(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834958
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】可変バルブタイミング機構のロック機構
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
F01L1/356 E
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-14392(P2012-14392)
(22)【出願日】2012年1月26日
(65)【公開番号】特開2013-155612(P2013-155612A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 忍
【審査官】
橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−231644(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0259289(US,A1)
【文献】
特開2010−285986(JP,A)
【文献】
特開2002−089212(JP,A)
【文献】
特開2001−012218(JP,A)
【文献】
特開2010−285918(JP,A)
【文献】
特開2010−270746(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0162601(US,A1)
【文献】
特開2001−055934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00− 1/46
9/00− 9/04
13/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関出力軸及びカム軸の一方及び他方とそれぞれ同期回転するとともに、同軸を有して相対回動可能に配設された第1及び第2の回転体を備える可変バルブタイミング機構に設けられ、前記第1の回転体に形成されたロック穴に前記第2の回転体に配設されたロックピンの先端を係合することで前記第1及び第2の回転体の相対回動を係止するロック機構であって、
前記第2の回転体に形成された収容孔と、その収容孔の前記ロックピンの基端側の開口が閉塞されて前記収容孔に前記ロックピンの収容空間及びガイド穴を形成しているとともに、同ガイド穴の中心軸に向けて膨出されており前記ロックピンの外周と摺接する摺接面を有するガイドブッシュと、前記収容空間の前記ガイド穴の外側と当該可変バルブタイミング機構の外部とを連通するドレイン通路と、を備えるとともに、
前記摺接面よりも前記ロックピンの基端側における前記ガイド穴の内部と、前記収容空間の前記ガイド穴の外側とを連通する連通孔が前記ガイドブッシュに形成され、
前記連通孔は、前記摺接面よりも前記ロックピンの基端側における前記ガイド穴の内周から、同ガイド穴の径方向に延伸され、
前記連通孔における前記ロックピンの軸方向であって前記連通孔が延伸される方向に垂直な面の断面積は、前記摺接面と前記ロックピンにおいて当該摺接面に対向する部分との間に形成される隙間における前記ガイド穴の径方向であって前記ロックピンの軸方向に垂直な面の断面積よりも大きくされている
ことを特徴とする可変バルブタイミング機構のロック機構。
【請求項2】
当該ロック機構は、前記ロックピンに外挿される環形状のアウターピンを備え、前記アウターピンの前記ロックピンの基端側への変位に応じて前記ロックピンがその基端側に変位される二重ピン構造のロック機構として構成されてなる
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構のロック機構。
【請求項3】
当該ロック機構は、前記第1及び第2の回転体の相対回動範囲の中間において、それら2つの相対回動を係止する
請求項1又は2に記載の可変バルブタイミング機構のロック機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変バルブタイミング機構のロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等の内燃機関に搭載される機構として、機関バルブ(吸/排気バルブ)のバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構が実用されている。そして、そうした可変バルブタイミング機構として、例えば特許文献1に見られるようなベーン式の可変バルブタイミング機構が知られている。
【0003】
図4に例示するベーン式の可変バルブタイミング機構は、カム軸に一体回転可能に固定されたベーンローター1と、カムスプロケット2に一体化されたハウジング3との2つの回転体を備えている。なお、カムスプロケット2は、機関出力軸であるクランクシャフトにチェーンを介して駆動連結されている。
【0004】
ベーンローター1は、円柱形状のローター本体4と、その外周に突出する複数のベーン5とを備えている。またハウジング3は、カムスプロケット2と、そのカムスプロケット2によって背面が覆われた、略円環形状のリング部6と、そのリング部6の前面を覆うカバー7とを備え、ベーンローター1をその内部に収容している。ベーンローター1とハウジング3とは、同軸を有して相対回動可能に組み付けられている。
【0005】
ハウジング3のリング部6の内周には、ベーンローター1の各ベーン5をそれぞれ収容する複数の凹部8が形成されている。そしてリング部6の内周の凹部8は、ベーン5によって2つの油室に区画されている。このうち、ベーン5のカムシャフト回転方向に形成された油室は、ハウジング3に対してベーンローター1をカムシャフト反回転方向に相対回動させるための油圧が導入される遅角油室9となっている。またベーン5のカムシャフト反回転方向に形成された油室は、ハウジング3に対してベーンローター1をカムシャフト回転方向に相対回動させるための油圧が導入される進角油室10となっている。
【0006】
進角油室10にオイルを供給し、遅角油室9からオイルを排出すると、ベーン5の両側に作用する油圧の差によって、ベーンローター1がハウジング3に対してカムシャフト回転方向に相対回動される。これにより、ベーンローター1に一体回転可能に固定されたカムシャフトの回転位相が進められて、そのカムシャフトに設けられたカムにより開閉駆動される機関バルブのバルブタイミングが進角される。一方、遅角油室9にオイルを供給し、進角油室10からオイルを排出すると、ベーン5の両側に作用する油圧の差によって、ベーンローター1がハウジング3に対してカムシャフト反回転方向に相対回動される。これにより、ベーンローター1に一体回転可能に固定されたカムシャフトの回転位相が遅らされて、そのカムシャフトに設けられたカムにより開閉駆動される機関バルブのバルブタイミングが遅角される。一方、両油室(9、10)の油圧を均衡させると、ハウジング3に対するベーンローター1の相対回動が、そしてひいてはカムシャフトの回転位相が固定されて、バルブタイミングが一定に保持される。
【0007】
こうしたベーン式の可変バルブタイミング機構では、内燃機関の始動時には、両油室(9、10)からオイルが抜けているため、油圧によるバルブタイミングの保持が不能となる。そこで、ベーン式の可変バルブタイミング機構には、そうした内燃機関の始動時にも、バルブタイミングを適切な時期に保持できるように、ハウジング3に対するベーンローター1の相対回動を係止するロック機構が設置されている。
【0008】
ロック機構は、ベーンローター1のベーン5に形成された収容孔11と、その収容孔11に進退可能に収容されたロックピン12と、カムスプロケット2に形成されたロック穴(図示略)とを備えている。ロックピン12は、スプリング13によって先端側、すなわちカムスプロケット2に形成されたロック穴に嵌入する方向に常時付勢されるとともに、両油室(9、10)の油圧によって後方、すなわちロック穴から離脱する方向に押圧されるようになっている。そのため、ロックピン12は、両油室(9、10)の油圧が抜けた内燃機関の始動時には、スプリング13の付勢力で先端側に突出する。そしてその突出したロックピン12がロック穴に係合することで、ハウジング3に対するベーンローター1の相対回動が係止される。
【0009】
ところで、近年には、吸気バルブの閉弁時期を吸気下死点よりも大幅に遅角することで、アトキンソンサイクルによる内燃機関の運転を実現するベーン式可変バルブタイミング機構の実用化が進められている。こうしたベーン式可変バルブタイミング機構では、吸気バルブのバルブタイミングが最遅角とされた状態では、十分な圧縮比を確保できず、内燃機関の始動を保証できないことがある。そこでこうした可変バルブタイミング機構では、最遅角位相から一定の角度だけ進角した位置で、ハウジング3に対するベーンローター1の相対回動を係止するように構成されたロック機構が採用されている。こうしたロック機構は、最進角位相と最遅角位相との中間の位相で相対回動の係止を行うことから、中間ロック機構と呼ばれている。
【0010】
なお、中間ロック機構を備える可変バルブタイミング機構では、内燃機関の停止時に、中間ロック機構の作動に失敗して、内燃機関の始動開始時に中間ロック機構のロックピンがロック穴から抜けた状態となっていることがある。こうした場合、内燃機関の始動開始時に、中間ロック位相までベーンローター1を速やかに回動させて、ハウジング3に対するベーンローター1の相対回動を中間ロック機構により係止させる必要がある。
【0011】
このときのベーンローター1の回動は、可変バルブタイミング機構のハウジング3のロック穴の形成面に、次のようなラッチ溝を設けることで実現されている。ラッチ溝は、ロック穴を起点とし、そのロック穴からカムシャフト反回転方向に延伸された円弧状の溝で、ロック穴から離れるにつれて階段状に溝深さが浅くなるように形成されている。なお、以下では、ラッチ溝の溝深さが最も浅い部位をラッチ溝の最初の段と記載し、次に溝深さが浅い部位をラッチ溝の2番目の段と記載する。
【0012】
こうしたラッチ溝を利用した中間ロック位相へのベーンローター1の回動は、次の態様で行われる。回転するカムシャフトには、カムによる機関バルブの開閉駆動に伴う反力、すなわちカム駆動反力が作用し、カムシャフト回転中のベーンローター1にも、そうしたカム駆動反力が作用する。そのため、両油室(9、10)の油圧が抜けた状態では、ベーンローター1は、そうしたカム駆動反力によって、ハウジング3に対して揺動するようになる。そしてそうした揺動により、ベーンローター1がハウジング3に対して一定量進角側に回動すると、ロックピン12がラッチ溝の最初の段に嵌入する。こうしてロックピン12がラッチ溝の最初の段に嵌入すると、ベーンローター1の遅角側への回動は、ラッチ溝の遅角側の端の段差によって規制されるため、ベーンローター1の揺動範囲は、ラッチ溝の最初の段の遅角側の端よりも進角側の範囲となる。そこからベーンローター1がハウジング3に対して一定量進角側に回動し、ロックピン12がラッチ溝の2番目の段に嵌入すると、ベーンローター1の遅角側への回動は、ラッチ溝の2番目の段と最初の段との段差によって規制されるため、ベーンローター1の揺動範囲は、ラッチ溝の2番目の段の遅角側の端よりも進角側の範囲となる。以後、同様にして、ロックピン12は、順次、ラッチ溝の溝深さが深い段に嵌入し、ベーンローター1の揺動範囲は、徐々に進角側に移動する。そして最終的にベーンローター1は、中間ロック位相まで回動されるようになる。
【0013】
こうした中間ロック位相へのベーンローター1の回動を速やかかつ確実に行うには、ベーンローター1がカム駆動反力で制約を受けずに円滑に揺動される必要がある。ここで、遅角油室9と進角油室10とが完全に遮断された状態にあると、ベーンローター1の進角側への揺動に応じて進角油室10の容積が増大すると、進角油室10に負圧が発生してベーンローター1の揺動が妨げられるようになる。また、両油室(9、10)にオイルが充填されていると、ベーンローター1の揺動に応じた油室(9、10)の容積の縮小に応じてオイルが圧縮されるため、これもまた、ベーンローター1の揺動の妨げとなる。そのため、ベーンローター1の可動性を十分に確保するには、このときの両油室(9、10)を連通させることが望ましい。
【0014】
そこで、そうした両油室(9、10)の連通を実現するための機構として、
図5に示すような二重ピン構造のロック機構が考えられている。
同図に示すように、ベーンローター1のベーン5の一つには、そのベーン5を貫通する収容孔20が形成されている。そしてその収容孔20には、インナーピン21とアウターピン22との2つのピンが収容されている。
【0015】
一方、可変バルブタイミング機構のハウジング3を構成するカムスプロケット2には、周方向に延びるロック溝35が形成されている。そして、そうしたロック溝35の途中には、その深さが一段大きくされたロック穴36が形成されている。このロック穴36は、ベーンローター1及びハウジング3の相対回動範囲の中間に設定された中間ロック位相にベーンローター1が回動されたときに、インナーピン21と重なる位置に形成されている。そしてそのロック穴36にインナーピン21が係合することで、ベーンローター1とハウジング3との相対回動が係止されるようになっている。
【0016】
インナーピン21は、軸方向に貫通する貫通孔21aが形成された略中空円筒形状に形成されている。そしてその外周には、略円環形状に形成されたアウターピン22が軸方向に摺動可能に外挿されている。インナーピン21の軸方向中央の外周には、周方向に突き出した凸部32が形成されており、インナーピン21に対するその基端側へのアウターピン22の摺動がこの凸部32との当接により係止されるようになっている。
【0017】
インナーピン21の基端側における収容孔20の開口には、略筒状のガイドブッシュ23が圧入により固定されている。またインナーピン21の先端側における収容孔20の開口には、インナーピン21の先端が通過できるだけの円孔24が中央に形成された環状のリングブッシュ25が圧入により固定されている。そして、これらガイドブッシュ23及びリングブッシュ25により両端の開口を閉塞することで、収容孔20内に、インナーピン21及びアウターピン22の収容空間26が形成されている。
【0018】
なお、ガイドブッシュ23には、インナーピン21の基端部分が挿入されるガイド穴27が形成されている。インナーピン21の先端側におけるガイド穴27の内周は、インナーピン21の基端部分の外径とほぼ等しくされ、インナーピン21の外周と摺接する摺接面27aとなっている。一方、インナーピン21の基端側におけるガイド穴27の内周は、インナーピン21の基端部分の外径よりも大きくされている。
【0019】
インナーピン21とガイドブッシュ23との間には、インナーピンスプリング28が介設されている。そしてインナーピン21は、このインナーピンスプリング28によって、先端側に向けて常時付勢されている。またアウターピン22とガイドブッシュ23との間には、アウターピンスプリング29が介設されている。そしてアウターピン22は、このアウターピンスプリング29によって、インナーピン21の先端側に向けて常時付勢されている。
【0020】
一方、収容孔20内のアウターピン22とリングブッシュ25との間には、アウターピン解除油室30が区画形成されている。アウターピン解除油室30には、アウターピン解除油路31が接続されている。そして、アウターピン解除油室30には、このアウターピン解除油路31を通じて、アウターピン22を解除、すなわちアウターピンスプリング29の付勢力に抗してインナーピン21の基端側にアウターピン22を変位させるための油圧が導入されるようになっている。なお、インナーピン21がその先端側に変位した状態でアウターピン22が後退すると、インナーピン21の外周に形成された凸部32がアウターピン22の内周と当接して、インナーピン21もアウターピン22と共にその基端側に後退されるようになっている。
【0021】
また収容孔20の側周には、可変バルブタイミング機構の遅角油室9、進角油室10にそれぞれ連通する油室連通路33,34が接続されている。これら油室連通路33,34の収容孔20の側周における開口は、アウターピン22がインナーピン21の基端側に後退したときに、そのアウターピン22によって閉塞されるようになっている。
【0022】
次に、こうした二重ピン構造のロック機構の動作を説明する。
内燃機関の始動開始時には、アウターピン解除油室30はオイルが抜けた状態にあり、アウターピン22は、アウターピンスプリング29の付勢力によってインナーピン21の先端側に前進した状態となっている。そのため、このときの油室連通路33,34は、収容孔20を介して互いに連通されることになる。そして、これにより、可変バルブタイミング機構の遅角油室9と進角油室10とが互いに連通され、ベーンローター1の円滑な揺動が許容されるようになる。
【0023】
その後、カム駆動反力による揺動の繰り返しを通じてベーンローター1が中間ロック位相まで回動すると、インナーピンスプリング28の付勢力により、インナーピン21がロック穴に嵌入し、ベーンローター1とハウジング3との相対回動が係止される。そして、この状態で内燃機関の始動が行われる。
【0024】
内燃機関の始動後のバルブタイミングの可変制御の開始に際しては、アウターピン解除油室30への油圧の供給が行われ、
図6に示すように、アウターピンスプリング29の付勢力に抗してアウターピン22がインナーピン21の基端側に後退される。これにより、収容孔20の側周における油室連通路33,34の開口がアウターピン22により閉塞されて、可変バルブタイミング機構の遅角油室9と進角油室10との連通が遮断される。また、このときのインナーピン21は、アウターピン22と共に後退して、ロック穴から離脱される。その結果、ベーンローター1とハウジング3との相対回動が、すなわち機関バルブのバルブタイミングの変更が許容されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2006−009694号公報
【特許文献2】特開平10−159521号公報
【特許文献3】特開2002−256825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
ところで、こうした二重ピン構造のロック機構では、オイル中に混入した異物がインナーピン21とガイド穴27との摺動部に入り込み、噛み込んでしまうことがある。こうした場合、インナーピン21の円滑な動作が阻害されて、ロック機構の作動不良が発生してしまう。
【0027】
ちなみに、従来には、特許文献2及び3に見られるように、一重ピン構造のロック機構を備える可変バルブタイミング機構において、ロックピンを収容する収容孔のロックピン後背側の部分と可変バルブタイミング機構の外部とを直接連通するドレイン孔を設けたものが提案されている。こうしたドレイン孔を設ければ、ロックピンの後背側から異物を含んだオイルが外部に排出されるようになる。
【0028】
そこで、上記のような二重ピン構造のロック機構においても、ガイドブッシュ23に形成されたガイド穴27のインナーピン21の後背側の部分を可変バルブタイミング機構の外部に直接連通するドレイン孔を形成すれば、そのドレイン孔を通じて異物が排出されるため、ガイド穴27とインナーピン21との摺接部への異物の侵入を抑えられる。しかしながら、摺接部への異物の侵入を確実に防止するには、ドレイン孔通過時のオイルの流動抵抗を、摺接部通過時のオイルの流動抵抗よりも十分小さくする必要があり、ドレイン孔の流路面積をある程度に大きくしなければならなくなる。
【0029】
ここで、上記のような二重ピン構造のロック機構では、インナーピン21に形成された貫通孔21aのため、ガイド穴27のインナーピン21の後背側の部分が密閉されていない構造となっている。そのため、上記のようなドレイン孔を設ければ、そのドレイン孔を通じてオイルが外部に常時漏れ出すようになり、オイルのリーク量が大幅に増大してしまうようになる。
【0030】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、オイルリーク量の増大を抑えつつ、オイル中の異物の噛み込みによるロック機構の作動不良を好適に抑制することのできる可変バルブタイミング機構のロック機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明にかかる可変バルブタイミング機構のロック機構は、機関出力軸及びカム軸の一方及び他方とそれぞれ同期回転するとともに、同軸を有して相対回動可能に配設された第1及び第2の回転体を備える可変バルブタイミング機構に設けられる。そして、第1の回転体に形成されたロック穴に第2の回転体に配設されたロックピンの先端を係合することで第1及び第2の回転体の相対回動を係止するように構成されている。
【0032】
さらに、本発明の可変バルブタイミング機構のロック機構では、上記課題を解決するため、第2の回転体に形成された収容孔と、その収容孔のロックピンの基端側の開口
が閉塞
されて収容孔にロックピンの収容空間
及びガイド穴を形成
しているとともに、
ガイド穴の中心軸に向けて膨出されておりロックピンの外周と摺接する摺接面を有す
るガイドブッシュと、を備えるとともに、摺接面よりもロックピンの基端側におけるガイド穴の内部と、収容空間のガイド穴の外側とを連通する連通孔をガイドブッシュに形成するようにしている。
【0033】
こうした構成では、ロックピンの基端側におけるガイド穴の内部のオイルが連通孔を通じて収容空間のガイド穴の外側に流れるようになる。そのため、ロックピンとガイド穴との摺接部へのオイル中の異物の侵入が抑えられる。しかも、連通孔は、可変バルブタイミング機構の外部に直接連通されていないため、オイルのリーク量の増大は抑えつつ、連通孔の流路面積を大きくすることができる。したがって、上記構成によれば、オイルリーク量の増大を抑えつつ、オイル中の異物の噛み込みによるロック機構の作動不良を好適に抑制することができる。
【0034】
なお、オイル中の異物は、摺接面よりもロックピンの基端側におけるガイド穴の内周とロックピンの外周との間隙に溜ることが確認されている。そのため、摺接面よりもロックピンの基端側におけるガイド穴の内周より、同ガイド穴の径方向に延伸するように連通孔を形成すれば、そうした間隙に溜った異物をより的確に排除することが可能となり、オイル中の異物の噛み込みによるロック機構の作動不良をより確実に抑えられる。
また、連通孔におけるロックピンの軸方向
であって連通孔が延伸される方向に垂直な面の断面積を、摺接面とロックピンにおいて当該摺接面に対向する部分との間に形成される隙間におけるガイド穴の径方向
であってロックピンの軸方向に垂直な面の断面積よりも大きく構成すれば、オイルは当該隙間よりも流動抵抗の小さい連通孔を通ってガイド穴の外側に流出しやすくなる。すなわち、ロックピンとガイド穴との摺接部へのオイル中の異物の侵入をより好適に抑えることができる。
【0035】
また、異物を可変バルブタイミング機構の外部に排出するには、収容空間のガイド穴の外側と可変バルブタイミング機構の外部とを連通するドレイン通路を備えるようにすると良い。ロックピンとガイド穴との摺接部へのオイル中の異物の侵入を確実に抑えるには、オイルが摺接部ではなく、連通孔に向うように、連通孔の流路面積を大きくしなければならない。一方、ドレイン通路は、異物の排出が可能であれば、その流路面積を余り大きくする必要はない。そのため、異物を可変バルブタイミング機構の外部に排出するようにしながらも、オイルリーク量の増大を抑えることが可能である。
【0036】
ちなみに、本発明の可変バルブタイミング機構のロック機構は、例えば、ロックピンに外挿される環形状のアウターピンを備え、そのアウターピンのロックピン基端側への変位に応じてロックピンがその基端側に変位される二重ピン構造のロック機構として構成することができる。また、本発明の可変バルブタイミング機構のロック機構は、第1及び第2の回転体の相対回動範囲の中間において、それら2つの相対回動を係止する中間ロック機構としての具現化も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の可変バルブタイミング機構のロック機構を具体化した一実施の形態についてそのロック機構の側部断面構造を示す断面図。
【
図2】
図1のIIで示される部分を拡大して示す断面図。
【
図3】同実施の形態のロック解除途中におけるロック機構の側部断面構造を示す断面図。
【
図4】ベーン式の可変バルブタイミング機構の部分断面図。
【
図5】二重ピン構造のロック機構の側部断面構造を示す断面図。
【
図6】同二重ピン構造のロック機構のロック解除時の側部断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の可変バルブタイミング機構のロック機構を具体化した一実施の形態を、
図1〜
図3を参照して詳細に説明する。
まず、本実施の形態の可変バルブタイミング機構のロック機構の構成を、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0039】
なお、本実施の形態のロック機構の適用される可変バルブタイミング機構は、そのロック機構の構成を除き、
図4に示したものと同様の構成となっている。すなわち、本実施の形態の適用される可変バルブタイミング機構は、機関出力軸及びカム軸の一方及び他方とそれぞれ同期回転するとともに、同軸を有して相対回動可能に配設されたハウジング3及びベーンローター1の2つの回転体を備え、それらの相対回動を通じて機関バルブのバルブタイミングを可変とするように構成されている。
【0040】
そして本実施の形態のロック機構は、こうした可変バルブタイミング機構において、ベーンローター1及びハウジング3の相対回動範囲の中間において、それら2つの相対回動を係止する中間ロックを行うように構成されている。また、本実施の形態のロック機構は、インナーピン及びアウターピンからなる二重ピン構造のロック機構として構成されており、その基本的な構成は、
図5に示したものと同様とされている。すなわち、本実施の形態のロック機構は、
図1に示すように、インナーピン21と、そのインナーピン21に外挿される環形状のアウターピン22と、を備え、アウターピン22のインナーピン21の基端側への変位に応じて同インナーピン21がその基端側に変位される二重ピン構造のロック機構として構成されている。そして、ハウジング3を構成するカムスプロケット2に形成されたロック穴36にインナーピン21の先端を係合することで、ベーンローター1とハウジング3との相対回動を係止する構造となっている。
【0041】
また、上述したように、こうしたロック機構では、ベーンローター1に形成された収容孔20におけるインナーピン21の基端側の開口をガイドブッシュ23により閉塞することで、収容孔20にインナーピン21の収容空間26が形成されている。そして、ガイドブッシュ23には、インナーピン21の外周と摺接する摺接面27aを有するガイド穴27が形成されている。
【0042】
こうしたロック機構では、摺接面27aよりもインナーピン21の基端側におけるガイド穴27の内径がインナーピン21の基端部分の外径よりも大きくされており、そうした部分には、ガイド穴27の内周とインナーピン21の外周との間に間隙Sが形成されている。そして、こうしたロック機構では、そうした間隙Sに、オイル中の異物が溜ることが確認されている。
【0043】
そこで、本実施の形態では、上記間隙Sに溜った異物の排出経路を形成することで、インナーピン21とガイド穴27との摺接部への異物の侵入を抑えるようにしている。すなわち、本実施の形態の可変バルブタイミング機構のロック機構では、
図2に示すように、ガイド穴27の内部と収容空間26のガイド穴27の外側とを連通する連通孔37をガイドブッシュ23に形成している。この連通孔37は、インナーピン21との摺接面27aよりも基端側におけるガイド穴27の内周からガイドブッシュ23の径方向に延伸されている。なお、連通孔37の断面積(オイルの流路面積)は、インナーピン21とガイド穴27との摺接部の隙間の断面積よりも十分大きくされている。
【0044】
さらに、インナーピン21の基端側における収容孔20の内周には、軸方向に延びる溝が形成されている。そして、この溝により、収容孔20とガイドブッシュ23との嵌合部を通り、収容空間26のガイド穴27の外側と可変バルブタイミング機構の外部とを連通するドレイン通路38が形成されている。このドレイン通路38は、連通孔37よりもその断面積(オイルの流路面積)が小さくなるように形成されている。ちなみに、ドレイン通路38は、その収容空間26に対する開口が、ガイドブッシュ23の外周における連通孔37の開口と対向するように形成されている。
【0045】
続いて、こうした本実施の形態の可変バルブタイミング機構のロック機構の作用を説明する。
ロック解除時には、アウターピン解除油路31を通じてアウターピン解除油室30にロック解除油圧が導入され、これにより、アウターピン22がインナーピン21と共に基端側に変位される。なお、このときの遅角油室9及び進角油室10には、ロック解除後のベーンローター1の回動を規制するため、双方共に油圧が導入されている。
【0046】
図3に示すように、こうしたロック解除の途中には、遅角油室9からインナーピン21に形成された貫通孔21aを通って、ガイド穴27のインナーピン21の後背の部分にオイルが流入する。そのため、ガイド穴27のインナーピン21の後背の部分の油圧は、ドレイン通路38を通じて大気開放されていることから大気圧となる収容空間26のガイド穴27の外側の油圧よりも高くなる。
【0047】
このとき、本実施の形態では、インナーピン21とガイド穴27との摺接部の隙間よりも断面積が大きくなるように連通孔37が形成されている。そのため、こうしたオイルは、より流動抵抗の小さい連通孔37を通って、収容空間26のガイド穴27の外側に流出するようになる。そして収容空間26のガイド穴27の外側に流入したオイルは、ドレイン通路38を通って可変バルブタイミング機構の外部に排出される。このとき、上記間隙Sに溜った異物は、こうしたオイルの流れにより押し流されて、オイルと共に可変バルブタイミング機構の外部に排出される。
【0048】
なお、ロック中には、インナーピン21の先端とロック穴36の底面との当接により、ロック解除後には、インナーピン21の基端とガイド穴27の底面との当接により、インナーピン21の貫通孔21aを通じたオイルの流れが阻止される。そのため、連通孔37及びドレイン通路38を通じた外部へのオイルの流出は、ロック解除の途中に限られ、連通孔37の形成によりオイルリーク量の増大は、限定されたものとなる。
【0049】
ちなみに、こうした本実施の形態では、ハウジング3が本発明における第1の回転体に、ベーンローター1が本発明における第2の回転体にそれぞれ対応する構成となっている。また、本実施の形態では、インナーピン21が本発明におけるロックピンに対応する構成となっている。
【0050】
以上の本実施の形態の可変バルブタイミング機構のロック機構によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施の形態では、インナーピン21の外周との摺接面27aよりも基端側におけるガイド穴27の内部と収容空間26のガイド穴27の外側とを連通する連通孔37をガイドブッシュ23に形成している。そのため、インナーピン21とガイド穴27との摺接部へのオイル中の異物の侵入が抑えられる。しかも、連通孔37は、可変バルブタイミング機構の外部に直接連通されていないため、オイルリーク量の増大は抑えつつ、連通孔37の流路面積を大きくすることができる。したがって、本実施の形態によれば、オイルリーク量の増大を抑えつつ、オイル中の異物の噛み込みによるロック機構の作動不良を好適に抑制することができる。
【0051】
(2)本実施の形態では、摺接面27aよりも基端側におけるガイド穴27の内周より、同ガイド穴27の径方向に延伸するように連通孔37が形成されている。そのため、摺接面27aよりも基端側におけるガイド穴27の内周とインナーピン21の外周との間隙Sに溜る異物をより的確に排除することが可能となり、オイル中の異物の噛み込みによるロック機構の作動不良をより確実に抑えられる。
【0052】
(3)本実施の形態では、収容空間26のガイド穴27の外側と可変バルブタイミング機構の外部とを連通するドレイン通路38が設けられているため、オイル中の異物を外部に排除することができる。なお、インナーピン21及びガイド穴27の摺接部にオイルが流れないようにするため、大きい流路面積が必要な連通孔37とは異なり、ドレイン通路38の流路面積は、余り大きくする必要がないことから、収容空間26を経由してオイル中の異物を外部に排出する構造とすることで、オイルリーク量の増大を抑えることが可能である。
【0053】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、ドレイン通路38の収容空間26に対する開口を、ガイドブッシュ23の外周における連通孔37の開口と対向させていたが、レイアウト上、そうした開口の配置が困難な場合などには、両開口の位置をずらした構成としても良い。
【0054】
・上記構成では、収容孔20の内周に溝を形成することで、ドレイン通路38を形成していたが、ベーン5の内部に穴を空けるなど、他の方法により、収容空間26と可変バルブタイミング機構の外部とを連通するドレイン通路を形成するようにしても良い。
【0055】
・上記構成では、ドレイン通路38を通じて収容空間26を外部に連通することで、最終的に可変バルブタイミング機構の外部に異物を排出するようにしていたが、異物をオイルと共にオイルパンに戻したり、可変バルブタイミング機構の内部等に形成した空間に排除した異物を捕集しておくようにしたりしても良い。
【0056】
・上記実施の形態では、摺接面27aよりもインナーピン21の基端側におけるガイド穴27の内周より、同ガイド穴27の径方向に延伸するように連通孔37を形成していた。尤も、摺接面27aよりもインナーピン21の基端側におけるガイド穴27の内部と収容空間26のガイド穴27の外側とを連通し、かつオイルの流動抵抗が十分小さくなるように連通孔が形成されていれば、オイルリーク量の増大を抑えつつ、インナーピン21とガイド穴27との摺接部への異物の噛み込みを抑えることが可能である。
【0057】
・上記実施の形態では、ベーンローター1及びハウジング3の相対回動範囲の中間においてそれらの相対回動を係止する中間ロック機構として本発明を具体化した場合の例を説明したが、本発明は、上記相対回動範囲の端において相対回動の係止を行うロック機構として実施することも可能である。
【0058】
・上記実施の形態では、インナーピン21、アウターピン22の二重ピン構造のロック機構として本発明を具体化した場合の例を説明したが、本発明は、単一のロックピンのみを備えるロック機構にもその適用が可能である。要は、収容孔のロックピンの基端側の開口を閉塞することでロックピンの収容空間が形成され、ロックピンの外周と摺接する摺接面を有するガイド穴が形成されたガイドブッシュを備えるロック機構であれば、本発明を適用することが可能である。
【0059】
・上記実施の形態では、カム軸と同期回転する側の回転体(ベーンローター1)にロックピン(インナーピン21)が、機関出力軸と同期回転する側の回転体(ハウジング3)にロック穴36がそれぞれ設けられた構成とされている。これに対して、機関出力軸と同期回転する側の回転体にロックピンを、カム軸と同期回転する側の回転体にロック穴を、それぞれ設けるようにロック機構を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…ベーンローター(第2の回転体:4…ローター本体、5…ベーン)、3…ハウジング(第1の回転体:2…カムスプロケット、6…リング部、7…カバー)、8…凹部、9…遅角油室、10…進角油室、11…収容孔、12…ロックピン、13…スプリング、20…収容孔、21…インナーピン(ロックピン)、21a…貫通孔、22…アウターピン、23…ガイドブッシュ、24…円孔、25…リングブッシュ、26…収容空間、27…ガイド穴、27a…摺接面、28…インナーピンスプリング、29…アウターピンスプリング、30…アウターピン解除油室、31…アウターピン解除油路、32…凸部、33…油室連通路、34…油室連通路、35…ロック溝、36…ロック穴、37…連通孔、38…ドレイン通路。