(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高精細化に伴い、半導体装置内に形成される配線層の微細化が進んでいる。これに伴い、配線層を化学機械研磨(以下、「CMP」ともいう。)により平坦化する手法が用いられている。この手法としては、たとえば、半導体基板上の酸化シリコン等の絶縁膜に設けられた微細な溝や孔に、アルミニウム、銅、タングステン等の導電体金属をスパッタリング、メッキ等の方法により堆積させた後、余剰に積層された金属膜をCMPにより除去し、微細な溝や孔の部分にのみ金属を残すダマシンプロセスが一般的である(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特に、配線間を上下縦方向に電気的に接合するプラグ等の材料には、埋め込み性に優れたタングステンが使用される。(なお、本明細書においては、配線およびプラグ等をまとめて「配線層」ともいう。)
【0004】
タングステンプラグを形成するCMPでは、主に絶縁膜上に設けられたタングステン層を研磨する第1研磨処理工程と、タングステンプラグ、チタンなどのバリアメタル膜、および絶縁膜を研磨する第2研磨処理工程が順に実施される。(なお、本明細書においては、タングステン層およびタングステンプラグをまとめて「タングステン膜」ともいう。)
【0005】
このようなタングステン膜の化学機械研磨に関して、たとえば特許文献2には、仕上げ研磨の前段階(前記第1研磨処理工程に相当)に当たる研磨において、高い研磨レートおよび、研磨後のウエハ表面の面粗れ(研磨促進剤であるアミン化合物とシリコンとの高い反応性に起因する。)の防止を目的とした、砥粒(コロイダルシリカ等)、塩基性低分子化合物(アミン化合物など)および窒素含有基を含む水溶性高分子化合物(ポリエチレンイミン等)を含む半導体研磨用組成物が開示されている。
【0006】
また特許文献3には、タングステンのエッチング剤(酸化剤など)、1ppm〜1000ppmの量で存在するタングステンのエッチング抑制剤(窒素原子を含む特定のポリマーなど)、および水を含む化学機械研磨組成物を用いて研磨を行う、タングステンを含む基材の化学機械研磨方法が開示されている。この研磨方法で用いられる化学機械研磨組成物は、任意成分として研磨剤(シリカなど。コロイド状であることが好ましい。)、および過化合物(モノ過硫酸塩(SO
52-)、ジ過硫酸塩(S
2O
82-)など)を含んでいても良い。
【0007】
しかしながら、より大きな研磨速度、被研磨面の高度な平坦化、および被研磨面の腐食の抑制、をバランス良く達成することができるタングステン膜研磨用水分散体は得られていない。
【0008】
なお、特許文献4には、ダマシンプロセスが念頭におかれた化学機械研磨用水系分散体ではないが、研磨剤(シリカ等)と、液体キャリヤー(水等)と、正電荷の高分子電解質(ポリエチレンイミン等)とを含んでなり、該研磨剤がコロイド状で安定であり、該正電荷の高分子電解質と静電結合した粒子を含んでなる化学機械研磨系が開示されており、この化学機械研磨系における高分子電解質の含有割合は、たとえば例1に記載された組成物においては、2.5wt%である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
1.化学機械研磨用水系分散体
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、タングステンを含んでなる配線層が設けられた被処理体を研磨するための化学機械研磨用水系分散体であって、(A)ポリエチレンイミンと、(B)過硫酸塩と、(C)コロイダルシリカとを含有し、前記(A)ポリエチレンイミンの含有割合(M
A)は0.002〜0.28質量%であり、pHの値は1〜3である。
【0019】
前記化学機械研磨用水系分散体の研磨対象は、タングステンを含んでなる配線層が設けられた半導体ウエハ等の被処理体である。具体的には、タングステンプラグを有する絶縁膜(例:酸化シリコン膜)を含む被処理体が挙げられる。
【0020】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体を用いることによって、タングステン膜と酸化シリコン膜等の絶縁膜とが共存する被研磨面を、大きな研磨速度で、エロージョン等を抑制し、かつタングステン膜表面に腐食などの欠陥を発生させずに、研磨することができる。
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体を構成する各成分について以下に説明する。
【0021】
1.1 (A)ポリエチレンイミン
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、カチオン性高分子化合物であるポリエチレンイミンを含有する。
【0022】
一般に、カチオン性高分子化合物は、水溶液中で負電荷を帯びたタングステン膜表面に容易に吸着する。その結果、タングステン膜が酸化されることを阻害できるため、タングステン膜の化学的研磨速度を抑制する。また、タングステン膜表面の酸化によって発生するタングステン膜表面の腐食を抑制すると考えられる。さらに、特許文献3によれば、カチオン性高分子化合物は機械的な研磨に対する保護膜としても作用すると考えられている。
【0023】
ポリエチレンイミンは、一般に入手できるカチオン性水溶性高分子化合物の中では最もカチオン密度の高い高分子化合物であるため、非常に効率良くタングステン膜表面に吸着し、上記の性能を顕著に発揮する、と考えられる。
【0024】
ポリエチレンイミンの含有割合は、前記化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、0.002質量%〜0.28質量%であり、好ましくは0.004質量%〜0.23質量%であり、更に好ましくは0.008質量%〜0.15質量%である。ポリエチレンイミンの含有割合が上記範囲にある前記化学機械研磨用水系分散体を用いることにより、ディッシングやエロージョンの発生を抑制しつつ前記被処理体を研磨できる。一方、ポリエチレンイミンの含有割合が上記範囲よりも過小であると、タングステン膜の表面に保護膜を形成する効果が小さいため、タングステン膜の研磨速度が大きくなり、タングステン部分が過度に研磨されてディッシングやエロージョンが発生しやすくなる場合がある。また、タングステン膜表面の腐食が発生しやすくなる。ポリエチレンイミンの含有割合が上記範囲よりも過大であると、タングステン膜の研磨速度が抑制されすぎるため、タングステン部分が研磨されずに残留することがある。
【0025】
ポリエチレンイミンの数平均分子量は、好ましくは200〜1,000,000であり、より好ましくは10,000〜100,000である。数平均分子量が上記範囲にある前記化学機械研磨用水系分散体は安定性に優れ、またこのような前記化学機械研磨用水系分散体を用いて前記被処理体を研磨すると、タングステン膜に対する研磨速度を抑制でき、かつタングステン膜表面の腐食を抑制できる。
【0026】
上記数平均分子量は、プルラン換算の値であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム型番「Shodex Asahipak GF−710HQ+GF−510HQ+GF−310HQ」(昭和電工(株)製)、溶離液は「0.2Mモノエタノールアミン水溶液」)にて測定した場合の値である。
【0027】
1.2 (B)過硫酸塩
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、過硫酸塩を含有する。過硫酸塩は、タングステン膜の表面を酸化し、タングステン膜の研磨を促進する。
【0028】
過硫酸塩として、たとえば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらの過硫酸塩のうち、過硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
8)が特に好ましい。前記過硫酸塩が過硫酸アンモニウムである前記化学機械研磨用水系分散体を用いて前記被処理体の研磨を行うと、タングステン膜表面に酸化物膜を形成させ、後述するコロイダルシリカで該酸化物膜を削り取ることが容易となり、残渣、ディッシングおよびエロージョンを抑制しつつ、研磨速度を良好に保ちながら平坦性を有する被研磨面を得ることができる。上記の過硫酸塩は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
過硫酸塩の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.5質量%〜3.3質量%であり、より好ましくは1.0質量%〜2.5質量%である。過硫酸塩の含有割合が上記範囲にある前記化学機械研磨用水系分散体を用いて前記被処理体を研磨すると、ディッシングやエロージョンを抑制しつつ、適度にタングステン膜の研磨を促進することができる。
【0030】
1.3 (C)コロイダルシリカ
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、コロイダルシリカを含有する。コロイダルシリカは、タングステン膜を機械的に研磨する効果を有する。コロイダルシリカは、たとえば特開2003−109921号公報等に記載されているような公知の方法で製造されたものを使用することができる。
【0031】
コロイダルシリカの平均粒径は、好ましくは10nm〜150nmであり、より好ましくは10nm〜100nmである。コロイダルシリカの平均粒径が上記範囲内にある前記化学機械研磨用水系分散体を用いると、エロージョンを抑制しつつ、前記被処理体(パターンウエハ等)を高速で研磨することができる。
【0032】
上記コロイダルシリカは、平均粒径の異なるシリカを任意の濃度で混合して用いることができる。
上記コロイダルシリカの平均粒径は、BET法を用いて測定した比表面積から算出したものである。比表面積の測定には、たとえば流動式比表面積自動測定装置「micrometrics FlowSorb II 2300(島津製作所社製)」等を用いることができる。以下に、コロイダルシリカの比表面積から平均粒径を算出する方法について説明する。
【0033】
コロイダルシリカの形状を真球状粒子であると仮定し、粒子の直径をd(nm)、比重をρ(g/cm
3)とする。粒子n個の表面積Aは、A=nπd
2となる。粒子n個の質量Nは、N=ρnπd
3/6となる。比表面積Sは、粉体の単位質量当たりの全構成粒子の表面積で表される。そうすると、粒子n個の比表面積Sは、S=A/N=6/ρdとなる。この式に、コロイダルシリカの比重ρ=2.2を代入し、単位を換算すると、下記式(1)を導き出すことができる。
平均粒径(nm)=2727/S(m
2/g) …(1)
【0034】
コロイダルシリカの含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは1質量%〜20質量%であり、より好ましくは1質量%〜15質量%であり、特に好ましくは1質量%〜10質量%である。コロイダルシリカの含有割合が上記範囲にある前記化学機械研磨用水系分散体は、コロイダルシリカが凝集することなく安定であり、このような前記化学機械研磨用水系分散体を用いて前記被処理体を研磨すると、タングステン膜および絶縁膜を十分な研磨速度で研磨することができる。
【0035】
1.4 その他の添加剤
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに過硫酸塩以外の酸化剤を含有してもよい。過硫酸塩以外の酸化剤としては、たとえば、過酸化水素、硝酸第二鉄、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸鉄、オゾンおよび過ヨウ素酸カリウム、過酢酸などが挙げられる。これらの酸化剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの酸化剤のうち、酸化力、保護膜との相性、および取り扱いやすさなどを考慮すると、過酸化水素、硝酸第二鉄が特に好ましい。
【0036】
過硫酸塩以外の酸化剤の含有割合は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.05質量%〜5質量%であり、より好ましくは0.08質量%〜3質量%である。酸化剤の含有割合が上記範囲にある前記化学機械研磨用水系分散体を用いると、タングステン膜の腐食やディッシングを大きくすることなく、十分な研磨速度で前記被処理体を研磨することができる。
【0037】
1.5 含有比率
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、上記(A)ポリエチレンイミンの含有割合(M
A)[質量%]および上記(B)過硫酸塩の含有割合(M
B)[質量%]は、好ましくは0.0005≦M
A/M
B≦0.5、さらに好ましくは0.002≦M
A/M
B≦0.23、より好ましくは0.003≦M
A/M
B≦0.15の関係を有する。M
A/M
Bの値が上記範囲内にあると、タングステン膜に対する研磨速度と絶縁膜に対する研磨速度とのバランスに優れ、タングステン膜と絶縁膜とが共存するような被研磨面を研磨する際にエロージョンあるいはプロトリュージョンの発生を抑制することができる。
【0038】
1.6 pH
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体のpHは、1〜3の範囲内であり、好ましくは1〜2.5の範囲内である。pHが上記範囲内である前記化学機械研磨用水系分散体は、コロイダルシリカ粒子の沈降・分離が抑制されるため、保存安定性に優れる。また、このような前記化学機械研磨用水系分散体を用いてタングステン膜と絶縁膜とが共存する前記被処理体を研磨すると、酸化シリコン膜などの絶縁膜に対する研磨速度の著しい低下やエロージョンの発生が抑制され、良好な被研磨面を得ることができる。
【0039】
上述したpHは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;マレイン酸、マロン酸、酒石酸、シュウ酸等の有機酸;水酸化カリウム、アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアルカリ等を前記化学機械研磨用水系分散体に添加することによって、上記の範囲内に調整することができる。
【0040】
2.化学機械研磨方法
本発明に係る化学機械研磨方法は、上記の化学機械研磨用水系分散体を用いて、タングステンを含んでなる配線層が設けられた被処理体を研磨する工程を含み、好ましくは、前記被処理体が被研磨面にタングステン膜と酸化シリコン膜等の絶縁膜とが共存する被処理体である、第2研磨処理工程を含む。
以下、本発明に係る化学機械研磨方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0041】
2.1 被処理体
図1に、本発明に係る化学機械研磨方法により研磨される被処理体100の一例の断面図を示す。
被処理体100は、以下の工程を経ることより形成できる。
【0042】
(1)まず、
図1に示すように、基体10を用意する。基体10は、たとえば、シリコン基板とその上に形成された酸化シリコン膜から構成されていてもよい。さらに、基体10には、トランジスタ等の機能デバイスが形成されていてもよい。次に、基体10の上に、CVD法または熱酸化法を用いて絶縁膜である酸化シリコン膜12を形成させる。
【0043】
(2)次に、酸化シリコン膜12をパターニングする。得られたパターンをマスクとして、酸化シリコン膜12にフォトリソグラフィー法を適用してプラグ14を形成させる。
(3)次に、必要に応じて、スパッタを適用して酸化シリコン膜12の表面およびプラグ14の内壁面にバリアメタル膜16を形成させる。タングステン膜(プラグ14)と酸化シリコン膜12との接着性はあまり良好でないが、バリアメタル膜を介在させることで良好な接着性は良好となる。バリアメタル膜16の材料としては、チタンおよび/または窒化チタンが挙げられる。
(4)次に、CVD法を適用してタングステン膜18を形成させる。
【0044】
2.2 化学機械研磨方法
2.2.1 第1研磨処理工程
第1研磨処理工程は、
図1に示すような被処理体を、
図2に示すように、タングステン膜18および必要に応じて設けられたバリアメタル膜16を酸化シリコン膜12が露出するまで研磨する工程である。
【0045】
2.2.2 第2研磨処理工程
第2研磨処理工程は、
図3に示すように、タングステン膜18および酸化シリコン膜12ならびに必要に応じて設けられたバリアメタル膜16を同時に研磨する工程である。この第2研磨処理工程において本発明に係る化学機械研磨用水系分散体を用いて研磨を行うと、この化学機械研磨用水系分散体はタングステン膜および酸化シリコン膜に対する非選択的研磨性を有するため、極めて平坦性に優れた仕上げ面を得ることができる。
【0046】
2.2.3 化学機械研磨装置
第1研磨処理工程および第2研磨処理工程では、たとえば、
図4に示すような化学機械研磨装置200を用いることができる。
図4は、化学機械研磨装置200の模式図を示している。スラリー供給ノズル42からスラリー(化学機械研磨用水系分散体)44を供給し、かつ研磨布46が貼付されたターンテーブル48を回転させながら、半導体基板50を保持したキャリアーヘッド52を当接させることにより行う。なお、
図4には、水供給ノズル54およびドレッサー56も併せて示してある。
【0047】
キャリアーヘッド52の研磨荷重は、たとえば10〜1,000hPaの範囲内で選択することができ、好ましくは50〜500hPaである。また、ターンテーブル48およびキャリアーヘッド52の回転数はたとえば10〜400rpmの範囲内で適宜選択することができ、好ましくは30〜150rpmである。スラリー供給ノズル42から供給されるスラリー(化学機械研磨用水系分散体)44の流量は、たとえば10〜1,000cm
3/分の範囲内で選択することができ、好ましくは50〜400cm
3/分である。
【0048】
市販の化学機械研磨装置として、たとえば、荏原製作所社製、形式「EPO−112」、「EPO−222」;ラップマスターSFT社製、型式「LGP−510」、「LGP−552」;アプライドマテリアル社製、型式「Mirra」、「Reflexion」等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
3.1 化学機械研磨用水系分散体の調製
3.1.1 コロイダルシリカ水分散体の調製
3号水硝子(シリカ濃度24質量%)を水で希釈し、シリカ濃度3.0質量%の希釈ケイ酸ナトリウム水溶液を得た。この希釈ケイ酸ナトリウム水溶液を、水素型陽イオン交換樹脂層を通過させ、ナトリウムイオンの大部分を除去したpH3.1の活性ケイ酸水溶液を得た。その後、すぐに撹拌下10質量%水酸化カリウム水溶液を加えてpHを7.2に調整し、さらに続けて加熱し沸騰させて3時間熱熟成した。得られた水溶液に、先にpHを7.2に調整した活性ケイ酸水溶液の10倍量を少量ずつ添加し、コロイダルシリカを成長させた。
【0050】
次に、前記コロイダルシリカを含有する分散体水溶液を減圧濃縮し、シリカ濃度:32.0質量%、pH:9.8であるコロイダルシリカ水分散体を得た。このコロイダルシリカ水分散体を、再度水素型陽イオン交換樹脂層を通過させ、ナトリウムの大部分を除去した後、10質量%の水酸化カリウム水溶液を加え、シリカ粒子濃度:28.0質量%、pH:10.0であるコロイダルシリカ水分散体を得た。
【0051】
BET法を用いて測定した比表面積から算出した平均粒径は、45nmであった。なお、BET法によるコロイダルシリカ粒子の表面積測定では、シリカ粒子分散体を濃縮・乾固して回収されたコロイダルシリカを測定した値を用いた。
【0052】
さらに、熱熟成の時間、塩基性化合物の種類および添加量などをコントロールしながら上記と同様の方法により、BET法を用いて測定した比表面積から算出した平均粒径がそれぞれ45nm、80nmのコロイダルシリカ水分散体を得た。
【0053】
3.1.2 化学機械研磨用水系分散体の調製
50質量部のイオン交換水、シリカに換算して5質量部の、平均粒径が45nmのコロイダルシリカの水分散体、およびシリカに換算して1質量部の、平均粒径が80nmのコロイダルシリカの水分散体をポリエチレン製の瓶に入れ、これにポリエチレンイミン(商品名:P−1000、(株)日本触媒製、数平均分子量:16,000)水溶液をポリマー量に換算して0.003質量部に相当する量添加した。次いで過硫酸アンモニウム3質量部を添加し、これらを15分間攪拌した。最後に、全成分の合計量が100質量部、所定のpHとなるようにマレイン酸およびイオン交換水を加えた後、孔径1μmのフィルターで濾過することにより、化学機械研磨用水系分散体Aを得た。
【0054】
(A)ポリエチレンイミン、(B)過硫酸塩、(C)コロイダルシリカを表1〜表4に示す成分・含有割合に変更したこと以外は、上記の化学機械研磨用水系分散体Aの調製方法と同様にして化学機械研磨用水系分散体B〜Qを製造した。なお、化学機械研磨用水系分散体Qにおいては、ポリエチレンイミンに替えて、アリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト二酸化硫黄共重合体(商品名:PAS−2401、日東紡績(株)製、数平均分子量:2,000)を使用した。
【0055】
3.2 評価方法
3.2.1 ブランケットウエハの評価方法
化学機械研磨装置(荏原製作所社製、型式「EPO112」)に多孔質ポリウレタン製研磨パッド(ニッタ・ハース社製、品番「POLITEX」)を装着し、化学機械研磨用水系分散体A〜Qを供給しながら、下記の研磨速度測定用基板につき、下記研磨条件にて1分間化学機械研磨処理を行い、下記の手法によって研磨速度を評価した。その結果を表1〜4に示す。
【0056】
(1)研磨速度測定用基板
・8インチシリコン基板上に膜厚1,000nmのPETEOS膜が設けられたもの。
(2)研磨条件
・ヘッド回転数:80rpm
・ヘッド荷重:250hPa
・テーブル回転数:85rpm
・化学機械研磨用水系分散体の供給速度:120ml/分
【0057】
(3)ブランケットウエハの評価方法
光干渉式膜厚測定器(ナノメトリクス・ジャパン社製、型式「Nano Spec 6100」)を用いて研磨処理後のPETEOS膜の膜厚を測定し、化学機械研磨により減少した膜厚および研磨時間から研磨速度を算出した。
PETEOS膜の研磨速度が、40nm/min以上であった場合を良(○)、このうち60nm/min以上であった場合を優(◎)、40nm/min未満であった場合を不良(×)と評価した。
【0058】
3.2.2 パターンウエハの評価方法
化学機械研磨装置(荏原製作所社製、型式「EPO112」)に多孔質ポリウレタン製研磨パッド(ニッタ・ハース社製、品番「IC1000」)を装着し、下記の基板につき、第1研磨処理工程により酸化シリコン膜(PETEOS膜)が露出するまでタングステンを除去した。その後、化学機械研磨装置(荏原製作所社製、型式「EPO112」)に多孔質ポリウレタン製研磨パッド(ニッタ・ハース社製、品番「POLITEX」)を装着し、化学機械研磨用水系分散体A〜Qを供給しながら、下記研磨条件にて酸化シリコン膜の研磨量が50nmになるまで、化学機械研磨処理(第2研磨処理工程)を行い、下記の手法によってエロージョンを評価した。その結果を表1〜4に示す。
【0059】
(1)基板
パターン付き基板であるSVTC社製QCEETC057((酸化シリコン膜/)膜厚25nmのTi膜/膜厚40nmのTiN膜の順序で設けられたバリアメタル膜を介して、パターン付きの酸化シリコン膜上に膜厚500nmのタングステン膜が設けられ、かつパターン部にタングステンプラグが設けられたテスト用基板)
(2)研磨条件
・ヘッド回転数:80rpm
・ヘッド荷重:250hPa
・テーブル回転数:85rpm
・化学機械研磨用水系分散体の供給速度:120ml/分
【0060】
(3)エロージョンの評価方法
研磨処理後の被研磨面につき、高解像度プロファイラー(ケーエルエー・テンコール社)製、型式「HRP240ETCH」)を用いて、プラグパターン部(孔径0.3μm、被覆率4%)におけるエロージョン量(nm)を測定した。結果を表1〜4に併せて記載した。なお、エロージョン量は、プラグパターン部が基準面(絶縁膜(酸化シリコン膜)上面)よりも上に凸である場合はマイナスで表示した。エロージョン量が−10〜20nmであった場合を良(○)と評価し、この範囲の中でも−5〜15nmであった場合を優(◎)と、この範囲を外れた場合を不良(×)と評価した。
【0061】
(4)タングステン膜表面腐食の評価方法
研磨処理後の被研磨面につき、SEM(日立ハイテク社製、型式「S4800」)を用いて、プラグパターン部(孔径0.3μm、被覆率4%)における腐食の有無を測定した。結果を表1〜4に併せて記載した。
【0062】
3.2.3 保存安定性の評価方法
化学機械研磨用水系分散体A〜Qにつき、25℃の密閉された恒温槽内で3ヶ月間静置保存し、沈降物の有無、凝集分離の有無を調査した。結果を表1〜4に併せて記載した。
【0063】
3.3 評価結果
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
実施例1〜12の化学機械研磨用水系分散体を用いた場合には、いずれも、PETEOS膜の研磨において高い研磨速度が達成され、またパターン付き研磨基板の研磨において、エロージョンの発生を抑制でき、かつ腐食の抑制された研磨面を得ることができた。
【0068】
比較例1の化学機械研磨用水系分散体においては、ポリエチレンイミンの含有割合(M
A)が0.002質量%未満であった。そのため、エロージョンが明らかに悪化した。
比較例2の化学機械研磨用水系分散体は、ポリエチレンイミンの含有割合(M
A)が0.28質量%を超えていた。そのため、プロトリュージョンが発生した。
【0069】
比較例3の化学機械研磨用水系分散体は、pHが3を超えていた。そのため、コロイダルシリカ粒子の沈降・分離を引き起こし、化学機械研磨用水系分散体としての保存安定性等が悪化した。
【0070】
比較例4の化学機械研磨用水系分散体は、コロイダルシリカを含んでいなかった。そのため、酸化シリコン膜(PETEOS膜)に対する十分な研磨速度が得られなかった。
比較例5の化学機械研磨用水系分散体においては、ポリエチレンイミンの替わりに、特許文献3に挙げられた四級窒素原子を有するポリマーの一種であるジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト二酸化硫黄共重合体が用いられた。そのため、エロージョンが明らかに悪化した。またタングステン膜表面の腐食も認められた。
【0071】
なお、本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、Cu、Al、W、Ti、TiN、Ta、TaN、V、Mo、Ru、Zr、Mn、Ni、Fe、Ag、Mg、MnまたはSiからなる層、これらの元素または化合物からなる層を含む積層構造に対しても有効であると期待される。