特許第5831004号(P5831004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5831004
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20151119BHJP
【FI】
   G03G15/20 535
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-160750(P2011-160750)
(22)【出願日】2011年7月22日
(65)【公開番号】特開2013-25146(P2013-25146A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090446
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 司朗
(74)【代理人】
【識別番号】100125597
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 国人
(74)【代理人】
【識別番号】100146798
【弁理士】
【氏名又は名称】川畑 孝二
(74)【代理人】
【識別番号】100121027
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 公一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正幸
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 晋也
(72)【発明者】
【氏名】田丸 剛士
【審査官】 八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−233746(JP,A)
【文献】 特開2008−151858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源を内蔵する加熱ローラに加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に通紙させることによって記録シート上のトナー像を当該記録シートに定着させる定着装置において、
前記加熱ローラはすべり軸受を介して支持体に軸支されると共に、
前記加圧部材を前記加熱ローラに押圧した押圧状態と前記加圧部材を前記加熱ローラから離間した離間状態とに切り替える押圧・離間機構と、
記すべり軸受を前記支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動させ、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせる回動手段
を有し、
前記回動手段は、前記押圧・離間機構が、前記押圧状態から離間状態に切り替えるタイミングで、前記すべり軸受を回動させることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記回動手段は、
前記すべり軸受の外周面の周方向に形成された歯列からなる爪車と、
前記爪車と噛み合う爪と、
を有し、
前記爪が前記加圧部材の押圧・離間動作に連動して移動し、前記爪車を回動させることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項3】
前記爪は前記加圧部材の離間動作に伴い、前記歯列に係合して前記爪車を所定の角度分回動させるとともに、前記爪は押圧動作に伴い前記歯列を乗り越えたのちにストッパーとして前記歯列に係合することを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項4】
前記爪車に形成された歯の数をT個、
1回当たりの回動角度を前記爪車の歯数にしてt個、
とした場合、
Tとtとは、Tがtよりも大きく、かつTはtで割り切れない関係にあることを特徴とする請求項またはに記載の定着装置。
【請求項5】
熱源を内蔵する加熱ローラに加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に通紙させることによって記録シート上のトナー像を当該記録シートに定着させる定着装置において、
前記加熱ローラはすべり軸受を介して支持体に軸支されており、
記すべり軸受を前記支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動させ、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせる回動手段と、
前記加圧部材を前記加熱ローラに押圧した押圧状態と前記加圧部材を前記加熱ローラから離間した離間状態とに切り替える押圧・離間機構と、
前記ニップ部を通過した記録シートの枚数をカウントするカウント手段と
を有し、
前記回動手段は、モータと、前記モータの動力を前記すべり軸受に伝達する動力伝達機構と、前記モータの回転制御を行う制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記カウント手段によるカウント枚数が所定枚数以上であって、かつ、前記加圧部材が前記離間状態となる毎に、前記すべり軸受を回動させることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
熱源を内蔵する加熱ローラに加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に通紙させることによって記録シート上のトナー像を当該記録シートに定着させる定着装置において、
前記加熱ローラはすべり軸受を介して支持体に軸支されており、
前記加圧部材を前記加熱ローラに押圧した押圧状態と前記加圧部材を前記加熱ローラから離間した離間状態とに切り替える押圧・離間機構と、
前記加圧部材が前記離間状態にあるとき、前記すべり軸受を前記支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動させ、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせる回動手段
を有し、
前記回動手段は、モータと、前記モータの動力を前記すべり軸受に伝達する動力伝達機構と、前記モータの回転制御を行う制御手段とを含み、
前記動力伝達機構は、前記すべり軸受の外周面の周方向に形成された歯列からなるウォームホイールと、
前記ウォームホイールと歯合して当該ウォームホイールを回転させるウォームと、
を含むことを特徴とする定着装置。
【請求項7】
前記回動手段は、前記加圧部材の加圧力によるラジアル荷重が最も大きく作用する前記すべり軸受の荷重集中部位が、回動前後で異なる位置となるように、前記すべり軸受を回動させることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
電子写真方式で記録シート上に画像を形成する画像形成装置であって、
記録シート上に形成されたトナー像の定着装置として、請求項1〜のいずれか1項に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関し、特に、熱ローラ定着方式による定着装置および当該定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機等の画像形成装置において、トナー画像を記録シートに定着させる定着装置として多く採用されている熱ローラ定着方式のものは、加圧ローラと円筒状をした加熱ローラとを有する。
加熱ローラの中空部には、ヒータランプ等の熱源が設けられており、これにより加熱ローラの外周面を内周面側から加熱する。加熱ローラと平行に設けられた加圧ローラは、加熱ローラに押圧され、加熱ローラとの間でニップを形成する。そして、当該ニップに未定着状態のトナー画像が形成された記録シートを通過させることにより、加熱ローラ外周面から伝導される熱エネルギーと加圧ローラによる圧力の作用によって定着が行われる。
【0003】
一般的に、加熱ローラの両端は、金属製のころがり軸受によって回転自在に支持されている。しかし、金属製のころがり軸受は熱伝導性が高いため、当該軸受を介して熱が逃げてしまう。すなわち、本来、トナー画像の定着に使用されるべき熱が無駄になる上、前記軸受を介して熱伝導されることにより、加熱の必要のない定着装置部分も加熱されることになる。
【0004】
そこで、近年の省エネルギーの要請から、加熱ローラに与えられた熱を有効に利用すべく、加熱ローラの両端を合成樹脂製のすべり軸受で支持することが考えられる。
これによれば、加熱ローラは、金属製のころがり軸受よりも熱伝導性の低い合成樹脂製すべり軸受で支持されるため、当該すべり軸受を介して浪費される熱が少なくなるので、加熱ローラに与えられた熱のより多くをトナー画像の定着に用いることが可能となり、熱の有効利用が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−104599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、良好な熱定着を実現するため、加圧ローラは、例えば400[N]といった大きな押圧力で加熱ローラに押圧されており、加熱ローラ両端のすべり軸受が当該押圧力(ラジアル荷重)を受け止める。すべり軸受は、前記ラジアル荷重をその内周面の半周で受け止めるが、当該半周の内でもその周方向中央部分に荷重が集中する。この状態で、加熱ローラが回転するため、荷重が集中する前記中央部分の摩耗の進行がその他の部分よりも早くなる。その結果、すべり軸受の内周面の横断面は、円形から徐々に歪んでいき、加熱ローラの滑らかな回転が阻害されてしまう。
【0007】
本発明は、上記した課題に鑑み、すべり軸受内面の歪みが可能な限り低減でき、もって、加熱ローラの円滑な回転を確保できる定着装置、および当該定着装置を備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る定着装置は、熱源を内蔵する加熱ローラに加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に通紙させることによって記録シート上のトナー像を当該記録シートに定着させる定着装置において、前記加熱ローラはすべり軸受を介して支持体に軸支されると共に、前記加圧部材を前記加熱ローラに押圧した押圧状態と前記加圧部材を前記加熱ローラから離間した離間状態とに切り替える押圧・離間機構と、前記すべり軸受を前記支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動させ、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせる回動手段とを有し、前記回動手段は、前記押圧・離間機構が、前記押圧状態から離間状態に切り替えるタイミングで、前記すべり軸受を回動させることを特徴とする。
【0009】
また、前記回動手段は、前記すべり軸受の外周面の周方向に形成された歯列からなる爪車と、前記爪車と噛み合う爪と、を有し、前記爪が前記加圧部材の押圧・離間動作に連動して移動し、前記爪車を回動させることを特徴とする。
【0010】
この場合に、前記爪は前記加圧部材の離間動作に伴い、前記歯列に係合して前記爪車を所定の角度分回動させるとともに、前記爪は押圧動作に伴い前記歯列を乗り越えたのちにストッパーとして前記歯列に係合することを特徴とする。
また、前記爪車に形成された歯の数をT個、1回当たりの回動角度を前記爪車の歯数にしてt個、とした場合、Tとtとは、Tがtよりも大きく、かつTはtで割り切れない関係にあることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、熱源を内蔵する加熱ローラに加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に通紙させることによって記録シート上のトナー像を当該記録シートに定着させる定着装置において、前記加熱ローラはすべり軸受を介して支持体に軸支されており、前記すべり軸受を前記支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動させ、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせる回動手段と、前記加圧部材を前記加熱ローラに押圧した押圧状態と前記加圧部材を前記加熱ローラから離間した離間状態とに切り替える押圧・離間機構と、前記ニップ部を通過した記録シートの枚数をカウントするカウント手段とを有し、前記回動手段は、モータと、前記モータの動力を前記すべり軸受に伝達する動力伝達機構と、前記モータの回転制御を行う制御手段とを含み、前記制御手段は、前記カウント手段によるカウント枚数が所定枚数以上であって、かつ、前記加圧部材が前記離間状態となる毎に、前記すべり軸受を回動させることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明は、熱源を内蔵する加熱ローラに加圧部材を押圧してニップ部を形成し、当該ニップ部に通紙させることによって記録シート上のトナー像を当該記録シートに定着させる定着装置において、前記加熱ローラはすべり軸受を介して支持体に軸支されており、前記加圧部材を前記加熱ローラに押圧した押圧状態と前記加圧部材を前記加熱ローラから離間した離間状態とに切り替える押圧・離間機構と、前記加圧部材が前記離間状態にあるとき、前記すべり軸受を前記支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動させ、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせる回動手段とを有し、前記回動手段は、モータと、前記モータの動力を前記すべり軸受に伝達する動力伝達機構と、前記モータの回転制御を行う制御手段とを含み、前記動力伝達機構は、前記すべり軸受の外周面の周方向に形成された歯列からなるウォームホイールと、前記ウォームホイールと歯合して当該ウォームホイールを回転させるウォームと、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、前記回動手段は、前記加圧部材の加圧力によるラジアル荷重が最も大きく作用する前記すべり軸受の荷重集中部位が、回動前後で異なる位置となるように、前記すべり軸受を回動させることを特徴とする。
上記の目的を達成するため、本発明に係る画像形成装置は、電子写真方式で記録シート上に画像を形成する画像形成装置であって、記録シート上に形成されたトナー像の定着装置として、上記した定着装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記の構成からなる定着装置によれば、所定のタイミングですべり軸受が支持体に対しその軸心周りに所定の角度回動されて、前記すべり軸受の周方向における部位を回動前後で異ならせることができるため、ラジアル荷重が最も大きく作用する内周面部分が変更されない場合に生じるすべり軸受内面の歪みが可能な限り低減でき、もって、加熱ローラの円滑な回転を確保できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係るタンデム型プリンタの概略構成を示す図である。
図2】実施の形態1に係る定着装置の正面図であって、加圧ローラを加熱ローラに押圧した状態を示す図である。
図3図2におけるE・E線に沿って切断した半断面図である。
図4】実施の形態1に係る定着装置の正面図であって、加圧ローラを加熱ローラから離間した状態を示す図である。
図5】実施の形態2に係る定着装置の正面図であって、加圧ローラを加熱ローラに押圧した状態を示す図である。
図6】実施の形態2に係る定着装置の制御部で実行される軸受間欠回動制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る定着装置およびこれを備えた画像形成装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係るタンデム型プリンタ10(以下、単に「プリンタ10」と言う。)の概略構成を示す図である。なお、ここでは、プリンタを例に取り上げているが、本発明は複写機やファクシミリ等の画像形成装置にも適用できる。
【0017】
図1に示すように、プリンタ10は、筐体12内部に水平に架設され、矢印Aの方向に走行する転写ベルト14、転写ベルト14の走行方向に列設された4つの作像ユニット16C,16M,16Y,16K、各作像ユニットに対応して設けられた1次転写ローラ18C,18M,18Y,18K、および2次転写ユニット20を含み、各作像ユニット16C,16M,16Y,16Kによって形成された各色成分のトナー像を、一旦転写ベルト14に重ね合わせて転写した後、記録シートSに転写してカラー画像を形成する、いわゆる中間転写方式の画像形成装置である。
【0018】
作像ユニット20C,22M,22Y,20Kの各々は、像担持体である感光体ドラム22C,22M,22Y,22Kを中心としてその周囲に配された帯電ユニット24C,24M,24Y,24K、現像ユニット26C,26M,26Y,26Kを有している。作像ユニット20C,…,20Kの下方には、露光ユニット28が配されており、各感光体ドラム22C,…,22Kに向けて、光変調されたレーザ光LBが出射される。矢印Bの方向に回転される感光体ドラム22C,…,22Kの表面は、帯電ユニット24C,…,24Kによって一様に帯電された後、前記レーザ光LBによって露光されて、その表面に静電潜像が形成され、当該静電潜像は現像ユニット16C,…,16Kによってトナー像に現像される。なお、各現像ユニット16C,…,16Kは、レーザ光の光変調色成分に対応して、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)のトナーを現像剤として感光体ドラム22C,…,22Kに供給する。
【0019】
各感光体ドラム22C,…,22Kに形成されたトナー像は、1次転写ローラ18C,…,18Kと感光体ドラム22C,…,22Kとの間に発生する電界の作用を受けて、走行する転写ベルト14上に順次転写される。
一方、給紙カセット30からピックアップローラ32によって繰り出された記録シートSは、転写ベルト14上のトナー像が2次転写ユニット20に到達するタイミングに合わせて、レジストローラ34によって2次転写ユニット20へと搬送される。2次転写ユニット20は、転写ベルト14上に重ね合わされたトナー像を、記録シートS上へ転写する。
【0020】
記録シートS上のトナー像は、定着装置36によって定着された後、排出ローラ38によって、排紙トレイ40へ排出される。
なお、プリンタ10は、制御部42を有しており、制御部42はCPU44にROM46、RAM48が接続された構成を有している。CPU44は、ROM46に格納された各種制御プログラムを実行することにより、上記した各ユニット、装置を統括的に制御して円滑な画像形成動作を実現する。
【0021】
図2に定着装置36の正面図を、図3図2におけるE−E線に沿って切断した半断面図の一部をそれぞれ示す。
定着装置36は、加熱ローラ50と加圧部材である加圧ローラ52とを有する。
加熱ローラ50は、金属製の円筒部材の外周面に離型層(不図示)を形成してなるものであり、その中空部には、熱源であるヒータランプ54が内蔵されている。
【0022】
加熱ローラ50は、両端が、記録シートSが通紙される中央部よりも縮径されている(以下、縮径された端部を「縮径部58」と称する。)。加熱ローラ50は、縮径部58がすべり軸受60を介して、支持体である金属製の支持板62に軸支されて支持されている。なお、加熱ローラ50の図3に現れていないもう一方の端部も、すべり軸受60と同様のすべり軸受を介して、支持板62と同様の支持板に軸支されている。
【0023】
すべり軸受60は、フランジ部63を有するスリーブ軸受である。フランジ部63と反対側の外周面には、周方向に複数個(本例では、56個)の歯64が等ピッチで形成されてなる歯列が形成されて、爪車66が構成されている。すべり軸受60は、ポリアセタール、フッ素樹脂、ナイロンその他の合成樹脂からなり、ステンレスその他の金属よりも熱伝導率が低いと言う意味で断熱性を有する。
【0024】
加圧ローラ52は、金属製の芯金68外周面にシリコーンゴム、フッ素樹脂からなる弾性層70が形成されてなるものである。芯金68は、全体的に円柱状をしており、弾性層70が形成されてなる中央部の両端に、中央部よりも縮径された縮径部72を有している。加圧ローラ52は、縮径部72が金属製のころがり軸受74を介して揺動板76に軸支されている。
【0025】
揺動板76は、図2において紙面に垂直な方向に一様な厚みを有する金属製の板材である。揺動板76は、長手方向が紙面に垂直な方向に配されたシャフト78に取り付けられており、揺動板76は、シャフト78の軸心周りに揺動可能になっている。なお、シャフト78は、不図示の筐体に固定されている。
揺動板76には、一端部が鉤状に形成された爪80の他端部が、ピン82を介して取り付けられており、爪76はピン82の軸心周りに回動可能になっている。爪80の鉤状端部(以下、「鉤部80A」と言う。)は、爪車66のいずれかの歯64に係合している。
【0026】
爪80と揺動板76との間には、ねじりコイルばね81が掛け渡されている。ねじりコイルばね81の復元力により、爪80には、ピン82の軸心周りに、反時計方向に回動しようとする作用が働いている。これにより、鉤部80Aは、常に、爪車66の外周に当接状態にある。
揺動板76は、また、ころがり軸受74を挟んでシャフト78と反対側に、短冊状のレバー部84を有している。
【0027】
レバー部84の基部近傍と支持板62との間には、引張りコイルばね86が張架されている。引張りコイルばね86の復元力が、揺動板76に対し、シャフト78を中心として反時計回りに回転させようとする向きに常に作用している。
また、レバー部84の先端部近傍には、板カム88が設けられている。板カム88は、長手方向が紙面に垂直方向に設けられた、カムシャフト90に固定されている。カムシャフト90は、不図示のモータから不図示の動力伝達機構を介して、矢印Fの向きに回動される。これに伴い、カムシャフト90に一体的に固定されている板カム88もカムシャフト90の軸心周りに回動する。
【0028】
なお、加圧ローラ52の図2に現れていない他端部部分にも対応させて、上記したころがり軸受74、揺動板76、爪80、ねじりコイルばね81、引張りコイルばね86、および板カム88と同様の部材が、同様の態様で設けられている。また、加圧ローラ52は、不図示のモータから不図示の動力伝達機構を介して伝達される動力により、画像形成中、図2において時計回り(矢印Kの向き)に回転される。
【0029】
上記の構成からなる定着装置36では、画像形成が実行されている間は、板カム88は図2に示す位置にある。このとき、引張りコイルばね86の復元力によって、加圧ローラ52は加熱ローラ50に押圧され、加圧ローラ52の弾性層70の一部が弾性変形してニップ部を形成する。そして、回転する加圧ローラ52に従動して加熱ローラ50が反時計回りに回転し、未定着状態のトナー像が形成された記録シートSを前記ニップ部に通紙させることによって、当該記録シートSにトナー像が定着される。
【0030】
ここで、加圧ローラ52の両端部に設けられた引張りコイルばね86によって加圧ローラ52は加熱ローラ50を、例えば400[N]の力で押圧する。この押圧力によるラジアル荷重がすべり軸受60に作用する。当該ラジアル荷重は、すべり軸受60の内周面の約半周に作用するが、その半周の内でもその周方向中央の部位に最も大きく作用する。以下、加圧ローラ52の押圧力によるラジアル荷重が最も大きく作用する内周面の周方向における前記部位を「荷重集中部位」と称することとする。このため、なんら手当てをしない場合には、[発明が解決しようとする課題]欄で説明した通り、すべり軸受の内周面の横断面形状が、円形から徐々に歪んでいき、加熱ローラの滑らかな回転が阻害されてしまう。
【0031】
そこで、すべり軸受60を支持板62に対し、その軸心周りに、所定のタイミングで所定の角度だけ回動させることとしている。実施の形態1では、支持板62、シャフト78、揺動板76、引張りコイルばね86、板カム88、およびカムシャフト90を主な構成要素とする押圧・離間機構によって、加圧ローラ52を加熱ローラ50に押圧した押圧状態から加圧ローラ52を加熱ローラ50から離間した離間状態に切り替えるタイミングで前記すべり軸受60を回動させる。
【0032】
具体的に説明すると、図2に示す状態で、板カム88が矢印Fの向きに回動されると、レバー部84が板カム88の周面に押圧され、図4に示すように、揺動板76全体が、矢印Gの向きに揺動する。このとき、一端部が揺動板76に連結され、他端部の鉤部80Aが爪車66の歯64に係合した爪80が一点鎖線で示す位置から移動し、この移動に伴い、爪車66が、矢印Jの向きに所定の角度分(本例では、3歯分)だけ回動される。
【0033】
板カム88が、さらに矢印Fの向きに回動され、図2に示す状態に戻る際には、爪80の鉤部80Aは、爪車66の歯64を三個乗り越えて、図2に示す位置に復帰する。このとき、すべり軸受60は、加熱ローラ50の自重等により生ずる支持板62との間の摩擦力のため、回動することはない。なお、加熱ローラ50が加圧ローラ52に従動して回転する際には、爪80がストッパーとなって、すべり軸受60(爪車66)が加熱ローラ50と共回りするのが阻止される。
【0034】
このように、加圧ローラ52の押圧・離間動作に伴い、すべり軸受60は小刻みに間欠的に回動されるため、荷重集中部位も少しずつズレることとなるので、すべり軸受内面の歪みを可能な限り低減でき、もって、加熱ローラ50の円滑な回転が確保できることとなる。
ここで、上記の通り、爪車66の歯数は56個で、一回に3歯分だけ回動される。56を3で割り算すると2余るため(すなわち、割り切れないため)、爪車66が1回転される毎に、爪80の鉤部80Aが係合する歯64が1個ずつズレることとなる。よって、揺動板76の揺動幅が、爪車66の歯64のピッチ(配置間隔)を大きく超えるものであっても、結局、1歯ずつ小刻みに爪車66が送られることと等しい結果となり、すべり軸受内面の荷重集中部位を可能な限りくまなく変更することが可能となる。
【0035】
なお、加圧ローラ52は、画像形成中は、図2に示すように加熱ローラ50に押圧され、画像形成中以外は、図4に示すように加熱ローラ50から離間される。常時加圧することとした場合、長期間に渡って画像形成がなされないと、加圧ローラ52の弾性変形部分が完全に元に復原されないおそれがあり、そうなると記録シートの円滑な通紙の妨げとなる。これに対し、本実施の形態では、上記のように、画像形成中以外(すなわち、加圧ローラ52が回転駆動されないとき)は、加圧ローラ52を加熱ローラ50から離間して、加圧ローラ52に弾性変形を起こさせないようにしているため、常時加圧するとした場合の上記の問題の発生を防止することができる。
<実施の形態2>
実施の形態2に係るプリンタは、実施の形態1のプリンタ10とは、主として定着装置におけるすべり軸受の回動手段が異なる以外は、基本的に同様の構成である。よって、実施の形態2を説明する図面において、実施の形態1と実質的に同様の構成部分には同じ符号を付して、必要に応じて言及するに止め、以下、異なる部分を中心に説明する。
【0036】
図5は、実施の形態2に係る定着装置100を示す正面図であり、図2と同様に描いたものである。
定着装置100は、モータ102と、モータ102の出力軸104に嵌合されたウォーム106とを有している。
定着装置100に用いるすべり軸受108は、実施の形態1のすべり軸受60と同様、フランジ部63を有するスリーブ軸受である。フランジ部63と反対側の外周面には、周方向に複数個の歯110が等ピッチで形成されてなる歯列が形成されて、ウォームホイール112が構成されている。なお、すべり軸受108が合成樹脂からなるのは、実施の形態1と同様である。
【0037】
そして、ウォームホイール112にウォーム106が歯合しており、モータ102を回転駆動することにより、すべり軸受108が回動される。これによれば、実施の形態1とは異なり、加圧ローラ52の押圧・離間動作とは無関係に任意のタイミングですべり軸受けを回動させることができる。
また、定着装置100は、板カム88が図5に実線で示す位置にあるため、加圧ローラ52が加熱ローラ50を押圧しているのか、あるいは、板カム88が一点鎖線で示す位置にあるため加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間しているのかを検出するためのカムセンサ114が設けられている。カムセンサ114は、実線で示す板カム88のカムシャフト90から最も遠い部分の近傍を挟み、対向配置された発光素子と受光素子(いずれも不図示)とを有する。発光素子からの出射光が板カム88に遮られて受光素子で受光されないときは、加圧ローラ52が加熱ローラ50を押圧している状態であると判断され、受光素子が前記出射光を受光しているときは、加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間している状態であると判断される。
【0038】
実施の形態2のプリンタでは、図1に示すように、記録シートSの搬送路中、定着装置の下流側直後にあって、通過する記録シートSを検出するシート検出センサ116が設けられている。
制御部42のCPU44は、カムセンサ114、シート検出センサ116の検出結果に基づいて所定のタイミングで、モータ102を起動し、すべり軸受108を間欠的に回動させる。具体的には、定着装置100(ニップ部)を通過した記録シートSが所定枚数(例えば、1000枚)以上になり、加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間しているときに回動させる。
【0039】
図6に、ROM46に格納されている軸受間欠回動制御プログラムのフローチャートを示す。当該プログラムは、プリンタのスイッチがオンされたときに起動される。
制御手段であるCPU44は、シート検出センサ116の検出結果に基づき、記録シートSが定着装置100(ニップ部)を通過したと判断すると(ステップS1でYES)、変数nの値を1つインクリメントする(ステップS2)。よって、ステップS1とステップS2とが、ニップ部を通過した記録シートの枚数をカウントするカウント手段として機能する。累積通過枚数であるnの値が、予め定められた所定の値N(例えば、N=1000)以上か否かを判断する(ステップS3)。
【0040】
nがN未満の場合は(ステップS3でNO)、ステップS1に戻り、記録シートSの通過枚数の記録処理を繰り返して実行する(ステップS1〜3)。
nがN以上の場合は(ステップS3でYES)、カムセンサ114の検出結果に基づいて、加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間しているか否かを判定する(ステップS4)。
【0041】
離間していないと判定した場合は(ステップS4でNO)、ステップS1に戻り、加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間するまで、ステップS1〜4の処理を繰り返す。
一方、加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間していると判定した場合は(ステップS4でYES)、モータ102を起動して、すべり軸受108を所定角度(例えば、5度)回動させたのち、記録シートSの累積通過枚数を示すnをリセットした後(ステップS6)、ステップS1に戻り、以降、上記S1〜6の処理を繰り返す。
【0042】
以上の通り、実施の形態2では、記録シートSの定着装置100(ニップ部)の通過枚数が所定の枚数Nに到達した後、初めて加圧ローラ52が加熱ローラ50から離間したときに、すべり軸受108を回動させることとしている。これにより、一の回動から次の回動に至る間に、すべり軸受内面の荷重集中部位に生じる摩耗の程度が毎回同程度にすることができるため、すべり軸受内面の周方向における摩耗を可能な限り均一にすることができ、その結果、すべり軸受内面の歪みが生じにくくなる。
【0043】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下の形態とすることもできる。
(1)すべり軸受の1回当たりの回動角度であるが、上記した量に限らない。要は、360度の整数倍以外の角度であれば構わない。すべり軸受内面の荷重集中部位を変更するのが目的であるため、一の回動の結果、当該一の回動前と同じ回動位置に戻らなければ良いからである。換言すれば、荷重集中部位を回動前後で異ならせれば構わないからである。
【0044】
(2)上記実施の形態1,2では、すべり軸受に歯を直接形成して、爪車またはウォームホイールを構成したが、これに限らず、爪車またはウォームホイールは別個に製作し、これを、すべり軸受に一体的に取り付けても構わない。例えば、中空円板の外周に歯列を周方向に等間隔で形成したものを、すべり軸受の外周に嵌合させても構わない。
(3)上記実施の形態1では、爪車の歯数(以下、「全歯数」と言う。)を56個、すべり軸受の1回の回動のため爪で送る歯数(以下、「送り歯数」と言う)を3個としたが、全歯数と送り歯数は上記の個数に限らないことは言うまでもなく、任意に設定できる(ただし、全歯数は送り歯数よりも大きい)。送り歯数を1個としても構わないし、2個や4個以上としても構わない。
【0045】
この場合に、上記した例のように、全歯数を送り歯数で割り切れない数としても構わない。すなわち、全歯数をT[個]、送り歯数をt[個]とした場合(Tとtは、正の整数で、T>t)に、Tとtとが、Tがtで割り切れない関係としても構わない。このようにすることにより、前述した効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る定着装置は、例えば、プリンタ、複写機等の画像形成装置において、記録シート上の未定着トナー像を当該記録シートに定着させる定着装置として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
36,100 定着装置
50 加熱ローラ
52 加圧ローラ
54 ヒータランプ
60,108 すべり軸受
62 支持板
66 爪車
76 揺動板
78 シャフト
80 爪
86 引張りコイルばね
88 板カム
90 カムシャフト
102 モータ
104 出力軸
106 ウォーム
112 ウォームホイール
図1
図2
図3
図4
図5
図6