特許第5832423号(P5832423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5832423
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月16日
(54)【発明の名称】ベアリングコンポーネント
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20151126BHJP
   C22C 38/24 20060101ALI20151126BHJP
   F16C 19/00 20060101ALI20151126BHJP
   F16C 19/02 20060101ALI20151126BHJP
   F16C 19/22 20060101ALI20151126BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20151126BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20151126BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20151126BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   C22C38/24
   F16C19/00
   F16C19/02
   F16C19/22
   F16C33/58
   F16C33/32
   F16C33/34
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-511785(P2012-511785)
(86)(22)【出願日】2010年5月20日
(65)【公表番号】特表2012-527534(P2012-527534A)
(43)【公表日】2012年11月8日
(86)【国際出願番号】SE2010000138
(87)【国際公開番号】WO2010134867
(87)【国際公開日】20101125
【審査請求日】2013年4月8日
(31)【優先権主張番号】0900683-4
(32)【優先日】2009年5月20日
(33)【優先権主張国】SE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508282993
【氏名又は名称】アクティエボラゲット・エスコーエッフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トーレ・ルンド
(72)【発明者】
【氏名】インゲマル・ストランデル
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−128418(JP,A)
【文献】 特開2005−023375(JP,A)
【文献】 特開2004−059994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 〜 38/60
F16C 19/00 〜 19/22
F16C 33/32 〜 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼を備えるベアリングコンポーネント(10)であって、前記鋼が、0.70〜1.20質量%の炭素、0.05〜1.5質量%のシリコン、0.15〜0.50質量%のマンガン、0.5〜2.5質量%のクロム、0.10〜1.5質量%のモリブデン、最大0.25質量%のバナジウム含有する組成を有し、前記鋼が、質量で10〜30ppmのCa、最大20ppmのS、及び最大15ppmのOを備えるとともに硫化物介在物を含有し、残部が鉄からなり、前記硫化物介在物の5%未満が酸化物介在物を含有し、前記酸化物介在物が内包されているか又は埋め込まれている形態であることを特徴とする、ベアリングコンポーネント(10)。
【請求項2】
前記鋼は、10〜30ppmのCa、最大20ppmのS、及び最大10ppmのOを備えることを特徴とする請求項1に記載のベアリングコンポーネント(10)。
【請求項3】
前記鋼は、10〜30ppmのCa、最大20ppmのS、及び最大8ppmのOを備えることを特徴とする請求項1に記載のベアリングコンポーネント(10)。
【請求項4】
ボールベアリング、ローラーベアリング、ボールスラストベアリング、ローラースラストベアリング、先細ローラースラストベアリング、ボールねじ、又は、転がり接触若しくは組み合わされた転がりと滑りのような交互のヘルツ応力にかけられる用途用のコンポーネントのうちの1つの少なくとも一部分を構成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のベアリングコンポーネント(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベアリングコンポーネント、すなわち、ボールベアリング、ローラーベアリング、ボールスラストベアリング、ローラースラストベアリング、先細ローラースラストベアリング、ボールねじ、又は、転がり接触若しくは転がりと滑りとの組み合わせのような、交互のヘルツ応力にさらされる用途用の部品のうちの少なくとも一部分を構成する部品に関する。
【背景技術】
【0002】
厳しい要求が、ベアリング用鋼の品質、特にその非金属介在物の含有量に関する品質に対して確立されてきた。ベアリングコンポーネントは、接触疲労、すなわち、転がり接触又は転がりとすべりとの組み合わせのような交互のヘルツ応力にさらされた表面の割れ及びそれに続くピット生成をこうむる場合があり、所定の硫化物介在物のような非金属介在物が、割れの成長及び破砕をもたらす場合のある表面下の損傷を引き起こすことが見出された。さらに、ベアリング鋼における硫化物は、細長形状を有するので指向性となる傾向があり、よって鋼を異方性にする。
【0003】
しかし、これら硫化物に関する問題を回避するためにベアリング鋼のイオウ含有量をできる限りゼロに近づくまで減少させることは、溶融物中のマグネシウム及びカルシウムをアルミン酸塩の形態の酸化物介在物に進入させ、結果として望ましくない化合物アルミン酸塩介在物を形成さするので、有利ではない。純粋なアルミン酸塩は硬くかつ脆く、転がりの間に壊れ、従って高度の成形変形を伴うベアリングコンポーネントの製造に実質的な問題を引き起こす。しかし、化合物アルミン酸塩は硬い場合があるが脆くはなく、よって転がりの間に損なわれることが無く、したがって最終的なベアリングコンポーネントの中に組み込まれる。化合物アルミン酸塩介在物が、大きな負荷にさらされるベアリングコンポーネントの領域に位置するようになると、そこが疲労破壊を開始させる。
【0004】
特許文献1は、全ての方向において大きな負荷にさらされる物体に使用するための、不純物がゼロに限りなく近い鋼に関している。そこに開示されている鋼は、重量で8ppm〜12ppmのイオウを備えている。8ppm以上のイオウ含有量は、スラグからのカルシウムの解放に対して逆に作用し、よって球形状の酸化物介在物を形成し、12ppm未満のイオウ含有量は、鋳造物中の危険な硫化物の富化を減少させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願第1094124号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、改良された疲労特性を有するベアリングコンポーネントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、重量で10〜30ppmのCa、最大で20ppmのイオウ、及び最大で15ppmのOを備える鋼を備えるベアリングコンポーネントによって達成される。好ましくは、この鋼は、10〜30ppmのCa、最大で20ppmのS、及び最大で8ppmのOを備え、又は最も好ましくは10〜30ppmのCa、最大で20ppmのS、及び最大で10ppmのOを備える。
【0008】
従来のベアリング鋼においては、通常、イオウ含有量が酸素含有量より高いゆえに、優勢な介在物のタイプは硫化物である。極めて多数の硫化物介在物が、多くはこれら硫化物介在物の端部に、埋め込まれた又は封止された酸化物介在物を含有している。これら埋め込まれた又は封止された酸化物介在物がマトリックスコンタクト(matrix contact)を有する場合には、これら酸化‐硫化物はクラック開始剤として作用する場合がある。ベアリングコンポーネントの寿命は、酸素含有介在物によって最も不利に影響を受け、また、埋め込まれた又は封止された酸化物介在物を含有する硫化物介在物によっても不利に影響を受ける。
【0009】
イオウ含有量を酸素含有量と実質的に同じ程度のレベルまで減少させた後の、軸受け鋼(すなわち、ベアリングコンポーネントにおける使用に好適な鋼)へのカルシウムの添加は、鋼中に残存している硫化物介在物の合計数を減少させ、残留する介在物の形状を、最終的なベアリングコンポーネントの機械的特性に対する有害度が少ない形状に変える。すなわち、軸受け鋼へのカルシウムの添加が、埋め込まれた又は封止された酸化物介在物を含有する硫化物介在物を結果的に5%未満にすることが見出された。また、カルシウムの添加によって、全ての硫化物介在物は3:1未満のアスペクト比(すなわち、介在物の最大径に対する最小径の比)を有し、硫化物介在物の最大長さを、ASTM E2283−03 Extreme Value Analysis Standardを使用して測定した3に等しいReduced Variateにおいて125μmにする。このような硫化物介在物は、軸受け鋼の疲労特性に関して損傷性が小さい。さらに、3:1より大きいアスペクト比を有するとともに最大長さが125μmである硫化物介在物が無いことによって、鋼は全ての方向に均一な特性を有し、よって鋼における異方性が減少する。
【0010】
本発明の1つの実施形態によれば、ベアリングコンポーネントは、0.70〜1.20質量%のCを含有する鋼を備えている。この鋼は、例えばISO 683−17, ASTM 1−295−98のようなASTM A295/A295M−09の鋼、又は高炭素濃度の無心焼入れ鋼とすることができ、このような鋼は、転がり接触又は転がりと滑りとの組み合わせのような交互のヘルツ応力にかけられる用途に好適である。
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、ベアリングコンポーネントは、ボールベアリング、ローラーベアリング、ボールスラストベアリング、ローラースラストベアリング、先細ローラースラストベアリング、ボールねじ、又は、転がり接触若しくは転がりと滑りとの組み合わせの交互のヘルツ応力にさらされる用途、例えばローラーベアリング用途、直線運動用途、ギアボックス用途、又はトルクトランスミッション用途の部品のうちの1つの少なくとも一部を構成する。
【0012】
本発明は、以下に限定されるわけではない例示の方法で添付の図面を参照しつつ、さらに説明される。
【0013】
図面が縮尺どおりに記載されているのではなく、所定の特徴が明瞭な記載のために拡大されていることに注意されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の1つの実施形態によるベアリングコンポーネントを示す図である。
図2】標準的な鋼中の、封止された、又は埋め込まれた酸化物介在物を含んだ硫化物介在物の百分率を示す図である。
図3】本発明によるベアリングコンポーネントの鋼中の、封止された、又は埋め込まれた酸化物介在物を含んだ硫化物介在物の百分率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ベアリングコンポーネント10の例、すなわち、直径10mm〜数mとすることができ、数十グラム〜数千トンの荷重担持能力を有するボールベアリングを図示している。本発明に係るベアリングコンポーネントは、どのような大きさにすることも、どのような荷重担持能力を有することもできる。ベアリングコンポーネント10は、内側軌道輪12、外側軌道輪14、及び1組のボール16を有している。ボールベアリング10の内側軌道輪12、外側軌道輪14、並びに/若しくはボール16、及び好ましくはボールベアリング10の全ての回転接触部品は、重量で10〜30ppmのCa、最大20ppmのS、最大15ppmのO、好ましくは10〜30ppmのCa、最大20ppmのS、最大8ppmのOを含有する鋼から製造される。この鋼に含まれる硫化物介在物の5%未満は、封止されているか又は埋め込まれている酸化物介在物を含んでいる。全ての硫化物介在物は3:1より小さいアスペクト比を有し、硫化物介在物の最大長さは、(ASTM E2283−03 Extreme Value Analysisを使用して測定された)3に等しいReduced Variateにおいて125μmである。
【0016】
ボールベアリング10の少なくとも一部分がそれから製造される鋼は、例えば、0.70〜1.20質量%の炭素を含有することができる。例えば、鋼は以下の組成を有することができる。
0.70〜0.95質量%の炭素
0.05〜1.5質量%のシリコン
0.15〜0.50質量%のマンガン
0.5〜2.5質量%のクロム
0.10〜1.5質量%のモリブデン
最大0.25質量%のバナジウム
残部は、鉄、及び10〜30ppmのCa、最大20ppmのS、最大15ppmのO、好ましくは最大10ppmのO、最も好ましくは最大8ppmのOを含有する通常生じる不純物。
【0017】
図2及び3は、標準的な鋼及び本発明によるベアリングの鋼それぞれ中の、封入されたか又は埋め込まれた酸化物介在物を含有する硫化物介在物のパーセントを示している。本発明によるベアリングコンポーネントの鋼の硫化物介在物の約1%のみが、封入されたか、又は埋め込まれた酸化物介在物を含有していることが理解できる。反対に、標準的な鋼においては、鋼の硫化物介在物の約80%が、封入されているか、又は埋め込まれた酸化物介在物を含有している。本発明によるベアリングコンポーネントの鋼の(950MPaにおける回転ビームテストにおいて測定された)疲労強度は、標準的な鋼の疲労強度より実質的に高いことがわかった。
【符号の説明】
【0018】
10・・・ベアリングコンポーネント
12・・・内側軌道輪
14・・・外側軌道輪
16・・・ボール
図1
図2
図3