(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5831418
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】計測装置及び計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20151119BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20151119BHJP
G01M 15/10 20060101ALI20151119BHJP
【FI】
G01N27/00 K
G01N21/59 Z
G01M15/10
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-213046(P2012-213046)
(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公開番号】特開2014-66637(P2014-66637A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124730
【弁理士】
【氏名又は名称】正津 秀明
(72)【発明者】
【氏名】黒川 敏邦
【審査官】
蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−214082(JP,A)
【文献】
特開昭62−157547(JP,A)
【文献】
特開平11−230869(JP,A)
【文献】
特開2004−117259(JP,A)
【文献】
特開2004−361241(JP,A)
【文献】
特開2003−172698(JP,A)
【文献】
特開2011−21563(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0292934(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
G01M 15/10
G01N 21/00−21/01、21/17−21/61
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの排出ガスの流量を計測する流量計測部と、前記排出ガスに含まれる各種の成分の濃度を計測する濃度計測部と、前記流量及び前記濃度の計測結果を演算処理する演算部と、を備え、
前記流量計測部及び前記濃度計測部において連続して計測した前記流量と前記濃度とを、前記演算部において乗算することにより、前記各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測を行う計測装置であって、
前記濃度計測部は、前記濃度を高精度で検出する高精度分析部と、該高精度分析部よりも短い応答時間で前記濃度を検出する高応答分析部と、を有し、
前記演算部において、前記高精度分析部で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状を、前記高応答分析部で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状に合わせることにより、前記高精度分析部における前記濃度の検出結果の応答遅れを補正した値を、前記濃度計測部における濃度の計測結果として、モーダルマス計測を行うことを特徴とする、計測装置。
【請求項2】
前記高応答分析部は、第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部を備え、
前記第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部におけるそれぞれの検出部は、前記排出ガスの流通経路において、前記流量計測部の検出部を挟んだ上流側及び下流側であって、前記流量計測部の検出部から等距離となる位置に配設されるとともに、
前記第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部で検出した濃度の平均値を、前記高応答分析部における濃度の検出結果とすることを特徴とする、請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記流量計測部は、第一の流量計測部及び第二の流量計測部を備え、
前記第一の流量計測部及び第二の流量計測部におけるそれぞれの検出部は、前記排出ガスの流通経路において、前記高応答分析部の検出部を挟んだ上流側及び下流側であって、前記高応答分析部の検出部から等距離となる位置に配設されるとともに、
第一の流量計測部及び第二の流量計測部で計測した流量の平均値を、前記流量計測部における流量の計測結果とすることを特徴とする、請求項1に記載の計測装置。
【請求項4】
エンジンからの排出ガスの流量と、前記排出ガスに含まれる各種の成分の濃度と、を計測し、該流量と前記濃度とを乗算することにより、前記各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測を行う計測方法であって、
前記濃度を計測する際に、前記濃度を高精度で検出する高精度分析を行うとともに、該高精度分析よりも短い応答時間で前記濃度を検出する高応答分析を行い、
前記高精度分析で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状を、前記高応答分析で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状に合わせることにより、前記高精度分析における前記濃度の検出結果の応答遅れを補正した値を、濃度の計測結果としてモーダルマス計測を行うことを特徴とする、計測方法。
【請求項5】
前記高応答分析は、第一の高応答分析及び第二の高応答分析からなり、
前記第一の高応答分析及び第二の高応答分析は、前記排出ガスの流通経路において、前記排出ガスの流量の計測を行う箇所を挟んだ上流側及び下流側であって、前記流量の計測を行う箇所から等距離となる箇所で行うとともに、
前記第一の高応答分析及び第二の高応答分析で検出した濃度の平均値を、前記高応答分析における濃度の検出結果とすることを特徴とする、請求項4に記載の計測方法。
【請求項6】
前記排出ガスの流量の計測は、第一の流量計測及び第二の流量計測からなり、
第一の流量計測及び第二の流量計測は、前記排出ガスの流通経路において、前記高応答分析の計測を行う箇所を挟んだ上流側及び下流側であって、前記高応答分析の計測を行う箇所から等距離となる箇所で行うとともに、
第一の流量計測及び第二の流量計測で計測した流量の平均値を、前記排出ガスの流量の計測における流量の計測結果とすることを特徴とする、請求項4に記載の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置及び計測方法に関し、特に、エンジンの排出ガスにおけるモーダルマス計測の計測精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンからの排出ガスの流量を流量計測部で計測し、排出ガスに含まれる各種の成分の濃度を濃度計測部で計測して、計測した流量と濃度とを乗算することにより、排出ガス中に含まれる各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測が行われている。
【0003】
前記のようなモーダルマス計測においては、濃度計測部における計測が流量計測部における計測に対して応答の遅れを生じるため、このような応答遅れを補正する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−361241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1には、排出ガスを流通させるホース及び濃度計に供給するガスを切り替え弁で機械的に切り替えることにより、二酸化炭素等の特定のガス成分濃度を変化させて、濃度計の出力信号から応答特性を同定して応答遅れを補正する技術が開示されている。また、排出ガスの流量についても、ポンプをONして流量を変化させた際の流量計の出力に基づいて補正を行う技術が開示されている。
【0006】
しかし、前記の技術によれば、流量及び濃度の変化が開始するタイミングが不明確であるとともに、流量を計測する位置で濃度を計測することができていないため、モーダルマス計測の結果に大きな誤差を生じる可能性がある。
また、濃度計に供給するガスを切り替え弁で機械的に切り替えても、ガスが濃度計に到達するまでの経路途中において濃度がステップ的に変化しなくなることにより、補正において大きな誤差が生じている可能性がある。ガスの流量についても同様に、ポンプのONによって流量をステップ的に変化させることは困難であるため、補正において大きな誤差が生じている可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の状況を鑑み、エンジンの排出ガスのモーダルマス計測において、流量計測部の計測に対する、濃度計測部の計測の応答遅れを高精度で補正することが可能となる、計測装置及び計測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、エンジンからの排出ガスの流量を計測する流量計測部と、前記排出ガスに含まれる各種の成分の濃度を計測する濃度計測部と、前記流量及び前記濃度の計測結果を演算処理する演算部と、を備え、前記流量計測部及び前記濃度計測部において連続して計測した前記流量と前記濃度とを、前記演算部において乗算することにより、前記各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測を行う計測装置であって、前記濃度計測部は、前記濃度を高精度で検出する高精度分析部と、該高精度分析部よりも短い応答時間で前記濃度を検出する高応答分析部と、を有し、前記演算部において、前記高精度分析部で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状を、前記高応答分析部で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状に合わせることにより、前記高精度分析部における前記濃度の検出結果の応答遅れを補正した値を、前記濃度計測部における濃度の計測結果として、モーダルマス計測を行うものである。
【0010】
請求項2においては、前記高応答分析部は、第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部を備え、前記第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部におけるそれぞれの検出部は、前記排出ガスの流通経路において、前記流量計測部の検出部を挟んだ上流側及び下流側であって、前記流量計測部の検出部から等距離となる位置に配設されるとともに、前記第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部で検出した濃度の平均値を、前記高応答分析部における濃度の検出結果とするものである。
【0011】
請求項3においては、前記流量計測部は、第一の流量計測部及び第二の流量計測部を備え、前記第一の流量計測部及び第二の流量計測部におけるそれぞれの検出部は、前記排出ガスの流通経路において、前記高応答分析部の検出部を挟んだ上流側及び下流側であって、前記高応答分析部の検出部から等距離となる位置に配設されるとともに、第一の流量計測部及び第二の流量計測部で計測した流量の平均値を、前記流量計測部における流量の計測結果とするものである。
【0012】
請求項4においては、エンジンからの排出ガスの流量と、前記排出ガスに含まれる各種の成分の濃度と、を計測し、該流量と前記濃度とを乗算することにより、前記各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測を行う計測方法であって、前記濃度を計測する際に、前記濃度を高精度で検出する高精度分析を行うとともに、該高精度分析よりも短い応答時間で前記濃度を検出する高応答分析を行い、前記高精度分析で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状を、前記高応答分析で検出した前記濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状に合わせることにより、前記高精度分析における前記濃度の検出結果の応答遅れを補正した値を、濃度の計測結果としてモーダルマス計測を行うものである。
【0013】
請求項5においては、前記高応答分析は、第一の高応答分析及び第二の高応答分析からなり、前記第一の高応答分析及び第二の高応答分析は、前記排出ガスの流通経路において、前記排出ガスの流量の計測を行う箇所を挟んだ上流側及び下流側であって、前記流量の計測を行う箇所から等距離となる箇所で行うとともに、前記第一の高応答分析及び第二の高応答分析で検出した濃度の平均値を、前記高応答分析における濃度の検出結果とするものである。
【0014】
請求項6においては、前記排出ガスの流量の計測は、第一の流量計測及び第二の流量計測からなり、第一の流量計測及び第二の流量計測は、前記排出ガスの流通経路において、前記高応答分析の計測を行う箇所を挟んだ上流側及び下流側であって、前記高応答分析の計測を行う箇所から等距離となる箇所で行うとともに、第一の流量計測及び第二の流量計測で計測した流量の平均値を、前記排出ガスの流量の計測における流量の計測結果とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エンジンの排出ガスのモーダルマス計測において、流量計測部の計測に対する、濃度計測部の計測の応答遅れを高精度で補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態に係る計測装置の使用状態における概略構成を示した図。
【
図2】(a)は計測装置に入力する運転パターンを示した図、(b)は各分析部で検出した濃度変化を示した図。
【
図3】(a)は高精度分析部で検出した濃度変化におけるムダ時間の補正について示した図、(b)は同じく応答遅れの補正について示した図。
【
図4】走行試験における高精度分析部で検出した濃度変化の補正について示した図。
【
図5】第二実施形態に係る計測装置の構成を示した図。
【
図6】第三実施形態に係る計測装置の構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[計測装置10]
図1を参照して、本発明に係る計測装置の一実施形態である計測装置10の使用状態における概略構成について説明する。本実施形態の計測装置10は
図1に示す如く、動力計32と連結されたエンジン31から、排気管33を介して排出される排出ガスの流量と、排出ガスに含まれる、HC、NOx、CO等の各種の成分の濃度とを計測して、計測した流量と濃度とを乗算することにより、排出ガス中に含まれる各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測を行うものである。なお、本実施形態においてはエンジン31から延出する排気管33に計測装置10を配設する構成としているが、実際の車両をシャシーダイナモメーターに連結し、車両から延出する排気管に計測装置10を配設することも可能である。
【0019】
計測装置10は
図1に示す如く、エンジン31からの排出ガスの流量を計測する流量計測部11と、排出ガスに含まれる各種の成分の濃度を計測する濃度計測部12と、流量計測部11及び濃度計測部12に接続された検出部材が配設されて排気管33に連通される計測管34と、流量計測部11及び濃度計測部12に通信可能に接続されて、計測した流量及び濃度の計測結果や各種のプログラムを記録する記録部15と、記録部15と通信可能に接続されて、流量及び濃度の計測結果を演算処理する演算部16と、を備える。
【0020】
記録部15には、後述するムダ時間・応答遅れ補正を行うプログラム、及び、質量エミッション演算プログラム等のプログラムが格納されている。演算部16はCPU、RAM、ROM等のマイクロコンピュータを備え、記録部15に格納されているデータや種々のプログラムに基づいてモーダルマス計測を行うように構成されている。換言すれば、流量計測部11及び濃度計測部12で連続して計測した排出ガスの流量と濃度とを、演算部16において乗算することにより、各種の成分の質量エミッションを算出するモーダルマス計測を行うのである。
【0021】
本実施形態に係る計測装置10において、濃度計測部12は
図1に示す如く、濃度を高精度で検出する高精度分析部13と、高精度分析部13よりも短い応答時間で濃度を検出する高応答分析部14と、を有している。換言すれば、高精度分析部13は高応答分析部14に対して応答遅れが生じることになる。
【0022】
詳細には、高精度分析部13は前処理部、検出部、制御部等を備えており、ガスサンプル式の濃度計測(ガスサンプリング計測)を行う部分である。即ち、高精度分析部13は計測管34に接続された約5mから15m程度の長さを有する図示しないサンプルラインを介して排出ガスをサンプリングし、2secから10sec程度の計測時間で排出ガスの濃度を検出するのである。なお、前記の計測時間は排出ガスをサンプリングするサンプルラインの長さによって増減する。
【0023】
一方、高応答分析部14はレーザ発光器及びレーザ受光器等を備えており、計測管34の内部を流通する排出ガスの濃度について、レーザ式の直接計測を行う部分である。即ち、高応答分析部14はレーザ発光器から照射したレーザ光を反射ミラーで所定回数反射させることによって、レーザ光を計測管34の内部で流通する排出ガスに透過させてからレーザ受光器で受光する。そして、レーザ受光器で受光したレーザ光の透過光強度を測定することにより、約1msec程度の計測時間で排出ガスの濃度を検出するのである。なお、高応答分析部14は高精度分析部13よりも検出精度は劣るが、63%応答の再現性は一定以上有しているものとする。
【0024】
そして、計測装置10の演算部16においては、高精度分析部13における濃度の検出結果の応答遅れを補正した値を、濃度計測部12における濃度の計測結果として、モーダルマス計測を行っている。具体的には後述する如く、高精度分析部13で検出した濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状を、高応答分析部14で検出した濃度の変化の開始タイミング及びカーブ形状に合わせることにより、高精度分析部13における濃度の検出結果の応答遅れを補正するのである。
【0025】
次に、
図2から
図4を用いて、高精度分析部13における濃度の検出結果の応答遅れを補正する手法について説明する。
図1に示す如く構成した計測装置10において、まず、
図2(a)の如くエンジン31における燃料噴射量(又は吸気量)を操作することにより、A/F(燃料比)をステップ的に変化させ、濃度計測部12及び高精度分析部13のそれぞれにおいて濃度の変化を予め検出する。
図2(b)に示すグラフLmは高精度分析部13における検出結果を、同じくグラフLsは高応答分析部14における検出結果を示している。
【0026】
図2(b)に示す如く、高精度分析部13における検出結果(グラフLm)は高応答分析部14における検出結果(グラフLs)と比較して、濃度の変化の開始タイミングが時間Tdだけ遅れている。換言すれば、高応答分析部14における検出結果開始タイミングと、高精度分析部13における検出結果開始タイミングとの差をムダ時間Tdとして算出する。
【0027】
一方、高精度分析部13における検出結果であるグラフLmの応答特性を同定するための伝達関数Fm(s)と、高応答分析部14における検出結果であるグラフLsの応答特性を同定するための伝達関数Fs(s)とを、Fm(s)=1/(Tm×S+1)、Fs(s)=1/(Ts×S+1)の式により算出する。ここで、Tm及びTsはそれぞれ、高精度分析部13及び高応答分析部14における検出結果の時定数(63.2%応答に対応する時間)、Sはラプラス演算子である。
【0028】
上記の如く算出したムダ時間Td及び伝達関数Fm(s)、Fs(s)により、高精度分析部13における検出結果(グラフLm)を高応答分析部14における検出結果(グラフLs)に重ね合わせることができる。具体的には、
図3(a)中の矢印α1及びグラフLm1に示す如く、高精度分析部13における検出結果であるグラフLmを、ムダ時間Tdだけずらすことにより、高精度分析部13で検出した濃度の変化の開始タイミングを、高応答分析部14で検出した濃度の変化の開始タイミングと合わせることが可能となる。換言すれば、ムダ時間Tdを補正することができるのである。
【0029】
そして、
図3(b)中の矢印β1及びグラフLm2に示す如く、高精度分析部13における検出結果であるグラフLmについてムダ時間TdだけずらしたグラフLm1のカーブ形状を、高応答分析部14における検出結果であるグラフLsのカーブ形状と合わせることができる。具体的には、高精度分析部13における検出結果についてムダ時間Tdだけずらしたデータに対して、Fs(s)/Fm(s)を乗ずることにより、グラフLm1のカーブ形状をグラフLsのカーブ形状と合わせることが可能となる。換言すれば、高精度分析部13における検出結果の高応答分析部14における検出結果に対する応答遅れを補正することができるのである。
【0030】
そして、上記の如く算出したムダ時間Td及び伝達関数Fm(s)、Fs(s)を用いて、本試験であるモード走行試験におけるエンジン31からの排出ガスに含まれる各種の成分の濃度を計測する。具体的には
図4に示す如く、高精度分析部13における検出結果であるグラフL0(Cm(t))について、矢印α2に示す如くムダ時間Tdを補正し、グラフL1(Cm(t+Td))とする。さらに、グラフL1(Cm(t+Td))について、矢印β2に示す如く応答遅れを補正し、グラフL2(Cm(t+Td)×Fs(s)/Fm(s))とする。そして、高精度分析部13における検出結果におけるムダ時間Td及び応答遅れを補正した値(グラフL2)を、排出ガスに含まれる各種の成分の濃度計測部12における濃度の計測結果としてモーダルマス計測を行うのである。
【0031】
上記の如く、本実施形態に係る計測装置10によれば、高応答分析部14における検出結果のカーブ形状を基準として、高精度分析部13における検出結果のムダ時間及び応答遅れの補正を行うため、従来技術と比較して高精度に補正を行うことが可能となるのである。つまり、高応答分析部14においては排出ガスの流量及び濃度の変化が開始するタイミングを精度良く検出することができるため、高精度分析部13における検出結果を高応答分析部14における検出結果に重ね合わせることにより、モーダルマス計測の結果に与える誤差を低減させることができるのである。
【0032】
また、本実施形態に係る計測装置10は、従来技術のように切り替え弁で機械的に切り替えて濃度計に供給するガスを基準とする構成ではなく、高応答分析部14における検出結果を基準とするものであるため、従来技術と比較して高精度に濃度を補正することが可能となる。
【0033】
なお、本実施形態においては、高精度分析部13で検出する濃度の変化の開始タイミングを、高応答分析部14で検出した濃度の変化の開始タイミングに合わせるだけでなく、流量の変化の開始タイミングと可能な限り近づけるという観点から、計測管34における高応答分析部14の検出部は、流量計測部11の検出部の近傍に配置することが望ましい。これにより、モーダルマス計測における流量と濃度とのムダ時間をより低減させることができ、高精度な計測を行うことが可能となる。
【0034】
[別実施形態]
次に、
図5を参照して、本発明に係る計測装置の第二実施形態である計測装置110について説明する。なお、本実施形態以降で説明する計測装置は、前記実施形態である計測装置10と略同様の構成を備えるため、前記実施形態と異なる構成を中心に説明する。
【0035】
本実施形態に係る計測装置110において、高応答分析部14は、第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部を備える。そして、
図5に示す如く、第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部におけるそれぞれの検出部14a1・14a2は、計測管34中の排出ガスの流通経路(
図5中の矢印Fの方向)において、流量計測部11の検出部11aを挟んだ上流側及び下流側であって、流量計測部11の検出部11aから等距離(
図5中の幅d1・d1)となる位置に配設される。第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部におけるそれぞれの検出部14a1・14a2よりもさらに下流側には、高精度分析部13における検出部13aが配設される。そして、本実施形態に係る計測装置110は、第一の高応答分析部及び第二の高応答分析部で検出した濃度の平均値を、高応答分析部14における濃度の検出結果とするのである。
【0036】
本実施形態に係る計測装置110においては上記の如く構成することにより、高応答分析部14における濃度の検出を、流量計測部11における流量の検出と実質的に同じ箇所で行うことが可能となる。つまり、高精度分析部13で検出した濃度の変化の開始タイミングを、高応答分析部14で検出した濃度の変化の開始タイミングだけでなく、流量の変化の開始タイミングとも合わせることができる。これにより、モーダルマス計測における流量と濃度とのムダ時間合わせを行うことができ、より高精度な計測を行うことが可能となるのである。
【0037】
次に、
図6を参照して、本発明に係る計測装置の第三実施形態である計測装置210について説明する。
本実施形態に係る計測装置210において、流量計測部11は、第一の流量計測部及び第二の流量計測部を備える。そして、
図6に示す如く、第一の流量計測部及び第二の流量計測部におけるそれぞれの検出部11a1・11a2は、計測管34中の排出ガスの流通経路(
図6中の矢印Fの方向)において、高応答分析部14の検出部14aを挟んだ上流側及び下流側であって、高応答分析部14の検出部14aから等距離(
図6中の幅d2・d2)となる位置に配設される。第一の流量計測部及び第二の流量計測部におけるそれぞれの検出部11a1・11a2よりもさらに下流側には、高精度分析部13における検出部13aが配設される。そして、本実施形態に係る計測装置210は、第一の流量計測部及び第二の流量計測部で検出した流量の平均値を、流量計測部11における流量の検出結果とするのである。
【0038】
本実施形態に係る計測装置210においては上記の如く構成することにより、流量計測部11における流量の検出を、高応答分析部14における濃度の検出と実質的に同じ箇所で行うことが可能となる。つまり、前記第二実施形態と同様に、高精度分析部13で検出した濃度の変化の開始タイミングを、高応答分析部14で検出した濃度の変化の開始タイミングだけでなく、流量の変化の開始タイミングとも合わせることができる。これにより、モーダルマス計測における流量と濃度とのムダ時間合わせを行うことができ、より高精度な計測を行うことが可能となるのである。
【符号の説明】
【0039】
10 計測装置
11 流量計測部
12 濃度計測部
13 高精度分析部
14 高応答分析部
16 演算部