(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸を共有する2つの円錐又は円錐台の合同な底面を接合した形状を有し、前記底面の円周部分が刃先稜線を形成し、この刃先稜線に、回転軸方向に対して所定角度傾斜した溝が周方向に所定間隔で形成され、且つ前記2つの円錐又は円錐台の側面と前記底面とのなす角度である刃角が互いに異なり、大きい刃角の側の溝の深さd2が、小さい刃角の側の溝の深さd1より浅く、前記刃角の差が30°未満であることを特徴とするカッター。
請求項1又は2記載のカッターを脆性材料基板の表面に圧接させた状態で、前記脆性材料基板及び前記カッターの少なくとも一方を閉曲線を描くように移動させて、脆性材料基板厚み方向に対して傾斜したクラックからなるスクライブラインを形成した後、前記脆性材料基板に応力を加えて前記クラックを前記脆性材料基板の裏面まで成長させて、前記脆性材料基板を分断し貫通孔を形成することを特徴とする脆性材料基板の分断方法。
脆性材料基板に対して前記カッターの刃先稜線を垂直に立てた状態で、前記脆性材料基板及び前記カッターの少なくとも一方を移動させる請求項3記載の脆性材料基板の分断方法。
【背景技術】
【0002】
脆性材料基板であるガラス基板に例えば貫通孔を形成する場合、
図12に示すように、ガラス基板1の表面を不図示のカッターで閉曲線状にスクライブして、基板表面に対して垂直なクラック71からなるスクライブライン6を形成し(同図(a))、次にスクライブライン6で囲まれた領域を冷却して収縮させ(同図(b))、スクライブライン6で囲まれた領域を抜き落とし貫通孔11を形成していた(同図(c))。
【0003】
しかし、この従来の方法では、スクライブライン6で囲まれた領域を収縮させる工程が必要となる。また、
図13に示すように、この収縮が十分でないと、スクライブライン6で囲まれた領域を取り除く際に、クラック71を形成する対向面同士が接触・摩擦し、貫通孔11の周縁に微小な凹凸(以下、「コジリ」と記す)や貝殻状の欠け(以下、「ハマカケ」と記す)等が生じる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、刃先稜線に対して左右の刃角が異なるカッターを用いる、又は刃先稜線に対して左右の刃角が同一のカッターをガラス基板面に対して傾斜させた状態で相対移動させることによって、ガラス基板1の厚み方向に対して傾斜するクラック、すなわちスクライブライン6で囲まれた領域の抜き勾配を形成し、当該領域に対して垂直方向に外力を加えて当該領域を取り除く技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記提案技術では、傾斜したクラックが基板の厚み方向の深くまでは形成されないことがある。また、ガラス基板1の表面からある程度深さまでは所望の傾斜角度で形成されるものの、それより深いところではクラックの傾斜は基板厚み方向に対して急激に小さくなり、ガラス基板1の裏面側に近くなるとクラックの傾斜は基板厚み方向、すなわち基板表面に対してほぼ垂直になることがある。
【0007】
このようにクラックが深くまで形成されていない、あるいは基板表面に対して垂直な部分を長く有していると、スクライブラインで囲まれた領域を取り除く際に、クラックを形成する対向面が接触・摩擦し、
図13に示したように、貫通孔11の周縁にコジリやハマカケ等が生じる。
【0008】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、基板の厚み方向の深くまで、傾斜したクラックを確実に形成できるカッターを提供することにある。
【0009】
また本発明の目的は、コジリやハマカケ等を貫通孔の周縁に発生させることなく、カッターを用いて脆性材料基板に貫通孔を円滑に形成する、又は脆性材料基板から円盤状の基板を切り出す方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明に係るカッターは、回転軸を共有する2つの円錐又は円錐台の合同な底面を接合した形状を有し、前記底面の円周部分が刃先稜線を形成し、この刃先稜線に、回転軸方向に対して所定角度傾斜した溝が周方向に所定間隔で形成され、且つ前記2つの円錐又は円錐台の側面と前記底面とのなす角度
である刃角が互いに異な
り、大きい刃角の側の溝の深さd2が、小さい刃角の側の溝の深さd1より浅く、前記刃角の差が30°未満であることを特徴とする。
ここで、小さい刃角の側の溝の深さd1が2μm〜2500μmの範囲であり、大きい刃角の側の溝の深さd2が1μm〜20μmの範囲であるのが好ましい。
【0011】
また本発明に係る脆性材料基板の分断方法は、前記記載のカッターを脆性材料基板の表面に圧接させた状態で、前記脆性材料基板及び前記カッターの少なくとも一方を閉曲線を描くように移動させて、脆性材料基板厚み方向に対して傾斜したクラックからなるスクライブラインを形成した後、前記脆性材料基板に応力を加えて前記クラックを前記脆性材料基板の裏面まで成長させて、前記脆性材料基板を分断
し貫通孔を形成することを特徴とする。
【0012】
ここで、基板表面に生じる微小クラックを抑える観点からは、脆性材料基板に対して前記カッターの刃先稜線を垂直に立てた状態で、前記脆性材料基板及び前記カッターの少なくとも一方を移動させるのが好ましい。
【0013】
また本発明に係る脆性材料基板の分断方法は、
前記記載のカッターを、脆性材料基板の表面に圧接させた状態で、前記脆性材料基板及び前記カッターの少なくとも一方を閉曲線を描くように移動させて、脆性材料基板厚み方向に対して傾斜した第1クラックからなる第1スクライブラインを形成し、次いで、前記第1スクライブラインよりも内側で且つ第1スクライブラインと同心円状に前記脆性材料基板の厚み方向に対して傾斜し、前記第1クラックと合流する第2クラックからなる第2スクライブラインを形成した後、前記脆性材料基板に応力を加えて前記第1クラックを前記脆性材料基板の裏面まで成長させて、前記脆性材料基板を分断し貫通孔を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカッターでは、回転軸方向に対して所定角度傾斜した溝を周方向に所定間隔で形成すると共に、刃先稜線を構成する2つの刃角が互いに異なるようにし
、大きい刃角の側の溝の深さd2を、小さい刃角の側の溝の深さd1より浅く、前記刃角の差を30°未満としたので、このカッターによって脆性材料基板に形成されるクラックは基板の厚み方向に対して傾斜し、しかも基板の深くまで形成される。
【0015】
また本発明の分断方法では、前記のカッターを用いるので、コジリやハマカケ等を周縁に発生させることなく、脆性材料基板に貫通孔を円滑に形成できる、あるいは円盤状の基板を切り出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るカッター及び脆性材料基板の分断方法についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
図1〜3に、本発明に係るカッターの一実施形態を示す。
図1はカッターの全体斜視図、
図2(A)は
図1の矢印Aから見た刃先稜線の部分拡大図、
図2(B)は
図1の矢印Bから見た刃先稜線の部分拡大図、そして
図3は溝部分での垂直断面図である。
図1に示すカッター2aは、回転軸22を共有する2つの円錐台の合同な底面を接合した形状を有し、底面の円周部分に刃先稜線21が形成されている。2つの円錐台の高さは通常は同じであるが、異なっていても構わない。
図3から理解されるように、このカッター2aでは、2つの円錐台の側面と底面とのなす刃角θ1と刃角θ2が異なっており、刃先稜線21には、回転軸方向に対して所定角度傾斜した溝23が周方向に所定間隔で形成されている。
【0019】
このカッター2aを用いてスクライブを行うと、
図3において、下方に向かって左方向に傾斜したクラックが形成される。すなわち、刃角θ1と刃角θ2とが異なるカッターを用いた場合、基板に形成されるクラックは、刃先と基板との接点を対称点として、大きい刃角θ2と点対称側に傾斜して形成される。また、所定角度傾斜した溝が周方向に所定間隔で形成されたカッターを用いた場合も、基板に形成されるクラックは、刃先と基板との接点を対称点として、溝の浅い側d2と点対称側に傾斜して形成される。したがって、基板厚み方向に対して傾斜したクラックを深く確実に形成する
ために、
本発明のカッターでは大きい刃角側の溝の深さを浅くする。
【0020】
カッター2aにおける刃角θ1と刃角θ2との差が大きいほど、基板厚み方向に対するクラックの傾斜角度は大きくなる。一方、クラックの傾斜角度が大きくなると、クラックが基板の深くまで達しなくなり、基板を分断しにくくなる。このため、
本発明では、刃角θ1と刃角θ2との差は30°未満と
した。刃角θ1及び刃角θ2それぞれの角度に特に限定はないが、通常は刃角θ1が30°〜75°の範囲、刃角θ2が65°〜90°の範囲が好ましく、刃先角度(θ1+θ2)は100°〜160°の範囲が好ましい。
【0021】
カッター2aに形成する溝23のピッチとしては20〜200μmの範囲が好ましい。溝23の両端での深さは、深さd
1が2〜2500μmの範囲、深さd
2が1〜20μmの範囲が好ましい。
【0022】
カッター2aの外径は1mm〜10mmの範囲が好ましい。カッターの外径が1mmよりも小さいと、取り扱い性及び耐久性が低下することがあり、外径が10mmより大きいと、スクライブの際に傾斜クラックが深く形成されないことがある。より好ましいカッター2aの外径は1mm〜6mmの範囲である。また、カッター2aにかける荷重及びスクライブ速度は、脆性材料基板の種類や厚みなどから適宜決定されるが、通常、荷重は0.05〜0.4MPaの範囲、スクライブ速度は10〜500mm/secの範囲である。
【0023】
図4に、本発明で使用するカッターの他の形態を示す。同図(A)は
図3の矢印Aから見た刃先稜線の部分拡大図、同図(B)は
図3の矢印Bから見た刃先稜線の部分拡大図である。この図に示すように、溝23の形状はU字状であってもよい。この場合、U字状の溝23のピッチ、及び溝23の両端の深さd
1,d
2としては前記形態の好適範囲がここでも例示される。なお、同図(A)に示す溝の形状は、V字状やU字状の他、鋸刃状、凹形状などの形状であっても構わない。
【0024】
図5に、本発明に係るカッターの他の実施形態例を示す。この図のカッター2bは、回転軸を共有する、異なる高さの2つの円錐の合同な底面を接合した形状を有する。
図1に示したカッターと同様に、底面の円周部分に刃先稜線21が形成されており、この図では図示していないが、2つの円錐の側面と底面とのなす刃角θ1と刃角θ2は異なっており、刃先稜線21には、回転軸方向に対して所定角度傾斜した溝23が周方向に所定間隔で形成されている。このようなカッター2bを用いても、基板厚み方向に対して傾斜したクラックが形成される。
【0025】
次に、本発明に係る脆性材料基板の分断方法について説明する。
図6及び
図7に、本発明に係る分断方法の一実施形態を示す工程図を示す。これらの図は、脆性材料基板であるガラス基板に円形の貫通孔を開ける場合又はガラス基板から円盤状の基板を抜き取る場合の工程図である。まず
図6(a)に示すように、
図1に示したカッター2aを用いて、ガラス基板1上をスクライブして円状のスクライブライン3を形成する。このスクライブによってガラス基板1には、
図7(a)に示すような、ガラス基板1の厚み方向に対して半径方向外方に広がるように傾斜したクラック4が形成される。ここで形成されるクラック4は、従来のカッターで形成されるクラックに比べて、所定の傾斜角度を維持しながらガラス基板1の深くまで達する点で異なる。
【0026】
次に、
図6(b)及び
図7(b)に示すように、スクライブライン3で囲まれた領域に対して上方から下方に向けて力を加えると、クラック4の傾斜が抜き勾配となって当該領域は容易に抜け落ちる。これにより貫通孔11が形成されたガラス基板又はディスク基板などの円形基板が作製される。なお、形成するクラックの傾斜方向を半径方向内方に狭まるようにしてもよい。ただし、この場合には、スクライブライン3で囲まれた領域に対して下方から上方に向けて力を加えて、当該領域を抜け落とすようにする必要がある。
【0027】
また、クラック4がガラス基板1の裏面まで達していなかった場合であっても、上記外力が加わることによって、クラック4はガラス基板1の裏面まで進展するので、スクライブライン3で囲まれた領域の分断に支障を来すおそれはない。もちろん、ガラス基板1に外力を加える前に、ガラス基板1を加熱及び/又は冷却して膨張・収縮させて、クラック4をガラス基板1の裏面まで進展させるようにしても構わない。このようにガラス基板1に外力を加える前にガラス基板1を膨張・収縮させておくと、スクライブライン3で囲まれた領域をガラス基板から抜き落とす際も処理が一層円滑に行えるようになる。
【0028】
以上説明した分断方法は、脆性材料が比較的薄い場合及び脆い場合などに好適に用いることができる分断方法である。脆性材料基板が厚い場合や硬い場合などには、本発明のカッターを用いても基板の裏面側まで所定の角度で傾斜したクラックを形成できない場合がある。具体的には
図8に示すように、基板1の表面からある程度の深さまでは所定の傾斜角度でクラック73は形成されるものの、それより深いところではクラック73の傾斜は基板の厚み方向に対して急激に小さくなり、基板1の裏面側に近くなるとクラック73の傾斜は基板厚み方向と略平行となることがある。
【0029】
そこで、このような場合には、次のような分断方法を用いることが推奨される。
図9及び
図10に、このような場合に好適に用いられる分断方法を示す工程図を示す。なお、ここで示す工程図は、ガラス基板などの脆性材料基板に貫通孔を形成する場合の工程図である。
図9は斜視図、
図10は縦断面図である。まず
図9(a)に示すように、
図1に示すカッター2aを用いて、ガラス基板1上の、貫通孔形成予定領域の外縁をスクライブして第1スクライブライン31を形成する。このスクライブによってガラス基板1には、
図10(a)に示すような、浅い所で半径方向外方に広がるように傾斜し、深い所では基板表面に対して略垂直な第1クラック41が形成される。
【0030】
次に、
図9(b)に示すように、第1スクライブライン31よりも内側で且つ第1スクライブライン31と同心円状にカッター2aによってスクライブを行い第2スクライブライン32を形成する。このスクライブによって、
図10(b)に示すように、浅い所では半径方向外方に広がる傾斜が小さく、深くなると傾斜が急に大きくなって第1クラック41に合流する第2クラック42が形成される。これによって、第1スクライブライン31で囲まれた領域をガラス基板1から抜き落とすための、基板表面に対して垂直な部分L(
図10(c)に図示)の短い抜き勾配が形成される。
【0031】
ここで、同じカッター2aを用いて第2クラック42を形成した場合でも、第2クラック42が第1クラック41と平行とならずに第1クラック41に合流するのは、第1クラックの形成によって、その周辺の脆性材料内部の応力の状態が変化し、クラックが形成されていない部分と異なる状態になるためであると考えられる。直線状のスクライブラインを形成する通常のスクライブにおいても、基板の端辺付近に端辺に沿ってスクライブラインを形成すると、スクライブラインに沿って形成されるクラックが端辺側に傾斜する傾向のあることが確認されている。したがって、第2クラック42が第1クラック41に合流するようにするためには、例えば第1スクライブライン31と第2スクライブライン32との間隔を、基板1の厚みやカッター2aの圧接力などを考慮しながら調整する必要がある。第1スクライブライン31と第2スクライブライン32との間隔は、通常は0.1〜1mmの範囲が好ましい。第1スクライブライン31と第2スクライブライン32との間隔を広げすぎると、第2クラック42は第1クラック41と略平行に形成され、第1クラック41と合流しなくなる。逆に第1スクライブライン31と第2スクライブライン32との間隔を狭くしすぎると、第1クラック41における基板表面に対して垂直な部分L(
図10(c)に図示)が長くなり、第1スクライブライン31で囲まれた領域をガラス基板1から抜き落とす際にコジリやハマカケなどが発生するおそれがある。
【0032】
そして
図9(c)及び
図10(c)に示すように、第1スクライブライン31で囲まれた領域に対して下方に力を加えると、第1クラック41及び第2クラック42によって形成された抜き勾配によって、当該領域は容易に抜け落ち、ガラス基板1に貫通孔11が形成される。なお、第1クラック41がガラス基板1の裏面まで達していなかった場合であっても、上記外力が加わることによって、第1クラック41はガラス基板1の裏面まで進展するので、貫通孔11の形成に支障を来すおそれはない。もちろん、ガラス基板1に外力を加える前に、ガラス基板1を加熱及び/又は冷却して膨張・収縮させて、第1クラック41をガラス基板1の裏面まで進展させるようにしても構わない。このようにガラス基板1に外力を加える前にガラス基板1を膨張・収縮させておくと、第1スクライブライン31で囲まれた領域をガラス基板から抜き落とす際も処理が一層円滑に行えるようになる。
【0033】
本発明の分断方法において、第1スクライブライン31と第2スクライブライン32とで異なるカッターを使用してもよい。例えば、第1スクライブライン31を形成するときは、基板の表面に対して垂直なクラックを形成する従来のカッターを用い、第2スクライブライン32を形成するときは、基板厚み方向に対して強く傾斜する本発明に係るカッターを用いるようにしてもよい。
【0034】
本発明の分断方法の対象となる脆性材料基板1としては、従来公知のものが挙げられる。例えば、ガラス、セラミック、シリコン、サファイア等の脆性材料基板が挙げられる。また、本発明の分断方法で分断できる脆性材料基板1の厚みは、脆性材料基板の材質等によって異なるが、脆性材料基板がガラス基板の場合にはおおよそ2mm程度の厚さまでが好適である。また閉曲線で囲まれた面積としては特に限定はなく、一般に小さい面積の場合ほど形成しにくいところ、本発明の分断方法では直径15mm程度の貫通孔であっても容易に形成することができる。
【0035】
図11に、本発明に係る分断方法の他の実施形態を示す。この図に示す貫通孔の形成方法は、微小間隙を介して又は直接接合された2枚の脆性材料基板(例えばガラス基板)1a,1bに貫通孔を形成する方法である。まず
図11(a)に示すように、円盤形状で外周部に刃先が形成されたカッター2aを用いて、上ガラス基板1aの貫通孔形成予定領域の外縁をスクライブし、第1クラック41からなる第1スクライブライン31を形成する。次に、
図11(b)に示すように、第1スクライブライン31よりも内側で且つ第1スクライブライン31と同心円状にカッター2aによってスクライブを行い、第2クラック42からなる第2スクライブライン32を形成する。前述のように、この第2クラック42は第1クラック41に合流し、第1スクライブライン31で囲まれた領域を上ガラス基板1aから抜き取るための、基板表面に対して垂直な部分L(
図10(c)に図示)の短い抜き勾配が形成される。
【0036】
次に、
図11(c)に示すように、下ガラス基板1bの貫通孔形成予定領域の外縁よりも内側で且つ第1スクライブライン31よりも外側を、カッター2aを用いてスクライブし、第3クラック43からなる第3スクライブライン33を形成する。次いで、同図(d)に示すように、第3スクライブライン33よりも外側にある貫通孔形成予定領域の外縁をカッター2aによってスクライブし、第4クラック44からなる第4スクライブライン34を形成する。前述のように、この第4クラック44は第3クラック43に合流し、第4スクライブライン34で囲まれた領域を下ガラス基板1bから抜き取るための、基板表面に対して垂直な部分L(
図10(c)に図示)の短い抜き勾配が形成される。
【0037】
そして
図11(e)に示すように、第1スクライブライン31で囲まれた領域に対して下方に力を加えると、第1クラック41と第2クラック42とによって形成された抜き勾配によって上ガラス1aの貫通孔形成予定領域が上ガラス基板1aから抜け落ち、第3クラック43と第4クラック44とによって形成された抜き勾配によって下ガラス1bの貫通孔形成予定領域が下ガラス基板1bから抜け落ちる。これによって2枚積層されたガラス基板1a,1bに貫通孔11が形成される。
【0038】
なお、下ガラス基板1bに第3スクライブライン33、第4スクライブラインをこの順で形成した後、上ガラス基板1aに第1スクライブライン31、第2スクライブライン32をこの順で形成しても、上記実施形態と同様に、2枚積層されたガラス基板1a,1bに貫通孔11が形成される。
【0039】
以上、説明した実施形態ではガラス基板1の表面に描くスクライブラインの円形状の閉曲線であったが、これに限定されるものではなく、スクライブラインの形状は閉曲線であればいかなる形状であっても構わない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0041】
実施例1
スクライブ装置(「MP500A」三星ダイヤモンド工業社製)に、厚さ1.1mmのソーダガラス基板を取り付け、スクライブを行ってスクライブラインを形成した。使用したカッターの仕様及びスクライブ条件は下記の通りである。そして、形成したスクライブラインと交差する位置でソーダガラス基板を垂直に切断し、その断面から、形成したクラックのガラス基板の表面に対する傾斜角度を測定した。同じ条件下で20回スクライブを行い、その実測値の平均値をクラックの傾斜角度とした。表1に、クラックの傾斜角度を、ガラス基板の断面拡大写真と共に示す。
【0042】
(傾斜溝付きカッター)
直径 :2.0mm
厚さ :0.65mm
刃先角度:130°(刃角θ1:60°,刃角θ2:70°)
溝の数 :135
溝の深さ:(d
1)16.96μm、(d
2)8.95μm
【0043】
(スクライブ条件)
スクライブ荷重:0.22MPa
切込み量 :0.20mm
吸着圧 :約−35kPa
【0044】
比較例1
刃角θ1及び刃角θ2をいずれも75°とし、溝の深さd
1を11.29μm、d
2を8.97μmとした以外は、実施例1と同じ構成のカッターを用いて、実施例1と同様にしてスクライブを行い、形成されたクラックの傾斜角度を測定した。表1に、クラックの傾斜角度を、ガラス基板の断面拡大写真と共に示す。
【0045】
比較例2
刃角θ1及び刃角θ2をいずれも75°とし、溝の深さd
1を20.40μm、d
2を9.51μmとした以外は、実施例1と同じ構成のカッターを用いて、実施例1と同様にしてスクライブを行い、形成されたクラックの傾斜角度を測定した。表1に、クラックの傾斜角度を、ガラス基板の断面拡大写真と共に示す。
【0046】
実施例2
ガラス基板として厚さ1.1mmの無アルカリガラスを用い、スクライブ荷重を0.32MPaとした以外は、実施例1と同様にしてスクライブを行い、形成されたクラックの傾斜角度を測定した。表2に、クラックの傾斜角度を、ガラス基板の断面拡大写真と共に示す。
【0047】
比較例3
ガラス基板として厚さ1.1mmの無アルカリガラスを用い、スクライブ荷重を0.32MPaとした以外は、比較例1と同じ構成のカッターを用いて、実施例1と同様にしてスクライブを行い、形成されたクラックの傾斜角度を測定した。表2に、クラックの傾斜角度を、ガラス基板の断面拡大写真と共に示す。
【0048】
比較例4
ガラス基板として厚さ1.1mmの無アルカリガラスを用い、スクライブ荷重を0.32MPaとした以外は、比較例2と同じ構成のカッターを用いて、実施例1と同様にしてスクライブを行い、形成されたクラックの傾斜角度を測定した。表2に、クラックの傾斜角度を、ガラス基板の断面拡大写真と共に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】