特許第5834650号(P5834650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834650
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】火花点火式直噴エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20151203BHJP
   F02M 61/08 20060101ALI20151203BHJP
   F02M 61/10 20060101ALI20151203BHJP
   F02M 59/36 20060101ALI20151203BHJP
   F02M 55/02 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   F02D41/04 345C
   F02D41/04 335C
   F02D41/04 305D
   F02M61/08 H
   F02M61/10 D
   F02M59/36
   F02M55/02 350E
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-195152(P2011-195152)
(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公開番号】特開2013-57267(P2013-57267A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2014年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】楢原 和晃
(72)【発明者】
【氏名】永澤 健
(72)【発明者】
【氏名】中野 光一
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−285969(JP,A)
【文献】 特開2010−236477(JP,A)
【文献】 特開2010−236429(JP,A)
【文献】 特開2011−089445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 45/00
F02M 55/02
F02M 59/36
F02M 61/08 〜 61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に燃料を噴射するノズル口を開閉する外開弁と、該外開弁を該ノズル口を閉じた状態からリフトさせてノズル口を開放することで、ノズル口から気筒内に燃料を噴射させる外開弁駆動手段とを有し、上記外開弁の、上記ノズル口を閉じた状態からのリフト量が大きいほど、上記ノズル口から気筒内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなるよう構成されたインジェクタを備えた火花点火式直噴エンジンであって、
上記エンジンの回転部材を介して駆動され、該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプと、
上記燃料ポンプから上記インジェクタに供給される燃料圧力を調整する燃圧調整手段と、
上記外開弁駆動手段及び上記燃圧調整手段の作動を制御して、上記エンジンの気筒内の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程において上記ノズル口から気筒内に燃料を噴射させかつ該噴射された燃料噴霧のペネトレーションを所定の大きさに調整する噴射制御手段とを更に備え、
上記噴射制御手段は、エンジン負荷が所定値以下である低負荷領域にあるときにおいては、上記燃料圧力を一定値に設定するとともに、上記エンジンの運転状態に応じて、上記外開弁駆動手段により上記リフト量を変更することによって、上記燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整する一方、エンジン負荷が上記所定値よりも高い高負荷領域にあるときにおいては、上記リフト量を一定値に設定するとともに、上記エンジンの運転状態に応じて、上記燃圧調整手段により燃料圧力を変更することによって、上記燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整するよう構成されていることを特徴とする火花点火式直噴エンジン。
【請求項2】
請求項1記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
上記エンジンの幾何学的圧縮比が18以上40以下であり、
上記噴射制御手段は、圧縮行程後期において上記ノズル口から気筒内に燃料を噴射させるよう構成されていることを特徴とする火花点火式直噴エンジン。
【請求項3】
請求項1記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
上記エンジンの幾何学的圧縮比が18以上40以下であり、
上記噴射制御手段は、エンジン負荷が上記高負荷領域にあるときにおいて、燃料の燃焼開始が圧縮上死点以降となるように、圧縮上死点付近で上記ノズル口から気筒内に燃料を噴射させるよう構成されていることを特徴とする火花点火式直噴エンジン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
エンジン負荷が上記低負荷領域にあるときには、気筒内全体の空気過剰率λが2以上、又は、気筒内におけるガスの燃料に対する重量比G/Fが30以上に設定されることを特徴とする火花点火式直噴エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外開弁式のインジェクタを備えた火花点火式直噴エンジンに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、火花点火式ガソリンエンジンの理論熱効率を高めるべく、シリンダヘッド下面に凹陥したキャビティと、ピストン冠面に凸設した突起部と、によって、燃焼室内を中央燃焼室と主燃焼室とに区画しつつ、燃焼室全体として、圧縮比を16程度の高圧縮比に設定すると共に、中央燃焼室内では混合気を相対的にリッチに、主燃焼室内では混合気を相対的にリーンにすることで、燃焼室全体として、混合気をリーンにしたエンジンが記載されている。
【0003】
また、例えば特許文献2には、冷却損失を低減させて熱効率を向上させる観点から、エンジンの燃焼室を区画形成する面を、多数の気泡を含んだ断熱材によって構成する技術が開示されている。この特許文献2のエンジンの圧縮比は16とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−217627号公報
【特許文献2】特開2009−243355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、火花点火式エンジンの理論サイクルであるオットーサイクルにおいては、エンジンの圧縮比を高めれば高めるほど、また、ガスの比熱比を高めれば高めるほど、理論熱効率が高くなる。このため、特許文献1に記載されているような高圧縮比化と混合気のリーン化との組み合わせは、熱効率(図示熱効率)の向上に、ある程度は有利になる。しかし、この場合、圧縮比15程度で図示熱効率が最大になり、それ以上に圧縮比を高めても、図示熱効率は高くならない(逆に、圧縮比を高めれば高めるほど、図示熱効率が低くなる)。これは、混合気がリーンであるため比較的大量の空気がシリンダ内に導入される一方で、そのシリンダ内の大量の空気が、高圧縮比化に伴い大きく圧縮されて燃焼圧力及び燃焼温度が大幅に高くなってしまうためである。つまり、高い燃焼圧力及び燃焼温度によってシリンダの壁面等を通じた熱の放出量が増え、冷却損失が大幅に増大する結果、図示熱効率が低くなってしまうのである。
【0006】
この点に関して、特許文献2に記載されているように、シリンダ壁面を断熱材によって構成することで燃焼室の断熱化を行うようにすれば、冷却損失を低減することができる。
【0007】
ところが、特許文献2のように断熱材を用いた燃焼室の断熱化による冷却損失の低減には限界があり、幾何学的圧縮比を、例えば30程度に高めようとした場合には、冷却損失を大幅に低減することは困難であり、また、たとえ冷却損失の大幅な低減を実現できたとしても、コストが大幅にアップしてしまう。
【0008】
そこで、エンジンの気筒内の外周部に新気を含むガス層(新気と既燃ガスとを含んでいても良い)を形成しかつ中心部に混合気層を形成して、この混合気層を燃焼させるようにすれば、混合気層とシリンダ壁面との間の上記ガス層により、混合気層の火炎がシリンダ壁面に接触することがなく、上記ガス層が断熱層となって、シリンダ壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。このようなガス層及び混合気層は、圧縮行程においてインジェクタにより気筒内に燃料を噴射させかつその燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒内の外周部まで届かないような大きさ(長さ)に抑えるようにすれば、形成することが可能である。
【0009】
上記インジェクタとしては、ペネトレーションが基本的に小さくかつペネトレーションを自在に変更することが可能な外開弁式のインジェクタが好ましい。この外開弁式のインジェクタでは、ノズル口を開閉する外開弁の、該ノズル口を閉じた状態からのリフト量が大きいほど、ノズル口から気筒内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなる。
【0010】
ここで、エンジンの運転状態(特に燃料噴射時の気筒内圧力)が変化すると、燃料噴霧のペネトレーションが変化して、燃料噴霧が気筒内の外周部まで届くような大きさになる場合がある。このため、エンジンの運転状態に応じて、燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒内の外周部まで届かないような所定の大きさ(長さ)に調整する必要があるが、この調整は、インジェクタの外開弁の上記リフト量の変更によって行うか、又は、エンジンのカムシャフトによって駆動される燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ)からインジェクタに供給される燃料圧力を調整する調圧弁による燃料圧力の変更によって行うようにすることが考えられる。
【0011】
しかし、上記調圧弁により燃料圧力を変更する場合、エンジン負荷が低負荷領域にあるときには、エンジン負荷に対する燃料ポンプによる機械抵抗の占める割合が大きくなって、燃費が悪化する場合が生じる。一方、上記リフト量を変更する場合、エンジン負荷が高負荷領域にあるときには、リフト量が基本的に大きくて噴射量が多くかつ燃料噴霧の粒径が大きくなるので、噴射された燃料の一部が燃えずに煤が発生したり炭化したりして、エミッションが悪化する場合が生じる。
【0012】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、気筒内の外周部にガス層を形成しかつ中心部に混合気層を形成するべく、エンジンの運転状態に応じて、外開弁式のインジェクタにより気筒内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションを所定の大きさに調整する場合に、燃費及びエミッションの悪化を出来る限り抑制しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明では、気筒内に燃料を噴射するノズル口を開閉する外開弁と、該外開弁を該ノズル口を閉じた状態からリフトさせてノズル口を開放することで、ノズル口から気筒内に燃料を噴射させる外開弁駆動手段とを有し、上記外開弁の、上記ノズル口を閉じた状態からのリフト量が大きいほど、上記ノズル口から気筒内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなるよう構成されたインジェクタを備えた火花点火式直噴エンジンを対象として、上記エンジンの回転部材を介して駆動され、該インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプと、上記燃料ポンプから上記インジェクタに供給される燃料圧力を調整する燃圧調整手段と、上記外開弁駆動手段及び上記燃圧調整手段の作動を制御して、上記エンジンの気筒内の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程において上記ノズル口から気筒内に燃料を噴射させかつ該噴射された燃料噴霧のペネトレーションを所定の大きさに調整する噴射制御手段とを更に備え、上記噴射制御手段は、エンジン負荷が所定値以下である低負荷領域にあるときにおいては、上記燃料圧力を一定値に設定するとともに、上記エンジンの運転状態に応じて、上記外開弁駆動手段により上記リフト量を変更することによって、上記燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整する一方、エンジン負荷が上記所定値よりも高い高負荷領域にあるときにおいては、上記リフト量を一定値に設定するとともに、上記エンジンの運転状態に応じて、上記燃圧調整手段により燃料圧力を変更することによって、上記燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整するよう構成されている、という構成とした。
【0014】
上記の構成により、混合気層の周囲に位置するガス層により、混合気層の火炎がシリンダ壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、シリンダ壁面からの熱の放出を抑えることができる。これにより、幾何学的圧縮比が高くなっても、冷却損失を大幅に低減することができる。
【0015】
そして、エンジン負荷が低負荷領域にあるときにおいては、リフト量が基本的に小さくて噴射量が少なくかつ燃料噴霧の粒径が小さく、これにより、噴射された燃料全体が正常に燃焼する。この結果、エンジンの運転状態に応じて、外開弁のリフト量を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを所定の大きさ(燃料噴霧が気筒内の外周部(ガス層)まで届かないような大きさ)に調整することで、リフト量が大きい場合のようにエミッションが悪化するようなことはない。また、エンジン負荷が低負荷領域にあるときには、燃料圧力を、エンジン負荷に対する燃料ポンプによる機械抵抗の占める割合が出来る限り小さくなるような一定値に設定しておけば、燃費の悪化を抑制することができる。
【0016】
一方、エンジン負荷が高負荷領域にあるときにおいては、燃料圧力を変更しても、エンジン負荷に対する燃料ポンプによる機械抵抗の占める割合は基本的に小さくて、その機械抵抗の感度が小さく、燃費への影響は殆どない。この結果、エンジンの運転状態に応じて、燃料圧力を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整することで、燃費の悪化を抑制することができる。また、エンジン負荷が高負荷領域にあるときには、外開弁のリフト量を、噴射された燃料全体が正常に燃焼するような一定値に設定しておけば、エミッションの悪化を抑制することができる。
【0017】
上記火花点火式直噴エンジンにおいて、上記エンジンの幾何学的圧縮比が18以上40以下であり、上記噴射制御手段は、圧縮行程後期において上記ノズル口から気筒内に燃料を噴射させるよう構成されている、ことが好ましい。
【0018】
すなわち、幾何学的圧縮比が18以上40以下である場合には、燃焼室の断熱化による冷却損失の低減には限界があるが、本発明では、気筒内(燃焼室内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減することができるようになる。また、圧縮行程後期の燃料噴射により、点火までの時間が短くなって、その噴射された燃料が外周部のガス層と混じり難くなり、燃焼時においてガス層を確保することができる。
【0019】
或いは、上記エンジンの幾何学的圧縮比が18以上40以下であり、上記噴射制御手段は、エンジン負荷が上記高負荷領域にあるときにおいて、燃料の燃焼開始が圧縮上死点以降となるように、圧縮上死点付近で上記ノズル口から気筒内に燃料を噴射させるよう構成されていてもよい。
【0020】
このことにより、エンジンのモータリング時におけるクランク角変化に対する気筒内の圧力変化である圧力上昇率が負の最大値となるクランク角時点(通常、圧縮上死点後4°〜15°CA)乃至その近傍で、燃料を燃焼させるようにすることができ、この結果、エンジン負荷が高くても、振動騒音(所謂NVH)レベルを低減することができる。
【0021】
上記火花点火式直噴エンジンにおいて、エンジン負荷が上記低負荷領域にあるときには、気筒内全体の空気過剰率λが2以上、又は、気筒内におけるガスの燃料に対する重量比G/Fが30以上に設定される、ことが好ましい。
【0022】
このことで、低負荷領域において、断熱層による断熱化を図って図示熱効率を向上させながら、RawNOxを低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の火花点火式直噴エンジンによると、エンジン負荷が所定値以下である低負荷領域にあるときにおいては、燃料圧力を一定値に設定するとともに、エンジンの運転状態に応じて、外開弁駆動手段により外開弁のリフト量を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを所定の大きさに調整する一方、エンジン負荷が上記所定値よりも高い高負荷領域にあるときにおいては、上記リフト量を一定値に設定するとともに、エンジンの運転状態に応じて、燃圧調整手段により燃料圧力を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整するようにしたことにより、燃費の悪化やエミッションの悪化を抑制しながら、エンジンの運転状態に応じて燃料噴霧のペネトレーションを調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る火花点火式直噴エンジンを示す概略図である。
図2】インジェクタの内部構成を示す断面図である。
図3】リフト量制御と燃圧制御とを切り換える制御マップの一例を示す図である。
図4】リフト量とペネトレーションとの関係を示すグラフである。
図5】燃料圧力とペネトレーションとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る火花点火式直噴エンジン1(以下、単にエンジン1という)を概略的に示す。本実施形態では、エンジン1は、エンジン本体に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及び、該センサからの信号に基づきアクチュエータを制御するエンジン制御器100を含む。
【0027】
エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン1のエンジン本体は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11(気筒)が形成されている(図1では、1つのみ示す)。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。
【0028】
各シリンダ11内には、ピストン15が摺動自在にそれぞれ嵌挿されており、ピストン15は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。本実施形態では、燃焼室17は所謂ペントルーフ型であり、その天井面(シリンダヘッド13の下面)は吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。ピストン15の冠面は、上記天井面に対応した凸形状をなしていて、冠面の中心部には、凹状のキャビティ15aが形成されている。尚、上記天井面及びピストン1の冠面の形状は、後述の高い幾何学的圧縮比が可能であれば、どのような形状であってもよく、例えば、天井面及びピストン1の冠面(キャビティ15aを除く部分)の両方が、シリンダ11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよく、天井面が上記のように三角屋根状をなす一方、ピストン1の冠面(キャビティ15aを除く部分)がシリンダ11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよい。
【0029】
図1には1つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室17の天井面)における吸気側の傾斜面に開口することで燃焼室17に連通している。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(燃焼室17の天井面)における排気側の傾斜面に開口することで燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、シリンダ11内に導入される新気が流れる吸気通路(図示省略)に接続されている。吸気通路には、吸気流量を調整するスロットル弁20が介設しており、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁20の開度が調整される。一方、排気ポート19は、各シリンダ11からの既燃ガス(排気ガス)が流れる排気通路(図示省略)に接続されている。排気通路には、図示は省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配置される。
【0030】
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフトに駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフトの回転と同期して回転する。また、少なくとも吸気弁駆動機構は、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は機械式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23を含んで構成されている。尚、VVT23と共に、弁リフト量を連続的に変更可能なリフト可変機構(CVVL(Continuous Variable ValveLift))を備えるようにしてもよい。
【0031】
また、シリンダヘッド13には、点火プラグ31が配設されている。この点火プラグ31は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取付固定されている。点火プラグ31は、本実施形態では、シリンダ11の中心軸に対し、排気側に傾斜した状態で取付固定されており、その先端部(電極)は燃焼室17の天井部に臨んでいる。この点火プラグ31の先端部は、後述のインジェクタ33のノズル口41の近傍に位置する。尚、点火プラグ31の配置はこれに限定されるものではない。そして、点火プラグ31は、点火システム32によって火花を発生する。点火システム32は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ31が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。一例として、点火システム32はプラズマ発生回路を備え、点火プラグはプラズマ点火式のプラグとしてもよい。着火エネルギの高いプラズマ点火式のプラグの採用は、着火安定性を向上する上で有利になる。
【0032】
シリンダヘッド13におけるシリンダ11の中心軸上には、気筒内(燃焼室17内)に燃料を直接噴射するインジェクタ33が配設されている。このインジェクタ33は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取付固定されている。インジェクタ33の先端は、燃焼室17の天井部の中心に臨んでいる。
【0033】
図2に示すように、インジェクタ33は、気筒内に燃料を噴射するノズル口41を開閉する外開弁42を有する、外開弁式のインジェクタである。ノズル口41は、シリンダ11の中心軸に沿って延びる燃料管43の先端部において、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。燃料管43の基端側の端部は、内部に外開弁駆動手段としてのピエゾ素子44が配設されたケース45に接続されている。外開弁42は、弁本体42aと、弁本体42aから燃料管43内を通ってピエゾ素子44に接続された連結部42bとを有している。弁本体42aの連結部42b側の部分が、ノズル口41と略同じ形状を有しており、該部分がノズル口41に当接(着座)しているときには、ノズル口41が閉状態となる。このとき、弁本体42aの先端側の部分は、燃料管43の外側に突出した状態となっている。
【0034】
ピエゾ素子44は、電圧の印加による変形により、外開弁42をシリンダ11の中心軸方向の燃焼室17側に押圧することで、その外開弁42を、ノズル口41を閉じた状態からリフトさせてノズル口41を開放する。このとき、ノズル口41から気筒内に燃料が、シリンダ11の中心軸を中心とするコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。そのコーンのテーパ角は、本実施形態では、90°〜100°である(内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。そして、ピエゾ素子44への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子44が元の状態に復帰することで、外開弁42がノズル口41を再び閉状態とする。このとき、ケース45内における連結部42bの周囲に配設された圧縮コイルバネ46がピエゾ素子44の復帰を助長する。
【0035】
ピエゾ素子44に印加する電圧が大きいほど、外開弁42の、ノズル口41を閉じた状態からのリフト量(以下、単にリフト量という)が大きくなる。このリフト量が大きいほど、ノズル口41の開度が大きくなってノズル口41から気筒内に噴射される燃料噴霧のペネトレーションが大きくなる(長くなる)とともに、単位時間当たりに噴射される燃料量が多くなりかつ燃料噴霧の粒径が大きくなる。
【0036】
燃料供給システム34は、外開弁42(ピエゾ素子44)を駆動するための電気回路35と、インジェクタ33に燃料を供給する燃料供給系とを備えている。エンジン制御器100は、所定のタイミングで、リフト量に応じた電圧を有する噴射信号を上記電気回路35に出力することで、該電気回路35を介してピエゾ素子44及び外開弁42を作動させて、所望量の燃料を、気筒内に噴射させる。上記噴射信号の非出力時(噴射信号の電圧が0であるとき)には、外開弁42によりノズル口41が閉じられた状態となる。このようにピエゾ素子44は、エンジン制御器100からの噴射信号によって、その作動が制御される。こうしてエンジン制御器100は、ピエゾ素子44の作動を制御して、インジェクタのノズル口41からの燃料噴射及び該燃料噴射時におけるリフト量を制御する。
【0037】
上記燃料供給系には、高圧燃料ポンプ37や図示省略のコモンレールが設けられており、その高圧燃料ポンプ37は、不図示の低圧燃料ポンプを介して燃料タンクより供給されてきた燃料をコモンレールに圧送し、このコモンレールは、その圧送された燃料を、所定の燃料圧力で蓄える。そして、インジェクタ33が作動する(外開弁42がリフトされる)ことによって、上記コモンレールに蓄えられている燃料がノズル口41から噴射される。上記高圧燃料ポンプ37は、プランジャー式のポンプであって、エンジンの回転部材(例えばカムシャフト)によって駆動されて、インジェクタ33に上記コモンレールを介して燃料を供給する。
【0038】
上記コモンレールで蓄えられる所定の燃料圧力(つまり、上記高圧燃料ポンプ37からインジェクタ33に供給される燃料圧力)は、上記高圧燃料ポンプ37に設けられた調圧弁36によって調整可能になっている。この調圧弁36は、電磁弁で構成されていて、エンジン制御器100により作動制御される。すなわち、エンジン制御器100が弁制御信号を出力すると、調圧弁36は、上記電気回路35とは別の不図示の電気回路を介して、その弁制御信号の電圧に応じた開度になるように作動する。この調圧弁36の開度に応じて、上記燃料圧力が決まる。したがって、調圧弁36は、高圧燃料ポンプ37からインジェクタ33に供給される燃料圧力を調整する燃圧調整手段を構成することになる。
【0039】
ここで、エンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む燃料(液体燃料)であれば、どのような燃料であってもよい。
【0040】
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
【0041】
エンジン制御器100は、少なくとも、エアフローセンサ71からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ72からのクランク角パルス信号、アクセル・ペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ73からのアクセル開度信号、及び、車速センサ74からの車速信号をそれぞれ受ける。エンジン制御器100は、これらの入力信号に基づいて、例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等といった、エンジン1の制御パラメーターを計算する。そして、エンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル弁20(スロットル弁20を動かすスロットルアクチュエータ)、燃料供給システム34(電気回路35及び調圧弁36)、点火システム32、VVT23等に出力する。
【0042】
このエンジン1の幾何学的圧縮比εは、18以上40以下とされている。この幾何学的圧縮比εは、特に25以上35以下が好ましい。本実施形態では、エンジン1は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。尚、圧縮比≦膨張比となる構成(例えばアトキンソンサイクルや、ミラーサイクル)を採用してもよい。
【0043】
燃焼室17は、図1に示すように、シリンダ11の壁面と、ピストン15の冠面と、シリンダヘッド13の下面(天井面)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。そして、冷却損失を低減するべく、これらの各面に、断熱層61,62,63,64,65が設けられることによって、燃焼室17が断熱化されている。尚、以下において、これらの断熱層61〜65を総称する場合は、断熱層に符号「6」を付す場合がある。断熱層6は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、図例では、シリンダ壁面の断熱層61は、ピストン15が上死点に位置した状態で、そのピストンリング14よりも上側の位置に設けられており、これにより断熱層61上をピストンリング14が摺動しない構成としている。但し、シリンダ壁面の断熱層61はこの構成に限らず、断熱層61を下向きに延長することによって、ピストン15のストロークの全域、又は、その一部に断熱層61を設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井面側の開口近傍のポート壁面に断熱層を設けてもよい。尚、図1に図示する各断熱層61〜65の厚みは実際の厚みを示すものではなく単なる例示であると共に、各面における断熱層の厚みの大小関係を示すものでもない。
【0044】
燃焼室17の断熱構造について、さらに詳細に説明する。燃焼室17の断熱構造は、上述の如く、燃焼室17を区画する各区画面に設けた断熱層61〜65によって構成されるが、これらの断熱層61〜65は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。ここで、シリンダ11の壁面に設けた断熱層61については、シリンダブロック12が母材であり、ピストン15の冠面に設けた断熱層62についてはピストン15が母材であり、シリンダヘッド13の天井面に設けた断熱層63については、シリンダヘッド13が母材であり、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッド面に設けた断熱層64,65については、吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ母材である。したがって、母材の材質は、シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン15については、アルミニウム合金や鋳鉄となり、吸気弁21及び排気弁22については、耐熱鋼や鋳鉄等となる。
【0045】
また、断熱層6は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室17内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室17の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室17を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
【0046】
一方で、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、冷却水によって燃焼室17の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。そこで、断熱層6の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
【0047】
上記断熱層6は、例えば、母材上にZrO等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、断熱層6の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
【0048】
また、本実施形態では、図1に示すように、熱伝導率が非常に低くて断熱性に優れかつ耐熱性にも優れたチタン酸アルミニウム製のポートライナ181を、シリンダヘッド13に一体的に鋳ぐるむことによって、吸気ポート18に断熱層を設けている。この構成は、新気が吸気ポート18を通過するときに、シリンダヘッド13から受熱して温度が上がることを抑制乃至回避し得る。これによってシリンダ11内に導入する新気の温度(初期のガス温度)が低くなるため、燃焼時のガス温度が低下し、ガス温度と燃焼室17の区画面との差温を小さくする上で有利になる。燃焼時のガス温度を低下させることは熱伝達率を低くし得るから、そのことによる冷却損失の低減にも有利になる。尚、吸気ポート18に設ける断熱層の構成は、ポートライナ181の鋳ぐるみに限定されない。
【0049】
本実施形態では、上記の燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造に加えて、気筒内(燃焼室17内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
【0050】
具体的には、エンジン制御器100は、エンジン1の気筒内(燃焼室17内)の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程においてインジェクタ11のノズル口41から気筒内に燃料を噴射させるべく、燃料供給システム34の電気回路35に噴射信号を出力するとともに、調圧弁36に弁制御信号を出力する。すなわち、圧縮行程においてインジェクタ33により気筒内に燃料を噴射させかつその燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒内の外周部(ガス層)まで届かないような大きさ(長さ)に抑えることで、気筒内の中心部に混合気層が形成されかつその周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
【0051】
インジェクタ33による燃料噴射時期は、圧縮行程の中でも、後期(特に、圧縮行程を、前期、中期及び後期と約3等分した場合の後期)が好ましい。これにより、点火までの時間が短くなって、混合気層の燃料がその外周部のガス層と混じり難くなり、燃焼時においてガス層を確保することができる。
【0052】
特に、エンジン負荷が所定値よりも高い高負荷領域にあるときにおいては、燃料の燃焼開始が圧縮上死点以降となるように、圧縮上死点付近でノズル口41から気筒内に燃料を噴射させるようにすることが好ましい。これにより、エンジン1のモータリング時におけるクランク角変化に対する気筒内の圧力変化である圧力上昇率が負の最大値となるクランク角時点(通常、圧縮上死点後4°〜15°CA)乃至その近傍で、燃料を燃焼させるようにすることができ、この結果、エンジン負荷が高くても、振動騒音(NVH)レベルを低減することができる。
【0053】
上記のようにガス層と混合気層とが形成された状態で点火プラグ31による点火を行えば、混合気層とシリンダ11の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎がシリンダ11の壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、シリンダ11の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
【0054】
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
【0055】
ここで、エンジンの運転状態(特に燃料噴射時の気筒内圧力)が変化すると、燃料噴霧のペネトレーションが変化して、燃料噴霧が気筒内の外周部まで届くような大きさになる場合が生じる。このため、エンジンの運転状態に応じて、燃料噴霧のペネトレーションを、燃料噴霧が気筒内の外周部まで届かないような所定の大きさ(長さ)に調整する必要がある。
【0056】
上記ペネトレーションの調整は、エンジン制御器100がインジェクタ33(外開弁42)及び調圧弁36の作動を制御して、外開弁42のリフト量及び調圧弁36による燃料圧力でもって行う。このことで、エンジン制御器100は、本発明の噴射制御手段を構成することになる。
【0057】
エンジン制御器100は、図3に示すように、エンジン負荷が所定値以下である低負荷領域(図3のリフト量制御領域)にあるときにおいては、エンジン1の運転状態に応じて、ピエゾ素子44により外開弁42のリフト量を変更する(リフト量制御を行う)ことによって、上記燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整する一方、エンジン負荷が上記所定値よりも高い高負荷領域(図3の燃圧制御領域)にあるときにおいては、エンジン1の運転状態に応じて、調圧弁36により燃料圧力を変更する(燃圧制御を行う)ことによって、上記燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整する。尚、図3では、上記2つの領域を切り分ける上記所定値は、エンジン回転数が大きくなるに連れて大きくなっているが、これには限られず、例えば、エンジン回転数に関係なく一定の値であってもよい。
【0058】
エンジン負荷が上記低負荷領域にあるときには、燃料圧力を、エンジン負荷に対する高圧燃料ポンプ37による機械抵抗の占める割合が出来る限り小さくなるような一定値に設定しておく。また、エンジン負荷が上記高負荷領域にあるときには、外開弁42のリフト量を、噴射された燃料全体が正常に燃焼するような一定値に設定しておく。
【0059】
すなわち、エンジン負荷が上記低負荷領域にあるときにおいては、リフト量が基本的に小さくて噴射量が少なくかつ燃料噴霧の粒径が小さく、これにより、噴射された燃料全体が正常に燃焼する。この結果、エンジン1の運転状態に応じて、外開弁のリフト量を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整することで、リフト量が大きい場合のようにエミッションが悪化するようなことはない。ここで、エンジン負荷が上記低負荷領域にあるときに、燃料圧力の変更によりペネトレーションを調整しようとすると、エンジン負荷に対する高圧燃料ポンプ37による機械抵抗の占める割合が大きくなって、燃費が悪化する場合が生じる。しかし、本実施形態では、燃料圧力は、エンジン負荷に対する高圧燃料ポンプ37による機械抵抗の占める割合が出来る限り小さくなるような一定値に設定するので、燃費の悪化を抑制することができる。
【0060】
一方、エンジン負荷が上記高負荷領域にあるときにおいては、燃料圧力を変更しても、エンジン負荷に対する高圧燃料ポンプ37による機械抵抗の占める割合は基本的に小さくて、その機械抵抗の感度が小さく、燃費への影響は殆どない。この結果、エンジン1の運転状態に応じて、燃料圧力を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整することで、燃費の悪化を抑制することができる。ここで、エンジン負荷が上記高負荷領域にあるときに、外開弁のリフト量の変更によりペネトレーションを調整しようとすると、リフト量が基本的に大きくて噴射量が多くかつ燃料噴霧の粒径が大きくなるので、噴射された燃料の一部が燃えずに煤が発生したり炭化したりして、エミッションが悪化する場合が生じる。しかし、本実施形態では、外開弁42のリフト量を、噴射された燃料全体が正常に燃焼するような一定値に設定するので、エミッションの悪化を抑制することができる。
【0061】
上記低負荷領域(リフト量制御領域)では、気筒内(燃焼室17内)全体の空気過剰率λが2以上、又は、気筒内におけるガス(新気、EGRガス)の燃料に対する重量比G/Fが30以上に設定される。これにより、低負荷領域において、断熱層による断熱化を図って図示熱効率を向上させながら、RawNOxを低減することができる。RawNOx低減の観点からは、上記空気過剰率λ≧2.5がより一層好ましい。また、上記空気過剰率λ=8で図示熱効率がピークになることから、上記空気過剰率λの範囲としては、2≦λ≦8(より好ましくは2.5≦λ≦8)が好ましい。尚、混合気のリーン化は、スロットル弁20を開き側に設定することになるから、ガス交換損失(ポンピングロス)の低減による図示熱効率の向上にも寄与し得る。
【0062】
一方、上記高負荷領域(燃圧制御領域)では、トルク優先により、気筒内全体の空気過剰率λ=1に設定される(混合気層では、空気過剰率λ<1となる)。尚、本実施形態では、上記空気過剰率λがλ≧2以上となる領域及びλ=1となる領域が、それぞれリフト量制御領域及び燃圧制御領域と一致しているが、λ≧2以上となる領域とλ=1となる領域とを切り分ける所定値が、リフト量制御領域と燃圧制御領域とを切り分ける所定値と異なっていてもよい。
【0063】
図4は、気筒内圧力が9MPa(幾何学的圧縮比εが30であるときの圧縮上死点での圧力に相当)であるときの、外開弁42のリフト量に応じた燃料噴霧のペネトレーション(ノズル口41からの燃料噴霧の到達距離)の変化を示す。燃料圧力は10MPaと一定値に設定してある。気筒内圧力が低くなると、ペネトレーションがどのリフト量でも大きくなる。その気筒内圧力でのリフト量に応じた燃料噴霧のペネトレーションを予め求めておき、上記低負荷領域におけるエンジン運転状態から推定される気筒内圧力で、ペネトレーションがL(燃料噴霧が気筒内の外周部に到達する大きさ)を超えないようにリフト量を変更する。
【0064】
図5は、気筒内圧力が9MPaであるときの、燃料圧力に応じた燃料噴霧のペネトレーションの変化を示す。リフト量は一定値に設定してある。図4と同様に、気筒内圧力が低くなると、ペネトレーションがどの燃料圧力でも大きくなる。その気筒内圧力での燃料圧力に応じた燃料噴霧のペネトレーションを予め求めておき、上記高負荷領域におけるエンジン運転状態から推定される気筒内圧力で、ペネトレーションがLを超えないように燃料圧力を変更する。
【0065】
したがって、本実施形態では、エンジン負荷が所定値以下である低負荷領域にあるときにおいては、エンジン1の運転状態に応じて、ピエゾ素子44により外開弁42のリフト量を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを所定の大きさに調整する一方、エンジン負荷が上記所定値よりも高い高負荷領域にあるときにおいては、エンジン1の運転状態に応じて、調圧弁36により燃料圧力を変更することによって、燃料噴霧のペネトレーションを上記所定の大きさに調整するようにしたので、燃費の悪化やエミッションの悪化を抑制しながら、エンジンの運転状態に応じて燃料噴霧のペネトレーションを調整することが可能になる。
【0066】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態では、燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造に加えて、気筒内(燃焼室17内)にガス層による断熱層を形成するようにしたが、燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造を採用しないエンジンにも本発明を適用することができる。
【0068】
また、上記実施形態では、インジェクタ33が、外開弁42をピエゾ素子44により駆動するピエゾ型の外開弁式インジェクタであるとしたが、ノズル口41から気筒内に燃料を噴射させる外開弁駆動手段としては、ピエゾ素子44には限られない。
【0069】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、外開弁式のインジェクタを備えた火花点火式直噴エンジンに有用であり、特に幾何学的圧縮比を高くしつつ冷却損失を低減する場合に有用である。
【符号の説明】
【0071】
1 火花点火式直噴エンジン
11 シリンダ(気筒)
33 インジェクタ
36 調圧弁(燃圧調整手段)
37 高圧燃料ポンプ
41 ノズル口
42 外開弁
44 ピエゾ素子(外開弁駆動手段)
100 エンジン制御器(噴射制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5