(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
[高分子電解質膜]
高分子電解質膜は、電界紡糸法により形成されたナノファイバのマトリックス構造を有するシート形状の多孔質芯材(以下、単にナノファイバシートともいう)と、多孔質芯材に含浸させた高分子電解質と、を具備する。ナノファイバシートでは、ナノファイバは、イオン伝導性ポリマーを含み、400nm以下の平均繊維径を有する。
【0018】
(ナノファイバシート)
高分子電解質膜の多孔質芯材などとして使用されるナノファイバ不織布は、従来、電界紡糸法などにより、基材上にナノファイバを堆積させることにより作製される。しかし、電界紡糸法により作製されるナノファイバ不織布は、通常、プロトン伝導性を有さない。
【0019】
プロトン伝導性を有するナノファイバ不織布を多孔質芯材として用いることができれば、高分子電解質膜のプロトン伝導性をさらに高めることができるとともに、電気抵抗を低減できると考えられる。電界紡糸法では、原料のポリマー溶液を、繊維状に延伸する際に、ポリマー溶液の電荷密度を高める必要がある。しかし、プロトン伝導性ポリマーなどのイオン伝導性ポリマーの溶液を用いた場合には、電荷密度を高めることが難しく、繊維径が小さく、均一なナノファイバを得ることが極めて難しいことがわかった。
【0020】
本発明者は、電界紡糸の際に、原料となるポリマー溶液を放出するノズルの材料を工夫すると、イオン伝導性ポリマーを原料として用いる場合に、繊維径が小さく、均一なナノファイバが得られることを見出した。
【0021】
本発明では、イオン伝導性ポリマーを含むにも拘わらず、繊維径が小さく、繊維径のばらつきが小さいナノファイバのマトリックス構造を有するシート形状のナノファイバシートが得られる。このようなナノファイバシートを、高分子電解質膜の多孔質芯材として用いると、多孔質芯材自体が、イオン伝導性を有するため、イオン伝導性の低下を抑制できるとともに、電気抵抗を低減することができる。また、高分子電解質膜の電気抵抗を低減できることにより、燃料電池の内部抵抗を抑制できるので、電圧の低下を抑制でき、発電効率を高めることができる。
【0022】
高分子電解質膜に使用される高分子電解質は、ポリマー分子に、スルホン酸基などのプロトン伝導性の官能基を有し、この官能基を伝ってプロトンが移動するため、高いプロトン伝導性を示す。このような高分子電解質を含浸させる多孔質基材としては、一般に、不織布が使用される。ところが、一般的な不織布は、比較的長いポリマー鎖が不規則に絡まり合って形成されているため、高分子電解質を含浸させた場合に、プロトン伝導性の官能基の分布が不規則となり、安定なプロトンの移動ルートを確保するのが難しい。
【0023】
本発明では、多孔質芯材として使用するナノファイバシートが、電界紡糸法により形成されるナノファイバのマトリックス構造を有し、ナノファイバの平均繊維径が400nm以下である。つまり、ナノファイバの繊維径が、ポリマー分子レベルに小さい。そのため、含浸させる高分子電解質の分子が、繊維の長手方向に沿って並びやすくなり、結果として、高分子電解質の分子が有するイオン伝導性の官能基も配列し易くなる。
【0024】
さらに、このナノファイバのマトリックスに含浸させた高分子電解質溶液が固化するときに、近傍にこのように配列した分子が存在すると、その影響を受けて溶液中の高分子電解質も配列しやすくなる。これにより、高分子電解質膜の内部にプロトンが移動するバイパスが形成されることになり、プロトンをスムーズに移動させることができるので、発電性能をさらに向上させることができる。
【0025】
また、一般に、電界紡糸法では、ポリマーを含む原料液の電荷密度を高める際に、ノズルなどの電界紡糸機構を構成する部材に高い電圧が印加される。高い電圧が印加された部材は、印加された電圧が、その曲率半径、材質、表面粗さなどにより決定される閾値以上であると、イオン風と呼ばれる帯電した空気を噴出する。
【0026】
イオン風が発生すると、紡糸空間にナノファイバと同極の電荷が多く存在することとなるため、ナノファイバの生成が阻害されることに加え、ナノファイバの堆積によりナノファイバシートを形成する際に、イオン風によりナノファイバがはじかれ、ナノファイバが適正位置に堆積せずに、ナノファイバの分布にムラが生じ、均一なナノファイバシートが得られない。
【0027】
イオン伝導性ポリマーを含む原料液を用いた場合には、原料液から生成途中のナノファイバを伝って電荷が逃げることに加え、逃げた電荷がナノファイバの側面からイオン風となって放出されるため、紡糸性が極めて低くなると考えられる。
【0028】
それに対し、本発明では、電界紡糸のノズルを、臨界表面張力38mN/m以上の材料で形成する。そのため、部材表面に現われた電荷を、イオン風として飛散させることを抑制でき、イオン風の発生を減少させることができる。これにより、紡糸空間のイオン風を減少させることができ、また、イオン風に消費されていた分の電荷を、原料液に集めることができるため、イオン伝導性ポリマーを用いるにも拘わらず、紡糸性を劇的に向上でき、繊維品質を大幅に向上できる。また、イオン風の発生を減少できることにより、ナノファイバシートにおけるナノファイバの分布のムラを抑制できるとともに、電荷がイオン風に無駄に消費されることが抑制されるため、原料液の帯電に電力を有効利用できる。
【0029】
なお、このような効果を得るには、ノズルを上記のような臨界表面張力の材料で形成するのが効果的であるが、ノズル以外にも、高い電圧が印加される電界紡糸機構を構成する部材を、上記の同様の臨界表面張力38mN/m以上の材料で形成したり、前記部材の全面または一部の表面を、このような材料でカバーしたりすることによっても、同様の効果を得ることができる。このような高い電圧が印加される部材としては、例えば、ノズルを保持するための支持体、ノズルとの間に電圧を印加するための対電極、対電極の支持体、ノズルおよび/または対電極に接続される電圧配線などが例示できる。対電極や電圧配線などは、上記の材料でカバーするのが好ましく、支持体については、上記の材料で形成してもよく、カバーしてもよい。これらの部材またはそのカバーを上記材料で形成すれば、ノズルを上記材料で形成しなくても、本発明の効果を得ることができるが、少なくともノズルを上記材料で形成するのが好ましい。
【0030】
一般的な繊維の不織布は、空隙率が高いため、ピンホールが発生しやすくなる。しかし、本発明では、マトリックス構造がナノファイバで形成されているために、ピンホールの発生を効果的に防止できる。また、ナノファイバシートは、高い空隙率を有するため、空隙に多くの高分子電解質を保持することができる。そのため、プロトン伝導性を高めるのに有利である。
【0031】
「ナノファイバ」とは、ポリマーなどの高分子物質からなる繊維径が50〜800nmの糸状物質を言う。
本発明において、ナノファイバシートにおけるナノファイバの平均繊維径は、400nm以下、好ましくは350nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。また、ナノファイバの平均繊維径は、例えば、60nm以上、好ましくは75nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。これらの上限値と下限値とは、適宜選択して組み合わせることができる。平均繊維径は、例えば、60〜350nmまたは100〜400nmであってもよい。
【0032】
なお、ナノファイバの平均繊維径は、ナノファイバシートの厚さ方向の断面において、任意に選択した複数本(例えば、10本)のナノファイバの繊維径(繊維断面における最大径)の平均値を意味する。
【0033】
ナノファイバシートの平均の空隙率は、例えば、50〜95%、好ましくは60〜92%、さらに好ましくは70〜90%である。
【0034】
ナノファイバシートは、ナノファイバのマトリックス構造を有しており、通常、不織布の形態である。すなわち、ナノファイバシートのマトリックス構造において、ナノファイバ同士は、接点において、互いに接着した状態であってもよく、接着することなく分離していてもよい。ナノファイバ同士は、マトリックス構造中、ランダムに接着していてもよい。
【0035】
また、必要に応じて、ナノファイバのマトリックス構造に、ポリマーなどのバインダーを含む溶液を含浸や塗布などにより適用し、あるいは、ナノファイバの原料に含ませて、ナノファイバ同士を、バインダーで接着させてもよい。
電界紡糸法において、ナノファイバは、ポリマー溶液を紡糸することにより形成される。そのため、ナノファイバ同士の接着は、ナノファイバ同士の溶着であってもよい。
【0036】
ポリマー溶液を用いた電界紡糸では、溶媒が完全に揮発せずに溶媒に膨潤した状態のナノファイバを堆積させると、接点において、溶媒の作用により、ナノファイバ同士が相溶し、溶媒が揮発した後は、ナノファイバ同士が溶着した状態となる。
【0037】
ナノファイバは、イオン伝導性ポリマーを含む。イオン伝導性ポリマーとしては、カチオン伝導性やアニオン伝導性の各種ポリマーが例示でき、例えば、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂などのイオン交換樹脂が使用される。イオン交換樹脂は、イオン交換基の種類に応じて、弱酸性カチオン交換樹脂、強酸性カチオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂などに分類される。
【0038】
カチオン交換樹脂のイオン交換基としては、カルボキシル基などの弱酸基;スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの強酸基などが例示できる。アニオン交換樹脂のイオン交換基としては、4級アンモニウム塩基などの強塩基性基;1級、2級または3級アミノ基を有する弱塩基性基などが例示できる。
イオン交換樹脂は、例えば、イオン交換基を有する単量体の単独又は共重合体の他、樹脂(例えば、芳香環ユニットを有する樹脂など)にイオン交換基を導入することにより得られる樹脂であってもよい。イオン交換樹脂は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
弱酸性カチオン交換樹脂としては、スチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物とアクリル酸および/またはメタクリル酸などの重合性不飽和カルボン酸との共重合体などが例示できる。強塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、スチレン骨格を有する架橋ポリマーに、トリメチルアンモニウムなどのトリアルキルアンモニウム塩基、ジメチルエタノールアンモニウム、メチルジエタノールアンモニウムなどのアルキルアルカノールアンモニウム塩基を導入したものなどが例示できる。また、弱塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、ポリベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール−ポリイミド共重合体などのベンズイミダゾールユニットを有する単独重合体または共重合体;アミノ化ポリエーテルスルホンなどが例示できる。
【0040】
ナノファイバを構成するイオン伝導性ポリマーは、ナノファイバシートの用途などに応じて適宜選択できる。高分子電解質膜の多孔質芯材として使用する場合には、カチオン伝導性ポリマー、特にプロトン伝導性ポリマーが好ましい。カチオン伝導性ポリマーとしては、上記例示の弱酸性カチオン交換樹脂などを使用してもよいが、プロトン伝導性が比較的高い観点から、強酸性カチオン交換樹脂を用いるのが好ましい。
【0041】
強酸性カチオン交換樹脂としては、イオン交換基としてスルホン酸基を有するイオン交換樹脂、例えば、パーフルオロスルホニルアルキル基を側鎖に含む樹脂(パーフルオロスルホン酸系樹脂)、およびスルホン化ポリマーを好ましく使用できる。
【0042】
パーフルオロスルホン酸系樹脂としては、例えば、Nafion(登録商標)、Flemion(登録商標)等のパーフルオロスルホニルアルキル基を側鎖に含むフルオロアルキレンユニットを含む単独重合体または共重合体などが挙げられる。
【0043】
スルホン化ポリマーは、ポリマーの主鎖または側鎖に、スルホン化によりスルホン酸基が導入されたポリマーであり、本明細書では、側鎖にパーフルオロスルホニルアルキル基を含まないものとして分類する。
【0044】
スルホン化ポリマーとしては、例えば、スルホン化スチレン樹脂(スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン共重合体など)、スルホン化ポリエーテルケトン系樹脂(スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンなど)、スルホン化ポリスルホン系樹脂(スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホンなど)、スルホン化ポリイミド樹脂(スルホン化ポリイミドなど)などが挙げられる。
【0045】
ナノファイバは、イオン伝導性ポリマー以外に、他のポリマーを含有してもよい。ナノファイバ中のイオン伝導性ポリマーの含有量は、例えば、30質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上または80質量%以上である。
【0046】
他のポリマーとしては、電界紡糸可能である限り、特に制限されず、溶融可能な各種熱可塑性ポリマーや、溶媒に溶解可能なポリマーなどが例示できる。このようなポリマーとしては、例えば、オレフィン樹脂;ビニル樹脂(ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル樹脂またはそのケン化物(ポリビニルアルコールまたはその変性体など);アクリル樹脂;フッ素樹脂;ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアリーレンエーテル樹脂;ポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;セルロース誘導体(セルロースエステル、セルロースエーテルなど);生分解性ポリマーなどのバイオポリマー;シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0047】
上記のポリマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
上記のポリマーのうち、特に、オレフィン樹脂、ビニル樹脂(酢酸ビニル樹脂またはそのケン化物など)、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0048】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)などのフッ素含有モノマー単位を有する単独重合体または共重合体が例示できる。
【0049】
ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミド;脂環族ポリアミド;ポリアミドMDX−6、アラミドなどの芳香族ポリアミドなどが例示できる。芳香族ポリアミド、特に、アラミドなどの全芳香族ポリアミドが好ましい。
【0050】
ポリイミド樹脂は、例えば、ポリアミド酸から得られる縮合型ポリイミド、ビスマレイミド樹脂などの熱硬化性ポリイミド;熱可塑性ポリイミドが挙げられる。熱可塑性ポリイミドとしては、例えば、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびジアミノジフェニルメタンをモノマー単位として含むポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミドなどが例示できる。
【0051】
ナノファイバは、必要に応じて、イオン伝導性ポリマーおよび他のポリマー以外に、公知の添加剤を含んでもよい。添加剤の含有量は、例えば、ナノファイバシートの5質量%以下である。
【0052】
ナノファイバシートの厚さは、用途に応じて、1〜1000μm程度の範囲から選択でき、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜100μmまたは15〜70μmである。
【0053】
(高分子電解質)
ナノファイバシートを高分子電解質膜の多孔質芯材として用いる場合、高分子電解質膜は、ナノファイバシートと、ナノファイバシートに含浸させた高分子電解質とを含む。
高分子電解質としては、燃料電池の分野で常用される材料を特に限定することなく用いることができる。高分子電解質としては、例えば、ナノファイバに含まれるイオン伝導性ポリマーの項で例示したイオン交換樹脂、特に、強酸基をイオン交換基として有する強酸性カチオン交換樹脂が挙げられる。強酸性カチオン交換樹脂のうち、特に、スルホン酸基を有するカチオン交換樹脂が好ましい。
【0054】
高分子電解質膜は、後述するように、ナノファイバシートに高分子電解質を含浸させることにより得られる。
高分子電解質膜に含まれる高分子電解質の割合は、ナノファイバシート100質量部に対して、例えば、1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部、さらに好ましくは7〜30質量部である。
【0055】
[高分子電解質型燃料電池]
上記の高分子電解質膜は、アノードおよびカソードの間に介在させて、膜電極接合体を形成し、高分子電解質型燃料電池に使用される。膜電極接合体は、上記の高分子電解質膜と、高分子電解質膜の一方の表面に形成されたアノードと、高分子電解質膜の他方の表面に形成されたカソードと、を具備する。
【0056】
高分子電解質型燃料電池は、上記の膜電極接合体と、アノードに接触するとともに、アノードに燃料を供給する燃料流路を有するアノード側セパレータと、カソードに接触するとともに、カソードに酸化剤を供給するカソード側セパレータと、を具備する。
【0057】
以下、本発明の膜電極接合体およびそれを用いた高分子電解質型燃料電池を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る高分子電解質型燃料電池の構成を概略的に示す縦断面図である。
【0058】
図1の燃料電池11は、1つの単位セルからなる。単位セルは、高分子電解質膜110と、高分子電解質膜110を挟むアノード111およびカソード112とからなる膜電極接合体(MEA)113、ならびにMEA113を挟むアノード側セパレータ114およびカソード側セパレータ115を備える。
【0059】
カソード112は、高分子電解質膜110に接触するカソード触媒層118と、カソード触媒層118に積層されたカソード拡散層119とを含む。カソード拡散層119は、カソード触媒層118に接触する多孔質撥水層と、多孔質撥水層に積層され、カソード側セパレータと接触する多孔質基材層とを含む。
【0060】
アノード111は、高分子電解質膜110に接触するアノード触媒層116と、アノード触媒層116に積層されたアノード拡散層117とを含む。アノード拡散層117は、アノード触媒層116に接触する多孔質撥水層と、多孔質撥水層に積層され、アノード側セパレータ114と接触する多孔質基材層とを含む。
【0061】
アノード側セパレータ114は、アノード111と対向する面に、アノードに燃料を供給し、未使用燃料および反応生成物(例えば、二酸化炭素)を排出する流路120を有する。カソード側セパレータ115は、カソード112と対向する面に、カソードに酸化剤を供給し、未使用酸化剤および反応生成物を排出する流路121を有する。酸化剤としては、例えば、酸素ガス、または空気のような酸素ガスを含む混合ガスが用いられる。通常は、空気を酸化剤として用いる。
【0062】
アノード111の周囲には、アノード111を封止するように、アノード側ガスケット122が配置されている。同様に、カソード112の周囲には、カソード112を封止するように、カソード側ガスケット123が配置されている。アノード側ガスケット122とカソード側ガスケット123とは、高分子電解質膜110を介して対向している。アノード側ガスケット122およびカソード側ガスケット123により、燃料、酸化剤、および反応生成物が外部へ漏洩することが防止される。
【0063】
さらに、
図1の燃料電池11は、アノード側セパレータ114およびカソード側セパレータ115の面方向と垂直な方向に積層される、集電板124および125、シート状のヒータ126および127、絶縁板128および129、ならびに端板130および131を有する。燃料電池11のこれらの要素は、締結手段(図示せず)により一体化されている。
【0064】
カソード拡散層119およびアノード拡散層117に含まれる多孔質基材層としては、例えば、多孔質でシート状の炭素材料を用いることができ、具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布などが挙げられる。
多孔質基材層の厚さは、例えば、100〜500μm、好ましくは150〜350μmである。多孔質基材層の空隙率は、例えば70〜90%である。
【0065】
多孔質基材層には、撥水性材料を付着させてもよい。撥水性材料としては、例えば、前記ナノファイバを構成するポリマーの項で例示したフッ素樹脂などが挙げられる。
【0066】
多孔質撥水層は、導電性炭素材料および撥水性樹脂材料を含む。導電性炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボン繊維などが挙げられる。撥水性樹脂材料としては、前記ナノファイバを構成するポリマーの項で例示したフッ素樹脂などが例示できる。
多孔質撥水層の平均厚さは、例えば、20〜70μm、好ましくは20〜30μmである。
【0067】
カソード触媒層118およびアノード触媒層116は、それぞれ、触媒金属微粒子および高分子電解質を含む。カソード触媒層用の触媒金属としては、例えば、Ptや、Pt−Co合金などを用いることができる。アノード触媒層用の触媒金属としては、例えば、Pt−Ru合金などを用いることができる。
【0068】
触媒金属微粒子は、単独で用いてもよく、担体に担持してもよい。担体としては、例えば、カーボンブラックなどの導電性炭素材料が例示できる。
【0069】
カソード触媒層118およびアノード触媒層116に含まれる高分子電解質としては、高分子電解質膜の項で例示した高分子電解質が使用でき、イオン交換基としてスルホン酸記を有するイオン交換樹脂などが好ましい。
【0070】
触媒層における高分子電解質の含有量は、例えば、15〜35質量%、好ましくは18〜30質量%である。カソード触媒層およびアノード触媒層に含まれる高分子電解質は、互いに、同じであってもよく、異なってもよい。高分子電解質膜を構成する高分子電解質と、カソード触媒層およびアノード触媒層に含まれる高分子電解質とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0071】
カソード側セパレータ115およびアノード側セパレータ114は、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は、特に限定されない。また、流路120および121の形状についても特に限定されず、例えば、サーペンタイン型、パラレル型等が挙げられる。
【0072】
カソード側セパレータは、カソード拡散層との接触面に、カソードに酸化剤(空気)を供給するための酸化剤流路を有している。酸化剤流路も、例えば、上記接触面に形成され、カソード拡散層に向かって開口する凹部ないしは溝から構成される。酸化剤流路は、燃料電池本体の酸化剤入口および酸化剤出口と連絡している。
【0073】
アノード側セパレータは、アノード拡散層との接触面に、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有している。燃料流路は、例えば、上記接触面に形成され、アノード拡散層に向かって開口する凹部ないしは溝から構成される。燃料流路は、燃料電池本体の燃料入口および燃料出口と連絡している。
カソード側セパレータおよびアノード側セパレータは、一方の面に燃料流路を有し、他方の面に酸化剤流路を有するように一体に形成してもよく、それぞれを単独に形成してもよい。
【0074】
集電板124および125、シート状のヒータ126および127、絶縁板128および129、ならびに端板130および131には、当該分野で公知のものを用いることができる。
燃料としては、特に制限されず、例えば、メタノールなどを用いることができる。
【0075】
MEAは、公知の方法により製造できる。例えば、(i)高分子電解質膜の一方の表面にカソード触媒層を、他方の表面にアノード触媒層を、それぞれ形成することにより、膜−触媒層接合体(CCM)を得、(ii)カソード多孔質基材層の一方の表面にカソード多孔質撥水層を、アノード多孔質基材層の一方の表面にアノード多孔質撥水層を、それぞれ、形成することにより、カソード拡散層およびアノード拡散層を形成し、(iii)CCMの一方の表面にカソード拡散層を、他方の表面にアノード拡散層を、それぞれ、触媒層と、多孔質撥水層とが接触するように積層し、得られた積層体を接合することにより、高分子電解質膜がカソードおよびアノードで挟持されたMEAを得ることができる。
【0076】
各層は、構成成分を含むペーストをベースとなる層に塗布し、乾燥することにより形成できる。各層を形成する際に、必要に応じて、適宜加熱してもよい。積層体の接合は、例えば、ホットプレス法などにより行うことができる。
【0077】
高分子電解質型燃料電池は、公知の方法により製造できる。例えば、上記のMEAのアノードおよびカソードの周囲に、アノード側ガスケットおよびカソード側ガスケットを、高分子電解質膜を挟み込むように配置し、さらにアノード側セパレータおよびカソード側セパレータ、集電板、シート状のヒータ、絶縁板、ならびに端板で両側から挟み込み、締結ロッドで固定することにより、高分子電解質型燃料電池を得ることができる。
【0078】
MEAおよびこれを用いた高分子電解質型燃料電池に使用される、高分子電解質膜の製造方法の詳細について、以下に説明する。
【0079】
[高分子電解質膜の製造方法]
高分子電解質膜の製造方法は、(A)ナノファイバシート(多孔質芯材)を形成する工程と、(B)ナノファイバシートに高分子電解質を含浸させる工程とを有する。これらの工程は連続的に行ってもよい。例えば、製造ラインの上流側でナノファイバシートを形成し、下流側で、ナノファイバシートに高分子電解質を含浸させることにより、高分子電解質膜を製造してもよい。
【0080】
工程(B)において、ナノファイバシートへの高分子電解質の含浸は、例えば、高分子電解質を溶媒に溶解させた溶液にナノファイバシートを浸漬したり、ナノファイバシートに前記溶液を塗布または噴霧したりすることにより行うことができる。
【0081】
上記溶液の溶媒としては、高分子電解質を可溶である限りその種類は特に限定されず、種々の溶媒が使用できる。溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0082】
工程(A)において、ナノファイバシートは、電界紡糸法により、基材シートの主面にナノファイバを堆積させることにより形成される。工程(A)は、具体的には、ノズルから、溶媒および溶媒に溶解したイオン伝導性ポリマーを含む原料液を放出し、放出された原料液を、静電気力で延伸させることによりナノファイバを生成させるとともに、生成したナノファイバを基材シートの表面に堆積させて、ナノファイバのマトリックス構造を有するナノファイバシートを形成する工程である。原料液には、必要に応じて、公知の添加剤を添加してもよい。
【0083】
電界紡糸法では、静電延伸現象により、ナノファイバ形成空間において、ナノファイバを生成させる。
原料液中に存在する電荷のクーロン力の反発力が、原料液の表面張力よりも勝った時点で、原料液は爆発的に線状に延伸される現象が生じる。この延伸された原料液は飛躍的に表面積が広がるため、多量の溶媒が原料液から蒸発する。溶媒が蒸発することで原料液中の電荷密度が高まり、再度、原料液中に存在する電荷のクーロン力の反発力が、原料液の表面張力よりも勝った時点で、原料液は爆発的に線状に延伸される。このような過程を繰り返していく現象が静電延伸現象である。静電延伸現象によれば、繊維径がサブミクロンからナノオーダーのナノファイバを効率よく製造することができる。
【0084】
ところが、イオン伝導性ポリマーを含む原料液を用いても、従来の方法では、繊維径が小さく、繊維径のばらつきが小さなナノファイバおよびナノファイバシートが得られないことがわかった。
【0085】
原料液を放出するノズル(放出体)は、従来、ステンレス鋼などの導体で形成されている。このようなノズルを用いた場合、ノズル表面からのイオン風の発生量が多く、このイオン風がナノファイバの紡糸現象を阻害し、また、原料液へ供給される電荷量も減少させるが、特に、イオン伝導性ポリマーを含む原料液を用いた場合は、これに加え、原料液を伝って電荷が逃げ、さらに逃げた電荷がイオン風となるため、紡糸性が極めて低くなると考えられる。
【0086】
そこで、本発明では、電界紡糸機構を構成する部材のうち、ノズルなどの高い電圧が印加される部材を形成する材料またはカバーする材料として、臨界表面張力38mN/m以上の材料を用いる。これにより、部材表面に現われた電荷を、イオン風として飛散させることを抑制できるので、ノズルなどの上記部材表面からのイオン風の発生とこれに伴う電荷の消費を抑制できる。そのため、イオン伝導性ポリマーを含む原料液を用いる場合でも、紡糸性を大きく向上できる。よって、イオン伝導性ポリマーを含むにも拘わらず、繊維径が小さく、繊維径のばらつきが小さなナノファイバおよびナノファイバシートを得ることができ、平均繊維径が400nm以下のナノファイバのマトリックス構造を有するナノファイバシートが得られる。
【0087】
臨界表面張力が高い、つまり、界面自由エネルギーが高い材料は、酸素原子、ハロゲン原子、オキソ基、アミノ基などの電荷が局在化し易い原子や官能基を有している。イオン風の発生が抑制されるのは、このような原子や官能基の存在により、材料分子中で局在化した電荷が、材料表面に発生した帯電による電荷を引き付けて離し難いためと考えられる。
【0088】
ノズルなどの上記部材を形成または被覆する材料の臨界表面張力は、好ましくは39mN/m以上、さらに好ましくは40mN/m以上である。なお、臨界表面張力が高い材料は、空気中の水分を表面に吸着しやすくなる。吸着された水分が帯電して空気中に飛散されるのをより効果的に抑制する観点からは、臨界表面張力の上限は、例えば、50mN/m以下、好ましくは45mN/m以下、さらに好ましくは43mN/m以下である。
これらの下限値と上限値とは適宜選択して組み合わせることができる。臨界表面張力は、例えば、39〜45mN/m、または40〜50mN/mであってもよい。
【0089】
金属の様な導体は、材料内を多量の電荷が自由に移動可能であるため、イオン風を発生させやすい。そのため、ノズルなどの上記部材を形成または被覆する材料は、絶縁体である必要がある。このような材料としては、例えば、臨界表面張力が上記のような範囲であれば特に制限されず、例えば、ポリマーが挙げられる。
【0090】
上記のポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル樹脂;ポリアセタールホモポリマー、オキシメチレン単位と共重合性モノマー単位(エチレンオキサイド、1,3−ジオキソランなどの環状エーテル単位など)とを含むポリアセタールコポリマーなどのポリアセタール樹脂;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリアミド66などのポリアミド樹脂などが例示できる。これらのポリマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。これらのポリマーのうち、ポリアセタール樹脂が好ましい。
【0091】
ノズルは、必ずしも、ノズル全体が、上記の材料で形成されている必要はなく、少なくとも原料液を吐出させるノズル先端部分(例えば、放出体の放出口近傍の部分などの放出体の下部など)が上記の材料で形成されていればよい。
【0092】
原料液は、溶媒および溶媒に溶解した樹脂原料(イオン伝導性ポリマーおよび必要により他のポリマー)を含む溶液である。原料液には、必要に応じて、公知の添加剤を添加してもよい。
【0093】
溶媒は、樹脂原料を溶解可能で、揮発などにより除去可能なものであれば特に制限されず、樹脂原料の種類に応じて、適宜選択できる。溶媒としては、各種有機溶媒、例えば、アセトンなどのケトン;アセトニトリルなどのニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド(ジC
1-4アルキル酸アミドなどのジアルキル酸アミドなど)、テトラヒドロフランなどのエーテル、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンなどが例示できる。非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0094】
なお、生成するナノファイバの繊維径は、原料液の状態、原料液を放出させる放出体の構成、帯電手段により形成される電界の大きさなどによっても変化する。そのため、ナノファイバシートを形成する工程では、複数の電界紡糸ユニットを用いて、各ユニットで、それぞれ異なるナノファイバを生成させてもよい。例えば、基材シートの表面に、繊維径の異なる複数種のナノファイバを順次堆積させてもよい。また、基材シートの表面に堆積させるナノファイバの繊維径を、電極側から順次に細くしてもよい。このようなグラデーションを設ける方法としては、例えば、異なる繊維径のナノファイバを生成する複数の電界紡糸ユニットを用いる方法などが挙げられる。
【0095】
例えば、工程(A)では、ラインの上流側に配置された第1電界紡糸ユニットと、ラインの下流側に配置された第2電界紡糸ユニットとを用いて、ナノファイバを形成してもよい。この場合には、厚さ方向において、繊維径が変化するナノファイバのマトリックス構造を形成することができる。
【0096】
具体的には、上流側に配置される第1電界紡糸ユニットにより生成されるナノファイバの繊維径を、第2電界紡糸ユニットにより生成されるナノファイバの繊維径よりも意図的に大きくすることができる。逆に、上流側に配置される第1電界紡糸ユニットにより生成されるナノファイバの繊維径を、第2電界紡糸ユニットにより生成されるナノファイバの繊維径よりも意図的に小さくすることもできる。ただし、基材シートとナノファイバにより形成される多孔質層との境界付近では、溶媒の乾燥が不十分になりやすく、基材上に結露した溶媒により繊維が溶解し、複数の繊維が溶着してより太い繊維となりやすい。従って、多孔質層の繊維径を変化させる場合には、上流側でより太い繊維径のナノファイバを生成させる方が、意図した構造を達成しやすい。
【0097】
基材シートの種類は限定されない。基材シートとしては、例えば、ナノファイバ形成空間において生成したナノファイバを堆積させて搬送するためのコンベアベルトなどを使用してもよい。また、ナノファイバ形成空間に、上流側から、別途基材シートを供給してもよい。
【0098】
基材シートは、表面に、ナノファイバシートを形成した後、基材シートとナノファイバシートとの複合シートとして用いてもよい。また、ナノファイバシートを形成した後、基材シートを剥離してもよい。この場合、工程(A)において、または工程(A)の後に、基材シートを除去する工程を含んでもよい。
なお、基材シートやコンベアベルトの主面には、ナノファイバシートが剥離しやすいように、離型剤のコーティング、粗面化などの公知の離型処理が施されていてもよい。
【0099】
以下に、ナノファイバシートの製造方法を、図面を参照しながら、より具体的に説明する。
ナノファイバシートは、具体的には、ナノファイバ形成空間において、原料液から静電気力によりナノファイバを生成させるとともに、生成したナノファイバを基材シートの主面に堆積させて、ナノファイバのマトリックス構造を有するナノファイバシートを形成する工程、を有する。
【0100】
図2は、本発明の一実施形態に係る多孔質芯材(またはナノファイバシート)の製造方法を実施するための、製造システムの構成を概略的に示す図である。
図2の製造システム100は、ナノファイバシートを製造するための製造ラインを構成している。製造システム100は、ナノファイバシートを形成するためのナノファイバシート形成装置40と、形成されたナノファイバシートを回収するための回収装置70とを備えている。
【0101】
ナノファイバシート形成装置40は、電界紡糸機構を具備する。より具体的には、電界紡糸機構は、装置内の上方に設置された原料液を放出するためのノズル(放出体)を含む放出部42Aと、放出された原料液を帯電させる帯電手段と、放出部42Aと対向するように、生成したナノファイバを搬送するための搬送コンベア41と、を備えている。搬送コンベア41は、ナノファイバを収集するコレクタ部として機能し、基材シートとしての搬送コンベア41のベルトの主面には、放出部42Aから放出されたナノファイバが堆積される。
【0102】
帯電手段は、放出体に電圧を印加する電圧印加装置43と、搬送コンベア41と平行に設置され、かつ電気的に接続された対電極44とで構成されている。対電極44は接地されている。これにより、放出体と対電極44との間には、電圧印加装置43により印加される電圧に応じた電位差(例えば20〜200kV)を設けることができる。なお、帯電手段の構成は、特に限定されず、例えば、対電極44は必ずしも接地しなくてもよい。また、対電極44を設ける代わりに、搬送コンベア41のベルト部分を導体から構成するなどしてもよい。
【0103】
図3は、
図2の放出部42Aを概略的に示す正面図であり、
図4は、
図2の放出部42Aを概略的に示す側面図である。
図5は、放出体を概略的に示す拡大断面図である。
図3および
図4に示されるように、放出部42Aは、原料液を放出するための放出体42を有しており、放出体42の上部には、放出体42に原料液45を供給するための導管50が接続されている。また、放出体42の上方には、図示しない送風機構が設けられている。送風機構により、放出体42の上方から送風を行うことで、ナノファイバ生成を阻害する溶媒蒸気やイオン風を効率よく換気することができる。
【0104】
放出体42は、長尺の形状を有しており、放出体42の内部には、径D1の中空円筒状の収容部52が形成されている。放出体42の搬送コンベア41のベルト(基材シート)と対向する側には、複数の放出口42aが、一定の間隔で、規則的な配列で設けられている。
【0105】
本発明では、放出体42を形成する材料として、臨界表面張力38mN/m以上の材料を用いる。これにより、イオン伝導性ポリマーを含む原料液を用いるにも拘わらず、繊維径が小さく、繊維径のばらつきが小さなナノファイバのマトリックス構造を有するナノファイバシートを形成できる。
また、放出体42を保持および絶縁する支持体49、対電極44の少なくとも端面を覆うためのカバー、対電極44の支持体、放出体42および/または対電極44に接続される電圧配線のカバーなどを上記の材料で形成することにより、上記と同様の効果を得ることができる。
【0106】
放出体42の上部は、断面が方形に形成されており、放出口42aに向かって、断面形状の幅が徐々に小さくなるテーパ部42bが形成されている。このように、放出体42の放出口42aの周囲に、テーパ部42bを形成することで、電荷が角部などに集中することによるイオン風の発生を抑制することができる。
【0107】
また、放出口42aに向かって、放出体42の断面形状の幅を徐々に小さくすることにより、電荷を適度に集中させることができ、放出口42aから放出される原料液に効率よく電荷を供給することができる。収容部52と放出口42aとを連通する貫通孔の径は、例えば、0.25〜0.4mmであり、貫通孔の長さは、例えば、0.1〜5mmである。貫通孔の断面形状は、円形、三角形や四角形などの多角形、星形などの内側に突出する部分のある形状などの任意の形状を選択できる。
【0108】
放出体42全体を、臨界表面張力38mN/m以上の材料で形成してもよく、例えば、放出口42aの周囲のみを上記材料で形成してもよい。また、放出体42の下部、例えば、テーパ部42bやテーパ部42bの下部などを上記材料で形成してもよい。
【0109】
原料液45は、放出体42の中空部と連通するポンプ46の圧力により、原料液タンク45aから、導管50を通して、放出体42の収容部52に供給される。そして、原料液45は、ポンプ46の圧力により、複数の放出口42aから搬送コンベア41のベルト(基材シート)の主面に向かって放出される。放出された原料液は、帯電した状態で放出体42と搬送コンベア41との間の空間を移動中に静電爆発を起し、ナノファイバを生成する。生成したナノファイバは、静電誘引力によって基材シートの主面に誘引され、そこで堆積する。これにより、ナノファイバからなる多孔質層(不織布)、すなわち、ナノファイバシートFが形成される。
【0110】
搬送コンベア41のベルト部分は、誘電体であってもよい。ベルト部分が導体で構成されている場合には、放出体42の放出口に近いコレクタ部に、ナノファイバがやや集中して堆積する傾向がある。ナノファイバを、より均一に、コレクタ部に分散させる観点からは、搬送コンベア41のベルト部分を誘電体により形成することがより望ましい。
【0111】
ベルト部分を誘電体により形成した場合には、ベルト部分の内周面(ナノファイバが堆積される面の反対側の面)に、対電極44を接触させてもよい。ここでベルト部分を、面方向の抵抗値が均一で、高抵抗な部材で作製すると、基材の面方向の抵抗のバラツキが軽減され、ベルト表面に一様な電荷が発生する。これにより、ナノファイバがベルト(基材シート)の主面の一部に集中して堆積する可能性が更に低減される。
【0112】
図2には、基材シートとして、搬送コンベア41のベルトを利用する場合を示したが、この場合に限らず、上流側から、基材シートを、搬送コンベア41に供給し、基材シートの主面に、ナノファイバを堆積させることにより、ナノファイバシートを形成してもよい。このような例を、
図6に示す。
図6は、本発明の他の一実施形態に係る高分子電解質膜の製造方法において、多孔質芯材を得るためのシステムの構成を概略的に示す図である。
【0113】
図6では、製造システム100Aの最上流には、ロール状に捲回された基材シートSを内部に収容した基材シート供給装置20が設けられている。基材シート供給装置20は、ロール状の基材シートSを捲き出して、自身の下流側に隣接する別の装置に基材シートSを供給する。具体的には、基材シート供給装置20は、モータ24により供給リール22を回転させて、供給リール22に捲回された基材シートSを搬送ローラ21に供給する。
【0114】
捲き出された基材シートSは、搬送ローラ21により、ナノファイバシート形成装置40に移送され、搬送コンベア41に供給される。ナノファイバ形成装置40において、搬送コンベア41のベルトに代えて、基材シート供給装置20から供給される基材シートSの表面に、ナノファイバを堆積させる以外は、製造システム100Aの構成要素は、
図2の製造システム100と同じである。
【0115】
基材シートSを搬送コンベア41に供給する場合、搬送コンベア41の最も上流側には、基材シートSの主面Saと接触するスキージを設けてもよい。スキージにより、ナノファイバを堆積させる前の基材シートSの主面Saの凹凸や皺を除くことができるとともに、基材シートSを、搬送コンベア41のベルト部分の表面に密着させることができる。スキージを設けることにより、より効果的に、ナノファイバを、基材シートSの主面Saに、部分的に集中することなく、均一に堆積させることができる。よって、形成される多孔質層(ナノファイバシート)の表面は平坦な状態になり、多孔質層の厚さが均一になりやすい。
【0116】
図6では、ナノファイバシートFとして、基材シートSの表面にナノファイバが堆積することにより形成された複合膜が得られる。このような複合膜は、そのまま、高分子電解質膜の多孔質芯材として用いてもよいが、適当な段階で、基材シートSを剥離して、ナノファイバマトリックス構造のみで形成された単独膜を得、これを多孔質芯材として使用してもよい。例えば、基材シートSは、ナノファイバシート形成装置40において、基材シートSの表面にナノファイバシートを形成した後、ナノファイバシートを次工程に搬送し、基材シートSを、ナノファイバシートから剥離して、別途回収してもよい。
【0117】
図7は、ナノファイバシート形成装置40の構成を概略的に示す上面図である。
ナノファイバシート形成装置40では、放出体42がナノファイバシートの搬送方向(
図7中の白抜き矢印の方向)に対して垂直になるように設置されている。放出体42は、ナノファイバシート形成装置40の上方に設置された、ナノファイバシートの搬送方向と平行な第1支持体48から下方に延びる第2支持体49により、自身の長手方向が搬送コンベア41のベルト(基材シート)41aの主面と平行になるように支持されている。
【0118】
放出体42の基材シート41aの主面と対向する側には、原料液の放出口42aが複数箇所設けられている。放出口42aを規則的なパターンで放出体42に配列させることで、基材シート41aの主面に堆積するナノファイバの量を、主面の広い領域に渡って均一化することができる。放出体42の放出口42aと、基材シート41aとの距離は、ナノファイバシートの製造システムの規模にもよるが、例えば、100〜600mmであればよい。
【0119】
図2では、ナノファイバシート形成装置40が1台だけ設けられており、かつ1台のナノファイバシート形成装置40が有する放出部42Aの数は2つであるが、ナノファイバシート形成装置40の台数や、1台のナノファイバシート形成装置40が具備する放出部42Aの数は、特に限定されない。例えば、
図8に示すように、2台のナノファイバシート形成装置40を連続するように設けた製造システム200を構成してもよい。すなわち、2台のナノファイバシート形成装置40の組みを、1つの電界紡糸機構として機能させてもよい。この場合、電界紡糸機構は、ラインの上流側に配置された第1電界紡糸ユニット40Aと、ラインの下流側に配置された第2電界紡糸ユニット40Bとを有すると考えることができる。
【0120】
なお、上記製造システムは、各装置が分離可能なように構成されている。そのため、各装置の台数を変更することは容易である。同様に、追加的機能を有する図示しない装置を、いずれかの隣接装置間に介在するように配置することもできる。
【0121】
電界紡糸機構が、ラインの上流側に配置された第1電界紡糸ユニットと、ラインの下流側に配置された第2電界紡糸ユニットとを有する場合、各電界紡糸ユニットにより、同じナノファイバを生成させてもよく、異なるナノファイバを生成させてもよい。同じナノファイバを生成させる場合には、例えば、ナノファイバシートの厚さを大きくしたり、搬送コンベア41の搬送スピードを速めて、製造タクトを向上させたりすることができる。なお、基材シートSを搬送コンベア41に供給する場合には、搬送ローラ21の搬送スピードを速めることにより、製造タクトを向上させてもよい。また、異なるナノファイバを生成させる場合には、例えば、繊維径の異なるナノファイバを生成させることにより、複数層の異なる繊維層からなるナノファイバシートを形成することができる。
【0122】
ここで、上流側に配置される第1電界紡糸ユニットにより生成されるナノファイバの繊維径を、第2電界紡糸ユニットにより生成されるナノファイバの繊維径よりも意図的に大きくすれば、ナノファイバシートの基材シートS側を繊維径の大きいナノファイバにより構成することができ、基材シートSとは反対側を、繊維径のより小さいナノファイバにより構成することもできる。
【0123】
なお、複数層の異なる繊維層からなるナノファイバシートを形成する場合、異なる繊維層の数は、特に限定されないが、2〜5層が好ましく、2〜3層がより一般的である。
【0124】
図2において、ナノファイバシート形成装置40で形成されたナノファイバシートは、搬送コンベア41の最も下流側で、搬送コンベア41のベルト(基材シート)から剥離され、次工程に搬送される。
【0125】
図2において、ナノファイバシートFと搬送コンベア41のベルトとが離間(剥離)する箇所には、これらが剥離するときに起こり得るスパークの発生を抑制するために、ナノファイバシートFを除電する除電装置を設けてもよい。また、ナノファイバシート形成装置40と、これに隣接する各装置との間の窓部近傍には、紡糸空間に発生する帯電した溶媒蒸気、帯電した空気を換気して、紡糸性能を向上させる吸引ダクトを設けてもよい。
【0126】
ナノファイバシート形成装置40から搬出された完成したナノファイバシートFは、搬送ローラ71を介して、回収装置70に回収される。回収装置70は、搬送されてくるナノファイバシートFを捲き取る回収リール72を内蔵している。回収リール72はモータ74により回転駆動される。
【0127】
このようにして得られるナノファイバシートFは、回収装置70に一旦回収した後、高分子電解質の含浸工程に供してもよい。また、ナノファイバシート形成装置40と、回収装置70との間に、高分子電解質の含浸装置(図示せず)を設置し、ナノファイバシート形成装置40から搬送されたナノファイバシートFに、高分子電解質を含浸させて高分子電解質膜を形成し、回収装置70に搬送し、回収してもよい。
【0128】
図2に示すような製造システムでは、ナノファイバシートを回収する回収装置70を回転させるモータ74を、ナノファイバシートFの搬送速度(搬送コンベア41の速度)が一定になるような回転速度に制御する。これにより、ナノファイバシートFは、所定のテンションを維持しつつ搬送される。このような制御は、製造システム100に備えられた制御装置(図示せず)によって行われる。制御装置は、製造システム100を構成する各装置を統括的に制御し、管理できるように構成されている。
【0129】
ナノファイバシート形成装置40とナノファイバシート回収装置70との間には、予備回収部を配置してもよい。予備回収部は、完成されたナノファイバシートFの回収装置70による回収が容易となるように設けられる。具体的には、予備回収部では、ナノファイバシート形成装置40から移送されてくる完成したナノファイバシートFを、一定の長さまでは捲き取らずに弛んだ状態で回収する。その間、回収装置70の回収リール72は回転させずに停止させておく。そして、予備回収部により回収された弛んだ状態のナノファイバシートFの長さが一定の長さになる度に、回収装置70の回収リール72を所定時間だけ回転させて、回収リール72によりナノファイバシートFを捲き取る。
【0130】
このような予備回収部を設けることで、搬送コンベア41の搬送速度と、ナノファイバシート回収装置70が具備するモータ74の回転速度を厳密に連動させて制御する必要がなくなり、製造システム100の制御装置を簡略化することができる。また、
図6に示す製造システム100Aでは、予備回収部を設けると、基材シート供給装置20とナノファイバシート回収装置70が具備するモータ24,74の回転速度を厳密に連動させて制御する必要がなくなり、製造システム100Aの制御装置を簡略化することができる。
【0131】
なお、上記のナノファイバシートの製造システムは、本発明の高分子電解質膜を構成するナノファイバシート(または多孔質芯材)の製造方法を実施するために用いることができる製造システムの一例に過ぎない。ナノファイバシートの製造方法は、ナノファイバ形成空間において、ナノファイバを生成させて、基材シートの主面に堆積させ、ナノファイバのマトリックス構造を有するナノファイバシートを形成する工程を有する限り、特に限定されない。
【0132】
また、ナノファイバシートを形成する工程についても、所定のナノファイバ形成空間において、原料液から静電気力によりナノファイバを生成させ、生成したナノファイバを基材シートの主面に堆積させる工程であれば、どのような電界紡糸機構を用いてもよい。例えば、放出体の形状は、特に限定されない。放出体の長手方向に垂直な断面の形状は、
図4に示されるように、上方から下方に向かって次第に小さくなる形状(V型ノズル)に限らず、放出体を回転体により構成してもよい。
【0133】
具体的には、放出体を、自転車用タイヤのチューブのような中空の環状体に形成し、当該中空に原料液を収容してもよい。そして、中空環状体の外周面に沿って複数の放出口を設け、中心を軸にして環状体を回転させれば、遠心力により放出口から原料液を放出させることができる。その場合、原料液の空間中での移動方向を、送風などにより制御すれば、所定のコレクタ部にナノファイバを堆積させることができる。
【0134】
ナノファイバシート形成装置では、搬送コンベアのベルトの主面にナノファイバを連続的に堆積させることにより、長尺状のナノファイバシートを形成することができる。また、ナノファイバの堆積を間欠的に行うことにより、矩形のナノファイバシートを形成することもできる。
【0135】
図6のように、基材シートを、ナノファイバシート形成装置に供給する場合、基材シートは、長尺状であってもよく、矩形状であってもよい。矩形状の基材シートを用いる場合、基材シートを供給するための装置は、例えば、矩形の基材シートを、順次、搬送コンベア41に載置する装置であればよい。このような基材シート供給装置には、矩形の基材シートを複数収容するトレイフィーダを併設させれば、効率よく、基材シートをナノファイバシート形成装置40に供給することができる。
【0136】
なお、上記のナノファイバシートの製造方法は、特に、高分子電解質膜を構成する多孔質芯材の製造に適しているが、他の様々な用途に使用されるナノファイバシートの製造にも利用できる。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
実施例1
図2に示す燃料電池を、下記の手順で作製した。
(1)高分子電解質膜の作製
Nafion(登録商標)(Sigma−Aidrich社製)とPVDFのDMAc溶液(濃度:Nafion 12.5質量%、PVDF 12.5質量%)用いて、電界紡糸法により、平滑な表面を有する基材シート(ポリエチレンテレフタレート製)の主面に、ナノファイバを堆積させることにより、厚さ20μmのナノファイバシートを形成した。このとき、電界紡糸の条件は、繊維径300nmのナノファイバが形成されるように設定した。そして、ポリアセタール樹脂製(臨界表面張力:40mN/m)のノズルを用いた。
【0139】
得られたナノファイバシートを基材シートから剥離し、イオン交換樹脂(Sigma−Aidrich社製のNafion(登録商標))の溶液に浸漬し、乾燥させ、端部を裁断により除去し、高分子電解質膜110を得た。
【0140】
(2)アノード触媒層の作製
アノード用の触媒金属微粒子としてのPt−Ru微粒子(平均粒径D50:3nm、Pt:Ruの質量比=2:1)を、イソプロパノール水溶液に分散させた分散液と、高分子電解質を5質量%含有した水溶液とを混合し、攪拌して、アノード触媒層ペーストを調製した。高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子材料(Sigma−Aidrich社製のNafion(登録商標))を用いた。アノード触媒層ペーストにおいて、Pt−Ru微粒子と高分子電解質との質量比は、3:1とした。
【0141】
次に、スプレー式塗布装置を用いて、高分子電解質膜110の一方の主面にアノード触媒層ペーストを塗布した。塗膜を乾燥し、6cm×6cmのアノード触媒層116を形成した。アノード触媒層116に含まれるPt−Ru微粒子の量は、6.25mg/cm
2であった。
【0142】
(3)カソード触媒層の作製
カソード用の触媒金属微粒子としてのPt微粒子(平均粒径D50:3nm)を導電性炭素材料に担持させて、カソード触媒とした。導電性炭素材料としては、カーボンブラック(三菱化学(株)製のケッチェンブラックEC、一次粒子の平均粒径D50:30nm)を用いた。Pt微粒子と導電性炭素材料との合計に占めるPt微粒子の質量比は46質量%とした。
【0143】
カソード触媒を、イソプロパノールの水溶液に超音波分散させ、得られた分散液と、高分子電解質を5質量%含有した水溶液とを混合し、攪拌して、カソード触媒層ペーストを調製した。高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子材料(Sigma−Aidrich社製のNafion(登録商標))を用いた。カソード触媒層ペーストにおいて、Pt微粒子と高分子電解質との質量比は、2:1とした。
【0144】
次に、アノード触媒層と同様のスプレー式塗布装置を用いて、高分子電解質膜110の他方の主面にカソード触媒層ペーストを塗布した。塗膜を乾燥し、6cm×6cmのカソード触媒層118を形成した。こうして、CCMを得た。カソード触媒層118に含まれるPt微粒子の量は、1.35mg/cm
2であった。
【0145】
(4)アノード拡散層の作製
多孔質基材層を構成するカーボンペーパー(東レ(株)製のTGP−H−090)に、以下の方法で撥水性材料を付着させた。
PTFE分散液(ダイキン工業(株)製のD−1Eをイオン交換水で希釈した水溶液、固形分濃度:7質量%)にカーボンペーパーを1分間浸漬し、次いで、大気中常温で3時間乾燥させた。その後、カーボンペーパーを、不活性(N
2)雰囲気、360℃で1時間焼成して界面活性剤を除去した。得られた導電性多孔質基材におけるPTFEの量は、12.5質量%であった。
【0146】
次に、撥水性材料を付着させた多孔質基材層の表面に、多孔質撥水層を形成した。
まず、界面活性剤(Sigma−Aidrich社製のTritonX−100)を含むイソプロパノール水溶液に、導電性炭素材料であるカーボンブラック(CABOT社製のVulcanXC−72R)を分散させた分散液に、PTFE分散液((株)喜多村製のKD500AS、固形分濃度:20質量%、示差走査熱量分析(DSC)による吸熱ピーク温度:331.3℃)を混合し、ディスパーで3時間撹拌して、アノード多孔質撥水層ペースト(第1分散液)を調製した。界面活性剤を含む全固形分中のPTFEの含有量は、26質量%とした。
【0147】
ドクターブレードを用いて、アノード多孔質撥水層ペーストを多孔質基材層の一方の面に塗布し、大気中常温で8時間乾燥させた。その後、多孔質基材層を不活性(N
2)雰囲気、360℃で1時間焼成して界面活性剤を除去し、多孔質基材層の表面にアノード多孔質撥水層を形成した。多孔質基材層の厚さは300μmであり、多孔質撥水層の厚さは25μmであった。
【0148】
(5)カソード拡散層の作製
多孔質基材層を構成するカーボンペーパー(東レ(株)製のTGP−H−060)に、以下の方法で撥水性材料を付着させた。
PTFE分散液(Sigma−Aidrich社製の60%PTFEディスパージョンをイオン交換水で希釈した水溶液、固形分濃度:15質量%)にカーボンペーパーを1分間浸漬し、次いで、大気中常温で3時間乾燥させた。その後、カーボンペーパーを、不活性(N
2)雰囲気、360℃で1時間焼成して界面活性剤を除去した。得られた多孔質基材層におけるPTFEの量は、23.5質量%であった。
【0149】
次に、撥水性材料を付着させた多孔質基材層の表面に、多孔質撥水層を形成した。
界面活性剤(Sigma−Aidrich社製のTritonX−100)を含むイソプロパノール水溶液に、導電性炭素材料であるカーボンブラック(CABOT社製のVulcanXC−72R)を分散させた分散液に、PTFE分散液((株)喜多村製のKD500AS、固形分濃度:20質量%)を混合し、ディスパーで3時間攪拌して、カソード多孔質撥水層ペースト(分散媒中の水含有量40質量%)を調製した。界面活性剤を含む全固形分中のPTFEの含有量は、26質量%とした。ドクターブレードを用いて、カソード多孔質撥水層ペーストを多孔質基材層の一方の面に塗布し、大気中常温で8時間乾燥させた。その後、多孔質基材層を、不活性(N
2)雰囲気、360℃で1時間焼成して界面活性剤を除去し、多孔質基材層の表面にカソード多孔質撥水層を形成した。多孔質基材層の厚さは200μmであり、カソード多孔質撥水層の厚さは25μmであった。
【0150】
(6)MEAの作製
アノード拡散層117およびカソード拡散層119を、それぞれ6cm×6cmに切断した後、膜−触媒層接合体(CCM)の両側に、それぞれ多孔質複合層が触媒層と接するように積層した。次いで、得られた積層体を、ホットプレス法(130℃、4MPa、3分間)に供して、触媒層と拡散層とを接合して、MEA 113を作製した。
【0151】
次いで、MEA 113のアノード111およびカソード112の周囲に、アノード側ガスケット122およびカソード側ガスケット123を、高分子電解質膜110を挟み込むように配置した。アノード側ガスケット122およびカソード側ガスケット123としては、ポリエーテルイミド層を中間層として、その両側にシリコーンゴム層を設けた3層構造体を用いた。
【0152】
ガスケットを配置したMEA 113を、それぞれ外寸が12cm×12cmのアノード側セパレータ114およびカソード側セパレータ115、集電板124および125、シート状のヒータ126および127、絶縁板128および129、ならびに端板130および131で両側から挟み込み、締結ロッドで固定した。締結圧は、セパレータの単位面積(1cm
2)あたり12kgf(≒118N)とした。
【0153】
アノード側セパレータ114およびカソード側セパレータ115には、厚さが4mmの樹脂含浸黒鉛材(東海カーボン(株)製のG347B)を用いた。各セパレータには、予め幅1.5mm、深さ1mmのサーペンタイン型流路を形成した。集電板124および125としては、金メッキ処理を施したステンレス鋼板を使用した。シート状のヒータ126および127には、サミコンヒータ(坂口電熱(株)製)を用いた。以上のような方法で高分子電解質型燃料電池(電池A)を10個作製した。
【0154】
(7)評価
作製した高分子電解質型燃料電池または上記(1)で得られたナノファイバシートについて、下記の測定または評価を行った。
【0155】
(a)平均繊維径の測定
ナノファイバシートを、厚さ方向にカットした断面について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、加速電圧200kV)により、ナノファイバシートの厚さ方向における中心部(多孔質シートの接合面近傍)におけるSEM画像を撮影した。撮影したSEM画像において、任意の10本のナノファイバについて、繊維径を測定し、平均することにより、平均繊維径を求めた。
【0156】
(b)プロトン伝導度の評価
4端子法を用いて、80℃、40%RHの条件で、電解質膜のプロトン伝導度の測定を行った。
【0157】
比較例1
ステンレス鋼製のノズルを用いる以外は、実施例1と同じ電界紡糸の条件で、基材シートの主面に、厚さ20μmのナノファイバシートを形成した。得られたナノファイバシートを基材シートから剥がし、端部を裁断により除去し、12cm×12cmのサイズにカットし、イオン交換樹脂の溶液に浸漬させる以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を作製し、得られた高分子電解質膜を用いて高分子電解質型燃料電池(電池B)を10個作製した。比較例の電池Bおよび使用したナノファイバシートについても、実施例1と同様の評価を行った。
【0158】
比較例2
Nafion(登録商標)とPVDFのDMAc溶液に代えて、PVDFのDMAc溶液(濃度25質量%)を用いる以外は、比較例1と同様にして、ナノファイバシートを形成し、得られたナノファイバシートを用いて高分子電解質型燃料電池(電池C)を作製し、同様の評価を行った。
実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
表1から明らかなように、実施例では、イオン伝導性ポリマーを用いながらも、平均繊維径が小さく、繊維径のばらつきが小さなナノファイバで形成された多孔質芯材が得られた。これに対し、比較例1の多孔質芯材では、繊維径のばらつきが大きく、平均繊維径が大きくなった。
【0161】
また、実施例では、高いプロトン伝導度が得られた。これは、多孔質芯材が、プロトン伝導性ポリマーのナノファイバで形成されており、かつ、繊維径が細いため、プロトン伝導性ポリマー分子が繊維の長手方向に並び、プロトンのバイパス機能を果たしているためと考えられる。
【0162】
一方、比較例1では、実施例よりもプロトン伝導度が低かった。これは、比較例1では、多孔質芯材が、実施例と同様にプロトン伝導性ポリマーのナノファイバで形成されているものの、繊維径が太いため、プロトン伝導性ポリマーの分子が、繊維の長手方向に並ぶ割合が減少し、プロトンのバイパス機能が低下しているためと考えられる。
【0163】
また、比較例2については、比較例1よりも繊維径が細くなった。これは、プロトン伝導性のないポリマーのみを使用したため、比較例1と比べて、繊維から発生するイオン風が少なくなり、ポリマーの帯電量が多くなったため、紡糸条件が有利であったためであると考えられる。しかし、プロトン伝導性のないポリマーであるため、プロトン伝導度はかなり低い結果となっている。
【0164】
なお、作製した高分子電解質型燃料電池のカソードには空気を供給し、アノードにはメタノール水溶液を供給して、発電し、発電中の平均電圧(発電効率)を評価したところ、実施例では、比較例よりも、高い発電効率が得られた。