(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
最上部に位置する接触処理室内にある液相の温度または最下部に位置する接触処理室内にある液相の温度の一方または両方を制御することによって、液相の粘度を制御する請求項1記載の縦型固液向流接触方法によるポリアリーレンサルファイド粒子の洗浄方法。
【背景技術】
【0003】
化学工業の分野において、固体と液体とを接触させて、固体の洗浄、精製、抽出、含浸、化学反応、溶解などの操作を行うために、各種の固液接触装置が用いられている。固液接触装置としては、固体粒子またはスラリー中の固体粒子と処理液とを、上昇流と下降流として、連続的に向流接触させる縦型固液向流接触装置が知られている。
【0004】
縦型固液向流接触装置は、固体粒子と液体との接触効率と処理能力が高いことから、他の固液接触装置に比べて、大量処理が可能であるという利点を有する。
【0005】
縦型固液向流接触装置の中で、攪拌翼を備える区画された室(以下、「攪拌室」という。)を複数備える連続多段攪拌室型の固液向流接触装置が知られている。
【0006】
例えば、特公昭54−12265号公報(特許文献1)には、抽出装置本体、各段間の段間仕切り、仕切攪拌翼、及び仕切攪拌軸を有する多段抽出装置を用いて、原料と溶剤とを向流接触させることが開示されている。国際公開第2005/33058号(特許文献2;米国特許出願公開第2007/0015935号及び欧州特許出願公開第1669343号対応)には、鉛直方向に複数個の攪拌翼を有する塔を用いて、向流接触操作を行うテレフタル酸の製造方法が記載されている。
【0007】
国際公開第2005/32736号(特許文献3;米国特許出願公開第2006/0254622号及び欧州特許出願公開第1669140号対応)には、縦型の洗浄槽の上部から固体粒子を供給して、洗浄槽内に固体粒子の高濃度帯域を形成し、複数個の攪拌翼で攪拌しながら、固体粒子を洗浄液の上昇流と向流接触させる、固体粒子の連続洗浄方法及び装置が記載されている。特表2008−513186号公報(特許文献4;国際公開第2006/030588号対応)には、連通口を有する仕切板により互いに区画され垂直方向に連設された複数の攪拌室を備え、各攪拌室には半径方向吐出型の攪拌翼と内側側壁に固着された一以上のバッフルとを設け、上部及び下部には固体入口と液体入口とを設けてなる縦型固液向流接触装置が提案されている。
【0008】
縦型固液向流接触装置においては、固液の接触処理を行うための区画された室(以下、「接触処理室」ということがある。)を複数設けることにより、固体粒子が、上方から下方に移動する間に、各々の接触処理室内において、固液の接触処理を十分行うようにしている。縦型固液向流接触装置は、処理能力が高く、しかも少量の固液接触量で均一かつ高効率の接触を実施し得ることが求められている。縦型固液向流接触装置において、固液の接触効率を高めるには、固体粒子と液体との間の接触界面を迅速に更新し続けることが必要である。
【0009】
そのために、従来の縦型固液向流接触装置では、攪拌翼により攪拌を行うことによって、接触処理室である攪拌室内において、固体粒子と液体との間の接触界面を迅速に更新して固液の接触処理を十分行うようにするとともに、複数の区画された室を、連通口を介して縦方向に連設して、各区画された室に攪拌翼を備えることによって、接触処理後の固体粒子を、重力により、連設する次の攪拌室に沈降移動させ、下方から流動してくる新しい液体との接触処理を行い、攪拌室内における接触処理を繰り返すようにしている。
【0010】
しかし、固体粒子と液体との間の接触効率は、まだ十分ではなかった。すなわち、接触処理室である攪拌室内において、固体粒子と液体との間の接触界面の更新速度が不均一となったり、各々の攪拌室内にある接触処理後の固体粒子が、新しい液体でなく、既に固体粒子との接触処理を行った液体と再度接触する逆混合が生じたり、ある接触処理室からその下方に連設される攪拌室への固体粒子の移動時間に不均一が生じたり、場合によっては、攪拌室内で接触処理された後の固体粒子が、液体の上昇流に随伴して連通口を通過し、上方に連設された攪拌室に逆流することもあった。
【0011】
極端な場合には、縦型固液向流接触装置の最上部にある水性洗浄液の表面に固体粒子が浮き上がり、該固体粒子が排液流路から流出してしまうこともあった。
【0012】
これらの現象が生じると、縦型固液向流接触装置としての接触処理効率が低下するばかりでなく、固体粒子毎に固液向流接触を受けた時間が異なることとなり、固液向流接触処理を受けて製品として回収される固体粒子の品質の均一性が失われる。すなわち、製品収率の低下及び製品収率の変動は、製造される固体粒子の粒径や粒径分布などの粉体特性、成形物を得るときの他の原料との混和安定性や溶融加工安定性、成形物の熱的及び機械的特性などの品質に直接的に大きな影響を及ぼすことが想定されることから、問題点の原因とその解決策について、鋭意検討が求められていた。
【0013】
このため、従来、攪拌翼の種類、形状、取り付け角度及び回転速度などを調整したり、接触処理室である攪拌室内に、内壁面に沿って垂直方向にバッフルを配置し、その位置や形状などを調整したり、垂直方向に連設された複数の攪拌室を区画する仕切板の連通口の形状、開口面積及び位置などを調整したりすることによって、すべての固体粒子を、均一な沈降速度で下降させることが試みられていたが、十分な効果を得ることができず、更なる改善が求められていた。
【0014】
本発明者らは、水性スラリー中の有機溶剤や洗浄液として用いる有機溶剤の種類や濃度が、固体粒子の沈降速度の均一化及び前記した固体粒子の浮き上がりや排液流路を通した流出に関連を有することを見いだし、検討を進めた。
【0015】
粘性液体中での粒子の沈降速度については、以下の式1に示すストークスの式により、粒子の沈降速度が、液体の粘度に反比例することが知られている。この結果、粘度が高い液体中では、粒子の沈降速度が小さくなることが分かる。
【0016】
v
s=Dp
2(ρp−ρf)g/18μ (式1)
v
s:粒子の終末沈降速度
Dp:粒子径(m)
ρp:固体の密度(kg/m
3)
ρf:液体の平均密度(kg/m
3)
μ:液体の粘度(mPa・s)
g:重力加速度(m/s
2)
【0017】
複数の攪拌室を備える連続多段攪拌室型の縦型固液向流接触装置においては、装置の上方から、固体粒子を含有し有機溶剤を含む水性スラリーを供給するとともに、装置の下方から水などの接触用液体を供給して、上方からの流れと下方からの流れとを向流接触させて接触処理を行い、処理された固体粒子は、下方、好ましくは底部から流出する。縦型固液向流接触装置の複数の攪拌室においては、一般に、有機溶剤の濃度は、固体粒子を含有する水性スラリーが供給される上方の攪拌室内の方が、下方の攪拌室内より高いので、上記ストークスの式から、固体粒子の沈降速度は、上方の攪拌室の方が、下方の攪拌室より小さいこととなる。
【0018】
特に、連続多段攪拌室型の縦型固液向流接触装置においては、固体粒子の沈降速度が、上方の攪拌室から下方の攪拌室にかけて、徐々に大きくなっていくので、縦型固液向流接触装置の処理能力は、装置の上方における固体粒子の沈降速度に大きく依存することが分かった。すなわち、縦型固液向流接触装置の処理能力や処理効率を向上させるには、装置の上方における固体粒子の沈降速度が小さくならないようにすればよいことが分かった。
【0019】
本発明者らは、これらの知見を踏まえて、縦型固液向流接触装置における固体粒子の沈降速度の均一化及び前記した固体粒子の浮き上がりや排液流路を通した流出防止について鋭意研究を進める中で、冬季に縦型固液向流接触装置の運転操作をすると、夏季の場合に比較して、縦型固液向流接触装置の上部に固体粒子が滞留したり、排液流路を通して縦型固液向流接触装置外に流出してしまう固体粒子が多い傾向があることに着目した。
【0020】
本発明者らは、アセトン水溶液について、アセトン濃度と水溶液の温度を変えたときの粘度の変化を、B型粘度計(株式会社東京計器製)を用いて測定した。その結果を表1に示す。その結果、アセトン水溶液においては、アセトン濃度及び水溶液の温度の影響で、水溶液の粘度が2倍以上変動することを見いだした。また、アセトン濃度が概ね30質量%以下の範囲では、アセトン濃度が増大するとアセトン水溶液の粘度が増えることを見いだした。なお、アセトン濃度が0質量%であるアセトン水溶液とは、水に相当する。
【0021】
【表1】
【0022】
例えば、連続多段攪拌室型の縦型固液向流接触装置において、アセトン濃度が20質量%であるアセトン水溶液を用いた固体粒子の水性スラリーを装置の上方から供給するような場合は、アセトン水溶液の温度が10℃以下の低温であると、アセトン水溶液の温度が40℃であるときの約2倍またはそれ以上の高い粘度となることから、装置の上方近傍における固体粒子の沈降速度が、約1/2またはそれ以下となる結果、固体粒子が装置の上方に滞留したり、排液流路を通して流出してしまう固体粒子の量が多いなどの現象が生じることがあることを見いだした。同様に、中間にある攪拌室における液相の粘度の高低によっても、固体粒子の沈降速度が不均一となったり、固液向流接触処理の効率が変わったりすることを見いだした。
【0023】
本発明者らは、液体の粘度と固液向流接触処理の効率との関係に関する知見を得て、極めて簡便な手段により、課題を解決することに成功した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、固液の流れの均一性がよく、固体粒子の浮き上がりや排液流路を通した流出が生じることなく効率的な向流接触処理を行うことができる縦型固液向流接触方法、固体粒子の洗浄方法、ポリアリーレンスルフィドの製造方法、及び、それに用いる縦型固液向流接触装置、固体粒子の洗浄装置、ポリアリーレンスルフィドの製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記の課題の解決を鋭意検討した結果、固体粒子を含有する水性スラリーを、上方から供給して、垂直方向に連設された複数の接触処理室を通過しながら下方に進行させ、かつ、接触用液体を、下方から供給して、該垂直方向に連設された複数の接触処理室を通過しながら上方に進行させ、該水性スラリーと該接触用液体とを連続的に向流接触させる縦型固液向流接触方法において、少なくとも1つの接触処理室内にある液相の粘度を制御することによって、固液の流れの均一性がよく、固体粒子の浮き上がりや排液流路を通した流出が生じることなく固液向流接触の効率を上げるなどの課題を解決できることを想到した。本発明者らは、特に、最上部に位置する接触処理室内にある液相の粘度(以下、「最上部液相粘度」ということがある。)η
1を制御し、更に、最下部に位置する接触処理室内にある液相の粘度(以下、「最下部液相粘度」ということがある。)η
2を制御することによって、固液向流接触の均一性と効率を一層高めることを想到した。
【0027】
かくして、本発明によれば、固体粒子を含有する水性スラリーを上方から供給して、垂直方向に連設された複数の接触処理室を通過しながら、下方に進行させ、かつ、接触用液体を下方から供給して、該垂直方向に連設された複数の接触処理室を通過しながら、上方に進行させ、該水性スラリーと該接触用液体とを連続的に向流接触させる縦型固液向流接触方法であって、少なくとも1つの接触処理室内にある液相の粘度を制御することを特徴とする縦型固液向流接触方法が提供される。
【0028】
本発明によれば、最上部液相粘度η
1を、あらかじめ定めた基準温度及び液相の基準組成における粘度である基準粘度η
0に対して、0.9≦η
1/η
0≦2.0の範囲内であるように制御する前記の縦型固液向流接触方法、並びに、最下部液相粘度η
2を、0.9≦η
2/η
0≦1.4の範囲内であるように更に制御する前記の縦型固液向流接触方法が提供される。
【0029】
本発明によれば、最上部に位置する接触処理室内にある液相(以下、「最上部液相」ということがある。)の温度または最下部に位置する接触処理室内にある液相(以下、「最下部液相」ということがある。)の温度の一方または両方を制御することによって、液相の粘度を制御する前記の縦型固液向流接触方法が提供される。
【0030】
本発明によれば、上方から供給する固体粒子を含有する水性スラリーの温度または下方から供給する接触用液体の温度の一方または両方を制御することによって、液相の粘度を制御する前記の縦型固液向流接触方法が提供される。
【0031】
本発明によれば、固体粒子が、ポリアリーレンスルフィド粒子である前記の縦型固液向流接触方法、及び、固体粒子が、ポリアリーレンスルフィド粒子であり、基準粘度η
0が40℃における水の粘度である前記の縦型固液向流接触方法が提供される。
【0032】
本発明によれば、水性スラリーが、アセトン等のケトン系溶剤、メタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、及びN−メチルピロリドン等のアミド系溶剤等の有機溶剤を含有する前記の縦型固液向流接触方法が提供される。
【0033】
また、本発明によれば、前記の縦型固液向流接触方法によって、ポリアリーレンスルフィド粒子等の固体粒子の洗浄を行う固体粒子の洗浄方法が提供され、また、前記の縦型固液向流接触方法または固体粒子の洗浄方法を含むポリアリーレンスルフィドの製造方法が提供される。
【0034】
さらに、本発明によれば、垂直方向に連設された複数の接触処理室を備え、固体粒子を含有する水性スラリーを上方から供給して、垂直方向に連設された複数の接触処理室を通過しながら、下方に進行させ、かつ、接触用液体を下方から供給して、該垂直方向に連設された複数の接触処理室を通過しながら、上方に進行させ、該水性スラリーと該接触用液体とを連続的に向流接触させる縦型固液向流接触装置であって、最上部に位置する接触処理室に、該固体粒子を含有する水性スラリーを供給するための固体粒子供給流路;該固体粒子供給流路よりも上方に、液体を排出するための排液流路;最下部に位置する接触処理室に、該固体粒子との接触用液体を供給するための液体供給流路;及び、該最下部に位置する接触処理室に、該液体供給流路よりも下方に、該固体粒子を該接触用液体と接触処理した後の処理物を取り出すための処理物流路;が接続された構造を有するとともに、少なくとも1つの接触処理室内にある液相の粘度を制御する粘度制御手段を備えることを特徴とする縦型固液向流接触装置が提供される。
【0035】
本発明によれば、最上部液相粘度η
1を、あらかじめ定めた基準温度及び液相の基準組成における粘度である基準粘度η
0に対して、0.9≦η
1/η
0≦2.0の範囲内であるように制御する粘度制御手段を備える前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0036】
本発明によれば、最下部液相粘度η
2を、0.9≦η
2/η
0≦1.4の範囲内であるように制御する粘度制御手段を更に備える前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0037】
本発明によれば、該粘度制御手段が、該最上部液相の温度または該最下部液相の温度の一方または両方を制御する温度制御手段を有するものである前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0038】
本発明によれば、該温度制御手段が、上方から供給する固体粒子を含有する水性スラリーの温度または下方から供給する接触用液体の温度の一方または両方を制御するものである前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0039】
本発明によれば、固体粒子が、ポリアリーレンスルフィド粒子である縦型固液向流接触装置、及び、固体粒子が、ポリアリーレンスルフィド粒子であり、かつ、基準粘度η
0が、40℃における水の粘度である前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0040】
本発明によれば、水性スラリーが、アセトン等のケトン系溶剤、メタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、及びN−メチルピロリドン等のアミド系溶剤等の有機溶剤を含有する前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0041】
本発明によれば、接触用液体が、洗浄液である前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0042】
また、本発明によれば、接触処理室を有する本体部、及び、該本体部の下方にある接触処理室である底部とを有し、該本体部に、中央に連通口を有する各環状仕切板により互いに区画されて垂直方向に連設された複数の接触処理室である攪拌室を備え、各接触処理室である攪拌室内に、各環状仕切板の連通口を貫通する共通の回転軸に固定された攪拌翼を有する前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0043】
本発明によれば、該本体部の上方に、接触処理室である頂部を更に有する前記の縦型固液向流接触装置が提供される。
【0044】
さらに、本発明によれば、前記の縦型固液向流接触装置を備えるポリアリーレンスルフィドの製造装置または固体粒子の洗浄装置が提供される。
【発明の効果】
【0045】
本発明の縦型固液向流接触方法及び縦型固液向流接触装置は、固体粒子の流れと液体の流れとを、均一かつ効率的に、しかも連続的に、向流接触させることができるという効果を奏する。そのため、本発明の縦型固液向流接触方法及び縦型固液向流接触装置は、固体粒子の洗浄、精製、抽出、含浸、化学反応、溶解など、主として化学工業における単位操作に幅広く使用することができる。例えば、本発明の縦型固液向流接触方法及び縦型固液向流接触装置は、ポリアリーレンスルフィドなどの固体粒子の洗浄方法及び洗浄装置として、十分な洗浄効果を奏し、また、ポリアリーレンスルフィドの製造方法及び製造装置として、効率的に使用することができる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1を参照すると、本発明の縦型固液向流接触方法に用いる縦型固液向流接触装置は、本体部2及び底部3とから成るものである。また、他の具体例を示す
図2及び
図3を参照すると、本発明の縦型固液向流接触装置は、頂部1、本体部2及び底部3とから成るものである。
【0048】
[本体部]
図1を参照して説明すると、本発明の縦型固液向流接触装置の底部3の上方に接続された本体部2は、垂直方向に連設された複数の接触処理室として、複数の攪拌室を備えている。
【0049】
[攪拌室]
本体部2には、複数の接触処理室としての攪拌室が、中央に連通口41を有する環状仕切板4により互いに区画されて垂直方向に連設されて配置されている。攪拌室の数は、本体部2の内径や高さに応じて適宜選定することができ、必要な理論固液接触段数に応じて、2〜100の範囲で変更可能であり、好ましくは3〜50、特に好ましくは4〜20であり、
図1の例では、簡便な説明のために5つの攪拌室21〜25に分割されている。各攪拌室は実質的に円筒状であって、攪拌室の高さHと内径Dとの比H/Dは、通常0.1〜4.0であり、好ましくは0.2〜3.0、特に好ましくは0.3〜2.0である。固液密度比、すなわち、[固体粒子の密度]/[接触用液体の密度]が大きい場合は、H/Dを大きくすることが好ましい。固液密度比が小さい場合は、H/Dを小さくすることができるので、縦型固液向流接触装置全体の高さを低くすることが可能となる。
【0050】
各攪拌室21〜25には、攪拌翼5が、各環状仕切板4の各連通口を貫通する共通の回転軸である攪拌軸6に固定され、及び、本体部2の内壁面に沿って垂直方向に延びる少なくとも1つのバッフル7が配置されている。攪拌翼5とバッフル7との作用により、各攪拌室内における固体粒子と液相との組成は略均一となり、所定の滞留時間の間、固体粒子と処理用液体との接触処理が行われる。
【0051】
なお、本体部2の全部または一部分をアクリル樹脂など透明な材料で形成することにより、各攪拌室21〜25における、液体の流れや固体粒子の流れを、その外側から観察して確認できるようにすることもできる。
【0052】
[連通口]
環状仕切板4の連通口41は、上下の攪拌室を連通させることができるものであれば、その形状や大きさは限定されないが、連通口に角部があると、該角部に固体粒子が堆積したり、固体粒子または液体の流れが乱れることがあるので、円形であることが好ましい。攪拌室の水平方向の断面積に対する連通口の水平方向の面積の比率は、1〜40%、好ましくは4〜35%である。連通口が大きすぎると、各攪拌室内での固液向流接触が十分行われないままに、固体粒子が直下の攪拌室に排出されてしまうので、この繰り返しにより、縦型固液向流接触装置における固液向流接触が不十分となる。他方、連通口が小さすぎると、各攪拌室内での固液向流接触が十分行われた固体粒子が、直下の攪拌室にいつまでも排出されず、処理時間が極端に長くなり処理効率が低下する。隣接する攪拌室は、連通口の水平方向の面積から攪拌軸6の水平方向の断面積を差し引いた水平方向の面積を有する開口部によって連設されるので、連通口の水平方向の面積は、攪拌軸6の水平方向の断面積を考慮して選定される。各連通口の形状及び水平方向の面積は、すべて同一でもよいが、異なるものとしてもよく、例えば、連通口の水平方向の面積を、上方から下方に向かって、漸減してもよい。
【0053】
[攪拌翼]
攪拌翼5としては、平パドル翼、V型パドル翼、ファウドラー翼、傾斜パドル翼、プルマージン翼等のパドル翼のほか、タービン翼やプロペラ翼を採用することができるが、効率よく固液向流接触を行うためにパドル翼が好ましい。各攪拌室に配置される攪拌翼5は、すべてをパドル翼としてもよいし、一部をパドル翼としてもよい。パドル翼は、単段翼でよいが、多段翼であってもよい。各攪拌室内における固体粒子と液相との組成を略均一とし、所定の滞留時間の間、固体粒子と処理用液体との接触処理を行うためには、実質的に半径方向の液の流れのみを生じる平パドル翼が好ましい。パドル翼の羽根板の枚数は、通常2枚〜6枚であり、4枚が、バランスがよいので、特に好ましい。
【0054】
パドル翼の翼径dは、(パドル翼の翼径d)/(攪拌室の径D)が0.4〜0.9の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.45〜0.85、特に好ましくは0.47〜0.80であると接触効率が高まる。d/Dが小さすぎると、攪拌室の壁近傍に固体粒子が滞留して、攪拌室の有効容積が減少することとなり、固液向流接触の効率が悪化する。本発明において、パドル翼の翼径とは、2枚のパドル翼の長さと攪拌軸の外径との合計で表されるものとする。
【0055】
パドル翼の翼幅hは、(パドル翼の翼幅h)/(攪拌室の径D)≦0.20を満足することが好ましく、より好ましくはh/D≦0.15、特に好ましくはh/D≦0.10である。h/Dの下限は、特にないが、パドル翼の強度を保持するため、通常0.01以上、好ましくは0.012以上、特に好ましくは0.015以上である。h/Dが大きすぎると、固体粒子の上下方向の混合が生じ、固体粒子の攪拌室間の出入り頻度が高まって、固体粒子と液体との接触処理効率が低下する。
【0056】
各攪拌室に配置する各攪拌翼5は、攪拌室内において固液向流接触処理を十分に行わせるために、各環状仕切板の連通口の上方に配置されており、固体粒子を攪拌室内に所定時間滞留させ、意図しない固体粒子の排出を防ぐために、攪拌室内の下半分の領域に配置されていることが好ましい。
【0057】
[バッフル]
各攪拌室に配置されるバッフル7は、本体部の内壁面に沿って垂直方向に延びる板状の部材であり、バッフル7の存在により、液体に対して、半径方向や周方向の流れだけでなく、上下にも攪拌されるような流れを生じさせることができるので、固体粒子の沈降が緩和され、また、バッフルを配置することにより、固体粒子と液体とが、攪拌翼5の回転に伴って、共回りして接触界面の更新が妨げられるのを防ぐこともできる。各攪拌室に配置されるバッフル7は、円周方向に均等間隔に2〜8枚配置すればよい。バッフル7の垂直方向の高さ、半径方向の突出高さ、及び取り付け位置は、各攪拌室の高さH及び内径D、パドル翼の形状及び大きさ、固体(スラリー)の供給速度及び液体の供給速度等に応じて定めることができる。各攪拌室に配置するバッフル7は、各攪拌室内において固液向流接触処理を十分に行わせるために、各攪拌室の下側に偏在する形態で、すなわち、各攪拌室の下半分の領域内に入る位置に配置されていることが好ましい。
【0058】
[回転軸]
各攪拌翼5を固定する回転軸である攪拌軸6は、頂部1及び本体部2を貫通するとともに、各環状仕切板4の各連通口41を貫通する共通の回転軸である。先に述べたように、隣接する攪拌室は、連通口41の水平方向の面積から攪拌軸6の水平方向の断面積を差し引いた水平方向の面積を有する開口部によって連設されている。攪拌軸6の径は、連通口より小さいことはいうまでもないが、径が小さすぎると、攪拌軸6自体の強度が小さくなるとともに、前記開口部の水平方向の面積が大きくなる結果、攪拌室内での十分な固液接触が行われないまま、固体粒子のショートパスが起きるおそれがある。したがって、攪拌軸6の径は、連通口の径の5〜35%、好ましくは10〜30%、特に好ましくは12〜25%の範囲の大きさとすればよい。
【0059】
回転軸である攪拌軸6には、本体部2の各攪拌室内の位置に、それぞれ攪拌翼5が取り付け固定される。攪拌軸6は、本体部2内で終わってもよいが、縦型固液向流接触装置全体としての攪拌効率を高めるために、底部3内にまで延びるものであることが好ましい。また、攪拌軸6の先端が底部3内に位置する場合は、該攪拌軸6の先端に攪拌翼を取り付けることが好ましい。
【0060】
回転軸である攪拌軸6は、縦型固液向流接触装置の最上部の攪拌室21の上部の蓋20、または、必要により設けた頂部1の上方に設けたモーターで回転駆動される。攪拌軸6の回転数は、各攪拌室内で、固体粒子と液体とが十分接触することができる範囲で適宜定めることができるが、単位容積あたりの攪拌動力が、0.1〜35W/m
3、好ましくは0.3〜20W/m
3、より好ましくは0.5〜10W/m
3となるように定めればよく、対応する回転数としては、5〜100rpm程度のいわゆる低速回転領域、好ましくは、8〜60rpm、より好ましくは9〜50rpm、特に好ましくは10〜40rpmを採用することができる。攪拌軸の回転数が大きすぎると、固体粒子の上下運動が促進され、固体粒子が上方に連設された攪拌室に逆流して固液向流接触の均一性が損なわれ、接触効率が低下する。したがって、化学反応や洗浄等の処理が十分行われない結果、処理効率が低くなる。攪拌軸の回転数が小さすぎると、固体粒子と接触した液体が、そのまま長時間に亘って、共回りするため、固体粒子が新しい液体と接触することができない結果、やはり処理効率が低くなる。
【0061】
[流路及び固液向流接触]
本発明の縦型固液向流接触装置は、最上部に位置する接触処理室である攪拌室21に固体粒子を含有する水性スラリーを供給するための固体粒子供給流路91、該固体粒子供給流路よりも上方に液体を排出するための排液流路94、底部に該固体粒子との接触用液体を供給するための液体供給流路92、及び、該底部に、該液体供給流路よりも下方にあり該固体粒子を該接触用液体と接触処理した後の処理物を取り出すための処理物流路93が接続されている。
【0062】
最上部に位置する接触処理室である攪拌室21への固体粒子を含有する水性スラリーの供給は、該最上部の攪拌室21に固体粒子供給流路を接続して、直接該最上部の攪拌室21に供給を行う。
【0063】
なお、後に詳述するように、
図2及び
図3に記載される、本体部2の上方に頂部1を更に備える縦型固液向流接触装置においては、最上部に位置する接触処理室に相当する頂部1に固体粒子供給流路を接続して、該頂部1に固体粒子を含有する水性スラリーを供給することによって、本体部の攪拌室21への水性スラリー供給を間接的に行う。
【0064】
最上部に位置する接触処理室である攪拌室21に、縦型固液向流接触装置に接続された固体粒子供給流路91から導入された固体粒子を含有する水性スラリーは、まず最上部の攪拌室21において、攪拌翼5の回転で生じる液流とバッフル7の作用により該最上部の攪拌室21内を移動する。このとき攪拌室21内における固体粒子と液相との組成は略均一となり、固体粒子と接触用液体との接触処理が行われる。固体粒子は重力の作用によって徐々に沈降するが、該最上部の攪拌室21内に所定時間滞留する。
【0065】
底部に接続された液体供給流路92を通して縦型固液向流接触装置に導入された接触用液体の流れは、底部から上昇して、本体部に備えられた複数の攪拌室を順次通過し、最上部の攪拌室21において、沈降する固体粒子を含有する水性スラリーの流れと向流状態で接触し、固液向流接触が行われる。先に述べたように、攪拌室21内における固体粒子と液相との組成は略均一であり、固体粒子と接触用液体との接触処理が行われる。
【0066】
重力の作用によって、固体粒子が徐々に沈降するので、固体粒子に富む流れが、最上部の攪拌室21から連通口を通過して、下方に連接された攪拌室22に導入される。攪拌室22においては、最上部の攪拌室21と同様に、攪拌室22に設けられた攪拌翼5及びバッフル7による攪拌作用下に、液体供給流路92から縦型固液向流接触装置に導入された接触用液体との固液接触処理を受ける。このとき、固体粒子と液相との組成が略均一な状態で所定時間滞留した状態で、固体粒子と接触用液体との接触処理が行われる。
【0067】
更に同様な固液接触処理は、攪拌室23〜25においても繰り返され、このような固液接触処理を繰り返すことにより、縦型固液向流接触装置の全体として固液向流接触処理が行われる。
【0068】
本体部2で固液接触を受けた固体粒子を含有する水性スラリーは、次いで、底部3においても、液体供給流路92から導入された接触用液体との接触処理を受ける。したがって、底部3は、最下部に位置する接触処理室に相当する。固体粒子と接触用液体との接触処理を十分行うため、底部3に攪拌翼5を設けてもよい。固体粒子は、底部3に所定時間滞留して接触用液体との接触処理を受け、その後、最終的に、液体供給流路よりも下方に接続された、該固体粒子を該接触用液体と接触処理した後の処理物を取り出すための処理物流路93から排出される。
【0069】
他方、液体供給流路92から縦型固液向流接触装置に導入された接触用液体は、固体粒子供給流路91から縦型固液向流接触装置に導入された固体粒子を含有する水性スラリーと向流接触を繰り返しながら、液体供給流路92よりも上方において、縦型固液向流接触装置に接続された、液体を排出するための排液流路94から排出される。
【0070】
[頂部]
図2の縦型固液向流接触装置は、本発明の他の具体例であって、本体部2の上方に頂部1を有しており、固体粒子供給流路91は、頂部1に接続している。液体を排出するための排液流路94は、固体粒子供給流路91より上方において、縦型固液向流接触装置の頂部1に接続されている。
【0071】
固体粒子供給流路91から頂部1に導入された固体粒子を含有する水性スラリーは、液体供給流路92から供給されてきた接触用液体と、頂部1内で接触処理を受ける。したがって、本体部の上方に頂部1を有している縦型固液向流接触装置においては、頂部1が、最上部に位置する接触処理室に相当する。
【0072】
頂部1は、固体粒子供給流路91から導入された固体粒子を含有する水性スラリーが、排液流路94から排出される液体流により軸方向の逆混合を受け難いように、必要に応じて、本体部2に比べて約1〜4倍に拡大された水平方向の断面積を有し、テーパー部を経て本体部2に接続されている。頂部1においては、攪拌軸6に攪拌翼5を配置しなくてもよいが、固体粒子供給流路91から導入された水性スラリー中の固体粒子が、頂部1内において、十分接触処理を受けられるようにするために、パドル翼などの攪拌翼5を配置している。
【0073】
図3の縦型固液向流接触装置は、本発明の更に他の具体例であって、本体部の上方に頂部1を有している。
図2の縦型固液向流接触装置と比較したこの頂部1の特徴は、安息角を大きく取れる構造であることと、頂部1内に攪拌翼5が配置されていないことである。固体粒子の種類やスラリー中の濃度、接触用液体の種類や供給速度等の組み合わせにより、頂部1内において、固体粒子と液相の組成が略均一な状態で、固体粒子は、所定時間滞留し接触処理を受けることができる。したがって、
図3の縦型固液向流接触装置においては、頂部1が、最上部に位置する接触処理室に相当する。なお、頂部1と本体部2との間にドーナツ状の仕切板4を配置することで、接触処理後の固体粒子を含有する水性スラリーの、頂部1から本体部2への流れが整流される。
【0074】
既に述べたように、
図1は、本発明の具体例である頂部1を備えない縦型固液向流接触装置である。固体粒子供給流路91は、最上部に位置する接触処理室である攪拌室21において、縦型固液向流接触装置に接続されている。最上部の攪拌室21は、上部に蓋20を有しており、該蓋20を貫通して攪拌軸6が備え付けられている。固体粒子供給流路91より上方にある排液流路94は、最上部の攪拌室21の蓋20に設けた接続部において縦型固液向流接触装置に接続されている。
【0075】
[底部]
底部3の形状は、略円筒状でもよいが、固体粒子を該接触用液体と接触処理した後の処理物を取り出すために縦型固液向流接触装置に接続された処理物流路93に向けてテーパー状に径が漸減する形状としてもよい。先に述べたように、底部3は、最下部に位置する接触処理室に相当する。攪拌軸6は、底部3に先端が突出していてもよいし、突出していなくてもよい。攪拌軸6の先端が底部3内に位置する場合、該攪拌軸6の先端に攪拌翼5を取り付けなくてもよいが、
図2のように、攪拌翼5を取り付けてもよい。該先端に攪拌翼を取り付けると、底部3内においても、各攪拌室におけると同様の固液接触が行われ、縦型固液向流接触装置の向流接触効率が一層向上する。
【0076】
[粘度制御手段]
本発明の縦型固液向流接触装置は、少なくとも1つの接触処理室内にある液相の粘度を制御する粘度制御手段を備えるものである。粘度制御手段は、接触処理室である頂部1、本体部2の攪拌室21〜25または底部3のいずれかにおける液相の粘度を制御することができるものである限り、特に限定されない。接触処理室内にある液相の粘度の制御は、当該粘度制御しようとする接触処理室内にある液相の粘度を制御し、変更してもよいし、他の接触処理室内にある液相の粘度を制御し、変更してもよい。例えば、固体粒子供給流路91から供給する水性スラリーの組成、温度及び流量、並びに、液体供給流路92から供給する接触用液体の組成、温度及び流量を、調整することによって、前記少なくとも1つの接触処理室内にある液相の粘度を制御することができる。最も簡便には、固体粒子供給流路91から供給する水性スラリーの組成及び流量、並びに、液体供給流路92から供給する接触用液体の組成及び流量を考慮して、最上部液相の温度、または、最下部液相の温度の一方または両方を制御する温度制御手段を有することにより、粘度制御を行うことができる。
【0077】
粘度の検出は、当該液相の粘度を制御しようとする接触処理室内に、粘度検出手段(例えば、株式会社セコニック製インライン型振動式粘度計FVM80A−EX)を配置してもよいし、該接触処理室内から適宜液相を採取して当該液相の粘度を、B型粘度計などを用いて測定してもよい。適当な比重計と温度計を配置し、実測した比重と温度から液の組成を求めて、液の粘度を推算してもよい。これら粘度検出手段は、本発明における粘度制御手段を構成するものではない。
【0078】
固液の流れの均一性がよく、固体粒子の浮き上がりや排液流路94を通した流出が生じることなく固液向流接触の効率を上げるためには、最上部液相粘度η
1を制御し、更に、最下部液相粘度η
2を更に制御することが有効であることから、本発明の縦型固液向流接触装置は、特に、最上部液相粘度η
1を、あらかじめ定めた基準温度及び液相の基準組成における粘度である基準粘度η
0に対して、0.9≦η
1/η
0≦2.0の範囲内であるように制御する粘度制御手段を備えることが好ましい。更に好ましくは、最下部液相粘度η
2を、0.9≦η
2/η
0≦1.4の範囲内であるように制御する粘度制御手段を備えるものとする。粘度制御手段としては、先に述べたように、例えば、固体粒子供給流路91から供給する水性スラリーの組成、温度及び流量、並びに、液体供給流路92から供給する接触用液体の組成、温度及び流量を、調整することによって、接触処理室内にある液相の粘度を制御することができる。以下、最上部液相粘度η
1及び、最下部液相粘度η
2を制御する方法及び装置について説明する。
【0079】
最上部液相粘度η
1の制御に関して、基準粘度η
0とは、固体粒子供給流路91から供給する水性スラリーの液相について、あらかじめ定めた基準温度における当該水性スラリーのあらかじめ定めた液相の基準組成における粘度を意味する。基準温度は、経験上、好適な固液向流接触を遂行できるものとして、水性スラリーの液相の組成に固有の温度である。液相の基準組成は、液相が単一の溶剤から成るものであるときは当該溶媒そのものを意味し、液相が溶剤の混合物であるときは該混合成分の一つの溶剤を意味する。液相が有機溶剤と水との混合物であるときは、通常、有機溶剤の濃度が0質量%、すなわち、水のみである場合を基準組成とする。
【0080】
例えば、水性スラリーの液相が、アセトン水溶液である場合は、後述のように基準温度として40℃と定め、また、液相の基準組成としてはアセトン濃度0%のアセトン水溶液、すなわち、水を選定すればよい。したがって、この場合は、基準粘度η
0は、40℃における水の粘度、すなわち0.89mPa・sである。
【0081】
η
1/η
0が小さすぎると、固体粒子の下方への移動速度が大きすぎて固液の向流接触処理が不十分となる。η
1/η
0が大きすぎると、固体粒子の下方への移動が緩慢となり、固体粒子が、長時間にわたって最上部に位置する接触処理室内またはその近傍に滞留する結果、十分な固液向流接触処理を受けることなく、縦型固液向流接触装置外に排出されてしまう固体粒子が増える。η
1/η
0は、好ましくは0.95≦η
1/η
0≦1.8、より好ましくは1.0≦η
1/η
0≦1.6、特に好ましくは1.0≦η
1/η
0≦1.4の範囲である。
【0082】
本発明において、一層好ましい実施の態様は、最下部に位置する接触処理室内にある液相の粘度η
2を、0.9≦η
2/η
0≦1.4の範囲内であるように制御することである。
【0083】
最下部液相粘度η
2の制御に関して、η
2/η
0が小さすぎると、固体粒子の下方への移動速度が大きすぎて固液の向流接触処理が不十分となることがある。η
2/η
0が大きすぎると、固体粒子が、長時間にわたって最下部に位置する接触処理室内またはその近傍に滞留する結果、固体粒子と接触用液体との間の接触界面を迅速に更新し続けることができなかったり、接触処理室内における固液の組成が均一にならなかったりして、安定した向流接触処理が行われないことがある。η
2/η
0は、好ましくは0.93〜1.28、より好ましくは0.96〜1.26、特に好ましくは0.99〜1.24である。
【0084】
本発明において、より一層好ましい実施の態様は、最下部に位置する接触処理室内にある液相の粘度η
2を、0.85≦η
2/η
1≦1.05の範囲内であるように、更に制御することである。
【0085】
最下部液相粘度η
2の制御に関して、η
2/η
1が上記の範囲内であるように制御すると、固体粒子の下方への移動速度が好適な範囲に収まることにより、固液の向流接触処理が十分行われるとともに、水性スラリーの温度と接触用液体の温度との差が小さくて済む結果、接触処理室内に大きな温度勾配が生じず、接触処理室内における固液の組成が均一となり、安定した向流接触処理が行われる。η
2/η
1は、好ましくは0.86〜1.04、より好ましくは0.88〜1.02、特に好ましくは0.90〜1.00である。
【0086】
[温度制御手段]
本発明の縦型固液向流接触装置の粘度制御手段として備える温度制御手段は、好ましくは、最上部液相の温度、または最下部液相の温度を制御することができる限り、特に限定されない。例えば、縦型固液向流接触装置の全体または一部分を温度制御することができるようにしてもよいし、縦型固液向流接触装置に、固体粒子供給流路91から供給される水性スラリーの温度、または、液体供給流路92から供給される接触用液体の温度の一方または両方を制御することができる装置である。
【0087】
本発明の縦型固液向流接触装置に備える温度制御手段は、さらに好ましくは、固体粒子供給流路91から供給される水性スラリー、または、液体供給流路92から供給される接触用液体の一方または両方の、温度または供給量の一方または両方を制御することができる装置としてもよい。
【0088】
本発明の縦型固液向流接触装置に備える温度制御手段は、水性スラリーまたは接触用液体を貯留しているタンク等の容器の温度を制御する装置であってもよい。
【0089】
[水性スラリーの温度制御による最上部液相粘度の制御]
固体粒子を含有する水性スラリーを供給するための固体粒子供給流路91に温度制御手段を設けて温度制御を行い、最上部に位置する接触処理室内に該水性スラリーを供給することにより、該最上部に位置する接触処理室内では、該水性スラリーと、液体供給流路92から供給された接触用液体との混合物が形成される。該水性スラリーを温度制御することによって、最上部液相である該混合物の液相の粘度η
1を、あらかじめ定めた基準温度及び液相の基準組成における粘度である基準粘度η
0に対して、0.9≦η
1/η
0≦2.0の範囲内であるように、粘度制御を行うことができる。
【0090】
最上部液相粘度η
1が、水性スラリーの粘度の値によって影響を受けることはいうまでもない。該水性スラリーの粘度は、該水性スラリー中の液体成分(液相成分)の組成と温度、及び固体粒子の種類と含有量などによって変動するので、該水性スラリー中の液体成分の組成と熱特性、固体粒子の種類と含有量、及び外気温などを考慮して、該水性スラリーの液相が所望の粘度となるように、該水性スラリーの温度を制御する。
【0091】
固体粒子を含有する水性スラリーが、ポリアリーレンスルフィド(PAS)粒子を含有するアセトンと水との混合溶液であり、接触用液体が水である場合について説明する。
【0092】
先に表1を示して述べたように、アセトンと水との混合溶液について、アセトンの濃度毎に、0℃付近、具体的には2℃から、基準温度まで、概ね5℃刻みで液温を変化させて、粘度を測定する。本実験例では、基準温度を、アセトンの沸点(56.5℃)より15℃程度低い温度である40℃とした。なお、アセトンと水との混合溶液において、アセトンの沸点より15℃程度低い温度までしか測定を行わないのは、それ以上の温度になると、アセトンの蒸発が増えるために、粘度を安定して測定することができず、固液向流処理においては採用される可能性が少ない温度だからである。得られた粘度について、基準温度(40℃)におけるアセトン濃度0%の混合溶液(すなわち、水である。)の粘度を1として、それぞれのアセトン濃度と温度における混合溶液の粘度倍率を求める。結果を表2に示す。
【0094】
温度制御手段による水性スラリーの温度制御は、基準温度(40℃)における水の粘度である基準粘度η
0(粘度倍率は、1.00である)に対して、該水性スラリーの液相である特定のアセトン濃度を有するアセトンと水との混合溶液の温度を、該温度における該混合溶液の粘度η
1が、0.9≦η
1/η
0≦2.0の範囲、好ましくは0.95≦η
1/η
0≦1.8、より好ましくは1.0≦η
1/η
0≦1.6、特に好ましくは1.0≦η
1/η
0≦1.4の範囲であるように、温度制御する。
【0095】
本発明において、基準温度は、固体粒子を含有する水性スラリーの特性に応じて変わり得るものであるが、通常15〜60℃の範囲、好ましくは20〜55℃の範囲、より好ましくは25〜50℃の範囲に設定する。水性スラリー中の液相が、上記温度範囲内に沸点を有する場合は、基準温度の上限は、該沸点より10℃程度低い温度、更には15℃程度低い温度とすることが好ましく、先に述べたとおり、アセトンと水との混合溶液においては40℃とする。基準温度が15℃未満、または60℃を超える場合は、接触効率が十分なものとならないことがある。
【0096】
したがって、最上部液相粘度η
1の粘度制御を行うためには、外気温が低い冬季には、水性スラリーの加熱制御を行って、液温を所望の温度に昇温すればよい。外気温が高い夏季には、種々の原因により液温が上昇して、蒸気圧が高まるため、水性スラリーの粘度が不安定となり、円滑な洗浄処理等の向流接触が行われなくなる場合もあるので、冷却制御を行って、液温を下降させることが必要となることもある。
【0097】
例えば、アセトン濃度が30質量%のアセトン水溶液の場合について検討する。表2のアセトン濃度が30質量%の欄において、0.9≦η
1/η
0≦2.0の範囲内であるためには、19〜45℃の範囲であればよいことが分かる。同様に、好ましくは22〜42℃、より好ましくは28〜41℃、特に好ましくは36〜41℃の範囲であればよい。
【0098】
[接触用液体の温度制御による最上部液相粘度及び最下部液相粘度の制御]
固体粒子との接触用液体(以下、単に「接触用液体」ということがある。)を供給するための液体供給流路92に温度制御手段を設けることにより、最上部液相粘度η
1や最下部液相粘度η
2の制御を効率よく行うことができる。
【0099】
最上部液相粘度や最下部液相粘度は、接触用液体の粘度の値によって影響を受ける。接触用液体の粘度は、該接触用液体の成分の組成と温度などによって変動するので、該接触用液体の成分組成と熱特性、外気温、水性スラリーの粘度、及び固体粒子供給流路91からの流入量などを考慮して、所望の粘度となるように温度を制御する。
【0100】
本発明の固液向流接触方法及び縦型固液向流接触装置においては、固体粒子を含有する水性スラリー及び該水性スラリー中の固体粒子と接触用液体とが向流接触するので、最適な接触効率を実現するためには、該水性スラリーの粘度と接触用液体の粘度との相対的な関係を考慮する必要がある。したがって、粘度制御装置として温度制御手段を使用する場合は、装置全体を温度制御するように設けてもよい。しかし、熱交換の効率を考えた場合には、温度制御手段は、固体粒子供給流路91または液体供給流路92の一方のみに設けることが好ましく、固体粒子供給流路91及び液体供給流路92の両方に設けることも好ましい。
【0101】
固体粒子供給流路91または液体供給流路92の一方または両方に設ける温度制御手段は、特に限定はなく、縦型固液向流接触装置に供給される固体粒子を含有する水性スラリーまたは固体粒子との接触用液体を加温または冷却して、所望の温度にすることができるものであればよい。例えば、スチームや温水または冷水を直接、固体粒子供給流路91または液体供給流路92に供給してラインスキミングしてもよいし、固体粒子供給流路91または液体供給流路92の周囲にジャケットを装着し、スチームや温水または冷水の流路を設けてもよいし、電気ヒーターを配設してもよく、圧電素子により加熱冷却を行ってもよい。また、温度の制御装置は、通常のコントローラである。
【0102】
通常、接触用液体は、供給される固体粒子を含有する水性スラリーと同程度の温度に温度制御することが効率的であり、好ましい。
【0103】
[固体粒子]
固体粒子供給流路91から縦型固液向流接触装置に供給される固体粒子を含有する水性スラリーに含有される固体粒子としては、特に制限はなく、装置内で固液接触が行われる任意の単位操作において使用される種々の固体粒子を選択できる。該単位操作の具体例としては、洗浄、精製、抽出、含浸、反応、溶解が含まれる。
【0104】
本発明の縦型固液向流接触装置の好ましい利用例として、固体粒子の洗浄装置としての使用があり、固体粒子として、ポリアリーレンスルフィド(PAS)粒子が選択できる。
【0105】
すなわち、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのPASの製造装置において、重合反応後のPASを含むスラリーから分離回収したPAS粒子を洗浄したり、その後の精製のためにPAS粒子を洗浄したりするPAS粒子の洗浄装置としての使用がある。
【0106】
例えば、特開昭61−255933号公報(欧州特許出願公開第202537号対応)には、重合工程で得られたPAS粒子を含む重合体スラリーの処理方法が開示されている。この処理方法では(1)PAS粒子、副生した結晶及び溶解塩化アルカリ並びにアリーレンスルフィドオリゴマーを含み、液成分が主としてNMPである重合スラリーを篩別によってPAS粒子と結晶塩化アルカリ含有スラリーとに分離する工程、(2)該結晶塩化アルカリ含有スラリーを固液分離に付して、結晶塩化アルカリを得るとともに、液成分を蒸留してNMPを回収する工程、(3)PAS粒子をアセトン等の有機溶剤及び水で洗浄する工程、及び(4)有機溶剤洗浄液から溶剤を蒸留回収する工程が記載されている。本発明の縦型固液向流接触装置は、上記(3)の工程におけるPAS粒子の洗浄方法に好適に利用でき、縦型固液向流接触装置を使用するPASの製造方法により、粒子の洗浄が十分行われる結果、不純物が少なく、粒度分布が均一なPAS粒子を得ることができる。
【0107】
本発明の縦型固液向流接触装置は、固体粒子が、重力の作用により徐々に沈降し、接触処理室である頂部1、攪拌室21〜25と底部3とを順次通過していく現象を利用している。すなわち、固体粒子と該粒子に接触する液体との密度差を利用しているので、攪拌室内における固体粒子と液体の密度に差があることが必要である。固液密度比、すなわち、[固体粒子の密度]/[液体の密度]が、1.03〜20、好ましくは1.05〜10、更に好ましくは1.07〜5の範囲内になるように、固体粒子と液体とを選択することが必要である。固液密度比が1.03より小さい場合、最終的に固体粒子と液体との分離が不良となり、また固液密度比が20を越える場合、固液の接触効率が低下する。
【0108】
[固体粒子を含有する水性スラリー]
固体粒子供給流路91から縦型固液向流接触装置に供給される固体粒子を含有する水性スラリーに用いられる液体成分(液相成分)としては、特に制限はなく、通常、固液向流接触装置において使用される液体成分を選択することができる。
【0109】
例えば、固体粒子がPAS粒子であり、縦型固液向流接触装置が、PASの製造装置に備えられるPAS粒子の洗浄装置である場合には、重合反応後のPASを含むスラリーから分離回収したPAS粒子を洗浄したり、その後の精製のためにPAS粒子を洗浄したりする。そのときには、有機溶剤と水との混合液と、PAS粒子とを使用して、有機溶剤を含有する水性スラリーが固体粒子供給流路91から供給される。有機溶剤としては、アセトン等のケトン系溶剤、メタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、及びNMP等のアミド系溶剤が使用できる。好ましい有機溶剤は、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコールまたはNMPであり、特に好ましい有機溶剤は、アセトンである。液体成分としては、有機溶剤のみを使用することもできるし、水のみを使用することもできる。液体成分として、有機溶剤と水との混合液を使用する場合は、有機溶剤の割合に限定はないが、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜70質量%、特に好ましくは10〜60質量%の割合が選択される。特に、有機溶剤がアセトンである場合には、アセトン100質量%、すなわちアセトンのみを使用してもよいし、アセトンが、好ましくは7〜65質量%、より好ましくは12〜55質量%、特に好ましくは15〜50質量%であるアセトン水溶液を使用することができる。なお、水性スラリーに用いる水としては、超純水、脱イオン水(イオン交換水)または蒸留水などを使用することができる。
【0110】
固体粒子を含有する水性スラリーにおける固体粒子の含有割合は、固体粒子供給流路91内を円滑に流動して、縦型固液向流接触装置に供給することができ、効率よく向流接触処理ができれば、特に限定はないが、通常1〜80質量%、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは8〜35質量%である。PAS粒子を含有する水性スラリーの場合は、PAS粒子の含有割合が、好ましくは7〜37質量%、より好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは12〜25質量%である。
【0111】
[固体粒子との接触用液体]
液体供給流路92から縦型固液向流接触装置に供給される固体粒子との接触用液体としては、特に制限はなく、通常、固液向流接触装置において使用される液体成分を選択することができ、有機溶剤のみを使用したり、水のみを使用したり、有機溶剤と水との混合液を使用したりすることができる。
【0112】
縦型固液向流接触装置が、PAS粒子の洗浄装置である場合には、接触用液体は、洗浄液として用いられ、有機溶剤のみを使用することもできるし、水のみを使用することもできる。液体成分として、有機溶剤と水との混合液を使用する場合、有機溶剤の割合に限定はないが、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは5〜99質量%、特に好ましくは10〜98質量%の割合が選択される。特に、有機溶剤がアセトンである場合には、アセトン100質量%、すなわちアセトンのみを使用してもよいし、アセトンが、好ましくは70〜99質量%、より好ましくは80〜99質量%、特に好ましくは90〜98質量%であるアセトン水溶液を使用することができる。
【0113】
例えば、先に述べた特開昭61−255933号公報に記載される、重合工程で得られたPAS粒子、副生した結晶及び溶解塩化アルカリ並びにアリーレンスルフィドオリゴマーを含み、液成分が主としてNMPである重合スラリーを篩別によってPAS粒子と結晶塩化アルカリ含有スラリーとに分離した後のPAS粒子には、NMPや塩化アルカリが残存しており、この粒子は、アセトン単独またはアセトン含有割合が高いアセトン水溶液を使用して洗浄を行う。この洗浄を行った後のPAS粒子には、アセトンや塩化アルカリが残存しており、次いで、水による洗浄を行うことが好適である。
【実施例】
【0114】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0115】
[実施例1]
図1に示す構成の縦型固液向流接触装置を用いて、PPS粒子を含有する水性スラリー(PPSスラリー)をイオン交換水によって洗浄処理した。
【0116】
実施例及び比較例で使用するPPSスラリーは、重合反応後のPPSポリマーを含む反応液から、PPS粒子を分離し、次いで、アセトンで洗浄を行って回収したPPS粒子を、所定割合のアセトンと水とから成るアセトン水溶液により再スラリー化して調製した。
【0117】
該縦型固液向流接触装置は、内径310mmのアクリル樹脂板製で内部が透視可能な本体部2、及び底部3とからなる。
【0118】
本体部2は、5つの接触処理室である攪拌室21〜25に区分されている。各攪拌室は、内径D=310mm、高さH=116.3mmである(H/D=0.375)。各攪拌室の間に、内径140mmの連通口41を有する環状仕切板4を設けた。各攪拌室の内壁の90°間隔の4個所には、横幅15.5mm、高さ39mmのバッフル7の計4枚を環状仕切板4に、高さ方向に延在するように固着した。各攪拌室の環状仕切板の連通口を貫通して、外径20mmの攪拌軸6が設けられ、最上部の攪拌室21の上部に取り付けた蓋20に置いたモーターにより回転させられる。
【0119】
各攪拌室には、攪拌翼として、攪拌翼径(2枚の攪拌翼の長さと攪拌軸の外径の合計として)232.5mm、翼幅15.5mmの寸法を有する4枚の平パドル翼5を、互いに90°の間隔でそれぞれ環状仕切板4の上方25mm離れた位置から、25mm〜40.5mmに亘る高さで、攪拌軸6に固着させて設けた。
【0120】
最上部の接触処理室である攪拌室21の側面上方に、粘度制御手段として温度制御手段(温水ヒータ)H
1を外周面に装着した固体粒子供給流路91が接続され、蓋20に、排液流路94が接続されている。
【0121】
接触処理室である底部3には、各攪拌室と同型の攪拌翼5を設けており、粘度制御手段として温度制御手段(温水ヒータ)H
2を外周面に装着した液体供給流路92と処理物流路93が接続されている。処理物流路93は、最底部に接続され、底部3の下方部は、該処理物流路93に向けてテーパー状に径が漸減している。
【0122】
上記の縦型向流接触装置を用いて、攪拌軸6を攪拌回転数15rpmで回転させた。この攪拌状態で、温度制御手段により温度40℃に調整したPPSスラリーを固体粒子供給流路91を通して550kg/h、温度制御手段により温度40℃に調整したイオン交換水を液体供給流路92を通して600kg/hの割合で供給した。スラリーの液相の粘度は、1.10mPa・s(基準粘度に対して1.24倍)であり、イオン交換水の粘度は0.89mPa・sであった。PPSスラリーの組成は、平均粒径520μmのPPS粒子(乾燥基準)20質量%、イオン交換水56質量%及びアセトン24質量%であった。水性スラリーの液相中では、アセトン30質量%である。
【0123】
各攪拌室に設けた攪拌翼、及びバッフル7の作用により、各攪拌室内においてPPSスラリーと水とが攪拌されながら混合し、該スラリー中のPPS粒子と液相の組成が攪拌室内では略均一な状態で、該PPS粒子と水とが接触して、洗浄処理が進行しつつ、水よりも密度が大きいPPS粒子(比重1.35)が緩やかに沈降し、攪拌室を順次通過していった。
【0124】
最上部の接触処理室である攪拌室21では、固体粒子供給流路91を通して供給されるPPSスラリーと、液体供給流路92を通して供給される水とが混合して、略均一な固液組成である最上部液相が形成されている。該最上部液相は、排液流路94を通して、洗浄排液として650kg/hで排出された。洗浄排液は、温度40℃で、粘度η
1は、1.04mPa・s(η
1/η
0=1.17)であった。洗浄排液中には、PPS粒子はみられなかったので、洗浄排液は、アセトンと水の混合溶液であり、アセトン濃度は、17.7質量%であった。
【0125】
処理物流路93を通して、洗浄済スラリーを500kg/hで排出した。洗浄済スラリー中のアセトン濃度(出口アセトン濃度)は3.39質量%(洗浄済スラリーの液相390kg中のアセトン濃度は、4.3質量%)であった。洗浄済スラリーは、温度40℃で、その液相の粘度η
2は、0.91mPa・s(η
2/η
0=1.02)であった。洗浄効率は、24%と良好なものであった。なお、洗浄効率εは、次の式2から、算出した。
【0126】
C
1=C
0*(1−ε)
(n−1) (式2)
(式中、C
0は、最上部液相における目的物の濃度、C
1は、装置出口におけるスラリーの液相中の目的物の濃度、nは、接触処理室の数である。本実施例及び比較例においては、目的物はアセトンであり、n=6である。)
【0127】
[実施例2]
液体供給流路92の外周面に温度制御手段を装着しないことを除いて、実施例1と同じ構成の縦型固液向流接触装置を用いて、PPSスラリーをイオン交換水によって洗浄処理した。液体供給流路92を通して供給されるイオン交換水の温度は、夏季の外気温に近い26℃であった。
【0128】
この縦型向流接触装置を用いて、攪拌軸6を攪拌回転数15rpmで回転させた。この攪拌状態で、温度制御手段により温度40℃に調整したPPSスラリーを固体粒子供給流路91を通して550kg/h、イオン交換水を液体供給流路92を通して600kg/hの割合で供給した。スラリーの液相の粘度は、1.10mPa・sであり、イオン交換水の粘度は1.08mPa・sであった。
【0129】
排液流路94を通して、最上部液相である洗浄排液を650kg/hで排出し、処理物流路93を通して、洗浄済スラリーを500kg/hで排出した。なお、洗浄排液は、温度35℃で、粘度η
1は、1.13mPa・s(η
1/η
0=1.27)であった。洗浄排液中には、PPS粒子はみられず、アセトン濃度は16.7質量%であった。洗浄済スラリーは、温度30℃で、その液相の粘度η
2は、1.09mPa・s(η
2/η
0=1.22)であった。洗浄済スラリー中のアセトン濃度(出口アセトン濃度)は4.64質量%(洗浄済スラリーの液相390kg中のアセトン濃度は、5.95質量%)であり、洗浄効率は20%と比較的良好であった。したがって、実施例2においては、粘度制御手段としては温度制御手段を備えることなく、最下部液相粘度の粘度制御を行うことができた。
【0130】
[比較例]
固体粒子供給流路91及び液体供給流路92の外周面に温度制御手段を装着しないことを除いて、実施例1と同じ構成の縦型固液向流接触装置を用いて、PPSスラリーをイオン交換水によって洗浄処理した。固体粒子供給流路91を通して供給されるPPSスラリー及び液体供給流路92を通して供給されるイオン交換水の温度は、冬季の外気温に近い10℃であった。PPSスラリーの液相の粘度η
1は、2.24mPa・s(基準粘度に対する粘度の比は、2.52)であり、イオン交換水の粘度は1.49mPa・s(基準粘度に対する粘度の比は、1.67)であった。
【0131】
この縦型向流接触装置を用いて、攪拌軸6を攪拌回転数15rpmで回転させた。この攪拌状態で、PPSスラリーを550kg/h、イオン交換水を600kg/hの割合で供給した。
【0132】
排液流路94を通して、温度10℃である洗浄排液を650kg/hで排出し、処理物流路93を通して、洗浄済スラリーを500kg/hで排出したところ、運転開始後1時間で排液流路94から固体粒子が溢流し、2時間で水性スラリーが排出された。
【0133】
本比較例においては、固体粒子供給流路及び液体供給流路に温度制御手段が設けられていない結果、PPSスラリーの液相成分であるアセトン水溶液の粘度が高く、最上部の接触処理室である攪拌室21における液相は、その組成が均一とはいえない状態にあるが、攪拌室21内の5か所からサンプリングしたサンプルの粘度を測定した結果、η
1/η
0は、どの箇所においても2を超えていた。この結果、PPS粒子の沈降速度が小さいため、PPS粒子が長時間、最上部の攪拌室21に滞留し、微細なPPS粒子は、下方から上昇してくる洗浄水に随伴し、排液流路94を通して縦型固液向流接触装置から排出されてしまう。