【実施例】
【0067】
[悪性黒色腫細胞株]
以下の実施例で用いる、397mel、501mel、526mel、624mel、888mel、928mel、938mel、1102mel、A375、C32mel、G361mel、Malme3M、SKmel23、SKmel28、およびWM266は、米国国立衛生研究所のRousenberg博士より入手した。MMG1は信州大学斎田博士より入手した。これらの細胞株は、特記しない限り、10%FBS添加RPM1640培地において、95%Air−5%CO
2、37℃で維持した。メラノサイトは、kurabo社より購入し、ヒトメラノサイト増殖サプリメント(HGMS)添加154S培地において、95%Air−5%CO
2、37℃で培養した。
【0068】
[実施例1]
本実施例では、ヒスタチン−1が悪性黒色腫細胞株に発現していることを示す。
【0069】
==ヒスタチン−1遺伝子発現解析==
RNeasy total RNA isolation kit(Qiagen 社)を用い、各悪性黒色腫細胞株から全RNAを抽出した。このRNAから、reverse Superscript III reverse-transcriptase and oligo(dT) primers(インビトロジェン社)を用いてcDNAを調製した。このcDNAを用い、以下のプライマーペアを用いて35サイクルのPCR(変性:94℃、30秒;アニーリング:57℃、30秒;伸長:72℃、60秒)を行い、ヒスタチン−1のmRNA発現を解析した。なお、内部標準として、GAPDHを用いた。
Histatin-1-F: cgctgattcacatgaaaagagac(配列番号3)
Histatin-1-R: agggaagtatcatgaaacacaga(配列番号4)
【0070】
発現解析の結果を
図1に示す。解析に供した16種類のヒト悪性黒色腫細胞株のうち、501mel、526mel、624mel、888mel、928mel、1102mel、G361mel、およびSKmel23、の8種類では、ヒスタチン−1mRNAが発現していた。一方、正常メラノサイトにおいてはヒスタチン−1mRNAの発現は検出できなかった。以上の結果は、ヒスタチン−1が悪性黒色腫の診断マーカーとして使用できることを示している。
【0071】
[実施例2]
本実施例では、腫瘍組織のヒスタチン−1mRNAの発現と余命が相関することを示す。
【0072】
信州大学医学部にて、悪性黒色腫患者25名のセンチネルリンパ節転移巣を採取した。採取組織からRNAを単離して、TaqMan RNA-to-CT 1-Stepキットを用いて定量PCRを行い、各患者の組織におけるヒスタチン−1mRNAの発現を解析した。
【0073】
ヒスタチン−1mRNAの高発現群(13名)と低発現群(12名)について、ヒスタチン−1mRNA発現解析から90ヵ月後まで定期的に生存率を追跡した。ヒスタチン−1のmRNA発現量をGAPDHで標準化し、Logをとった値の中間点である−6.25を境界として、−6.25よりも高い値の群を高発現群、−6.25以下の値の群を低い発現群とした。
【0074】
図2に示すように、高発現群の患者の生存率は、低発現群の患者に比較して、観察期間中常に高い。この結果は、悪性黒色腫の腫瘍細胞のヒスタチン−1mRNAの発現量が、余命期間と相関することを示す。従って、ヒスタチン−1mRNAおよびヒスタチン−1タンパク質は悪性黒色腫の予後または余命のマーカーとして使用できる。
【0075】
[実施例3]
本実施例では、ヒスタチン−1タンパク質およびヒスタチン−1遺伝子発現が、悪性黒色腫の遊走能を上昇させること、および、ヒスタチン−1遺伝子のノックダウンによって悪性黒色腫の細胞遊走能が低下することを示す。
【0076】
==ヒスタチン−1タンパク質の添加==
C32melを3×10
4細胞/ウェルの密度で細胞遊走能解析用16ウェルプレート(CIM−plate 16、Roche Diagnostics GmbH 社)の上層ウェルに播種した。上層ウェルには、無血清RPMI1640培地を満たし、下層ウェルには、10%FBS添加RPMI1640培地を満たした。上層ウェルに、0、5、10、あるいは20μg/mlのヒスタチン−1タンパク質を加え、下記遊走能の解析に供した。
【0077】
==ヒスタチン−1遺伝子のノックダウン==
ヒスタチン−1mRNAにおける以下の2つの配列(配列番号5、6)を標的とした各siRNA50μMを、LipofectaAMINE2000(インビトロジェン社)1μl/ウェルを用いてSKmel23(4×10
4細胞/500μl/ウェル(24-well plate))にトランスフェクトした。なお、陰性対照のsiRNAには、Stealth RNAi Negative Control Low GC Duplex(インビトロジェン社)を用いた。
siRNA-target-seq2: UAUAGAUAAUUUGAUCCAUAGUCCC(配列番号5)
siRNA-target-seq3: AAAUCAUGAGAGCCAAGACUAAAGC(配列番号6)
トランスフェクションの効率を、BLOCK-iT Fluorescent Oligo(インビトロジェン社)により確認したところ、90%以上の高効率であった。
【0078】
siRNAを導入したSKmel23を1×10
5細胞/ウェルの密度で、CIM−plate 16の上層ウェルに播種し、下記遊走能の解析に供した。
【0079】
==ヒスタチン−1遺伝子の強制発現==
ヒスタチン−1cDNAを、pCSII-CMV-MCS-IRES (internal ribosomal site)-puroR-PREベクター(pCSII-CMV-MCS-PRE vector にピュロマイシン耐性カセットであるIRES-puroR を挿入して調製、独立行政法人理化学研究所三好博士より入手、Miyoshi H. et al., J. Virol. 72(10): 8150-8157, 1998)のマルチクローニングサイトにクローニングした。このヒスタチン−1cDNA挿入ベクターを、pCAG-HIVgp(第3世代パッケージングプラスミド)、pCMV-VSV-G-RSV-Rev(VSV-Gエンベロープタンパク質とRevタンパク質の発現プラスミド)と共にHEK293細胞にトランスフェクトし、HIV派生第3世代ヒスタチン−1発現ウイルス(以下、ヒスタチン−1発現ウイルスともいう)を調製した。培養上清を回収、濃縮して、ヒスタチン−1発現ウイルスストックとした。
【0080】
5×10
4細胞/2ml/ウェル(6-well plate)で播種したA375に対し、上記ヒスタチン−1発現ウイルスを15〜30μl/ウェル加え、感染させた。感染から4日後、A375をピュロマイシンで選択することにより、ヒスタチン−1遺伝子が強制発現されたA375を選択した。
【0081】
このA375細胞を、3×10
4細胞/ウェルの密度で、CIM−plate 16の上層ウェルに播種し、下記遊走能の解析に供した。
【0082】
==悪性黒色腫細胞の遊走能の解析==
CIM−plate 1の上層ウェルには、無血清RPMI1640培地を満たし、下層ウェルには、10%FBS添加RPMI1640培地を満たした。xCELLigenceシステム(Roche Diagnostics GmbH 社)のRTCA DPインスツルメントにプレートを設置し、95%Air−5%CO
2、37℃で15分ごとに細胞の遊走をモニターした。
【0083】
図3に示すように、ヒスタチン−1タンパク質を悪性黒色腫細胞に添加することにより、腫瘍細胞の遊走能が上昇した。
【0084】
図4に示すように、悪性黒色腫細胞のヒスタチン−1遺伝子をノックダウンすることによって腫瘍細胞の遊走能が低下した。
【0085】
図5に示すように、悪性黒色腫細胞のヒスタチン−1遺伝子を強制発現させることによって、腫瘍細胞の遊走能が上昇した。
【0086】
これらの結果は、ヒスタチン−1タンパク質が腫瘍細胞の遊走能に関与していること、そして、ヒスタチン−1タンパク質の機能抑制によって、悪性黒色腫細胞の遊走能を低下させることができることを示している。
【0087】
[実施例4]
本実施例では、ヒスタチン−1遺伝子を強制発現させた悪性黒色腫細胞では、浸潤能および転移能が亢進されることを示す。
【0088】
実施例3の「ヒスタチン−1遺伝子の強制発現」の記載に従い、A375にヒスタチン−1発現ウイルスを感染させ、ピュロマイシンを用いてヒスタチン−1が強制発現されたA375を選択した。
【0089】
さらに、実施例3の「ヒスタチン−1遺伝子の強制発現」に記載の方法において、ヒスタチン−1cDNAの代わりに改変型GFP遺伝子のcDNAをpCSII-CMV-MCS-PREベクターのマルチクローニングサイトにクローニングして、HIV派生第3世代GFP発現ウイルスを調製し、回収、濃縮してGFP発現ウイルスストックを得た。ピュロマイシンで選択されたヒスタチン−1遺伝子発現A375を5×10
4細胞/2ml/ウェル(6-well plate)で播種し、GFP発現ウイルスを15〜30μl/ウェル加え、感染させた。感染から4日後、GFPの発現を蛍光下で確認し(ほぼ100%のGFP発現を確認)、ヒスタチン−1・GFP発現A375を得た。
【0090】
ヌードマウス(BALB/c nu/nu 5週齢 ♀)の側腹部に個体あたり3〜5×10
6個のヒスタチン−1・GFP発現A375を移植し、2〜3週間飼育した(N=5)。その後、移植を行ったのと同側の所属リンパ節である脇下リンパ節、鼠径リンパ節、および肺を摘出し、脇下リンパ節と鼠径リンパ節は、無血清RPMI1640培地中でハサミにより細断して細胞を解離させた。肺組織に対しては、無血清RPMI1640培地中でハサミにより細断した後さらにコラゲナーゼ処理により細胞を解離させた。細胞移植自体を行っていない正常マウスを非腫瘍細胞群(N=5)とし、ヒスタチン−1cDNAを有していないウイルスを感染させた、ヒスタチン−1非発現・GFP発現A375を移植した群をMOCK群(N=4)とした。
【0091】
解離した細胞に含まれるGFP陽性細胞の割合を、FACSを用いて測定した。
【0092】
図6A、Bは、所属リンパ節(脇下リンパ節と鼠径リンパ節)から採取した細胞におけるGFP陽性細胞率を示す図である。ヒスタチン−1・GFP発現A375を移植した群(ヒスタチン−1)では、MOCK群に比較し、所属リンパ節から採取した細胞におけるGFP陽性細胞率が有意に高かった。
【0093】
図7A、Bは、肺組織から採取した細胞20000個中のGFP陽性細胞の数を示す図である。ヒスタチン−1・GFP発現A375を移植した群(ヒスタチン−1)では、MOCK群に比較し、肺から採取した細胞におけるGFP陽性細胞率が有意に高かった。
【0094】
GFP陽性細胞は側腹部に移植された細胞であるから、以上の結果は、ヒスタチン−1発現A375では、ヒスタチン−1非発現A375に比較して、所属リンパ節および肺への浸潤能および転移能が亢進されることを示している。
【0095】
このことから、悪性黒色腫のヒスタチン−1は、悪性黒色腫の浸潤能および転移能の診断マーカーとして使用できる。また、ヒスタチン−1の機能や発現を阻害することにより、悪性黒色腫の浸潤および転移を抑制する悪性黒色腫治療用薬剤になりうる。
【0096】
[実施例5]
本実施例では、ヒスタチン−1タンパク質を用いて、免疫抑制性樹状細胞を調製できることを示す。
【0097】
==樹状細胞の調製==
インフォームドコンセントを行った健常人から、慶應義塾大学医学部において採血を行った。この血液約100mlに対し、ヘパリン1ml程度を加え、Lymphoprep(Axis-Shield PoC、AS社)に重層して遠心した(2000rpm、30分、室温)。中間層を、PBMCが含まれるPBMC分画として分離した。このPBMCから、CD14 Micro−Beads(Miltenyi Biotec 社)を用いてCD14陽性単球を単離した。このCD14陽性単球を、2〜2.5×10
6細胞/ウェル/2mlの密度で、10%FCS添加RPMI1640培地に播種し、ここに、GM−CSF(100ng/ml)、IL−4(50ng/ml)、およびヒスタチン−1タンパク質(0、5、あるいは10μg/ml)を加えて培養した。2日に一回、培地の半量を交換して6日間培養を続け、樹状細胞を分化させた。この樹状細胞を洗浄して1〜2.0×10
6細胞/2ml/ウェルの密度で再播種し、ヒスタチン−1タンパク質(0、5、あるいは10μg/ml)とリポサッカロイド(1μg/ml)を添加し、さらに10〜18時間培養を続けた。なお、培養は、全段階で、5%CO
2、37℃で行った。
【0098】
培養終了後に培地を回収し、樹状細胞により産生され、培地中に分泌された、IL−10、TNF−α、IL−12をELISAキット(BD Biosciences Pharmingen 社)を用いて測定した。また、得られた樹状細胞について、細胞表面マーカーであるCD14、CD80、CD83、CD86、およびHLA−DRの発現をFACSにより測定した。
【0099】
図8に示すように、炎症性サイトカインであるIL−12およびTNF−αの量は、添加するヒスタチン−1タンパク質の濃度に依存して有意に低下した(A、B)。一方、抑制性サイトカインであるIL−10の量は、ヒスタチン−1タンパク質の濃度が5μg/mlの時に有意に上昇し、10μg/mlの時にも0μg/mlに比較して上昇した(C)。
【0100】
図9に示すように、ヒスタチン−1タンパク質を添加せずに樹状細胞を分化させた場合と、ヒスタチン−1タンパク質を添加して樹状細胞を分化させた場合とでは、ヒスタチン−1タンパク質濃度にかかわらず、いずれの場合も、得られた樹状細胞はCD14陰性であり(
図9A)、CD80、CD83、CD86、およびHLA−DRの発現量は一定であった(
図9B)。この結果は、ヒスタチン−1タンパク質を添加して分化させてもヒスタチン−1タンパク質を添加せずに従来法で分化させた樹状細胞と同様なマーカーの発現を示し、しかも、それはヒスタチン−1タンパク質濃度によらないことを示している。また、ヒスタチン−1タンパク質添加量にかかわらず、いずれの細胞表面マーカーの発現を示すピークも1つで、形状が一定である(
図9B)ことから、ヒスタチン−1は単球の樹状細胞への分化を阻害しているわけではなく、ヒスタチン−1タンパク質を添加して得られた樹状細胞集団は、添加しないで得られた樹状細胞集団と同程度に均質であることを示している。
【0101】
このように、CD14陽性単球からヒスタチン−1タンパク質を添加して得られた樹状細胞集団は、ヒスタチン−1タンパク質添加量にかかわらず、ヒスタチン−1タンパク質を添加せずに分化させた樹状細胞集団とは、同じマーカー群を発現しながら、機能が抑制性であるという点で性質が異なっている。
【0102】
==樹状細胞によるT細胞の刺激==
T細胞を、上記健常人から採取した血液から、CD3 MACS beads(Miltenyi Biotec 社)を用いて単離した。このT細胞2.0×10
5個を、上記で調製した2.0(樹状細胞:T細胞=1:10)、0.67(樹状細胞:T細胞=1:30)あるいは0.22×10
4個(樹状細胞:T細胞=1:90)の樹状細胞(約20分間、計32Gyの放射線処理済み)と共に96ウェルプレートに播種し、各ウェル当たり200μlの5%AB型ヒト血清添加AIM−V培地で、95%Air−5%CO
2、37℃で培養を行った。培養開始3日目、培地を回収し、T細胞から分泌されるIFN−γをELISAキット(M700A、M701B、Endogen 社)を用いて測定した。
【0103】
図10に示すように、樹状細胞:T細胞比が1:10の場合、樹状細胞分化工程で作用させたヒスタチン−1タンパク質の濃度依存的に、IFN−γ量が低下した。T細胞は、樹状細胞の刺激を受けてIFN−γを分泌する。従って、この結果は、ヒスタチン−1タンパク質を作用させて単球から分化させた樹状細胞群は、そのヒスタチン−1タンパク質の濃度に依存してT細胞に対する刺激能が低下することを示している。
【0104】
このように、ヒスタチン−1タンパク質は、単球に作用して樹状細胞の分化を免疫抑制性の方向に誘導する作用を有している。そして、ヒスタチン−1タンパク質を作用させて分化誘導された樹状細胞は、炎症性サイトカインの産生量が低く、免疫抑制性サイトカインの産生量が高く、さらに、T細胞に対する刺激能が低い。よって、ヒスタチン−1タンパク質、および、ヒスタチン−1タンパク質を用いて分化誘導した樹状細胞は、免疫抑制作用を有している。
【0105】
==樹状細胞の発現遺伝子==
前述の「樹状細胞の調製」により得られた、ヒスタチン−1タンパク質を添加せずに分化させた樹状細胞(正常分化樹状細胞)と、ヒスタチン−1タンパク質を添加して分化させた樹状細胞(HTN樹状細胞)からRNeasy total RNA isolation kit(Qiagen 社)を用いて全RNAを抽出した。このRNAを用い、Gene Chip(Aglient 社、Whole Human GenomeオリゴDNAマイクロアレイキット (4x44K))を用いて遺伝子発現を網羅的に解析した。
【0106】
表1に示すように、ヒスタチン−1タンパク質を添加せずに分化させた樹状細胞(正常分化樹状細胞)に対して、ヒスタチン−1タンパク質を添加して分化させた樹状細胞(HTN樹状細胞)で1.5倍以上の発現量が認められたのは、5458個の遺伝子である。また、HTN樹状細胞では、正常分化樹状細胞に比較して、NK細胞活性化に必要なULBP2の発現量は1/20に低下し、NKT細胞活性化に必要なCD1dの発現量は3/10に低下した。一方、免疫抑制性樹状細胞に多く発現することが知られるTLR5(Vicente-Suarez I et al., Immunol Lett. 125 114-8, 2009)の発現量は、正常分化樹状細胞に比較してHTN樹状細胞で48.4倍高かった。また、制御性T細胞などに高発現していることが一般的に知られているCCR4は、正常分化樹状細胞に比較してHTN樹状細胞で108.26倍高かった。
【表1】
【0107】
このように、CD14陽性単球からヒスタチン−1タンパク質を添加して得られた樹状細胞(HTN樹状細胞)と、正常分化樹状細胞とではその遺伝子発現は大きく異なっている。特に、ヒスタチン−1タンパク質を添加して得られた樹状細胞では、遺伝子発現のパターンが免疫抑制性を示している。
【0108】
[実施例6]
本実施例では、マウス個体に、ヒスタチン−1タンパク質を強制発現させた細胞を投与することにより、in vivoで樹状細胞の性質を抑制性に変えることができることを示す。
【0109】
5×10
4細胞/2ml/ウェル(6-well plate)で播種したヒト悪性黒色腫397melに対し、実施例3に記載のヒスタチン−1発現ウイルスを15〜30μl/ウェル加えて感染させた。感染から4日後、397melをピュロマイシンで選択することにより、ヒスタチン−1遺伝子が強制発現されたクローンを選択し、397mel−Histatin−1とした。
【0110】
397mel−Histatin−1を100μlのRPMI1640に懸濁し、ヌードマウス(BALB/c nu/nu 5週齢 ♀)の下腿部に皮下接種(3x10
6個/匹)した。陰性コントロール群として、ヒスタチン−1を組み込まれていないHIVウイルスを397melに感染させて得られたクローン(397mel−MOCK)を接種した。約30日後に両群のマウスから、接種した397mel由来の腫瘍組織及び脾臓を単離し、それぞれから、CD11c MACS beads(Miltenyi Biotec社)を用いてCD11c陽性である樹状細胞を分離した。これらの樹状細胞について、以下のようにT細胞の活性化能を評価した。
【0111】
まず、マウス(Balb/c)の脾臓よりCD90.2マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社)を用いてT細胞を分離した。一方、分離した樹状細胞は、約20分間、計32Gyの放射線で処理し、細胞分裂を止めた。そして、ウェル(96-well plate)当たり200μlの培養液(10%FBS添加RPMI1640)で、T細胞1.6x10
5個と樹状細胞1.6x10
4個を播種し、さらに抗マウスCD3抗体(1μg/ml)(BD Biosciences Pharmingen 社)を添加し、5%CO
2存在下、37℃で培養した。培養開始4日後に培地を回収し、T細胞から分泌されたIFN−γをELISAキット(BD Biosciences Pharmingen 社)を用いて測定した。
【0112】
図11に示すように、腫瘍組織及び脾臓のどちらにおいても、397mel−Histatin−1を皮下接種されたマウス由来の樹状細胞は、397mel−MOCKを皮下接種されたマウス由来の樹状細胞に比べて、T細胞から分泌されたIFN−γ量が低く、T細胞の活性化能が低下していた。このことは、in vivoにおいて、397melが発現する外来性のヒスタチン−1タンパク質が樹状細胞の機能を抑制したことを示している。しかも、397mel由来の腫瘍組織に存在する樹状細胞だけでなく、脾臓中の樹状細胞の機能も抑制されていることは、397melから分泌されたヒスタチン−1タンパク質が、血液を通じて、全身性に作用したことを示す。