(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5833907
(24)【登録日】2015年11月6日
(45)【発行日】2015年12月16日
(54)【発明の名称】オーディオ用インシュレータ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20151126BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20151126BHJP
F16F 1/06 20060101ALI20151126BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20151126BHJP
【FI】
H04R1/00 318Z
F16F15/04 B
F16F1/06 Z
F16F1/36
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-272527(P2011-272527)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-126016(P2013-126016A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 興三
(72)【発明者】
【氏名】八木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏喜
【審査官】
冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−035475(JP,A)
【文献】
米国特許第04779850(US,A)
【文献】
特開平08−226133(JP,A)
【文献】
実開昭56−055135(JP,U)
【文献】
実開昭55−020760(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
F16F 1/06
F16F 1/36
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置面に設置される、上面開口で有底筒状の金属製の下カップと、
下カップに立てて収納された弾性筒状部材と、
弾性筒状部材上に被せられた、下面開口でオーディオ機器を支える天面を有する筒状の金属製の上カップとで構成されたオーディオ用インシュレータであって、
弾性筒状部材は、円筒状の弾性部材本体と、弾性部材本体内に埋設されたコイルばねと、弾性部材本体の外周面に一体的に突設され、下カップの内周面に上下複数段にて接する下側の弾性外鍔及び上カップの内周面に接する上側の弾性外鍔とで構成され、
上カップの側壁は、上側外鍔と接する部分より下側に延出していることを特徴とするオーディオ用インシュレータ。
【請求項2】
上下カップ内に収納される弾性筒状部材が複数個並列に配列されることを特徴とする請求項1に記載のオーディオ用インシュレータ。
【請求項3】
外鍔の基部の少なくとも表裏いずれかにおいて全周に凹溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のオーディオ用インシュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーディオ機器であるスピーカー、アンプ、CDプレイヤー、アナログプレイヤー等に用いられるインシュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオの分野においては、従来から原音に限りなく近い音の追及が、オーディオ機器であるアンプ、スピーカー、CDプレイヤー、ケーブルなどの各コンポーネンツにおいてなされてきた。その後、アナログからデジタルの時代に移行し、様々な革新的技術が投入されコンポーネンツ技術は限界まで進んだと言える。しかしながら、それらのコンポーネンツはオーディオ機器の設置環境(リスニングルームの床剛性や壁材や形状等)で再現性が安定しない事も知られている。
【0003】
アンプの場合は電源トランスの交流基本信号とその高調波成分による「うなり」が発生する。CDプレイヤーの場合はディスクを回すモーターが振動源となる。スピーカーの場合、コーンを駆動するボイスコイルの反力がスピーカー・エンクロージャー(箱)本体を振動させる。この振動がスピーカーを設置した設置面に伝達され、設置面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。
【0004】
一方、原音に複雑に重畳された外乱振動は、再びスピーカー本体を振動させる。この時発生する混変調歪(サブハーモニクス)がオーディオ機器の音質を劣化させるという仮説が提唱されている。同時に、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動も再生音の品位を低下させる重要な要因であるという点も間違いのない事実であると思われる。
【0005】
このような考えからオーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動を遮断してオーディオ機器の音質を改善するものとして、オーディオ用インシュレータがある。オーディオ機器の音質を改善し、リスナーの好みの音に調整するチューニング手段として用いられるようになった。インシュレータの適用により、音質が変ることは良く知られているが、その効果をもたらすメカニズムについては、理論的に十分解明されているとは言えず、経験的、試行錯誤的に開発されたものが多い。過去、インシュレータとして用いられているものに、次の二つのタイプがある。
【0006】
(1)フローティング方式インシュレータ:このタイプのインシュレータは、設置面とオーディオ機器との振動の遮断(シャットアウト)を目的としたもので、剛性の小さい緩衝体が用いられる。緩衝体として、ゴムブロック材を用いたもの、スプリングコイルを用いるもの、空気を封じ込めたエアーフローティング・ボード、磁力の反発力を利用したもの、線材で吊り下げたもの(特許文献2)などがある。現在は高価であるとか、取り扱いが不便であるとかの理由で主流ではない。
【0007】
(2)硬質材料によるインシュレータ:インシュレータのもうひとつのタイプは硬質材を用いるもので現在は殆んどがこのタイプである。近年、前述した緩衝体に代わり、オーディオ機器が発生する振動を効果的に吸収し、外部へ逃すことを目的とした硬質材、たとえば、木材、樹脂、金属、セラミック等を用いたもの、及びこれらの素材を多層構造にした複合タイプが考案され商品化されている。複合タイプについては、(特許文献1)に開示されている。
【0008】
硬質インシュレータの場合は、良質な音響素材のキャラクターを利用した再生音のチューニング手段として用いられる。例えば、
1.金属系材料
真鍮:キラリとした明るいブリリアントな響き
銅:重厚感があってパワフル
銀:芯のとおりが良く、音の立ち上がり・立ち下がりが素早い
金:ふくよかさで艶やか
2.木材系材料
アフリカ黒檀:固いが刺激的ではない音(楽器に使用される)
縞黒檀:アフリカ黒檀より柔らかい
桜:柔らかく芳純
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10―246284
【特許文献2】特開2011―27249
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、主流の硬質材料インシュレータの場合は、良質な音響素材の選択により、オーディオ機器が発生した高周波振動を効果的に吸収し、外部へ逃すことはできる。しかし、低周波数(たとえば、数10Hz以下)の振動を減衰させることはできない。
【0011】
例えば、スピーカーが設置される民間住宅の設置面は、通常20〜100Hzを固有値とする分布振動モードを持っている。前述したように、スピーカーの振動が設置面に伝達されると、設置面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。この低周波の設置面振動とスピーカー本体の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化は、硬質材料インシュレータでは基本的に回避できない。しかも、硬質材料インシュレータでは振動遮断性能が悪く音質改善効果が小さかった。
【0012】
これに対して、フローティング方式インシュレータはオーディオと設置面との間を遮断することが出来るが、上述したゴムブロック製インシュレータの場合は、ゴムの粘弾性による過剰な制振作用により、音に生気を与える高周波数成分まで減衰してしまうため、音の輪郭が曖昧となり、音質に混濁感が生じるという欠点があった。
【0013】
スプリング方式の場合、ばね剛性と搭載物の質量できまる固有振動、及び、複数の高調波振動(サージング)が広い周波数領域に亙って発生するため、この振動が音に与える影響をどう回避するかが大きな課題となる。その他の方式のものは構造が複雑で取り扱いに熟練を要し且つ高価であって一般的ではない。
【0014】
本発明の第1の目的は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、従来のフローティング方式インシュレータの欠点を排除した安価で取り扱いが簡便なフローティング方式のオーディオ用インシュレータを提供することにあり、第2の目的は硬質材料インシュレータの利点を取り入れた安価で取り扱いが簡便なフローティング方式のオーディオ用インシュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
削除
【0016】
削除
【0017】
請求項1は、弾性筒状部材(2)をオーディオ用インシュレータの主要部材として用いた場合で、
設置面(11)に設置される、上面開口で有底筒状の金属製の下カップ(1)と、
下カップ(1)に立てて収納された弾性筒状部材(2)と、
弾性筒状部材(2)上に被せられた、下面開口でオーディオ機器(10)を支える天面(3a)を有する筒状の金属製の上カップ(3)とで構成されたオーディオ用インシュレータ(
B)であって、
弾性筒状部材(2)は、円筒状の弾性部材本体(2h)と、弾性部材本体(2h)内に埋設されたコイルばね(5)と、弾性部材本体(2h)の外周面に一体的に突設され、下カップ(1)の内周面に上下複数段にて接する下側の弾性外鍔(2a)(2b)及び上カップ(3)の内周面に接する上側の弾性外鍔(2c)とで構成され、
上カップ(3)の側壁(3b)は、上側外鍔(2c)と接する部分より下側に延出していることを特徴とする。
【0018】
主要部材である弾性筒状部材(2)は、単独でオーディオ機器(10)の下にセットするだけで、可聴域(f>20Hz)における低周波振動のオーディオ機器(10)と設置面(11)との間に大きな遮断作用が得られ、設置面(11)からの振動をオーディオ機器(10)が受けることがなく、逆にオーディオ機器(10)から生じた振動が設置面(11)に伝播することが防止される。そして、オーディオ機器(10)から弾性部材本体(2h)に伝わった振動は、弾性部材本体(2h)の粘弾性によって制振されるものの、その振動は弾性部材本体(2h)の外周面に一体的に突設された弾性外鍔(2c)にも伝達され、弾性外鍔(2c)を振動させ、前記粘弾性による過剰制振を緩和する。そしてこの弾性筒状部材(2)の適度な制振と、上カップ(3)の側壁(3b)の下側延出部分(S)の振動による残響効果により、再生音に対する好影響を実現することが出来る。
【0019】
請求項
2の発明は、上下カップ(1)(3)内に収納される弾性筒状部材(2)が複数個並列に配列されることを特徴とするもので、この場合は、重量オーディオ機器(10)の支持が可能となるだけでなく、弾性外鍔(2a)〜(2c)の大部分がフリーとなっているため、この部分の自由な振動が確保され、より優れた再生音を実現する。
【0020】
請求項
3の発明は、上側の外鍔(2c)の基部(2e)の少なくとも表裏いずれかにおいて全周に凹溝(2d)が形成されていることを特徴とするもので、このようにすれば上側の外鍔(2c)の厚肉の外周先端部分(2s)の振幅を大きく取ることが出来、弾性筒状部材(2)の過剰制振をより緩和できることになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明はフローティング方式の
インシュレータであるから、オーディオ機器(10)と設置面(11)との間の振動伝達を必要充分に遮断することができてオーディオ機器(10)の持つ音の再生特性を有る程度損なうことなく引き出すことができ、しかもフローティング方式のインシュレー
タの欠点である過剰制振を抑制することができるし、オーディオ機器(10)の下に置くだけであるから、取り扱いも簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態1
(参考例)を示すオーディオ用インシュレータの平面図である。
【
図2】本発明の実施形態1
(参考例)を示すオーディオ用インシュレータの正面断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態1
(参考例)を示すオーディオ用インシュレータの正面断面図である。
【
図4】本発明の実施形態2を示すオーディオ用インシュレータの部分正面断面図である。
【
図5】本発明の実施形態3を示すオーディオ用インシュレータの部分正面断面図である。
【
図6】
図5の上カップに使用される位置決めプレートの平面図である。
【
図7】
図5の下カップに使用される位置決めプレートの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図示実施例により説明する。
図1、2は本発明の実施形態1
(参考例)に係るオーディオ用インシュレータ(A)で、弾性筒状部材(2)が用いられる。弾性筒状部材(2)の主材は高減衰性エラストマ(即ち、低反発ゴム、ウレタンゴムや発泡性ゴム)で、筒状の弾性部材本体(2h)の外周全周に外鍔(2a)(2b)(2c)が3段に亙って突設されている。そして上側外鍔(2c)の表裏のいずれか或いはその両面には、必要に応じてその基部(2e)全周に凹溝(2d)が形成されており、その場合には基部(2e)は外周先端部分(2s)に比べて薄肉になっている。
【0024】
これに対して下側外鍔(2a)(2b)には凹溝(2d)がなく、全体的に同じ厚みに形成されている。図示していないが、勿論、下側外鍔(2a)(2b)にも凹溝(2d)を設けることも可能であるし、外鍔の段数についても変更可能であるが、少なくとも1段は必要であり、必要に応じて任意の外鍔(2a)〜(2c)の基部(2e)全周に凹溝(2d)を形成することも可能である。また、弾性部材本体(2h)の上下端面には同心状の凹段部(2j)(2k)が形成されている。上端面の凹段部(2k)の周囲は薄肉リング状の縁(2L)となっている。
【0025】
前記高減衰性エラストマは衝撃に対して振動吸収性と内部減衰性に優れ、外力を受けてもほとんど反発せず、振動エネルギーを吸収し熱エネルギーに変える性質を持つ公知の制振材料である。
【0026】
そして、筒状の弾性部材本体(2h)にはほぼ全長に亙ってコイルばね(5)が埋設されている。埋設状態は弾性部材本体(2h)の上下端面からコイルばね(5)の先端巻き部分が露出するようにしてもよいし、図のように露出しないように埋設してもよい。露出する場合は、オーディオ機器(10)からの振動が僅かであるがこのコイルばね(5)を通って下面側に伝達され、金管と同様に作用して空中に放出される。
【0027】
コイルばね(5)の線径は細いものから太いものまで数々用意されており、オーディオ機器(10)の重量或いはチューニングに合わせて最適のものが選定される。また巻き数も多種類のものが用意されており適宜のものが選ばれる。
【0028】
しかして、設置面(11)上に少なくとも3又は4個(大きければ1個或いは2個)のインシュレータ(A)
(参考例)を配置し、その上からオーディオ機器(10)を載置する。オーディオ機器(10)の底面は前記凹段部(2k)の周囲の薄肉リング状の縁(2L)を押し潰しながら載置されている。オーディオ機器(10)の重量によってはオーディオ機器(10)の底面が凹段部(2k)の段部面(場合によってはコイルばね(5)の端部)には接触しない場合もあるし、接触する場合もある。同時にオーディオ機器(10)の重量で弾性部材本体(2h)とコイルばね(5)が撓み、釣り合った処で静止する。オーディオ機器(10)の重量の大半はコイルばね(5)が受け持つ。
【0029】
この状態で音を出すと、オーディオ機器(10)から弾性筒状部材(2)に振動が伝達されるが、そのかなりの部分は弾性部材本体(2h)で消費・制振され、設置面(11)に伝わらない。一方、伝達された振動の一部は外鍔(2a)〜(2c)に伝達され、外鍔(2a)〜(2c)を振動させる。その結果、弾性部材本体(2h)による過剰制振が緩和され、音質に下記のような効果を与える。外鍔(2a)に凹溝(2d)を設け、基部(2e)より外周先端部分(2s)の方を厚肉にしておけば、外鍔(2a)の振動が大きくなり音質向上に更に役立つ。
【0030】
(定性的数値比較実験)
インシュレータとして参考例である弾性筒状部材(2)をスピーカーに適用した場合、スピーカーの質量とインシュレータの粘弾性によって音響効果が微妙に異なることが分かった。適用したスピ−カーはモニター用として定評のある機種である。インシュレータをスピ−カーの底面の4隅に配置して、スピ−カーを支持した。比較例として、インシュレータを使用しない場合と比較した。以下は試聴実験に参加した5人のリスナーが10点満点で採点した。
A:インシュレータを使用しない場合
B:
参考例のインシュレータを使用した場合
評価項目 A B
高分解能 5.0 7.0
奥行き 5.0 5.5
雰囲気 5.0 5.0
中音域 7.0 7.5
自然さ 7.0 7.0
透明感 5.0 8.0
臨場感 5.0 8.0
インパクト 5.0 6.0
リズム感 6.0 7.0
フォーカス 6.0 7.0
立体感 5.0 7.0
トランジェント 7.0 8.0
低域共振 5.0 8.0
ダイナミクス 6.0 7.0
総合音楽性 5.0 7.0
【0031】
ここで、上記の評価項目の一部の内容を以下に示す。
1.奥域又は奥行き感 (空間性):スピーカーの背景に壮大なオーケストラの空間が、スピーカーから離脱して奥深く展開される。
2.分解能(フォーカス感):各楽器が視覚で見えるようにその存在感が分かり、音像(sound stage)の焦点が明確に定まる。
3.透明感(S/N比):複層する楽器音が混濁せず分離する。高域が繊細で歪み感が小さい。
4.低域の力感(ダンピング):低域が引き締まり、オーケストラの弦の低域音、ジャズのベース音が明確に定位して聴こえる。
5.トランジェント:過渡応答特性。「トランジェントが良い」とは、元の信号に余計な成分が付かず、なまったりもせず、瞬間的な信号の変化にもすばやく追従できるということ。音の切れのよさ。
【0032】
(実験結果)
定性的であるが、
参考例である弾性筒状部材(2)は大半が制振効果の高減衰エラストマで形成されているため、インシュレータを使用しない場合と比較して、かなりの改善が見られた。
【0033】
図3は実施形態1
(参考例)の他の例で、弾性部材本体(2h)の外周面及び内周面に波形の凹凸を設けた例である。凹凸を設けることにより、弾性部材本体(2h)の大きな撓みが容易になり、オーディオ機器(10)と設置面(11)との間の遮断効果が高まる。
【0034】
次に、本発明の実施形態2を第4図を参照しつつ説明する。実施形態2は実施形態1
(参考例)のオーディオ用インシュレータ(A)である弾性筒状部材(2)の1例をその主要部材として用いた場合で、下カップ(1)、弾性筒状部材(2)、上カップ(3)、必要に応じて設けられる弾性シート(5a)(5b)とで構成されている。
【0035】
下カップ(1)は薄板金属のプレス成形品で、上面開口、有底筒状のものである。使用される金属としては、
鋼 (固有音響インピーダンス:Ns/m3が3.90×107)
アルミニウム (固有音響インピーダンス:Ns/m3が1.44×107)
真鍮(固有音響インピーダンス:Ns/m3が3.37×107)などがある。ちなみに、ρを媒質の密度、cを音速とすれば、前述の固有音響インピーダンスはz=ρcである。
【0036】
上カップ(3)も下カップ(1)と同様、薄板金属のプレス成形品で、下面開口、天面(3a)を有する筒状のものである。材質も同じものが使用される。上カップ(3)の内径は下カップ(1)の外径よりやや大きく、下カップ(1)が上カップ(3)内に隙間(t)を設けて入り込むことが出来る大きさとなっている。上下カップ(1)(3)には金管楽器に多用されている音響素材として良好な特性を有する真鍮を用いるのが好ましい。
【0037】
弾性筒状部材(2)は、下カップ(1)に嵌り込んで自立性を持たせ、且つ、負荷を掛けた時の撓み性を確保するために弾性部材本体(2h)の下部には、複数の下側外鍔(2a)(2b)が設けられている。本実施形態では2であるが、3以上であってもよいことはいうまでもない。また、弾性部材本体(2h)の上部には、1段の上側外鍔(2c)が設けられている。本実施形態では1であるが、2以上であってもよいことはいうまでもない。
【0038】
上側外鍔(2c)は下側外鍔(2a)(2b)よりその直径が大きく、上記外鍔(2a)〜(2c)は上カップ(3)、下カップ(1)にそれぞれ嵌り込んでおり、上カップ(3) 、下カップ(1)の内周面にそれぞれ接触或いは軽く圧入される程度の大きさである。そして、上段の下側外鍔(2b)の形成位置は下カップ(1)の側壁(1b)の高さに一致して形成されている。これに対して上側外鍔(2c)は上カップ(3)の内側に深く入り込んでおり、上側外鍔(2c)と上カップ(3)の接触部位からの上カップ(3)の開口端までがフリーとなっている。その距離を(S)で示す。
【0039】
なお、上側外鍔(2c)の表裏のいずれか或いはその両面には、必要に応じてその基部(2e)全周に凹溝(2d)が形成されており、その場合には基部(2e)は外周先端部分(2s)に比べて薄肉になっている。これに対して下側外鍔(2a)(2b)には凹溝(2d)がなく、全体的に同じ厚みに形成されている。
【0040】
振動吸収用の弾性シート(5a)(5b)は上、下カップ(1)(3)の設置面(11)やオーディオ機器(10)に接する天面(3a)に貼着されるもので、その材質は弾性筒状部材(2)と同様、高減衰性エラストマ(即ち、ウレタンゴム、や発泡性ゴムその他の低反発性ゴム)などが使用される。その大きさは、上・下カップ(1)(3)の天井面積又は設置面積より小さく且つ円形で薄い。弾性シート(5a)(5b)を設けることで、設置面(11)と下カップ(1)の底面(1a)、オー
ディオ機器(10)と上カップ(3)の天面(3a)とが直接接触せず、両者の直接接触に相互干渉を防止することが出来て再生音の品位低下させない。
【0041】
しかして、弾性筒状部材(2)を下カップ(1)に収納し、その上から上カップ(3)を被せる。前述のように、外鍔(2a)〜(2c)は上・下カップ(1)(3)の内周面に接触或いは軽く圧入された状態でそれぞれ収納される。弾性筒状部材(2)の上、下両端部は、上、下カップ(1)(3)に接触或いは圧入状態で収納されているので、両カップ(1)(3)の軸芯が一致し、且つ、自立した状態を保つ。
【0042】
本実施例(参考例)では、この状態のオーディオ用インシュレータを少なくとも設置面(11)上の4箇所に配置し、その上からオーディオ機器(10)を載置する。オーディオ機器(10)の重量に合わせて弾性筒状部材(2)が撓み、図
4のように下カップ(1)の上部に上カップ(3)の下部が隙間(t)を明けて重なり合うように嵌り込む。
【0043】
次に、実施形態2の音響効果について説明する。オーディオ機器(10)から音が出、その振動が上の弾性シート(5b)を介して上カップ(3)に伝わると、その大部分はそのまま上カップ(3)の天面(3a)から側壁(3b)に伝わる。上カップ(3)を伝わる振動は弾性筒状部材(2)の上部外鍔(2c)との接触部位から下側に伸びたフリーの部分(S)を振動させて空中に逃がし、これによって素材が持つキャラクターを利用した残響音(風鈴効果)を生じさせる。即ち、上カップ(3)が有する「硬質材料インシュレータの効果」を活かし、風鈴の持つさわやかな音色、換言すれば、風鈴が奏でる透明感のある深い音色と余韻のある音は遠くまでよく響き、風が吹くたび、細く凛と鳴り響く音色、即ち、風鈴の振動系により、良質な音響素材がもたらす効果を残響効果として利用した。
【0044】
この残響音は実施形態1
(参考例)と異なり、再生音に対して臨場感や奥行きを更に持たせる働きをする。この残響音は側壁(3b)の延出部分(S)の長さや上カップ(3)の直径、材質、肉厚、表面の模様などによって大きく変わる。材質としては前述のように金管楽器の素材として多用されている真鍮が好ましく、加工方法としては、上カップ(3)の天面(3a)から入射した音が、スムーズに上カップ(3)の側壁(3b)内に透過できるように、プレス加工の一体物とすることが好ましい。
【0045】
一方、上カップ(3)に入力した振動の残部は弾性筒状部材(2)に伝わる。この残部の振動の弾性筒状部材(2)における働きは、実施形態1
(参考例)と基本的に同じであるかが、上部鍔部(2c)が上カップ(3)の内周面に接触しているため、自由な振動が拘束され、その分だけ制振作用が強まる。
【0046】
なお、弾性シート(5a)(5b)は硬い上・下カップ(1)(3)とオーディオ機器(10)、設置面(11)との直接的な接触を遮断して両者の直接的な接触による振動発生(相互干渉)をなくす働きをしている。
【0047】
下カップ(1)は開口部分まで下側外鍔(2b)と接触していること、及び上部から弾性筒状部材(2)内を伝わってきた振動の殆んどは弾性筒状部材(2)の底部に到達するまでに吸収・減衰してしまうことから、弾性筒状部材(2)の自立を助ける働きが中心となる。
【0048】
次に、実施形態3を
図5〜7に従って説明する。この場合は、4個の弾性筒状部材(2)が一つの上・下カップ(1)(3)内に並列に配列される。これら弾性筒状部材(2)は上下の円形の位置決めプレート(7)(8)に嵌め込まれて上・下カップ(1)(3)内に収納されている。上の位置決めプレート(8)は弾性筒状部材(2)の上端突出部が嵌り込む大きさの丸孔(8a)が等間隔で形成されている。下の位置決めプレート(7)は弾性筒状部材(2)の最下段の外鍔(2a)が嵌り込む大きさの一部切欠丸孔(7a)が等間隔で形成されている。
【0049】
下側の位置決めプレート(7)を下カップ(1)の底部に嵌め込み、一部切欠丸孔(7a)に弾性筒状部材(2)の最下段の外鍔(2a)を嵌り込み、その上から上側の位置決めプレート(8)の丸孔(8a)に弾性筒状部材(2)の上端突出部を挿入し、最後に上カップ(3)を上側の位置決めプレート(8)の上から被せる。
【0050】
弾性筒状部材(2)の外鍔(2a)〜(2c)はその一部が上下カップ(1)(3)の側片の内周面に接するが、大部分はフリーの状態を保つ。その結果、大重量のオーディオ機器(10)を支持することができるだけでなく、実施形態
1の上カップ(3)の風鈴効果と外鍔(2a)〜(2c)の制振緩和効果の相乗効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0051】
(
B):オーディオ用インシュレータ、(S):下側延出部分、(1):下カップ、(1b):側壁、(2):弾性筒状部材、(2a)(2b)(2c):弾性外鍔、(2d):凹溝、(2e):基部、(2h):弾性部材本体、(2s)外周先端部分:、(3):上カップ、(3b):側壁、(5a)(5b):弾性シート、(10):オーディオ機器、(11):設置面、 (5):コイルばね