下するという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、塗料の微粒化を促進して、平均粒径を小さくすると同時に粒径分布の標準偏差を小さくできる回転霧化式静電塗装のベルカップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベルカップの塗料拡散面の基端側を回転軸に向かう凸状曲面で構成し、先端側を回転軸に向かう凹状曲面で構成することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
塗料が供給されるベルカップの基端側では、塗料拡散面の塗料液膜が厚く、ベルカップの回転による慣性力が支配的である一方で、塗料が放出するベルカップの先端側では、塗料拡散面の塗料液膜が薄く、塗料の粘性力が支配的である。
【0008】
本発明ではこの知見に基づいて、ベルカップの基端側の塗料拡散面を、塗料液膜を塗料拡散面に押し付ける力を均等にできる凸状曲面で構成するので、塗料液膜を均一に拡散させることができる。一方、ベルカップの先端側の塗料拡散面を、塗料液膜を塗料拡散面に沿って放出する力を均等にできる凹状曲面で構成するので、塗料液膜を均一に拡散させることができる。
【0009】
これにより、塗料拡散面に螺旋流やフィンがリングといった流動パターンが生じるのを抑制することができ、ベルカップの先端縁の全周にわたって均一な量の塗料が放出されることになる。その結果、噴霧塗粒の平均粒径を小さくすることができると同時に、粒径分布の標準偏差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係るベルカップを適用した回転霧化式静電塗装装置の先端部を示す断面図である。
図2図1のベルカップを拡大して示す断面図である。
図3図2のベルカップの塗料拡散面をさらに拡大して示す図である。
図4】メタリック塗装の光輝材の配向性を均一にするための方法を説明する図である。
図5】実験室レベルで観察したベルカップ内面の液膜状態を示す図である。
図6】ベルカップ内面にできる液膜模様の現象モデルを示す図である。
図7】実施例1、比較例1及び比較例2のベルカップの内面形状を示す図である。
図8】回転霧化式静電塗装装置に装着したベルカップ内面の液膜状態を示す図である。
図9】回転霧化式静電塗装装置に装着したベルカップ内面の液膜状態を示す図である。
図10】回転霧化式静電塗装装置に装着したベルカップ内面の液膜状態を示す図である。
図11】水系塗料と有機溶剤系塗料によるベルカップ内面の液膜状態を示す図である。
図12】実施例1及び比較例1,2のベルカップの回転数に対する微粒化の平均粒径を示すグラフである。
図13】実施例1及び比較例1,2のベルカップの回転数に対する微粒化の平均粒径を示すグラフである。
図14】実施例1及び比較例1,2のベルカップの回転数に対する微粒化の平均粒径を示すグラフである。
図15】実施例1及び比較例1,2の粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るベルカップ11(霧化頭又は噴霧頭とも称されるが本明細書ではベルカップという。)を適用した回転霧化式静電塗装装置1の先端部を示す断面図であり、最初に図1を参照して回転霧化式静電塗装装置1の一例を説明する。なお、本発明のベルカップは、以下に説明する回転霧化式静電塗装装置1の構造にのみ限定されず、その他の構造の回転霧化式静電塗装装置にも適用することができる。
【0012】
同図に示す回転霧化式静電塗装装置1(以下、静電塗装装置又は単に塗装装置1ともいう)は、電気絶縁性材料から形成されたハウジング12内に設けられたエアーモータ13によって回転する中空シャフト14を有し、この中空シャフト14の先端には、塗料を噴霧するベルカップ11がねじ締結などにより固定され、中空シャフト14とともに回転駆動する。また、中空シャフト14の中心孔には、塗料供給装置15から供給される塗料や洗浄シンナーをベルカップ11に供給する非回転の中空フィードチューブ16が配置され、ベルカップ11の背面外周はハウジング12の先端によって覆われている。
【0013】
静電塗装装置1は、高圧電源17からの印加によって帯電した塗料粒子を、被塗物との間に形成された静電界に沿って飛行させて当該被塗物に塗着させるものである。被塗物は、図1の右側に所定のガン距離を隔てて存在し、塗装台車や塗装ハンガを介して接地されている。高圧印加方式としては、図1に示すように高圧電源17をハウジング12内に設け、導電性材料で構成された中空シャフト14を介して、同じく導電性材料で構成されたベルカップ11に印加する内部印加型を採用することができる。またこれに代えて、ベルカップ11を電気絶縁性材料で構成した場合は、高圧電源が接続された放電電極をベルカップ11の周囲に設け、ベルカップ11から飛び出した塗粒に印加する外部印加型の静電塗装装置も採用することができる。
【0014】
また静電塗装装置1は、ベルカップ11の背面側からシェーピングエアーと称される空気流をエアー吐出口18から吐出し、ベルカップ11で微粒化された塗料粒子を、ベルカップ11の前方に位置する被塗物に向かう方向に偏向させる。このため、ハウジング12の一部に、エアー供給装置19に接続されたエアー通路20が形成されるとともに、ハウジング12の先端に当該エアー通路20が連通する環状のエアー通路21が形成されている。そして、環状のエアー通路21に連通するエアー吐出口18が、ハウジング12の先端円周面に沿って所定間隔で複数個形成されている。このエアー吐出口18から吹き出されるシェーピングエアーの流量や吹き出し角度を調節することにより、ベルカップ11の先端から接線方向に飛び出した塗料粒子の飛行方向、すなわち塗装パターンを制御することができる。また、塗料粒子には上述した静電界による力以外にも、このシェーピングエアーによる運動量が与えられることになる。なお、図1に示すシェーピングエアーのエアー吹出口18は環状に一列設けたが、シェーピングエアーの吹き出し角度を調整するために複数列設けてもよい。
【0015】
フィードチューブ16の先端は、中空シャフト14の先端から露出し、ベルカップ11の内部に向けて延在している。このフィードチューブ16には、塗料供給装置15から塗料又は洗浄シンナーが供給され、その先端からベルカップ11の塗料拡散面111へ供給される。なお、洗浄シンナーは、ベルカップ11の塗料拡散面111及び後述するハブ22を洗浄するための洗浄液(有機溶剤系塗料の場合には有機溶剤、水系塗料の場合は水)であり、本例の塗装装置1を、色替え操作を必要とする上塗り塗装工程や中塗り塗装工程に適用した場合に、塗料の色替え時の洗浄用として供給されるものである。したがって、色替え操作が不要な塗装工程、たとえば単一種の中塗り塗料のみを塗装する中塗り塗装工程などにあっては、塗料のみがフィードチューブ16に供給されることもある。色替え操作は、塗料供給装置15に含まれる図示しないカラーチェンジバルブなどの色替弁ユニットにより行われる。
【0016】
ベルカップ11は、略カップ形状をなし、本例では金属などの導電性材料から形成され、カップ状の内面の塗料拡散面111、カップ状の外面112と、内面の先端に位置する塗料が放出される先端縁113とを有する。またベルカップ11の基端側の中央であって、フィードチューブ16の先端には、ハブ22が取り付けられている。このハブ22は、金属などの導電性材料でも電気絶縁性材料でも構成することができる。ハブ22は、中空シャフト14の先端又はベルカップ11の基端に装着して、中空シャフト14やベルカップ11とともに回転するように構成してもよいし、フィードチューブ16の先端に装着して非回転に構成してもよい。また、ベルカップ11を電気絶縁性材料で構成することもできる。
【0017】
また、ベルカップ11が正面視において円形であることから、ハブ22も正面視において円形とされている。そして、ハブ22の外周部には所定間隔をもって複数の塗料吐出孔23が形成され、フィードチューブ16の先端から供給された塗料又は洗浄シンナーは、ハブ22の塗料吐出孔23を通過してベルカップ11の塗料拡散面111へ導かれ、先端縁113の全周から飛散することになる。
【0018】
次に、本例のベルカップ11の塗料拡散面111の構成について説明する。
図2は、図1に示すベルカップ11の拡大断面図であり、本例のベルカップ11は、中空シャフト14の回転軸CL廻りに回転対称とされた塗料拡散面111を有する。この塗料拡散面111は、ベルカップ11の内面の基端側、具体的には塗料吐出孔23の位置を始点117とし、ベルカップ11の内面の先端縁113の位置を終点とする連続した曲面で構成されている。なお、これら始点および終点なる用語は、フィードチューブ16からの塗料の流動方向に沿って表現した趣旨であり、塗料拡散面111の両端が、塗料吐出孔23の位置117とベルカップ11の内面の先端縁113とで定義される意味である。
【0019】
特に本例の塗料拡散面111は、塗料吐出孔23に対応する始点117から中央部の変曲点116(塗料拡散面111の三次元座標でみると複数の変曲点が円周方向に集合した変曲線)までの第1範囲114は、回転軸CLに向かう凸状の曲面で構成される一方で、変曲点116からベルカップ11の先端縁113までの第2範囲115は、回転軸CLに向かう凹状の曲面で構成されている。図3は、本例の塗料拡散面111をさらに拡大した図である。
【0020】
より具体的には、第1範囲114の凸状の曲面は、中空シャフト14の回転軸CLを含む任意平面の断面において、ベルカップ11の回転により塗料液膜に作用する遠心力Fの法線成分Fが実質的に等しくなる曲面で構成されている。つまり、図3に示すように、第1範囲114の凸状の曲面においては、任意の点P,P,P…のぞれぞれの遠心力をFC1,FC2,FC3…としたときに、当該点P,P,P…のぞれぞれの遠心力FC1,FC2,FC3…は、回転軸CLからの水平距離をr、角速度をω、塗料の質量をmとしたときに、F=mrωであるから、始点117の遠心力が最も小さく、変曲点116に近づけば近づくほどその遠心力が大きくなる。そして、その各遠心力の法線成分FN1,FN2,FN3…がFN1=FN2=FN3…となるよう、第1範囲114の凸状曲面が構成されている。
【0021】
つまり、始点117の遠心力が最も小さく、変曲点116の遠心力が最も大きくなるので、それぞれの遠心力の法線成分が等しくなるには、始点117における塗料拡散面111の接線が回転軸CLに対して平行に近く、変曲点116に近づけば近づくほど塗料拡散面111の接線の回転軸CLに対する角度が大きくなるような凸状曲面とすればよい。
【0022】
ここで遠心力の法線成分FN1=FN2=FN3…の条件は厳密な意味ではなく、ベルカップ11の機械加工精度(たとえば±5%)を含めて実質的にFN1=FN2=FN3となる趣旨である。第1範囲114の凸状曲面の具体的一般関数としては、たとえば回転軸CLをY軸、塗料吐出孔23に対応する始点117を含むベルカップ11の半径方向をX軸、a,b,cを定数とした場合に、y=alog(x+b)+cで表される対数関数を挙げることができる。
【0023】
また第2範囲115の凹状の曲面は、中空シャフト14の回転軸CLを含む任意平面の断面において、ベルカップ11の回転により塗料液膜に作用する遠心力の接線成分が実質的に等しくなる曲面で構成されている。つまり、図3に示すように、第2範囲115の凹状の曲面においては、任意の点P,P,P…のぞれぞれの遠心力をFC4,FC5,FC6…としたときに、当該点P,P,P…のぞれぞれの遠心力FC4,FC5,FC6は、回転軸CLからの水平距離をr、角速度をω、塗料の質量をmとしたときに、F=mrωであるから、変曲点116の遠心力が最も小さく、先端縁113に近づけば近づくほどその遠心力が大きくなる。そして、その遠心力の接線成分FT4,FT5,FT6…がFT4=FT5=FT6…となるよう、第2範囲115の凹状曲面が構成されている。
【0024】
つまり、変曲点116の遠心力が最も小さく、先端縁113の遠心力が最も大きくなるので、それぞれの遠心力の接線成分が等しくなるには、変曲点116における塗料拡散面111の接線が回転軸CLに対して最も角度を有し、先端縁113に近づけば近づくほど塗料拡散面111の接線の回転軸CLに対する角度が小さくなるような凹状曲面とすればよい。
【0025】
ここで遠心力の接線成分FT4=FT5=FT6…の条件は厳密な意味ではなく、ベルカップ11の機械加工精度(たとえば±5%)を含めて実質的にFT4=FT5=FT6となる趣旨である。第2範囲115の凹状曲面の具体的一般関数としては、たとえば回転軸CLをY軸、塗料吐出孔23に対応する始点117を含むベルカップ11の半径方向をX軸、α,β,γを定数とした場合に、y=α(e+β)+γで表される指数関数や、y=α(x+β)+γで表される二次関数を挙げることができる。
【0026】
また本例のベルカップ11の塗料拡散面111は、回転軸CLを含む任意平面の断面において、第1範囲114と第2範囲115との境界点116は、凸状曲面と凹状曲面とが滑らかに連続する曲面であればよいが、当該断面における凸状の曲線と凹状の曲線との変曲点で構成されることがより望ましい。この場合に、境界点116を含む前後の面が平面(つまり断面でいうと直線)であってもよい。変曲点116は、塗料の性質によって最適な位置が設定される。
【0027】
次に、作用を説明する。
被塗物に塗料を塗装する場合、エアーモータ13によって中空シャフト14およびベルカップ11を高速回転させる。塗料は、フィードチューブ16を通ってベルカップ11の基端部とハブ22との間に供給される。ここに供給された塗料は、ベルカップ11の回転による遠心力により、環状に形成された複数の塗料吐出孔23から塗料拡散面111の始点117に至り、当該塗料拡散面111に沿って薄く引伸ばされながら先端縁113に向かい、この先端縁113から霧状に微粒化されて放出される。放出されようとする塗料粒子は、遠心力によって径方向外方に飛び出そうとするが、環状に設けられた複数のエアー吐出口18から噴出されるシェーピングエアーによって、放出された塗料粒子は、前方に向けて絞り込まれるように所望の塗装パターンにコントロールないし整形され、被塗物に向けて運ばれることになる。同時に、高圧電源17により高電圧が印加されたベルカップ11により塗料粒子は帯電するので、アースに接続された被塗物に向けて飛行し、クーロン力によって効率よく被塗物の表面に付着することになる。
【0028】
さて、回転霧化式静電塗装方法において、塗装パターンを大きくするとともに吐出量を大きくすると(以下、大吐出量・広パターンともいう)、塗装パターンを小さくした場合に比べて塗装時間が短縮される。すなわち、狭パターンで塗装する場合には2往復の塗装作業が必要な部位を、広パターンで塗装すれば1往復で足りるからである。ただし、所定の膜厚を確保するために狭パターンで塗装する場合に比べて大吐出量とする必要がある。
【0029】
一方、塗装品質の中で最も難易度が高いのは、メタリック塗装における光輝材の配向であるといわれており、所望の色味を再現するには光輝材の配向を均一にしなければならない。光輝材の配向が不均一であると部位によって色味が異なるといった品質不良が発生し、また再現性が悪いと被塗物によって色味が異なるといった品質不良が発生するからである。光輝材の配向を均一にするための方法としては、図4に示すように、A)塗粒の飛行速度を上げて被塗物に叩き付け光輝材を配向させるハードパターン法と、B)塗粒一粒に光輝材一粒を存在させる程度に塗粒径を小さくして被塗物に塗粒を均一に塗着させ配向させるソフトパターン法とがある。ハードパターン法では、シェーピングエアーの流量を上げることで塗粒の飛行速度を上げることが行われる。
【0030】
図4の下図に示すように、いずれも目的とするメタリック感の特性値が合格レベルに達し、メタリック塗装における光輝材の配向を均一にする有効な塗装方法であるが、上述したように塗装工程の短縮化を図るために塗装パターンを広パターンにするには、シェーピングエアーの流量を小さくしなければならない。このため、上記A)のハードパターン法を採用すると塗粒の飛行速度を上げることが困難になるため、上記B)のソフトパターン法が光輝材の配向を均一にするための前提条件となる。すなわち、大吐出量・広パターンの塗装を行ってメタリック塗装における光輝材の配向を均一にするためには塗粒径を小さくする、すなわち、微粒化を促進する必要がある。
【0031】
塗料の微粒化はベルカップの周速度、すなわちカップ径と回転数に起因し、周速度が大きいほど微粒化が促進されることは知られているが、カップ径を大きくし過ぎると狭い部位を塗装する際に塗着ロスが生じるので一定の限界がある。また、回転数を上げるにしてもエアーモータの能力や耐久性に一定の限界がある。このため本発明者らは、ベルカップの周速度以外の、微粒化径の促進に強く寄与する要因を鋭意検討すべく、ベルカップの内面の塗膜形状メカニズムを解明するとともにこれを制御する技術を完成させるに至った。以下、本例のベルカップ11の作用を含めて説明する。
【0032】
まず実験室レベルで確認するために、内面形状が異なる複数のベルカップ11を用意し、図5に示すようにベルカップ11を種々の回転数で回転させながらその内面の中心に材質及び粘度などの性質が一定の塗料を種々の量で連続して滴下し、その液膜の拡散状態を高速度カメラで撮影した。その結果、同図の左上に示す液膜のパターンが現れなかったもの、右上に示す螺旋流が現れたもの、右下に示す多重の螺旋流が現れたもの、左下に示す多重の螺旋流に加えてフィンガリング(指状)パターンが現れたものがあり、ベルカップの回転数および塗料の吐出量に加えてベルカップ11の内面形状も液膜の拡散状態の不安定性を促進させる一要因であることが確認された。
【0033】
そこで、図6に示すようにベルカップ11の内面にできる液膜模様の現象モデルを考えた。同図に示すように、ベルカップ11の中心に連続的に滴下された塗料は、ベルカップ11の回転による遠心力によって内面を拡散しつつベルエッジに到達するが、このとき液膜には、回転による遠心力と、ベルカップ11の内面との間の粘性力と、液膜に生じる表面張力と、液膜にかかる重力とが作用する。このうち、遠心力は、図5に示す液膜の拡散状態の不安定性を促進するが、その他の粘性力、表面張力及び重力は拡散状態の不安定性を抑制する方向に作用する。
【0034】
そして、遠心力(慣性力)が与えられた液膜は、境界層δの割合が大きいほど粘性力の影響を強く受けることになり、その結果、液膜の拡散状態の不安定性が抑制されることになる。すなわち、境界層δの割合が小さいベルカップ11の中心付近では、遠心力の影響が大きいので拡散状態の不安定性を促進するが、境界層δの割合が小さくなるベルエッジに近い範囲では粘性力の影響が強くなって拡散状態の不安定性を抑制することになる。したがって、ベルカップ11の中心付近では滴下された塗料の液膜を極力すばやく薄膜にするとともに、薄膜になった状態では粘性力がより大きく作用するような内面形状とすることが理論的に望ましいといえる。
【0035】
上述した知見に基づき、ベルカップ11の内面形状の最適化を図るために、従来のように内面全体が回転軸に向かう凹状曲面の比較例1(特許文献1の図6の構造に相当する)と、内面全体が回転軸に向かう凸状曲面の比較例2(特許文献1の図1の構造に相当する)と、内面の基端側の端部から中央部までの第1範囲は回転軸に向かう凸状の曲面で構成され、中央部からベルカップ先端縁までの第2範囲は回転軸に向かう凹状の曲面で構成された実施例1とを用意し、図1に示すような実際の回転霧化式静電塗装装置1にこれらを装着し、塗料拡散面111における液膜の拡散状態について観察した。ベルカップ径はφ70mmに統一した。図7に回転軸CLの右側の塗料拡散面の表面形状を示す。なお、実施例1と比較例1,2との液膜の拡散状態を比較する場合は、内面形状以外の塗装条件、塗料の性質(材質や粘度等)、吐出量、ベルカップ径、回転数は全て同じ条件に統一した。
【0036】
図8は、塗料の吐出量を100cc/min,回転数を1000rpmとしたときの塗料拡散面における液膜の拡散状態を高速度カメラで撮影したものである。比較例1の凹状曲面のベルカップでは、半径方向にスジ状の液膜パターンが観察され、ベルエッジから放出される塗粒径が大きくばらつくのが理解できる。また比較例2の凸状曲面のベルカップでは、比較例1のようなスジ状の液膜パターンは観察されないがフィンガリング状(又はひだ状)の液膜パターンが観察され、これについてもベルエッジから放出される塗粒径がばらつくのが理解できる。これに対して、実施例1の凸状曲面及び凹状曲面のベルカップでは、スジ状の液膜パターンは観察されず、また比較例2のフィンガリング状又はひだ状の液膜パターンも抑制されていることが観察される。
【0037】
図9は、塗料の吐出量を200cc/minに上げるとともに、回転数を10000rpmに上げたときの塗料拡散面における液膜の拡散状態を高速度カメラで撮影したものである。比較例1の凹状曲面のベルカップでは、半径方向にスジ状の液膜パターンが観察され、図8に示す比較例1よりも小さくはなっているものの、未だベルエッジから放出される塗粒径が大きくばらつくのが理解できる。また比較例2の凸状曲面のベルカップでは、比較例1のようなスジ状の液膜パターンは観察されないが未だフィンガリング状(又はひだ状)の液膜パターンが観察され、これについてもベルエッジから放出される塗粒径がばらつくのが理解できる。これに対して、実施例1の凸状曲面及び凹状曲面のベルカップでは、スジ状の液膜パターンは観察されず、また比較例2のフィンガリング状又はひだ状の液膜パターンも極めて良好に抑制されていることが観察される。
【0038】
図10は、塗料の吐出量をさらに400cc/minに上げるとともに、回転数を30000rpmに上げたときの塗料拡散面における液膜の拡散状態を高速度カメラで撮影したものであり、実施例1と実施例2の写真である。比較例1の写真は省略する。両者ともに回転数が30000rpmに増加したことで液膜パターンは抑制されているが、実施例1と比較例2とを比較する限り、実施例1の液膜パターンの方が均一に拡散しているといえる。
【0039】
図11は、塗料の吐出量を200cc/min、回転数を10000rpmに設定し、実施例1は塗料として水系塗料を用い、実施例2は有機溶剤系塗料を用いた場合の液膜の拡散状態を高速度カメラで撮影したものである。実施例1及び2ともに、有意差なく液膜パターンが均一に拡散していることが観察される。
【0040】
図12〜14は、上記実施例1及び比較例1,2のベルカップの回転数に対する微粒化の平均粒径を示すグラフであり、図12は塗料の吐出量を100cc/min、図13は塗料の吐出量を200cc/min、図14は塗料の吐出量を400cc/minに設定したものである。いずれの吐出量においても回転数が同じであれば実施例1のベルカップによる平均粒径は、比較例1,2のベルカップによる平均粒径より小さくなることが確認された。
【0041】
図15は、上記実施例1及び比較例1,2の粒径分布を示すグラフであり、塗料の吐出量を100cc/min、回転数を3000rpmに設定した場合の数値である。この例によると、実施例1の平均粒径は33.2μm、その標準偏差は10.6であるのに対し、比較例1の平均粒径は56.1μm、その標準偏差は37.9、比較例2の平均粒径は37.5μm、その標準偏差は12.3であった。この結果から、特に比較例2に比べ、実施例1の平均粒径が小さくなると同時に標準偏差も小さくなることが確認された。
【0042】
以上により、塗料が供給されるベルカップ11の基端側では、塗料拡散面111の塗料液膜が厚く、ベルカップ11の回転による遠心力(慣性力)が支配的である一方で、塗料が放出するベルカップ11の先端側では、塗料拡散面111の塗料液膜が薄く、塗料の粘性力が支配的である。本例のベルカップ11は、この知見に基づいて、ベルカップ11の基端側の塗料拡散面111を、塗料液膜を塗料拡散面111に押し付ける力Fを均等にできる凸状曲面で構成するので、塗料液膜を均一に拡散させることができる。一方、ベルカップ11の先端側の塗料拡散面111を、塗料液膜を塗料拡散面に沿って放出する力Fを均等にできる凹状曲面で構成するので、塗料液膜を均一に拡散させることができる。
【0043】
これにより、塗料拡散面111に螺旋流、スジ、フィンがリングといった流動パターンが生じるのを抑制することができ、ベルカップ11の先端縁の全周にわたって均一な量の塗料が放出されることになる。その結果、噴霧塗粒の平均粒径を小さくすることができると同時に、粒径分布の標準偏差を小さくすることができる。
【0044】
噴霧塗粒の平均粒径を小さくすると同時に粒径分布の標準偏差を小さくすることにより、特にメタリック塗料を大吐出量・広パターンで塗装することが可能となり、光輝材の配向性を維持乃至は高めつつ、塗装工程を短縮することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…回転霧化式静電塗装装置
11…ベルカップ
111…塗料拡散面
112…外面
113…先端縁(塗料拡散面の終点)
114…凸状曲面(第1範囲)
115…凹状曲面(第2範囲)
116…変曲点
117…塗料拡散面の始点
12…ハウジング
13…エアーモータ
14…中空シャフト
15…塗料供給装置
16…フィードチューブ
17…高圧電源
18…エアー吐出口
19…エアー供給装置
20,21…エアー通路
22…ハブ
23…塗料吐出孔
CL…回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図15