(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1、
図4は本発明の第1実施形態の電極製造装置1の概略構成図である。
【0011】
電極の製造工程には次の4つの工程を含んでいる。すなわち、集電体の一方の面に活物質スラリーを塗布する塗工工程と、この塗布された活物質スラリーを乾燥させる乾燥工程と、この後に集電体の他方の面に活物質スラリーを塗布する塗工工程と、この塗布された活物質スラリーを乾燥させる乾燥工程とを含む。このように、2つの塗工工程と2つの乾燥工程があるので、両者を区別するため集電体の一方の面に関して「第1塗工工程」、「第1乾燥工程」を、他方の面に関して「第2塗工工程」、「第2乾燥工程」を用いるものとする。
【0012】
この場合、電極製造装置1には、塗工手段2及び乾燥手段20を備えている。塗工手段2は
図1に示す第1塗工工程(#101)及び
図4に示す第2塗工工程(#103)で、乾燥手段20は
図1に示す第1乾燥工程(#102)及び
図4に示す第2乾燥工程(#104)でそれぞれ用いられる。このため、
図1に示す第1塗工工程(#101)で用いる塗工手段2を「第1塗工手段」と、
図4に示す第2塗工工程(#103)で用いる塗工手段2を「第2塗工手段」という。同様に、
図1に示す第1乾燥工程(#102)で用いる乾燥手段20を「第1乾燥手段」と、
図4に示す第2乾燥工程(#104)で用いる乾燥手段20を「第2乾燥手段」という。同様に、
図1に示す第1乾燥工程(#102)で用いる冷却手段30を「第1冷却手段」と、
図4に示す第2乾燥工程(#104)で用いる冷却手段30を「第2冷却手段」という。
【0013】
まず、
図1に示す第1塗工工程(#101)及び第1乾燥工程(#102)から説明する。 活物質と結着剤を含む活物質スラリーはポンプなどのスラリー搬送手段を駆動することで、搬送配管を介して第1塗工手段2としてのダイコータに供給される。
図1にはダイコータのダイヘッド3しか図示していないが、ダイコータはダイヘッド3から塗工液としての活物質スラリーを押し出して、集電体に塗布するものである。
【0014】
ここで本実施形態の集電体は極く薄いフィルム状(帯状)の銅(以下「銅箔」という。)15で形成されている。すなわち、バックアップロール12の周面に巻き掛けられている、集電体としての銅箔15に対して、ダイヘッド2の先端が近接して設けられている。ダイヘッド2の先端には水平方向にスリット2aが形成されている。
【0015】
このため、第1塗工工程(#101)においては、このスリット2aから銅箔15の一方の面15a(
図1で上面)に向けて活物質スラリーを供給し、銅箔15の一方の面15aに活物質スラリーを塗布する。バックアップロール12は一定速度で一方向(図では時計方向)に回転するため、銅箔15の一方の面15aには所定厚さの活物質スラリー16が間欠的に塗布されることとなる。
【0016】
また、電極製造装置1には銅箔搬送手段10(集電体搬送手段)を備えている。銅箔搬送手段10は、
図1に示したように送りロール11、バックアップロール12、巻き取りロール13、テンションロール14とで構成されている。水平方向にかつ軸が平行となるように配置される送りロール11、バックアップロール12、巻き取りロール13、テンションロール14は全て円筒状または円柱状であり、これらロール11〜14には、所定幅の銅箔15が巻き掛けられている。巻き取りロール13を
図1で時計方向に一定の回転速度で回転させることによって銅箔15は送りロール11からバックアップロール12へと搬送され、その後に巻き取りロール13に巻き取られる。ダイヘッド2を銅箔15が通過した後には、銅箔15上に所定厚さの活物質スラリー16が間欠的に塗布されている。
【0017】
銅箔15の一方の面15aに塗布した活物質スラリー16に熱を与えて乾燥させ負極活物質層を形成するため、バックアップロール12と巻き取りロール13との間を移動する銅箔15の鉛直上方に第1乾燥手段20を備える。第1乾燥手段20は赤外線炉21と熱風乾燥炉23とで構成されている。赤外線炉21は輻射熱22で活物質スラリー16を熱するものである。熱風乾燥炉23は熱風24を対流させて活物質スラリー16を熱し活物質スラリー16を熱し乾燥させるものである。
図1には銅箔15の移動方向(搬送方向)に4つの赤外線炉21と3つの熱風炉23とを交互に配置して隙間が生じないようにしている。赤外線炉21及び熱風炉23の配置と個数はこれに限られるものでない。
【0018】
このため、第1乾燥工程(#102)においては、活物質スラリー16は赤外線炉21からの輻射熱22と、熱風乾燥炉23からの熱風24を受けて高温状態になると、活物質スラリー16中の溶媒が蒸発すると共に、結着剤が融合固化して活物質のバインダーとなる。この結果、銅箔15の一方の面15aに塗布された活物質スラリー16は加熱乾燥後に微多孔孔を有する負極活物質層17(
図4参照)を形成する。
【0019】
さて、銅(銅箔15)は導電性を有する金属であるため電極の集電体として用いられるのであるが、銅は大気中の酸素及び水分の存在により酸化され、表面に酸化膜(酸化銅CuO)を形成する。この酸化膜は導電性が低いため、電極の表面に酸化膜が生じることは好ましくない。
【0020】
また、銅箔15を集電体とする電極(負極)、セパレータ、正極を積層して発電要素を構成すると共に、発電要素を電池外装材に収容し、リチウムイオンを含んだ電解液を満たして電池外装材を密封することにより、電池が製造される。この場合に、銅箔15の表面に生じた酸化銅は電解液中の稼動リチウムと反応してLiCOOXといった化合物になり、集電体表面に酸化銅が生じていない場合より電池の内部抵抗を高くしてしまう。電池の内部抵抗が高くなると、電池のサイクル劣化を招く。
【0021】
そこで、導電性金属の酸化防止策として、正極ペースト及び負極ペーストをそれぞれ耐熱性を有するシート材剤に塗布し加熱して正極層及び負極層を形成する。次いで、正極層及び負極層をシート材からセパレータの表裏両面にそれぞれ転写し、正極層どうし及び負極層どうしの間に清浄な導電性金属を挟んで積層することで、電池の内部抵抗を低減する従来装置がある。
【0022】
しかしながら、従来装置では、電極の製造工程に新たに転写工程が追加されることから工数の増加となり、生産性が悪くなってしまうという問題がある。
【0023】
そこで本発明の第1実施形態では、第1乾燥工程(#102)で一方の面15aに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15(集電体)の他方の面15bを冷却する。つまり、第1乾燥工程中に冷却工程が組み込まれているので、従来装置のように追加の時間を要する新たな工程の追加とならない。これによって、活物質スラリーを集電体の一方の面に直接塗布する場合であっても、生産性を維持させつつ銅箔15全体の酸化を抑制する。
【0024】
このため
図1に示したようにバックアップロール12と巻き取りロール13との間を移動する銅箔15の鉛直下方に第1冷却手段30を備えている。ここでの第1冷却手段30は送風炉31で構成されている。送風炉31は、銅箔15の移動方向(搬送方向)に複数設けている。
【0025】
そして、第1乾燥工程(#102)で一方の面15aに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、送風炉31から銅箔15の他方の面15b(
図1で下面)に向けて冷風32を送ることで、銅箔15(集電体)を冷却する。銅箔15の他方の面15bに向けて冷風32を送るとき、銅箔15と活物質スラリー16との間で温度差が生じた状態となる。すなわち、金属である銅箔15は、活物質スラリー16を形成している活物質より熱伝導率が高い。このため、冷却しなければ銅箔15は活物質スラリー16と同じ高温になってしまうところを、冷風炉31からの冷風32により冷却すれば、銅箔15からは自身の有する熱が大気に逃げて銅箔15の温度が大気温度近くまで低下する。この場合、電極は導電性金属よりなる銅箔15と、銅箔15の表面に塗布される活物質とから構成され、銅箔15の厚さを薄くすれば活物質の量を多くすることができるので、銅箔15の厚さは極力薄くされている。このため、銅箔15の他方の面15bに冷風を送るとき、銅箔15は他方の面15bだけでなく、銅箔15の全体が冷却される。他方の面15bを冷却するだけで銅箔15の一方の面15aをも含めた銅箔15の全体が冷却されるのである。
【0026】
一方、活物質スラリー16を形成している活物質は高温乾燥後に微多孔膜となるので、銅箔15より熱伝導率は低く熱が逃げにくい。この活物質スラリ16ーと銅箔15との熱伝導率の差によって銅箔15と活物質スラリー16との間で温度差が生じる。相対的に高温となる活物質スラリー16とは関係なく、銅箔15を大気温度に近い温度にまで低下させることができることとなり、活物質スラリー16の温度より低下させた分だけ銅箔15の酸化を抑制できるのである。
【0027】
図2は冷却炉31による送風方向を示す説明図である。上記のように銅箔15の厚さは極力薄くされている。このため、
図2(A)に示したように銅箔15の搬送方向に対して直交する方向に送風炉31からの冷風32を吹き付けたのでは、特に乾燥前には活物質スラリー16が塗布された状態で銅箔15が波打つこととなる。銅箔15が波打ったのでは、活物質スラリー16が波打った状態で固化してしまうことが考えられ、好ましくない。一方、
図2(B)は、銅箔15の搬送方向に対して平行な方向に送風炉31からの冷風32を吹き付けるようにしたものである。銅箔15の搬送方向に対して平行な方向に冷風32を吹き付けることで、活物質スラリー16が塗布された状態で銅箔15が波打ち、活物質スラリー16が波打った状態で固化してしまうことを回避できる。なお、平行な方向に冷風を吹き付けるといっても厳密なものでなく、活物質スラリー16が波打った状態で固化してしまうことを回避できるのであれば、平行な方向から多少傾いた方向(つまり「平行な方向」には平行な方向と同一視し得る許容範囲を含む)から冷風を吹き付けるようにしてもかまわない。
【0028】
図3は銅箔15の一方の面15aに塗布された活物質スラリー16が乾燥するのに必要な時間(乾燥必要時間)の特性図である。銅箔15を冷却することなく活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させることにより電極を製造するものを「参照例」とすると、参照例の乾燥必要時間の特性は実線の特性となる。すなわち、参照例では活物質スラリー16と銅箔15とは同じ温度で推移し、乾燥必要時間は活物質スラリー16の温度(=銅箔の温度)が上昇するほど短くなる。
【0029】
さて、銅箔15の酸化を決定する因子には温度条件の違いだけでなく電極を製造する環境条件の違いがあり、温度条件だけで銅箔15の酸化領域と未酸化領域との境界を定めることはできない。しかしながら、ここでは簡単化のため、環境条件の違いを除外し銅箔15の酸化は温度条件のみによって定まるものする。このときには銅箔15が酸化しない上限の温度が、例えば
図3に示したように所定値T0℃として定まる。すると、T0℃を超える温度域が銅箔酸化領域、T0℃以下の温度域が銅箔未酸化領域となる。これより、参照例の場合に銅箔15が酸化しない範囲でできるだけ高い温度で活物質スラリー16の乾燥を行わせるには、活物質スラリー16の温度をT0℃とするのが限度であり、T0℃に対応する時間t1で参照例の場合の乾燥必要時間が定まる。
【0030】
一方、第1実施形態では、冷却しない場合の銅箔の温度と冷却に伴って低下する銅箔の温度との温度差の分だけ、参照例の場合より銅箔15が酸化しにくくなる。従って、第1実施形態でも銅箔15の温度を参照例と同じにするとすれば、参照例よりも上記温度差の分だけ第1乾燥工程(#102)での活物質スラリー16の温度を高くすることができることとなる。活物質スラリー16の温度を参照例の場合より高くできればその分、乾燥必要時間は短縮される。このことから、
図3において実線よりも下側に引いた破線の特性が第1実施形態の場合の乾燥必要時間に相当することとなる。当該破線特性の場合に銅箔15が酸化しない範囲でできるだけ高い温度で活物質スラリー16の乾燥を行わせるには、活物質スラリー16の温度をT0℃とするのが限度となり、T0℃に対応する時間t2で第1実施形態の場合の乾燥必要時間が定まる。銅箔15の温度が参照例と同じでよいとしたとき、第1実施形態によれば、参照例の場合より乾燥必要時間をt1からt2へと短縮できるのである。
【0031】
次には、第1塗工工程(#101)、第1乾燥工程(#102)と同様にして、
図4に示したように第2塗工工程(#103)、第2乾燥工程(#104)を行う。ここでは、銅箔15の他方の面15bにも、一方の面15aに塗布した活物質スラリーと同じ活物質スラリーを塗布する場合で説明する。
【0032】
ここで、ロール11〜14には、一方の面15aに既に負極活物質層17が形成されている銅箔15が巻き掛けられている。巻き取りロール13を
図1で時計方向に一定の回転速度で回転させることによって銅箔15は送りロール11からバックアップロール12へと搬送され、その後に巻き取りロール13に巻き取られる。
【0033】
第2塗工工程(#103)においては、第2塗工手段としてのダイヘッド2のスリット2aから銅箔15の他方の面15b(
図1で上面)に向けて活物質スラリーを供給し、銅箔15の他方の面15bに活物質スラリーを塗布する。バックアップロール12は一定速度で一方向(図では時計方向)に回転するため、銅箔15の他方の面15bには所定厚さの活物質スラリー16が間欠的に塗布されることとなる。この場合、
図4に示したように、他方15bの面に塗布される活物質スラリーが、一方の面15aに既に塗布されている活物質スラリー16(乾燥後に活物質層17を形成している)と銅箔15を挟んで同じ位置にくるようにしている。
【0034】
次に、第2乾燥工程(#104)においては、赤外線炉21と熱風乾燥炉23とで構成されている第2乾燥手段20が用いられる。すなわち、他方の面15bに塗布された活物質スラリー16は赤外線炉21からの輻射熱22と、熱風乾燥炉23からの熱風24を受けて高温状態で乾燥される。
【0035】
第2乾燥工程(#104)で他方の面15bに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際にも、銅箔15の他方の面15bを第2冷却手段30を用いて冷却する。第2冷却手段30は送風炉31であり、送風炉31から既に活物質層が形成されている銅箔15の一方の面15a(
図1で下面)に向けて冷風32を送ることで、銅箔15(集電体)を冷却する。これによって他方の面15bに塗布した活物質スラリー16の乾燥効率を下降させることなく、かつ生産性の向上を維持させつつ銅箔15全体の酸化を抑制する。こうして銅箔15の他方の面15bに塗布した活物資スラリー16を乾燥させ負極活物質層17を形成したとき、銅箔15の両面15a、15bに負極活物質層が形成された負極の製造を終了する。
図1、
図4のようにして銅箔15の両面15a、15bに負極活物質層17、17を形成した後には、負極活物質層17、17を形成しなかった部位で銅箔15を切り離す。そして、切り離された各小片も負極となり、上記のようにこの小片の負極、セパレータ、正極をこの順に積することで発電要素が構成される。
【0036】
なお、第1乾燥工程(#102)では送風炉31(第1冷却手段)から銅箔15の他方の面15bに冷風32を送ることによって、また第2乾燥工程(#104)では送風炉31(第2冷却手段)から銅箔15の一方の面15aに冷風32を送ることによって銅箔15を冷却しているが、これに限られない。例えば窒素ガスや二酸化炭素ガスを第1乾燥工程(#102)で銅箔15の他方の面15bに、また第2乾燥工程(#104)で銅箔15の一方の面15aに吹き付けることとしてもかまわない。窒素ガスや二酸化炭素ガスはボンベに高圧充填したものが市販されているので、これらを用いればよい。
【0037】
また、第1実施形態では、吹き付ける気体は常温の大気である場合で説明したが、これに限られない。例えば送風炉31に冷房機能を付与することで、大気温度よりも低い任意の温度の冷風32を吹き付けるようにすることができる。
【0038】
この場合、零下の冷風32を吹き付けることとするには、冷房機能がコストアップとなるが、大きなコストアップを招かずに零下の冷風32を吹き付けることが可能である。例えばドライアイスを用いることが考えられる。ドライアイスは固体から気体へと相変化するときに昇華熱を奪って周囲の温度を下げる。従って、ドライアイスから昇華する二酸化炭素ガスを第1乾燥工程(#102)で銅箔15の他方の面15bに、また第2乾燥工程(#104)で銅箔15の一方の面15aに吹き付けて銅箔15を零下まで冷却することで、銅箔の冷却効率を高めることができる。
【0039】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0040】
本実施形態では、銅箔15(酸化し得る導電性金属で構成される集電体であって帯状に形成されている集電体)を搬送する銅箔搬送手段10(集電体搬送手段)を備え、活物質と結着剤を含む活物質スラリー16を銅箔15の一方の面15aに塗布する第1塗工工程(#101)と、この第1塗工工程(#101)で塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる第1乾燥工程(#102)とを含む電極製造方法において、第1乾燥工程(#102)で一方の面15aに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15の他方の面15bを冷却している(
図1参照)。本実施形態によれば、一方の面15aに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させつつ、大気に触れている銅箔15の他方の面15bを冷却する。つまり、第1乾燥工程(#102)中に冷却工程が組み込まれているので、従来装置のように追加の時間を要する新たな工程の追加とならない。これによって、本実施形態によれば、活物質スラリー16を銅箔15の一方の面15aに直接塗布する場合であっても、生産性を維持しながら酸化し得る導電性金属で構成されている銅箔15全体の酸化を抑制できる。銅箔15の表面に存在する酸化銅の割合を参照例より少なくすることが可能になると、このようにして製造した電極を含む電池を製造した場合に、電池の内部抵抗が高くなることがなく電池のサイクル劣化を抑制できる。
【0041】
本実施形態では、一方の面15aに塗布された活物質スラリーを乾燥させた後に活物質と結着剤を含む活物質スラリーを銅箔15(集電体)の他方の面15bに塗布する第2塗工工程(#103)と、この第2塗工工程(#103)で塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる第2乾燥工程(#104)とを含み、第2乾燥工程(#104)で他方の面15bに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15の一方の面15aを冷却している(
図4参照)。本実施形態によれば、他方の面15bに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させつつ、大気に触れている銅箔15の一方の面15aを冷却するので、活物質スラリー16を銅箔15の他方の面15bに直接塗布する場合であっても活物質スラリー16の乾燥効率を下降させることがないので、生産性の向上を維持しながら酸化し得る導電性金属で構成されている銅箔15全体の酸化を抑制できる。
【0042】
本実施形態によれば、第1乾燥工程(#102)において二酸化炭素ガスまたは窒素ガスを他方の面15bに吹き付けることによって冷却するので、一方の面15aに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15の他方の面15bが二酸化炭素ガスや窒素ガスの雰囲気となって空気中の酸素が銅箔15の他方の面15bに触れることを阻止することとなり、銅箔15の特に他方の面15bが酸化することを抑制できる。同様にして 第2乾燥工程(#104)において二酸化炭素ガスまたは窒素ガスを一方の面15aに吹き付けることによって冷却するので、他方の面15bに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15の一方の面15aが二酸化炭素ガスや窒素ガスの雰囲気となって空気中の酸素が銅箔15の一方の面15aに触れることを阻止することとなり、銅箔15の特に一方の面15aが酸化することを抑制できる。
【0043】
本実施形態によれば、第1乾燥工程(#102)においてドライアイスを備え、ドライアイスからから昇華した二酸化炭素ガスを他方の面15bに吹き付けることによって冷却するので、一方の面15aに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15の他方の面15bが二酸化炭素ガスの雰囲気となって空気中の酸素が銅箔15の他方の面15bに触れることを阻止することとなる。かつドライアイスからから昇華した二酸化炭素ガスは大気の温度より低く、この低温のガスによって銅箔15の温度が低下するので、この温度低下分だけ一方の面15aに塗布された活物質スラリー16を乾燥させる際の温度を上昇させることが可能となり、一方の面15aに塗布された活物質スラリー16の乾燥効率を向上させることができる。同様にして 第2乾燥工程(#104)においてドライアイスを備え、ドライアイスからから昇華した二酸化炭素ガスを一方の面15aに吹き付けることによって冷却するので、他方の面15bに塗布された活物質スラリー16に熱を加えて乾燥させる際に、銅箔15の一方の面15aが二酸化炭素ガスの雰囲気となって空気中の酸素が銅箔15の一方の面15aに触れることを阻止することとなる。かつドライアイスからから昇華した二酸化炭素ガスは大気の温度より低く、この低温のガスによって銅箔15の温度が低下するので、この温度低下分だけ他方の面15bに塗布された活物質スラリー16を乾燥させる際の温度を上昇させることが可能となり、他方の面15bに塗布された活物質スラリー16の乾燥効率を向上させることができる。
【0044】
本実施形態によれば、ガス(二酸化炭素ガスまたは窒素ガス)を吹き付ける方向は銅箔15を搬送する方向と平行であるかまたは平行と同一視し得る許容範囲にあるので(
図2参照)、活物質スラリー16が波打った状態で固化してしまうことを回避できる。
【0045】
(実施例1)
<1>負極活物質スラリーの作製、塗工
負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:20μm)95質量%、導電助剤としてアセチレンブラック2質量%およびバインダとしてSBR 2質量%、CMC1%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるイオン交換水を適量添加して、負極活物質スラリーを作製した。次に、負極活物質スラリーを、ダイコータにより厚さ10μmの銅箔15の一方の面に前記負極活物質スラリーを厚さ150μm均一に間欠塗布した。
【0046】
<2>負極活物質スラリーの乾燥
ついで、負極活物質スラリーが塗布された銅箔15を赤外線炉21、熱風乾燥炉23に通し、負極活物質スラリーを塗布している面15aの側から赤外線250℃、熱風150℃で負極活物質スラリー16の乾燥を行った。この際、負極活物質スラリー16の塗布されている面15aと反対側の銅箔15の面25bには送風炉31から50℃の冷風32を送って冷却した。この送風炉31から送る冷風32の温度を以下「送風温度」という。
【0047】
このようにして銅箔15の一方15aの面に塗布した負極活物質スラリー16の乾燥を終了した後には、銅箔15の他方の面15bにも負極活物質スラリーを塗布し、赤外線炉21、熱風乾燥炉23に通し同様の条件で他方の面15bに塗布した負極活物質スラリー16の乾燥を行った。ただし、既に負極活物質スラリーを乾燥させ負極活物質層17を形成している銅箔15の一方の面15aは、銅箔15が負極活物質層17により大気と接触し難くなっているため、銅箔15の他方の面15bに塗布した負極活物質スラリー16の乾燥の際には、一方の面15aからの冷却は実施していない。
【0048】
<3>正極の作製
正極活物質としてLiMn
2O
4(平均粒子径:15μm)85質量%、導電助剤としてアセチレンブラック 5質量%、およびバインダとしてPVdF 10質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、正極活物質スラリーを作製した。次に、正極活物質スラリーを、集電体であるアルミニウム箔(20μm)の両面に塗布し乾燥・プレスを行い、片面塗工量18mg/cm
2、厚み158μm(箔込み)の正極を作成した。
【0049】
<4>電解液の作製
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(30:30:40(体積比))を溶媒とした。また1.0MのLiPF
6を支持塩とした。さらに、上記溶媒と上記支持塩との合計100質量%に対して、重量比で添加剤を添加して、電解液を作製した。なお、「1.0MのLiPF
6」とは、当該混合溶媒および支持塩の混合物における支持塩(LiPF
6)濃度が1.0Mであるという意味である。
【0050】
<5>単電池の完成工程
上記作製した帯状の正極を187×97mmの長方形状に切断し、切断した小片を改めて正極片とした。この小片の正極片を2枚用意した。同様に上記作製した帯状の負極を191×101mmの長方形状に切断し、切断した小片を改めて負極片とした。この小片の負極片を3枚用意した。これら正極片と負極片とを195×103mmのセパレータ(ポリオレフィン微多孔膜、厚さ25μm)を介して交互に積層した。 これら正極片と負極片それぞれにタブを溶接し、アルミラミネートフィルムからなる外装中に本実施例の電解液とともに密封して単電池を完成させた。
【0051】
<6>電池の評価
上記のようにして作製した非水電解質二次電池(単電池)を電池内部抵抗測定試験とサイクル試験により評価した。電池内部抵抗測定試験は、25℃に保持した恒温槽において、電池温度を25℃にした後、1Cの電流レートで20秒放電し、内部抵抗を算出した。またサイクル試験は、55℃に保持した恒温槽において、電池温度を55℃とした後、性能試験を行った。充電は1Cの電流レートで4.2Vまで定電流充電(CC)し、その後定電圧(CV)で、あわせて3時間充電した。その後、10分間休止時間を設けた後、1Cの電流レートで2.5Vまで放電を行い、その後に10分間の休止時間を設けた。これらを1サイクルとし、充放電試験を実施した。初回の放電容量に対して300サイクル後に放電した割合を容量維持率とした。
【0052】
(実施例2)
実施例2は送風温度を40℃としたもので、他は実施形態と同じ条件である。
【0053】
(実施例3)
実施例3は送風温度を20℃としたもので、他は実施形態と同じ条件である。
【0054】
(実施例4)
実施例4は送風温度を−78.5℃としたもので、他は実施形態と同じ条件である。なお、実施例4ではドライアイスより昇華する二酸化炭素ガスを冷却に用いている。
【0055】
(比較例)
比較例は送風温度を120℃としたもので、他は実施形態と同じ条件である。言い換えると、比較例は本発明を適用する前の電極(電池)に相当する。
【0056】
図5は比較例、実施例〜4の評価結果を表にしたものである。
図5において、「塗膜側」とは銅箔15のうち最初に塗布する一方の面15aの側を、「銅箔側」とは2度目に塗布する他方の面15bの側をいう。
【0057】
図5のピーク面積比については
図6を参照して概説する。比較例及び実施例(実施例1〜4)について、
図6の上段左側は塗布・乾燥前の銅箔15の状態を、
図6の上段右側は塗布・乾燥後の銅箔15の状態を示している。
図6の上段右側では負極活物質層17が間欠的に形成されている。比較例及び実施例(実施例1〜4)について、
図6の下段左側は塗布・乾燥前の銅箔15の表面(A部)のX線光電子分光による測定結果を、
図6の下段右側は塗布・乾燥後の銅箔15の表面(B部)のX線光電子分光による測定結果を示している。X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy)は、サンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素とその電子状態を分析するものである。
【0058】
図6の下段の特性図において横軸は照射したX線を基準としたときの光電子のエネルギー[eV]であり、縦軸は観測された光電子の個数である。なお、
図6の下段左側と
図6の下段右側とでスケールは同じとしている。まず、
図6の下段左側では、横軸が933.7±0.5eVであるところを中心として分布が生じている。この分布は酸化銅(CuO)で、銅が空気中の酸素によって酸化し銅箔15の表面に酸化銅が生じていることを示している。ここで、
図6の下段左側において酸化銅の分布の面積をS1とする。この面積S1は比較例、実施例とも同じである。
【0059】
一方、
図6の下段右側では、実線で示す比較例の場合に横軸が933.7±0.5eVであるところを中心として分布が
図6の下段左側の場合より広がっている。これは、比較例では負極活物質スラリー16を乾燥させる際に銅箔15が高熱に晒され、銅箔15の表面に酸化銅が多く生じたことを示している。ここで、
図6の下段右側において実線の酸化銅の分布の面積をS2とする。この面積S2は
図6の下段左側の面積S1より大きい。
【0060】
しかしながら、
図6の下段右側において破線で示す実施例(実施例1〜4)の場合には、横軸が933.7±0.5eVであるところを中心とする分布の広がりが比較例の場合より小さくなっている。これは、負極活物質スラリーが塗布されている面15aと反対側の銅箔15の面15bを冷却したことにより銅箔15全体の温度が比較例より低下し、その温度差の分だけ負極活物質スラリーが塗布されている面15aの酸化銅の生成を抑制できたことを示している。ここで、
図6の下段右側において破線の酸化銅の分布の面積をS3とする。
図6の下段右側においてこの破線の面積S3は実線の面積S2より小さい。
【0061】
この場合に、
図5の「ピーク面積比」とは、比較例についてはS2/S1、実施例1〜4についてはS3/S1のことで、ピーク面積比が小さい方が酸化銅の生成を抑制できることを表している。これは、
図5より確かめられている。すなわち、比較例についてはピーク面積比S2/S1=2であり、実施例1〜4についてはピーク面積比S3/S1=1.1〜1.45であるので、実施例1〜4については冷却によって酸化銅の生成を抑制できている。
【0062】
酸化銅の生成を抑制できる実施例1〜4によれば、電池内部抵抗が、27.3Ω・cm
2である比較例より小さくなり(20.3〜25.1Ω・cm
2)、300サイクル後の容量維持率も、58.1%である比較例より大きくなっている(61.2〜71.3%)。
【0063】
実施形態では、集電体が銅箔である場合で説明したが、これに限られない。高温に晒されることによって酸化する金属(例えばニッケル)を集電体として用いる電極には本発明の適用がある。また、集電体には金属と樹脂とを複合させた樹脂集電体(導電性金属を一部に含む集電体)が提案されている。このような樹脂集電体においても、樹脂集電体に含まれる金属(例えば銅、ニッケル)が高温に晒されることによって酸化する場合に本発明の適用がある。
【0064】
実施形態では、双極型でない電池で説明したが、これに限られるものでなく双極型の電池にも本発明の適用がある。また、リチウムイオン二次電池の電極を例示したが、これに限られない。他のタイプの二次電池用の電極、さらには一次電池用の電極にも適用できる。また、電池用の電極だけでなく電気二重層キャパシタのような電気化学キャパシタ用の電極にも適用できる。