(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834976
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】内燃機関制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/38 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
F02D41/38 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-20778(P2012-20778)
(22)【出願日】2012年2月2日
(65)【公開番号】特開2013-160080(P2013-160080A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亮
【審査官】
戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−183466(JP,A)
【文献】
特開平07−127506(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/127574(WO,A1)
【文献】
特開2012−92748(JP,A)
【文献】
特開2012−154244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の主噴射の前に、前記燃料を複数回パイロット噴射可能な燃料噴射手段と、
内燃機関の気筒内の圧力を検出する筒内圧検出手段と、
前記検出された圧力に基づいて、前記パイロット噴射に係る噴射圧に関連する第1パラメータを算出し、前記算出された第1パラメータと前記第1パラメータに係る第1目標値との第1偏差を算出する第1算出手段と、
前記検出された圧力に基づいて、前記パイロット噴射に係る噴射量に関連する第2パラメータを算出し、前記算出された第2パラメータと、前記第2パラメータに係る第2目標値との第2偏差を算出する第2算出手段と、
前記算出された第1偏差が大きいほど前記パイロット噴射に係る噴射圧を補正する噴射圧補正係数を大きくし、且つ、前記算出された第2偏差が小さいほど前記パイロット噴射に係る噴射量を補正する噴射量補正係数を大きくする制御手段と、
を備え、
前記第1パラメータは、熱発生率の最大傾きであり、
前記第2パラメータは、燃焼重心である
ことを特徴とする内燃機関制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば筒内直噴圧縮着火エンジン等の内燃機関を制御する内燃機関制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、燃料噴射量に応じて、燃焼室内での燃焼に伴う熱発生率の燃焼重心時刻の適正値を算出し、実際の燃焼重心時刻が、該算出された燃焼重心時刻に略一致するように、燃料噴射時期の補正や筒内酸素濃度の補正を行う装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
或いは、実着火時期と目標着火時期との差、及び、燃料噴射期間と実着火時期との関係から定まる実拡散燃焼割合と、目標拡散燃焼割合との差、の正負に基づいて、燃料噴射時期とプレ噴射量とを同時に補正する装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
或いは、
実トルク増加量と実噴射量とを比較することにより燃焼割合を算出し、噴射制御用マップのデータ(噴射パターン)を、所望の出力トルク及びエミッション状態となるよう燃焼割合に応じて変更する装置が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−202629号公報
【特許文献2】特開2010−203343号公報
【特許文献3】特開2009−074499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の背景技術では、例えば燃焼騒音やNOx等の抑制が不十分である可能性があるという技術的問題点がある。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、燃焼騒音やNOxの発生を抑制しつつ、着火性を向上させることができる内燃機関制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関制御装置は、上記課題を解決するために、燃料の主噴射の前に、前記燃料を複数回パイロット噴射可能な燃料噴射手段と、内燃機関の気筒内の圧力を検出する筒内圧検出手段と、前記検出された圧力に基づいて、前記パイロット噴射に係る噴射圧に関連する第1パラメータを算出し、前記算出された第1パラメータと前記第1パラメータに係る第1目標値との第1偏差を算出する第1算出手段と、前記検出された圧力に基づいて、前記パイロット噴射に係る噴射量に関連する第2パラメータを算出し、前記算出された第2パラメータと、前記第2パラメータに係る第2目標値との第2偏差を算出する第2算出手段と、前記算出された第1偏差が大きいほど前記パイロット噴射に係る噴射圧を補正する噴射圧補正係数を大きくし、且つ、前記算出された第2偏差が
小さいほど前記パイロット噴射に係る噴射量を補正する噴射量補正係数を
大きくする制御手段と、を備え、前記第1パラメータは、熱発生率の最大傾きであり、前記第2パラメータは、燃焼重心である。
【0009】
本発明の内燃機関制御装置によれば、例えばインジェクタ等である燃料噴射手段は、例えばガソリン、軽油等である燃料の主噴射の前に、微量の燃料を複数回パイロット噴射可能に構成されている。例えば筒内圧センサ等である筒内圧検出手段は、内燃機関の気筒内の圧力を検出する。
【0010】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる第1算出手段は、筒内圧検出手段により検出された圧力に基づいて、パイロット噴射に係る噴射圧に関連する第1パラメータを算出する。第1算出手段は、更に、算出された第1パラメータと、該第1パラメータに係る第1目標値との間の偏差である第1偏差を算出する。
第1パラメータは、熱発生率の最大傾きである。
【0011】
ここで、燃料の噴射圧は、燃焼速度に影響を与える。燃焼速度が比較的速い場合には、例えば燃焼騒音が増大することが、本願発明者の研究により判明している。
【0012】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる第2算出手段は、筒内圧検出手段により検出
された圧力に基づいて、パイロット噴射に係る噴射量に関連する第2パラメータを算出す
る。第2算出手段は、更に、算出された第2パラメータと、該第2パラメータに係る第2
目標値との間の偏差である第2偏差を算出する。
第2パラメータは、燃焼重心である。
【0013】
ここで、パイロット噴射に係る燃料の噴射量は、燃焼重心(つまり、着火時期)に影響を与える。燃焼重心によっては、例えば失火が起きる可能性があることが、本願発明者の研究により判明している。
【0014】
第1目標値及び第2目標値は、内燃機関の運転状態等に応じて、随時決定される値である。
【0015】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えてなる制御手段は、算出された第1偏差が大きいほどパイロット噴射に係る噴射圧を補正する噴射圧補正係数を大きくし、且つ、算出された第2偏差が
小さいほどパイロット噴射に係る噴射量を補正する噴射量補正係数を
大きくする。
【0016】
制御手段は、噴射圧補正係数に基づいて、補正後の噴射圧に係る目標値を求めると共に、噴射量補正係数に基づいて補正後の噴射量に係る目標値を求める。そして、制御手段は、補正後の噴射圧に係る目標値及び補正後の噴射量に係る目標値に基づいて、燃料噴射手段を制御する。
【0017】
この結果、燃焼騒音やNOxの発生を抑制しつつ、着火性を向上させることができることが、本願発明者の研究により判明している。
【0018】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るエンジンの構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るエンジン制御の概念を示す概念図である。
【
図3】実施形態に係るエンジン制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態に係る補正割合係数等の概念を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の内燃機関制御装置に係る実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明に係る「内燃機関」の一例としてのエンジンの構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るエンジンの構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、エンジン1は、気筒11、ピストン12、吸気通路13、吸気弁14、排気通路15、排気弁16及び燃料噴射弁17を備えて構成されている。エンジン1は、気筒11内に吸入した空気を圧縮し、圧縮されて高温になった空気中に燃料を噴射して自己着火させる圧縮着火方式のエンジン(所謂、筒内直噴圧縮着火エンジン)である。
【0023】
ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)21は、例えば燃料噴射弁17から噴射される燃料等、エンジン1、及び該エンジン1を備える車両(図示せず)の各種電子制御を行う。
【0024】
制御装置100は、燃料噴射弁17と、気筒11内の圧力を検出する筒内圧センサ22と、ECU21とを備えて構成されている。つまり、本実施形態では、各種電子制御用のECU21の機能の一部を、制御装置100の一部として用いている。
【0025】
ECU21は、燃料の主噴射の前に、微小燃料を複数回パイロット噴射するように、燃料噴射弁17を制御する。パイロット噴射により噴射された燃料はピストン12の上昇に伴う気筒11内(燃焼室)の温度上昇によって燃える。この予備的な燃焼によって、主噴射時の拡散燃料が活発化され、燃料を噴射してから着火するまでの着火遅れ時間を短縮することができる(即ち、着火性を向上することができる)。
【0026】
ところで、厳しい排出規制を満たすためには、過渡時に燃焼状態量(例えば、筒内圧力、温度、熱伝達等)が変化した場合でも、燃焼状態の全てを狙い値に補正する精密制御が必須となる。特に、燃焼時刻の制御と、燃焼状態の制御との両立が重要となる。具体的には、燃焼重心の制御と熱発生率傾きの制御との両立が重要となる。
【0027】
そこで、ECU21は、筒内圧センサ22により検出された気筒11内の圧力に基づいて、下記式(1)により、熱発生率dQを求める。
【0028】
【数1】
(1)
ここで、κは比熱比であり、Vはシリンダ容積であり、pは筒内圧力である。
【0029】
次に、ECU21は、燃焼時刻に関連するパラメータである燃焼重心を、式(1)に基づいて算出する。具体的には、ECU21は、式(1)の熱発生率dQの積分値が50%の値に到達する時刻を算出する。
【0030】
また、ECU21は、燃焼状態に関連するパラメータである熱発生率の最大傾きを、式(1)に基づいて算出する。具体的には、ECU21は、式(1)をクランクアングル毎に微分した値から最大値を抽出することにより、熱発生率の最大傾きを算出する。
【0031】
続いて、ECU21は、算出された燃焼重心と、該燃焼重心に係る目標値との差分(
図2の“ΔCA50”参照)、及び、算出された熱発生率の最大傾きと、該熱発生率の最大傾きに係る目標値との差分(
図2の“Δ傾き”参照)、に応じて、次回のサイクルのパイロット噴射に係る燃料噴射量、及び燃料噴射圧を補正する。
【0032】
ここで、燃焼重心は、失火、燃費に影響し、熱発生率の最大傾きは、燃焼騒音に影響することが、本願発明者の研究により判明している。このため、燃焼重心及び熱発生率の最大傾き各々を適切に制御することによって、燃焼騒音を抑制しつつ、着火性を向上することができる。
【0033】
制御装置100が実行する制御処理について、
図3のフローチャートを参照して、より具体的に説明する。
【0034】
図3において、ECU21は、先ず、筒内圧センサ22により検出された気筒11内の圧力と、上記式(1)とに基づいて、今回のサイクルにおける燃焼重心を算出する(ステップS101)。
【0035】
ステップS101の処理と並行して、ECU21は、筒内圧センサ22により検出された気筒11内の圧力と、上記式(1)とに基づいて、今回のサイクルにおける熱発生率の最大傾きを算出する(ステップS102)。
【0036】
次に、ECU21は、算出された燃焼重心に基づいて、補正割合係数を算出する(ステップS103)。具体的には、ECU21は、算出された燃焼重心が遅くなるほど、補正割合係数を大きくする。尚、この補正割合係数は、
図4(a)に示すように、0から1までの範囲内の値である。
【0037】
次に、ECU21は、算出された(即ち、現在の)燃焼重心と、該燃焼重心に係る目標値との差分(目標値−現在の燃焼重心)に基づいて、噴射量補正係数を算出する。具体的には、ECU21は、差分が小さいほど、噴射量補正係数を大きくする。そして、ECU21は、次回のサイクルの前段噴射(即ち、主噴射の直前に行われるパイロット噴射)に係る燃料噴射量を、次式(2)により決定する(ステップS104)。
(前段の噴射量)=(目標値)×(噴射量補正係数)×(補正割合係数) (2)
次に、ECU21は、算出された(即ち、現在の)熱発生率の最大傾きと、該熱発生率の最大傾きに係る目標値との差分(目標値−現在の熱発生率の最大傾き)に基づいて、噴射圧補正係数を算出する。具体的には、ECU21は、差分が大きいほど、噴射圧補正係数を大きくする。そして、ECU21は、次回のサイクルの燃料噴射圧を、次式(3)により決定する(ステップS105)。
(噴射圧)=(目標値)×(噴射圧補正係数)×{1−(補正割合係数)} (3)
本実施形態では、上述の如く、算出された燃焼重心が遅くなるほど、補正割合係数が大きくなる。このため、算出された燃焼重心が遅くなるほど、前段の噴射量の重みが増し、噴射圧の重みが減る(式(2)及び(3)参照)。他方、算出された燃焼重心が早くなる(上死点TDCに近づく)ほど、前段の噴射量の重みが減り、噴射圧の重みが増す。
【0038】
燃焼重心が上死点近傍になる場合には、燃費感度が比較的低く失火もしにくいため、熱発生率の最大傾きの制御(即ち、噴射圧の制御)を優先することで、燃焼騒音を効果的に抑制することができる。他方、燃焼重心が遅くなる場合には、失火を優先して回避するために、燃焼重心の制御(即ち、前段の噴射量の制御)を優先する。この結果、燃焼重心の制御と熱発生率傾きの制御との両立が可能となる。
【0039】
実施形態に係る「燃料噴射弁17」及び「筒内圧センサ22」は、夫々、本発明に係る「燃料噴射手段」及び「筒内圧検出手段」の一例である。実施形態に係る「ECU21」は、本発明に係る「第1算出手段」、「第2算出手段」及び「制御手段」の一例である。実施形態に係る「熱発生率の最大傾き」及び「燃焼重心」は、夫々、本発明に係る「第1パラメータ」及び「第2パラメータ」の一例である。
【0040】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…エンジン、11…気筒、12…ピストン、13…吸気通路、14…吸気弁、15…排気通路、16…排気弁、17…燃料噴射弁、21…ECU、22…筒内圧センサ、100…制御装置