(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
研磨加工された処理部を有するガラス板の製造方法において、前記処理部は磁性体を含む研磨スラリーに接触することにより研磨され、研磨された前記処理部に洗浄液を供給して、前記処理部の表面と前記処理部に付着した前記磁性体の表面とを同極に帯電させて前記処理部と前記磁性体とを反発させ、前記磁性体を洗浄液に移行させ、キレート効果を利用して前記磁性体が前記ガラス板に再付着することを防止する、ガラス板の製造方法。
溶融ガラスからガラスシートを成形する成形工程と、前記ガラスシートを切断してガラス基板を形成する切断工程と、前記ガラス基板の端面に、磁力体に保持された磁性体を含む研磨スラリーを接触させることで鏡面研磨する端面処理工程と、
前記鏡面研磨する工程において前記端面に接触させた前記磁性体を起因とする鉄系微粒子をpH2以下の酸性薬液を用いて洗浄する洗浄工程を有し、
前記洗浄工程は、前記鉄系微粒子を構成するFe3+をFe2+イオンに還元し、前記Fe2+イオンの2座配位以上により錯体を形成させて前記ガラス基板端面と前記鉄系磁性体とを共にプラスに帯電させる工程を有することを特徴とするガラス基板の製造方法。
前記キレート効果を有する薬液は、サリチル酸、フタル酸、グリオキシル酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、タルタロン酸、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸、ニトリロ3酢酸、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸等のアミノカルボン酸、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン等のアミノ酸から選択される1種以上とする、請求項7又は8に記載のガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本実施携帯のガラス基板の製造方法について説明する。
(1)ガラス基板の製造方法の概要
図1は、本実施形態に係るガラス基板の製造方法の一部のフローチャートである。
ガラス基板は、
図1に示しように、溶解工程T1、成形工程T2、切断工程T3、加工工程T4、洗浄工程T5、検査工程T6の工程を経て製造される。
【0016】
図2を用いて、本発明のガラス基板の製造工程の一部(装置100)を説明する。
溶解工程T1では、溶解装置200内でガラス原料を加熱して溶解することにより溶融ガラスとする。そして、清澄装置300内で溶融ガラス中に含まれるガス成分を溶融ガラスから放出する、或いは、溶融ガラス中に含まれるガス成分を溶融ガラス中に吸収する。例えば、ガラス原料は、SiO
2、Al
2O
3等の組成からなる。
【0017】
成形工程T2では、清澄された溶融ガラスが移送管400により成形装置500に供給され、帯状のガラスシートG1に成形される。
【0018】
切断工程T3では、ガラスシートG1は図示しない切断装置で、幅方向に切断されて枚葉化される。さらに所定のサイズとなるよう4辺が切断され製品サイズのガラス基板Gとなる。
【0019】
加工工程T4では、
図3に示す第1端面加工機30により、切断により形成された端面の加工が行われる。移動するガラス基板Gの両端面に、図示しない回転軸により自転する第1研削ホイール31と第2研削ホイール32が接触することにより、ガラス基板Gの端面33が加工される。ガラス基板Gの長辺側の端面33が加工された後、短辺側の端面33が加工される。その後、
図4に示す第2端面加工機34に設けられた研磨装置40により、端面33の鏡面研磨加工が行われる。ここでは、磁性体を含む研磨スラリーが用いられ、鏡面研磨加工される。磁性体を含む研磨スラリーとは、磁性体が主として研磨砥粒として作用する磁性体砥粒や、磁性体が主として研磨砥粒を運ぶためのキャリアとして働く磁性流体を含む。
【0020】
次に、加工工程T4の研磨工程において付着した金属付着物である磁性体を端面から除去する工程を含む洗浄工程について説明する。
【0021】
洗浄工程T5では、
図6(a)に示す第1の端面洗浄装置60により加工工程T4で鏡面研磨処理されたガラス基板Gの端面が、端面洗浄冶具61により洗浄される。第1の端面洗浄装置60では、搬送ローラ62上を搬送されるガラス基板Gの両側に第1の端面洗浄冶具61が設けられると共に、ガラス基板Gの主表面側から端面側へシャワーを噴射する端面洗浄ノズル63が設けられる。
【0022】
第1の端面洗浄装置60を通過したガラス基板Gは、次いで、
図6(b)に示す第2の端面洗浄装置70により、端面が洗い流される。第2の端面洗浄装置70では、搬送ローラ62上を搬送されるガラス基板Gの両側に第2の端面洗浄冶具64が設けられる。
【0023】
第1の端面洗浄装置60、第2の端面洗浄装置70により、長辺側の端面33が洗浄されたガラス基板Gは、図示しない反転機によりガラス基板Gの向きを90度回転させて、ガラス基板Gの短辺側を、長辺側と同様に洗浄する。
【0024】
さらに、ガラス基板Gの端面33の4辺について洗浄した後、ガラス基板Gの主表面が洗浄される。
図6(c)に示す表面洗浄装置80により、ガラス基板Gの表面・裏面が洗浄される。搬送ローラ62上を搬送されるガラス基板Gの表面側・裏面側に、洗浄ローラ65が設けられ、ガラス基板用のアルカリ洗浄洗剤が塗布され、ガラス基板Gの主表面が洗浄される。本実施形態では、洗浄ローラ65は、ブラシローラとスポンジローラを組み合わせて使用され、ガラス基板の表面に付着する有機物やパーティクルが除去される。
【0025】
検査工程T6では、ガラス基板の端面および主表面の検査が行われて、その後、ディスプレイ用ガラス基板として、ディスプレイパネルメーカーなどに出荷される。
【0026】
以下、図面を参照して本発明の端面加工および端面洗浄について説明する。
本実施形態の加工工程では、
図3に示す第1、2の研削工程、及び
図4に示す研磨工程を有している。
【0027】
まず、第1端面加工機30および第2端面加工機34について説明する。
図3に示すように、第1端面加工機30では、矢印の方向にガラス基板Gを搬送しながら、ガラス基板の両端に設けられた第1研削ホイール31、第2研削ホイール32により、まず長辺側の端面を順次研削加工する。そして、長辺側を研削加工した後、同様に短辺側の研削加工を行い、必要に応じて、図示しないオリフラ加工、コーナーカットを行う。
【0028】
第1研削ホイール31は、ダイヤモンド砥粒を、鉄を含む金属系の結合剤で固めた研削ホイールである。第1研削ホイールの結合剤は第2研削ホイール32の結合剤よりも硬度及び剛性が高いものが用いられる。ここで硬度とはショア硬さであり、剛性とはヤング率をいう。第1研削ホイール31の結合剤が金属系であれば、例えばコバルト系、ブロンズ系などの他の金属結合剤を用いても良い。また、第2研削ホイールの結合剤よりも硬度及び剛性が高ければ、第1研削ホイール31の結合剤としてセラミックス質の結合剤を用いてもよい。第1研削ホイール31は、例えば、JIS R6001−1987で規定される♯300から♯400程度の粒度のダイヤモンド砥粒を用いることができる。本実施形態では、第1研削ホイール31は、♯400の粒度のダイヤモンド砥粒を用いる。砥粒はダイヤモンドに限らず、CBN(ボラゾン)であっても良い。
第1研削ホイール31の粒度は、第2研削ホイール32のダイヤモンド砥粒の粒度と等しいか又はそれよりも粗くてもよい。
【0029】
第2研削ホイール32は、ダイヤモンド砥粒を、エポキシを含む樹脂系の結合剤で固めた研削ホイールである。第2研削ホイール32の結合剤は第1研削ホイール31の結合剤よりも硬度及び剛性が低いものが用いられる。第2研削ホイール32の結合剤は、第1研削ホイール31の結合剤よりも硬度及び合成が低ければ、セラミックス質の結合剤を用いてもよい。樹脂系であれば、例えばポリイミド系の材質であってもよい。砥粒はダイヤモンドに限らず、CBNであっても良い。本実施形態では、第2研削ホイール32は、JIS R6001−1987で規定される♯400の粒度のダイヤモンド砥粒を用いる。
なお、第1研削ホイール31の砥粒の粒度は、第2研削ホイール32の砥粒の粒度と等しいか又はそれよりも粗いことが研削を効率よく行う上で好ましい。
【0030】
第1研削工程では、第1研削ホイール31に形成された形状、例えば所定の曲率を有する研削溝によって、ガラス基板Gの端面を、所定の研削量、研削する。これにより、ガラス基板Gの端面は、元の端面よりもガラス基板の中央側に後退し、端面の断面形状は、第1研削ホイール31の研削溝の断面形状に対応して曲率のついた凸形状、円弧状またはR形状に研削される。ここで、研削量とは、研削前の元の端面から、研削されて後退した研削後の凸形状の端面の頂点までの距離である。すなわち、ガラス基板Gの端面がガラス基板Gの主表面の方向に研削された量である。第1研削ホイール31によるガラス基板Gの研削量は、例えば40μmから80μmまでの範囲内である。第1研削工程におけるガラス基板Gの搬送速度は、生産性を確保する観点から10m/分以上であることが好ましい。本実施形態では、ガラス基板Gの搬送速度は10m/分である。
【0031】
第1研削工程では、ガラス基板Gの端面のJIS B 0601−1982で規定される最大高さRmaxが、少なくとも10μm以上かつ18μm以下、より好ましくは13μm以上かつ14μm以下になるように、ガラス基板Gの端面が研削される。また、ガラス基板Gの端面のJIS B 0601−1994で規定される算術平均粗さRaは、例えば0.5μm程度になる。
【0032】
その後、第1研削工程に連続して設けられた第2研削工程において、ガラス基板Gは、第2研削ホイール32の研削溝によって端面が研削される。これにより、ガラス基板Gの端面の断面形状は、第2研削ホイール32の研削溝の断面形状に対応して曲率のついた凸形状、円弧状またはR形状に研削される。本実施形態では、第2研削ホイール32の研削溝を、第1研削ホイール31の研削溝とほぼ同一形状にすることで、ガラス基板の端面の見かけ上の形状を変えることなく、ガラス基板Gの端面を、所定の研削量、研削している。
【0033】
第2研削ホイール32によるガラス基板Gの研削量は、例えば10μmから30μmまでの範囲内である。第2研削工程では、ガラス基板Gの端面33のJIS B 0601−1982で規定される最大高さRmaxが、少なくとも4μm以上かつ8μm以下、より好ましくは6μm程度になるように、ガラス基板Gの端面を研削する。また、ガラス基板Gの端面の上記算術平均粗さRaは0.2μ以下、例えば0.1μmから0.2μm程度になる。
【0034】
上述した第1、第2研削工程によりガラス基板Gの長辺側を加工した後、図示しない反転機によりガラス基板Gの向きを90度回転させて、ガラス基板Gの短辺側を、長辺側と同様に加工する。
【0035】
なお、第1研削ホイール31、第2研削ホイール32の回転方向については、ガラス基板Gと接触する点における研削ホイール31の外周面の移動方向が、ガラス基板Gの搬送方向と同じになるように設定されてもよいし、逆の方向に設定されてもよい。本実施形態では、第1、第2研削工程においてガラス基板Gと接触する点における第1研削ホイール31、第2研削ホイール32の外周面の移動方向が、ガラス基板Gの搬送方向と逆の方向になるように、第1、第2研削ホイール31、32を一方向に回転させている。
【0036】
研削工程では、上述のようにガラス基板Gの端面の断面形状が曲率のついた凸形状、円弧状またはR形状に研削されるとともに、ガラス基板Gの端面の上記算術平均粗さRaは、0.2μm以下になるように研削される。しかしながら、ダイヤモンドホイールである研削ホイール12aによって研削されたガラス基板Gの端面には、マイクロクラックやヘアクラックと呼ばれる微小なクラックを含む層が形成される。この層は、加工変質層あるいは脆弱破壊層と呼ばれ、上記第1研削工程、第2研削工程を経ても、1μmから3μm程度の厚さで存在する。このような層が存在することで、ガラス基板Gの端面における破壊強度が低下したり、微小なクラックからガラスが脱落したりする。このような層を除去し、ガラス基板Gの端面における破壊強度を向上させるために、研磨加工が行われる。
【0037】
研磨工程では、ガラス基板Gの端面の加工変質層あるいは脆弱破壊層を除去し、ガラス基板Gの端面の算術平均粗さRaが、例えば0.01μm未満になるように、研磨ホイール12bによってガラス基板Gの端面を研磨する。
【0038】
図4に示すように、研削工程により、長辺側、短辺側のガラス基板の端面33の研削を終えたガラス基板Gは、研磨ホイール12bによる研磨を行う位置まで搬送される。その後、ガラス基板を図示しないステージ上に工程し、
図4(a)(b)に示す第2端面加工機34に取り付けられた研磨装置40より加工する。
図4(b)は、
図4のII−II線に沿う断面図である。研磨装置40は、回転軸35を中心として研磨ホイール36を回転させる。回転ホイール36は、回転軸35の長さ方向に平行に設けられた円盤状の磁力体36a、36bの隙間(磁場形成部ともいう)に磁性体砥粒37(研磨メディアともいう)が設けられて構成される。
【0039】
磁力体36a、36bにより磁場がかけられた磁性体砥粒37に、ガラス基板Gの端部が食い込んで、ガラス基板Gの端面が磁性体砥粒37と接触した状態で研磨ホイール36が回転する。これにより、磁性体砥粒37とガラス基板Gの端面とが相対的に移動して、ガラス基板Gの端面が、磁場形成部の形成する磁場により拘束された磁性体砥粒によって研磨される。
【0040】
磁性体砥粒37に含まれる砥粒形状は、真円度の小さい多角形状、又は角部を有する不定形状である。角部を有する不定形状とは、1つまたは複数の鋭い角を有する立体的な一様でない形状を含む。また、角部を有するとは、粒子が縁に向かって薄くなっていること、粒子の断面の輪郭線が1つまたは複数の鋭角または鈍角を形成すること、及び粒子の縁が尖っていることを含む。
また、磁性体砥粒は球状であってもよい。球状とは、断面形状が円形のものだけでなく、断面形状が楕円形、長円形などの角のない丸みを帯びた形状を含む。
【0041】
研磨工程を経て、ガラス基板Gの端面33は、
図5に示すとおり、頂部Aと、端面と主表面の境界部B、Cを持ち、これらの箇所において、ガラス基板Gは、端面の加工変質層あるいは脆弱破壊層が除去され、算術平均粗さRaが、0.01μm未満に鏡面研磨処理される。特に、境界部B、CのRaが0.01未満になることで、端面33からのガラス粉の発生が抑制され、ガラス基板Gの主表面へ付着が軽減される。また、ガラス基板Gの曲げ強度の向上も図られる。
【0042】
なお、本実施形態では、ステージ上に固定されたガラス基板Gを研磨する例を用いて説明をしたが、ガラス基板Gを、固定された研磨ホイールに対して移動させてもよい。また、ガラス基板Gの端面33を1辺ずつ研磨してもよく、研磨ホイールを複数用意して、ガラス基板Gの端面33の複数辺を同時に研磨してもよい。また、本実施形態に用いる磁性体を含む研磨スラリーとして、磁性体が主として研磨砥粒として作用する磁性体砥粒を用いて説明をしたが、磁性体が主として研磨砥粒を運ぶためのキャリアとして働く磁性流体による研磨加工であってもよい。
【0043】
また、ガラスの除去量及び表面粗さである算術平均粗さRaの測定は、東京精密社製のサーフコムA1400を用いて、
図7に示すガラス基板Gの端面の頂点Aと、端面と表面との境界の近傍の点B及び点Cにおいて行った。ガラスの除去量の測定は、計測モードは断面計測モード、測定速度は0.6mm/s、傾斜補正は前半補正、測定距離は20mmで行った。また、表面粗さの測定は、計測モードは粗さ計測、測定速度は0.3mm/s、測定方法はJIS1994で行った。また、算術平均粗さRaの測定は、Ra<0.02のときにカットオフ0.08及び測定長さ0.4mmとし、0.02<Ra<0.2のときにカットオフ0.25及び測定長さ1.25mmとし、0.1<Ra<2のときにカットオフ0.8及び測定長さ4mmとした。
【0044】
次に、本発明の洗浄作用について説明する。本発明では、磁性体砥粒で研磨加工されたガラス基板の端面に付着した磁性体を除去する方法として、所定のpH環境下においてガラス基板の端面に付着した磁性体異物の表面をプラスにイオン化すると共に、ガラス基板の端面の表面電位をプラスにして、磁性体異物をガラス基板の端面から浮上させると共に、キレート作用によって再付着を防止することを検討した。
【0045】
まず、本発明では、第1の端面洗浄工程において、pHを2未満、好ましくはpH1.6未満の酸性薬液をガラス基板Gの端面に供給して、ガラス基板の端面表面に残留した磁性体砥粒(以下、磁性体異物ともいう)のイオン化を行う。これにより、表面電位がプラスとなったガラス表面と磁性体異物との静電相互作用を小さくして、磁性体異物をガラス基板の端面から離れやすくする。そして、ガラス表面と磁性体異物との静電相互作用を小さくした状態で、スポンジによる物理的洗浄を行うことで、磁性体異物をガラス基板の端面から確実に離脱させる。
【0046】
さらに、第1の端面洗浄工程において供給される薬液に、pH2未満の環境下において鉄に対するキレート効果を有する薬液を含ませることで、イオン化した鉄をキレートしてガラスへの再付着を防止している。
【0047】
還元効果を有する薬液としては、少なくとも標準酸化還元電位が−0.35V以下の酸性薬液を含むことが好ましい。例えば、Fe
3+イオンの還元には−0.77V必要とされているが、キレート効果を持つ薬液の使用することによりFe
3+イオンの還元電位を下げる事ができる。つまり、上記の電位以上でも還元効果を得ることができ、より端面の洗浄作用が高くなる。
【0048】
物理的洗浄によりガラスの表面から離れた磁性体異物が、ガラス表面と磁性体異物表面との静電相互作用が大きくなる程度のpHに変動しても、磁性体異物がキレートされていることで、磁性体異物がガラス基板に再付着することを防止する。
【0049】
第2の端面洗浄工程では、第1の端面洗浄工程においてキレートした磁性体異物を洗浄除去ためのリンスを行う。第2の端面洗浄工程では、後工程に磁性体異物を持ち込まないようにすることが好ましい。例えば、キレートされた鉄成分を除去するために、pH2程度の酸性薬液を使用し、その後、純水洗浄によりリンスに用いた薬液を落とすとよい。
【0050】
図6(a)の第1の端面洗浄冶具61について、
図7(a)、(b)を用いて説明する。
図7(a)は、第1の端面洗浄機60中のガラス基板の端面の一部を示す。
第1の端面洗浄冶具61は、回転軸61aにより回転する支持部61b上に設けられた洗浄パッド61cを有し、搬送ローラ62により搬送されるガラス基板の両端を洗浄するものである。
【0051】
洗浄パッド61cとガラス基板との端面には、端面洗浄ノズル63aから、pH1.6程度の酸性薬液が吐出される。一例としては、シュウ酸と酒石酸の混合液がガラス基板の端面に塗布される。洗浄パッド61cが酸性薬液を含み、ガラス基板の端面に接触して摺動することで、ガラス基板の端面に対して、化学的な洗浄と物理的な洗浄とをもたらし、ガラス基板の端面に付着した磁性体異物をガラスから離脱させることができる。離脱した磁性体異物は、酒石酸によりキレートされる。
【0052】
ガラス基板の端面に接触する端面洗浄冶具は、
図7(b)のように、端面に対して回転方向がほぼ垂直となる洗浄ローラ611であってもよい。また、薬液を63bのように端面に対して正面方向から供給してもよい。
【0053】
次に、
図6(b)の第2の端面洗浄装置70について、
図7(c)を用いて説明する。
第1の端面洗浄装置60を通過したガラス基板Gは、第2の端面洗浄装置70に投入されて、第2の端面洗浄冶具64a、64bにより、前工程の薬液が洗い流される。
【0054】
図7(c)は、第2の端面洗浄装置70中のガラス基板の端面の一部を示す。
第2の洗浄工程では、リンス液により、後工程の表面洗浄装置までにキレートされた磁性体異物を洗い流すと共に、ガラス基板に付着する酸性薬液のpHを下げて、後工程に酸性薬液が持ち込まれることを抑制ことが必要となる。
【0055】
第2の端面洗浄冶具64は、
図7(c)に示すように、ガラス基板Gの端面に対して、所定の角度を有するように対向して設けられた洗浄ノズル64を有する。まず、洗浄ノズル64aから吐出される第1リンス液によって端面を洗い流す。第1リンス液は、第1の洗浄工程において用いられた薬液と同等のpHを持つものを用いた。第1の洗浄工程から付着していた薬液が、第1リンス液により洗い流された後、第2リンス液として、純水を用いてガラス基板の端面を洗い流す。これにより、後工程の表面洗浄工程に酸性薬液を持ち込むことを防止できる。また、第1リンス液に、第1洗浄工程と同等のpHを持つ薬液を用いることで確実に磁性体異物を洗い流す。
【0056】
なお、本実施の形態では、ガラス基板Gの主表面側には、主表面側から端面側へ、リンス液を吐出する洗浄ノズルが設けられると共に、端面の正面側かもリンス液を吐出する洗浄ノズルが設けられてもよい。
【0057】
本発明のディスプレイ用ガラス基板の製造方法では、鉄の価電子数をFe
2+とした上で、錯体を形成することが好ましいと考えられるため、上記実施形態では、還元性の強いシュウ酸を第1の端面洗浄装置において用いられる酸性薬液に添加した。
【0058】
錯体の安定性では、鉄の価電子数はFe
2+よりもFe
3+の方が高い安定性を持つ。しかし、ガラス端面に付着した離れた鉄成分がFe
3+の状態では、端面から離れた鉄成分を完全にキレートできなかった場合、ガラス基板上に残留した磁性体異物が、上述したリンス工程においてFe
2+と比較してガラス基板の表面で不動態化して再付着が起こりやすい。
そのため、本発明では、磁性体異物がキレートされずに残留している可能性を小さくして、表面洗浄工程に搬送する前の、ガラス基板から磁性体異物の錯体を除去するリンス工程において、洗浄液のpHを酸性から中性側に移行しても、異物がガラス基板の表面に再付着して不動態化することを抑制する。
つまり、本発明では、磁性体異物を構成する鉄異物をFe
2+に還元していることで、本発明の洗浄工程によっても、Fe
3+に比べてガラス表面での不動態化による再付着を抑制できる、という効果を奏する。
【0059】
本発明のキレート剤としては、2座配位以上を行うキレート剤が好ましい。
具体的には、Feの正八面体の六配位の鉄イオン中心から、xyz軸方向に3Å以下の距離において、分子構造を備えることが好ましい。
【0060】
具体例としては、前記キレート効果を有する薬液は、サリチル酸、フタル酸、グリオキシル酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、タルタロン酸、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸。ニトリロ3酢酸、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸等のアミノカルボン酸。セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン等のアミノ酸から選択される1種以上とする。
【0061】
以上、本実施形態のガラス基板の製造方法の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
【0062】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
まず、本発明の研磨加工に用いた、磁性体砥粒は、フェライト系の磁性体であり、粒子の形状が角部を有する不定形状であり、平均粒子径が5μm以上かつ10μm以下であり、最大磁束密度が1.3Tであり、最大透磁率が3.0H/mである磁性体からなる研磨砥粒を用意した。次に、用意した研磨砥粒と水とを混合することで、研磨メディアを作製した。一例としては、研磨メディア中の砥粒の濃度が85%以上となるよう磁性体砥粒と水とを混合するとよい。
【0063】
本実施例においては、管理の容易性、量産適用性を考慮してwt%を用いて磁性流動体の濃度の管理を行ったが、磁性流動体の濃度の管理はvol%を用いて行うこともできる。wt%とvol%との換算は、磁性体砥粒のかさ比重と、水の密度1g/cm3とに基づいて算出することができる。また、上記の比較例及び実施例においては、研磨加工中の磁性流動体からの水の蒸発を考慮して、蒸発した分の水を磁性流動体に補給するようにした。具体的には、ホイールに対して磁性体砥粒と水を混合した供給用磁性流動体を所定の間隔で供給した。供給用磁性流動体は、ホイールに保持される磁性流動体よりも濃度が低く、流動性が高い状態で供給される。
【0064】
上記研磨処理によって得られるガラス基板Gの端面には、
図5で示される境界部B、境界部Cに、磁性体砥粒からなる磁性体異物が付着する。
このガラス基板Gの端面に対して、以下の実施例に記載された酸性薬液を用いて洗浄を行い、評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
(実験1)
各々の有機酸薬液は濃度が2wt%になるよう調整した。リンスの際はpHが2以上にならないよう作業を実施した。
磁性砥粒による加工の後、以下の工程で端面の洗浄を実施した。
1)前述薬液をノズルによる噴射、2)薬液を浸漬させたディスクスポンジ、3)薬液をノズルによる噴射によるリンス、4)純水噴射によるリンス。なお、実施例、比較例では、0.5mmの厚さのガラス基板を用いた。
【0066】
評価方法は、ガラス基板の端面に残存する異物を、粘着性のある冶具で剥離して、その単位面積あたりの付着量を測定して行った。具体的には、ガラス基板端面に残存する異物の残存面積割合については、各試料のガラス基板の四辺の端面のそれぞれの中央部にセロハンテープを貼り、セロハンテープを剥がし、剥がしたセロハンテープの表面をCCD撮像装置付きの光学顕微鏡を用いて観察した。なお、ガラス基板の端面の加工領域の厚さ方向全長(
図5のB点からC点にかけて)にセロハンテープが貼りつけられるようにした。
【0067】
光学顕微鏡による観察領域は、
図5のガラス基板の端面のB点からC点までの距離である0.75mm×ガラス基板の長さ方向0.75mmの領域とした。この領域の異物の個数をカウントして、評価を行った。
【0068】
また、洗浄工程後のガラス基板の主表面(表裏面)に付着する異物についても、評価を行った。具体的には、ガラス表裏面に付着した異物量については、ガラス基板表面検査装置(日立ハイテク電子エンジニアリング社製GI4830)を用いて測定した。測定条件としてはポリスチレン標準粒子1μm以上を検知する条件で測定を行った。
【0070】
表1に示すように、洗浄後のガラス基板の端面状態に関して、
図5に示すA点、B点、及びC点について、レーザー顕微鏡による表面観察を行い、洗浄効果の評価を実施した。pH、還元効果、キレート効果各々条件については、薬液物性より尺度化を行った。
【0071】
表1の、実施例、比較例において、酸解離定数(pKa)は、pH4.4以下を◎、pH4.4〜6を◎、pH6未満を×と示した。また、還元力は標準水素電極の電極電位から、−0.35V以下を◎、−0.35V〜−0.05Vを◎、−0.05V以上を×とした。
【0072】
洗浄効果について洗浄後の端面パーティクルの個数が150未満である場合を「洗浄効果:高」とし、300未満である場合を「洗浄効果:有」とした。また、300で以上ある場合を「洗浄効果:無」とした。
【0073】
上記観察面積のなかに300を超える異物がなければ、ディスプレイ製造工程において、鉄系異物の存在による歩留まり低下を引き起こすことがない。鉄系の異物による影響が懸念されるTFTパネル製造工程においても問題なかった。また、上記観察面積のなかに300を超える異物がないガラス基板からは、ガラス基板表面検査装置によって1μmを超える異物が検出されなかった。
【0074】
上記実施例、比較例の結果、有機酸の酸性度、還元能を有するシュウ酸、キレート価の高い酒石酸を用いると高い清浄効果が確認できた。実施例4では、特に高い洗浄効果が得られた。
【0075】
上記実施例から、有機酸のカルボキシル基を含む薬液を使用し、カルボキシル基の少なくとも一部がイオン化されるpHを有するよう、薬液の調整を行うことが好ましい。より好ましくは、複数個所のカルボキシル基を有し、複数個所のカルボキシル基がイオン化するよう、かつガラス等電点のpHを下回るように調整した薬液を用いることが好ましい。
【0076】
上述した通り、本発明の一の態様では、pHを2未満、好ましくはpH1.6未満にすることで、ガラス表面と磁性体異物の静電相互作用を小さくして磁性体異物である鉄をイオン化してをガラス基板の端面から浮上させ、さらにイオン化した鉄をキレートすることでガラスへの再付着を防止する。そして後工程のリンス工程において、洗浄除去する。またリンス工程においても、リンスに用いる薬液は、還元又はキレートに使用した薬液と同様のpHを有すればよい。例えば、リンスに用いる薬液はpH3以下、又はpH2〜3の範囲内とすることが好ましい。
酸性の薬液でも濃硝酸や濃硫酸等の強い酸化力のある酸を用いると鉄の表面の不動態化するため、強い酸化力を有する酸は好ましくない。
【0077】
また、本発明のガラス基板の製造方法では、鉄の価電子数をFe
2+とした上で、錯体を形成することが好ましい。錯体の安定性では、鉄の価電子数はFe
2+よりもFe
3+の方が高い安定性を持つ。しかし、ガラス端面に付着した離れた鉄成分をFe
3+に還元する場合、端面から離れた鉄成分を完全にキレートできなかった場合、リンス工程においてガラス基板の表面で不動態化して再付着してしまうおそれがある。
そのため、本発明では、鉄の錯体を除去すると共に、その他異物の除去を行うリンス工程において、リンスのために洗浄液のpHを酸性から中性側に移行したとしても、鉄異物をFe
2+に還元していることで、Fe
3+に比べてガラス表面での不動態化を抑制でき、鉄異物がガラス基板の表面に再付着することを抑制する。つまり、端面に付着していた鉄異物が表面に回りこむことを抑制する。
【0078】
また、前記還元効果を有する薬液は、少なくとも標準酸化還元電位が−0.35V以下の酸性薬液を含むことが好ましい。Fe
3+イオンの還元には−0.77V必要とされているが、キレート効果を持つ薬液の使用することによりFe
3+イオンの還元電位を下げる事ができる。つまり、上記設定電位以上でも還元効果を得ることができ、端面洗浄が可能になる。上記実施例では、シュウ酸を用いている。なお、Fe
3+イオンの還元には−0.77V必要とするため、より高い洗浄性を得るために、−0.8V以下の酸性薬液の標準酸化電位を有する薬液を用いても良い。
【0079】
また、キレート剤としては、2座配位以上を行うキレート剤が好ましい。具体的には、Feの正八面体の六配位の鉄イオン中心から、xyz軸方向に 3Å以下の距離に電子供与基を有する分子構造を備えることが好ましい。具体例としては、前記キレート効果を有する薬液は、サリチル酸、フタル酸、グリオキシル酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、グルコン酸、トランス−アコニット酸、タルタロン酸、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸。ニトリロ3酢酸、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸等のアミノカルボン酸。セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン等のアミノ酸から選択される1種以上とする。
【0080】
端面の洗浄は、物理的洗浄を伴う洗浄であることが好ましい。ガラス基板の端面から離れた異物を確実に端面から除去するために、薬液を含みまたは保持した状態でガラス基板の端面に接触し、端面を洗浄する洗浄冶具が用いられるとよい。例えば、ディスクス状のスポンジやブラシなどが好ましい。
【0081】
本発明を用いて製造されるガラス基板としては、ディスプレイ用途に限定されるものではなく、その他のガラス基板の製造に適用されてもよい。また、ロール状に巻き取られる薄板のガラス基板に適用しても良い。ロール状に巻き取られるガラス基板では、成形されたガラスシートの両側部が切断され、この両側部の切断面に対して加工され、この切断面に対しての加工、洗浄が行われる。
【0082】
上記実施形態では、実施形態および
図4で説明した研磨装置40を用いて、回転軸35に取り付けられた磁力体36a、36b間に保持した研磨メディアによって端面の鏡面研磨加工をしたが、他の形態により磁性体砥粒とガラス基板の端面を接触させて研磨したガラスの洗浄にも用いることができる。
図8に他の形態の研磨装置180を示す。磁性体を含む研磨スラリー187が供給部184から、図示しない溝を有する回転ホイール182の溝に供給され、回転ホイールに設けられる磁力体185により、磁性体を含む研磨スラリー187を保持して移動させる。磁性体を含む研磨スラリー187は、回転に伴いガラス板の端面に接触して、回収部186により回収される。
【0083】
また、本発明を用いて製造されるガラス板、ガラス基板としては、ディスプレイ用途に限られるものではないが、ディスプレイ用途に好適に用いることができる。本発明を用いて製造されるディスプレイ用ガラス基板としては、駆動用のTFTパネル用ガラス基板に限定されるものではなく、例えば、カラーフィルタ用ガラス基板や、カバーガラス用のガラス基板なども含む。また、ディスプレイ装置としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに限定されるものではなく、その他のディスプレイ用途であってもよい。