特許第5831130号(P5831130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5831130
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】フロントピラー構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/04 20060101AFI20151119BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20151119BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   B62D25/04 A
   B60J5/00 M
   B60J5/00 Q
   B60J5/06 A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-233297(P2011-233297)
(22)【出願日】2011年10月24日
(65)【公開番号】特開2013-91359(P2013-91359A)
(43)【公開日】2013年5月16日
【審査請求日】2014年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】須崎 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】八尾 崇
【審査官】 川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−035878(JP,A)
【文献】 特開2010−274724(JP,A)
【文献】 特開2003−127898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
B60J 5/00
B60J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドドアを移動可能に支持するロッカの車体前方側に下端部が取り付けられたフロントピラーインナパネルに、車体上方側へ延在するように設けられた断面「U」字状の縦柱と、
前記フロントピラーインナパネルと前記縦柱とで構成された閉断面を仕切るように該縦柱内に配置されるとともに、車体前方側からホイールを介して前記縦柱に入力される荷重の入力位置よりも車体上方側で、かつ前記スライドドアにおけるインパクトビームの高さ位置と同一高さ位置に車体上下方向略中央部が位置するように前記フロントピラーインナパネルに取り付けられ、車体前後方向から見て、前記ホイールの車体上方側における一部分とオーバーラップしている補強部材と、
前記補強部材の車体後方側で、かつ前記インパクトビームの高さ位置と同一高さ位置に配置され、前記スライドドアをロックするためのストライカと、
を有することを特徴とするフロントピラー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前席にスライドドアを備えた車両のフロントピラー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドドアを備えた自動車等の車両は、ロッカにレールを設置する。そのため、ロッカは、車幅方向外側が開放側となる凹状(開断面形状)に形成される。すなわち、ロッカには、車幅方向外側に開口する溝部が形成され、その溝部内にレールが設置される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−54448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロッカが開断面形状に形成されていると、ロッカが閉断面形状に形成されている構成に比べて、その剛性が低下する。したがって、前席にスライドドアを備えた車両が前面衝突したときには、車体前方側から入力された荷重により、ロッカが変形してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、前席にスライドドアを備えた車両において、ロッカに対する荷重の入力を低減できるフロントピラー構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載のフロントピラー構造は、スライドドアを移動可能に支持するロッカの車体前方側に下端部が取り付けられたフロントピラーインナパネルに、車体上方側へ延在するように設けられた断面「U」字状の縦柱と、前記フロントピラーインナパネルと前記縦柱とで構成された閉断面を仕切るように該縦柱内に配置されるとともに、車体前方側からホイールを介して前記縦柱に入力される荷重の入力位置よりも車体上方側で、かつ前記スライドドアにおけるインパクトビームの高さ位置と同一高さ位置に車体上下方向略中央部が位置するように前記フロントピラーインナパネルに取り付けられ、車体前後方向から見て、前記ホイールの車体上方側における一部分とオーバーラップしている補強部材と、前記補強部材の車体後方側で、かつ前記インパクトビームの高さ位置と同一高さ位置に配置され、前記スライドドアをロックするためのストライカと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前席にスライドドアを備えた車両において、ロッカに対する荷重の入力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】前席にスライドドアを備えた自動車の概略側面図である。
図2】フロントピラーとロッカの構成を示す概略斜視図である。
図3】フロントピラーとロッカの構成を示す概略側面図である。
図4】バルクヘッドを車幅方向から見たときの側面図である。
図5】前突時におけるバルクヘッドの作用を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において適宜示す矢印UPを車体上方向、矢印FRを車体前方向、矢印OUTを車幅方向外側とする。
【0011】
図1で示すように、本実施形態に係るフロントピラー構造10は、前席がスライドドア14とされた車両としての自動車12に適用される。図2図3で示すように、この自動車12のロッカ16は、車幅方向外側が開放側とされた開断面形状に形成されている。
【0012】
すなわち、このロッカ16には、車幅方向外側に開口する溝部18が形成されており、その溝部18内に、スライドドア14を車体前後方向へ移動可能に支持するレール(図示省略)が設置されている。そして、ロッカ16の車体前方側にはフロントピラー20が配設されている。
【0013】
フロントピラー20は、車幅方向内側に配置され、ロッカ16に車体下方側端部(下端部)が取り付けられたフロントピラーインナパネル(以下「インナパネル」という)22と、インナパネル22の外壁面22Aに接合された横断面ハット形状の縦柱24と、インナパネル22と縦柱24とで構成された閉断面を仕切る(横断する)ように縦柱24内に配置されるとともに、インナパネル22の外壁面22Aに接合された縦断面ハット形状の補強部材としてのバルクヘッド26と、を有している。
【0014】
詳細には、縦柱24は、水平方向に沿った断面で(平断面視で)車幅方向内側が開放側となるハット形状(正確な「U」字ではない断面「U」字状)に形成されている。そして、縦柱24の車体前後方向側に一体に連設され、かつ車体上下方向に沿って延在する各フランジ部24Aが、インナパネル22の車幅方向外側を向く外壁面22Aにスポット溶接等の接合手段によって接合されている。
【0015】
なお、このとき、図3で示すように、縦柱24の車体前方側を向く前壁面24Bが、車幅方向から見た側面視で、ホイールハウス30を構成するロッカ16の車体前方側端面16Aよりも一定の間隔L(例えばL=50mm程度)だけ車体後方側へずれて配置されるように、縦柱24がインナパネル22の外壁面22Aに接合されている。
【0016】
一方、バルクヘッド26は、鉛直方向に沿った断面で(正断面視で)車幅方向内側が開放側となるハット形状(正確な「U」字ではない断面「U」字状)に形成されている。すなわち、このバルクヘッド26は、図2図4で示すように、車幅方向外側に配置される平板状の外壁面27Aと車体上方側に配置される平板状の上壁面27Bと車体下方側に配置される平板状の下壁面27Cとを備えた本体部27と、外壁面27Aの車体後方側端部から車幅方向内側に向かって一体に連設された平板状の側板28と、を有している。
【0017】
そして、上壁面27Bの車幅方向内側端部には、車体上方側へ向かう取付部としてのフランジ部26Aが一体に連設され、下壁面27Cの車幅方向内側端部には、車体下方側へ向かう取付部としてのフランジ部26Bが一体に連設されている。つまり、このバルクヘッド26は、各フランジ部26A、26Bが、インナパネル22の外壁面22Aにスポット溶接されることで、その外壁面22Aに接合されている(取り付けられている)。
【0018】
また、本体部27の外壁面27Aには、本体部27の車体前後方向から入力される荷重に対する補強用として、車体前後方向に延在する複数(図示のものは2本)の凹部27D(ビード部)が一体に形成されている。また、上壁面27Bの車体前後方向両端部には、それぞれ車体上方側へ向かうフランジ部27Eが一体に連設され、下壁面27Cの車体前後方向両端部には、それぞれ車体下方側へ向かうフランジ部27Fが一体に連設されている。
【0019】
このバルクヘッド26は、縦柱24の内部に配置可能な大きさに形成されており、車体後方側に形成されたフランジ部27E、27Fは、縦柱24の後壁面24Cに内側から当接するようになっている。そして、車体前方側に形成されたフランジ部27E、27Fも、縦柱24の前壁面24Bに内側から当接するようになっており、車体前方側から入力された荷重によって縦柱24が塑性変形される(潰される)際に、その縦柱24の前壁面24Bを内側から支持して、その変形を抑制するようになっている。
【0020】
なお、図4で示すように、車幅方向から見た側面視で、車体前方側のフランジ部27E、27Fは、それぞれ外壁面27Aの車体前方側における辺縁部よりも一定の間隔S1、S2(例えばS1、S2=10mm程度)だけ車体前方側へ突出した位置に形成され、車体後方側のフランジ部27E、27Fは、それぞれ外壁面27Aと側板28との連設部位よりも一定の間隔S3、S4(例えばS3、S4=10mm程度)だけ車体後方側へ突出した位置に形成されている。
【0021】
また、図5で示すように、自動車12の前面衝突時等に車体前方側からホイール40(タイヤ)を介してフロントピラー20(縦柱24)に入力される荷重の入力位置(矢印Aで示す)は、ロッカ16の車体上方側の辺縁部16Bよりも車体上方側へ離れた位置とされている。
【0022】
そして、バルクヘッド26の本体部27は、そのフロントピラー20(縦柱24)に対する荷重入力位置(矢印Aで示す)よりも更に車体上方側へ離れた位置に配置されている。すなわち、このバルクヘッド26(本体部27)は、下壁面27Cとフランジ部26Bとの連設部位が、ロッカ16の辺縁部16Bよりも、例えば100mm以上車体上方側へ離れた位置に接合されている。
【0023】
より詳細には、このバルクヘッド26(本体部27)は、外壁面27Aに一体に連設された側板28の車体上下方向略中央部に、スライドドア14を閉塞状態にロックするためのストライカ32が、縦柱24の後壁面24Cと共締めされるように、インナパネル22の外壁面22Aの車体上下方向における取付位置(スライドドア14における後述するインパクトビーム38の高さ位置と同一高さ位置)に接合されている。
【0024】
また、図2図3図5で示すように、スライドドア14の車体前方側端面には、ストライカ32にロックされるロック機構部34が設けられている。そして、スライドドア14の内部には、そのロック機構部34と同一高さ位置に、一対のインパクトビームエクステンション36が車体前後方向に離れて配設されており、車体前方側のインパクトビームエクステンション36は、ロック機構部34と共締めされている。
【0025】
また、スライドドア14の内部には、車体前後方向に延在する円管状の補強部材であるインパクトビーム38が配設されており、このインパクトビーム38は、その両端部がそれぞれインパクトビームエクステンション36に支持されている。つまり、この自動車12においては、インパクトビーム38、インパクトビームエクステンション36、ロック機構部34、ストライカ32、側板28の車体上下方向略中央部(バルクヘッド26の本体部27)が、同一高さ位置に配設されている。
【0026】
以上のような構成のフロントピラー構造10において、次にその作用について説明する。上記したように、フロントピラー20を構成する縦柱24の車体前方側を向く前壁面24Bは、車幅方向から見た側面視で、ロッカ16の車体前方側端面16Aよりも間隔Lだけ車体後方側へずれて配置されている。
【0027】
ここで、縦柱24の前壁面24Bとロッカ16の車体前方側端面16Aとが車体前後方向において同一位置に配置されていると、自動車12の前面衝突時に、車体前方側からホイール40を介して縦柱24及びロッカ16に衝突荷重が伝達される。すると、その縦柱24において反力が生じ、その反力がロッカ16に伝達される。つまり、このような構成であると、図5で示す後述する矢印B方向の曲げモーメントM1が増大する。
【0028】
しかしながら、本実施形態に係るフロントピラー構造10では、上記したように、縦柱24の前壁面24Bが、ロッカ16の車体前方側端面16Aよりも間隔Lだけ車体後方側にずれて配置されている。したがって、図5で示すように、自動車12が前面衝突すると、車体前方側からホイール40を介して、縦柱24よりも先にロッカ16へ衝突荷重が入力される。よって、縦柱24において反力は発生せず、ロッカ16へ入力される荷重を低減させることができる。
【0029】
なお、ロッカ16には、ロッカ16に伝達された荷重により、車幅方向を軸として、図示の矢印B方向へ曲げモーメントM1が発生する。また、ロッカ16に続いて縦柱24に衝突荷重が入力されるが、その縦柱24に対する荷重入力位置は、図示の矢印Aで示すように、車体上下方向におけるロッカ16とバルクヘッド26との間になる。つまり、バルクヘッド26の本体部27は、フロントピラー20の縦柱24への荷重入力位置よりも車体上方側に配置されている。
【0030】
一方、自動車12の前面衝突時には、スライドドア14に車体後方側から車体前方側に向けて慣性力Fが作用する。ここで、インパクトビーム38、インパクトビームエクステンション36、ロック機構部34、ストライカ32、側板28の車体上下方向略中央部(バルクヘッド26の本体部27)は、同一高さ位置に配設されている。
【0031】
したがって、スライドドア14のインパクトビーム38から、インパクトビームエクステンション36、ロック機構部34、ストライカ32を介して、側板28の車体上下方向略中央部に、車体前方側へ向かう慣性力Fを効率よく伝達することができる。つまり、これにより、バルクヘッド26の本体部27に対して車体前方側へ向かう慣性力Fを効率よく伝達することができる。
【0032】
したがって、矢印Aで示すホイール40からの荷重入力位置よりも車体上方側のフロントピラー20の縦柱24には、その内側から、バルクヘッド26(本体部27)によって、車幅方向を軸として、矢印B方向の曲げモーメントM1とは逆方向となる図示の矢印C方向へ曲げモーメントM2を発生させることができる。
【0033】
よって、ロッカ16に作用する矢印B方向への曲げモーメントM1を、縦柱24に作用する矢印C方向への曲げモーメントM2によって打ち消す(キャンセルする)ことができ、ロッカ16に対する荷重の入力を低減させることができる。つまり、これによれば、車幅方向外側が開放側とされた開断面形状のロッカ16における前面衝突時の変形を抑制又は防止することができる。
【0034】
しかも、バルクヘッド26における各フランジ部26A、26Bは、インナパネル22にスポット溶接によって接合されているので、バルクヘッド26(縦柱24)に車体前方側から荷重が入力されても、そのバルクヘッド26がインナパネル22から離脱されることが抑制又は防止されている。そして、本体部27の外壁面27Aには、複数の凹部27D(ビード部)が一体に形成されている。
【0035】
したがって、このバルクヘッド26(本体部27)により、インナパネル22と縦柱24とで構成する閉断面形状を適切に保持(維持)することができるとともに、スライドドア14(インパクトビーム38)から伝達される慣性力Fによる矢印C方向への曲げモーメントM2を適切に発生させることができる。
【0036】
また、バルクヘッド26が、上記した取付位置に配設されている場合、車体前後方向から見た正面視で、ホイール40の車体上方側における一部分が、バルクヘッド26の本体部27とオーバーラップする。そして、バルクヘッド26の本体部27(上壁面27B及び下壁面27C)には、外壁面27Aよりも車体前方側へ突出するフランジ部27E、27Fが形成されている。
【0037】
したがって、自動車12の前面衝突時には、車体後方側へ移動するホイール40により、縦柱24を介して、少なくとも車体前方側のフランジ部27F及び下壁面27Cが車体後方側へ向かって塑性変形させられる(潰される)ことになる。
【0038】
よって、車体前方側からホイール40を介してロッカ16へ入力される荷重を、バルクヘッド26(本体部27)によって、ある程度吸収する(低減させる)ことができ、ロッカ16に作用する矢印B方向への曲げモーメントM1を低減させることができる。つまり、これによれば、車幅方向外側が開放側とされた開断面形状のロッカ16における前面衝突時の変形を更に抑制又は防止することができる。
【0039】
以上、本実施形態に係るフロントピラー構造10について、図面を基に説明したが、本実施形態に係るフロントピラー構造10は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば、バルクヘッド26をインナパネル22の外壁面22Aに接合する接合手段としては、スポット溶接に限定されるものではなく、スポット溶接以上の強度を有する接合手段であればよい。
【符号の説明】
【0040】
10 フロントピラー構造
14 スライドドア
16 ロッカ
20 フロントピラー
22 インナパネル(フロントピラーインナパネル)
24 縦柱
26 バルクヘッド(補強部材)
38 インパクトビーム
40 ホイール
図1
図2
図3
図4
図5