特許第5835013号(P5835013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5835013-誘電体磁器組成物および電子部品 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835013
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20151203BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20151203BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20151203BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   C04B35/00 J
   H01B3/12 313F
   H01G4/12 358
   H01G4/30 301E
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-44017(P2012-44017)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-180908(P2013-180908A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】吉井 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】小島 達也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 敏志
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/102608(WO,A1)
【文献】 特開平04−272610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式{A1−x(RE)2x/3−D5+yで表され、タングステンブロンズ構造を有する化合物と、Mの酸化物と、を有し、
前記化合物は主成分であり、
前記Aは、Ba、Ca、SrおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1つ、前記Dは、NbおよびTaからなる群から選ばれる少なくとも1つ、前記REは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記xおよびyが、0<x<1、0.700≦y≦1.200の関係を満足し、
前記Mは、Al、Si、BおよびLiからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記Mの酸化物の含有量が、前記化合物100モルに対して、元素換算で、0.5〜5.0モルであることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
Mgの酸化物をさらに有し、
Mgの酸化物の含有量が、前記化合物100モルに対して、Mg換算で、0.2〜6.0モルである請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用された電子部品に関する。さらに詳しくは、高い電界強度下における特性が良好な誘電体磁器組成物、および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用され、電極を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高性能化に対する要求は高い。たとえば、電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの小型・高性能化が急速に進んでおり、これに伴い用途も拡大している。その結果、このようなコンデンサには様々な特性が要求される。
【0003】
従来、このようなコンデンサ等の電子部品の誘電体層には、チタン酸バリウムなど強誘電性を示す磁器組成物(強誘電体)が多く用いられてきた。
【0004】
しかしながら、強誘電体から構成される誘電体層を有する電子部品が高い定格電圧で使用される場合、すなわち、高い電界強度下において使用される場合、磁器組成物の強誘電性に起因する様々な問題が生じていた。
【0005】
たとえば、電界強度が高くなるにつれ、比誘電率が急激に低下してしまい、その結果、使用環境における実効容量が低下してしまうという問題があった。また、誘電体の比誘電率が低下することでコンデンサの静電容量が低下し、DC−Bias特性が悪化する問題もあった。また、電歪に起因するクラックあるいは音鳴きが生じる問題があり、温度に対する容量変化率の悪化等の問題もあった。
【0006】
また、磁器組成物を得るための焼成工程において、焼結が不十分となり、焼結密度の不足による耐湿性の劣化や構造欠陥が生じるおそれがあった。
【0007】
また、可能な限り低い温度条件下での焼成において所望の焼結性が得られることが求められていた。
【0008】
したがって、電界強度が高い場合(たとえば、直流電圧印加時)であっても、良好な特性(たとえば比誘電率やDC−Bias特性)を有する誘電体磁器組成物が求められていた。
【0009】
また、良好な耐湿性を有し、構造欠陥を発生させないための十分な焼結性を有する誘電体磁器組成物が求められていた。
【0010】
ところで、非特許文献1には、タングステンブロンズ構造を有するBaNbに希土類元素を固溶させた化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kunio Masuno, "X-Ray and Dielectric Studies of the Systems (Ba1-xR2x/3)Nb2O6, Where R is Y, Sm or La", Journal of the Physical Society of Japan, 1964, Vol.19, No.3, p.323-328
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高い電界強度下における特性が良好で、しかも良好な焼結性を有する誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用され、電極を有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
一般式{A1−x(RE)2x/3−D5+yで表され、タングステンブロンズ構造を有する化合物と、Mの酸化物と、を有し、
前記Aは、Ba、Ca、SrおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1つ、前記Dは、NbおよびTaからなる群から選ばれる少なくとも1つ、前記REは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記xおよびyが、0<x<1、y>0の関係を満足し、
前記Mは、Al、Si、BおよびLiからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0014】
上記の化合物は電界強度が低い場合(たとえば、直流電圧が印加されていない場合)、比誘電率は比較的低い。しかしながら、該化合物は、常誘電性を有しているため、チタン酸バリウム等の強誘電体とは異なり、電界強度が高くなっても、比誘電率はほとんど低下しない。そのため、高い電界強度下においては、本発明の誘電体磁器組成物は、強誘電体よりも良好な特性(たとえば、DC−Bias特性)を示す。
【0015】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、「M」元素の酸化物を有している。これらの酸化物を含有することで、本発明の誘電体磁器組成物の焼結性を高めることができる。その結果、本発明の誘電体磁器組成物は十分に焼結しており、耐湿性を向上させ、構造欠陥を防ぐ効果を発揮できる。
【0016】
好ましくは、Mgの酸化物をさらに有する。
【0017】
好ましくは、TiおよびZrからなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物をさらに有する。
【0018】
好ましくは、前記Mの酸化物の含有量が、前記化合物100モルに対して、元素換算で、0.5〜5.0モルである。
【0019】
このようにすることで、本発明の効果をより高めることができる。
【0020】
また、本発明に係る電子部品は、上記のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有している。電子部品としては、特に限定されないが、高い定格電圧で使用される電子部品が好ましい。このような電子部品としては、積層セラミックコンデンサが例示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0023】
(積層セラミックコンデンサ1)
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0024】
(誘電体層2)
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、一般式{A1−x(RE)2x/3−D5+yで表され、タングステンブロンズ構造を有する化合物と、「M」元素の酸化物と、を含む。
【0025】
該化合物は、タングステンブロンズ構造を有する化合物A5+y における「A」元素を「RE」元素が置換(固溶)した化合物である。本実施形態では、該化合物は、常誘電特性を有している。該化合物が常誘電特性を有することにより、該誘電体磁器組成物は、たとえばDCバイアス特性に優れ、温度に対する容量変化率を小さくでき、電歪に起因するクラックあるいは音鳴きも抑制できる。
【0026】
「x」は「A」元素に対する「RE」元素の置換量を表しており、0<x<1である。本実施形態では、xは0.20より大きいことが好ましく、0.23以上であることがより好ましい。xを上記の範囲とすることで、良好な焼結性を示しつつ、比較的高い比誘電率を得るのが容易となる。
【0027】
また、xは0.50未満であることが好ましく、0.48以下であることがより好ましい。xを上記の範囲とすることで、良好な焼結性を示しつつ、比較的高い比誘電率を得るのが容易となる。
【0028】
「y」は、「D」元素に対する「A」元素および「RE」元素の比を表しており、y>0である。本実施形態では、yは0.700以上であることが好ましい。yを上記の範囲とすることで、良好な焼結性を示しつつ、比較的高い比誘電率を得るのが容易となる。また、yは1.200以下であることが好ましい。yを上記の範囲とすることで、良好な焼結性を示しつつ、比較的高い比誘電率を得るのが容易となる。
【0029】
本実施形態では、上記の一般式において、「A」元素は、Ba、Ca、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1つであり、Baが好ましい。
【0030】
また、「D」元素は、NbおよびTaから選ばれる少なくとも1つであり、Nbが好ましい。
【0031】
また、「RE」元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つであり、Laが好ましい。「RE」元素が含まれることで、常誘電性を保ちつつ、比較的高い比誘電率を得ることが容易となる。
【0032】
「M」元素の酸化物は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物の焼結性を高める。「M」元素は、Al、Si、BおよびLiから選ばれる少なくとも1つであり、好ましくはAlおよび/またはSiである。また、「M」元素の酸化物の含有量は、該化合物100モルに対して、元素換算で、好ましくは0.5〜5.0モルである。
【0033】
本実施形態では、該誘電体磁器組成物は、上記の化合物に加え、Mgの酸化物を有することが好ましい。Mgの酸化物を含有することで、誘電体磁器組成物に含まれる誘電体粒子の粒成長を抑制できる。Mgの酸化物の含有量は、該化合物100モルに対して、Mg換算で、好ましくは0.2〜5.0モルである。
【0034】
本実施形態では、該誘電体磁器組成物は、上記の化合物に加え、Tiおよび/またはZrの酸化物を有することが好ましい。上記の酸化物を含有することで、低い焼成温度であっても、高い縮率が得られる。上記の酸化物の含有量は、該化合物100モルに対して、元素換算で、好ましくは0.2〜0.5モルである。
【0035】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の成分を含有してもよい。たとえば、V、Mo、Fe、W、MnおよびCrから選ばれる少なくとも1つの酸化物を含有してもよい。これらの酸化物の含有量は、該化合物100モルに対して、元素換算で、好ましくは0.05〜5モルである。
【0036】
本実施形態では、誘電体粒子の結晶粒子径は、特に制限されないが、誘電体磁器組成物の機械的強度に影響するため、結晶粒子が大きすぎるのは好ましくない。本実施形態では、結晶粒子が過度に粒成長することを、「過度の粒成長」と定義する。「過度の粒成長」が生じているか否かは、たとえば、以下のように評価すればよい。
【0037】
まず、焼成前のグリーン成形体の表面を金属顕微鏡で観察し、所定の面積以上の粒子が存在するか否かを評価する。次に、焼成後の誘電体磁器組成物の表面を金属顕微鏡で観察し、所定の面積以上の結晶粒子が存在するか否かを評価する。そして、焼成前の観察で、所定面積以上の粒子が観察されず、かつ焼成後の観察で、所定面積以上の結晶粒子が観察された場合に、「過度の粒成長」が生じたと判断する。
【0038】
誘電体層2の厚みは、用途等に応じて適宜決定すればよい。誘電体層2の積層数も、用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
(内部電極層3)
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されず、たとえばNi,Cu、Ag,Pdあるいはこれらの合金など公知の導電材を用いればよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
(外部電極4)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されず、たとえばNi,Cu、Ag、Pd,Ptあるいはこれらの合金、導電性樹脂など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
(積層セラミックコンデンサ1の製造方法)
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、公知の方法により製造すればよい。本実施形態では、ペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成することで、積層セラミックコンデンサを製造する。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0042】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0043】
本実施形態では、一般式{A1−x(RE)2x/3−D5+yで表される化合物の原料と、「M」元素の酸化物の原料と、を準備し、これらを混合して誘電体原料とする。必要に応じて、Mgの酸化物の原料、あるいは、Tiおよび/またはZrの酸化物の原料を準備し、上記の原料と混合して、誘電体原料としてもよい。
【0044】
上記の化合物あるいは酸化物の原料としては、酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いてもよい。
【0045】
たとえば、上記の化合物の原料として、「A」元素の酸化物あるいは炭酸化物と、「RE」元素の酸化物あるいは水酸化物と、「D」元素の酸化物と、を準備してもよい。これらの酸化物を所定の組成になるように秤量して、混合し、混合物を所定温度で仮焼した後に得られる仮焼物を上記の化合物の原料としてもよい。
【0046】
誘電体層用ペーストは、上記の誘電体原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。該ペーストは、必要に応じて、可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0047】
内部電極層用ペーストは、上記の導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。該ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0048】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0049】
得られたペーストを用いて、グリーンシートや内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0050】
得られたグリーンチップに対し、必要に応じて、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を好ましくは180〜400℃とする。
【0051】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、焼結体としてのコンデンサ素子本体を得る。焼成条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を好ましくは1150〜1350℃とする。
【0052】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0053】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0055】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例示したが、このようなセラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0057】
(実験1)
まず、一般式{A1−x(RE)2x/3−D5+yで表される化合物の粉末を準備した。一般式における「A」元素はBa、「RE」元素はLa、「D」元素はNbであり、xは0.40、yは1.000とした。
【0058】
次に、Mの酸化物の原料として、Al粉末、SiO粉末、B粉末およびLiO粉末を準備した。
【0059】
そして、焼成後の組成が表1に示す組成となるように、各原料を秤量・混合して、誘電体原料を得た。
【0060】
次に、イオン交換水とポリビニルアルコールとを容器に投入し、85℃で2時間混合して、ポリビニルアルコール水溶液を得た。この水溶液の濃度は、イオン交換水量を調整して、6wt%となるようにした。
【0061】
準備した誘電体原料100wt%に対し、ポリビニルアルコール水溶液を20wt%添加し、乳鉢中で混合・造粒して、造粒粉を得た。得られた造粒粉をφ11.1mmの金型に投入して、10kg/cmの圧力でプレス成形し、円盤状のグリーン成形体を得た。
【0062】
次いで、得られたグリーン成形体を空気中で焼成し、円盤状の焼結体を得た。焼成条件は、昇温速度を200℃/h、保持温度を1300℃、保持時間を2時間とした。
【0063】
得られた焼結体に対して、以下に示す方法により縮率を測定した。測定結果を表1に示す。その後、焼結体の両主面にφ6mmのIn−Ga電極を塗布し、焼付け処理を行い、円盤状のセラミックコンデンサの試料を得た。
また、実験1では、上記の試料との比較のため、一般式BaTiOで表される化合物を用いてコンデンサ試料を作製した。まず、誘電体原料として、該化合物の粉末を準備した。この粉末を用いた以外は、上記の試料と同様の方法により円盤状のセラミックコンデンサの試料を得た。
【0064】
得られた各コンデンサ試料に対して、以下に示す方法により、比誘電率およびDC−Bias特性を評価した。評価結果を表1に示す。なお、一般式BaTiOで表される化合物を用いたコンデンサ試料に対しては、比誘電率およびDC−Bias特性を評価した。
【0065】
(縮率)
まず、得られた焼結体の直径Rを測定した。そして、金型の直径RAと、直径Rとに基づき、以下の式を用いて、縮率を算出した。
縮率(%)=100×(RA−R)/RA
縮率が大きいと、焼結体の密度が高いことを意味する。焼結体の密度が高まると耐湿性が向上するため、高湿度環境下でも好適に使用できる電子部品が得られる。さらに密度が高まることで焼結体の硬さも向上し構造欠陥を防ぐことが可能となる。本実施例では、縮率が16.5%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0066】
(比誘電率)
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、HP社製4284Aを用いて、周波数1kHz、測定電圧1Vrmsとし、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率を、焼結体の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。本実施例では、比誘電率は高い方が好ましく、250以上がより好ましい。結果を表1に示す。
【0067】
(DC−Bias特性)
まず、DC−Bias特性を測定するための試料を作製した。上記で準備した誘電体原料にバインダ樹脂と溶剤とを混合してペーストを作製した。得られたペーストを用いてグリーンシートを形成し、その上にPt電極を印刷し、脱バインダ処理、還元焼成、再酸化処理を行って、積層セラミックコンデンサ試料を作製した。Pt電極間の距離(誘電体層の厚み)は5μmであり、誘電体層の層数は4層とした。得られた試料に対し、直流電圧を加えない状態と、20V/μmの直流電圧を加えた状態で、周波数1kHz、測定電圧1Vrmsの測定条件下で静電容量を測定した。そして、直流電圧を加えない状態での静電容量に対して、直流電圧を加えた状態での静電容量が変化した割合をDC−Bias特性とした。すなわち、DC−Bias特性が負である場合には、直流電圧を加えると、静電容量が低下したことを示す。本実施例では、DC−Bias特性は0に近い方が好ましく、±5%以内を良好とした。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1より、Mの酸化物を含有する試料番号2〜18は、Mの酸化物を含有しない試料番号1に比べて、縮率が高く、焼結性が良好であることが確認できた。
【0070】
特に、Mの酸化物の含有量が0.5〜5.0モルの範囲内である試料番号3〜8、10〜14、16〜18は、試料番号1よりも縮率が高いことに加え、比較的高い比誘電率を示すことが確認できた。
【0071】
(実験2)
誘電体原料として、実験1で用いた化合物粉末およびMの酸化物粉末と、Mgの酸化物粉末とを混合したものを用い、焼成後の組成が表2に示す組成になるように調整した以外は、実験1の試料番号4と同様にして、セラミックコンデンサの試料を作製し、縮率および比誘電率の評価に加え、下記に示す「過度の粒成長」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0072】
(「過度の粒成長」の評価)
まず、焼成前のグリーン成形体の表面において、5×5mmの範囲を金属顕微鏡で観察し、面積が0.01mm以上の粒子が存在するか否かを評価した。次に、焼成後の誘電体磁器組成物の表面において、5×5mmの範囲を金属顕微鏡で観察し、面積が0.1mm以上の結晶粒子が存在するか否かを評価した。そして、焼成前の観察で、0.01mm以上の粒子が観察されず、かつ焼成後の観察で、0.1mm以上の結晶粒子が観察された場合に、「過度の粒成長」が生じたと判断した。なお、本実施例では、焼成前に面積が0.01mm以上の粒子が観察された試料はなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
表2より、誘電体磁器組成物が、上記の化合物およびMの酸化物に加え、Mgの酸化物を0.2〜6.0モルの範囲で含有することにより、「過度の粒成長」が抑制できることが確認できた。
【0075】
(実験3)
誘電体原料として、実験1で用いた化合物粉末およびSiの酸化物粉末と、Mgの酸化物粉末と、Tiの酸化物粉末およびZrの酸化物粉末とを混合したものを用い、焼成後の組成が表3に示す組成になるように調整した以外は、実験1の試料番号4と同様にして、セラミックコンデンサの試料を作製し、実験2と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3より、誘電体磁器組成物が、上記の化合物およびSiの酸化物に加え、Tiの酸化物(またはZrの酸化物)を含有することにより、縮率を高く維持しつつ、焼成温度を低くできることが確認できた。
【0078】
また、上記の化合物、Siの酸化物およびTiの酸化物(またはZrの酸化物)に加え、Mgの酸化物を含有することにより、縮率を高く維持しつつ、焼成温度を低くできることに加え、「過度の粒成長」をも抑制できることが確認できた。
【0079】
(実験4)
実験1で用いた化合物の一般式における「x」および「y」の値を表4に示す値とした以外は、実験1の試料番号4と同様にして、セラミックコンデンサの試料を作製し、縮率および比誘電率の評価を行った。結果を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4より、「x」を0.23〜0.48の範囲内とすることで、縮率が高いことに加え、比較的高い比誘電率を示すことが確認できた。また、「y」を0.700〜1.200の範囲内とすることで、縮率が高いことに加え、比較的高い比誘電率を示すことが確認できた。
【0082】
本実施例では、主に、単板型コンデンサについて評価を行ったが、誘電体層と内部電極とが積層された積層セラミックコンデンサについても、本実施例のコンデンサ試料と同様の特性を示す。積層セラミックコンデンサは、上述したように、ペーストを用いて形成したグリーンチップを焼成することで得られる。
【符号の説明】
【0083】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1