(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腎臓病の診断用マーカーとして用いられる物質の名称及びそれらの構造式を、以下の化1〜5に示す。本発明の腎臓病の診断用マーカーは、化1〜5に示される1つの物質又は2つの物質の組合せを含む。
【0019】
2つの物質の組合せからなる腎臓病の診断用マーカーとしては、以下の組合せ1〜4に示す物質の組合せが挙げられる。なお、これらの組合せ1〜4を、それぞれ表1〜4でより具体的に示す。すなわち、本発明の2つの物質の組合せからなる腎臓病の診断用マーカーは、各表に示す物質Aと物質Bとの組合せから選択される。
【0020】
(組合せ1)
トリメチルグリシン(TMG)である物質Aと、グリコール酸、N
5-[(ジメチルアミノ)イミノメチル]-オルニチン(ADMA)、グアニジノ酢酸、4-グアニジノ酪酸、N
6-アセチルリシン、N
1-アセチルヒスチジン及びヒスチジンから選択されるいずれか1つである物質Bとの組合せ。
【0022】
(組合せ2)
グリコール酸である物質Aと、ADMA、シチジン、バリン、キヌレニン、2−オキソグルタル酸、グリコシアミジン及びコリンから選択されるいずれか1つである物質Bとの組合せ。
【0024】
(組合せ3)
シスチンである物質Aと、N
1-アセチルヒスチジン、ヒスチジン、グリシン、トリプトファン及びメチオニンから選択されるいずれか1つである物質Bとの組合せ。
【0026】
(組合せ4)
トリプトファンである物質Aとオルニチンである物質Bとの組合せ。
【0028】
本発明において、腎臓病は、腎臓の各組織における病変に起因して生じる疾患であれば、特に制限されない。腎臓病としては、例えば糖尿病性腎症、糸球体腎炎及び尿細管・間質性腎炎などが挙げられる。
本発明の腎臓病の診断用マーカーは、上記の腎臓病の中でも、糖尿病に伴って発症する糖尿病性腎症の診断用マーカーとして好適に用いることができる。
【0029】
本発明の腎臓病の診断用マーカーを用いることによって、腎臓病の診断を行うことが可能である。そのような診断の方法は、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び/又は血漿に含まれる上記の腎臓病の診断用マーカーを測定して行われるものであれば、特に制限されない。例えば、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び/又は血漿中の上記の腎臓病の診断用マーカーの濃度を測定し、得られた測定結果に基づいて腎臓病の診断を行うことができる。なお、腎臓病の診断としては、腎臓病の確定診断及び腎臓病のスクリーニング検査、並びに腎臓病の治療効果の評価などが挙げられ、特に腎臓病のスクリーニング検査が好ましい。
【0030】
上記の被験者から採取される尿は、該被験者の体調、食事及び服薬の有無、採取時期などによって特に限定されないが、好ましくは早朝尿(第1尿)である。上記の被験者から採取される血漿も、該被験者の体調、食事及び服薬の有無、採取時期などによって特に限定されず、該被験者から採取した血液から得られる血漿であればよい。
【0031】
本発明のマーカーを用いる腎臓病の診断方法の具体例を以下に示す。
【0032】
以下の実施形態1及び実施形態2は、1つの物質からなる腎臓病の診断用マーカーを用いる場合の腎臓病の診断方法である。
(実施形態1)
(1)腎臓病が疑われる被験者から採取された尿又は血漿に含まれるマーカーの濃度を測定する;
(2)測定されたマーカーの濃度の値と、閾値とを比較する;
(3)比較結果に基づいて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定する。
【0033】
(実施形態2)
(1)腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び血漿に含まれるマーカーの濃度を測定する;
(2)測定された該マーカーの尿中の濃度と血漿中の濃度との比に関する値を取得する;
(3)取得した該マーカーの尿中の濃度と血漿中の濃度との比に関する値と、閾値とを比較する;
(4)比較結果に基づいて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定する。
【0034】
実施形態2において、マーカーの尿中の濃度と血漿中の濃度との比に関する値としては、「血漿中の濃度/尿中の濃度」及び「尿中の濃度/血漿中の濃度」の値が挙げられる。
【0035】
上記の実施形態1及び実施形態2に用いる腎臓病の診断用マーカーとしては、グリコール酸、ADMA及び5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸のいずれかが好適である。
【0036】
以下の実施形態3は、2つの物質の組合せからなる腎臓病の診断用マーカーを用いる場合の腎臓病の診断方法である。
(実施形態3)
(1)腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び/又は血漿に含まれる2つの物質の各濃度を測定する;
(2)測定された該2つの物質の濃度の比に関する値を取得する;
(3)取得した該2つの物質の濃度の比に関する値と、閾値とを比較する;
(4)比較結果に基づいて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定する。
【0037】
実施形態3において、2つの物質の濃度の比に関する値としては、マーカーを構成する2つの物質をそれぞれ物質A及び物質Bとする場合、「A(血漿中)/B(血漿中)」、「A(血漿中)/B(尿中)」、「A(尿中)/B(血漿中)」、「A(尿中)/B(尿中)」、「B(血漿中)/A(血漿中)」、「B(血漿中)/A(尿中)」、「B(尿中)/A(血漿中)」及び「B(尿中)/A(尿中)」の値が挙げられる。
なお、「A(血漿中)」及び「A(尿中)」は、それぞれ血漿中及び尿中の物質Aの濃度を示し、「B(血漿中)」及び「B(尿中)」は、それぞれ血漿中及び尿中の物質Bの濃度を示す。
【0038】
実施形態3に用いる腎臓病の診断用マーカーとしては、上記の組合せ1〜4から選択されるマーカーが好適である。
【0039】
なお、上記の閾値は、例えば次のようにして設定できる。まず、従来技術により腎臓病でないことが予め確認されている者(すなわち、健常者)から尿及び/又は血漿を採取する。次いで、これらについて、本発明の腎臓病の診断用マーカーの濃度を測定し、さらに該濃度の値及び濃度の比に関する値を取得する。そして、得られた結果を所定の閾値として設定する。このようにして設定された閾値により、本発明の腎臓病の診断用マーカーを用いて診断される被験者が、健常であるか、又は腎臓病であるかの判定を可能にする。
また、上記の閾値は、健常者から採取した尿及び/又は血漿に代えて、糖尿病性腎症第1又は第2期の患者からの尿及び/又は血漿を用いて設定することもできる。この場合、その閾値により、本発明の腎臓病の診断用マーカーを用いて診断される被験者が、糖尿病性腎症第1又は第2期であるか、或いはより重症の腎臓病であるかの判定を可能にする。
なお、閾値の設定において、検体を採取される健常者及び/又は糖尿病性腎症第1又は第2期の患者の人数は、複数であることが好ましい。
【0040】
上記の腎臓病の診断用マーカーの尿中及び血漿中の濃度の測定方法は特に制限されず、各マーカーが有する物質としての物理的又は化学的性質に応じて、適宜選択できる。
例えば、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿又は血漿から測定されるべきサンプルを調製する。次に、該サンプルに含まれるマーカーを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、キャピラリー電気泳動(CE)などで分離する。そして、分離したマーカーを、UV検出法、蛍光検出法、質量分析法(MS)などによる測定系に付すことによって、尿中又は血漿中のマーカーの濃度を測定できる。
或いは、該被験者から採取された尿又は血漿に含まれるマーカーと、該マーカーを基質とする酵素とを接触させて、酵素反応により生じた物質を、酸化還元電極法、比色法などによる測定系に付すことによって、尿中又は血漿中のマーカーの濃度を測定できる。
【0041】
ここで、腎臓病の各病態における本発明の腎臓病の診断用マーカーの濃度又は濃度の比の変動パターンを、
図1に例示する。なお、この図において、「健常」とは健常者を示し、「糖尿」とは糖尿病性腎症第1期(腎症前期)の患者を示し、「早期」とは糖尿病性腎症第2期(早期腎症期)の患者を示し、「顕性」とは糖尿病性腎症第3及び第4期(顕性腎症期)の患者を示す。
【0042】
図1a)は、「健常」から「顕性」まで腎臓病の段階が進行するにしたがって、マーカーの濃度又は濃度の比が増加する傾向にある変動パターンである。
図1b)は、「健常」から「早期」までマーカーの濃度又は濃度の比が増加傾向を示すが、「早期」から「顕性」まではほぼ一定である変動パターンである。
図1c)は、「健常」から「顕性」まで腎臓病の段階が進行するにしたがって、マーカーの濃度又は濃度の比が減少する傾向にある変動パターンである。
図1d)は、「健常」から「早期」までマーカーの濃度又は濃度の比が減少傾向を示すが、「早期」から「顕性」まではほぼ一定である変動パターンである。
このように、本発明の腎臓病の診断用マーカーの濃度又は濃度の比は、「健常」から「早期」にかけて、増加又は減少する変動パターンを示す。そのため、閾値として、「早期」を判別できる、腎臓病の診断用マーカーの濃度又は濃度の比を設定することで、腎臓病の診断を行うことができる。
【0043】
腎臓病の診断用マーカーとしてグリコール酸を用いて診断を行なう場合、診断方法としては尿中の濃度を用いる「実施形態1」が好ましい。この場合、尿中のグリコール酸の濃度は、
図1c)のように「健常」から「早期」にかけて減少する変動パターンを示す。
したがって、被験者から採取された尿に含まれるグリコール酸の濃度の値が、所定の閾値より低い場合、該被験者が腎臓病であると診断できる。
【0044】
腎臓病の診断用マーカーとして5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸を用いて診断を行なう場合、診断方法としては尿中の濃度を用いる「実施形態1」が好ましい。この場合、尿中の5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸の濃度は、
図1c)のように「健常」から「早期」にかけて減少する変動パターンを示す。
したがって、被験者から採取された尿に含まれる5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸の濃度の値が、所定の閾値より低い場合、該被験者が腎臓病であると診断できる。
【0045】
腎臓病の診断用マーカーとしてN
5-[(ジメチルアミノ)イミノメチル]-オルニチン(ADMA)を用いて診断を行なう場合、診断方法としては尿中の濃度を用いる「実施形態1」及び尿中及び血漿中の濃度を用いる「実施形態2」が好ましい。
実施形態1の場合、尿中のADMAの濃度は、
図1c)のように「健常」から「早期」にかけて減少する変動パターンを示す。
したがって、被験者から採取された尿に含まれるADMAの濃度の値が、所定の閾値より低い場合に、該被験者が腎臓病であると判定することができる。
また、実施形態2の場合、ADMAの血漿中の濃度/尿中の濃度の値は、
図1a)のように「健常」から「早期」にかけて増加する変動パターンを示す。
したがって、ADMAの血漿中の濃度/尿中の濃度の値が、所定の閾値より高い場合に、該被験者が腎臓病であると判定することができる。
【0046】
上記の「組合せ1」に示される腎臓病の診断用マーカーを用いて「実施形態3」により診断を行なう場合、2つの物質の濃度の比は、好ましくは尿中のトリメチルグリシンの濃度と、尿中の表1に記載される物質Bの濃度との比である。
【0047】
上記の「組合せ2」に示される腎臓病の診断用マーカーを用いて「実施形態3」により診断を行なう場合、2つの物質の濃度の比に関する値は、好ましくは尿中のグリコール酸の濃度と、血漿中又は尿中の表2に記載される物質Bの濃度との比の値である。
特に、物質BがADMA、キヌレニン、2-オキソグルタル酸又はコリンである場合、2つの物質の濃度の比に関する値は、より好ましくは尿中のグリコール酸の濃度と、血漿中の該物質Bの濃度との比の値である。また、物質Bがバリン、シチジン又はグリコシアミジンである場合、2つのマーカーの濃度の比に関する値は、より好ましくは尿中のグリコール酸の濃度と、尿中の該物質Bの濃度との比の値である。
【0048】
上記の「組合せ3」に示される腎臓病の診断用マーカーを用いて「実施形態3」により診断を行なう場合、2つの物質の濃度の比に関する値は、好ましくは尿中のシスチンの濃度と、尿中の表3に記載される物質Bの濃度との比の値である。
【0049】
上記の「組合せ4」に示される腎臓病の診断用マーカーを用いて「実施形態3」により診断を行なう場合、2つの物質の濃度の比に関する値は、好ましくは血漿中のトリプトファンの濃度と、血漿中のオルニチンの濃度との比の値である。
【0050】
本発明のコンピュータプログラムについて、以下に説明する。
【0051】
本発明のコンピュータプログラムは、上記の本発明の腎臓病の診断用マーカーを用いる診断方法、好ましくは上記の実施形態1〜3の腎臓病の診断方法をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムである。
本発明のコンピュータプログラムは、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び/又は血漿に含まれる、本発明の腎臓病の診断用マーカーの濃度を取得するステップ(以下、「取得ステップ」ともいう);
取得された濃度に基づいて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定するステップ(以下、「判定ステップ」ともいう);及び
判定結果を出力するステップ;
をコンピュータに実行させることができる。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、コンピュータプログラムは、コンピュータに、取得ステップにより取得されたマーカーの濃度の値と、閾値とを比較するステップをさらに実行させる。この実施形態では、取得ステップを、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿又は血漿に含まれる、グリコール酸、N
5-[(ジメチルアミノ)イミノメチル]-オルニチン及び5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸から選択される少なくとも1つのマーカーの濃度の値を取得するステップとし、判定ステップを、比較ステップにより得られた比較結果に基づいて、被験者が腎臓病であるか否かを判定するステップとする。これにより、本発明のコンピュータプログラムは、上記の実施形態1の診断方法をコンピュータに実現させることができる。
【0053】
本発明の別の好ましい実施形態において、コンピュータプログラムは、コンピュータに、取得ステップにより取得された尿中及び血漿中のマーカーの濃度の値から、該マーカーの尿中の濃度と血漿中の濃度との比に関する値を算出するステップ;及び算出された該マーカーの尿中の濃度と血漿中の濃度の比に関する値と、閾値とを比較するステップをさらに実行させる。この実施形態では、取得ステップを、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び血漿に含まれる、グリコール酸、N
5-[(ジメチルアミノ)イミノメチル]-オルニチン及び5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸から選択される少なくとも1つ物質の濃度の値を取得するステップとし、判定ステップを、比較ステップにより得られた比較結果に基づいて、被験者が腎臓病であるか否かを判定するステップとする。これにより、本発明のコンピュータプログラムは、上記の実施形態2の診断方法をコンピュータに実現させることができる。
【0054】
本発明の別の好ましい実施形態において、コンピュータプログラムは、コンピュータに、取得ステップにより取得された尿中及び/又は血漿中の2つの物質の組合せからなる腎臓病の診断用マーカーの一方の物質の濃度と他方の物質の濃度とから、2つの物質の濃度の比に関する値を算出する算出ステップ;及び算出された2つの物質の濃度の比に関する値と、閾値とを比較する比較ステップをさらに実行させる。この実施形態では、取得ステップを、腎臓病が疑われる被験者から採取された尿及び血漿に含まれる、2つの物質の組合せからなる腎臓病の診断用マーカーから選択される少なくとも1つのマーカーの物質の濃度の値を取得するステップとし、判定ステップを、比較ステップにより得られた比較結果に基づいて、被験者が腎臓病であるか否かを判定するステップとする。これにより、本発明のコンピュータプログラムは、上記の実施形態3の診断方法をコンピュータに実現させることができる。
なお、より好ましい実施形態においては、上記の尿中及び/又は血漿中の2つの物質の組合せは、トリメチルグリシンと、N
5-[(ジメチルアミノ)イミノメチル]-オルニチン又はグアニジノ酢酸との組合せである。
【0055】
本発明の範囲には、上記のコンピュータプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も含まれる。
【0056】
そのような本発明のコンピュータプログラムが作動するコンピュータのシステムの一例を、
図28に示す。
【0057】
コンピュータ100は、本体110と、表示部120と、入力デバイス130とから主として構成される。本体110において、CPU110aと、ROM110bと、RAM110cと、ハードディスク110dと、読出装置110eと、入出力インターフェース110fと、画像出力インターフェース110gとは、バス110hによって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0058】
CPU110aは、ROM110bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。ROM110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成され、CPU110aにより実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
RAM110cは、SRAM又はDRAMなどによって構成される。RAM110cは、ROM110b及びハードディスク110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM110cは、CPU110aがこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。
【0059】
ハードディスク110dには、オペレーティングシステム及びアプリケーションシステムプログラムなどの、CPU110aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。後述する実施形態1〜3の腎臓病の診断方法をコンピュータ100に実現させるためのコンピュータプログラム140a及び上記の実施形態1〜3で用いられる閾値も、ハードディスク110dにインストールされている。
【0060】
読出装置110eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ又はDVD−ROMドライブなどによって構成され、可搬型記憶媒体140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。
可搬型記憶媒体140は、フレキシブルディスク、CD−ROM又はDVD−ROMなどの当該技術においてそれ自体公知の記憶媒体である。可搬型記憶媒体140には、被験者が腎臓病であるか否かのコンピュータによる判定に係るコンピュータプログラム140aが、コンピュータに読み取り可能に記録されている。CPU110aは、可搬型記憶媒体140からコンピュータプログラム140aを読み出し、これをハードディスク110dにインストールすることも可能である。
【0061】
ハードディスク110dには、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインターフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。
以下の説明において、腎臓病の判定に係るコンピュータプログラム140aは、該オペレーティングシステム上で動作するものとする。
【0062】
入出力インターフェース110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェースなどから構成される。入出力インターフェース110fには、キーボード及びマウスからなる入力デバイス130が接続されている。そのため、ユーザーが該入力デバイス130を使用することにより、コンピュータ本体110に被験者から採取された尿及び血漿に含まれる腎臓病の診断マーカーの濃度のデータを入力できる。また、入出力インターフェース110fに、被験者から採取された尿及び血漿に含まれる腎臓病の診断マーカーの濃度の測定が可能な測定装置200を接続することもできる。この場合、測定装置200から、コンピュータ本体110に、腎臓病の診断マーカーの濃度のデータを入力できる。
【0063】
画像出力インターフェース110hは、LCD又はCRTなどで構成される表示部120に接続されており、CPU110aから与えられる画像データに応じて映像信号を表示部120に出力する。表示部120は、入力された映像信号にしたがって、画像データを出力する。また、表示部120は、後述するCPU110aから与えられた判定結果を出力する。
【0064】
以下に、本発明のコンピュータプログラムに従ってコンピュータが実行する処理手順について、図面を用いて詳細に説明する。
図29は、上記の実施形態1の腎臓病の診断方法をコンピュータ100に実現させる場合に、CPU110aによって実行されるフローチャートを示す図である。
【0065】
CPU110aは、被験者から採取された尿に含まれるグリコール酸の濃度の値が、ユーザーにより入力デバイス130を介して入力されると、入出力インターフェース110fを介してグリコール酸の濃度の値をRAM110c及びハードディスク110dに記憶させる(ステップS11)。
【0066】
CPU110aは、ハードディスク110dに予め記憶させていた閾値(=28.4)を呼び出して、グリコール酸の濃度の値と比較する(ステップS12)。
【0067】
CPU110aは、グリコール酸の濃度の値が閾値よりも低ければ、該被験者が腎臓病であると判定する(ステップS13)。また、CPU110aは、グリコール酸の濃度の値が閾値以上であれば、該被験者が腎臓病ではないと判定する(ステップS14)。
【0068】
CPU110aは、上記の判定結果を、ハードディスク110dに記憶させるとともに、画像出力インターフェース110gを介して表示部120に出力する(ステップS15)。
【0069】
ここで、
図29に示される実施形態1では、上記のとおり、腎臓病の診断マーカーとしてグリコール酸を用いたが、これに限られない。例えば、腎臓病の診断マーカーとして、5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸及び/又はADMAを用いることもできる。
【0070】
図30は、上記の実施形態2の腎臓病の診断方法をコンピュータ100に実現させる場合に、CPU110aによって実行されるフローチャートを示す図である。
【0071】
CPU110aは、被験者から採取された尿及び血漿に含まれるADMAの濃度の値が、ユーザーにより入力デバイス130を介して入力されると、ADMAの濃度の値をRAM110c及びハードディスク110dに記憶させる(ステップS21)。
【0072】
CPU110aは、RAM110cに記憶させた尿及び血漿に含まれるADMAの濃度の値を読み出し、ADMAの「血漿中の濃度/尿中の濃度」の値を算出し(ステップS22)、RAM110cに記憶させる。
【0073】
CPU110aは、ハードディスク110dに予め記憶させていた閾値(=0.094)を呼び出して、ADMAの「血漿中の濃度/尿中の濃度」の値と比較する(ステップS23)。
【0074】
CPU110aは、ADMAの「血漿中の濃度/尿中の濃度」の値が閾値よりも高ければ、該被験者が腎臓病であると判定する(ステップS24)。また、CPU110aは、ADMAの「血漿中の濃度/尿中の濃度」の値が閾値以下であれば、該被験者が腎臓病ではないと判定する(ステップS25)。
【0075】
CPU110aは、上記の判定結果を、ハードディスク110dに記憶させるとともに、画像出力インターフェース110gを介して表示部120に出力する(ステップS26)。
【0076】
図31は、上記の実施形態3の腎臓病の診断方法をコンピュータ100に実現させる場合に、CPU110aによって実行されるフローチャートを示す図である。
【0077】
CPU110aは、被験者から採取された尿に含まれる、TMGの濃度の値及びグリコール酸の濃度の値が、ユーザーにより入力デバイス130を介して入力されると、入出力インターフェース110fを介してこれらの濃度の値をRAM110c及びハードディスク110dに記憶させる(ステップS31)。
【0078】
CPU110aは、尿中のTMGの濃度の値及びグリコール酸の濃度の値から、「尿中のTMGの濃度/尿中のグリコール酸の濃度」の値を算出する(ステップS32)。
【0079】
CPU110aは、ハードディスク110dに予め記憶させていた閾値(=0.64)を呼び出して、算出した「尿中のTMGの濃度/尿中のグリコール酸の濃度」の値と比較する(ステップS33)。
【0080】
CPU110aは、「尿中のTMGの濃度/尿中のグリコール酸の濃度」の値が閾値よりも高ければ、該被験者が腎臓病であると判定する(ステップS34)。また、CPU110aは、「尿中のTMGの濃度/尿中のグリコール酸の濃度」の値が閾値以下であれば、該被験者が腎臓病ではないと判定する(ステップS35)。
【0081】
CPU110aは、上記の判定結果を、ハードディスク110dに記憶させるとともに、画像出力インターフェース110gを介して表示部120に出力する(ステップS36)。
【0082】
ここで、
図31に示される実施形態3では、上記のとおり、腎臓病の診断マーカーとしてTMGとグリコール酸との組合せを用いたが、これに限られない。すなわち、腎臓病の診断マーカーとして、表1〜4に示される組合せ1〜4の腎臓病の診断マーカーを用いることができる。また、濃度の比に関する値として、TMGとグリコール酸との尿中比率(「尿中のTMGの濃度/尿中のグリコール酸の濃度」の値)を用いたが、これに限られない。濃度の比に関する値は、腎臓病の診断マーカーとして使用する物質の組合せにより適宜設定できる。より具体的には、使用する腎臓病の診断マーカーに応じて、後述する実施例2の表7〜10に示される濃度の比に関する値を設定できる。
【0083】
なお、マーカーの濃度はユーザーにより入力デバイス130を介して入力されたが、これに限定されない。例えば、入出力インターフェース110fを介して接続された測定装置200からマーカーの濃度を入力しても良い。また、測定装置200で測定されたマーカーの濃度を可搬型記憶媒体140に記憶させ、読出装置110eが可搬型記憶媒体140からマーカーの濃度を読み出すようにしてもよい。
【0084】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
以下のようにしてメタボローム解析を行った。
(1)サンプル
健常者20名と以下の患者群40名の計60名から同一日に採取した血漿及び早朝尿を検体として用いた。
患者群は、糖尿病患者19名、糖尿病性腎症第2期(早期腎症期)患者12名、糖尿病性腎症第3及び第4期(顕性腎症期)患者7名、並びに慢性腎臓病(CKD)患者2名であった。
なお、慢性腎臓病患者とは、非糖尿病性腎症の患者である。すなわち、慢性腎臓病患者から得られたデータを陽性対照とすることにより、本実施例で得られた結果が糖尿病に起因するものではないことが示される。
【0086】
(2)サンプルの調製
(2-1)血漿サンプル
内部標準物質としてL-メチオニンスルホン及びD-カンフル-10-スルホン酸の両方を終濃度10μMで含むメタノール溶液450μLに、血漿50μLを添加して撹拌した。これにクロロホルム500μLと蒸留水200μLを加えて攪拌し、遠心分離(2,300×g、4℃、5分)を行った。そして、水相を限外ろ過チューブ(ウルトラフリーMCPBCC遠心式フィルターユニット5kDa:MILLIPORE社製)に移し(200μL×2本分)、限外ろ過処理(9,100×g、4℃、120分)した。ろ液を乾固させ、これを蒸留水25μLに溶解して、血漿サンプルを得た。なお、後述する測定には2倍希釈したサンプルを用いた。
【0087】
(2-2)尿サンプル
尿20μLに、上記の内部標準物質を終濃度250μMで含む蒸留水80μLを加えて撹拌した後、これを限外ろ過チューブ(ウルトラフリーMCPBCC遠心式フィルターユニット5kDa:MILLIPORE社製)に移し取った。これを限外ろ過処理(9,100×g、4℃、60分)した。ろ液を乾固させ、これを蒸留水25μLに溶解して、尿サンプルを得た。なお、後述するカチオン測定及びアニオン測定には、それぞれ10倍希釈及び5倍希釈したサンプルを用いた。
【0088】
(3)CE-MSによる測定
装置として、Agilent CE−TOF/MS system(Agilent Technologies社)を用い、キャピラリーとして、Fused silica capillary i.d.50μm×80 cmを用いた。
また、測定条件は、以下のとおりである。
CE voltage:カチオン;27 kV、アニオン;30 kV
MS ionization:ESI Positive or Negative
MS capillary voltage:カチオン;4,000 V、アニオン;3,500 V
MS scan range:m/z 50〜1,000
Sample injection:カチオン;50 mbar、10秒、アニオン;50 mbar、25秒
【0089】
(4)物質の同定
各物質の同定は、以下の手順で行った。
CEにより物質群をイオン強度に伴って分離し(
図2参照)、連続してMS測定した(
図3参照)。各物質はCEの移動時間(分)(以下、MTと略称する場合がある)及び質量電荷比(m/z)(小数点以下第4位までの値;以下、m/zと略称する場合がある)の情報を取得した。そして、同定対象の物質の質量電荷比から、精密質量を求めた。また、同定対象の物質の精密質量に基づいて、推定の化学構造をもつ物質(標準物質)を探索し、標準物質のCE-MS測定を行った。
さらに、部分構造情報(プロダクトイオン)を得るために、標準物質のMS/MS測定を行った(
図4参照)。そして、同定対象の物質と標準物質とのMT、m/z及びMS/MSデータを照合した。それぞれのデータが一致した場合に、同定対象の物質が、標準物質と同一であると判定した。同定された各物質のMT値及びm/z値を、表5に示す。
【0090】
【表5】
(5)マーカー候補物質の選出基準
CE-MSにより得られた各サンプルの測定結果が、
図1に示すような腎臓病の各病態の濃度又は濃度の比の変動パターンを示す物質を、マーカー候補物質とした。
【0091】
(6)マーカー候補物質の選出結果
上記の(3)のCE-MSによる測定で得られたMSピークの数は、血漿サンプルでは700ピーク、尿サンプルでは902ピークであった。これらについて、血漿サンプルでは内部標準物質により補正し、尿サンプルでは内部標準物質及び尿クレアチニンにより補正した相対ピーク面積値を用いて、マーカー候補物質の選出を行った。結果を
図5〜7に示す。また、単独でマーカーとなり得る物質を表6に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
尿中のグリコール酸又は5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸の測定値は、
図1c)に示されるように「健常」から「早期」にかけて減少する変動パターンを示す。
したがって、被験者から採取された尿に含まれるグリコール酸又は5-オキソ-2-テトラヒドロフランカルボン酸の濃度の値を用いて、被験者が腎臓病であるか否かを判定できることが示された。
また、尿中と血漿中とのADMAの比率は、
図1a)に示されるような「健常」から「早期」にかけて増加する傾向を示す。
したがって、被験者から採取された尿及び血漿において血漿中の濃度/尿中の濃度の値を用いて、該被験者が腎臓病であるか否かをと判定できることが示された。
【0094】
実施例2
実施例1で同定された物質について、組み合わせによりマーカーとなり得る物質の選出を行った。健常者及び各症例の腎臓病患者における各物質の尿中及び血漿中の濃度の組み合わせについて検討した。
2つの物質の組合せにおいて、一方の物質の濃度の値を他方の物質の濃度の値で除して得た比率が、
図1に示すような腎臓病の各病態の濃度の比の変動パターンを示す組合せをマーカー候補の組合せとした。
得られた結果を
図8〜27に示す。また、2つの物質の組合せからなるマーカーの濃度の比に関する値と、腎臓病の各病態における濃度の比に関する値の変動パターンとの関係を、表7〜10に示す。
【0095】
【表7】
【0096】
表7に示される2つの物質(物質A及び物質B)の組合せにおいて、尿中のトリメチルグリシン(物質A)の濃度の値を、尿中の物質Bの濃度の値で除して得た値(A(尿中)/B(尿中))は、いずれも
図1a)又はb)に示されるような「健常」から「早期」にかけて増加する傾向を示す。
したがって、被験者から採取された尿において、表7に示される2つの物質のA(尿中)/B(尿中)の値を用いて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定できることが示された。
【0097】
【表8】
【0098】
表8に示される2つの物質の組合せにおいて、血漿中又は尿中の物質Bの濃度の値を、尿中のグリコール酸(物質A)の濃度の値で除して得た値(B(血漿中)/A(尿中)又はB(尿中)/A(尿中))は、いずれも
図1a)又はb)に示されるような「健常」から「早期」にかけて増加する傾向を示す。
したがって、被験者から採取された尿及び血漿において、表8に示される2つの物質のB(血漿中)/A(尿中)又はB(尿中)/A(尿中)の値を用いて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定できることが示された。
【0099】
【表9】
【0100】
表9に示される2つの物質の組合せにおいて、尿中のシスチン(物質A)の濃度の値を、尿中の物質Bの濃度の値で除して得た値(A(尿中)/B(尿中))は、いずれも
図1b)に示されるような「健常」から「早期」にかけて増加する傾向を示す。
したがって、被験者から採取された尿において、表9に示される2つの物質のA(尿中)/B(尿中)の値を用いて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定できることが示された。
【0101】
【表10】
【0102】
表10に示される2つの物質の組合せにおいて、血漿中のオルニチン(物質B)の濃度の値を、血漿中のトリプトファン(物質A)の濃度の値で除して得た値(B(血漿中)/A(血漿中))は、いずれも
図1a)に示されるような「健常」から「早期」にかけて増加する傾向を示す。
したがって、被験者から採取された尿において、表10に示される2つの物質のB(血漿中)/A(血漿中)の値を用いて、該被験者が腎臓病であるか否かを判定できることが示された。
【0103】
本出願は、2010年4月27日に出願された日本国特許出願特願2010−102374号に関し、これらの特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の全ては本明細書中に参照として組み込まれる。