特許第5833187号(P5833187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5833187
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月16日
(54)【発明の名称】陽イオン交換膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 47/12 20060101AFI20151126BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20151126BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20151126BHJP
【FI】
   B01J47/12
   B01J39/20
   C08J5/22 101
   C08J5/22CEW
【請求項の数】2
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-117243(P2014-117243)
(22)【出願日】2014年6月6日
(62)【分割の表示】特願2011-538414(P2011-538414)の分割
【原出願日】2010年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-195806(P2014-195806A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2014年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2009-245869(P2009-245869)
(32)【優先日】2009年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】亀山 弘之
(72)【発明者】
【氏名】角 佳典
(72)【発明者】
【氏名】杉本 学
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−256486(JP,A)
【文献】 特開2000−273216(JP,A)
【文献】 特開2002−079114(JP,A)
【文献】 特開2002−249604(JP,A)
【文献】 特開2004−043594(JP,A)
【文献】 特開平07−233267(JP,A)
【文献】 特開昭51−131489(JP,A)
【文献】 特開平04−308096(JP,A)
【文献】 特開昭58−037186(JP,A)
【文献】 特開昭57−039187(JP,A)
【文献】 特開昭57−025330(JP,A)
【文献】 実開昭52−015542(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42− 1/44
B01J 39/00−49/02
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有する犠牲糸と、前記強化芯材及び前記犠牲糸が溶解しない所定溶媒に対して溶解する性質を有するダミー糸と、を織り込むことにより、隣接する前記強化芯材同士の間に、前記犠牲糸と前記ダミー糸が配置された補強材を得る工程と、
前記補強材を前記所定溶媒に浸漬することで、前記ダミー糸を前記補強材から除去する工程と、
前記ダミー糸が除去された補強材と、イオン交換基又は加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体とを積層させることで、前記補強材を有する膜本体を形成させる工程と、
前記犠牲糸を酸又はアルカリに浸漬させて、前記犠牲糸を前記膜本体から除去することで、前記膜本体に溶出孔を形成させる工程と、
を有し、
前記犠牲糸と前記ダミー糸が配置された補強材を得る工程で得られる前記補強材が、隣接する前記強化芯材同士の間に前記犠牲糸2本と前記ダミー糸2本が配置され、かつ、前記強化芯材/前記犠牲糸/前記ダミー糸/前記ダミー糸/前記犠牲糸/前記強化芯材の順に配置された領域を少なくとも有する、陽イオン交換膜の製造方法。
【請求項2】
2以上の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有する犠牲糸と、前記強化芯材及び前記犠牲糸が溶解しない所定溶媒に対して溶解する性質を有するダミー糸と、を織り込むことにより、隣接する前記強化芯材同士の間に、前記犠牲糸と前記ダミー糸が配置された補強材を得る工程と、
前記補強材を前記所定溶媒に浸漬することで、前記ダミー糸を前記補強材から除去する工程と、
前記ダミー糸が除去された補強材と、イオン交換基又は加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体とを積層させることで、前記補強材を有する膜本体を形成させる工程と、
前記犠牲糸を酸又はアルカリに浸漬させて、前記犠牲糸を前記膜本体から除去することで、前記膜本体に溶出孔を形成させる工程と、
を有し、
前記犠牲糸と前記ダミー糸が配置された補強材を得る工程で得られる前記補強材が、隣接する前記強化芯材同士の間に前記犠牲糸2本と前記ダミー糸4本が配置され、かつ、前記強化芯材/前記ダミー糸/前記ダミー糸/前記犠牲糸/前記犠牲糸/前記ダミー糸/前記ダミー糸/前記強化芯材の順に配置された領域を少なくとも有する、陽イオン交換膜の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素イオン交換膜は耐熱性及び耐薬品性等が優れていることから、塩化アルカリの電解で塩素とアルカリを製造するための電解用陽イオン交換膜をはじめとして、オゾン発生用隔膜、燃料電池、水電解及び塩酸電解等の種々の電解用隔膜等として用いられている。その中で、塩化アルカリの電解では、生産性の観点から電流効率が高いこと、経済性の観点から電解電圧が低いこと、製品の品質の観点から苛性ソーダ中の食塩濃度が低いこと等が要望されている。
【0003】
これらの要望のうち、高い電流効率を発現するために、アニオン排除性の高いカルボン酸基をイオン交換基とするカルボン酸層と、低抵抗のスルホン酸基をイオン交換基とするスルホン酸層との少なくとも2層から構成されているイオン交換膜が一般的に用いられている。これらのイオン交換膜は、電解運転時に、80〜90℃の塩素及び苛性ソーダと直接接触するため、化学的耐久性が非常に高い含フッ素系ポリマーがイオン交換膜の材料として用いられる。しかし、かかる含フッ素系ポリマーのみでは、イオン交換膜として十分な機械的強度を有さない。そのため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる織布を強化芯材として膜に埋め込んで補強すること等が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、織布により補強された陽イオン交換基を有する含フッ素系重合体フィルムの第1の層と、その陰極側のカルボン酸基を有する含フッ素系重合体の第2の層とからなる電解用含フッ素陽イオン交換膜であって、多孔性基材の厚みの1/2以上が第1の層から陽極側に突出し、該多孔性基材の突出部を、陽イオン交換基を有する含フッ素系重合体の被覆層が第1の層と一体となるように被覆し、その陽極側面には、多孔性基材の表面形状に応じた凹凸を形成するようにした電解用含フッ素陽イオン交換膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−308096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記強化芯材は、アルカリイオン等の陽イオンが膜内の陽極側から陰極側へ流れる際の、遮蔽物となってしまい、陽イオンが陽極側から陰極側へ円滑に流れることを妨げてしまう。これを解決するために、陽イオンや電解液等の流路を確保するための孔(以下、「溶出孔」という。)を陽イオン交換膜に形成することで、電解液の流路とすることが行われており、これにより陽イオン交換膜の電気抵抗を低下させることが期待される。しかしながら、この溶出孔が陽イオン交換膜の膜強度を低下させてしまう。特に、陽イオン交換膜を電解槽に装着するときや陽イオン交換膜を持ち運ぶとき等に、陽イオン交換膜が折れ曲がり、溶出孔がピンホールの起点となりやすいという問題が発生する。特許文献1に開示された陽イオン交換膜は、強化芯材が陽イオン交換膜から突出している。そのため、電解槽内の振動等により陽イオン交換膜が電極等と擦れたりする場合、強化芯材を被覆していた樹脂が削れ、そこから強化芯材が突き出してしまい、膜本体の補強部材としての機能を果たさなくなるという問題がある。
【0007】
加えて、陽イオン交換膜を電解槽に装着して電解を行う場合、電解に必要とされる電圧(電解電圧)を低減することが求められており、これを実現するために低抵抗の陽イオン交換膜であることが望まれている。そして、長期に安定した電解性能を発揮できる陽イオン交換膜であることが望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、折り曲げ等に対する機械的強度に優れ、長期に安定した電解性能を発揮できる陽イオン交換膜、それを用いた電解槽及び陽イオン交換膜の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体と、前記膜本体の内部に略平行に配置された2以上の強化芯材と、を少なくとも備えた陽イオン交換膜であって、前記膜本体には、隣接する前記強化芯材同士の間に2以上の溶出孔が形成され、かつ、隣接する前記強化芯材同士の距離をa、隣接する前記強化芯材と前記溶出孔との距離をb、隣接する前記溶出孔同士の距離をc、隣接する前記強化芯材同士の間に形成された前記溶出孔の数をnとしたとき、特定の関係式を満たすa、b、c、及びnが存在する陽イオン交換膜とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕
イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体と、前記膜本体の内部に略平行に配置された2以上の強化芯材と、を少なくとも備えた陽イオン交換膜であって、
前記膜本体には、隣接する前記強化芯材同士の間に2以上の溶出孔が形成され、かつ、
隣接する前記強化芯材同士の距離をa、隣接する前記強化芯材と前記溶出孔との距離をb、隣接する前記溶出孔同士の距離をc、隣接する前記強化芯材同士の間に形成された溶出孔の数をnとしたとき、下記式(1)又は式(2)の関係を満たすa、b、c、及びnが少なくとも存在する、陽イオン交換膜。
b>a/(n+1)・・・(1)
c>a/(n+1)・・・(2)
〔2〕
前記a、前記c、及び前記nが、下記式(3)の関係を更に満たす、〔1〕に記載の陽イオン交換膜。
0.2a/(n+1)≦c≦0.9a/(n+1)・・・(3)
〔3〕
前記a、前記b、及び前記nが、下記式(4)の関係を更に満たす、〔1〕又は〔2〕に記載の陽イオン交換膜。
a/(n+1)<b≦1.8a/(n+1)・・・(4)
〔4〕
前記a、前記c、及び前記nが、下記式(5)の関係を更に満たす、〔1〕又は〔3〕に記載の陽イオン交換膜。
1.1a/(n+1)≦c≦0.8a・・・(5)
〔5〕
前記a、前記b、前記c、及び前記nが、前記式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間と、
前記a、前記b、前記c、及び前記nが、前記式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間とが、交互に存在する、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の陽イオン交換膜。
〔6〕
前記第一の強化芯材間において、前記a、前記b、前記c、及び前記nが、下記式(3)及び下記式(4)の関係を更に満たし、かつ
前記第二の強化芯材間において、前記a、前記b、前記c、及び前記nが、下記式(5)の関係を更に満たす、〔5〕に記載の陽イオン交換膜。
0.2a/(n+1)≦c≦0.9a/(n+1)・・・(3)
a/(n+1)<b≦1.8a/(n+1)・・・(4)
1.1a/(n+1)≦c≦0.8a・・・(5)
〔7〕
下記式(6)の関係を満たす第一の強化芯材間と、下記式(7)の関係を満たす第二の強化芯材間とが、交互に存在する、〔5〕又は〔6〕に記載の陽イオン交換膜。
n=2、b>a/3・・・(6)
n=2、c>a/3・・・(7)
〔8〕
下記式(8)の関係を満たす第一の強化芯材間と、下記式(9)の関係を満たす第二の強化芯材間とが、交互に存在する、〔5〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の陽イオン交換膜。
n=2、0.2a/3≦c≦0.9a/3、a/3<b≦1.8a/3・・・(8)
n=2、1.1a/3≦c≦0.8・・・(9)
〔9〕
前記陽イオン交換膜のMD方向及びTD方向において、前記式(1)又は前記式(2)の関係を満たす、前記a、前記b、前記c、及び前記nが少なくとも存在する、〔1〕に記載の陽イオン交換膜。
〔10〕
前記陽イオン交換膜のMD方向及びTD方向において、前記式(3)及び前記式(4)の関係を満たす第一の強化芯材間、又は前記式(5)の関係を満たす第二の強化芯材間が存在する、〔6〕に記載の陽イオン交換膜。
〔11〕
2以上の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有する犠牲糸と、前記強化芯材及び前記犠牲糸が溶解しない所定溶媒に対して溶解する性質を有するダミー糸と、を織り込むことにより、隣接する前記強化芯材同士の間に、前記犠牲糸と前記ダミー糸が配置された補強材を得る工程と、
前記補強材を前記所定溶媒に浸漬することで、前記ダミー糸を前記補強材から除去する工程と、
前記ダミー糸が除去された補強材と、イオン交換基又は加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体とを積層させることで、前記補強材を有する膜本体を形成させる工程と、
前記犠牲糸を酸又はアルカリに浸漬させて、前記犠牲糸を前記膜本体から除去することで、前記膜本体に溶出孔を形成させる工程と、
を有する、陽イオン交換膜の製造方法。
〔12〕
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の陽イオン交換膜と、を少なくとも備える電解槽。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、折り曲げ等に対する機械的強度に優れ、長期に安定した電解性能を発揮できる陽イオン交換膜、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る陽イオン交換膜の第一の実施形態の断面側面図である。
図2】本実施形態に係る陽イオン交換膜の第一の実施形態の概念図である。
図3】本実施形態に係る陽イオン交換膜の第二の実施形態の概念図である。
図4】本実施形態に係る陽イオン交換膜の第三の実施形態の概念図である。
図5】本実施形態に係る陽イオン交換膜の第四の実施形態の概念図である。
図6】本実施形態に係る陽イオン交換膜の第五の実施形態の概念図である。
図7】本実施形態に係る製造方法の一例を説明するための概念図である。
図8】実施例及び比較例で作製した陽イオン交換膜の概念図である。
図9】実施例及び比較例で作製した別の陽イオン交換膜の概念図である。
図10】本実施形態に係る電解槽の一実施形態の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
<陽イオン交換膜>
図1は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の第一の実施形態の側面断面図である。図2は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の第一の実施形態の概念図である。陽イオン交換膜1は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体14と、前記膜本体14の内部に略平行に配置された2以上の強化芯材10と、を少なくとも備えた陽イオン交換膜である。前記膜本体14には、隣接する前記強化芯材10同士の間に2以上の溶出孔12が形成され、かつ、隣接する前記強化芯材10同士の距離をa、隣接する前記強化芯材10と前記溶出孔12との距離をb、隣接する前記溶出孔12同士の距離をc、隣接する前記強化芯材10同士の間に形成された前記溶出孔12の数をnとしたとき、下記式(1)又は式(2)の関係を満たす、a、b、c、及びnが少なくとも存在する。
b>a/(n+1)・・・(1)
c>a/(n+1)・・・(2)
【0015】
膜本体14は、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、含フッ素系重合体を含むものである。膜本体14は、スルホン酸基をイオン交換基として有するスルホン酸層142と、カルボン酸基をイオン交換基として有するカルボン酸層144と、を少なくとも備えていることが好ましい。通常、陽イオン交換膜1は、スルホン酸層142が電解槽の陽極側(α)に、カルボン酸層144が電解槽の陰極側(β)となるように用いられる。スルホン酸層142は電気抵抗が低い材料から構成され、膜強度の観点から膜厚が厚いことが、好ましい。カルボン酸層144は、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有するものが好ましい。このようなカルボン酸層144とすることにより、ナトリウムイオン等の陽イオンの選択的透過性を一層向上させることができる。膜本体14は、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、含フッ素系重合体を含むものであればよく、その構造は必ずしも上記構造に限定されない。ここで、アニオン排除性とは、陽イオン交換膜へのアニオンの浸入や透過を妨げようとする性質をいう。
【0016】
膜本体14に用いられる含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体であり、例えば、フッ素化炭化水素の主鎖からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体が挙げられる。このような含フッ素系重合体の製造方法の一例について、以下に説明する。
【0017】
含フッ素系重合体は、例えば、下記第1群より選ばれる少なくとも1種の単量体と、下記第2群及び/又は下記第3群より選ばれる少なくとも1種の単量体と、を共重合することにより製造することができる。また、下記第1群、下記第2群、及び下記第3群のいずれかより選ばれる1種の単量体の単独重合により製造することもできる。
【0018】
第1群の単量体としては、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。特に、本実施形態に係る陽イオン交換膜1をアルカリ電解用膜として用いる場合、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が好ましい。
【0019】
第2群の単量体としては、例えば、カルボン酸基(カルボン酸型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。カルボン酸基(カルボン酸型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF2=CF(OCF2CYF)s−O(CZF)t−COORで表される単量体等が挙げられる(ここで、sは0〜2の整数を表し、tは1〜12の整数を表し、Y及びZは、各々独立して、F又はCF3を表し、Rは低級アルキル基を表す。)。
これらの中でも、CF2=CF(OCF2CYF)n−O(CF2m−COORで表される化合物が好ましい。ここで、nは0〜2の整数を表し、mは1〜4の整数を表し、YはF又はCF3を表し、RはCH3、C25、又はC37を表す。特に、本実施形態に係る陽イオン交換膜をアルカリ電解用陽イオン交換膜として用いる場合、単量体としてパーフルオロ化合物を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、前記アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。これらの中でも、例えば、下記に表す単量体がより好ましい;
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2COOCH3
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF22COOCH3
CF2=CF[OCF2CF(CF3)]2O(CF22COOCH3
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF33COOCH3
CF2=CFO(CF22COOCH3
CF2=CFO(CF23COOCH3
【0020】
第3群の単量体としては、例えば、スルホン酸基(スルホン型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン酸基(スルホン型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF2=CFO−X−CF2−SO2Fで表される単量体が好ましい(ここで、Xはパーフルオロ基を表す。)。これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる;
CF2=CFOCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、
CF2=CF(CF22SO2F、
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕2CF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF2OCF3)OCF2CF2SO2F。
これらの中でも、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、及びCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fがより好ましい。
【0021】
これら単量体から得られる共重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された重合法、特にテトラフルオロエチレンに対して用いられる一般的な重合方法によって製造することができる。例えば、非水性法においては、パーフルオロ炭化水素、クロロフルオロカーボン等の不活性溶媒を用い、パーフルオロカーボンパーオキサイドやアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、温度0〜200℃、圧力0.1〜20MPaの条件下で、重合反応を行うことができる。
【0022】
上記共重合において、上記単量体の組み合わせの種類及びその割合は、特に限定されず、得られる含フッ素系重合体に付与したい官能基の種類及び量によって選択決定される。例えば、カルボン酸エステル官能基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第2群から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。また、スルホニルフルオライド官能基のみを含有する重合体とする場合、上記第1群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。更に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基を有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群、第2群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。この場合、上記第1群及び第2群よりなる共重合体と、上記第1群及び第3群よりなる共重合体とを、別々に重合し、後に混合することによっても目的の含フッ素系重合体を得ることができる。また、各単量体の混合割合は、特に限定されないが、単位重合体当たりの官能基の量を増やす場合、上記第2群及び第3群より選ばれる単量体の割合を増加させればよい。
【0023】
含フッ素系共重合体の総イオン交換容量は特に限定されないが、0.5〜2.0mg当量/gである乾燥樹脂であることが好ましく、0.6〜1.5mg当量/gである乾燥樹脂がより好ましい。ここで、総イオン交換容量とは、乾燥樹脂の単位重量あたりの交換基の当量のことをいい、中和滴定等によって測定することができる。
【0024】
本実施形態の陽イオン交換膜1は、陰極側表面及び陽極側表面にガスが付着することを防止する観点から、必要に応じて、コーティング層146、148を更に有することが好ましい。コーティング層146、148を構成する材料としては、特に限定されないが、ガス付着防止の観点から、無機物を含むことが好ましい。無機物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。コーティング層146、148を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散した液を、スプレー等により塗布する方法が挙げられる。
【0025】
陽イオン交換膜1は、膜本体14の内部に略平行に配置された2以上の強化芯材10を有する。強化芯材10とは、陽イオン交換膜1の機械的強度や寸法安定性を強化する部材である。ここで、寸法安定性とは、陽イオン交換膜の伸び縮みを所望の範囲に抑制できる性質をいう。寸法安定性に優れた陽イオン交換膜は、加水分解や電気分解等によって、必要以上に伸縮せず、長期に亘り寸法が安定している。強化芯材10を構成する部材等については、特に限定されず、例えば、強化糸から形成された強化芯材としてもよい。ここで、強化糸とは、強化芯材を構成する部材であって、陽イオン交換膜に所望の機械的強度を付与することができ、かつ陽イオン交換膜中で安定に存在できる糸のことをいう。
【0026】
強化芯材10の形態としては、特に限定されず、例えば、上記強化糸を用いた織布、不織布、編布等が用いられる。これらの中でも、製造の容易性の観点から、織布であることが好ましい。織布の織り方としては、平織りの織り方であることが好ましい。織布の厚みは、特に限定されないが、30〜250μmであることが好ましく、30〜150μmであることがより好ましい。また、強化糸の織り密度(単位長さあたりの打ち込み本数)は、特に限定されないが、5〜50本/インチが好ましい。
【0027】
強化芯材10の開口率としては、特に限定されず、好ましくは30%以上、90%以下である。開口率は、陽イオン交換膜の電気化学的性質の観点から、30%以上であることが好ましく、膜の機械的強度の観点から、90%以下であることが好ましい。より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上である。
【0028】
ここで、開口率とは、陽イオン交換膜の表面積の合計(A)に対する陽イオン交換膜においてイオン等の物質が通過できる面積の合計(B)の割合であり、(B)/(A)で表される。(B)は、陽イオン交換膜において、陽イオンや電解液等が、陽イオン交換膜に含まれる強化芯材や強化糸等によって遮断されない領域の面積の合計である。開口率の具体的な測定方法を説明する。陽イオン交換膜(コーティング等を塗る前の陽イオン交換膜)の表面画像を撮影し、強化芯材が存在しない部分の面積から、上記(B)が求められる。そして、陽イオン交換膜の表面画像の面積から上記(A)を求め、上記(B)を上記(A)で除することによって、開口率が求められる。
【0029】
強化芯材10を構成する強化糸の材料は、特に限定されないが、酸やアルカリ等に耐性を有する材料であることが好ましい。特に、長期にわたる耐熱性及び耐薬品性の観点から、含フッ素系重合体を含むものがより好ましい。ここでいう含フッ素系重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、トリフルオロクロルエチレン−エチレン共重合体及びフッ化ビニリデン重合体(PVDF)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び耐薬品性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0030】
強化芯材10に用いられる強化糸の糸径は、特に限定されないが、20〜300デニールであることが好ましく、50〜250デニールであることがより好ましい。強化糸は、モノフィラメントでもよいし、マルチフィラメントでもよい。また、これらのヤーン、スリットヤーン等も使用できる。
【0031】
強化芯材10として、特に好ましい形態は、耐薬品性及び耐熱性の観点から、PTFEを含む強化芯材であり、強度の観点から、テープヤーン糸又は高配向モノフィラメントである。具体的には、PTFEからなる高強度多孔質シートをテープ状にスリットしたテープヤーン、又はPTFEからなる高度に配向したモノフィラメントの50〜300デニールを使用し、かつ、織り密度が10〜50本/インチである平織りであり、その厚みが50〜100μmの範囲である強化芯材であることがより好ましい。また、強化芯材含む陽イオン交換膜の開口率は、60%以上であることが更に好ましい。
【0032】
膜本体14には2以上の溶出孔12が形成されている。溶出孔12は、電解の際に発生する陽イオンや電解液の流路となり得る孔をいう。溶出孔12を形成することで、電解の際に発生するアルカリイオンや電解液の移動性を確保できる。溶出孔12の形状は特に限定されない。後述する製法に従って陽イオン交換膜を製造する場合、酸又はアルカリに溶解する犠牲糸が、膜本体の溶出孔を形成するため、溶出孔12の形状は犠牲糸の形状となる。
【0033】
図1に示すように、陽イオン交換膜1は、紙面に対して垂直方向に形成された溶出孔12aと、紙面の上下方向に形成された溶出孔12bとを備えている。即ち、紙面の上下方向に形成された溶出孔12bは、強化芯材10に対して略垂直方向に沿って形成されている。溶出孔12bは、強化芯材10の陽極側(スルホン酸層142側)と陰極側(カルボン酸層144側)を交互に通過するように形成されることが好ましい。かかる構造とすることで、強化芯材10の陰極側に溶出孔12bが形成されている部分では、溶出孔に満たされている電解液を通して輸送された陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)が、強化芯材10の陰極側にも流れることができる。その結果、陽イオンの流れが遮蔽されることがないため、陽イオン交換膜1の電気抵抗を更に低くすることができる。
【0034】
なお、図1において、陽イオン交換膜1は、紙面に対して垂直方向に形成された溶出孔12aと、紙面の上下方向に形成されている溶出孔12bと、を備えている。ここで、隣接する前記強化芯材10同士の間に形成された前記溶出孔12の数をnとは、同一方向に配置された溶出孔12の数をいう。図1の場合、紙面に対して垂直方向に形成された溶出孔12aの数を、紙面に対する垂直方向のnの数として数え、紙面の上下方向に形成された溶出孔12bの数を、紙面における上下方向のnとして数えるものである。
【0035】
図2に示すように、隣接する前記強化芯材10同士の距離をa、隣接する前記強化芯材10と前記溶出孔12との距離をb、隣接する前記溶出孔12同士の距離をc、隣接する前記強化芯材10同士の間に形成された前記溶出孔12の数をnとしたとき、下記式(1)又は式(2)の関係を満たす、a、b、c及びnが少なくとも存在する。
b>a/(n+1)・・・(1)
c>a/(n+1)・・・(2)
【0036】
ここで、a/(n+1)は、強化芯材10間に、溶出孔を等間隔に配置した際の距離に相当する。式(1)の関係を満たすa、b、c及びnが存在する強化芯材10間では、隣接する強化芯材10と溶出孔12の距離bは、等間隔(a/(n+1))よりも大きい。このとき、隣接する強化芯材10と溶出孔12の距離bとしては、隣接する強化芯材10間に2つ存在するので、2つのbが存在する(即ち、図2において、左端の強化芯材10と溶出孔12の間、右端の強化芯材10と溶出孔12の間)。本実施形態では、2つのbのうち、少なくとも1つのbが、式(1)の関係を満たしていればよい。より好ましくは、隣接する強化芯材10間に存在する上記2つのbの両方が、式(1)の関係を満たしていることである。なお、aは、定義から明らかであるが、隣り合う強化芯材の間に存在する、全てのbと全てのcの総和である。
【0037】
式(2)の関係を満たすa、b、c及びnが存在する強化芯材10間では、隣接する溶出孔12同士の間隔cは、等間隔(a/(n+1))よりも大きい。このとき、隣接する溶出孔12同士の距離cは、nが3以上の場合、隣接する強化芯材10間に2以上存在するので、2以上のcが存在することになる。このような場合、本実施形態では、少なくとも1つのcが式(2)の関係を満たしていればよい。
【0038】
以上の説明からも明らかなように、本実施形態の陽イオン交換膜1において、式(1)又は式(2)の関係を満たすような配置を少なくとも1箇所有していればよい。
【0039】
さらに、溶出孔12は、隣接する強化芯材の中央に対して略対称の位置に配置されていることが好ましい。このとき、隣り合う強化芯材の間に存在する上記2つのbは、略同じ値となる。
【0040】
上記式(1)又は式(2)の関係を満たすように、強化芯材10及び溶出孔12を膜本体14に形成させることで、少なくとも陽イオン交換膜1の機械的強度を向上させることができる。強化芯材10及び溶出孔12の位置関係を、式(1)又は式(2)で表される特定の位置関係とすることで、陽イオン交換膜1を取り扱う際に膜が折れ曲がってしまう恐れがある場合であっても、特定の部位に負荷がかかりすぎてピンホールが発生するといった不具合を防止できる。その結果、陽イオン交換膜1の折り曲げ耐性を優れたものにし、長期にわたり優れた機械的強度を維持でき、かつ安定した電解性能を発揮できる。本実施形態では、上記式(1)と式(2)のいずれかの関係を満たすものであれば、上記効果を得ることができるが、機械的強度の観点から、式(2)の関係を満たすことがより好ましい。
【0041】
加えて、上記式(1)又は(2)の関係を満たすことで、電解電圧を一層低減することができる。電解の際に発生するアルカリイオン等の陽イオンや電解液の移動性を確保する溶出孔12の配置を制御することで、電解電圧の低減を図ることができる。溶出孔12の配置を制御する方法の一例としては、後述するように、陽イオン交換膜の製造工程において、製織条件等を適宜変更する方法等が挙げられる。
【0042】
また、陽イオン交換膜1を電解槽内に装着した場合、電解槽の振動等により陽イオン交換膜1が電極等と擦れる場合であっても、強化芯材10が膜本体14の表面を傷つけたり、突き破ってしまったりすることを防ぐことができる。膜本体の内部に、強化芯材10等が埋め込まれているため。強化芯材10が膜本体の表面を傷つけたり、突き破ったりすることがない。特に、強化芯材10が局所的に削れられてしまうこと等を効果的に防止できる。これにより、膜寿命が長い陽イオン交換膜1とすることができる。
【0043】
本実施形態の一形態では、a、c、nは、式(1)又は式(2)の関係に加えて、下記式(3)の関係を更に満たすことが好ましい。
0.2a/(n+1)≦c≦0.9a/(n+1)・・・(3)
式(3)の関係を満たすことで、陽イオン交換膜1の機械的強度を更に向上させることができる。加えて、電解電圧の低減効果を更に向上させることができる。
a、c、nは、式(1)又は式(2)の関係に加えて、式(3−1)の関係を更に満たすことがより好ましく、式(3−2)の関係を更に満たすことが更に好ましい。
0.4a/(n+1)≦c≦0.8a/(n+1)・・・(3−1)
0.4a/(n+1)≦c≦0.75a/(n+1)・・・(3−2)
【0044】
また、式(3)の関係を満たすとき、a、b、nが、下記式(4)の関係を更に満たすことが好ましい。
a/(n+1)<b≦1.8a/(n+1)・・・(4)
式(3)に加えて、式(4)の関係を更に満たすことにより、陽イオン交換膜1の機械的強度を更に向上させることができる。加えて、電解電圧を一層低減させることができる。
a、b、nは、式(3)の関係に加えて、式(4−1)の関係を満たすことがより好ましく、式(4−2)の関係を満たすことが更に好ましい。
1.05a/(n+1)≦b≦1.6a/(n+1)・・・(4−1)
1.1a/(n+1)≦b≦1.5a/(n+1)・・・(4−2)
【0045】
なお、式(3)及び式(4)の関係を満たす強化芯材間においては、強化芯材と隣り合う溶出孔の間隔bが広く、溶出孔間の間隔cが狭い配置となる。つまり、その強化芯材間では、当然に式(1)が満たされる。
【0046】
加えて、隣接する強化芯材10と溶出孔12の距離bとしては、隣接する強化芯材10間に2つ存在するので、2つのbが存在するが(即ち、図2において、左端の強化芯材10と溶出孔12の間、右端の強化芯材10と溶出孔12の間)、2つのbのうち、少なくとも1つのbが、式(4)の関係を満たしていればよい。より好ましくは、隣接する強化芯材10間に存在する上記2つのbの両方が、式(4)の関係を満たしていることである。
【0047】
別の実施形態では、a、c、nは、式(1)又は式(2)の関係に加えて、下記式(5)の関係を更に満たすことが好ましい。
1.1a/(n+1)≦c≦0.8a・・・(5)
式(5)の関係を満たすことで、陽イオン交換膜1の機械的強度を更に向上させることができる。式(5)の関係を満たすことで、陽イオン交換膜1の折り曲げ等による引張伸度の低下を更に抑制でき、電解電圧を一層低減させることができる。
【0048】
a、c、nは、式(1)又は式(2)の関係に加えて、式(5−1)の関係を満たすことがより好ましく、式(5−2)の関係を満たすことが更に好ましい。
1.1a/(n+1)≦c≦1.8a/(n+1)・・・(5−1)
1.1a/(n+1)≦c≦1.7a/(n+1)・・・(5−2)
【0049】
ここで、n=2の場合を挙げて、上記した各式の関係について説明する。n=2のとき、強化芯材間の溶出孔の数は2個であり、溶出孔を等間隔に並べた間隔a/(n+1)=a/3となる。したがって、n=2の場合、式(1)及び式(2)は、それぞれ下記式(6)及び式(7)となる。
n=2、b>a/3・・・(6)
n=2、c>a/3・・・(7)
【0050】
そして、式(6)の関係を満たす強化芯材間では、式(3)の関係を更に満たすことが好ましい。式(6)に加えて、式(3)の関係も満たす場合、溶出孔間の間隔が狭く、強化芯材と溶出孔間の間隔は広くなる。それによって、機械的強度が向上し、電解電圧の低減を図ることができる。より好ましくは、式(1)に加えて、式(4)も満たすことである。
【0051】
また、式(7)の関係を満たす強化芯材間では、式(5)の関係を満たすことが好ましい。式(7)に加えて、式(5)の関係も満たす場合、溶出孔間の間隔が広く、強化芯材と溶出孔間の間隔は狭くなる。それによって、機械的強度が向上し、電解電圧の低減を図ることができる。
【0052】
より好ましくは、式(6)と式(3)の関係を満たす第一の強化芯材間と、式(7)と式(5)の関係を満たす第二の強化芯材間が、交互に繰り返されるように配置されていることである。それによって、より機械的強度が向上し、電解電圧の低減を図ることができる。
【0053】
本実施形態に係る陽イオン交換膜は、膜の所定の一方向において、式(1)又は式(2)の関係を満たすものであればよく、陽イオン交換膜のMD方向及びTD方向の少なくともいずれかの方向において、式(1)又は式(2)の関係を満たすものであればよい。少なくとも陽イオン交換膜のTD方向(後述するTD糸)において、式(1)又は式(2)の関係を満たすことが好ましく、陽イオン交換膜のMD方向及びTD方向の両方向において、式(1)又は式(2)の関係を満たすことがより好ましい。
【0054】
そして、MD方向及びTD方向の少なくともいずれかの方向において、式(1)又は式(2)に加えて、式(3)及び(4)の関係を満たす強化芯材間を有することが好ましく、少なくとも陽イオン交換膜のTD方向(TD糸)において、式(3)の関係を更に満たす強化芯材間を有することが、より好ましく、陽イオン交換膜のMD方向及びTD方向に両方において、式(3)の関係を更に満たす強化芯材間を有することが、更に好ましい。
【0055】
また、MD方向及びTD方向の少なくともいずれかの方向において、式(1)又は式(2)に加えて、式(5)の関係を満たす強化芯材間を有することが好ましく、少なくとも陽イオン交換膜のTD方向(TD糸)において、式(5)の関係を更に満たす強化芯材間を有することが、より好ましく、陽イオン交換膜のMD方向及びTD方向に両方において、式(5)の関係を更に満たす強化芯材間を有することが、更に好ましい。
【0056】
ここで、MD方向(machine direction)とは、後述する陽イオン交換膜の製造において、膜本体や各種芯材(例えば、強化芯材、強化糸、犠牲糸、ダミー糸等を用いて補強材を織る場合は、得られる補強材等)が搬送される方向(「流れ方向」)である。そして、MD糸とは、MD方向に沿って織られた(編みこまれた)糸のことをいう。TD方向(transverse direction)とは、MD方向と略垂直の方向をいう。そして、TD糸とは、TD方向に沿って織られた(編みこまれた)糸のことをいう。陽イオン交換膜のMD方向とTD方向の2方向において式(1)又は式(2)、更には式(3)又は式(5)等の関係も満たすことで、陽イオン交換膜の機械的強度をより優れたものにでき、かつ電解電圧をより低減することができる。
【0057】
図3は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の第二の実施形態の概念図である。陽イオン交換膜2は、そのMD方向及びTD方向の両方において、式(1)又は式(2)の関係を満たすものである。即ち、陽イオン交換膜2は、膜本体(図示せず)のMD方向(X参照)において、膜本体の内部に配置された2以上の強化芯材20xを少なくとも備え、隣接する前記強化芯材20x同士の間に2以上の溶出孔22xが形成され、かつ、隣接する前記強化芯材20x同士の距離をax、隣接する前記強化芯材20xと前記溶出孔22xとの距離をbx、隣接する前記溶出孔12同士の距離をcx、隣接する前記強化芯材20x同士の間に形成された前記溶出孔22xの数をnxとしたとき、下記式(1x)又は式(2x)の関係を満たす。
x>ax/(nx+1)・・・(1x)
x>ax/(nx+1)・・・(2x)
【0058】
さらに、陽イオン交換膜2は、膜本体(図示せず)のTD方向(Y参照)において、膜本体の内部に配置された2以上の強化芯材20yを少なくとも備え、隣接する前記強化芯材20y同士の間に2以上の溶出孔22yが形成され、かつ、隣接する前記強化芯材20y同士の距離をay、隣接する前記強化芯材20yと前記溶出孔22yとの距離をby、隣接する前記溶出孔12同士の距離をcy、隣接する前記強化芯材20y同士の間に形成された前記溶出孔22yの数をnyとしたとき、下記式(1y)又は式(2y)の関係を満たす。
y>ay/(ny+1)・・・(1y)
y>ay/(ny+1)・・・(2y)
【0059】
本実施形態では、陽イオン交換膜中の全ての強化芯材及び溶出孔が、上記した特定の関係(例えば、式(1)又は式(2)、或いは式(3)又は式(5)等)を満たすように形成されている必要はない。例えば、式(1)又は式(2)の関係を満たすように配置された溶出孔を有する強化芯材間を少なくとも1箇所有している陽イオン交換膜であれば、陽イオン交換膜の折り曲げ耐性が向上する。
【0060】
また、陽イオン交換膜のMD方向において隣接する2本の強化芯材と、TD方向において隣接する2本の強化芯材とで区切られた領域を、1領域としたとき、陽イオン交換膜中の全ての領域の面積に対する、式(1)又は式(2)の関係を満たす領域の面積比率は、特に限定されないが、80%〜100%の面積比率であることが好ましく、90〜100%であることがより好ましい。陽イオン交換膜の端部周辺は、使用時に電解槽に固定され、電解槽フランジ等に挟まれる部位として用いられる。面積比率が80%以上であれば、通電部に相当する部分において、折り曲げによるピンホールやクラックなどの発生を防止することができるため、好ましい。加えて、面積比率が80%以上であれば、通電部分に相当する部分において、電解電圧の低減の効果が得られるため、好ましい。
【0061】
また、式(3)又は式(5)の関係を満たす場合、式(3)又は式(5)の関係を満たす領域の面積比率は、特に限定されないが、陽イオン交換膜中の全ての領域の面積に対して、40%〜100%の面積比率であることが好ましく、45〜100%であることがより好ましい。式(3)又は式(5)の関係を満たす区画は、式(1)又は式(2)も満たす区画と比べて、折り曲げ耐性が一層優れる傾向にあるため、40%以上であれば、十分に高い折り曲げ耐性が得られる。
【0062】
図4は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の第三の実施形態の概念図である。陽イオン交換膜3は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体(図示せず)と、前記膜本体の内部に略平行に配置された2以上の強化芯材301、302、303と、を少なくとも備えた陽イオン交換膜であって、隣接する強化芯材同士の間に2以上のn個の溶出孔321、322、323、・・・、324、325、326、・・・が形成されている。
【0063】
図4の場合、強化芯材301、302で区切られた強化芯材間と、強化芯材302、303で区切られた強化芯材間とが交互に繰り返すように配置されている。具体的には、強化芯材301、302で区切られた強化芯材間では、前記溶出孔321、322、323の各距離c1、c2、・・・(以下、cと総称する場合がある)のうち、少なくともc1が式(2)のc1>a1/(n+1)の関係を満たす。一方、強化芯材302、303で区切られた強化芯材間は、前記強化芯材と隣接する溶出孔の間隔b2が、少なくとも式(1)のb2>a1/(n+1)の関係を満たす。
【0064】
このように、陽イオン交換膜において、式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間(強化芯材302と303とで区切られた強化芯材間)と、式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間(強化芯材301と302とで区切られた強化芯材間)とが、交互に存在することが好ましい。これにより、当該方向において、陽イオン交換膜3の機械的強度をより向上させることができ、電解電圧をより低減することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、陽イオン交換膜における、上記第一の領域と第二の領域が交互に配置される方向は、特に限定されないが、陽イオン交換膜のMD方向又はTD方向の少なくともいずれかの方向において、式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間と、式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間とが交互に繰り返されるように配置される、陽イオン交換膜であることが好ましい。より好ましくは、陽イオン交換膜のMD方向(TD糸の配置方向)に沿って、式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間と、式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間とが、交互に繰り返されるように配置される、陽イオン交換膜である。更に好ましくは、MD方向及びTD方向において、式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間と、式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間とが、交互に繰り返されるように配置される、陽イオン交換膜である。
【0066】
通常、陽イオン交換膜は矩形状であり、その長手方向がMD方向となり、幅方向がTD方向となることが多い。このような陽イオン交換膜は、その出荷時や電解槽への装着時までの間、塩化ビニル管のような筒体に巻きつけて搬送される。筒体に巻きつける際には、筒体の長さを短くするために、陽イオン交換膜のTD方向が折れ線となり、陽イオン交換膜が折り曲がることがある。かかる場合であっても、上記構成の陽イオン交換膜であれば、TD方向における負荷の集中を効率よく回避できるため、ピンホール等の発生を効果的に防止できる。
【0067】
本実施形態の一形態として、式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間において、式(3)及び式(4)の関係を更に満たし、式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間において、式(5)の関係を更に満たす、陽イオン交換膜であることが好ましい。これにより、機械的強度をより向上させることができ、電解電圧をより低減できる。なお、この場合においても、陽イオン交換膜における、上記第一の領域と第二の領域が交互に配置される方向は、特に限定されない。
【0068】
また、別の実施形態として、式(1)の関係を満たす第一の強化芯材間において、式(6)の関係を更に満たし、式(2)の関係を満たす第二の強化芯材間において、式(7)の関係を更に満たすようイオン交換膜であることが好ましい。これにより、機械的強度をより向上させることができ、電解電圧をより低減できる。なお、この場合においても、陽イオン交換膜における、上記第一の領域と第二の領域が交互に配置される方向は、特に限定されない。
【0069】
図5は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の第四の実施形態の概念図である。陽イオン交換膜4は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体(図示せず)と、前記膜本体の内部に略平行に配置された2以上の強化芯材401、402、403と、を少なくとも備えた陽イオン交換膜であって、陽イオン交換膜4のMD方向又はTD方向の少なくともいずれかの方向において、下記式(6)の関係を満たす強化芯材間と、下記式(7)の関係を満たす強化芯材間と、が交互に存在する。
n=2、b>a/3・・・(6)
n=2、c>a/3・・・(7)
【0070】
このような配置にすることにより、機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができるので、好ましい。
【0071】
図5において、強化芯材401、402で区切られた強化芯材間では、強化芯材401と溶出孔421との距離b1及び強化芯材402と溶出孔422の距離b2は、いずれも上記式(6)のb1(b2)>a/3の関係を満たす。そして、2本の溶出孔421、422間の距離c1はc1<a1/3の関係を満たす。即ち、強化芯材401、402で区切られた強化芯材間では、溶出孔421、422の距離c1は等間隔に比べて狭い。
【0072】
なお、上記式(6)において、b1又はb2の少なくともいずれかがb>a/3の関係を満たすものであればよいが、機械的強度及び製造の容易性の観点から、b1及びb2のいずれもがb>a/3の関係を満たすことがより好ましい。
【0073】
強化芯材402、403で区切られた強化芯材間では、強化芯材402と溶出孔423との距離b3及び強化芯材403と溶出孔434の距離b4は、いずれもb<a2/3の関係を満たす。そして、2本の溶出孔423、424間の距離c2は上記式(7)のc2>a2/3の関係を満たす。即ち、強化芯材402、403で区切られた強化芯材間では、溶出孔423、424の距離c2は等間隔に比べて広い。
【0074】
なお、上記式(7)の関係を満たす場合、b3又はb4の少なくともいずれかが、b<a/3の関係となり得るが、機械的強度及び製造の容易性の観点から、b3及びb4のいずれもがb<a/3の関係を満たすことが好ましい。
【0075】
陽イオン交換膜4は、MD方向又はTD方向の少なくともいずれかの方向において、下記式(8)の関係を満たす強化芯材間と、下記式(9)の関係を満たす強化芯材間と、が交互に存在することがより好ましい。この場合、図5では、距離a1、b1、b2、及びc1が、下記式(8)の関係を満たし、距離a2、b3、b4、及びc2が、下記式(9)の関係を満たすことになる。
n=2、0.2a/3≦c≦0.9a/3、a/3<b≦1.8a/3・・・(8)
n=2、1.1a/3≦c≦0.8・・・(9)
このような配置にすることにより、機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができる。
【0076】
図6は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の第五の実施形態の概念図である。陽イオン交換膜5は、MD方向(X参照)に沿って配置された強化芯材501x、502x、503xと、TD方向(Y参照)に沿って配置された強化芯材501y、502y、503yとによって区切られた4つの領域が形成されている。そして、陽イオン交換膜5のMD方向に沿って溶出孔521x、522x、523x、524xが形成され、TD方向に沿って溶出孔521y、522y、523y、524yが形成されている。そして、陽イオン交換膜5は、そのMD方向及びTD方向の両方において、溶出孔の配置間隔が疎である領域と密である領域とが交互に配置されている構造を有している。
【0077】
陽イオン交換膜5では、(i)MD方向の強化芯材501x、502xとTD方向の強化芯材501y、502yとで囲まれた第一領域、(ii)MD方向の強化芯材502x、503xとTD方向の強化芯材501y、502yとで囲まれた第二領域、(iii)MD方向の強化芯材502x、503xとTD方向の強化芯材501y、502yとで囲まれた第三領域、及び(iv)MD方向の強化芯材502x、503xとTD方向の強化芯材502y、503yとで囲まれた第四領域を有しており、この各領域が繰り返すように配置されている。
【0078】
第一領域では、MD方向において式(6)の関係を満たすように溶出孔521x、522xが配置され、TD方向において式(7)の関係を満たすように溶出孔521y、522yが配置されている。機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができることから、MD方向において式(8)の関係を満たすように溶出孔521x、522xが配置されることが好ましい。かかる配置とすることにより、陽イオン交換膜の機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができる。同様に、TD方向において式(9)の関係を満たすように溶出孔521y、522yが配置されることが好ましい。
【0079】
第二領域では、MD方向において式(7)の関係を満たすように溶出孔523x、524xが配置され、TD方向において式(7)の関係を満たすように溶出孔521y、522yが配置されている。MD方向において式(9)の関係を満たすように溶出孔523x、524xが配置されることが好ましい。かかる配置とすることにより、陽イオン交換膜の機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができる。同様に、TD方向において式(9)の関係を満たすように溶出孔521y、522yが配置されることが好ましい。
【0080】
第三領域では、MD方向において式(6)の関係を満たすように溶出孔521x、522xが配置され、TD方向において式(6)の関係を満たすように溶出孔523y、524yが配置されている。MD方向において式(8)の関係を満たすように溶出孔521x、522xが配置されることが好ましい。かかる配置とすることにより、陽イオン交換膜の機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができる。同様に、TD方向において式(8)の関係を満たすように溶出孔523y、524yが配置されることが好ましい。
【0081】
第四領域では、MD方向において式(7)の関係を満たすように溶出孔523x、524xが配置され、TD方向において式(6)の関係を満たすように溶出孔523y、524yが配置されている。MD方向において式(9)の関係を満たすように溶出孔523x、524xが配置されることが好ましい。かかる配置とすることにより、陽イオン交換膜の機械的強度をより向上させることができ、かつ電解電圧をより低減させることができる。同様に、TD方向において式(8)の関係を満たすように溶出孔523y、524yが配置されることが好ましい。
【0082】
上記の構成とすることにより、陽イオン交換膜における強化芯材及び溶出孔の配置のバランスを一層良好なものとでき、その結果、寸法安定性がより向上する。
【0083】
<製造方法>
本実施形態に係る陽イオン交換膜の製造方法は、
2以上の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有する犠牲糸と、前記強化芯材及び前記犠牲糸が溶解しない所定溶媒に対して溶解する性質を有するダミー糸と、を織り込むことにより、隣接する強化芯材同士の間に、前記犠牲糸と前記ダミー糸が配置された補強材を得る工程と、
前記補強材を前記所定溶媒に浸漬することで、前記ダミー糸を前記補強材から除去する工程と、
前記ダミー糸が除去された前記補強材を、イオン交換基又は加水分解等によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体に積層させることで、前記補強材を有する膜本体を形成させる工程と、
前記犠牲糸を酸又はアルカリに浸漬させて、前記犠牲糸を前記膜本体から除去することで、前記膜本体に溶出孔を形成させる工程と、
を有するものである。
【0084】
本実施形態では、隣接する強化芯材同士の間に形成される溶出孔の間隔(例えば、図2のb、c参照)を等間隔にしないことが特徴の一つであるが、かかる構造を容易かつ効率よく実現するためにダミー糸を用いることができる。これについて図7を用いてより詳細に説明する。
【0085】
図7は、本実施形態に係る製造方法の一例を説明するための概念図である。まず2以上の強化芯材60の間に、溶出孔を形成する犠牲糸62と、ダミー糸66と、を織り込むことで補強材6を得る(図7の(i)参照)。この補強材6は、いわゆる織布や編布等の形態とすることができる。なお、生産性の観点から織布が好ましい。ここで、強化芯材60の間に、犠牲糸62と、ダミー糸66とを、略等間隔(間隔d)に配置されるように織り込むことが好ましい。犠牲糸62とダミー糸66とを略等間隔に織り込むことで、犠牲糸62の配置間隔を式(1)や式(2)等の関係式を満たすようにするために複雑な制御を必要とせず、織り込む作業が簡便であり生産効率がよい。なお、ダミー糸66は、所定溶媒に高い溶解性を有するものである。
【0086】
次に、補強材6を所定溶媒に浸漬することで、ダミー糸66のみを選択的に溶解除去する(図7の(ii)参照)。これにより、ダミー糸66が織り込まれた箇所は間隙となるため、間隔は広くなる。
【0087】
ダミー糸66の材料や、ダミー糸66を溶解除去するための所定溶媒の種類は、特に限定されず、所定溶媒に対する溶解性が、強化芯材60や犠牲糸62よりも高いものであればよい。ダミー糸66の材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロース、及びポリアミド等が挙げられる。これらの中でも、溶解性が高い観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0088】
所定溶媒とは、強化芯材及び犠牲糸は溶解しないが、ダミー糸は溶解させることができる性質を有する溶媒であればよい。したがって、ダミー糸を溶解させるのに必要な溶媒量等は特に限定されず、使用する強化芯材、犠牲糸、ダミー糸の材質や、製造条件等を考慮して適宜に、溶媒の種類や溶媒量を選択することができる。このような溶媒としては、例えば、酸、アルカリ、熱水等が挙げられる。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらの中でも、溶解速度が速い観点から、水酸化ナトリウム又は熱水が好ましい。
【0089】
ダミー糸66の太さや形状等は、特に限定されないが、20〜50デニールの太さを有し、かつ4〜12本の円形断面を有するフィラメントからなるポリビニルアルコールが好ましい。
【0090】
犠牲糸62とは、酸又はアルカリに溶解する性質を有し、陽イオン交換膜において溶出孔を形成する糸である。そして、犠牲糸62は、ダミー糸66が溶解する所定溶媒に対する溶解性がダミー糸66よりも小さい糸である。犠牲糸62の例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロース、及びポリアミド等が挙げられる。これらの中でも、製織時の安定性や、酸又はアルカリへの溶解性の観点からポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0091】
犠牲糸62の混織量は、好ましくは補強材全体の10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。また犠牲糸は、20〜50デニールの太さを有し、モノフィラメント又はマルチフィラメントからなるものが好ましい。
【0092】
ダミー糸66は、犠牲糸62同士の間や、強化芯材60と犠牲糸62の間に織り込むことができる。そのため、ダミー糸の太さや形状を適宜選択し、その織り込み方や織り込む順番等を適宜選択することにより、補強材6中の強化芯材60や犠牲糸62の配置間隔を任意に決定することができる。ダミー糸66は補強材6を含フッ素系重合体に積層する前に、所定溶媒により除去されるため、犠牲糸62の配置間隔等を任意に設定できる。このようにして、式(1)又は式(2)の関係を満たすように、強化芯材60と、溶出孔を形成する犠牲糸62を配置できる。
【0093】
また、図示はしないが、MD糸においては、織機の筬の1つの羽に、強化糸、犠牲糸、ダミー糸の中から2本以上の糸を束にして通す方法や、強化糸、犠牲糸、ダミー糸等を通す羽の間に、糸を通さない羽を設ける方法等によっても、補強材中の犠牲糸等を任意の間隔で配置することができる。例えば、MD方向において、織機の筬の1つの羽に通す糸(強化糸、犠牲糸等)の種類の組み合わせを変えることにより調節できる。例えば、1番目の羽に強化糸−犠牲糸の束を通し、2番目の糸に犠牲糸−強化糸の束を通し、3番目の束に犠牲糸−犠牲糸を通した場合、強化糸−犠牲糸−犠牲糸−強化糸−犠牲糸−犠牲糸の順を繰り返すように配置することができる。これにより、補強材中の犠牲糸の配置間隔を制御することができる。
【0094】
続いて、ダミー糸66が除去された補強材6を、イオン交換基を有する含フッ素系重合体に積層させることで、補強材6を有する膜本体を形成させることができる。膜本体の好ましい形成方法としては、以下の(1)工程及び(2)工程を行う方法等が挙げられる。
(1)陰極側に位置するカルボン酸エステル官能基を含有する含フッ素系重合体の層(以下、「第1層」という。)と、スルホニルフルオライド官能基を有する含フッ素系重合体の層(以下、「第2層」という。)とを共押出し法によってフィルム化する。そして、加熱源及び真空源を有し、その表面に細孔を有する平板またはドラム上に、透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、第2層/第1層複合フィルムの順に積層する。各ポリマーが溶融する温度下において、減圧して各層間の空気を除去しながら、一体化する。
(2)第2層/第1層複合フィルムとは別に、スルホニルフルオライド官能基を有する含フッ素系重合体の層(以下、「第3層」という。)を予め単独でフィルム化する。そして、加熱源及び真空源を有し、その表面に細孔を有する平板またはドラム上に、透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、第3層フィルム、補強材、第2層/第1層複合フィルムの順に積層する。各ポリマーが溶融する温度下で、減圧して各層間の空気を除去しながら一体化する。なお、この場合、押出しされたフィルムが流れていく方向が、MD方向である。
【0095】
ここで、第1層と第2層とを共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与している。また、減圧下で一体化する方法は、加圧プレス法に比べて補強材上の第3層の厚みが大きくなる特徴を有している。更に、補強材が陽イオン交換膜の内部に固定されているため、陽イオン交換膜の機械的強度が十分に保持できる性能を有している。
【0096】
なお、陽イオン交換膜の耐久性を更に高める目的で、第1層と第2層との間に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層(以下、「第4層」という。)を更に介在させることや、第2層としてカルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層を用いることも可能である。この場合、カルボン酸エステル官能基を含有する重合体と、スルホニルフルオライド官能基を含有する重合体と、を別々に製造した後に混合する方法でもよいし、カルボン酸エステル官能基を含有する単量体とスルホニルフルオライド官能基を含有する単量体の両者を共重合したものを使用する方法でもよい。
【0097】
第4層を陽イオン交換膜の構成とする場合には、第1層と第4層との共押出しフィルムを成形し、第2層と第3層はこれとは別に単独でフィルム化し、前述の方法で積層してもよい。また、第1層/第4層/第2層の3層を一度に共押し出しでフィルム化してもよい。このようにして、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体を、補強材上に形成することができる。
【0098】
さらに、膜本体に含まれている犠牲糸を酸又はアルカリで溶解除去することで、膜本体に溶出孔を形成させる。犠牲糸は、陽イオン交換膜の製造工程や電解環境下において、酸又はアルカリに対して溶解性を有するものであり、犠牲糸が溶出することで当該部位に溶出孔が形成される。このようにして、膜本体に溶出孔が形成された陽イオン交換膜を得ることができる。溶出孔は、上記した式(1)又は式(2)の関係式を満たす位置関係で形成されている。
【0099】
また、本実施形態に係る陽イオン交換膜は、そのスルホン酸層側(陽極面側、図1参照)にイオン交換基を有するポリマーのみからなる突出した部分を持つことが好ましい。当該突出部分は、樹脂のみからなることが好ましい。当該突出部分は、前記した第2層/第1層の複合フィルムと、補強材等とを一体化する際に用いることができる前記離型紙を、予めエンボス加工しておくことで、形成することも可能である。
【0100】
本実施形態に係る陽イオン交換膜は、種々の電解槽に用いることができる。図10は、本実施形態に係る電解槽の概念図である。電解槽Aは、陽極A1と、陰極A2と、前記陽極A1と前記陰極A2との間に配置された、本実施形態に係る陽イオン交換膜1と、を少なくとも備える。電解槽Aは、種々の電解に使用できるが、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
【0101】
電解条件は、特に限定されず、公知の条件で行うことができる。例えば、陽極室に2.5〜5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室は水又は希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給し、電解温度が50〜120℃、電流密度が5〜100A/dm2の条件で電解することができる。
【0102】
本実施形態に係る電解槽の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。電解槽を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性があるチタン等が好ましく、陰極室の材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性があるニッケル等が好ましい。電極の配置は、陽イオン交換膜と陽極との間に適当な間隔を設けて配置してもよいが、陽極とイオン交換膜が接触して配置されていても、何ら問題なく使用できる。また、陰極は一般的には陽イオン交換膜と適当な間隔を設けて配置されているが、この間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)であっても、何ら問題なく使用できる。
【0103】
本実施形態の陽イオン交換膜は、膜を構成する部材を上記した関係式を満たすように膜本体内に配置させていることにより、電解電圧の低減を図ることも可能となる。特に、陽イオン等の各種物質の通り道となる溶出孔が等間隔に配置された従来の陽イオン交換膜に比べて、溶出孔を不等間隔に配置されることにより、陽イオンの抵抗が減少する。その結果、電解電圧が低減されるものと考えられる(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない)。
【0104】
特に、上記した式(2)の関係を満たす強化芯材間においては、陽イオンの遮蔽となる強化芯材の近くに、溶出孔が配置される。そのため、陽イオンの通る遮蔽領域が減少し、陽イオンの抵抗がより減少する。その結果、電解電圧は更に低減されることになる(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない)。
【実施例】
【0105】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
[距離の測定]
隣接する強化芯材同士の距離a、隣接する強化芯材と溶出孔との距離b(b1、b2)、隣接する溶出孔同士の距離c(c1、c2)は以下の方法により測定した(図8図9参照)。
TD方向における距離を測定する場合、TD方向と垂直な方向(即ち、MD方向)に沿って、陽イオン交換膜をカットする。カット面は、陽イオン交換膜のTD方向における断面となる。MD方向における距離を測定する場合、MD方向と垂直な方向(TD方向)に沿って、陽イオン交換膜をカットする。カット面は、陽イオン交換膜のMD方向の断面となる。
顕微鏡で陽イオン交換膜の断面を拡大し、TD方向及びMD方向におけるa、b及びcを測定した。このとき、距離の測定では、強化芯材及び溶出孔の幅方向の中心間の距離を測定する。例えば、aの測定においては、強化芯材の幅方向の中心と、隣接する他方の強化芯材の中心との距離を測定した。なお、a、b及びcの各測定は5回行い、5回の測定値の平均値を用いた。
【0107】
[折り曲げ耐性の測定]
陽イオン交換膜の折れ曲げによる強度低下の度合い(折り曲げ耐性)は、以下の方法により評価した。なお、折り曲げ耐性は、折り曲げる前の陽イオン交換膜の引張伸度に対する折り曲げた後の陽イオン交換膜の引張伸度の割合(引張伸度割合)のことである。
引張伸度は、次の方法で測定した。陽イオン交換膜に埋め込まれた強化糸に対して45度となる方向にそって幅1cmのサンプルを切り出した。そして、チャック間距離50mm、引張速度100mm/分の条件で、JIS K6732に準じて、サンプルの引張伸度を測定した。
【0108】
陽イオン交換膜の折り曲げは、次の方法で行った。陽イオン交換膜のカルボン酸層(図1のカルボン酸層144、及び後述する「ポリマーA層」参照)側の表面を内側にして、400g/cm2の加重を掛けて折り曲げた。MD折では、陽イオン交換膜のMD糸に対して垂直方向に折り線が入るように、陽イオン交換膜を折り曲げて評価した(MD折り曲げ)。TD折では、陽イオン交換膜のTD糸に対して垂直方向に折り線が入るように、陽イオン交換膜を折り曲げて評価した(TD折り曲げ)。したがって、MD折り曲げは、TD方向に沿って配置された強化芯材及び溶出孔の間隔を制御したことによる、折り曲げ耐性への寄与を測定でき、TD折り曲げは、MD方向に沿って配置された強化芯材及び溶出孔の間隔を制御したことによる、折り曲げ耐性への寄与を測定できる。
MD折り曲げ又はTD折り曲げを夫々行った後の陽イオン交換膜の引張伸度を測定し、折り曲げ前の引張伸度に対する割合を求め、折り曲げ耐性とした。
【0109】
[電解電圧の測定]
陽イオン交換膜を用いて電解槽を準備し、その電解電圧を測定した。電解電圧は、強制循環型の1.5mmギャップの電解セルにて測定した。陰極として、ニッケルのエキスパンドメタルに、触媒として酸化ニッケルが塗布された電極を用いた。陽極としては、チタンのエキスパンドメタルに、触媒としてルテニウム、イリジウム、チタンが塗布された電極を用いた。電解セルにおいて、陽極室と陰極室の間に陽イオン交換膜を配置した。
【0110】
陽極側に205g/Lの濃度となるように調整しつつ塩化ナトリウム水溶液を供給し、陰極側の苛性ソーダ濃度を32重量%に保ちつつ水を供給した。そして、80A/dm2の電流密度で、温度を90℃に設定し、電解槽の陰極側の液圧が陽極側の液圧よりも5.3kPa高い条件にて、7日間電気分解を行った。その後、必要とした電解電圧は電圧計を用いて測定した。
【0111】
〔実施例1〕
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用いた(以下、「PTFE糸」という。)。犠牲糸として、40デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、「PET糸」という。)。ダミー糸として、36デニール、15フィラメントのポリビニルアルコール(PVA)に200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、「PVA糸」という。)。
【0112】
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する3羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を3番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように筬に糸の束を順次通した。TD糸については、PTFE糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PTFE糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸の順を繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして、織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、補強材からダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは81μmであった。
【0113】
次に、テトラフロエチレン(CF2=CF2)とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3との共重合体であり、総イオン交換容量が0.85mg当量/gである、乾燥樹脂のポリマーA、及びCF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体であり、総イオン交換容量が1.05mg当量/gである、乾燥樹脂のポリマーBを準備した。ポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、厚さ13μmのポリマーA層、及び厚さ84μmのポリマーB層からなる2層フィルムXを得た。また、単層Tダイ法にて、ポリマーBからなる厚さ20μmのフィルムYを得た。
【0114】
次に、加熱源及び真空源を内部に有し、その表面に微細孔を有するドラムの上に、離型紙、フィルムY、補強材、フィルムXの順に積層し、加熱減圧した。このときの加工温度は219℃、減圧度は0.022MPaであった。その後、離型紙を取り除き、複合膜を得た。得られた複合膜を、ジメチルスルホキシド(DMSO)を30質量%、水酸化カリウム(KOH)を15質量%含む水溶液に、90℃で1時間浸漬することにより加水分解させた後、水洗し、乾燥させた。これにより犠牲糸(PET糸)が溶解して、溶出孔が形成された膜本体を得た。
【0115】
更に、ポリマーBの酸型ポリマーの5質量%エタノール溶液に、1次粒径1μmの酸化ジルコニウムを20質量%の割合となるように加えて分散させ、懸濁液を調合した。この懸濁液をスプレー法で上記の複合膜の両面に噴霧し、乾燥させることにより、0.5mg/cm2のコーティング層を複合膜の表面に形成させて、図8に示す陽イオン交換膜7を得た。図8の陽イオン交換膜7は、膜本体(図示せず)と、その内部に略平行に配置された2以上の強化芯材70を備えたものであり、膜本体には、隣接する強化芯材70同士の間に2本の溶出孔72が形成された構造を有している。実施例1では、TD方向又はMD方向において、a1、b1、c1の値を有する強化芯材間と、a2、b2、c2の値を有する強化芯材間とが、繰り返して存在する構成を有する。なお、後述する他の実施例及び比較例において、TD方向又はMD方向において、1種類のa、b、cの値の強化芯材間のみしか存在しない場合は、a1、b1、c1の値として以下記載する。
【0116】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1112μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2は432μmであった。計算すると、c2は1.17a2/(n+1)であった(図8参照、以下同様)。
また、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1056μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は203μmであった。計算するとc1は0.58a1/(n+1)であった。
そして、MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1192μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2は528μmであった。計算すると、c2は1.33a2/(n+1)であった。
MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が998μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は296μmであった。計算すると、c1は0.89a1/(n+1)であった。
【0117】
得られた陽イオン交換膜の物性を表1に示す。表1では、実施例1の陽イオン交換膜のTD方向において、交互に隣接して配置された強化芯材間を、夫々、強化芯材間T1と強化芯材間T2として記載した。また、MD方向においては、繰り返しの構成単位を、強化芯材間M1と強化芯材間M2として記載した。以下の実施例及び比較例についても、同様にして各表に記載した。表1に示す通り、MD折り曲げ及びTD折り曲げのいずれにおいても、高い引張伸度保持率を有することが確認された。
【0118】
〔実施例2〕
ダミー糸として、28デニール、15フィラメントのポリビニルアルコール(PVA)に200回/mの撚りを掛けた糸(PVA糸)を用いた以外は、実施例1と同様の材料を用いて陽イオン交換膜を作製した。
【0119】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1005μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2は373μmであった。計算すると、c2は1.11a2/(n+1)であった(図8参照、以下同様)。
また、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1091μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は252μmであった。計算すると、c1は0.69a1/(n+1)であった。
そして、MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1199μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2は500μmであった。計算すると、c2は1.25a2/(n+1)であった。
MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が999μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は266μmであった。計算すると、c1は0.80a1/(n+1)であった。
【0120】
得られた陽イオン交換膜の物性を表1に示す。表1に示す通り、MD折り曲げ及びTD折り曲げのいずれにおいても、高い引張伸度保持率を有することが確認された。
【0121】
〔実施例3〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する3羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を3番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りした。TD糸については、PTFE糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、補強材からダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは85μmであった。上記以外は、実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
【0122】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1119μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1が255μmであった。計算すると、c1は0.68a1/(n+1)であった(図8参照、以下同様)。
そして、MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1229μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2が569μmであった。計算すると、c2が1.39a2/(n+1)であった。
また、MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が985μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1が323μmであった。計算すると、c1が0.98a1/(n+1)であった。
【0123】
得られた陽イオン交換膜の物性を表1に示す。表1に示すとおり、MD折り曲げ及びTD折り曲げのいずれにおいても、高い引張伸度保持率を有することが確認された。
【0124】
〔実施例4〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する3羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を3番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りした。TD糸については、PTFE糸、PET糸、PET糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(強化材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、得られた補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、補強材からダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは76μmであった。上記以外は、実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
【0125】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1092μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は364μmであった。計算すると、c1は1.00a1/(n+1)であった。
MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1178μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2は509μmであった。計算すると、c2は1.30a2/(n+1)であった(図8参照、以下同様)。
MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が930μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は253μmであった。計算すると、c1は0.82a1/(n+1)であった。
【0126】
得られた陽イオン交換膜の物性を表1に示す。表1に示すとおり、TD折り曲げにおいて高い引張伸度保持率を有することが確認された。
【0127】
〔比較例1〕
MD方向及びTD方向ともに、溶出孔が等間隔に形成された陽イオン交換膜を製造した。強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用いた(PTFE糸)。犠牲糸として、40デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)に200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(PET糸)。
【0128】
まず、24本/インチで等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。MD糸については、PTFE糸、PET糸、PET糸、・・・の順に繰り返しとなるように平織りし、TD糸についても、PTFE糸、PET糸、PET糸、・・・の繰り返しとなるように平織りして、織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、加熱されたロールで圧着して、厚みが86μmとなるように調整した。その他は、実施例1と同様の方法で、陽イオン交換膜を得た。
【0129】
陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1058μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は353μmであった。計算すると、c1は1.00a1/(n+1)であった(図8参照、以下同様)。
MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1058μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は353μmであった。計算すると、c1が1.00a1/(n+1)であった。
【0130】
実施例1〜4、比較例1の陽イオン交換膜の物性を表1に示す。なお、表中、「−」は、その実施例・比較例において該当するものが存在しないことを示す。表1に示す通り、各実施例の陽イオン交換膜は、MD折り曲げ及びTD折り曲げのいずれにおいても、引張伸度保持率が高いことが確認された。
【0131】
【表1】
【0132】
〔実施例5〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する3羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を3番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りした。TD糸については、PTFE糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PVA糸、PVA糸、PET糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、補強材からダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは85μmであった。上記した以外は実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
【0133】
陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が1040μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は448μmであった。即ち、c1は1.29a1/(n+1)であった(図8参照、以下同様)。実施例5の容イオン交換膜のTD方向においては、上記したa1、b1、c1の値を有する強化芯材間のみの配置とした。
MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a2が1151μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c2は478μmであった。即ち、c2は1.25a2/(n+1)であった。MD方向において、隣接する強化芯材同士の距離a1が944μmの強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは2であり、隣接する溶出孔間の距離c1は269μmであった。即ち、c1は0.85a1/(n+1)であった。
機械的強度の評価として、陽イオン交換膜のカルボン酸層(図1のカルボン酸層144、及び上記「ポリマーA層」参照)側の表面を内側にして、400g/cm2の加重を掛けて折り曲げ、ピンホール等の発生の有無を観察した。実施例5で得られた陽イオン交換膜では、折り曲げによるピンホールの発生は確認できなかった。
【0134】
実施例1〜5、及び比較例1で得られた陽イオン交換膜を用いて、電解を行い、その電解電圧を測定した。その結果を表2に示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2に示すとおり、各実施例の陽イオン交換膜を用いて電解を行った場合、比較例1に比較して電解電圧が低減されていることが確認された。また、7日間に亘り電解運転を行ったが、安定して電解を行うことができた。
【0137】
以上より、各実施例の陽イオン交換膜は、折り曲げ等に対する機械的強度に優れており、その結果、長期に安定した電解性能を発揮できることが示された。さらに、各実施例の陽イオン交換膜は、溶出孔が等間隔に形成された陽イオン交換膜に比較して、電解電圧を低減させることができ、優れた電解性能を発揮できることが示された。
【0138】
〔実施例6〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する5羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を3番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を4番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を5番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りした。TD糸については、PTFE糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、得られた補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、補強材からダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは93μmであった。上記した以外は実施例1と同様にして、図9に示す陽イオン交換膜8を作製した。陽イオン交換膜8は、膜本体(図示せず)と、その内部に略平行に配置された2以上の強化芯材80を備えたものであり、膜本体には、隣接する強化芯材80同士の間に4本の溶出孔が形成された構造を有している。そして、それぞれa、b、c1、c2の間隔で、4本の溶出穴821、822、823、824を強化芯材80同士の間に形成させた。
【0139】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離aが1521μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは4であり、強化芯材と隣接する溶出孔間の距離bは268μmであり、その溶出孔と隣接する溶出孔間の距離c1は265μmであり、中心部2本の溶出孔間の距離c2は443μmであった(図9参照)。
また、MD方向においては、強化芯材間に溶出孔が等間隔に形成された構成とした。
【0140】
得られた陽イオン交換膜の物性を表3に示す。表3に示すとおり、MD折り曲げにおいて、比較例2に比べて、高い引張伸度保持率を有することが確認された。また、その電解電圧は、比較例2に比べて、低いことが確認された。
【0141】
〔実施例7〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する5羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を3番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を4番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を5番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りした。TD糸については、PTFE糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(強化材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させて、補強材からダミー糸のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは93μmであった。上記した以外は実施例6と同様に陽イオン交換膜を作製した。
【0142】
陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離aが1523μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは4であり、強化芯材と隣接する溶出孔間の距離bは264μmであり、その溶出孔と隣接する溶出孔間の距離c1は361μmであり、中心部2本の溶出孔間の距離c2は245μmであった(図9参照)。
また、MD方向においては、強化芯材間に溶出孔が等間隔に形成された構成とした。
【0143】
〔比較例2〕
MD方向及びTD方向ともに、溶出孔が等間隔に形成された陽イオン交換膜を製造した。強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用いた(PTFE糸)。犠牲糸として、40デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)に200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(PET糸)。
【0144】
まず、16本/インチで等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。MD糸については、PTFE糸、PET糸、PET糸、PET糸、PET糸、・・・の順に繰り返しとなるように平織りし、TD糸についても、PTFE糸、PET糸、PET糸、PET糸、PET糸、・・・の繰り返しとなるように平織りして、織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着して、厚みが85μmとなるように調整した。その他は実施例6と同様に陽イオン交換膜を得た。
【0145】
陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離aは1517μmであり、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは4であり、強化芯材と隣接する溶出孔間の距離bは303μmであり、その溶出孔と隣接する溶出孔間の距離c1は303μmであり、中心部2本の溶出孔間の距離c2は303μmであった(図9参照)。
また、MD方向においては、強化芯材間に溶出孔が等間隔に形成された構成とした。
【0146】
実施例6、7、比較例2の陽イオン交換膜の物性を表3に示す。表3に示すとおり、実施例6、7では、折り曲げ後も高い引張伸度保持率を有することが確認された。また、表3に示す通り、各実施例の陽イオン交換膜を用いて電解を行った場合、比較例2に比較して電解電圧が低減されていることが確認された。また、7日間に亘り電解運転を行ったが、安定して電解を行うことができた。
【0147】
【表3】
【0148】
以上より、各実施例の陽イオン交換膜は、折り曲げ等に対する機械的強度に優れており、その結果、長期に安定した電解性能を発揮できることが示された。さらに、各実施例の陽イオン交換膜は、溶出孔が等間隔に形成された強化芯材と比較して、電解電圧を低減させることができ、優れた電解性能を発揮できることが示された。
【0149】
〔実施例8〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する5羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を3番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を4番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を5番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りした。TD糸については、PTFE糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(強化材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、補強材からダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは95μmであった。上記した以外は実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
【0150】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離aが1559μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは4であり、強化芯材と隣接する溶出孔間の距離bは463μmであり、その溶出孔と隣接する溶出孔間の距離c1は206μmであり、中心部2本の溶出孔間の距離c2は180μmであった(図9参照)。
【0151】
〔実施例9〕
まず、24本/インチで略等間隔に並ぶようにPTFE糸を配置した。そして、MD糸については、連続する5羽の筬を用いて、PTFE糸とPET糸の2本の糸の束を1番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を2番目の筬に通し、PET糸とPTFE糸の2本の糸の束を3番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を4番目の筬に通し、PET糸とPET糸の2本の糸の束を5番目の筬に通した。そして、この組み合わせで順に繰り返すように平織りして。TD糸については、PTFE糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸、PTFE糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸、PET糸、PVA糸、PVA糸、PET糸の順で繰り返し、略等間隔に配置するように平織りした。このようにして織布(補強材)を得た。続いて、得られた補強材を、125℃に加熱されたロールで圧着した。その後、得られた補強材を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させて、ダミー糸(PVA糸)のみを溶解除去した。ダミー糸が除去された補強材の厚さは92μmであった。それ以外は実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
【0152】
得られた陽イオン交換膜は、TD方向において、隣接する強化芯材同士の距離aが1743μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは4であり、強化芯材と隣接する溶出孔間の距離bは201μmであり、その溶出孔と隣接する溶出孔間の距離c1は470μmであり、中心部2本の溶出孔間の距離c2は255μmであった(図9参照)。
さらに、隣接する強化芯材同士の距離aが1387μmである強化芯材間では、隣接する強化芯材の間に設けられた溶出孔の数nは4であり、強化芯材と隣接する溶出孔間の距離bは228μmであり、その溶出孔と隣接する溶出孔間の距離c1は462μmであり、中心部2本の溶出孔間の距離c2は218μmであった(図9参照)。
【0153】
実施例8、9の陽イオン交換膜の物性を表4に示す。なお、表中、「−」は、その実施例・比較例において該当するものが存在しないことを示す。
【0154】
【表4】
【0155】
機械的強度の評価として、陽イオン交換膜のカルボン酸層(図1のカルボン酸層144、及び上記「ポリマーA層」参照)側の表面を内側にして、400g/cm2の加重を掛けて折り曲げ、ピンホール等の発生の有無を観察した。実施例8及び9で得られた陽イオン交換膜では、折り曲げによるピンホールの発生は確認できなかった。加えて、長期に安定した電解性能を発揮できることがわかった。
【0156】
本出願は、2009年10月26日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2009−245869)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の陽イオン交換膜は、塩化アルカリ電解等の陽イオン交換膜として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0158】
1、2、3、4、5・・・陽イオン交換膜、
6・・・補強材、
10、20x、20y、301、302、303、401、402、403、501x、501y、502x、502y、503x、503y、60・・・強化芯材、
12、12a、12b、22x、22y、321、322、323、324、325、326、421、422、423、424、521x、521y、522x、522y、523x、523y、524x、524y・・・溶出孔、
14・・・膜本体、
62・・・犠牲糸、
66・・・ダミー糸、
142・・・スルホン酸層、
144・・・カルボン酸層、
146、148・・・コーティング層、
A・・・電解槽、
A1・・・陽極、
A2・・・陰極、
α・・・陽極側、
β・・・陰極側、
X・・・MD方向、
Y・・・TD方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10