特許第5832052号(P5832052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5832052
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月16日
(54)【発明の名称】双方向軸流ファン装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/54 20060101AFI20151126BHJP
【FI】
   F04D29/54 B
   F04D29/54 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-89226(P2015-89226)
(22)【出願日】2015年4月24日
【審査請求日】2015年5月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 哲
(72)【発明者】
【氏名】西沢 敏弥
(72)【発明者】
【氏名】川島 高志
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−113128(JP,A)
【文献】 特開2008−202579(JP,A)
【文献】 特開2005−299493(JP,A)
【文献】 特開2002−188599(JP,A)
【文献】 特開2000−337296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/52 − 29/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆回転可能なモータと、
複数の羽部を有して前記モータにより回転駆動される動翼部材と、
前記モータが取り付けられる取付部、通風孔が形成される枠部、および前記取付部と前記枠部とを連結する複数のスポーク部を有して前記通風孔内で複数の前記羽部が回転するケーシングと、
を有し、
複数の前記スポーク部は、前記モータに対して前記モータの正転時の排気側において前記取付部と前記枠部とを連結し、
前記枠部についての前記通風孔による内周面を正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状に形成して複数の前記羽部の外周縁についての正転時の排気側の頂部と前記枠部の内周面との間隔を、前記内周面が多段形状でない場合と比べて広げている、
双方向軸流ファン装置。
【請求項2】
前記枠部についての前記通風孔による内周面は、正転時の吸気側の小径部、正転時の排気側の大径部、および前記小径部と大径部との間の中間テーパ部を有し、
前記中間テーパ部が、複数の前記羽部の外周縁についての正転時の排気側の前記頂部の外側に位置する、
請求項1記載の双方向軸流ファン装置。
【請求項3】
各前記羽部の正転時の排気側の縁は、回転する前記動翼部材の中心側より外側が正転時の吸気側へ寄るように湾曲している、
請求項2記載の双方向軸流ファン装置。
【請求項4】
前記枠部についての前記通風孔による内周面は、前記小径部についての正転時の吸気側に、前記枠部の正転時の吸気側の開口を広げる開口テーパ部を有する、
請求項2または3記載の双方向軸流ファン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングの通風孔内で動翼部材の複数の羽部が正逆回転する双方向軸流ファン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、軸流ファン装置を開示する。この軸流ファン装置は、ベンチュリケーシング内にモータを複数のスポークにより支えて配置し、モータに取り付けられた羽根車を回転させる。これにより、ベンチュリケーシング内に一方向の空気の流れを生成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−113128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、軸流ファン装置において正逆回転可能なモータを採用してモータに取り付けられる動翼部材を双方向に回転させることが考えられる。モータが逆回転することにより動翼部材も逆回転し、正回転時とは逆方向の気流を生成できる。
【0005】
しかしながら、単に動翼部材を回転駆動するモータを一方向に回転可能なものから正逆回転可能なものへ変更し、これにより双方向軸流ファン装置としただけでは、逆転時の送風特性として正転時のように良好なものを得ることは難しい。
たとえば双方向軸流ファン装置では、ベンチュリケーシング内にモータを配置するために複数のスポークが使用される。そして、この複数のスポークは、正転時の送風特性を悪化させないように、動翼部材についてのモータの正転時の排気側に配置される。このようなベンチュリケーシング内において動翼部材を逆転させた場合、動翼部材は複数のスポークの間から空気を吸うことになり、複数のスポークの周囲で乱れた気流を吸うことになる。その結果、逆転時の送風音が大きくなるなどの課題が生じる。
【0006】
このように双方向軸流ファン装置では、逆転時の送風特性を改善することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の双方向軸流ファン装置は、正逆回転可能なモータと、複数の羽部を有して前記モータにより回転駆動される動翼部材と、前記モータが取り付けられる取付部、通風孔が形成される枠部、および前記取付部と前記枠部とを連結する複数のスポーク部を有して前記通風孔内で複数の前記羽部が回転するケーシングと、を有し、複数の前記スポーク部は、前記モータに対して前記モータの正転時の排気側において前記取付部と前記枠部とを連結し、前記枠部についての前記通風孔による内周面を正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状に形成して複数の前記羽部の外周縁についての正転時の排気側の頂部と前記枠部の内周面との間隔を、前記内周面が多段形状でない場合と比べて広げている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ケーシングの枠部の内周面を、正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状に形成し、これにより複数の羽部の外周縁についての正転時の排気側の頂部と枠部の内周面との間隔を広げている。よって、仮にたとえば枠部の内周面がフラットで多段形状でない場合と比べて複数の羽部の該頂部と枠部の内周面との間隔を広げて、逆回転する羽部の外周縁についての吸気側の頂部の付近における空気の圧力変動を抑えることができる。その結果、逆転時の送風音を抑えることができる。
しかも、枠部の内周面を多段形状に形成し、これにより正転時の排気側を正転時の吸気側より大径化している。よって、仮にたとえば枠部の内周面を全体的に大径化した場合のように正転時の静圧が低下することはない。
また、枠部の内周面についての正転時の排気側、すなわち逆転時の吸気側を大径化しているので、逆転時の吸気側に複数のスポーク部が設けられているにもかかわらず、逆転時の静圧を改善できる。逆転時の静圧特性を、正転時の静圧特性に近づけることができる。
このように、本発明では、逆転時の静圧特性を正転時の静圧特性に近づけるように改善しつつ、これら正転時の静圧特性および逆転時の静圧特性に対して大きな影響が生じないように逆転時の送風音を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る双方向軸流ファン装置の斜視図である。
図2図2は、図1の実施形態の双方向軸流ファン装置の部分断面による説明図である。
図3図3は、比較例の双方向軸流ファン装置の斜視図である。
図4図4は、図3の比較例の双方向軸流ファン装置の部分断面による説明図である。
図5図5は、実施形態の逆転時の送風特性と比較例の逆転時の送風特性との一例の比較表である。
図6図6は、実施形態の逆転時の風量静圧特性と比較例の逆転時の風量静圧特性との一例の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る双方向軸流ファン装置1の斜視図である。
図2は、図1の実施形態の双方向軸流ファン装置1の部分断面による説明図である。図2には、双方向軸流ファン装置1の上半分の断面が図示されている。
図1および図2に示す双方向軸流ファン装置1は、ベンチュリケーシング10の通風孔12内で動翼部材30をモータ20により正逆に回転駆動することにより、通風孔12の一方側から他方側へ送風し且つ他方側から一方側へ送風するものである。このようにベンチュリケーシング10の通風孔12の一方側は、正転時には吸気側となり、反転時には排気側となる。また、ベンチュリケーシング10の通風孔12の他方側は、正転時には排気側となり、反転時には吸気側となる。
【0012】
ベンチュリケーシング10は、たとえば合成樹脂から形成される。ベンチュリケーシング10は、回転する動翼部材30の外周を囲む枠部11、枠部11によって形成される通風孔12、モータ20の取付部15、および、枠部11と取付部15とを連結する複数のスポーク部16、を有する。
枠部11は、略筒状または略円環形状に形成される。枠部11を略円環形状とすることにより、枠部11を同心に貫通する通風孔12が形成される。略円環形状の枠部11には、複数の固定孔13が形成され、枠部11の外周には一対のフランジ部14が立設される。固定孔13は、略円環形状の枠部11の一方側の面から他方側の面にわたって貫通する。この固定孔13にたとえばネジを挿入することより、ベンチュリケーシング10をたとえば他の筐体等に取り付けることができる。
取付部15は、たとえば円板形状に形成される。取付部15は、たとえばモータ20の外周と同サイズに形成されてよい。
スポーク部16は、通風孔12内の空気の流れを妨げ難くするために細い棒状に形成される。本実施形態のスポーク部16は、湾曲して形成されている。
そして、複数のスポーク部16および取付部15は、正転時の排気側である他方側において取付部15と枠部11とを連結する。また、取付部15は、通風孔12の中心において通風孔12と同軸に配置される。
【0013】
モータ20は、正逆回転可能である。モータ20は、ロータヨーク21、回転軸22、ロータマグネット24、ステータコア25、ステータコイル26、を有するアウタロータ型のものである。ロータヨーク21は略カップ形状を有し、回転軸22は略カップ形状のロータヨーク21の内側中心に立設される。回転軸22は取付部15に対してベアリング部材23を介して回転可能に取り付けられる。略カップ形状のロータヨーク21と取付部15とにより囲われた空間内には、ロータマグネット24とステータコア25とが隙間を開けて配置される。ロータマグネット24は略カップ形状のロータヨーク21の内周面に設けられ、ステータコア25は取付部15に取り付けられる。ステータコイル26はステータコア25に巻き付けられる。
ステータコイル26に通電することにより、ステータコア25に発生する磁界とロータマグネット24の磁界とが反発および吸引し、ロータマグネット24、ロータヨーク21および回転軸22が回転する。ステータコイル26に流す電流の方向を切り替えることにより回転方向が逆転する。これにより、モータ20は正逆回転する。
【0014】
動翼部材30は、たとえば合成樹脂から形成される。動翼部材30は、ロータヨーク21が嵌め込まれる略カップ形状のカップ部31と、複数の羽部32と、を有する。複数の羽部32は、略カップ形状のカップ部31の外周面から外向きに突出するように配列される。各羽部32は回転方向に対して傾斜している。このため、動翼部材30が回転することにより気流を生成できる。回転方向が逆転することにより、気流の向きも逆転する。
【0015】
ところで、このような双方向軸流ファン装置1では、モータ20により動翼部材30を回転駆動して双方向の気流を生成できる。
たとえばモータ20が正回転することにより、ベンチュリケーシング10の通風孔12の一方側から他方側へ向かう気流を生成できる。この場合、回転する動翼部材30の吸気側には、複数のスポーク部16といった吸気を妨げるものがないので、乱れがない空気流を生成し、それをベンチュリケーシング10の通風孔12の他方側へ排気することができる。
これに対して、モータ20が逆回転する場合、回転する動翼部材30の吸気側には、複数のスポーク部16といった吸気を妨げるものが存在する。このため、複数のスポーク部16により乱れた気流を吸気し、この乱れた気流をベンチュリケーシング10の通風孔12の一方側へ排気することになる。その結果、逆転時の送風音が大きくなり、逆転時の静圧特性も低下する。
このように正逆回転可能な双方向軸流ファン装置1では、逆転時の静圧特性や送風音といった送風特性を改善することが求められている。
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図2に示すように、ベンチュリケーシング10の枠部11についての通風孔12による内周面は、一方側である正転時の吸気側から順番に、開口テーパ部41、小径部42、中間テーパ部43、大径部44を有する。
【0017】
小径部42は、円環形状の内周面を有する。小径部42の断面では、内周面は直線状になる。小径部42の直線状の内周面は、動翼部材30の羽部32の直線状の外縁辺と隙間を開けて略平行に対向する。
【0018】
大径部44は、小径部42より大径の円環形状の内周面を有する。大径部44の断面では、内周面は直線状になる。大径部44の直線状の内周面は、小径部42よりも隙間を開けて、動翼部材30の羽部32の直線状の外縁辺と略平行に対向する。
そして、小径部42と大径部44とは、同軸に形成される。これにより、枠部11の内周面には、二段の多段形状に形成される。
【0019】
中間テーパ部43は、大径部44側から小径部42側へ向かって半径が小さくなるように直線状に傾斜した内周面を有する。中間テーパ部43の内周面により、小径部42の内面と大径部44の内面とは連続的な面に形成される。
そして、このように小径部42と大径部44との間に中間テーパ部43を設けることにより、仮にたとえば小径部42と大径部44とを直接に連結させた場合のように、回転軸22の延在方向に対して垂直に立つ壁面や、内径が急激に変化する部分が形成されなくなる。
【0020】
開口テーパ部41は、小径部42からベンチュリケーシング10の枠部11の一方側に向かって半径が大きくなるように曲線状に傾斜した内周面を有する。
開口テーパ部41による円弧状の内面と小径部42の内面とは連続的な面となる。
そして、開口テーパ部41により枠部11の一方側に形成される開口と、大径部44により枠部11の他方側に形成される開口とを略同サイズに揃えることができる。
【0021】
また、図2に示すように、枠部11の内周面は、正転時の排気側である他方側の部分が正転時の吸気側である一方側の部分より大径となるように多段形状に形成される。また、中間テーパ部43は、羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bの外側に位置する。その結果、羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔が広がっている。
【0022】
また、羽部32についての他方側の縁32cは、縁32cの外周端である頂部32bが一方側へ寄るように湾曲している。これにより、羽部32の正転時の排気側の縁32cは、回転する動翼部材30の中心側より外側が正転時の吸気側へ寄るように湾曲する。その結果、図2に示すように、該縁32cの延長線は、中間テーパ部43の傾斜した内周面に対して略垂直な角度で交叉する。これにより、羽部32の外周縁32aの近辺での気流は、回転軸22に対して傾いた気流となる。
【0023】
このようなベンチュリケーシング10の枠部11の内周面の形状と羽部32の形状とを採用した場合、正転時には、ベンチュリケーシング10の一方側の開口から枠部11の内周面と羽部32の外周縁32aとの間隔が最少であって且つ最も他方側となる部分(以下、単に最少間隔部分という。)Gminの付近までにおいて、負圧により空気が引き込まれる。そして、負圧により引き込まれた空気は、該最少間隔部分Gminの付近からベンチュリケーシング10の他方側の開口へ送り出される。
このため、複数のスポーク部16が存在しない一方側の開口から吸気される空気は、開口テーパ部41により広がった開口から負圧により効率よく集められ、小径部42による均一サイズの内周面の内側を滑らかに通過し、その後、最少間隔部分Gminを通過して、大径部44により広がったサイズの内周面において大きな通気抵抗を受けることなく他方側の開口から広がって吹き出される。その結果、正転時の気流は、他方側の開口の手前に設けられた複数のスポーク部16により大きく乱されることなく、高い静圧で送風されることになる。
【0024】
また、逆転時には、ベンチュリケーシング10の他方側の開口から最少間隔部分Gminの付近までにおいて、負圧により空気が引き込まれる。そして、負圧により引き込まれた空気は、該最少間隔部分Gminの付近からベンチュリケーシング10の一方側の開口へ送り出される。
このため、他方側の開口から吸気される空気は、複数のスポーク部16が存在しているにもかかわらず大径部44により開口面積が広がった開口から負圧により大きく乱されることなく効率よく集められる。その後、最少間隔部分Gminを通過して、小径部42による均一サイズの内周面の内側を滑らかに通過し、開口テーパ部41により広がった開口から広がって吹き出される。その結果、逆転時の気流は、複数のスポーク部16が吸気側に配置されているにもかかわらずそれにより大きく乱されることなく、良好な静圧で送風されることになる。
【0025】
次に、本実施形態の双方向軸流ファン装置1の送風特性を比較例と比較して説明する。
図3は、比較例の双方向軸流ファン装置1の斜視図である。
図4は、図3の比較例の双方向軸流ファン装置1の部分断面による説明図である。図4には、双方向軸流ファン装置1の上半分の断面が図示されている。
図3および図4に示す比較例の双方向軸流ファン装置1は、本実施形態の双方向軸流ファン装置1と比べて、ベンチュリケーシング10の枠部11の内周面の形状が異なる。
なお、実施形態との対比がしやすいように、比較例についての実施形態に対応する部分には、同一の名称および符号を用いる。
【0026】
具体的には、比較例の枠部11の内周面は、一方側である正転時の吸気側から順番に、開口テーパ部41、小径部42、大テーパ部51を有する。枠部11の内周面は多段形状とされていない。
大テーパ部51は、他方側の開口から小径部42側へ向かって半径が小さくなるように直線状に傾斜した内周面を有する。大テーパ部51の傾斜角度は、中間テーパ部43の傾斜角度より小さい。また、大テーパ部51は、羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bの外側に位置する。その結果、羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔は、実施形態のものより狭い。
また、羽部32についての他方側の縁32cは、縁32cの外周端である頂部32bが一方側へ寄るように湾曲している。これにより、本実施形態と同様に、該縁32cの延長線は、大テーパ部51の傾斜した内周面に対して略垂直な角度で交叉する。
このように図3および図4に示す比較例の双方向軸流ファン装置1では、羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔を広げ、羽部32についての他方側の縁32cを大テーパ部51の内周面に対して略垂直に立てている。よって、この比較例の双方向軸流ファン装置1であっても、仮にたとえば枠部11の内周面を小径部42と同径の直線状の内周面のみで形成した場合と比べて、逆転時の送風特性が改善されている。
【0027】
図5は、実施形態の逆転時の送風特性と比較例の逆転時の送風特性との一例の比較表である。
図5には、逆転時の最大風量、逆転時の最大静圧、逆転の回転速度、逆転時の音圧レベル、逆転時の消費電力が比較して図示されている。
そして、同図に示すように、本実施形態の逆転時の最大風量および最大静圧は、比較例のものと略同じ値である。
また、同一の回転速度とした場合の逆転時の音圧レベルは、比較例のものと比べて3dBも低下している。しかも、同一の回転速度での逆転時の消費電力は比較例のものと略同じ値である。
【0028】
図6は、実施形態の逆転時の風量静圧特性と比較例の逆転時の風量静圧特性との一例の特性図である。
図6の横軸は逆転時の風量であり、縦軸は逆転時の静圧である。
そして、同図に示すように、実施形態の逆転時の風量静圧特性は、比較例の逆転時の風量静圧特性と略同じである。
【0029】
このように実施形態では、たとえば枠部11の内周面を小径部42と同径の直線状の内周面のみで形成した場合と比べて逆転時の送風特性の改善を期待することができる比較例と同等の送風特性を得ながら、逆転時の音圧レベルについては格段に低下させることができる。
【0030】
以上のように、本実施形態では、枠部11の内周面を、正転時の排気側である他端側が正転時の吸気側である一端側より大径となるように多段形状に形成し、これにより複数の羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔を広げている。よって、仮にたとえば枠部11の内周面が多段形状でない均一の円環形状である場合と比べて複数の羽部32の該頂部32bと枠部11の内周面との間隔を広げて、逆回転する羽部32の外周縁32aについての頂部32bの付近における空気の圧力変動を抑えることができる。また、大テーパ部51を形成した場合と比べても、逆回転する羽部32の外周縁32aについての頂部32bの付近における空気の圧力変動を抑えることができる。その結果、逆転時の送風音を抑えることができる。
しかも、枠部11の内周面を多段形状に形成し、これにより正転時の排気側を正転時の吸気側より大径化している。よって、仮にたとえば枠部11の内周面を全体的に大径化した場合のように正転時の静圧が低下してしまうことはない。
また、枠部11の内周面についての正転時の排気側、すなわち逆転時の吸気側を大径化しているので、逆転時の吸気側に複数のスポーク部16が設けられているにもかかわらず、逆転時の静圧を改善できる。逆転時の静圧特性を、正転時の静圧特性に近づけることができる。
このように、本実施形態では、逆転時の静圧特性を正転時の静圧特性に近づけるように改善しつつ、これら正転時の静圧特性および逆転時の静圧特性に対して大きな影響が生じないように逆転時の送風音を改善することができる。
【0031】
また、本実施形態において枠部11の内周面には、小径部42と大径部44との間に中間テーパ部43が設けられているので、仮にたとえば小径部42と大径部44とを直接に連続した場合のように空気の流れに対して立った壁面が形成されていない。そして、空気の流れに対して立った壁面がある場合にはこの壁面に対して空気が当たって渦を発生して滞留し易くなるが、本実施形態ではそのような事態が発生し難い。その結果、本実施形態では、空気の流れをよりスムースにでき、逆転時の静圧特性を改善し、逆転時の送風音を更に抑えることができる。
【0032】
また、本実施形態では、各羽部32についての正転時の排気側である他方側の縁32cが、回転する動翼部材30の中心側より外側が正転時の吸気側へ寄るように湾曲している。よって、羽部32の外周縁32aの付近において羽部32に引き込まれる空気の流れは、通風孔12および回転軸22に沿った方向に対して斜めに傾き、中間テーパ部43による内面に沿った方向になる。その結果、本実施形態では、空気の流れをよりスムースにでき、逆転時の外周縁32aの付近での圧力変動を更に抑えて、逆転時の送風音を更に抑えることができる。
【0033】
また、本実施形態では、枠部11についての通風孔12による内周面は、小径部42についての正転時の吸気側に、枠部11の正転時の吸気側の開口を広げる開口テーパ部41を有する。よって、通風孔12により枠部11に形成される正転時の吸気側の開口のサイズを、大径部44による正転時の排気側の開口のサイズに近づけることができる。その結果、双方向軸流ファン装置1を枠部11の正転時の吸気側においてたとえば装置筐体に取り付ける場合での該装置筐体に形成する通気孔のサイズと、枠部11の正転時の排気側において取り付ける場合での通気孔のサイズとを略同じサイズに揃えることができる。双方向軸流ファン装置1を取り付ける側に応じて通気孔のサイズを変更する必要がなくなる。
【0034】
そして、このような良好な送風特性を有する正逆回転可能な双方向軸流ファン装置1を、たとえばパーソナルコンピュータ、電源装置などの電子機器において冷却ファンとして用いたり、クリーンルームの換気扇として用いたりすることにより、正逆の双方向において高い送風特性を得ながら高い静音特性を得ることができる。
【0035】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0036】
たとえば上記実施形態では、大径部44および小径部42により、枠部11の内周面を二段の多段形状に形成している。この他にもたとえば、枠部11の内周面は,三段以上の多段形状に形成してよい。この場合でも、枠部11の内周面を正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状とし、且つ、複数の羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔を広げることにより、本実施形態と同様の効果を期待できる。
【0037】
上記実施形態では、大径部44と小径部42との間に中間テーパ部43を設けている。
この他にもたとえば、大径部44と小径部42とを直接的に連結してもよい。この場合でも、枠部11の内周面は多段形状となり、複数の羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔を広げることにより、静音特性を含む逆転時の送風特性を改善することを期待できる。
【0038】
上記実施形態では、羽部32の正転時の排気側である他方側の縁32cは、回転する動翼部材30の中心側より外側が正転時の吸気側へ寄るように湾曲している。
この他にもたとえば、羽部32の正転時の排気側である他方側の縁32cは、回転軸22に対して略垂直に立ててもよい。この場合でも、枠部11の内周面を正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状とし、且つ、複数の羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔を大径部44により広げることにより、静音特性を含む逆転時の送風特性を改善することを期待できる。
【0039】
上記実施形態では、小径部42より一方側の開口よりの部分に開口テーパ部41を設け、これにより、一方側の開口のサイズを他方側の開口のサイズに略揃えている。
この他にもたとえば、開口テーパ部41を無くして小径部42をそのまま一方側の開口としてもよい。この場合でも、枠部11の内周面を正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状とし、且つ、複数の羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔を大径部44により広げることにより、静音特性を含む逆転時の送風特性を改善することを期待できる。
【0040】
上記実施形態では、モータ20は、ステータコア25の外側で、回転軸22に固定されたロータヨーク21が回転するアウタロータ型のものである。
この他にもたとえば、モータ20は、円筒形状のステータコア内で回転軸22を有するロータが回転するインナロータ型のものでもよい。また、回転するロータは、永久磁石によるロータマグネット24ではなく、ロータコアにロータコイルが巻き付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…双方向軸流ファン装置
10…ベンチュリケーシング(ケーシング)
11…枠部
12…通風孔
13…固定孔
14…フランジ部
15…取付部
16…スポーク部
20…モータ
21…ロータヨーク
22…回転軸
23…ベアリング部材
24…ロータマグネット
25…ステータコア
26…ステータコイル
30…動翼部材
31…カップ部
32…羽部
32a…外周縁
32b…頂部
32c…縁
41…開口テーパ部
42…小径部
43…中間テーパ部
44…大径部
51…大テーパ部
【要約】
【課題】双方向軸流ファン装置の逆転時の送風音といった送風特性を改善する。
【解決手段】双方向軸流ファン装置1は、正逆回転可能なモータ20と、複数の羽部32を有してモータ20により回転駆動される動翼部材30と、モータ20が取り付けられる取付部15、通風孔12が形成される枠部11、および取付部15と枠部11とを連結する複数のスポーク部16を有して通風孔12内で複数の羽部32が回転するケーシングと、を有する。複数のスポーク部16は、モータ20の正転時の排気側において取付部15と枠部11とを連結する。枠部11についての通風孔12による内周面は、正転時の排気側が正転時の吸気側より大径となるように多段形状に形成される。複数の羽部32の外周縁32aについての正転時の排気側の頂部32bと枠部11の内周面との間隔は広がっている。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6