特許第5831406号(P5831406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5831406
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】操舵装置及び操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20151119BHJP
   B62D 5/00 20060101ALI20151119BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20151119BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20151119BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20151119BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20151119BHJP
【FI】
   B62D6/00ZYW
   B62D5/00
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
   B62D137:00
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-195158(P2012-195158)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-51128(P2014-51128A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2014年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100117075
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 剣太
(72)【発明者】
【氏名】上山 真生
(72)【発明者】
【氏名】国弘 洋司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善昭
【審査官】 柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−126244(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/073373(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/062145(WO,A1)
【文献】 特開2002−225745(JP,A)
【文献】 実開昭62−118782(JP,U)
【文献】 特開2004−001643(JP,A)
【文献】 特開2006−298300(JP,A)
【文献】 特開2007−062712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ回転操作可能である操舵部材と、
前記操舵部材に対する操舵操作を補助するトルクを発生させるアクチュエータと、
前記操舵操作に関する操舵操作物理量を検出する検出装置と、
前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に基づいて、前記アクチュエータが発生させるトルクを調節する制御を実行可能である操舵制御装置とを備え、
前記操舵制御装置は、前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に応じて前記操舵部材に付与すべき摩擦制御量に基づいて前記アクチュエータを制御する摩擦制御を実行可能であり、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに応じた前記摩擦制御量の下限値に基づいて前記摩擦制御を実行し、
前記摩擦制御量が作用する方向は、前記検出装置の出力のゼロ点ずれの方向とは逆方向であり、
前記摩擦制御量の符号は、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量の符号とは逆であることを特徴とする、
操舵装置。
【請求項2】
前記摩擦制御量の下限値は、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量を打ち消すために必要とされる制御量に相当する、
請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記操舵制御装置は、前記車両の車速に基づいて、前記摩擦制御量の下限値を変更する、
請求項1又は請求項2に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記検出装置は、前記操舵操作物理量として操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記操舵操作物理量として操舵角を検出する操舵角センサとを有し、
前記摩擦制御量の下限値は、前記トルクセンサの出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量を打ち消すために必要とされるトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量と、前記操舵角センサの出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量を打ち消すために必要とされる操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量との和に相当する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記操舵制御装置は、前記車両の車速に基づいて、前記トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を変更し、前記摩擦制御量の下限値を変更する、
請求項4に記載の操舵装置。
【請求項6】
前記操舵制御装置は、前記車両の車速に基づいて、前記操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を変更し、前記摩擦制御量の下限値を変更する、
請求項4又は請求項5に記載の操舵装置。
【請求項7】
前記操舵制御装置は、前記トルクセンサの出力のゼロ点ずれに起因して検出されうる最大の操舵トルクであるトルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合、当該トルクゼロ点ずれ最大検出トルク以下の操舵トルクが検出された場合と比較して、前記摩擦制御量の下限値を小さくする、
請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項8】
前記操舵制御装置は、前記トルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合に、前記摩擦制御量の下限値を徐々に変化させる、
請求項7に記載の操舵装置。
【請求項9】
前記操舵制御装置は、前記車両が自動で操舵されている場合に、前記摩擦制御量を前記下限値以下に下げることを許容する、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項10】
車両に設けられ回転操作可能である操舵部材と、前記操舵部材に対する操舵操作を補助するトルクを発生させるアクチュエータと、前記操舵操作に関する操舵操作物理量を検出する検出装置とを備える操舵装置を制御し、前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に基づいて、前記アクチュエータが発生させるトルクを調節する制御を実行可能である操舵制御装置であって、
前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に応じて前記操舵部材に付与すべき摩擦制御量に基づいて前記アクチュエータを制御する摩擦制御を実行可能であり、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに応じた前記摩擦制御量の下限値に基づいて前記摩擦制御を実行し、
前記摩擦制御量が作用する方向は、前記検出装置の出力のゼロ点ずれの方向とは逆方向であり、
前記摩擦制御量の符号は、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量の符号とは逆であることを特徴とする、
操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置及び操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される従来の操舵装置及び操舵制御装置として、例えば、特許文献1には、操舵制御装置が開示されている。この操舵制御装置は、車両状態を表す情報に基づいて、ステアリングに付与すべき摩擦トルク値を設定し、当該摩擦トルク値に基づいて目標操舵角を設定し、当該目標操舵角と操舵角との偏差に基づいて、付加摩擦トルク値を設定し、当該付加摩擦トルク値に基づいて、アクチュエータによりステアリングに付与される摩擦トルクを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−126244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に記載の操舵制御装置は、上記の構成により操舵保舵時の保舵力低減・安定性向上を図ると共に、車両流れを抑制することができる態様で、制御的に摩擦トルクを付与しているが、例えば、各種センサの性能のばらつきや経年劣化、環境の変化等を考慮すると改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、適正に操舵制御することができる操舵装置及び操舵制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る操舵装置は、車両に設けられ回転操作可能である操舵部材と、前記操舵部材に対する操舵操作を補助するトルクを発生させるアクチュエータと、前記操舵操作に関する操舵操作物理量を検出する検出装置と、前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に基づいて、前記アクチュエータが発生させるトルクを調節する制御を実行可能である操舵制御装置とを備え、前記操舵制御装置は、前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に応じて前記操舵部材に付与すべき摩擦制御量に基づいて前記アクチュエータを制御する摩擦制御を実行可能であり、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに応じた前記摩擦制御量の下限値に基づいて前記摩擦制御を実行することを特徴とする。
【0007】
また、上記操舵装置では、前記摩擦制御量の下限値は、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量を打ち消すために必要とされる制御量に相当するものとすることができる。
【0008】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記車両の車速に基づいて、前記摩擦制御量の下限値を変更するものとすることができる。
【0009】
また、上記操舵装置では、前記検出装置は、前記操舵操作物理量として操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記操舵操作物理量として操舵角を検出する操舵角センサとを有し、前記摩擦制御量の下限値は、前記トルクセンサの出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量を打ち消すために必要とされるトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量と、前記操舵角センサの出力のゼロ点ずれに起因して前記アクチュエータが発生させる制御量を打ち消すために必要とされる操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量との和に相当するものとすることができる。
【0010】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記車両の車速に基づいて、前記トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を変更し、前記摩擦制御量の下限値を変更するものとすることができる。
【0011】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記車両の車速に基づいて、前記操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を変更し、前記摩擦制御量の下限値を変更するものとすることができる。
【0012】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記トルクセンサの出力のゼロ点ずれに起因して検出されうる最大の操舵トルクであるトルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合、当該トルクゼロ点ずれ最大検出トルク以下の操舵トルクが検出された場合と比較して、前記摩擦制御量の下限値を小さくするものとすることができる。
【0013】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記トルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合に、前記摩擦制御量の下限値を徐々に変化させるものとすることができる。
【0014】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記車両が自動で操舵されている場合に、前記摩擦制御量を前記下限値以下に下げることを許容するものとすることができる。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る操舵制御装置は、車両に設けられ回転操作可能である操舵部材と、前記操舵部材に対する操舵操作を補助するトルクを発生させるアクチュエータと、前記操舵操作に関する操舵操作物理量を検出する検出装置とを備える操舵装置を制御し、前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に基づいて、前記アクチュエータが発生させるトルクを調節する制御を実行可能である操舵制御装置であって、前記検出装置により検出された前記操舵操作物理量に応じて前記操舵部材に付与すべき摩擦制御量に基づいて前記アクチュエータを制御する摩擦制御を実行可能であり、前記検出装置の出力のゼロ点ずれに応じた前記摩擦制御量の下限値に基づいて前記摩擦制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る操舵装置及び操舵制御装置は、適正に操舵制御することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る操舵装置の概略構成を表す概略構成図である。
図2図2は、実施形態に係るEPS制御ECUの概略構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、実施形態に係る操舵装置のEPS制御ECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。
図4図4は、実施形態に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャートである。
図5図5は、実施形態に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャートである。
図6図6は、変形例に係る操舵装置の概略構成を表す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る操舵装置の概略構成を表す概略構成図である。図2は、実施形態に係るEPS制御ECUの概略構成の一例を示すブロック図である。図3は、実施形態に係る操舵装置のEPS制御ECUによる制御の一例を説明するフローチャートである。図4図5は、実施形態に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャートである。図6は、変形例に係る操舵装置の概略構成を表す概略構成図である。
【0020】
図1に示す本実施形態の操舵装置1は、車両2に搭載され、車両2の操舵輪3を操舵するための装置である。本実施形態の操舵装置1は、車両2の操舵力を電動機等の動力により補助するいわゆる電動パワーステアリング装置(EPS:Electronic Power Steering)である。操舵装置1は、運転者から操舵部材としてのステアリングホイール(以下、特に断りのない限り「ステアリング」と略記する。)4に加えられた操舵力に応じた操舵補助力を得られるように電動機等を駆動することにより、運転者のステアリング操作(操舵操作)を補助する。
【0021】
そして、本実施形態の操舵装置1は、典型的には、トルクセンサや操舵角センサ等の検出装置の出力のゼロ点ずれによって発生する制御量に対して、ステアリング系の機械的な摩擦の大小に拠らず、耐車両流れ性能に影響を与えないように補償するものである。操舵装置1は、典型的には、検出装置の出力のゼロ点ずれに対し、それより大きな摩擦特性を摩擦制御によって制御的に付与することにより、制御自前で操舵保持力を確保する。この場合、操舵装置1は、例えば、車速に応じて、摩擦特性、言い換えれば、摩擦制御における制御量を可変とするようにしてもよい。また、操舵装置1は、例えば、トルクセンサ最大ずれ量(トルクゼロ点ずれ最大検出トルク)より大きい操舵トルク領域、言い換えれば、運転者による操舵操作が行われた推定できる操舵領域である場合には、摩擦制御における制御量を絞るようにしてもよい。また、操舵装置1は、例えば、レーンキーピングアシスト等の自動操舵によって、修正操舵が入るような場合にも摩擦制御における制御量を絞るようにしてもよい。
【0022】
以下、図1を参照して操舵装置1の各構成を具体的に説明する。操舵装置1は、図1に示すように、操舵部材としてのステアリング4と、操舵軸部としてのステアリングシャフト(以下、特に断りのない限り「シャフト」と略記する。)5と、R&Pギヤ機構(以下、特に断りのない限り「ギヤ機構」と略記する。)6と、左右一対のタイロッド7と、アクチュエータとしてのEPS装置8と、検出装置9と、操舵制御装置としてのEPS制御ECU10とを備える。
【0023】
ステアリング4は、回転軸線X1周り方向に回転操作可能な部材であり、車両の運転席に設けられる。運転者は、回転軸線X1を回転中心としてこのステアリング4を回転操作することでステアリング操作(操舵操作)を行うことができる。つまり、操舵装置1が搭載された車両は、運転者によってこのステアリング4が操作されることで、操舵輪3が操舵(転舵)される。
【0024】
シャフト5は、ステアリング4の回転軸部をなすものである。シャフト5は、一端がステアリング4と連結され、他端がギヤ機構6と連結される。つまり、ステアリング4は、このシャフト5を介してギヤ機構6に接続される。シャフト5は、運転者によるステアリング4の回転操作に伴って、ステアリング4と共に中心軸線周り方向に回転可能である。シャフト5は、例えば、アッパシャフト、インタミシャフト、ロアシャフトなどの複数の部材に分割されていてもよい。
【0025】
ギヤ機構6は、シャフト5と一対のタイロッド7とを機械的に連結するものである。ギヤ機構6は、例えば、いわゆるラックアンドピニオン方式の歯車機構を有し、シャフト5の中心軸線周り方向の回転運動を一対のタイロッド7の左右方向(典型的には車両2の車幅方向に相当)の直線的な運動に変換する。
【0026】
一対のタイロッド7は、それぞれ基端部がギヤ機構6に連結され、先端部をなすタイロッドエンドがナックルアームを介して各操舵輪3に連結される。つまり、ステアリング4は、シャフト5、ギヤ機構6及び各タイロッド7等を介して各操舵輪3に連結される。
【0027】
EPS装置8は、運転者によるステアリング4に対するステアリング操作(操舵操作)を補助するものであり、当該ステアリング操作を補助するためのトルクを発生させるものである。EPS装置8は、運転者によりステアリング4に入力される操舵力(操舵トルク)を補助する操舵補助力(アシストトルク)を出力する。言い換えれば、EPS装置8は、車両2の操舵輪3を電動機等によって駆動することで運転者のステアリング操作を支援する。EPS装置8は、アシストトルクをシャフト5に作用させることで運転者のステアリング操作をアシストする。ここでアシストトルクは、運転者によりステアリング4に入力される操舵力に相当する操舵トルクを補助するトルクである。
【0028】
ここでのEPS装置8は、電動機としてのモータ11と、減速機12とを有する。本実施形態のEPS装置8は、例えば、インタミシャフトなどのシャフト5にモータ11が設けられたコラムEPS装置であり、すなわち、いわゆるコラムアシスト式のアシスト機構である。
【0029】
モータ11は、電力が供給されることで回転動力(モータトルク)を発生させるコラムアシスト用電動モータであり、例えば、操舵補助力としてアシストトルクを発生するものである。モータ11は、減速機12等を介してシャフト5に動力伝達可能に接続され、減速機12等を介してシャフト5に操舵補助力を付与する。減速機12は、モータ11の回転動力を減速してシャフト5に伝達する。
【0030】
EPS装置8は、モータ11が回転駆動することにより、モータ11が発生させた回転動力(トルク)が減速機12を介してシャフト5に伝達され、これにより操舵アシストを行う。このとき、モータ11が発生させた回転動力は、減速機12にて減速されトルクが増大されてシャフト5に伝達される。このEPS装置8は、後述のEPS制御ECU10に電気的に接続され、モータ11の駆動が制御される。
【0031】
検出装置9は、操舵操作に関する操舵操作物理量を検出するものである。検出装置9によって検出される操舵操作物理量としては、例えば、操舵トルク、操舵角(絶対角、相対角)等のいずれか1つを含んでいてもよい。ここでは、検出装置9は、トルクセンサ13、操舵角センサ14、回転角センサ15等を含んで構成される。
【0032】
トルクセンサ13は、操舵操作物理量として操舵トルクを検出するものである。ここでは、トルクセンサ13は、シャフト5に作用するトルク、言い換えれば、シャフト5に生じるトルクを検出する。トルクセンサ13は、例えば、EPS装置8の一部を構成する捩れ部材であるトーションバー(不図示)に作用するトルクを検出する。このトルクセンサ13により検出された操舵トルク(検出トルク)は、典型的には、運転者からステアリング4に入力される操舵力に応じてシャフト5に作用するドライバ操舵トルクや操舵輪3への路面外乱入力等に応じて操舵輪3側からタイロッドエンドを介してシャフト5に入力される外乱トルクなどが反映されたトルクである。トルクセンサ13は、EPS制御ECU10と電気的に接続されており、検出した操舵トルクに応じた検出信号をEPS制御ECU10に出力する。トルクセンサ13が検出した操舵トルクは、例えば、EPS制御ECU10によるアシスト制御等に用いることができる。
【0033】
操舵角センサ14は、操舵操作物理量として操舵角(絶対角)を検出するものである。操舵角センサ14は、ステアリング4の回転角度である操舵角(ハンドル操舵角)を検出する。操舵角センサ14は、EPS制御ECU10と電気的に接続されており、検出した操舵角に応じた検出信号をEPS制御ECU10に出力する。操舵角センサ14が検出した操舵角は、例えば、EPS制御ECU10によるハンドル戻し制御、摩擦制御等に用いることができる。
【0034】
回転角センサ15は、モータ11のロータ軸の回転角を検出するものである。回転角センサ15は、EPS制御ECU10と電気的に接続されており、検出した回転角に応じた検出信号をEPS制御ECU10に出力する。回転角センサ15が検出した回転角は、例えば、EPS制御ECU10によるモータ11への電流制御(出力制御)に用いられる。また、EPS制御ECU10は、この回転角センサ15が検出した回転角に基づいて操舵角(相対角)を算出することもできる。この回転角センサ15が検出した回転角に基づいた操舵角(相対角)は、例えば、EPS制御ECU10による摩擦制御等に用いることができる。
【0035】
EPS制御ECU10は、EPS装置8の駆動を制御するものである。EPS制御ECU10は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。EPS制御ECU10は、例えば、上述の検出装置9(トルクセンサ13、操舵角センサ14、回転角センサ15)等の種々のセンサやEPS装置8が電気的に接続される。ここでは、EPS制御ECU10は、上述の検出装置9に加えて、さらに、車速センサ16、前方検出装置17等が電気的に接続される。車速センサ16は、車両2の走行速度である車速を検出するものである。前方検出装置17は、車両2の進行方向前方側の状況を検出する。前方検出装置17は、例えば、ミリ波レーダ、レーザや赤外線などを用いたレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ等の近距離用レーダ、可聴域の音波又は超音波を用いたソナー、CCDカメラなどの撮像装置により車両2の走行方向前方を撮像した画像データを解析することで車両2の進行方向前方側の状況を検出する画像認識装置等を用いてもよい。前方検出装置17は、車両2の進行方向前方側の状況として、例えば、車両2の進行方向前方側の周辺物体(障害物や前走車等)の有無、検出した周辺物体と車両2との相対位置関係を示す相対物理量、車両2が走行する道路の形状、レーン等のうちの少なくとも1つを検出するようにしてもよい。
【0036】
EPS制御ECU10は、種々のセンサから検出結果に対応した電気信号(検出信号)が入力され、入力された検出結果に応じてEPS装置8に駆動信号を出力しその駆動を制御する。EPS制御ECU10は、検出装置9により検出された操舵操作物理量に基づいて、EPS装置8が発生させるトルクを調節する制御を実行可能である。なお、このEPS制御ECU10は、例えば、操舵装置1を搭載する車両2の各部を制御するECUと電気的に接続され、このECUを介して相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う構成としてもよいし、あるいは、このECUと一体で構成されてもよい。
【0037】
EPS制御ECU10は、例えば、トルクセンサ13により検出された操舵トルク等に基づいて、EPS装置8を制御し、当該EPS装置8が発生させシャフト5に作用させるアシストトルクを調節し制御する。EPS制御ECU10は、モータ11への供給電流であるモータ供給電流を調節することでモータ11の出力トルクを調節し、アシストトルクを調節する。ここでモータ供給電流は、EPS装置8が要求される所定のトルクを発生させることができる大きさの電流である。このとき、EPS制御ECU10は、例えば、回転角センサ15により検出された回転角等に基づいて、モータ11へのモータ供給電流を制御する。
【0038】
上記のように構成される操舵装置1は、運転者からステアリング4に入力された操舵トルクと共に、EPS制御ECU10の制御によってEPS装置8が発生させるトルク等がシャフト5に作用する。そして、操舵装置1は、シャフト5からギヤ機構6を介してタイロッド7に操舵力、操舵補助力が作用すると、このタイロッド7が運転者によるドライバ操舵トルクとEPS装置8が発生させるトルクとに応じた大きさの軸力によって左右方向に変位し操舵輪3が転舵される。この結果、操舵装置1は、運転者からステアリング4に入力される操舵力と、EPS装置8が発生させる操舵補助力とによって操舵輪3を転舵することができ、これにより、運転者によるステアリング操作を補助することができ、ステアリング操作に際して運転者の負担を軽減することができる。
【0039】
そして、本実施形態のEPS制御ECU10は、EPS装置8が発生させるトルクを調節する制御として、例えば、上記のようなアシスト制御の他に、ハンドル戻し制御、摩擦制御等を実行することができる。
【0040】
EPS制御ECU10は、トルクセンサ13が検出する操舵操作物理量としての操舵トルクに基づいて、種々の手法を用いてアシスト制御を実行する。アシスト制御は、上述したように、運転者によるステアリング4の操舵操作を補助(アシスト)する制御である。EPS制御ECU10は、基本的には、トルクセンサ13により検出された操舵トルクに基づいて、操舵トルクに応じたアシストトルクをEPS装置8が発生するようにモータ11を制御する。より詳細には、EPS制御ECU10は、トルクセンサ13が検出する操舵トルクと、車速センサ16が検出する車速とに基づいて、EPS装置8を制御しアシストトルクを調節するようにしてもよい。EPS制御ECU10は、操舵トルク、車速に基づいて、制御マップなどを用いて、アシスト制御における基本アシスト制御量として、基本となる目標のアシストトルクを算出し、これに基づいてEPS装置8を制御する。ここでの制御マップは、操舵トルクと車速とステアリング4に対する操舵操作を補助するための基本となる目標のアシストトルク(基本アシスト制御量)との相関関係が予め規定されたものである。EPS制御ECU10は、例えば、トルクセンサ13が検出する操舵トルクが大きくなるにしたがってアシストトルクを相対的に大きくし、車速センサ16が検出する車速が高くなるにしたがって当該アシストトルクを相対的に小さくするようにしてもよい。
【0041】
また、EPS制御ECU10は、操舵角センサ14が検出する操舵操作物理量としての操舵角(絶対角)に基づいて、種々の手法を用いてハンドル戻し制御を実行する。ハンドル戻し制御は、EPS装置8によってステアリング4の中立点方向にハンドル戻しトルクを付与することで、ステアリング4を滑らかに中立位置側に戻す制御、さらに言えば、ステアリング4の中立位置側への切り戻し操作を補助する制御である。ここで、ステアリング4の中立位置とは、ステアリング4の操舵角が0°となる位置である。EPS制御ECU10は、基本的には、操舵角センサ14により検出された操舵角に基づいて、操舵角に応じたハンドル戻しトルクをEPS装置8が発生するようにモータ11を制御する。より詳細には、EPS制御ECU10は、操舵角センサ14が検出する操舵角と、車速センサ16が検出する車速とに基づいて、EPS装置8を制御しハンドル戻しトルクを調節するようにしてもよい。EPS制御ECU10は、操舵角、車速に基づいて、制御マップなどを用いて、ハンドル戻し制御におけるハンドル戻し制御量として、目標のハンドル戻しトルクを算出し、これに基づいてEPS装置8を制御する。ここでの制御マップは、操舵角と車速とステアリング4を滑らかに中立位置に戻すための目標のハンドル戻しトルク(ハンドル戻し制御量)との相関関係が予め規定されたものである。EPS制御ECU10は、例えば、操舵角センサ14が検出する操舵角が大きくなるにしたがってハンドル戻しトルクを相対的に大きくし、車速センサ16が検出する車速が高くなるにしたがって当該ハンドル戻しトルクを相対的に小さくするようにしてもよい。また、EPS制御ECU10は、例えば、車速センサ16が検出する車速が予め設定される所定速度以下である場合(例えば、車両2が停車している場合)に当該ハンドル戻しトルクを0にするようにしてもよい。
【0042】
さらに、EPS制御ECU10は、検出装置9が検出する操舵操作物理量としての操舵角に基づいて、種々の手法を用いて摩擦制御を実行する。ここでは、検出装置9が検出する操舵角としては、操舵角センサ14が検出する操舵角(絶対角)、回転角センサ15が検出した回転角に応じた操舵角(相対角)のいずれを用いてもよい。摩擦制御は、例えば、検出装置9が検出した操舵角に基づいて、EPS装置8によって弾性摩擦を模擬する摩擦トルクを付与することで、ステアリング系の摩擦を制御的に付与、補償する制御である。つまり、EPS制御ECU10は、検出装置9により検出された操舵角に応じてステアリング4に付与すべき摩擦制御量としての摩擦トルクを決定し、決定した摩擦トルクに基づいてEPS装置8を制御する摩擦制御を実行可能である。より詳細には、EPS制御ECU10は、例えば、検出装置9が検出する操舵角と、車速センサ16が検出する車速とに基づいて、ステアリング4に付与すべき摩擦トルクを設定し、これに基づいてEPS装置8を制御するようにしてもよい。この場合、EPS制御ECU10は、例えば、設定した摩擦トルクに基づいて目標操舵角を設定し、当該目標操舵角と実際の操舵角との偏差に基づいて、付加摩擦トルク値を設定する。そして、EPS制御ECU10は、設定した付加摩擦トルク値に基づいてEPS装置8を制御し、このEPS装置8によりステアリング4に付与される摩擦トルク(摩擦制御量)を制御する。
【0043】
以下、摩擦制御の一例をより詳細に説明する。EPS制御ECU10は、検出装置9が検出する操舵角と車速センサ16が検出する車速とに基づいて、ステアリング4に付与されるべき摩擦トルクを演算(設定)する。EPS制御ECU10は、操舵角、車速に基づいて、制御マップなどを用いて、摩擦制御における摩擦制御量として、目標の摩擦トルクを算出する。ここでの制御マップは、操舵角と車速とステアリング4に付与されるべき目標の摩擦トルク(摩擦制御量)との相関関係が予め規定されたものである。この場合、EPS制御ECU10は、例えば、同一の操舵角の場合、車速が高いときの方が、車速が低いときよりも摩擦トルクを相対的に大きくするようにしてもよい。これは、高速域や中速域では、直進安定性向上や、操舵保舵時の保舵力低減・安定性向上を図る観点からある程度の摩擦トルクが発生する方が好ましい一方、低速域では、摩擦トルクが大きいと運転者に摩擦感を与え、操舵感が悪化するからである。また、EPS制御ECU10は、例えば、車速が同一である又は同一車速域にある場合、操舵角の大きさが大きいときの方が、操舵角の大きさが小さいときよりも摩擦トルクを相対的に大きくするようにしてもよい。これは、操舵角の大きさが大きいときは、操舵角の大きさが小さいときよりも、操舵輪3の転舵角が大きいために大きい横力が発生し易く、それ故に、操舵保舵時の保舵力低減・安定性向上を図る観点から、より大きな摩擦トルクが必要となるからである。
【0044】
そして、EPS制御ECU10は、摩擦トルクに基づいて目標操舵角を設定する。EPS制御ECU10は、例えば、上記のようにして演算された摩擦トルクと、予め設定されるゲインを用いて、偏差上限値を演算する。EPS制御ECU10は、例えば、下記の数式(1)を用いて偏差上限値を演算する。数式(1)において、「Δ」は偏差上限値、「Tt」は演算された摩擦トルク、「K」はゲインを表す。ゲインKは、操舵系の剛性等を考慮して決定される任意の固定値であってよい。なお、ゲインKは、例えば、操舵系の剛性が一番低いと考えられる部位(一般的にはトーションバー)の捻り剛性よりも高い方が望ましい。なおここでは、Tt及びKは正の値であり、偏差上限値Δは正の値である。

Δ=Tt/K ・・・ (1)
【0045】
そして、EPS制御ECU10は、操舵角θ(今回周期の値)と、演算された偏差上限値Δと、現在の目標操舵角(初期値は0であってもよし、最初に検出された操舵角であってもよい。)θtとが、θ>θt+Δなる関係であるか否かを判定する。EPS制御ECU10は、θ>θt+Δである場合、目標操舵角θtが、操舵角θと偏差上限値Δとを用いて、θt=θ−Δなる式により、新たな値に変更される。すなわち、目標操舵角θtから操舵角θを引いた偏差Δθ(=θt−θ)が、Δθ<−Δの場合には、目標操舵角θtが、θt=θ−Δに変更(更新)される。EPS制御ECU10は、θ≦θt+Δである場合、操舵角θ(今回周期の値)と、演算された偏差上限値Δと、現在の目標操舵角θtとが、θ<θt−Δなる関係であるか否かを判定する。EPS制御ECU10は、θ<θt−Δである場合、目標操舵角θtが、操舵角θと偏差上限値Δとを用いて、θt=θ+Δなる式により、新たな値に変更される。すなわち、目標操舵角θtから操舵角θを引いた偏差Δθ(=θt−θ)が、Δθ>Δの場合には、目標操舵角θtが、θt=θ+Δに変更(更新)される。なお、EPS制御ECU10は、θ≧θt−Δである場合、現在の目標操舵角θtを変更せずに維持する。すなわち、目標操舵角θtから操舵角θを引いた偏差Δθ(=θt−θ)が、−Δ≦Δθ≦Δの場合には、目標操舵角θtが変更されずに維持される。
【0046】
そして、EPS制御ECU10は、目標操舵角θtに基づいて付加摩擦トルクTcを設定する。付加摩擦トルクTcは、例えば、操舵角θと、上記のようにして演算された目標操舵角θtと、ゲインK(=Tt/Δ)とを用いて、Tc=K・Δθなる式、すなわち、Tc=K(θt−θ)なる式により演算される。なお、ここで用いられるゲインKは、上述の目標操舵角演算で用いられたゲインKと同一である。
【0047】
そして、EPS制御ECU10は、この付加摩擦トルクTcに基づいてEPS装置8を制御し、このEPS装置8によりステアリング4に付与される摩擦トルク(摩擦制御量)を制御する。したがって、EPS制御ECU10は、上述のようにして、制御的に摩擦トルクを生成するので、車速や操舵角のような車両状態に応じて最適な大きさ・方向の摩擦トルクをステアリング4に付与することができる。
【0048】
なおここでは、EPS制御ECU10は、例えば、保持摩擦制御量の出力に遅れが生じることを抑制するため、摩擦制御量に対して車両のヨー共振周波数(例えば、1.0〜1.5Hz程度)のローパスフィルタ等をかけないようにすることが好ましい。なおこの場合であっても、EPS制御ECU10は、例えば、摩擦制御量に対してノイズ除去を目的とした数10Hz以上のローパスフィルタをかけるようにしてもよい。また、EPS制御ECU10は、上記偏差上限値Δを所定の固定値とし、その代わり、ゲインKを可変値としてもよい。
【0049】
以下、図2のブロック図を参照して、上記のような制御を実現するためのEPS制御ECU10の概略構成の一例を説明する。
【0050】
EPS制御ECU10は、機能概念的に、操舵感実現部10a、車両流れ抑制部10b、加算器10c、電流演算部10d等を含んで構成される。
【0051】
操舵感実現部10aは、アシスト制御部10eと、ハンドル戻し制御部10fと、加算器10gとを含んで構成される。
【0052】
アシスト制御部10eは、アシスト制御における基本アシスト制御量を算出するものである。アシスト制御部10eは、トルクセンサ13から操舵トルクに応じた検出信号が入力され、車速センサ16から車速に応じた検出信号が入力される。アシスト制御部10eは、入力された検出信号に基づいて、上述のように基本アシスト制御量として基本となる目標のアシストトルクを演算し、当該アシストトルクに応じた電流指令値信号を加算器10gに出力する。
【0053】
ハンドル戻し制御部10fは、ハンドル戻し制御におけるハンドル戻し制御量を算出するものである。ハンドル戻し制御部10fは、操舵角センサ14から操舵角(絶対角)に応じた検出信号が入力され、車速センサ16から車速に応じた検出信号が入力される。ハンドル戻し制御部10fは、入力された検出信号に基づいて、上述のようにハンドル戻し制御量として目標のハンドル戻しトルクを演算し、当該ハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号を加算器10gに出力する。
【0054】
加算器10gは、アシスト制御部10eからアシストトルクに応じた電流指令値信号が入力され、ハンドル戻し制御部10fからハンドル戻しトルクに応じた電流指令値信号が入力される。加算器10gは、入力された電流指令値信号に基づいて、目標のアシストトルクと目標のハンドル戻しトルクとを加算した目標の操舵感実現トルク(操舵感実現制御量)を演算し、当該操舵感実現トルクに応じた電流指令値信号を加算器10cに出力する。
【0055】
車両流れ抑制部10bは、摩擦制御における摩擦制御量を算出する摩擦制御部10hを含んで構成される。摩擦制御部10hは、検出装置9(操舵角センサ14、あるいは、回転角センサ15)から操舵角に応じた検出信号が入力され、車速センサ16から車速に応じた検出信号が入力される。摩擦制御部10hは、入力された検出信号に基づいて、上述のように摩擦制御量(言い換えれば、車両流れ抑制制御量)として目標の摩擦トルクを演算し、当該摩擦トルク(付加摩擦トルク)に応じた電流指令値信号を加算器10cに出力する。
【0056】
加算器10cは、加算器10gから操舵感実現トルクに応じた電流指令値信号が入力され、摩擦制御部10hから摩擦トルクに応じた電流指令値信号が入力される。加算器10cは、入力された電流指令値信号に基づいて、目標の操舵感実現トルクと目標の摩擦トルクとを加算した最終的な目標トルク(最終的な操舵制御量)を演算し、当該最終的な目標トルクに応じた電流指令値信号を電流演算部10dに出力する。
【0057】
電流演算部10dは、加算器10cから最終的な目標トルクに応じた電流指令値信号が入力される。電流演算部10dは、入力された検出信号に基づいて、モータ駆動デューティを演算する。電流演算部10dは、最終的な目標トルクに応じた電流指令値信号が示す電流と、現時点で実際にモータ11に供給している電流(検出値)との差に基づいて、モータ駆動デューティを演算する。この際、モータ駆動デューティは、回転角センサ15からのモータ11の回転角を考慮して決定されてもよい。そして、電流演算部10dは、このようにして演算・出力されるモータ駆動デューティに従ってEPS装置8のモータ11を制御する。これにより、EPS制御ECU10は、上記のようなアシスト制御、ハンドル戻し制御、摩擦制御が実現される。
【0058】
ここで、本実施形態のようにEPS装置8を備える操舵装置1は、検出装置9を構成するトルクセンサ13、操舵角センサ14の出力のゼロ点ずれ等の影響により車両流れ性能に低下が生じるおそれがある。検出装置9を構成するトルクセンサ13、操舵角センサ14は、ステアリング4に作用するトルクが0であるとき、ステアリング4が中立位置にあるときに、それぞれゼロ点に対応する基準電圧を出力するように設定されている。しかしながら、トルクセンサ13、操舵角センサ14は、センサの個々の性能のばらつきや経年劣化、環境の変化等により、ステアリング4に作用するトルクが0であるとき、ステアリング4が中立位置にあるときであっても、ゼロ点に対応する基準電圧を出力しない場合がある。このような現象におけるずれを出力のゼロ点ずれという。
【0059】
これに対して、操舵装置1は、例えば、上記のようなセンサ誤差範囲内には不感帯を設け、このような不感帯ではEPS装置8による制御量としてトルクを出力しないようにする、もしくは、ステアリング系の機械的な摩擦を保持力として車両挙動に影響を与えない範囲内の制御量しか出力しないようにすることも可能である。しかしながらこの場合、ステアリング系の機械的な摩擦を正確に見積もることが困難であり、また、ばらつきや経年劣化、環境の変化に限らず、部分的な故障の可能性も考慮して、現実的に起こりうる最低現の機械的な摩擦力よりも遥かに低い制御量に制限する必要がある。このため、このような場合、上記のようなセンサからの信号をもとに出力するアシスト制御やハンドル戻し制御等の制御は、それぞれゼロ点ずれが起こりうる範囲内では、制御量が大幅に制限され、十分な制御効果を確保することができないおそれがある。
【0060】
本実施形態の操舵装置1は、検出装置9の出力のゼロ点ずれによって発生する制御量に対する保持力を制御自前で確保することにより、ゼロ点ずれが起こりうる範囲内でも、ステアリング系の機械的な摩擦を超える大きな制御量の設定を可能とするものである。
【0061】
具体的には、本実施形態のEPS制御ECU10は、摩擦制御では、検出装置9の出力のゼロ点ずれに基づいて摩擦トルク(摩擦制御量)の下限値(以下、「摩擦トルク下限値」という場合がある。)を設定し、摩擦トルクがこの摩擦トルク下限値以下とならないように摩擦制御を実行する。つまり、EPS制御ECU10は、検出装置9の出力のゼロ点ずれに応じた摩擦トルク下限値に基づいて摩擦制御を実行する。さらに言えば、EPS制御ECU10は、例えば、制御自身で手放し車両流れに対する保持力を確保するために、摩擦制御において検出装置9の出力のゼロ点ずれに応じた摩擦トルク下限値を規定する。
【0062】
ここで、摩擦トルク下限値(摩擦制御量の下限値)は、検出装置9の出力のゼロ点ずれに起因してEPS装置8が発生させる制御量(トルク)を打ち消すために必要とされる制御量(トルク)に相当する。本実施形態の摩擦トルク下限値は、トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量と操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量との和に相当するように設定される。
【0063】
上記トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量は、検出装置9を構成するトルクセンサ13の出力のゼロ点ずれに起因してEPS装置8が発生させる制御量を打ち消すために必要とされる制御量に相当する。つまり、トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量は、トルクセンサ13の出力のゼロ点ずれに起因してアシスト制御によりEPS装置8が発生させるアシストトルクを打ち消すために必要とされるトルクである。
【0064】
上記操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量は、検出装置9を構成する操舵角センサ14の出力のゼロ点ずれに起因してEPS装置8が発生させる制御量を打ち消すために必要とされる制御量に相当する。つまり、操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量は、操舵角センサ14の出力のゼロ点ずれに起因してハンドル戻し制御によりEPS装置8が発生させるハンドル戻しトルクを打ち消すために必要とされるトルクである。
【0065】
トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量、操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量は、例えば、実車評価等に基づいて、予めそれぞれの出力のゼロ点ずれに起因して発生しうる最大の制御量を特定しておき、このゼロ点ずれに起因して発生しうる最大の制御量に応じて固定値として記憶部に記憶しておけばよい。言い換えれば、摩擦トルク下限値は、例えば、実車評価等に基づいてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量、操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を特定し、これに基づいて予め固定値として記憶部に記憶しておけばよい。
【0066】
EPS制御ECU10の摩擦制御部10hは、上記のように規定される摩擦トルク下限値を用いて摩擦制御を実行する。摩擦制御部10hは、摩擦制御によって実際に付与される摩擦トルクがこの摩擦トルク下限値以下とならないように、摩擦トルクを設定し、当該摩擦制御を実行する。
【0067】
この場合、摩擦制御部10hは、例えば、図3のフローチャートに示すように、まず、検出装置9(操舵角センサ14、あるいは、回転角センサ15)によって検出される操舵角と、車速センサ16によって検出される車速とに基づいて、摩擦制御量としての目標の摩擦トルクを算出する(ステップST1)。
【0068】
そして、摩擦制御部10hは、ステップST1で算出された目標の摩擦トルクに対して、ゼロ点ずれに応じて設定される摩擦トルク下限値によるガード処理を行って(ステップST2)、その後の演算を行う。これにより、摩擦制御部10hは、摩擦制御によって実際に付与される摩擦トルクがこの摩擦トルク下限値以下とならないように制限することができる。
【0069】
この結果、EPS制御ECU10は、例えば、上述したゲインK等の設定にかかわらず、摩擦制御によって付与される摩擦トルクが、検出装置9の出力のゼロ点ずれに応じた摩擦トルク下限値以下にならないように制限することができる。これにより、EPS制御ECU10は、機械的な構成とは異なり、摩擦制御自体が経年劣化や環境の変化により劣化したりすることはないので、摩擦制御による摩擦トルクの下限値補償を容易に実現することができる。
【0070】
したがって、操舵装置1は、検出装置9の出力のゼロ点ずれによって発生する制御量に対して、ステアリング系の機械的な摩擦の大小に拠らずに、ゼロ点ずれによって発生する制御量より大きな摩擦特性を、摩擦制御による摩擦トルクによって制御的に付与することができる。これにより、操舵装置1は、制御自前でゼロ点ずれに対する操舵保持力を確保することができる。この結果、操舵装置1は、各種センサの性能のばらつきや経年劣化、環境の変化等にかかわらず、適正に操舵制御することができ、例えば、EPS装置8を制御することによって耐車両流れ性能を低下させないように補償することができる。
【0071】
次に、図4図5のタイムチャートを参照して、操舵装置1の動作の一例を説明する。
【0072】
図4は、横軸を時間軸とし、縦軸を操舵トルク、制御量、操舵角としている。図4は、一例として、環境変化によりトルクセンサ13に温度ドリフトによるゼロ点ずれが発生した場合を例示している。
【0073】
図4に示すように、操舵装置1は、時刻t11でトルクセンサ13に温度ドリフトによるゼロ点ずれが発生すると、トルクセンサ13が検出する操舵トルクにゼロ点ずれが発生する(図4中の実線L11参照)。すると、操舵装置1は、トルクセンサ13が検出する操舵トルクの変化に伴い、ゼロ点ずれに応じてアシスト制御による基本アシスト制御量が出力される(図4中の実線L12参照)。これにより、操舵装置1は、EPS装置8がこのトルクセンサ13の出力のゼロ点ずれに応じたアシストトルクを発生させる。
【0074】
そして、操舵装置1は、時刻t12でEPS装置8が発生させるアシストトルクがステアリング系の実際の機械的な摩擦トルクを乗り越えると、ステアリング4の操舵角が変化する(図4中の実線L13参照)。操舵装置1は、ステアリング4の操舵角が変化すると、この操舵角の変化に伴い摩擦制御が開始され、摩擦制御による摩擦制御量が出力される(図4中の実線L14参照)。そして、操舵装置1は、その後すぐに時刻t13で摩擦制御による摩擦制御量が摩擦トルク下限値以上に保持される。この結果、操舵装置1は、最終的に所定の操舵角となった際に、基本アシスト制御量(目標のアシストトルク)と、摩擦制御量(目標の摩擦トルク)とがつりあうこととなり、これ以上にステアリング4の操舵角が変化しなくなり、これにより、ゼロ点ずれに対する操舵保持力を確保することができる。このとき、モータ11に対する電流指令値は0Aとなる。これに対して、摩擦制御による摩擦制御量にゼロ点ずれに応じた摩擦トルク下限値が設定されていないような比較例に係る操舵装置では、軸力が立ち上がるまでステアリング4の操舵角が増え続けてしまうこととなる(図4中の点線L15参照)。このように、操舵装置1は、センサのゼロ点ずれによって発生する制御量に対して、例えば、操舵角変化量を車両挙動に影響なく、かつ、運転者に左右差を感じさせないほど小さく制限することができ、すなわち、ゼロ点ずれによって発生する制御量に対する操舵角の最大変化量を最小限に補償することができる。
【0075】
図5は、横軸を時間軸とし、縦軸を操舵角、制御量としている。図5は、一例として、環境変化により操舵角センサ14に温度ドリフトによるゼロ点ずれが発生した場合を例示している。
【0076】
図5に示すように、操舵装置1は、時刻t21で操舵角センサ14に温度ドリフトによるゼロ点ずれが発生すると、操舵角センサ14が検出する操舵角(絶対角)にゼロ点ずれが発生する(図5中の点線L21参照)。すると、操舵装置1は、操舵角センサ14が検出する操舵角の変化に伴い、ゼロ点ずれに応じてハンドル戻し制御によるハンドル戻し制御量が出力される(図5中の実線L22参照)。ハンドル戻し制御は、操舵角を0にしようとする制御であるため、基準となる操舵角ゼロ点自体がドリフトしてしまうと、ずれた状態を保とうとしてしまう。これにより、操舵装置1は、EPS装置8がこの操舵角センサ14の出力のゼロ点ずれに応じたハンドル戻しトルクを発生させる。
【0077】
そして、操舵装置1は、時刻t22でEPS装置8が発生させるハンドル戻しトルクがステアリング系の実際の機械的な摩擦トルクを乗り越えると、ステアリング4の操舵角が変化する(図5中の実線L23参照)。操舵装置1は、ステアリング4の操舵角が変化すると、この操舵角(ここでは相対角)の変化に伴い摩擦制御が開始され、摩擦制御による摩擦制御量が出力される(図5中の実線L24参照)。そして、操舵装置1は、その後すぐに時刻t23で摩擦制御による摩擦制御量が摩擦トルク下限値以上に保持される。この結果、操舵装置1は、最終的に所定の操舵角となった際に、ハンドル戻し制御量(目標のハンドル戻しトルク)と、摩擦制御量(目標の摩擦トルク)とがつりあうこととなり、これ以上にステアリング4の操舵角が変化しなくなり、これにより、ゼロ点ずれに対する操舵保持力を確保することができる。このとき、モータ11に対する電流指令値は0Aとなる。この結果、本実施形態の操舵装置1は、摩擦制御による摩擦制御量にゼロ点ずれに応じた摩擦トルク下限値が設定されていないような比較例に係る操舵装置(図5中の点線L25参照)と比較して、ゼロ点ずれによって発生する制御量に対する操舵角の変化量を遥かに小さく抑えることができる。
【0078】
以上で説明した実施形態に係る操舵装置1によれば、車両2に設けられ回転操作可能であるステアリング4と、ステアリング4に対する操舵操作を補助するトルクを発生させるEPS装置8と、操舵操作に関する操舵操作物理量を検出する検出装置9と、検出装置9により検出された操舵操作物理量に基づいて、EPS装置8が発生させるトルクを調節する制御を実行可能であるEPS制御ECU10とを備える。そして、EPS制御ECU10は、検出装置9により検出された操舵操作物理量に応じてステアリング4に付与すべき摩擦制御量に基づいてEPS装置8を制御する摩擦制御を実行可能であり、検出装置9の出力のゼロ点ずれに応じた摩擦制御量の下限値に基づいて摩擦制御を実行する。
【0079】
したがって、操舵装置1、EPS制御ECU10は、摩擦制御によって付与される摩擦トルクが、検出装置9の出力のゼロ点ずれに応じた摩擦トルク下限値以下にならないように制限することができる。この結果、操舵装置1、EPS制御ECU10は、各種センサの性能のばらつきや経年劣化、環境の変化等にかかわらず、適正に操舵制御することができ、例えば、EPS装置8を制御することによって耐車両流れ性能を維持することができる。
【0080】
なお、以上の説明では、摩擦トルク下限値は、固定値であるものとして説明したが可変値を用いてもよい。例えば、EPS制御ECU10は、図6に示すように、車両流れ抑制部10bが変更部10iを含んで構成されてもよい。
【0081】
変更部10iは、摩擦トルク下限値(摩擦制御量の下限値)を変更するものである。変更部10iは、例えば、車速センサ16が検出する車両2の車速に基づいて、摩擦トルク下限値(摩擦制御量の下限値)を変更するようにしてもよい。ここでは、変更部10iは、例えば、車速センサ16が検出する車両2の車速に基づいて、上記トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量、又は、上記操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を変更し、摩擦トルク下限値を変更する。
【0082】
例えば、変更部10iは、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に小さくすることで、摩擦トルク下限値を変更してもよい。この場合、操舵装置1は、車速の増加にしたがってアシスト制御による基本アシスト制御量(アシストトルク)が相対的に小さくなることから、トルクセンサ13のゼロ点ずれによる制御量が一定値ならば、最終的にEPS装置8が発生させるトルクとしては小さくなる傾向にある。これに対して、操舵装置1は、車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に小さくすることで、車速に応じた必要最小限のトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を設定することができ、車速に応じた適正な摩擦トルク下限値を設定した上で摩擦制御によって付与する摩擦トルクを制御することができる。この結果、操舵装置1は、各車速域で適切に耐車両流れ性能を維持することができる。
【0083】
また、変更部10iは、逆に、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくすることで、摩擦トルク下限値を変更してもよい。この場合、同等の操舵角であれば、車両2が高速で走行しているときは、低速で走行しているときと比べて、車両2の移動量が増える傾向にあり、これにより、車両2の偏向量が大きくなる傾向にある。これに対して、操舵装置1は、車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくすることで、車速に応じた適切な耐車両流れ性能を得ることができるように摩擦トルク下限値を設定した上で摩擦制御によって付与する摩擦トルクを制御することができる。この結果、操舵装置1は、トルクセンサ13のゼロ点ずれに対して、実用上あまり問題のない低速域では耐車両流れ性能の低下を許容した上で、実用上必要とされる高速域での耐車両流れ性能を向上することができる。
【0084】
また、操舵装置1は、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に小さくする場合の摩擦特性と、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくする場合の摩擦特性とを組み合わせることもできる。この場合、変更部10iは、例えば、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じてトルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくし、ピークを経た後に相対的に小さくするようにしてもよい。この結果、操舵装置1は、各車速域に応じた適切な耐車両流れ性能を実現することができる。
【0085】
また、変更部10iは、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に小さくすることで、摩擦トルク下限値を変更してもよい。操舵角センサ14が検出する操舵角を用いるハンドル戻し制御は、低速域で出力されるハンドル戻し制御量が相対的に大きく、高速域で出力されるハンドル戻し制御量が相対的に小さい傾向にあり、このため、高速域では操舵角センサ14のゼロ点ずれの影響が相対的に小さくなる傾向にある。これに対して、操舵装置1は、車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に小さくすることで、車速に応じた適切な耐車両流れ性能を得ることができるように摩擦トルク下限値を設定した上で摩擦制御によって付与する摩擦トルクを制御することができる。この結果、操舵装置1は、操舵角センサ14のゼロ点ずれに対して、実用上あまり問題のない高速域では耐車両流れ性能の低下を許容した上で、実用上必要とされる低速域での耐車両流れ性能を向上することができる。
【0086】
また、変更部10iは、逆に、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくすることで、摩擦トルク下限値を変更してもよい。操舵装置1は、車速センサ16が検出する車速が予め設定される所定速度以下である場合、例えば、車両2が停車している場合には、ハンドル戻し制御を実行する必要がないため、ハンドル戻し制御量自体を0にする場合がある。これに対して、操舵装置1は、車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくすることで、車両2が停車している場合には耐車両流れ性能を無視し、車速の増加に伴って適切に摩擦トルク下限値を設定した上で摩擦制御によって付与する摩擦トルクを制御することができる。この結果、操舵装置1は、操舵角センサ14のゼロ点ずれが発生していていもハンドル戻し制御自体を行わないような停車時を含む極低速域では耐車両流れ性能の低下を許容した上で、車速が徐々に上がるにしたがって耐車両流れ性能を向上することができる。
【0087】
また、操舵装置1は、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に小さくする場合の摩擦特性と、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくする場合の摩擦特性とを組み合わせることもできる。この場合、変更部10iは、車速センサ16が検出する車両2の車速の増加に応じて操舵角ゼロ点ずれ対応摩擦制御量を相対的に大きくし、ピークを経た後に相対的に小さくするようにしてもよい。この結果、操舵装置1は、各車速域に応じた適切な耐車両流れ性能を実現することができる。
【0088】
さらに、変更部10iは、トルクセンサ13が検出する操舵トルクに基づいて、摩擦トルク下限値を変更するようにしてもよい。変更部10iは、例えば、トルクセンサ13によってトルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合、当該トルクゼロ点ずれ最大検出トルク以下の操舵トルクが検出された場合と比較して、摩擦トルク下限値を小さくするようにしてもよい。ここで、トルクゼロ点ずれ最大検出トルクとは、トルクセンサ13の出力のゼロ点ずれに起因して検出されうる最大の操舵トルク(トルクセンサ最大ずれ量)であり、例えば、実車評価等に基づいて予め設定される。変更部10iは、トルクセンサ13によってトルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合、例えば、摩擦トルク下限値を0にしてもよい。この結果、操舵装置1は、トルクセンサ13によって検出される操舵トルクがトルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルク領域、言い換えれば、運転者により操舵操作が行われたと推定することができる操舵トルク領域では、摩擦トルク下限値を小さくし、摩擦制御における摩擦トルクの下限値制限を抑制、もしくは、下限値の制限自体を行わないようにすることができる。したがって、操舵装置1は、手放し車両流れに影響しないような運転者による操舵中に、制御的にステアリング系の摩擦を増やす摩擦制御を抑制、もしくは、行わないようにすることができる。この結果、操舵装置1は、運転者による操舵中に摩擦制御が快適な操舵感に対して影響を与えないようにすることができる。
【0089】
なおこのとき、変更部10iは、トルクセンサ13によってトルクゼロ点ずれ最大検出トルクより大きい操舵トルクが検出された場合には、摩擦トルク下限値を徐々に変化させて低下させるようにするとよい。この場合、摩擦トルク下限値の単位時間当たりの変化量は、例えば、実車評価等に基づいて、運転者に違和感を与えない程度の変化量に設定される。この結果、操舵装置1は、運転者により操舵操作が行われたと推定することができる場合に、摩擦制御による摩擦トルクの下限値が制限されている状態から、摩擦制御自体を抑制、もしくは、行わないようにする状態に徐々に移行することができる。したがって、操舵装置1は、運転者に対して違和感を与えないようになだらかに制御を切り替えることができる。
【0090】
さらに、EPS制御ECU10は、車両2が自動で操舵されている場合に、摩擦制御における摩擦制御量(摩擦トルク)を摩擦トルク下限値以下に下げることを許容するようにしてもよい。
【0091】
ここで、本実施形態のEPS制御ECU10は、車両2を自動で操舵する制御として、自動操舵制御を実行することができる。EPS制御ECU10は、例えば、前方検出装置17による検出結果に基づいて車両2を制御し自動操舵制御を実行可能である。自動操舵制御は、例えば、前方検出装置17による検出結果に基づいて目標軌跡を生成し、当該目標軌跡に基づいて操舵装置1のEPS装置8等を制御する軌跡制御である。EPS制御ECU10は、例えば、前方検出装置17が検出した車両2の進行方向前方側の周辺物体の有無、周辺物体と車両2との相対物理量、車両2が走行する道路の形状、レーン等に基づいて、車両2の目標とする走行軌跡である目標軌跡を生成する。EPS制御ECU10は、例えば、自車である車両2を現在の車線(レーン)内に維持したまま走行させる走行軌跡(レーンキーピングアシスト)、車両2の進行方向前方側の障害物を回避する走行軌跡、車両2を前走車に追従走行させる走行軌跡等に応じて、車両2の目標軌跡を生成する。そして、EPS制御ECU10は、生成した目標軌跡に応じた進行方向及び姿勢で車両2が進行するように修正制御量(修正操舵トルク)を算出し、この修正制御量に基づいてEPS装置8を制御する。この結果、車両2は、操舵装置1によって自動で操舵されながら、目標軌跡に沿って走行することができる。なお、EPS制御ECU10は、例えば、切替スイッチを介した運転者の切り替え操作に応じて、運転者の意思に応じて任意に自動操舵制御のオンとオフとを切り替えることができるが、これに限らない。
【0092】
そして、EPS制御ECU10の摩擦制御部10hは、上記のような自動操舵制御による修正制御量(修正操舵トルク)が実際に出力され、実際に車両2が自動で操舵されている場合に、摩擦制御における摩擦トルク(摩擦制御量)を摩擦トルク下限値以下に下げることを許容する。つまり、摩擦制御部10hは、例えば、レーンキーピングアシスト等の自動操舵によって、修正操舵が入るような場合に摩擦制御における摩擦トルクを絞るようにすることができる。またこの場合であっても、摩擦制御部10hは、自動操舵制御による修正制御量が実際には出力されておらず、実際に車両2が自動で操舵されていない場合には、摩擦制御における摩擦トルク下限値による制限をそのまま継続する。この結果、操舵装置1は、摩擦制御によってゼロ点ずれに対する操舵保持力を確保した上で、車両2が自動で操舵される場合には当該自動操舵を阻害しないようにすることができる。
【0093】
なお、上述した本発明の実施形態に係る操舵装置及び操舵制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0094】
以上の説明では、操舵装置は、コラムアシスト式のコラムEPS装置を示したがこれに限らず、例えば、ピニオンアシスト式、ラックアシスト式のいずれの方式にも適用可能である。
【0095】
以上の説明では、検出装置9は、操舵角センサ14を含んで構成されるものとして説明したが、これに限らず、操舵角センサ14を備えない構成であってもよい。この場合、EPS制御ECU10は、ハンドル戻し制御を行わないようにしてもよく、摩擦トルク下限値は、トルクゼロ点ずれ対応摩擦制御量をそのまま用いればよい。
【符号の説明】
【0096】
1 操舵装置
2 車両
3 操舵輪
4 ステアリング(操舵部材)
8 EPS装置(アクチュエータ)
9 検出装置
10 EPS制御ECU(操舵制御装置)
10a 操舵感実現部
10b 車両流れ抑制部
10c 加算器
10d 電流演算部
10e アシスト制御部
10f ハンドル戻し制御部
10g 加算器
10h 摩擦制御部
10i 変更部
13 トルクセンサ
14 操舵角センサ
15 回転角センサ
16 車速センサ
17 前方検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6