特許第5834868号(P5834868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5834868歩車間通信システム、無線通信端末、および歩車間通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834868
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】歩車間通信システム、無線通信端末、および歩車間通信方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20151203BHJP
   H04M 1/00 20060101ALI20151203BHJP
   H04M 1/725 20060101ALI20151203BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   G08G1/16 A
   H04M1/00 U
   H04M1/725
   B60R21/00 628B
   B60R21/00 626B
   B60R21/00 626E
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-272630(P2011-272630)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-125347(P2013-125347A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100143797
【弁理士】
【氏名又は名称】宮下 文徳
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(72)【発明者】
【氏名】蔡 晟尉
【審査官】 近藤 利充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−066805(JP,A)
【文献】 特開2011−227763(JP,A)
【文献】 特開2009−104230(JP,A)
【文献】 特開2008−027170(JP,A)
【文献】 特開2011−253403(JP,A)
【文献】 特開2009−217350(JP,A)
【文献】 特開2005−293136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 − 99/00
H04W 4/00 − 99/00
H04M 1/00 − 1/82
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行者が携帯する携帯無線端末と、車両に搭載された車載無線端末と、で構成される歩車間通信システムであって、
前記携帯無線端末が、
歩行者が車両と接触する可能性があるエリアに関する情報を、当該エリア内における歩行者の進行方向と共に表したデータである注意エリア情報を記憶する注意エリア情報記憶手段と、
前記携帯無線端末の現在位置情報である第一の位置情報と、前記携帯無線端末を携帯する歩行者の進行方向と、を取得する第一の位置情報取得手段と、
前記第一の位置情報および前記歩行者の進行方向を、前記注意エリア情報と比較し、歩行者が車両と接触する可能性があるか否かを判定する位置判定手段と、
歩行者が車両と接触する可能性がある場合に、前記第一の位置情報を、前記車載無線端末に送信する位置情報送信手段と、
を有し、
前記車載無線端末が、
前記携帯無線端末から前記第一の位置情報を取得する歩行者情報取得手段と、
前記車載無線端末の現在位置情報である第二の位置情報を取得する第二の位置情報取得手段と、
前記第一の位置情報と、前記第二の位置情報から、車両が歩行者と接触する危険性があるかを判定する第一の接触危険性判定手段と、
前記第一の接触危険性判定手段が、歩行者と接触する危険性があると判定した場合に、車両の運転者に警告を行う第一の警告手段と、
を有する歩車間通信システム。
【請求項2】
前記携帯無線端末の位置情報送信手段と前記車載無線端末の歩行者情報取得手段間の通信は、基地局を介した通信である
ことを特徴とする、請求項1に記載の歩車間通信システム。
【請求項3】
前記位置情報送信手段は、前記第一の位置情報を前記携帯無線端末の近傍にある前記車載無線端末に宛てて送信する
ことを特徴とする、請求項2に記載の歩車間通信システム。
【請求項4】
前記車載無線端末は、
他車両との間で自車両の位置及び速度に関する情報を含む車両走行情報を交換する車車間通信手段を有し、
前記携帯無線端末は、
前記車車間通信手段が送信した車両走行情報を受信する車車間通信受信手段と、
前記車車間通信受信手段が受信した車両走行情報に含まれる位置情報と、前記第一の位置情報を用いて、歩行者が車両と接触する危険性があるかを判定する第二の接触危険性判定手段と、
前記第二の接触危険性判定手段が、車両と接触する危険性があると判定した場合において、歩行者に警告を行う第二の警告手段と、
をさらに有する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の歩車間通信システム。
【請求項5】
歩行者が携帯し、車載無線端末に自己の位置情報を送信する携帯無線端末であって、
歩行者が車両と接触する可能性があるエリアに関する情報を、当該エリア内における歩行者の進行方向と共に表したデータである注意エリア情報を記憶した注意エリア情報記憶手段と、
前記携帯無線端末の現在位置情報である第一の位置情報と、前記携帯無線端末を携帯する歩行者の進行方向と、を取得する第一の位置情報取得手段と、
前記第一の位置情報および前記歩行者の進行方向を、前記注意エリア情報と比較し、歩行者が車両と接触する可能性があるか否かを判定する位置判定手段と、
歩行者が車両と接触する可能性がある場合に、前記第一の位置情報を前記車載無線端末に送信する位置情報送信手段と、
を有することを特徴とする携帯無線端末。
【請求項6】
前記車載無線端末が送信した、車両の位置及び速度に関する情報を含む車両走行情報を受信する車車間通信受信手段と、
前記車車間通信受信手段が受信した車両走行情報に含まれる位置情報と、前記第一の位置情報を用いて、歩行者が車両と接触する危険性があるかを判定する第二の接触危険性判定手段と、
前記第二の接触危険性判定手段が、車両と接触する危険性があると判定した場合において、歩行者に警告を行う第二の警告手段と、
をさらに有する
ことを特徴とする、請求項5に記載の携帯無線端末。
【請求項7】
歩行者が携帯する携帯無線端末と、車両に搭載された車載無線端末と、で構成される歩車間通信システムが行う歩車間通信方法であって、
前記携帯無線端末が、
歩行者が車両と接触する可能性があるエリアに関する情報を、当該エリア内における歩行者の進行方向と共に表したデータである注意エリア情報を記憶し、
前記携帯無線端末の現在位置情報である第一の位置情報と、前記携帯無線端末を携帯する歩行者の進行方向と、を取得し、
前記第一の位置情報および前記歩行者の進行方向を、前記注意エリア情報と比較し、歩行者が車両と接触する可能性があるか否かを判定し、
歩行者が車両と接触する可能性がある場合に、前記第一の位置情報を、前記車載無線端末に送信し、
前記車載無線端末が、
前記携帯無線端末から前記第一の位置情報を取得し、
前記車載無線端末の現在位置情報である第二の位置情報を取得し、
前記第一の位置情報と、前記第二の位置情報から、車両が歩行者と接触する危険性があるかを判定し、
歩行者と接触する危険性があると判定した場合において、車両の運転者に警告を行う
ことを特徴とする歩車間通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩車間通信システム、無線通信端末、および歩車間通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通事故の中で大きな割合を示す歩行者と車との事故を低減することを目的に、歩行者が携帯する端末と車両に搭載された端末との間で通信を行う歩車間通信と呼ばれるシステムが提案されている。このシステムでは、歩行者端末と車載端末とが位置情報を交換し、車両と歩行者とが接触する危険性がある場合、双方に警告を行うことができる。歩車間通信に関する従来技術には、以下のようなものがある。
【0003】
特許文献1には、歩行者が携帯する無線通信装置と車両に搭載された無線通信装置とが既存の車車間通信システムの無線伝送路を用いて周期的に通信を行い、衝突の危険を判定した場合においてドライバーおよび歩行者にその旨を通知する技術が記載されている。当該技術によれば、車両の運転者および歩行者の双方に対して衝突の危険性を通知することができる。
【0004】
また、特許文献2には、携帯電話端末が車両や歩行者の位置情報を携帯電話網経由で周期的にセンタに送信し、センタが車両または歩行者の進路予測を行って衝突危険性の判定を行い、各携帯電話端末に警報を送信する技術が記載されている。進路の予測および衝突危険性の判定をセンタ側にて行うため、位置情報を送信できる携帯電話端末があれば、他に特別な装置を必要としないという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−220143号公報
【特許文献2】特開2002−304700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車車間通信システムのように、移動体同士が通信を行うことで安全を確保しようとした場合、システムを利用する移動体が増えるほど無線による通信量が増大するという問題がある。
【0007】
特許文献1の発明によると、歩行者が携帯する無線通信装置が、車車間通信のスキームに加わるため、歩行者の数だけ通信量が増大するという問題がある。一般的に、車車間通信では、想定される車両の台数や密度を考慮したうえで無線システムの設計が行われる。しかし、同じ周波数帯域で、車両に対して数が多く密度も高い歩行者がデータ送信を行うと、設計されたシステム全体の通信容量をオーバーすることが懸念される。通信容量をオーバーすると、一定の周期で情報を送信できない端末が現れるため、発明の目的である安全性を確保することができなくなる。
【0008】
また、特許文献2に記載の発明は、携帯電話端末を用いて位置情報を送信するため、携帯電話網の通信量が増大するという問題がある。すなわち、車両や歩行者が常に位置情報をセンタに送信し続けなければならないため、携帯電話網が使用する通信回線に負荷がかかる可能性がある。また、各端末は動作中、常時データ通信を行わなければならないため、高い通信コストが発生するという問題がある。
【0009】
このように、歩行者と車両とが互いに通信を行うことで衝突危険性を判定するシステムでは、用いることができる伝送路容量と比較して、通信量が過大なものとなるという問題があった。
【0010】
本発明は上記の問題点を考慮してなされたものであり、無線による通信量を抑えた歩車間通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る歩車間通信システムでは、以下の手段により歩行者端末と車載端末との通信を行う。
【0012】
本発明に係る歩車間通信システムは、歩行者が携帯する携帯無線端末と、車両に搭載された車載無線端末と、で構成される歩車間通信システムである。
【0013】
また、本発明に係る歩車間通信システムは、前記携帯無線端末が、前記携帯無線端末の現在位置情報である第一の位置情報を取得する第一の位置情報取得手段と、前記第一の位置情報に基づいて、歩行者が車両と接触する可能性がある場所にいるかを判定する位置判定手段と、前記位置判定手段が、歩行者が車両と接触する可能性がある場所にいると判定した場合に、前記第一の位置情報を、前記車載無線端末に送信する位置情報送信手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
すなわち、歩行者が携帯する携帯無線端末は、歩行者が車両と接触する可能性がある場所にいるかを判定し、接触する可能性がある場所にいる場合にのみ、位置情報を車載無線端末に送信する。接触の可能性がある場所とは、たとえば「車道上」や「横断歩道上」などとすることができる。携帯無線端末の位置情報に基づいて判断することができれば、どのような情報が使われてもよい。このように構成することにより、携帯無線端末は、位置情報を常に送信する必要がなくなり、携帯無線端末から車載無線端末への通信量を抑えることができる。
【0015】
また、本発明に係る歩車間通信システムは、前記車載無線端末が、前記携帯無線端末から前記第一の位置情報を取得する歩行者情報取得手段と、前記車載無線端末の現在位置情報である第二の位置情報を取得する第二の位置情報取得手段と、前記第一の位置情報と、前記第二の位置情報から、車両が歩行者と接触する危険性があるかを判定する第一の接触危険性判定手段と、前記第一の接触危険性判定手段が、歩行者と接触する危険性があると判定した場合に、車両の運転者に警告を行う第一の警告手段と、を有する。
【0016】
車載無線端末は、携帯無線端末から送信された歩行者の位置情報を取得する。これにより、車両の周辺に存在し、かつ、車両と接触する可能性がある場所にいる歩行者の有無を知ることができる。歩行者の位置情報を取得した場合にのみ自車との接触の危険性を判定すればよく、歩行者との位置関係を常に確認し続けなくてもよいため、車載無線端末の演算量を削減することができる。
【0017】
また、前記携帯無線端末の位置情報送信手段と前記車載無線端末の歩行者情報取得手段間の通信は、基地局を介した通信であることを特徴としてもよい。
【0018】
携帯無線端末と車載無線端末とが直接通信を行うのではなく、携帯電話ネットワークや無線データ通信ネットワークなどの既存の無線通信インフラを用いて情報の伝達をすることができる。
【0019】
また、前記位置情報送信手段は、前記第一の位置情報を前記携帯無線端末の近傍にある
前記車載無線端末に宛てて送信することを特徴としてもよい。
【0020】
既存の無線通信インフラを使用する場合、第一の位置情報を、携帯無線端末の近傍に位置する車載無線端末のみに送信することで、基地局間のバックボーン回線など、既存のインフラにおける通信量を抑えることができる。第一の位置情報は、当該携帯無線端末と同一の基地局に収容されている車載無線端末全てに宛てて送信してもよいし、それぞれの位置情報から、携帯無線端末の近傍にあると判断された車載無線端末にのみ送信してもよい。
【0021】
また、前記車載無線端末は、他車両との間で自車両の位置及び速度に関する情報を含む車両走行情報を交換する車車間通信手段を有し、前記携帯無線端末は、前記車車間通信手段が送信した車両走行情報を受信する車車間通信受信手段と、前記車車間通信受信手段が受信した車両走行情報に含まれる位置情報と、前記第一の位置情報を用いて、歩行者が車両と接触する危険性があるかを判定する第二の接触危険性判定手段と、前記第二の接触危険性判定手段が、車両と接触する危険性があると判定した場合において、歩行者に警告を行う第二の警告手段と、をさらに有することを特徴としてもよい。
【0022】
すなわち、携帯無線端末は、車車間通信の通信内容を傍受し、周辺を走行する車両の位置情報と自己の位置情報とを比較し、車両と歩行者が接触する危険性があるかを判定したうえで警告を行う。歩行者が携帯する端末は、車車間通信に対して受信のみを行い、無線送信を行わないため、車車間通信の伝送路に影響を与えないという利点がある。
【0023】
また、前記携帯無線端末は、歩行者が車両と接触する可能性があるエリアの情報である注意エリア情報を記憶した注意エリア記憶手段をさらに有し、前記位置判定手段は、前記第一の位置情報が示す位置が前記注意エリア情報に定義されたエリア内にあるときに、歩行者が車両と接触する可能性がある場所にいると判定することを特徴としてもよい。
【0024】
例えば、歩道と車道の境界や、信号機や横断歩道の位置、見通しが悪い道路区間などを注意エリア情報に記憶させることにより、歩行者が車両と接触する可能性がある場所について、正確な判定を行うことが可能となる。
【0025】
また、前記第一の位置情報は、歩行者の進行方向についての情報を含み、前記注意エリア情報は、歩行者の進行方向についての情報を含み、前記位置判定手段は、取得した歩行者の進行方向が前記注意エリア情報に定義された進行方向である場合に、歩行者が車両と接触する可能性がある場所にいると判定することを特徴としてもよい。
【0026】
第一の位置情報に、歩行者の位置情報だけでなく進行方向に関するデータを含ませ、位置判定手段は歩行者の位置情報に加え、進行方向を用いて車両との接触可能性の判定を行う。このように構成することにより、例えば歩行者が道路を横断している場合に限定するなど、歩行者の動きによって、より正確な接触可能性の判定を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、無線による通信量を抑えた歩車間通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第一の実施形態に係る歩車間通信システムの第一の概要図である。
図2】第一の実施形態に係る歩車間通信システムの第二の概要図である。
図3】第一の実施形態に係る携帯無線端末のシステム構成図である。
図4】第一の実施形態に係る携帯無線端末の処理フローチャートである。
図5】第一の実施形態に係る注意エリア情報の定義例である。
図6】第一の実施形態に係る車載無線端末のシステム構成図である。
図7】第一の実施形態に係る車載無線端末の処理フローチャートである。
図8】第二の実施形態に係る注意エリア情報の定義例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第一の実施形態)
<システム概要>
第一の実施形態に係る歩車間通信システムの概要を、概要図である図1および図2を用いて説明する。第一の実施形態に係る歩車間通信システムは、歩行者が携帯する端末である携帯端末31および32と、車両51および52に搭載された車載端末から構成される。実施形態の説明では各端末は2台ずつ例示しているが、各1台以上であれば何台で運用されてもよい。
【0030】
携帯端末31および32は、現在位置を取得する機能を有し、現在位置が、歩行者と車両とが接触する可能性がある場所である場合に、その位置情報を携帯電話網を通じて車載端末へ通知する(図1)。図1中の点線は、歩行者の位置情報の伝送を表している。車両と接触する可能性がある場所とは、歩行者が通行でき、かつ車両が通過する可能性がある場所であり、例えば「歩道と車道の区別がある道路における車道上」「歩道が無く見通しの悪いカーブ区間」「横断歩道上」などとすることができる。車両と接触する可能性がある場所の判定は、取得した位置情報と携帯端末に記憶された情報とを参照することで行うことができる。以降、実施形態の説明において、車両と接触する可能性がある場所を注意エリア、携帯端末に記憶された、注意エリアが定義された情報を注意エリア情報と称する。
【0031】
本実施形態では、携帯電話網を使用するセンタ41を例示して、位置情報の伝送を説明する。センタ41は、携帯端末から携帯電話網を通じて歩行者の位置情報を受信すると、同じく携帯電話網を通じて車両51および52に搭載された車載端末に通知を行う。この際、センタ41は、送信された位置情報に基づき、携帯端末の近傍に位置する車載端末にのみ当該位置情報の通知を行う。図1の例では、車道上にある携帯端末32から送信された位置情報が、センタ41を経由して、車両51,52に搭載された車載端末へ通知される。これにより、車載端末は、付近に歩行者がいることを知ることができる。
【0032】
また、携帯端末31および32は、車載端末同士が情報を送受信し合う車車間通信のデータを受信し、危険を判定したうえで警報を発する機能を有している。車車間通信では、車両に搭載された無線通信端末同士が、位置情報や速度、進行方向などのデータを一定の周期で送信し合うため、携帯端末は当該データを受信し解析することで、車両が歩行者に向かって進行しているか否かを判断することができる(図2)。図2中の破線が、車車間通信のデータの流れを表している。例えば、車両51が本来の進路を逸脱し、歩行者31に向かって進行している場合、歩行者31が携帯している端末は、車両51から送信された車車間通信のデータを受信し、接触の危険性を判断して音響や振動によって警告を行う。これにより、歩行者は、車両と接触する危険性を事前に知ることができる。
【0033】
<携帯端末のシステム構成>
携帯端末および車載端末のシステム構成図である図3図4を用いて、システム構成をより詳細に説明する。
図3は、歩行者が携帯する携帯端末のシステム構成を表した図である。携帯端末10は、位置情報取得部11、センサ部12、制御部13、セルラ通信部14、車車間通信受信部15、警報通知部16を有しており、制御部13は、注意エリア情報データ13aを有
している。
【0034】
位置情報取得部11は、GPSモジュールより位置情報(緯度・経度)を取得し、自己の位置を判定する手段であり、本発明における第一の位置情報取得手段である。また、センサ部12は、位置情報取得部が取得する位置情報を補正するためのセンサ群である。センサ部12は、例えばジャイロセンサ、加速度センサ、地磁気センサなどで構成される。センサは、位置情報取得部11が取得した位置情報を補正することができれば、どのようなものが用いられてもよい。なお、センサ部12は発明の実施に必須の構成ではない。
【0035】
制御部13は、取得した位置情報から、歩行者が車両と接触する可能性が高い場所にいるかを判定し、携帯電話網を通じて車両側に位置情報を通知するか否かを決定する手段である。また、車車間通信の電文を受信し、車両と歩行者が接触する危険性を判定し、危険が高いと判断される場合に、警告を発するか否かを決定する機能も有している。制御部13の詳細な動作については後述する。
【0036】
セルラ通信部14は、携帯電話網に対して通信を行う手段であり、位置情報取得部11が取得した位置情報を、車載端末に宛てて送信する機能を有する。通信についてはパケット通信網の利用を想定しており、第3世代のHSPA方式、EVDO方式、第3.9世代のLTE方式などを利用することができる。
【0037】
車車間通信受信部15は、車車間通信にて使用されるデータを受信する手段である。車両同士で情報を共有する車車間通信は、すべての車両が同じ周波数チャネルを利用し、周囲の車に対して一斉に自車が有する情報を伝える同報通信(ブロードキャスト)の利用が想定されている。従って、車車間通信にて使用される周波数を受信することで、周辺車両からブロードキャストされた情報、すなわち各車両の現在位置や速度、進行方向などが含まれたデータを取得することができる。
【0038】
警報通知部16は、車両と歩行者が接触する危険性があると制御部13が判定した場合に、歩行者に対して警告を行う手段であり、本発明における第二の警告手段である。警告は、たとえば警報音を発することによって行われてもよいし、バイブレータを振動させることによって行ってもよい。歩行者に危険を通知することができれば、どのようなものが用いられてもよい。
【0039】
<携帯端末の処理詳細>
次に、携帯端末10の動作フローチャートである図4を参照しながら、制御部13の動作について説明する。携帯端末が動作を開始すると、制御部13は、位置情報取得部11から、端末の現在位置を取得する(S11)。位置情報は、不図示のGPSモジュールによって測位され、センサによって補正されたものが取得される。
【0040】
続いて、制御部13は、車車間通信受信部15を通じて車車間通信データの受信を行う(S12)。車車間通信受信部15は、通信範囲内を走行する車両に搭載された車載端末から送信された全てのデータを受信することができるため、歩行者の付近を走行する車両の現在位置、速度、進行方向などを取得することができる。ステップS12の処理を行う制御部13が、本発明における車車間通信受信手段に該当する。
【0041】
車車間通信受信部15がデータを受信すると、制御部13は、内容を解析し、車両と歩行者が接触する危険性があるかを判定する(S13)。ステップS13で行う判定は、歩行者と車両の位置情報、進行方向、速度などを利用し、既存の技術によって行うことができる。例えば、歩行者と車両の位置情報と速度から、一定の時間以内に両者の位置が重なると判定できる場合に、接触危険性ありと判定してもよい。また、ある程度の距離が確保
されている場合でも、車両の速度を考慮し、車両の運転者が歩行者に気づいていないと判定できる場合には接触危険性ありと判定してもよい。ステップS13の処理を行う制御部13が、本発明における第二の接触危険性判定手段に該当する。
【0042】
接触の危険性があると判定された場合、制御部13は、警報通知部16へ通知を行い、歩行者に対して注意喚起動作、つまり警告を行う(S15)。前述したように、警告は警報音や振動によって行うことができる。両者を併用することで、効果的に歩行者に危険を知らせることができる。
【0043】
次に、制御部13は、歩行者が注意エリアにいるか否かを判定する(S14)。この判定は、制御部13が注意エリア情報データ13aに定義された情報を参照することによって行うことができる。注意エリア情報データ13aに、道路図に加え、車道と歩道を区分する分離帯の有無、信号機や横断歩道の配置、一時停止の有無、見通し不良区間などの情報を追加することによって、詳細な判定が可能になる。
【0044】
例えば、注意エリア情報データには、以下のような範囲を注意エリアとして設定することができる。
・車道と歩道が分離された道路における車道部分
・交差点における、道路の交差部付近
・交差道路に一時停止表示が無い交差点における、道路の交差部付近
・信号機の無い横断歩道の周辺
・見通しの悪い区間
ステップS14の処理を行う制御部13が、本発明における位置判定手段であり、注意エリア情報データ13aが本発明における注意エリア記憶手段である。
【0045】
ステップS14について、さらに詳細に説明する。図5は、注意エリアの定義例である。破線で囲った部分が注意エリアに該当する。例えば、注意エリア61は、交差点内の道路の交差部および横断歩道が位置する場所を示している。注意エリア62は、曲がり角の見通しが悪い箇所を示しており、注意エリア63は、歩道以外の車道部分すべてを注意エリアとしたものである。図5の情報を用いた場合、歩行者が注意エリア61,62,63内に位置する場合、車両と接触する可能性があると判定する。
【0046】
なお、注意エリア情報は、既存の地図情報に注意エリアの定義を加えたものであってもよいし、地図情報を持たず、注意エリアの位置座標のみを絶対値で保持したものであってもよい。歩行者と車両とが接触する可能性がある場所を定義することができれば、どのようなデータ形式であってもよい。
【0047】
フローチャートの説明に戻る。ステップS14にて、歩行者が注意エリアにいると判定された場合、ステップS16に遷移し、位置情報取得部11が取得した歩行者の位置情報を、セルラ通信部14を通してセンタ41へ送信する。判定されなかった場合は、処理は初期状態に戻る。ステップS16の処理を行う制御部13が、本発明における位置情報送信手段に該当する。
【0048】
<センタの処理詳細>
続いて、センタ41の動作について説明する。センタ41は、携帯電話網を通じて携帯端末10より位置情報を受信し、車両に搭載された車載端末へ当該位置情報を通知する機能を有している。センタ41は位置情報の転送を行うのみであるが、ネットワーク資源節約の観点から、携帯端末10から送信された位置情報を取得し、当該位置の近傍(例えば半径100m)に位置する車載端末にのみ通知を行うことが好ましい。また、携帯端末10と同一の基地局に収容されている全車載端末に対して通知を行ってもよい。
【0049】
なお、本実施形態の説明では、センタ41を用いて位置情報を中継する例を示しているが、携帯端末10の位置情報を車載端末20に送信することができれば、センタ41は必須の構成ではない。
【0050】
<車載端末のシステム構成>
次に、車載端末20の動作について説明する。図6は、車両に搭載された車載端末のシステム構成を表した図である。
【0051】
位置情報取得部21は、車載された不図示のGPSモジュールから位置情報(緯度・経度)を取得する手段であり、本発明における第二の位置情報取得手段である。
【0052】
制御部22は、二つの機能を有している。一つは、位置情報取得部21が取得した位置情報、および不図示のセンサ群から取得した情報から車車間通信にて送信する交通情報(位置情報、速度、進行方向等)を生成し、車車間通信部24を通じて送信する機能である。これは、既存の車車間通信の技術によって実現される。もう一つは、携帯端末10が送信した位置情報を、セルラ通信部23を通じて受信し、車両が歩行者と接触する危険性があるかを判定したうえで、警報通知部25を通じて運転者に警告を行う機能である。制御部22の詳細な動作については後述する。
【0053】
セルラ通信部23は、携帯電話網に対して通信を行う手段であり、携帯端末10が送信した位置情報を、センタ41から受信する機能を有する。位置情報の受信は、プッシュ通知などによって能動的に行われる。
【0054】
車車間通信部24は、車車間通信にて使用されるデータを送受信する手段である。他車両から送信された交通情報を受信するほか、自車両が生成した交通情報を送信する。
【0055】
警報通知部25は、車両と歩行者が接触する危険性があると制御部22が判定した場合に、運転者に対して警告を行う手段である。警告は、たとえば警報音を発することによって行われてもよいし、車載専用ディスプレイに表示してもよいし、ナビゲーション装置の地図画面の上に歩行者アイコンを表示してもよいし、シートベルトの引き込みを行ってもよいし、瞬間的にブレーキを動作させることで行ってもよい。以上に例示した警告の方法は、複数のものを組み合わせて用いることができる。
【0056】
<車載端末の処理詳細>
次に、車載端末20の動作フローチャートである図7を参照しながら、制御部22の動作について説明する。車載端末が動作を開始すると、制御部22は、位置情報取得部21から、車載端末の現在位置を取得する(S21)。
【0057】
続いて、制御部22は、セルラ通信部23を通じて、歩行者の位置情報を受信しているかを確認する(S22)。ステップS22の処理を行う制御部22が、本発明における歩行者情報取得手段である。歩行者の位置情報が無い場合、動作は初期状態に戻り、ステップS21から繰り返し処理が実行される。
【0058】
歩行者の位置情報が受信された場合、車両と接触する可能性がある近傍地点に歩行者がいることを意味するため、位置情報取得部21が取得した車両の現在位置との突合せを行い、接触の危険性を判定する(S23)。接触危険性の判定には、互いの位置情報、進行方向、速度などを利用することができる。携帯端末10が行う判定(S13)と同様に、既存の技術を利用することができる。ステップS23の処理を行う制御部22が、本発明における第一の接触危険性判定手段である。
【0059】
接触の危険性があると判定された場合、制御部22は、警報通知部25へ通知を行い、運転者に対して注意喚起動作、つまり警告を行う(S24)。前述したように、警告は音響等によって行うことができる。警報通知部25が、本発明における第一の警告手段である。
【0060】
本発明によれば、歩行者が携帯する無線通信装置と、車両に搭載された無線通信装置とが、互いの位置情報を取得し、接触の危険性を判定したうえで歩行者および運転者に警告を発することができる歩車間通信システムを実現することができる。歩行者から車両に対しては、歩行者が車両と接触する可能性がある場所にいる場合に限定して位置情報を送信することで、携帯電話網の通信量を抑え、車両から歩行者に対しては、車車間通信の情報を受信することで、車車間通信の無線リソースの消費を防ぐことができる。結果として、発明の目的である、無線による通信量を抑えた歩車間通信システムを実現することができる。
【0061】
(第二の実施形態)
第一の実施形態では、注意エリア内に歩行者が位置する場合に、車両との接触可能性があると判定したが、第二の実施形態は、さらに歩行者の進行方向を考慮して判定を行う形態である。第二の実施形態におけるシステム構成図、および処理フローチャートは、ステップS14の処理を除き第一の実施形態と同様である。
【0062】
第二の実施形態における注意エリア情報である図8は、第一の実施形態に加え、歩行者の進行方向を加味して接触可能性の判定を行った場合の例である。図8中の黒丸が歩行者である。例えば、注意エリア63と64では、歩行者がエリア内にいる場合、かつ図示した方向に進んでいる場合にのみ、車両との接触可能性があると判断する。後ろから走行してくる車両が目視できず、危険が排除できないためである。また、注意エリア65では、歩行者が道路を横断している場合にのみ、車両との接触可能性があると判定する。第二の実施形態においては、ステップS14における判断基準は、「歩行者が注意エリア内におり、かつ定義された方向に進んでいる場合」となる。このようにすることで、注意エリア内であっても車両と歩行者が接触する可能性が低いケースを除外することができる。
【0063】
また、進行方向の他にも、進行方向の変化率や歩行速度などを利用し、行動予測を組み合わせて判定を行ってもよい。たとえば、横断歩道の近傍で歩行者が停止している場合、道路を横断する機会をうかがっていると判断し、特定の方向に進行していなくても車両との接触可能性があると判断するようにしてもよい。また、速度や進行方向が不安定な場合、接触可能性の判定を厳しくしてもよい。
【0064】
(変形例)
なお、以上の説明は本発明を説明する上での例示にすぎず、各実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変形することができる。例えば、携帯端末10は、車車間通信の通信内容を受信する機能(S12,13)、および警告を発する機能(S15)を有さなくても、歩車間通信システムの通信量を抑えるという発明の目的を達成することができる。
【0065】
なお、実施形態の説明では、携帯電話網とセンタ41とを用いて携帯端末10の位置情報を送信しているが、例えばWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)などの他の無線通信インフラを使用してもよい。車車間通信とは異なる通信方式
によって、携帯端末の位置情報を車載端末に送信することができれば、通信方式は限定されない。同様に、基地局を利用せず、携帯端末と車載端末が直接通信を行う方式を利用してもよい。
【0066】
また、携帯端末10は、車両と接触する可能性を判定することができれば、注意エリア情報データは使用しなくてもよい。たとえば、位置情報取得部11とセンサ部12からの情報によって、歩行者が酩酊していると判定できる場合において、車両と接触する可能性があると判断してもよい。
【0067】
また、携帯端末10は、車車間通信のメッセージを受信していない場合、位置情報の送信を停止してもよい。周囲に車載端末を搭載した車両が存在しない場合、位置情報の送信を停止することで携帯電話網への負荷を減らすことができる。
【符号の説明】
【0068】
10 携帯端末
11,21 位置情報取得部
12 センサ部
13,22 制御部
13a 注意エリア情報データ
14,23 セルラ通信部
15 車車間通信受信部
16,25 警報通知部
20 車載端末
24 車車間通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8