(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5832421
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月16日
(54)【発明の名称】美肌装置
(51)【国際特許分類】
A61H 23/02 20060101AFI20151126BHJP
A61N 1/30 20060101ALI20151126BHJP
【FI】
A61H23/02 354
A61H23/02 386
A61H23/02 360
A61N1/30
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-507491(P2012-507491)
(86)(22)【出願日】2011年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2011076776
(87)【国際公開番号】WO2012086351
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2010-287940(P2010-287940)
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114628
【氏名又は名称】ヤーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100078260
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 レイ子
(74)【代理人】
【識別番号】100086450
【弁理士】
【氏名又は名称】菊谷 公男
(72)【発明者】
【氏名】山中 一範
(72)【発明者】
【氏名】山崎 岩男
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−328900(JP,A)
【文献】
特開2007−29518(JP,A)
【文献】
実開昭57−58465(JP,U)
【文献】
米国特許第4549535(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌に接触させるヘッドと、このヘッドに接触した肌をパッドで叩くタッピング機構とを備えた美肌装置において、
上記タッピング機構は、上記パッドを一端に備え、ピストン運動により上記ヘッドから上記パッドを突出・後退させるシャフトと、
上記ピストン運動の一方向へ上記シャフトを付勢する付勢部材と、
張力が加えられると上記付勢部材の付勢力に抗う方向へ上記シャフトに力を与える線材と、
この線材に上記張力を間欠的に加えるアクチュエータと、を備えることを特徴とする美肌装置。
【請求項2】
前記ヘッドが、肌に塗布した美容液をイオン導入により浸透させる電極を備えることを特徴とする請求項1記載の美肌装置。
【請求項3】
前記タッピング機構が、ヘッドの表面とパッドの後退位置の間に空間を備えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の美肌装置。
【請求項4】
前記タッピング機構が、互いに異なる面積を持ち、シャフトの一端に対し着脱自在に構成された2以上のパッドを交換可能に備えることを特徴とする請求項1記載の美肌装置。
【請求項5】
前記タッピング機構が、パッドの表面が凹曲面状の吸盤よりなることを特徴とする請求項1記載の美肌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、顔や腕などの肌をタッピングする美肌装置の分野に係るものである。
【背景技術】
【0002】
タッピングとは、指先で肌を繰り返し軽く叩きリズミカルな振動を与える手軽なスキンケアの技法をいう。マッサージ効果のほか、リラックス効果や経穴刺激効果などが得られると言われており、エステティックサロンなどではサービス内容に普通に組み込まれている。
【0003】
また、このようなタッピングを実現したハンディタイプの美肌装置も存在する。例えば特許文献1(特に第5〜7頁、
図4〜6)に開示された美肌装置は、イオン導入用電極と、パッドで肌を叩くタッピング機構とを備えている。美容液を塗布した肌に対して、イオン導入用電極によりイオン導入を行いつつタッピング機構のパッドで肌を叩き、美容液の有効成分の浸透をサポートする。
【0004】
この美肌装置では、ピストン運動によってヘッドの肌接触面からパッドを突出・後退させるシャフトと、シャフトを付勢する付勢部材と、シャフトに固定されたカムフロアと、カムフロアと係合して付勢部材の付勢力に抗しつつシャフトのピストン運動を制御するモータ駆動のツイストカムとによってタッピング機構を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−029518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の美肌装置では、ツイストカムなどを用いてタッピング機構を構成しているので、伝動系の摩擦による騒音が大きく、また小型化・軽量化がしづらく、いっそうのハンディ化を実現することが難しいという課題があった。
【0007】
この発明は上記の課題を解決するためになされたもので、タッピング機構を静穏化・小型化・軽量化することができ、いっそうハンディ化した美肌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る美肌装置は、肌に接触させるヘッドと、このヘッドに接触した肌をパッドで叩くタッピング機構とを備えた美肌装置において、タッピング機構は、パッドを一端に備え、ピストン運動によりヘッドからパッドを突出・後退させるシャフトと、ピストン運動の一方向へシャフトを付勢する付勢部材と、張力が加えられると、付勢部材の付勢力に抗う方向へシャフトに力を与える線材と、この線材に張力を間欠的に加えるアクチュエータと、を備えるようにしたものである。
【0009】
請求項2の発明に係る美肌装置は、前記ヘッドが、肌に塗布した美容液をイオン導入により浸透させる電極を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明に係る美肌装置は、前記タッピング機構が、ヘッドの表面とパッドの後退位置の間に空間を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明に係る美肌装置は、前記タッピング機構が、互いに異なる面積を持ち、シャフトの一端に対し着脱自在に構成された2以上のパッドを交換可能に備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明に係る美肌装置は、前記タッピング機構が、パッドの表面が凹曲面状の吸盤よりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、請求項1の発明によれば、タッピング機構のシャフトを線材の張力によりピストン運動するので、従来のカムによる場合と違い、摩擦音がなく静かであるという効果がある。また、形状の自由度が高く、狭い空間に実装してストロークを稼ぐことが可能で、タッピング機構の小型化・軽量化を図ることができ、いっそうハンディ化した美肌装置を提供できるという効果が得られる。
【0014】
請求項2の発明によれば、肌に塗布した美容液をイオン導入により浸透させる電極をヘッドに備えるので、タッピングと同時並行的にイオン導入が出来、美容液の浸透を促進してスキンケアの実効性を増進できるという効果が得られる。
【0015】
請求項3の発明によれば、タッピング機構は、ヘッドの表面とパッドの後退位置の間に空間を備えるので、パッドの飛び出しに勢いを付けることができ、力強くタッピングできるという効果が得られる。
【0016】
請求項4の発明によれば、タッピング機構は、互いに異なる面積を持ち、シャフトの一端に対し着脱自在に構成された2以上のパッドを備えるようにしたので、使用者の用途や好みに応じてパッドの面積を変更でき、変化に富んだタッピングを行うことができるという効果が得られる。
【0017】
請求項5の発明によれば、パッドの表面を凹曲面状に形成してパッドに吸盤作用を持たせて、肌を叩くだけでなく吸着して引っ張るので、肌に与える刺激が大きく血行の促進が果たせるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の実施の形態1による美肌装置の斜視図で、(a)は装置全体の外観を示し、(b)は要部を分解して示す。
【
図2】
図1の装置の要部拡大斜視図で、パッドを取外した状態を示す。
【
図3】
図2の断面図で、(a)はパッドが後退した状態を示し、(b)は(a)のA−A線に沿う要部断面を示す。
【
図4】同じく
図2の断面図で、(a)はパッドが突出した状態を示し、(b)は(a)のA−A線に沿う要部断面を示す。
【
図6】タッピング機構の概念図で、(a)は
図2の例で、(b)は別の例を示す。
【
図7】タッピング機構のさらに別の例の断面図で、(a)はパッドが後退した状態を示し、(b)はそのときのA―A線に沿う要部側面図である。
【
図8】
図7の例のパッドが前進した状態を示す。(b)は(a)のA−A線に沿う要部側面図である。
【
図9】
図1とは別の実施の形態による美肌装置の斜視図である。
【
図10】
図9の装置の作用説明図で、(a)はパッドが突出して肌を押している状態を、(b)はパッドが肌に吸着した状態を、(c)はパッドが肌を引っ張っている状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施の形態を詳細に説明する。
実施の形態1.
10は美肌装置の使用者が握るハンドル、20は使用者の肌と接触してイオン導入やタッピングを行うヘッドである。
【0020】
11A,11Bはイオン導入用電極であり、11Aはヘッド20に設けた肌接触用の電極、11Bはハンドル10に設けた手のひら接触用の電極である。
12は主電源のオンオフやタッピングの強さなどを調節する操作ボタン、13は美肌装置の動作状況に応じて点灯/消灯する表示部であり、それぞれハンドル10に取付ける。
さらに、
図1のヘッド20において、31L、31Sは肌を叩くためのパッドで、31Lはパッド面の広いものを、また31Sは狭いものを示す。これらを好みに応じて交換可能に取付ける。
【0021】
図2,
図3において、30はタッピング機構、32はタッピング機構30のフレーム、33はフレーム32に形成した空洞部、34は肌と接触するヘッド20の肌接触面、35はパッド31を一端に備えピストン運動によりヘッド20の肌接触面34から外にパッド31を突出したり空洞部33の内部に後退させたりするシャフトである。
【0022】
また、36はピストン運動の後退方向へシャフト35を付勢するコイルバネなどの付勢部材で、シャフト35の基部35Aと、フレーム32に一体の係止部32Aの間に介装されている。
37は張力が加えられると付勢部材36の付勢力に抗う前進方向へシャフト35に力を加える線材、38は線材37の一端を固定するためのピンなどの固定部材、39は線材37に間欠的に張力を加えるモータなどのアクチュエータ、39Aは固定部材38とともにシャフト35を挟むように配置された巻き取り軸、40,41は案内ピンである。なお案内ピン41はシャフト35に一体的に取付けられている。固定部材38の位置は、巻き取り軸39Aよりも肌接触面34に近いか、またはほぼ同一の高さにある。
【0023】
次に作用を説明する。
使用者がハンドル10を握り、美容液を塗布した肌にヘッド20の肌接触面34を接触させると、身体を経由して電極11Aと11Bが導通し、イオン導入作用が始まり、美容液がイオン化され肌の奥深くに送り込まれる。このとき、シャフト35は、付勢部材36の付勢力により
図3の後退位置に押し下げられており、パッド31とともにフレーム32の空洞部33内に収まっている。
【0024】
ここで操作部12を操作してアクチュエータ39の駆動を開始すると、アクチュエータ39が線材37を巻き取り軸39Aに巻き取り、固定部材38および巻き取り軸39Aの間の線材37に張力が加わる。この線材37によりシャフト35が押し出され、
図4に示すように、パッド3が肌接触面34から突出して肌を叩く。
【0025】
肌が叩かれると、アクチュエータ39がいったん停止して線材37の張力が緩み、このため、
図3に示すように付勢部材36の付勢力により、巻き取り軸39Aが逆転して線材37が巻き解かれ、シャフト35が後退方向へ押し下げられ、パッド31が肌接触面34から没入し空洞部33内に再び原位置に収まる。ここで、アクチュエータ39の駆動を間欠的に行うようにしているので、
図3,
図4の線材37の緩めと巻き取りとが繰り返されてシャフト35がピストン運動を繰り返し、パッド31が連続的に肌を叩く。
アクチュエータ39がモータの場合、モータ電源を周期的にオンとオフに切り替えることによりピストン運動が実現される。直流モータであれば、オフのとき電源回路を短絡して発電ブレーキを掛けると、巻き取り軸39Aの逆転に制動がかかって、線材37の急激な巻き解きに起因する線材の絡みを防ぐことが出来る。モータ電源のオンオフ周期は毎秒10回程度が好ましい。
【0026】
以上のタッピング機構30により、マッサージ効果やリラックス効果、経穴刺激効果などを得る他、イオン導入用電極11A,11Bによるイオン導入作用と組み合わせることで、美容液を塗布した肌に対して、美容液の有効成分の浸透をタッピング機構30のタッピングでサポートし、スキンケアの実効性を増進する。
【0027】
そしてこの実施の形態1では、ツイストカムなどを用いた従来と比べて、摩擦音がなく静かなうえ、形状の自由度が高く、タッピング機構30の小型化・軽量化を図ることができる。
【0028】
なお、
図5に示すように、タッピング機構30は、肌接触面34からパッド31が没入する側に空洞部33を備えるようにしたので、肌接触面34を肌Sに接触させた状態でシャフト35が肌Sに向かって勢いを付けて運動できるようになり、キビキビとしたタッピングが可能となる。この際、肌Sに接触させていない場合にパッド31が最高点Hに達するまでのエネルギーが、肌Sのタッピングの強さを決める。
【0029】
以上の説明では、付勢部材36の付勢力によりシャフト35を後退させておき、アクチュエータ39を駆動して線材37を巻き取ることによりシャフト35を付勢力以上の力で前進するようにしたが(
図6(a))、これとは逆に、付勢部材36の付勢力によりシャフト35を前進させておき、アクチュエータ39を駆動して線材37を巻き取ることによりシャフト35を付勢力以上の力で後退させてもよい。その場合は、肌接触面34を肌に接触させたときの肌の張り・堅さによる反発力を付勢部材36で吸収できる。
【0030】
さらに、肌に塗布した美容液をイオン導入により浸透させるイオン導入用電極11A,11Bは、この発明に必須の構成要素ではなく、省略することも可能である。
【0031】
さらに、
図1(b)に示したように、互いに異なる面積を持ち、シャフト35の一端に対し着脱自在に構成された2以上のパッド31L,31S(図ではパッドは2種類であるが、3種類以上であってもよい)をタッピング機構30が備えることにより、使用者の用途や好みに応じてパッド31の面積を変更でき、変化に富んだタッピングが可能となる。例えば、31Lのようにパッド面の広いものは、強さが分散してやわらかく感じ、31Sのようにパッド面の狭いものは、強さが集中して硬く感じる。
【0032】
さらに、1台の美肌装置に備えるタッピング機構30の数は1つに限定されるものではなく、タッピング機構30を2つ以上備え、肌接触面34を接触させた肌を各タッピング機構30でそれぞれ叩くようにしても良い。このことにより、肌の2箇所以上に対して同時並行でタッピングを行うことができ、スキンケアの効率を向上することができる。
【0033】
さらに、以上の説明では、
図6(a)のように、シャフト35の両側に固定部材38と案内ピン40を配し、線材37を巻き取ってシャフト35下部の案内ピン41を引き上げていたが、この他にも
図6(b)のように、シャフト35下端に固定部材38を配して線材37で引き上げてもよい。
図6(a)の場合、線材37を2cm巻き取ればシャフト35が1cm引き上がるので強いタッピングが可能になり、
図6(b)の場合、線材37を1cm巻き取ればシャフト35が1cm引き上がるので速いタッピングが可能になる。
【0034】
図7,8の実施の態様2では、
図2の案内ピン40に相当する定滑車40A、40Bをシャフト35の左右に並べ、さらに第三の定滑車40Cを巻き取り軸39Aの隣に配した構成である。線材37は、一端を巻き取り軸39Aに固定し、他端をフレーム32に止着する。
この場合のシャフト35は
図7,8の(b)に示すように、その基端に直交する基部35Aの左右両端に支脚部35Bを設け、これに付勢部材36を取付ける。図中、32Aはフレーム32に一体の係止部であり、付勢部材36の一端を係止している。左右の支脚部35Bはフレームの係止部32Aを摺動自在に貫通し、シャフト35の直線往復運動を確保している。
アクチュエータ39を駆動して、巻き取り軸39Aにより線材37を巻き上げると、線材37が緊張しその張力で案内ピン41を介してシャフト35を前進する。これによりパッド31はヘッド20の肌接触面34より外に突き出て肌を叩く。
このとき付勢部材36は
図8(b)のように圧縮され、アクチュエータ39が停止したとき、貯えられた反発力でシャフト35を原位置に後退し、シャフト35がピストン運動を行う。
この実施の態様2によれば、シャフト35の左右に定滑車40A、40Bを配置し、また第三の定滑車40Cを巻き取り軸39Aの隣に配置する構成なので、作動音が静かであるという効果に加えて、アクチュエータ39をシャフト35の下方に設置して、タッピング機構をいっそう小型化できるという効果を奏する。
【0035】
図9はパッド31の表面を凹曲面状の吸盤に形成した例で、肌を押したり引っ張ったりできる。
その作用を
図10で説明すると、はじめにパッド31が肌を押して凹曲面形状を平面に近い形状に変形し(a)、パッドを肌Sに密着した状態にする(b)。次にパッド31が後退して密着した肌Sをそのまま引っ張る(c)。これを繰り返すことで肌の血行をよくすることができる。
なお
図9の34Aはヘッド20の肌接触面34の形成した凹みで、これより指先を入れるとパッド31を簡単に摘んで交換できる。
【符号の説明】
【0036】
10 ハンドル
11A イオン導入用電極(肌接触用)
11B イオン導入用電極(手のひら接触用)
12 操作部
13 表示部
20 ヘッド
30 タッピング機構
31,31L,31S パッド
32 フレーム
33 空間
34 肌接触面
35 シャフト
36 付勢部材
37 線材
38 固定部材
39 アクチュエータ
39A 巻き取り軸
40,41 案内ピン
S 肌