【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 刊行物名;第108回触媒討論会 討論会A予稿集 発行者;一般社団法人 触媒学会 発行日;平成23年9月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の触媒付パティキュレートフィルタでは、触媒層表面のPM堆積量が少ないときは、そのPMが比較的効率良く燃焼除去されるが、PM堆積量が多くなると、PMの燃焼除去に時間がかかる傾向がみられる。その理由は、本発明者の実験・研究に基づく知見によれば、次のとおりである。
【0006】
すなわち、
図1のグラフは触媒層に堆積したPMが燃焼していくときのPM残存割合の経時変化を模式的に示す。当初はPMの燃焼が急速に進むが、その急速燃焼域(例えば、PM残存割合が100%から50%なるまでの燃焼前期)を経た後、PMの燃焼が緩慢になる緩慢燃焼域(PM残存割合が50%から0%なるまでの燃焼後期)に移る。この点を以下詳述する。
【0007】
図2の写真に示すように、燃焼当初はPMがフィルタの表面に担持された触媒層に接触している。このため、例えば触媒層がCe系酸化物粒子やZr系酸化物粒子を含んでいる場合、
図3に模式的に示すように、それら酸化物粒子から放出される活性な内部酸素が触媒層に接触しているPMに高活性状態で供給される。その結果、触媒層表面のPMが急速に燃焼していく。
【0008】
しかし、上述の如く、触媒層表面のPMが燃焼除去される結果、
図4の写真に示すように、触媒層とPM堆積層との間に数十μm程度の隙間を部分的に生ずる。そのため、
図5に模式的に示すように、酸化物粒子内部から放出される活性酸素は、ごく短時間であれば活性を維持するが、隙間を通る間に活性が低下し、例えば、気相中の酸素と同じ通常の酸素となる。その結果、PMの燃焼が緩慢になる。もちろん、
図5左上及び左下に示すように排ガス中の酸素もPMの燃焼に寄与するが、上述の活性酸素による燃焼に比べると、その燃焼は緩慢である。
【0009】
これに対して、触媒層をその内部空隙が大きな多孔質に形成し、PMを触媒層内に入りやすくすることが考えられる。これによれば、PMが触媒層の表面だけでなく触媒層内部にも分散して堆積し、PMの多くが触媒に接触した状態になり、燃焼しやすくなる。しかし、大きな内部空隙を形成する結果、触媒層が嵩高になるため、フィルタの排ガス通路壁中の連通孔の閉塞が起こりやすくなり、フィルタを通過する排ガスの流通抵抗が大きくなるという問題がある。また、そのような触媒層の形成のために製造コストが高くなる問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、フィルタに堆積したPMの急速燃焼域及び緩慢燃焼域双方において、その燃焼が効率良く進むようにするとともに、PMの燃焼に伴うCOの排出を抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、複合酸化物として、ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物及びCeZrNd複合酸化物の3種を組み合わせ、これに活性アルミナを組み合わせた。
【0012】
すなわち、ここに開示する触媒付パティキュレートフィルタは、排ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタの排ガス通路壁に触媒層が設けられたものであり、
前記触媒層は、ZrNd複合酸化物と、ZrNdPr複合酸化物と、CeZrNd複合酸化物と、活性アルミナと、触媒金属とを含有
し、
前記触媒層において、前記触媒金属を担持した前記ZrNd複合酸化物と、前記触媒金属を担持した前記ZrNdPr複合酸化物と、前記触媒金属を担持した前記CeZrNd複合酸化物と、前記触媒金属を担持した前記活性アルミナとが混ざり合っており、
前記CeZrNd複合酸化物は、RhがドープされてなるRhドープCeZrNd酸化物であり、
前記触媒金属はPtであり、
前記ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物、CeZrNd複合酸化物及び活性アルミナの総量に占める前記ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物及びCeZrNd複合酸化物各々の割合は10質量%以上であり、
前記ZrNd複合酸化物中のNd2O3含有率が5モル%以上30モル%以下であり、
前記ZrNdPr複合酸化物中のPr2O3含有率が5モル%以上40モル%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明者の実験・研究によれば、ZrNd複合酸化物及びZrNdPr複合酸化物は、高い酸素イオン伝導性を持ち、酸素交換反応によって周囲から酸素を内部に取り込んで活性な酸素を放出する。特に、ZrNdPr複合酸化物は、酸素が多い雰囲気での酸素交換反応特性が優れ、活性な酸素を多量に放出する。これに対して、ZrNd複合酸化物は、ZrNdPr複合酸化物に比べると、単独では活性な酸素の放出量が少ないものの、触媒金属
Ptの存在下での、活性酸素を利用したPMの燃焼、特にPMが酸化物表面に接触している状態での燃焼に優れている。また、CeZrNd複合酸化物は、酸素過剰雰囲気では酸素を吸蔵し、雰囲気の酸素濃度が下がったときに吸蔵していた酸素を放出する酸素吸蔵放出能を有するとともに、酸素交換反応によって周囲の酸素を粒子内に取り込んで内部から活性な酸素を放出する。特に、担持する触媒金属
Ptにより、接触が少ない状態のPMに対して活性な酸素を供給する能力を向上させることが可能である。
【0014】
具体的なメカニズムは定かでないが、本発明の触媒付パティキュレートフィルタにおけるPMの燃焼は次のように考えられる。
【0015】
触媒層では、ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物、CeZrNd複合酸化物及び活性アルミナが混じり合っていて、ZrNd複合酸化物とZrNdPr複合酸化物とが部分的に接触している。そのため、酸素放出量が多いZrNdPr複合酸化物がZrNd複合酸化物に対する酸素供給源となり易い。すなわち、ZrNdPr複合酸化物から放出される酸素がZrNd複合酸化物に取り込まれる。或いはZrNdPr複合酸化物から放出される酸素がZrNd複合酸化物の粒子表面にスピルオーバーして供給される。その結果、PMが触媒に接触している条件下(急速燃焼域)では、ZrNd複合酸化物粒子表面において活性酸素によるPMの燃焼が効率良く進む。
【0016】
一方、PM堆積層と触媒層との間に部分的に隙間を生じてくる上述の緩慢燃焼域になると、PMとZrNd複合酸化物との接触が少なくなる。しかし、少ないながらも、その接触界面では、ZrNdPr複合酸化物等が酸素供給源となる上述の効果によって、ZrNd複合酸化物の粒子表面においてPMの燃焼が進む。緩慢燃焼域の後期
になると、PMとZrNd複合酸化物とが殆ど接触しない状態になると考えられるが、ZrNdPr複合酸化物及びCeZrNd複合酸化物が存在すると酸化物表面との接触が乏しいPMに対しても活性な酸素を供給することができるため、上述の如く隙間を生じても、急速燃焼域からの継続的なPMの燃焼が確保される。
【0017】
ここに、活性アルミナは、触媒金属
Ptの存在下、PMの不完全燃焼により生じるCOのCO
2への酸化や、排ガス中のHCやCOの酸化に有効に働く。
【0018】
また、前記CeZrNd複合酸化物として、RhがドープされてなるRhドープCeZrNd酸化物を採用
したから、Rhのドープによって、CeZrNd複合酸化物の酸素吸蔵放出及び酸素交換反応が促進され、PMの燃焼に有利になる。
【0019】
また、前記ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物、CeZrNd複合酸化物及び活性アルミナの総量に占めるZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物及びCeZrNd複合酸化物各々の割合を10質量%以上に
したから、ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物及びCeZrNd複合酸化物がPMの燃焼促進に相乗的な効果を発揮し易くなる。
【0020】
また、前記ZrNd複合酸化物中のNd2O3含有率を5モル%以上30モル%以下としたから、前記触媒層によるPMの燃焼速度が大きくなってPMの燃焼が効率良く進む。
【0021】
好ましいのは、前記ZrNd複合酸化物中のNd2O3含有率を10モル%以上25モル%以下とすることである。
【0022】
また、前記ZrNdPr複合酸化物中のPr2O3含有率を5モル%以上40モル%以下としたから、前記触媒層によるPMの燃焼速度が大きくなってPMの燃焼が効率良く進む。
【0023】
好ましいのは、前記ZrNdPr複合酸化物中のPr2O3含有率を10モル%以上35モル%以下とすることである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、パティキュレートフィルタの触媒層
に、Ptを担持したZrNd複合酸化物と、
Ptを担持したZrNdPr複合酸化物と、
Ptを担持したRhドープCeZrNd複合酸化物と、
Ptを担持した活性アルミナと
が混じり合って設けられ、前記ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物、RhドープCeZrNd複合酸化物及び活性アルミナの総量に占める前記ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物及びRhドープCeZrNd複合酸化物各々の割合は10質量%以上であり、前記ZrNd複合酸化物中のNd2O3含有率が5モル%以上30モル%以下であり、前記ZrNdPr複合酸化物中のPr2O3含有率が5モル%以上40モル%以下であるから、ZrNd複合酸化物、ZrNdPr複合酸化物及び
RhドープCeZrNd複合酸化物が相俟ってPMの燃焼が効率良く進み、また、活性アルミナによるCOのCO
2への酸化が図れ、CO排出量も少なくなるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
<パティキュレートフィルタの構造>
図6はディーゼルエンジンの排ガス通路11に配置されたパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という。)1を示す。フィルタ1よりも排ガス流の上流側の排ガス通路11には、活性アルミナ等のサポート材にPt、Pd等に代表される触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。このような酸化触媒をフィルタ1の上流側に配置するときは、該酸化触媒によって排ガス中のHC、COを酸化させ、その酸化燃焼熱でフィルタ1に流入する排ガス温度を高めてフィルタ1を加熱することができ、PMの燃焼除去に有利になる。また、NOが酸化触媒でNO
2に酸化され、該NO
2がフィルタ1にPMを燃焼させる酸化剤として供給されることになる。
【0028】
図7及び
図8に模式的に示すように、フィルタ1は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排ガス通路2,3を備えている。すなわち、フィルタ1は、下流端が栓4により閉塞された排ガス流入路2と、上流端が栓4により閉塞された排ガス流出路3とが交互に設けられ、排ガス流入路2と排ガス流出路3とは薄肉の隔壁5を介して隔てられている。なお、
図7においてハッチングを付した部分は排ガス流出路3の上流端の栓4を示している。
【0029】
フィルタ1は、前記隔壁5を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si
3N
4、サイアロンのような無機多孔質材料から形成されている。排ガス流入路2内に流入した排ガスは
図8において矢印で示したように周囲の隔壁5を通って隣接する排ガス流出路3内に流出する。すなわち、
図9に示すように、隔壁5は排ガス流入路2と排ガス流出路3とを連通する微小な細孔(排ガス通路)6を有し、この細孔6を排ガスが通る。PMは主に排ガス流入路2と細孔6の壁部に捕捉され堆積する。
【0030】
上記フィルタ本体の排ガス通路(排ガス流入路2、排ガス流出路3及び細孔6)を形成する壁面には触媒層7が形成されている。なお、排ガス流出路3側の壁面に触媒層を形成することは必ずしも要しない。触媒層7は、ZrNd複合酸化物と、ZrNdPr複合酸化物と、CeZrNd複合酸化物と、活性アルミナと、触媒金属とを含有する
触媒層7は次の方法で形成することができる。すなわち、ZrNd複合酸化物粉末とZrNdPr複合酸化物粉末とCeZrNd複合酸化物粉末と活性アルミナとを均一に混合する。触媒金属としてPtを採用する場合、当該混合物に所定のPt担持量となるようにジニトロジアミン白金硝酸溶液をイオン交換水で希釈した溶液を加え、蒸発乾固を行なう。この乾固物を大気中において150℃で乾燥させ、粉砕後、大気中において500℃で2時間焼成することにより、触媒粉末を得る。この触媒粉末及びバインダを含むスラリーをミリングした後にフィルタにコーティングし、乾燥及び焼成を施す。以上により触媒層7が形成される。
【0031】
この触媒層7では、触媒金属を担持したZrNd複合酸化物粒子と、触媒金属を担持したZrNdPr複合酸化物粒子と、触媒金属を担持したCeZrNd複合酸化物粉末と、触媒金属を担持した活性アルミナとが混ざり合った状態になっている。
【0032】
ZrNd複合酸化物粉末は共沈法によって調製することができる。すなわち、オキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物とイオン交換水とを混合した硝酸溶液に、塩基性溶液として28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合することにより、中和によって共沈物を得る。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する(脱水)、そこにさらにイオン交換水を加えて撹拌する(水洗)、という脱水・水洗の操作を必要回数繰り返すことで、余剰な塩基性溶液を除去する。最終的に脱水を行なった後の共沈物について、大気中において150℃で乾燥させ、粉砕後、大気中において500℃で2時間焼成する。これにより、ZrNd複合酸化物粉末を得ることができる。
【0033】
ZrNdPr複合酸化物粉末も、オキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸プラセオジウムとを含有する硝酸溶液から、上述の共沈法によって得ることができる。CeZrNd複合酸化物粉末も、硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物とを含有する硝酸溶液から、上述の共沈法によって得ることができる。好ましいCeZrNd複合酸化物はRhドープCeZrNd複合酸化物である。このRhドープCeZrNd複合酸化物粉末は、硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸ロジウム溶液とを含有する硝酸溶液から、上述の共沈法によって得ることができる。
【0034】
以下、本実施形態を実施例等に基いて具体的に説明する。
【0035】
[テスト1;ZrNd複合酸化物の好適Nd
2O
3含有率の策定]
−テストサンプルの調製−
Nd
2O
3含有率が異なる複数のZrNd複合酸化物を調製し、各々にPtを2.4質量%となるように担持した。得られた各触媒粉末をフィルタにコーティングすることよってサンプルフィルタ(触媒付パティキュレートフィルタ)を得た。フィルタとしては、セル壁厚さ16mil(4.064×10
−1mm)、1平方インチ(645.16mm
2)当たりのセル数178個のSiC製ハニカム状フィルタ(容量11.3mL(直径17mm×長さ50mm)を採用した。フィルタ1L当たりの触媒粉末のコーティング量は20.5g/L(そのうちのPt量が約0.5g/L)とした。また、サンプルフィルタの上流端及び下流端には
図7及び
図8に示す栓4による目封じを施した。
【0036】
−カーボン燃焼速度の測定−
サンプルフィルタのPM燃焼性能をみるために、エージング後の各サンプルフィルタにカーボン(カーボンブラック)を堆積させてカーボン燃焼速度を測定した。エージングはサンプルフィルタを大気中で800℃の温度に24時間保持する熱処理である。
【0037】
図10はカーボン堆積用の器具を示す。同図において、11はカーボン粉末を入れる容器であり、これにエア供給管12とカーボン粉末圧送管13が接続されている。カーボン粉末を容器11に入れ、圧送管13の先端にサンプルフィルタ14を嵌めて、エア供給管12からエアを容器11に吹き込む。これにより、カーボン粉末が容器11中で巻き上がり拡散しながら、エアと共に圧送管13を流れてサンプルフィルタ14に堆積していく。
【0038】
使用するカーボン粉末は超音波処理によって凝集した部分がなくなるように解砕しておく。また、容器11には、サンプルフィルタ1L当たりの堆積量が7g/Lとなる量のカーボン粉末を入れる。すなわち、事前にスリップ量(サンプルフィルタ14に堆積されずにすり抜けてしまうカーボン量)を把握しておき、容器11には堆積量(7g/L)とスリップ量とを合算した量のカーボン粉末を入れる。エアの吹き込みはSV=12000/hで3分間とすればよい。
【0039】
得られた各サンプルフィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、N
2ガスを流通させながらそのガス温度を上昇させた。フィルタ入口温度が580℃で安定した後、N
2ガスから模擬排ガス(O
2;7.5%,残N
2)に切り換え、該模擬排ガスを空間速度40000/hで流した。そして、カーボンが燃焼することにより生じるCO及びCO
2のガス中濃度をフィルタ出口においてリアルタイムで測定し、それらの濃度から、下記の計算式を用いて、所定時間ごとに、カーボン燃焼速度(単位時間当たりのPM燃焼量)を計算した。
【0040】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO
2)濃度(ppm)/(1×10
6)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
上記所定時間毎のカーボン燃焼速度に基いてカーボン燃焼量積算値の経時変化を求め、カーボン燃焼率が0%から90%に達するまでに要した時間とその間のカーボン燃焼量の積算値とからカーボン燃焼速度(フィルタ1Lでの1分間当たりのPM燃焼量(mg/min-L))を求めた。結果を表1及び
図11に示す。
【0042】
カーボン燃焼速度は、Nd
2O
3含有率が増大するにつれて増大し、15モル%で最大となり、その後は低下していく傾向を示している。これは、ZrNd複合酸化物では、4価のZrに対する3価のNdの割合が増えるに従って酸素欠陥が増え酸素イオン伝導性が高くなっていくところ、酸素欠陥が増えすぎると、その酸素欠陥が逆に酸素イオンの移動を妨げるためと考えられる。表1及び
図11から、ZrNd複合酸化物中のNd
2O
3含有率を5モル%以上30モル%以下にするとZrO
2よりもカーボン燃焼速度が大きくなることがわかる。より好適なNd
2O
3含有率は10モル%以上25モル%以下である。
【0043】
[テスト2;ZrNdPr複合酸化物の好適Pr
2O
3含有率の策定]
Pr
2O
3含有率が異なる複数のZrNdPr複合酸化物(Nd
2O
3含有率はいずれも15モル%)を調製し、各々にPtを2.4質量%となるように担持した。得られた各触媒粉末をテスト1と同様のフィルタにコーティングすることよってサンプルフィルタ(触媒付パティキュレートフィルタ)を得た。テスト1と同じく、触媒粉末のコーティング量は20.5g/L(そのうちのPt量が約0.5g/L)であり、サンプルフィルタの上流端及び下流端には目封じを施した。そうして、テスト1と同じ方法でエージング後の各サンプルフィルタにカーボンを堆積させてカーボン燃焼速度を測定した。結果を表2及び
図12に示す。
【0045】
ZrNdPr複合酸化物の場合、カーボン燃焼速度は、Pr
2O
3含有率が増大するにつれて増大して20モル%で最大となり、その後は低下していく傾向を示している。表2及び
図12から、ZrNdPr複合酸化物中のPr
2O
3含有率を5モル%以上40モル%以下にすると、Nd
2O
3含有率を15モル%のZrNd複合酸化物よりもカーボン燃焼速度が大きくなることがわかる。好適なPr
2O
3含有率は10モル%以上35モル%以下である。
【0046】
[実施例及び比較例に係るフィルタの調製]
活性アルミナ、ZrNdPr複合酸化物、CeZrNd複合酸化物及びZrNd複合酸化物の各粉末を準備した。ZrNdPr複合酸化物の組成はZrO
2:Nd
2O
3:Pr
2O
3=70:12:18(モル比)である。以下、これを「ZNP」と略記する。CeZrNd複合酸化物の組成はCeO
2:ZrO
2:Nd
2O
3=24:72:4(モル比)である。以下、これを「CZN」と略記する。ZrNd複合酸化物の組成はZrO
2:Nd
2O
3=88:12(モル比)である。以下、これを「ZN」と略記する。活性アルミナは単に「アルミナ」と略記する。
【0047】
−実施例1−
アルミナ、ZNP、CZN及びZNの粉末を40:20:20:20の質量比で混合し、この混合物にPtを2.4質量%となるように担持した。得られた触媒粉末をテスト1と同様のフィルタにコーティングすることよって実施例1のフィルタ(触媒付パティキュレートフィルタ)を得た。フィルタ1L当たりの触媒粉末のコーティング量は20.5g/L(そのうちのPt量が約0.5g/L)である。また、フィルタの上流端及び下流端には
図7及び
図8に示す栓4による目封じを施した。
【0048】
−実施例2−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN:ZN=40:40:10:10(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例2のフィルタを得た。
【0049】
−実施例3−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN:ZN=40:10:40:10(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例3のフィルタを得た。
【0050】
−実施例4−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN:ZN=40:10:10:40(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例4のフィルタを得た。
【0051】
−実施例5−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN:ZN=40:25:25:10(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例5のフィルタを得た。
【0052】
−実施例6−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN:ZN=40:25:10:25(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例6のフィルタを得た。
【0053】
−実施例7−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN:ZN=40:10:25:25(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例7のフィルタを得た。
【0054】
−実施例8−
CZNに代えて、RhドープCeZrNd複合酸化物(以下、これを「RhドープCZN」と略記する。)を採用し、触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:20:20:20(質量比)とする他は、実施例1と同様にして実施例8のフィルタを得た。RhドープCZNのRhを除く組成はCeO
2:ZrO
2:Nd
2O
3=24:72:4(モル比)であり、Rhドープ量は0.2質量%である。
【0055】
−実施例9−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:40:10:10(質量比)とする他は、実施例8と同様にして実施例9のフィルタを得た。
【0056】
−実施例10−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:10:40:10(質量比)とする他は、実施例8と同様にして実施例10のフィルタを得た。
【0057】
−実施例11−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:10:10:40(質量比)とする他は、実施例8と同様にして実施例11のフィルタを得た。
【0058】
−実施例12−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:25:25:10(質量比)とする他は、実施例8と同様にして実施例12のフィルタを得た。
【0059】
−実施例13−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:25:10:25(質量比)とする他は、実施例8と同様にして実施例13のフィルタを得た。
【0060】
−実施例14−
触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN:ZN=40:10:25:25(質量比)とする他は、実施例8と同様にして実施例14のフィルタを得た。
【0061】
−比較例1−
ZNの配合量を零として、触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:CZN=40:30:30(質量比)とする他は、実施例1と同様にして比較例1のフィルタを得た。
【0062】
−比較例2−
CZNの配合量を零として、触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:ZN=40:30:30(質量比)とする他は、実施例1と同様にして比較例2のフィルタを得た。
【0063】
−比較例3−
ZNPの配合量を零として、触媒粉末の混合割合をアルミナ:CZN:ZN=40:30:30(質量比)とする他は、実施例1と同様にして比較例3のフィルタを得た。
【0064】
−比較例4−
ZNの配合量を零として、触媒粉末の混合割合をアルミナ:ZNP:RhドープCZN=40:30:30(質量比)とする他は、実施例8と同様にして比較例4のフィルタを得た。
【0065】
−比較例5−
ZNPの配合量を零として、触媒粉末の混合割合をアルミナ:RhドープCZN:ZN=40:30:30(質量比)とする他は、実施例8と同様にして比較例5のフィルタを得た。
【0066】
図13は実施例1〜14及び比較例1〜6に係る触媒粉末のZNP、CZN(又はRhドープCZN)及びZNの質量比を示す三成分相図(三角図表)である。同図の「実」は実施例を意味し、「比」は比較例を意味する。
【0067】
[実施例及び比較例のカーボン燃焼速度]
実施例1〜14及び比較例1〜6について、テスト1と同じ方法でエージング後の各フィルタにカーボンを堆積させ、カーボン燃焼率が0%から50%に達するまでの急速燃焼域のカーボン燃焼速度、カーボン燃焼率が50%から90%に達するまでの緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度、並びにカーボン燃焼率から0%から90%に達するまでのトータルのカーボン燃焼速度を求めた。結果を表3に示す。また、トータルのカーボン燃焼速度についての結果を
図14に示す。
【0069】
先に比較例をみるに、比較例1と比較例2とは、共にZNPを有する点で一致し、前者がCZNを有するのに対して後者はZNを有する点で相違する。両者を比較すると、ZNを有する後者の方が急速燃焼域のカーボン燃焼速度が大きい。このことから、ZNが急速燃焼域のカーボン燃焼速度の増大に効果があることがわかる。比較例3はCZN及びZNを有するが、ZNPを有しない。その急速燃焼域のカーボン燃焼速度は比較例1,2よりも小さい。このことから、比較例2のようなZNPとZNの組み合わせは急速燃焼域のカーボン燃焼速度の増大に大きな効果を示すことがわかり、ZNPからZNに対して活性酸素が供給されていることが推測される。
【0070】
緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度をみると、ZNP及びCZNを有する比較例1が最も大きい。このことから、ZNP及びCZNは緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度の増大効果が大きいことがわかる。また、比較例1と比較例3との比較、比較例3と比較例5との比較から、CZNにRhをドープすると、緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度が増大することがわかる。
【0071】
活性酸素を放出する複合酸化物として、ZNP、CZN及びZNの3種を有する実施例1をみると、その急速燃焼域のカーボン燃焼速度は比較例1よりも大きくなっている。これはZNの添加効果である。実施例1の急速燃焼域のカーボン燃焼速度が比較例2よりも小さくなっているのは、実施例1はCZNを有し、その分、ZNP及びZNの量が少なくなっているためであると考えられる。実施例1は緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度も比較例1より大きい。これは、カーボン燃焼率が50%を越えた後も、ZNがこれに接触しているカーボンの燃焼に大きく貢献しているためと考えられる。
【0072】
以上の検討から、実施例1のようにZNP、CZN及びZNの3種を組み合わせると、急速燃焼域及び緩慢燃焼域の双方においてカーボン燃焼速度が大きくなることがわかる。
【0073】
次に実施例2〜7をみると、そのトータルのカーボン燃焼速度は、実施例1と同じく、比較例1〜5のいずれよりも大きくなっている。ZNP、CZN及びZNの3種のうちの1種の割合を大きくした実施例2〜4をみると、急速燃焼域及び緩慢燃焼域のいずれにおいても、ZNPの割合を大きくした実施例2のカーボン燃焼速度が最も大きい。しかし、その実施例2を実施例1に比べると、少し劣る結果になっている。ZNP、CZN及びZNの3種のうちの2種の割合を大きくした実施例5〜7をみると、急速燃焼域のカーボン燃焼速度に関しては、実施例6が最も大きくなっているが、緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度が小さい。
【0074】
以上の実施例1〜7の検討から、ZNP、CZN及びZNの3種を組み合わせる場合、それらを互い同量にするか、ZNPの割合を他の2種よりも大きくすることが好ましいということができる。
【0075】
RhドープCZNを採用した実施例8〜14をみると、カーボン燃焼速度の大小関係については実施例1〜7と同様の傾向を示している。急速燃焼域のカーボン燃焼速度に関しては、実施例8〜14と実施例1〜7とに大差はないが、緩慢燃焼域のカーボン燃焼速度は実施例8〜14が実施例1〜7よりも大きくなっている。これは、CZNにRhをドープしたことによる効果である。
【0076】
また、実施例1〜14はいずれも、アルミナ、ZNP、CZN及びZNの総量に占めるZNP、CZN及びZN各々の割合は10質量%以上であり、このような配合によって、フィルタに捕集したPMの燃焼促進が図れるということができる。
【0077】
[活性アルミナの効果]
図12と
図14とを比較すると、実施例4〜6のトータルのカーボン燃焼速度は、テスト2のPr
2O
3含有率20モル%のZrNdPr複合酸化物(ZNP)単独ケースよりも小さくなっている。これは、実施例4〜6が、テスト2とは違ってアルミナを含有し、その分、活性酸素を放出する複合酸化物(ZNP、CZN及びZN)の割合が少なくなっていることによる。本発明が触媒層にアルミナを含ませている主たる目的は、PMの燃焼に伴うCOの排出を抑制するためである。以下、この点を具体的に説明する。
【0078】
アルミナのCO排出抑制効果を確認するために比較例6のフィルタを調製した。すなわち、比較例6のフィルタは、アルミナの配合量を零として、触媒粉末の混合割合をZNP:CZN:ZN=1:1:1(質量比)とし、他は実施例1と同様にして調製した。
【0079】
比較例6について実施例1と同じ条件で急速燃焼域、緩慢燃焼域及びトータルの各カーボン燃焼速度を測定した。また、実施例1及び比較例6について、上述のカーボン燃焼測定中のフィルタ出口における排出ガスのCO濃度のピーク値を求めた。比較例6の各カーボン燃焼速度を表3に示す。また、実施例1及び比較例6のトータルのカーボン燃焼速度を
図15に示し、それらのCOピーク濃度を
図16に示す。
【0080】
カーボン燃焼速度は、急速燃焼域、緩慢燃焼域及びトータルのいずれにおいても、アルミナを含有しない比較例6の方が実施例1よりも大きい。しかし、COピーク濃度をみると(
図16)、アルミナを含有する実施例1の方が比較例6よりも格段に小さくなっている。これから、本発明によれば、PMの速やかな燃焼を図りながら、PMの燃焼に伴うCOの排出を抑制できることがわかる。
【0081】
本発明は、ディーゼルエンジンに限らず、希薄燃焼ガソリンエンジンの排ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタにも適用することができる。