(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むアニオン型樹脂混合液がポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種以上を含有する請求項2〜4のいずれか一項に記載のセル接続部材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子電導性の基材により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルでは、たとえば700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極の間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。セル接続部材にはインターコネクタやインターコネクタを介してセル間を電気的に接続する部材が該当する。
【0003】
セル接続部材は燃料と空気の隔壁となる部材である。近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、合金が使用できるようになってきた。合金使用により、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
前記合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi
-Cr合金などが用いられることもある。また、合金ではなく、(La,Ca)CrO
3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金等は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr
2O
3やMnCr
2O
4の酸化被膜を形成する。この酸化被膜は経時的に膜厚が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている。(Cr被毒と呼ばれる)また、(La,Ca)CrO
3(カルシウムドープランタンクロマイト)を用いた場合でも合金を用いた場合よりも少ないが、Cr被毒が生じる場合がある。そこで、合金等の表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料を被覆して保護膜を形成することにより劣化を抑制する試みがなされている。
【0006】
前記保護膜を形成する材料としては、LaMO
3(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO
3のペロブスカイト型酸化物や、AB
2O
4で示されるスピネル型酸化物、具体的にはNiCo
2O
4,(Zn
xCo
1-x)Co
2O
4(0.45≦x≦1.00),FeMn
2O
4,NiMn
2O
4,CoMn
2O
4,MnFe
2O
4,MnNi
2O
4,MnCo
2O
4,Mn(Mn
0.25Co
0.75)
2O
4,(Mn
0.5Co
.5)Co
2O
4,TiCo
2O
4,ZnFe
2O
4,FeCo
2O
4,CoFe
2O
4,MgCo
2O
4,Co
3O
4,Zn
x(Co
yMn
(1-y))
(3-x)O
4(0<x<1、0<y×(3−x)≦2)などが挙げられる。
【0007】
このような保護膜は、たとえば特許文献1に開示のように、コーティングにより形成されることが多い。
一般的にセル接続部材として用いられる基材は複雑な形状をしていることが多く、酸化被膜の増大、Cr被毒の発生といった劣化を抑制するためには、劣化防止被膜を形成する必要がある。この劣化防止被膜は緻密で、均一な膜厚とすることが望ましい。膜厚が不均一になった場合、あるいは、膜厚が大きすぎる部位がある場合には、起動停止に熱応力(接合する部材の熱膨張率の不一致に起因することが多い)が発生し、クラックや剥離が生じやすくなり、膜厚が小さすぎる部位は、劣化防止の機能(合金の酸化被膜の増大抑制、Cr被毒抑制)が十分発揮できず、その部位の劣化が十分に抑制されなくなるという問題が生じやすい。
【0008】
そこで、複雑な形状のセル接続部材に対して、均一な成膜が実現できる成膜法が検討されている。本発明者らは電着塗装は樹脂膜を得る手法であるという従来の固定観念にとらわれず、塗膜中の金属酸化物成分の割合を増加し、金属酸化物被膜の形成を試みたところ、意外にも、保護膜として機能するにたる緻密で均一な膜厚となる金属酸化物被膜を形成することができることをすでに見出している。
【0009】
具体的にアニオン電着塗装においては、アニオン樹脂を主成分とするアニオン型樹脂混合液中において、基材を陽極として一対の電極間に電圧を印加することにより、アニオン樹脂を陽極に移動させ、基材表面上に堆積させることにより電着塗膜を形成することができるものである。このとき、前記アニオン型樹脂混合液に金属酸化物微粒子を含有させてあれば、前記電着塗膜は前記アニオン樹脂と金属酸化物微粒子との混合物として堆積した電着塗膜が得られる。この電着塗膜を加熱処理すると、加熱条件によってはアニオン樹脂が高分子化して樹脂塗膜が得られたり、樹脂成分自体がバインダとして機能し、金属酸化物微粒子を塗膜として一体化した後焼失して、金属酸化物微粒子の保護膜を形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、アニオン電着塗装を行う場合には、基材を陽極として一対の電極間に電圧を印加するのであるが、アニオン型樹脂混合液が陽極に堆積して電着塗膜を形成する現象が起きると同時に、陽極で水の電気分解が生起し、陽極周囲に酸素の気泡が発生する。陽極界面で発生する気泡が、塗膜の表面側に移動して抜けると、その気泡の通り道がピンホールとなり、得られた電着塗膜に欠陥が生じることがある。
【0012】
上述のように基材上に電着塗膜を形成した際に、ピンホールなどの水の電気分解ガスに由来する欠陥が生じても、一般の電着塗膜は、ほとんど樹脂成分からできており、加熱硬化処理工程を行う際に、その樹脂成分が流動しつつピンホールを閉塞するため、電着塗膜にピンホールが残留することはほとんど無いが、保護膜を形成するための電着塗装を行う場合には、アニオン型樹脂混合液は固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むため、加熱硬化処理工程であまり流動することはない。そのため、加熱硬化処理工程でアニオン型樹脂混合液が、電着塗膜を形成する工程で生じたピンホールを閉塞することなく硬化してしまうため、得られた保護膜においてもピンホールは残存してしまう。
【0013】
また、電着塗膜を加熱硬化処理する際に、加熱条件を比較的低温で長時間保持するものとすることによって電着塗膜の流動を促進することも考えられるが、複雑な形状のセル接続部材に対しては、電着塗膜が流動する際に表面張力によりエッジ部が薄膜化しやすく、膜厚の均一性が損なわれやすい実情にあり、ピンホールを発生させることなく保護膜を形成する保護膜形成方法が望まれている。
【0014】
すなわち、本発明の目的は、SOFCに用いられるCrを含有する基材の表面に、ピンホールがなく、より均一で緻密な保護膜を形成する技術およびその保護膜を用いたSOFC用セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記電着塗膜に形成したピンホールは、電着塗膜が金属酸化物微粒子を主成分とするものであることから電着塗膜を加熱しても流動化できないために閉塞除去できない。これに対し、発明者らは、種々の手法を検討した結果、電着塗膜にピンホールが形成されたとしても、電着塗膜を水洗し、重ね塗りすれば、そのピンホールを容易に閉塞でき、金属酸化物微粒子を主成分とする保護膜を十分な膜厚に形成することができることを見出した。
すなわち、電着塗装は、自動車のボディの下塗り、携帯電話の外装部品の塗装で工業化されている塗装方法であり、原理的に均一膜厚の塗膜が得られる手法である。しかし、基本的に均一な膜厚の樹脂を主成分とする膜を得る手法であり、今回求めているような金属酸化物膜を得るには、塗膜の成分や膜厚の範囲が大きく異なるために、加熱流動によってそのピンホールを閉塞することが困難であって、ピンホールが残留しやすい。しかし、ピンホール残留の原因を克服するとともに、重ね塗りを行うことによって厚塗りを可能にすることができ、さらに、焼成、焼結工程を行うことによって、固体酸化物型燃料電池用セルに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成する場合にも好適に用いられることを明らかにした。
【0016】
すなわち本発明のSOFC用セルに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成する保護膜形成方法の特徴構成は、
前記基材の表面に、固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むアニオン型樹脂混合液を用いて、アニオン電着塗装法により第一電着塗膜を形成する第一電着工程、
前記第一電着工程により形成された第一電着塗膜を水洗する水洗工程、
水洗完了状態の第一電着塗膜の表面に、固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むアニオン型樹脂混合液を用いて、アニオン電着塗装法により第二電着塗膜を形成する第二電着工程、
をこの順で順次行った後、
前記第一、第二電着塗膜を焼成して前記第一、第二電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程、
さらに前記焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜を形成する焼結工程を行う点にある。
【0017】
なお、本発明にいう水洗工程は、被水洗物に水を接触させた後、その水を被水洗物上から除去することをいい、代表的には、シャワー水洗が行われるが、被水洗物を水浴に浸漬させたのち取り出す浸漬水洗や、さらに水浴に浸漬させているときに超音波を照射する超音波水洗であってもよい。
また、本発明にいう焼成工程、焼結工程等の工程は、代表的には、所定の温度域で所定の時間熱処理することによって行われるが、たとえば、連続的な加熱工程中で、塗膜中の樹脂成分を焼失させても焼成工程により焼成被膜を形成したものとすることができ、また、連続的な加熱工程中で焼成被膜を焼結させても、焼結工程により焼成被膜を焼結したものとすることができる。その他の加熱工程に対しても同様である。
【0018】
本発明のSOFC用セルに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に、保護膜を形成すると、SOFC用として耐久性の高い部材を提供することができる。
【0019】
前記基材の表面に、電着工程により、金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂との混合液を用いて、アニオン電着塗装法により第一電着塗膜を形成すると(第一電着工程)、その電着塗膜中のアニオン型樹脂成分を除去したとしても保護膜として機能しうる金属酸化物微粒子の層を形成することができる。この際、アニオン型樹脂は、前記混合液中において、前記金属酸化物微粒子に包摂した状態で、溶媒中に溶解あるいは分散し、電着により高分子化し、前記基材の表面に析出しつつ、前記アニオン型樹脂の重合高分子化により、緻密で強固な層を形成した電着塗膜となる。
この際、アニオン型樹脂混合液は、固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むから、金属酸化物微粒子は充分アニオン型樹脂に取り込まれつつ、前記アニオン型樹脂の消失後に成膜することができ、脆くなりすぎず、充分な強度を備えたものとなり、焼結により緻密で強固な保護膜に変換することができる。形成される電着塗膜は、前記金属酸化物微粒子が十分量密に集合した状態の塗膜となるので、厚膜に形成することにより、Crに対する飛散防止効果を発揮しやすい。
【0020】
次に、前記第一電着工程により形成された第一電着塗膜を水洗すると(水洗工程)、前記第一電着工程によって形成された第一電着塗膜に、ピンホールが生じていたとしても、上記新知見に基づき第二電着工程によってピンホール内にまでアニオン型樹脂混合液を供給して電着塗膜を形成させることができ、塗膜内部にピンホールが残留するのを抑制することができる。
【0021】
すなわち第一電着工程直後の第一電着塗膜にピンホールが発生していると、そのピンホール内部には気泡も残留している。気泡は、ピンホール内部に引っかかっていたり、アニオン型樹脂混合液の液膜に覆われていたりすることによりピンホール内部に残留する。この気泡は、電着工程においてピンホール内にアニオン型樹脂混合液が浸入するのを阻害しているものと考えられる。そこで、水洗工程を行うことにより、この気泡を覆っている液膜を水洗破壊し、気泡を破壊除去すれば、ピンホール内のガスを除去することができ、水洗完了状態の第一電着塗膜表面にピンホールが存在したとしても、そのピンホール内を、後続の第二電着工程により電着塗膜が形成されやすい条件とすることができる。しかも、前記混合液は未硬化状態に維持されている。ここに固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むアニオン型樹脂混合液を用いて、アニオン電着塗装法により第二電着塗膜を形成すると(第二電着工程)、未硬化の第一電着塗膜表面に、第二電着塗膜が形成される。すると、第二電着塗膜は、第一電着塗膜に生成したピンホールにアニオン型樹脂混合液を充填しつつ形成される。また、第一電着塗膜が未硬化状態であるからその第一電着塗膜と一体化しやすい。そのため、第一電着工程でピンホールが生じていたとしても、そのピンホールを閉塞した状態で一体化することができ、電着塗膜内にピンホールを残留させることなく、その電着塗膜の膜厚を増加させることができる。
なお、このようにして、第二電着塗膜を形成した後、水洗工程、第三電着塗膜を形成する第三電着工程、水洗工程、第四電着塗膜を形成する第四電着工程というように、さらに同様の操作を繰り返すことにより、ピンホールの残留しない膜厚の厚い電着塗膜を得ることもできる。
【0022】
第一電着工程、水洗工程、第二電着工程をこの順で順次行った後、前記電着塗膜を焼成して前記第一、第二電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行うと、前記電着塗膜が、金属酸化物微粒子からなる焼成被膜とすることができる。この焼成被膜は、金属酸化物同士を接続していた前記アニオン型樹脂が焼失することにより、実質的には前記電着塗膜中の金属酸化物微粒子のみが前記焼成被膜の構成成分として残留することになる。
【0023】
従来、金属酸化物からなる保護膜の形成に電着塗装が用いられてこなかった理由は、樹脂製分が焼失する際に、前記電着塗膜中の金属酸化物粒子の割合が少なすぎると前記焼成
被膜が脆くなり、前記焼成被膜が膜としての形態を維持できない、一方、金属酸化物粒子の割合が多すぎると、前記アニオン型樹脂混合液が安定に存在しえず、2層分離してしまうので電着塗装のアニオン型樹脂混合液としては用いられないという2つの問題による。しかし、本発明者らの知見によると、意外にも、電着塗装用に調整されるアニオン型樹脂混合液は安定な混合状態となり、かつ、焼成工程後に焼成被膜として充分な強度を備えた被膜を形成可能な金属酸化物微粒子とアニオン型樹脂とが混合したアニオン型樹脂混合液として調整することが可能であることがわかった。そのため、電着塗装法による簡便な工程により、強固な焼成被膜を作成できるようになった。
【0024】
さらに前記焼結工程を行うと、前記焼成被膜を焼結させることにより、前記金属酸化物微粒子同士の結合が強固になり、前記焼成皮膜が、緻密な保護膜に変換される。
【0025】
すると、得られた電着塗膜がピンホールを含まず強固に一体化していることから、緻密な保護膜を形成することができる。
【0026】
また、本発明のセル接続部材
の製造方法の特徴構成は、Crを含有する合金または酸化物からなる基材の表面に保護膜を形成してあるセル接続部材
を製造する、セル接続部材の製造方法であって、
前記保護膜を
上述の保護膜形成方法により形成
する点にある。
【0027】
このインターコネクタセル接続部材は、上記保護膜形成方法により形成してあるから、緻密でかつ劣化防止効果の高い保護膜が付与されており、化学的に安定で、劣化が少なく長期にわたって信頼性高く用いることのできるセル接続部材を提供することができる。
さらに、前記保護膜形成方法によると、ピンホールの少ない保護膜が形成されるから、基材からのCrの飛散を高精度に抑制し、SOFC用として耐久性の高いセル接続部材
を製造することができる。
【0028】
上記
製造方法において、前記金属酸化物微粒子がCoを含む酸化物から
なるものとすることができる。
【0029】
上記金属酸化物のうち
Coを含む酸化物は、その熱膨張率が、主に基材として使用されるフェライト系ステンレス鋼(熱膨張率:11×10
-6K
-1)や、接合して使用される空気極材料である(La,Sr)(Co,Fe)O
3(熱膨張率:15〜21×10
-6K
-1)、(La,Sr)MnO
3(熱膨張率:11×10
-6K
-1)に比較的近いものである。たとえば、ZnCo
2O
4の熱膨張率は9.3×10
-6K
-1、(Zn
0.45Co
0.55)Co
2O
4の熱膨張率は10.7×10
-6K
-1、MnCo
2O
4の熱膨張率は11.8×10
-6K
-1である。したがって、本
製造方法による被膜は、基材が熱膨張しても基材から容易に剥がれ落ちることがなく、耐久性に優れた被膜であるといえる。
【0030】
上記
製造方法において、前記金属酸化物微粒子がZnとCoを含む酸化物から
なるものとすることができる。
【0031】
また、Zn−Co系のものは、焼結による製膜を行う際に、他の材料に比べて比較的低温で、緻密な酸素バリア性の高い膜を得られるので、工業的に好ましい。また、Zn−Co系のものは、比較的低温(例えば650℃)における電気抵抗が小さく、SOFCの運転条件を低温にシフトさせても高い性能を維持しやすいという利点がある。
【0032】
また、固形分中に金属酸化物微粒子を30質量%以上含むアニオン型樹脂混合液がポリアクリル酸およびポリメタクリル酸から選ばれる少なくとも一種以上を含有することができる。
【0033】
前記ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸は、アニオン型樹脂として、金属酸化物微粒子を高分散で含有するアニオン型樹脂混合液を容易に形成することができるとともに、電着工程において、その金属酸化物微粒子を膜状の電着塗膜に成形することができる。また、このとき前記金属酸化物微粒子同士の結合を促進することができるので、焼成工程において前記アニオン型樹脂が焼失したとしても、金属酸化物微粒子同士が強固に結合した緻密な焼成被膜を形成するのに役立つので好ましい。
【0034】
また、前記基材をフェライト系ステンレス鋼とすることができる。
【0035】
前記基材がフェライト系ステンレス鋼であれば、前記金属酸化物微粒子を焼結してなる被膜との親和性が高いこと、熱膨張率の面からも前記被膜に熱応力を生じさせにくい、SOFCセルの構成材料との熱膨張率に近いこと等からより耐久性の高い保護膜を作成するのに好適である。
【0036】
また、本発明の固体酸化物型燃料電池用セルの
製造方法の特徴構成は、上記セル接続部材を空気極と接合して
固体酸化物型燃料電池用セルを製造する点にある。
【0037】
この
製造方法により製造したSOFC用セルは、上記セル接続部材を備えるので、性能安定性の高い固体酸化物型燃料電池を提供することができる。
【発明の効果】
【0038】
したがって、耐久性が高く長期にわたって安定して使用することができるセル接続部材、SOFC用セルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明のSOFCに用いられるCrを含有する合金または酸化物からなる基材11の表面に、保護膜12を形成する保護膜形成方法およびSOFC用セル接続部材およびSOFC用セルを説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例は、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0041】
<固体酸化物型燃料電池>
本発明にかかるSOFC用セル接続部材およびその製造方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1および
図2に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン電導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオンおよび電子電導性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子電導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
【0042】
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子電導性の合金または酸化物からなる基材11に保護膜12を形成してあるセル接続部材1(
図3に形状が断面長方形の単純形状である場合の模式図を示す)により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とセル接続部材1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とセル接続部材1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。
【0043】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、たとえば、上記空気極31の材料としては、LaMO
3(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO
3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0044】
さらに、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、セル接続部材1の材料としては、電子電導性および耐熱性の優れた材料であるLaCrO
3系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金や、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金または酸化物が利用されている。
【0045】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、かかる積層構造のセルスタックでは、上記セル接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施例では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0046】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、
図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、たとえば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO
2が電子e
-と反応してO
2-が生成され、そのO
2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH
2がそのO
2-と反応してH
2Oとe
-とが生成されることで、一対のセル接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0047】
<セル接続部材>
前記セル接続部材1は、
図1、
図3に示すように、セル接続部材用の基材11の表面に保護膜12を設けて構成してある。そして、前記各単セル3の間に空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成してある。
【0048】
前記保護膜12は、導電性セラミックス材料を含有する塗膜形成用材料を、前記基材11に電着塗装することにより保護膜12を厚膜として形成してある。
【0049】
<保護膜>
前記保護膜12は、たとえば、Crを22%、Mnを約0.5%含むフェライト系ステンレス鋼等からなる前記基材11の表面にたとえば、ZnCo
2O
4等の金属酸化物微粒子とポリアクリル酸等のアニオン型樹脂とを質量比で(金属酸化物微粒子:アニオン型樹脂)=(0.5:1)〜(1.7:1)の割合で含有しているアニオン型樹脂混合液を用いて、アニオン電着塗装法により電着塗膜を形成する電着工程を行い、前記電着塗膜を焼成して前記電着塗膜中の樹脂成分を焼失させた焼成被膜を形成する焼成工程を行い、さらに前記焼成被膜を焼結させて金属酸化物からなる保護膜12を形成する焼結工程を行うことにより形成されている。
【0050】
電着塗膜の膜厚は、焼成、焼結後、緻密で強固な保護膜12を形成するが、電着塗膜の段階において薄すぎると、長時間の発電中に充分な劣化防止機能を発揮させることが困難になること、強度の面で焼成、焼結工程における取り扱いに注意を要し、操作性を低下させる要因となることなどの理由から1μm以上とすることが好ましい。逆に、電着塗膜が厚すぎると、長時間の発電中に充分な劣化防止機能は高くなるものの、電池用セルに用いられる場合の電気抵抗を増大させてしまうこと、膜厚が厚くなるほど熱応力に弱くなる傾向があること、電着塗膜の形成に必要な材料が多くなり、不経済であることなどから30μm以下とすることが好ましい。このようにして形成される保護膜12は、基材側から空気極側あるいは空気極31と電解質との界面への気相のCr(VI)の酸化物(またはオキシ水酸化物)の拡散を確実に抑制することができる。その結果、空気極31のCr被毒の発生を確実に抑制することができる。また、基材11側からのCrの飛散が抑制されるので、Cr枯れに起因する基材11の酸化劣化の進行を抑制することができる。
【0051】
前記焼成被膜は、焼結により緻密な金属酸化物の層を形成し、保護膜12として機能するようになる。このとき、前記焼成被膜の気孔率が大きすぎると、保護膜12が脆くなり、充分な強度を保ちにくくなるとともに、本来の保護膜12としての役割である酸素のバリア層としての機能を十分果たすことができない。そこで、強度の高い保護膜12を形成すべく、焼成被膜の気孔率を40%以下とすることが好ましい。
【0052】
前記電着工程において、前記金属酸化物微粒子の粒径が、大きすぎると、電着工程を行う際のアニオン型樹脂混合液を作成する際に、前記金属酸化物微粒子がそのアニオン型樹脂混合液内で均一に分散しにくく、また、適度な粘度に調整しにくいため、アニオン型樹脂混合液の調整が困難になるので、2μm以下であることが望ましい。また、小さくなりすぎると、電着塗膜を焼結する際に焼結による体積収縮が進みすぎてクラックや剥離が発生しやすくなる傾向があるので0.1μm以上とすることが望ましい。
【0053】
つまり、上記保護膜12は、基材11に対して膜厚を均一に形成しやすいので、生産性良く物性にムラのない良質なSOFC用セルを製造できる。その保護膜12の膜厚は均質で適度な厚さを有することが望まれる。保護膜12の厚さは、
図3に示すように、保護膜12を形成した基材11の試験片を横断し、面部に相当する図中a,bの保護膜12の厚さの平均(x)を圧延面膜厚、角部に相当するc,d,e,fの保護膜12の厚さの平均(z)をエッジ膜厚として評価した。均一性の評価値として、圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)を求めると、1.5であった。前記保護膜12の圧延面とエッジ部の膜厚比(x/z)は、2以下としておくことによって、実用的に十分均質といえる高品質な燃料電池用セル接続部材を安価に提供することができるようになった。
【0054】
以下に前記保護膜12の具体的な製造方法を詳述するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
(1)アニオン型樹脂の合成
1,4ジオキサン50部を、還流冷却器と温度計と撹拌機と滴下ロートとを付けた4つ口フラスコ中で約82℃に加熱し、撹拌しながら滴下ロートから下記表1に示す混合物と1,4ジオキサン50部を3時間かけて連続滴下する。
滴下完了後同温度でさらに3時間反応を続行して、アニオン性をもつアクリル樹脂(固形分50%)を合成する。得られたアニオン型樹脂のTgは、−27℃(計算上の推定値)、分子量MW12万〜15万であった。
【0056】
【表1】
表1中のAIBNは、重合開始剤である。L−SHは、連鎖移動剤である。
【0057】
アニオン型樹脂の化学的性状については、Tg:−50℃〜+25℃および分子量(MW質量平均分子量):5万〜20万の範囲内が好適である。一般にアニオン型樹脂のTgは+20℃前後、MWは3万〜7万程度である。なお、多量の無機微粒子を電気泳動共析させて、電解ガスを局所発生させて共析率を向上するためには、低Tgで高分子量のアニオン型樹脂とすることが好ましい。Tgが−50℃以下の場合、析出塗膜の粘性が強すぎ焼付硬化後に流動が大きく、+25℃以上になると流動性が低下しZnCo
2O
4微粒子共析時に発生したガス跡を消すことができずピンホール状となる。MWが5万以下ではZnCo
2O
4微粒子の分散性が低下する。また20万以上になると流動性が低下し塗膜中のZnCo
2O
4微粒子の均一な分散が悪くなり、見た目も不均一な外観となる。
【0058】
また後述のシラン系カップリング剤を用いて、アニオン型樹脂と金属酸化物微粒子とをカップリング反応させると、ZnCo
2O
4微粒子に代表される金属酸化物微粒子の析出効率を飛躍的に向上させることができる。
【0059】
(2)アニオン型樹脂混合液の作成
シラン系カップリング剤として、イソシアネート官能性シラン(OCN−C
3H
6−Si(OC
2H
5)
3)を用い、この溶剤nMP(nメチルピロリドン)3質量部と(1)で作成したアニオン型樹脂120質量部と溶剤nMP(nメチルピロリドン)60部を混ぜた後、スズ系触媒(DBTDL0.2部)を添加し60℃で1時間反応させることにより、シラン系カップリング剤のイソシアネート基とアニオン型樹脂のOH基が反応しシラン系カップリング剤がアニオン型樹脂に付加する。(表2、第一成分)
【0061】
ZnCo
2O
4微粒子(平均粒径0.5μm)100質量部と溶剤nMP(nメチルピロリドン)200部と3ミリ径のジルコニアビーズ750質量部を混合し、撹拌機で湿式分散を行いスラリー状のZnCo
2O
4微粒子を得る。(表3、第二成分)
【0063】
前記第二成分の中に前記第一成分を添加し均一混合する。
さらに、トリエチルアミン1.4質量部と溶剤nMP(nメチルピロリドン)10質量部と消泡剤(サーフィノール104)10質量部を添加し攪拌する。
均一混合した後、イオン交換水500質量部を少しずつ加えて、ZnCo
2O
4微粒子とアニオン型樹脂との混合液を作成する。24時間攪拌し、シラン系カップリング剤の加水分解反応を促したのち、イオン交換処理で不純物を除去し、pH9.0±0.2浴電導度200±50μS/cmのアニオン型樹脂混合液が得られる。得られた分散液は、ZnCo
2O
4微粒子:樹脂=1:1(質量比)のアニオン型樹脂混合液として用いられる。
【0064】
なお、下記の配合物第一成分および第二成分の混合割合を変えることでZnCo
2O
4微粒子:樹脂を種々変更したアニオン型樹脂混合液を作成できる。また、アニオン型樹脂としてはアクリル酸系、メタクリル酸系のものを用いたが、種々公知のアニオン型樹脂を用いることができ、上述のものに限られるものではない。さらに、金属酸化物微粒子としてZn−Co系のものを用いたが、他に前記保護膜を形成する材料としては、LaMO
3(たとえばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO
3のペロブスカイト型酸化物や、AB
2O
4で示されるスピネル型酸化物、具体的にはNiCo
2O
4,FeMn
2O
4,NiMn
2O
4,CoMn
2O
4,MnFe
2O
4,MnNi
2O
4,MnCo
2O
4,Mn(Mn
0.25Co
0.75)
2O
4,(Mn
0.5Co
0.5)Co
2O
4,TiCo
2O
4,ZnFe
2O
4,FeCo
2O
4,CoFe
2O
4,MgCo
2O
4,Co
3O
4,などが挙げられる。
【0065】
(3) 電着塗装
上記(2)で作成したアニオン型分散剤組成物をその中の分散剤粒子が、電着液1リットル当り100gになるように分散させ、25℃の溶液において、直流電圧40Vで30秒間、スターラ撹拌(20rpm)下で電着塗装を行った。
なお、電着塗装は下記のようにして行った。
【0066】
形状が断面長方形の単純形状(棒状)である基材11の試験片に、必要に応じて脱脂処理、酸洗処理などを施した後、前記アニオン型樹脂混合液に基材11を浸漬し、通電を行うことによって、基材11表面に未硬化の電着塗膜が形成される。前記基材としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多いが、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などが用いられることもある。
また、合金ではなく、(La,Ca)CrO
3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。いずれの場合もCrを含有しており、SOFC用のセル接続部材1として用いる場合に、SOFCの高温動作時に、Crが飛散して、SOFCの他の構成部位(たとえば空気極材料)の被毒の原因となるおそれがあり、SOFCの耐久性の低下の一因となっている。そのため、このような基材に対しては、保護膜12を形成することによりCrの飛散を抑制し、SOFCの耐久性向上を図ることが望まれている。
また、前記基材11は、棒状の単純形状の場合もあるが、一般に格子型(
図2に示すもの)、櫛型等の複雑形状をしている場合が多い。
なお、以下では基材11の試験片は、あらかじめ#800湿式研磨による表面研磨を行ってある。
【0067】
(3−1) 前処理
なお、各電極には以下の1〜7を順に行う前処理を行った。
1. 電解洗浄剤による陰極電解
(アクチベータS(シミズ社製)100g/L、40℃、10A/dm2、30秒)
2. 水洗
3. 電解洗浄剤による陽極電解
(アクチベータS(シミズ社製)100g/L、40℃、10A/dm2、30秒)
4. 水洗
5. 酸中和(硝酸200mL/L)
6. 水洗
7. 純水洗
【0068】
また、陽極とする基材11の試験片には、別途、脱脂処理、酸洗処理などを施してもよい。
脱脂処理は、たとえば、基材11の表面にアルカリ水溶液を供給することにより行われる。アルカリ水溶液の供給は、たとえば、基材11にアルカリ水溶液を噴霧するかまたは基材11をアルカリ水溶液に浸漬させることにより行われる。アルカリとしては金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、たとえば、処理する金属の種類、基材11の汚れの度合いなどに応じて適宜決定される。さらにアルカリ水溶液には、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の適量が含まれていてもよい。脱脂は、20〜50℃程度の温度下(アルカリ水溶液の液温)に行われ、1〜5分程度で終了する。
【0069】
脱脂後、基材11を水洗され、次の酸洗処理に供される。その他、酸性浴に浸漬する脱脂、気泡性浸漬脱脂、電解脱脂などを適宜組み合わせて実施することもできる。酸洗処理は、たとえば、基材11の表面に酸水溶液を供給することにより行われる。酸水溶液の供給は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の供給と同様に、基材11への酸水溶液の噴霧、基材11の酸水溶液への浸漬などにより行われる。酸としては金属の酸洗に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、たとえば、基材11の種類などに応じて適宜決定される。酸洗処理は、20〜30℃程度の温度下(酸水溶液の液温)に行われ、15〜60秒程度で終了する。脱脂処理および酸洗処理のほかに、スケール除去処理、下地処理、防錆処理などを施してもよい。また、これらの処理の後、基材もしくは下地処理膜や防錆処理膜が油膜等の有機物、無機物等で汚染されなければ、基材11を70〜120℃程度の温度下に乾燥させて次の電着塗装に供してもよい。
【0070】
(3−2)電着工程
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、前記アニオン型樹脂混合液を満たした通電槽中に基材11を完全にまたは部分的に浸漬して陽極とし、通電することにより実施される。
(3−2−1)第一電着工程
このようにして、前処理を行った基材11の試験片を、25℃の溶液において、基材11をプラス、対極としてSUS304の極板をマイナスの極性とし、直流電圧40Vで40秒間、スターラ撹拌(20rpm)して通電を行うことによって、基材11表面に未硬化の第一電着塗膜が形成される。
【0071】
電着塗装条件は特に制限されず、基材11である金属の種類、前記アニオン型樹脂混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られるセル接続部材1の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(前記アニオン型樹脂混合液温度)10〜50℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、前記アニオン型樹脂混合液の液温10〜45℃とすればよい。
なお、電着電圧、電着時間を変更することにより、第一電着塗膜の膜厚をコントロールできる。電着電圧、電着時間を適切に制御することによって水の電気分解による気泡形成は抑制することができるが、適切に制御したとしても、電極表面に、ある程度のピンホールが生成することは避けられない。
【0072】
(3−2−2)水洗工程
次に、基材11に生成した第一電着塗膜を純水により洗浄した。
洗浄はシャワー洗浄、浸漬洗浄、超音波洗浄等種々公知の洗浄方法を適用することができるが、ここではシャワー洗浄を適用した。浸漬洗浄では気泡を形成している液膜を破壊する力が十分とはいえない場合が想定されるが、これに対して、シャワー洗浄によれば、十分な力が作用すると考えられる。また、超音波洗浄を行えば、さらに効率的にピンホールに残留する気泡を破壊できることが予想されるが、超音波洗浄装置は高価であるため、シャワー洗浄を行うことにより安価、簡便な水洗が可能となる。なお、シャワー水洗は、水洗後水に目視でアニオン型樹脂混合液の色が付かなくなるまで行った。これにより、第一電着塗膜に形成されたピンホール中の気泡は、水流とともに破壊されピンホール内にアニオン型樹脂混合液が浸入しやすい状態を形成することができる。
【0073】
(3−2−3)第二電着工程、水洗工程
さらに、水洗された第一電着塗膜のうえに、前記第一電着工程と同様にして第二電着工程を行う。また、第二電着工程で得られた第二電着塗膜は、上記水洗工程と同様に水洗工程を行った。
このようにして、前記アニオン型樹脂混合液を用いて第二電着塗膜を得ることができる。この第二電着塗膜はアニオン型樹脂混合液をピンホールの内部に充填して閉塞しつつ、未硬化の第一電着塗膜上に形成されるから、第一電着塗膜と一体化してピンホールの少ない電着塗膜を形成しやすい。
【0074】
(3−3)加熱処理
電着工程後の基材11は、通電槽から取り出され、水洗後に加熱処理が施される。この未硬化の電着塗膜が形成された基材11に加熱処理することによって、基材11表面に硬化した電着塗膜が形成されたセル接続部材1が得られる。
【0075】
(3−3−1)加熱硬化処理
加熱硬化処理は、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、電着塗膜を硬化させる硬化加熱とを含み、予備乾燥後に硬化加熱が行われる。予備乾燥は、60〜140℃程度の加熱下に行われ、3〜30分程度で終了する。硬化加熱は、150〜220℃程度の加熱下に行われ、10〜60分程度で終了する。具体的には、電気炉を用い、110℃−10分間の予備乾燥を行い、180℃−30分間の硬化加熱を行った。
【0076】
(3−3−2)焼成工程および焼結工程
前記アニオン型樹脂混合液としてZnCo
2O
4微粒子:樹脂=1:1(質量比)のものを用いて形成した電着塗膜を、500℃で2hr保持してアクリル樹脂を焼き飛ばす焼成工程を行った後、1000℃まで昇温して2hr保持することでZnCo
2O
4粒子の焼結および基材11の試験片の表面との反応を起こさせる焼結工程を行い、基材11に対して密着力があり、かつ緻密な保護膜12を形成した。
【0077】
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0078】
<比較例1>
実施例1における電着工程を、25℃に保持された前記アニオン型樹脂混合液で満たされた通電槽において、基材11をプラス、対極(SUS304製の極板)をマイナスの極性とし、直流電圧40Vを80秒間通電することによって、被塗物表面に電着塗膜を形成する第一電着工程とし、その後、得られた基材11の電着塗膜の被塗物表面を純水により洗浄する水洗工程を行うことにより電着塗膜を得ることとした以外は、実施例1と同様に保護膜12の形成を行った。
【0079】
すなわち、実施例1における電着工程を1度で行うとともに、トータルの電着時間が同じになるように条件を変更して電着工程を行った。
【0080】
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0081】
<比較例2>
実施例1における電着工程を第一電着工程と第二電着工程との間の水洗工程を省略して放置した以外は実施例1と同様に保護膜12の形成を行った。
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0082】
<比較例3>
実施例1における電着工程を第一電着工程と第二電着工程との間の水洗工程を、水洗に代えエアブローによるエアブロー洗浄を行った以外は実施例1と同様に保護膜12の形成を行った。
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0083】
<まとめ1>
実施例1、比較例1〜3の結果を
図4および表4に示す。
【0084】
【表4】
なお、表中
○は、保護膜中にピンホールが観測されなかったもの、
△は、ピンホールが観測されたが、その数が少ないもの、
×は多数のピンホールが発生したもの
を意味する。(なお、
図4中、矢示の黒点様のものがピンホールである。)
また、いずれの場合も、膜厚6μm程度の均一な保護膜12が得られている。
【0085】
図4より、得られた保護膜の状態を比較すると、第一、第二電着工程間で水洗工程を行った場合は、保護膜上にピンホールが観測されなかったが、水洗工程を行わなかった場合多数のピンホールが発生して、実用上保護膜の物性低下が予想される状態にあることがわかった。
【0086】
したがって、本発明の保護膜形成方法によるとピンホールの少ない実用性の高い保護膜12を形成できていることがわかった。
【0087】
<実施例2>
実施例1におけるアニオン型樹脂混合液の組成を、(ZnCo
2O
4微粒子:樹脂)=(1.7:1)(質量比、固形分中の金属酸化物微粒子の含有率63質量%)となるように調整した以外は、実施例1と同様に保護膜12を作成した。
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0088】
<実施例3>
実施例1におけるアニオン型樹脂混合液の組成を、(ZnCo
2O
4微粒子:樹脂)=(0.75:1)(質量比、固形分中の金属酸化物微粒子の含有率43質量%)となるように調整した以外は、実施例1と同様に保護膜12を作成した。
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0089】
<実施例4>
実施例1におけるアニオン型樹脂混合液の組成を、(ZnCo
2O
4微粒子:樹脂)=(0.5:1)(質量比、固形分中の金属酸化物微粒子の含有率33質量%)となるように調整した以外は、実施例1と同様に保護膜12を作成した。
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0090】
<比較例4>
実施例1におけるアニオン型樹脂混合液の組成を、(ZnCo
2O
4微粒子:樹脂)=(0.25:1)(質量比、固形分中の金属酸化物微粒子の含有率20質量%)となるように調整した以外は、実施例1と同様に保護膜12を作成した。
焼結工程終了後、保護膜12の形成状態を目視確認した。
【0091】
<まとめ2>
実施例2〜4および比較例4の結果を表5に示す。
【0093】
表5に示すように、(ZnCo
2O
4微粒子:樹脂)=(1.7:1)〜(0.5:1)(質量比、固形分中の金属酸化物微粒子の含有率として30〜70質量%程度)のアニオン型樹脂混合液は、本発明の保護膜形成方法により、ピンホールの少ない高性能な保護膜を形成し、かつ、高いCr飛散抑制効果を発揮させられるように形成することができるようになった。