特許第5834906号(P5834906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834906
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20151203BHJP
   F01N 3/36 20060101ALI20151203BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20151203BHJP
   F02D 45/00 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
   F01N3/08 B
   F01N3/36 B
   F01N3/00 F
   !F02D45/00 360C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-286724(P2011-286724)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-133808(P2013-133808A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】横井 辰久
(72)【発明者】
【氏名】大田 健司
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/079847(WO,A1)
【文献】 特開2011−094572(JP,A)
【文献】 特開2009−264256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤の添加によりNOxを浄化するNOx浄化触媒と、同NOx浄化触媒よりも上流に設けられた前記還元剤を添加する添加弁と、同NOx浄化触媒よりも上流であって同添加弁よりも下流に設けられた排気温度センサとを備え、同排気温度センサにて検出される排気温度に基づいて前記NOx浄化触媒の温度を推定する内燃機関の排気浄化装置において、
還元剤が添加されているときには、添加されていないときに比して前記NOx浄化触媒の推定温度が高くされるとともに、同推定温度を高くするときの当該推定温度の上昇量は前記還元剤の温度が低いときほど大きくされる
ことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記還元剤の添加量が多いときほど、前記上昇量は大きくされる
請求項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記排気温度が高いときほど、前記上昇量は少なくされる
請求項またはに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
排気通路内の排気流量が多いときほど、前記上昇量は少なくされる
請求項のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気中の窒素酸化物(NOx)を浄化するNOx浄化触媒を備える内燃機関の排気浄化装置が知られている。
こうした排気浄化装置では、機関運転中、還元剤供給機構から排気通路に向けて還元剤としての尿素水が噴射される。噴射された尿素水は、排気の熱によって加水分解されてアンモニアとなる。そしてこのアンモニアがNOxの還元剤としてNOx浄化触媒に供給される。
【0003】
ところで、NOx浄化触媒によるNOx還元は同触媒の温度に影響される。そのため還元剤添加の実行許可を判定したり、NOx浄化率を推定したり、NOx浄化触媒のアンモニア吸着量を推定したりするときなどには、NOx浄化触媒の温度等が考慮される。
【0004】
このような排気系に設けられる触媒の温度は、一般的には、特許文献1等に記載されているように排気温度センサで検出される排気温度に基づいて推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−265766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、排気温度センサの検出値に基づいてNOx浄化触媒の温度を推定するに際してその推定精度が低いと、例えば還元剤添加の実行許可を適切に判定することが困難になったり、NOx浄化率の推定精度が悪化したり、アンモニア吸着量の推定精度が悪化したりする。つまりNOx浄化触媒の推定温度の精度が低いと、その推定温度を利用する各種制御や推定値などに悪影響を与えてしまう。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、還元剤が添加されるNOx浄化触媒の温度をより精度よく推定することのできる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。なお、本明細書及び特許請求の範囲に記載の「上流」及び「下流」は、排気系での排気の流れ方向を基準にするものである。
【0009】
請求項1に記載の発明は、還元剤の添加によりNOxを浄化するNOx浄化触媒と、同NOx浄化触媒よりも上流に設けられた前記還元剤を添加する添加弁と、同NOx浄化触媒よりも上流であって同添加弁よりも下流に設けられた排気温度センサとを備え、同排気温度センサにて検出される排気温度に基づいて前記NOx浄化触媒の温度を推定する内燃機関の排気浄化装置において、前記還元剤の温度に応じて前記NOx浄化触媒の推定温度が変更されることをその要旨とする。
【0010】
添加弁よりも下流に排気温度センサが設けられている場合には、同排気温度センサに還元剤が付着しやすくなる。ここで一般に、添加弁から添加される還元剤の温度は排気温度よりも低い。従って、排気温度センサに還元剤が付着すると、還元剤によって排気温度センサが冷却されるため、同センサの検出値は実際の排気温度よりも低くなる。そのため、還元剤が添加されているときには、排気温度センサで検出される排気温度に基づき算出されるNOx浄化触媒の推定温度が実際のNOx浄化触媒の温度よりも低くなりやすい。この点、同構成では、還元剤の温度に応じてNOx浄化触媒の推定温度を変更するようにしている。従って、還元剤添加によるセンサ検出値の低下分を加味してNOx浄化触媒の推定温度を算出することが可能となり、同NOx浄化触媒の温度をより精度よく推定することができるようになる。
【0011】
また、この請求項1に記載の発明は、更に、還元剤が添加されているときには、添加されていないときに比して前記推定温度が高くされるとともに、同推定温度を高くするときの当該推定温度の上昇量は前記還元剤の温度が低いときほど大きくされることその要旨とする。
【0012】
還元剤の温度が低くなるにつれて同還元剤による排気温度センサの冷却効果は高くなるため、同センサで検出される排気温度も低くなる。従って、還元剤の温度が低くなるにつれて、NOx浄化触媒の推定温度は実際の温度よりも低くなるとともに、実際の温度に対する推定温度の誤差量も大きくなる。
【0013】
そこで、同構成によるように、還元剤が添加されているときには、添加されていないときに比して前記推定温度が高くされるとともに、同推定温度を高くするときの当該推定温度の上昇量は前記還元剤の温度が低いときほど大きくされる、という構成を採用することにより、還元剤が添加されているときの推定温度の上昇量が還元剤の温度に応じて可変設定されるようになるため、推定温度の精度が更に向上するようになる。
【0014】
還元剤の添加量が多くなるにつれて同還元剤による排気温度センサの冷却効果は大きくなるため、同センサで検出される排気温度も低くなる。従って、還元剤の添加量が多くなるにつれて、NOx浄化触媒の推定温度は実際の温度よりも低くなるとともに、実際の温度に対する推定温度の誤差量も大きくなる。
【0015】
そこで、請求項に記載の発明によるように、還元剤の添加量が多いときほど、前記上昇量は大きくされる、という構成を採用することにより、還元剤が添加されているときの推定温度の上昇量が還元剤の添加量に応じて可変設定されるようになるため、推定温度の精度が更に向上するようになる。
【0016】
また、還元剤添加が排気温度センサの検出値に与える影響は、内燃機関から排出される排気の温度が高いときほど小さくなる。また、還元剤添加が排気温度センサの検出値に与える影響は、排気通路内の排気流量が多いときほど小さくなる。
【0017】
そこで、請求項に記載の発明によるように、排気温度が高いときほど前記上昇量は少なくされる、という構成や、請求項に記載の発明によるように、排気通路内の排気流量が多いときほど前記上昇量は少なくされる、という構成を採用することにより、推定温度の精度がより一層向上するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置の一実施形態について、これが適用される内燃機関及びその周辺構成を示す概略図。
図2】同実施形態における床温の推定処理の手順を示すフローチャート。
図3】排気流量及び車速及び外気温と放熱温度との関係を示すグラフ。
図4】第2排気温度と乖離温度との関係を示すグラフ。
図5】尿素添加量及び第2排気温度及び排気流量及び尿素水温度とセンサ冷却温度との関係を示すグラフ。
図6】排気流量となまし係数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明にかかる内燃機関の排気浄化装置を具体化した一実施形態について、図1図6を参照して説明する。
図1に、本実施形態にかかる排気浄化装置が適用されたディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」という)、並びにそれらの周辺構成を示す概略構成図を示す。
【0020】
エンジン1には複数の気筒#1〜#4が設けられている。シリンダヘッド2には複数の燃料噴射弁4a〜4dが取り付けられている。これら燃料噴射弁4a〜4dは各気筒#1〜#4の燃焼室に燃料を噴射する。また、シリンダヘッド2には新気を気筒内に導入するための吸気ポートと、燃焼ガスを気筒外へ排出するための排気ポート6a〜6dとが各気筒#1〜#4に対応して設けられている。
【0021】
燃料噴射弁4a〜4dは、高圧燃料を蓄圧するコモンレール9に接続されている。コモンレール9はサプライポンプ10に接続されている。サプライポンプ10は燃料タンク内の燃料を吸入するとともにコモンレール9に高圧燃料を供給する。コモンレール9に供給された高圧燃料は、各燃料噴射弁4a〜4dの開弁時に同燃料噴射弁4a〜4dから気筒内に噴射される。
【0022】
吸気ポートにはインテークマニホールド7が接続されている。インテークマニホールド7は吸気通路3に接続されている。この吸気通路3内には吸入空気量を調整するための吸気絞り弁16が設けられている。
【0023】
排気ポート6a〜6dにはエキゾーストマニホールド8が接続されている。エキゾーストマニホールド8は排気通路26に接続されている。
排気通路26の途中には、排気圧を利用して気筒に導入される吸入空気を過給するターボチャージャ11が設けられている。同ターボチャージャ11の吸気側コンプレッサと吸気絞り弁16との間の吸気通路3にはインタークーラ18が設けられている。このインタークーラ18によって、ターボチャージャ11の過給により温度上昇した吸入空気の冷却が図られる。
【0024】
また、排気通路26の途中にあって、ターボチャージャ11の排気側タービンの下流には、排気を浄化する第1浄化部材30が設けられている。この第1浄化部材30の内部には、排気の流れ方向に対して直列に酸化触媒31及びDPF触媒32が配設されている。
【0025】
酸化触媒31には、排気中のHCを酸化処理する触媒が担持されている。また、DPF触媒32は、排気中のPM(粒子状物質)を捕集するフィルタであって多孔質のセラミックで構成されており、さらにはPMの酸化を促進させるための触媒が担持されている。排気中のPMは、DPF触媒32の多孔質の壁を通過する際に捕集される。なお、このDPF触媒32は、上記排気浄化部材を構成している。
【0026】
また、エキゾーストマニホールド8の集合部近傍には、酸化触媒31やDPF触媒32に添加剤として燃料を供給するための燃料添加弁5が設けられている。この燃料添加弁5は、燃料供給管27を介して前記サプライポンプ10に接続されている。なお、燃料添加弁5の配設位置は、排気系にあって第1浄化部材30の上流側であれば適宜変更するも可能である。
【0027】
DPF触媒32に捕集されたPMの量が所定値を超えると、DPF触媒32の再生処理が開始されて燃料添加弁5からはエキゾーストマニホールド8内に向けて燃料が噴射される。この燃料添加弁5から噴射された燃料は、酸化触媒31に達すると燃焼され、これにより排気温度の上昇が図られる。そして、酸化触媒31にて昇温された排気がDPF触媒32に流入することにより、同DPF触媒32は昇温され、これによりDPF触媒32に堆積したPMが酸化処理されてDPF触媒32の再生が図られる。
【0028】
また、排気通路26の途中にあって、第1浄化部材30の下流には、排気を浄化する第2浄化部材40が設けられている。第2浄化部材40の内部には、還元剤を利用して排気中のNOxを還元浄化するNOx浄化触媒としての選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒という)41が配設されている。
【0029】
さらに、排気通路26の途中にあって、第2浄化部材40の下流には、排気を浄化する第3浄化部材50が設けられている。第3浄化部材50の内部には、排気中のアンモニアを浄化するアンモニア酸化触媒51が配設されている。
【0030】
エンジン1には、上記SCR触媒41に還元剤を供給する還元剤供給機構としての尿素水供給機構200が設けられている。尿素水供給機構200は、尿素水を貯留するタンク210、排気通路26内に尿素水を噴射供給する尿素添加弁230、尿素添加弁230とタンク210とを接続する供給通路240、供給通路240の途中に設けられたポンプ220にて構成されている。タンク210には、尿素水の温度である尿素水温度THNを検出する温度センサ250が設けられている。なお、この温度センサ250の配設位置は、尿素水の温度を検出可能な位置であれば任意に変更することができる。
【0031】
尿素添加弁230は、第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26に設けられており、その噴射孔はSCR触媒41に向かって開口されている。この尿素添加弁230が開弁されると、供給通路240を介して排気通路26内に尿素水が噴射供給される。
【0032】
ポンプ220は電動式のポンプであり、正回転時には、タンク210から尿素添加弁230に向けて尿素水を送液する。一方、逆回転時には、尿素添加弁230からタンク210に向けて尿素水を送液する。つまり、ポンプ220の逆回転時には、尿素添加弁230及び供給通路240から尿素水が回収されてタンク210に戻される。
【0033】
また、尿素添加弁230とSCR触媒41との間の排気通路26内には、尿素添加弁230から噴射された尿素水を分散させることにより同尿素水の霧化を促進する分散板60が設けられている。
【0034】
尿素添加弁230から噴射された尿素水は、排気の熱によって加水分解されてアンモニアとなる。そしてこのアンモニアがNOxの還元剤としてSCR触媒41に供給される。SCR触媒41に供給されたアンモニアは、同SCR触媒41に吸蔵されてNOxの還元に利用される。なお、加水分解されたアンモニアの一部は、SCR触媒41に吸蔵される前に直接NOxの還元に利用される。
【0035】
この他、エンジン1には排気再循環装置(以下、EGR装置という)が備えられている。このEGR装置は、排気の一部を吸入空気に導入することで気筒内の燃焼温度を低下させ、NOxの発生量を低減させる装置である。この排気再循環装置は、吸気通路3とエキゾーストマニホールド8とを連通するEGR通路13、同EGR通路13に設けられたEGR弁15、及びEGRクーラ14等により構成されている。EGR弁15の開度が調整されることにより排気通路26から吸気通路3に導入される排気再循環量、すなわちEGR量が調量される。また、EGRクーラ14によってEGR通路13内を流れる排気の温度が低下される。
【0036】
エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが取り付けられている。例えば、エアフロメータ19は吸気通路3内の吸入空気量GAを検出する。絞り弁開度センサ20は吸気絞り弁16の開度を検出する。機関回転速度センサ21はクランクシャフトの回転速度、すなわち機関回転速度NEを検出する。アクセルセンサ22はアクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセル操作量ACCPを検出する。外気温センサ23は、外気温THoutを検出する。車速センサ24はエンジン1が搭載された車両の車速SPを検出する。イグニッションスイッチ25は、車両の運転者によるエンジン1の始動操作及び停止操作を検出する。
【0037】
また、酸化触媒31よりも上流の排気通路に設けられた第1排気温度センサ100は、酸化触媒31に流入する前の排気温度である第1排気温度TH1を検出する。差圧センサ110は、DPF触媒32の上流及び下流の排気圧の圧力差である差圧ΔPを検出する。
【0038】
第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26にあって、尿素添加弁230の上流には、第1NOxセンサ130が設けられている。第1NOxセンサ130は、SCR触媒41に流入する前の排気中のNOx濃度、つまりSCR触媒41で浄化される前の排気中のNOx濃度である第1NOx濃度N1を検出する。
【0039】
また、第1浄化部材30と第2浄化部材40との間の排気通路26にあって、尿素添加弁230の下流には、第2排気温度センサ120が設けられている。より具体的に、SCR触媒41を内部に固定する外筒(第2浄化部材40の外筒)にあって同SCR触媒41よりも上流の部位に第2排気温度センサ120は設けられている。この第2排気温度センサ120は、SCR触媒41に流入する前の排気温度である第2排気温度TH2を検出する。
【0040】
第3浄化部材50よりも下流の排気通路26には、SCR触媒41で浄化された排気のNOx濃度である第2NOx濃度N2を検出する第2NOxセンサ140が設けられている。
【0041】
これら各種センサ等の出力は制御装置80に入力される。この制御装置80は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0042】
そして、制御装置80により、例えば燃料噴射弁4a〜4dや燃料添加弁5の燃料噴射量制御・燃料噴射時期制御、サプライポンプ10の吐出圧力制御、吸気絞り弁16を開閉するアクチュエータ17の駆動量制御、EGR弁15の開度制御等、エンジン1の各種制御が行われる。
【0043】
また、上記DPF触媒32に捕集されたPMを燃焼させる上記再生処理等といった各種の排気浄化制御も同制御装置80によって行われる。
制御装置80は、そうした排気浄化制御の一つとして、上記尿素添加弁230による尿素水の添加制御を行う。この添加制御では、まず、SCR触媒41の推定床温STが所定の許可温度を超えているか否かが判定される。そして、推定床温STが許可温度を超えているときには、SCR触媒41の温度がNOx還元に適した温度になっており、尿素水を添加してもよい状態であると判断される。こうして尿素水の添加が許可されると、エンジン1から排出されるNOxを還元処理するために必要な尿素添加量QEが機関運転状態等に基づいて算出される。そして、この算出された尿素添加量QEが尿素添加弁230から噴射されるように、同尿素添加弁230の開弁状態が制御される。
【0044】
また、SCR触媒41は、床温が高くなるほどアンモニアの吸着量が少なくなる一方で、アンモニアの脱離量は多くなる。そのため、SCR触媒41のアンモニア吸着量を推定するパラメータの一つとして同SCR触媒41の推定床温STが利用される。また、アンモニアの脱離量が多くなるほどNOx浄化率は高くなる傾向があるため、NOx浄化率を推定するパラメータの一つとしてもSCR触媒41の推定床温STが利用される。
【0045】
このように推定床温STは各種制御や推定値の算出に利用される値であり、同推定床温STの推定精度が低いと、それら各種制御や推定値の算出に悪影響を与えてしまう。
そこで、本実施形態では、SCR触媒41に流入する前の排気温度である第2排気温度TH2に基づいてSCR触媒41の床温を推定するようにしているが、その推定に際しては図2に示す推定処理を行うことにより、推定床温STの推定精度を高めるようにしている。なお、この推定処理は、制御装置80によって所定周期毎に繰り返し実行される。
【0046】
本処理が開始されるとまず、第2排気温度TH2、吸入空気量GAから算出される排気流量EA、車速SP、及び外気温THAに基づいて放熱温度HTが算出される(S100)。この放熱温度HTは、第2排気温度センサ120の配設位置からSCR触媒41の排気上流側の端面までの間において排気から放熱される温度である。そして、排気流量EAが少なくなるほど、排気からSCR触媒41の外筒へ移動する熱量は多くなる。また、車速SPが高いときほど、走行風による同外筒の冷却が促されるため、排気からSCR触媒41の外筒へ移動する熱量は多くなる。また、外気温THAが低いときほど、排気とSCR触媒41の外筒との温度差が大きくなるため、排気から同外筒へ移動する熱量は多くなる。また、第2排気温度TH2が高いときほど、排気とSCR触媒41の外筒との温度差が大きくなるため、排気から同外筒に移動する熱量は多くなる。従って、図3に示すように、排気流量EAが少なくなるほど、放熱温度HTの値は大きくされる。また、車速SPが高いときほど、放熱温度HTの値は大きくされる。また、外気温THAが低いときほど、放熱温度HTの値は大きくされる。そして第2排気温度TH2が高いときほど、放熱温度HTの値は大きくされる。
【0047】
次に、第2排気温度TH2及び排気流量EAに基づいて乖離温度KTが算出される(S110)。この乖離温度KTは、次のような温度である。すなわち、排気通路26内では排気の偏流が生じるため、排気の偏流状態と第2排気温度センサ120の検出素子との位置関係に応じて、主流となる排気の温度(つまりSCR触媒41に流入する排気の温度により近い温度)と第2排気温度TH2との間には乖離が生じる。そこで、第2排気温度TH2から主流となる排気の温度を減じた値を乖離温度KTとして規定するようにしている。そして排気の偏流状態は、排気流量EAに応じて種々変化するため、排気流量EAに応じて乖離温度KTが可変設定される。また、第2排気温度TH2が高いときほど上述した乖離の度合は大きくなる傾向がある場合には、図4に示すように、第2排気温度TH2が高いときほど乖離温度KTの値は大きくされる。
【0048】
次に、尿素添加量QE、第2排気温度TH2、排気流量EA、及び尿素水温度THNに基づいてセンサ冷却温度RTSが算出される(S120)。このセンサ冷却温度RTSは、還元剤添加によって第2排気温度センサ120が冷却されることで生じる第2排気温度TH2の温度低下量であり、次のようにして算出される。
【0049】
まず、第2排気温度センサ120は尿素添加弁230よりも下流に設けられているため、同第2排気温度センサ120には尿素水が付着しやすい。ここで一般に、尿素添加弁230から添加される尿素水の温度は排気温度よりも低い。従って、第2排気温度センサ120に尿素水が付着すると、尿素水によって第2排気温度センサ120が冷却されるため、同センサ120の検出値である第2排気温度TH2は、実際の排気温度よりも低くなる。そして尿素水の温度が低くなるにつれて、尿素水による第2排気温度センサ120の冷却効果は高くなるため、同センサ120で検出される排気温度も低くなる。従って、尿素水温度THNが低くなるにつれて、SCR触媒41の推定床温STは実際の温度よりも低くなり、実際の温度に対する推定床温STの誤差量が大きくなる。
【0050】
また、尿素水の添加量が多くなるにつれて、尿素水による第2排気温度センサ120の冷却効果は大きくなるため、同センサ120で検出される第2排気温度TH2も低くなる。また、尿素水添加が第2排気温度センサ120の検出値に与える影響は、エンジン1から排出される排気の温度が高いときほど小さくなる。また、排気流量EAが多いときほど、熱量を持った排気の体積に対して添加される尿素水の量が相対的に減るため、尿素水添加が第2排気温度センサ120の検出値に与える影響は小さくなる。
【0051】
従って、図5に示すように、尿素添加量QEが多いときほどセンサ冷却温度RTSの値は大きくなるように同センサ冷却温度RTSは可変設定される。また、第2排気温度TH2が高いときほどセンサ冷却温度RTSの値は小さくなるように同センサ冷却温度RTSは可変設定される。また、排気流量EAが多いときほどセンサ冷却温度RTSの値は小さくなるように同センサ冷却温度RTSは可変設定される。そして、尿素水温度THNが低いときほどセンサ冷却温度RTSの値は大きくなるように同センサ冷却温度RTSは可変設定される。
【0052】
次に、排気流量EAに基づいてなまし係数Kが算出される(S140)。このなまし係数Kは、第2排気温度TH2が変化したときのSCR触媒41の実際の温度の変化遅れを補償する値であり、次式(1)によるなまし処理に利用される。そして、排気流量EAが多いときほど上記変化遅れの時間は短くなるため、図6に示すように、排気流量EAが多いときほど、なまし係数Kは小さい値に設定される。これにより次式(1)から算出される推定床温STは、排気流量EAが多いときほど、第2排気温度TH2の変化に対してより速やかに変化するようになる。
【0053】
次に、本処理が前回実行されたときに算出された推定床温STp、現在の第2排気温度TH2、上記ステップS100にて算出された放熱温度HT、上記ステップS110にて算出された乖離温度KT、上記ステップS120にて算出されたセンサ冷却温度RTS、及び上記ステップS130にて算出されたなまし係数Kに基づいて推定床温STが更新される。この推定床温STを更新するステップS140の処理では、次式(1)に基づいたなまし処理にて推定床温STが算出される。
【0054】

ST=STp+(((TH2−HT−KT+RTS)−STp)/K) …(1)
ST:今回の推定床温(更新後の推定床温)
STp:前回の推定床温(更新前の推定床温)
TH2:第2排気温度
HT:放熱温度
KT:乖離温度
RTS:センサ冷却温度
K:なまし係数

こうして推定床温STが算出されると、本処理は一旦終了される。なお、ステップS100からステップS130までの各処理は、それらの実行順序を適宜変更してもよい。
【0055】
次に、本実施形態の作用を説明する。
第2排気温度センサ120は尿素添加弁230よりも下流に設けられているため、同第2排気温度センサ120には尿素水が付着しやすい。ここで一般に、尿素添加弁230から添加される尿素水の温度は排気温度よりも低い。従って、第2排気温度センサ120に尿素水が付着すると、尿素水によって第2排気温度センサ120が冷却されるため、同センサ120のセンサ検出値である第2排気温度TH2は、実際の排気温度よりも低くなる。そのため、尿素水が添加されているときには、第2排気温度センサ120で検出される第2排気温度TH2に基づき算出されるSCR触媒41の推定床温STが実際の推定床温STよりも低くなりやすい。
【0056】
そこで本実施形態では、第2排気温度TH2に基づいて推定床温STを算出するようにしているが、この推定床温STの算出に際して、尿素水添加によるセンサ検出値の低下量を示す上記センサ冷却温度RTSを算出し、上記式(1)では第2排気温度TH2にセンサ冷却温度RTSを加算するようにしている。これにより、尿素水が添加されているときには、添加されていないときに比して推定床温STが高くなるように、尿素水の温度に応じてSCR触媒41の推定床温STが変更される。従って、尿素水添加によるセンサ検出値の低下分を加味してSCR触媒41の推定床温STを算出することが可能となり、SCR触媒41の温度をより精度よく推定することができるようになる。
【0057】
また、尿素水温度THNが低くなるにつれて、尿素水による第2排気温度センサ120の冷却効果は高くなるため、同センサ120で検出される第2排気温度TH2も低くなる。そこで、先の図5に示したように、尿素水温度THNが低いときほどセンサ冷却温度RTSの絶対値が大きくなるようにすることで、尿素水が添加されるときの推定床温STの上昇量が大きくなるようにしている。従って、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量が尿素水の温度に応じて可変設定されるようになるため、推定床温STの精度が更に向上するようになる。
【0058】
また、尿素水の添加量が多くなるにつれて、尿素水による第2排気温度センサ120の冷却効果は高くなるため、同センサ120で検出される第2排気温度TH2も低くなる。そこで、先の図5に示したように、尿素添加量QEが多いときほどセンサ冷却温度RTSの絶対値が大きくなるようにすることで、尿素水が添加されている推定床温STの上昇量が大きくなるようにしている。従って、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量が尿素水の添加量に応じて可変設定されるようになるため、推定床温STの精度が更に向上するようになる。
【0059】
また、尿素水添加が第2排気温度センサ120の検出値に与える影響は、上述したようにエンジン1から排出される排気の温度が高いときほど小さくなる。そこで、先の図5に示したように、第2排気温度TH2が高いときほどセンサ冷却温度RTSの絶対値が小さくなるようにすることで、第2排気温度TH2が低いときほど推定床温STの上昇量は小さくなるようにしている。従って、推定床温STの精度がより一層向上するようになる。
【0060】
また、上述したように尿素水添加が第2排気温度センサ120の検出値に与える影響は、排気通路26内の排気流量EAが多いときほど小さくなる。そこで、先の図5に示したように、排気流量EAが多いときほどセンサ冷却温度RTSの絶対値が小さくなるようにすることで、排気流量EAが多いときほど推定床温STの上昇量は小さくなるようにしている。従って、これによっても推定床温STの精度がより一層向上するようになる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第2排気温度センサ120の検出値に基づいてSCR触媒41の床温を推定するようにしている。そして、尿素水の温度に応じてSCR触媒41の推定床温STが変更されるようにしている。より具体的には、尿素水が添加されているときには、添加されていないときに比して推定床温STが高くなるようにしている。従って、尿素水添加による第2排気温度センサ120のセンサ検出値の低下分を加味してSCR触媒41の推定床温STを算出することが可能となり、SCR触媒41の温度をより精度よく推定することができるようになる。
【0062】
(2)尿素水温度THNが低いときほどセンサ冷却温度RTSの値が大きくなるようにすることで、尿素水温度THNが低いときほど、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量が大きくなるようにしている。このように尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量が尿素水の温度に応じて可変設定されるようになるため、推定床温STの精度が更に向上するようになる。
【0063】
(3)尿素添加量QEが多いときほどセンサ冷却温度RTSの値が大きくなるようにすることで、尿素添加量QEが多いときほど、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量が大きくなるようにしている。このように尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量が尿素水の添加量に応じて可変設定されるようになるため、推定床温STの精度が更に向上するようになる。
【0064】
(4)第2排気温度TH2が高いときほどセンサ冷却温度RTSの値が小さくなるようにすることで、第2排気温度TH2が低いときほど、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量は小さくなるようにしている。従って、推定床温STの精度がより一層向上するようになる。
【0065】
(5)排気流量EAが多いときほどセンサ冷却温度RTSの値が小さくなるようにすることで、排気流量EAが多いときほど、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量は小さくなるようにしている。従って、これによっても推定床温STの精度がより一層向上するようになる。
【0066】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・センサ冷却温度RTSを算出するためのパラメータとして、尿素添加量QE、第2排気温度TH2、排気流量EA、及び尿素水温度THNという4つのパラメータを用いるようにしたが、尿素添加量QEを省略したり、第2排気温度TH2を省略したり、排気流量EAを省略したりしてもよい。また、尿素添加量QE及び第2排気温度TH2を省略したり、第2排気温度TH2及び排気流量EAを省略したり、尿素添加量QE及び排気流量EAを省略したりしてもよい。
【0067】
・尿素水の温度に応じてSCR触媒41の推定床温STを変更するために、より具体的には、尿素水が添加されているときには、添加されていないときに比して推定床温STが高くなるように、センサ冷却温度RTSを尿素水温度THNに基づいて可変設定するようにした。この他、より簡易的には、尿素水が添加されているときの推定床温STの上昇量を一定にしてもよい。例えば、尿素水が添加されていないときには、尿素水温度THNに基づくセンサ冷却温度RTSの設定温度を「0」とし、尿素水が添加されているときには、尿素水温度THNに基づくセンサ冷却温度RTSの設定温度を、適宜設定された「0」以外の一定値としてもよい。
【0068】
・推定床温STの算出に際しては第2排気温度TH2のなまし処理を行うようにしたが、こうしたなまし処理は必ずしも行わなくてもよい。
・第2排気温度センサはSCR触媒41の外筒に設けられていた。その他、尿素添加弁230と外筒との間の排気通路26であれば、同第2排気温度センサ120の配設位置は任意に変更することができる。
【0069】
・尿素水の温度に応じてSCR触媒41の推定床温STを変更するために、センサ冷却温度RTSを可変設定するようにしたが、この他の態様を用いてもよい。要は、尿素水添加による第2排気温度センサ120の検出値の低下が、SCR触媒41の推定床温STに反映されるようにすればよい。
【0070】
・還元剤として尿素水を使用するようにしたが、この他の還元剤を使用するようにしてもよい。
・上記実施形態における排気系の構成を一例であり、還元剤の添加によりNOxを浄化するNOx浄化触媒と、還元剤を添加する添加弁と、この添加弁よりも下流に設けられた排気温度センサとを備えており、この排気温度センサの検出値に基づいてNOx浄化触媒の温度を推定する排気浄化装置であれば、本発明は同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…エンジン、2…シリンダヘッド、3…吸気通路、4a〜4d…燃料噴射弁、5…燃料添加弁、6a〜6d…排気ポート、7…インテークマニホールド、8…エキゾーストマニホール、9…コモンレール、10…サプライポンプ、11…ターボチャージャ、13…EGR通路、14…EGRクーラ、15…EGR弁、16…吸気絞り弁、17…アクチュエータ、18…インタークーラ、19…エアフロメータ、20…絞り弁開度センサ、21…機関回転速度センサ、22…アクセルセンサ、23…外気温センサ、24…車速センサ、25…イグニッションスイッチ、26…排気通路、27…燃料供給管、30…第1浄化部材、31…酸化触媒、32…フィルタ、40…第2浄化部材、41…NOx浄化触媒(選択還元型NOx触媒:SCR触媒)、50…第3浄化部材、51…アンモニア酸化触媒、60…分散板、80…制御装置、100…第1排気温度センサ、110…差圧センサ、120…第2排気温度センサ、130…第1NOxセンサ、140…第2NOxセンサ、200…尿素水供給機構、210…タンク、220…ポンプ、230…尿素添加弁、240…供給通路、250…温度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6