【実施例1】
【0023】
実施例1の燃料噴射弁1について説明する前に、比較例の燃料噴射弁100について
図1を参照しつつ説明する。燃料噴射弁100は、先端部に噴孔102を備えたノズルボディ101を備える。ノズルボディ101の内部には、ニードル部材103が摺動自在に配置されている。ニードル部材103の基端側には駆動部104が設けられている。駆動部104にはECU(Electronic control unit)10が電気的に接続されている。ニードル部材103は、ECU10の指令を受けた駆動部104により昇降動作をする。ニードル部材103の先端部には、拡径部103aが設けられており、その外周面には、螺旋溝103a1が設けられている。螺旋溝103a1は、ノズルボディ101内を流れる燃料に旋回成分を付与する。すなわち、螺旋溝103a1は旋回成分生成手段に相当する。ニードル部材103の先端部には、シート部103bが設けられている。このシート部103bがノズルボディ101の内周面に設けられたシート面101aから離座することにより燃料噴射弁100は、開弁状態(噴射状態)となる。また、シート部103bがシート面101aに着座することにより、燃料噴射弁100は、閉弁状態(噴射停止状態)となる。
【0024】
燃料噴射弁100は、噴孔102が燃焼室内で開口するようにエンジン本体に装着される。そして、ECU10の噴射指令に基づいて燃料を噴射する。燃料は噴射されるときに螺旋溝103a1を通過する。これにより、燃料の流れに旋回成分が付与される。旋回成分を有する燃料は、その内部に気泡を発生させる。また、燃料の旋回流が狭い領域である噴孔に導入されると旋回速度が増し、旋回流の中心部が負圧となる。すると、旋回流の中心部に気柱105が発生し、この気柱105と燃料との境界において微細気泡が発生する。燃料に含まれる微細気泡や気泡は、噴孔から噴射された後に破裂して、燃料の微粒化を促進する。
【0025】
このような燃料噴射弁100は、噴孔102から燃焼室内の火炎が侵入し易い。このため、ノズルボディ101の内周面や、螺旋溝103a1内にデポジット106が堆積し易い。デポジット106の堆積は、噴射率を低下させたり、螺旋溝103a1内の燃料流れを阻害し、燃料の微粒化に影響を与えたりする。
【0026】
つぎに、実施例1の燃料噴射弁1について、
図2を参照しつつ説明する。
図2(A)は実施例1の燃料噴射弁1の先端部を側面から見た概略構成図であり、
図2(B)は実施例1の燃料噴射弁が備えるキャビテーション発生室7a、7bの配置を示す説明図である。
図2(B)は、
図2(A)におけるA−A線でノズルボディ3を断面としている。
【0027】
燃料噴射弁1は、先端部に噴孔2を備えたノズルボディ3を備える。ノズルボディ3の内部には、ニードル部材4が摺動自在に配置されている。ニードル部材4の基端側には駆動部5が設けられている。駆動部5にはECU10が電気的に接続されている。ニードル部材4は、ECU10の指令を受けた駆動部5により昇降動作をする。ニードル部材4の先端部には、拡径部4aが設けられており、その外周面には、螺旋溝4a1が設けられている。螺旋溝4a1は、ノズルボディ3内を流れる燃料に旋回成分を付与する。すなわち、螺旋溝3a1は旋回成分生成手段に相当する。ニードル部材4の先端部には、シート部4bが設けられている。このシート部4bがノズルボディ3の内周面に設けられたシート面3aから離座することにより燃料噴射弁1は、開弁状態(噴射状態)となる。また、シート部4bがシート面3aに着座することにより、燃料噴射弁1は、閉弁状態(噴射停止状態)となる。
【0028】
ECU10にはA/Fセンサ11が電気的に接続されている。A/Fセンサ11はデポジットの堆積量を推定するために用いられる。すなわち、ECU10はA/Fセンサ11から取得したデータに基づいて空燃比補正値を算出し、この空燃比補正値に基づいてデポジットの堆積量を推定する。すなわち、空燃比補正値が大きくなると、デポジット堆積量による燃料噴射量の低減が発生していると判断する。
【0029】
ノズルボディ3の内周壁には、燃料キャビテーションを発生させるキャビテーション発生室7a、7bが設けられている。
図2は、ノズルボディ3の内部、特に、螺旋溝4a1内に堆積したデポジットを効率よく洗浄するための状態を示している。すなわち、図中X部を拡大して示すように、キャビテーション発生室7a、7bと螺旋溝4a1とが対向した状態となっている(オーバーラップ率100%)。キャビテーション発生室7a、7bは、ともに螺旋溝4a1と対向することができるように、軸方向に連続する螺旋溝4a1に対応させて軸方向にずらして配置されている。螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとが対向することにより、螺旋溝4a1内を流れる燃料がキャビテーション発生室7a、7b内に入り込み、この際、流れに剥離が生じ、燃料キャビテーションが発生する。発生した燃料キャビテーションはデポジットに作用してデポジットを洗浄することができる。
【0030】
なお、
図3に示すように、螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとの位置をずらすことにより、キャビテーション発生室7a、7bにおける燃料キャビテーションの発生を抑制することができる。通常の燃料噴射を行うときは、ニードル部材4とノズルボディ3のとの関係を
図3に示すような関係とすることができる。
【0031】
以上のような燃料噴射弁1の制御の一例について
図4(A)〜
図4(C)、
図5を参照しつつ説明する。
図4(A)は実施例1の燃料噴射弁1の燃料噴射モードを示し、
図4(B)は実施例1の燃料噴射弁1の過渡モードを示し、
図4(C)は実施例1の燃料噴射弁1の洗浄モードを示す説明図である。
図5は、デポジット堆積量と、螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率との関係を示すマップの一例である。
図6は、空燃比補正値と燃料噴射低下量との関係に、キャビテーション発生量変更手段を動作させるための閾値を当てはめたグラフの一例である。
【0032】
燃料キャビテーションを発生させると圧損が生じ、燃料の旋回力の低下が懸念される。燃料の旋回力が低下すると、燃料中に所望の気泡を発生させることができず、燃料の微粒化性能を低下させることにもなりかねない。そこで、常時燃料量キャビテーションを発生させるのではなく、デポジットが堆積し、その洗浄が必要となった場合に燃料キャビテーションを発生させるようにする。
【0033】
具体的には、螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率を変更する。すなわち、デポジット堆積量が多いときは、螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率を大きくし、燃料キャビテーションを十分に発生させてデポジットを除去する(洗浄モード)。一方、デポジット堆積量が全くないか、燃料噴射に影響を及ぼす量ではないと判断させるときは、オーバーラップ率をゼロとする(燃料噴射モード)。さらに、これらの間の状態については、過渡モードとすることもできる。
【0034】
ECU10は、A/Fセンサ11から取得したデータに基づいて算出した空燃比補正値が第1閾値よりも小さいと判断したときは、それ程多くのデポジットが堆積していないと判断する。そして、ECU10は、燃料噴射弁1の状態を
図4(A)に示す燃料噴射モードとする。燃料噴射モード時のキャビテーション発生室7a、7bは、ニードル部材4が備える拡径部4aの螺旋溝4a1以外の部分により閉塞される状態となる。これにより、燃料キャビテーションの発生が抑制され、燃料微粒化のための気泡の発生への影響が緩和される。
【0035】
ECU10は、A/Fセンサ11から取得したデータに基づいて算出した空燃比補正値が第1閾値と第2閾値との間であると判断したときは、多少デポジットが堆積しているとして判断する。そして、ECU10は、燃料噴射弁1の状態を
図4(B)に示す過渡モードとする。過渡モード時のキャビテーション発生室7a、7bは、ニードル部材4が備える拡径部4aの螺旋溝4a1とその一部においてオーバーラップした状態となる。これにより、燃料キャビテーションの発生が限定的となり、燃料微粒化のための気泡の発生とデポジット洗浄の両立が図られる。
【0036】
ECU10は、A/Fセンサ11から取得したデータに基づいて算出した空燃比補正値が第2閾値を越えると判断したときは、大量にデポジットが堆積しているとして判断する。そして、ECU10は、燃料噴射弁1の状態を
図4(C)に示す洗浄モードとする。洗浄モード時のキャビテーション発生室7a、7bは、ニードル部材4が備える拡径部4aの螺旋溝4a1と完全にオーバーラップした状態となる。これにより、燃料キャビテーションによるデポジット洗浄が積極的に行われる。この結果、燃料噴射弁1の噴射率等の機能が回復する。
【0037】
なお、螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率は、駆動部5によって任意に制御される。駆動部5及びECU10は、キャビテーション発生室7a、7bにおけるキャビテーション発生量を変更するキャビテーション発生量変更手段の機能を発揮する。すなわち、旋回流生成手段に相当する螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとの対向状態を変更する。
【実施例2】
【0038】
つぎに、実施例2について、
図7(A)、
図7(B)を参照しつつ説明する。
図7(A)は実施例2の燃料噴射弁20の燃料噴射モードを示す説明図であり、
図7(B)は実施例2の燃料噴射弁20の洗浄モードを示す説明図である。
【0039】
実施例2の燃料噴射弁20が、実施例1の燃料噴射弁1と異なる点は以下の如くである。すなわち、実施例1の燃料噴射弁1は、ニードル部材4のリフト量を変更することにより螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率を制御している。これに対し、実施例2の燃料噴射弁20は、ニードル部材4を回転させることにより螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率を制御している。すなわち、螺旋溝4a1は、螺旋の性質上、回転角度によって同一視点から観察される高さ位置が異なる。ニードル部材4の回転駆動は、昇降駆動を行う駆動部5に回転駆動用のアクチュエータを組み込むことにより実現することができる。
【0040】
なお、他の構成要素は、実施例1と同様であるので、共通する構成要素には図面中、同一の参照番号を付し、その詳細な説明は、省略する。
【0041】
ニードル部材4の回転駆動によるオーバーラップ率の制御は、燃料噴射弁のエンジンへの搭載上の問題等により、燃料噴射弁の全長を十分に確保することが困難であって、リフト量の変化を実現困難であるとき等に有利である。実施例2の場合も、回転角度を制御することにより、実施例1の場合と同様に燃料噴射モード、過渡モード、洗浄モードを実現することができる。
【実施例3】
【0042】
つぎに実施例3の燃料噴射弁30について、
図8及び
図9を参照しつつ説明する。
図8は、実施例3の燃料噴射弁30の概略構成を示す説明図である。
図9は、デポジット堆積量と、開閉弁の開弁角との関係を示すマップの一例である。
【0043】
実施例3の燃料噴射弁30が実施例1の燃料噴射弁1と異なる点は、以下の如くである。すなわち、燃料噴射弁30は、キャビテーション発生室7a、7bの開口部7a1、7b1の開閉手段の一例である開閉弁31を備える。開閉弁31は、Y部を拡大して示すように小型のアクチュエータ32によって駆動される。アクチュエータ32は、ECU10と電気的に接続されている。
【0044】
すなわち、実施例1では、螺旋溝4a1とキャビテーション発生室7a、7bとのオーバーラップ率を変更したが、実施例2では、開閉弁31の開度を変更することによって、燃料キャビテーションの発生量を制御する。
【0045】
具体的には、
図9に示すように、デポジット堆積量が多いときは、開閉弁31の開度を大きくし、燃料キャビテーションを十分に発生させてデポジットを除去する(洗浄モード)。一方、デポジット堆積量が全くないか、燃料噴射に影響を及ぼす量ではないと判断させるときは、開度をゼロとする(燃料噴射モード)。さらに、これらの間の状態については、過渡モードとすることもできる。デポジット堆積量の推定には、実施例1の場合と同様に
図6に示したマップを用いることができる。
【0046】
ECU10は、A/Fセンサ11から取得したデータに基づいて算出した空燃比補正値が第1閾値よりも小さいと判断したときは、それ程多くのデポジットが堆積していないと判断する。そして、ECU10は、燃料噴射弁30を燃料噴射モード(開閉弁31の開度0°)とする。燃料噴射モード時のキャビテーション発生室7a、7bは、開閉弁31により閉塞される状態となる。これにより、燃料キャビテーションの発生が抑制され、燃料微粒化のための気泡の発生への影響が緩和される。
【0047】
ECU10は、A/Fセンサ11から取得したデータに基づいて算出した空燃比補正値が第1閾値と第2閾値との間であると判断したときは、多少デポジットが堆積しているとして判断する。そして、ECU10は、燃料噴射弁30を過渡モードとする。過渡モード時のキャビテーション発生室7a、7bは、開閉弁31により、僅かに開放された状態となる。これにより、燃料キャビテーションの発生が限定的となり、燃料微粒化のための気泡の発生とデポジット洗浄の両立が図られる。
【0048】
ECU10は、A/Fセンサ11から取得したデータに基づいて算出した空燃比補正値が第2閾値を越えると判断したときは、大量にデポジットが堆積しているとして判断する。そして、ECU10は、燃料噴射弁30を洗浄モードとする。洗浄モード時のキャビテーション発生室7a、7bは、開閉弁31により完全に開放された状態となる。これにより、燃料キャビテーションによるデポジット洗浄が積極的に行われる。この結果、燃料噴射弁1の噴射率等の機能が回復する。
【0049】
このように、開閉弁31を用いてキャビテーション発生量を制御することができ、デポジットの洗浄を行うことができる。
【実施例5】
【0052】
つぎに実施例5の燃料噴射弁について
図11を参照しつつ説明する。
図11(A)は実施例1〜4の燃料噴射弁が備えるニードル部材4の先端部を示す説明図であり、
図11(B)は実施例5の燃料噴射弁が備えるニードル部材51の先端部を示す説明図である。
【0053】
実施例1〜4の燃料噴射弁が備えるニードル部材4と実施例5の燃料噴射弁が備えるニードル部材51とは、いずれもその拡径部4a、51aの外周面に螺旋溝4a1、51aを有する点で共通する。しかしながら、螺旋溝4a1の溝幅は、その開始端と終端を除き、一定である。これに対し、螺旋溝51a1の溝幅Wは、上流側から下流側に行くに従って狭くなっている。
【0054】
このように、溝幅Wを設定することにより、キャビテーション発生室7a、7bにおいて発生した燃料キャビテ−ションの気泡が螺旋溝51a1の壁面に衝突し易くなる。この結果、螺旋溝51a1内に堆積したデポジットを効率よく洗浄することができる。
【0055】
なお、燃料を微細化するための気泡の径は螺旋溝51a1の幅Wよりも十分に小さい。このため、螺旋溝51a1内で発生した微細気泡は、噴孔から噴射されるまで崩壊せずに維持される。
【0056】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。