(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各鋼板間に隙間を有する3枚以上の鋼板を重ね合わせた板組みで、1対の電極で挟持し、加圧しながら通電して各鋼板の接触箇所を溶接する、単相交流溶接電源による重ね抵抗スポット溶接方法であって、
前記鋼板の各々の間の隙間Gが次式{G(mm)≦2(mm)}である場合に、
前記鋼板の内、板厚が最も薄い鋼板を一方の電極側に配置する工程と、電極の加圧力を一定にして多段通電溶接を行う工程と、多段通電後に前記鋼板を前記電極で加圧保持する保持工程とをこの順で具備し、
前記多段通電溶接工程は、アップスロープ通電時間TUを50Hz換算で3〜20サイクルの範囲としてアップスロープ通電を行う第1通電工程と、次いで、第1段の通電時に前記鋼板間の接触抵抗を利用した発熱形態により、前記最も薄い鋼板に形成されるナゲット径dn(mm)と、この最も薄い鋼板の板厚t1(mm)との関係が下記(1)式を満たすように、通電時間T1、T2及び電流値I1、I2を設定して第1〜2段の2段通電を行う第2通電工程とを備え、
前記保持工程は、前記鋼板を前記電極で加圧保持する保持時間HTを、50Hz換算で1〜15サイクルの範囲とすることを特徴とする重ね抵抗スポット溶接方法。
3.5√t1≦dn≦6√t1 ・・・・・(1)
{但し、上記(1)式中、t1:最も薄い鋼板の板厚(mm)、dn:ナゲット径(mm)を示す。}
前記最も薄い鋼板側に配置される一方の電極が、電極本体と、円すい台部と、該円すい台部の上面である先端部とからなり、前記円すい台部の側面と電極軸との直交方向に対する傾斜角度θが30°≦θ≦60°の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重ね抵抗スポット溶接方法。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車分野等において、車体の組立や部品の取付け等の工程で鋼板同士を溶接する際、主として抵抗スポット溶接方法が用いられており、種々の手順や条件が提案されている。また、最近では、例えば、3枚以上の鋼板を重ね合わせて板組みとし、これを1対の電極で狭持して、この1対の電極で鋼板を加圧しながら通電することにより、鋼板同士を接合する重ね抵抗スポット溶接方法も高頻度で用いられるようになっている。このような重ね抵抗スポット溶接においては、通電で生じる抵抗発熱により、鋼板の接触箇所に、平面視で点状の溶接金属部(ナゲット)が形成される。
【0003】
このような重ね抵抗スポット溶接方法を行う方法として、例えば、上下で非対称形状とされた1対の電極を用い、通電電流及び加圧力を2段階で変化させながら、2枚以上の重ね合わせられた鋼板をスポット溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の方法によれば、2段通電・2段加圧で鋼板をスポット溶接することにより、散りの発生を抑えながら必要なナゲット径が得られるとされている。しかしながら、特許文献1の方法では、各鋼板間に隙間がある場合に、継手強度を確保しながら確実にスポット溶接するのが困難であるという問題がある。
【0004】
また、鋼板を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行う際、通電後に電極で鋼板を加圧する保持時間を所定範囲に限定することが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2に記載の方法によれば、鋼板を2枚重ね合わせてスポット溶接する際、通電後の保持時間を適正化することにより、良好な溶接部が得られる。しかしながら、特許文献2の方法でも、上記同様、各鋼板間に隙間がある場合に、継手強度を確保しながら確実にスポット溶接するのが困難であるという問題がある。
【0005】
また、合金化アルミめっき鋼板を重ね合わせて抵抗スポット溶接する際、通電パターンをアップスロープ通電とすることが提案されている(例えば、特許文献3)。特許文献3に記載の方法によれば、合金化アルミめっき鋼板を重ね合わせてスポット溶接するにあたり、アップスロープの通電パターンを採用することにより、鋼板の表面に形成された合金化アルミめっき層が溶融して生成される溶融金属を排出しながら、安定した溶接が可能となる。しかしながら、特許文献3の方法は、合金化アルミめっき鋼板を2枚重ね合わせてスポット溶接するものであり、被溶接材の材質が実質的に通常の鋼板とは異なり、また、上記同様、各被溶接材の間に隙間がある場合に、継手強度を確保しながら確実にスポット溶接するのが困難であるという問題がある。
【0006】
また、アルミニウム系被溶接材を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行うための電極に関し、電極先端部に切り欠きを設けたものが提案されている(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4に記載の技術によれば、アルミニウム系被溶接材の抵抗スポット溶接に上記電極を適用することにより、連続打点寿命が向上するという効果が得られる。しかしながら、特許文献4では、被溶接材の材質が鋼板とは異なり、また、上記同様、各被溶接材の間に隙間がある場合に、継手強度を確保しながら確実にスポット溶接するのが困難であるという問題がある。
【0007】
また、非特許文献1には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板と裸鋼板とを重ね合わせて抵抗スポット溶接を行う電極に関し、JIS C 9304で規定される、CR形(円すい台ラジアル形)やDR形(ドームラジアス形)の電極を用いることで、電極寿命が向上することが記載されている。非特許文献1には、電極先端部における径拡大量を減らすことが出来る条件が記載されている。しかしながら、非特許文献1では、上記同様、各被溶接材の間に隙間がある場合に、継手強度を確保しながら確実にスポット溶接するのが困難であるという問題がある。
【0008】
また、鋼板を3枚以上で重ね合わせて抵抗スポットする際の通電パターンを、2段通電とパルセーション通電を組み合わせた、多段通電溶接とすることが提案されている(例えば、特許文献5を参照)。特許文献5に記載の方法によれば、板厚が最も薄い鋼板を一方の電極側に配置し、さらに、通電パターンを適正化して多段通電溶接行うことで、溶接時の加圧力が一定であっても、散りを発生させずに3枚以上の鋼板をスポット溶接することができるとともに、薄い鋼板側にも充分な接合強度が得られるナゲットを形成することが可能となる。しかしながら、特許文献5の方法を用いた場合でも、各被溶接材の間に隙間がある場合には、継手強度を確保しながら確実にスポット溶接するのが困難であるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の重ね抵抗スポット溶接方法の実施の形態について、
図1〜
図5を参照しながら説明する。なお、本実施形態は、本発明の重ね抵抗スポット溶接方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明者等は、3枚以上の鋼板を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行う際、各鋼板間に隙間が存在する場合に、鋼板同士の接触面積が十分に得られず、特に、板厚の薄い鋼板側においてナゲットが生成されにくく継手強度が得られない等の問題を解決するため、抵抗スポット溶接時の各条件について鋭意研究を繰り返した。この結果、以下に詳述するように、まず、アップスロープ通電によって少しずつ電流を流す通電条件とすることで、電極−鋼板間並びに各鋼板間の何れもがなじみやすくなることを見出した。そして、電極で鋼板を加圧しながら、電極と鋼板との接触径を徐々に増加させた後、2段通電による加熱を行い、さらに、通電後の保持時間を適正な範囲に規定することで、溶接時の加圧力が一定で、各鋼板間に隙間が存在する場合であっても、薄い鋼板側にも必要十分な溶け込みが得られることを見出した。本発明は、上記各作用により、薄い鋼板側においてもナゲット径が十分に得られ、且つ、溶接時の散りの発生を効果的に抑制することが可能となる方法である。
【0021】
[第1の実施形態]
以下に、本発明の第1の実施形態である抵抗スポット溶接方法について説明する。
本実施形態の重ね抵抗スポット溶接方法は、
図1及び
図2に示すように、各鋼板間に隙間を有する3枚の鋼板1、2、3を重ね合わせた板組み4で、1対の電極で挟持し、加圧しながら通電して各鋼板の接触箇所を溶接する、単相交流溶接電源による溶接方法である。具体的には、
図2に例示するように鋼板1〜3の各々の間の隙間Gが次式{G(mm)≦2(mm)}である場合に、鋼板1〜3の内、板厚が最も薄い鋼板3を一方の電極6側に配置する工程と、電極5、6の加圧力を一定にして多段通電溶接を行う工程と、多段通電後に鋼板1〜3(板組み4)を電極5、6で加圧保持する保持工程とをこの順で具備する。そして、上記の多段通電溶接工程は、
図3のグラフに示すアップスロープ通電時間T
Uを3〜20サイクル(50Hz換算)の範囲としてアップスロープ通電を行う第1通電工程と、次いで、第1段の通電時に鋼板間の接触抵抗を利用した発熱形態により、
図1に示すような、最も薄い鋼板3に形成されるナゲット径dn(mm:ナゲット7)と、この最も薄い鋼板3の板厚t
1(mm)との関係が下記(1)式を満たすように、通電時間T
1、T
2及び電流値I
1、I
2を設定して第1〜2段の2段通電を行う第2通電工程とを備えてなり、さらに、上記の保持工程が、鋼板1〜3(板組み4)を電極5、6で加圧保持する保持時間HTが1〜15サイクル(50Hz換算)の範囲である方法である。
3.5√t
1≦dn≦6√t
1 ・・・・・(1)
但し、上記(1)式中、t
1:最も薄い鋼板の板厚(mm)、dn:ナゲット径(mm)を示す。
【0022】
『抵抗スポット溶接方法』
本発明において、3枚以上で重ね合わされた鋼板1〜3からなる板組み4を溶接するのに用いられる抵抗スポット溶接方法について、
図1を参照しながら説明する。
本発明で用いられる抵抗スポット溶接方法とは、まず、被溶接材である3枚以上の鋼板、図示例においては3枚の鋼板1、2、3を重ね合わせる。そして、鋼板1〜3の重ね合わせ部分に対して両側から、即ち、
図1に示す例では上下方向から挟み込むように、銅合金等からなる電極5、6を押し付けつつ通電することにより、各鋼板1〜3の各々の間に溶接金属部(ナゲット)を形成させる。このナゲットは、通電が終了した後、水冷されたキ電極5、6による抜熱や、鋼板1〜3の熱伝導によって急速に冷却されて凝固し、3枚の鋼板1〜3の間に、断面楕円形状のナゲットが形成される。図示例においては、薄い鋼板3側に形成されるナゲット7のみを便宜的に示している。このようなナゲットが形成されることにより、3枚の鋼板1〜3の各々の間が溶接される。
【0023】
本発明に係る重ね抵抗スポット溶接方法においては、上述のような抵抗スポット溶接方法によって鋼板1〜3からなる板組み4を溶接するにあたり、アップスロープ通電による第1通電工程と、2段通電を行う第2通電工程と、保持工程とをこの順で備える方法を採用している。これにより、各鋼板1〜3の間に隙間Gが上記範囲で存在する場合であっても、従来の方法では十分なナゲット径が得られなかった薄い鋼板側においても十分なナゲット径dn(mm)を確保することが可能となる。
【0024】
『鋼板』
本発明において、被溶接材である鋼板としては、特に限定されるものではない。例えば、鋼板の引張強さや板厚、鋼種等については、適宜選択して採用することが可能であり、何れにおいても、本発明を適用することによる効果が得られる。また、本発明で用いる鋼板は、同種異厚、異種同厚、あるいは異種異厚の組合せで行うことも可能である。また、表面にめっき層が設けられた鋼板や、さらに、めっき層の表層にまた、めっき層の表層に無機系、有機系の皮膜(例えば、潤滑皮膜等)が施された鋼板を用いることも可能である。
【0025】
『鋼板間の隙間:G(mm)』
本発明においては、
図2に示すように、鋼板1〜3の各々の間の隙間Gを最大で2(mm)に規定する。
例えば、自動車の車体の組立や部品の取付け等の工程で鋼板同士を複数重ね合わせ、スポット溶接を行う場合、各鋼板間に隙間が存在しないことが最も好ましい。一方、上述したように、通常、鋼板の形状や寸法のばらつき等により、各鋼板の間に隙間が存在することが多く、このような隙間が存在する状態でスポット溶接を行うと、電極で加圧した際の鋼板同士の接触面積が十分に得られ難く、特に、高張力鋼板を用いた場合に顕著となる。このような場合、厚い鋼板に電流が集中して発熱することから、溶け込みが厚い鋼板側に偏ってしまう。このため、形成されるナゲットも厚い鋼板側に偏在した状態となり、十分な継手強度が得られ難いという問題が生じる。
【0026】
本発明においては、詳細を後述する多段通電溶接工程及び保持工程を備えることで、各鋼板間に隙間が存在する場合でも、薄い鋼板側にも必要十分な溶け込みが得られ、十分なナゲット径を有するナゲット7を形成させる効果が得られる隙間Gの最大値、即ち、本発明の適用範囲を、次式{G(mm)≦2(mm)}で表される範囲とする。各鋼板1〜3の間の隙間Gが2(mm)以下であれば、薄い鋼板3側においても必要十分な溶け込みが得られ、隙間がより小さいほど溶け込みが多くなり、また、隙間が無い状態であれば、さらに十分な溶け込みが得られる。
なお、各鋼板の間の隙間Gが2(mm)を超える場合は、本発明を適用しても、薄い鋼板側における溶け込みを十分に確保することができない可能性があり、本発明の適用範囲外とする。
【0027】
『最も薄い鋼板を一方の電極側に配置する工程』
本発明に係る方法では、重ね合わされた鋼板1〜3を抵抗スポット溶接するにあたり、まず、溶接準備工程として、最も薄い鋼板3を、電極5、6の内の一方、
図1に示す例では、電極6側に配置する。
【0028】
このように、板厚が最も薄い鋼板3を電極(図示例では電極6)と接触するように最も外側に配置した場合、従来の抵抗スポット溶接技術を適用すると、薄い鋼板3が電極6に冷却された状態となり、鋼板3側に十分な大きさのナゲットを形成させることが困難であった。本実施形態では、以下に詳述する多段通電溶接工程及び保持工程を備えた方法を採用することで、薄い鋼板側に電極を配置した場合であっても、この薄い鋼板側に良好なナゲットを形成することが可能になるというものである。
【0029】
『多段通電溶接工程』
本発明に係る方法では、上記のように、板厚が最も薄い鋼板3を一方の電極6側に配置した後、電極5、6の加圧力を一定にして多段通電溶接を行う、多段通電溶接工程を備える。本実施形態の多段通電溶接工程は、アップスロープ通電を行う第1通電工程と、2段通電を行う第2通電工程とを具備し、具体的には、以下に詳述する条件で、3枚以上で重ね合わせられた鋼板の板組みを抵抗スポット溶接する。
【0030】
「第1通電工程」
本発明の多段通電溶接工程では、まず、
図3のグラフに示すアップスロープ通電時間T
Uを3〜20サイクルの範囲としてアップスロープ通電を行う第1通電工程を備える。
ここで、本発明において説明するアップスロープ通電とは、初期の電流を0(kA)から、後述の第2通電工程の第1段における電流値I
1(kA)の60%の範囲とし、電流値I
1(kA)に達するまで、所定サイクル数の時間をかけて、暫時、電流値を徐々に上げてゆく(アップスロープ)パターンを言う。
【0031】
本発明は、各鋼板間に隙間が存在する場合の抵抗スポット溶接を対象としている。このため、本発明者等は鋭意実験を繰り返し、電極6−鋼板3間、及び、電極5―鋼板1間をなじませることが可能な通電時間に加え、さらに、重ね合わされた鋼板1〜3の各々の間をなじませる通電時間が必要であると考え、このためには、アップスロープ通電時間を設けることが最適であることを発見した。
【0032】
一般に、抵抗スポット溶接を行う際、鋼板の表面状態が良好でないと、電極と鋼板とが接触する箇所で散りが発生する。また、ナゲットが大きく成長し過ぎて、電極で押さえきれない場合には、鋼板内で散りが発生する。
これに対し、本実施形態では、3枚の鋼板1〜3を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行うにあたり、まず、アップスロープ通電によって、電極5、6から少しずつ電流を流すことで、電極6−鋼板3間、電極5−鋼板1間、並びに、各鋼板1〜3の間が、各々なじむように通電する。この際、各電極−鋼板間、並びに、各鋼板間の接触径も徐々に増加するので、電流密度が急激に増大するのを防止でき、散りが発生するのを抑制することが可能となる。
【0033】
本発明に係る方法において、第1通電工程でのアップスロープ通電時間T
Uを3〜20サイクルの範囲に規定したのは、3サイクル未満だと上記効果が発揮され難く、また、20サイクル以上のアップスロープ通電は過剰であり、溶接時間が長くなる分だけ生産性が低下するためである。
【0034】
「第2通電工程」
本実施形態では、上記条件の第1通電工程におけるアップスロープ通電により、各電極−鋼板間並びに各鋼板間が適度になじんだ状態とされた板組み4に対し、さらに、第2通電工程において以下の条件の2段通電を行う。具体的には、上述したように、第1段の通電時に前記鋼板間の接触抵抗を利用した発熱形態により、
図1に示すような、最も薄い鋼板3に形成されるナゲット径dn(mm:ナゲット7)と、最も薄い鋼板3の板厚t
1(mm)との関係が下記(1)式を満たすように、
図3のグラフに示す通電パターンの如く、第1段の通電時間T
1及び第2段の通電時間T
2、並びに、第1段の電流値I
1及び第2段の電流値I
2を設定し、第1段及び第2段の2段通電を行う
3.5√t
1≦dn≦6√t
1 ・・・・・(1)
但し、上記(1)式中、t
1:最も薄い鋼板の板厚(mm)、dn:ナゲット径(mm)を示す。
【0035】
本実施形態の第2通電工程においては、まず、第1段の通電において、薄い鋼板3側を溶かし込むことで、徐々に溶融金属(
図1に示すナゲット7参照)のサイズを拡げてゆく。この際、薄い鋼板3と厚めの鋼板2との間には溶融金属が生成されにくいので、短時間で大電流を印加するパターンで、これら各鋼板の界面を溶かし込む。
次いで、第2段の通電において、第1段の通電の電流値I
1に比べて低い第2段の電流値I
2で通電することにより、厚い鋼板2側に溶融金属を生成させてゆく。第2段の通電では、第1段の通電で十分な溶融金属が生成された後は、徐々に溶け込ませてゆくため、第1段の通電比べて電流値I
2を小さく設定する。
この際、各電極−鋼板間並びに各鋼板間は、第1通電工程におけるアップスロープ通電によって適度になじんだ状態であり、通電経路が確保されていることから、各鋼板における溶け込み(溶融金属)を効率的に生成させることが可能となる。
【0036】
(第1段の通電)
第1段の通電では、上記のように、この第1段の通電時に前記鋼板間の接触抵抗を利用した発熱形態により、最も薄い鋼板3に形成されるナゲット径dn(mm)と、最も薄い鋼板3の板厚t
1(mm)との関係が上記(1)式を満たすように、電流値I
1及び通電時間T
1を設定して通電を行う。具体的には、通電時間T
1を、例えば、5サイクル(50Hz換算)以下の短時間に設定し、厚い鋼板2と薄い鋼板3との間で散り発生が生じない条件で、且つ、ナゲット径dn(mm)が上記(1)式の規定範囲となるように、電流値I
1を設定する。そして、この条件で第1段の通電を行うことで、各鋼板の接触部が溶解してナゲット7が形成される。ナゲット径dn(mm)が上記(1)式を下回る条件で第1段の通電を行うと、十分な継手強度が得られ難い。また、第1段の通電が上記(1)式を超える条件だと、厚い鋼板3側の圧痕及び板の浮き上がり(シートセパレーション)が大きくなり、継手形状が劣化するとともに、特に、薄い鋼板3側に配置される電極6の消耗が顕著になる等の不具合が生じるおそれがある。
【0037】
(第2段の通電)
本実施形態では、第2段の通電は、上記条件の第1段の通電によって形成されたナゲットを成長させる通電である。例えば、
図3に例示する通電パターンのように、第2段の通電時間T
2を1〜20サイクル(50Hz換算)程度とし、第1段の電流値I
1と異なる電流値、例えば、図示例のように、第1段の電流値I
1よりも低い電流値I
2を設定して通電を行う。この際、図示例では、上述した第1段の通電において、高い電流値I
1で短時間の通電を行った後、第2段の通電において、第1段の電流値I
1よりも低い電流値I
2で通電を行う。これにより、第1段の通電で薄い鋼板3と厚い鋼板2との間に形成されたナゲット7を維持したまま、厚い鋼板1と鋼板2との間に、十分な接合強度が得られる大きさのナゲット(図示略)を成長させることができる。
なお、第2段の通電は、ナゲットの成長のための通電であるから、所定のナゲットの成長を確保できる条件であれば、第1段の電流値I
1と第2段の電流値I
2との大小関係は特に限定されない。
【0038】
なお、第2段の通電時間T
2が25サイクルを超えても、ナゲットを成長させる効果は向上しないことから、この通電時間T
2を1〜25サイクルの範囲に設定することが好ましい。
【0039】
『保持工程』
本実施形態では、上記の多段通電溶接工程に引き続き、鋼板1〜3(板組み4)を電極5、6で加圧保持する保持工程を備える。このような保持工程を行うことにより、通電で溶接された部分、即ち、ナゲット7に対応する位置を圧縮しながら冷却する。
【0040】
「保持時間:HT(サイクル)」
本実施形態では、上記条件の多段通電溶接工程で通電した後、電極5、6によって鋼板1〜3を加圧保持する保持時間HTを1〜15サイクル(50Hz換算)の範囲とする。この保持時間HTは、少なくとも1サイクル以上とすることで、溶融金属が確実に凝固し、各鋼板間にナゲットを形成することが可能となる。
一方、保持時間HTが15サイクルを超えると、水冷された電極による溶接箇所の冷却効果が過剰となり、以下に説明するような、薄い鋼板と厚い鋼板との界面における2次溶融効果が得られなくなる。
【0041】
一般に、通電後の溶接箇所は、電極による通電が完了した後も、溶融金属から外部に向けて熱が広がることで溶融を進行させる、所謂、二次溶融効果が得られ易い状態となっている。通常、通電による溶接時、溶接箇所は約2000℃と鋼板の融点よりも高い温度になっており、溶融プールが生成された状態となっている。二次溶融効果とは、溶融プールの熱が外側に広がって該溶融プールを拡大させ、薄い鋼板側においても十分なナゲット径が得られるというものである。このような二次溶融効果は、特に、板厚の薄い鋼板をスポット溶接する場合に十分なナゲット径が確保出来る点から、非常に貴重な効果である。
一方、通電後の溶接箇所を過剰に冷却した場合には、上述のような二次溶融効果が得られなくなる。本実施形態では、通電後の保持時間HTを上記の下限及び上限で限定することにより、溶接金属が確実に凝固して良好なナゲットが得られるとともに、さらに、二次溶融効果によって十分なナゲット径を確保することが可能になる。
【0042】
「加圧力」
本実施形態においては、電極5、6の加圧力については特に制限されず、従来公知の一般的な条件とすることができ、例えば、鋼板の板厚や枚数の他、通電条件を考慮しながら適宜設定することが可能である。
なお、本実施形態では、各工程を行っている間は、電極5、6の加圧力を変化させる必要はない。また、一般に、電極による鋼板の加圧は、溶接通電の直前から行うので、本実施形態では、この通電前加圧〜多段通電溶接工程〜保持工程の間、電極5,6によって板組み4に負荷される加圧力は一定に設定する。
【0043】
『電極』
本発明の重ね抵抗スポット溶接で用いる電極6は、特に限定されず、従来からこの分野で用いられている一般的な電極を適宜採用することが可能である。
一方、本実施形態では、最も薄い鋼板3側に配置される電極が、
図5に示す例の電極60のように、電極本体61と、円すい台部62と、円すい台部62の上面である先端部63とからなり、さらに、円すい台部62の側面62aと電極軸Jとの直交線(直交方向)Sに対する傾斜角度θが30°≦θ≦60°の範囲であるものであることが、より好ましい。
【0044】
上述のような形状の電極としては、JIS C 9304で規定される各種のスポット溶接用電極の内、例えば、肩部のRが無く張り出さない形状とされた円すい台形(CF形)や、円すい台ラジアス形(CR形)を採用することが可能である。また、先端部の形状としては、CF形のような平坦なものでも良いし、あるいは、CR形のようなRを有する形状のものでも良い。JIS C 9304においては、上記のCF形及びCR形の何れも、円すい台部の電極軸との直交線に対する傾斜角度が30°に規定されており、本実施形態の規定範囲となる。
【0045】
ここで、例えば、JIS C 9304で規定されるドームラジアス型(DR形)の電極を用いた場合、肩部がRを有して大きく張り出した形状であるため、鋼板を加圧して押し込んだ際に、先端部のみならず、肩部も鋼板を押し込んでしまう。このため、特に薄い鋼板側において、電極と鋼板との接触面積が大きくなり過ぎ、電流密度が低下して溶接箇所の温度が上がり難くなり、散りが発生するとともに、溶接性が低下する場合がある。
本実施形態においては、上記形状、例えばCR形の電極を用いることにより、電極と鋼板との接触面積が増大することが無く、適度な電流密度を維持することができる。これにより、散りの発生を抑制しながら、十分なナゲット径が確保できるスポット溶接が可能になる。
【0046】
[第2の実施形態]
以下に、本発明の第2の実施形態である重ね抵抗スポット溶接方法について説明する。
なお、以下の説明においては、上述した第1の実施形態の重ね抵抗スポット溶接方法と、一部、同じ図面を用いて説明するとともに、ともに共通する構成については、その詳しい説明を省略することがある。
【0047】
本実施形態の抵抗スポット溶接方法は、
図1、2に示すように、3枚以上の鋼板1、2、3を重ね合わせた板組み4で、1対の電極で挟持し、各鋼板間の隙間Gが次式{G(mm)≦2(mm)}である場合に、最も薄い鋼板3を電極6側に配置する工程と、電極5、6の加圧力を一定にして多段通電溶接を行う工程と、多段通電後に鋼板1〜3(板組み4)を電極5、6で加圧保持する保持工程とを具備する点で、上記第1の実施形態と同様である。また、本実施形態では、多段通電溶接工程が、
図4のグラフに示すアップスロープ通電時間T
Uを3〜20サイクル(50Hz換算)の範囲としてアップスロープ通電を行う第1通電工程を備える点と、第2通電工程において、第1段の通電時に前記鋼板間の接触抵抗を利用した発熱形態により、
図1に示すような、鋼板3に形成されるナゲット径dn(mm)と、この鋼板3の板厚t
1(mm)との関係が上記(1)式を満たすように、通電時間T
1、T
2及び電流値I
1、I
2を設定して第1〜2段の2段通電を行う点についても、上記第1の実施形態と同様である。
【0048】
そして、本実施形態では、上記の第2通電工程に関し、通電時間T
2、電流値I
2で行う第2段の通電を、間欠通電時間:1〜10サイクル、間欠休止時間:1〜5サイクルの範囲として、加熱通電と通電休止冷却とを交互に繰り返すパルセーション通電とし、これを、少なくとも3回以上繰り返すパターンとする点で、第1の実施形態とは異なる方法とされている。
【0049】
具体的には、本実施形態では、上記条件の第1段の通電に引き続き、
図4に例示するパルセーション通電パターンで第2の通電を行っても良い。この際、第2段の通電時間T
2を、例えば、20〜30サイクル程度に設定し、第1の実施形態と同様、第1段の電流値I
1とは異なる電流値I
2、
図4に示す例では第1段の電流値I
1よりも低い電流値I
2をパルセーション通電電流として設定する。そして、間欠通電時間:1〜10サイクル、間欠休止時間:1〜5サイクルとして、この通電及び休止を少なくとも3回以上繰り返す。これにより、第1の実施形態と同様に、第1段の通電で薄い鋼板3と厚い鋼板2との間に形成されたナゲット7を維持したまま、厚い鋼板1と鋼板2との間に、十分な接合強度が得られる大きさのナゲットの形成が可能となる。また、第2段の通電は、休止時間を伴うパルセーション通電であることから、厚い鋼板1と鋼板2とが接触する部分では、パルセーション通電溶接の特徴である、急激な発熱を抑制して散りの発生を防止しつつ十分な大きさのナゲットが得られる効果が顕著となる。
なお、本実施形態においても、第2段の通電の条件は、上記効果が得られる限り、第1段の電流値I
1と第2段の電流値I
2との大小関係は特に限定されない。
【0050】
本実施形態によれば、第2通電工程における第2段の通電に、上記条件のパルセーション通電を適用することにより、散りの発生を抑制しつつ、十分なナゲット径を確保しながら抵抗スポット溶接を行うことが可能となる。また、パルセーション通電を採用することで、高い生産安定性を維持しながら、電流値I
2の選択肢を拡げることが可能となるので、例えば、1ポイントの電流値で制御した場合に比べ、電極寿命を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0051】
なお、第2段のパルセーション通電における間欠通電時間が10サイクルを超えても、ナゲットを成長させる効果は向上しない。また、間欠休止時間が5サイクルを超えた場合には、鋼板の温度が下がりすぎて溶接効率が低下するという問題が生じる。このため、本実施形態においては、まず、パルセーション通電の間欠通電時間及び間欠休止時間の両方の下限を、上記効果が得られる1サイクル以上に規定したうえで、さらに、間欠通電時間の上限を10サイクルに規定するとともに、間欠休止時間の上限を5サイクルに規定した。
【0052】
また、加熱通電と通電休止冷却との繰り返し回数が3回未満だと、上述したパルセーション通電による効果が得られず、十分な大きさを有する良好なナゲットが得られ難くなることから、本実施形態では、この回数を下限とした。
【0053】
そして、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様、多段通電溶接工程に引き続き、保持時間HTを1〜15サイクルの範囲として、鋼板1〜3(板組み4)を電極5、6で加圧保持する。
【0054】
以上説明したように、本発明に係る重ね抵抗スポット溶接方法によれば、3枚以上の鋼板を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行うにあたり、まず、アップスロープ通電によって少しずつ電流を流すことで、電極−鋼板間並びに各鋼板間の何れもがなじみやすい通電条件とし、また、電極と鋼板との接触径を徐々に増加させた後、2段通電による加熱を行い、さらに、通電後に適正な時間で保持する方法を採用している。これにより、抵抗スポット溶接時における電極の加圧力が一定で、各鋼板間に隙間が存在する場合であっても、薄い鋼板側にも必要な溶け込みが得られるので、薄い鋼板側においてもナゲット径も十分な径となり、高い接合強度が得られるとともに、溶接時の散りの発生を効果的に抑制することが可能となる。従って、例えば、自動車用部品の製造や車体の組立等の工程において本発明の重ね抵抗スポット溶接方法を適用することにより、生産効率や溶接品質の向上等によるメリットを十分に享受することができることから、その社会的貢献は計り知れない。
【0055】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、3枚の鋼板1〜3を重ね合わせた板組み4の抵抗スポット溶接を例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、3枚以上の鋼板の重ね抵抗スポット溶接方法であれば、上記同様の効果が得られる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明に係る重ね抵抗スポット溶接方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0057】
[実施例1]
本実施例では、まず、厚さ及び強度の異なる3枚の鋼板を、
図1に示す本発明の第1の実施形態に記載の溶接方法(本発明の請求項1に記載の方法)で重ね抵抗スポット溶接を行い、散り発生の有無及び接合部のナゲット径の大きさを調べた。
下記表1に、各鋼板からなる板組み、及び、鋼板特性の一覧を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、本実施例では、鋼板1〜3として、鋼板の両面に片面あたりの付着量45g/m2で亜鉛めっきした合金化溶融亜鉛めっき鋼板を使用した。
本実施例の溶接条件としては、まず、溶接電源として単相交流式電源を用い、電極として、電極呼び径Dが16mm、先端の直径dが6mm、先端のRが40であるCr−Cu合金製CR形電極を用いた。また、電極による鋼板の加圧力は5.0kNとし、その他の溶接条件は下記表2に示す条件として、アップスロープ通電を含む抵抗スポット溶接を行った。
【0060】
さらに、比較例として、表1中に示すAの板組みで、多段通電溶接工程におけるアップスロープ通電の第1通電工程を行わずに、直ちに第2通電工程による2段通電を行うか、あるいは、通電後の保持時間HTを本発明で規定する範囲外とした点を除き、上記同様の条件で抵抗スポット溶接を行った。そして、上記同様に、散り発生の有無及び接合部のナゲット径を調べた。
下記表2に、各本発明例及び比較例の評価結果の一覧を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
上記表2に示すように、本発明で規定する条件のアップスロープ通電を行った後、2段通電を行い、さらに、本発明で規定する保持時間HTで保持した本発明例の供試材(供試材No.1〜5)は、散りの発生がなく、また、各鋼板の接合部において十分な大きさのナゲットが形成されていることが確認できた。
【0063】
これに対して、第1通電工程によるアップスロープ通電を行わず、直ちに第2通電工程における2段通電を行った場合や、保持時間HTが本発明で規定された範囲外で溶接を行った場合である供試材No.6、8、9の比較例の供試材は、散りが発生するか、あるいは、散りの発生が無い例であっても、最も薄い鋼板3側に形成されたナゲットの径は、供試材No.1、2の本発明例に比べて半分以下であり、良好なナゲット径の範囲である上記(1)式の下限を大幅に下回る結果となった。なお、供試材No.7の比較例の供試材は、散りの発生も無く、また、薄い鋼板3側に形成されたナゲットの径も、本発明の規定を満たしているが、アップスロープ通電が22サイクルと極めて長いことから生産性が低く、工業生産上、実用的でない。
【0064】
[実施例2]
本実施例では、多段通電溶接工程における第2通電工程に関し、第2段の通電を、下記表3に示すようなパルセーション通電とした点を除き、上記実施例1と同様の条件及び手順で、厚さ及び強度の異なる3枚の鋼板を重ね抵抗スポット溶接し、上記同様、散り発生の有無及び接合部のナゲット径の大きさを調べた(本発明の請求項2に記載の方法)。この際、各鋼板としても、実施例1と同様、表1に示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。
【0065】
本実施例では、第2通電工程における第2段の通電を、下記表3に示すような通電時間T
2及び電流値I
2で、間欠通電時間並びに間欠休止時間を設定し、この通電及び休止を少なくとも3回以上繰り返すパルセーション通電を行い、その後、下記表3に示す保持時間HTで保持工程を行った。なお、下記表3に示す第2段のパルセーション通電の通電パターンにおける「回数」は、間欠通電と間欠休止とを繰り返す回数である。
【0066】
さらに、本実施例では、実験例として、表1中に示すAの板組みで、第2通電工程における第2段のパルセーション通電を、本発明の請求項2で規定する範囲外として、上記同様の条件で抵抗スポット溶接を行った。そして、上記同様に、散り発生の有無及び接合部のナゲット径を調べた。
下記表3に、各本発明例及び各実験例の評価結果の一覧を示す。
【0067】
【表3】
【0068】
上記表3に示すように、本発明の請求項2において規定する条件のアップスロープ通電を行った後、第2段の通電を本発明の請求項2で規定する条件のパルセーション通電とした2段通電を行い、さらに、本発明で規定する保持時間HTで保持した本発明例の供試材(供試材No.10〜14)は、散りの発生がなく、また、各鋼板の接合部において十分な大きさのナゲットが形成されていることが確認できた。これら本発明例においては、特に、薄い鋼板3と厚い鋼板2との間のナゲットに加え、厚い鋼板1と鋼板2との間においても十分な大きさのナゲットが形成されていることが確認できた。
【0069】
これに対して、第2段のパルセーション通電を、本発明の請求項2で規定する範囲外の条件とした実験例の供試材(供試材No.15〜17)は、散りの発生はなく、また、各鋼板の間に形成されたナゲットの径も、良好なナゲット径の範囲である上記(1)式の範囲を満たしていた。しかしながら、これら実験例の供試材は、厚い鋼板1と鋼板2との間に形成されたナゲットの径が、供試材No.10〜14の本発明例に比べて若干下回る結果となった。
【0070】
[実施例3]
本実施例では、薄い鋼板3側に配置される電極6を、下記表4に示すものに変更した点を除き、上記実施例1と同様の条件及び手順で、厚さ及び強度の異なる3枚の鋼板を重ね抵抗スポット溶接し、上記同様、散り発生の有無及び接合部のナゲット径の大きさを調べた(本発明の請求項3に記載の方法)。また、本実施例では、便宜的に、電極5についても、電極6と同じものを用いた。
この際、各鋼板としても、実施例1と同様、表1に示す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。
【0071】
本実施例では、まず、 最も薄い鋼板3側に配置される電極6が、
図5に示す例のような、電極本体61と、円すい台部62と、円すい台部62の上面である先端部63とからなり、さらに、円すい台部62の側面62a電極軸Jとの直交線(直交方向)Sに対する傾斜角度θが30°≦θ≦60°の範囲であるものを準備した。具体的には、JIS C 9304で規定され、上記傾斜角度θが30°であるCF形を準備し、この電極を用いて抵抗スポット溶接を行った。
【0072】
さらに、本実施例では、実験例として、JIS C 9304で規定されるD形及びDR形の電極を用い、上記同様の条件で抵抗スポット溶接を行い、同様に、散り発生の有無及び接合部のナゲット径の大きさを調べた。
下記表4に、各本発明例及び各実験例の評価結果の一覧を示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示すように、本発明の請求項3で規定する形状及び寸法を有する電極(JIS C 9304で規定されるCF形)を用いた本発明例の供試材(供試材No.18)は、散りの発生が非常に少なく、また、各鋼板の接合部において十分な大きさのナゲットが形成されていることが確認できた。
【0075】
これに対して、本発明の請求項3で規定する範囲外の形状及び寸法を有する電極(JIS C 9304で規定されるD形及びDR形)を用いて抵抗スポット溶接を行った実験例の供試材(供試材No.19、20)は、上記本発明例に比べて溶接時の散りの発生が少々多くなった。また、これら実験例の供試材は、ナゲット径については(1)式を満たしているものの、上記本発明例におけるナゲット径と比べて若干小さくなっていることが確認された。これは、上記電極は肩部がR状に張り出した形状であることから、鋼板の加圧時に接触面積が顕著に増大し、電流密度が低下して溶接部の温度が上がり難くなったためと考えられる。
【0076】
なお、上記実施例1〜3においては、鋼板の板厚を適宜変更して実験を行った場合も、また、めっき種や目付量等を変更して実験を行った場合も、結果は上記同様であり、散りの発生が抑制され、薄い鋼板側においてもナゲット径が十分となる本発明の効果が得られた。
【0077】
以上説明した実施例の結果より、本発明の重ね抵抗スポット溶接方法を用いることにより、3枚以上の鋼板を重ね合わせて各鋼板を溶接した場合に、溶接時に散りが発生するのを防止でき、また、薄い鋼板側においても十分なナゲット径が確保できるので、接合強度に優れた継手が得られることが明らかとなった。