特許第5834740号(P5834740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834740
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】プロジェクション溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/14 20060101AFI20151203BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20151203BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20151203BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20151203BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20151203BHJP
   F16B 37/06 20060101ALI20151203BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20151203BHJP
   B23K 11/34 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   B23K11/14 310
   B23K11/24 315
   B23K11/16
   B23K11/24 394
   C22C38/00 301Z
   C22C38/16
   F16B37/06 C
   F16B35/04 G
   B23K11/34
【請求項の数】3
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2011-220287(P2011-220287)
(22)【出願日】2011年10月4日
(65)【公開番号】特開2013-78784(P2013-78784A)
(43)【公開日】2013年5月2日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】及川 初彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 靖雄
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−050280(JP,A)
【文献】 特開昭58−084960(JP,A)
【文献】 特開2002−248577(JP,A)
【文献】 特開2002−103054(JP,A)
【文献】 特開2008−229720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00−10/02
B23K 11/14
B23K 11/16
B23K 11/24
B23K 11/34
C22C 38/00
C22C 38/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.07〜0.28%、
Si:0.007〜0.35%、
Mn:0.20〜1.20%、
P :0.020%以下、
S :0.035%以下、
Cu:0.30%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるナットまたはボルトと、引張強さが950〜1600MPa、板厚が0.8〜3.0mmであるとともに、下記(1)式で表される炭素当量Ceqが質量%で0.22〜0.50%の範囲である高強度鋼板とをプロジェクション溶接によって接合する、プロジェクション溶接継手の製造方法であって、
電極の加圧力EF、通電時間Wtが、それぞれ下記(2)、(3)式で表される関係を満たす条件で本通電を行い、
前記本通電の直後に、下記(4)、(5)式で表される関係式を満たす条件で後通電を実施し、
次いで、下記(6)式で表される通電終了後の電極保持時間Htにて電極保持を行うことにより、前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板との接合部の面積SJと、前記ナットまたはボルトの呼び径部分の面積SRとの比が下記(7)式で表される関係を満たし、かつ、前記接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hv以下となるように制御しながらプロジェクション溶接を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・(2)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・(3)
0.40×WC ≦ POC1 ≦ 0.95×WC ・・・(4)
30 ≦ POt1 ≦ 200 ・・・(5)
Ht ≦ 160 ・・・(6)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・(7)
{但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示し、上記(2)、(3)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:通電時間(ms)を示し、上記(4)〜(6)式において、WC::プロジェクション溶接電流(kA)、POC1:後通電電流(kA)、POt1:後通電時間(ms)、Ht:後通電後の電極保持時間(ms)を示し、また、上記(7)式において、SJ:ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積(mm)、SR:ナットまたはボルトの呼び径部分の面積(mm)を示す。}
【請求項2】
請求項1に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、
電極の加圧力EF、通電時間Wtが、それぞれ上記(2)、(3)式で表される関係を満たす条件で本通電を行い、
前記本通電の直後に、下記(8)〜(10)式で表される関係式を満たす条件の後通電を実施し、
次いで、上記(6)式で表される通電終了後の電極保持時間Htにて電極保持を行うことにより、前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板との接合部の面積SJと、前記ナットまたはボルトの呼び径部分の面積SRとの比が上記(7)式で表される関係を満たし、かつ、前記接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hv以下となるように制御しながらプロジェクション溶接を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
16 ≦ Ct ≦ 300 ・・・(8)
0.40×WC ≦ POC2 ≦ 0.95×WC ・・・(9)
30 ≦ POt ≦ 200 ・・・(10)
{但し、上記(8)〜(10)式において、Ct:通電後の冷却時間(ms)、POC2:後通電電流(kA)、POt2:後通電時間(ms)を示す。}
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、
前記通電の後から、電極保持時間Htが終了するまでの電極加圧力PEF(kN)を、下記(11)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
1.2×EF ≦ PEF ≦ 1.5×EF ・・・(11)
{但し、上記(11)式において、PEF:溶接後の電極加圧力(kN)、EF:通電時の電極の加圧力(kN)を示す。}
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクション溶接継手の製造方法に関し、特に、自動車用部品や車体の接合部で使用され、ナットまたはボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなり、接合部におけるトルク剥離強さおよび押込み剥離強さ等の静的強度、ならびに、耐割れ性に優れたプロジェクション溶接継手の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては、低燃費化や炭酸ガス(CO)排出量削減を目的とした車体の軽量化および衝突安全性向上のために、車体や部品等に、高強度鋼板を使用するニーズが高まっている。一方、例えば、フロントサイドメンバーやセンターピラー、ヒンジリンフォース等の自動車用構造部材のように、高強度鋼板からなる部品にナットやボルトを接合する場合には、主に、プロジェクション溶接方法が用いられている。しかしながら、高強度鋼板にナットやボルトをプロジェクション溶接した場合には、以下のような問題が生じる。
【0003】
ナットやボルトをプロジェクション溶接した接合部(溶接継手)の品質指標としては、静的強度と疲労強度が挙げられるが、まず重要なのは静的強度である。溶接継手の静的強度には、ナットやボルトに回転力を負荷して測定するトルク剥離強さと、剥離方向に押込み荷重を負荷して測定する押込み剥離強さがある。
一般に、上述した静的強度は、プロジェクション溶接した接合部および熱影響部(HAZ)の硬さの値が適度に高く十分な強度があり、かつ靭性も高い場合には、十分に高い値が得られるが、接合部および熱影響部の硬さの値が高過ぎて靭性が低い場合には著しく低下する。
【0004】
また、高強度鋼板、特に引張強さが950MPa以上の高強度鋼板を使用した場合には、溶接時の通電初期段階においてプロジェクション部を十分に潰すことができず、その結果、電流密度増加による過剰発熱によって散りが発生して周辺に付着し、溶接後にねじが通り難くなる等の問題が生じる。さらに、プロジェクション部が十分潰れない状態で接合が行われると、接合面積が十分得られず、その結果、十分な静的強度が得られない場合もある。
【0005】
ナットやボルトをプロジェクション溶接する方法に関しては、例えば、ボルトと基板部材とをプロジェクション溶接するにあたり、まず、一方の電極を対向方向に進退する分割電極で構成し、他方の電極を両分割電極の対向間隙に向けて上方に配設することで、溶接電極を適正配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、ボルトと基板部材を分割電極の上に搬入した後、他方の電極を降下させてボルトと基板部材を圧接させ、プロジェクション溶接を行うことで、溶接工程において時間の無駄を無くし、スピードアップすることが可能とされている。
【0006】
また、プロジェクション溶接方法に関し、溶接通電を、低電流から高電流の2段階で変化させて行うとともに、低電流時の通電時間を高電流時よりも短く設定する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2によれば、上記方法を採用することにより、プロジェクション溶接継手の接合強度が一層向上するとともにばらつきを低減させることができ、溶接品質をより高めることが可能とされている。
【0007】
また、プロジェクション溶接方法に関し、鋼板側の化学成分を調整する方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、鋼板の化学成分を適正化することにより、引張強さ(TS):780MPa以上、伸び(El):20%以上、降伏比(YR):65%以下の鋼板特性とプロジェクション溶接性の両立を図ることができ、良好な成形性およびプロジェクション溶接性が得られるとされている。
【0008】
また、プロジェクション溶接方法に関し、鋼板側の化学成分を調整するとともに、炭素当量を比較的低めに設定する方法が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4によれば、鋼板中の炭素当量を低減させることにより、良好な溶接性を有する570N/mm級以上の鋼板の製造が可能であるとされている。
【0009】
また、プロジェクション溶接方法に関し、鋼板側の化学成分や板厚、炭素当量に加え、板厚や炭素当量によって算出されるDI値を調整する方法が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。特許文献5によれば、鋼板自体の強度を確保しつつ、ナットとの接合強度、すなわち、押込み剥離強さおよびトルク剥離強さを向上させるとともに、接合強度のばらつきを低減させることが可能とされている。
【0010】
また、プロジェクション溶接方法に関し、鋼板側の化学成分を適正に調整するとともに、接合部断面での熱影響部における硬さ分布において、ビッカース硬さが400Hv以上の領域の断面積と厚さの比を所定範囲に規定する方法が提案されている(例えば、特許文献6を参照)。特許文献6によれば、上記構成により、ナットと鋼板との接合強度、すなわち、押込み剥離強さおよびトルク剥離強さを向上させるとともに、接合強度のばらつきを低減させることが可能とされている。
【0011】
また、プロジェクション溶接方法に関し、鋼板成分を適正化するとともに、熱影響部の最大深さ部を含む、鋼板表面に垂直な方向での硬さ分布について、ビッカース硬さが400Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの30%以上であるか、あるいは、ビッカース硬さが300Hv以上の領域の厚さが鋼板厚さの50%以上に制御されたものが提案されている(例えば、特許文献7を参照)。特許文献7によれば、上記構成により、ナットと鋼板との接合強度、すなわち、押込み剥離強さおよびトルク剥離強さを向上させるとともに、接合強度のばらつきを低減させることが可能とされている。
【0012】
また、プロジェクション溶接方法に関し、鋼板の厚さ方向の所定範囲において、酸化物の含有量の上限を規定したものが提案されている(例えば、特許文献8〜10を参照)。特許文献8〜10によれば、溶接強度を低下させる要因となる酸化物の含有量を規制することにより、プロジェクション溶接部の強度を高めることが可能とされている。
【0013】
しかしながら、上述した各方法は、何れも、特別な溶接法が必要であったり、鋼板成分が限定されたり、プロジェクション溶接部の特性、特に、引張強さが950MPa以上の鋼板を基盤に用いた場合の接合強度を確実かつ安定して向上させるのが難しく、その効果も十分でないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−178161号公報
【特許文献2】特開2004−50280号公報
【特許文献3】特開2005−281816号公報
【特許文献4】特開平6−65637号公報
【特許文献5】特開2010−106343号公報
【特許文献6】特開2010−115678号公報
【特許文献7】特開2010−116592号公報
【特許文献8】特開2011−006764号公報
【特許文献9】特開2011−006765号公報
【特許文献10】特開2011−006766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般的に、ナットまたはボルトは、強度が必要とされるため、その炭素量や炭素当量は高めに設定されている。このため、ナットまたはボルトと高強度鋼板、特に、引張強さが950MPa以上の炭素当量が高い高強度鋼板とをプロジェクション溶接した場合には、接合部および熱影響部の硬さが増加し過ぎて靭性が低下し、十分なトルク剥離強さや押込み剥離強さが得られなくなるという問題が生じる。また、入熱条件が高いか、あるいは板厚が厚い(板厚:1.8mm以上)場合には、プロジェクション溶接後に生じる接合部の急激な収縮により、硬くて靭性が低い部分において高温割れや低温(水素)割れが起こり、耐割れ性が低下するという問題が生じる。さらに、従来の方法では、引張強さが950MPa以上の高強度鋼板を使用した場合に、通電初期にプロジェクション部を十分に潰すことができず、その結果、電流密度が増加して過剰発熱が起こり、散りが発生してそれがねじの部分に付着し、溶接後にねじが通り難くなることがあった。また、プロジェクション部が十分潰れない状態でプロジェクション溶接を行ったために接合面積が不十分となり、十分な静的強度が得られないという問題も生じていた。
【0016】
また、従来の方法では、接合部で高い引張残留応力が発生するため、溶接後しばらく経ってから低温割れが生じることもある。このような割れが発生すると、接合部で十分な静的強度が得られず、その部分に水分が浸入した場合には腐食が発生することから、接合部の強度がさらに低下するという問題があった。
【0017】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、特に、ナットまたはボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなり、トルク剥離強さおよび押込み剥離強さ等の静的強度、ならびに、耐割れ性に優れた、プロジェクション溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等が上記問題を解決するために鋭意研究したところ、ナットまたはボルトの化学成分(炭素量を含む)、ならびに、高強度鋼板の引張強さ、板厚、炭素当量を規定して接合部の硬さと靭性を適度に制御し、さらに、ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積と、ナットまたはボルトの呼び径部分の面積との比を適正範囲で規定することにより、プロジェクション溶接された接合部の静的強度が向上するとともに、高温割れや低温割れの発生を防止できることを知見した。さらに、溶接通電の直後に後通電を行うことで接合部の冷却速度を低下させるか、あるいは、溶接通電の後に冷却時間を設け、その後に後通電を行うことで接合部の焼戻しを行って組織変化を生じさせることにより、接合部において高温割れや低温割れが発生するのを防止し、高い接合強度が得られることを知見した。これに加え、溶接通電の直後に加圧力を増加させることで、溶接後の収縮によって生じる引張残留応力の発生を軽減させ、接合部において高温割れや低温割れが発生するのを防止でき、高い接合強度が得られることを知見した。
【0019】
上記により、本発明者等は、溶接用電極の分割を実施することなく、また、鋼板の化学成分やDI値を特別に調整することもなく、実用の溶接条件の範囲内でプロジェクション溶接を実施することで、溶接継手の静的強度、すなわち、押込み剥離強さおよびトルク剥離強さを向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0020】
[1] 質量%で、C:0.07〜0.28%、Si:0.007〜0.35%、Mn:0.20〜1.20%、P:0.020%以下、S:0.035%以下、Cu:0.30%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるナットまたはボルトと、引張強さが950〜1600MPa、板厚が0.8〜3.0mmであるとともに、下記(1)式で表される炭素当量Ceqが質量%で0.22〜0.50%の範囲である高強度鋼板とをプロジェクション溶接によって接合する、プロジェクション溶接継手の製造方法であって、電極の加圧力EF、通電時間Wtが、それぞれ下記(2)、(3)式で表される関係を満たす条件で本通電を行い、前記本通電の直後に、下記(4)、(5)式で表される関係式を満たす条件で後通電を実施し、次いで、下記(6)式で表される通電終了後の電極保持時間Htにて電極保持を行うことにより、前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板との接合部の面積SJと、前記ナットまたはボルトの呼び径部分の面積SRとの比が下記(7)式で表される関係を満たし、かつ、前記接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hv以下となるように制御しながらプロジェクション溶接を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・(2)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・(3)
0.40×WC ≦ POC1 ≦ 0.95×WC ・・・(4)
30 ≦ POt1 ≦ 200 ・・・(5)
Ht ≦ 160 ・・・(6)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・(7)
{但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示し、上記(2)、(3)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:通電時間(ms)を示し、上記(4)〜(6)式において、WC::プロジェクション溶接電流(kA)、POC1:後通電電流(kA)、POt1:後通電時間(ms)、Ht:後通電後の電極保持時間(ms)を示し、また、上記(7)式において、SJ:ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積(mm)、SR:ナットまたはボルトの呼び径部分の面積(mm)を示す。}
【0021】
[2] 上記[1]に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、電極の加圧力EF、通電時間Wtが、それぞれ上記(2)、(3)式で表される関係を満たす条件で本通電を行い、前記本通電の直後に、下記(8)〜(10)式で表される関係式を満たす条件の後通電を実施し、次いで、上記(6)式で表される通電終了後の電極保持時間Htにて電極保持を行うことにより、前記ナットまたはボルトと前記高強度鋼板との接合部の面積SJと、前記ナットまたはボルトの呼び径部分の面積SRとの比が上記(7)式で表される関係を満たし、かつ、前記接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hv以下となるように制御しながらプロジェクション溶接を行うことを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
16 ≦ Ct ≦ 300 ・・・(8)
0.40×WC ≦ POC2 ≦ 0.95×WC ・・・(9)
30 ≦ POt ≦ 200 ・・・(10)
{但し、上記(8)〜(10)式において、Ct:通電後の冷却時間(ms)、POC2:後通電電流(kA)、POt2:後通電時間(ms)を示す。}
[3] 上記[1]または[2]に記載のプロジェクション溶接継手の製造方法であって、前記通電の後から、電極保持時間Htが終了するまでの電極加圧力PEF(kN)を、下記(11)式で表される関係を満たす範囲とすることを特徴とするプロジェクション溶接継手の製造方法。
1.2×EF ≦ PEF ≦ 1.5×EF ・・・(11)
{但し、上記(11)式において、PEF:溶接後の電極加圧力(kN)、EF:通電時の電極の加圧力(kN)を示す。}
【発明の効果】
【0022】
本発明のプロジェクション溶接継手の製造方法によれば、上記構成により、特に、自動車用部品や車体の接合部に用いられ、ナットまたはボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手において、良好な溶接作業性を確保しつつ、接合部の静的強度、すなわち、トルク剥離強さおよび押込み剥離強さを向上させ、また、割れの発生を防止できるので、接合部およびその部品の信頼性を向上させることが可能となる。したがって、例えば、自動車用部品や車体、ならびにそれらの製造、組立工程において本発明のプロジェクション溶接継手の製造方法を適用することにより、高強度鋼板の採用による安全性の向上の他、車体全体の軽量化による低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の一実施形態を模式的に説明する図であり、ナットと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手を備えた構造部材を示す断面図である。
図2】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の一実施形態を模式的に説明する図であり、(a)は図1に示すナットの構造を詳細に説明する断面図、(b)は平面図である。
図3】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の一実施形態を模式的に説明する図であり、プロジェクション溶接機を用いてナットと高強度鋼板とを接合する工程を示す断面図である。
図4】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の一実施形態を説明する図であり、プロジェクション溶接を行う際の加圧力および通電パターンを示すグラフである。
図5】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の一実施形態を説明する図であり、プロジェクション溶接を行う際の加圧力および通電パターンを示すグラフである。
図6】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の一実施形態を説明する図であり、プロジェクション溶接を行う際の加圧力および通電パターンを示すグラフである。
図7】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の一実施形態を説明する図であり、プロジェクション溶接を行う際の加圧力および通電パターンを示すグラフである。
図8】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の一実施形態を模式的に説明する図であり、ナットと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手の断面における接合部・熱影響部の硬さ分布の測定方法を示す概略図である。
図9】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の一実施形態を模式的に説明する図であり、ナットと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手のトルク剥離試験方法を示す断面図である。
図10】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の一実施形態を模式的に説明する図であり、ナットと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手の押込み剥離試験方法を示す断面図である。
図11】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の他の実施形態を模式的に説明する図であり、ボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手を備えた構造部材を示す断面図である。
図12】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の他の実施形態を模式的に説明する図であり、(a)は図11に示すボルトの構造を詳細に説明する概略図、(b)は(a)のボルトを下面側から見た概略図である。
図13】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の他の実施形態を模式的に説明する図であり、プロジェクション溶接機を用いてボルトと高強度鋼板とを接合する工程を示す断面図である。
図14】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の他の実施形態を模式的に説明する図であり、ボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手の断面における接合部・熱影響部の硬さ分布の測定方法を示す概略図である。
図15】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の他の実施形態を模式的に説明する図であり、ボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手のトルク剥離試験方法を示す断面図である。
図16】本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法法の他の実施形態を模式的に説明する図であり、ボルトと高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手の押込み剥離試験方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施形態]
以下、本発明のプロジェクション溶接継手の製造方法の第1の実施形態について、主に図1図4を適宜参照しながら説明する。なお、本実施形態は、本発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
【0025】
本実施形態のプロジェクション溶接継手10の製造方法は、質量%で、C:0.07〜0.28%、Si:0.007〜0.35%、Mn:0.20〜1.20%、P:0.020%以下、S:0.035%以下、Cu:0.30%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるナット2と、引張強さが950〜1600MPa、板厚が0.8〜3.0mmであるとともに、下記(1)式で表される炭素当量Ceqが質量%で0.22〜0.50%の範囲である高強度鋼板1とをプロジェクション溶接する方法である。そして、本実施形態においては、電極の加圧力EF、溶接通電時間Wtが、それぞれ下記(2)、(3)式で表される関係を満たす条件で溶接通電を行い、前記溶接通電の直後に、下記(4)、(5)式で表される関係式を満たす条件で後通電を実施し、次いで、下記(6)式で表される通電終了後の電極保持時間Htにて電極保持を行う。これにより、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJと、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比が下記(7)式で表される関係を満たし、かつ、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値が550Hv以下となるように制御しながら、プロジェクション溶接を行う方法である。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・(2)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・(3)
0.40×WC ≦ POC1 ≦ 0.95×WC ・・・(4)
30 ≦ POt1 ≦ 200 ・・・(5)
Ht ≦ 160 ・・・(6)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・(7)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示し、上記(2)、(3)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:溶接通電時間(ms)を示し、上記(4)〜(6)式において、WC:溶接電流(kA)、POC1:後通電電流(kA)、POt1:後通電時間(ms)、Ht:後通電後の電極保持時間(ms)を示し、また、上記(7)式において、SJ:ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積(mm)、SR:ナット2の呼び径部分の面積(mm)を示す。
【0026】
また、本実施形態の製造方法によって得られるプロジェクション溶接継手10は、上記の化学成分を有するナット2と、上記の引張強さ、板厚、ならびに上記(1)式で表される炭素当量を有する高強度鋼板とがプロジェクション溶接されてなる。さらに、プロジェクション溶接継手10は、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJと、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比が、上記(7)式で表される関係を満たし、かつ、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値が550Hv以下とされている。
【0027】
『プロジェクション溶接方法』
本発明において説明するプロジェクション溶接とは、被接合物の接合箇所に大電流を流し、この接合箇所を抵抗発熱によって加熱しながら圧力を加えて接合を行う、いわゆる抵抗溶接方法の一種である。具体的には、図2(a)、(b)に示す例のように、ナット2の、高強度鋼板1と接合される接合面2aにプロジェクション部21を設け、このプロジェクション部に電流を集中して流すことで、加熱すると同時に加圧を行って接合する方法である。また、プロジェクション溶接は、重ね合わせた被接合物を電極の先端で挟持し、通電と同時に電極で加圧することで溶接を行う、いわゆるスポット溶接法の装置を用い、プロジェクション溶接用に電極を変更して行うことができる方法である。
【0028】
プロジェクション溶接は、上述のように、被接合物のナット2に設けられた突起状のプロジェクション部に集中して通電を行うため、小電流の通電で電流密度を高くすることができる。これにより、母材(高強度鋼板1)表面において確実に接合部を形成させることができ、良好な接合を行うことが可能となる。このような接合部は、多くの場合、溶融することなく圧接(固相接合)となるが、溶接電流が高い場合には溶融する場合もある。
以下、本実施形態における各限定理由について詳述する。
【0029】
『ナット』
本実施形態のプロジェクション溶接継手10は、図1に例示するように、高強度鋼板1と、図2(a)、(b)に示すような、接合面2aにプロジェクション部21が備えられたナット(溶接ナット)2を用い、これらがプロジェクション溶接されて構成される。また、図1においては、上記構成のプロジェクション溶接継手10が備えられてなる、自動車部品等の分野において適用可能な構造部材50を例示している。
【0030】
本実施形態において用いられるナット(溶接ナット)は、その概略形状や寸法がJIS B 1196に規定された溶接ナットに準拠するものである。また、本実施形態で用いられるナット2に備えられる突起部(プロジェクション部21)としては、JIS B 1196に記載された各種の突起形状を何ら制限無く採用することができる。例えば、JIS B 1196に記載された四角溶接ナット(1C形)に設けられ、また、図2(a)、(b)に例示するナット2に備えられたプロジェクション部21のような突起形状等を採用することが可能である。さらに、ナット2の概略形状や寸法としては、JISに規定されるものに限定されるものではなく、用途や性能に応じて適宜変更されていても良い。
【0031】
ナット2の接合面2aに設けられたプロジェクション部21の数(突起数)としては、特に限定されないが、例えば、3〜4点とすることが好ましく、図2(a)、(b)等に示す例では4点とされている。この理由としては、プロジェクション部21が接合面2aに3〜4点設けられていれば、溶接加圧の際に、プロジェクション部(突起部)21と高強度鋼板1との接触位置が3〜4点となり、面としての当たりの状態が安定して定まることが挙げられる。接合面におけるプロジェクション部の数を2点とした場合、溶接加圧の際に、プロジェクション部21と高強度鋼板1の当たりの状態が安定しないことがあり、また、4点を超えた場合には、当たりの弱いプロジェクション部が発生して入熱がアンバランスとなり、接合部の強度が低下する恐れがある。
【0032】
「成分組成」
本実施形態で用いられるナット2は、上述したように、質量%で、C:0.07〜0.28%、Si:0.007〜0.35%、Mn:0.20〜1.20%、P:0.020%以下、S:0.035%以下、Cu:0.30%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成とされたものである。
以下、ナット2の成分中における各元素の限定理由について説明するが、以下の説明における含有量「%」は、特に指定がない限り「質量%」を表すものとする。
【0033】
(C:炭素)0.07〜0.28%
Cは、鋼の強度を確保するために必要な元素であり、その含有量が0.07%以下ではナットの強度が不足するため、下限を0.07%とした。一方、Cを過剰に添加すると、接合部の硬さが増加し過ぎて靱性が低下し、また、高温割れや低温割れが生じやすくなるため、その上限を0.28%に制限した。
【0034】
(Si:珪素)0.007〜0.35%
Siは、脱酸や強度の確保に必要な元素であり、このような効果を得るためには0.007%以上の添加が必要である。一方、Siを過剰に添加すると、ナットの接合性や靱性が低下することから、その上限を0.35%に制限した。
【0035】
(Mn:マンガン)0.20〜1.20%
Mnは、焼入れ性の向上や、ナットの強度向上に必要な元素であり、このような効果を得るためには0.20%以上の添加が必要である。一方、Mnを過剰に添加すると、ナットの接合性や靱性が低下することから、その上限を1.20%に制限した。
【0036】
(P:リン)0.020%以下
Pは、ナットをなす鋼中に不可避的に混入してくる元素であり、その含有量は少ないほうが好ましい。Pの含有量が多くなると、ナットの靭性低下や接合部の高温割れを引き起こすことから、その上限を0.020%以下に制限した。
【0037】
(S:硫黄)0.035%以下
Sは、Pと同様、ナットをなす鋼中に不可避的に混入してくる元素である。Sの含有量が多くなると、ナットの靭性低下や接合部の高温割れを引き起こすため、その上限を0.035%以下に制限した。
【0038】
(Cu:銅)0.30%以下
Cuは、ナットの強度向上に必要な元素であることから、ある程度の量で添加されていることが好ましい。しかしながら、Cuを過剰に添加すると熱間加工性が低下し、また、高温割れを引き起こすことから、その上限を0.30%に制限した。一方、Cuの含有量は、接合性を確保する観点から、強度向上効果が得られる範囲内で可能な限り少量とすることがより好ましく、具体的には0.1%以下とすることが好ましい。
【0039】
「ナットのその他の鋼特性」
本実施形態で用いられるナット2の強度レベルとしては、特に制限されるものではなく、一般的な強度レベル、例えば、5T(490MPa相当)や、8T(785MPa相当)のものを好適に用いることができる。
またさらに、ナット2のビッカース硬さも特に制限されるものではなく、適宜、設定することが可能である。
【0040】
『高強度鋼板』
以下に、本実施形態のプロジェクション溶接継手10をなす高強度鋼板1の鋼板特性について詳述する。
本実施形態において、プロジェクション溶接によってナット2と接合される高強度鋼板1は、引張強さが950〜1600MPa、板厚が0.8〜3.0mmであるとともに、下記(1)式で表される炭素当量Ceqが質量%で0.22〜0.50%の範囲とされている。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示す。
【0041】
「引張強さ」950〜1600MPa
本実施形態のプロジェクション溶接継手10においては、母材強度、すなわち、高強度鋼板1の引張強さを950〜1600MPaの範囲に規定する。
鋼板の強度は、プロジェクション溶接後のプロジェクション溶接継手10の静的強度や、割れの抑制等に対して大きな影響を及ぼす。本実施形態においては、まず、鋼板として、引張強さが950〜1600MPaの範囲とされた高強度鋼板1を用いることで、ナット2とプロジェクション溶接することで得られるプロジェクション溶接継手10の静的強度が高められ、また、高温割れや低温割れが発生するのを抑制できる。
【0042】
鋼板の引張強さが950MPa未満の場合には、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が、引張強さが950MPa以上の場合に較べて小さいため、そもそも高温割れや低温割れが発生し難いことから、本発明の適用対象外である。
また、高強度鋼板の引張強さが1600MPaを超えると、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きいため、高温割れや低温割れが発生し易くなるので、本発明の適用範囲外である。
【0043】
「板厚」0.8〜3.0mm
本実施形態において用いられる高強度鋼板1の板厚を、0.8〜3.0mmの範囲に規定する。高強度鋼板1の板厚が上記範囲であれば、本発明の適用による静的強度の向上、ならびに、高温割れや低温割れを抑制する十分な効果が得られる。
【0044】
高強度鋼板の板厚が0.8mm未満の場合には、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が小さいため、そもそも高温割れや低温割れが発生し難くなるので、本発明の適用対象外である。
また、高強度鋼板の板厚が3.0mmを超えると、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きいため、高温割れや低温割れが発生し易くなるので、本発明の適用対象外である。
【0045】
「鋼種」
(鋼組織)
本実施形態のプロジェクション溶接継手10において用いられる高強度鋼板1の鋼種については、特に限定されず、例えば、2相組織型(例えば、フェライト中にマルテンサイトを含む組織、フェライト中にベイナイトを含む組織等)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、焼入れ型(マルテンサイト組織)、微細結晶型(フェライト主体組織)等、何れの型の鋼板であっても良い。何れの鋼種からなる高強度鋼板を用いた場合であっても、鋼板の特性を失うことなく、本発明を適用することによる上記効果が確実に得られる。
【0046】
(成分組成)
高強度鋼板1の成分組成としても、特に限定されるものではなく、この分野で一般的に用いられている炭素鋼や合金鋼等を採用することが可能である。但し、本実施形態の高強度鋼板1としては、以下に詳述するように、上記(1)式で表される炭素当量Ceqと各元素との関係を満足する組成のものを採用することが必須となる。
【0047】
(炭素当量:Ceq)0.22〜0.50質量%
本実施形態においては、下記(1)式で規定される、高強度鋼板1の炭素当量Ceqを、0.22〜0.50質量%の範囲に規定する。
Ceq = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・(1)
但し、上記(1)式において、Ceq:炭素当量(質量%)、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、[S]:C、Si、Mn、P、Sの各々の含有量(質量%)を示す。
【0048】
高強度鋼板の炭素当量Ceqが0.22質量%未満の場合には、そもそも接合部の強度低下や、高温割れ、低温割れの問題が発生し難いので、本発明の適用対象外である。
また、高強度鋼板の炭素当量Ceqが0.50質量%を超えると、接合部の強度低下や高温割れ、低温割れの発生が顕著となり、本発明の適用対象外である。
【0049】
ところで、下記(12)式は、接合部の硬さに関わる炭素当量Ceqhを表し、また、下記(13)式は、接合部の靭性に関わる/炭素当量Ceqtを表しており、この(13)式は、上記(1)式と共通となっている。
Ceqh = [C]+[Si]/40+[Cr]/20 ・・・・・(12)
Ceqt = [C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S] ・・・・・(13)
但し、上記(12)、(13)式において、[C]、[Si]、[Mn]、[P]および[S]は、それぞれ高強度鋼板中のC、Si、Mn、P、Sの各含有量(質量%)を示す。
【0050】
一般的に、鋼板の引張強さが増加すると、上記(12)、(13)式で表される炭素当量(Ceqh又はCeqt)の数値が増加し、その結果、接合部の硬さが増加して靱性が低下する。このように、接合部の硬さが増加して靱性が低下すると、接合部の剥離方向の強度が低下し、また、割れが発生し易くなる。特に、上記(13)式で表される炭素当量Ceqtの数値が大き過ぎる場合、具体的には炭素当量Ceqtが0.22以上になると、上述のような接合部の強度低下や、割れの発生が起こるようになる。
【0051】
「めっき」
本実施形態において用いられる高強度鋼板1は、表面処理を施さずに、冷間圧延・熱間圧延後の状態で使用することもできるが、必要に応じてめっき処理を施しても良い。また、この際のめっき層の種類についても、例えば、Zn系、Zn−Fe系、Zn−Ni系、Zn−Al系、Zn−Mg系、Pb−Sn系、Sn−Zn系、Al-Si系等、何れのめっき層であっても良い。また、めっき層の表層に無機系、有機系の皮膜(例えば、潤滑皮膜等)が施されていても良い。
【0052】
また、これらのめっき層の目付量についても、特に限定されないが、両面の目付量で、100/100g/m以下とすることが好ましい。めっきの目付量が片面あたりで100g/mを越えると、めっき層がプロジェクション溶接の際の障害となる場合がある。
高強度鋼板1の表面に上述のようなめっき処理を施すことにより、鋼板の耐食性を確保することが可能となる。
【0053】
『接合部の面積と呼び径部分の面積との比』
本実施形態においては、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJと、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比が下記(2)式で表される関係を満たすことが必要である。
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・・・(7)
但し、上記(7)式において、SJ:ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積(mm)、SR:ナット2の呼び径部分の面積(mm)を示す。
【0054】
上記(7)式で表されるSJ/SRが0.7未満だと、接合部の静的強度、すなわち、トルク剥離強さや押込み剥離強さの低下が生じる。また、上記(7)式で表されるSJ/SRが1.5を超える接合部を得ようとすると、散りが発生し易くなって周辺部に付着することからねじが通り難くなり、また、過度な加圧によって割れが生じることがある。
【0055】
『接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値』550Hv以下
本実施形態においては、上記(7)式で表されるSJ/SRを規定したうえで、さらに、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値を550Hv以下に規定する。接合部および熱影響部のビッカース硬さの最大値が550Hvを超えると、靭性低下による接合部の強度低下や高温割れ、低温割れの発生が顕著に起こるようになるので好ましくない。また、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値は、接合強度の観点からは、300Hv以上であることが好ましい。
【0056】
『製造方法』
以下に、上述したような本実施形態のプロジェクション溶接継手を製造する方法の一例について説明する。
上述したように、本実施形態のプロジェクション溶接継手の製造方法は、上記化学成分を有するナット2と、上記引張強さ、板厚、ならびに、炭素当量Ceqを有する高強度鋼板1とをプロジェクション溶接によって接合する方法である。そして、本実施形態では、通電時の電極(図3中に示す上部電極81および下部電極82)の加圧力EF、溶接通電時間Wtが、それぞれ下記(2)、(3)式で表される関係を満たす条件で溶接通電を行い、この溶接通電の直後に、下記(4)、(5)式で表される関係式を満たす条件で後通電を実施し、次いで、下記(6)式で表される通電終了後の電極保持時間Htにて電極保持を行う。これにより、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJと、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比が下記(2)式で表される関係となるようにし、かつ、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値が550Hv以下となるように制御しながらプロジェクション溶接を行う方法を採用している。
1.96 ≦ EF ≦5.88 ・・・(2)
50 ≦ Wt ≦ 240 ・・・(3)
0.40×WC ≦ POC1 ≦ 0.95×WC ・・・(4)
30 ≦ POt1 ≦ 200 ・・・(5)
Ht ≦ 160 ・・・(6)
0.7 ≦ SJ/SR ≦ 1.5 ・・・(7)
但し、上記(2)、(3)式において、EF:通電時の電極の加圧力(kN)、Wt:溶接通電時間(ms)を示し、上記(4)〜(6)式において、WC:溶接電流(kA)、POC1:後通電電流(kA)、POt1:後通電時間(ms)、Ht:後通電後の電極保持時間(ms)を示し、また、上記(7)式において、SJ:ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積(mm)、SR:ナット2の呼び径部分の面積(mm)を示す。
【0057】
「通電時の電極の加圧力:EF」1.96〜5.88(kN)
本実施形態においては、プロジェクション溶接による通電を行う際の、上部電極81および下部電極82による加圧力EF(kN)を、上記(2)式で表される範囲、すなわち、1.96〜5.88(kN)の範囲に規定する。
電極による加圧力EFは、溶接後の接合部面積SJや接合部の残留応力に影響を与え、接合部の強度、特に剥離方向の強度や、接合部における割れの発生に大きな影響を及ぼす。本実施形態においては、溶接通電時間Wtや、後通電後の電極保持時間Htを所定範囲に規定するとともに、上部電極81および下部電極82による加圧力EFを上記範囲に規定することにより、ナット2に備えられるプロジェクション部21を十分に潰しながら、溶接後の接合部面積を適正に制御し、接合部の強度向上や、割れの発生を防止する顕著な効果が得られる。
【0058】
通電時の電極による加圧力EFが1.96kN未満だと、ナットに設けられたプロジェクション部が十分に潰れず、ナットと高強度鋼板との間に隙間ができ易くなり、また、十分な接合面積が得られないため、接合部において十分な強度が得られなくなる。さらに、プロジェクション部の電流密度が増加して過剰発熱が起こるため、接合部において散りが発生し易くなり、この散りが周辺に付着することによって、ねじが通り難くなる。また、低温割れが起こることもある。
一方、電極による加圧力EFが5.88kNを超えると、プロジェクション部の変形が大きくなり過ぎ、溶接途中で電流密度が下がり、拡散が不十分になって接合部の強度が低下する。また、溶融金属がはみ出して散りが発生することがある。さらに、過度な加圧により、接合部等に割れが生じることもある。
【0059】
「溶接通電時間:Wt」50〜240(ms)
本実施形態では、プロジェクション溶接による溶接通電時間Wtを、上記(3)式で表される範囲、すなわち、50〜240msの範囲に規定する。
本実施形態では、通電時の電極の加圧力EFおよび後通電後の電極保持時間Htを所定範囲に規定するとともに、溶接通電時間Wtを上記範囲とすることにより、ナット2に備えられるプロジェクション部21を十分に潰しながら、溶接後の接合部のビッカース硬さを適正に制御し、接合部の強度向上や、割れの発生を防止する顕著な効果が得られる。
【0060】
溶接通電時間Wtが50ms未満だと、プロジェクション部が十分に潰れず、ナットと高強度鋼板との間に隙間ができ易くなり、また、十分な接合面積が得られず拡散も不十分となるため、接合部で十分な強度が得られなくなる。また、割れが起こる場合もある。
一方、溶接通電時間Wtが240msを超えると、溶接入熱が大きくなり過ぎて散りが発生する。また、熱影響部(HAZ)の軟化等が起こってナットや鋼板の強度低下を招き、さらに、作業効率も低下するという問題が生じる。また、入熱が大きいため、高温割れが生じることもある。
【0061】
なお、本実施形態における溶接電流WC(kA)については、ナットと鋼板とを接合するプロジェクション溶接法において従来から採用されている電流値と同程度とすれば良い。
【0062】
「後通電電流:POC1」
本実施形態では、上記条件で溶接通電を行った後に後通電を行うにあたり、後通電電流POC1(kA)を、上記(4)式で表される範囲、すなわち、上記加圧力EFならびに溶接通電時間Wtで溶接する際の溶接電流WC(kA)の0.40〜0.95倍の範囲に規定する。本実施形態では、溶接通電の後に、適正な条件で後通電を行うことにより、溶接後の冷却速度を低下させ、溶接後の高温割れや低温割れを防ぎ、十分な継手強度を得る効果が得られる。
【0063】
後通電電流POC1が溶接電流WC(kA)の0.40倍未満だと、溶接後の冷却速度を十分に低下させることができず、溶接後の高温割れや低温割れを防ぐ十分な効果が得られない。一方、溶接後に冷却を行うためには、後通電電流POC1を溶接電流WCよりも低い電流とする必要があるため、その0.95倍を上限とする。
【0064】
「後通電時間:POt1」
本実施形態では、上記条件で溶接通電を行った後に後通電を行うにあたり、後通電電流POC1を上記範囲とするとともに、後通電時間POt1を、上記(5)式で表される範囲、すなわち、30〜200(ms)の範囲に規定する。
後通電時間POt1が30(ms)未満だと、溶接後の冷却速度を十分に低下させることができず、溶接後の高温割れや低温割れを防ぐ十分な効果が得られない。一方、後通電時間POt1が200(ms)を超えると、接合部近傍において熱影響部(HAZ)が軟化する部分が出てくる他、作業効率が低下するという問題が生じる。
【0065】
「後通電後の電極保持時間:Ht」160(ms)以下
本実施形態においては、後通電を行った後の電極保持時間Htを、上記(6)式で表される範囲、すなわち、160ms以下に規定する。なお、上記範囲の電極保持時間Htで、上部電極81および下部電極82によってナット2および高強度鋼板1を加圧する際の加圧力EFは、上記(2)式で表される範囲とすることができる。
【0066】
後通電後の電極保持時間Htは、溶接後の接合部のビッカース硬さに影響を与え、接合部の強度や、接合部における割れの発生に大きな影響を及ぼす。
後通電後の電極保持時間Htが160msを超えると、接合部、特に、鋼板側の冷却速度が早くなるため、接合部近傍の硬さが過剰に増加する。また、工程時間が長くなるため、作業効率も低下するという問題が生じる。強度のばらつき低下や強度向上の観点からは、保持時間Htは出来るだけ短い方が好ましい。
【0067】
なお、上述した電極保持時間Htは実際の保持時間を示しており、溶接装置にもよるが、通常は装置側で設定した時間よりも長くなる。
【0068】
「溶接通電パターン」
本実施形態においては、ナット2と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接する際の基本通電パターンとしては、従来からこの分野において採用されている通電パターンを何ら制限なく採用することができる。また、本実施形態においては、その他、大電流・短時間通電や、小電流・長時間通電等、様々な通電パターンも想定されるが、上記した通電時の電極の加圧力EFと溶接通電時間Wt、ならびに、後通電電流POC1と後通電時間POt1は、適宜最適条件に調整することが好ましい。
【0069】
本実施形態では、具体的には、図4のグラフに例示するような通電パターンとすることができる。図4においては、まず、電極の加圧力EFで、溶接電流WC、溶接通電時間Wtで溶接通電を行った後、直ちに、後通電電流POC1、後通電時間POt1で後通電を行うパターンとされている。
【0070】
本実施形態によれば、上述したような、通電時の電極の加圧力EF、溶接通電時間Wt、後通電電流POC1、後通電時間POt1、および、後通電後の電極保持時間Htを適正な範囲に限定した条件で、ナット2と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接する。これにより、接合部Aおよび熱影響部Bのビッカース硬さの最大値を550Hv以下に制御することが可能になる。したがって、接合部Aの強度や耐割れ性を向上させる顕著な効果が得られる。
【0071】
「プロジェクション溶接の手順」
以下に、本実施形態のプロジェクション溶接継手10の製造方法における、プロジェクション溶接の手順について概略を説明する。
【0072】
(プロジェクション溶接機)
本実施形態においてプロジェクション溶接で用いる溶接機としては、例えば、従来公知の通電方式で、電源としては単相交流、直流インバータ、交流インバータ等、何れの電源も使用することができる。また、溶接に用いられる電極としては、例えば、ナットと鋼板との接合に一般的に用いられる、クロム銅合金やアルミナ分散銅等からなる、プロジェクション溶接用電極を採用することができる。
【0073】
上述のような溶接機として、一般的なプロジェクション溶接機の一例を図3に示す。図3は、ナット2と高強度鋼板1とを、プロジェクション溶接機80を用いて接合する状態を説明する図であり、このプロジェクション溶接機80は、上部電極(可動電極)81、下部電極(固定電極)82、位置決めピン85を備えて概略構成される。
【0074】
(手順)
プロジェクション溶接継手10を製造する手順について、図3に示すプロジェクション溶接機80を用いてナット2と高強度鋼板1とを接合し、プロジェクション溶接継手10を備える構造部材50を製造する場合を例に挙げて以下に説明する。
【0075】
まず、プロジェクション溶接を行う前に、高強度鋼板1においてナット2が接合される位置にピアス孔11を形成する。この際、高強度鋼板1として上記の範囲の板厚のものを用い、従来公知の加工方法、例えば、打ち抜き加工やレーザ切断等の方法を用いて、ピアス孔11を形成する。
また、高強度鋼板1の表面1aには、必要に応じて、予め、合金化溶融亜鉛めっきまたは溶融亜鉛めっき等が、溶接の障害とならない程度の目付け量で施されていても良い。さらに、めっきの表層には、無機系、有機系の皮膜等が形成されていても良い。
【0076】
また、図2(a)、(b)に例示するような、JIS B1196に準拠した、プロジェクション部21を形成したナット2を準備する。図示例のナット2に備えられるプロジェクション部21は、接合面2a側に備えられている。
【0077】
次に、図3に示すプロジェクション溶接機80に備えられる下部電極82上に高強度鋼板1をセットする。この際、位置決めピン85を、高強度鋼板1に設けられるピアス孔11に挿入することで、高強度鋼板1の位置決めを行う。
次に、ねじ孔22に位置決めピン85を挿入して位置合わせしながら、ナット2を高強度鋼板1上にセットする。これにより、高強度鋼板1に形成されたピアス孔11の中心11aと、ナット2のねじ孔22の中心22aとが概略一致した状態でセットされる。また、この際、ナット2の接合面2aに設けられたプロジェクション部21が高強度鋼板1の表面1aと接触するようにセットされる。
【0078】
次に、重ね合わせられた高強度鋼板1とナット2とを、上部電極81と下部電極82との間に挟んで加圧することで、高強度鋼板1とナット2とを加圧しながら通電加熱を行う。これにより、高強度鋼板1とナット2(プロジェクション部21)との間が、プロジェクション溶接によって接合部Aで接合される。このような概略手順により、図1に示すような、プロジェクション溶接継手10を備える構造部材50を製造することができる。
【0079】
なお、本実施形態においては、図3に示すようなプロジェクション溶接機80を用いた場合のように、プロジェクション部21の直上部近傍を押さえる構成の上部電極81を用いる方法とすることがより好ましい。このような方法を採用することにより、通電パス(電極間距離)の短縮を図ることができるとともに、上部電極81への熱伝導の促進により、接合部A近傍の過剰な温度上昇を抑制することができるので、熱影響部Bにおける軟化の抑制や引張残留応力の低減が可能となる。
【0080】
[第2の実施形態]
本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の第2の実施形態について、図11図13を参照しながら以下に説明する。なお、本実施形態は、本発明のプロジェクション溶接継手の製造方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。また、本実施形態では、上記第1の実施形態と共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0081】
本実施形態では、図11に例示するようなプロジェクション溶接継手10Aを構成するにあたり、図12(a)、(b)に例示するようなボルト(溶接ボルト)12と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接している点で、ナット2と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接している第1の実施形態とは異なる。
【0082】
なお、本実施形態では、第1の実施形態で用いたナット2に代わり、ボルト12を用いた点以外の条件、具体的には、高強度鋼板1の各特性は第1の実施形態と同様であり、また、ボルト12の成分組成についても、第1の実施形態におけるナット2と同様である。また、通電時の電極の加圧力EF、溶接通電時間Wt、後通電電流POC1、後通電時間POt1、および、後通電後の電極保持時間Htの各溶接条件についても、第1の実施形態と同様の条件である。また、ボルト12と高強度鋼板1との接合部A1の面積SJと、ボルト12の呼び径部分の面積SRとの比の各条件や、接合部A1および熱影響部B1のビッカース硬さの最大値を550Hv以下に制御しながらプロジェクション溶接する点についても、第1の実施形態と同様である。
【0083】
また、本実施形態では、上記条件で得られるプロジェクション溶接継手10Aに関し、ボルト12と高強度鋼板1との接合部A1の面積SJと、ボルト12の呼び径部分の面積SRとの比が、上記した(7)式で表される関係を満たし、かつ、接合部A1および熱影響部B1のビッカース硬さの最大値が550Hv以下とされている点についても、第1の実施形態と同様である。
【0084】
本実施形態において用いられるボルト12は、その概略形状や寸法がJIS B 1195に規定された溶接ボルトに準拠するものである。また、また、本実施形態で用いられるボルト12に備えられるプロジェクション部についても、第1の実施形態におけるナット2と同様、各種の突起形状を何ら制限無く採用することができる。例えば、JIS B 1195において規定される溶接ボルトにおいて、図12(a)、(b)に例示するボルト12の下面12A側に備えられたプロジェクション部12aのような突起形状等を採用することが可能である。さらに、第1の実施形態におけるナット2の場合と同様、ボルト12の概略形状や寸法としては、JISに規定されるものに限定されるものではなく、用途や性能に応じて適宜変更されていても良い。
【0085】
以下、本実施形態のプロジェクション溶接継手10Aの製造方法における、プロジェクション溶接の手順について概略を説明する。本実施形態においては、図11に示すような、ボルト12と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接し、プロジェクション溶接継手10Aを備える構造部材50Aを製造する場合を例に挙げて説明する。
【0086】
本実施形態において、ボルト12と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接する溶接機として、第1の実施形態と同様の通電方式で、電源としては、単相交流、直流インバータ、交流インバータ等、何れの電源も使用することができる。また、溶接に用いられる電極としては、例えば、ボルトと鋼板との接合に一般的に用いられる、クロム銅合金やアルミナ分散銅等からなる、プロジェクション溶接用電極を採用することができる。
【0087】
このような溶接機の一例を図13(a)、(b)に示す。図13(a)、(b)は、ボルト12と高強度鋼板1とを、プロジェクション溶接機90を用いて接合する状態を説明する図であり、このプロジェクション溶接機90は、上部電極91、下部電極(固定電極)92、位置決め穴94を備えて概略構成される。また、図示例のプロジェクション溶接機90は、位置決め穴94内部の側壁に、絶縁体92aが備えられている。
【0088】
まず、プロジェクション溶接を行う前に、高強度鋼板1においてボルト12が接合される位置に、第1の実施形態と同じ方法によってピアス孔11を形成する。このピアス孔11には、接合時にボルト12が挿入される。
また、高強度鋼板1の表面1aには、第1の実施形態と同様、必要に応じて、予め、合金化溶融亜鉛めっきや溶融亜鉛めっき等を施されていても良く、さらに、めっきの表層に、無機系や有機系の皮膜等が形成されていても良い。
【0089】
また、図12(a)、(b)に例示するような、JIS B1195に準拠した、プロジェクション部12aを形成したボルト12を準備する。このボルト12には、下面12Aの各部にプロジェクション部12aが形成されており、この部分で高強度鋼板1と接触するように構成されている。
【0090】
次に、図13(a)に示すように、プロジェクション溶接機90に備えられる下部電極92上に高強度鋼板1をセットする。この際、高強度鋼板1に設けられたピアス孔11と位置決め孔94とを、概略で位置合わせしておく。
【0091】
次に、図13(b)に示すように、ボルト12を、高強度鋼板1のピアス孔11ならびに位置決め孔94に挿入することにより、位置決めしながら高強度鋼板1にセットする。これにより、高強度鋼板1に形成されたピアス孔11の中心11aと、ボルト12の軸芯とが概略一致した状態でセットされる。また、この際、ボルト12の下面12A側に設けられたプロジェクション部12aが、高強度鋼板1の表面1aと接触するようにセットされる。
【0092】
次に、図13(b)に示すように、重ね合わせられた高強度鋼板1とボルト12とを、上部電極91と下部電極92との間に挟んで加圧することで、高強度鋼板1とボルト12とを加圧しながら通電加熱を行う。これにより、高強度鋼板1とボルト12(プロジェクション部12a)との間が、プロジェクション溶接によって接合部A1で接合される。
このような概略手順により、図11に示すような、ボルト12と高強度鋼板1とが接合された、プロジェクション溶接継手10Aを備える構造部材50Aを製造することができる。
【0093】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様、ボルト12と高強度鋼板1との接合部A1および熱影響部B1のビッカース硬さの最大値を550Hv以下に制御しながらプロジェクション溶接継手10Aを製造することができる。したがって、接合部A1の強度向上や、割れの発生を防止する顕著な効果が得られる。
【0094】
[第3の実施形態]
本発明におけるプロジェクション溶接継手の製造方法の第3の実施形態について、以下に説明する。本実施形態では、上記第1、2の実施形態と同じ図面を参照してその構成を説明するとともに、共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0095】
本実施形態では、図1に例示するようなプロジェクション溶接継手10を得るか、あるいは、図11に例示するようなプロジェクション溶接継手10Aを得るにあたり、上記条件の溶接通電を行った後、下記(8)〜(10)式で表される条件で後通電を行う点で、上記第1、2の実施形態とは異なる。すなわち、本実施形態では、第1、2の実施形態と同様の条件で溶接通電を行った後、16〜300(ms)の範囲で通電を停止する冷却時間Ct(ms)を設け、次いで、下記(9)式で表される後通電電流POC2、および、下記(10)式で表される後通電時間POt2で通電する方法としている。なお、本実施形態では、下記(9)式で表される後通電電流POC2は、第1、2の実施形態で説明した(4)式と同様の条件であり、また、下記(10)式で表される後通電時間POt2は、第1、2の実施形態で説明した(5)式と同様の条件である。
16 ≦ Ct ≦ 300 ・・・(8)
0.40×WC ≦ POC2 ≦ 0.95×WC ・・・(9)
30 ≦ POt ≦ 200 ・・・(10)
但し、上記(8)〜(10)式において、Ct:溶接通電後の冷却時間(ms)、POC2:後通電電流(kA)、POt2:後通電時間(ms)を示す。
【0096】
「溶接通電後の冷却時間:Ct」16〜300(ms)
本実施形態では、上記条件で溶接通電を行った後、後通電電流を通電する前に、(8)式で表される条件、すなわち、16〜300(ms)の範囲で通電を停止する冷却時間Ct(ms)を設けている。このような冷却時間Ctを設けた後に後通電電流を通電するパターンとすることにより、接合部が一旦急冷された後に後通電で冷却速度が緩和され、その結果、接合部の偏析が減少し、また、一部焼戻しが起こり、靭性の高い接合部が形成されて高い継手強度を確保することが可能となる。冷却時間Ctが16(ms)未満だと、接合部を急速に冷却することができないため、上述した継手強度向上の効果が得られない。一方、冷却時間Ctが300(ms)を超えると、接合部が急冷されて硬さが増加し、また、焼戻しが起こり難くなったり不均一になったりする。また、接合部の冷却速度が早くなり過ぎて引張の残留応力が発生し易くなるとともに、プロジェクション溶接時の作業効率が低下する。
【0097】
「後通電電流:POC2」
本実施形態では、上記条件で溶接通電を行い、次いで、上記条件の冷却時間Ctを設けた後に後通電の電流を通電するにあたり、後通電電流POC2(kA)を、上記(9)式で表される範囲に規定する。すなわち、本実施形態では、第1、2の実施形態における(4)式と同様、後通電電流POC2を、上記加圧力EFならびに溶接通電時間Wtで溶接する際の溶接電流WC(kA)の、0.40〜0.95倍の範囲に規定する。本実施形態では、溶接通電の後に冷却時間Ctを設け、その後、上記範囲の後通電電流POC2で後通電を行うことにより、上述のように、接合部の靱性が向上して継手の強度が向上し、また、冷却速度を遅くすることによって高温割れを防止することができる。また、冷却時間Ctの後に後通電電流POC2で後通電を行うことで、接合部における引張残留応力を低減させて、低温割れを防止することができる。従って、継手強度ならびに耐割れ性に優れたプロジェクション溶接継手10、10Aを得ることが可能となる。
【0098】
後通電電流POC2がプロジェクション溶接電流WC(kA)の0.40倍未満だと、接合部のマルテンサイト組織を焼き戻しする作用が得られず、靱性が低下するので高温割れが生じやすくなる。また、溶接部の引張残留応力を低減させることができず、低温割れを防止する効果が得られないため、耐割れ性に劣るものとなる。一方、後通電電流POC2がプロジェクション溶接電流WC(kA)の0.95倍を超える場合には、Ac変態点を超えてしまうことがあることから、溶接部のマルテンサイト組織を焼き戻しすることができない。
【0099】
「後通電時間:POt2」
本実施形態では、上記条件で溶接通電を行い、次いで、上記条件の冷却時間Ctを設けた後に後通電電流POC2で通電するにあたり、後通電電流POC2を上記範囲とするとともに、後通電時間POt2を、上記(10)式で表される範囲、すなわち、30〜200(ms)の範囲に規定する。本実施形態では、冷却時間Ct後に、上記後通電電流POC2および後通電時間POt2の条件で後通電を行うことにより、上記のように接合部の靱性を向上させて継手の強度を向上させ、また、冷却速度を遅くすることによって高温割れを防止することができる。また、上記条件の後通電を行うことで、溶接部における引張残留応力を低減させて、低温割れを防止することができる。従って、継手強度ならびに耐割れ性に優れたプロジェクション溶接継手10、10Aを得ることが可能となる。
【0100】
後通電時間POt2が30(ms)未満だと、冷却速度緩和や焼戻しが行われ難くなるため、靱性が低下して高い継手強度が得られず、また、高温割れが生じやすくなる。また、接合部の引張残留応力を低減させることができないため、低温割れを防止する効果が得られないため、耐割れ性に劣るものとなる。一方、後通電時間POt2が200(ms)を超えると、接合部近傍において熱影響部(HAZ)が軟化する部分が出てくる他、作業効率が低下するという問題が生じる。
【0101】
「通電パターン」
本実施形態では、具体的には、図5のグラフに例示するような通電パターンとすることができる。図5においては、まず、電極の加圧力EFで、溶接電流WC、溶接通電時間Wtで溶接通電を行い、次いで、冷却時間Ctによる一定の通電休止時間を設けた後、後通電電流POC2、後通電時間POt2で後通電を行うパターンとされている。なお、本実施形態では、図5に例示するように、上記条件の冷却時間Ct、ならびに、後通電電流POC2および後通電時間POt2で通電する際の電極の加圧力は、上記した溶接通電時の電極の加圧力EFと同じ加圧力とすることができる。
【0102】
本実施形態によれば、上記条件の後通電を行う通電パターンを採用することにより、継手強度に優れるとともに、より耐割れ特性が向上したプロジェクション溶接継手10、10Aを実現できる。
【0103】
[第4の実施形態]
本発明におけるプロジェクション溶接継手の製造方法の第4の実施形態について、以下に説明する。本実施形態では、上記第1〜3の実施形態と同じ図面を参照してその構成を説明するとともに、共通する構成については同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0104】
本実施形態では、図1に例示するようなプロジェクション溶接継手10を得るか、あるいは、図11に例示するようなプロジェクション溶接継手10Aを得るにあたり、上記条件の溶接通電を行った後から電極保持時間Htが終了するまでの電極加圧力PEFを、以下に説明する条件とする点で、上記第1〜3の実施形態とは異なる。また、本実施形態では、溶接通電の後の電極加圧力PEF以外の各条件については、上記第1〜3の実施形態と同様である。
【0105】
本実施形態においては、上記第1の実施形態において詳述した溶接通電を行い、その後、電極加圧力PEF(kN)を、下記(9)式で表される関係を満たす範囲とする。
1.2×EF ≦ PEF ≦ 1.5×EF ・・・(11)
但し、上記(9)式において、PEF:溶接通電後の電極加圧力(kN)、EF:通電時の電極の加圧力(kN)を示す。
【0106】
本実施形態においては、溶接通電が終了した後に、ナット2またはボルト12と高強度鋼板1を上部電極および下部電極で保持する際の電極加圧力PEFを上記範囲とすることにより、溶接通電の直後に加圧力を増加させる方法としている。これにより、溶接後の収縮によって生じる引張残留応力の発生を軽減させ、接合部において高温割れや低温割れが発生するのを防止でき、高い接合強度が得られる。
【0107】
溶接通電が終了した後の電極加圧力PEFが上記(11)式で規定する下限、すなわち、通電時の加圧力EFの1.2倍を下回ると、接合部に十分な加圧力が作用しないため、引張残留応力を低減する効果が十分に得られず、高温割れや低温割れが発生する。一方、溶接通電後の電極保持加圧力PEFが、通電時の加圧力EFの1.5倍を超えると、加圧力が大きくなり過ぎて電極の損傷が起こり易くなり、また、高い加圧力を加えるためには特殊な溶接機が必要となることから、コストアップの要因となる。
【0108】
本実施形態では、具体的には、図6のグラフに例示するような通電および加圧パターンとすることができる。図6に示す例においては、まず、電極の加圧力EF、溶接電流WC、溶接通電時間Wtで溶接通電を行い、その後、直ちに、後通電電流POC1、後通電時間POt1で後通電を行い、その後、電極保持時間Htで保持を行うが、この際、電極保持加圧力PEFで高強度鋼板1を保持するパターンとされている。
また、本実施形態においては、図6に例示するパターンには限定されない。例えば、図7のグラフに示すとともに、上記第3の実施形態において説明したように、溶接通電後の冷却時間Ctを設けた後に、後通電電流POC2および後通電時間POt2で通電し、電極保持時間Htを設ける場合もあるが、溶接後の冷却時間から電極保持時間までを電極加圧力PEFで保持するパターンとすることも可能である。
【0109】
本実施形態によれば、溶接通電が終了した後、電極2A、2Bによって高強度鋼板1を保持するにあたり、電極加圧力PEFを上記範囲とすることで、耐割れ性が顕著に向上し、継手強度も優れたものとなる。
【0110】
以上説明したように、本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法によれば、上記構成により、特に、自動車用部品や車体の接合部に用いられ、ナット2またはボルト12と高強度鋼板1とがプロジェクション溶接されてなるプロジェクション溶接継手10、10Aにおいて、良好な溶接作業性を確保しつつ、接合部A、A1の静的強度、すなわち、トルク剥離強さおよび押込み剥離強さを向上させ、また、割れの発生を防止できるので、接合部A、A1およびその部品の信頼性を向上させることが可能となる。
したがって、例えば、自動車用部品や車体、ならびにそれらの製造、組立工程において本発明のプロジェクション溶接継手10、10Aおよびその製造方法を適用することにより、高強度鋼板の採用による安全性の向上の他、車体全体の軽量化による低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【実施例】
【0111】
以下、本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0112】
[実施例1]
以下、本発明に係るプロジェクション溶接継手の製造方法の実施例1について、図面1〜4、8〜10を適宜参照しながら説明する。
本実施例では、まず、下記表1に示すような成分組成を有する各種のナットを準備した。そして、これらのナットを、以下に説明するような条件ならびに手順により、下記表2および表3に示すような鋼板特性を有する各種の高強度鋼板にプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
『ナットのプロジェクション溶接』
実施例1においては、図3に示すようなプロジェクション溶接機80を用いてナット2と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接した。このプロジェクション溶接機80は、上部電極81、下部電極82、位置決めピン85を備えている。
【0117】
本実施例では、下記に示す各条件でプロジェクション溶接を行ない、高強度鋼板1にナット2を接合した。この際、ナット2として、JIS B 1196に準拠し、接合面に4カ所のプロジェクション部21を備えたものを使用した。より具体的には、JIS B 1196規定による1C形・M6×1、M8×1、M10×1、M12×1、強度区分8Tのナット2(4カ所のプロジェクション部21の突出寸法が1mm)を用い、外形寸法が50×50×t(mm)とされた下記表2および表3に示すような各種の高強度鋼板1とプロジェクション溶接を行った。
(1)溶接機:定置式60kVAエアー加圧型(単相交流)
(2)電極:F型、φ25、Cu−Cr合金製
(3)冷却水流量:上下2l/分
(4)初期加圧時間:600ms
(5)電極による加圧力EF:1.76〜6.08kN
(6)溶接電流WC:8.5〜15.5kA
(7)溶接通電時間Wt:40〜260ms
(8)後通電電流POC1:3.6〜11.4kA
(9)後通電時間POt1:20〜220ms
(10)後通電後の電極保持時間Ht:60〜180ms
【0118】
本実施例では、プロジェクション溶接を行う前に、まず、高強度鋼板1にピアス孔11を形成させた後、ピアス孔11の中心と、ナット2のねじ孔22の中心とを概ね一致させた状態とし、高強度鋼板1とナット2とを重ね合わせた状態で、加圧しながら通電加熱を行ってプロジェクション溶接した。
このようなプロジェクション溶接を行った際の、各溶接条件の一覧を表2および表3に示す。
【0119】
なお、上記条件および手順によるプロジェクション溶接の際、散りの発生の有無を目視によって観察した。また、プロジェクション溶接の後、ナット/高強度鋼板間の隙間の大きさを目視で観察した。
【0120】
『評価方法』
次に、上記手順で得られた、プロジェクション溶接後の試験片について、以下に説明するような各種評価試験を行ない、結果を表2および表3に示した。
【0121】
「接合部の割れの有無」
上記手順で得られた各試験片について、接合部をマイクロカッターで切断して研磨し、ピクリン酸でエッチングした後、その組織を光学顕微鏡で観察して、接合状態(圧接または溶融接合)、および割れを観察した。また、耐低温割れ(耐遅れ破壊)性を調査するために、溶接試験片を0.2Nの硫酸中に24時間浸漬し、取り出した後に水洗して断面組織を観察し、割れが発生しているかどうかを調べた。
【0122】
「ビッカース硬さ分布測定」
図8は、プロジェクション溶接継手の接合部、熱影響部のビッカース硬さの分布を測定する方法を説明するための概略図であり、図1図2(a)、(b)等と対応する部分には同一の符号を付している。図1に示すように、ナット2のプロジェクション部21と高強度鋼板1とは、プロジェクション溶接されることによって、接合部(接合界面:図中Aで示す部分)およびその周囲にHAZ部(熱影響部:図中Bで示す部分)が形成されるが、本実施例では、この部分の硬さを、接合部の断面から垂直方向および水平方向に向かって測定した。なお、各試験片での測定にあたっては、4箇所の突起(プロジェクション部)のうち、対角の位置にある2つの突起について硬さ分布を測定した。
【0123】
また、ビッカース硬さの測定においては、従来公知の測定方法を用いた。すなわち、まず、正四角錐ダイヤモンドからなる先端301がピラミッド形の圧子300を試験片の接合部および熱影響部の表面に、荷重F(N)で押し込んだ。そして、除荷して、圧子300を当該部分から移動した後、圧子でできたへこみの対角線の長さd(mm)から、表面積S(mm)を算出し、荷重F(N)を表面積S(mm)で除することにより、ビッカース硬さ(Hv)を求めた。
【0124】
さらに、本実施例では、各試験片について、JIS B 1196に規定する試験方法にしたがって、剥離強度(トルク剥離強さ、押込み剥離強さ)を測定するとともに、それらのばらつきについて測定し、結果を表2および表3に示した。なお、押込み剥離強さを測定した後の試験片を用いて、ナット2と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJを求め、ナット2の呼び径部分の面積SRとの比である「接合率」を求めた。また、呼び径部分の面積は、公称値ではなく実際の呼び径を用いて算出した。各々の剥離強さおよびそのばらつきを測定する際の試験方法について下記に説明する。なお、本実施例における以下の各評価試験においては、荷重F=4.9Nとして試験を行った。
【0125】
「トルク剥離試験」
図9は、プロジェクション溶接継手のトルク剥離試験方法を説明するための概略図である。図9に示すように、本試験では、ナット2と高強度鋼板1とを接合した試験片におけるナット2に、トルクレンチ110付きのソケット111を嵌め込み、トルクレンチ110によって、ナット2のねじ孔22の中心(軸心)22aに垂直な平面内で回転力を与え、ナット2が剥離した際、すなわち、図1等に示すプロジェクション部21が高強度鋼板1から剥離した際のトルク(トルク剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、トルク剥離強度のばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験におけるトルク剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。
【0126】
「押込み剥離試験条件」
図10は、プロジェクション溶接継手の押込み剥離試験方法を説明するための概略図である。図10に示すように、本試験では、ナット2と高強度鋼板1を接合した試験片における高強度鋼板1側から、ピアス孔11を通じてボルト108をねじ込み、このボルト108の頭部から圧縮荷重Fを付与し、ナット2が剥離した際、すなわち、図1等に示すプロジェクション部21が高強度鋼板1から剥離した際の荷重(押込み剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、押込み剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験における押込み剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。また、上記条件および手順による押込み剥離試験の後、接合部の面積(SJ)ならびに呼び径部分の面積(SR)を測定し、その比を計算した。
【0127】
『評価結果』
表1は、本実施例において用いたナットの化学成分組成の一覧を示すものであり、また、表2および表3は、ナット仕様ならびに高強度鋼板の特性、プロジェクション溶接条件、各評価結果の一覧を示すものである。ここで、表2および表3には、溶接時の散り発生有無、ナット/高強度鋼板間の隙間、接合状態、接合率(SJ/SR)、接合部における割れの有無、接合部・熱影響部(HAZ)における最高硬さとともに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきも示している。なお、ナットと高強度鋼板の接合状態(圧接または溶接)については、光学顕微鏡で観察した。また、表2および表3中における各評価結果では、本発明で規定する要件を満足し、良好な値を示したものの評価を「○」で示しており、やや特性が劣るものの評価を「△」で示し、また、特性がかなり劣るものを「×」で示している。
【0128】
表2に示すように、本発明で規定する各要件を満足する本発明例(実験No.A−1〜A−39)においては、何れの例においても優れた特性を示すことが明らかである。
これに対し、表3に示すように、本発明で規定するいずれかの要件が外れる比較例(実験No.A−40〜A−75)においては、上記各評価項目のうちの何れかが「×」あるいは「△」となっており、特性が劣っていることが明らかである。なお、表3中に示すように、ナットの成分であるC、Si、Mnが本発明の規定範囲外である場合(A−40〜A−42)には、ナットの強度が不足するという問題はあるものの、プロジェクション溶接された接合部としては問題がないことが確認された。
【0129】
実験No.A−43では、ナットの化学成分中におけるC量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の硬さ増加とそれに伴う靱性低下によって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−44では、ナットの化学成分中におけるSi量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−45では、ナットの化学成分中におけるMn量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0130】
実験No.A−46では、ナットの化学成分中におけるP量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−47では、ナットの化学成分中におけるS量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−48では、ナットの化学成分中におけるCu量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0131】
実験No.A−49では、鋼板の引張強さが本発明の規定範囲を超えており、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−50では、上記同様、鋼板の引張強さが本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0132】
実験No.A−51、52では、鋼板の炭素当量Ceqが本発明の規定範囲を超えているため、接合部の硬さが増加して靱性が低下し、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−53、54では、鋼板の板厚が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0133】
実験No.A−55、56では、CR980Yを低い電流で溶接した結果、ナット/高強度鋼板間に隙間が発生するとともに、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を下回っており、総合評価が劣っている。
実験No.A−57、58では、CR980Yを高い電流で溶接した結果、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えており、溶接時に散りが発生するとともに、接合状態が溶融接合となっており、さらに、溶接後の接合部に割れが発生したことから、総合評価が劣っている。
【0134】
実験No.A−59では、炭素等量の高い鋼板と長い保持時間との組合せによって、接合部の冷却速度が早く接合部近傍の硬さが過剰に増加し、その結果、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0135】
実験No.A−60では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接時に散りが発生し、また、ナット/高強度鋼板間に隙間が発生し、さらに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−61では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接時に散りが発生し、ナット/高強度鋼板間に隙間が発生するとともに、硫酸浸漬後に接合部の割れが発生し、さらに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−62では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生し、また、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えていることから、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−63では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、溶接後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0136】
実験No.A−64では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、ナット/高強度鋼板間に隙間が発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−65では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、ナット/高強度鋼板間に隙間が発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−66、67では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、溶接後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0137】
実験No.A−68では、溶接後の後通電電流が本発明の規定範囲を下回っているため、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−69では、溶接後の後通電電流が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0138】
実験No.A−70では、溶接後の後通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−71では、溶接後の後通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−72、73では、溶接後の後通電時間が本発明の規定範囲を超えており、接合部に割れが発生せず、また、各強度特性も良好であったものの、工程時間が長くなって生産性に劣ることから、総合評価が劣っている例である。
【0139】
実験No.A−74では、溶接後の保持時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.A−75では、溶接後の保持時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0140】
[実施例2]
以下、本発明の実施例2について、図11図16を適宜参照ながら説明する。
本実施例では、まず、上記表1に示すような成分組成を有する各種のボルトを準備した。そして、これらのボルトを、以下に説明するような条件ならびに手順により、下記表4および表5に示すような鋼板特性を有する各種の高強度鋼板にプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。
【0141】
【表4】
【0142】
【表5】
【0143】
『ボルトのプロジェクション溶接』
実施例2においては、図13に示すようなプロジェクション溶接機90を用いてボルト12と高強度鋼板1とをプロジェクション溶接した。このプロジェクション溶接機90は、上部電極91、下部電極92、位置決め孔94を備えている。
【0144】
本実施例では、下記に示す各条件でプロジェクション溶接を行ない、高強度鋼板1にボルト12を接合した。この際、ボルト12として、JIS B 1195に準拠し、下面12A側の4カ所にプロジェクション部12aを備えたものを使用した。より具体的には、JIS B 1196規定によるM6×1、M8×1、M10×1、M12×1、強度区分8Tのボルト12(4カ所のプロジェクション部12aの突出寸法が1mm)を用い、外形寸法が50×50×t(mm)とされた下記表4および表5に示すような各種の高強度鋼板1とプロジェクション溶接を行った。
(1)溶接機:定置式60kVAエアー加圧型(単相交流)
(2)電極:F型、φ25、Cu−Cr合金製
(3)冷却水流量:上下2l/分
(4)初期加圧時間:600ms
(5)電極による加圧力EF:1.76〜6.08kN
(6)溶接電流WC:8.5〜15.5kA
(7)溶接通電時間Wt:40〜260ms
(8)後通電電流POC1:3.6〜11.4kA
(9)後通電時間POt1:20〜220ms
(10)後通電後の電極保持時間Ht:60〜180ms
【0145】
本実施例では、プロジェクション溶接を行う前に、まず、高強度鋼板1にピアス孔11を形成させ後、この高強度鋼板1を下部電極92上にセットした。そして、ボルト12をピアス孔11ならびに位置決め孔94に挿入することにより、ボルト12を位置決めしながら高強度鋼板1上にセットした。この際、高強度鋼板1のピアス孔11の中心11aと、ボルト12の軸芯とが概略一致した状態にするとともに、ボルト12の下面12A側に設けられたプロジェクション部12aが、高強度鋼板1の表面1aと接触するようにセットし、重ね合わせた状態で、加圧しながら通電加熱を行った。
このようなプロジェクション溶接を行った際の、各溶接条件の一覧を表4および表5に示す。
【0146】
なお、上記条件および手順によるプロジェクション溶接の際、散りの発生の有無を目視によって観察した。また、プロジェクション溶接後に、ボルト/高強度鋼板の間の隙間の大きさを目視で観察した。
【0147】
『評価方法』
次に、上記手順で得られた、プロジェクション溶接後の試験片について、以下に説明するような各種評価試験を行ない、結果を表4および表5に示した。
【0148】
「接合部の割れの有無」
上記手順で得られた各試験片について、接合部をマイクロカッターで切断して研磨し、ピクリン酸でエッチングした後、その組織を光学顕微鏡で観察して、接合状態(圧接または溶融接合)、および割れを観察した。また、耐低温割れ(耐遅れ破壊)性を調査するために、溶接試験片を0.2Nの硫酸中に24時間浸漬し、取り出した後に水洗して断面組織を観察し、割れが発生しているかどうかを調べた。
【0149】
「ビッカース硬さ分布測定」
図14は、プロジェクション溶接継手の接合部、熱影響部のビッカース硬さの分布を測定する方法を説明するための概略図であり、図11図12(a)、(b)等と対応する部分には同一の符号を付している。図14に示すように、ボルト12のプロジェクション部12aと高強度鋼板1とは、プロジェクション溶接されることによって、接合部(接合界面:図中A1で示す部分)およびその周囲にHAZ部(熱影響部:図中B1で示す部分)B1が形成されるが、本実施例では、この部分の硬さを、接合部の断面から垂直方向および水平方向に向かって測定した。なお、各試験片での測定にあたっては、4箇所の突起(プロジェクション部)のうち、対角の位置にある2つの突起について硬さ分布を測定した。
【0150】
また、ビッカース硬さの測定においては、従来公知の測定方法を用いた。すなわち、まず、正四角錐ダイヤモンドからなる先端301がピラミッド形の圧子300を試験片の接合部および熱影響部の表面に、荷重F(N)で押し込んだ。そして、除荷して、圧子300を当該部分から移動した後、圧子でできたへこみの対角線の長さd(mm)から、表面積S(mm2)を算出し、荷重F(N)を表面積S(mm2)で除することにより、ビッカース硬さ(Hv)を求めた。なお、本実施例における以下の各評価試験においては、実施例1と同様、荷重F=4.9Nとして試験を行った。
【0151】
さらに、本実施例では、各試験片について、JIS B 1195に規定する試験方法にしたがって、剥離強度(トルク剥離強さ、押込み剥離強さ)を測定するとともに、それらのばらつきについて測定し、結果を表4および表5に示した。なお、押込み剥離強さを測定した後の試験片を用いて、ボルト12と高強度鋼板1との接合部Aの面積SJを求め、ボルト12の呼び径部分の面積SRとの比である「接合率」を求めた。また、呼び径部分の面積は、公称値ではなく実際の呼び径を用いて算出した。各々の剥離強度およびそのばらつきを測定する際の試験方法について下記に説明する。
【0152】
「トルク剥離試験」
図15は、プロジェクション溶接継手のトルク剥離試験方法を説明するための概略図である。図15に示すように、本試験では、ボルト12と高強度鋼板1とを接合した試験片におけるボルト12に、トルクレンチ210付きのソケット211a、211bを嵌め込み、トルクレンチ210によって、ボルト12の軸心に垂直な平面内で回転力を与え、ボルト12が剥離した際、すなわち、図11等に示すプロジェクション部12aが高強度鋼板1から剥離した際のトルク(トルク剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、トルク剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験におけるトルク剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。
【0153】
「押込み剥離試験条件」
図16は、プロジェクション溶接継手の押込み剥離試験方法を説明するための概略図である。図16に示すように、本試験では、ボルト12と高強度鋼板1を溶接した試験片におけるボルト12のねじ切り部側から、荷重中心が軸芯と一致するように、ねじ切り部側軸端に圧縮荷重Fを徐々に付与し、ボルト12が剥離した際、すなわち、プロジェクション部12aが高強度鋼板1から剥離した際の荷重(押込み剥離強さ)を測定した。この際、各条件において、5個の試験片を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値を求めた。なお、押込み剥離強さのばらつきについては、5個の試験片について測定した際の最大値と最小値の差(最大値−最小値)から求めた。また、本試験における押込み剥離強さの基準値は、JISで規定される合格値を用いた。また、上記条件および手順による押込み剥離試験の後、接合部の面積(SJ)ならびに呼び径部分の面積(SR)を測定し、その比を計算した。
【0154】
『評価結果』
表1は、本実施例において用いたボルトの化学成分組成の一覧を示し、また、表4および表5は、ボルト仕様ならびに高強度鋼板の特性、プロジェクション溶接条件、各評価結果の一覧を示すものである。ここで、表4および表5には、溶接時の散り発生有無、ボルト/高強度鋼板間の隙間、接合状態、接合率(SJ/SR)、接合部における割れの有無、接合部・熱影響部における最高硬さ、とともに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきも示している。なお、ボルトと高強度鋼板の接合状態(圧接または溶接)については、光学顕微鏡で観察した。また、表4および表5中における各評価結果では、本発明で規定する要件を満足し、良好な値を示したものの評価を「○」で示しており、やや特性が劣るものの評価を「△」で示し、また、特性がかなり劣るものを「×」で示している。
【0155】
表4に示すように、本発明で規定する各要件を満足する本発明例(実験No.B−1〜B−39)においては、何れの例においても優れた特性を示すことが明らかである。
これに対し、表5に示すように、本発明で規定するいずれかの要件が外れる比較例(実験No.B−40〜A−75)においては、上記各評価項目のうちの何れかが「×」あるいは「△」となっており、特性が劣っていることが明らかである。なお、表4中に示すように、ボルトの成分であるC、Si、Mnが本発明の規定範囲外である場合(B−40〜A−42)には、ボルトの強度が不足するという問題はあるものの、プロジェクション溶接された接合部としては問題がないことが確認された。
【0156】
実験No.B−43では、ボルトの化学成分中におけるC量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の硬さ増加とそれに伴う靱性低下によって溶接後と硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−44では、ボルトの化学成分中におけるSi量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−45では、ボルトの化学成分中におけるMn量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部の靱性が低下し、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0157】
実験No.B−46では、ボルトの化学成分中におけるP量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−47では、ボルトの化学成分中におけるS量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−48では、ボルトの化学成分中におけるCu量が本発明の規定範囲を超えているため、接合部で偏析が顕著になって割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0158】
実験No.B−49では、鋼板の引張強さが本発明の規定範囲を超えており、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きいため、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−50では、上記同様、鋼板の引張強さが本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0159】
実験No.B−51、52では、鋼板の炭素当量Ceqが本発明の規定範囲を超えているため、接合部の硬さが増加して靱性が低下し、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−53、54では、鋼板の板厚が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の冷却収縮時における接合部への負荷が大きく、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0160】
実験No.B−55、56では、CR980Yを低い電流で溶接した結果、ボルト/高強度鋼板間に隙間が発生するとともに、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を下回っており、総合評価が劣っている。
実験No.B−57、58では、CR980Yを高い電流で溶接した結果であることから、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えており、溶接時に散りが発生するとともに、接合状態が溶融接合となっており、さらに、溶接後の接合部に割れが発生したことから、総合評価が劣っている。
【0161】
実験No.B−59では、炭素等量の高い鋼板と長い保持時間との組合せによって、接合部の冷却速度が早く接合部近傍の硬さが過剰に増加し、その結果、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0162】
実験No.B−60では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接時に散りが発生し、また、ボルト/高強度鋼板間に隙間が発生し、さらに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−61では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接時に散りが発生し、ボルト/高強度鋼板間に隙間が発生するとともに、硫酸浸漬後に接合部の割れが発生し、さらに、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−62では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生し、また、接合率(SJ/SR)が本発明の規定範囲を超えていることから、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−63では、溶接時の加圧力が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、溶接後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0163】
実験No.B−64では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、ボルト/高強度鋼板間に隙間が発生し、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−65では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、ボルト/高強度鋼板間に隙間が発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−66、67では、溶接時の通電時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接時に散りが発生するとともに、溶接後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0164】
実験No.B−68では、溶接後の後通電電流が本発明の規定範囲を下回っているため、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−69では、溶接後の後通電電流が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0165】
実験No.B−70では、溶接後の後通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−71では、溶接後の後通電時間が本発明の規定範囲を下回っているため、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−72、73では、溶接後の後通電時間が本発明の規定範囲を超えており、接合部に割れが発生せず、また、各強度特性も良好であったものの、工程時間が長くなって生産性に劣ることから、総合評価が劣っている例である。
【0166】
実験No.B−74では、溶接後の保持時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
実験No.B−75では、溶接後の保持時間が本発明の規定範囲を超えているため、溶接後の接合部に割れが発生するとともに、硫酸浸漬後の接合部に割れが発生し、トルク剥離強さとそのばらつき、押込み剥離強さとそのばらつきの評価が劣っている。
【0167】
[実施例3]
実施例3においては、実施例1と同様の方法で、下記表6および表7に示した通電条件で、表1に示す成分組成を有するナットと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例3においては、下記表6および表7に示すように、本通電の後、冷却時間Ct(ms)で通電を停止した後、後通電電流POC1および後通電時間POt1で後通電を行った。
【0168】
【表6】
【0169】
【表7】
【0170】
実施例3の各評価結果を表6および表7に示す。
表6に示すように、本発明で規定する条件で本通電を行うとともに、本通電の後、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ctを設けた後に後通電を行った本発明例(実験No.C−1〜C−43)においては、何れの例においても、接合部の割れが発生せず、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、上記実施例1における本発明例と比較して、耐割れ性が特に高く、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
【0171】
これに対し、表7に示すように、本通電(溶接通電)に関しては、本発明で規定する各条件で行ったものの、冷却時間Ctの条件が本発明の請求項2の規定範囲外(冷却時間Ctが無い、あるいは、冷却時間Ctが規定範囲より長い)であった試験例(実施例1の表2および表7の実験No.C−44〜C−86)においては、プロジェクション溶接で得られる継手としての特性には大きな問題は無かった。しかしながら、本通電の後、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ctの後に後加熱通電を実施した方が、接合部の割れが発生し難く、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきも小さくなった。
【0172】
したがって、実施例1で示したように、本通電の後、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ct(ms)で通電を停止しなくても比較的良好な継手が得られるが、本実施例で示したように、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ct(ms)を設けることで、さらに良好な継手が得られることが明らかとなった。
【0173】
[実施例4]
実施例4においては、実施例2と同様の方法で、下記表8および表9に示した通電条件で、表1に示す成分組成を有するボルトと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例4においては、下記表8および表9に示すように、本通電の後、冷却時間Ct(ms)で通電を停止した後、後通電電流POC1および後通電時間POt1で後通電を行った。
【0174】
【表8】
【0175】
【表9】
【0176】
実施例4の各評価結果を表8および表9に示す。
表8に示すように、本発明で規定する条件で本通電を行うとともに、本通電の後、本発明の請求項2で規定する冷却時間を設けた後に後通電を行った本発明例(実験No.D−1〜D−43)においては、何れの例においても、接合部の割れが発生せず、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、上記実施例2における本発明例と比較して、耐割れ性が特に高く、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
【0177】
これに対し、表9に示すように、本通電(溶接通電)に関しては、本発明で規定する各条件で行ったものの、冷却時間Ctの条件が本発明の請求項3の規定範囲外(冷却時間Ctが無い、あるいは、冷却時間Ctが規定範囲より長い)であった試験例(実施例2の表4および表9の実験No.D−44〜D−86)においては、プロジェクション溶接で得られる継手としての特性には大きな問題は無かった。しかしながら、本通電の後、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ctの後に後加熱通電を実施した方が、接合部の割れが発生し難く、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきも小さくなった。
【0178】
したがって、実施例2で示したように、本通電の後、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ct(ms)で通電を停止しなくても比較的良好な継手が得られるが、本実施例で示したように、本発明の請求項2で規定する冷却時間Ct(ms)を設けることで、さらに良好な継手が得られることが明らかとなった。
【0179】
[実施例5]
実施例5においては、実施例1、3と同様の方法で、下記表10および表11に示した通電条件で、表1に示す成分組成を有するナットと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例5においては、後通電を行った後に電極を保持する際、電極保持加圧力PEFを下記表10および表11に示す条件とした。
【0180】
【表10】
【0181】
【表11】
【0182】
実施例5の各評価結果を表10および表11に示す。
表10に示すように、本発明で規定する条件で本通電および後通電を行った後、本発明の請求項3で規定する条件で電極保持を行った本発明例(実験No.E−1〜E−49)は、何れの例においても、接合部の割れが発生せず、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、上記実施例1における本発明例と比較して、耐割れ性が特に高く、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
【0183】
これに対し、表11に示すように、試験例(実験No.E−50〜E−98)は、本通電および後通電に関しては本発明で規定する各条件で行ったものの、その後の電極保持を行った際の電極保持加圧力PEFが、本発明における請求項3の規定範囲外であった例である。試験例である、これら実験No.E−50〜E−98においては、プロジェクション溶接で得られる継手としての特性には大きな問題は無かった。しかしながら、本通電および後通電を行った後、さらに、本発明の請求項3で規定する条件で電極保持を実施した方が、接合部の割れが発生し難く、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきも小さくなった。また、E−71〜E−98に示すように、電極加圧力が本発明で規定する値よりも大きな場合には、電極の損耗が大きかった。
【0184】
したがって、実施例1で示したように、本通電および後通電を行った後、電極保持を行わなくても比較的良好な継手が得られるが、本実施例で示したように、本発明の請求項3で規定する条件で電極保持を行うことで、さらに良好な継手が得られることが明らかとなった。
【0185】
[実施例6]
実施例6においては、実施例2、4と同様の方法で、下記表12および表13に示した通電条件で、表1に示す成分組成を有するボルトと各種の高強度鋼板とをプロジェクション溶接し、接合部の特性を調査するための試験片を作製した。そして、得られた試験片について、実施例1と同様の評価を行った。なお、実施例6においては、後通電を行った後に電極を保持する際、電極保持加圧力PEFを下記表12および表13に示す条件とした。
【0186】
【表12】
【0187】
【表13】
【0188】
実施例6の各評価結果を表12および表13に示す。
表12に示すように、本発明で規定する条件で本通電および後通電を行った後、本発明の請求項3で規定する条件で電極保持を行った本発明例(実験No.F−1〜F−49)は、何れの例においても、接合部の割れが発生せず、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきが小さく、優れた特性を示すことが明らかとなった。また、これら本発明例においては、上記実施例1における本発明例と比較して、耐割れ性が特に高く、さらに優れた継手特性を備えていることが明らかである。
【0189】
これに対し、表13に示すように、試験例(実験No.F−50〜F−98)は、本通電および後通電に関しては本発明で規定する各条件で行ったものの、その後の電極保持を行った際の電極保持加圧力PEFが、本発明における請求項3の規定範囲外であった例である。試験例である、これら実験No.F−50〜F−98においては、プロジェクション溶接で得られる継手としての特性には大きな問題は無かった。しかしながら、本通電および後通電を行った後、さらに、本発明の請求項3で規定する条件で電極保持を実施した方が、接合部の割れが発生し難く、また、トルク剥離強さと押込み剥離強さのばらつきも小さくなった。また、F−71〜F−98に示すように、電極加圧力が本発明で規定する値よりも大きな場合には、電極の損耗が大きかった。
【0190】
したがって、実施例2で示したように、本通電および後通電を行った後、電極保持を行わなくても比較的良好な継手が得られるが、本実施例で示したように、本発明の請求項3で規定する条件で電極保持を行うことで、さらに良好な継手が得られることが明らかとなった。
【0191】
なお、上記実施例1〜6においては、板厚を変更して実験を行った場合も、また、めっき種や目付量等を変更して実験を行った場合も、結果は上記と同様であり、割れの発生を防止でき、接合部の静的強度(トルク剥離強さおよび押込み剥離強さ)を向上させる本発明の効果が得られることが確認できた。
【0192】
以上説明した実施例の結果より、本発明のプロジェクション溶接継手の製造方法の適用により、良好な溶接作業性を確保しつつ、接合部の静的強度、すなわち、トルク剥離強さおよび押込み剥離強さを向上させ、また、割れの発生を防止できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明によれば、自動車用部品の製造や車体の組立等で用いられる、ナットまたはボルトと高強度鋼板とをプロジェクション溶接して得られるプロジェクション溶接継手の製造方法に関し、良好な溶接作業性を確保しつつ、接合部における高い静的強度を得ることができ、また、接合部における割れの発生を防止することが可能となる。したがって、自動車分野等で高強度鋼板を適用することによる安全性向上や、車体全体の軽量化に伴う低燃費化や炭酸ガス(CO)の排出量削減等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【符号の説明】
【0194】
1…高強度鋼板、
1a…表面
11…ピアス孔、
11a…ピアス孔の中心、
2…ナット、
2a…接合面、
21…プロジェクション部、
22…ねじ孔、
22a…ねじ孔の中心、
A、A1…接合部、
B、B1…熱影響部(HAZ)、
10、10A…プロジェクション溶接継手、
12…ボルト、
12A…下面、
12a…プロジェクション部、
50、50A…構造部材(プロジェクション溶接継手を備える構造部材)、
80、90…プロジェクション溶接機、
81、91…上部電極、
82、92…下部電極(固定電極)、
94…位置決め穴、
85…位置決めピン、
SJ…ナットまたはボルトと高強度鋼板との接合部の面積、
SR…ナットまたはボルトの呼び径部分の面積、
図1
図2
図3
図4
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