特許第5834551号(P5834551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許5834551-転がり軸受の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834551
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】転がり軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/76 20060101AFI20151203BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20151203BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   F16C33/76 Z
   F16C19/18
   F16C33/78 Z
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2011-149933(P2011-149933)
(22)【出願日】2011年7月6日
(65)【公開番号】特開2013-15209(P2013-15209A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】朝見 達哉
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−336689(JP,A)
【文献】 実開平6−6153(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
33/30−33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側の軌道面を有する外輪部材と、回転側の軌道面を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材との間の軸受内部空間に配置される転動体と、前記軸受内部空間のアキシャル方向の両端に配置されて、前記軸受内部空間を圧入密封する密封装置と、を備える転がり軸受の製造方法において、
前記外輪部材には前記軸受内部空間と外部空間とを連通する少なくとも1個の排気孔が形成され、前記封止部材を嵌挿する体積は前記密封装置を圧入する体積よりも小さく、
前記密封装置により前記軸受内部空間を密封する第1工程と、
前記第1工程の後、前記排気孔に弾性部材からなる封止部材を嵌挿させる第2工程と、を有する
転がり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車輪に用いる転がり軸受は、雨水や泥水の影響を受けるような悪環境で使用されるため、軸受の外部と内部との間を弾性部材からなる泥水耐久性に優れた密封装置により密封し、密封性を高めている。
【0003】
車輪用転がり軸受は、車両の運転初期に急激に転がり軸受の回転速度が高まり、転がり軸受の温度が上昇することにより、転がり軸受内部の圧力が上昇し、転がり軸受の内部に封入したグリースが軸受内部から押し出され、漏洩することがある。また、その際には、密封装置のリップが転がり軸受の外方に向かって変形し、リップと摺接面との間隔が開くことにより、外部から転がり軸受の内部に水や塵埃が浸入する場合がある。
【0004】
また、転がり軸受が定常状態で運転されていても、車両が水溜りの中等を走行して車輪が水や泥水を巻き上げることにより、転がり軸受が水や泥水に曝されることとなる。この場合は、温度が上昇している転がり軸受が急激に冷却されるため、転がり軸受内部の圧力が低下して、リップと摺接面との間から転がり軸受内部に水や塵埃が吸引される場合がある。さらに、リップの先端部が摺接面に強く押し付けられ、摩擦抵抗が上昇して、リップの先端部に著しい磨耗をきたすことがある。このようにして、リップの先端部が磨耗してしまうと、転がり軸受の密封性が低下する場合がある。
【0005】
このため、軸受内部と軸受外部との両方に露出している密封装置が、軸受内外の圧力差によって弾性変形することにより軸受内部の体積が変化して、軸受内部の圧力が軸受外部の圧力に近づくように調整する内圧調整手段を備えた車輪用転がり軸受がある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−226826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の転がり軸受は、軸受の組立工程において、内輪と外輪と転動体とを組み立て、次にグリースを封入し、最後に密封装置を圧入するが、密封装置を圧入するときに、軸受内部の体積が密封装置の体積分減少するので、軸受内部の圧力が上昇する。密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇は、上記の温度変化による圧力上昇に比べてはるかに大きく、転がり軸受が密封装置を圧入するときの圧力上昇を、上記の内圧調整手段では調整しきれないことがある。そこで、転がり軸受は、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することが課題となっていた。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる転がり軸受の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る転がり軸受の製造方法の構成上の特徴は、 固定側の軌道面を有する外輪部材と、回転側の軌道面を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材との間の軸受内部空間に配置される転動体と、前記軸受内部空間のアキシャル方向の両端に配置されて、前記軸受内部空間を圧入密封する密封装置と、を備える転がり軸受の製造方法において、
前記外輪部材には前記軸受内部空間と外部空間とを連通する少なくとも1個の排気孔が形成され、前記封止部材を嵌挿する体積は前記密封装置を圧入する体積よりも小さく、
前記密封装置により前記軸受内部空間を密封する第1工程と、
前記第1工程の後、前記排気孔に弾性部材からなる封止部材を嵌挿させる第2工程と、を有することである。
【0010】
請求項1の転がり軸受の製造方法によれば、第1工程で密封装置を圧入するときは、密封装置の圧入する体積分が軸受内部空間から排気孔を介して軸受外部空間に排気されるので、軸受内部の圧力上昇はない。密封装置を圧入による軸受内部空間を密封後、第2工程で封止部材を嵌挿する際、軸受内部空間の体積が封止部材の圧入する体積分減少するので、軸受内部の圧力が上昇する。これにより、第1工程で密封装置を圧入後、密封装置よりも圧入する体積が小さい封止部材を第2工程で嵌挿するので、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、密封装置を圧入するときの軸受内部の圧力上昇を抑制することができる転がり軸受の製造方法を提供できる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態である転がり軸受を備えたハブユニットの縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態である転がり軸受の組立工程で排気孔に封止部材を嵌挿した状態の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の転がり軸受を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態である転がり軸受を備えたハブユニット1の縦断面図である。図2は、本発明の一実施形態である転がり軸受の組立工程で排気孔9に封止部材10を嵌挿した状態の拡大断面図である。図1及び図2を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、車両インナ側とは図1における左側を示し、車両アウタ側とは図1における右側を示すものとする。
【0016】
ハブユニット1は、例えば前輪駆動車の前輪用(駆動軸用)のものであり、複列外向きのアンギュラ玉軸受構造とされている。具体的には、ハブユニット1は、車体側のナックル20に固定される外輪2(外輪部材)と、この外輪2の中心軸線01と同軸に配置されて車軸側のタイヤホイール(図示省略)及びブレーキディスクロータ30に固定される内軸3(内輪部材)と、内軸3の車両インナ側端に一体形成された嵌め合い部3aの外周面に嵌着される内輪4と、外輪2と内軸3及び内輪4との間にて周方向に配置される複列の玉5(転動体)とを備えている。
【0017】
外輪2の内周面には、車両インナ側に配列された玉5用の軌道面2aと、車両アウタ側に配列された玉5用の軌道面2bとが形成されている。外輪2の外周面には、径方向に突出形成された車体取付フランジ部2cが形成されている。
【0018】
内軸3の外周面には、外輪2の軌道面2bに対向する軌道面3bが形成され、軌道面3bよりもさらに車両アウタ側には、径方向に突出形成された車輪取付フランジ部3cが形成されている。
【0019】
内輪4は、嵌め合い部3aに外嵌圧入され、嵌め合い部3aと一体化されている。内輪4の外周面には、外輪2の軌道面2aに対向する軌道面4aが形成されている。
【0020】
外輪2と内軸3及び内輪4との間には、転動体としての玉5を配置するための環状空間が形成されており、この環状空間は、車両アウタ側にて弾性部材からなる環状の密封装置7により、車両インナ側にて弾性部材からなる環状の密封装置8により、外輪2と内軸3及び内輪4とのそれぞれの相対回転を許容した状態で密封されている。
【0021】
外輪2には、ハブユニット1の中心軸線01に対して下側に、軸受内部空間6から軸受外部空間に連通する排気孔9が形成されており、排気孔9の内径は一定の円形孔である。
【0022】
ハブユニット1は、外輪2の外周面に位置する排気孔9の端部開口を、嵌挿して封止する封止部材10を備えている。
【0023】
封止部材10は、排気孔9に嵌合する円柱部10bと、排気孔9の周縁の外輪2外周面に当接する鍔部10aとを備えている。
円柱部10bは、その外径Aが排気孔9の内径Bよりもわずかに大きく設定されていて、締め代をもって嵌合することにより、排気孔9から軸受内部空間6のグリースが漏れることを防止するとともに、軸受外部からの異物の侵入を防止する密封性能を確保する。ここで、封止部材10は、円柱部10bが押圧により縮径可能なゴムや樹脂などの弾性部材からなる。
鍔部10aは、排気孔9への嵌挿時に排気孔9から軸受内部空間6へ入り込むことを防止できる。
【0024】
図1に示すように、排気孔9に挿入される封止部材10の体積は、密封装置7,8に比べてはるかに小さい。
【0025】
ハブユニット1の組立工程は、外輪2と内軸3及び内輪4と玉5とを組み立て、次に軸受内部空間6にグリースを封入し、次に密封装置7,8を圧入する。密封装置7,8を圧入するときには、密封装置7,8を圧入する体積分が軸受内部空間6から排気孔9を介して軸受外部空間に排気されるので、軸受内部空間6の圧力上昇はない。そして、最後に封止部材10を排気孔9に嵌挿し、嵌挿時には、軸受内部空間6の体積が封止部材10の体積分減少するので、軸受内部の圧力が上昇する。
【0026】
これにより、密封装置7,8を圧入による軸受内部空間6の密封後、密封装置7,8よりもはるかに体積が小さい封止部材10を嵌挿するので、密封装置7,8を圧入することによる軸受内部の圧力上昇を大きく抑制することができる。
【0027】
以上のように、本実施の形態に係るハブユニット1によれば、密封装置7,8を圧入するときは、密封装置7,8を圧入する体積分が軸受内部空間6から排気孔9を介して軸受外部空間に排気されるので、軸受内部の圧力上昇はない。ハブユニット1の組立工程において、密封装置7,8を圧入後、封止部材10を嵌挿するときは、軸受内部空間6の体積が封止部材の体積分減少するので、軸受内部の圧力が上昇する。これにより、密封装置7,8を圧入後、密封装置7,8よりも圧入する体積が小さい封止部材10を嵌挿するので、密封装置7,8を圧入することによる軸受内部の圧力上昇を抑制することができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、封止部材10は、円柱部10bと鍔部10aとを備えるとしたが、それに限るものではなく、例えば、鍔部10aを備えていない、即ち円柱部10bのみ備えるものでもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、封止部材10は、密封性能を確保する手段として、円柱部10bの外径Aが排気孔9の内径Bよりもわずかに大きく設定されていて、締め代をもって嵌合することによるとしたが、それに限るものではなく、例えば、円柱部10bの外周に環状で突出する突部を設けて、この突部が弾性変形して嵌合する形態でもよい。
【符号の説明】
【0030】
1:ハブユニット(転がり軸受)、 2:外輪(外輪部材)、 3:内軸(内輪部材)、 4:内輪 (内輪部材)、 5:玉(転動体)、 6:軸受内部空間、 7,8:密封装置、 9:排気孔、 10:封止部材、 10a:鍔部
図1
図2