(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出手段は、前記第1の回転軸および前記第2の回転軸の一方を所定の方向に回転させてから、前記所定の方向とは逆方向に前記第1の回転軸および前記第2の回転軸の一方を回転させた際の前記第1の回転軸および前記第2の回転軸の回転角の差にもとづいて、前記第1の係合部と前記第1の溝部との係合状態および前記第2の係合部と前記第2の溝部との係合状態を検出することを特徴とする請求項2に記載のクラッチ装置。
前記検出手段は、前記第1の回転軸および前記第2の回転軸の一方を所定の方向に回転させてから、前記所定の方向とは逆方向に前記第1の回転軸および前記第2の回転軸の一方を回転させた際の前記第1の回転軸および前記第2の回転軸の回転角の差が、第1閾値より大きい場合は前記係合部と前記溝部との係合状態が異常であると検出し、第1閾値以下で第2閾値より大きい場合は前記係合部および前記溝部が摩耗状態であると検出し、前記第2閾値以下である場合は正常であると検出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクラッチ装置。
前記動作確認手段は、前記選択された係合部の動作確認を実行した後、別の前記係合部の動作確認を実行し、前記複数の係合部の全ての動作確認を実行して動作確認を終えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のクラッチ装置。
前記複数の係合部が前記進退機構によって前記複数の溝部側に向かって径方向に移動されると、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸との任意の回転位相において、前記溝部に入った状態の係合部と前記溝部に入らない状態の係合部とが存在することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のクラッチ装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。以下の実施の形態で説明するクラッチ装置は、車両の操舵装置に適用することができる。特に、いわゆるステアバイワイヤ型車両操舵装置、すなわち、操舵部に設けられたステアリングホイール等の操作部材に加えられる操舵力によらず、電気的な制御下、転舵部において備える動力源の動力によって、操作部材の操作に応じた車輪の転舵が行われる車両操舵装置に好適である。
【0019】
図1は、車両操舵装置の概略構成を示す模式図である。車両操舵装置10は、ハンドル12と、操舵角度センサ14と、トルクセンサ16と、操舵反力モータ18と、インターミディエイトシャフト20と、転舵角度センサ22と、トルクセンサ23、転舵モータ24と、タイヤ26と、ECU28と、クラッチ装置29とを備える。
【0020】
操舵アクチュエータ30は、操舵角度センサ14と、トルクセンサ16と、操舵反力モータ18とで構成されている。また、転舵アクチュエータ32は、転舵角度センサ22と転舵モータ24とで構成されている。ECU28は、操舵アクチュエータ30および転舵アクチュエータ32が有する各種センサの情報に基づいて、操舵反力モータ18や転舵モータ24を制御する。
【0021】
ハンドル12は、車室内の運転席側に配置され、運転者が操舵量を入力するために回転させる操舵部材として機能する。
【0022】
操舵角度センサ14は、運転者が入力した操舵量としてのハンドル12の回転角を検出し、この検出値をECU28に対して出力する。操舵角度センサ14は、ハンドル12の操作量に応じた情報を検出する検出手段として機能する。
【0023】
操舵側のトルクセンサ16は、ハンドル12の操舵量に応じたトルクを検出する。操舵反力モータ18は、ECU28の制御に基づいて、操舵角度センサ14が検出したハンドル12の回転角に応じた操舵反力を運転者に感じさせるための反力をハンドル12に作用させる。操舵反力モータ18は、ハンドル12などの操舵側の回転軸を回転させる駆動手段として機能する。
【0024】
ECU28は、例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを相互に接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、運転者が入力した操舵量としてのハンドル12の回転角を検出し、この操舵量に基づいた転舵量を演算して、この転舵量に基づいて、転舵モータ24を制御してタイヤ26を転舵する制御を行う制御手段として機能する。
【0025】
転舵モータ24は、ECU28の制御に基づいて、タイヤ26にタイロッドを介して連結される車幅方向に延びるラックバーを車幅方向に動作させる転舵手段を構成する。
【0026】
転舵角度センサ22は、転舵手段を構成するラックアンドピニオン機構34のピニオンの回転角を検出して、この検出値をECU28に対して出力する。転舵角度センサ22は、インターミディエイトシャフト20の回転角を検出する回転角検出手段として機能する。転舵側のトルクセンサ23は、インターミディエイトシャフト20の回転量に応じたトルクを検出する。
【0027】
インターミディエイトシャフト20は、ステアバイワイヤシステムが機能しない場合のバックアップ機構の一部として、操舵アクチュエータ30から転舵アクチュエータ32へ操舵力(トルク)を伝達する役割を果たす。メカバックアップ機構は、インターミディエイトシャフト20、クラッチ装置29、ラックアンドピニオン機構34等から構成される。
【0028】
クラッチ装置29は、2つの回転軸の間のトルクの伝達および遮断の切替えを行う。クラッチ装置29の構造の詳細については後述するが、車両操舵装置10は、システムが正常な場合、クラッチ装置29により操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32との接続が分離されており、ステアバイワイヤシステムとして機能する。一方、車両操舵装置10は、システムが異常な場合、クラッチ装置29により操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32とが機械的に連結されることで、ハンドル12の操作によりタイヤ26を直接転舵できるようになる。
【0029】
次に、クラッチ装置29の構造について詳述する。
図2は、クラッチ装置29の軸に平行な断面図である。
図3は、
図2に示すクラッチ装置29のA−A断面図である。なお、
図2は、
図3に示すB−B断面に相当する。
【0030】
クラッチ装置29は、第1の回転軸である環状のハンドル側ハウジング36と、第2の回転軸である環状のタイヤ側ハウジング38と、タイヤ側ハウジング38の径方向に移動できるようにタイヤ側ハウジング38に設けられている係合部としての複数のロックバー40と、を備える。ハンドル側ハウジング36は、内周面に複数のロック溝42が互いに間隔をもって周方向の形成されている。タイヤ側ハウジング38は、ハンドル側ハウジング36と同軸となるように設けられており、クラッチ装置29の側方から見て少なくとも一部がハンドル側ハウジング36と重なるように配置されている。
【0031】
ハンドル側ハウジング36は、操舵アクチュエータ30と連結されており、ハンドル12の回転に連動して回転する。また、タイヤ側ハウジング38は、転舵アクチュエータ32と連結されており、タイヤの転舵に連動して回転する。クラッチ装置29は、ロックバー40をロック溝42側に向って径方向へ進退させる進退機構44を更に備える。進退機構44の詳細については後述する。
【0032】
本実施の形態に係るクラッチ装置29においては、5つのロックバー40が放射状にほぼ等間隔に配置されている。各ロックバー40は、環状のタイヤ側ハウジング38の周面に形成された開口部38aに摺動可能に支持されている。
【0033】
タイヤ側ハウジング38の
図2に示す右側の開口部近傍には、バネ受け部材46が固定されている。バネ受け部材46は、小径部46aの外周面に、各ロックバー40に対応するように複数の凸部46bが放射状にほぼ等間隔で配置されている。凸部46bは、付勢部材であるバネ部材50がずれないようにその一端を支持する。また、バネ部材50の他端は、ロックバー40のバネ受け部材46と対向する部分に形成されている凹部40aにより支持されている。そして、バネ部材50は、
図2や
図3に示す状態では圧縮されている。バネ部材50は、各ロックバー40をロック溝42側に向かって付勢する付勢手段として機能する。
【0034】
進退機構44は、電気によって駆動するアクチュエータとしてのプル型ソレノイド装置52と、ロックバー40をロック溝42に向かって付勢するバネ部材50と、ロックバー40に作用することでロックバー40の進退を制御するピン54と、ピン54が固定されているアダプタ56と、を有している。
【0035】
プル型ソレノイド装置52は、通電時(クラッチ装置OFF)には軸52aが引き込まれ、非通電時(クラッチ装置ON)には内部にある戻りバネの作用で軸52aが突出するように構成されている。
図2は、プル型ソレノイド装置52の通電時の状態を示している。
【0036】
ピン54は、ロックバー40の中央部に設けられた貫通孔40bに浸入した状態でロックバー40と係合している。また、ピン54は、
図2に示すクラッチ装置OFFの状態でロックバー40の貫通孔40bと当接する第1当接部54aと、後述するクラッチ装置ONの状態でロックバー40の貫通孔40bと当接する第2当接部54bと、第1当接部54aと第2当接部54bとを滑らかにつなぐ傾斜部54cと、を有する。第1当接部54aおよび第2当接部54bは、回転軸Axに沿っており、傾斜部54cは回転軸Axに対して傾斜する。ピン54は、第2当接部54bから第1当接部54aに向かってクラッチ装置29の回転軸Axに近づくように屈曲している。すなわち、第1当接部54aは、第2当接部54bよりロックバー40の根元の凹部40aに近い。なお、第2当接部54bは、必ずしも貫通孔40bの内周壁と当接しなくてもよい。
【0037】
アダプタ56は、プル型ソレノイド装置52の軸に固定されており、プル型ソレノイド装置52への通電状態に応じて軸方向へ位置が変化する。その際、ピン54も軸方向へ位置が変化する。
【0038】
次に、クラッチ装置の動作を説明する。
図2や
図3に示すように、クラッチ装置29がOFFの状態、すなわちプル型ソレノイド装置52に通電されている状態では、ロックバー40とロック溝42とが一切係合しない。そのため、操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32とは切り離された状態であり、互いの間でトルクは伝達されない。
【0039】
より詳細には、プル型ソレノイド装置52に通電されると、プル型ソレノイド装置52の軸とともにアダプタ56が引き込まる。その際、ピン54の第1当接部54aが貫通孔40bの内周壁に当接し、クラッチ装置29がOFFの状態となる位置にロックバー40が規制され、ロック溝42から退避した状態にある
【0040】
図4は、クラッチ装置29(クラッチON状態)の軸に平行な断面図である。
図5は、
図4に示すクラッチ装置29のC−C断面図である。なお、
図4は、
図5に示すD−D断面に相当する。
【0041】
クラッチ装置29は、システムの故障などで通電が解除され非通電な状態となると、プル型ソレノイド装置52の戻りバネの働きで、それまで引き込まれていたアダプタ56が
図4の右方向へ移動する。その結果、ロックバー40の貫通孔40bの内部でのピン54の位置が変化し、ピン54の第2当接部54bが貫通孔40bの内部に位置することになる。その結果、ピン54により位置が規制されていたロックバー40は、ハンドル側ハウジング36のロック溝42に向かって移動できるようになる。
【0042】
このように、各ロックバー40は、バネ部材50の付勢力によってハンドル側ハウジング36のロック溝42側に向かってタイヤ側ハウジング38の径方向に移動する力が働くが、
図5に示すように、クラッチ装置29では、すべてのロックバー40がそのままロック溝42に入るようには構成されていない。
【0043】
つまり、各ロックバー40(以下、適宜ロックバー401〜405と称する場合がある。)と各ロック溝42との位置関係、つまりハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との位置関係によっては、ロック溝42に入り込むロックバーの組合せは種々変わりうる。
図5に示すクラッチ装置29では、ロック溝42に入り込むロックバー401〜403と、ロック溝42に入り込まずにロック溝42同士の間の内周壁部43と当接して止まるロックバー404,405とが存在することになる。つまり、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との任意の回転位相において、ロック溝42に入った状態のロックバー40とロック溝42に入らない状態のロックバー40とが存在する。
【0044】
図5に示す状態は、クラッチ装置29が完全にクラッチONとなった場合であるが、プル型ソレノイド装置52への通電が解除されたと同時に、常にこの状態に至る訳ではない。以下では、通常のハンドル12の操作によってクラッチ装置29が完全にクラッチONとなるまでの動作について更に詳述する。
【0045】
図11は、
図5に示す状態からハンドル側ハウジング36が矢印R2方向へわずかに回転した位置にあるクラッチ装置の断面図である。例えば、
図5に示す状態からハンドル側ハウジング36が矢印R2方向へわずかに回転した位置にある場合(タイヤ側ハウジング38は
図5に示す状態のまま)、ロックバー401,402は、ロック溝42に入り込むものの、ロックバー403,404,405は、ハンドル側ハウジング36の内周壁にある突起部43に当接した状態である。また、この場合には、ロック溝42に入り込んだロックバー401,402は、いずれもロック溝42の側面42a,42bに当接していない。そのため、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との間には、回転方向において遊びが存在している。
【0046】
そして、この状態からハンドル側ハウジング36を矢印R1方向へ回転すると、ロックバー401がロック溝42の一方の側面42aに当接し係合した際に、ロックバー403がロック溝42に入り、ロック溝42の他方の側面42bと係合する。その結果、
図5に示すように、ロック溝421に入り込んで一方の側面42aと係合するロックバー401とロック溝423に入り込んで他方の側面42bと係合するロックバー403とにより、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との間の回転方向の遊びがほぼなくなり(ロック状態)、ハンドル側ハウジング36の回転力をタイヤ側ハウジング38へ確実に伝達することができる。
【0047】
このように、本実施の形態に係るクラッチ装置29において、複数のロックバー40は、プル型ソレノイド52を含む進退機構44によって複数のロック溝42に向かって移動した場合、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との回転位相差にかかわらず、複数のロック溝42のうちいずれか一つの第1溝部であるロック溝421に入るロックバー401と、ロックバー401が、ロック溝421に入った状態で左回りの回転方向(
図17に示す矢印R2方向)へ移動し、ロック溝421の2つの側面42a,42bのうち一方の回転方向(矢印R2方向)側の側面42aに係合した際に、ロック溝421と異なる第2溝部としてのロック溝423に入るロックバー403と、を有する。ロックバー403は、ロック溝423に入った際に、ロック溝423の2つの側面42a,42bのうち他方の回転方向(矢印R1方向)側の側面42bに係合するように構成されている。
【0048】
これにより、クラッチ装置29は、進退機構44により各ロックバー40をロック溝42から退避させることで、車両操舵装置10をハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38とのトルクの伝達がない分離状態にできる。一方、クラッチ装置29は、進退機構44によりハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38とが接続されている状態(ロック状態)では、ハンドル側ハウジング36が一方の回転方向(例えば矢印R1方向)に回転した場合は、ロックバー401がロック溝421の2つの側面のうち他方の回転方向(矢印R2方向)側の側面42aに係合しているため、遊びがほとんどない状態でトルクをタイヤ側ハウジング38に伝達できる。また、ハンドル側ハウジング36が他方の回転方向(例えば矢印R2方向)に回転した場合は、ロックバー403がロック溝423の2つの側面のうち一方の回転方向(矢印R1方向)側の側面42bに係合しているため、遊びがほとんどない状態でトルクをタイヤ側ハウジング38に伝達できる。
【0049】
また、クラッチ装置29は、プル型ソレノイド装置52に通電した際の動作によりバネ部材50の付勢力より大きな力でロックバー40をロック溝42から退避させるとともに、プル型ソレノイド装置52への通電が解除された場合にはバネ部材50の付勢力によりロックバー402やロックバー403がロック溝42に入るように構成されている。これにより、プル型ソレノイド装置52への通電が行われなくなった非常時には、ロックバー402やロックバー403がロック溝42に入ることでハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との接続が即座に行われる。進退機構44は、ロックバー40をロック溝42側へ進行させるための進行動作、または、ロックバー40をロック溝42側から退避させるための退避動作を行う。進行動作を実行する場合は進退機構44への通電がOFFされ、退避動作を実行する場合は進退機構44への通電がONされる。
【0050】
次に、ロックバー40とロック溝42との好適な関係について説明する。
図6は、ロックバー40とロック溝42の形状を説明するための図である。
図7は、
図6に示すロックバーとロック溝との関係を直線状に示した模式図である。
【0051】
図6、
図7に示すように、複数のロック溝42の数をn[個]、ロック溝42のピッチをP、複数のロックバー40の数をN[個]、複数のロック溝42に入るロックバー40の数をNx[個]、ロックバー40の幅をW[deg]、ロック溝42の幅をB1[deg]、ロック溝42と隣接するロック溝42との距離(内周壁部43の幅)をB2[deg]、ロック溝42にロックバー40を係合させる際のズレ角度(接続時ズレ角度)をδ[deg]とすると、本実施の形態に係るクラッチ装置29における各パラメータは表1に示すように設定されている。
【0053】
また、各パラメータは
P=360/n・・・式(1)
B1≒W+(δ×(Nx−1))・・・式(2)
δ=P/N・・・式(3)
の各式を満たすように設定されている。なお、各式の数値は、設計の自由度や部品の公差などによって多少の誤差は許容される。
【0054】
これにより、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との相対的な位相がどんな場合でも、少なくとも一つのロックバー40は常にロック溝42に入りうる位置になる。また、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との接続(ロック)時のズレ角度δを考慮した設計が可能となる。ここで、接続時のズレ角度δとは、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との相対的な位相がどんな場合であっても、一方を他方に対して接続時ズレ角度δだけ回転させれば、クラッチ装置29においてクラッチON状態(ロック状態)が実現される角度を示すパラメータである。つまり、接続時のズレ角度δを小さく設定すれば、システム異常時においてもわずかなハンドル操作で操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32とが機械的に連結されることとなり、車両操舵装置10のフェールセーフの応答性の向上が図られる。
【0055】
前述のように、車両操舵装置10は、車両を操舵するために回転されるハンドル12と、ハンドル12の操作量に応じた情報を検出する操舵角度センサ14と、タイヤ26を転舵するラックアンドピニオン機構34と、ラックアンドピニオン機構34を駆動する転舵モータ24と、ハンドル12とラックアンドピニオン機構34との間に配置され、ハンドル12とラックアンドピニオン機構34との間のトルクの伝達および遮断の切替えを行うクラッチ装置29と、クラッチ装置29によりトルクが遮断された状態で転舵モータ24を駆動し、操作量に応じた情報に基づいて転舵量を制御するECU28と、を備えている。ハンドル12は、ハンドル側ハウジング36と連結されており、ラックアンドピニオン機構34は、タイヤ側ハウジング38と連結されており、クラッチ装置29は、ハンドル12とラックアンドピニオン機構34との間のトルクが伝達可能な状態で、ハンドル12の操作に応じて車輪の舵角が変化するようにハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38とが機械的に連結されている。
【0056】
これにより、クラッチ装置29によりトルクが遮断された状態で転舵モータ24を駆動し、ハンドル12の操作量に応じた情報に基づいて転舵量を制御している場合には、ラックアンドピニオン機構34からハンドル12へトルク変動などが伝達されないため、操舵フィーリングを向上できる。
【0057】
図5に戻る。このようなクラッチ装置29において、プル型ソレノイド装置52を通電OFFにした状態、すなわち車両の電源をOFFした状態で長期間放置した場合、錆などの原因によりロックバー40がタイヤ側ハウジング38の一部に固着するおそれがある。ここで仮に
図5に示すロックバー404やロックバー405がタイヤ側ハウジング38に固着している場合、その他のロックバー40が正常に動作するならば、その他のロックバー40がロック溝42に入ることでクラッチ装置29を接続することが可能である。このように、最初からロック溝42に入っていないロックバー40が固着しても、クラッチ装置29は正常に動作する場合があり、異常の検出が難しい。そのため各ロックバー40の状態について動作確認をすることが好ましい。
【0058】
図8は、動作確認部100の機能ブロックを示す図である。動作確認部100は、情報取得部102、選択部104、位置調整部106、検出部108およびクラッチ処理部110を備える。動作確認部100は、ECU28に含まれ、各ロックバー40の動作を確認する。情報取得部102は、操舵角度センサ14、トルクセンサ16、転舵角度センサ22、イグニッションスイッチのON/OFFなどの情報を取得する。
【0059】
選択部104は、動作確認時に各ロックバー40のうち動作確認の対象となる1つ以上のロックバー40を選択する。選択部104に選択されたロックバー40の動作確認が実行されると、選択部104は次のロックバー40を選択する。この実施例ではまず最初に選択部104は
図5に示す2つのロックバー401、ロックバー403を確認対象として選択する。
【0060】
選択部104は、各ロックバー40に番号を付して管理し、動作確認をする際に、全ての番号のロックバー40の動作確認が実行されるように、各ロックバー40のうちいずれかを選択する。動作確認部100は、選択されたロックバー40の動作確認を実行した後、未選択の番号のロックバー40の動作確認を実行し、全ての番号のロックバー40の動作確認を実行して動作確認を終える。
【0061】
例えば選択部104は、ロックバー401、ロックバー403を選択して動作確認し、次にロックバー402、ロックバー404を選択して動作確認し、次にロックバー403、ロックバー405を選択して、全てのロックバー40を選択する。選択されるロックバー40には未選択のロックバー40が必ず含まれている。このように、各ロックバー40を個別に動作確認をすることで、各ロックバー40の状態を検出できる。動作確認部100は全てのロックバー40について動作確認が終了するまで、車両走行を禁止してよい。
【0062】
位置調整部106は、各ロックバー40をロック溝42側に進行させたときに選択されたロックバー40がロック溝42に入るように、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との回転位相を調整する。位置調整部106は、ロックバー401およびロックバー403がロック溝421およびロック溝423にそれぞれ入るように操舵反力モータ18や転舵モータ24を駆動させて、回転位相を調整する。位置調整部106は、回転位相を調整すると、ロックバー40の番号とその回転位相とを記憶させ、次のロックバー40の位置調整に記憶した回転位相を用いる。位置調整部106は、回転位相の調整だけでなく、検出部108の指示に応じて操舵反力モータ18および転舵モータ24を駆動する。位置調整部106による位置調整が終わると、進退機構44によるロックバー40の進行動作が実行される。
【0063】
検出部108は、位置調整部106により回転位相が調整された状態で、進退機構44が進行動作を行った後、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の一方を所定の方向に回転させて選択されたロックバー40とロック溝42との係合状態を検出する。検出部108がロックバー40とロック溝42との係合状態を検出するとは、正常、異常かだけでなく、摩耗状態も検出する。
【0064】
具体的に、動作確認処理において検出部108は、操舵反力モータ18によりハンドル側ハウジング36を保持させて、転舵モータ24によりタイヤ側ハウジング38を所定の方向に回転させる。この結果、検出部108は、ハンドル側ハウジング36の回転角とタイヤ側ハウジング38の回転角の差(相対回転量)が、所定の閾値以下であり、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であることが満たされなければ正常でないと検出される。つまり、クラッチ装置29の接続状態において一方の回転軸にトルクを付与して、トルクの伝達量、および、両回転軸の相対的な位相の差の少なくとも一方にもとづいて係合状態を検出する。このように検出部108は、所定のロックバー40の係合状態を確認できる。なお、動作確認処理において、操舵反力モータ18によりハンドル側ハウジング36を保持させて、転舵モータ24によりタイヤ側ハウジング38を回転させる態様を示したが、この態様に限られず、転舵モータ24によりタイヤ側ハウジング38を保持させて、操舵反力モータ18によりハンドル側ハウジング36を回転させる態様であってよい。
【0065】
また、検出部108は、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の一方を所定の方向に回転させてロックバー401とロック溝42との係合状態を検出した後、所定の方向とは逆方向にハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の一方を回転させて、ロックバー403とロック溝423との係合状態を検出する。
図5に示す態様では、ハンドル側ハウジング36を保持してタイヤ側ハウジング38を反時計回り方向R2に回転させて、ロックバー401とロック溝42の側面42aの係合状態を確認し、ハンドル側ハウジング36を保持したままタイヤ側ハウジング38を時計回り方向R1に回転させて、ロックバー403とロック溝42の側面42bとの係合状態を確認する。このように2方向にトルクを付与することで、ロックバー401およびロックバー403の両方の動作確認ができる。
【0066】
検出部108は、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の一方を所定の方向に回転させてから、所定の方向とは逆方向にハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の一方を回転させた際の両回転軸の回転角の差、すなわち両回転軸間の回転方向のガタツキが、第1閾値より大きい場合はロックバー40とロック溝42との係合状態が異常であると検出し、第1閾値以下で第2閾値より大きい場合はロックバー40が摩耗状態であると検出し、第2閾値以下である場合は正常であると検出する。クラッチ装置29の両回転軸の位相のずれを3段階に分けて、異常、正常のみならずロックバー40とロック溝42の係合状態が摩耗状態にあるか検出できる。
【0067】
ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38の両回転軸の回転角の差が、第2閾値以下であれば、クラッチ装置29の係合状態において、両回転軸間の回転方向のガタツキはほとんどない。
【0068】
一方、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38の両回転軸の回転角の差が第1閾値より大きい場合、クラッチ装置29の係合状態において、少なくとも1組のロックバー40とロック溝42が係合していない状態であり、両回転軸の回転方向のガタツキが予め設定した許容量を越える状態となる。例えば、
図5において、ロックバー401がロック溝421に係合していない、あるいは、ロックバー403がロック溝423に係合していない状態であり、
図5に示す位相Aが両回転軸間の回転方向のガタツキである。
【0069】
図5に示す位相Aは、ロック溝42の周方向幅(すなわち
図6のB1)からロックバー40の周方向幅(すなわち
図6のW)を減算して、半分にした値である。また、前述の両回転軸の回転方向のガタツキの許容量は、位相A以下に設定される。
【0070】
またハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38の両回転軸の回転角の差が第1閾値以下で、第2閾値より大きい場合、少なくともロックバー40あるいは、ロック溝42のいずれか一方が摩耗状態であって、クラッチ装置29の係合状態において、両回転軸間の回転方向のガタツキが比較的大きいものの、予め設定した許容量を越えない状態である。摩耗状態を検出することで、経時的な変化を把握することが可能であり、摩耗の増大に伴うクラッチ装置29の故障を未然に防止することができる。なお、第1閾値は、
図5に示す位相A相当に設定され、第2閾値は、摩耗によるクラッチ装置29の故障が未然に防止可能な所定量以下に設定される。
【0071】
クラッチ処理部110は、ロックバー40の進退動作の異常と判定されると、異常時の処理を実行する。クラッチ処理部110は、表示装置を介して運転者にクラッチ装置29の異常を示し、クラッチ装置29の異常を検出するとクラッチ装置29の接続の解除を禁止する。また、クラッチ処理部110は、摩耗状態であると検出するとその旨を運転者に示す。
【0072】
図9は、ロックバー40の動作確認処理を示すフローチャートである。動作確認部100は、車両の駆動を開始するとき、たとえばイグニッションスイッチがONされた場合に動作確認処理を実行する。なお、
図9および
図10の第1および第2閾値の序数は図面登場順に第1、第2と示している。
【0073】
選択部104は、各ロックバー40のうち、本処理で未だ選択されていないロックバー40を動作確認の対象として選択する(S112)。位置調整部106は、選択部104により選択されたロックバー40が、ロック溝42に入るようにハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との回転位相を調整する(S114)。
【0074】
位置調整部106は、回転位相の調整を終えた後、進退機構44によりロックバー40の進行動作を行う(S116)。これにより、正常ならばロックバー40とロック溝42が係合状態になり、クラッチ装置29が接続された状態になる。
【0075】
検出部108は、操舵反力モータ18によりハンドル側ハウジング36を保持させ(S118)、転舵モータ24によりタイヤ側ハウジング38に所定の方向のトルクを付与させる(S120)。このとき、検出部108は、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であるか判定する(S122)。
【0076】
回転角の差が第2閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上でなければ(S122のN)、検出部108はロックバー40とロック溝42の係合状態が異常であると判定する(S126)。一方、回転角の差が第2閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であれば(S122のY)、検出部108はロックバー40とロック溝42の係合状態が正常であると判定する(S124)。
【0077】
検出部108の判定結果が出ると、全てのロックバー40の動作確認が終了したか判定する(S128)。全てのロックバー40の動作確認が終了していなければ(S128のN)、最初に戻って選択部104により別のロックバー40が選択され(S112)、全てのロックバー40の動作確認が終了していれば(S128のY)、本処理を終了する。このように、タイヤ側ハウジング38に一方向のトルクを与えるだけで、特定のロックバー40の動作確認を1本ずつすることができる。
【0078】
図10は、変形例のロックバー40の動作確認処理を示すフローチャートである。動作確認部100は、車両の駆動を開始するとき、たとえばイグニッションスイッチがONされた場合に動作確認処理を実行する。
【0079】
選択部104は、各ロックバー40のうち、本処理で未だ選択されていないロックバー40を動作確認の対象として選択する(S12)。位置調整部106は、選択部104により選択されたロックバー40が、ロック溝42に入るようにハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との回転位相を調整する(S14)。
【0080】
位置調整部106は、回転位相の調整を終えた後、進退機構44によりロックバー40の進行動作を行う(S16)。これにより、正常ならばロックバー40とロック溝42が係合状態になり、クラッチ装置29が接続された状態になる。
【0081】
検出部108は、操舵反力モータ18によりハンドル側ハウジング36を保持させ(S18)、転舵モータ24によりタイヤ側ハウジング38に所定の方向のトルクを付与させる(S20)。このとき、検出部108は、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であるか判定する(S22)。
【0082】
回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上でなければ(S22のN)、検出部108はロックバー40とロック溝42の係合状態が異常であると判定する(S34)。一方、回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であれば(S22のY)、転舵モータ24を逆回転してタイヤ側ハウジング38に反対方向のトルクを付与する(S24)。
【0083】
検出部108は、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であるか判定する(S26)。このように両方向にトルクを付与して動作確認をすることで、係合状態にある2つのロックバー40の双方について動作確認をすることができる。
【0084】
回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であれば(S26のY)、検出部108はロックバー40が正常であると判定する(S28)。回転角の差が第1閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上でなければ(S26のN)、検出部108は回転角の差が第2閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であるか判定する(S30)。
【0085】
回転角の差が第2閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上であれば(S30のY)、検出部108は、ロックバー40とロック溝42の係合状態が摩耗状態であると判定する(S32)。これにより、トルクの伝達があるものの、両回転軸の回転角が少しずれる状態を摩耗状態として検出できる。
【0086】
回転角の差が第2閾値以下、かつ、トルクセンサ16のトルクが所定値以上でなければ(S30のN)、検出部108はロックバー40の係合状態が異常であると判定する(S34)。検出部108の判定結果が出ると、全てのロックバー40の動作確認が終了したか判定する(S36)。
【0087】
全てのロックバー40の動作確認が終了していなければ(S36のN)、最初に戻って選択部104により別のロックバー40が選択され(S12)、全てのロックバー40の動作確認が終了していれば(S36のY)、本処理を終了する。このようにクラッチ装置29の各ロックバー40の動作確認ができる。
【0088】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0089】
上述の実施の形態では、ハンドル側ハウジングの内周にロック溝が設けられ、タイヤ側ハウジングにロックバーが設けられているクラッチ装置について説明したが、ハンドル側ハウジングにロックバーが設けられ、タイヤ側ハウジングの外周にロック溝が設けられているクラッチ装置であってもよい。