(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
機械式時計の調速機としては、一般的にてんぷ及びひげぜんまいで構成されている。このうちてんぷは、てん真及び該てん真に固定されたてん輪を備え、てん真の回転軸回りに周期的に正逆回転して振動する部材とされている。この際、てんぷの振動周期は予め決められた規定値内に設定されていることが重要とされている。仮に、振動周期が規定値からずれてしまうと、機械式時計の歩度(時計の遅れ、進みの度合い)が変化してしまうためである。ところが、上記振動周期は各種の原因等によって変化し易く、機械式時計を組立てるにあたって、その調整作業が必要とされている。
ここで、上記振動周期Tは、次式(1)で表される。
【0003】
【数1】
【0004】
上記式(1)において、Iは「てんぷの慣性モーメント」、Kは「ひげぜんまいのばね定数」を示す。従って、てんぷの慣性モーメント、又はひげぜんまいのばね定数を調整することで、てんぷの振動周期を調整することが可能とされている。このうち、ひげぜんまいのばね定数を調整する方法としては、例えば緩急針等を利用してひげぜんまいの長さを変化させることで調整する方法が知られている。
【0005】
一方、てんぷの慣性モーメントを調整する方法としては以下の方法が知られている。
はじめに、慣性モーメントIは、次式(2)で表される。
I=m・r
2 ・・・・式(2)
上記式(2)において、mは「てんぷの質量」、rは「回転軸からの距離」を示す。従って、てんぷの質量又は回転軸からの距離を調整することで、慣性モーメントを調整することが可能とされている。
【0006】
その具体的な方法としては、例えば
図15に示すように、てん輪を構成する環状のリム部100に対して、錘となるチラねじ110を周方向に間隔を開けて複数螺着させ、各チラねじ110の捩じ込み量を調整する(径方向に出し入れさせる)方法や、
図16に示すように、錘となるC型のリング部材120をリム部100の周方向に間隔を開けて複数取り付け、各リング部材120を回転させることで、その開口向きを変化させる方法が知られている(非特許文献1参照)。
このようにすることで、チラねじ110の径方向の位置が変化、又はリング部材120の重心位置が変化するので、回転軸Oからの距離を変化させることができ、それにより慣性モーメントを調整することが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来の慣性モーメントの調整方法では、チラねじ又はリング部材の調整作業に手間がかかり、該調整に時間がかかり易い。しかも、その調整範囲を大きくしようとした場合には、リム部に対してチラねじ又はリング部材を数多く設ける必要があるので、作業性がさらに低下し易かった。更には、個々のチラねじ又はリング部材の位置を調整すると、てんぷ全体の重心位置も変化してしまうので、慣性モーメントの調整と同時にてんぷ全体の重心位置についても考慮する必要がある。従って、作業が煩雑となり調整し難かった。
【0009】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、全体の重心位置を変化させることなく、広い調整範囲内で容易且つ微細に慣性モーメントの調整作業を行うことができるてんぷ、及びこれを具備する機械式時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係るてんぷは、回転可能に軸支されるてん真と、前記てん真を径方向の外側から囲むと共に前記てん真の回転軸と同軸に配置されたリム部、及び該リム部と前記てん真とを径方向に連結する連結アームを有するてん輪と、を備えるてんぷであって、前記リム部は、周方向に分断され、該周方向に沿って円弧状に延在し、且つ前記回転軸回りに均等配置された複数の分割リム部で構成され、前記分割リム部は、周方向の一端部が前記連結アームに連結された固定端とされ、周方向の他端部が自由端とされ、前記分割リム部の前記自由端を径方向に移動させるように該分割リム部を弾性変形させ、前記自由端の位置を調整する位置調整機構を備え
、前記位置調整機構は、前記分割リム部の数に応じて設けられ、その基端側が前記てん真に対して固定され、且つ、その先端側が各分割リム部に向かって径方向の外側に向けて延在した複数の支持アームと、該複数の支持アームの先端側にそれぞれ設けられ、前記分割リム部に対して外力を付与することで該分割リム部を径方向に弾性変形させる押圧部と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るてんぷによれば、位置調整機構によって各分割リム部をそれぞれ弾性変形させて、分割リム部の自由端を径方向の外側又は内側に向かって移動させることができ、自由端の位置を径方向に適宜変化させることができる。すると各分割リム部は、固定端から自由端に向かうにしたがって回転軸に対して接近又は離間するように曲がるので、リム部全体の平均径が縮径又は拡径する。これにより、回転軸からの距離を適宜変化させることができ、てんぷ自体の慣性モーメントを変化させることができる。その結果、てんぷの振動周期を変化させて、歩度の調整を行うことが可能となる。
【0012】
特に、従来のチラねじやC型のリング部材を用いる方法とは異なり、リム部を構成する分割リム部を単に弾性変形させて、その自由端の位置を径方向に変化させるだけで慣性モーメントを微細に調整できるので、その調整作業が簡便であり使い易い。しかも、自由端の移動量の増減だけで慣性モーメントをリニアに変化させることができるので、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を行える。
更に、分割リム部は回転軸回りに均等配置されているので、各分割リム部の自由端の位置を径方向に変化させたとしても、てんぷ全体の重心位置が変化し難い。従って、この点においても慣性モーメントの調整作業を簡便に行い易い。
【0014】
さらに、各分割リム部に対応した支持アームの先端側に設けられた押圧部を利用して分割リム部に外力を付与でき、該分割リム部を径方向の内側又は外側に向けて弾性変形させることができる。これにより、リム部全体の平均径を縮径又は拡径させて、狙い通りの径に容易且つ正確に調整し易い。また、押圧部が支持アームに設けられて安定的に支持されているので、各分割リム部をがたつき少なく安定して弾性変形させることができ、慣性モーメントを調整し易い。
【0015】
(
2)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記複数の支持アームは、前記てん真に対して相対的に前記回転軸回りに回転可能に固定され、且つその回転が同期していることが好ましい。
【0016】
この場合には、支持アームを回転させることができるので、固定端と自由端との間の任意の位置に押圧部を位置させ、該位置で外力を付与することができる。従って、外力による押圧部の変位量が同じであっても、固定端側寄りであれば大きく分割リム部を弾性変形させ、自由端側寄りであれば分割リム部を小さく弾性変形させることができる。よって、支持アームの回転と付与する外力の大きさとの組み合わせによって、自由端の位置をより微細に径方向に変化させることができ、慣性モーメントの調整をより高精度に行える。
しかも、複数の支持アームは同期して回転するので、押圧部によって外力を付与するポイントが分割リム部によってばらつくことがない。従って、てんぷ全体の重心位置が変化してしまうことを防止し易い。
【0017】
(
3)
本発明に係るてんぷは、回転可能に軸支されるてん真と、前記てん真を径方向の外側から囲むと共に前記てん真の回転軸と同軸に配置されたリム部、及び該リム部と前記てん真とを径方向に連結する連結アームを有するてん輪と、を備えるてんぷであって、前記リム部は、周方向に分断され、該周方向に沿って円弧状に延在し、且つ前記回転軸回りに均等配置された複数の分割リム部で構成され、前記分割リム部は、周方向の一端部が前記連結アームに連結された固定端とされ、周方向の他端部が自由端とされ、前記分割リム部の前記自由端を径方向に移動させるように該分割リム部を弾性変形させ、前記自由端の位置を調整する位置調整機構を備え、前記位置調整機構は、前記分割リム部の数に応じて設けられ、その基端側が前記てん真に対して相対的に前記回転軸回りに回転可能に固定され、且つその先端側が各分割リム部に向かって径方向の外側に向けて延在した複数の回転支持アームと、該複数の回転支持アームの先端側にそれぞれ設けられ、前記分割リム部に接する接触体と、を備え、前記回転支持アームは、同期した状態で回転可能とされ、前記接触体は、前記回転支持アームの回転に伴って前記分割リム部に対して外力を付与して該分割リム部を径方向に弾性変形させると共に、前記自由端に接近するにしたがって分割リム部を大きく又は小さく弾性変形させ
、前記接触体は、前記分割リム部の外周面及び内周面のうちの少なくとも一方に接すると共に、前記回転支持アームの回転に伴って前記分割リム部の曲率半径とは異なる半径で回転移動することを特徴とする。
【0018】
本発明に係るてんぷによれば、各分割リム部に対応した回転支持アームを回転させると、その回転支持アームの先端部に設けられて分割リム部に接している接触体が連られて回転移動する。これにより、接触体を利用して分割リム部に外力を付与でき、該分割リム部を径方向の内側又は外側に向けて弾性変形させることができる。しかも、回転支持アームの回転によって、接触体を分割リム部の自由端側に接近させるにしたがって付与する外力を増減できるので、回転支持アームの回転具合で自由端の径方向の位置を微細に変化させることができる。従って、リム部全体の平均径を縮径又は拡径させて、狙い通りの径に容易且つ正確に調整し易く、結果的に慣性モーメントの調整をより高精度に行える。
【0019】
しかも、複数の回転支持アームは同期して回転するので、押圧部によって外力を付与するポイントが分割リム部によってばらつくことがない。従って、てんぷ全体の重心位置が変化してしまうことを防止し易い。また、押圧部が回転支持アームに設けられて安定的に支持されているので、各分割リム部をがたつき少なく弾性変形させることができ、慣性モーメントを調整し易い。
さらに、回転支持アームを回転させることで、接触体を利用して分割リム部を径方向の内側又は径方向の外側に押圧して、確実に弾性変形させることができる。また、回転支持アームの回転具合で接触体が分割リム部を押圧する押圧力を容易且つ確実に変化させることができるので、分割リム部の自由端の径方向の位置を正確にコントロールし易い。
【0020】
(
4)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記接触体は
、接触ピンとされていることが好ましい。
【0021】
この場合には、回転支持アームを回転させることで、接触ピンとされた接触体を利用して分割リム部を径方向の内側又は径方向の外側に押圧して、確実に弾性変形させることができる。また、回転支持アームの回転具合で接触体が分割リム部を押圧する押圧力を容易且つ確実に変化させることができるので、分割リム部の自由端の径方向の位置を正確にコントロールし易い。
【0022】
(
5)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記接触体は、回転可能に前記回転支持アームに支持されると共に、その回転に伴って前記分割リム部を径方向に押圧して弾性変形させる偏心ピンとされていることが好ましい。
【0023】
この場合には、偏心ピンとされた接触体を回転させることで、分割リム部を径方向に弾性変形させることができるので、分割リム部の弾性変形量を微調整でき、慣性モーメントの調整がさらに容易となる。
【0024】
(
6)上記本発明に係るてんぷにおいて、前記分割リム部の自由端には、錘部が設けられていることが好ましい。
【0025】
この場合には、錘部によって分割リム部の自由端の重量を増大させることができるので、該自由端の位置を径方向に変化させることで、より効果的に慣性モーメントの調整を行える。
【0026】
(
7)本発明に係る機械式時計は、上記本発明に係るてんぷを備えていることを特徴とする。
【0027】
本発明に係る機械式時計によれば、上述したてんぷを具備しているので、歩度の調整を容易且つ正確に行うことができ、誤差の少ない高品質な時計とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、全体の重心位置を変化させることなく、広い調整範囲内で容易且つ微細に慣性モーメントの調整作業を行うことができ、てんぷの振動周期を狙い通りに変化させて、歩度の調整を容易且つ正確に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。
(てんぷの構成)
図1及び
図2に示すように、本実施形態の機械式時計Tは、てんぷ10及びひげぜんまい2で構成される調速機1を具備している。
調速機1を構成するてんぷ10は、回転軸O回りに回転可能に軸支されるてん真11と、該てん真11に固定されたてん輪12と、を備え、図示しない脱進機から伝えられた動力によりひげぜんまい2に蓄えられた位置エネルギーによって回転軸O回りに一定の振動周期で正逆回転させられる部材とされている。
なお、本実施形態では、上記回転軸Oに直交する方向を径方向、回転軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0031】
上記てん真11は、回転軸Oに沿って上下に延在した回転軸体であり、上端部及び下端部が図示しない地板やてんぷ受等の部材によって軸支されている。てん真11における上下方向の略中間部分は、径が最も大きい大径部11aとされている。そして、この大径部11aを介して上記てん輪12がてん真11に固定されている。
また、てん真11には、大径部11aの下方に位置する部分に筒状の振り座15が回転軸Oと同軸に外装されている。この振り座15は、径方向の外側に向けて突設された環状の鍔部15aを有しており、該鍔部15aに図示しないアンクルを揺動させるための振り石16が固定されている。
【0032】
上記ひげぜんまい2は、例えば一平面内で渦巻状に巻かれた平ひげであって、図示しないひげ玉を介してその内端部がてん真11における大径部11aの上方に位置する部分に固定されている。そして、このひげぜんまい2は、図示しない4番歯車から図示しないガンギ車に伝えられた動力を蓄え、てん輪12を振動させる役割を果している。
【0033】
上記てん輪12は、
図3に示すように、てん真11を径方向の外側から囲む略環状のリム部20と、該リム部20とてん真11とを径方向に連結する第1アーム部(連結アーム)21と、を備えている。
上記リム部20は、周方向に2つに分断されており、第1リム部(分割リム部)22及び第2リム部(分割リム部)23で構成されている。これら第1リム部22及び第2リム部23は、それぞれ周方向に沿って円弧状(半円状)に延びた帯状片であり、回転軸O回りに均等配置されている。
【0034】
また、第1リム部22及び第2リム部23は、周方向の一端部がともに第1アーム部21によって片持ち状に支持されている。この第1アーム部21は、第1リム部22及び第2リム部23に応じて一対設けられ、回転軸Oを挟んで径方向の反対側に配置されている。これら第1アーム部21は、その基端側がてん真11の大径部11aに固定された環状の固定リング17に連結され、その先端側が第1リム部22及び第2リム部23の周方向の一端部に連結されている。
なお、本実施形態では、一対の第1アーム部21及び固定リング17は、一体的に形成されている。
【0035】
これにより、第1リム部22及び第2リム部23は、上記したように第1アーム部21によって片持ち状に支持されている。なお、第1アームによって支持された、第1リム部22及び第2リム部23における周方向の一端部は固定端22a、23aとして機能する。また、第1リム部22及び第2リム部23における周方向の他端部は、自由端22b、23bとして機能する。
なお、第1リム部22の自由端22bと第2リム部23の自由端23bとは、回転軸Oを挟んで径方向の反対側に配置されるように設定されている。そして、第1リム部22及び第2リム部23の自由端22b、23bには、それぞれ同質量の錘部24が径方向の外側に向けて設けられている。
【0036】
ところで、本実施形態のてんぷ10は、第1リム部22及び第2リム部23の自由端22b、23bを径方向に移動させるように、第1リム部22及び第2リム部23をそれぞれ弾性変形させ、両リム部22、23の自由端22b、23bの径方向の位置を調整する位置調整機構30を備えている。
【0037】
詳細に説明すると、上記位置調整機構30は、
図3及び
図4に示すように、第1リム部22及び第2リム部23に応じて一対設けられた第2アーム部(支持アーム)31と、これら第2アーム部31の先端側にそれぞれ設けられ、第1リム部22及び第2リム部23に対して任意の大きさの外力を付与して第1リム部22及び第2リム部23をそれぞれ径方向に弾性変形させる押圧部32と、を備えている。
【0038】
上記第2アーム部31は、回転軸Oを挟んで径方向の反対側に配置されていると共に、第1アーム部21に対して周方向に90度の間隔を開けて配置されている。つまり、平面視十字状となるように、第1アーム部21に対して第2アーム部31が配置されている。これら第2アーム部31は、その基端側が上記した固定リング17に連結され、その先端側が第1リム部22及び第2リム部23の周方向略中間部に向かって径方向の外側に延在している。
なお、一対の第2アーム部31についても、固定リング17に対して一体的に形成されている。つまり、一対の第1アーム部21、一対の第2アーム部31及び固定リング17は、一体となった1つの部材とされている。
【0039】
そして、第2アーム部31の先端部には、第1リム部22及び第2リム部23に対して対向する対向壁部31aが上方に向けて立設されている。この対向壁部31aは、第1リム部22及び第2リム部23の径方向内側に一定の隙間を開けて向かい合うように配置されており、第1リム部22及び第2リム部23の曲率に倣った平面視円弧状に形成されている。
そして、第1リム部22及び第2リム部23には、対向壁部31aに対して向かい合う部分にこれら両リム部22、23を径方向に貫く貫通孔22c、23cが形成されている。そして、この貫通孔22c、23cを通じて第1リム部22及び第2リム部23の径方向の外側から調整ねじ33が挿通され、対向壁部31aに形成されたねじ孔31bに螺着されている。
【0040】
従って、調整ねじ33を捩じ込むことで、第1リム部22及び第2リム部23を径方向の内側に向けて押圧して弾性変形させることができ、両リム部22、23の自由端22b、23bの位置を径方向の内側に向けて変化させることが可能とされている。
よって、調整ねじ33、貫通孔22c、23c及び対向壁部31aは、上記した押圧部32として機能する。
【0041】
(慣性モーメントの調整方法)
次に、上記したてんぷ10を利用した慣性モーメントの調整方法について説明する。
この場合には、
図3に示すように、一対の第2アーム部31の先端に設けられた調整ねじ33をそれぞれ矢印方向に同量ずつ捩じ込んで、第1リム部22及び第2リム部23に対して径方向の外側から外力を付与して押圧し、両リム部22、23を径方向の内側に弾性変形させる。この弾性変形により、第1リム部22及び第2リム部23の自由端22b、23bを径方向の内側に向かって移動(矢印方向)させることができ、その位置を変化させることができる。
【0042】
すると、第1リム部22及び第2リム部23は、固定端22a、23a側から自由端22b、23b側に向かうにしたがって回転軸Oに対して接近するように湾曲するので、リム部20全体の平均径が縮径する。これにより、回転軸Oからの距離が小さくなり、てんぷ10自体の慣性モーメントを小さくすることができる。その結果、てんぷ10の振動周期を変化させることができ、歩度の調整を行うことが可能となる。
【0043】
なお、本実施形態の場合には、慣性モーメントが小さくなるので歩度は進みの方向に変化する。よって、初期の慣性モーメントとしては、予め大きめ(歩度が遅れの方向)に設定しておくことが好ましい。また、調整ねじ33を緩めた場合には、第1リム部22及び第2リム部23が弾性復元力によって、径方向の外側に弾性変形する。よって、てんぷ10の平均径を拡径させて慣性モーメントを大きくすることができ、歩度が遅れ方向に変化する。
【0044】
上記したように、上記てんぷ10によれば、従来のチラねじやC型のリング部材を用いる方法とは異なり、リム部20を構成する第1リム部22及び第2リム部23を単に弾性変形させて、その自由端22b、23bの位置を径方向に変化させるだけで慣性モーメントを微細に調整できるので、該調整作業が簡便であり使い易い。しかも、自由端22b、23bの移動量の増減だけで慣性モーメントをリニアに変化させることができるので、広い調整範囲で慣性モーメントの調整作業を行える。
【0045】
更に、第1リム部22及び第2リム部23は回転軸O回りに均等配置され、それぞれの自由端22b、23bが回転軸Oを挟んで径方向の反対側に位置している。そのため、両リム部22、23の自由端22b、23bの位置を径方向に変化させたとしても、てんぷ10全体の重心位置が変化し難い。従って、この点においても慣性モーメントの調整作業を簡便に行い易い。
また、調整ねじ33を利用しているので、捩じ込み量の加減で第1リム部22及び第2リム部23の弾性変形量を微調整し易い。そのため、リム部20全体の平均径を狙い通りの径に容易且つ正確に調整し易い。
【0046】
更に、調整ねじ33は、対向壁部31aを介して第2アーム部31に安定的に支持されているので、第1リム部22及び第2リム部23をがたつき少なく安定して弾性変形させることができ、やはりこの点においても慣性モーメントを調整し易い。
加えて、第1リム部22及び第2リム部23の自由端22b、23bは、錘部24によって重量が増大している。従って、自由端22b、23bの位置を径方向に変化させることで、より効果的に慣性モーメントの調整を行うことが可能である。
【0047】
また、本実施形態の機械式時計Tによれば、慣性モーメントの調整を容易に行うことができる上記したてんぷ10を具備しているので、該てんぷ10の振動周期を狙い通りに変化させて歩度の調整を容易且つ正確に行うことができ、誤差の少ない高品質な時計とすることができる。
【0048】
なお、上記第1実施形態では、第1リム部22及び第2リム部23の周方向略中間部を押圧するように構成したが、この場合に限定されるものではなく、固定端22a、23aに近い位置、又は自由端22b、23bに近い位置を押圧するように、第2アーム部31をてん真11に固定しても構わない。
【0049】
また、上記第1実施形態では、第1リム部22及び第2リム部23を径方向の内側に向けて押圧して弾性変形させたが、径方向の外側に押圧して弾性変形させても構わない。
この場合には、例えば第1リム部22側を例に挙げると、
図5及び
図6に示すように、対向壁部31aのねじ孔31bに調整ねじ33を径方向の内側から螺着させ、そのねじ端部を利用して第1リム部22を径方向の外側に押圧させれば良い。なお、この場合には、第1リム部22に貫通孔22cを形成する必要がない。
【0050】
このように構成した場合には、調整ねじ33を締め込むことで、第1リム部22の自由端22bの位置を径方向の外側に変化させることができ、リム部20全体の平均径を拡径させることができる。従って、慣性モーメントを大きくすることができ、歩度を遅れの方向に調整することができる。
なお、この場合、初期の慣性モーメントとしては、予め小さめ(歩度が進みの方向)に設定しておくことが好ましい。
【0051】
更に、
図7及び
図8に示すように、第2アーム部31を径方向の外側に向けてさらに延ばし、第1リム部22及び第2リム部23の径方向の外側に位置するように第2の対向壁部31cを設け、第2の調整ねじ35をこの対向壁部31cの径方向の外側から螺着させ、そのねじ端部を利用して第1リム部22を径方向の内側に押圧して弾性変形させるように構成しても構わない。
このようにすることで、2つの調整ねじ33、35を利用して、第1リム部22を径方向の内側及び外側のいずれにも弾性変形させることができるので、慣性モーメントの調整がさらに容易になる。しかも、第1リム部22は、2つの調整ねじ33、35で挟まれるので、がたつくことなく姿勢が安定する。従って、より安定しててんぷ10を振動させることができる。
【0052】
また、上記第1実施形態において、第2アーム部31をてん真11に対して相対的に回転軸O回りに回転可能に構成しても構わない。
例えば、
図9及び
図10に示すように、てん真11の大径部11aに固定された環状の固定リング17に対して環状の回転リング36を相対的に回転可能に外装させ、第2アーム部31の基端側がこの回転リング36に対して一体的に連結されている。これにより、一対の第2アーム部31は、同期して回転することが可能とされている。
【0053】
なお、回転リング36と固定リング17との間には一定の回転抵抗力が確保されている。従って、てん真11に対して第2アーム部31を回転させた後、不意に第2アーム部31が回転してしまうことが規制されている。
また、この場合の調整ねじ33の貫通孔22c、23cは、第1リム部22及び第2リム部23の周方向に沿って延在した長穴状(スリット状)とされている。
【0054】
このように構成した場合には、第2アーム部31を回転させることができるので、固定端22a、23aと自由端22b、23bとの間の任意の位置に調整ねじ33を位置させ、該位置で第1リム部22及び第2リム部23を押圧できる。従って、調整ねじ33による押圧力が同一であっても、固定端22a、23a側寄りであれば両リム部22、23を根元側から曲げるので大きく弾性変形させ、自由端22b、23b側寄りであれば両リム部22、23を小さく弾性変形させることができる。よって、第2アーム部31の回転と、調整ねじ33による押圧力の大きさと、の組み合わせによって、自由端22b、23bの位置をより微細に径方向に変化させることができ、慣性モーメントの調整をより高精度に行える。
【0055】
しかも、一対の第2アーム部31は同期して回転するので、調整ねじ33による押圧ポイントが第1リム部22と第2リム部23とでばらつくことがない。従って、てんぷ10全体の重心位置が変化してしまうことを防止し易い。
【0056】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0057】
第1実施形態では、調整ねじ33を利用して第1リム部22及び第2リム部23を径方向に弾性変形させたが、第2実施形態では、第2アーム部の回転操作だけで第1リム部22及び第2リム部23を径方向に弾性変形させることが可能とされている。
【0058】
(てんぷの構成)
図11に示すように、本実施形態のてんぷ40は、一対の第2アーム部(回転支持アーム)42と、これら第2アーム部42の先端側にそれぞれ設けられ、第1リム部22及び第2リム部23に接する接触ピン(接触体)43と、を有する位置調整機構41を具備している。
【0059】
なお、本実施形態の第2アーム部42は、第1実施形態において回転可能とされた第2アーム部31と同様の構成とされているため、詳細な説明は省略する。但し、第2アーム部42の先端部は、第1リム部22及び第2リム部23よりも径方向の外側に延びている。また、本実施形態の第1リム部22及び第2リム部23は、予め自由端22b、23b側が径方向の外側に移動(点線で図示)するように癖付けされている。
【0060】
上記接触ピン43は、第2アーム部42の先端部に立設された円柱状のピンであり、第1リム部22及び第2リム部23の径方向の外側にオフセット配置され、両リム部22、23の外周面に接している。そして、この接触ピン43は、第2アーム部42の回転に伴って上記癖付けされた第1リム部22及び第2リム部23の曲率半径よりも小さい半径で回転可能とされている。
従って、接触ピン43は、第2アーム部42の回転に伴って第1リム部22及び第2リム部23を径方向の内側に押圧して、弾性変形させることが可能とされている。この際、接触ピン43が固定端22a、23a側に接近するほど両リム部22、23を根元側から曲げるので大きく弾性変形させ、自由端22b、23bに接近するほど両リム部22、23を小さく弾性変形させることができる。
【0061】
(慣性モーメントの調整方法)
このように構成された本実施形態のてんぷ40によれば、第2アーム部42をてん真11に対して回転させることで、該第2アーム部42と共に接触ピン43を回転移動させることができる。これにより、接触ピン43を利用して第1リム部22及び第2リム部23を径方向の内側に押圧でき、該方向に弾性変形させることができる。しかも、接触ピン43を自由端22b、23b側又は固定端22a、23a側に接近させることで弾性変形量を変化させることができるので、第2アーム部42の回転具合で自由端22b、23bの位置を微細に変化させることができる。
【0062】
従って、リム部20全体の平均径を縮径させて、狙い通りの径に容易且つ正確に調整し易く、結果的に慣性モーメントの調整を高精度に行える。特に、調整ねじ33を用いる場合に比べて、第2アーム部42を回転動作させるだけで第1リム部22及び第2リム部23を両方同時に弾性変形させることができるので、より容易にバランスよく慣性モーメントを調整して、歩度を進み方向に調整することが可能となる。
【0063】
なお、上記実施形態では、第1リム部22及び第2リム部23を径方向の内側に向けて押圧して弾性変形させたが、径方向の外側に押圧して弾性変形させても構わない。
この場合には、例えば
図12に示すように、第1リム部22及び第2リム部23を、予め自由端22b、23b側が径方向の内側に移動(点線で図示)するように癖付けさせる。そして、接触ピン43を第1リム部22及び第2リム部23の内周面に接触させ、第2アーム部42の回転に伴って上記癖付けされた第1リム部22及び第2リム部23の曲率半径よりも大きい半径で回転可能とさせれば良い。
このようにすることで、第1リム部22及び第2リム部23を径方向の外側に押圧して弾性変形させることができ、リム部20全体の平均径を拡径させて慣性モーメントを大きくすることができる。従って、歩度を遅れ方向に調整することが可能である。
【0064】
なお、
図13に示すように、接触ピン43を2つ設け、第1リム部22及び第2リム部23の外周面及び内周面の両方に接触させて、第1リム部22及び第2リム部23を径方向から挟み込むように構成しても構わない。
この場合には、2つの接触ピン43のうちの一方が第1リム部22及び第2リム部23を径方向に押圧して弾性変形させるピンとして機能し、他方が弾性変形された第1リム部22及び第2リム部23を抑えるピンとして機能する。従って、第1リム部22及び第2リム部23の姿勢を安定させることができ、より安定しててんぷ40を振動させることができる。
なお、図示の例では、第1リム部22及び第2リム部23を径方向の内側に向けて弾性変形させる場合を例にしている。
【0065】
また、
図14に示すように、接触ピン43を第2アーム部42に回転可能に支持された偏心ピンとしても構わない。こうすることで、さらに偏心ピンとされた接触ピン43を回転させることで、例えば第2リム部23を径方向の内側に弾性変形させることができるので、弾性変形量を微調整することができる。従って、慣性モーメントの調整がさらに容易となる。
加えて、偏心ピンとされた接触ピン43を利用する場合、第1リム部22又は第2リム部23のいずれか一方の弾性変形量を調整することで、てんぷ40全体の重心位置の微調整を行うことも可能である。
【0066】
なお、接触ピン43を偏心ピンとする場合、必ずしも2つである必要はなく、両リム部22、23の外周面又は内周面のどちらかに接するように接触ピン42を1つだけ設けた場合にも適用可能である。また、2つの接触ピン43を偏心ピンとする場合には、例えばベルトの巻回や歯車を利用した連結等の既知の技術を用いて同期して回転するように構成することが好ましい。
【0067】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0068】
例えば、上記各実施形態では、リム部20を周方向に2つに分断し、第1リム部22及び第2リム部23という2つの分割リム部で構成したが、3つ以上に分断し、3つの以上の分割リム部で構成しても構わない。この場合であっても、各分割リム部を周方向に均等配置させれば良く、同様の作用効果を奏効することができる。
また、上記各実施形態では、第1リム部22及び第2リム部23の自由端22b、23bに錘部24を設けたが、この錘部24は必須ではなく具備しなくても構わない。但し、慣性モーメントを効果的に調整できるので、具備することが好ましい。