特許第5831160号(P5831160)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧
<>
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000002
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000003
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000004
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000005
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000006
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000007
  • 特許5831160-内燃機関の制御装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5831160
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 5/15 20060101AFI20151119BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20151119BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20151119BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
   F02P5/15 E
   F02D43/00 301B
   F02D43/00 301J
   F02D45/00 301C
   F02D45/00 312B
   F02D41/06 335Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-253047(P2011-253047)
(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公開番号】特開2013-108400(P2013-108400A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】川辺 敬
(72)【発明者】
【氏名】平石 文昭
(72)【発明者】
【氏名】村上 信明
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−116895(JP,A)
【文献】 特開2009−167825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 −41/40
F02D 43/00 −45/00
F02P 5/145− 5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内噴射を実施する多気筒の内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の各気筒内への燃料噴射を圧縮行程で実施する燃料噴射制御手段と、
前記燃料噴射制御手段による燃料噴射時に全気筒の点火時期をリタードさせるとともに、該燃料噴射の開始時から所定期間後に点火順序が連続しない一部の気筒の点火時期を他の気筒の点火時期よりもリタードさせる点火制御手段と
を備えたことを特徴とする、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の冷却水温を検出する水温検出手段を備え、
前記水温検出手段で検出された前記冷却水温が所定水温以下のときに、前記燃料噴射制御手段が前記内燃機関の各気筒内への燃料噴射を圧縮行程で実施する
ことを特徴とする、請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の排気系に設けられた触媒装置の温度を検出する触媒温度検出手段を備え、
前記点火制御手段は、全気筒の点火時期のリタードから所定時間経過後における前記触媒温度が所定値以下である場合に、前記一部の気筒の点火時期を他の気筒の点火時期よりもリタードさせる
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の冷却水温に基づき、前記内燃機関の負荷の大きさを制御する負荷制御手段を備え、
前記負荷制御手段は、全気筒の点火時期のリタードから所定時間経過後検出された前記冷却水温所定水温よりも低い第二所定水温以下のときに、前記負荷を増大させる
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関が、列設された複数の気筒を有し、
前記点火制御手段が、前記複数の気筒のうち、少なくとも端部以外に配置された気筒の点火時期をリタードさせる
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内噴射を実施する多気筒の内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)の排気通路上に三元触媒,酸化触媒といった触媒装置を備えた車両の排気浄化制御の一つとして、触媒温度を迅速に活性温度まで高めるべく排気温度を上昇させる昇温制御が知られている。この昇温制御には、排気中に含まれる未燃成分の酸化熱を利用して排気温度を上昇させるものや、点火時期のリタードによって排気温度を上昇させるもの等が存在する。
【0003】
前者は、排気中の炭素成分(炭化水素や一酸化炭素等)を触媒上で酸化させるときに生じる酸化熱を排気の昇温に利用するものである。この種の技術としては、燃料噴射のタイミングや燃焼形態を制御することで、筒内から排出される排気中に未燃液体成分(炭化水素)や未燃気体成分(一酸化炭素)を残留させる技術が知られている。また、排気通路上に燃料添加弁を追加して、炭化水素を排気中に直接添加する技術もある。
【0004】
しかし、これらの技術では、エンジンを回転させるのに必要な燃料とは別に、触媒上での酸化反応で消費される燃料,添加剤が必要となる。さらに、触媒上で排気中の炭素成分を酸化させるには、触媒温度が所定の活性温度に達していなければならない。つまり、触媒が十分に温まっていない状態では他の手法を用いて触媒を昇温させる必要がある。
【0005】
一方、後者は点火時期を圧縮上死点よりも遅角(リタード)側に制御して、排気行程後の排気通路内でも燃焼反応を進行させる(いわゆる後燃え状態とする)ことにより、排気温度を上昇させるものである。点火時期のリタードによって筒内での燃焼速度が低下すると、後燃えの傾向が強まり、排気温度が上昇する。この場合、触媒上での酸化反応に頼ることなく排気温度を上昇させることが可能である。
【0006】
また、上記のような点火リタード制御に加えて、筒内への燃料噴射時期を圧縮行程内に設定することで排気を昇温させる技術も知られている。点火直前の圧縮行程で燃料を筒内に噴射すると、燃料の筒内での拡散を抑制しやすく、筒内における燃料濃度の高い部位を点火プラグの近傍に局在化させやすくなる。これにより、点火時期の大幅なリタードが可能となり、排気温度がさらに上昇する。なお、圧縮行程で燃料を筒内噴射しつつ点火リタード制御を実施する技術としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−197674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エンジンの気筒内での燃焼安定性を考慮すると、点火時期のリタード量には限界があり、排気の昇温速度をさらに高めることが難しい。一方、近年では、エンジンに要求される環境性能や車両に要求される排ガス浄化性能が高度化しており、触媒をより早期に活性化するための新たな手法が模索されている。
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、内燃機関の制御装置に関し、排気の昇温性能を向上させることである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する内燃機関の制御装置は、筒内噴射を実施する多気筒の内燃機関の制御装置である。まず、前記内燃機関の各気筒内への燃料噴射を圧縮行程で実施する燃料噴射制御手段を設ける。また、前記燃料噴射制御手段による燃料噴射時に全気筒の点火時期をリタードさせるとともに、該燃料噴射の開始時から所定期間後に点火順序が連続しない一部の気筒の点火時期を他の気筒の点火時期よりもリタードさせる点火制御手段を設ける。
つまり、点火時期の制御に際して、全ての気筒の点火時期をリタードさせた上で、点火時期が連続しない気筒についてのリタード量を他気筒よりも増大させる。
ここでいう「点火順序が連続しない一部の気筒」とは、多気筒のうちの一つの気筒であってもよいし、複数の気筒であってもよい。リタードさせる気筒数を一つとする場合には、何れの気筒を選択した場合であっても点火順序が連続しない。また、リタードさせる気筒数を複数にする場合には、点火順序が連続しない気筒の組み合わせの中から任意の組み合わせを選択すればよい。
【0010】
(2)また、前記内燃機関の冷却水温を検出する水温検出手段を備えることが好ましい。この場合前記水温検出手段で検出された前記冷却水温が所定水温以下のときに、前記燃料噴射制御手段が前記内燃機関の各気筒内への燃料噴射を圧縮行程で実施することが好ましい。
つまり、点火順序が連続しない気筒の点火時期を他の気筒の点火時期よりもリタードさせる際に、冷却水温を指標として「内燃機関が冷態始動したこと」を検出,判定することが好ましい
【0011】
(3)また、前記内燃機関の排気系に設けられた触媒装置の温度を検出する触媒温度検出手段を備えることが好ましい。この場合、前記点火制御手段は、全気筒の点火時期のリタードから所定時間経過後における前記触媒温度が所定値以下である場合に、前記一部の気筒の点火時期を他の気筒の点火時期よりもリタードさせることが好ましい。
【0012】
(4)また、前記内燃機関の冷却水温に基づき、前記内燃機関の負荷の大きさを制御する負荷制御手段を備えることが好ましい。この場合、前記負荷制御手段は、全気筒の点火時期のリタードから所定時間経過後検出された前記冷却水温所定水温よりも低い第二所定水温以下のときに、前記負荷を増大させることが好ましい。例えば、上記のリタード制御に加えて、空調装置やオルタネーター等を作動させることが好ましい。
【0013】
(5)また、前記内燃機関が、列設された複数の気筒を有し、前記点火制御手段が、前記複数の気筒のうち、少なくとも端部以外に配置された気筒の点火時期をリタードさせることが好ましい。つまり、リタードの対象気筒をシリンダーブロックの内側(端部ではない位置)に配置された気筒とすることが好ましい。なお、リタードさせる気筒数が複数の場合には、少なくとも一つの気筒が内側に配置されたものであることが好ましい。より好ましくは、全ての気筒が内側に配置されたものとする。
【発明の効果】
【0014】
開示の内燃機関の制御装置によれば、点火順序が連続しない一部の気筒の点火時期を他の気筒よりもリタードさせることで、内燃機関の回転安定性を確保しながら排気流量を増大させることができ、排気の昇温性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る内燃機関の制御装置のブロック構成及びこの制御装置が適用されたエンジンの構成を例示する図である。
図2図1の内燃機関の各気筒の配置を示す模式図である。
図3図1の制御装置で実施される燃料噴射モードの選択に関するフローチャートである。
図4図1の制御装置で実施される点火モードの選択に関するフローチャートである。
図5図1の制御装置で実施される負荷増大制御に関するフローチャートである。
図6図1の制御装置による制御作用を説明するためのタイムチャートである。
図7図1の制御装置による制御作用を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して内燃機関の制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。また、以下の実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよく、実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0017】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態の制御装置は、図1図2に示す水冷式のエンジン10(内燃機関)に適用される。このエンジン10は、図2に示すように直列四気筒エンジンであり、シリンダーブロック30をシリンダヘッド側から見たときに、四個の気筒20(シリンダー)が直列に配置されている。以下、列設されたこれらの各気筒20について個別に述べる際には、シリンダーブロック30の端部側のものから順に、第一気筒20a,第二気筒20b,第三気筒20c,第四気筒20dと呼ぶ。第一気筒20a及び第四気筒20dは列設方向の両端部に配置され、第二気筒20b及び第三気筒20cは列の内側で、第一気筒20aと第四気筒20dとの間に挟まれた内側の位置に配置される。なお、図1ではこれらの各気筒20のうちの任意の一つの断面を示す。
【0018】
気筒20内には、図1に示すように、コネクティングロッドを介してクランクシャフト21に接続されたピストン19が往復摺動自在にはめ込まれている。コネクティングロッドは、ピストン19の往復運動をクランクシャフト21の回転運動に変換するリンク部材である。
また、気筒20の周囲には、冷却水の流路となるウォータージャケット23が設けられる。このウォータージャケット23には冷却水通路24が接続されており、これらのウォータージャケット23及び冷却水通路24の内部を冷却水が循環している。
【0019】
ウォータージャケット23は、四つの気筒20a〜20dの外周に沿って連接される。第一気筒20a及び第四気筒20dは、隣接する一つの気筒に面する部位を除くほぼ全周にわたってウォータージャケット23に囲まれており、冷却性が良好である。一方、第二気筒20b及び第三気筒20cはそれぞれ二つの気筒20に隣接するため、第一気筒20aや第四気筒20dと比較してシリンダーライナーの温度が低下しにくく、保温性が良好である。
【0020】
図1に示すように、冷却水通路24上には、ウォーターポンプ25及びラジエータ26が介装される。ウォーターポンプ25は、その回転数に応じた流量の冷却水を吐出する流量可変型のポンプである。このウォーターポンプ25には図示しないバッテリが接続され、バッテリから電力の供給を受けて作動する。
ラジエータ26は、冷却水と空気(例えば車両外部から導入される外気)との間で熱交換を行わせることで冷却水を冷却する熱交換器である。エンジン10で発生した熱はウォータージャケット23内の冷却水に伝達され、冷却水の熱がラジエータ26で放熱される。
【0021】
[1−2.吸排気系]
気筒20の天井面には、吸気ポート13及び排気ポート14が接続される。吸気ポート13における気筒20側の開口部には吸気弁15が設けられ、排気ポート14には排気弁16が設けられる。吸気弁15が開閉することで吸気ポート13と気筒20の内部空間(燃焼室)とが連通又は閉鎖され、排気弁16が開閉することで排気ポート14と気筒20の内部空間とが連通又は閉鎖される。
【0022】
吸気ポート13と排気ポート14との間には、点火プラグ17がその先端を気筒20の内側に突出させた状態で設けられる。この点火プラグ17は、四つの気筒20a〜20dのそれぞれに一つずつ設けられる。以下、図2に示すように、第一気筒20a〜第四気筒20dのそれぞれの点火プラグ17に符号17a〜17dを付して説明する。これらの点火プラグ17a〜17dでの点火のタイミングは、後述するエンジン制御装置1で個別に制御される。
【0023】
また、図2に示すように、エンジン10の各気筒20に繋がる各吸気ポート13の上流側にはインテークマニホールド27(吸気マニホールド,インマニ)が接続され、各排気ポート14の下流側にはエキゾーストマニホールド28(排気マニホールド,エキマニ)が接続される。また、エキゾーストマニホールド28よりも排気のさらに下流側の排気通路18上には、図1に示すように、触媒装置22が介装される。この触媒装置22は、排気中に含まれる各種成分を浄化するためのものであり、例えば三元触媒や酸化触媒,NOx浄化触媒,DPF等である。
【0024】
[1−3.燃料噴射系]
このエンジン10では、各気筒20に二種類のインジェクターが設けられる。一つは気筒20内に燃料を直接的に噴射する直噴インジェクター11(筒内噴射弁)であり、もう一つは吸気ポート13内に燃料を噴射するポート噴射インジェクター12(ポート噴射弁)である。直噴インジェクター11から燃料を噴射することを「DI噴射」と呼び、ポート噴射インジェクター12から燃料を噴射することを「PI噴射」と呼ぶ。
【0025】
直噴インジェクター11から噴射された燃料は、例えば筒内に形成される層状の空気流に乗って点火プラグ17の近傍に誘導され、吸入空気中に不均一に分布する。一方、ポート噴射インジェクター12から噴射された燃料は、例えば吸気ポート13内で霧化し、吸入空気とよく混ざった状態で気筒20内に導入される。一般に、ポート噴射インジェクター12から噴射される燃料の燃圧は、直噴インジェクター11から噴射される燃料の燃圧よりも低圧である。
【0026】
これらの二種類のインジェクター11,12から噴射される燃料量及びその噴射タイミングは、エンジン制御装置1で制御される。具体的には、エンジン制御装置1から各インジェクター11,12に制御パルス信号が伝達され、その制御パルス信号の大きさに対応する期間だけ、各インジェクター11,12の噴射口が開放される。これにより、燃料噴射量は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じた量となり、噴射タイミングは制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
【0027】
以下、図2に示すように、第一気筒20a〜第四気筒20dのそれぞれに設けられる直噴インジェクター11に符号11a〜11dを付して説明する。これらの直噴インジェクター11a〜11dでの燃料噴射のタイミングは、エンジン制御装置1で個別に制御される。なお、各気筒のポート噴射インジェクター12もエンジン制御装置1で個別に制御されるが、本実施形態では主に直噴インジェクター11a〜11dによるDI噴射について詳述する。
【0028】
[1−4.センサー系]
冷却水通路24上の任意の位置には、冷却水温Wを検出する冷却水温センサー5(水温検出手段)が設けられる。冷却水温Wは、例えばエンジン10が冷態始動状態であるか否かを判断するために用いられる。ここで検出された冷却水温Wの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
触媒装置22の近傍には、触媒温度Cを検出する触媒温度センサー6(触媒温度検出手段)が設けられる。図1では、触媒温度センサー6を触媒装置22の上流側に設けたものを図示するが、触媒装置22の下流側に設けてもよい。この触媒温度センサー6で検出される触媒温度Cは、触媒装置22の活性を判断するための指標となる。ここで検出された触媒温度Cの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0029】
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Pを検出するアクセル開度センサー7が設けられる。アクセル開度Pは、運転者の発進要求や加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応する。なお、エンジン10の始動直後のアイドリング運転時にはアクセル開度Pがほぼ0である。ここで検出されたアクセル開度Pの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0030】
また、このエンジン10には、クランクシャフト21の回転角θを検出するクランク角センサー8が設けられる。クランク角センサー8で検出されたクランクシャフト21の回転角θに関する情報はエンジン制御装置1に伝達される。なお、単位時間あたりの回転角θの変化量はエンジン回転数Neに相当する。したがって、クランク角センサー8はエンジン10のエンジン回転数Neを検出する手段としての機能を持つ。エンジン回転数Neは、クランクシャフトの回転角θに基づいてエンジン制御装置1が演算する構成としてもよいし、クランク角センサー8の内部で演算する構成としてもよい。
また、車両の任意の位置には、自車両の速度(車速V)を検出する車速センサー9が設けられる。ここで検出された車速Vの情報はエンジン制御装置1に伝達される。
【0031】
[2.制御構成]
[2−1.制御モード]
エンジン制御装置1は、エンジン10の各気筒20a〜20dに対して供給される燃料噴射量,燃料供給手法,点火タイミング等を総合的に制御する電子制御装置であり、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。
このエンジン制御装置1には、エンジン10の始動時における燃料噴射の制御態様として「通常噴射モード」及び「圧縮S/Lモード」の二種類のモードが設定され、点火時期の制御態様として「通常点火モード」,「リタードモード」及び「追加リタードモード」の三種類のモードが設定されている。
【0032】
通常噴射モードは、「圧縮行程でのDI噴射」以外の燃料噴射方式を実施するモードであり、例えば吸気行程でのDI噴射やPI噴射を実施する制御モードである。このモードは、エンジン10を始動させるクランキング時,エンジン10が始動してからエンジン回転数Neが安定するまでの過渡期,エンジン10の始動後、所定時間TENDが経過した以後(排気温度や触媒温度Cが十分に暖まったアイドリング運転時)などに選択される。
また、この通常噴射モードは、運転者によるアクセル操作がなされて車両が走行し始めたときやエンジン10がアイドリング状態でなくなった時にも選択される。なお、具体的な通常噴射モード時の制御内容は任意であり、例えばエンジン10の運転状態や車両の走行状態に応じて、DI噴射とPI噴射とが適宜設定されるものとしてもよい。
【0033】
一方、圧縮S/Lモードは、エンジン10の始動後に排気温度を早期に昇温させるべく、圧縮行程でDI噴射を実施する燃料噴射モードである。このモードは、エンジン10の始動後であってエンジン回転数Neが安定したとき(エンジン始動時から所定時間TSTAが経過した時点以後)に選択される。なお、本実施形態ではさらに圧縮S/Lモードの実施条件が追加されており、冷却水温Wが所定水温W0以下である冷態始動時に選択される。
この圧縮S/Lモードでは、空燃比がスライトリーン(ストイキよりも僅かにリーンの空燃比であり、例えば14.7〜16の範囲内の空燃比)になるように、各気筒の直噴インジェクター11a〜11dから圧縮行程で燃料が供給される。
【0034】
続いて点火時期の制御について詳述する。
通常点火モードは、エンジン10に要求される出力や負荷に応じて点火時期を設定する通常のモードであり、燃料噴射モードが通常噴射モードであるときに選択される。具体的な通常点火モード時の制御内容は任意であり、例えばエンジン10の運転状態や車両の走行状態に応じて適宜設定される。一方、燃料噴射モードが圧縮S/Lモードであるときには、リタードモード,追加リタードモードの何れか一方が選択される。
【0035】
リタードモードは、点火時期を通常点火モード時よりもリタード方向(遅角方向)に制御するモードであり、燃料噴射のモードが圧縮S/Lモードとなったときに選択される。このリタードモードでは、各気筒の点火プラグ17a〜17dでの点火時期が通常点火モード時と比較してリタードするように制御される。
なお、前述の圧縮S/Lモードでは点火直前の圧縮行程で燃料が噴射されるため、筒内における燃料濃度の高い部位を点火プラグ17の近傍に局在化させやすい(燃料の筒内での拡散を抑制しやすい)という利点があり、適切なタイミングで燃料を供給することでエンジン10の回転を安定させたまま点火時期を大幅にリタードすることが可能となる。また、PI噴射を実施した場合と比較すると燃焼速度が速くなり、点火時期を大きくリタードできるというメリットがある。
【0036】
そこで、前述の圧縮S/Lモードの選択時にリタードモードで点火時期を遅らせ、排気行程後の排気通路内でも燃焼反応を進行させる(いわゆる後燃え状態とする)ことにより、排気温度を大幅に上昇させることが可能となる。また、点火時期を遅らせることで各気筒20a〜20d内での燃焼速度が低下するため、燃料の後燃えの傾向が強まり、排気温度の上昇傾向が強化される。
【0037】
追加リタードモードは、リタードモードでのリタード量をさらに増加させた(リタード量を大きくした)モードであり、圧縮S/Lモードの開始時から所定時間TAが経過したときに選択される。ただし、この追加リタードモードでは、全ての気筒20a〜20dの点火プラグ17a〜17dについての点火時期が変更されるのではなく、第二気筒20b及び第三気筒20cの点火プラグ17b,17cについての点火時期がリタードモード時よりもさらに遅れるように制御される。
【0038】
第二気筒20b,第三気筒20cは点火順序が連続しないため、これらの気筒20b,20cでの点火時期を遅らせたとしてもクランクシャフト21の回転速度が変動しにくく、エンジン10の回転安定性が確保される。また、図2に示すように、これらの気筒20b,20cはシリンダーブロック30の内側に配置されるため、シリンダーライナーの温度が低下しにくく、リタードによる失火が生じにくい。
この追加リタードモードは、圧縮S/Lモードが実施されている状態であって、排気温度のさらなる昇温が必要であると判断された場合に選択される。本実施形態では、触媒温度Cが所定温度C0(所定値)以下であるときに選択されるものとする。
【0039】
[2−2.制御部]
エンジン制御装置1には、上記の各モードでの制御を実施するためのソフトウェア又はハードウェアとして、燃料噴射制御部2,点火時期制御部3及び負荷制御部4が設けられる。エンジン制御装置1の入力側には冷却水温センサー5,触媒温度センサー6,アクセル開度センサー7,クランク角センサー8,車速センサー9が接続され、冷却水温W,触媒温度C,アクセル開度P,クランクシャフト21の回転角θ,車速Vの情報がそれぞれ入力される。また、エンジン制御装置1の出力側には、各気筒20a〜20dの直噴インジェクター11a〜11d,点火プラグ17a〜17d,ポート噴射インジェクター12等が接続される。
【0040】
燃料噴射制御部2(燃料噴射制御手段)は、各気筒20a〜20dの直噴インジェクター11a〜11dから筒内に噴射される燃料量及び燃料噴射のタイミングを制御するものである。ここでは、上記の通常噴射モードや圧縮S/Lモードの選択条件及び選択解除条件が判定される。これらの条件を以下に例示する。本実施形態では、通常噴射モードは以下の条件(A1)〜(A5)の何れかが成立したときに選択され、圧縮S/Lモードは以下の条件(B1)〜(B4)の全てが成立したときに選択される。また、選択された燃料噴射モードに基づき、燃料噴射制御部2はそれぞれのポート噴射インジェクター12に対して、所望のエンジン出力を得るための制御信号を出力する。
【0041】
・通常噴射モード
(A1)エンジン始動後の経過時間が所定時間TSTA未満である
(A2)エンジン始動後の経過時間が所定時間TENDを超えた(ただし、TSTA<TEND
(A3)車両が停車中でない
(A4)アクセル操作がなされた(アクセル全閉でない)
(A5)冷却水温Wが所定水温W0を超えている
・圧縮S/Lモード
(B1)エンジン始動後の経過時間が所定時間TSTA以上かつ所定時間TEND以内である
(B2)車両が停車中である
(B3)アクセル操作がなされていない(アクセル全閉である)
(B4)冷却水温Wが所定水温W0以下である
【0042】
また、燃料噴射制御部2は、以下に詳述する点火時期制御部3で制御される点火のタイミングに合わせて、圧縮S/Lモード時の燃料噴射タイミングを調整する制御を実施する。例えば、点火時期制御部3でリタードモードが選択されたときには、通常点火モードが選択された場合よりも燃料噴射のタイミングを遅角方向に移動させ、追加リタードモードが選択された場合にはさらにその遅角量を増大させる。
【0043】
点火時期制御部3(点火制御手段)は、各気筒20a〜20dの点火プラグ17a〜17dでの点火のタイミングを制御するものである。ここでは、上記の通常点火モード,リタードモード,追加リタードモードの選択条件及び選択解除条件が判定される。これらの条件を以下に例示する。本実施形態では、以下の条件(D1)及び(D2)がともに成立したときにリタードモードが選択され、条件(E1)〜(E4)が全て成立したときに追加リタードモードが選択される。また、選択された点火モードに基づき、点火時期制御部3はそれぞれの点火プラグ17a〜17dに制御信号を出力する。
【0044】
・通常点火モード
(C1)燃料噴射モードが通常噴射モードである
・リタードモード
(D1)燃料噴射モードが圧縮S/Lモードである
(D2)追加リタードモードが選択されていない
・追加リタードモード
(E1)燃料噴射モードが圧縮S/Lモードである
(E2)圧縮S/Lモードの経過時間が所定時間TA以上である
(E3)冷却水温Wが所定水温W0以下である
(E4)触媒温度Cが所定温度C0以下である
【0045】
なお、点火時期のリタードによってエンジン出力が低下する場合には、気筒内への吸入空気量が増量されるとともに、燃料噴射制御部2で制御される燃料噴射量の目標値が増量方向に補正される。この場合、点火時期をリタードさせない場合と比較して排気流量が増大し、触媒温度がさらに上昇しやすくなる。
【0046】
負荷制御部4(負荷制御手段)は、エンジン10の負荷を増大させる制御(負荷増大制御)を実施するものである。ここでは、図示しない空調装置やオルタネーターなどを作動させる制御が実施される。エンジン10の負荷が増大するとエンジン回転数が上昇しにくくなり、燃料噴射制御部2で制御される燃料噴射量の目標値が増量方向に補正される。これに伴い、気筒内への吸入空気量も増量されるため、排気流量が増大することになり、排気温度の上昇傾向が強化される。
【0047】
負荷増大制御の実施条件を以下に例示する。本実施形態では、以下の条件(F1)〜(F4)が全て成立したときにエンジン10の負荷が追加される。
(F1)燃料噴射モードが圧縮S/Lモードである
(F2)圧縮S/Lモードの経過時間が所定時間TA以上である
(F3)冷却水温Wが第二所定水温W1以下である(ただし、W1<W0
(F4)触媒温度Cが所定温度C1以下である(ただし、C1<C0
【0048】
[3.フローチャート]
本エンジン制御装置1を搭載した車両でエンジン10の始動時に実施される各種制御に関するフローチャートを図3図5に例示する。図3は燃料噴射モードの選択に関する制御のフローチャートであり、図4は点火モードの選択に関するもの、図5は負荷増大制御に関するものである。これらのフローは、エンジン10を搭載した車両のイグニッションスイッチがオン操作されると、エンジン制御装置1の内部で繰り返し実施される。
【0049】
[3−1.燃料噴射モード]
図3のフローは、燃料噴射制御部2で実施される制御内容に対応する。
ステップA10では、エンジン10の始動開始からの経過時間が所定時間TSTA以上、かつ、所定時間TEND未満であるか否かが判定される。TENDの判定基準となるエンジン10の始動開始時刻は、クランクシャフト21の回転角θの変化量やエンジン回転数Ne等に基づいて判定される。このステップの条件成立時にはステップA20へ進み、非成立時にはステップA50へ進んで通常噴射モードが選択される。なお、エンジン10がまだ始動していないクランキング中である場合にも、ステップA10の条件が成立しないものとしてステップA50に進み、通常噴射モードが選択される。
【0050】
ステップA20では、車両が停車中であるか否かが判定される。例えば、車速センサー9で検出された車速Vがごく小さい所定車速V0以下(なお、V0=0でもよい)であるか否かが判定される。ここでV≦V0であるときにはステップA30へ進み、V>V0であるときにはステップA50へ進む。
ステップA30では、アクセル開度Pが全閉(P=0)であるか否かが判定される。ここでアクセル操作がなされている場合にはステップA50へ進み、通常噴射モードが選択される。一方、アクセル操作がない場合には、ステップA40に進む。
【0051】
ステップA40では、冷却水温Wが所定水温W0以下であるか否かが判定される。W≦W0であるときにはステップA60へ進み、圧縮S/Lモードが選択される。一方、W>W0であるときにはステップA50へ進み、通常噴射モードが選択される。ここでは、エンジン10が冷態であるか温態であるかを判断するための指標として所定水温W0が用いられる。
【0052】
[3−2.点火モード]
図4のフローは、点火時期制御部3で実施される制御内容に対応する。
ステップB10では、燃料噴射モードが圧縮S/Lモードであるか否かが判定される。このとき、圧縮S/Lモードである場合にはステップB20へ進み、圧縮S/Lモードでない場合(通常噴射モードである場合)にはステップB60へ進んで通常点火モードが選択される。なお、ステップB20に進んだ場合には圧縮S/Lモードの選択条件がすでに成立しているため、冷却水温Wは所定水温W0以下である。
【0053】
ステップB20では、圧縮S/Lモードの開始時からの経過時間が所定時間TA以上であるか否かが判定される。このステップの条件が成立しない時にはステップB50へ進み、リタードモードが選択される。一方、このステップの条件が成立する時にはステップB30へ進む。
ステップB30では、触媒温度Cが所定温度C0以下であるか否かが判定される。ここでC≦C0である場合にはステップB40へ進み、追加リタードモードが選択される。一方、C>C0である場合にはステップB50へ進み、リタードモードが選択される。触媒温度Cの判定閾値である所定温度C0は、排気温度のさらなる昇温が必要であるか否かを判断するための指標となる。
【0054】
[3−3.負荷増大制御]
図5のフローは、負荷制御部4で実施される制御内容に対応する。
ステップC10では、燃料噴射モードが圧縮S/Lモードであるか否かが判定される。このとき、圧縮S/Lモードである場合にはステップC20へ進み、圧縮S/Lモードでない場合にはステップC60へ進む。
ステップC20では、圧縮S/Lモードの開始時からの経過時間が所定時間TA以上であるか否かが判定される。このステップの条件が成立しない時にはステップC60へ進み、このステップの条件が成立する時にはステップC30へ進む。
【0055】
ステップC30では、冷却水温Wが第二所定水温W1以下であるか否かが判定される。ここでW≦W1である場合にはステップC40へ進み、W>W1である場合にはステップC60へ進む。このステップでの冷却水温Wの判定閾値である第二所定水温W1は、圧縮S/Lモードの選択条件に含まれる所定水温W0よりも低い温度であり、エンジン10が冷態であるか極冷態であるかを判断するための指標となる。
【0056】
ステップC40では、触媒温度Cが所定温度C1以下であるか否かが判定される。ここでC≦C1である場合にはステップC50へ進み、エンジン10の負荷を追加する制御が実施される。一方、C>C1である場合にはステップC60へ進み、負荷が追加されることなく本フローが終了する。触媒温度Cの判定閾値である所定温度C1も、追加リタードモードの選択条件に含まれる所定温度C0よりも低い温度であり、排気温度をより迅速に昇温させる必要があるか否かを判断するための指標となる。
【0057】
[4.作用]
上記のエンジン10を搭載した車両において、エンジン10の始動時に上記のフローチャートに従って制御が実施された場合のモードの選択状態と、エンジン10に関する各種パラメーターの経時変動とを図6及び図7に示す。図6はエンジン10の冷態始動時に対応するものであり、図7は極冷態始動時に対応するものである。
【0058】
[4−1.冷態始動時]
図6に示す例では、エンジン10の始動前の時点での触媒温度Cが所定温度C1より高い温度である。時刻t0に車両のイグニッションスイッチがオン操作されると、スタータによるエンジン10のクランキングが開始される。
その後、図6(f)に示すように、時刻t1にエンジン回転数Neが所定回転数以上になると、エンジン10が始動したものと判定される。この時刻t1は、圧縮S/Lモードの選択条件に係る経過時間の計測開始時刻に相当する。エンジン10の始動直後に選択される燃料噴射モードは通常噴射モードであり、燃料噴射制御部2から直噴インジェクター11に出力される制御パルス信号は、PI噴射や吸気行程でのDI噴射を実施させるものとなる。
【0059】
時刻t1から所定時間TSTAが経過した時刻t2には、燃料噴射制御部2で圧縮S/Lモードが選択されるともに、点火時期制御部3でリタードモードが選択され、各気筒20a〜20dの点火プラグ17a〜17dでの点火時期が遅角方向に制御される。例えば、図6(d),(e)に示すように、全ての点火プラグ17a〜17dの点火時期が所定値R1に設定される。また、図6(b),(c)に示すように、全ての直噴インジェクター11a〜11dの燃料噴射時期が圧縮行程期間内の所定タイミングF1に変更される。これにより、排気温度が上昇するとともに排気流量が増大し、図6(a)に示すように触媒温度Cが上昇し、触媒が早期に活性化する。
【0060】
時刻t2から所定時間TAが経過した時刻t3になると、点火時期制御部3で追加リタードモードが選択される。これにより、図6(d)に示すように、第二気筒20b,第三気筒20cの点火プラグ17b,17cでの点火時期がリタードモード時よりもさらに大きく遅角方向に制御され、点火時期が所定値R2に設定される。また、この点火モードの変更に伴い、燃料噴射制御部2では燃料噴射のタイミングが遅角方向に変更される。例えば、図6(b)に示すように、時刻t3以降は、第二気筒20b,第三気筒20cの直噴インジェクター11b,11cの燃料噴射タイミングがさらに遅れるように調整される。
【0061】
これらの制御により排気温度の上昇傾向が強められ、図6(a)に示すように、触媒温度Cの上昇勾配が増大し、触媒の更なる活性化が促進される。なお、追加リタードモードを実施しなかった場合には、図6(a)中に破線で示すように、触媒温度Cの上昇が緩慢となる。
【0062】
時刻t4に触媒温度Cが所定温度C0以上になると追加リタードモードが終了し、点火時期制御部3で再びリタードモードが選択される。したがって、図6(d)に示すように、第二気筒20b,第三気筒20cの点火プラグ17b,17cの点火時期が第一気筒20a,第四気筒20dの点火プラグ17a,17dの点火時期と同じ所定値R1に再設定される。これに伴い、図6(b)に示すように、第二気筒20b,第三気筒20cの直噴インジェクター11b,11cの燃料噴射のタイミングが所定タイミングF1に戻される。
【0063】
その後、時刻t1から所定時間TENDが経過した時刻t5になると圧縮S/Lモードが終了し、燃料噴射制御部2で通常噴射モードが選択される。また、これと同時にリタードモードが終了し、点火時期制御部3で通常点火モードが選択されて、通常のエンジン10の制御が実施される。
【0064】
[4−2.極冷態始動時]
図7に示す例では、エンジン10の始動前の時点での触媒温度Cが所定温度C1より低い温度である。この場合、時刻t3までは図6と同様の挙動を示すが、時刻t3に負荷増大制御が実施されるため、図7(g)に示すように、エンジン負荷が増大する。これにより、図7(a)に示すように、排気温度の上昇傾向がさらに強められ、触媒温度Cの上昇勾配がさらに増大する。したがって、触媒温度Cが所定温度C0に達するまでにかかる時間がさらに短縮される。
【0065】
時刻t6に触媒温度Cが所定温度C0以上になると追加リタードモードが終了し、点火時期制御部3でリタードモードが選択されるとともに、負荷増大制御も終了する。なお、エンジン10の始動時における触媒温度Cが同一である場合、追加リタードモードが実施される時間の長さ(図7中の時刻t3から時刻t6までの期間)は、負荷増大制御を実施しない場合の時間の長さ(図6中の時刻t3から時刻t4までの期間)よりも大幅に短縮される。
【0066】
[5.効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、圧縮行程での筒内噴射を実施するエンジン10において、単純に点火時期をリタードさせるのではなく、点火順序が連続しない第二気筒20b及び第三気筒20cについての点火時期が第一気筒20a及び第四気筒20dについての点火時期よりも遅れるように、点火プラグ17a〜17dが制御される。このような制御構成により、エンジン10の回転安定性を確保しながら排気流量を増大させることができ、排気及び触媒装置22の昇温性能を向上させることができる。これにより、触媒装置22の触媒温度Cを効率的に昇温させることができ、触媒の早期活性化及び活性の更なる向上を促進することができる。
【0067】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、追加リタードモード時の追加リタードの対象となる気筒が第二気筒20b及び第三気筒20cであり、すなわちシリンダーブロック30の内側に配置された気筒についてのみリタード量を大きくする(点火時期を遅らせる)制御が実施される。このような制御構成により、シリンダーライナーの温度を維持しやすくすることができ、失火しにくくすることができる。また、この追加リタードモードは、エンジン10の始動直後に実施されるため、点火性及びシリンダーライナーの保温性を向上させることで、エンジン10の始動性を高めることができる。
【0068】
(3)これに加えて、上記のエンジン制御装置1では、追加リタードモード時に第二気筒20b及び第三気筒20cのみの点火時期をリタードさせるのではなく四つの気筒の全てについての点火時期をリタードさせている。これにより、全ての気筒20a〜20dから排出される排気の温度を向上させることができ、排気及び触媒装置22の昇温性能を高めることができる。また、第一気筒20a及び第四気筒20dの点火時期も併せてリタードさせることで、各気筒20の点火時期同士の間隔期間のばらつきを小さくすることができ、エンジン10の回転安定性を向上させることができる。
【0069】
(4)さらに、上記のエンジン制御装置1では、冷却水温Wが所定水温W0以下のときに、圧縮S/Lモード及び追加リタードモードが選択される。このように、エンジン冷却水の水温を参照して燃料噴射モード及び点火モードを選択することにより、排気及び触媒装置22の昇温性能を高めるべきエンジン10の冷態始動の状態を精度よく把握することができる。
また、冷却水温Wが十分に高温であるときには、圧縮S/Lモード及び追加リタードモードを選択しなくても、触媒温度Cが早期に活性温度に達するものと考えられる。上記のエンジン制御装置1ではこのような場合に、通常噴射モード及び通常点火モードが選択されるため、排気性能を損なうことなく燃費を向上させることができる。
【0070】
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、エンジン10が極冷態始動の状態である場合には、空調装置やオルタネーターを駆動してエンジン負荷を増大させる制御が実施される。これにより、排気流量を容易に増大させることができ、排気及び触媒装置22の昇温性能をさらに向上させることができる。また、触媒温度Cが所望の温度に達するまでにかかる時間を短縮することができ、排気性能を向上させることができる。
【0071】
(6)なお、上記のエンジン制御装置1では、負荷増大制御を実施するための冷却水温Wの閾値である第二所定水温W1が、追加リタードモードを選択するための所定水温W0よりも低い温度に設定されている。つまり、上昇させるべき温度幅が比較的小さい場合には、昇温応答性の高い追加リタードモードを使用し、温度幅が比較的大きい場合には、昇温応答性の低い負荷増大制御をこれに上乗せしている。このように、要求される昇温能力に応じて追加リタードモードを負荷増大制御よりも優先的に実施することにより、迅速に排気温度及び触媒温度Cを高めつつ、追加リタードのみでは賄いきれない温度上昇分を負荷増大制御に負担させて、排気及び触媒装置22の昇温性能を向上させることができる。
【0072】
(7)また、上記のエンジン制御装置1では、追加リタードモードの選択条件として触媒温度Cを参照しており、具体的には触媒温度Cが所定温度C0以下のときに追加リタードモードが選択される。このような制御構成により、排気系の昇温が必要な運転状態で、その排気系を確実に昇温させることができる。また、触媒温度Cが所定温度C0を超えた場合には追加リタードモードが終了して通常のリタードモードが選択されるため、点火リタードに伴う燃料の浪費を抑制することができ、燃費を向上させることができる。
【0073】
(8)また、上記のエンジン制御装置1では、圧縮S/Lモード下で追加リタードモードが選択される。つまり、圧縮S/Lモードによるリタード量に対して、追加リタードモードによるリタード量が加算されることになる。これにより、例えば吸気行程に燃料を噴射する通常噴射モード下で追加リタードモードを選択した場合と比較して、点火時期の変更幅(トータルのリタード量)を大きくすることができ(つまり、点火時期を大幅にリタードさせることができ)、エンジンの回転安定性を確保しつつ排気及び触媒装置22の昇温性能を向上させることができる。
【0074】
(9)また、圧縮S/Lモードに関して、上記のエンジン制御装置1では、図6(b),図7(b)に示すように、追加リタードモードが開始されたときにDI噴射のタイミングをさらに遅らせる制御が実施される。このように、点火時期だけでなく燃料噴射のタイミングをもリタードさせる調整を加えることにより、追加リタードモードでのリタード量をさらに大きくすることができ、エンジンの回転安定性を確保しつつ排気及び触媒装置22の昇温性能を向上させることができる。
【0075】
(10)なお、直列四気筒エンジン10での追加リタードモードの制御においては、第二気筒20b及び第三気筒20cを追加リタードの対象とすることが好ましい。すなわち、これらの気筒は、点火順序が連続しないという条件を満足するだけでなく、シリンダーブロック30の内側に配置されているという条件をも満足するからである。
上記のエンジン制御装置1ではこのような第二気筒20b及び第三気筒20cの点火プラグ17b,17cでの点火時期を追加リタードの対象としているため、エンジン10の回転安定性と点火性とをともに向上させることができ、排気及び触媒装置22の昇温性能を向上させることができる。
【0076】
[6.変形例等]
上述の実施形態では、エンジン10の始動時の制御モードとして、通常噴射モード,圧縮S/Lモード,通常点火モード,リタードモード,追加リタードモード等の各種モードを備えたエンジン制御装置1を例示したが、これらの制御モードは上述のエンジン制御装置1に必須の要素ではない。
また、上述の実施形態における諸条件(A1)〜(F4)は実施形態における例示に過ぎず、これらに加えて、又は代えて他の条件を設けることが可能であり、必要に応じて取捨選択することも可能である。少なくとも、直噴圧縮行程噴射の実施時に上記の追加リタードモードが選択されるような条件を設けることで、上述の実施形態と同様の効果を奏する制御を実現することが可能である。
【0077】
例えば、上述の実施形態ではエンジン10が冷態始動状態であるか否かを判定するのに冷却水温Wの情報を用いるものを提示したが、冷却水温Wの代わりに外気温度や触媒温度C,排気通路18内の排気温度,エキゾーストマニホールド28の排気温度等を用いてもよいし、これらに相当する他のパラメーターを用いてもよい。あるいは、エンジン10が始動してからの経過時間のみをパラメーターとしてもよい。
この場合、冷却水温Wの大小に関わらず、始動してからの経過時間が十分でないときには常にエンジン10が冷態始動状態であるものと判断することも可能である。なお、具体的な他のパラメーターの例としては、吸気流量やインテークマニホールド圧(吸気圧),過給圧(ターボ圧),吸気温度(給気温度),外気温,車速等を用いることが考えられる。
【0078】
また、上述の実施形態では、圧縮S/Lモードの選択条件と追加リタードモードの選択条件とが異なるものを示したが、より簡便な制御手法としてはこれらの各モードの選択条件を同一にすることも考えられる。例えば、エンジン10の始動時に圧縮S/Lモードと追加リタードモードとが常に同時に選択される制御構成としてもよい。
【0079】
また、上述の実施形態の図6(d)では、追加リタードモード時の点火時期が所定値R2に固定されているものが示されているが、追加リタードモード時のリタード量(点火時期の所定値R1とR2との差の大きさ)を冷却水温Wや触媒温度C,外気温度等に応じて変更する構成としてもよい。例えば、冷却水温Wが低温であるほど追加リタード量を増大させて、排気や触媒装置22の昇温効果を高めてもよい。
負荷増大制御に関しても同様であり、冷却水温Wや触媒温度C,外気温度等に応じて、追加する負荷の大きさを変更する構成としてもよい。例えば、冷却水温Wが低温であるほど追加する負荷の大きさを増大させることが考えられる。このような制御により、排気及び触媒装置22の昇温性能を向上させることができる。
【0080】
また、上述の実施形態では、直列四気筒エンジン10における制御内容を詳述したが、エンジン10の燃焼形式や気筒数はこれに限定されない。少なくとも筒内噴射を実施する多気筒のエンジンであれば、ガソリンエンジン,ディーゼルエンジンの何れであっても上記の制御を実施することが可能である。
なお、追加リタードモード時に追加リタードの対象となる気筒は、少なくとも点火順序が連続しないものであればよいため、一気筒のみをリタードさせる場合にはどの気筒を対象気筒として設定してもよい。例えば、第二気筒20bのみを追加リタードの対象気筒としてもよいし、第四気筒20dのみを対象気筒としてもよい。
【0081】
また、複数の気筒20を対象気筒とする場合には、第二気筒20b及び第三気筒20cの代わりに、第一気筒20a及び第四気筒20dを追加リタードの対象気筒としてもよい。少なくとも点火順序が連続しなければよいため、点火順序が連続しない気筒の組み合わせの中から適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 エンジン制御装置
2 燃料噴射制御部(燃料噴射制御手段)
3 点火時期制御部(点火制御手段)
4 負荷制御部(負荷制御手段)
5 冷却水温センサー(水温検出手段)
6 触媒温度センサー(触媒温度検出手段)
10 エンジン(内燃機関)
11 直噴インジェクター
17 点火プラグ
20 気筒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7