(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シール部材(86)は、前記アウタロータにおいて前記ジャーナル壁面としての内周壁面(130)から凹む保持溝部(88)の内部に、保持されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
前記ストッパ凹部の内部において前記ストッパ凸部との間に生じる空間(82a)は、前記アウタロータと前記インナロータとにより取り囲まれる空間であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0012】
(第一実施形態)
図1に示すように、本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両において内燃機関のクランク軸(図示しない)からカム軸2へ機関トルクを伝達する伝達系に、設置されている。尚、本実施形態においてカム軸2は、内燃機関の「動弁」のうち吸気弁(図示しない)を機関トルクの伝達によって開閉するものであり、装置1は、当該吸気弁のバルブタイミングを調整する。
【0013】
(基本構成)
以下、装置1の基本構成について説明する。装置1は、アクチュエータ4、通電制御回路部7及び遊星歯車機構8等を組み合わせてなる。
【0014】
アクチュエータ4は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであり、内燃機関の固定節に固定されるケース5と、当該ケース5により正逆回転自在に支持される駆動軸6とを有している。通電制御回路部7は、例えば駆動ドライバ及びその制御用マイクロコンピュータ等から構成され、ケース5の外部及び/又は内部に配置されてアクチュエータ4と電気的に接続されている。通電制御回路部7は、アクチュエータ4への通電を制御することで、駆動軸6を回転駆動する駆動トルクを発生する。
【0015】
遊星歯車機構8は、アウタロータ10、インナロータ20、遊星キャリア40及び遊星歯車50を備えている。
【0016】
図1〜3に示すように、全体として中空状に形成されるアウタロータ10は、遊星歯車機構8の他の構成要素20,40,50を、内部の収容室82に収容している。アウタロータ10は、歯車部材12を伝達部材13及びカバー部材14の間に挟む状態で、それら部材12〜14を螺子止めしてなる。円環板状の歯車部材12は、歯底円の内周側に歯先円を有する駆動側内歯車部18を、周壁部に形成している。
【0017】
図1に示すように有底円筒状の伝達部材13は、周壁部から径方向外側へ突出する複数のスプロケット歯19を、周方向に等間隔に有している。伝達部材13は、それらスプロケット歯19とクランク軸の複数のスプロケット歯との間でタイミングチェーン(図示しない)が掛け渡されることで、クランク軸と連繋する。かかる連繋形態により、クランク軸の機関トルクがタイミングチェーンを通じて伝達部材13に伝達されるときには、アウタロータ10がクランク軸と連動して周方向の一側(
図2,3の時計方向)に回転する。
【0018】
図1,3に示すように有底円筒状のインナロータ20は、アウタロータ10のうち伝達部材13の内周側に同軸上に配置されている。インナロータ20の周壁部の外周壁面200は、伝達部材13の周壁部の内周壁面130に同軸上に嵌合することで、当該内周壁面130を摺動自在にラジアル軸受している。また、インナロータ20の底壁部の外底壁面201は、伝達部材13の底壁部の内底壁面132に同軸上に接触することで、当該内底壁面132を摺動自在にスラスト軸受している。さらにインナロータ20は、カム軸2に同軸上に連結される連結部21を、底壁部に形成している。このような軸受並びに連結形態によりインナロータ20は、カム軸2と連動してアウタロータ10と同じ周方向の一側(
図3の時計方向)に回転しつつ、当該ロータ10に対しては周方向の両側に相対回転可能となっている。
【0019】
インナロータ20はさらに、歯底円の内周側に歯先円を有する従動側内歯車部22を、周壁部に形成している。従動側内歯車部22は、駆動側内歯車部18に対して軸方向にずれて配置されている。従動側内歯車部22の内径は駆動側内歯車部18の内径よりも小さく設定され、また従動側内歯車部22の歯数は駆動側内歯車部18の歯数よりも少なく設定されている。
【0020】
図1〜3に示すように円筒状の遊星キャリア40は、周壁部においてロータ10,20及び駆動軸6と同軸上の内周壁面に、入力部41を形成している。入力部41には、継手43の嵌合する嵌合溝42が設けられ、当該継手43を介して駆動軸6が遊星キャリア40と連結されている。かかる連結形態により遊星キャリア40は、駆動軸6と一体となって周方向両側に回転しつつ、駆動側内歯車部18に対しては周方向両側に相対回転可能となっている。
【0021】
遊星キャリア40はさらに、周壁部においてロータ10,20及び駆動軸6とは偏心する外周壁面に、偏心支持部44を形成している。偏心支持部44は、ベアリング45を介して遊星歯車50の中心孔51に同軸上に嵌合することで、当該歯車50を遊星運動可能に軸受している。ここで遊星運動とは、遊星歯車50が偏心支持部44の偏心軸線周りに自転しつつ、遊星キャリア40の回転軸線周りに公転する運動をいう。
【0022】
段付円筒状の遊星歯車50は、歯底円の外周側に歯先円を有する駆動側外歯車部52と従動側外歯車部54とを、それぞれ周壁部の大径部分と小径部分とに形成している。駆動側外歯車部52及び従動側外歯車部54の歯数は、それぞれ駆動側内歯車部18及び従動側内歯車部22の歯数よりも同数ずつ少なく設定されている。駆動側外歯車部52は、駆動側内歯車部18の内周側に偏心して配置され、当該内歯車部18と噛合している。従動側外歯車部54は、駆動側外歯車部52から軸方向にずれて且つ従動側内歯車部22の内周側に偏心して配置され、当該内歯車部22と噛合している。
【0023】
このようにロータ10,20間を歯車連繋してなる差動歯車式の遊星歯車機構8は、駆動軸6に与えられた駆動トルクに従ってアウタロータ10に対するインナロータ20の相対位相を調整することで、当該相対位相に応じたバルブタイミングを実現する。
【0024】
具体的には、駆動軸6がアウタロータ10と同速に回転することで、遊星キャリア40が駆動側内歯車部18に対して相対回転しないときには、遊星歯車50が遊星運動せずにロータ10,20と連れ回りする。その結果、ロータ10,20間の相対位相は変化せず、バルブタイミングが保持されることになる。一方、駆動軸6がアウタロータ10よりも高速に回転することで、遊星キャリア40が駆動側内歯車部18に対する進角側へ相対回転するときには、遊星歯車50が遊星運動してインナロータ20がアウタロータ10に対する進角側へ相対回転する。その結果、ロータ10,20間の相対位相は進角側へ変化し、バルブタイミングが進角することになる。また一方、駆動軸6がアウタロータ10に対して低速に又は逆方向に回転することで、遊星キャリア40が駆動側内歯車部18に対する遅角側へ相対回転するときには、遊星歯車50が遊星運動してインナロータ20がアウタロータ10に対する遅角側へ相対回転する。その結果、ロータ10,20間の相対位相は遅角側へ変化し、バルブタイミングが遅角することになる。
【0025】
(ストッパ構造)
図1に示すように装置1は、ロータ10,20間の相対位相を規制するために、ストッパ構造70を備えている。ストッパ構造70は、
図4,5に示すように、ストッパ凹部72及びストッパ凸部74の四組から構成されている。
【0026】
具体的に、金属製アウタロータ10の伝達部材13において、「ジャーナル壁面」としての内周壁面130から内底壁面132に到る部分には、四つのストッパ凹部72が周方向に所定間隔ずつをあけて形成されている。各ストッパ凹部72は、径方向外側に凹み且つそれぞれロータ10,20の周方向(以下、単に「周方向」という)に所定幅ずつを有する円弧溝状を、呈している。
【0027】
金属製インナロータ20において、「軸受壁面」としての外周壁面200から外底壁面201に到る部分には、四つのストッパ凸部74が周方向に所定間隔ずつをあけて形成されている。各ストッパ凸部74は、径方向外側に突出し且つそれぞれ周方向に所定幅ずつを有する扇形状を、呈している。各ストッパ凸部74は、それぞれ対応するストッパ凹部72に突入することで、当該対応凹部72の内部を周方向に揺動可能となっている。
【0028】
本実施形態において各ストッパ凸部74は、伝達部材13の内底壁面132と軸方向に接触する外底壁面201を形成の連結部21に対して、その径方向外側に配置されている。かかる配置形態により、アウタロータ10内部の収容室82のうち各ストッパ凸部74との間に対応凹部72が形成する空間82aは、ロータ10,20により袋小路状に取り囲まれることで、実質的に閉塞空間となっている。
【0029】
また、本実施形態において一つのストッパ凸部74aには、他のストッパ凸部74よりも大きな幅が、周方向に設定されている。かかる設定によりロータ10,20間では、ストッパ凸部74aが対応凹部72の周方向一端面に係止されることで、進角側への相対位相変化が規制される一方、ストッパ凸部74aが対応凹部72の周方向他端面に係止されることで、遅角側への相対位相変化が規制される。こうした規制作用の結果、バルブタイミングの可変範囲は、内燃機関の運転における最適範囲に制限されることになる。尚、ストッパ凸部74a以外のストッパ凸部74と、その対応凹部72とは、予備のストッパ構造として設けられている。
【0030】
(潤滑構造)
図1に示すように装置1は、遊星歯車機構8のうち適切箇所を潤滑するために、潤滑構造80を備えている。潤滑構造80は、
図5に示すように、「潤滑液」としてのエンジン潤滑油が導入されるアウタロータ10内部の収容室82と、導入孔84及びシール部材86とを組み合わせてなる。
【0031】
具体的に、インナロータ20において連結部21には、収容室82へ向かって開口する導入孔84が形成されている。導入孔84は、カム軸2を貫通する導入通路2aに、連通している。ここで導入通路2aは、クランク軸の機関トルクによって駆動されるポンプ9の吐出口9aに、連通している。したがって、内燃機関の運転中、
図6に二点鎖線矢印で示すようにポンプ9から導入通路2aへと吐出される潤滑油は、導入孔84から収容室82に導入される。さらに、導入孔84から収容室82に導入された潤滑油は、
図6に二点鎖線矢印で示すように、内歯車部18,22と外歯車部52,54との噛合箇所82b,82cや、ロータ10,20の周壁面130,200間の軸受界面82d、ベアリング45内部の摺動箇所82e等に供給されることとなる。
【0032】
図3,5に示すようにシール部材86は、「弾性シール部材」としてエラストマ等の弾性材から形成されるOリングであり、円環状を呈している。シール部材86は、円筒面状の周壁面130,200がなす軸受界面82dに同軸上に介装されることで、それら周壁面130,200に沿って周方向に延伸している。
【0033】
本実施形態においてシール部材86は、アウタロータ10の内周壁面130から径方向外側に凹み且つ周方向に延伸する円環溝状の保持溝部88に、同軸上に嵌合している。かかる嵌合形態により、周方向全域においてシール部材86は、インナロータ20側の内周面を外周壁面200に接触させた状態下、保持溝部88の内部に保持されている。ここで特に、
図5に示すようにシール部材86は、インナロータ20において各ストッパ凸部74よりも開口端面202側のうち、それら凸部74に近接した箇所にて、外周壁面200と接触している。かかる接触形態によりシール部材86は、周壁面130,200同士の摺接箇所である軸受界面82dにおいて、軸方向のストッパ構造70の側に偏って配置されている。
【0034】
このような構成からシール部材86は、周壁面130,200間において潤滑油が供給される軸受界面82dをシールすることで、当該界面82dにてストッパ構造70側へと向かう潤滑油の流動を規制可能となっている(
図6の二点鎖線矢印参照)。
【0035】
(作用効果)
以上説明した第一実施形態による作用効果を、以下に説明する。
【0036】
第一実施形態によると、アウタロータ10の内周壁面130と、それを軸受するインナロータ20の外周壁面200との間において、耐久性を向上するために潤滑油が供給される軸受界面82dは、シール部材86によりシールされる。その結果、アウタロータ10内部の収容室82に導入されて軸受界面82dをストッパ構造70側へと向かう潤滑油の流動は、規制されることになるので、アウタロータ10の内周壁面130に形成された各ストッパ凹部72の内部空間82aに対して、潤滑油の供給が制限される(
図6の二点鎖線矢印参照)。これによれば、インナロータ20の外周壁面200に形成された各ストッパ凸部74の各ストッパ凹部72内部における揺動は、粘度上昇した潤滑油によっては妨げられ難くなるので、ロータ10,20間の相対位相変化時において応答性を向上させることが可能である。
【0037】
また、第一実施形態の軸受界面82dでは、シール部材86がストッパ構造70側に偏って配置されるので、シール部材86を軸方向に挟んでストッパ構造70とは反対側(具体的には、
図5に示すインナロータ20の開口端面202側)において、潤滑油が供給される箇所の面積を大きく確保し得る。これによれば、軸受界面82dへの潤滑油供給による耐久性向上効果を阻害することなく、シール部材86による応答性向上効果をも発揮可能となる。
【0038】
また、第一実施形態によると、「弾性シール部材」として軸受界面82dに介装されるシール部材86は、同界面82dに不可避的に生じる軸受ガタ(摺動ガタ)を吸収して、ロータ10,20(周壁面130,200)同士の衝突による打音の発生を抑制し得る。これによれば、応答性の向上効果をもたらすシール部材86を利用して、静粛性の向上効果をも発揮可能となる。
【0039】
また、第一実施形態によると、シール部材86は、アウタロータ10の内周壁面130から凹む保持溝部88の内部に保持されることで、回転遠心力F(
図6の白抜矢印参照)を受けても、当該溝部88内部に押し付けられて保持状態を維持され得る。これによれば、シール部材86による応答性の向上効果を、長期に亘って発揮可能となる。
【0040】
また、第一実施形態によると、各ストッパ凹部72の内部において各ストッパ凸部74との間に生じる空間82aは、ロータ10,20により取り囲まれるため、潤滑油が供給されると、当該潤滑油が排出され難くなり、各ストッパ凸部74の揺動を妨げ易くなると懸念される。しかし、軸受界面82dにおいて潤滑油の流動を規制するシール部材86によれば、そうした各ストッパ凹部72内部の空間82aに対して潤滑油の供給が制限されるので、各ストッパ凸部74の揺動を妨げることなく、応答性向上効果の発揮に貢献可能となる。
【0041】
また、第一実施形態において各ストッパ凹部72の内部に潤滑油が供給されると、全ストッパ凸部74が揺動を妨げられることで、ロータ10,20間の相対位相変化時には、応答性の悪化が顕著になると懸念される。しかし、軸受界面82dにおいて潤滑油の流動を規制するシール部材86によれば、各ストッパ凹部72の内部に対して潤滑油の供給が制限され得るので、全ストッパ凸部74の揺動を妨げることなく、応答性向上効果の発揮に貢献可能となる。
【0042】
(第二実施形態)
図7に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態の潤滑構造2080は、要素82,84,86に加えて、導入開口2084及びシール部材2086を備えている。
【0043】
具体的に導入開口2084は、ロータ10,20の底壁部間に形成されてカム軸2の外周面に向かって開口することで、当該カム軸2内部の分岐通路2002aとアウタロータ10内部の収容室82とに連通している。ここで分岐通路2002aは、導入孔84へと向かう導入通路2aの中途部から分岐している。したがって、内燃機関の運転中、
図8に二点鎖線矢印で示すようにポンプ9から導入通路2aへ吐出される潤滑油は、導入孔84からだけでなく、導入開口2084からも収容室82へと導入される。さらに、導入開口2084から収容室82に導入された潤滑油は、
図8に二点鎖線矢印で示すように、アウタロータ10の「ジャーナル壁面」としての内底壁面132及びインナーロータ20の「軸受壁面」としての外底壁面201間となる軸受界面2082d等に、供給されるのである。
【0044】
図7に示すようにシール部材2086は、第一実施形態で説明したシール部材86と同様、「弾性シール部材」としてエラストマ等の弾性材から形成されるOリングであり、円環状を呈している。シール部材2086は、平面状の底壁面132,201がなす軸受界面2082dに同軸上に介装されることで、それら底壁面132,201に沿って周方向に延伸している。
【0045】
本実施形態においてシール部材2086は、アウタロータ10の内底壁面132から軸方向に凹み且つ周方向に延伸する円環溝状の保持溝部2088に、同軸上に嵌合している。かかる嵌合形態により、周方向全域においてシール部材2086は、インナロータ20側の端面を外底壁面201に接触させた状態下、保持溝部2088の内部に保持されている。ここで特にシール部材2086は、インナロータ20において各ストッパ凸部74よりも内周部側のうち、それら凸部74に近接した箇所にて外底壁面201と接触している。かかる接触形態によりシール部材2086は、底壁面132,201同士の摺接箇所である軸受界面2082dにおいて、径方向のストッパ構造70の側に偏って配置されている。
【0046】
このような構成からシール部材2086は、底壁面132,201間において潤滑油が供給される軸受界面2082dをシールすることで、当該界面2082dにてストッパ構造70側へと向かう潤滑油の流動を規制可能となっている(
図8の二点鎖線矢印参照)。
【0047】
以上説明した第二実施形態によると、アウタロータ10の内底壁面132と、それを軸受するインナロータ20の外底壁面201との間において、耐久性を向上するために潤滑油が供給される軸受界面2082dは、シール部材2086によりシールされる。その結果、アウタロータ10内部の収容室82に導入されて軸受界面2082dをストッパ構造70側へと向かう潤滑油の流動は、規制されることになるので、内底壁面132に形成された各ストッパ凹部72の内部空間82aに対して、当該界面2082dを通じた潤滑油の供給が制限される(
図8の二点鎖線矢印参照)。それと共に、軸受界面82dをストッパ構造70側へと向かう潤滑油の流動は、第一実施形態と同様にしてシール部材86により規制されるので、各ストッパ凹部72の内部空間82aに対して、当該界面82dを通じた潤滑油の供給も制限される。こうした制限作用によれば、外底壁面201に形成された各ストッパ凸部74の各ストッパ凹部72内部における揺動は、粘度上昇した潤滑油によっては妨げられ難くなるので、ロータ10,20間の相対位相変化時において応答性を向上させることが可能である。
【0048】
また、第二実施形態の軸受界面2082dでは、シール部材2086がストッパ構造70側に偏って配置されるので、シール部材2086を径方向に挟んでストッパ構造70とは反対側(具体的には、
図7に示すインナロータ20の内周部側)において、潤滑油が供給される箇所の面積を大きく確保し得る。これによれば、軸受界面2082dへの潤滑油供給による耐久性向上効果を阻害することなく、シール部材2086による応答性向上効果をも発揮可能となる。
【0049】
また、「弾性シール部材」としてシール部材2086が軸受界面2082dに介装される第二実施形態によると、第一実施形態と同様に、応答性の向上効果をもたらすシール部材2086を利用して、静粛性の向上効果をも発揮可能となる。さらにシール部材2086によれば、各ストッパ凹部72内部の取り囲まれた空間82aに対して潤滑油の供給が制限されるので、第一実施形態と同様に、全ストッパ凸部74の揺動を妨げることなく、応答性向上効果の発揮に貢献可能となる。
【0050】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0051】
具体的に、変形例1としては、例えばカーボン等から形成されるリップパッキンを、シール部材86,2086に採用してもよい。
【0052】
変形例2としては、
図9に示すように、インナロータ20において外周壁面200又は外底壁面201から凹み且つ周方向に延伸する円環溝状の保持溝部88又は2088に対して、シール部材86,2086を同軸上に嵌合させてもよい(
図9は第一実施形態の変形例)。この場合、周方向全域においてシール部材86,2086は、アウタロータ10側の内周面又は端面を内周壁面130又は内底壁面132に接触させた状態下、保持溝部88又は2088の内部に保持されることとなる。
【0053】
変形例3としては、
図10に示すように、インナロータ20において各ストッパ凸部74よりも開口端面202側又は内周部側のうち、それら凸部74から離間した箇所にて、シール部材86,2086を外周壁面200又は外底壁面201に接触させてもよい。この場合にシール部材86,2086は、周壁面130,200同士の摺接箇所である軸受界面82d又は底壁面132,201同士の摺接箇所である軸受界面2082dにおいて、軸方向のストッパ構造70とは反対側に偏って配置されることになる。
【0054】
変形例4として、ストッパ凹部72の内部においてストッパ凸部74との間に形成される空間82aは、ロータ10,20により取り囲まれていない開空間であってもよい。また、変形例5としては、ストッパ凹部72及びストッパ凸部74の組は、一組であってもよいし、上述した四組以外の複数組であってもよい。
【0055】
変形例6としては、ロータ10をカム軸2と連動回転させると共に、ロータ20をクランク軸と連動回転させてもよい。また、変形例7としては、遊星歯車50の遊星運動によりロータ10,20間の相対位相を変化可能なものであれば、本発明の作用効果が得られ
る限りにおいて、上述した差動歯車式以外の遊星歯車機構を採用してもよい。
【0056】
そして、変形例8として本発明は、吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に適用可能である。