(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換膜法による食塩電解に供される電解槽の組み立て、そして運転を開始するまでの手順としては、まず、陽極及び陰極を有する電解セルを組み立て、複数の電解セルで挟み込むようにイオン交換膜を装着し、その後、イオン交換膜のリーク試験、電解槽外リーク試験、電解槽の陰極室内のガス置換操作を行った後、電解槽の陰極室に濃度が32重量%の苛性ソーダを供給し、また電解槽の陽極室に200g/Lの塩水を供給して電解槽を完成させ、その後、運転を開始していた。
【0003】
イオン交換膜のリーク試験とは、電解槽の陰極室内を窒素で加圧して、イオン交換膜を透過する窒素ガス量を測定することで、イオン交換膜のピンホールを検出する試験である。
【0004】
電解槽外リーク試験(槽外リーク試験)とは、陽極室及び陰極室内に純水を供給し、両室内を加圧して、純水が電解槽外にリークしないかを確認する操作である。また、ガス置換操作とは、窒素が導入された陰極室内に純水を供給し、窒素をパージしながら、純水を抜く(以下抜液)ことにより、陰極室内の酸素濃度を低減させる操作である。この様に、従来は純水を用いて、槽外リーク試験、ガス置換操作を行っていた。
【0005】
しかし、この様な純水を用いた操作を電解槽の運転開始前に行った場合、運転開始直後において十分な電解性能が得られないという問題があった。
【0006】
この問題を解決するため、特許文献1には、イオン交換膜法による食塩電解において、電解槽運転開始後の電解性能を良好に安定させるために、1.0〜3.0重量%の稀薄な苛性ソーダで処理したイオン交換膜を電解槽に装着させる方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、PH8以上のアルカリを用いて陰極や電解槽を構成するユニットセルに付着した塵を除去し、イオン交換膜を湿潤させることで電解槽内の雰囲気をアルカリ雰囲気としておくことが記載されている。しかし、イオン交換膜を電解槽に装着した後に純水を用いた槽外リーク試験を行うと、陰極室のPHが下がってしまうため、運転開始までの間に陰極からNiイオンが溶出し、電解時にNiOOH(3価)として膜が汚染され、電解性能が低下するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の方法において製造された電解槽にあっては、槽外リーク試験やガス置換操作を行った後から、運転開始までの間にPHが低下するため、運転開始後に良好な電解性能を得る事ができない問題があった。また、運転を停止して、陰極室内を純水により満たすことで水洗し、次の運転を開始するまでそのまま待機させた場合にも、運転開始までの間にPHが低下し、運転開始後に良好な電解性能を得る事ができない問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、運転開始後において、良好かつ安定な電解性能を得られる電解槽の組立方法、及び電解槽の運転再開方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らが、電解槽の運転開始後において電解性能が低下する原因について鋭意研究した結果、陰極室内に純水を満たす操作により陰極室内のPHが低下し、その後、電解液(32重量%の苛性ソーダ)を張るまでに時間を要する場合には、陰極を構成するNiの一部がイオン化してイオン交換膜へ付着していることを発見した。そして、このNiイオンのイオン交換膜への付着が、電解槽を運転開始した直後における電解性能悪化の原因となっていることを見出した。そこで、発明者らは、イオン交換膜を電解槽に装着した後から運転開始までの間、陰極室内を0.1N以上のアルカリ水溶液で満たすことで、電解槽を運転開始した直後においても良好で安定した電解性能が得られることを確認した。なお、発明者らは、運転を停止してから運転を再開するまでの間、同様に陰極室内を0.1N以上のアルカリ水溶液で満たすことで、電解槽を運転開始した直後においても良好で安定した電解性能が得られることを確認した。
【0012】
すなわち、本発明は、陽極と陰極とを有する
複数の電解セルに装置されるイオン交換膜を備えた電解槽の組立方法であって、
電解セルは陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをさらに有し、陽極室と陰極室とは、下部から液供給され、上部から液排出される構造を有しており、イオン交換膜を電解セルに装着してから運転開始までの間
において、イオン交換膜を装着した後、最初に、32重量%の水酸化ナトリウム水溶液を陰極室の下部から陰極室内へ供給し、次に、純水を陰極室の下部から陰極室内へ供給し、純水を
陰極室内へ供給する際には、一つの電解セルあたり70L/Hr以上の流量で供給することで最終的に陰極室内を0.1N以上
、6N以下のアルカリ水溶液で満たすことを特徴とする。
【0015】
また、イオン交換膜を装着した後、最初に32重量%の水酸化ナトリウム水溶液を陰極室内に投入し、次に、純水を前記陰極室内に投入することで最終的に陰極室内を0.1N以上、6N以下のアルカリ水溶液により満たすと好適であり、更に、最終的に陰極室内を満たすアルカリ水溶液の濃度を0.2N以上、0.5N以下とすると好適である。
【0016】
また、本発明は、陽極と陰極とを有する複数の電解セルに装置されるイオン交換膜を備えた電解槽の運転再開方法であって、電解セルは陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをさらに有し、陽極室と陰極室とは下部から液供給され、上部から液排出される構造を有しており、
イオン交換膜を装着した状態での電解槽の運転停止後から運転を再開するまでの間において、
抜液後、最初に、32重量%の水酸化ナトリウム水溶液を陰極室の下部から陰極室内へ供給し、次に、純水を陰極室の下部から陰極室内へ供給し、純水を陰極室内へ供給する際には、一つの電解セルあたり70L/Hr以上の流量で供給することで最終的に陰極室内を0.1N以上、6N以下のアルカリ水溶液で満たすことを特徴とする。
【0017】
本発明の電解槽の運転再開方法によれば、電解槽の運転停止後から運転を再開するまでの間、陰極室内が0.1N以上のアルカリ水溶液で満たされるため、陰極室内のPHが低下することが抑制され、陰極を構成するNiの一部がイオン化しにくくなるため、Niイオンがイオン交換膜へ付着することが抑制される。従って、運転開始後において、良好かつ安定な電解性能が得られる。
【0019】
電解槽の運転再開方法におい
て、最終的に陰極室内を満たすアルカリ水溶液の濃度を0.2N以上、0.5N以下とすると好適である。
【0020】
なお、上記の電解槽の組立方法の具体的形態としては、例えば、電解セルにイオン交換膜を装着し、その後、陰極室内を0.1N以上6N以下で保持した状態で槽外リーク試験及びガス置換操作の少なくとも一方を行うことで実質的な電解槽の組み立てを完了し、その後に、電解槽の運転を行う場合が想定される。
【0021】
また、上記の電解槽の運転再開方法の具体的形態としては、例えば、電解セルにイオン交換膜が装着されている電解槽において、運転の停止後、陰極室内を0.1N以上6N以下で保持した状態で槽外リーク試験及びガス置換操作の少なくとも一方を行い、その後、運転を再開する場合が想定される。
【0022】
また、本発明において、電解槽の運転開始とは、新規に建設されたイオン交換膜法による食塩電解プラントの電解槽の試運転、本運転開始時、及び運転の再開等、電解槽の運転を開始する全ての状態をいう。運転の再開とは、定期、不定期に行われる改修後の電解槽の運転再開、電解槽を開いてイオン交換膜を取り出す解枠を伴わない停止及び待機後の電解槽の運転再開等、一旦運転を停止した電解槽の運転を開始する全ての状態をいう。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電解槽の運転を開始した直後においても良好で安定した電解性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の電解槽の組立工法及び運転再開方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(電解槽の構築)
まず、本実施形態に係る電解槽について説明する。本実施形態に係る電解槽は、例えばアルカリ水からなる電解液を電解して苛性ソーダ、塩素、及び水素を得るための装置であり、イオン交換膜法による食塩電解に供される。
【0027】
図1に示されるように、電解槽1は、電解セル10と、陽極ターミナルセル12と、陰極ターミナルセル13と、陽極ガスケット14と、陰極ガスケット15と、イオン交換膜16とを備える。
【0028】
電解槽1は、複数の電解セル10がイオン交換膜16を介してプレス器Pにより直列に挟まれた状態で接続されて構成されている複極式イオン交換膜法電解槽である。
【0029】
電解セル10は、陽極室10Aと陰極室10Bとを有している(
図2参照)。陽極室10A及び陰極室10Bは、両室10A,10Bの下部から供給液が入り、両室10A,10Bの上部から液排出される構造を有している。電解槽1は、電解セル10の陽極10A室が電解セル10の陰極室10Bと背中合わせに連なる複極式構造である。
【0030】
電解セル10に装置されるイオン交換膜16は、一の電解セル10の陽極ガスケット14と、他の電解セル10の陰極ガスケット15との間には配置されている。
【0031】
イオン交換膜16は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、塩化アルカリ等の電気分解により塩素とアルカリを製造する場合、耐熱性及び耐薬品性等に優れるという観点から、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。イオン交換膜16としては、例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製ACIPLEX(登録商標)のF6801を好適に用いることができる。
【0032】
次に、
図2を参照して電解セル10を詳述する。電解セル10は、陽極101を陽極室10A内に有し、陰極102、クッションマット103、及び集電体104を陰極室10B内に有している。さらに、電解セル10は、陽極101と陰極102との間に配置されて陽極101と陰極102とを区画する隔壁を備えていてもよい。
【0033】
陽極101は塩素発生用の電極である。陽極101は、電解セル10の一側面側に設けられており、エクスパンデッドメッシュ加工されたチタン板の表面に、ルテニウム、イリジウム、チタンを成分とする酸化物を被覆することにより製造した。
【0034】
陰極102は水素発生用の電極である。陰極102は、電解セル10の他側面側に設けられており、ニッケル製ファインメッシュ基材にルテニウムを含有する酸化物が被覆されている。
【0035】
陰極室10B内には、さらにクッションマット103及び集電体104が設けられている。クッションマット103は、陰極102と集電体104との間に設けられている。クッションマット103は、例えば弾性体であってもよい。電解セル10は、電解槽1として組み立てられた際に、陽極101と陰極102の両方がイオン交換膜16と接触するゼロギャップ構造を有している。より詳細には、ある電解セル10の陽極101と、この電解セル10に隣接する電解セル10の陰極102によって、イオン交換膜16は挟持される。
【0036】
集電体104は、陰極102に沿って配置されている。集電体104は、陰極102の集電効果を高めるためのものである。集電体104としては、公知のものを用いることができ、導電性の高い金属により構成されていることが好ましい。
【0037】
陽極101は比較的剛性を強くすることにより、イオン交換膜16を押しつけても変形の少ない構造となる。また、陰極102側のみ柔軟な構造とすることにより、電解セル10電極の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップを保つような構造とすることができる。
【0038】
次に、本実施形態における電解槽1の組立方法及び運転再開方法について説明する。
【0039】
先ず発明者らは、運転開始後の電解性能の不安定さについて鋭意検討し、特に、純水を用いた槽外リーク試験及びガス置換操作後から運転開始のための32重量%の苛性ソーダを電解槽1の陰極室10B内へ張り込むまでの待機時間、及び、運転停止後の水洗から次回運転開始までの待機時間に着目した結果、各待機時間によりイオン交換膜16へのNiの沈着状態が異なることを知見した。
【0040】
具体的には、待機時間を置かずに陰極室10Bに32重量%の苛性ソーダを張り込んで運転を開始した場合は、解枠後のイオン交換膜16にNiの沈着が見られず、電解性能も良好であることを確認した。一方、約1日待機時間を置いて陰極室内に32重量%の苛性ソーダを張り込んで運転を開始した場合には、解枠後のイオン交換膜にNiの沈着がみられ、電解性能も明らかに低下することを確認した。
【0041】
次に、発明者らは、電解性能を低下させるイオン交換膜16へのNiの沈着度合と陰極室10Bのアルカリ水溶液の濃度と待機時間との関係を検討した。その結果、アルカリ水溶液の濃度を0.1N以上6N以下とすれば、新規の電解槽1の運転開始、解枠を伴う運転再開、解枠を伴わない運転再開の各状況で想定される待機時間において、イオン交換膜16へのNi沈着を防止でき、運転開始後においても良好で安定した電解性能が得られることを見出した。
【0042】
以上の知見から導出された電解槽1の組立方法は、イオン交換膜16を電解セル10に装着してから運転開始までの間、陰極室10B内を純水で満たすことなく、0.1N以上のアルカリ水溶液で満たすという方法である。また、電解槽1の運転再開方法については、電解槽1の運転停止後から運転を再開するまでの間、陰極室10B内を純水で満たすことなく、0.1N以上のアルカリ水溶液で満たすという方法である。このアルカリ水溶液とは、例えば苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)水溶液である。
【0043】
上記の組立方法によれば、イオン交換膜16が電解槽1に装着された後から運転開始までの間、陰極室10B内が0.1N以上のアルカリ水溶液で満たされるため、陰極室10B内のPHが低下することが抑制される。同様に、電解槽1の運転停止後から運転を再開するまでの間、陰極室10B内が0.1N以上のアルカリ水溶液で満たされるため、陰極室10B内のPHが低下することが抑制され、陰極102を構成するNiの一部がイオン化しにくくなるため、Niイオンがイオン交換膜16へ付着することが抑制される。従って、運転開始後において、良好かつ安定な電解性能が得られる。
【0044】
ここで、陰極室10B内のアルカリ水溶液の濃度が0.1Nより薄いと、陰極102から溶出した微量のNiイオンが運転開始時にイオン交換膜16内へ沈着し、電流効率の低下が起こるため好ましくないと考えられる。したがって、上記の方法では、陰極室10B内を0.1N以上のアルカリ水溶液で満たしている。
【0045】
また、本実施形態では、イオン交換膜16を装着した後、最初に32重量%の水酸化ナトリウム水溶液を陰極室10B内に投入し、次に、純水を陰極室内に投入することで最終的に陰極室10B内を0.1N以上、6N以下のアルカリ水溶液により満たす方法とした。また、電解槽1の運転再開方法において、電解槽の運転停止後、最初に32重量%の水酸化ナトリウム水溶液を陰極室内に投入し、次に、純水を陰極室内に投入することで最終的に陰極室内を0.1N以上、6N以下のアルカリ水溶液により満たす方法とした。
【0046】
ここで、陰極室10B内のアルカリ水溶液の濃度が6Nより濃いと室温付近におけるイオン交換膜の収縮が大きくなり、イオン交換膜を長期間使用した場合にイオン交換膜が裂ける恐れがあるため好ましくないと考えられる。したがって、上記の方法では、陰極室10B内を0.1N以上、6N以下のアルカリ水溶液により満たす方法とした。
【0047】
通常、槽外リーク試験又はガス置換操作後から運転開始までの電解槽1の待機時間は最大で半日程度である。また、解枠を伴わない長期停止の場合では、イオン交換膜16の乾燥防止のため、陽陰極室10A,10Bにアルカリ水溶液を張り、抜液する操作を1週間毎に実施する。したがって、電解槽1の待機時間は最大で7日にもなり、この条件下で、イオン交換膜16のNi沈着を抑制するためには、アルカリ水溶液の濃度を0.2N以上0.5N以下とするのがさらに好ましい。
【0048】
以上説明したように、電解槽1の組立方法では、電解セル10にイオン交換膜16を装着し、その後、槽外リーク試験及びガス置換操作の少なくとも一方を行う場合において、陰極室10B内を0.1N以上6N以下で保持する。この場合、運転開始時に陰極室10B内を0.1N以上のアルカリ水溶液の濃度で保持することにより運転開始後も良好で安定した電解性能が得られる。
【0049】
また、電解槽1の運転再開方法は、例えば、電解セル10にイオン交換膜16が装着されている電解槽1において、槽外リーク試験及びガス置換操作の少なくとも一方を行う場合、陰極室10B内を0.1N以上6N以下で保持する。この場合、運転開始時に陰極室10B内を0.1N以上のアルカリ水溶液の濃度で保持することにより運転開始後も良好で安定した電解性能が得られる。
【0050】
上述した実施形態は、本発明に係る組立方法及び運転再開方法の一例を示すものであり、これらには限定されない。例えば、上述した実施形態では、電解槽1が複極式のゼロギャップセル構造を採用する場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、電解槽1は、陰極とイオン交換膜を接触せずに電解するファイナイトギャップセル構造を採用することができる。あるいは電解槽1はナローギャップセル構造等を採用してもよい。なお、ゼロギャップセル構造に係る電解槽1では、陰極102とイオン交換膜16が直接接触するため、本実施形態に係る組立方法、及び運転再開方法を実施した際の電解性能の効果が特に大きいため、ゼロギャップセル構造を採用することが好ましい。
【0051】
また、例えば、上述した実施形態において陰極102は、ニッケル製ファインメッシュ基材にルテニウムを含有する酸化物を被覆した態様を例示したが、これに限定されるものではなく、Ni基材を母材とした陰極であれば電極触媒に関係なく同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は実施例にのみに限定されるものではない。
【0053】
[実施例1−3]
(電解槽について)
実施例1−3では、横幅が2400mm、高さが1200mmの複数の電解セル10を用い、第一実施形態と同様な構造となるように電解槽1を組み立てた(
図1参照)。具体的には、電解セル10を8個直列に並べ、両端には、陽極室のみを有する電解セル(陽極ターミナルセル)と、陰極室のみを有する電解セル(陰極ターミナルセル)を配置した。各電解セル10の周縁部には、陽極ガスケット14と陰極ガスケット15とを接着剤で貼り付けおり、各電解セル10の間に、食塩電解用の含フッ素系イオン交換膜16を挟みこむようにして装着して電解槽1を組み立てた。
【0054】
イオン交換膜16は、旭化成ケミカルズ株式会社製の「ACIPLEX(登録商標)F6801」を用いた。また、電解セル10としては、旭化成ケミカルズ株式会社製電解セル(NCZ)を用い、特に、陰極室10Bに透明アクリル板を張り、陰極室10B内を観察することができる装置を製作した。
【0055】
(陰極室における所定の苛性ソーダ濃度の作り方)
次に、陰極室10B内の平均苛性ソーダ濃度を0.2N〜0.5Nに保持するための陰極室10Bにおける苛性ソーダ濃度の調整方法について
図3を参照して示す。なお、
図3は電解セル10が連結された電解槽1を正面からみた図であり、苛性ソーダを希釈して所定の濃度とする調整工程を表している。
【0056】
電解セル10は陽極室10A及び陰極室10Bの下部から供給液が入り、両室の上部から液排出される構造を有している。ここで、先ず、32重量%の苛性ソーダを陰極室10Bの下部から投入し、その容量の10%以上48%以下の容量に張り込む(
図3(a)参照)。次に、純水を陰極室10Bの下部から投入して陰極室10Bに張り込むことにより(
図3(b)参照)、陰極室10B内において苛性ソーダを希釈混合する(
図3(c)参照)。以下、苛性ソーダが希釈混合された水溶液を希釈苛性液と呼ぶ。
【0057】
純水の投入に伴い、陰極室10Bの上部から希釈苛性液がオーバーフローしたことを確認すると、純水の投入を停止した。その結果、陰極室10B内は、0.1N以上6N以下の苛性ソーダで満たされることとなる(
図3(c)参照)。
【0058】
実際の多数の電解セル10からなる電解槽1においては、希釈用純水の流量を下げすぎると乱流や層流などの影響により純水が導入されない電解セル10が生じるため、1つの電解セル10あたり、70L/Hr以上の流量とすることが好ましい。
【0059】
苛性ソーダの投入量(張込み量)に対して、希釈用の純水の流量を140L/Hr/CELLで投入し、陰極室10B上部から希釈苛性液がオーバーフローするまで溜めた後に陰極室10B内の15か所のポイントでサンプリングした苛性ソーダの濃度を測定し、平均値を陰極室10B内の濃度とした。実施例1−3について陰極室10B内の濃度を測定し、得られた結果を表1、及び
図4に示した。
【表1】
【0060】
実施例1−3の結果から陰極室10B内の平均苛性ソーダ濃度を0.2N〜0.5Nとして陰極室10B内を保持するためには、苛性ソーダの投入量を陰極室10Bの容積の5.4%〜9.8%にすれば良いことが明らかになった。
【0061】
[実施例4−5]
第一実施形態と同様の構造からなる電解槽1を用いて実施例4−5に係る方法で槽外リークテスト、ガス置換操作を行った後に運転を開始した場合の電解性能を評価した。
【0062】
実施例4−5では、表2及び表3に示した条件で槽外リーク試験及びガス置換操作を行った。希釈苛性液を調整後、槽外リークテスト及びガス置換操作を実施し、希釈苛性液を抜液した状態で運転開始まで待機した。運転停止後は、水洗操作時に前述の操作にて次の運転開始まで電解槽1を待機させた。
【0063】
(電流効率測定)
電流効率は、電解槽1に供給される塩水の酸度(酸のモルパーセント濃度)に対する、電解槽1から排出される塩水の酸度の割合で評価した。電解において、イオン交換膜16を介して陰極室10Bから陽極室10AへOHイオンが透過する場合、塩水中のHイオンと反応するため、塩水の酸度が低下する。このことから、前記割合により、流した電流に対してNaイオンが透過した割合である電流効率を求めた。
【0064】
酸度は、電解槽1に供給する塩水と、電解槽1の陽極101側の排出ノズルから排出される塩水をサンプリングし、滴定により求めた。なお、排出される塩水中には塩素が溶存しているので、滴定前に100mlのサンプリング液に対し、2.5gのヨウ化カリウム(KI)を添加して溶存塩素を塩化ナトリウム(NaCl)とヨウ素(I
2)に遊離することにより溶存塩素を除去した。さらに、2N濃度のチオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)で反応させ、ヨウ素をヨウ化ナトリウム(NaI)にすることでサンプリング液を透明にした。その後、フェノールフタレインを指示薬として0.1N濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)で滴定し、酸度を求めた。
【0065】
実施例4、5は、平衡条件の異なるイオン交換膜16をそれぞれ装着して電解槽1を組み立てた後に、槽外リーク試験及びガス置換操作を行った。
【0066】
先ず、陰極室10B下部の投入ホースより32重量%の苛性ソーダを陰極室10Bの容積の8%量投入し、次に純水を陰極室10B下部の投入ホースから流量140L/Hr/CELLで陰極室10B上部の出口ホースから希釈苛性液がオーバーフローするまで投入した。このとき陰極室10B内の苛性濃度は0.35Nとなった。この状態で槽外リーク試験を行い、試験終了後に抜液した。
【0067】
次に、同じ方法でガス置換操作を行い、抜液後、12時間待機した後に、32重量%の苛性ソーダを張り込んだ状態で運転を開始した。運転条件は、陽極室10A内に、陽極液として300g/Lの塩水を供給し、陰極室10B内には、排出ノズル付近より、苛性ソーダの濃度が32重量%となるように稀薄苛性ソーダを供給し、電解温度90℃、陽極室ガス圧(ゲージ圧)を40kPa、陰極室側ガス圧(ゲージ圧)を44kPa、電流密度4kA/m2とし、陽極液の排出ノズル付近のPHが2となるように、供給する塩水に塩酸を添加して2日間電解したのちに膜の電流効率を測定した。得られた結果を表2に示した。
【0068】
【表2】
【0069】
[比較例1]
第一実施形態と同様の構造からなる電解槽1を用いて従来からの方法による槽外リークテスト、ガス置換操作を行った後に運転を開始した場合の電解性能を評価した。
【0070】
比較例1では、純水を用いて、槽外リーク試験及びガス置換操作を行い、12時間待機した後に、32重量%の苛性ソーダを張り込んだ状態で運転を開始した。運転条件は上記と同様とし、2日間電解したのちに膜の電流効率を測定した。得られた結果を表3に示した。
【表3】
【0071】
苛性濃度0.2N〜0.5Nにおいて槽外リーク試験及びガス置換操作を実施した実施例4,5は、電流効率がそれぞれ97.6%、97.7%であった。
【0072】
これに対して、純水で槽外リーク試験及びガス置換操作を実施した比較例1は電流効率が96.6%であった。
【0073】
従って、槽外リーク試験及びガス置換操作を苛性濃度0.2N〜0.5Nにおいて実施することにより、電流効率を高く維持することができることが確認できた。
【0074】
また、試験後、電解槽を解枠してイオン交換膜を観察した。その結果、実施例5で用いたイオン交換膜は、Niで汚染された痕である茶黒いしみは確認できなかった。実施例4のイオン交換膜は、僅かにNi汚染痕がみられた。一方、比較例1のイオン交換膜はNi汚染により全面が茶色を呈し、黒いしみがランダムに確認された。比較例1のイオン交換膜は、実施例4,5のイオン交換膜とは明らかに差が見られる汚染状態であった。