特許第5834852号(P5834852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5834852鋼板のスケール除去用ノズルおよび鋼板のスケール除去装置並びに鋼板のスケール除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834852
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】鋼板のスケール除去用ノズルおよび鋼板のスケール除去装置並びに鋼板のスケール除去方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/08 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   B21B45/08 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-266195(P2011-266195)
(22)【出願日】2011年12月5日
(65)【公開番号】特開2012-139728(P2012-139728A)
(43)【公開日】2012年7月26日
【審査請求日】2014年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-278435(P2010-278435)
(32)【優先日】2010年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】苅部 建太
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−156200(JP,A)
【文献】 特開2005−034908(JP,A)
【文献】 米国特許第03398758(US,A)
【文献】 特開平07−241494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 45/08,
B08B 1/02,3/02,3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に水を噴射し、その噴射された水の衝撃によって鋼板のスケールを除去するスケール除去用ノズルであって、
ノズル先端の吐出部は、円筒状流路を形成する径大部に連続して設けられたテーパ部と、該テーパ部出側に形成された第一オリフィスと、該第一オリフィス出側に連続して当該第一オリフィスの長径よりも径方向寸法が大きく設けられるとともにノズルの軸方向に直交した断面が矩形である共振室と、該共振室の出側に形成された楕円状の第二オリフィスとを有することを特徴とする鋼板のスケール除去用ノズル。
【請求項2】
前記共振室は、その軸方向の高さが第二オリフィスの長径に対して、0.5〜10倍の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼板のスケール除去用ノズル。
【請求項3】
圧延工程における圧延材である鋼板の上下に配置される複数のスケール除去用ノズルを備え、各スケール除去用ノズルから高圧の水を圧延材表面に噴射して圧延材表面のスケールを除去するスケール除去装置であって、
前記スケール除去用ノズルとして、請求項1または2に記載のスケール除去用ノズルが装着されていることを特徴とする鋼板のスケール除去装置。
【請求項4】
圧延工程における圧延材である鋼板の表面のスケールを、スケール除去用ノズルから高圧の水を圧延材表面に噴射して除去する方法であって、
前記スケール除去用ノズルとして、請求項1または2に記載のスケール除去用ノズルを用い、当該スケール除去用ノズルを圧延工程での圧延材の上下に複数配置し、各スケール除去用ノズルから高圧の水を圧延材表面に噴射して圧延材表面のスケールを除去することを特徴とする鋼板のスケール除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板表面のスケールを除去するためのスケール除去用ノズルおよび鋼板のスケール除去装置並びに鋼板のスケール除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の圧延ラインでは、鋼材を酸化性雰囲気の加熱炉に装入し、通常1100〜1300℃の温度域で数時間加熱した後に熱間圧延する。熱間圧延の際には、加熱時に生成した一次スケールおよび加熱炉から抽出後に生成する二次スケールが生じる。このようなスケールが除去されずに鋼材が圧延されると、スケールが製品である鋼板表面に食い込み、スケール疵となって残る。このスケール疵は、鋼板の表面性状を著しく損なうとともに、曲げ加工時にクラック発生の起点となるため、製品品質に重大な影響を及ぼす。
【0003】
そのため、この問題の解決手段として、(1)鋼材表面に酸化防止材を塗布する(例えば特許文献1参照)、(2)鋼材の加熱温度をファイアライトの融点(約1170℃)以下にする(例えば特許文献2参照)、(3)完全無酸素化状態で圧延を行なう(例えば特許文献3参照)、(4)圧延前の温度、圧延中の温度を高温(約1000℃以上)とする、(5)生成したスケールを完全に除去する(例えば特許文献4参照)、といった提案がされている。
【0004】
しかし、(1)の手段は、煩雑な塗布作業が増えるのみならず、処理剤の費用がかかるため製造コストが高くなる。また、(2)は、鋼材を低温で加熱するため、圧延機の負担が増大するとともに、鋼種によっては材料特性を確保する観点から適用できない規格が存在する。また、(3)は、設備コストが莫大となるので現実的ではない。また、(4)は、加熱炉から高温で抽出となるため、燃料の原単価が増加し、スケールロスが増大する。
【0005】
そこで、次なる解決手段として、(5)生成したスケールを完全に除去するという、いわゆるデスケーリングを行なう方策が有効である。デスケーリングを行うスケール除去装置に用いられるスケール除去用ノズルは、通常、鋼板の表面に高圧の水を噴射し、その噴射された水の衝撃力によって鋼板のスケールを剥離して除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−249214号公報
【特許文献2】特公昭58−1167号公報
【特許文献3】特公昭60−15684号公報
【特許文献4】特許第4084295号公報
【特許文献5】特許第3129967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、(5)の解決手段に関し、特許文献4記載の技術は、スケール除去用ノズルの内部構造を見直すものであり、ノズル先端部のオリフィス(吐出孔)と、このオリフィスからテーパ角30〜80°で延びるテーパ部と、このテーパ部に連なる径大部とを有する構成とし、オリフィスの短径D2に対する径大部の内径D1の割合(D1/D2)を3以上とするノズルが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載の技術は、従来のスケール除去用ノズルの内部構造を最適化した技術なので、デスケーリング能力を大幅に向上させる上では限界があった。
そこで、本発明者は、このような問題点に着目し、スケールを一層効率よく除去できる鋼板のスケール除去用ノズルおよび鋼板のスケール除去装置並びに鋼板のスケール除去方法を提供すべく、以前に提案したデスケーリング能力評価モデル(特許文献5参照)を用いて検討を重ねた。
【0009】
つまり、デスケーリング能力は噴射水が鋼材表面に衝突する際に発生する総衝撃力(F)および単位衝撃力(S)で評価することができる。図1は、噴射水によるスケール除去における水滴の鋼板への衝突モデルを示す図である。同図において、総衝撃力(F)および単位衝撃力(S)は、以下の式で示すことができる。
F=P0×a×C×(3/d)×α×t
S=F/A
但し、F:鋼板表面での噴射された水の総衝撃力[N],S:鋼板表面での噴射された水の単位衝撃力[Pa],P0:噴射圧力[Pa],a:オリフィス面積[m2],C:音速[m/s],d:水滴の粒子径[m],α:係数,t:衝撃波が液滴中を伝わる時間[s]である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記デスケーリング能力評価モデルに基づき検討を重ねたところ、液滴の粒子径d[m]に着目した。そして、液滴を微細化できれば総衝撃力(F)および単位衝撃力(S)が増加し、デスケーリング能力を向上できるという新たな知見を得た。そこで、種々のノズルを試作し、更に鋭意研究を行なった。その結果、デスケノズル先端のオリフィスの直後に、所定容量の共振室を設け、さらにその後方(吐出側)に同様のオリフィスを形成すれば、液滴が微細化するとともに、液滴の乱流運動エネルギーが増大し、デスケーリング能力が大幅に向上することを見いだし、一層優れたスケール除去用ノズルおよび鋼板のスケール除去装置並びに鋼板のスケール除去方法を発明するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルは、鋼板の表面に水を噴射し、その噴射された水の衝撃によって鋼板のスケールを除去するスケール除去用ノズルであって、ノズル先端の吐出部は、円筒状流路を形成する径大部に連続して設けられたテーパ部と、該テーパ部出側に形成された第一オリフィスと、該第一オリフィス出側に連続して当該第一オリフィスの長径よりも径方向寸法が大きく設けられるとともにノズルの軸方向に直交した断面が矩形である共振室と、該共振室の出側に形成された楕円状の第二オリフィスとを有することを特徴とする。
【0012】
従来のスケール除去用ノズルは、オリフィスから連続噴流を吐出して液滴流を形成していた。しかし、本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルによれば、吐出噴流周囲のせん断層で発生した振動のうち、共振室の容量に依存した特定周波数の振動が増幅して周期性をもつ間欠(不連続)噴流(又はパルスジェット)を形成する。これによって、液滴流への移行を促進することで液滴を微細化することができ、これにより、同液滴が鋼材表面に衝突する際に発生する総衝撃力(F)および単位衝撃力(S)を増大させることが可能になった。この結果、従来ノズルに比べてデスケーリング能力が大幅に向上した。
【0013】
そして、前記共振室のノズルの軸方向に直交した断面(以下、「横断面」ともいう)形状には、種々の形状を採用可能ではあるが、本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルにおいては、前記共振室の横断面が矩形なので、壁面に垂直に反射させて効率良く共振・増幅させることができる。これに対し、横断面が円状のように、壁面が曲面であると流れが放散してしまい増幅されにくい。
ここで、本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルにおいて前記共振室は、その軸方向の高さが第二オリフィスの長径に対して、0.5〜10倍の範囲に形成されていることは好ましい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去装置は、圧延工程における圧延材である鋼板の上下に配置される複数のスケール除去用ノズルを備え、各スケール除去用ノズルから高圧の水を圧延材表面に噴射して圧延材表面のスケールを除去するスケール除去装置であって、前記スケール除去用ノズルとして、上記本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルのうちいずれか一の態様のスケール除去用ノズルが装着されていることを特徴とする。
本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去装置によれば、各スケール除去用ノズルが、上記本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルのうちいずれか一の態様のスケール除去用ノズルによる作用効果を奏するので、上述の作用機序により、スケールを効率よく除去することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去方法は、圧延工程における圧延材である鋼板の表面のスケールを、スケール除去用ノズルから高圧の水を圧延材表面に噴射して除去する方法であって、前記スケール除去用ノズルとして、上記本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルのうちいずれか一の態様のスケール除去用ノズルを用い、当該スケール除去用ノズルを圧延工程での圧延材の上下に複数配置し、各スケール除去用ノズルから高圧の水を圧延材表面に噴射して圧延材表面のスケールを除去することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去方法によれば、使用するスケール除去用ノズルが、上記本発明の一態様に係る鋼板のスケール除去用ノズルのうちいずれか一の態様のスケール除去用ノズルによる作用効果を奏するので、上述の作用機序により、スケールを効率よく除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、圧延材表面のスケールを効率よく除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、スプレー水によるスケール除去における水滴の鋼板への衝突モデルを示す説明図である。
図2図2は、本発明に係る鋼板のスケール除去装置を備える圧延ラインの一例を示す概略構成図である。
図3図3は、本発明のスケール除去用ノズルの一例を示す概略斜視図である。
図4図4は、図3のX−X線概略断面図である。
図5図5は、図3のノズル吐出部の概略正面図である。
図6図6は、比較例で使用した、従来のスケール除去用ノズルの吐出部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一態様に係るスケール除去用ノズルを備える鋼板のスケール除去装置の一実施形態について説明する。
図2に示すように、鋼板の圧延工程は、圧延材(鋼板)Kを加熱する加熱炉50と、この加熱炉50から取り出された圧延材Kからスケールを除去するために加熱炉50出側(HSB)に設置された加熱炉出側デスケラ60と、それに続いて粗圧延を行なう粗圧延機70と、それに続いて仕上げ圧延を行なう仕上げ圧延機80とから構成されている。
【0020】
本発明のスケール除去装置は各圧延工程に配置される。すなわち、加熱炉出側デスケラ60には、加熱炉出側スケール除去用ノズルの装着用アダプター61が圧延材Kの上下に配置される。同様に、粗圧延機70の粗圧延入側(RSB)にはスケール除去用ノズルの装着用アダプター62、仕上げ圧延機80の仕上げ圧延入側(FSB)にはスケール除去用ノズルの装着用アダプター63がそれぞれ圧延材Kの上下に配置される。各スケール除去用ノズルの装着用アダプター61、62、63のそれぞれには、後述するスケール除去用ノズル1(以下、単に「ノズル」ともいう)が装着されている。スケール除去用ノズルの装着用アダプター61、62、63に装着されたスケール除去用ノズル1は、ポンプ30、アキュムレータ40に配管を通して接続されており、高圧の水を圧延材Kの表面に噴射することができる。なお、このスケール除去装置は、複数台のポンプ30とアキュムレータ40とを有するため、噴射される高圧水の圧力と吐出量とを常に安定して確保することができる。
【0021】
次に、ノズル1について詳しく説明する。なお、図3は、ノズル1の概略斜視図、図4図3のX−X線概略断面図、図5図3のノズル先端の吐出部の概略正面図である。
図3図5に示すように、ノズル1は、ケーシング2と、ノズルケース11と、ノズルチップ12とから主に構成されている。これらの部材によってノズル1の軸線方向に流路(又はノズル孔)が形成されている。
【0022】
ケーシング2は、略円筒状をなしており内部に流路(又はノズル孔)を備え、ノズル1の上流側となる一端から水が流路内に流入可能になっている。ケーシング2の他端にノズルケース11が装着される。ノズルケース11は略円筒状をなし、ノズルチップ12がノズル1の先端部側に装着されている。ノズルチップ12は超硬合金製であり、ここから吐出流を噴出させる。
なお、この例では、ケーシング2は、ノズルケース11に対してねじによって固定可能な第1のケーシング2aと、第1のケーシング2aに対してねじによって固定可能な第2のケーシング2bとから構成されている。
【0023】
第2のケーシング2bの上流側端部での周面及び端面(平坦面)には、軸方向に延びる複数のスリット(又は流入口)3が周方向に所定の間隔ごとに形成されている。複数のスリット3は、不純物の流入を規制しつつ水を流入させるためのフィルタとしてはたらくものである。また、第2のケーシング2b内の流路には、整流ユニット(又は整流器若しくはスタビライザ)4が配設されている。整流ユニット4は、スリット3から流入した水をノズル孔に案内するためのものであり、芯体から放射方向に延びる複数の整流板(整流羽根)5と、芯体の上流側及び下流側に同軸に形成され、かつそれぞれ先端部を上下流方向に向けて形成された鋭角な円錐部(上流側又は下流側が先細り状態の円錐部)6a、6bとを備えている。このようなフィルタを構成し且つ整流ユニットを備えたケーシング2は、フィルタユニット又は整流ケーシングと称することもできる。
【0024】
なお、整流ユニット4の整流板5は第2のケーシング2bの内壁に当接しているとともに、整流ユニット4は固定手段(例えば、係止、溶着、固着など)により下流側への移動が規制されている。
ケーシング2の流路は、第2のケーシング2bの上流側端部(流入口)から整流ユニット4の下流端に至り、かつ実質的に同じ内径(つまり、ケーシング2bの上流側端部の内径と同じ内径)の円筒状流路P1と、前記整流ユニット4の下流端から下流方向に向かって第1のケーシング2aの途中部に至り、かつ緩やかな傾斜でテーパ状に狭まる傾斜流路(環状傾斜流路)P2と、この傾斜流路の下流端から下流方向に向かって延び、かつ実質的に同じ内径(つまり、傾斜流路P2の下流側端部の内径と同じ内径)の円筒状流路P3とを備えている。この例では、傾斜流路(環状傾斜流路)P2を形成する傾斜壁(テーパ部)のテーパ角は、例えば5〜10°程度に形成されている。
【0025】
ノズルケース11内には、ノズル1の先端部から上流方向に向かって、超硬合金製のノズルチップ12と、前記第1のケーシング2aの下流端と実質的に同じ内径の流路が形成されたブシュ(又は環状側壁)17とが順次装着されている。ノズルチップ12は掛止段部13により先端部方向への抜けが規制されている。
【0026】
ここで、ノズル1には、その先端の吐出部となるノズルチップ12が、円筒状流路を形成する径大部に連続して設けられたテーパ部16と、テーパ部16出側に連続して設けられた第一オリフィス20と、第一オリフィス20の出側に連続して当該第一オリフィス20の長径よりも径方向寸法が大きく設けられた共振室19とが形成されている。共振室19は、ノズルチップ12を分断して空間を作る構造としているので、共振室19の材質はノズルチップ12と同じ超硬合金製である。
【0027】
なお、共振室19の具体的な構成について、横断面形状は円形であってもよいが、矩形形状が好ましい。共振室19の横断面形状を矩形形状とすれば、共振を増幅させるには、壁面に垂直に反射させるのがよいからである。
ノズルチップ12の先端面は、断面U字状の湾曲溝14が半径方向に形成されるとともに、湾曲溝14の湾曲凹面に、図5に示すように、楕円形状の吐出孔15が第二オリフィスとして共振室の出側に連続して設けられている。なお、湾曲溝14の底面は、吐出孔15を最下部として延出方向(又は半径方向)に向かうにつれて両端部が隆起した湾曲状底面であってもよい。
【0028】
これにより、ノズル1の軸線方向に延びるノズルの流路(ノズル孔)は、湾曲溝14に楕円形状に開口した吐出孔(第二オリフィス)15、ノズルチップ12に形成された角筒状の共振室19、およびこの共振室19の入側に形成された第一オリフィス20とからなる共振流路P6と、第一オリフィス20から軸線の上流方向に向かって直線的に拡径して延びるテーパ部(又は円錐状傾斜壁)16により形成された円錐状流路P5と、ブシュ17内周により形成されてテーパ部16の上流端から軸線方向に沿って均一な内径で上流方向へ連なる円筒状流路P4と、円筒状流路P4の上流端から延びる円筒状径大流路(円筒状流路P4の上流端から整流ユニット4の上流端に至るまでの流路)P3〜P1とで構成されている。なお、テーパ部16の上流端から均一な内径で延びる流路(この例では、テーパ部16の上流端から緩やかな傾斜流路P2の下流端までの円筒状流路P3及びP4)を径大部18とすることができる。
【0029】
さらに、楕円形状の第一オリフィス20および吐出孔15は、いずれもその長径/短径比が、1.5〜1.8程度に形成される。また、第一オリフィス20および吐出孔15と径大部18との関係については、ノズルを小型化するため、第一オリフィス20および吐出孔15の短径D2に対する径大部18(円筒状流路P3及びP4、又は整流ユニットから下流方向に延びる傾斜流路P2の下流端)の内径D1の割合(D1/D2)を、4.5〜6.9程度に設定している。さらに、噴射された水が低圧及び/又は低流量であっても衝撃力を高めるため、テーパ部16の角度(テーパ角)θは、45〜55°程度に設定している。
【0030】
なお、ノズルケース11やケーシング2の適所(この例では、ノズルケース2)には、アダプター(図示せず)を利用して導管(図示せず)にノズル1を取り付けるための鍔部(又はフランジ)などの取付部を形成できる。また、ノズルケース11には、位置決め精度を高め、所定方向にフラット又は帯状に吐出流を噴射させるため、導管に対する位置決め用凸部25を形成してもよい。
【0031】
次に、上述した鋼板のスケール除去装置およびこれに装着されたスケール除去用ノズル1、並びにノズル1を用いた鋼板のスケール除去方法の作用・効果について説明する。
スケール除去装置の、スケール除去用ノズルの装着用アダプター61、62、64には、ノズル1が装着されている。ノズル1の先端の吐出部は、円筒状流路を形成する径大部18に連続して設けられたテーパ部16と、テーパ部16出側に形成された第一オリフィス20と、第一オリフィス20の出側に連続して当該第一オリフィス20の長径よりも径方向寸法が大きく設けられた共振室19と、共振室19の出側に形成された吐出孔(第二オリフィス)15とを有する。したがって、吐出噴流周囲のせん断層で発生した振動のうち、共振室19の容量に依存した特定周波数の振動が増幅して周期性をもつ間欠(不連続)噴流(又はパルスジェット)を形成する。これにより、液滴流への移行を促進することで液滴を微細化することができ、したがって、同液滴が鋼材表面に衝突する際に発生する総衝撃力(F)および単位衝撃力(S)を増大させることが可能になった。この結果、従来ノズルに比べてデスケーリング能力が大幅に向上した。よって、このスケール除去装置およびこれに装着されたスケール除去用ノズル1、並びにノズル1を用いた鋼板のスケール除去方法によれば、デスケーリングの性能、効率ともに大幅に改善することができる。
【0032】
[実施例]
以下、上記実施形態で説明したノズル1を実際の圧延材Kの圧延工程のスケール除去装置に採用した例について説明する。鋼材としては、標準板幅1.2m、標準板厚は、加熱炉50の出側220mm、粗圧延入側(RSB)62が、220〜70mm、仕上げ圧延入側(FSB)63が、60〜40mmを使用した。従来型(図6参照)との比較実験の結果を次の表1に示す。なお、この例では、噴射圧力P0[Pa]、デスケーリング流量[l/min]、およびスプレー距離H[m]に応じて共振室19の高さhを第一および第二オリフィス15,19の長径D3に対して、0.5〜10倍の範囲で調整している。
【0033】
【表1】
【0034】
同表から判るように、デスケーリング能力は、いずれの工程においてもデスケーリング能力の向上が従来比で1.3〜1.5倍であり、ポンプ30での電力使用量は70%、そして、デスケーリング能力向上による流量の削減可能代は30%減、また、デスケーリング能力に起因する品質不良発生率も従来比で50%未満となり、このスケール除去用ノズル1によれば、デスケーリングの性能、効率ともに大幅に改善されたことが判る。
【0035】
また、従来型(図6参照)との比較実験の結果によれば、噴射圧力P0[Pa]、デスケーリング流量[l/min]、およびスプレー距離H[m]に応じて共振室19の高さhをオリフィス15,19の長径D3に対して、0.5〜10倍の範囲で調整すれば、十分な効果が得られることを確認した。
なお、本発明に係る鋼板のスケール除去用ノズルおよび鋼板のスケール除去装置並びに鋼板のスケール除去方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 (スケール除去用)ノズル
2 ケーシング
4 整流ユニット
11 ノズルケース
12 ノズルチップ
14 湾曲溝
15 吐出孔(第二オリフィス)
16 テーパ部(又は円錐状傾斜壁)
17 ブシュ(又は環状側壁)
18 径大部
19 共振室
20 第一オリフィス
30 ポンプ
40 アキュムレータ
50 加熱炉
60 加熱路出側デスケラ
61、62、63 スケール除去用ノズルの装着用アダプター
70 粗圧延機
80 仕上げ圧延機
K 圧延材(鋼板)
P1 円筒状流路
P2 傾斜流路
P3 円筒状流路
P4 円筒状流路
P5 円錐状流路
P6 共振流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6