特許第5834594号(P5834594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧
<>
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000012
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000013
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000014
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000015
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000016
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000017
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000018
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000019
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000020
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000021
  • 特許5834594-燃料電池の湿潤状態制御装置 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834594
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】燃料電池の湿潤状態制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20060101AFI20151203BHJP
   H01M 8/10 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
   H01M8/04 K
   H01M8/04 T
   H01M8/04 A
   H01M8/04 J
   !H01M8/10
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-165322(P2011-165322)
(22)【出願日】2011年7月28日
(65)【公開番号】特開2013-30346(P2013-30346A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100114236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120178
【弁理士】
【氏名又は名称】三田 康成
(72)【発明者】
【氏名】青木 哲也
【審査官】 東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−115488(JP,A)
【文献】 特開2000−243418(JP,A)
【文献】 特開2006−351506(JP,A)
【文献】 特開2007−123095(JP,A)
【文献】 特開2009−231225(JP,A)
【文献】 特開2006−004819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の目標水収支、冷却水温度、カソードガス流量に基づいてカソードガス圧力を調整する圧力制御部と、
燃料電池の目標水収支、カソードガス流量、カソードガス圧力に基づいて、冷却水温度を調整する水温制御部と、
燃料電池の目標水収支、カソードガス圧力、冷却水温度に基づいてカソードガス流量を調整する流量制御部と、
を含んで燃料電池の湿潤状態を制御する装置であって、
前記圧力制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合であって、湿潤状態を低めて乾燥させるときには、燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときカソードガスの流量及び燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするとき冷却水の温度に基づいてカソードガスの圧力を制御し、湿潤状態を高めて湿潤させるときには、燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときカソードガスの流量及び冷却水の実温度に基づいてカソードガスの圧力を制御し、
前記水温制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合に、カソードガスの実圧力及び燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときカソードガスの流量を用いて冷却水の温度を制御し、
前記流量制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合に、カソードガスの実圧力及び冷却水の実温度を用いてカソードガスの流量を制御する、
燃料電池の湿潤状態制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の湿潤状態制御装置において、
前記冷却水の実温度に基づくとは、燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするとき冷却水の温度及び冷却水の実温度の間であって冷却水温度を操作する操作量に応じて演算される演算値を用いることである、
燃料電池の湿潤状態制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池の湿潤状態制御装置において、
現在よりも高湿潤状態にするときカソードガスの流量とは、燃料電池の性能を確保できる範囲で最も低い流量であり、
現在よりも高湿潤状態にするときに供給する冷却水の温度とは、燃料電池の性能を確保できる範囲で最も低い温度である、
燃料電池の湿潤状態制御装置。
【請求項4】
燃料電池の目標水収支、カソードガス圧力、冷却水温度に基づいてカソードガス流量を調整する流量制御部と、
燃料電池の目標水収支、カソードガス流量、カソードガス圧力に基づいて、冷却水温度を調整する水温制御部と、
燃料電池の目標水収支、冷却水温度、カソードガス流量に基づいてカソードガス圧力を調整する圧力制御部と、
を含んで燃料電池の湿潤状態を制御する装置であって、
前記流量制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合であって、湿潤状態を高めて湿潤させるときには、燃料電池を現在よりも低湿潤状態にするときカソードガスの圧力及び燃料電池を現在よりも低湿潤状態にするとき冷却水の温度に基づいてカソードガスの流量を制御し、湿潤状態を低めて乾燥させるときには、燃料電池を現在よりも低湿潤状態にするときカソードガスの圧力及び冷却水の実温度に基づいてカソードガスの流量を制御し、
前記水温制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合に、カソードガスの実流量及び燃料電池を現在よりも低湿潤状態にするときカソードガスの圧力を用いて冷却水の温度を制御し、
前記圧力制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合に、カソードガスの実流量及び冷却水の実温度を用いてカソードガスの圧力を制御する、
燃料電池の湿潤状態制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池の湿潤状態制御装置において、
前記冷却水の実温度に基づくとは、燃料電池を現在よりも低湿潤状態にするとき冷却水の温度及び冷却水の実温度の間であって冷却水温度を操作する操作量に応じて演算される演算値を用いることである、
燃料電池の湿潤状態制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の燃料電池の湿潤状態制御装置において、
現在よりも低湿潤状態にするときカソードガスの圧力とは、燃料電池の性能を確保できる範囲で最も低い圧力であり、
現在よりも低湿潤状態にするとき冷却水の温度とは、燃料電池の性能を確保できる範囲で最も高い温度である、
燃料電池の湿潤状態制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の湿潤状態を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を効率よく発電させるには、電解質膜を適度な湿潤状態に維持することが重要である。すなわち、電解質膜の湿潤状態が高すぎればフラッディングが生じたり零下起動に備えて停止時のパージ動作が必要になる。また電解質膜の湿潤状態が低すぎれば燃料電池スタックの電圧が落ち込んで出力が大きく低下するおそれがある。そこで特許文献1では、電解質膜を適度な湿潤状態に維持するカソードガス圧力及びカソードガス流量となるように調圧弁やカソードコンプレッサーを制御していた。特に燃費を考慮して湿潤側に制御する場合は、カソードコンプレッサーの消費電力を下げるために回転速度を先に低下させ、その後、調圧弁を開いて圧力を上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−115488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
湿潤度を制御するパラメーターとしては冷却水温もある。しかしながら、前述した手法では、湿潤調整するために、冷却水温を制御していなかった。そのため過渡時の湿潤制御において、燃費を改善する余地のあることが本件発明者らによって知見された。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、本発明の目的は、冷却水の制御を含めて燃費の悪化を抑制しつつ、電解質膜を適度な湿潤状態に維持することができる燃料電池の湿潤状態制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明の燃料電池の湿潤状態制御装置は、燃料電池の目標水収支、冷却水温度、カソードガス流量に基づいてカソードガス圧力を調整する圧力制御部と、燃料電池の目標水収支、カソードガス流量、カソードガス圧力に基づいて、冷却水温度を調整する水温制御部と、燃料電池の目標水収支、カソードガス圧力、冷却水温度に基づいてカソードガス流量を調整する流量制御部と、を含んで燃料電池の湿潤状態を制御する装置である。そして、前記圧力制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合であって、湿潤状態を低めて乾燥させるときには、燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときに供給するカソードガスの流量及び燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときに供給する冷却水の温度に基づいてカソードガスの圧力を制御し、湿潤状態を高めて湿潤させるときには、燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときに供給するカソードガスの流量及び冷却水の実温度に基づいてカソードガスの圧力を制御し、前記水温制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合に、カソードガスの実圧力及び燃料電池を現在よりも高湿潤状態にするときに供給するカソードガスの流量を用いて冷却水の温度を制御し、前記流量制御部は、燃料電池の湿潤状態を調整する場合に、カソードガスの実圧力及び冷却水の実温度を用いてカソードガスの流量を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料電池の湿潤状態を調整するときに、湿潤状態を下げるときには、可能な限りコンプレッサーの回転速度の上昇が抑制されることとなる。また湿潤状態を上げるときには、まず目標流量を下げてコンプレッサーの回転速度を下げることとなる。このようになるので、コンプレッサーの消費電力が抑えられるため、燃費の悪化を抑制しつつ、電解質膜を適度な湿潤状態に維持することができる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明による燃料電池の湿潤状態制御装置を適用するシステムの一例を示す図である。
図2図2は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
図3図3は、目標湿潤状態が下がるときのコントローラの湿潤状態制御にかかる機能をブロック図として表したものである。
図4図4は、目標湿潤状態が下がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
図5図5は、目標湿潤状態が上がる場合に上記制御ロジックが実行されたときの問題点を説明する図である。
図6図6は、目標湿潤状態が上がるときのコントローラの湿潤状態制御にかかる機能をブロック図として表したものである。
図7図7は、本発明による燃料電池の湿潤状態制御装置の目標圧力演算ブロックB101に入力する温度について説明する図である。
図8図8は、目標湿潤状態が上がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
図9図9は、本発明による燃料電池の湿潤状態制御装置の第2実施形態のコントローラの湿潤状態制御にかかる機能をブロック図として表したものである。
図10図10は、目標湿潤状態が上がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
図11図11は、目標湿潤状態が下がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池の湿潤状態制御装置を適用するシステムの一例を示す図である。
【0012】
最初に図1を参照して、本発明による燃料電池の湿潤状態制御装置を適用する基本的なシステムについて説明する。
【0013】
燃料電池スタック10は、適温に維持されつつ反応ガス(カソードガスO2、アノードガスH2)が供給されて発電する。そこで燃料電池スタック10には、カソードライン20と、アノードライン30と、冷却水循環ライン40と、が接続される。なお燃料電池スタック10の発電電流は、電流センサー101で検出される。燃料電池スタック10の発電電圧は、電圧センサー102で検出される。
【0014】
カソードライン20には、燃料電池スタック10に供給されるカソードガスO2が流れる。カソードライン20には、コンプレッサー21と、カソード調圧弁22と、が設けられる。
【0015】
コンプレッサー21は、カソードガスO2、すなわち空気を燃料電池スタック10に供給する。コンプレッサー21は、燃料電池スタック10よりも上流のカソードライン20に設けられる。コンプレッサー21は、モーターMによって駆動される。コンプレッサー21は、カソードライン20を流れるカソードガスO2の流量を調整する。カソードガスO2の流量は、コンプレッサー21の回転速度によって調整される。
【0016】
カソード調圧弁22は、燃料電池スタック10よりも下流のカソードライン20に設けられる。カソード調圧弁22は、カソードライン20を流れるカソードガスO2の圧力を調整する。カソードガスO2の圧力は、カソード調圧弁22の開度によって調整される。
【0017】
カソードライン20を流れるカソードガスO2の流量は、カソード流量センサー201で検出される。このカソード流量センサー201は、コンプレッサー21よりも下流であって燃料電池スタック10よりも上流に設けられる。
【0018】
カソードライン20を流れるカソードガスO2の圧力は、カソード圧力センサー202で検出される。このカソード圧力センサー202は、コンプレッサー21よりも下流であって燃料電池スタック10よりも上流に設けられる。さらに図1では、カソード圧力センサー202は、カソード流量センサー201の下流に位置する。
【0019】
アノードライン30には、燃料電池スタック10に供給されるアノードガスH2が流れる。アノードライン30には、アノード再循環ライン300が並設される。アノード再循環ライン300は、燃料電池スタック10よりも下流のアノードライン30から分岐し、燃料電池スタック10よりも上流のアノードライン30に合流する。アノードライン30には、ボンベ31と、アノード調圧弁32と、エゼクター33と、アノードポンプ34と、パージ弁35と、が設けられる。
【0020】
ボンベ31には、アノードガスH2が高圧状態で貯蔵されている。ボンベ31は、アノードライン30の最上流に設けられる。
【0021】
アノード調圧弁32は、ボンベ31の下流に設けられる。アノード調圧弁32は、ボンベ31から新たにアノードライン30に供給するアノードガスH2の圧力を調整する。アノードガスH2の圧力は、アノード調圧弁32の開度によって調整される。
【0022】
エゼクター33は、アノード調圧弁32よりも下流に設けられる。エゼクター33は、アノード再循環ライン300がアノードライン30に合流する部分に位置する。このエゼクター33で、アノード再循環ライン300を流れたアノードガスH2が、ボンベ31から新たに供給されたアノードガスH2に混合される。
【0023】
アノードポンプ34は、エゼクター33の下流に位置する。アノードポンプ34は、エゼクター33を流れたアノードガスH2を燃料電池スタック10に送る。
【0024】
パージ弁35は、燃料電池スタック10の下流であって、さらにアノード再循環ライン300の分岐部分の下流のアノードライン30に設けられる。パージ弁35が開くと、アノードガスH2がパージされる。
【0025】
アノードライン30を流れるアノードガスH2の圧力は、アノード圧力センサー301で検出される。このアノード圧力センサー301は、アノードポンプ34よりも下流であって燃料電池スタック10よりも上流に設けられる。
【0026】
冷却水循環ライン40には、燃料電池スタック10に供給される冷却水が流れる。冷却水循環ライン40には、ラジエーター41と、三方弁42と、ウォーターポンプ43と、が設けられる。また冷却水循環ライン40には、バイパスライン400が並設される。バイパスライン400は、ラジエーター41よりも上流から分岐し、ラジエーター41よりも下流に合流する。このためバイパスライン400を流れる冷却水は、ラジエーター41をバイパスする。
【0027】
ラジエーター41は、冷却水を冷却する。ラジエーター41には、クーリングファン410が設けられている。
【0028】
三方弁42は、バイパスライン400の合流部分に位置する。三方弁42は、開度に応じて、ラジエーター側のラインを流れる冷却水の流量と、バイパスラインを流れる冷却水の流量と、を調整する。これによって冷却水の温度が調整される。
【0029】
ウォーターポンプ43は、三方弁42の下流に位置する。ウォーターポンプ43は、三方弁42を流れた冷却水を燃料電池スタック10に送る。
【0030】
冷却水循環ライン40を流れる冷却水の温度は、水温センサー401で検出される。この水温センサー401は、バイパスライン400が分岐する部分よりも上流に設けられる。
【0031】
コントローラーは、電流センサー101、電圧センサー102、カソード流量センサー201、カソード圧力センサー202、アノード圧力センサー301、水温センサー401の信号を入力する。そして、信号を出力して、コンプレッサー21、カソード調圧弁22、アノード調圧弁32、アノードポンプ34、パージ弁35、三方弁42、ウォーターポンプ43の作動を制御する。
【0032】
このような構成によって、燃料電池スタック10は、適温に維持されつつ反応ガス(カソードガスO2、アノードガスH2)が供給されて発電する。燃料電池スタック10によって発電された電力は、DC/DCコンバーター11を介してバッテリー12や負荷13に供給される。
【0033】
図2は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【0034】
次に、図2を参照して、発明者らの技術思想について説明する。
【0035】
上述のように、燃料電池スタック10は、反応ガス(カソードガスO2、アノードガスH2)が供給されて発電する。燃料電池スタック10は、電解質膜の両面にカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層が形成された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)が数百枚積層されて構成される。なお図2(A)は1枚のMEAを示している。ここではMEAにカソードガスが供給されて(カソードイン)対角側から排出されながら(カソードアウト)、アノードガスが供給されて(アノードイン)対角側から排出される(アノードアウト)例が示されている。
【0036】
各膜電極接合体(MEA)は、カソード電極触媒層及びアノード電極触媒層において以下の反応が、負荷に応じて進行して発電する。
【0037】
【数1】
【0038】
図2(B)に示すように、反応ガス(カソードガスO2)がカソード流路を流れるにつれて上式(1−1)の反応が進行し、水蒸気が生成される。するとカソード流路の下流側では相対湿度が高くなる。この結果、カソード側とアノード側との相対湿度差が大きくなる。この相対湿度差をドライビングフォースとして、水が逆拡散しアノード上流側が加湿される。この水分がさらにMEAからアノード流路に蒸発してアノード流路を流れる反応ガス(アノードガスH2)を加湿する。そしてアノード下流側に運ばれてアノード下流のMEAを加湿する。
【0039】
上記反応によって効率よく発電するには、電解質膜が適度な湿潤状態であることが必要である。
【0040】
そこで、本件発明者らは、カソードガスO2の流量及び圧力並びに燃料電池スタック1の温度に着目した。
【0041】
すなわち、カソードガスO2の流量を増やせば、カソードガスO2とともに排出される水分が増える。したがって、電解質膜の湿潤状態を低下させることができる。一方、カソードガスO2の流量を減らせば、カソードガスO2とともに排出される水分が減る。したがって、電解質膜の湿潤状態を上昇させることができる。
【0042】
カソードガスO2の圧力が減るのは、カソード調圧弁22の開度が大きくなるときである。したがって、カソード調圧弁22の開度を大きくしてカソードガスO2の圧力を下げれば、カソードガスO2が排出されやすくなる。この結果、カソードガスO2とともに排出される水分も増える。したがって、電解質膜の湿潤状態を低下させることができる。一方、カソードガスO2の圧力が増えるのは、カソード調圧弁22の開度が小さくなるときである。したがって、カソード調圧弁22の開度を小さくしてカソードガスO2の圧力を上げれば、カソードガスO2が排出されにくくなる。この結果、カソードガスO2とともに排出される水分も減る。したがって、電解質膜の湿潤状態を上昇させることができる。
【0043】
燃料電池スタック1の温度が高くなれば、カソードガスO2に含まれる水分量が増える。この結果、カソードガスO2とともに排出される水分も増える。したがって、電解質膜の湿潤状態を低下させることができる。一方、燃料電池スタック1の温度が低くなれば、カソードガスO2に含まれる水分量が減る。この結果、カソードガスO2とともに排出される水分も減る。したがって、電解質膜の湿潤状態を上昇させることができる。
【0044】
発明者らは、このような知見を得た。さらにカソードガスO2の流量を増やすためにコンプレッサー21の回転速度を上げると、消費電力が増大して燃費が悪化する。そこでできる限りコンプレッサー21の回転速度を低く抑えることが望ましい。発明者らは、このような着想に基づいて本発明を完成するに至った。以下では具体的な内容を説明する。
【0045】
図3は、目標湿潤状態が下がるときのコントローラの湿潤状態制御にかかる機能をブロック図として表したものである。
【0046】
なおブロック図に示される各ブロックは、コントローラーの各機能を仮想ユニットとして示すものであり、各ブロックは物理的な存在を意味しない。
【0047】
湿潤状態制御装置は、コンプレッサー21、カソード調圧弁22、アノード調圧弁32、アノードポンプ34、パージ弁35、三方弁42、ウォーターポンプ43の作動を制御して、燃料電池スタック10の電解質膜の湿潤状態を制御する。具体的には、湿潤状態制御装置は、目標圧力演算ブロックB101と、目標温度演算ブロックB102と、目標流量演算ブロックB103と、を含む。
【0048】
目標圧力演算ブロックB101は、目標排水量QH2O_outが増える、すなわち湿潤状態を減少させて乾燥させるときには、目標排水量QH2O_outと、最低スタック温度Tminと、最低カソード流量Qminと、に基づいて、目標圧力Ptargetを演算する。
【0049】
なお目標排水量QH2O_out[NL/min]は次式(2)によって求まる。ここでNLは、Normal Liter、すなわち標準状態でのリットルを示す。
【0050】
【数2】
【0051】
なお燃料電池内部での生成水量QH2O_in[NL/min]は次式(3)によって求まる。
【0052】
【数3】
【0053】
目標水収支Qnet_water[NL/min]は、燃料電池の運転状態(負荷状態)に応じて決められた電解質膜の目標湿潤状態を実現するように設定される。
【0054】
目標圧力演算ブロックB101は、このようにして求められた目標排水量QH2O_outと、最低スタック温度Tminと、最低カソード流量Qminと、に基づいて、目標圧力Ptargetを求める。具体的には、次式(4-1)(4-2)によって、目標圧力Ptargetを求める。
【0055】
【数4】
【0056】
ここで最低スタック温度Tminとは、燃料電池スタックの湿潤状態を最高にするときのスタック温度である。上述のように、電解質膜の湿潤状態を上昇させるには、燃料電池スタック1の温度を低くする。なお燃料電池スタック1の温度は、低すぎると凝縮水による発電不良が生じるおそれがある。その一方で、高すぎると燃料電池スタック1の劣化が早まる。したがって、燃料電池スタックの湿潤状態を最高にするときのスタック温度とは、これらを総合的に考慮して燃料電池スタックの性能を確保できる範囲で最も低いスタック温度である。同様に、最低カソード流量Qminとは、燃料電池スタックの湿潤状態を最高にするときのカソード流量である。上述のように、電解質膜の湿潤状態を上昇させるには、カソード流量を減らす。なおカソード流量は、低すぎると供給量不足による発電不良が生じるおそれがある。その一方で、高すぎると音振性能が悪化するおそれがある。したがって燃料電池スタックの湿潤状態を最低にするときのカソード流量とは、これらを総合的に考慮して燃料電池スタックの性能を確保できる範囲で最も低いカソード流量である。これらは、予め実験によって燃料電池の運転状態に応じて設定されている。
【0057】
またPsat_minは、最低スタック温度Tminに対する飽和水蒸気圧であり、アントワンの式に基づいて上式(4-2)が求められる。
【0058】
以上のようにして、目標圧力演算ブロックB101は、目標排水量QH2O_outが増える、すなわち湿潤状態を減少させて乾燥させるときには、目標排水量QH2O_outと、最低スタック温度Tminと、最低カソード流量Qminと、に基づいて、目標圧力Ptargetを演算する。
【0059】
目標温度演算ブロックB102は、目標排水量QH2O_outと、カソード圧力センサー202で検出された圧力Psensと、最低カソード流量Qminと、に基づいて、目標温度Ttargetを求める。具体的には、次式(5-1)(5-2)によって求める。なお式(5-1)は、アントワンの式の逆引きによって求められる。
【0060】
【数5】
【0061】
sat_targetは、目標飽和水蒸気圧である。なお本実施形態では、圧力Psensは、カソード圧力センサー202で検出されたが、予め実験によって燃料電池スタックの圧力損失を求めておいて、それに基づいて推定してもよい。
【0062】
以上のようにして、目標温度演算ブロックB102は、目標排水量QH2O_outと、実圧力Psensと、最低カソード流量Qminと、に基づいて、目標温度Ttargetを求める。
【0063】
目標流量演算ブロックB103は、目標排水量QH2O_outと、カソード圧力センサー202で検出された圧力Psensと、水温センサー401で検出された水温Tsensと、に基づいて、目標カソード流量Qtargetを求める。具体的には、次式(6-1)(6-2)によって求める。
【0064】
【数6】
【0065】
sat_sensは、水温センサー401で検出された水温Tsensにおける飽和水蒸気圧である。
【0066】
以上のようにして、目標流量演算ブロックB103は、目標排水量QH2O_outと、実圧力Psensと、実水温Tsensと、に基づいて、目標カソード流量Qtargetを求める。
【0067】
図4は、目標湿潤状態が下がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【0068】
以上の制御ロジックが実行されると、目標湿潤状態が下がるときに、湿潤制御装置は以下のように作動する。
【0069】
時刻t11で、目標湿潤状態が下がると、湿潤制御装置が作動を開始する。
【0070】
目標圧力Ptargetは、目標排水量QH2O_outと、最低スタック温度Tminと、最低カソード流量Qminと、に基づいて設定される。目標温度Ttargetは、目標排水量QH2O_outと、実圧力Psensと、最低カソード流量Qminと、に基づいて、設定される。目標カソード流量Qtargetは、目標排水量QH2O_outと、実圧力Psensと、実水温Tsensと、に基づいて設定される。
【0071】
目標圧力Ptargetは、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)及びカソード流量(最低カソード流量Qmin)に基づいて設定されるので、最も変動しやすい。そこでまず最初は優先的に目標圧力Ptargetが下がる。そして、この目標圧力Ptargetが実現されるように、カソード調圧弁22が制御される。するとカソード圧力がほとんど応答遅れなく低下する。
【0072】
目標圧力Ptargetの変更だけでは、調整しきれなければ、時刻t12で、目標温度Ttargetが変動しはじめる。すなわち目標温度Ttargetの設定には、限界値(最低カソード流量Qmin)が用いられる。また上述のようにして調整されたカソード圧力のセンサー検出値Psensがフィードバックされる。このためカソード圧力だけは調整しきれない分が、冷却水の温度の変更で調整されることとなる。なお冷却水の温度は、目標値が変わっても変動しにくく応答遅れが生じやすい。冷却水の温度は、水温センサー401で検出されており、この温度がフィードバックされてカソード流量が決められるので、冷却水の温度の応答遅れがカソード流量で補完される。
【0073】
目標温度Ttargetの変更でも、調整しきれなければ、時刻t13で、目標カソード流量Qtargetが変動しはじめる。すなわち、カソード圧力センサー202で検出された圧力Psensと、水温センサー401で検出された水温Tsensと、がフィードバックされて、カソード流量が決められるので、目標圧力Ptarget及び目標温度Ttargetの変更で調整しきれない分がカソード流量で補完されることとなる。
【0074】
このようにすることで、目標湿潤状態が下がるときは、まず目標圧力を下げてカソード調圧弁22を開く。次に目標冷却水温を上げて三方弁42を制御する。そして最後に目標流量を上げてコンプレッサー21の回転速度を上げる。このようにすることで、コンプレッサー21の回転速度の上昇が、可能な限り抑制されることとなる。コンプレッサーの回転速度が上昇するほど、消費電力が増大し燃費が悪化するが、本実施形態では、可能な限りコンプレッサー21の回転速度の上昇が抑制されるので、消費電力が抑えられて燃費が向上する。
【0075】
図5は、目標湿潤状態が上がる場合に上記制御ロジックが実行されたときの問題点を説明する図である。
【0076】
目標湿潤状態が下がるときは、上述のようにすることで、可能な限りコンプレッサー21の回転速度の上昇が抑制されるので、消費電力が抑えられて燃費が向上する。
【0077】
しかしながら、目標湿潤状態が上がるときに、上述のようにしては、湿潤状態を目標通りには制御できないことが、発明者によって知見された。すなわち、目標圧力Ptargetは、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)及びカソード流量(最低カソード流量Qmin)に基づいて設定されるので、目標湿潤状態が上がるときには、変動しにくい。
【0078】
そのため図5に示されるように、時刻t21で、目標湿潤状態が上がると、まず目標カソード流量Qtargetが下がりはじめる。
【0079】
目標カソード流量Qtargetの変動だけでは、調整しきれなければ、時刻t22で、目標圧力Ptarget及び目標温度Ttargetが変動しはじめる。温度は応答性が悪く、圧力よりも変動しにくい。逆に言えば、圧力が温度よりも先に変動してしまって温度を補完することができなくなる。そのため温度が目標から乖離することとなって、この結果、湿潤状態を目標通りには制御できないのである。
【0080】
図6は、目標湿潤状態が上がるときのコントローラの湿潤状態制御にかかる機能をブロック図として表したものである。
【0081】
図6に示されているように、目標湿潤状態が上がるときには、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)に基づいて演算され、最低スタック温度Tminよりは高いが水温センサー401で検出された水温Tsensよりは低い温度(演算値)を用いる。
【0082】
この演算値について具体的に説明する。
【0083】
本実施形態では、冷却水温度を操作する操作量に着目し、この操作量に応じて目標圧力演算ブロックB101に入力する温度を演算するようにした。
【0084】
冷却水温度を操作する操作量とは、たとえば、ウォーターポンプ43の回転速度である。
【0085】
ウォーターポンプ43の回転速度が小さいほど、冷却水の流量が少ないので、燃料電池スタック1の温度が高くなる。燃料電池スタック1の温度が高くなれば、カソードガスO2に含まれる水分量が増える。この結果、カソードガスO2とともに排出される水分も増える。したがって、電解質膜の湿潤状態が低下して乾燥する。
【0086】
逆に、電解質膜の湿潤状態を低下させて乾燥させようとするほど、ウォーターポンプ43の回転速度が小さくなる。電解質膜の湿潤状態を上昇させようとするほど、ウォーターポンプ43の回転速度が大きくなる。
【0087】
したがって、ウォーターポンプ43の回転速度が小さいほど、電解質膜の湿潤状態を低下させて乾燥させようとしている。ウォーターポンプ43の回転速度が最小であれば、電解質膜の湿潤状態を大幅に低下させようとしている。そこで、このときには、上述の目標湿潤状態が下がったときの制御として示したように、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)を用いる。
【0088】
一方、ウォーターポンプ43の回転速度が大きいほど、電解質膜の湿潤状態を上昇させて湿潤させようとしている。ウォーターポンプ43の回転速度が最大であれば、電解質膜の湿潤状態を大幅に上昇させようとしている。そこで、このときには、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)に基づいて演算され、最低スタック温度Tminよりは高いが水温センサー401で検出された水温Tsensよりは低い温度(演算値)を用いる。なおこの温度は、定常的には水温センサー401で検出された水温Tsensに一致することとなる。
【0089】
そして、その間は、ウォーターポンプ43の回転速度に応じて、温度を演算する。具体的には、次式(7)に基づいて、温度Tcoolantを演算する。
【0090】
【数7】
【0091】
このようにして演算された温度を図示すると図7のようになる。すなわち電解質膜の湿潤状態を低下させて乾燥させようとするときには、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)を用いる。電解質膜の湿潤状態を上昇させて湿潤させようとするときには、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)に基づいて演算され、最低スタック温度Tminよりは高いが水温センサー401で検出された水温Tsensよりは低い温度(演算値)を用いる。
【0092】
なお図7に示されるように、上式(7)では、最低スタック温度Tminと水温Tsensとを直線で結んで、その間を按分して温度Tcoolantを演算している。しかしながら、このような手法に限られない。直線ではなく、最低スタック温度Tminと水温Tsensとを指数関数のように下に凸の曲線で結ばれる関係にしたり、log関数のように上に凸の曲線で結ばれる関係にしてもよい。そのような関係をあらかじめ設定しておけばよい。そして、これらの曲線に基づいて温度Tcoolantを演算してもよい。
【0093】
図8は、目標湿潤状態が上がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【0094】
このようにすれば、目標圧力演算ブロックB101には、常に、水温センサー401で検出された水温Tsensよりも低い温度が入力されることとなる。そのため、目標圧力演算ブロックB101で演算された圧力では、目標湿潤状態を達成できない。そのため、目標温度演算ブロックB102で演算された温度で、目標湿潤状態が達成されるようになり、その温度を補完するように、圧力が変動することとなる。
【0095】
このようにすれば、燃料電池の目標湿潤状態が変更されて、湿潤状態を上げるときには、まず目標流量が下がってコンプレッサー21の回転速度が下がる。次に目標冷却水温が下がって三方弁42が制御される。そして最後に目標圧力が上がってカソード調圧弁22が閉じられる。このようにすることで、コンプレッサー21の回転速度が、可能な限り早めに低下することとなる。上述のようにコンプレッサーの回転速度が上昇するほど、消費電力が増大し燃費が悪化する。換言すれば、コンプレッサーの回転速度が低下するほど、消費電力が抑えられて燃費が向上する。本実施形態では、コンプレッサー21の回転速度が、可能な限り早めに低下するので、燃費が向上するのである。
【0096】
また目標湿潤状態が下がるか上がるかで、目標圧力演算ブロックB101に入力される温度が急激に切り替わることがないので、制御が不安定になることを回避できる。
【0097】
(第2実施形態)
図9は、本発明による燃料電池の湿潤状態制御装置の第2実施形態のコントローラの湿潤状態制御にかかる機能をブロック図として表したものである。図9(A)は目標湿潤状態が上がるときであり、図9(B)は目標湿潤状態が下がるときである。
【0098】
本実施形態の湿潤状態制御装置は、目標流量演算ブロックB201と、目標温度演算ブロックB202と、目標圧力演算ブロックB203と、を含む。
【0099】
目標流量演算ブロックB201は、目標排水量QH2O_outが減る、すなわち湿潤状態を増大させて湿潤させるときには、図9(A)に示されるように、目標排水量QH2O_outと、最高スタック温度Tmaxと、最低カソード圧力Pminと、に基づいて、目標カソード流量Qtargetを求める。具体的には、次式(8-1)(8-2)によって求める。
【0100】
【数8】
【0101】
ここで最高スタック温度Tmaxとは、燃料電池スタックの湿潤状態を最低にするときのスタック温度である。上述のように、電解質膜の湿潤状態を下降させるには、燃料電池スタック1の温度を高くする。なお燃料電池スタック1の温度は、低すぎると凝縮水による発電不良が生じるおそれがある。その一方で、高すぎると燃料電池スタック1の劣化が早まる。したがって、燃料電池スタックの湿潤状態を最低にするときのスタック温度とは、これらを総合的に考慮して燃料電池スタックの性能を確保できる範囲で最も高いスタック温度である。同様に、最低カソード圧力Pminとは、燃料電池スタックの湿潤状態を最低にするときのカソード圧力である。上述のように、電解質膜の湿潤状態を下降させるには、カソード圧力を減らす。なおカソード圧力は、低すぎると圧力不足による性能悪化が生じるおそれがある。その一方で、高すぎるとコンプレッサーで実現できないおそれがある。したがって燃料電池スタックの湿潤状態を最低にするときのカソード圧力とは、これらを総合的に考慮して燃料電池スタックの性能を確保できる範囲で最も低いカソード圧力である。これらは、予め実験によって燃料電池の運転状態に応じて設定されている。
【0102】
また目標流量演算ブロックB201は、目標排水量QH2O_outが増える、すなわち湿潤状態を低下させて乾燥させるときには、図9(B)に示されるように、目標排水量QH2O_outと、スタック温度(最高スタック温度Tmax)に基づいて演算され、最高スタック温度Tmaxよりは低いが水温センサー401で検出された水温Tsensよりは高い温度(演算値)と、最低カソード圧力Pminと、に基づいて、目標カソード流量Qtargetを求める。この演算値は、第1実施形態と同様に、ウォーターポンプ43の回転速度(冷却水温度を操作する操作量)を考慮して求める。
【0103】
以上のようにして、目標流量演算ブロックB201は、目標カソード流量Qtargetを求める。
【0104】
目標温度演算ブロックB202は、目標排水量QH2O_outと、最低カソード圧力Pminと、カソード流量センサー201で検出された流量Qsensと、に基づいて、目標温度Ttargetを求める。具体的には、次式(9-1)(9-2)によって求める。なお式(9-1)は、アントワンの式の逆引きによって求められる。
【0105】
【数9】
【0106】
sat_targetは、目標飽和水蒸気圧である。
【0107】
以上のようにして、目標温度演算ブロックB202は、目標排水量QH2O_outと、最低カソード圧力Pminと、カソード流量センサー201で検出された流量Qsensと、に基づいて、目標温度Ttargetを求める。
【0108】
目標圧力演算ブロックB203は、目標排水量QH2O_outと、カソード流量センサー201で検出された流量Qsensと、水温センサー401で検出された水温Tsensと、に基づいて、目標カソード圧力Ptargetを求める。具体的には、次式(10-1)(10-2)によって、目標カソード圧力Ptargetを求める。
【0109】
【数10】
【0110】
sat_sensは、水温センサー401で検出された水温Tsensに対する飽和水蒸気圧であり、式(10-2)は、アントワンの式に基づいて求められる。
【0111】
以上のようにして、目標圧力演算ブロックB203は、目標排水量QH2O_outと、実流量Qsensと、実水温Tsensと、に基づいて、目標カソード圧力Ptargetを求める。
【0112】
図10は、目標湿潤状態が上がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【0113】
以上の制御ロジックが実行されると、目標湿潤状態が上がるときに、湿潤制御装置は以下のように作動する。
【0114】
時刻t31で、目標湿潤状態が上がると、湿潤制御装置が作動を開始する。
【0115】
目標カソード流量Qtargetは、目標排水量QH2O_outと、最高スタック温度Tmaxと、最低カソード圧力Pminと、に基づいて設定される。目標温度Ttargetは、目標排水量QH2O_outと、最低カソード圧力Pminと、実流量Qsensと、に基づいて設定される。目標カソード圧力Ptargetは、目標排水量QH2O_outと、実流量Qsensと、実水温Tsensと、に基づいて設定される。
【0116】
目標流量Qtargetは、湿潤状態を最低にするときのスタック温度(最高スタック温度Tmax)及びカソード圧力(最低カソード圧力Pmin)に基づいて設定されるので、最も変動しやすい。そこでまず最初は優先的に目標流量Qtargetが下がる。そして、この目標流量Qtargetが実現されるように、コンプレッサー21が制御される。するとカソード流量がほとんど応答遅れなく低下する。
【0117】
目標流量Qtargetの変更だけでは、調整しきれなければ、時刻t32で、目標温度Ttargetが変動しはじめる。すなわち目標温度Ttargetの設定には、限界値(最低カソード圧力Pmin)が用いられる。また上述のようにして調整されたカソード流量のセンサー検出値Qsensがフィードバックされる。このためカソード流量だけは調整しきれない分が、冷却水の温度の変更で調整されることとなる。なお冷却水の温度は、目標値が変わっても変動しにくく応答遅れが生じやすい。冷却水の温度は、水温センサー401で検出されており、この温度がフィードバックされてカソード圧力が決められるので、冷却水の温度の応答遅れがカソード圧力で補完される。
【0118】
目標温度Ttargetの変更でも、調整しきれなければ、時刻t33で、目標カソード圧力Ptargetが変動しはじめる。すなわち、カソード流量センサー201で検出された流量Qsensと、水温センサー401で検出された水温Tsensと、がフィードバックされて、カソード圧力が決められるので、目標流量Qtarget及び目標温度Ttargetの変更で調整しきれない分がカソード圧力で補完されることとなる。
【0119】
このようにすれば、燃料電池の目標湿潤状態が変更されて、湿潤状態を上げるときには、まず目標流量を下げてコンプレッサー21の回転速度を下げる。次に目標冷却水温を下げて三方弁42を制御する。そして最後に目標圧力を上げてカソード調圧弁22を閉じる。このようにすることで、コンプレッサー21の回転速度が、可能な限り早めに低下することとなる。上述のようにコンプレッサーの回転速度が上昇するほど、消費電力が増大し燃費が悪化する。換言すれば、コンプレッサーの回転速度が低下するほど、消費電力が抑えられて燃費が向上する。本実施形態では、コンプレッサー21の回転速度が、可能な限り早めに低下するので、燃費が向上するのである。
【0120】
図11は、目標湿潤状態が下がるときの湿潤制御装置の作動を示すタイミングチャートである。
【0121】
目標湿潤状態が上がるときは、上述のようにすることで、可能な限りコンプレッサー21の回転速度の上昇が抑制されるので、消費電力が抑えられて燃費が向上する。
【0122】
しかしながら、目標湿潤状態が下がるときに、上述のようにしては、湿潤状態を目標通りには制御できない。すなわち、目標流量Qtargetは、湿潤状態を最低にするときのスタック温度(最高スタック温度Tmax)及びカソード圧力(最低カソード圧力Pmin)に基づいて設定されるので、目標湿潤状態が下がるときには、変動しにくい。
【0123】
目標カソード圧力Ptargetの変動だけでは、調整しきれなければ、時刻t42で、目標流量Qtarget及び目標温度Ttargetが変動しはじめる。温度は応答性が悪く、流量よりも変動しにくい。逆に言えば、流量が温度よりも先に変動してしまって温度を補完することができなくなる。そのため温度が目標から乖離することとなって、この結果、湿潤状態を目標通りには制御できない。
【0124】
これに対して本実施形態では、目標流量演算ブロックB201は、目標排水量QH2O_outが増える、すなわち湿潤状態を低下させて乾燥させるときには、スタック温度(最高スタック温度Tmax)に基づいて演算され、最高スタック温度Tmaxよりは低いが水温センサー401で検出された水温Tsensよりは高い温度(演算値)を用いるようにした。
【0125】
このようにすれば、目標流量演算ブロックB201には、常に、水温センサー401で検出された水温Tsensよりも高い温度が入力されることとなる。そのため、目標流量演算ブロックB201で演算された流量では、目標湿潤状態を達成できない。そのため、目標温度演算ブロックB202で演算された温度で、目標湿潤状態が達成されるようになり、その温度を補完するように、流量が変動することとなる。
【0126】
このようにすることで、目標湿潤状態が下がるときは、まず目標圧力を下げてカソード調圧弁22を開く。次に目標冷却水温を上げて三方弁42を制御する。そして最後に目標流量を上げてコンプレッサー21の回転速度を上げる。このようにすることで、コンプレッサー21の回転速度の上昇が、可能な限り抑制されることとなる。コンプレッサーの回転速度が上昇するほど、消費電力が増大し燃費が悪化するが、本実施形態では、可能な限りコンプレッサー21の回転速度の上昇が抑制されるので、消費電力が抑えられて燃費が向上する。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0128】
たとえば、第2実施形態において、冷却水温度を操作する操作量としては、ウォーターポンプ43の回転速度を例示したが、これには限られない。三方弁42の開度や、クーリングファン410の回転速度であってもよい。
【0129】
また第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、冷却水温度を操作する操作量を考慮して温度Tcoolantを演算してもよい。
【0130】
さらに上記各実施形態は、その他にも適宜組み合わせ可能である。
【0131】
また燃料電池の湿潤状態とは、燃料電池の水収支(たとえば「水収支=生成される水−排出される水」で定義される)であってもよいし、燃料電池の電解質膜の抵抗であってもよいし、その他の燃料電池の湿潤状態を表すものであってもよい。
【0132】
さらに冷却水の温度に代えて、燃料電池自体の温度や、空気の温度を用いてもよい。
【0133】
さらにまた上記各実施形態では、目標圧力演算ブロックB101では、目標圧力Ptargetを設定するときに、湿潤状態を最高にするときのスタック温度(最低スタック温度Tmin)及びカソード流量(最低カソード流量Qmin)を用いる。目標温度演算ブロックB102では、目標温度Ttargetを設定するときに、湿潤状態を最高にするときのカソード流量(最低カソード流量Qmin)を用いる。目標流量演算ブロックB201では、目標流量Qtargetを設定するときに、湿潤状態を最低にするときのスタック温度(最高スタック温度Tmax)及びカソード圧力(最低カソード圧力Pmin)を用いる。目標温度演算ブロックB202では、目標温度Ttargetを設定するときに、湿潤状態を最低にするときのカソード圧力(最低カソード圧力Pmin)を用いる。このように限界値(最大値、最小値)を用いれば、最も効果が大きい。しかしながら、最大値よりも小さめ、最小値よりも大きめのものを使用してもよい。このようにしても相応の効果は得られる。
【符号の説明】
【0134】
10 燃料電池スタック
20 カソードライン
21 コンプレッサー
22 カソード調圧弁
201 カソード流量センサー
202 カソード圧力センサー
30 アノードライン
40 冷却水循環ライン
400 バイパスライン
41 ラジエーター
42 三方弁
43 ウォーターポンプ
401 水温センサー
B101 目標圧力演算ブロック
B102 目標温度演算ブロック
B103 目標流量演算ブロック
B201 目標流量演算ブロック
B202 目標温度演算ブロック
B203 目標圧力演算ブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11