(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5834981
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】固体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/117 20060101AFI20151203BHJP
H01S 3/109 20060101ALI20151203BHJP
H01S 3/0941 20060101ALI20151203BHJP
H01S 3/04 20060101ALI20151203BHJP
G02F 1/11 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
H01S3/117
H01S3/109
H01S3/0941
H01S3/04
G02F1/11 502
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-26932(P2012-26932)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-165143(P2013-165143A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直也
(72)【発明者】
【氏名】東條 公資
(72)【発明者】
【氏名】宇野 進吾
(72)【発明者】
【氏名】齊川 次郎
【審査官】
廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−206979(JP,A)
【文献】
特開平11−125800(JP,A)
【文献】
特開平06−273705(JP,A)
【文献】
特開平06−045680(JP,A)
【文献】
特開平05−198870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 − 5/50
G02F 1/00 − 1/125
1/21 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発生させる半導体レーザと、
前記半導体レーザからの励起光に応じて誘導放出光を発生する固体レーザ媒質と、
前記固体レーザ媒質を含む共振器内に配置され、前記共振器内のロスを制御してジャイアントパルスを発生させる音響光学素子と、
前記音響光学素子上に配置され、前記音響光学素子を加熱するヒータと、
前記音響光学素子にRF信号を入力し前記音響光学素子をオン/オフさせる音響光学素子駆動回路と、
前記音響光学素子がオフされたときに前記ヒータを駆動し前記音響光学素子がオンされたときに前記ヒータを停止するヒータ駆動回路と、
を備えることを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項2】
前記固体レーザ媒質からの基本波を波長変換し高調波を出力する波長変換素子を備えることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ装置。
【請求項3】
前記RF信号のオフと前記ヒータの駆動との間のオフセット時間は、前記RF信号の立ち下がり時刻から前記パルスの立ち上がり時刻までの時間よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の固体レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体レーザ装置に関し、特に、第3高調波を出力する固体パルスレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザを有する固体レーザ装置では、より大きな出力を得るために、共振器内にQスイッチ素子を配置し、ジャイアントパルスを発生させる方法が知られている。このQスイッチの手法の一つとして、音響光学素子(AO素子)を用いたAOQスイッチが知られている(特許文献1)。
【0003】
このAOQスイッチは、音響光学媒体中に超音波を伝搬させ、音響光学媒体を透過するレーザ光を回折することにより、共振器内のロスを制御してスイッチング作用をなすものである。
【0004】
従来の音響光学素子を用いた固体パルスレーザ装置の動作原理は次のように行われる。
【0005】
(1)音響光学素子をオンし、共振器のロスを高くすることにより、共振器のゲインを充分に高くする。
【0006】
(2)音響光学素子をオフして、共振器のロスを急激に低くして、レーザ媒質に蓄えられたエネルギーを短時間でレーザ出力として取り出す。パルスレーザ出力後に、(1)の処理に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−251448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、音響光学素子がオンしたときには、一般に10W前後のRF信号が音響光学素子に印加されるため、大きな発熱を伴い、素子温度は上昇する。また、音響光学素子がオフすると、発熱がなくなり、素子温度は急激に低下する。このため、音響光学素子温度の変動幅が大きく、レーザ特性が悪化する要因となっていた。
【0009】
本発明の課題は、音響光学素子における発熱量を一定にして、素子温度の変動幅を小さく抑制することにより、レーザ特性を安定化させることができる固体レーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る固体レーザ装置は、励起光を発生させる半導体レーザと、前記半導体レーザからの励起光に応じて誘導放出光を発生する固体レーザ媒質と、前記固体レーザ媒質を含む共振器内に配置され、前記共振器内のロスを制御してジャイアントパルスを発生させる音響光学素子と、前記音響光学素子上に配置され、前記音響光学素子を加熱するヒータと、前記音響光学素子にRF信号を入力し前記音響光学素子をオン/オフさせる音響光学素子駆動回路と、前記音響光学素子がオフされたときに前記ヒータを駆動
し前記音響光学素子がオンされたときに前記ヒータを停止するヒータ駆動回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る固体レーザ装置によれば、音響光学素子にヒータを取り付け、音響光学素子がオフされたときにヒータが駆動され
音響光学素子がオンされたときにヒータが停止されるので、音響光学素子がオフされたときでも、RF信号により音響光学素子がオンした時の発熱と同等の熱を音響光学素子に加えることができる。従って、音響光学素子における発熱量を一定にして、素子温度の変動幅を小さく抑制することにより、レーザ特性を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係る固体レーザ装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る固体レーザ装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図3】従来の固体レーザ装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の固体レーザ装置の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1に係る固体レーザ装置の構成を示すブロック図である。この固体レーザ装置は、半導体レーザ1、2つの集光レンズ2、ミラー3、固体レーザ媒質4、音響光学素子5、ミラー6、ヒータ7、音響光学素子駆動回路8、ヒータ駆動回路9を備えている。
【0015】
なお、固体レーザ媒質4、音響光学素子5、ミラー3,6から構成される部分を共振器と呼ぶ。
【0016】
半導体レーザ1は、例えばレーザダイオードによって構成されており、励起光を発生する。集光レンズ2は、レーザダイオードで発生されたレーザ光を集束する。半導体レーザ1で発生された励起光は、ミラー3を透過して固体レーザ媒質4に照射される。
【0017】
固体レーザ媒質4は、レーザ発振の元となる物質であり、例えば、YAGレーザと呼ばれる固体レーザにおいては、イットリウム、アルミニウムおよびガーネット(Yttrium Aluminum Garnet)などといった物質が用いられる。この固体レーザ媒質4は、半導体レーザ1から励起光が照射されることにより誘導放出光を発生する。この固体レーザ媒質4で発生された誘導放出光は、音響光学素子5に送られる。
【0018】
音響光学素子5は、Qスイッチを構成し、音響光学素子駆動回路8から入力されるRF信号にしたがって、固体レーザ媒質4で発生された誘導放出光の基本波を変調することにより共振器内のロスを制御し、パルス幅の狭いピークの大きなパルス(ジャイアントパルス)を出力する。
【0019】
AOQ駆動回路8は、RF信号を生成し、RF信号を音響光学素子5に送るとともに、音響光学素子5をオン/オフさせる。
【0020】
音響光学素子5の上には、ヒータ7が取り付けられている。ヒータ駆動回路9は、音響光学素子5がオフされたときにヒータ7を駆動する。ヒータ駆動回路9は、音響光学素子駆動回路8に同期しており、音響光学素子5がオンのときにヒータ7はオフとなり、音響光学素子5がオフのときにヒータ7はオンとなる。
【0021】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る固体レーザ装置の動作を、
図2に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。
【0022】
まず、固体レーザ装置が起動されると、半導体レーザ1は、励起光を発生して固体レーザ媒質4を照射する。これにより、固体レーザ媒質4は、誘導放出光を発生し、音響光学素子5に送る。
【0023】
これと並行して、音響光学素子駆動回路8は、
図2に示すようなデューティ比を有するRF信号を生成して音響光学素子5に与える。
【0024】
図2に示すように、音響光学素子駆動回路8から出力されるRF信号のオン期間では、共振器内でのロスがゲインより大きくなってレーザ発振が行われず、固体レーザ媒質4のゲインが上がっていく。この状態からRF信号がオフ期間になると、その立ち下がりからレーザ発振可能な状態になり、
図2に示すように、ゲインが最大になった固体レーザ媒質4から音響光学素子5を経由してレーザパルスが出力される。
【0025】
また、
図2に示すように、RF信号がオンのときには、ヒータ信号はオフとなり、この場合には、RF信号のエネルギーにより音響光学素子5の素子温度が上昇する。次に、RF信号がオフのときには、ヒータ信号はオンとなるので、ヒータ7の加熱により音響光学素子5の素子温度が上昇する。
【0026】
即ち、音響光学素子5の素子温度の変化を抑制することで、パルスが発生する瞬間の音響光学素子5の温度のばらつきが小さくなり、出力安定度が向上する。RF信号のオフとヒータ7のオンとの間のオフセット時間Δt2は、固体レーザ装置の構成や使用環境によって微調整して、最適化することができる。
【0027】
また、オフセット時間Δt2は、RF信号の立ち下がり時刻からレーザパルスの立ち上がり時刻までの時間Δt1よりも小さく設定されている。
なお、
図3は、従来の固体レーザ装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。従来の固体レーザ装置では、
図3に示すように、音響光学素子5がオフとなってから、レーザのパルス光が発振するまでの間にはディレイタイムがあり、その間に音響光学素子5の温度が低下し始める。このため、素子温度が変化している最中にパルスレーザ発振が行われることになる。
【0028】
また、パルス発生のタイミングにはジッターがあるので、パルスが発生する瞬間の音響光学素子5の温度が1ショット毎ばらつくため、出力安定性が悪化する要因となっていた。
【0029】
以上説明したように、本発明の実施例1に係る固体レーザ装置によれば、音響光学素子5にヒータ7を取り付け、音響光学素子5がオフされたときにヒータ7が駆動されるので、音響光学素子5がオフされたときでも、RF信号により音響光学素子5がオンした時の発熱と同等の熱を音響光学素子5に加えることができる。従って、音響光学素子5における発熱量を一定にして、素子温度の変動幅を小さく抑制することにより、レーザ特性を安定化させることができる。
【0030】
なお、本発明は前述した実施例1の固体レーザ装置に限定されるものではない。例えば、音響光学素子5とミラー6との間に、非線形光学素子を設けても良い。この場合には、音響光学素子5から出力されたパルスレーザは、非線形光学素子に送られる。非線形光学素子は、音響光学素子5から出力されたパルスレーザの基本波の波長を変換して出力する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、固体パルスレーザ装置に利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 半導体レーザ
2 集光レンズ
3,6 ミラー
4 固体レーザ媒質
5 音響光学素子
7 ヒータ
8 音響光学素子駆動回路
9 ヒータ駆動回路