特許第5834917号(P5834917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧
特許5834917炭素繊維プリプレグの製造方法、炭素繊維強化複合材料の製造方法
<>
  • 特許5834917-炭素繊維プリプレグの製造方法、炭素繊維強化複合材料の製造方法 図000009
  • 特許5834917-炭素繊維プリプレグの製造方法、炭素繊維強化複合材料の製造方法 図000010
  • 特許5834917-炭素繊維プリプレグの製造方法、炭素繊維強化複合材料の製造方法 図000011
  • 特許5834917-炭素繊維プリプレグの製造方法、炭素繊維強化複合材料の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834917
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】炭素繊維プリプレグの製造方法、炭素繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   C08J5/24CFC
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2011-551336(P2011-551336)
(86)(22)【出願日】2011年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2011077750
(87)【国際公開番号】WO2012081407
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-276746(P2010-276746)
(32)【優先日】2010年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-38043(P2011-38043)
(32)【優先日】2011年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小関 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】高岸 宏至
(72)【発明者】
【氏名】小路谷 剛
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−161797(JP,A)
【文献】 特開2009−074009(JP,A)
【文献】 特開2004−143645(JP,A)
【文献】 特開2001−248076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
15/08−15/14
C08J 5/04−5/10
5/24
D01F 9/14
D06M 15/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の炭素繊維単糸からなる炭素繊維束と該炭素繊維束に含浸されているマトリックス樹脂からなる炭素繊維プリプレグであって、繊維配向角度が0°±3°以上の前記炭素繊維単糸の投影面積が、全体の前記炭素繊維単糸の投影面積の2%以下であり、前記炭素繊維プリプレグにおけるマトリックス樹脂の含有率が、15質量%乃至50質量%である炭素繊維プリプレグを製造する炭素繊維プリプレグの製造方法において、前記炭素繊維束に前記マトリックス樹脂を含浸させる前に、前記炭素繊維束に0.3乃至6cN/texの張力を付与して当該炭素繊維束を形成している多数の炭素繊維単糸を引き揃え、拡幅ロール1段当りの平均で10%以下の拡幅幅で、該炭素繊維束を予め目的幅の80乃至98%まで拡幅する工程を含む炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項2】
多数の炭素繊維単糸からなる炭素繊維束と該炭素繊維束に含浸されているマトリックス樹脂からなる炭素繊維プリプレグであって、該炭素繊維プリプレグを前記炭素繊維束の配列方向と直角に切断したときの切断面における前記炭素繊維プリプレグの表面からの深さが30μmであり、幅が100μmである単位面積当たりに含まれる前記炭素繊維単糸の数の百分率で表示した変動係数の値が、10%以下であり、前記炭素繊維プリプレグにおけるマトリックス樹脂の含有率が、15質量%乃至50質量%である炭素繊維プリプレグを製造する炭素繊維プリプレグの製造方法において、前記炭素繊維束に前記マトリックス樹脂を含浸させる前に、前記炭素繊維束に0.3乃至6cN/texの張力を付与して当該炭素繊維束を形成している多数の炭素繊維単糸を引き揃え、拡幅ロール1段当りの平均で10%以下の拡幅幅で、該炭素繊維束を予め目的幅の80乃至98%まで拡幅する工程を含む炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項3】
繊維配向角度が0°±3°以上の前記炭素繊維単糸の投影面積が、全体の前記炭素繊維単糸の投影面積の2%以下である請求項2に記載の炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項4】
繊維配向角度が0°±3°以上の前記炭素繊維単糸の投影面積が、全体の前記炭素繊維単糸の投影面積の0.8%以下である請求項1または3に記載の炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項5】
前記炭素繊維単糸の長径/短径比が、1.00乃至1.10であり、かつ、前記炭素繊維単糸の表面平滑度が、20以下である請求項1または2に記載の炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項6】
前記炭素繊維単糸の表面のSi/C原子数比率が、0.01以下である請求項1または2に記載の炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項7】
前記炭素繊維プリプレグにおける炭素繊維の目付が、30g/m乃至100g/mである請求項1または2に記載の炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項8】
前記マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂組成物である請求項1または2に記載の炭素繊維プリプレグの製造方法
【請求項9】
炭素繊維束に付与する前記張力が、0.5乃至6cN/texである請求項1乃至8のいずれかに記載の炭素繊維プリプレグの製造方法。
【請求項10】
前記炭素繊維束における繊維交絡度が、10以下である請求項1乃至8のいずれかに記載の炭素繊維プリプレグの製造方法。
【請求項11】
前記炭素繊維束のドレープ値が、5cm乃至18cmである請求項1乃至8のいずれかに記載の炭素繊維プリプレグの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の炭素繊維プリプレグの製造方法により炭素繊維プリプレグを製造した後、前記マトリックス樹脂を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の炭素繊維単糸からなる炭素繊維束とマトリックス樹脂からなる炭素繊維プリプレグ、および、その製造方法に関する。また、本発明は、本発明の炭素繊維プリプレグを成形して得られる炭素繊維強化複合材料に関する。本発明の炭素繊維プリプレグにより、外観品位が良好な炭素繊維強化複合材料が提供される。
【背景技術】
【0002】
従来の多数の炭素繊維単糸からなる炭素繊維束とマトリックス樹脂からなる炭素繊維プリプレグにおいては、それを構成する炭素繊維束が一方向に引き揃えられたプリプレグであったとしても、炭素繊維束内の炭素繊維単糸の部分的な凝集や、炭素繊維束の部分的な位置のゆらぎ、炭素繊維束内の炭素繊維単糸の部分的なねじれなどが、プリプレグの表面に存在していた。そのため、これを用いて成形された成形体(炭素繊維強化複合材料)は、その表面の外観品位の均一性の視点からすると、意匠性に乏しいものであった。
【0003】
この炭素繊維束内の炭素繊維単糸の部分的な凝集による炭素繊維単糸の分散斑は、成形体の表面に明度の濃淡を発生させている。また、ゆらぎや、ねじれなどの炭素繊維単糸の配向の乱れは、成形体の表面への光の入射角によって見え方が変わるため、成形体の表面を見る人に不快感を与えていた 。この不快感は、しばしば、“イラツキ”、“ギラツキ”、“ユラギ”などと呼称され、敬遠され、このような不快感がない成形体が望まれていた。
【0004】
この不快感は、成形体の外観斑に基づくものであるため、不快感を回避するために、成形体の表面に塗装等を施し、外観斑が見え難いようにしていた。しかし、このような表面への付加的な処理は、成形体の重量増加をもたらす上、炭素繊維が備えている意匠性が発揮できなくなる問題があった。一方、内部状態の分かる透明な塗装(クリア塗装)を施す場合は、前述の不快感が存在するため、その解消、すなわち、意匠性の改善が望まれていた。
【0005】
従来、特許文献1乃至11に示されるように、成形時の樹脂フローを規定して樹脂の流れを抑制する方法や、表面を半透明なガラススクリムクロスで隠蔽する方法により、斑を分かり難くする方法はあった。しかし、これらはいずれも外観を大きく損なう欠点の発生を抑制する成形性の改善であり、炭素繊維強化複合材料の意匠性の向上を目指すものではなく、その成形不良の改善に留まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2009/0110872A1
【特許文献2】JP2009−292977A
【特許文献3】JP2009−292976A
【特許文献4】JP2004−099814A
【特許文献5】JP2002−069754A
【特許文献6】JP2000−273224A
【特許文献7】JP2000−198112A
【特許文献8】JP2000−086784A
【特許文献9】JP09−087359A
【特許文献10】JP08−020708A
【特許文献11】JP08−020654A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面の視覚的な斑が解消された炭素繊維複合材料を製造するのに相応しい炭素繊維プリプレグ、すなわち、外観の均一性が高い炭素繊維プリプレグを提供すること、また、その製造方法を提供すること、更には、外観品位が良好な炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するための本発明の炭素繊維プリプレグの製造方法の一つは、次の通りである。
【0009】
多数の炭素繊維単糸からなる炭素繊維束と該炭素繊維束に含浸されているマトリックス樹脂からなる炭素繊維プリプレグであって、該炭素繊維プリプレグを前記炭素繊維束の配列方向と直角に切断したときの切断面における前記炭素繊維プリプレグの表面からの深さが30μmであり、幅が100μmである単位面積当たりに含まれる前記炭素繊維単糸の数の百分率で表示した変動係数の値が、10%以下であり、前記炭素繊維プリプレグにおけるマトリックス樹脂の含有率が、15質量%乃至50質量%である炭素繊維プリプレグを製造する炭素繊維プリプレグの製造方法において、前記炭素繊維束に前記マトリックス樹脂を含浸させる前に、前記炭素繊維束に0.3乃至6cN/texの張力を付与して当該炭素繊維束を形成している多数の炭素繊維単糸を引き揃え、拡幅ロール1段当りの平均で10%以下の拡幅幅で、該炭素繊維束を予め目的幅の80乃至98%まで拡幅する工程を含む炭素繊維プリプレグの製造方法
【0010】
ここで、炭素繊維束の配列方向とは、炭素繊維束の長手の方向、すなわち、繊維軸の方向を云う。
【0011】
以下において、この炭素繊維プリプレグの製造方法に係る炭素繊維プリプレグを、第1の炭素繊維プリプレグと呼称する場合がある。
【0012】
本発明の目的を達成するための本発明の炭素繊維プリプレグの製造方法の他の一つは、次の通りである。
【0013】
多数の炭素繊維単糸からなる炭素繊維束と該炭素繊維束に含浸されているマトリックス樹脂からなる炭素繊維プリプレグであって、繊維配向角度が0°±3°以上の前記炭素繊維単糸の投影面積が、全体の前記炭素繊維単糸の投影面積の2%以下であり、前記炭素繊維プリプレグにおけるマトリックス樹脂の含有率が、15質量%乃至50質量%である炭素繊維プリプレグを製造する炭素繊維プリプレグの製造方法において、前記炭素繊維束に前記マトリックス樹脂を含浸させる前に、前記炭素繊維束に0.3乃至6cN/texの張力を付与して当該炭素繊維束を形成している多数の炭素繊維単糸を引き揃え、拡幅ロール1段当りの平均で10%以下の拡幅幅で、該炭素繊維束を予め目的幅の80乃至98%まで拡幅する工程を含む炭素繊維プリプレグの製造方法
【0014】
以下において、この炭素繊維プリプレグの製造方法に係る炭素繊維プリプレグを、第2の炭素繊維プリプレグと呼称する場合がある。
【0015】
前記第1の炭素繊維プリプレグにおいて、繊維配向角度が0°±3°以上の前記炭素繊維単糸の投影面積が、全体の前記炭素繊維単糸の投影面積の2%以下であることが好ましい。
【0016】
前記第1の炭素繊維プリプレグ、あるいは、前記第2の炭素繊維プリプレグにおいて、繊維配向角度が0°±3°以上の前記炭素繊維単糸の投影面積が、全体の前記炭素繊維単糸の投影面積の0.8%以下であることが更に好ましい。
【0017】
前記第1の炭素繊維プリプレグ、あるいは、前記第2の炭素繊維プリプレグにおいて、前記炭素繊維単糸の長径/短径比が、1.00乃至1.10であり、かつ、前記炭素繊維単糸の表面平滑度が、20以下であることが好ましい。
【0018】
前記第1の炭素繊維プリプレグ、あるいは、前記第2の炭素繊維プリプレグにおいて、前記炭素繊維単糸の表面のSi/C原子数比率が、0.01以下であることが好ましい。
【0019】
前記第1の炭素繊維プリプレグ、あるいは、前記第2の炭素繊維プリプレグにおいて、前記炭素繊維プリプレグにおける炭素繊維の目付が、30g/m乃至100g/mであることが好ましい。
【0021】
前記第1の炭素繊維プリプレグ、あるいは、前記第2の炭素繊維プリプレグにおいて、前記マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂組成物であることが好ましい。
【0024】
この炭素繊維プリプレグの製造方法において、炭素繊維束に付与する前記張力が、0.5乃至6cN/texであることが好ましい。
【0025】
この炭素繊維プリプレグの製造方法において、前記炭素繊維束の繊維交絡度が、10以下であることが好ましい。
【0026】
この炭素繊維プリプレグの製造方法において、前記炭素繊維束のドレープ値が、5cm乃至18cmであることが好ましい。
【0027】
本発明の目的を達成するための本発明の炭素繊維強化複合材料の製造方法は、次の通りである。
【0028】
記本発明の炭素繊維プリプレグの製造方法により炭素繊維プリプレグを製造した後、前記マトリックス樹脂を硬化させる炭素繊維強化複合材料の製造方法
【0029】
上記の炭素繊維束を予め目的幅の80乃至98%まで拡幅する工程における目的幅とは、プリプレグ全幅を、プリプレグにおける炭素繊維束の本数で除した幅を云う。すなわち、目的幅は、プリプレグにおける炭素繊維束1本当りの拡がり幅を意味する。
【0030】
炭素繊維束を目的幅の80乃至98%まで拡幅した後、加熱された樹脂を炭素繊維束に含浸させることによって、プリプレグ幅全体に炭素繊維束が均一に拡がった炭素繊維プリプレグを得ることができる。
【0031】
炭素繊維プリプレグを炭素繊維束の配列方向(繊維軸の方向)と直角に切断したときの切断面における炭素繊維プリプレグの表面からの深さが30μmであり、幅が100μmである単位面積当たりに含まれる炭素繊維単糸の数の変動を百分率で表示した変動係数の値(以下において、この値をCV値と略称する場合がある)と、繊維配向角度とその乱れの割合は、次に示す方法により求める。
【0032】
<炭素繊維単糸数のCV値>
炭素繊維単糸数のCV値の測定対象の炭素繊維プリプレグを、常圧下50℃で2週間、その後、80℃、110℃、130℃、180℃の順に各温度で30分放置し、マトリックス樹脂を流動させずに硬化させ、マトリックス樹脂が硬化したプリプレグを用意する。用意されたマトリックス樹脂が硬化したプリプレグを、炭素繊維単糸数のCV値の測定用プリプレグとして用いる。
【0033】
この測定用プリプレグから、第1軸を繊維の配列方向(繊維軸)として、10mm×10mmの矩形状のサンプルを切り出す。サンプルは、プリプレグ全幅からほぼ均一に20枚を採取する。採取された各サンプルを、第1軸(繊維軸)と直角に切断し、20枚の測定用サンプルを作成する。作成された測定用サンプルを、切断して得られた切断面が見えるように、位置固定用の樹脂で包埋して、包埋樹脂を硬化させる。得られた硬化した樹脂に包埋された測定用サンプルの切断面が見えている表面を、#800のサンドペーパーで研磨し、測定片を作成する。作成され測定片の研磨された面(プリプレグ切断面)を、キーエンス社製マイクロスコープ:VHX−500にて、写真撮影する。
【0034】
この写真撮影は、レンズ:VH−Z100R、視野範囲:1.02×0.76mm、倍率:300倍、解像度1600×1200画素、測定点数:各測定片から各々1点任意の面の写真を撮影することにより行われる。
【0035】
得られた20枚の写真を用いて、それぞれにおける単位面積(幅100μm×表面から深さ30μmまで)当たりに含まれる炭素繊維単糸数を数え、20枚の測定片についての炭素繊維単糸数の百分率で表示した変動係数の値、すなわち、CV値を計算する。
【0036】
<繊維配向角度とその乱れの割合>
炭素繊維プリプレグから、第1軸を繊維の配列方向(繊維軸の方向)として200mm×200mmの矩形状のサンプルを切り出し、測定片とする。測定片は、プリプレグ全幅からほぼ均一に5枚を採取する。
【0037】
得られた測定片が離型紙付きのプリプレグの場合は、離型紙を除去した後、測定片を水中に浸漬し、表面エアを除去する。なお、表面エアが除去され易くするように、水にアルコールや界面活性剤などを入れても良い。
【0038】
作製された測定片を、キーエンス社製マイクロスコープ:VHX−500にて、炭素繊維単糸の配向が平均して0°方向(第1軸の方向)に向くようにして、写真撮影する。
【0039】
この写真撮影は、レンズ:VH−Z20R、視野範囲:3.04×2.28mm、倍率:100倍、解像度1600×1200画素、測定点数:各測定片の任意の面から各々5点の位置をランダムに選定して、選定された個所の写真を撮影することにより行われる。
【0040】
得られた写真を、次の手順で、MVTec社製画像処理ライブラリHALCON(Ver.8.0)を用いて画像解析にかけ、ノイズ除去、輪郭強調、2値化、膨張・収縮、細線化を実施し、炭素繊維単糸1本1本を強調した後、平均の炭素繊維単糸の繊維配向方向(0°)を演算させた後、演算で得られた平均の炭素繊維単糸の繊維配向方向に対して一定角度(±3°)以上で、一定長さ(150画素、0.285mm相当)以上の状態にある炭素繊維単糸を抽出し、式(1)に従い、炭素繊維単糸の乱れの割合を計測する。
【0041】
[(角度±3°以上、長さ150画素以上の繊維の投影総面積)/長さ150画素以上の繊維の投影総面積]×100[%] 式(1)
計測された合計25点の測定値の平均値を炭素繊維単糸の繊維配向角度の乱れの割合とする。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る炭素繊維プリプレグは、炭素繊維単糸の配列の均一性が良好である。これを用いて成形された炭素繊維複合材料は、観察される表面(意匠面)において、優れた意匠性を有する。すなわち、本発明に係る炭素繊維プリプレグを用いて成形された炭素繊維複合材料は、炭素繊維単糸の分散と配向のバラツキが極めて少ない状態が、その表面において観察され、優れた外観意匠性を有する。得られた炭素繊維強化複合材料は、特にその外観が直接観察される用途に用いられる製品おいては、その製品の商品価値が大幅に高められ、更に、表面塗装が不要になる等、製品の軽量化においても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、炭素繊維束の糸割れ発生数の測定装置の概略側面図である。
図2図2は、繊維束のドレープ値を測定するための繊維束の前処理装置の概略側面図である。
図3図3は、繊維束のドレープ値を測定するための装置の概略側面図である。
図4図4は、プリプレグ化装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の炭素繊維プリプレグを、その実施態様を用いて更に説明する。
【0045】
本発明の炭素繊維プリプレグは、上述の方法により測定される単位面積当たりに含まれる炭素繊維単糸数のCV値が10%以下であることを特徴とする。
【0046】
単位面積当たりの炭素繊維単糸数のCV値を10%以下とすることによって、プリプレグおよび成形品における炭素繊維単糸の分散斑を防ぐことができ、炭素繊維の意匠性を発揮するためのクリア塗装を行っても、明度に濃淡斑のない良好な外観を有する成形体を得ることができる。そのような観点から、好ましい単位面積当たりの炭素繊維単糸数のCV値は、8%以下である。
【0047】
更に、本発明の炭素繊維プリプレグは、繊維配向角度が0°±3°以上の炭素繊維単糸の投影面積が全体の単糸投影面積の2%以下であること、好ましくは繊維配向角度が0°±3°以上の炭素繊維単糸の投影面積が全体の単糸投影面積の0.8%以下であることを特徴とする。
【0048】
繊維配向角度が0°±3°以上の炭素繊維単糸の投影面積を2%以下、好ましくは0.8%以下とすることによって、プリプレグの外観の均一性を保つことができると同時に、プリプレグを成形体に成形したときに、炭素繊維単糸の配向斑による外観の均一性異常を防ぐことができ、比較的広い範囲の成形条件を採用しても、外観の修正等の手間がなく、外観が良好な成形品が得られる。
【0049】
明度に濃淡斑のない良好な外観の成形品が得られ、かつ、炭素繊維単糸の配向斑による外観の均一性異常の防止を両立させる観点からは、上記単位面積当たりの炭素繊維単糸数のCV値が10%以下であり、かつ、繊維配向角度が0°±3°以上の炭素繊維単糸の投影面積が全体の単糸投影面積の2%以下であることが好ましい。
【0050】
本発明の炭素繊維プリプレグは、繊維の目付が30g/m乃至100g/mであることが好ましく、40g/m乃至80g/mであることがより好ましい。
【0051】
繊維目付を100g/m以下とすることにより、低目付の成形体が製造し易くなるのみならず、プリプレグの厚み方向に繊維が動くことによる繊維の配向斑の発生を抑制することができる。かかる観点から、より好ましい繊維目付は80g/m以下である。また、繊維目付を30g/m以上とすることにより、多数の炭素繊維単糸を均一に拡げる際に、単糸が真直性を保持し易くなる。かかる観点から、より好ましい繊維目付は40g/m以上である。
【0052】
本発明の炭素繊維プリプレグのマトリックス樹脂の含有率は、15質量%乃至50質量%であることが好ましく、20質量%乃至40質量%であることがより好ましい。
【0053】
樹脂含有率を15質量%以上とすることにより、成形体を製造した際に、樹脂を表面に均一に存在させ易くなる。かかる観点から、より好ましい樹脂含有率は20質量%以上である。また、樹脂含有率を50質量%以下とすることにより、成形時の樹脂の流動性によって繊維配向が乱されることを抑制できる。かかる観点から、より好ましい樹脂含有率は40質量%以下である。
【0054】
本発明の炭素繊維プリプレグに用いられるマトリックス樹脂は、その種類を特に問わないが、熱硬化性樹脂が好適に使用される。
【0055】
熱硬化性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂に使用される硬化剤、増粘剤、収縮防止剤等は適宜用いられ、特に限定されない。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。
【0056】
エポキシ樹脂の具体例としては、ポリオールから得られるグリシジルエーテル、活性水素を複数個有するアミンより得られるグリシジルアミン、ポリカルボン酸より得られるグリシジルエステルや、分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるポリエポキシド等が挙げられる。
【0057】
例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂等あるいはこれらの組み合わせが好適に用いられる。
【0058】
かかるエポキシ樹脂組成物に使用される硬化剤としては、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であれば用いることができる。
【0059】
例えば、アミン系硬化剤として、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、m−キシリレンジアミンのような脂肪族アミン類、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルスルホンなどの芳香族アミン類、ベンジルジメチルアミン、テトラメチルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの第3アミン類、また、ジシアンジアミドのような塩基性活性水素化合物や、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機酸ジヒドラジド、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、などのイミダゾール類が挙げられる。
【0060】
また、酸無水物系硬化剤として、ポリアジビン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリセバシン酸無水物などの脂肪族酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物などの脂環式酸無水物、無水フタル酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、グリセロールトリストリメリテートなどの芳香族酸無水物、無水ヘット酸、テトラブロモ無水フタル酸などのハロゲン系酸無水物が挙げられる。
【0061】
本発明においては、比較的低温で硬化し、かつ保存安定性が良好なことから、硬化剤として、アミン系硬化剤、中でも塩基性活性水素化合物を好ましく用いることができる。
【0062】
熱硬化性樹脂の硬化活性を高めるために、これら硬化剤に、適当な硬化促進剤を組み合わせて用いることができる。好ましい具体例としては、硬化剤であるジシアンジアミドなどのアミン系硬化剤に、硬化促進剤として尿素誘導体やイミダゾール誘導体を組み合わせる例、硬化剤であるカルボン酸無水物やポリフェノール化合物に、硬化促進剤として3級アミンやイミダゾール誘導体を組み合わせる例などが挙げられる。
【0063】
本発明においては、比較的低温で硬化し、かつ保存安定性が良好なことから、硬化剤として、アミン系硬化剤、中でもジシアンジアミドに、硬化促進剤として、尿素誘導体からなる尿素系硬化促進剤を併用することが好ましい。中でも尿素系硬化促進剤として、3−フェニル−1,1ジメチルウレア、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU)、1,1’−4(メチル−m−フェニレン)ビス(3,3’ジメチルウレア)などが好ましく用いられ、その中でも、分子内にウレア基を2個有する化合物、例えば、1,1’−4(メチル−m−フェニレン)ビス(3,3’ジメチルウレア)が好ましく用いられる。
【0064】
一般的に、硬化活性が高くなるに従い、樹脂組成物の室温安定性は低くなる。本発明においては、室温での取扱性と成形時の硬化性を両立させるため、先述の硬化剤をエポキシ樹脂100質量部に対して4乃至8質量部、硬化促進剤を0.5乃至5質量部の範囲で加えることが好ましい。
【0065】
かかるエポキシ樹脂組成物には、上記のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤の他、高分子化合物、有機粒子、無機粒子など、他の成分を、適宜その目的に応じて配合することができる。
【0066】
かかる高分子化合物としては、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。かかる熱可塑性樹脂を配合すれば、前記樹脂組成物の粘度やプリプレグの取り扱い性の適正化、また極性の高いものは、接着性を改善する効果が期待できるため好ましい。
【0067】
かかる熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有する熱可塑性樹脂が好ましく使用される。
【0068】
これら熱可塑性樹脂の中でも、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく使用される。特に好ましくは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどが、耐熱性にも優れることから好適に使用される。
【0069】
かかる熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物における全エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは1乃至20質量部配合するのが、エポキシ樹脂組成物に適度な粘弾性を与え、成形時に材料を扱いやすくすると共に、得られる炭素繊維強化プラスチックの力学的強度を高める作用を有するのでよい。
【0070】
また、かかるエポキシ樹脂組成物に配合する有機粒子としては、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子が好ましく用いられる。これらの粒子は、樹脂の靭性向上、炭素繊維強化プラスチック製部材の耐衝撃性向上の効果を有するので好ましい。また、熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミドあるいはポリイミドの粒子が好ましく用いられる。
【0071】
更に、かかるゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が好ましく用いられる。
【0072】
かかるエポキシ樹脂組成物に配合する無機粒子としては、シリカ、アルミナ、スメクタイト、合成マイカ等がある。これらの無機粒子は、主としてレオロジー制御、すなわち、増粘や揺変性付与のために、エポキシ樹脂組成物に配合する。
【0073】
炭素繊維プリプレグに用いられる炭素繊維としては、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系などの炭素繊維が用いられるが、ポリアクリロニトリル系炭素繊維が比較的引張強さが高く好ましい。
【0074】
炭素繊維束の引張強さは、3500MPa以上であることが好ましく、4500MPa以上であることがより好ましい。炭素繊維束の引張強さをこのような範囲に選定することにより、得られる炭素繊維複合材料の軽量化が可能となる。
【0075】
炭素繊維束の弾性率は、200乃至450GPaであることが好ましく、225乃至400GPaであることがより好ましい。弾性率を200GPa以上とすることで、炭素繊維複合材料(成形体)の厚みを薄く保つことができ、450GPa以下とすることにより、成形体のコンポジット特性、特に、その剪断強度を高く保つことができる。
【0076】
炭素繊維単糸の繊維直径は、3乃至8μmであることが好ましい。炭素繊維単糸の繊維直径は、4乃至7.5μmであることが、多数の単糸が引き揃え易くなるため、より好ましい。そのような観点から、炭素繊維単糸の繊維直径は、4.5乃至6.5μmであることが更に好ましい。
【0077】
炭素繊維束としては、それを形成している多数の単糸が同じ方向に揃って配列されていることが好ましい。耐炎化、炭化工程で無撚り焼成により製造された炭素繊維束の炭素繊維単糸間の交絡が少ないものが使用される。
【0078】
炭素繊維束における単糸間の交絡度は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。
【0079】
交絡度を10以下とすることにより、プリプレグを製造する際に、多数の炭素繊維単糸を均一に拡げ易くなり、プリプレグにおける炭素繊維単糸の配列斑の発生を抑制することができる。交絡度は、次の方法より測定される。
【0080】
<交絡度の測定>
炭素繊維束の交絡度は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の交絡度測定方法に準じて測定する。炭素繊維束の測定試料の一端を適当な性能を有する垂下装置の上部つかみ部に取り付け、つかみ部より1m下方の位置に荷重(100g)を吊り下げ、測定試料を垂直に垂らす。測定試料の上部つかみ部より1cm下部の点に、炭素繊維束を2分割するようにフック(直径1mmの針金からなるフック)を挿入する。フックの他端に所定の荷重(10g)を取り付け、約2cm/秒の速度でフックを降下させる。フックが繊維束を形成している糸の絡みにより停止した点までのフックの降下距離L[mm]を測定する。
【0081】
交絡度は、測定されたフックの降下距離L[mm]の値を用いて、次式により求める。なお、フックが炭素繊維束の下端まで降下する場合は、L=1000とする。交絡度は、上述の操作を50回繰り返し、その平均値で表す。
【0082】
交絡度=1000/L L:フックの降下距離[mm]
使用される炭素繊維束は、炭素繊維製造工程、なかでも巻取工程、および炭素繊維プリプレグ製造工程において良好な糸取り扱い性を保持しつつ、炭素繊維プリプレグ製造工程で均一に拡がるものであることが好ましく、良好な収束性と拡がり性を兼ね備えていることが好ましい。このような観点から、炭素繊維束を構成する単糸は、その断面形状が円形であって、その表面が平滑であるものが好ましい。
【0083】
炭素繊維束の単糸を繊維軸に対して直角方向に切断し、ランダムに選定した25本の単糸の断面をSEMを用いて観察し、楕円として近似したときの長径/短径比が、1.00乃至1.10であることが好ましく、1.01乃至1.05であることがより好ましく、1.02乃至1.04であることが更に好ましい。
【0084】
単糸の表面は、次の方法により測定される炭素繊維表面の算術平均粗さRaが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく7以下であることが更に好ましい。
【0085】
長径/短径比を、好ましくは1.00乃至1.10、より好ましくは1.01乃至1.05、更に好ましくは1.02乃至1.04の範囲とし、表面粗さRaを、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは7以下とすることによって、炭素繊維束を構成する単糸同士が炭素繊維束内でコンパクトに配列されるとともに、表面が平滑なことによって、単糸間のずれを防ぐことができるので、炭素繊維束の収束性が高くなり、外力が働いたときの単糸の乱れが防止されながら、炭素繊維束が均一に拡がる。その結果として、単糸の配向が揃った炭素繊維束を、プリプレグを製造するためのマトリックス樹脂の含浸工程に供給することができる。
【0086】
<炭素繊維単糸の長径/短径比>
炭素繊維束における単糸の断面形状における長径、短径は、走査型電子顕微鏡により炭素繊維束の単糸の横断面を観察し、そこで観察される断面形状の直径の内、最も長いものを長径とし、最も短いものを短径とし、これら長径と短径の比を、長径を短径で除して求める。
【0087】
<炭素繊維の表面平滑度測定>
炭素繊維の表面平滑度は、表面の算術平均粗さ(Ra)によって評価する。算術平均表面粗さは、次のようにして測定する。測定試料としては、炭素繊維を長さ数ミリメートル程度にカットしたものを用い、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって、各単糸の中央部において、3次元表面形状の像を得る。
【0088】
原子間力顕微鏡としては、Digital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムを使用した。観測条件は、次の通りとした。
・走査モード:タッピングモード
・探針:探針一体型シリコンカンチレバー
・走査範囲:2.5μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
【0089】
各試料について、単糸1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、算術平均粗さ(Ra)を算出した。単糸5本について、算術平均粗さ(Ra)を求め平均した。
【0090】
炭素繊維には、その表面に、その拡がり性を阻害するような物質、例えば、シリコーン油剤酸化物の残渣やススなどの炭化物が残存することがあるが、これらが除去されていることが望ましい。具体的には、高強度の炭素繊維を得るため、前駆体繊維の紡糸時に、シリコーン系界面活性剤を使用した場合には、炭化後の炭素繊維の表面を、アルカリ性の水溶液で陽極酸化して、その後、酸性水溶液で洗浄する表面処理を行うか、高温で炭化した後、表面処理することによって、異物の指標となる炭素繊維表面におけるSiの量を、ESCA原子数比で0.01以下とすることが好ましい。
【0091】
<繊維表面におけるSiとCとの原子数比(Si/C)>
次に説明する測定装置、測定条件で、100eV付近に観察されるSi2PのピークとC1Sピークとのピーク面積比を求め、次に説明する装置の装置定数0.814を測定値に乗じて原子数比(Si/C)とする。
【0092】
測定装置:
(株)島津製作所製、ESCA750・励起X線:MgのKα1、2線・C1Sメインピークの結合エネルギー値:284.6eV。
【0093】
サイジング剤やマトリックス樹脂が付着している炭素繊維の測定は、次に説明する前処理方法でサイジング剤やマトリックス樹脂を除去してから、行う。
【0094】
前処理方法:
メタノールとクロロホルムの2:1(重量比)の混合液を用いてソックスレー抽出器で2時間環流後、12時間、室温で硫酸に浸漬後、メタノールで充分洗浄、風乾する。
【0095】
炭素繊維束は、次に説明する方法により測定される糸割れ発生数が3個以下/100mであることが好ましい。糸割れ数をこの範囲とすることによって、プリプレグの製造工程にける前処理工程、すなわち、炭素繊維束の開繊工程、ならびに、炭素繊維束にマトリックス樹脂を含浸させるプリプレグ化工程における炭素繊維束の開繊を、無理な開繊操作を行うことなく行うことが可能となり、これらの工程において、均一な拡がりを有する炭素繊維束が得られる。これにより、炭素繊維単糸の真直性が良好な炭素繊維プリプレグが製造される。
【0096】
<繊維束の糸割れ発生数>
図1に示すように、被測定繊維束2を張力調整可能なクリール装置1に仕掛け、繊維束2をクリール装置1から巻き出し、複数のロールを千鳥配列とした複数本の固定ガイドバー3により、0.45cN/texの張力を付与しながら、糸幅1mm当たりの繊維総繊度が1100dtexになるよう、繊維束2を拡幅後、速度5m/分でワインダー5に巻き取る。このようにして繊維束2を約100m連続して走行させ、固定ガイドバー3より下流側における拡幅の終了位置4において、目視により繊維間に生じた幅1mm以上の隙間を、「糸割れ」として、その個数(発生数)を数える。
【0097】
本発明に用いられる炭素繊維は、ポリアクリロニトリルプリカーサの湿式紡糸条件、すなわち、紡糸原液の溶媒の種類、ポリマーの重合度、共重合組成、および、濃度などを定めた後、紡糸条件を調整することによって、表面が平滑で、断面が円形であるプリカーサを製造し、製造されたプリカーサを焼成して、製造されることが好ましい。
【0098】
このプリカーサは、凝固浴の温度、濃度、ポリマー原液の濃度を調整し、凝固速度が比較的遅い条件を設定することによって、湿式紡糸を採用する場合は、凝固糸の引取速度と口金吐出線速度との比、いわゆるドラフトを低く保つことによって、製造できる。乾湿式紡糸を採用する場合は、湿式紡糸よりはドラフトを高く設定して、均一な凝固糸を得る凝固浴温度、濃度条件を採用することによって、表面が平滑で、断面が円形に近いプリカーサを製造することができる。
【0099】
プリカーサを製造する際に、焼成工程での単糸間の融着や繊維束の収束性不足による繊維束の品質低下を防ぎ、得られる炭素繊維の物性を高く保つため、プリカーサに界面活性剤を付与する場合は、界面活性剤としてシリコーン油剤を用いることが好ましく、水系に分散または溶解したアミノ変性シリコーンを成分として含む油剤を用いることがより好ましい。
【0100】
このようにして得たプリカーサを、撚りを与えることなく、張力下で200乃至300℃の加熱雰囲気で耐炎化し、次いで、不活性ガス雰囲気下、最高温度2000℃以下で炭化し、次いで必要に応じて、不活性ガス雰囲気下、最高温度3000℃以下で黒鉛化し、表面処理、サイジング処理をした後、乾燥し、ドラムあるいはボビンに巻き上げることによって、炭素繊維束が製造される。
【0101】
炭化工程における好ましい張力は、2乃至8cN/炭化糸texであり、黒鉛化工程における好ましい張力は、4乃至8cN/黒鉛化糸tex、後処理(表面処理、サイジング)工程における好ましい張力は、2乃至8cN/最終糸texである。これらの張力は、処理装置、処理温度を決めれば、耐炎化工程、炭化工程、黒鉛化工程、後処理工程の各工程における繊維束の入口と繊維束の出口における繊維束の速度比(入口の速度/出口の速度)を制御することによって、調整することができる。
【0102】
表面処理後に付与するサイジング剤としては、エポキシ基やウレタン基を含む集束剤やその他の界面活性剤がある。サイジング剤付与量は、炭素繊維に対して好ましくは0.1乃至2質量%、より好ましくは0.5乃至1.2質量%である。サイジング剤付与後、繊維束に適宜張力をかけながら乾燥して、ドラムあるいはボビンに巻き上げ、炭素繊維束を得ることができる。
【0103】
繊維束の集束性を確保し糸乱れを防ぐために、サイジング処理後の炭素繊維束のドレープ値が、5cm乃至18cm、好ましくは8cm乃至15cmとなるように、サイジング剤の付着量、サイジング剤が付与された繊維束の乾燥条件を調整することが好ましい。
【0104】
炭素繊維束のドレープ値を5cm以上とすることによって、糸道を走行する炭素繊維束、特に炭素繊維束における炭素繊維単糸同士の集束性が確保でき、かつ、炭素繊維単糸の引き揃え斑を防ぐことができる。更に、プリプレグ化時、すなわち、炭素繊維束にマトリックス樹脂を含浸させプリプレグを製造する際の炭素繊維束が収容されているクリールから樹脂含浸工程に至る糸道での毛羽の発生を防ぐことができる。また、ドレープ値を18cm以下に保つことによって、炭素繊維単糸間の良好な開繊性を確保できる。
【0105】
<ドレープ値の測定>
炭素繊維束のドレープ値は、図2、3に示す方法によって測定する。
【0106】
図2で示すように、約50cmにカットされた炭素繊維束Fの上端を試料固定具21に取り付け、下端におもりWを取り付け、炭素繊維束Fを垂下させる。この状態で、温度23℃、湿度60%の雰囲気下で、おもりWにより付与される0.0375g/texの張力で、30分以上放置し、測定試料を用意する。用意された測定試料の上端側と下端側を除く図2に示す約30cmの長さの部分を、測定試料から切り取り、測定片FPを作製する。
【0107】
図3に、ドレープ値の測定装置を示す。ドレープ値の測定装置30は、水平な上面を有する測定台31と測定台31の上面に固定された四角柱Aと、これらとは別に用意される平板B(図示せず)からなる。
【0108】
作製された測定片FPの一端部を、四角柱Aの上面に、片持支持の状態で、固定する。測定片FPの四角柱Aの上面への固定部分は、測定台31の上面と平行で、四角柱Aの側面に対して直角になっている。この状態で、四角柱Aの側面から測定片FPの先端までの長さが25cmになるように、平板Bを、測定片FPの下面に添えて、水平方向に保持する。その後、平板Bだけを素早く取り除き、1秒後に重力によって垂れ下がった測定片FPの先端と四角柱Aの側面とがなす最も近い距離X(cm)を測定し、このときの距離X(cm)をドレープ値とする。
【0109】
プリカーサ繊維の製造工程、炭素繊維の製造工程においては、繊維束の通過経路(糸道)を、単糸に仮撚り、捻り、絡みなどが発生しないように、糸道ガイドを用いて形成する場合は、繊維束の幅に対して単糸の収束作用が少なく、単糸に対する摩擦が小さい糸道ガイドを使用することが好ましい。また、糸道ガイドにより、繊維束の移動方向を転換させるときには、転換の際、繊維束に繊維の配列方向(繊維軸の方向)とは異なる方向の力が加わらないようにすることが好ましい。
【0110】
複数本の繊維束を合糸して最終の繊維束を形成する場合は、繊維束に撚りや捻りを発生させず、繊維束間や単糸間の絡みを避ける糸道を採用することによって、繊維束の糸割れ発生数が3個/100m以下で、交絡度が10以下、好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である炭素繊維束を得ることができる。繊維束を製造工程で、繊維束の収束性向上や、単糸間接着の防止のために、エア処理による開繊交絡を行っても良いが、この場合は、糸割れ発生数と、交絡度の数値が上記範囲となるようにすることが好ましい。
【0111】
外観が良好なプリプレグを得るためには、炭素繊維を均一に拡幅させる必要があり、均一な拡幅を得るためには、炭素繊維束内の単糸の本数は、15000本以下であることが好ましい。かかる観点から、単糸数は、より少ない方が良いが、単糸数が少なくなると、目的のプリプレグを得るためにより多くの炭素繊維束を使用する必要が生じる。この場合、炭素繊維束は、均一な張力で繊維を引き揃えて製造せねばならず、工業的に難度が増す。そのため、現実的には、繊維束における繊維単糸の数は、500以上であることが好ましく、1000乃至7000であることがより好ましい。
【0112】
炭素繊維が均一に拡がったプリプレグを作るという観点からは、プリプレグを形成することになる炭素繊維束の元糸幅は、プリプレグにおける炭素繊維束1本当りの幅、すなわち、目的幅に対して、狭いことが好ましい。従って、このような元糸幅を有して巻き上げられた炭素繊維パッケージを使用することが好ましい。また、あまり細い元糸幅の繊維束を使用しないことで、開繊時に斑を生じることなく、プリプレグを作成することができる。
【0113】
元糸幅は、目的幅の95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。また、元糸幅は、目的幅の25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
【0114】
炭素繊維束の元糸幅を目的幅の90%未満とすることにより、プリプレグ化時に糸幅が拡がっても、隣接する炭素繊維束における糸条と干渉することが少なく、単糸の真直性が維持され、均一な厚みと繊維束の拡がり性を有するプリプレグを製造することができる。
【0115】
炭素繊維束の所望とされる元糸幅は、炭素繊維束の繊度、炭素繊維束を形成している単糸数(フィラメント数)、炭素繊維束の製造工程における表面処理工程以降の工程条件、特に、炭素繊維束をボビンあるいはドラムに巻き上げるときの条件を適宜調整することにより、得ることができる。
【0116】
<炭素繊維束の元糸幅>
炭素繊維束の元糸幅は、炭素繊維を引き出した際にパッケージ表面から炭素繊維束が離れる直前の糸幅を、全ボビンについて定規により0.1mm単位で測定し、その平均値を元糸幅とした。
【0117】
プリプレグの製造装置としては、一方向に繊維を引き揃えるために、繊維に張力を付与できるものであり、樹脂含浸前に、炭素繊維束を拡幅できる機能を備えているものであれば良い。ただし、圧縮空気を吹き付け、炭素繊維束を拡幅する様な設備は、炭素繊維束内に単糸の交絡を生じさせる可能性があるため、ロール等による拡幅手段を用いることが好ましい。
【0118】
樹脂含浸前の複数の炭素繊維束からなる炭素繊維シートの幅は、各炭素繊維束に0.3乃至6cN/texの張力をかけること、好ましくは0.5乃至6cN/texの張力をかけること、より好ましくは1.5乃至3cN/texの張力をかけることで、樹脂含浸前の炭素繊維の糸幅/プリプレグにおける炭素繊維束1本当りの目的幅(%)、すなわち、各繊維束の幅を足し合わせたトータルの繊維束の幅と、目的となるプリプレグシートの幅の比(以下、拡幅率と称す)が、80乃至98%、好ましくは85乃至95%になるようにすることが好ましい。
【0119】
炭素繊維シートの拡幅率を98%以下とすることにより、樹脂含浸中の圧力で目的幅を得る際の炭素繊維の重なりを防ぎ、炭素繊維単糸の分散性低下を抑制できる。炭素繊維シートの拡幅率は、95%以下であることがより好ましい。また、炭素繊維シートの拡幅率を80%以上とすることにより、樹脂含浸中の圧力で過度の拡幅を防ぎながら目的幅を得ることが可能となる。かかる観点から、更に好ましい炭素繊維シートの拡幅率は、85%以上である。
【0120】
繊維束に付与される張力を0.3cN/tex以上とすることにより、樹脂含浸中に炭素繊維束における単糸が無理矢理押し込められた樹脂で大きく移動するという現象を防ぐことができる。更に、張力を0.5cN/tex以上とすることにより、樹脂含浸中の炭素繊維束における単糸の厚み方向の移動を防ぐことができ、炭素繊維単糸の真直性低下も抑制できる。かかる観点から、更に好ましい張力は、1.5cN/tex以上である。張力を6cN/tex以下とすることにより、炭素繊維束を開繊する際の毛羽の発生を防ぐことができる。かかる観点から、更に好ましい張力は、3cN/tex以下である。
【0121】
炭素繊維束に上記の張力をかけて拡幅した場合、単糸が擦過され切断することで、毛羽が発生してプリプレグの表面に乱れた単糸が多く存在し、外観品位が悪化したプリプレグになることがある。そのため、複数本の拡幅ロールを用い多段階で徐々に炭素繊維束を拡幅することが望ましい。ロール1段当りの炭素繊維束の拡幅幅を、[(ロール通過後の糸幅−ロール通過前の糸幅)/ロール通過前の糸幅](%)とした場合、好ましいロール1段当りの炭素繊維束の拡幅幅は、1段当りの平均で10%以下である。拡幅ロール1段当りの平均で10%以下の拡幅幅で、多段階に炭素繊維束の糸幅を拡げることにより、炭素繊維単糸を均一に分散させることができる。かかる観点から、より好ましい拡幅ロール1段当りの拡幅幅は、平均で7%以下である。
【0122】
<樹脂含浸前の炭素繊維束の糸幅>
樹脂含浸前の炭素繊維束の糸幅は、樹脂含浸前のパスライン上での糸幅を、パスラインを通過する全炭素繊維束について定規により0.1mm単位で測定し、その平均値を樹脂含浸前の糸幅とした。
【0123】
このようにして作製された複数の炭素繊維束からなる炭素繊維シートにマトリックス樹脂を含浸させる工程、すなわち、プリプレグ化工程の一例を、図4を用いて説明する。
【0124】
図4は、プリプレグ化工程において使用されるプリプレグ化装置の一例の概略側面図である。図4において、プリプレグ化装置40には、炭素繊維シート6が導入される側からパスライン41に沿って、一対の導入ロール7a、7b、ヒーター8、一対の含浸ロール9a、9b、一対の引取ロール10a、10b、および、巻取装置11が、配列されている。
【0125】
目的幅の80乃至98%に拡げられた炭素繊維シート6は、一対の導入ロール7a、7bの間へと供給され、上側の導入ロール7aに沿って供給される離型シート(離型紙)13と下側の導入ロール7bに沿って供給されるプリプレグ用樹脂シート(マトリックス樹脂を形成する樹脂シート)12とに、移動されつつ挟まれる。3層のシートが重ねられてなるシート42は、ヒーター8を通過し、この間に、プリプレグ用樹脂シート12の樹脂が流動化され、次いで、一対の含浸ロール9a、9bの間で、流動化された樹脂(マトリックス樹脂)が、炭素繊維シート6に含浸される。
【0126】
樹脂が含浸された炭素繊維シート6は、一対の引取ロール10a、10bにより、挟まれながら引き取られる。一対の引取ロール10a、10bから巻取装置11へと向かうシート42の離型シート13は、上側の引取ロール10aに沿って、シート42から剥ぎ取られる。その後、マトリックス樹脂が含浸された炭素繊維シート(プリプレグ)43は、巻取装置11により、ロール形状に巻き取られる。
【0127】
ここに、多数の炭素繊維単糸が一方向に配列されてなる一方向プリプレグのロールが製造される。なお、上側の導入ロール7aに沿って供給される離型シート13は、プリプレグ用樹脂シート12と同様のプリプレグ用樹脂シートに置き換えられても良い。
【0128】
ヒーター8により、樹脂シート12の樹脂は、80乃至150℃程度に加熱され、一対の含浸ロール9a、9bにおいて、シート42は、40乃至150N/cmで加圧され、炭素繊維シートへの樹脂の含浸が行われる。この際、加熱された樹脂が炭素繊維シートの炭素繊維に含浸されると共に、含浸ロールの作用によって、所定幅まで繊維が拡幅され、その形態で冷却されることによって、均一な厚みと、均一な単糸配向を有するプリプレグが製造される。
【0129】
このようにして得られたプリプレグは、シートワインディングによって釣竿やゴルフシャフトに使用される筒状体に成形され、ラッピングテープなどで表面を締結したのち、加熱炉でマトリックス樹脂の硬化が行われ、炭素繊維複合材料(成形体)が製造される。
【0130】
また、このようにして得られたプリプレグは、所定の繊維配向角で複数積層され、真空バッグを用いてボイドを除去しながらオートクレーブや加熱炉でマトリックス樹脂の硬化が行われ、炭素繊維複合材料(成形体)が製造される。
【0131】
更に、また、このようにして得られたプリプレグは、成形型の中に入れてプレス成形され、炭素繊維複合材料(成形体)、例えば、筐体などに使用されるパネルが製造される。
【0132】
このようにして製造された炭素繊維複合材料は、その外観の均一性に優れている。
【実施例】
【0133】
実施例1
アクリロニトリル99.5モル%、イタコン酸0.5モル%からなる固有粘度[η]が1.80のアクリロニトリル系重合体を20質量%含むジメチルスルホキシド溶液を紡糸原液として用意した。この紡糸原液を、孔径が0.15mmの6000個の紡糸孔を有する紡糸口金の各紡糸孔から一旦空気中に吐出し、次いで、10℃に温調されたジメチルスルホキシド35%水溶液から成る凝固浴に導入して、凝固糸を得た。得られた凝固糸を、水洗し、その後、延伸した。次いで、延伸された凝固糸に、アミノ変性シリコーン分散物を主成分とした界面活性剤を付与した後、界面活性剤が付与された凝固糸の乾燥緻密化を行った。次いで、乾燥緻密化された凝固糸を、スチーム延伸装置を用いて延伸し、円形断面で表面平滑な単糸の6000本からなる前駆体繊維束を得て、得られた前駆体繊維束をボビンに巻き取った。
【0134】
この際、口金から巻取りまでの糸道で、糸条に捻りやそれに伴う仮撚りが付与されることを防ぐため、ロールやガイドを工夫して、糸条(前駆体繊維束)をボビンに巻き取った。得られた前駆体繊維の繊維交絡度は、1.5であった。
【0135】
この前駆体繊維を撚りが入らないようにボビンから巻き出し、炭化工程に供し、無撚りの状態で耐炎化処理し、次いで、最高温度1900℃で張力5g/炭化糸texで炭化処理した。その後、得られた炭素繊維束を、同張力で、連続して陽極酸化処理して、マトリックス樹脂とのなじみ性を付与した。次いで、陽極酸化処理された炭素繊維束に、サイジング剤を付与し、乾燥した後、炭素繊維束をボビンに巻き取った。得られた炭素繊維束は、繊度250tex、フィラメント数6000、JIS R7608:2007に従って測定したストランド強度5490MPa、弾性率295GPa、および、ボビン上の糸幅3.5mmを有していた。
【0136】
この炭素繊維束における炭素繊維単糸の長径/短径比は1.03、表面平滑度はRa2.5であった。また、この炭素繊維束の繊維交絡度は2.7であり、ESCAによるSi/Cは0.00(0.001以下)であり、ドレープ値は15.0cmであり、糸割れ発生数は2個/100mであった。この炭素繊維束を形成している各炭素繊維単糸の配列は、均一であった。
【0137】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER1005F):20質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER828):80質量部を溶融混練し、40から60℃でジシアンジアミド(三菱化学(株)製、DICY−7):5質量部、ジシアンジアミド(CVCスペシャリティケミカルズ社製、オミキュア24):4.2質量部を加えて混練し、樹脂組成物を得た。
【0138】
この樹脂組成物を担持シートに塗布し、プリプレグにおいてマトリックス樹脂を形成するプリプレグ用樹脂シートを得た。
【0139】
上に得た炭素繊維束の複数本を、1.9cN/texの張力をかけて引き揃え、複数のロールからなる多段式拡幅装置を通過させて、炭素繊維シートを得た。得られた炭素繊維シートと得られたプリプレグ用樹脂シートとを用いて、表1に示す条件で、炭素繊維プリプレグシートを得た。
【0140】
得られた炭素繊維プリプレグシートから試料プリプレグをカットし、常圧下50℃で2週間、その後、80℃、110℃、130℃、180℃の順に各温度で30分放置し、マトリックス樹脂を流動させずに硬化させた。樹脂が硬化したプリプレグを、第1軸を繊維の配列方向(繊維軸)として、10mm×10mmの矩形状のサンプル切り出した。サンプルは、プリプレグ全幅からほぼ均一に20枚を採取した。採取された各サンプルを、第1軸(繊維軸)と直角に切断し、20枚の測定用サンプルを作成した。作成された測定用サンプルを、切断して得られた切断面が見えるように、位置固定用の樹脂で包埋して、包埋樹脂を硬化させた。得られた硬化した樹脂に包埋された測定用サンプルの切断面が見えている表面を、#800のサンドペーパーで研磨し、測定片を作成した。
【0141】
作成された測定片の研磨された面(プリプレグ切断面)を、キーエンス社製マイクロスコープ:VHX−500にて、写真撮影した。この写真撮影は、レンズ:VH−Z100R、視野範囲:1.02×0.76mm、倍率:300倍、解像度1600×1200画素、測定点数:1枚のサンプルから各々1点任意の面の写真を撮影することにより、行った。
【0142】
得られた20枚の写真を用いて、それぞれの単位面積(幅100μm×表面から深さ30μmまで)当たりに含まれる炭素繊維単糸数を数え、20枚の測定片についてのCV値を計算した。得られたCV値を、表1に示す。
【0143】
更に、得られた炭素繊維プリプレグシートから、第1軸を繊維の配列方向(繊維軸の方向)として200mm×200mmの矩形状のサンプルを切り出し、繊維配向角度とその乱れの割合を測定する測定片を用意した。測定片は、プリプレグ全幅から幅方向にほぼ均一に5枚を採取した。そして、1枚の測定片を水中に浸漬し、表面エアを除去した。
【0144】
キーエンス社製マイクロスコープ:VHX−500にて、単糸の配向が平均して0°方向に向くようにして、写真撮影を行った。
【0145】
この写真撮影は、レンズ:VH−Z20R、視野範囲:3.04×2.28mm、倍率:100倍、解像度1600×1200画素、測定点数:1枚の測定片の任意の面から各々5点の位置をランダムに選定して行った。
【0146】
得られた写真を、次の手順で、MVTec社製画像処理ライブラリHALCON(Ver.8.0)を用いて画像解析にかけ、ノイズ除去、輪郭強調、2値化、膨張・収縮、細線化を実施し、繊維1本1本を強調した後、平均の炭素繊維単糸の繊維配向方向を演算させた後、演算で得られた平均の炭素繊維単糸の繊維配向方向(0°)に対して一定角度(±3°)以上で、一定長さ(150画素、0.285mm相当)以上の状態にある炭素繊維単糸を抽出し、前出の式(1)に従い、炭素繊維単糸の乱れの割合を求めた。合計25点における測定値の平均値を繊維配向角度の乱れの割合とした。得られた角度3°以上の割合を、表1に示す。
実施例2乃至9、ならびに、比較例1乃至11
実施例1と同じ紡糸原液を使用して、口金の紡糸孔数、紡糸方法、紡糸・焼成条件を調整することによって、焼成後の単糸断面の長径/短径比、表面粗さが、表1乃至表3、ならびに、表4乃至表7に示される値を有する各種炭素繊維を製造した。
【0147】
この際、シリコーン油剤の種類や延伸条件などの製糸条件、ならびに、焼成条件、特に焼成温度と張力、巻取り条件を調整することによって、表1乃至表3、ならびに、表4乃至表7に示す特性の炭素繊維を得た。
【0148】
これらの炭素繊維を表1乃至表3、ならびに、表4乃至表7に示す条件によってプリプレグ化した結果のそれぞれを、表1乃至表3、ならびに、表4乃至表7に示す。
【0149】
炭素繊維単糸数のCV値が10%以下であれば、外観特性が優れた炭素繊維プリプレグとなり、表面に部分的な明度の濃淡がなく、更に、繊維配向角度が±3°以上傾いた繊維の面積割合が2%以下であれば、より外観特性が優れた炭素繊維プリプレグとなり、表面に部分的な反射異常がなく、一様に見えるプリプレグとなった。炭素繊維単糸数のCV値が10%を超え、繊維配向角度が±3°以上傾いた繊維の面積割合が2%を超えるものについては、外観の悪い炭素繊維プリプレグとなった。
【0150】
ここで、外観の評価は、5人の検査者がプリプレグ表面の明度と光の反射の均一性(斑)を判定、すなわち、優良、良または不良を判定し、各項目について5人が良好と判断したものを優良、4人が良好と判断したものを良、3人以下が良好と判断したものを不良とした。
【0151】
評価は、プリプレグを水平な机上に置き、明度についてはZ軸方向(プリプレグの面に対して垂直方向)からの見た目で濃淡斑を判定し、光の反射については、Z軸方向からY軸方向(炭素繊維軸方向)まで角度を変えて反射斑を判定した。
【0152】
また、この炭素繊維プリプレグを使用して、炭素繊維強化複合材料を成形した。作成した炭素繊維プリプレグを成形品厚みが1mmとなるように、複数の炭素繊維プリプレグを積層して金型に設置し、圧縮成形を行なった。金型形状は、平面が成形できる形状とし、成形条件は、金型温度150℃、成形圧力2MPaとし、脱型までの時間は、5分とした。
【0153】
得られた炭素繊維強化複合材料(成形体)の外観についての判定を、実施例については、表1乃至表3に、比較例については、表4乃至表7に示す。これらの表に示される通り、炭素繊維単糸数のCV値が10%以下の炭素繊維プリプレグを使用した場合(実施例1乃至9)、外観特性が優れた炭素繊維強化複合材料となる。
【0154】
表面に部分的な明度の濃淡がなく、更に、繊維配向角度が±3°以上傾いた繊維の面積割合が2%以下であれば、より外観特性が優れた炭素繊維プリプレグとなり、表面に部分的な反射異常がなく、一様に見える成形体が得られた。
【0155】
特に炭素繊維単糸数のCV値が8%以下、繊維配向角度が±3°以上傾いた繊維の投影面積の割合が0.8%以下の炭素繊維プリプレグを使用した場合(実施例1、2)に、その外観特性は非常に優れていた。
【0156】
炭素繊維単糸数のCV値が10%を超え、繊維配向角度が±3°以上傾いた繊維の投影面積の割合が2%を超える炭素繊維プリプレグ(比較例2乃至11)については、外観の悪い炭素繊維強化複合材料となった。含浸前の炭素繊維束の糸幅/炭素繊維束1本当りの目的幅(%)を低く設定した比較例1では、炭素繊維プリプレグを作成できなかった。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
【表5】
【0162】
【表6】
【0163】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0164】
炭素繊維複合材料に良好な外観を与え、例えば、スポーツ、産業、航空機用途の炭素繊維複合材料(成形品)の意匠性の向上、および、塗装を簡略化した軽量の炭素繊維複合材料(成形品)を得ることができる。
【符号の説明】
【0165】
1:クリール装置
2:被測定繊維束
3:固定ガイドバー
4:拡幅の終了位置
5:ワインダー
6:拡幅された炭素繊維束
7a、7b:導入ロール
8:ヒーター
9a、9b:含浸ロール
10a、10b:引取ロール
11: 巻取装置
12:プリプレグ用樹脂シート
13:離型紙
21:試料固定具
30:ドレープ値の測定装置
31:測定台
40:プリプレグ化装置
41:パスライン
42:炭素繊維シート、プリプレグ用樹脂シート、離型紙を重ね合わせたもの
43:炭素繊維プリプレグ
A:四角柱
F:炭素繊維束
FP:ドレープ値の測定片
W:おもり
図1
図2
図3
図4